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明細書 :錯化合物及びそれから成るMRIプローブ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5291930号 (P5291930)
登録日 平成25年6月14日(2013.6.14)
発行日 平成25年9月18日(2013.9.18)
発明の名称または考案の名称 錯化合物及びそれから成るMRIプローブ
国際特許分類 A61K  49/00        (2006.01)
C07C 237/04        (2006.01)
C07D 323/00        (2006.01)
G01R  33/28        (2006.01)
C07F   5/00        (2006.01)
FI A61K 49/00 C
C07C 237/04 CSPB
C07D 323/00
G01N 24/02 B
C07F 5/00 D
請求項の数または発明の数 17
全頁数 33
出願番号 特願2007-507148 (P2007-507148)
出願日 平成18年3月8日(2006.3.8)
国際出願番号 PCT/JP2006/304474
国際公開番号 WO2006/095771
国際公開日 平成18年9月14日(2006.9.14)
優先権出願番号 2005065033
優先日 平成17年3月9日(2005.3.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年9月9日(2008.9.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】鈴木 孝治
【氏名】一二三 洋希
【氏名】谷本 伸弘
【氏名】牧野 恵
個別代理人の代理人 【識別番号】100088546、【弁理士】、【氏名又は名称】谷川 英次郎
審査官 【審査官】爾見 武志
参考文献・文献 特表2001-523650(JP,A)
Biophysical Journal,(1999), Vol.76,p.2735-2743
Chem. Eur. J.,(2004), Vol.10,p.5205-5217
調査した分野 A61K 49/00
C07C 237/04
C07D 323/00
C07F 5/00
G01R 33/28
CA/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で示されるMRIグルコース測定プローブ
【化1】
JP0005291930B2_000033t.gif
(ただし、一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に次式(6)及び(7)のいずれかで示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが次式(6)及び (7)のいずれかで示される基である。
【化2】
JP0005291930B2_000034t.gif
(ただし、一般式(6)及び(7)中、Xはアルキレン基である(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)。
【請求項2】
上記一般式(6)又は(7)中、Xは炭素数1~10のアルキレン基(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)である請求項記載のMRIグルコース測定プローブ
【請求項3】
上記一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に上記一般式(7)で示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが上記一般式(7)で表される基である請求項記載のMRIグルコース測定プローブ
【請求項4】
上記一般式(7)で表される基が、下記式(11)で示される基である請求項記載のMRIグルコース測定プローブ
【化3】
JP0005291930B2_000035t.gif
(ただし、式(11)中、pは2又は3の整数を示す)
【請求項5】
上記一般式(1)で示される請求項ないしのいずれか1項に記載のMRIグルコース測定プローブ
【請求項6】
下記一般式(1)又は(2)で示されるガドリニウム錯化合物。
【化4】
JP0005291930B2_000036t.gif
(ただし、一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に次式(3)、(4)及び(5)のいずれかで示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが次式(3)、(4)及び(5)のいずれかで示される基である。
【化5】
JP0005291930B2_000037t.gif
(ただし、一般式(3)、(4)及び(5)中、Xはアルキレン基であり(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)、
mは1又は2で、nは1から8の整数であり、
Yは窒素原子、硫黄原子又は=CH-であり、
Z1、Z2及びZ3は各々独立に酸素原子、窒素原子又は硫黄原子であり、
E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8、E9、E10、E11及びE12は各々独立に水素原子又はアルキル基(ただし、アルキル鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子又はリン原子であってもよい)を示し、E1とE2とE3とE4、E5とE6とE7とE8、E9とE10とE11とE12は各々独立にベンゼン環を形成してもよく、
Aは互いに独立に水素原子又はフッ素原子、
Wは-OCH3、水素原子又はフッ素原子を示す)。
【請求項7】
上記一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に上記一般式(3)又は(4)で示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが上記一般式(3)又は(4)で表される基である請求項記載のガドリニウム錯化合物。
【請求項8】
上記一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に上記一般式(4)で示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが上記一般式(4)で表される基であり、一般式(4)中、E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8、E9、E10、E11及びE12は水素原子であり、Xは炭素数1~10のアルキレン基であり(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)、Z1、Z2及びZ3は酸素原子である請求項記載のガドリニウム錯化合物。
【請求項9】
上記一般式(4)で示される基が、下記式(8)又は(9)で表される基である請求項記載のガドリニウム錯化合物。
【化6】
JP0005291930B2_000038t.gif

【請求項10】
上記一般式(1)で示される請求項ないしのいずれか1項に記載のガドリニウム錯化合物。
【請求項11】
上記一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に上記一般式(5)で示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが上記一般式(5)で表される基である請求項記載のガドリニウム錯化合物。
【請求項12】
上記一般式(5)中、Xは炭素数1~10のアルキレン基(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)である請求項11記載のガドリニウム錯化合物。
【請求項13】
上記一般式(5)で示される基が、下記式(10)で示される基である請求項12記載のガドリニウム錯化合物。
【化7】
JP0005291930B2_000039t.gif

【請求項14】
上記一般式(1)で示される請求項11ないし13のいずれか1項に記載のガドリニウム錯化合物。
【請求項15】
請求項ないし14のいずれか1項に記載のガドリニウム錯化合物から成るMRIプローブ。
【請求項16】
請求項ないし10のいずれか1項に記載のガドリニウム錯化合物から成る、カリウムイオン応答性MRIプローブ。
【請求項17】
請求項11ないし14のいずれか1項に記載のガドリニウム錯化合物から成る、カルシウムイオン応答性MRIプローブ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ガドリニウム錯化合物及びそれから成るMRIプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野における画像診断法は、病巣の早期発見、術前診断、術後の追跡診断などの観点から、必要不可欠な医療技術となっている。現在、医療現場で汎用されている画像診断法として、CT (computed tomography) 、MRI (magnetic resonance imaging) 、PET (positron emission tomography) が挙げられる。しかし、CTにおいてはX線による被爆が、PETにおいてはγ線による被爆を避けることがでず、また、近年装置の高機能化が進んだことにより多断面の撮像が可能になったが、それによる被爆量の増加が患者へのさらなる負担となっている。一方、MRIは、放射線被爆のない無侵襲な画像診断法であって、任意の断面画像を得られる利点がある。MRI装置は、人体内の水や脂肪、その他の成分に含まれている水素原子から核磁気共鳴信号を得て画像化している。このため、代謝などの生理作用を直接画像化することや、水素原子核を持たない生体内分子の画像化は原理上不可能であり、実際としては水の水素原子密度分布の画像化に留まっている。また、MRIに関する研究は、パルス系列などの撮像方法、解析方法、装置面での改良や発達が進んできたが、MRIの画像化の原理を加味した分子レベルでの造影剤の研究は歴史的にも浅く、報告例も少ない。
【0003】
MRIの感度を向上させるためにMRI造影剤が広く使用されている。現在、医療現場で日常的に用いられているMRI用造影剤としてはガドリニウム錯体型のMagnevist(登録商標)やProHance(登録商標)、また、酸化鉄(Fe2O3)m(FeO)nから成る超磁性微粒子型のFeridex(登録商標)などが挙げられる。しかしながら、これらの造影剤分子には、特定のゲスト分子を認識する機能性は備わっていない。静注などにより体内に投与したとしても、体内の狙った部分に分布する訳ではない。超磁性微粒子は体内に投与されると、代謝経路の関係で肝臓に特異的に蓄積され、そのままグルクロン酸抱合などを受け、胆汁排泄される。
【0004】
また、広く用いられているガドリニウム錯体に特定の基を結合させ、これらの基を亜鉛イオンに配位させることにより亜鉛イオンに対して応答するMRIプローブも報告されている(非特許文献1~3)。しかしながら、亜鉛イオン以外のイオンや化合物に対して応答性を有するガドリニウム錯体系のMRIプローブは知られていない。
【0005】

【非特許文献1】K. Hanaoka et al., Chemistry & Biology 2002, 9, 1027-1032
【非特許文献2】Wen-hong Li et al., J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 1413-1414
【非特許文献3】Wen-hong Li et al., Inorg. Chem. 2002, 41, 4018-4024
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、亜鉛イオン以外のイオンや化合物に応答性を発揮する新規なガドリニウム錯化合物及びそれから成るMRIプローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、MRIプローブとして用いられているガドリニウム錯体骨格の特定の部位に特定の基を結合させることにより、カリウムイオン、カルシウムイオン又はグルコースに応答性を示す新規なMRIプローブを創製することに成功し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)又は(2)で示されるガドリニウム錯化合物を提供する。
【0009】
【化1】
JP0005291930B2_000002t.gif

【0010】
(ただし、一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に次式(3)、(4)及び(5)のいずれかで示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが次式(3)、(4)及び(5)のいずれかで示される基である。
【0011】
【化2】
JP0005291930B2_000003t.gif

【0012】
(ただし、一般式(3)、(4)及び(5)中、Xはアルキレン基であり(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)、
mは1又は2で、nは1から8の整数であり、
Yは窒素原子、硫黄原子又は=CH-であり、
Z1、Z2及びZ3は各々独立に酸素原子、窒素原子又は硫黄原子であり、
E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8、E9、E10、E11及びE12は各々独立に水素原子又はアルキル基(ただし、アルキル鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子又はリン原子であってもよい)を示し、E1とE2とE3とE4、E5とE6とE7とE8、E9とE10とE11とE12は各々独立にベンゼン環を形成してもよく、
Aは互いに独立に水素原子又はフッ素原子、
Wは-OCH3、水素原子又はフッ素原子を示す)。
【0013】
また、本発明は、上記本発明のガドリニウム錯化合物から成るMRIプローブを提供する。さらに、本発明は、下記一般式(1)又は(2)で示されるMRIグルコース測定プローブを提供する。
【化3】
JP0005291930B2_000004t.gif
(ただし、一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に次式(6)及び(7)のいずれかで示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが次式(6)及び (7)のいずれかで示される基である。
【化4】
JP0005291930B2_000005t.gif
(ただし、一般式(6)及び(7)中、Xはアルキレン基である(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)。

【発明の効果】
【0014】
本発明により、亜鉛イオン以外のイオンや化合物に応答性を発揮する新規なガドリニウム錯化合物及びそれから成るMRIプローブが初めて提供された。本発明のガドリニウム化合物は、カリウムイオン、カルシウムイオン、グルコース等に応答性を発揮するので、該ガドリニウム化合物をMRIプローブとして用いることにより、生体内のこれらのイオンや化合物を検出したり濃度分布を知ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のカリウム応答性MRIプローブがカリウムイオン濃度に応じて水分子とガドリニウムイオンとの配位状態を変化させる様子を説明するための図である。
【図2】本発明のカルシウム応答性MRIプローブがカルシウムイオン濃度に応じて水分子とガドリニウムイオンとの配位状態を変化させる様子を説明するための図である。
【図3】本発明のグルコース応答性MRIプローブがグルコース濃度に応じて水分子とガドリニウムイオンとの配位状態を変化させる様子を説明するための図である。
【図4】実施例で調製した本発明のカリウム応答性MRIプローブについてのカリウムイオン濃度と縦緩和時間との関係を示す図である。
【図5】実施例で調製した本発明のカルシウム応答性MRIプローブについてのカルシウムイオン濃度と縦緩和時間との関係を示す図である。
【図6】実施例で調製した本発明のグルコース応答性MRIプローブについてのグルコース濃度と縦緩和時間との関係を示す図である。
【図7】実施例で調製した本発明のカリウム応答性MRIプローブについての各イオン存在量による緩和度の変化を示す図である。
【図8】実施例で調製した本発明のカルシウム応答性MRIプローブについての各イオン存在量による緩和度の変化を示す図である。
【図9】実施例で調製した本発明のグルコース応答性MRIプローブについてのグルコース存在量による緩和度の変化を示す図である。
【図10】実施例で調製した本発明のグルコース応答性MRIプローブにT1強調画像を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記の通り、本発明のガドリニウム錯化合物は、上記一般式(1)又は(2)で示される構造を有する。一般式(1)におけるR1及びR2、並びに一般式(2)におけるR3、R4、R5及びR6以外の基本骨格は、MRIプローブにおいて広く用いられているガドリニウム錯体である。本発明の化合物は、公知のガドリニウム錯体の特定の位置に特定の基を結合させたものであり、それによって、特定のイオンや化合物に対する応答性を付与したものである。なお、ガドリニウム錯体の基本骨格は、上記一般式(1)及び(2)のいずれで表されるものであっても同様の性能を発揮するが、一般式(1)で示される基本骨格のものの方がより簡単に合成できる利点がある。
【0017】
一般式(1)におけるR1及びR2、並びに一般式(2)におけるR3、R4、R5及びR6(以下、これらをまとめて便宜的に「特異応答性付与基」ということがある)が一般式(3)又は(4)で示される化合物は、カリウムイオンに対して応答性を示す。特異応答性付与基が一般式(5)で示される化合物はカルシウムイオンに対して応答性を示す。特異応答性付与基が一般式(6)又は(7) で示される化合物はグルコースに対して応答性を示す。以下、これらについてそれぞれ説明する。
【0018】
上記一般式(3)及び(4)中、Xはアルキレン基であり(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)、好ましくは炭素数1~10のアルキレン基である(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)。mは1又は2の整数、nは1から8の整数、好ましくは2~4の整数である。Yは窒素原子、硫黄原子又は=CH-である。Z1、Z2及びZ3は各々独立に酸素原子、窒素原子又は硫黄原子であり、好ましくは酸素原子である。E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8、E9、E10、E11及びE12は各々独立に水素原子又はアルキル基(ただし、アルキル鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子又はリン原子であってもよい)を示し、E1とE2とE3とE4、E5とE6とE7とE8、E9とE10とE11とE12は各々独立にベンゼン環を形成してもよい。好ましくは、E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8、E9、E10、E11及びE12は各々独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基(ただし、アルキル鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子又はリン原子であってもよい)、さらに好ましくは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基、最も好ましくは水素原子である。
【0019】
好ましくは、上記一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は互いに独立に上記一般式(4)で示される基であり、R3、R4、R5及びR6は、互いに独立に、これらのうち2つが-OHで2つが上記一般式(4)で表される基であり、一般式(4)中、E1、E2、E3、E4、E5、E6、E7、E8、E9、E10、E11及びE12は水素原子であり、Xは炭素数1~10のアルキレン基であり(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)、Z1、Z2及びZ3は酸素原子である。
【0020】
上記一般式(4)で示される基としてさらに好ましい基は、下記式(8)又は(9)で表される基である。
【0021】
【化3】
JP0005291930B2_000006t.gif

【0022】
特異応答性付与基が上記一般式(3)又は(4)で表される基であるガドリニウム錯化合物は、カリウムイオンに対して応答性を示す。その原理を図1に基づいて説明する。図1は、特異応答性付与基が上記式(8)で示される基である場合を示している。ガドリニウム錯体は9 配位において最安定となる。8 配位型ガドリニウム錯体に対して、カリウムイオン不在の環境では、図1の左上の図に示されるように、9番目の配位子として水分子が配位し(配位した水分子は、ある居住時間residence time後に次々と外部のbulkの水と交換する)、水の水素原子の縦緩和時間T1 が大きく短縮される。これは、常磁性体であるガドリニウムの不対電子と水素原子核との間に起こる電子原子核双極子双極子相互作用(electron-nuclear dipolar-dipolar interaction)による緩和時間短縮効果のためである。
【0023】
カリウムイオンが存在する環境では、特異応答性付与基(この例では15-クラウン-5エーテル)がサンドイッチ型にカリウムイオンを捕捉し、ガドリニウムに対する9番目の配位子である水が立体的な嵩高さによって配位できなくなる(図1の中央下の図)。これによって、ガドリニウムによる縦緩和時間短縮効果が阻害され、MRI画像において大きなシグナルの低下 (画像の暗化) が起こる。これが起こるのは、MRIプローブに対してカリウムイオンが2当量程度までの間である。カリウムイオン大過剰の環境においては、15-クラウン-5エーテルとカリウムイオンが1:1錯体を形成し始める(図1の右上の図)。これによって、ガドリニウムによる縦緩和時間短縮効果が少しずつ見られるようになり、全体としてみると、MRIプローブに対してカリウムイオンが2当量程度の時よりも、MRI画像においてシグナルの増大(画像の明化)が起こる。
【0024】
このように、一般式(3)又は(4)で示される特異応答性付与基がガドリニウム錯体骨格に結合されている場合には、カリウムイオンの存否及び濃度により、画像のコントラストに差が生じる。従って、これらのガドリニウム錯化合物をMRIプローブとして用いることにより、カリウムイオンの濃度に依存したコントラストの画像を得ることができ、体内のどの部分にカリウムイオンがどの程度存在するかを知ることができる。
【0025】
体内のカリウムイオンは、シグナル伝達、細胞増殖、神経細胞の浮腫(セル・スウェリング)(細胞間質液のカリウムイオン濃度の上昇)、高カリウム血症(周期性四肢麻痺、腎機能低下の指標(息切れ、手足のしびれ、不快感))、低カリウム血症(原発性アルドステロン症など、心筋の停止も招く恐れ)、高血圧(Na/K比が高血圧の指標)等に関与しており、MRIにより体内のカリウムイオン分布を知ることができれば、これらの疾患の診断等に有用である。
【0026】
特異応答性付与基が上記一般式(5)で表されるガドリニウム錯化合物は、カルシウムイオン(Ca2+)に対して応答性を示す。一般式(5)中、Xはアルキレン基であり(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)、好ましくは、炭素数1~10のアルキレン基(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)である。また、一般式(5)中、Aは互いに独立に水素原子又はフッ素原子、Wは-OCH3、水素原子又はフッ素原子を示す。
【0027】
上記一般式(5)で示される基としてさらに好ましい基は、下記式(10)で表される基である。
【0028】
【化4】
JP0005291930B2_000007t.gif

【0029】
特異応答性付与基が上記一般式(5)で表されるガドリニウム錯化合物は、カルシウムイオン(Ca2+)に対して応答性を示す。その原理を図2に基づいて説明する。
【0030】
上記の通り、ガドリニウム錯体は9配位において最安定となる。カリウムイオンについて説明した場合と同様、8配位型ガドリニウム錯体に対して、カルシウムイオン不在の環境(図2の左上の図)では、9 番目の配位子として水分子が配位し(配位した水分子は、ある居住時間residence time後に次々と外部のbulkの水と交換する)、水の水素原子の縦緩和時間T1 が大きく短縮される。これは、常磁性体であるガドリニウムの不対電子と水素原子核との間に起こる電子原子核双極子双極子相互作用による緩和時間短縮効果のためである。
【0031】
カルシウムイオンが存在する環境(図2の中央下の図)では、4個のカルボキシル基(BAPTA構造)がカルシウムイオンを捕捉し、ガドリニウムに対する9 番目の配位子である水が立体的な嵩高さによって配位できなくなる。これによって、ガドリニウムによる縦緩和時間短縮効果が阻害され、MRI画像において大きなシグナルの低下 (画像の暗化) が起こる。
【0032】
上記したカリウムイオン用MRIプローブの場合と異なり、BAPTAはカルシウムイオンと非常に強固な錯体を形成するため、カルシウムイオン濃度が高ければ高いほど、ガドリニウムによる縦緩和時間短縮効果が阻害され、MRI画像において大きなシグナルの低下 (画像の暗化) が起こる(すなわち、図2の右上の図の状態は起きない)。
【0033】
このように、一般式(5)で示される特異応答性付与基がガドリニウム錯体骨格に結合されている場合には、カルシウムイオンの存否及び濃度により、画像のコントラストに差が生じる。従って、これらのガドリニウム錯化合物をMRIプローブとして用いることにより、カルシウムイオンの濃度に依存したコントラストの画像を得ることができ、体内のどの部分にカルシウムイオンがどの程度存在するかを知ることができる。
【0034】
体内のカルシウムイオンは、シグナル伝達、肝細胞の病変(肝臓の細胞が障害される時、最初に、細胞膜の働きが悪くなり、細胞外にあるカルシウムイオンがどんどん中に入り込んでいく)、血液中の低カルシウムイオン濃度に起因する胆石(腎臓結石・胆石・膵石)、動脈硬化(動脈瘤の形成)(これらの症状は、血液中のカルシウムイオン濃度の低下の結果、副甲状腺ホルモンにより骨から溶け出した(悪玉)カルシウムによって引き起こされる)等に関与しており、MRIにより体内のカルシウムイオン分布を知ることができれば、これらの疾患の診断等に有用である。
【0035】
特異応答性付与基が上記一般式(6)又は(7)で表されるガドリニウム錯化合物は、グルコースに対して応答性を示す。一般式(6)又は(7)中、Xはアルキレン基であり(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)、好ましくは、炭素数1~10のアルキレン基(ただし、アルキレン鎖を構成する1又は複数の炭素原子が酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子又はカルボニル基であってもよい)である。一般式(7)で示される基がより好ましい。
【0036】
一般式(7)で示される基の特に好ましい例としいて、下記式(11)で示される基を挙げることができる。
【0037】
【化5】
JP0005291930B2_000008t.gif
(ただし、式(11)中、pは2又は3の整数を示す)
【0038】
特異応答性付与基が上記一般式(6)又は(7)で表されるガドリニウム錯化合物は、グルコースに対して応答性を示す。その原理を図3に基づいて説明する。
【0039】
上記の通り、ガドリニウム錯体は9 配位において最安定となる。8 配位型ガドリニウム錯体に対して、グルコース不在の環境では(図3の左上の図)、9番目の配位子として水分子が配位し(配位した水分子は、ある居住時間residence time後に次々と外部のbulkの水と交換する)、水の水素原子の縦緩和時間T1 が大きく短縮される。これは、常磁性体であるガドリニウムの不対電子と水素原子核との間に起こる電子原子核双極子双極子相互作用による緩和時間短縮効果のためである。
【0040】
グルコースが存在する環境では(図3の中央下の図)、ボロン酸がグルコースを捕捉し、ガドリニウムに対する9 番目の配位子である水が立体的な嵩高さによって配位できなくなる。これによって、ガドリニウムによる縦緩和時間短縮効果が阻害され、MRI画像において大きなシグナルの低下 (画像の暗化) が起こる。これが起こるのは、MRIプローブに対してグルコースが1当量程度までの間においてである。
【0041】
MRIプローブに対してグルコースが過剰な環境においては、ボロン酸とグルコースが1:1錯体を形成し始める。これによって、ガドリニウムによる縦緩和時間短縮効果が少しずつ見られるようになり、全体としてみると、MRIプローブに対してグルコースが1当量程度の時よりも、MRI画像においてシグナルの増大 (画像の明化) が起こる。
【0042】
このように、一般式(6)又は(7)で示される特異応答性付与基がガドリニウム錯体骨格に結合されている場合には、グルコースの存否及び濃度により、画像のコントラストに差が生じる。従って、これらのガドリニウム錯化合物をMRIプローブとして用いることにより、グルコースの濃度に依存したコントラストの画像を得ることができ、体内のどの部分にグルコースがどの程度存在するかを知ることができる。
【0043】
グルコースは、脳の唯一の有機物エネルギー源であり、また、糖尿病では血中グルコース濃度が増大する。従って、MRIにより体内のグルコース分布を知ることができれば、体内エネルギー消費や体内エネルギー代謝の画像化、また、糖尿病の評価(膵臓のβ細胞からのインスリンの分泌能力評価など)に有用である。
【0044】
本発明のガドリニウム錯化合物は、一般式(1)又は(2)で表されるガドリニウム錯体骨格に、上記した特異応答性付与基を結合させ、最後に塩化ガドリニウム等のガドリニウム塩を施して錯体を形成することにより製造することができる。一般式(1)又は(2)で表されるガドリニウム錯体骨格は、MRIプローブとして広く用いられており、周知の方法で製造することができる。また、上記した特異応答性付与基も公知であるか又は有機合成化学の専門家であれば公知の化合物から通常の有機合成化学の常識に従って容易に合成することができる。また、下記実施例に本発明の好ましい化合物の合成方法が詳細に記載されているので、それを参照して本発明の化合物を容易に合成することができる。
【0045】
本発明のガドリニウム錯化合物は、MRIプローブとして用いることができる。MRIプローブとして用いる場合、従来から用いられている通常のMRIプローブと同様に用いることができる。すなわち、カリウムイオン、カルシウムイオン又はグルコースの測定に有効な量のガドリニウム錯化合物を生体に投与し、これを造影剤として利用してMRI装置により画像を撮像する。なお、ここで、「測定」には、検出と定量の両者が包含され、カリウムイオン、カルシウムイオン又はグルコースの濃度分布の調査やその変動の調査も包含される。通常、100 mM~1000 mM程度の濃度の水溶液を、0.01 mL/kg~1 mM/kg程度、静脈注射したり観察する器官又は組織に注射し、これを造影剤として利用してMRI装置により画像を撮像する。
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
カリウムイオン応答性ガドリニウム錯化合物KMR-K001及びKMR-K002の合成
以下のスキームに従い、カリウムイオン応答性ガドリニウム錯化合物KMR-K001及びKMR-K002を合成した。
【0048】
【化6】
JP0005291930B2_000009t.gif

【0049】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0050】
(1) (15-クラウン-5)-4-安息香酸 2-tert-ブトキシカルボニルアミノエチルエステルの合成
【0051】
【化7】
JP0005291930B2_000010t.gif

【0052】
4-カルボキシベンゾ15-クラウン-5 (0.77 g, 2.5 mmol, 1.1当量(eq.))と炭酸カリウム(0.93 g, 6.7 mmol, 3.0 eq.)との混合物の無水N,N-ジメチルホルムアミド(20.0 mL)溶液に、2-(Boc-アミノ)エチルブロミド(0.50 g, 2.2 mmol, 1.0 eq.)の無水N,N-ジメチルホルムアミド(8.0 mL)溶液を加え、Ar雰囲気下で50℃で2時間撹拌した。反応混合物をろ過して炭酸カリウムを除去した。ろ液をジクロロメタン(150 mL)に加え、次いで、該有機溶液を水で洗浄した(100 mL x 6)。得られた有機溶液をNa2SO4上で乾燥した。溶媒を真空下で蒸発させると黄色結晶が得られた(収率94.2%)。
【0053】
1H NMR (300 MHz; CDCl3, r.t., TMS, d / ppm) 1.44 (s, 9 H, CCH3), 3.50-3.55 (m, 2 H, NHCH2), 3.75-3.80 (m, 8 H, CH2OCH2CH2OCH2), 3.90-3.95 (m, 4 H, ArOCH2CH2O), 4.15-4.20 (m, 4 H, ArOCH2CH2O), 4.35 (t, J = 5.1 Hz, 2 H, CH2OCO), 4.85-4.95 (brs, 1 H, NH), 6.85 (d, J = 8.3 Hz, 1 H, ArH), 7.53 (s, 1 H, ArH), 7.67 (d, J = 8.3 Hz, 1 H, ArH).
TLC : Rf = 0.4 (SiO2, クロロホルム:メタノール= 20 : 1, v/v)
【0054】
(2) (15-クラウン-5)-4-安息香酸 2-アミノエチルエステルの合成
【0055】
【化8】
JP0005291930B2_000011t.gif

【0056】
化合物12(50.0 mg, 0.11 mmol, 1.0 eq.)のジクロロメタン(1.5 mL)溶液に、トリフロロ酢酸(0.5 mL)を加え、0℃で30分間撹拌した。該溶液を次いで室温で一夜撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させ、残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, クロロホルム:メタノール:トリエチルアミン=10:1:0.1, v/v)で精製すると黄色油状物が得られた(収率90.3%)。
【0057】
1H NMR (300 MHz; CDCl3, r.t., TMS, d / ppm) 3.35-3.45 (m, 2 H, CH2NH2), 3.60-3.80 (m, 8 H, CH2OCH2CH2OCH2), 3.95-4.20 (m, 2 H, OCH2), 4.35-4.60 (m, 8 H, ArOCH2CH2O), 6.70 (d, J = 8.5 Hz, 1 H, ArH), 7.40-7.50 (m, 1 H, ArH), 7.51 (s, 1 H, ArH).
ESI-TOFMS (+), m/z : 356.872 [M+H]+ (calcd. for C17H26NO7+ : 356.171), 378.904 [M+Na]+ (C17H25NNaO7+ : 378.152).
TLC : Rf = 0.2 (SiO2, クロロホルム: メタノール: トリエチルアミン= 10 : 1 : 0.1, v/v)
【0058】
(3) [ビス-(2-{[(2-カルボキシ-(ベンゾ-15-クラウン-5)-エチルカルバモイル)-メチル]-カルボキシメチルアミノ}-エチル)-アミノ]-酢酸の合成
【0059】
【化9】
JP0005291930B2_000012t.gif

【0060】
ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物(59.7 mg, 0.17 mmol, 1.0 eq.)と無水N,N-ジメチルホルムアミド(0.25 mL)との混合物に、化合物13(30.0 mg, 84.0μmol, 2.0 eq.)を加え、Ar雰囲気下で70℃で3時間撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させると、白色の粗固体が得られた。
【0061】
1H NMR (300 MHz; CD3OD, r.t., TMS, d / ppm) 3.35-3.40 (m, 2 H, center NCH2COOH), 3.45-3.55 (m, 8 H, NCH2CH2N), 3.55-3.63 (m, 8 H, NCH2CONHCH2), 3.64 (s, 4 H, NCH2COOH), 3.70-3.75 (m, 16 H, CH2OCH2CH2OCH2), 3.85-3.90 (m, 8 H, ArOCH2CH2O), 4.10-4.20 (m, 8 H, ArOCH2CH2O), 4.35-4.40 (m, 4 H, NHCH2CH2), 6.95-7.05 (m, 2 H, ArH), 7.50-7.60 (m, 2 H, ArH), 7.65-7.70 (m, 2 H, ArH).
ESI-TOFMS (+), m/z : 546.024 [M+Na+H]2+ (calcd. for C48H70N5NaO222+ : 545.720), 554.012 [M+K+H]2+ (calcd. for C48H70KN5O222+ : 553.707), 1069.041 [M+H]+ (calcd. for C48H70N5O22+ : 1068.451).
【0062】
(4) [ビス-(2-{[(2-カルボキシ-(ベンゾ-15-クラウン-5)-エチルカルバモイル)-メチル]-カルボキシメチル-アミノ}-エチル)-アミノ]-酢酸ガドリニウム錯体(KMR-K001)の合成
【0063】
【化10】
JP0005291930B2_000013t.gif

【0064】
化合物14(10.0 mg, 9.4 μmol, 1.0 eq.)の水(4.0 mL)溶液に、塩化ガドリニウム(III)・六水塩(3.1 mg, 8.4μmol, 0.9 eq.)を加え、室温で一夜撹拌した。この反応中、NaOH水溶液を添加して溶液のpHを6に維持した。次に反応混合物を真空下で蒸発させ、HPLC逆相カラム(メタノール:水=3:2, v/v,流速:3.5 mL/分、保持時間:59分間)で精製すると白色固体が得られた(収率95.8%)。
【0065】
ESI-TOFMS (+), m/z : 634.937 [M+2Na]2+ (calcd. for C48H66GdN5Na2O222+ : 634.161), 642.940 [M+K+Na]2+ (calcd. for C48H66GdKN5NaO222+ : 642.148).
【0066】
(5) [(2-{カルボキシメチル-[2-(カルボキシメチル-(ベンゾ-15-クラウン-5)-カルバモイルメチル-アミノ)-エチル]-アミノ}-エチル)-フェニルカルバモイルメチル-アミノ]-酢酸の合成
【0067】
【化11】
JP0005291930B2_000014t.gif

【0068】
ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物(0.32 g, 0.88 mmol, 1.0 eq.) と無水N,N-ジメチルホルムアミド(4.0 mL)との混合物に、4'-アミノベンゾ-15-クラウン-5 (0.50 mg, 1.8 mmol, 2.0 eq.)を加え、Ar雰囲気下で70℃で4時間撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させると、灰色の粗固体が得られた。
【0069】
1H NMR (300 MHz; CD3OD, r.t., TMS, d / ppm) 3.20-3.30 (m, 4 H, NCH2CH2N), 3.45-3.50 (m, 4 H, NCH2CH2N), 3.56 (s, 4 H, NCH2COOH), 3.58 (s, 4 H, NCH2CONH), 3.65-3.75 (m, 16 H, CH2OCH2CH2OCH2), 3.80-3.90 (m, 8 H, ArOCH2CH2O), 3.91 (s, 2 H, center NCH2COOH), 4.05-4.10 (m, 8 H, ArOCH2CH2O), 6.77 (d, J = 8.7 Hz, 2 H, ArH), 7.07 (d, J = 8.4 Hz, 2 H, ArH), 7.28 (s, 2 H, ArH).
【0070】
(6) [(2-{カルボキシメチル-[2-(カルボキシメチル-(ベンゾ-15-クラウン-5)-カルバモイルメチル-アミノ)-エチル]-アミノ}-エチル)-フェニルカルバモイルメチル-アミノ]-酢酸ガドリニウム錯体(KMR-K002)の合成
【0071】
【化12】
JP0005291930B2_000015t.gif

【0072】
化合物17(0.10 g, 0.11 mmol, 1.0 eq.)の水(40.0 mL)溶液に、GdCl3六水塩(36.2 mg, 97.4μmol, 0.9 eq.)を加え、室温で3時間撹拌した。この反応中、NaOH水溶液を添加して溶液のpHを6に維持した。次に反応混合物を真空下で蒸発させ、HPLC逆相カラム(メタノール:水=3:2, v/v,流速:2.5 mL/分、保持時間: 67分間)で精製すると白色固体が得られた(収率66.2%)。
【0073】
ESI-TOFMS (+), m/z : 562.461 [M+2Na]2+ (calcd. for C42H58GdN5Na2O182+ : 562.140), 551.470 [M+Na+H]2+ (calcd. for C42H59GdN5NaO182+ : 551.149), 1101.926 [M+H]+ (calcd. for C42H58GdN5NaO18+ : 1101.291).
【実施例2】
【0074】
KMR-K001及びKMR-K002の性能
実施例1で合成したKMR-K001及びKMR-K002について、カリウムイオン濃度と縦緩和時間との関係を常法により測定した。測定条件は次の通りであった。
・ [KMR-K001], [KMR-K002] : 0.6 mM
・ pH8.0の0.05M Tris/HCl bufferにて測定
・ K+としてKClを使用
・ 測定装置 : BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)を使用
・ 測定温度 : 40℃
【0075】
結果を図4に示す。図4に示されるように、MRIプローブに対してカリウムイオンが2当量程度までの間においては、15-クラウン-5エーテルとカリウムイオンがサンドイッチ型の錯体を形成することにより、ガドリニウムイオンへの水分子の接近が阻害され、縦緩和時間は単調に増加した。カリウムイオン大過剰の環境においては、15-クラウン-5エーテルとカリウムイオンがサンドイッチ型の錯体を形成するとともに、さらに、15-クラウン-5エーテルとカリウムイオンが1:1の錯体を形成していると考えられる。この1:1錯体が形成されると、ガドリニウムイオンへの水分子の接近が可能となり、その分だけ縦緩和時間は減少する。K+が多く存在するほど、縦緩和時間が減少していることは図からも読み取ることができる。KMR-K001とKMR-K002を比較してみると、KMR-K001の方がガドリニウム錯体と15-クラウン-5エーテルとの間のスペーサーが長いのだが、このスペーサーの長さによるK+への応答性の違いは見られなかった。KMR-K001とKMR-K002ともに、縦緩和時間が最大16~17%増加した。
【実施例3】
【0076】
カルシウムイオン応答性ガドリニウム錯化合物KMR-Ca001の合成
以下のスキームに従い、カルシウムイオン応答性ガドリニウム錯化合物KMR-Ca001を合成した。
【0077】
【化13】
JP0005291930B2_000016t.gif

【0078】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0079】
(1) [ベンジロキシカルボニルメチル-(2-メトキシ-5-ニトロ-フェニル)-アミノ]-酢酸ベンジルエステルの合成
【0080】
【化14】
JP0005291930B2_000017t.gif

【0081】
2-アミノ-4-ニトロアニソール(5.3 g, 31.5 mmol, 1.0 eq.), N,N,N',N'-テトラメチル -1,8-ナフタレンジアミン(プロトンスポンジ: 25.0 g, 116.7 mmol, 3.7 eq.), ブロモ酢酸ベンジル (20.2 g, 88.3 mmol, 2.8 eq.) 及びヨウ化ナトリウム (5.7 g, 37.8 mmol, 1.2 eq.)のアセトニトリル (430 mL)中混合物をAr雰囲気下で5日間還流した。溶媒を真空下で蒸発させた。残渣をジクロロメタン(1 L)に溶解し、該混合物を水(1 L)、pH2の塩酸(1 L x 2)、水(1 L)、NaHCO3水溶液(1 L)及び飽和NaCl水溶液(300 mL)で順次洗浄した。該有機溶液をNa2SO4上で乾燥した。溶媒を真空下で蒸発させ残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2, ヘキサン:ジクロロメタン= 1 : 2 - 1 : 10 - ジクロロメタン, v/v)で精製すると黄色固体が得られた(収率: 52.0%)。
【0082】
1H NMR (300 MHz; CDCl3, r.t., TMS, d / ppm) 3.72 (s, 3 H, ArOCH3), 4.19 (s, 4 H, NCH2), 5.18 (s, 4 H, OCH2Ar), 6.81 (d, J = 9.3 Hz, 1 H, ArH), 7.30-7.40 (m, 10 H, benzyl ArH), 7.64-7.66 (m, 1 H, ArH), 781-787 (m, 1 H, ArH).
ESI-TOFMS (+), m/z : 487.259 [M+Na]+ (calcd. for C25H24N2NaO7+ : 487.148), 465.284 [M+H]+ (calcd. for C25H25N2O7+ : 465.166).
TLC : Rf = 0.5 (SiO2, ジクロロメタン)
【0083】
(2) [(5-アミノ-2-メトキシ-フェニル)-カルボキシメチル-アミノ]-酢酸の合成
【0084】
【化15】
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【0085】
化合物2(3.0 g, .6.5 mmol, 1.0 eq.)の酢酸エチル(20 mL)溶液を真空下で脱気し、Arガスに置換した。脱気した溶液をPd/C(Pd含量10wt%、2.0 g)に加え、Arガスを水素ガスに置換した。反応混合物を水素ガス雰囲気下で20時間室温で撹拌した。反応混合物をセライト板でろ過し、残渣を酢酸エチル(20 mL)で洗浄した。該残渣及びメタノール(100 mL)の混合物を再度セライト板でろ過して触媒を除去し、ろ液を真空下で濃縮すると暗褐色の油状物が得られた(収率90.5%)。
【0086】
1H NMR (300 MHz; D2O, r.t., TMS, d / ppm) 3.79 (s, 3 H, ArOCH3), 4.06 (s, 4 H, NCH2), 7.64-7.67 (s, 1 H, ArH), 6.90-6.95 (m, 1 H, ArH), 7.05 (d, J = 8.7 Hz, 1 H, ArH).
ESI-TOFMS (+), m/z : 277.096 [M+Na]+ (calcd. for C11H14N2NaO5+ : 277.079), 255.115 [M+H]+ (calcd. for C11H15N2O5+ : 255.098).
TLC : Rf = 0.7 (逆相, メタノール:水= 1 : 1, v/v)
【0087】
(3) {ビス-[2-({[3-(ビス-カルボキシメチル-アミノ)-4-メトキシ-フェニルカルバモイル]-メチル}-カルボキシメチル-アミノ)-エチル]-アミノ}-酢酸の合成
【0088】
【化16】
JP0005291930B2_000019t.gif

【0089】
ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物(309.2 mg, 0.87 mmol, 1.0 eq.)と無水N,N-ジメチルホルムアミド(3.0 mL)との混合物に、化合物3(440.0 mg, 1.7 mmol, 2.0 eq.)を加え、Ar雰囲気下で70℃で3時間撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させ、HPLC逆相カラム(メタノール:水:トリフロロ酢酸=3:2:0.01, v/v,流速:3.5 mL/分、保持時間:43分間)で精製すると褐色固体が得られた(収率85.1%)。
【0090】
1H NMR (300 MHz; CD3OD, r.t., TMS, d / ppm) 3.35-3.45 (m, 8 H, NCH2CH2N), 3.73 (s, 4 H, NCH2CONH), 3.77 (s, 2 H, center NCH2COOH), 3.84 (s, 6 H, OCH3), 4.04 (s, 8 H, ArNCH2COOH), 4.05-4.15 (m, 4 H, NCH2COOH), 6.77 (d, J = 8.5 Hz, 2 H, ArH), 7.00-7.05 (m, 2 H, ArH), 7.06 (s, 2 H, ArH).
ESI-TOFMS (+), m/z : 452.738 [M+K+H]2+ (calcd. for C36H48KN7O182+ : 452.634), 463.731 [M+K+Na]2+ (calcd. for C36H48KN7NaO182+ : 463.625), 866.527 [M+H]+ (calcd. for C36H48N7O18+ : 866.306).
【0091】
(4) {ビス-[2-({[3-(ビス-カルボキシメチル-アミノ)-4-メトキシ-フェニルカルバモイル]-メチル}-カルボキシメチル-アミノ)-エチル]-アミノ}-酢酸ガドリニウム錯体(KMR-Ca001)の合成
【0092】
【化17】
JP0005291930B2_000020t.gif

【0093】
化合物4(21.0 mg, 24.0μmol, 1.0 eq.)の水(1.0 mL)溶液に、塩化ガドリニウム(III)・六水塩(9.0 mg, 22.0μmol, 0.9 eq.)を加え、室温で一夜撹拌した。この反応中、希NaOH水溶液を添加して溶液のpHを6に維持した。次に反応混合物を真空下で蒸発させ、HPLC逆相カラム(メタノール:水=3:2, v/v,流速:3.0 mL/分、保持時間:44分間)で精製すると褐色固体が得られた(収率52.0%)。
【0094】
ESI-TOFMS (+), m/z : 530.173 [M+K+H]2+ (calcd. for C36H45GdKN7O182+ : 530.084).
ESI-TOFMS (-) : 508.747 [M-2H]2- (calcd. for C36H42GdN7O182- : 509.092), 338.827 [M-3H]3- (calcd. for C36H41GdN7O183- : 339.059).
【実施例4】
【0095】
KMR-Ca001の性能
実施例3で合成したKMR-Ca001について、カルシウムイオン濃度と縦緩和時間との関係を常法により測定した。測定条件は次の通りであった。
・ [KMR-Ca001] : 0.3 mM
・ pH7.2の0.05M Tris/HCl bufferにて測定
・ Ca2+としてCaCl2を使用
・ 測定装置 : BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)を使用
・ 測定温度 : 40℃
【0096】
結果を図5に示す。図5に示されるように、KMR-Ca001は、BAPTAとCa2+が錯体を形成することにより、ガドリニウムイオンへの水分子の接近が阻害され、縦緩和時間は増加した。Ca2+が多く存在するほど、BAPTAとCa2+の錯体の形成が有利になり、縦緩和時間が減少していることは図からも読み取ることができる。KMR-Ca001は、縦緩和時間が最大16~17%増加した。
【実施例5】
【0097】
グルコース応答性ガドリニウム錯化合物KMR-Glu001の合成
以下のスキームに従い、カルシウムイオン応答性ガドリニウム錯化合物KMR-Glu001を合成した。
【0098】
【化18】
JP0005291930B2_000021t.gif

【0099】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0100】
(1) (2-メチルアミノ-エチル)-カルバミン酸tert-ブチルエステル(2)の合成
【0101】
【化19】
JP0005291930B2_000022t.gif

【0102】
N-メチルエチレンジアミン1(10.0 g, 135 mmol, 1.0 eq.)の無水THF(70 mL)溶液に、Ar雰囲気下、室温にてトリエチルアミン(37.6 ml, 270 mmol, 2.0 eq.)を加えた。ジ-t-ブチルジカーボネート(32.5 g, 148 mmol, 1.1 eq.)の無水THF(250 mL)溶液を0℃において滴下ロートから30分間に亘って滴下し、0℃で30分間、次いで室温で19時間撹拌した。反応混合物をろ過し、溶媒を真空下で蒸発させ、残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2,クロロホルム:メタノール=30:1, v/v→クロロホルム:メタノール:トリエチルアミン= 150: 10:3, v/v)で精製すると黄色油状物が得られた(収率:17.8%)。
【0103】
1H-NMR (300 MHz ; CDCl3, r.t., TMS, d/ppm) 1.33 (s, 9 H, -C(CH3)3), 2.76 (t, 2 H, J = 6.4 Hz, -CH2CH2NHCH3), 2.86 (s, 3 H, -NHCH3), 3.21 (t, 2 H, J = 6.1 Hz, -CONHCH2CH2-).
ESI-TOFMS (+), m/z : 175.14[M+H]+ (calcd.. for C8H19N2O2+ 175.14)
TLC ; Rf = 0.3 (br, クロロホルム/メタノール= 10 : 1, v/v )
【0104】
(2) (2-{[(2-tert-ブトキシカルボニルアミノ-エチル)-メチル -アミノ]-メチル}-フェニル)-ボロン酸(3)の合成
【0105】
【化20】
JP0005291930B2_000023t.gif

【0106】
化合物2(500 mg, 2.87 mmol, 1.0 eq.)のアセトニトリル(15 mL)溶液に、炭酸カリウム(1.19 g, 8.61 mmol, 3.0 eq.)と(2-ブロモメチルフェニル)ボロン酸(0.617 g, 2.87 mmol, 1.0 eq.)を加え、室温で4時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させ、0.5M塩酸と酢酸エチルで洗浄した。水溶液のpHをNaOHで7.0に調整した。溶媒を塩化メチルと食塩水で洗浄した。有機溶液をNa2SO4上で乾燥した。溶媒を真空下で蒸発させると、白色固体が得られた(収率67.0%)。
【0107】
1H-NMR (300 MHz ; CD3OD, r.t., TMS, d/ppm) 1.40 (s, 9 H, -C(CH3)3), 2.88 (s, 3 H, -CH2NCH3CH2-), 3.14 (m, 2 H, -CH2N(CH3)CH2CH2-), 3.64 (m, 2 H, -CONHCH2CH2-), 3.95 (s, 2 H, NCH2Ar), 7.20 7.46 (m, 4 H, ArH).
TLC ; Rf = 0.4 (br, クロロホルム:メタノール= 7 : 1, v/v)
【0108】
(3) (2-{[(2-アミノ-エチル)-メチル-アミノ]-メチル}-フェニル)-ボロン酸 (4)の合成
【0109】
【化21】
JP0005291930B2_000024t.gif

【0110】
化合物3(209 mg, 308 mmol, 1.0 eq.)のジクロロメタン(2 mL)溶液に、0℃でトリフロロ酢酸(2 mL)を加え、この温度で30分間撹拌した後、室温で5時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させ、残渣を分離用TLC(アルミナ、クロロホルム:メタノール= 5 : 1, v/v)で精製すると黄色固体が得られた(収率67.5%)。
【0111】
1H-NMR (300 MHz ; CD3OD, r.t., TMS, d/ppm) 2.45 (s, 3H, -CH2NCH3CH2-), 2.92 (t, J = 6.10 Hz, 2H, -CH2NCH3CH2CH2-), 3.01 (t, J = 5.97 Hz, 2H, -CH2CH2NH2), 4.02 (s, 2H, NCH2Ar), 7.15 - 7.43 (m, 4H, ArH).
アルミナTLC ; Rf = 0 (br, 酢酸エチル)
【0112】
(4) 化合物5の合成
【0113】
【化22】
JP0005291930B2_000025t.gif

【0114】
化合物4(800 mg, 3.85 mmol, 2.0 eq.)を蒸留水(60 mL)に溶解し、pHを8.5に調整し、ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物(638 mg, 1.92 mmol, 1.0 eq.)を0℃で30分間かけて添加した。反応混合物を室温で18時間撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させ、HPLC(メタノール:水:トリフロロ酢酸=300:200:1)で精製すると白色固体が得られた(収率37.3%)。
【0115】
1H-NMR (300 MHz ; CD3OD, r.t., TMS, d/ppm)
3.01 (s, 6 H, -NCH3CH2Ar), 3.19 (m, 4 H, -COCH2N(CH2COOH)CH2CH2-), 3.31 (m, 4 H, -NCH3CH2CH2-), 3.38 (m, 4 H, -CH2CH2N(CH2COOH)CH2CH2-), 3.77 (m, 4 H, -NHCH2CH2-), 3.83 (s, 2 H, NCH2COOH), 3.92 (s, 4 H, NCH2CO-), 4.16 (s, 4 H, NCH2Ar), 4.37 (s, 4 H, NCH2COOH), 7.48 - 7.84 (m, 8 H, ArH).
【0116】
(5) KMR-Glu001の合成
【0117】
【化23】
JP0005291930B2_000026t.gif

【0118】
化合物5(555 mg, 0.718 mmol, 1.0 eq.)の水(60 mL)溶液のpHを6.0~7.0に調整した後、塩化ガドリニウム(III)・六水塩(289 mg, 0.789 mmol, 1.1 eq.)を添加し、室温で5時間撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させ、HPLC(メタノール:水=3:2)で精製すると白色固体が得られた(収率35.1%)。
【0119】
なお、ガドリニウム錯体は同定が困難である。これは、常磁性材料による緩和時間の短縮の故にNMRスペクトルが幅広になり、また、ESI-TOFMS(+)スペクトルのピークも複雑であることを示している。本願発明者らは、幅広のNMRスペクトル及びMSスペクトルの複雑なピークの両方を確認し、質量数497.21及び1007.49を同定した。従って、これによりKMR-Glu001の構造が同定された。
【実施例6】
【0120】
グルコース応答性ガドリニウム錯化合物KMR-Glu002の合成
以下のスキームに従い、カルシウムイオン応答性ガドリニウム錯化合物KMR-Glu002を合成した。
【0121】
【化24】
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【0122】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0123】
(1) (3-メチルアミノ-プロピル)-カルバミン酸tert-ブチルエステル (8)の合成
【0124】
【化25】
JP0005291930B2_000028t.gif

【0125】
N-メチル-1,3-プロパンジアミン7(5.00 g, 56.7 mmol, 1.0 eq.)の無水THF(40 mL)溶液にトリエチルアミン(15.8 mL, 113 mmol, 2.0 eq.)をAr雰囲気下、室温で加えた。ジ-t-ブチルジカーボネート(13.7 g, 62.4 mmol, 1.1 eq.)の無水THF(100 mL)溶液を0℃において滴下ロートから30分間に亘って滴下し、0℃で30分間、次いで室温で24時間撹拌した。反応混合物をろ過し、溶媒を真空下で蒸発させ、残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2,クロロホルム:メタノール=30:1, v/v→クロロホルム:メタノール:トリエチルアミン= 150: 10:3, v/v)で精製すると黄色油状物が得られた(収率:4.5%)。
【0126】
1H-NMR (300 MHz ; CDCl3, r.t., TMS, d/ppm) 1.46 (s, 9 H, -C(CH3)3), 1.70 (m, 2 H, -CH2CH2CH2-), 2.73 (t, 2 H, J = 6.90 Hz, -CH2CH2NHCH3), 2.84 (s, 3 H, -NHCH3), 3.31 (m, 2 H, -CONHCH2CH2-).
TLC ; Rf = 0.3 (br, クロロホルム:メタノール= 10 : 1, v/v)
【0127】
(2) (2-{[(3-tert-ブトキシカルボニルアミノ-プロピル)-メチル-アミノ]-メチル}-フェニル)-ボロン酸(9)の合成
【0128】
【化26】
JP0005291930B2_000029t.gif

【0129】
化合物8(452 mg, 2.40 mmol, 1.0 eq.)のアセトニトリル(15 mL)溶液に、炭酸カリウム(0.995 g, 7.20 mmol, 3.0 eq.) と(2-ブロモメチルフェニル)ボロン酸 (567 mg, 2.64 mmol, 1.1 eq.)を加え、室温で23時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させ、残渣を0.5M塩酸と酢酸エチルで洗浄した。次に水溶液のpHをNaOHで7.0に調整した。溶媒を塩化メチルと食塩水で洗浄した。有機溶液をNa2SO4上で乾燥させた。溶媒を真空下で蒸発させると白色固体が得られた(収率55.1%)。
【0130】
TLC ; Rf = 0.2 (br, クロロホルム:メタノール= 7 : 1, v/v)
【0131】
(3) (2-{[(3-アミノ-プロピル)-メチル-アミノ]-メチル}-フェニル)-ボロン酸 (10) の合成
【0132】
【化27】
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【0133】
化合物9(426 mg, 1.32 mmol, 1.0 eq.)のジクロロメタン(4.5 mL)溶液に、0℃でトリフロロ酢酸(4.5 mL)を加え、この温度で30分間撹拌し、次いで室温で6時間撹拌した。溶媒を真空下で蒸発させ、残渣を分離用TLC(アルミナ、クロロホルム:メタノール= 3 : 1, v/v)で精製すると褐色の油状物が得られた(収率65.8%)。
【0134】
1H-NMR (300 MHz ; CD3OD, r.t., TMS, d/ppm) 2.02 (dd, J = 7.4 Hz, 2 H, -CH2CH2CH2-), 2.60 (s, 3 H, -CH2NCH3CH2-), 2.93 (t, J = 7.2 Hz, 2 H, -CH2NCH3CH2CH2-), 2.95 (t, J = 6.3 Hz, 2 H, -CH2CH2NH2), 4.01 (s, 2 H, NCH2Ar), 7.20 - 7.44 (m, 4 H, ArH)
アルミナTLC ; Rf = 0.4 (br, クロロホルム:メタノール= 3 : 1, v/v )
【0135】
(4) 化合物11の合成
【0136】
【化28】
JP0005291930B2_000031t.gif

【0137】
化合物10(446 mg, 2.01 mmol, 1.0 eq.)を蒸留水(20 mL)に溶解し、pHを8.5に調整し、ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物(790 mg, 2.21 mmol, 1.1 eq.)を0℃で30分間かけて添加した。反応混合物を室温で18時間撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させ、HPLC(メタノール:水:トリフロロ酢酸=300:200:1)で精製すると白色固体が得られた(収率17.8%)。
【0138】
1H-NMR (300 MHz ; CD3OD, r.t., TMS, d/ppm) 1.99 (dt, J = 6.3 Hz, 4 H, -CH2CH2CH2-), 2.99 (s, 6 H, -CH2NCH3CH2-), 3.06 (t, J = 6.84 Hz, 4 H, -CH2NCH3CH2CH2-), 3.24 (m, 4 H, -COCH2N(CH2COOH)CH2CH2-), 3.31 (m, 4 H, -CH2CH2N(CH2COOH)CH2CH2-), 3.50 (t, J = 5.61 Hz, 4 H, -CH2CH2NH-), 3.81 (s, 4 H, NCH2CO-), 3.86 (s, 2H, NCH2COOH), 4.10 (s, 4 H, NCH2Ar), 4.32 (s, 4 H, NCH2COOH), 7.44 - 7.89 (m, 8 H, ArH).
【0139】
(5) KMR-Glu002の合成
【0140】
【化29】
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【0141】
化合物11(286 mg, 0.357 mmol, 1.0 eq.)の水(22 mL)溶液のpHを6.0~7.0に調整した後、塩化ガドリニウム(III)・六水塩(148 mg, 0.397 mmol, 1.1 eq.)を添加し、室温で5時間撹拌した。反応混合物を真空下で蒸発させ、HPLC(メタノール:水=3:2)で精製すると白色固体が得られた(収率25.9%)。
【0142】
なお、KMR-Glu001について上記したのと同様、幅広のNMRスペクトル及びMSスペクトルの複雑なピークの両方を確認し、質量数528.69及び1035.45を同定した。従って、これによりKMR-Glu002の構造が同定された。
【実施例7】
【0143】
KMR-Glu001及びKMR-Glu002の性能
実施例5及び6で合成したKMR-Glu001及びKMR-Glu002について、グルコース濃度と縦緩和時間との関係を常法により測定した。測定条件は次の通りであった。
・ [KMR-Glu001], [KMR-Glu002] : 1.0 mM
・ pH8.0の0.1M phosphate bufferにて測定
・ 測定装置 : BRUKER社製NMS 120 minispec NMR ANALYZER(永久磁石による外部静磁場は40MHz、縦緩和・横緩和時間測定装置)を使用
・ 測定温度 : 40℃
【0144】
結果を図6に示す。MRIプローブに対してグルコースが1当量程度までの間においては、2個のボロン酸が1個のグルコースを4点認識することにより、ガドリニウムイオンへの水分子の接近が阻害され、縦緩和時間は単調に増加した。MRIプローブに対してグルコースが過剰な環境においては、2個のボロン酸が1個のグルコースを4点認識するとともに、さらに、1個のボロン酸が1個のグルコースを2点認識している状態が存在していると考えられる。この1:1錯体が形成されると、ガドリニウムイオンへの水分子の接近が可能となり、その分だけ縦緩和時間は減少する。グルコースが多く存在するほど、縦緩和時間が減少していることは図からも読み取ることができる。KMR-Glu001とKMR-Glu002を比較してみると、KMR-Glu002の方がガドリニウム錯体とボロン酸との間のスペーサーが長い。縦緩和時間は最大で、KMR-Glu001は5%、KMR-Glu002は11%増加した。この結果を考察すると、グルコース認識するKMR-Glu分子においては、スペーサーの長さがKMR-K002の長さの方がグルコースに応答したときの縦緩和時間変化への寄与が大きいことが分かり、造影したときのコントラストを生みやすいことが分かる。
【実施例8】
【0145】
KMR-K001(1.0mM)とKCl(0, 0.01, 0.1, 0.3, 0.6, 0.9, 1.2, 1.5, 1.8, 2.4, 3.0, 10, 30. 100mM)のpH7.4 0.05M Tris/HCl buffer溶液を各2mL作成し、それぞれNMS 120 Minispec NMR ANALYZER(0.47 T, 40oC, IR pulse)を用いて縦緩和時間T1を3回測定した。その後、KMR-K001の濃度が0.9, 0.8mMになるように希釈していき、同様にそれぞれ縦緩和時間T1を測定した。横軸に[KMR-K001]、縦軸に1/T1をとり、傾きから緩和度R1を決定した。同様の縦緩和時間測定をCaCl2, MgCl2, FeCl3を用いて行なった。
【0146】
結果を図7に示す。図7より、KMR-K001はカリウムイオン選択的に応答するMRI造影剤であることがわかる。なお、亜鉛イオン存在下においては、ガドリニウムイオンと亜鉛イオンとの間に配位子交換が起こり、ガドリニウムイオンが遊離してくるので、緩和度(relaxivity)が急激に増加している。
【実施例9】
【0147】
KMR-Ca001(0.6mM)とCaCl2(0, 0.01, 0.1, 0.2, 0.3, 0.4, 0.5, 0.6, 0.7, 0.8, 1.0, 1.2, 3.0, 10, 30. 100mM)のpH7.4 0.05M Tris/HClバッファー溶液を各2mL作成し、それぞれNMS 120 Minispec NMR ANALYZER(0.47 T, 40oC, IR pulse)を用いて縦緩和時間T1を3回測定した。その後、KMR-Ca001の濃度が0.45, 0.35mMになるように希釈していき、同様にそれぞれ縦緩和時間T1を測定した。横軸に[KMR-Ca001]、縦軸に1/T1をとり、傾きから緩和度R1を決定した。同様の縦緩和時間測定をNaCl, MgCl2, FeCl3を用いて行なった。
【0148】
結果を図8に示す。図8より、KMR-Ca001はカルシウムイオン選択的に応答するMRI造影剤であることがわかる。なお、鉄イオン存在下においては、鉄イオン自体が緩和能を持つため緩和度が急激に増加している。
【実施例10】
【0149】
水、KMR-Ca001のみ0.1, 0.3, 0.6, 1.0, 3.0mM、0.3mMのKMR-Ca001にCaCl2を0.5, 0.6, 0.8, 1.0, 10.0, 20.0, 50.0, 80.0mMになるように添加したpH7.4 0.05M Tris/HClバッファー溶液を作成し、ガラスチューブへ入れた。これらのガラスチューブを寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MRスキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてT1-weighted GREによりT1強調画像を得た。
【0150】
その結果、KMR-Ca001の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、KMR-Ca001がMRI用造影剤として働いており、有効であることが確認された。また、0.3mM のKMR-Ca001にカルシウムイオンを添加したときのT1強調画像では、カルシウムイオンの増加にともない、ガドリニウムイオンへの水の配位が阻害されて、T1強調画像において画像が暗化していた。これより、KMR-Ca001はカルシウムイオン濃度に応答するMRI造影剤であることが確認された。
【実施例11】
【0151】
KMR-Glu001(1.0mM)とD-グルコース(0, 0.15, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0, 3.0, 4.0, 5.0, 6.0, 0.7, 8.0, 9.0, 10, 16, 30, 50, 77, 80, 90, 100mM)のpH8.0 0.05M リン酸バッファー溶液を各2mL作成し、それぞれNMS 120 Minispec NMR ANALYZER(0.47 T, 40oC, IR pulse)を用いて縦緩和時間T1を3回測定した。1/T1よりR1を決定した。
【0152】
結果を図9に示す。図9より、KMR- Glu001はグルコースに応答するMRI造影剤であることがわかる。なお、グルコースがKMR-Glu001に対して過剰に存在すると、緩和度が増加していき、グルコース濃度に対してポジティブ応答を示すことが分かる。
【実施例12】
【0153】
水、KMR-Glu001のみ0.1, 0.3, 0.6, 1.0, 3.0mM、0.3mMのKMR-Glu001にグルコースを0.1, 0.3, 1.0, 3.0, 10.0mMになるように添加したpH8.0 0.05M リン酸バッファー溶液を作成し、ガラスチューブへ入れた。これらのガラスチューブを寒天の入ったタッパーに立て、1.5T MR スキャナ(Signa Horzon LX, GE Yokogawa Medical Systems社製)を用いてT1-weighted GREによりT1強調画像を得た。
【0154】
結果を図10に示す。図10の上段は、KMR-Glu001の濃度を0.1~3.0mMに変化させたものである。KMR-Glu001の増加にともない、T1強調画像において画像が白くなり、KMR-Glu001がMRI用造影剤として働いており、有効であることが確認された。図10の下段は、0.3mM のKMR-Glu001にグルコースを添加したときのT1強調画像である。グルコースの増加にともない、KMR-Glu001:グルコース=1:1までは、ガドリニウムイオンへの水の配位が阻害されて、T1強調画像において画像が暗化している。一方、グルコースがKMR-Glu001に対して過剰に存在すると、ガドリニウムイオンに対する水の配位が再び可能となり、T強調画像において画像が白くなっていることが分かる。これより、KMR-Glu001はグルコース濃度に応答するMRI造影剤であることが確認され、また、KMR-Glu001に対してグルコースが過剰に存在する場合においては、グルコースに対してポジティブ応答を示す。

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
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【図10】
9