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明細書 :オキシ水酸化鉄の製造方法及びオキシ水酸化鉄吸着材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4126399号 (P4126399)
登録日 平成20年5月23日(2008.5.23)
発行日 平成20年7月30日(2008.7.30)
発明の名称または考案の名称 オキシ水酸化鉄の製造方法及びオキシ水酸化鉄吸着材
国際特許分類 C01G  49/02        (2006.01)
B01J  20/06        (2006.01)
B01J  20/34        (2006.01)
C02F   1/28        (2006.01)
FI C01G 49/02 A
B01J 20/06 A
B01J 20/34 G
C02F 1/28 E
C02F 1/28 P
請求項の数または発明の数 28
全頁数 33
出願番号 特願2007-503696 (P2007-503696)
出願日 平成18年2月16日(2006.2.16)
国際出願番号 PCT/JP2006/302718
国際公開番号 WO2006/088083
国際公開日 平成18年8月24日(2006.8.24)
優先権出願番号 2005038605
2005167553
優先日 平成17年2月16日(2005.2.16)
平成17年6月7日(2005.6.7)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成19年10月30日(2007.10.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】599100198
【氏名又は名称】財団法人 滋賀県産業支援プラザ
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】前 一廣
【氏名】牧 泰輔
【氏名】山本 篤志
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
【識別番号】100076510、【弁理士】、【氏名又は名称】掛樋 悠路
【識別番号】100115484、【弁理士】、【氏名又は名称】林 雅仁
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特表2004-509752(JP,A)
特開昭60-090830(JP,A)
特開昭61-153192(JP,A)
調査した分野 C01G 49/00-49/08
B01J 20/06、20/28、20/30
C02F 1/28
特許請求の範囲 【請求項1】
(I-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH9以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、
(I-b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、
(I-c)得られたオキシ水酸化鉄を水に接触させる工程、及び
(I-d)得られたオキシ水酸化鉄を不活性ガス濃度が80%以上のガス雰囲気下、100~280℃の温度で加熱処理する工程、
を有することを特徴とするオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項2】
(I-a)工程におけるpHを3.5~5.5に調整する請求項1に記載のオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項3】
(I-b)工程の乾燥を40~60℃の温度で行う請求項1又は2に記載のオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項4】
(I-d)工程を窒素濃度が80%以上、酸素濃度が20%以下のガス雰囲気下で行う請求項1~3のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項5】
(I-d)工程の加熱温度を120~260℃で行う請求項1~4のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の方法により得られたオキシ水酸化鉄を主成分とするオキシ水酸化鉄吸着材。
【請求項7】
オキシ水酸化鉄のBET比表面積が100~450m2/g、及びBJH法により算出した細孔容量の面積分布(dV/dR)が100~300mm3/g/nmである請求項6に記載のオキシ水酸化鉄吸着材。
【請求項8】
オキシ水酸化鉄の細孔半径ピークが0.8~3nm、細孔半径の分布幅が7nm以下である請求項6又は7に記載のオキシ水酸化鉄吸着材。
【請求項9】
陰イオン種を含有する水を請求項6~8のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄吸着材に接触させて、該陰イオン種を吸着させた後、該陰イオン種を脱着させることを特徴とする陰イオン種の回収方法。
【請求項10】
(II-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH7以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、及び
(II-b)該沈殿物を酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下で、100℃以下の温度で加熱することによりオキシ水酸化鉄を得る工程、
を有することを特徴とするオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項11】
(II-b)工程における加熱を、二酸化炭素濃度が50%以上のガス雰囲気下で、30~100℃の温度で行う請求項10に記載のオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項12】
(II-b)工程後に、更に
(II-c)得られたオキシ水酸化鉄を水と接触させる工程、及び
(II-d)(II-c)工程で得られたオキシ水酸化鉄を、酸素濃度20%以下の不活性ガス雰囲気下、100~250℃の温度で加熱処理する工程、
を行う請求項10又は11に記載のオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項13】
(II-d)工程を窒素濃度が80%以上の不活性ガス雰囲気下で行う請求項12に記載のオキシ水酸化鉄の製造方法。
【請求項14】
請求項10~13のいずれかに記載の方法により得られたオキシ水酸化鉄を主成分とするオキシ水酸化鉄吸着材。
【請求項15】
オキシ水酸化鉄の凝集体粒子の中心粒子径が0.3~4.0mmである請求項14に記載のオキシ水酸化鉄吸着材。
【請求項16】
オキシ水酸化鉄のBET比表面積が100~450m2/g、及びBJH法により算出した細孔容量の面積分布(dV/dR)が100~300mm3/g/nmである請求項14又は15に記載のオキシ水酸化鉄吸着材。
【請求項17】
オキシ水酸化鉄の細孔半径ピークが0.8~3nm、細孔半径の分布幅が7nm以下である請求項14~16のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄吸着材。
【請求項18】
請求項10~13のいずれかに記載の方法により得られたオキシ水酸化鉄を主成分とする吸着材であって、リン濃度50mg/Lの溶液に、該吸着材を1g/L添加したときのリン吸着除去率が65%以上であるオキシ水酸化鉄吸着材。
【請求項19】
陰イオン種を含有する水を請求項14~18のいずれかに記載のオキシ水酸化鉄吸着材に接触させて、該陰イオン種を吸着させた後、該陰イオン種を脱着させることを特徴とする陰イオン種の回収方法。
【請求項20】
(III-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH9以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、及び(III-b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、を含む製造方法により製造されるオキシ水酸化鉄を、塩基の水溶液で処理した後に水処理して得られるオキシ水酸化鉄吸着材(オキシ水酸化鉄吸着材A)。
【請求項21】
I)(I-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH9以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、(I-b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、(I-c)得られたオキシ水酸化鉄を水に接触させる工程、及び(I-d)得られたオキシ水酸化鉄を不活性ガス濃度が80%以上のガス雰囲気下、100~280℃の温度で加熱処理する工程、を有する製造方法で製造されるオキシ水酸化鉄、又は、
(II)(II-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH7以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、及び(II-b)該沈殿物を酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下で、100℃以下の温度で加熱することによりオキシ水酸化鉄を得る工程、を有する製造方法で製造されるオキシ水酸化鉄を、塩基の水溶液で処理した後に水処理して得られるオキシ水酸化鉄吸着材(オキシ水酸化鉄吸着材A)。
【請求項22】
リン酸イオン及び他の陰イオン種を含む水を、請求項20又は21に記載のオキシ水酸化鉄吸着材Aと接触させて、リン酸イオンを選択的に吸着させた後、リン酸イオンを脱着させることを特徴とするリン酸イオンの選択的分離回収方法。
【請求項23】
(III-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH9以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、及び(III-b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、を含む製造方法により製造されるオキシ水酸化鉄を、塩基の水溶液で処理した後に塩酸処理して得られるオキシ水酸化鉄吸着材(オキシ水酸化鉄吸着材B)。
【請求項24】
リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水を、
(1)請求項20又は21に記載のオキシ水酸化鉄吸着材A、及び、
(2)請求項23に記載のオキシ水酸化鉄吸着材B
の順に接触させることを特徴とするリン酸イオン及び硝酸イオンの分離回収方法。
【請求項25】
リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水を、
(1)請求項20又は21に記載のオキシ水酸化鉄吸着材Aが充填された吸着塔、及び、
(2)請求項23に記載のオキシ水酸化鉄吸着材Bが充填された吸着塔
の順に通水させることを特徴とするリン酸イオン及び硝酸イオンの分離回収方法。
【請求項26】
請求項20又は21に記載のオキシ水酸化鉄吸着材Aが充填された吸着塔I、及び、請求項23に記載のオキシ水酸化鉄吸着材Bが充填された吸着塔II及びIIIを備え、該吸着塔Iには被処理水の入口及び通過水の出口を有し、該吸着塔Iは、該出口からの通過水を吸着塔II及び吸着塔IIIに導く配管で吸着塔II及びIIIにつながれ、該配管には該吸着塔Iからの通過水を該吸着塔II又はIIIへ切り替え可能なバルブを備えた陰イオン種の回収装置。
【請求項27】
請求項26に記載の陰イオン種の回収装置を用いるリン酸イオン及び硝酸イオンの選択的分離回収方法であって、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水を吸着塔Iに通してリン酸イオンを吸着処理した後、その通過水を吸着塔IIに通して硝酸イオンを吸着処理し、一定時間後に、バルブを吸着塔III側に切り替えて、通過水を吸着塔IIIに通して硝酸イオンを吸着処理し、硝酸イオンが吸着された吸着塔IIでは硝酸イオンの脱着処理を行い、更に一定時間後に、バルブを吸着塔II側に切り替えて、通過水を吸着塔IIに通して硝酸イオンを吸着処理し、硝酸イオンが吸着された吸着塔IIIでは硝酸イオンの脱着処理を行うことを特徴とする方法。
【請求項28】
リン酸イオンが吸着された吸着塔Iでリン酸イオンの脱着処理を行うことを特徴とする請求項27に記載の選択的分離回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシ水酸化鉄の製造方法及びオキシ水酸化鉄吸着材に関する。さらに詳しくは、本発明は、工場廃水、排ガス中等のリン成分等の有害物質に対して優れた吸着能を有するオキシ水酸化鉄複合体を有利に製造する方法、及びその方法により得られたオキシ水酸化鉄を主成分とする吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の発展に伴って、多種多様な化学物質が製造、使用されている。このような化学物質は、人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすものも数多く存在している。例えば、水処理の場合、有機もしくは無機のリン、フッ素、ヒ素、モリブデン、クロム、アンチモン、セレン、ホウ素、テルル、ベリリウム、シアン等が有害物質として知られている。また、気体処理の場合、排ガス中の硫化水素、メルカプタン、青酸、フッ化水素、塩化水素、SOx、NOx、その他、リン、ヒ素、アンチモン、硫黄、セレン、テルル化合物、シアノ化合物等が有害物質として知られている。
【0003】
上記有害物質は、飲料水、水道水、ミネラルウォーター、治療用水、農業用水、工業廃水、及び土壌中、空気中、排ガス中等に溶解、懸濁、乳化、固化もしくは浮遊した状態で含まれている場合があり、これらの有害物質を分離、除去することが試みられている。
【0004】
特に、公共用水域としての、湖沼や内湾の閉鎖性水域における富栄養価が大きな社会問題となっている。その理由は、BOD(生物化学的酸素要求量)成分としての有機物を除去しても、窒素、リン等の栄養塩類が未処理のまま湖沼などに流入すると、藻類の異常発生により水域の有機物濃度が高まるためである。このため湖沼などから窒素、リンを除去することが必要とされている。中でも、リンについてはその資源枯渇化が懸念され、かかる水域や生活排水からの除去、回収を可能とするシステムの構築が要請されている。
【0005】
従来、工業廃水等から有害な化学物質を吸着するための鉄系吸着材について、種々の提案がなされている。例えば、粒度50μm以下の含水酸化鉄を200~500℃で加熱し、含水酸化鉄中の結晶水を蒸発させ、細孔を0.1~50nm、比表面積15~200m2 /gの含水酸化鉄(特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、特許文献1では、廃燃焼ガス雰囲気下、200~500℃で加熱処理しているため、リン成分等の有害物質の吸着に必要な鉄系吸着材の吸着サイトの比表面積及び細孔容量の面積分布(dV/dR)が減少しており、吸着力が十分でないという問題点があった。
【0006】
また、鉄イオン溶液にアルカリを加えてpHを3に調整し、60℃で乾燥することによって得られた、非晶質の水酸化鉄系の沈殿生成物からなる陰イオン吸着材(特許文献2参照)が知られている。しかしながら、pH3では1×10-3mol/dm3の3価の鉄イオンが残存し、水酸化鉄が安定に沈殿できない。しかも、特許文献2の方法では、得られる吸着材は、比表面積が小さく吸着力も十分でないという問題点があった。
【0007】
また、BET比表面積50~500m2/gの微粒子状オキシ水酸化鉄の凝集物の製造方法(特許文献3参照)も提案されている。しかしながら、特許文献3のオキシ水酸化鉄は、粒子系がナノサイズで小さいため、反応性は優れているが、粒子の飛散や摩擦による発火等の恐れがあり、取り扱いに不便であり、さらに吸着物質の回収も困難であるという問題点があった。
【0008】
また、ダイオキシン抑制用鉄化合物触媒として、水酸化ナトリウム水溶液と硝酸第一鉄水溶液を47℃で攪拌混合した後、空気を通気して平均粒径0.01~2.0μmのオキシ水酸化鉄粉末を得る方法(特許文献4参照)も提案されている。しかしながら、特許文献4のオキシ水酸化鉄は、粒子系がμサイズで小さいため、特許文献3と同様に取り扱いに不便であり、さらに吸着物質の回収も困難であるという問題点があった。
【0009】
このため、有害物質の吸着能が十分であり、かつナノサイズで細孔容量の面積分布(dV/dR)、細孔半径を制御することができるオキシ水酸化鉄の製造方法、及び取り扱いの容易な吸着材の開発が望まれていた。

【特許文献1】特開2003-154234号公報
【特許文献2】特開2003-334542号公報
【特許文献3】特開2004-509752号公報
【特許文献4】特開平11-267507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の現状に鑑み、工場廃水、排ガス中等の有害成分、環境ホルモン等の有害物質に対して優れた吸着能を有する細孔半径を制御したオキシ水酸化鉄を有利に製造する方法、及びその方法により得られた吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の工程を経てオキシ水酸化鉄を製造することにより、上記目的を達成し得ることを見出した。かかる知見に基づいて更に検討を加えることにより、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のオキシ水酸化鉄の製造方法及びオキシ水酸化鉄吸着材(以下「第I発明」と表記する)を提供する。
(1)(I-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH9以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、
(I-b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、
(I-c)得られたオキシ水酸化鉄を水に接触させる工程、及び
(I-d)得られたオキシ水酸化鉄を、不活性ガス濃度が80%以上のガス雰囲気下、100~280℃の温度で加熱処理する工程、
を有することを特徴とするオキシ水酸化鉄の製造方法、及び
(2)前記(1)の方法により得られたオキシ水酸化鉄を主成分とするオキシ水酸化鉄吸着材。
【0013】
また、本発明は、以下のオキシ水酸化鉄の製造方法及びオキシ水酸化鉄吸着材(以下「第II発明」と表記する)を提供する。
(3)(II-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH7以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、及び
(II-b)該沈殿物を酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下で、100℃以下の温度で加熱することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、
を有することを特徴とするオキシ水酸化鉄の製造方法、及び
(4)前記(3)の方法により得られたオキシ水酸化鉄を主成分とするオキシ水酸化鉄吸着材。
【0014】
さらに、本発明は、オキシ水酸化鉄吸着材に一定の処理を施すことにより、該吸着材が特定の陰イオン種に対する高い吸着選択性を有することを見出し、さらにこれを利用して2種以上の陰イオン種を含む水から特定の陰イオン種を選択的に吸着及び脱着して、該陰イオン種に含まれる元素を効率的に回収できることを見出した。かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、以下のオキシ水酸化鉄吸着材の製造方法、及び陰イオン種含有水から該オキシ水酸化鉄吸着材を用いた陰イオン種の選択的分離回収方法(以下「第III発明」と表記する)を提供する。
(5)(III-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH9以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、及び(III-b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、を含む製造方法により製造されるオキシ水酸化鉄を、塩基の水溶液で処理した後に水で処理して得られるオキシ水酸化鉄吸着材(以下「オキシ水酸化鉄吸着材A」と表記する)、
(6)リン酸イオン及び他の陰イオン種を含む水を、該「オキシ水酸化鉄吸着材A」と接触させることを特徴とするリン酸イオンの選択的分離回収方法、及び(7)リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水を、「オキシ水酸化鉄吸着材A」、及び、オキシ水酸化鉄を塩基の水溶液で処理した後に塩酸処理して得られるオキシ水酸化鉄吸着材等(以下「オキシ水酸化鉄吸着材B」と表記する)の順に接触させることを特徴とするリン酸イオン及び硝酸イオンの選択的分離回収方法。
【0016】
なお、本明細書中、特に断らない限り、「%」は「mol%」を意味する。
【0017】
以下、本発明を詳述する。
【0018】
第I発明
第I発明のオキシ水酸化鉄の製造方法は、
(I-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH9以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、
(I-b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、
(I-c)得られたオキシ水酸化鉄を水に接触させる工程、及び
(I-d)得られたオキシ水酸化鉄を、不活性ガス濃度が80%以上のガス雰囲気下、100~280℃の温度で加熱処理する工程、
を順次行うが、中でも(I-c)及び(I-d)工程が大きな特徴である。
【0019】
本発明方法の(I-a)工程において、原料溶液である鉄イオン含有水溶液としては、3価又は2価の鉄イオン含有水溶液が挙げられる。3価の鉄イオン含有水溶液としては、塩化第二鉄〔FeCl3〕、硫酸第二鉄〔Fe2(SO43〕、硝酸第二鉄〔Fe(NO33〕、蓚酸第二鉄〔Fe2(C242〕等の第二鉄化合物を含有する水溶液が挙げられる。2価の鉄イオン含有水溶液としては、塩化第一鉄〔FeCl2〕、硫酸第一鉄〔FeSO4〕、硝酸第一鉄〔Fe(NO32〕、酢酸第一鉄〔Fe(CH3CO22〕、蓚酸第一鉄〔FeC24〕等の第一鉄化合物を含有する水溶液が挙げられる。これらの中では、反応性等の観点から、3価の鉄イオン含有水溶液が好ましく、特に塩化第二鉄〔FeCl3〕の水溶液が好ましい。
【0020】
塩基は、鉄イオン含有水溶液を中和し、pHを9以下に調整して、オキシ水酸化鉄を含む沈殿生成物を生成させるために使用する。塩基としては、NaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、MgO、MgCO3等の無機塩基を使用することができる。これらの中では、特に水酸化ナトリウム(NaOH)が好ましい。該塩基は、通常水溶液として鉄イオン含有水溶液に加えられる。
【0021】
用いる鉄イオン含有水溶液及び塩基の濃度に特に制限はない。塩基の反応制御の容易さの観点から、鉄イオン含有水溶液の濃度は0.01~5mol/Lが好ましく、0.05~3mol/Lが更に好ましい。また、塩基の水溶液の濃度は0.1~10mol/Lが好ましく、1~5mol/Lが更に好ましい。
【0022】
鉄イオン含有水溶液に塩基の水溶液を加える条件は特に限定はなく、例えば、室温で撹拌しながら加えればよい。
【0023】
(I-a)工程ではpHが重要である。Fe(III)の水酸化物は溶解度積の関係上、pH3から生成し始める。一方、pH3では、オキシ水酸化鉄の結晶生成の初期段階なので、1×10-3mol/dm3の3価の鉄イオンが残存するため、オキシ水酸化鉄が安定状態で沈殿物を生成することが困難になる場合がある。従って、陰イオンの吸着サイトを多量に有するオキシ水酸化鉄を高純度で安定に生成させる観点から、pHは3.3~9、好ましくは3.4~7、更に好ましくは3.5~6、特に好ましくは3.5~5.5とする。
【0024】
(I-a)工程で得られた沈殿物は吸引濾過等により濾別し、(I-b)工程に供する。沈殿物の濾別は吸引濾過等により行うことができるが、不純物除去のためデカンテーションを行うことが好ましい。
【0025】
(I-b)工程においては、高温乾燥による酸化を抑制するため、その沈殿物を100℃以下の温度で乾燥する。温度が100℃を超えると乾燥は速いが、酸化の悪影響がでて、オキシ水酸化鉄のBET比表面積、細孔容量の面積分布(dV/dR)が減少するおそれがある。また、温度が低すぎると乾燥に時間がかかりすぎ、実用的でない場合がある。このため、乾燥温度は、好ましくは20~80℃、更に好ましくは30~70℃、特に好ましくは40~60℃である。乾燥は、空気中、真空中、不活性ガス中のいずれでもよい。乾燥時間は特に制限はなく、通常2時間~3日間、好ましくは5時間~24時間である。
【0026】
(I-b)工程により得られるオキシ水酸化鉄は針状体であり、該針状体の幅(D)は通常10~500nm、好ましくは50~200nmであり、該針状体の長さ/幅の比(L/D)は、通常5/1~50/1、好ましくは5/1~20/1である。
【0027】
得られるオキシ水酸化鉄は針状体であるが、凝集して凝集体粒子を形成している。オキシ水酸化鉄の凝集体粒子としての平均粒子径は、通常80~300μm、好ましくは100~200μmである。
【0028】
ここで、平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば、株式会社堀場製作所、LA-920)を用いて、レーザー回折/散乱法で測定された体積基準粒度分布から算出されるメジアン径を意味する。
【0029】
本発明方法の(I-c)工程においては、比表面積の低下の原因となるNaOHやNaCl等を除去するため、(I-b)工程で得られたオキシ水酸化鉄を水と接触させる。(I-c)工程の水処理により、オキシ水酸化鉄のBET比表面積は、(I-b)工程で得られたオキシ水酸化鉄に対して、1.2倍以上、好適条件では2.5~3倍増大する。その結果、BET法による比表面積は、好ましくは70~250m2/g、更に好ましくは80~210m2/g、特に好ましくは140~200m2/gとなる。
【0030】
(I-c)工程の水処理により比表面積が増大するのは、3価の鉄イオン含有水溶液にNaOH等の塩基を添加するので、FeOOH凝集体中に不純物としてNaCl等の水溶性塩の結晶がナノサイズで生成し、これが水と接触することによって溶解し、該水溶性塩が溶解した部分が細孔になるためと考えられる。
【0031】
(I-c)工程においては、水との接触処理の後、必要に応じて乾燥することができる。乾燥温度は特に制限はないが、100℃以下が好ましく、30~70℃が更に好ましい。
【0032】
(I-d)工程では、得られたオキシ水酸化鉄を、不活性ガス濃度が80%以上のガス雰囲気下(好ましくは、窒素濃度が80%以上のガス雰囲気下)で100~280℃の温度で加熱処理する。吸着サイトとなる細孔〔細孔容量の面積分布(dV/dR)、比表面積〕が加熱処理により減少するのを防止するため、及び粒子間の焼結を防止するため、酸化の影響の少ない雰囲気下で加熱することが必要である。そのため、本発明においては、不活性ガス濃度が80%以上のガス雰囲気下で加熱処理することにより、オキシ水酸化鉄の結晶水を蒸発させ、吸着の対象となるイオンの半径に応じて、最適な細孔径となるよう比表面積の制御(増大)と細孔分布の制御を行う。
【0033】
(I-d)工程における好ましい雰囲気は、窒素濃度が80%以上、酸素濃度が20%以下のガス雰囲気であり、さらに好ましくは窒素濃度が90%以上、酸素濃度が10%以下のガス雰囲気であり、特に好ましくは窒素濃度が98%以上、酸素濃度が2%以下のガス雰囲気である。
【0034】
加熱温度が低すぎると加熱処理に時間がかかりすぎ、実用的でない場合がある。また、温度が280℃を超えると加熱処理の時間は短縮できるが、陰イオンの吸着サイトを適切に残すよう制御することが困難となる。このため、加熱処理の温度は、好ましくは120~260℃、より好ましくは130~230℃である。
【0035】
加熱処理時間は特に制限はなく、通常0.5時間~2日間、好ましくは1時間~24時間である。
【0036】
(I-d)工程における処理により、得られるオキシ水酸化鉄のBET比表面積は、(I-c)工程で得られたオキシ水酸化鉄に対して、1.2倍以上、好適条件では1.5~1.8倍増大する。その結果、BET法による比表面積は、好ましくは100~450m2/g、更に好ましくは120~380m2/g、特に好ましくは200~360m2/gとなり、前記有害物質の分離・除去効果も増大する。
【0037】
また、BJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)による細孔容量の面積分布(dV/dR)(dVは細孔容積を表し、dRは細孔半径を表す。)は、好ましくは100~300mm3/g/nm、更に好ましくは110~280mm3/g/nm、特に好ましくは120~250mm3/g/nmの範囲で制御することができる。
【0038】
さらに、加熱処理時間を調整することによって細孔半径の分布幅を7nm以下、好ましくは0.5~4.5nm、更に好ましくは0.8~3.9nmにすることができ、均一な細孔半径を持つオキシ水酸化鉄が製造できる。
【0039】
本発明方法においては、(I-a)~(I-d)の各工程の条件を適宜調整することにより、BET比表面積、細孔容積(dV/dR)、細孔径、粒子径の異なるオキシ水酸化鉄を製造することができる。
【0040】
オキシ水酸化鉄には、α-FeOOH(ゲータイト)、β-FeOOH(アカゲナイト)及びγ-FeOOH(レピドクロサイト)の3種類があるが、本発明方法によるオキシ水酸化鉄は、結晶性の低いβ-FeOOHの微粒子と考えられ、これが大きな凝集体となっており、光沢のある黒色粒子の形態となっている。その凝集体は無数の細孔を保有する。凝集体粒子としての平均粒子径は、80~300μm、好ましくは100~200μmである。
【0041】
本発明方法で得られたオキシ水酸化鉄は、比表面積が100~450m2/gと大きく、例えば、リン酸イオン等の陰イオン種の吸着・補足に適した100~300mm3/g/nmの細孔容量の面積分布(dV/dR)をもつ吸着サイトを多量に有する。しかも、細孔半径のピークを0.8~3nmの範囲で任意に制御することができるため、捕捉、吸着しようとする元素のイオン半径に応じて、最適の細孔半径とすることにより、種々のサイズの有害物質を選択的かつ効果的に除去することができる。また、細孔半径の分布幅を7nm以下に制御することができる。これによりゼオライト等の分子ふるいと同様の機能を付与することができる。
【0042】
本発明のオキシ水酸化鉄を主成分とする吸着材は、単独で用いてもよく、また他の複合金属水酸化物を混合して用いてもよい。形状としては、粉末のまま用いることも可能であるが、浄化施設の処理槽内に充填使用することを考慮して造粒体及び濾剤とするのが好ましい。造粒する場合は、本発明のオキシ水酸化鉄に対して、公知のバインダーを1~40重量%程度配合し、必要量の水を添加して、ニーダー等で混練した後、造粒機にて造粒体とすることができる。 本発明のオキシ水酸化鉄を主成分とする吸着材を用いて、水中のリン成分、環境ホルモン等の有害物質を除去する場合、この吸着材を充填塔(槽)に充填し、通水する方法で行うことができる。この場合、オキシ水酸化鉄粒子のBET比表面積、細孔容積等は、吸着除去しようとする有害物質の捕捉に適した値のものを使用する。
【0043】
本発明の吸着材は、再使用が容易であるため実用性が高く、吸着した陰イオン種を溶離させることにより、陰イオン種を効率的に回収することができるという特徴を有している。具体的には、リン酸イオン、硝酸イオン及びハロゲン化物イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の陰イオン種を含有する水を、本発明のオキシ水酸化鉄吸着材に接触させて該陰イオン種を吸着させた後、該陰イオン種を脱着(溶離)させることにより、該陰イオン種を効率的に回収することができる。なお、脱着(溶離)は、0.1~5mol/L程度のNaOH水溶液をオキシ水酸化鉄と接触することにより行える。
【0044】
第II発明
第II発明のオキシ水酸化鉄の製造方法は、
(II-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH7以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、及び
(II-b)該沈殿物を酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下で、100℃以下の温度で加熱することによりオキシ水酸化鉄を得る工程、
を順次行うが、特に(II-b)工程が大きな特徴である。
【0045】
本発明方法の(II-a)工程において、原料溶液である鉄イオン含有水溶液としては、3価又は2価の鉄イオン含有水溶液が挙げられる。3価の鉄イオン含有水溶液としては、塩化第二鉄〔FeCl3〕、硫酸第二鉄〔Fe2(SO43〕、硝酸第二鉄〔Fe(NO33〕、蓚酸第二鉄〔Fe2(C242〕等の第二鉄化合物を含有する水溶液が挙げられる。2価の鉄イオン含有水溶液としては、塩化第一鉄〔FeCl2〕、硫酸第一鉄〔FeSO4〕、硝酸第一鉄〔Fe(NO32〕、酢酸第一鉄〔Fe(CH3CO22〕、蓚酸第一鉄〔FeC24〕等の第一鉄化合物を含有する水溶液が挙げられる。これらの中では、反応性等の観点から、3価の鉄イオン含有水溶液が好ましく、特に塩化第二鉄〔FeCl3〕の水溶液が好ましい。
【0046】
塩基は、鉄イオン含有水溶液を中和し、pHを7以下に調整して、オキシ水酸化鉄を含む沈殿生成物を生成させるために使用する。塩基としては、NaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、MgO、MgCO3等の無機塩基を使用することができる。これらの中では、特に水酸化ナトリウム(NaOH)が好ましい。該塩基は、通常水溶液として鉄イオン含有水溶液に加えられる。
【0047】
用いる鉄イオン含有水溶液及び塩基の濃度に特に制限はない。塩基の反応制御の容易さの観点から、鉄イオン含有水溶液の濃度は0.01~5mol/Lが好ましく、0.05~3mol/Lが更に好ましい。また、塩基の水溶液の濃度は0.1~10mol/Lが好ましく、1~5mol/Lが更に好ましい。 鉄イオン含有水溶液に塩基(又は塩基の水溶液)を加える条件は特に限定はなく、室温で撹拌しながら加えればよい。
【0048】
(II-a)工程ではpHが重要である。Fe(III)の水酸化物は溶解度積の関係上、pH3から生成し始める。一方、pH3では、オキシ水酸化鉄の結晶生成の初期段階なので、1×10-3mol/dm3の3価の鉄イオンが残存するため、オキシ水酸化鉄が安定状態で沈殿物を生成することが困難になる場合がある。従って、陰イオンの吸着サイトを多量に有するオキシ水酸化鉄を高純度で安定に生成させる観点から、pHは好ましくは3.3~7、更に好ましくは3.9~6とする。
【0049】
(II-a)工程の処理における雰囲気に特に制限はないが、Fe23化を防ぐため不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気としては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン等を含有する雰囲気が例示される。
【0050】
(II-a)工程で得られた沈殿物は濾別し、(II-b)工程に供する。沈殿物の濾別は吸引濾過等により行うことができるが、不純物除去のためデカンテーションを行うことが好ましい。
【0051】
(II-b)工程においては、高温加熱による酸化を抑制するため、その沈殿物を酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下で、100℃以下の温度で加熱処理する。該ガス雰囲気下で加熱処理すると、比較的低温で細孔制御が可能となり、オキシ水酸化鉄の凝集体を大きくできる。
【0052】
酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気とは、不活性ガス中に酸素濃度が0~20%の範囲で含まれるガス雰囲気を意味する。不活性ガス濃度は、好ましくは不活性ガスを90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上である。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、二酸化炭素、ヘリウム等から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、特に二酸化炭素が好ましい。酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気中、二酸化炭素を50%以上、さらに90%以上、特に95%以上含有していることが好ましい。なお、酸素濃度はできるだけ小さいことが好ましく、通常20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。酸素濃度が大きすぎると、Feの生成により、比表面積および吸着性能が低下してしまうからである。
【0053】
例えば、(II-b)工程を二酸化炭素雰囲気下で行うと、空気中で行った場合に比べ、オキシ水酸化鉄の凝集体粒子の中心粒子径が、4倍程度大きくできる。その結果、比表面積が増大し、粒子径を大きくしても吸着効果が低下せず、むしろ吸着能が増大する。さらに、粒子径が大きいと、カラム吸着の際に圧力損失を減少することができ、また、必要に応じて行う粉砕処理等により、より最適な粒度に調整することが可能となる。
【0054】
加熱温度が100℃を超えると熱分解の悪影響がでて、オキシ水酸化鉄のBET比表面積、細孔容量の面積分布(dV/dR)が減少するおそれがある。また、温度が低すぎると凝集体生成に時間がかかりすぎ、実用的でない場合がある。このため、加熱温度は、好ましくは30~100℃、更に好ましくは40~80℃である。加熱時間は特に制限はなく、通常2時間~3日間、好ましくは5時間~24時間である。
【0055】
(II-b)工程により得られるオキシ水酸化鉄は針状体であり、該針状体の幅(D)は通常10~500nm、好ましくは50~200nmであり、該針状体の長さ/幅の比(L/D)は、通常5/1~50/1、好ましくは5/1~20/1である。
【0056】
ここで得られるオキシ水酸化鉄は針状体であるが、凝集して凝集体粒子を形成している。オキシ水酸化鉄の凝集体粒子としての中心粒子径は、通常0.1~5.0mm、好ましくは0.15~3.0mmである。
【0057】
ここで、オキシ水酸化鉄の凝集体粒子の「中心粒子径」とは、ロータップ氏標準篩振とう機を用いて、乾式篩法で測定した中心粒子径(D50:累積50%の値)を意味する。
【0058】
本発明方法においては、(II-b)工程の後に、更に
(II-c)得られたオキシ水酸化鉄を水と接触させる工程、及び
(II-d)前記(II-c)工程で得られたオキシ水酸化鉄を酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下、100~250℃の温度で加熱処理する工程、を行うことが好ましい。
【0059】
(II-c)工程において、(II-b)工程で得られたオキシ水酸化鉄を水と接触させることにより、比表面積の低下の原因となるNaOHやNaCl等の不純物を除去することができる。(II-c)工程の水処理により、オキシ水酸化鉄のBET比表面積は、(II-b)工程で得られた水酸化鉄に対して、1.2倍以上、好適条件では2.5~3倍増大する。その結果、BET法による比表面積は、好ましくは70~300m2/g、更に好ましくは80~290m2/g、特に好ましくは140~280m2/gとなる。
【0060】
(II-c)工程の水処理により比表面積が増大するのは、(II-a)工程で3価又は2価の鉄イオン含有水溶液にNaOH等の塩基を添加するので、FeOOH凝集体中に不純物としてNaCl等の水溶性塩の結晶がナノサイズで生成し細孔に入り込んでいると考えられ、これが水と接触することによって溶解し、該水溶性塩が溶解した部分が細孔になるためと考えられる。
【0061】
(II-c)工程においては、水との接触処理の後、必要に応じて乾燥することができる。乾燥温度は特に制限はないが、100℃以下が好ましく、30~70℃が更に好ましい。また、乾燥雰囲気は特に制限はないが、Fe23化を防ぐため酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下が好ましく、二酸化炭素雰囲気下が更に好ましい。
【0062】
(II-d)工程では、得られたオキシ水酸化鉄を、酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下で100~250℃の温度で加熱処理する。また、吸着サイトとなる細孔〔細孔容量の面積分布(dV/dR)、比表面積〕が加熱処理により減少するのを防止するため、及び粒子間の焼結を防止するため、酸素の影響の少ない雰囲気下で加熱することが必要である。そのため、本発明においては、酸素濃度が20%以下の不活性ガス雰囲気下で加熱処理することにより、オキシ水酸化鉄の結晶水を蒸発させ、吸着の対象となるイオンの半径に応じて、最適な細孔径となるよう比表面積の制御(増大)と細孔分布の制御を行うことができる。
【0063】
(II-d)工程における好ましい雰囲気は、窒素濃度が80%以上及び酸素濃度が20%以下のガス雰囲気であり、さらに好ましくは窒素濃度が90%以上、酸素濃度が10%以下のガス雰囲気であり、特に好ましくは窒素濃度が98%以上、酸素濃度が2%以下のガス雰囲気である。
【0064】
加熱温度が低すぎると加熱処理に時間がかかりすぎ、実用的でない場合がある。また、温度が280℃を超えると加熱処理の時間は短縮できるが、陰イオンの吸着サイトを適切に残すよう制御することが困難となる。このため、加熱処理の温度は、好ましくは110~200℃、より好ましくは120~180℃である。
【0065】
加熱処理時間は特に制限はなく、通常0.5時間~2日間、好ましくは1時間~24時間である。
【0066】
(II-d)工程における処理により、得られるオキシ水酸化鉄のBET比表面積は、(II-c)工程で得られた水酸化鉄に対して、1.2倍以上、好適条件では1.5~1.8倍増大する。その結果、BET法による比表面積は、好ましくは100~450m2/g、更に好ましくは120~350m2/g、特に好ましくは200~300m2/gとなり、前記有害物質の分離・除去効果も増大する。
【0067】
また、BJH法(Barrett-Joyner-Halenda法)による細孔容量の面積分布(dV/dR)(dVは細孔容積を表し、dRは細孔半径を表す。)は、好ましくは100~300mm3/g/nm、更に好ましくは110~280mm3/g/nm、特に好ましくは120~250mm3/g/nmの範囲で制御することができる。
【0068】
さらに、加熱処理時間を調整することによって、オキシ水酸化鉄の細孔半径の分布幅を7nm以下、好ましくは0.5~4.5nm、更に好ましくは0.8~3.9nmにすることができ、均一な細孔半径を持つオキシ水酸化鉄が製造できる。
【0069】
本発明方法においては、(II-a)~(II-d)の各工程の条件を適宜調整することにより、BET比表面積、細孔容積(dV/dR)、細孔径、粒子径の異なるオキシ水酸化鉄を製造することができる。
【0070】
オキシ水酸化鉄には、α-FeOOH(ゲータイト)、β-FeOOH(アカゲナイト)及びγ-FeOOH(レピドクロサイト)の3種類があるが、本発明方法によるオキシ水酸化鉄は、結晶性の低いβ-FeOOHの微粒子と考えられ、これが大きな凝集体となっており、光沢のある黒色粒子の形態となっている。その凝集体は無数の細孔を保有する。凝集体粒子としての中心粒子径は、通常0.3~4.0mm、好ましくは0.5~2.0mmである。
【0071】
本発明方法で得られたオキシ水酸化鉄は、BET比表面積が100~450m2/gと大きく、例えば、リン酸イオン等の陰イオン種の吸着・補足に適した100~300mm3/g/nmの細孔容量の面積分布(dV/dR)をもつ吸着サイトを多量に有する。しかも、細孔半径のピークを0.8~3nmの範囲で任意に制御することができるため、捕捉、吸着しようとする元素のイオン半径に応じて、最適の細孔半径とすることにより、種々のサイズの有害物質を選択的かつ効果的に除去することができる。また、細孔半径の分布幅を7nm以下に制御することができる。これによりゼオライト等の分子ふるいと同様の機能を付与することができる。
【0072】
本発明のオキシ水酸化鉄を主成分とする吸着材は、単独で用いてもよく、また他の複合金属水酸化物を混合して用いてもよい。形状としては、粉末のまま用いることも可能であるが、浄化施設の処理槽内に充填使用することを考慮して造粒体及び濾剤とするのが好ましい。造粒する場合は、本発明のオキシ水酸化鉄に対して、公知のバインダーを1~40重量%程度配合し、必要量の水を添加して、ニーダー等で混練した後、造粒機にて造粒体とすることができる。
【0073】
本発明のオキシ水酸化鉄を主成分とする吸着材を用いて、水中のリン成分、環境ホルモン等の有害物質を除去する場合、オキシ水酸化鉄粒子のBET比表面積、細孔容積等は、吸着除去しようとする有害物質の捕捉に適した値のものを使用する。
【0074】
本発明の吸着材は、低温での細孔制御が可能な、省エネタイプの吸着材である。また、再使用が容易であるため実用性が高く、吸着した陰イオン種を溶離させることにより、陰イオン種を効率的に回収することができる。具体的には、リン酸イオン、硝酸イオン及びハロゲン化物イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の陰イオン種を含有する水を、本発明のオキシ水酸化鉄吸着材に接触させて該陰イオン種を吸着させた後、該陰イオン種を脱着(溶離)させることにより、該陰イオン種を効率的に回収することができる。なお、脱着(溶離)は、0.1~5mol/L程度のNaOH水溶液をオキシ水酸化鉄と接触することにより行える。
【0075】
第III発明
オキシ水酸化鉄吸着材A
第III発明の「オキシ水酸化鉄吸着材A」は、オキシ水酸化鉄を塩基の水溶液で処理した後に水で処理して調製される。 「オキシ水酸化鉄吸着材A」の調製に用いられる原料のオキシ水酸化鉄は、典型的には、
(III-a)鉄イオン含有水溶液に塩基を加え、pH9以下とすることにより、オキシ水酸化鉄を含む沈殿物を生成させる工程、及び
(III-b)該沈殿物を100℃以下の温度で乾燥することによってオキシ水酸化鉄を得る工程、
を含む製造方法により製造できる。
【0076】
(III-a)工程において、原料溶液である鉄イオン含有水溶液としては、3価又は2価の鉄イオン含有水溶液が挙げられる。3価の鉄イオン含有水溶液としては、塩化第二鉄〔FeCl3〕、硫酸第二鉄〔Fe2(SO43〕、硝酸第二鉄〔Fe(NO33〕、蓚酸第二鉄〔Fe2(C242〕等の第二鉄化合物を含有する水溶液が挙げられる。2価の鉄イオン含有水溶液としては、塩化第一鉄〔FeCl2〕、硫酸第一鉄〔FeSO4〕、硝酸第一鉄〔Fe(NO32〕、酢酸第一鉄〔Fe(CH3CO22〕、蓚酸第一鉄〔FeC24〕等の第一鉄化合物を含有する水溶液が挙げられる。これらの中では、反応性等の観点から、3価の鉄イオン含有水溶液が好ましく、特に塩化第二鉄〔FeCl3〕の水溶液が好ましい。 塩基は、鉄イオン含有水溶液を中和し、pHを9以下に調整して、オキシ水酸化鉄を含む沈殿生成物を生成させるために使用する。塩基としては、NaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、MgO、MgCO3等の無機塩基を使用することができる。これらの中では、特に水酸化ナトリウム(NaOH)が好ましい。該塩基は、通常水溶液として鉄イオン含有水溶液に加えられる。
【0077】
用いる鉄イオン含有水溶液及び塩基の濃度に特に制限はない。塩基の反応制御の容易さの観点から、鉄イオン含有水溶液の濃度は0.01~5mol/Lが好ましく、0.05~3mol/Lが更に好ましい。また、塩基の水溶液の濃度は0.1~10mol/Lが好ましく、1~5mol/Lが更に好ましい。
【0078】
鉄イオン含有水溶液に塩基(又は塩基の水溶液)を加える条件は特に限定はなく、例えば、室温で撹拌しながら加えればよい。
【0079】
(III-a)工程ではpH9以下とし、好ましくは3.3~9である。(III-a)工程で得られた沈殿物は吸引濾過等により濾別し、(III-b)工程に供する。沈殿物の濾別は吸引濾過等により行うことができるが、不純物除去のためデカンテーションを行うことが好ましい。
【0080】
(III-b)工程においては、高温乾燥による酸化を抑制するため、その沈殿物を100℃以下の温度で乾燥すればよい。乾燥温度は、好ましくは20~80℃である。乾燥は、空気中、真空中、不活性ガス中のいずれでもよい。乾燥時間は特に制限はなく、通常2時間~4日間程度である。(III-b)工程により針状体のオキシ水酸化鉄を得る。得られるオキシ水酸化鉄は針状体であるが、凝集して凝集体粒子を形成している。オキシ水酸化鉄の凝集体粒子としての平均粒子径は、通常0.08~5mm、好ましくは0.01~2mmである。
【0081】
原料となるオキシ水酸化鉄は、通常上記のようにして製造されたものでよいが、好ましくは「第I発明」又は「第II発明」に記載された製造方法により得られるオキシ水酸化鉄が推奨される。
【0082】
得られたオキシ水酸化鉄は、塩基の水溶液に接触させて処理される。塩基の水溶液としては、NaOH、KOH、Na2CO3、K2CO3、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、NH3、NH4OH、MgO、MgCO3等の無機塩基の水溶液が挙げられる。好ましくは、NaOHの水溶液である。塩基の水溶液の濃度は、例えば、0.1~5mol/L程度であればよい。処理温度は10~50℃程度であり、処理時間は0.1~2時間程度であればよい。
【0083】
塩基処理されたオキシ水酸化鉄は、続いて水と接触させて、オキシ水酸化鉄の吸着サイトから脱陰イオン処理される。使用する水は特に限定はなく、水道水等を用いることができるが、陰イオン種を含まない脱イオン水(純水)を用いることが好ましい。
【0084】
上記の塩基及び水の処理は、例えば、バッチ式の場合、常温でオキシ水酸化鉄が浸る程度に塩基の水溶液に浸漬するなどして処理し、次いで水で処理しても良いし、或いは、流通式の場合、オキシ水酸化鉄をカラム等に充填して常温で塩基の水溶液を流通し、次いで排出される水のpHが6~9になる程度にまで水を流通して処理しても良い。
【0085】
かくして得られる「オキシ水酸化鉄吸着材A」は、リン酸イオンに対して高い吸着選択性を有している。つまり、リン酸イオン及び他の陰イオン種を含む水(被処理水)を、該「オキシ水酸化鉄吸着材A」と接触させた場合、選択的にリン酸イオンを吸着することができる。リン酸イオンの選択的吸着の挙動については、試験例III-1(1)及び図6を参照すれば容易に理解できる。 続いて「オキシ水酸化鉄吸着材A」に吸着したリン酸イオンを脱着させることにより、リン酸イオンを選択的に分離回収できる。脱着は、0.1~5mol/L程度のNaOH水溶液をオキシ水酸化鉄と接触することにより行える。
【0086】
具体的には、「オキシ水酸化鉄吸着材A」を充填した吸着塔に、リン酸イオンを含む水を流通させて、リン酸イオンを吸着させることができる。被処理水であるリン酸イオンを含む水中のリン酸イオンの濃度は特に限定はなく、例えば、0.1~5mmol/L程度の範囲であればよい。リン酸イオンを含む水の温度は、吸着性能及び選択性の点から10~30℃程度、pHは3~9程度であることが好ましい。続いて、リン酸イオンの脱着は、吸着塔に0.1~5mol/L程度のNaOH水溶液を流通させて行える。この操作を繰り返すことにより、リン酸イオン及び他の陰イオン種を含む水からリン酸イオンを効率的に分離回収することができる。
【0087】
さらに、上記の「オキシ水酸化鉄吸着材A」に加えて、後述の「オキシ水酸化鉄吸着材B」とを組み合わせて、リン酸イオン及び硝酸イオンの混合陰イオン種を含む水から、リン酸イオンと硝酸イオンをそれぞれ選択的に分離回収することもできる。
【0088】
オキシ水酸化鉄吸着材B
「オキシ水酸化鉄吸着材B」は、オキシ水酸化鉄を塩基の水溶液で処理した後に塩酸処理して得られる。
【0089】
原料のオキシ水酸化鉄の調製、及び該オキシ水酸化鉄を塩基の水溶液で処理する操作は、上記の「オキシ水酸化鉄吸着材A」と同様に行うことができる。塩基処理されたオキシ水酸化鉄は、続いて塩酸と接触させて処理される。塩酸の濃度は、0.0001~10mol/L程度、好ましくは0.0001~0.01mol/L程度であればよい。処理温度は10~50℃程度で、処理時間は0.1~2時間程度であればよい。
【0090】
上記の塩基及び塩酸の処理は、例えば、バッチ式の場合、常温でオキシ水酸化鉄が浸る程度に塩基の水溶液に浸漬するなどして処理し、次いで塩酸で処理しても良いし、或いは、流通式の場合、オキシ水酸化鉄をカラム等に充填して常温で塩基の水溶液を流通し、次いで塩酸を流通して処理しても良い。
【0091】
かくして得られる「オキシ水酸化鉄吸着材B」は、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、フッ化物イオン等の陰イオン種に対して高い吸着性を有している。これら陰イオン種の吸着の挙動については、試験例III-2及び図8~9を参照すれば容易に理解できる。
【0092】
オキシ水酸化鉄吸着材A及びBの構造
オキシ水酸化鉄の正確な構造は明らかではないが、結晶性の低いβ-FeOOHの構造をしていると考えられる(図11を参照)。そして、オキシ水酸化鉄の吸着サイトには、結晶性の低い空孔(空孔サイズは約5.56~7.21Å)と、結晶性の高い空孔(空孔サイズは約3.4~3.7Å)の2種類が存在していると考えられる。
【0093】
結晶性の低い空孔では、イオン半径の大きいリン酸イオンが吸着すると考えられる。
【0094】
また、結晶性の高い空孔は、いわゆる「トンネルサイト」と呼ばれる部分であり、図11の結晶性の高い部分(空孔)に相当し、塩化物イオン、フッ化物イオン、硝酸イオン等が吸着すると考えられる。この「トンネルサイト」では、陰イオン種同士がイオン交換を伴って吸着が起きると考えられる。
【0095】
ここで、「オキシ水酸化鉄吸着材A」では、製造工程にて水処理されているため、結晶性の低い空孔及び結晶性の高い空孔(トンネルサイト)のいずれの吸着サイトにも、陰イオン種がほとんど存在していないと考えられる。吸着の挙動は、次のように推測される。イオン径が約4.76Åのリン酸イオンは、結晶性の低いルーズな空孔に入れるため吸着されるが、リン酸イオンは結晶性の高い空孔(トンネルサイト)には入れないため吸着されない。また、結晶性の高い空孔内には塩化物イオンが存在しない。そのため、イオン径が3.7Å程度以下の陰イオン種(硝酸イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン等)は、結晶性の高い空孔でイオン交換はできず吸着されにくくなる。
【0096】
一方、「オキシ水酸化鉄吸着材B」では、製造工程にて塩酸処理されているため、塩化物イオン(Cl)のイオン半径に近い結晶性の高い空孔(トンネルサイト)には塩化物イオンが存在しており、結晶性の低い空孔には塩化物イオンが存在していないと考えられる。吸着の挙動は、次のように推測される。イオン径が約4.76Åのリン酸イオンは、結晶性の低いルーズな空孔に入れるため吸着されるが、リン酸イオンは結晶性の高い空孔(トンネルサイト)には入れないため吸着されない。イオン径が3.7Å程度以下の陰イオン種(硝酸イオン、フッ化物イオン、硫酸イオン等)は、結晶性の高い空孔内に存在する塩化物イオンとイオン交換して空孔内に吸着される。
【0097】
オキシ水酸化鉄吸着材Bのトンネルサイトの模式図を、図13に示す。図13において、連続した塩化物イオンを内包する空孔が「トンネルサイト」となる。
【0098】
オキシ水酸化鉄吸着材A及びBを用いたリン酸イオン及び硝酸イオンの分離回収
上記のオキシ水酸化鉄吸着材A及びBを用いて、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水(被処理水)から、効率的かつ選択的にリン酸イオン及び硝酸イオンを分離回収することができる。
【0099】
具体的には、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水を、オキシ水酸化鉄吸着材A及びオキシ水酸化鉄吸着材Bの順に接触させることにより、リン酸イオンを選択的にオキシ水酸化鉄吸着材Aで吸着し、硝酸イオンを選択的にオキシ水酸化鉄吸着材Bで吸着して、リン酸イオン及び硝酸イオンをそれぞれ選択的に分離回収することができる。
【0100】
より具体的には、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水を、オキシ水酸化鉄吸着材Aを充填した吸着塔、及び、オキシ水酸化鉄吸着材Bを充填した吸着塔に、この順で通水する。吸着材Aを充填した吸着塔では、硝酸イオンは吸着されずに通過するがリン酸イオンは選択的にほぼ100%吸着される。通過した硝酸イオンを含む水は、吸着材Bを充填した吸着塔に導入され、硝酸イオンがオキシ水酸化鉄吸着材Bの空孔に存在するClとイオン交換して、ほぼ100%吸着される。
【0101】
上記処理後、リン酸イオンを吸着した吸着塔は、0.1~5mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液で吸着成分(リン酸イオン)を脱着回収でき、更に水洗することにより吸着材Aを再生できる。
【0102】
硝酸イオンを吸着した吸着塔も、0.1~5mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液で吸着成分(硝酸イオン)を脱着回収でき、更に0.0001~10mol/L程度の塩酸で処理することにより吸着材Bを再生できる。
【0103】
なお、被処理水の量が多い場合には、上記の吸着材Aを充填した吸着塔は並列的に2個以上を設けても良い。同様に、上記の吸着材Bを充填した吸着塔も並列的に2個以上を設けても良い。
【0104】
一般に、オキシ水酸化鉄吸着材Aにおけるリン酸イオンの吸着量に対し、オキシ水酸化鉄吸着材Bの硝酸イオンの吸着量が比較的小さいため、例えば、図12に示すように、オキシ水酸化鉄吸着材Bを充填した吸着塔を2個以上設けることが好ましい。
【0105】
図12の装置は、陰イオン種の回収装置、より具体的にはリン酸イオン及び硝酸イオンを含む水(被処理水)をリン酸イオンと硝酸イオンとに選択的に分離回収できる装置である。該装置は、オキシ水酸化鉄吸着材Aが充填された吸着塔I、及び、オキシ水酸化鉄吸着材Bが充填された2個の吸着塔II及びIIIを備えている。該吸着塔Iには被処理水の入口及び通過水の出口を有し、該吸着塔Iは該出口からの通過水を吸着塔II及び吸着塔IIIに導く配管で吸着塔II及びIIIにつながれている。該吸着塔II及び吸着塔IIIには、通過水が排出される出口を有している。また、該配管には、該吸着塔Iからの通過水を該吸着塔II又はIIIへ切り替え可能なバルブ(弁)を有している(図示せず)。
【0106】
上記の装置を用いた具体的な処理操作を次に示す。例えば、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水(被処理水)を、まず吸着塔Iに通してリン酸イオンを吸着処理した後、その通過水を吸着塔IIに通して硝酸イオンを吸着処理する。一定時間後に、バルブを吸着塔II側から吸着塔III側に切り替えて、通過水を吸着塔IIIに導入して硝酸イオンを吸着処理する。このとき、硝酸イオンが吸着された吸着塔IIでは硝酸イオンの脱着処理を行う。脱着処理は、吸着塔IIの通過水の出口側から0.1~5mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液を導入して、吸着成分(硝酸イオン)を脱着回収する。そして、さらに0.0001~10mol/L程度の塩酸を導入して、吸着材Bを再生する。
【0107】
更に一定時間後に、バルブを吸着塔III側から吸着塔II側に切り替えて、通過水を吸着塔IIに導入して硝酸イオンを吸着処理する。このとき、硝酸イオンが吸着された吸着塔IIIでは硝酸イオンの脱着処理を行う。脱着処理は上記吸着塔IIの場合と同じである。
【0108】
吸着塔Iからのリン酸イオンの脱着は、吸着塔Iでの処理を停止して、吸着塔Iの通過水の出口側から0.1~5mol/L程度の水酸化ナトリウム水溶液を導入して、吸着成分(リン酸イオン)を脱着回収する。
【0109】
この様な操作を繰り返すことにより、リン酸イオン及び硝酸イオンを効率的に分離回収することが可能となる。
【0110】
なお、上記の図12の装置及びそれを用いた操作は例示であり、オキシ水酸化鉄吸着材Aが充填された吸着塔は、吸着塔Iを1個だけでなく並列的に複数本設けることもでき、また、オキシ水酸化鉄吸着材Bが充填された吸着塔は、吸着塔II及びIIIの2個に限定されず3個以上設けても良い。これにより被処理水の通液を停止することなくリン酸イオン及び硝酸イオンの吸着処理が可能となる。
【0111】
より具体的な処理操作を実施例III-3及び図14~17に示す。 なお、第III発明においては、「オキシ水酸化鉄吸着材B」に代えて、前述の「第I発明」又は「第II発明」に記載された製造方法により得られるオキシ水酸化鉄そのものを用いても同様の効果が奏される。
【発明の効果】
【0112】
第I発明の製造方法によれば、リン成分、環境ホルモン等の有害物質に対して優れた吸着能を有するオキシ水酸化鉄を効率的に製造することができる。
【0113】
第I発明方法により得られたオキシ水酸化鉄は、比表面積が100~450m2/g、細孔容量の面積分布(dV/dR)が100~300mm3/g/nmと大きいため、リン酸イオン等の陰イオン種をはじめとする有害物質に対して優れた吸着力を発揮する。
【0114】
さらに、細孔半径のピークを0.8~3nm、細孔半径の分布幅を7nm以下の範囲で任意に制御することができるため、吸着しようとするイオン半径に応じた細孔半径とすることにより、目的とするイオンを選択的に吸着することができ、また分子ふるいの効果が期待できる。
【0115】
第I発明の吸着材は、再使用が容易であるため実用性が高く、吸着した陰イオン種を溶離させることにより、陰イオン種に含まれる元素を効率的に回収することができる。
【0116】
第II発明の製造方法によれば、リン成分、環境ホルモン等の有害物質に対して優れた吸着能を有するオキシ水酸化鉄を効率的に製造することができる。
【0117】
第II発明方法により得られたオキシ水酸化鉄は、その凝集体粒子の中心粒子径が0.3~4.0mmと大きいため取り扱いやすく、粉砕等による粒子径制御が容易になる。さらに、BET比表面積が100~450m2/g、BJH法により算出した細孔容量の面積分布(dV/dR)が100~300mm3/g/nmと大きいため、リン酸イオン等の陰イオン種をはじめとする有害物質に対して優れた吸着力を発揮する。
【0118】
さらに、細孔半径のピークを0.8~3nm、細孔半径の分布幅を7nm以下の範囲で任意に制御することができるため、吸着しようとするイオン半径に応じた細孔半径とすることにより、目的とするイオンを選択的に吸着することができ、また分子ふるいの効果が期待できる。
【0119】
第II発明の吸着材は、低温での細孔制御が可能な、省エネタイプの吸着材である。また、再使用が容易であるため実用性が高く、吸着した陰イオン種を溶離させることにより、陰イオン種に含まれる元素を効率的に回収することができる。
【0120】
第III発明の「オキシ水酸化鉄吸着材A」は、リン酸イオンに対して高い吸着選択性を有している。この吸着材Aを用いてリン酸イオンを効率的かつ選択的に回収することができる。
【0121】
また、「オキシ水酸化鉄吸着材A」と「オキシ水酸化鉄吸着材B」を組み合わせることにより、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水(被処理水)から、リン酸イオン及び硝酸イオンを効率的かつ選択的に分離回収が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】実施例I-1~I-4及び比較例I-3で得られたオキシ水酸化鉄の細孔分布を示すグラフである。
【図2】実施例I-3及びI-5~I-7で得られたオキシ水酸化鉄の細孔分布を示すグラフである。
【図3】実施例II-1とII-3で得られたオキシ水酸化鉄の粒度分布を示すグラフである。
【図4】実施例II-1~II-3で得られたオキシ水酸化鉄の細孔分布を示すグラフである。
【図5】実施例II-4~II-6で得られたオキシ水酸化鉄の細孔分布を示すグラフである。
【図6】リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水をオキシ水酸化鉄吸着材Aで処理した場合の、排出される水中の各イオンの経時変化を示すグラフである。
【図7】リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水をオキシ水酸化鉄吸着材Bで処理した場合の、排出される水中の各イオンの経時変化を示すグラフである。
【図8】フッ化物イオン及び硝酸イオンを含む水をオキシ水酸化鉄吸着材Bで処理した場合の、排出される水中の各イオンの経時変化を示すグラフである。
【図9】フッ化物イオン及び硫酸イオンを含む水をオキシ水酸化鉄吸着材Bで処理した場合の、排出される水中の各イオンの経時変化を示すグラフである。
【図10】硝酸イオン及び硝酸イオンを含む水をオキシ水酸化鉄吸着材Bで処理した場合の、排出される水中の各イオンの経時変化を示すグラフである。
【図11】想定されるオキシ水酸化鉄の構造及びオキシ水酸化鉄に対する各種陰イオン種の吸着の挙動を模式的に示した図である。
【図12】リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水からリン酸イオン及び硝酸イオンを分離回収する装置の模式図である。
【図13】オキシ水酸化鉄吸着材Bのトンネルサイトの模式図を示す。
【図14】リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水からリン酸イオン及び硝酸イオンを分離回収する装置の概略図である。
【図15】図14の装置を用いた第1処理操作を示す図である。
【図16】図14の装置を用いた第2処理操作を示す図である。
【図17】図14の装置を用いた第3処理操作を示す図である。
【符号の説明】
【0123】
1:被処理水(リン酸イオン及び硝酸イオンを含む水)タンク
2:水酸化ナトリウム水溶液タンク
3:硝酸イオン回収タンク
4:処理水タンク
I-a~I-f、II-a~II-f及びIII-a~III-d:バルブ
【発明を実施するための最良の形態】
【0124】
次に、本発明(第I発明~第III発明)を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
【0125】
第I発明
実施例I-1
塩化第二鉄(FeCl3・6H2O)を0.1mol/Lとなるように水に溶解し、室温で撹拌しながら、濃度2mol/LのNaOH溶液を添加して溶液全体のpHを4に調整した。溶液中に生じた沈殿生成物を24時間静置し、吸引濾過して、沈殿物を得た。この沈殿物を50℃で48時間、定温乾燥器中で乾燥してFeOOHを得た。
【0126】
得られたFeOOHのBET比表面積は50.6m2/g、凝集体粒子としての平均粒子径は、200μmであった。このオキシ水酸化鉄を、パルプ濃度(水の重量に対する乾燥オキシ水酸化鉄の重量の百分率)が5%となるように純水中に投入し、室温で5分間撹拌した。撹拌後に吸引濾過して、オキシ水酸化鉄を得た。得られたオキシ水酸化鉄を55℃で24時間乾燥処理した。乾燥後、細孔半径制御の為、窒素99%以上の雰囲気下、200℃で1時間加熱処理をした。得られたオキシ水酸化鉄のBET比表面積は260.19m2/g、細孔容量の面積分布(dV/dR)は194.34mm3/g/nm、細孔半径ピークは1.28nm、細孔半径の分布幅が2.5nm以下、凝集体粒子としての平均粒子径は150μmであった。
【0127】
なお、測定条件は次のとおりである。
(1)BET比表面積
日本ベル株式会社製、BET比表面積測定装置、型式BELSORP-miniを用いて測定した。(2)細孔容量の面積分布(dV/dR)、細孔半径ピーク、細孔半径の分布幅
日本ベル株式会社製、BET比表面積測定装置、型式BELSORP-miniを用いて測定し、BJH法にて算出した。
(3)平均粒子径
株式会社堀場製作所製、レーザー回折/散乱式粒度分布計、型式LA-920を用いて測定された体積基準粒度分布からメジアン径を算出した。
【0128】
実施例I-2~I-7
実施例I-1において、(I-d)工程の乾燥温度及び乾燥時間を表1に示す条件に変えた以外は、実施例I-1と同様に処理してオキシ水酸化鉄を得た。その物性を第1表に示す。
【0129】
比較例I-1及びI-2
市販試薬のオキシ水酸化鉄(α-FeOOH、ナカライテスク株式会社製、BET比表面積10.8m2/g)を用いて、第1表に示す条件で加熱処理した。その物性を第1表
に示す。
【0130】
比較例I-3
実施例I-1において、(I-d)工程の乾燥を300℃で行った以外は、実施例I-1と同様に処理してオキシ水酸化鉄を得た。その物性を第1表に示す。
【0131】
比較例I-4及びI-5
実施例I-1において、(I-d)工程の乾燥を、窒素99%以上の雰囲気ではなく、空気中で、200℃又は250℃で行った以外は、実施例I-1と同様に処理して、酸化鉄(Fe23)を得た。その物性を第1表に示す。
【0132】
【表1】
JP0004126399B2_000002t.gif

【0133】
(オキシ水酸化鉄のリン吸着能評価)
実施法I-1~I-4及び比較例I-3で得られたオキシ水酸化鉄、比較例I-4及びI-5で得られた酸化鉄を、リンとして50mg/Lのリン酸水溶液に1g/Lになるように添加し、12時間後のリン濃度からリン除去率を算出した。結果を第1表に示す。
(オキシ水酸化鉄の細孔分布)
図1は、実施法I-1~I-4及び比較例I-3で得られたオキシ水酸化鉄の細孔分布を示すグラフである。本発明の多孔質オキシ水酸化鉄は、窒素雰囲気下で加熱することによって細孔分布を制御できることを示している。
【0134】
また、図2は、実施例I-3及びI-5~I-7で得られたオキシ水酸化鉄の細孔分布を示すグラフである。加熱時間を変化することによって、細孔分布幅をより均一化することが可能である。
【0135】
このように、本発明によればオキシ水酸化鉄粒子のBET比表面積、細孔容量の面積分布(dV/dR)、細孔半径ピーク、細孔半径の分布幅、平均粒子径等を、吸着除去しようとする有害物質の捕捉に適した値のものに制御することができる。
【0136】
第II発明
実施例II-1
塩化第二鉄(FeCl3・6H2O)を0.1mol/Lとなるように水に溶解し、室温で撹拌しながら、濃度2mol/LのNaOH溶液を添加して溶液全体のpHを4に調整した。溶液中に生じた沈殿生成物を24時間静置し、吸引濾過して、沈殿物を得た。この沈殿物を二酸化炭素100%の雰囲気下、50℃で48時間、恒温器中で加熱乾燥してFeOOHを得た。
【0137】
このオキシ水酸化鉄を、パルプ濃度(水の重量に対する乾燥オキシ水酸化鉄の重量の百分率)が5%となるように純水中に投入し、室温で5分間撹拌した。撹拌後に吸引濾過して、オキシ水酸化鉄を得た。得られたオキシ水酸化鉄を55℃で24時間乾燥処理した。乾燥後、細孔半径制御のため、窒素99%以上の雰囲気下、160℃で1時間加熱処理をした。得られたオキシ水酸化鉄のBET比表面積は262.7m2/g、凝集体粒子としての中心粒子径(D50:下記乾式篩法における累積50%の値)は0.9mm、細孔容量の面積分布(dV/dR)は199.9mm3/g/nm、細孔半径ピークは1.52nm、細孔半径の分布幅が3.5nm以下であった。
【0138】
なお、測定条件は次のとおりである。
(1)BET比表面積
日本ベル株式会社製、BET比表面積測定装置、型式BELSORP-miniを用いて測定した。
(2)細孔容量の面積分布(dV/dR)、細孔半径ピーク、細孔半径の分布幅
日本ベル株式会社製、BET比表面積測定装置、型式BELSORP-miniを用いて測定し、BJH法にて算出した。
(3)オキシ水酸化鉄の凝集体粒子の中心粒子径
ロータップ氏標準篩振とう機を用いて、乾式篩法で、オキシ水酸化鉄凝集体粒子の中心粒子径を測定した。
【0139】
実施例II-2~II-6
実施例II-1において、(II-d)工程の乾燥温度及び乾燥時間を第2表に示す条件に変えた以外は、実施例II-1と同様に処理してオキシ水酸化鉄を得た。その物性を第2表に示す。
【0140】
実施例II-7
実施例II-5において、(II-b)工程を窒素100%の雰囲気下で行った以外は、実施例II-5と同様に処理してオキシ水酸化鉄を得た。その物性を第2表に示す。
【0141】
比較例II-1
実施例II-1において、(II-b)工程の加熱処理を行わず、(II-d)工程を第2表に示す条件で行った以外は、実施例II-1と同様に処理してオキシ水酸化鉄を得た。その物性を第2表に示す。
【0142】
比較例II-2
実施例II-1において、(II-b)工程の加熱処理を空気雰囲気下で行い、(II-d)工程を第2表に示す条件で行った以外は、実施例II-1と同様に処理してオキシ水酸化鉄を得た。その物性を第2表に示す。
【0143】
比較例II-3
実施例II-1において、(II-b)工程の加熱処理を空気雰囲気下で行い、(II-d)工程は行わなかった以外は、実施例II-1と同様に処理してオキシ水酸化鉄を得た。その物性を第2表に示す。
【0144】
比較例II-4
実施例II-1において、(II-b)工程の加熱処理を空気雰囲気下、200℃で行い、(II-d)工程は行わなかった以外は、実施例II-1と同様に処理して、酸化鉄(Fe23)を得た。その物性を第2表に示す。
【0145】
比較例II-5
実施例II-1において、(II-b)工程を窒素雰囲気下、200℃で行い、(II-d)工程は行わなかった以外は、実施例II-1と同様に処理して、酸化鉄(Fe23)を得た。その物性を第2表に示す。
【0146】
【表2】
JP0004126399B2_000003t.gif

【0147】
(オキシ水酸化鉄のリン吸着能評価)
実施例II-1~II-7及び比較例II-1~II-3で得られたオキシ水酸化鉄を、リンとして50mg/Lのリン酸水溶液に1g/Lになるように添加し、12時間後のリン濃度からリン吸着除去率を算出した。結果を第2表に示す。
【0148】
第2表から明らかなように、実施例ではリン吸着除去率が65%以上であるのに対し、比較例では60%以下であることが分る。
(オキシ水酸化鉄の細孔分布)
図3は、実施例II-1と比較例II-3で得られたオキシ水酸化鉄の粒度分布を示すグラフである。(II-b)工程を二酸化炭素雰囲気下で行うと、空気中で行った場合に比べ、オキシ水酸化鉄の凝集体粒子の中心粒子径が4倍程度大きくなることが分る。
【0149】
図4は、実施例II-1~II-3で得られたオキシ水酸化鉄の細孔分布を示すグラフである。本発明の多孔質オキシ水酸化鉄は、窒素雰囲気下で加熱することによって細孔分布を制御できることを示している。
【0150】
また、図5は、実施例II-4~II-6で得られたオキシ水酸化鉄の細孔分布を示すグラフである。加熱時間を変化することによって、細孔分布幅をより均一化することが可能である。
【0151】
このように、本発明によればオキシ水酸化鉄粒子のBET比表面積、細孔容量の面積分布(dV/dR)、細孔半径ピーク、細孔半径の分布幅、平均粒子径等を、吸着除去しようとする有害物質の捕捉に適した値のものに制御することができる。
(オキシ水酸化鉄の硝酸イオン吸着能評価)
実施例II-1で得られたオキシ水酸化鉄を用いて、下記条件で硝酸イオン(NO3-)の吸着実験を行った結果、硝酸イオンをぼぼ100%除去できた。
(1)条件:オキシ水酸化鉄の使用量11g
硝酸イオン(NO3-)濃度88ppmの模擬廃水
使用カラム:内径10mm、長さ100mm、容量7.9ml
常温、空間速度38h-1、通水速度5ml/分
(2)条件:オキシ水酸化鉄の使用量23g
琵琶湖(瀬田地区)の湖水、硝酸イオン(NO3-)濃度6mg/l
使用カラム:内径10mm、長さ200mm、容量15.7ml
常温、空間速度19h-1、通水速度5ml/分
(オキシ水酸化鉄のフッ素イオン吸着能評価)
実施例II-1で得られたオキシ水酸化鉄を用いて、下記条件でフッ素イオンの吸着実験を行った結果、フッ素イオンをぼぼ100%除去できた。
(1)条件:オキシ水酸化鉄の使用量23g
電子産業廃水、フッ素イオン濃度107mg/l
使用カラム:内径10mm、長さ200mm、容量15.7ml
常温、空間速度19h-1、通水速度5ml/分
【0152】
第III発明
「オキシ水酸化鉄吸着材A」及び「オキシ水酸化鉄吸着材B」を、次のようにして調製し、各種陰イオン種との吸着性能の評価を行った。
【0153】
実施例III-1(オキシ水酸化鉄吸着材A)
オキシ水酸化鉄吸着材Aは、純水8Lを撹拌羽根で撹拌した溶液に塩化第2鉄6水和物を0.1mol/lの濃度になるように加え溶解した。次に、撹拌している塩化第2鉄溶液に4mol/lの水酸化ナトリウム溶液をペリスタポンプにより流速2ml/minで滴下し、pHコントローラによりpH5に調整し、ゲル状のオキシ水酸化鉄を得た。pH調整後は撹拌を止め、24時間静置し、濾過した。濾過は、静置したゲル状のオキシ水酸化鉄をブフナーロートに5C濾紙をセットし、吸引濾過を行い、乾燥した。乾燥は、濾過により脱水されたゲル状のオキシ水酸化鉄を濾紙とともに恒温乾燥器に入れ、50℃で24時間から72時間乾燥した。
【0154】
乾燥で得られた黒色のオキシ水酸化鉄を篩にかけた後、0.5~1.7mmのオキシ水酸化鉄をカラムに23g詰め、流速5ml/minで2.5mol/LのNaOH水溶液を500ml通液した。通液後、4Lの純水を流速5ml/minで通液し、オキシ水酸化鉄吸着材Aを製造した。
【0155】
実施例III-2(オキシ水酸化鉄吸着材B)
オキシ水酸化鉄吸着材Bは、純水8Lを撹拌羽根で撹拌した溶液に塩化第2鉄6水和物を0.1mol/lの濃度になるように加え溶解した。次に、撹拌している塩化第2鉄溶液に4mol/lの水酸化ナトリウム溶液をペリスタポンプにより流速2ml/minで滴下し、pHコントローラによりpH5に調整し、ゲル状のオキシ水酸化鉄を得た。pH調整後は撹拌を止め、24時間静置し、濾過した。濾過は、静置したゲル状のオキシ水酸化鉄をブフナーロートに5C濾紙をセットし、吸引濾過を行い、乾燥した。乾燥は、濾過により脱水されたゲル状のオキシ水酸化鉄を濾紙とともに恒温乾燥器に入れ、50℃で24時間から72時間乾燥した。
【0156】
乾燥で得られた黒色のオキシ水酸化鉄を篩にかけた後、0.5~1.7mmのオキシ水酸化鉄をカラムに23g詰め、流速5ml/minで2.5mol/LのNaOH水溶液を500ml通液した。通液後、2Lの純水に30%~37%(9~12mol/l)塩酸を2ml添加した溶液(約0.0001~0.01mol/l塩酸)を流速5ml/minで通液し、オキシ水酸化鉄吸着材Bを製造した。
【0157】
試験例III-1
実施例III-1で得られる「オキシ水酸化鉄吸着材A(水処理)」及び実施例III-2で得られるオキシ「水酸化鉄吸着材B(塩酸処理)」について、次のような流通式吸着実験を行った。
【0158】
実験装置は、中容量並列ダブルタイプ送液ユニット、カラム(1/16インチへジョイントするカラムエンド用継ぎ手を付属した長さ200mm、内径10mm の1/2インチSUSチューブ)、フラクションコレクター、及び1/16インチSUSチューブを用いた。
【0159】
実験は、上記の実験装置を用いて、各イオンを含有する溶液を中容量並列ダブルタイプ送液ユニット(株式会社島津製作所LC-6AD)を用いて各流速で送液し、オキシ水酸化鉄を詰めたカラムを通し、フラクションコレクター(東洋株式会社 CHF122SB)で各時間の定量用サンプルを得て定量した。定量はICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所ICPS-7000 ver.2)及びサプレッサ方式イオンクロマトグラフ(株式会社島津製作所 個々の製品の集合体なので装置の型番はない)で行った。
(1)オキシ水酸化鉄吸着材A(水処理)
オキシ水酸化鉄吸着材Aを用いて、下記の条件で、リン酸イオン及び硝酸イオンの両方含む溶液に対して吸着実験を行った。吸着操作時間に対する、排出されるリン酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンの濃度の経時変化を、図6に示す。
【0160】
該吸着材Aでは、オキシ水酸化鉄のトンネルサイトに塩化物イオンがほとんど存在しておらず、塩化物イオンとイオン交換する硝酸イオンの吸着が観測されていない。また、リン酸イオンはトンネルサイトの塩化物イオンと関係なく吸着されており、吸着操作時間110時間までほぼ100%吸着された。
【0161】
[実験条件]
オキシ水酸化鉄吸着材Aの使用量:23g
オキシ水酸化鉄吸着材Aの粒子径0.5~1.7mm
使用カラム:内径10mm、長さ200mm
容量:15.7ml
常温
通水流速:1ml/min
空間速度 SV(1/h):3.8
廃水成分(初期濃度):
リン酸イオン 54.28mg/l
硝酸イオン 46.90mg/l
(2)オキシ水酸化鉄吸着材B(塩酸処理)
オキシ水酸化鉄吸着材Bを用いて、下記の条件で、リン酸イオン及び硝酸イオンの両方含む溶液に対して吸着実験を行った。吸着操作時間に対する、排出されるリン酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンの濃度の経時変化を、図7に示す。
【0162】
該吸着材Bでは、吸着操作時間3時間までは硝酸イオンが吸着し、それと共に塩化物イオン濃度が急激に増大し、放出されている。これは、硝酸イオンがトンネルサイトの塩化物イオンと交換(置換)する形で吸着していることを示唆している。リン酸イオンは23時間まで吸着を続けており、塩化物イオンとは無関係な吸着をしている。
【0163】
[実験条件]
オキシ水酸化鉄吸着材Bの使用量:23g
オキシ水酸化鉄吸着材Bの粒子径0.5~1.7mm
使用カラム:内径10mm、長さ200mm
容量:15.7ml
常温
通水流速:2ml/min
空間速度 SV(1/h):7.6
廃水成分(初期濃度):
リン酸イオン 137.44mg/l
硝酸イオン 95.00mg/l
試験例III-2
次の条件下で、2元系の流通式吸着実験を行った。
【0164】
実験装置は、中容量並列ダブルタイプ送液ユニット、カラム(1/16インチへジョイントするカラムエンド用継ぎ手を付属した長さ200mm、内径10mm の1/2インチSUSチューブ)、フラクションコレクター、及び1/16インチSUSチューブを用いた。
【0165】
実験は、上記の実験装置を用いて、各イオンを含有する溶液を中容量並列ダブルタイプ送液ユニット(株式会社島津製作所LC-6AD)を用いて各流速で送液し、オキシ水酸化鉄A 23gを詰めたカラムを通し、フラクションコレクター(東洋株式会社 CHF122SB)で各時間の定量用サンプルを得て定量した。定量はICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所ICPS-7000 ver.2)及びサプレッサ方式イオンクロマトグラフ(株式会社島津製作所 個々の製品の集合体なので装置の型番はない)で行った。
【0166】
[共通実験条件]
オキシ水酸化鉄吸着材Bの使用量:23g
オキシ水酸化鉄吸着材Bの粒子径0.5~1.7mm
使用カラム:内径10mm、長さ200mm
容量:15.7ml
常温
通水流速:5ml/min
空間速度 SV(1/h):19
(1)F-及びNO3-の混合液
オキシ水酸化鉄吸着材Bを用いてフッ素、硝酸を両方含む溶液に対して吸着実験を行った。結果を図8に示す。吸着操作時間に対して、フッ化物イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンの濃度の経時変化を示している。吸着操作時間3時間までは硝酸イオンが吸着し、それと共に塩化物イオン濃度が急激に増大、放出されている。これはトンネルサイトで塩化物イオンと硝酸イオンとが交換する形で吸着していることを示唆している。フッ化物イオンは7時間まで吸着をしている。
【0167】
初期濃度:
F-:111.17mg/l
NO3-:541.77mg/l
(2)F-及びSO42-の混合液
オキシ水酸化鉄吸着材Bを用いてフッ素、硫酸を両方含む溶液に対して吸着実験を行った。結果を図9に示す。吸着操作時間に対して、フッ化物イオン、硫酸イオン及び塩化物イオンの濃度の経時変化を示している。吸着操作時間3時間ではフッ化物イオンと硫酸イオンが吸着し、それと共に塩化物イオン濃度が急激に増大、放出されている。これはトンネルサイトで塩化物イオンとフッ化物イオン及び硫酸イオンとが交換する形で吸着していることを示唆している。
【0168】
初期濃度:
F-:94.60mg/l
SO42-:316.14mg/l
(3)NO3-及びSO42-の混合液
オキシ水酸化鉄吸着材Bを用いて硫酸、硝酸を両方含む溶液に対して吸着実験を行った。結果を図10に示す。吸着操作時間に対して、硫酸イオン、硝酸イオン及び塩化物イオンの濃度の経時変化を示している。吸着操作時間3時間までは硝酸が吸着し、それと共に塩化物イオン濃度が急激に増大、放出されている。これはトンネルサイトで塩化物イオンと硝酸イオンとが交換する形で吸着していることを示唆している。硫酸イオンは8時間まで吸着をしている。
【0169】
初期濃度:
NO3-:661.75mg/l
SO42-:361.7mg/l
実施例III-3
実施例III-1で得られる「オキシ水酸化鉄吸着材A(水処理)」を充填した吸収塔I、及び実施例III-2で得られるオキシ「水酸化鉄吸着材B(塩酸処理)」を充填した吸収塔II及びIIIを備えた図14で示される装置を用いて、リン酸イオン及び硝酸イオンを含む処理水の吸着及び脱着処理を行った。
【0170】
なお、図15~17における配管の点線部分は、水が流通していることを示す。
【0171】
[第1処理操作](図15)
バルブI-a、I-f、II-a及びII-dを開き、被処理水タンク1からリン酸イオンおよび硝酸イオンを含む被処理水を流通した。吸着塔Iではリン酸イオンが吸着され硝酸イオンは吸着されない。吸着塔IIでは硝酸イオンが吸着された。吸着塔IIから排出される処理水は、処理水タンク4に導かれた。
【0172】
[第2処理操作](図16)
一定時間経過後、バルブII-e、III-a及びIII-dを開き、バルブII-a及びII-dを閉じて、引き続き吸着塔Iではリン酸イオンが吸着され、吸着塔IIIで硝酸イオンが吸着された。
【0173】
また、バルブII-c及びII-bを開いて、NaOH水溶液タンク2から2.5mol/LNaOH水溶液を吸着塔IIに通液して吸着した硝酸イオンを回収し、次いで0.001~0.01mol/L塩酸を通液して(図示せず)オキシ水酸化鉄吸着材Bを再生した。
【0174】
[第3処理操作](図17)
さらに、一定時間経過後、バルブII-a、II-dを開き、バルブII-e及びIII-aを閉じて、引き続き吸着塔Iではリン酸イオンが吸着され、吸着塔IIで硝酸イオンが吸着された。
【0175】
また、バルブIII-c及びIII-bを開いて、NaOH水溶液タンク2から2.5mol/LNaOH水溶液を吸着塔IIIに通液して吸着した硝酸イオンを回収し、次いで0.001~0.01mol/L塩酸を通液して(図示せず)オキシ水酸化鉄吸着材Bを再生した。
【0176】
上記の第2処理操作及び第3処理操作を繰り返して、吸着塔II及びIIIにおいて硝酸イオンの吸着及び脱着を行い、硝酸イオンを分離回収した。
【0177】
なお、吸着塔Iでは、比較的長時間リン酸イオンの吸着が行われるが(例えば、試験例III-1及び図6を参照)、リン酸イオンの吸着能が飽和する前に、被処理水の通液を停止して、バルブI-c及びI-bを開いて、NaOH水溶液タンク2から2.5mol/LNaOH水溶液を吸着塔Iに通液して吸着したリン酸イオンを回収し、次いで水を通液してオキシ水酸化鉄吸着材Aを再生した(図示せず)。
【0178】
上記の操作を繰り返すことにより、効率的かつ選択的にリン酸イオンと硝酸イオンを分離、回収することができた。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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