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明細書 :磁性半導体材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4647654号 (P4647654)
登録日 平成22年12月17日(2010.12.17)
発行日 平成23年3月9日(2011.3.9)
発明の名称または考案の名称 磁性半導体材料
国際特許分類 H01F  10/193       (2006.01)
H01L  43/08        (2006.01)
H01F   1/40        (2006.01)
FI H01F 10/193
H01L 43/08 S
H01F 1/00 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願2007-508224 (P2007-508224)
出願日 平成18年3月17日(2006.3.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 Japanese Journal of Applied Physics,Vol.44,No.44,2005,pp.L1344-L1347に発表
国際出願番号 PCT/JP2006/305405
国際公開番号 WO2006/098432
国際公開日 平成18年9月21日(2006.9.21)
優先権出願番号 2005080572
2005378897
優先日 平成17年3月18日(2005.3.18)
平成17年12月28日(2005.12.28)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成19年7月27日(2007.7.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】平野 正浩
【氏名】平松 秀典
【氏名】神谷 利夫
【氏名】柳 博
【氏名】本光 英治
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】山田 倍司
参考文献・文献 特開昭48-073798(JP,A)
特開昭51-023695(JP,A)
特開昭63-295440(JP,A)
特開2006-237304(JP,A)
特開2003-224333(JP,A)
特開2003-137698(JP,A)
特開昭52-151897(JP,A)
調査した分野 H01F 1/00- 1/117
1/40
10/00-10/32
41/14-41/34
H01L 27/22
29/82
43/00-43/14
特許請求の範囲 【請求項1】
化学式LnMnOPn(Lnは、Y、及びLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、
Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuの希土類元素のうちから選ばれた少なくとも1種、Pnは、N、P、As、Bi、又はSbのプニコゲン元素のうちから選ばれた少なくとも1種)で示されるオキシプニクタイド層状化合物からなり、同一化合物で電子キャリアの注入によりn型電気伝導、及びホールキャリヤの注入によりp型電気伝導の両極性伝導を発現することを特徴とする磁性半導体材料。
【請求項2】
請求項1に記載の磁性半導体材料において、 酸素イオン(O2-)、及び/又はPnイオ
ン(Pn3-)の化学当量比を化学当量組成から減少させてLaMnO1-xPn1-y(0<x<0.1、0<y<0.1)とすることによりn型電気伝導を、また、増加させてLaMnO1+xPn1+y(0<x<0.1、0<y<0.1)とすることによりp型電気伝導を発現させてなることを特徴とする磁性半導体材料。
【請求項3】
請求項1に記載の磁性半導体材料において、Ln3+イオン位置に2価の金属イオン(Mg
2+,Ca2+,Sr2+,又はBa2+)をドープすることによりp型伝導を発現させ、また、Ln3+イオン位置に4価の金属イオン(Ti4+,Zr4+,Hf4+,Si4+,Ge4+,Sn4+,又はPb4+)をドープすることによりn型伝導を発現させてなることを特徴とする磁性半導体材料。
【請求項4】
請求項1に記載の磁性半導体材料からなることを特徴とする薄膜。
【請求項5】
請求項記載の薄膜からなるp型伝導磁性半導体材料とn型伝導性磁性半導体材料を接合
させたことを特徴とする磁性体pnホモ接合構造。
【請求項6】
請求項に記載される磁性体pnホモ接合構造を用いたことを特徴とする磁性体pnホモ
接合デバイス。
【請求項7】
外部磁場を検出するデバイス、電流を検出するデバイス、又は情報の書き込み、読み出し
、保持の機能を有するメモリーデバイスのいずれかであることを特徴とする請求項記載の磁性体pnホモ接合デバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、同一化合物でn型又はp型の両伝導極性を発現できる磁性半導体材料、特にオ
キシプニクタイド層状化合物からなる磁性半導体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性半導体化合物は、半導体的な電気伝導性と磁性が共存するユニークな化合物であり、
磁気転移温度(キュリー温度Tc,又はネール温度TN)付近に見られる大きな磁気抵抗
効果を利用して、磁気センサーなどへの応用が期待されている。しかし、これまで見出さ
れた磁性半導体化合物は、ほとんどがn型又はp型の単一伝導極性を有するものであり、
同一化合物で、p型、n型の両伝導極性を発現できる磁性半導体化合物は、CdCr2
4以外は報告されていない(非特許文献1)。
【0003】
CdCr2Se4では、磁性を担う電子は、Cr3+イオンの3d6電子であり、一方、伝導
を担うホール及び電子は、Seの4p及びCdの4s電子である。したがって、磁性と電
気伝導の相互作用が小さい。さらに、Cr3+は、d電子配置3d6で、Mn2+イオン及び
Fe3+イオンの有する電子配置3d5に比べて、磁気モーメントが小さく、キュリー温度
が低い(150K)などの問題点があり、実用性のあるホモpn接合磁性体デバイスは実現し
ていない。
【0004】
一方、磁性半導体と非磁性半導体とのpn接合構造を用いて、各種の磁性デバイスを作成
することが提案されている(非特許文献2~4)。これらのデバイスは、スピン・バイポ
ーラ・デバイスと名付けられている。これらのデバイスは、高品質なpn接合構造の形成
が難しいこと、磁性半導体の磁気転移温度が室温未満であることなどにより、実用デバイ
スは実現していない。
【0005】

【非特許文献1】P.W.Cheng et al. IEEE, Trans. Magn.4,702-704(1968)
【非特許文献2】M.Johnsonn et al. Phys.Rev.Lett.55,1790(1985)
【非特許文献3】Fiederling et al. Nature 402,787 (1999)
【非特許文献4】Ohno et al. Nature 402,790 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性半導体は、電気伝導性と磁性が共存していることを利用した磁気センサー、光透過性
を利用したファラデイデバイス、電流による磁気特性の制御(磁気転移温度の変化、磁気
モーメントの大きさの変化など)を利用した磁気トランジスタなどへの応用が期特されて
いるが、これまで見出された磁性半導体は、単一伝導極性を示すものがほとんどで、磁性
半導体の特徴を生かしたホモpn接合構造を形成することができず、バイポーラ・スピン
エレクトロニクスは応用の範囲が限られていた。磁性半導体には、磁性イオンが化合物の
構成イオンとして含まれる「狭義の磁性半導体」とGaAsなどの非磁性半導体中に磁性
イオンが添加イオンとして含まれる「希薄磁性半導体」があるが、本発明に係わる「磁性
半導体」は、希薄磁性半導体を含まない「狭義の磁性半導体」と定義される。
【0007】
すなわち、同一化合物でn型及びp型電気伝導性を発現でき、該化合物に電気伝導キャリ
アを導入することにより磁気特性が制御でき、特に、磁気転移温度を室温以上に制御でき
る新しい磁性半導体材料を開発することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、d5の電子配置を持つMn2+,Fe3+イオンを主たる磁性イオンとして含
む化合物が、磁気転移温度が高く、両極性伝導を有する可能性があることを見出し、多く
の該当する化合物を精力的に研究した結果、Mn2+イオンを含むオキシプニクタイド(O
xy-pnictida)層状化合物であるLnMnOPn(Lnは、Y、及びLa、C
e、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho,Er、Tm、Yb、又はLuの
希土類元素。Pnは、N、P、As、Sb、Biのプニコゲン元素)が、化学当量組成で
は、室温以上に磁気転移点を有する磁性絶縁体であること、該化合物のOイオン又は/及
びPnイオンの粗成を化学当量組成から、10原子%未満だけずらしたLaMnO1±x
1±y(0<x<0.1、0<x<0.1)化合物が電気伝導性を示すこと、さらに、O
イオン又は/及びPnイオンの化学当量比がLnMnOPnの化学当量組成から、増加し
た化合物はp型電気伝導を示し、減少した化合物は、n型電気伝導を示すことを見出した

【0009】
2価のマンガンイオンを含むオキシプニクタイド層状化合物は、1996年に、A.T.
Nientiedtらにより、初めて合成され、その結晶構造が明らかにされた(A.T
.Nientiedt et al.Z.Kristallogr.Suppl.11,1
01(1996)、A.T.Nientiedt et al.Z.Naturforsc
h.52b,560-564(1997))がその半導体及び磁気特性については知られ
ていない。
【0010】
すなわち、d電子軌道状態がちょうど半分だけ電子で満たされた、d5の電子配置を有す
るMn2+、Fe3+などを主たる磁性イオンとする磁性化合物のうち、3d5状態がエネル
ギーバンド端を形成する化合物は磁気転移温度を高温にでき、さらに両極性電気伝導性を
示すことを見出し、磁気デバイスを開発する上で有用であることがわかった。
【0011】
図1に示したLnMnOPの模式的なエネルギーバンド構造を用いて、両極性伝導が可能
な理由を説明する。LnMnOP化合物の電子構造は、Mn3d5のスピンモーメントが
最大になるフント電子配置(5個の電子のスピンがすべて平行の状態)がスピンアップバ
ンドを形成し、価電子帯の上端を形成する。また、Pイオンの2p軌道がバンド(P2p
バンド)となり、価電子帯の下部に位置する。
【0012】
一方、該フント状態のスピンと反平行スピン状態が形成するMn3d5スピンダウンバン
ドが伝導帯の下端を形成する。また、Mnイオンの4s軌道がバンド(Mn4sバンド)
となり、伝導帯の上部に位置する。価電子帯上端と伝導帯下端のエネルギー差が、図1中
の矢印で示す禁制帯幅を与える。不純物を含まない化学当量組成の化合物では、伝導帯に
は電子が存在しない。すなわち、こうしたエネルギーバンド構造を有する化合物は、電気
的には半導体の特性を有し、磁性体となる。
【0013】
図1に示すエネルギーバンド構造を有する磁性化合物に、ホールキャリヤを注入すると、
価電子帯にホールが注入され、ホールは価電子帯中を移動してp型伝導を生じる。また、
ホールが注入された状態は、Mn2+イオンの一部がMn3+に変化したともみなすことがで
きる。この見方では、ホールの移動は、結晶中のMn3+の位置が移動することに対応する

【0014】
一方、電子キャリアを注入した場合には、該電子は、伝導帯に位置し、伝導帯中を移動し
、n型伝導を生じる。これは、電子の注入により、Mn1+が生成し、結晶中のMn1+の位
置が移動するとみなすこともできる。すなわち、本発明者らは、d5電子配置が価電子帯
及び伝導帯を形成する磁性化合物では、電子を吸引及び供与することにより、pn伝導制
御が可能となるメカニズムを見出した。
【0015】
本発明者らは、電子の吸引及び供与は、陰イオン(O及びP)の化学当量比を化学量論組
成からずらすこと及び化合物の構成イオンと異なるイオン価を持つ陽イオン又は陰イオン
のドーピングなどにより実現することができることを見出した。また、本発明者らは、d
5電子配置は、遷移金属イオンの中では最大の磁気モーメントを有し、磁気転移温度を高
くすることができること、さらに、禁制帯エネルギー幅を大きくでき、透過する光波長が
短波長になることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明は、(1)化学式LnMnOPn(Lnは、Y、及びLa、Ce、Pr
、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、又はLuの希土類元
素のうちから選ばれた少なくとも1種、Pnは、N、P、As、Bi、又はSbのプニコ
ゲン元素のうちから選ばれた少なくとも1種)で示されるオキシプニクタイド層状化合物
からなり、同一化合物で電子キャリアの注入によりn型電気伝導、及びホールキャリヤの
注入によりp型電気伝導の両極性伝導を発現することを特徴とする磁性半導体材料である

【0017】
なお、本明細書では、磁性化合物とは、特定温度(磁気転移温度と呼ぶ。)以下で、磁性
イオンの持つ磁気モーメントが整列状態を示す化合物と定義する。磁性化合物には強磁性
化合物と反強磁性化合物が含まれる。
【0018】
このうち、強磁性化合物は、自発磁気モーメントを有する化合物と定義する。強磁性化合
物には、各イオンの磁気モーメントが平行に整列する「狭義の強磁性化合物(フェロ磁性
体)」、磁気モーメントの大きさが異なる2種類の磁性イオンが含まれ、同一磁性イオン
間では、磁気モーメントが平行で、異なる磁性イオン間では反平行に整列する「フェリ磁
性化合物」及び磁性イオンの磁気モーメントは基本的には反平行に整列するが、反平行か
らのずれが残る「弱強磁性化合物、(キャンテド<canted>反強磁性化合物)」が
含まれる。反強磁性化合物は、磁性イオンの磁気モーメントが反平行に整列するもので、
反強磁性体では、磁気転移温度以下でも、自発磁気モーメントは出現しない。
【0019】
また、本発明は、(2)上記(1)の磁性半導体材料において、 酸素イオン(O2-)、
及び/又はPnイオン(Pn3-)の化学当量比を化学当量組成から減少させてLnMnO
1-xPn1-y(0<x<0.1、0<y<0.1)とすることによりn型電気伝導を、また
、増加させてLnMnO1+xPn1+y(0<x<0.1、0<y<0.1)とすることによ
り、p型電気伝導を発現させてなることを特徴とする磁性半導体材料、である。
【0020】
さらに、本発明者らは、上記の磁性化合物において、LnイオンをCa2+イオンなど2価
の陽イオンで、一部置換することにより、p型電気伝導度が向上できることを見出した。
【0021】
また、本発明者らは、上記の強磁性化合物において、LnイオンをZr4+イオンなどの4
価の陽イオンで一部置換することにより、n型電気伝導を示すことを見出した。
【0022】
すなわち、本発明は、(3)上記(1)の磁性半導体材料において、Ln3+イオン位置に
2価の金属イオン(Mg2+,Ca2+,Sr2+,又はBa2+)をドープすることによりp型
伝導を発現させ、また、Ln3+イオン位置に4価の金属イオン(Ti4+,Zr4+,Hf4+
,Si4+,Ge4+,Sn4+,又はPb4+)をドープすることによりn型伝導を発現させて
なることを特徴とする磁性半導体材料、である。
【0023】
上記の磁性半導体材料は、薄膜などの形状に製造して磁性体として用いることができる。
この薄膜からなるp型伝導磁性半導体材料とこの薄膜からなるn型伝導性磁性半導体材料
を接合させることによって磁性pnホモ接合構造を形成することができる。この磁性pn
ホモ接合構造を用いた磁性体デバイスの用途として、外部磁場を検出するデバイス、電流
を検出するデバイス、情報の書き込み、読み出し、保持の機能を有するメモリーデバイス
が優れているが、これらの用途に限られるものではない。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、n型及びp型電気伝導性を発現でき、電気伝導度を制御でき、かつ磁気転移温
度を室温以上に制御できるなどの特性を有する新しい磁性半導体材料を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
5の電子配置を含む磁性体化合物は、磁気転移温度が高く、両極性電気伝導を示し、磁
性体pnホモ接合構造を形成することが可能である。d5の電子配置を有するイオンには
、3d軌道に対しては、Mn2+及びFe3+,4d軌道に対しては、Ru3+,5d軌道に対
しては、Re2+及びOs3+がある。これらの磁性イオンのうち、原子番号が小さく、地殻
内の存在量の多い、Mn2+及びFe3+を含む化合物が望ましい。
【0026】
Mn2+及びFe3+を含む2元素化合物としては、MnO,Fe23,MnS,Fe23
Mn32,FePなどがあるが、これらの化合物は、磁気転移温度が室温以下で、室温で
は、スピンモーメントが整列していない常磁性状態、また、金属伝導を示すものも多く、
いずれの化合物も、磁気転移点が室温以上の磁性体で、かつ両極性電気伝導を有する半導
体ではなく、新規化合物に求められる条件を満たしていない。また、陰イオンを複数にし
ても、それだけでは、電気・磁気特性を大幅に変更することは出来ない。
【0027】
このために、求められる条件を満たす化合物は、少なくとも、金属イオンを2種類以上含
むことが必要である。こうした化合物の中で、層状化合物は、各層を独立的に制御でき、
加えて、2次元的な構造により、半導体的性質を有しやすく、また、層内の磁気相互作用
が大きいので、磁気転移温度が高温であるなどのメリットがある。
【0028】
本発明者らは、例えば、(MnP)+層と(LaO)-層を積層した構造を有するLaMn
OPが、半導体電気特性を示し、また、磁気転移温度が室温付近(約300K)の磁性体
であることを見出した。PをAs,Sbのプニクタイドイオンで、Laイオンを他の希土
類イオンで全又は一部置換した化合物も類似の磁気・電気的な性質を示す。
【0029】
以下に、LaMnOPを例として、本発明を実施するための最良の形態を詳述する。La
PとMnOの混合粉末を、不活性ガス雰囲気で、1100℃に約10時間保持して焼結し
、LaMnOPの粉末を作製した。焼結体粉末は、図2に示す粉末X線回折スペクトル図
形により、不純物相の含有量が1質量%未満の、LaMnOP相であることを確認した。
結晶構造は、ZrCuSiAs型で、空間群P4/nmmに属している。
【0030】
薄膜試料は、該LaMnOP焼結体粉末からターゲットを作製し、気相蒸着法により、単
結晶基板又はガラス基板上に堆積して、作成した。気相蒸着法としては、レーザー堆積法
(PLD法)が簡便であり、量産性に優れた大型基板を用いる場合には、スパッタ法が優
れているが、この2種類の気相法に限られるものではない。また、単結晶基板としては、
MgO,SrTiO3が優れているが、これらの単結晶基板に限られるものではない。
【0031】
LaPとMnOを化学当量比で混合し、真空中で焼結すると、蒸気圧の高いP又は/及び
Oが蒸発し、P又は/及びOが化学当量より少ないLaMnO1-x1-y(0<x<0.1
、0<y<0.1)で表される焼結体化合物が生成する。該化合物はn型電気伝導を示す

【0032】
一方、LaPとMnOを化学当量比で混合し、さらに、LaP2又はMnO2を添加すると
、P又は/及びOが化学当量比より多いLaMnO1+xPn1+y(0<x<0.1、0<y
<0.1)で表される焼結体化合物が生成し、該化合物はp型電気伝導を示す。すなわち
、陰イオンの化学当量組成からのずれを制御することにより、電子キャリア及びホールキ
ャリヤを導入することができる。なお、電気伝導のn型及びp型は、ゼーベック係数の符
号から判定する。
【0033】
LaMnO1+xPn1+y(0<x<0.1、0<y<0.1)で表されるp型電気伝導を示
すLaMnOPの磁化を4Kから400Kの範囲で、試料振動型磁化測定装置を用いて測
定した。その結果、LaMnOPは、常磁性相から磁性相への転移温度が約300Kの磁
性体であり、Mn2+イオンあたり、0.3μB未満の小さな自発磁気モーメントを有する
ことがわかった(μBは、ボーア磁子)。
【0034】
また、温度を低下していくと、50K付近で、自発磁気モーメントが消失する。すなわち
、LaMnOPは、基本的には反強磁性スピン配列を有することが分かる。自発磁気モー
メントの発生原因はスピン配列が完全反平行から、1度未満傾いた弱強磁性配列を取るた
め、又は、強磁性を示すMnPが微粒子とて含まれているためと考えられる。すなわち。
LaMnOPは、転移温度以下では、反強磁性または弱強磁性スピン配列を示す。LaM
nOPの伝導の極性、抵抗値などの電気特性は、自発磁気モーメントの発生原因に依存し
ない。
【0035】
また、LaMnOPにCa元素を添加することにより、p型電気伝導度は著しく大きくな
る。CaのLaに対する濃度が10原子%になると、磁気転移温度が、10度程度上昇す
る。また、LaMnOPにZr元素を添加することにより、n型電気伝導度は著しく大き
くなる。しかし、n型伝導の場合には、電気伝導度の増加と共に、磁気転移温度は低下す
る。
【0036】
添加不純物濃度に対する電気伝導度(S/cm)の対数及びゼーベックベック係数(mV
/K)を図3に示した。すなわち、Ca2+を添加したLaMnOPのゼーベック係数は、
プラスであり、該化合物がp型伝導体であることが分かる。また、Ca2+の増加と共に、
p型伝導度が増加しており、Ca2+の添加により、ホールが注入されていることが分かる

【0037】
一方、Zr4+を添加したLaMnOPのゼーベック係数は、マイナスであり、該化合物が
n型伝導体であることが分かる。また、Zr4+の増加と共に、n型伝導度が増加しており
、Zr4+の添加により、電子が注入されていることが分かる。
【0038】
MgO単結晶を基板として、PLD法により、Ca2+を10原子%ドープしたp型LaM
nOP薄膜を成長し、その上にZr4+を1原子%ドープしたn型LaMnOP薄膜を成長
させ、pnホモ接合を作成する。
【0039】
こうして得られるn型伝導LnMnOPn薄膜とp型伝導LnMnOPn薄膜を接合させ
ることで、磁性pnホモ接合構造を形成することができる。p型薄膜及びn型薄膜に、そ
れぞれ電極を取り付け、両電極間に電場を印加すると、通常の半導体pn接合と同様の整
流特性が見られる。
【実施例1】
【0040】
実施例1-1
(LaMnOP:Caの合成と磁気・電気特性)
LaPとMnOを化学当量比になるように混合した粉末に、化学当量組成よりもP過剰と
するために1原子%程度のLaP2を添加し、さらに、La元素に対して、0原子%(試
料1)、3原子%(試料2)、及び10原子%(試料3)のCa金属を添加し、アルゴン
ガス雰囲気で、1100℃に10時間保った後に徐冷し、灰色の粉末試料を得た。得られ
た粉末のX線回折スペクトルを示す図2から、いずれの粉末試料も、不純物の含有が1質
量%未満のLaMnOP化合物であることが示された。
【0041】
得られた試料1、2、及び3の磁気モーメント(M)の磁場(H=0~7T)及び温度(
T=4K~400K)依存性を試料振動型磁化測定装置で測定した。磁気転移温度より低
温では、Mは、Hの印加により急速に増加し、その後、Hに比例して直線的に緩やかに増
加する。その直線部分をH=0に外挿して、見かけ上の自発磁気モーメント(Ms)を求
めた。試料1、2、及び3のMsは、いずれも、Mn2+イオンあたり0.3μB未満であ
った。該自発磁気モーメントの発生原因は、LaMnOP化合物が弱強磁性スピン配列を
有するか、又は含有される微量MnAsの強磁性に由来するかのいずれかである。
【0042】
試料3の磁場(1.5T)印加時と印加しない場合の電気抵抗(ρ)及び磁気抵抗効果(
MR)の温度変化を図4に示した。ここで、MR=ρ[(H=1.5T)-ρ(H=0)]
/ρ(H=1.5T)x100である。50K付近に、70%に達する大きな磁気抵抗効
果が見られる。また、室温付近でも、10%程度の磁気抵抗効果が見られ、室温で作動す
る磁気センサー、磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)素子用材料として使用でき
ることが示された。
【0043】
実施例1-2
(LaMnOP:Zrの合成と電気・磁気特性)
LaPとMnOを化学当量比になるように混合した粉末に、La元素に対して、1原子%
(試料4)、3原子%(試料5)、及び5原子%(試料6)のZr金属を添加し、水素ガ
スを含むアルゴンガス雰囲気で、1200℃に12時間保った後に徐冷し、灰色の粉末試
料を得た。得られた粉末のX線回折スペクトルから、いずれの粉末試料も不純物の含有量
が1質量%未満のLaMnOP化合物であることが示された。
【0044】
得られた試料4,5,6の磁気モーメントの磁場(0~7T)及び温度(4K~400K
)依存性を試料振動型磁化測定装置で測定した。試料4,5では、低温でMsが出現する
が、試料6では、0KまでMsは出現しない。また、Msの値は、Mn2+イオン当たり、0
.3μB未満であった。帯磁率の逆数を絶対温度でプロット[(1/χ)—T]すると直
線関係が見られ、キュリー・ワイス則が成り立っている。試料4,5では、直線の延長が
横軸を切る温度がマイナスであることから、これらの試料の磁気相互作用は反強磁性的で
あることが示される。試料6では、直線の延長が横軸を切る温度がゼロであり、磁気転移
温度がゼロの常磁性体になっていることが示されている。
【0045】
試料4,5,6のゼーベック電圧及び4端子法による電気抵抗を測定した。試料4,5,
6のゼーベック係数は、いずれもマイナスの値を示し、試料4,5,6はn型電気伝導体
であることが示された。試料4、5、及び6では、磁場印加によっても電気抵抗はほとん
ど変化せず、磁気抵抗効果はほとんど観測されなかった。図5に、試料5の電気抵抗及び
磁気抵抗効果の温度依存性を示した。
【実施例2】
【0046】
(LaMnOAs:Mg、Zrの合成と電気・磁気特性)
LaAsとMnOを化学当量比に混合した粉末をアルゴンガス雰囲気で、1100℃に1
0時間保った後に徐冷し、灰色の粉末試料を得た。得られた試料の粉末X線スペクトルか
ら、得られた粉末は、空間群P4/nmmに属するZrCuSiAs型結晶構造を有する
層状LaMnOAs化合物相であり、含有される不純物相は、1質量%未満であることが
示された。
【0047】
LaAsとMnOを化学当量比になるように混合した粉末に、La金属元素に対して、1
原子%(試料7)、3原子%(試料8)、及び5原子%(試料9)のMg金属を添加し、
水素ガスを含む還元雰囲気で、1100℃に10時間保った後に徐冷し、灰色の粉末試料
を得た。得られた粉末のX線回折スペクトルから、得られた粉末は、空間群P4/nmm
に属するZrCuSiAs型結晶構造を有する層状LaMnOAs化合物相であり、含有
される不純物相は、1質量%未満であることが示された。
【0048】
LaAsとMnOを化学当量比になるように混合した粉末に、La金属元素に対して、1
原子%(試料10)、3原子%(試料11)、及び5原子%(試料12)のZr金属を添
加し、水素ガスを含む還元雰囲気で、1100℃に10時間保った後に徐冷し、灰色の粉
末試料を得た。得られた粉末のX線回折スペクトルから、得られた粉末は、空間群P4/
nmmに属するZrCuSiAs型結晶構造を有する層状LaMnOAs化合物相であり
、含有される不純物相は、1質量%未満であることが示された。
【0049】
試料7,8,9,10,11,及び12のゼーベック係数(S)を測定した。試料7、8
,及び9の値のS値はマイナスであり、試料7,8,及び9は、p型伝導体であることが
わかった。また、試料10,11,及び12のS値は、プラスであり、試料10,11,
及び12は、n型伝導体であった。
【0050】
試料7,8,9,10,11,及び12の電気伝導度を4端子法により測定した。試料7
の室温での電気伝導度は、約10-3S/cmであり、Mg添加量の増加とともに電気伝導
度は増加して、Mgを3原子%添加した試料8での室温での電気伝導度は、10-2S/c
mであった。試料10の電気伝導度は、約10-2S/cmであったが、Zr添加量と共に
電気伝導度は大きくなり、Zrを3原子%添加した試料11の電気伝導度は、10-1S/
cm、Zrを5原子%添加した試料12では、50S/cmであった。
【0051】
Zr及びMgに対する室温での電気抵抗及びゼーベック係数の変化を図5に示した。この
図5から、Mg又はZrを添加することにより、p型又はn型キャリアが導入され、電気
伝導度が増加することが示された。
【0052】
試料7,8,及び9の磁場(2T)印加時と印加しない場合の電気抵抗の温度変化を図6
に示した。また、図7に、試料10,11,及び12の磁場(2T)印加時と印加しない
場合の電気抵抗の温度変化を示す。Mgを含むp型伝導を示す試料(試料7,8,9)で
は、マイナスの磁気抵抗が見られるが、Zrを含むn型伝導を示す試料(試料10,11
,12)では、プラスの磁気抵抗が見られる。
【0053】
試料7,8,9,10,11,及び12の磁気モーメントの磁場(0~7T)及び温度(
4K~400K)依存性を試料振動型磁化測定装置で測定した。試料7,8,9,10,
11,12の自発磁気モーメントの自発磁気モーメントは、Mn2+イオン当たり、0.3
μB未満の小さな自発磁気モーメントが観測されるが、この発生原因は、LaMnOAs
化合物が弱強磁性スピン配列を有するか、又は含有される微量MnAsの強磁性に由来す
るかのいずれかである。
【実施例3】
【0054】
(LaMnOSb:Mgの合成と電気特性及び磁気特性)
LaSbとMnOを化学当量比になるように混合した粉末に、La金属元素に対して、3
原子%(試料12)、5原子%(試料13)、及び7原子%(試料14)のMg金属を添
加し、水素ガスを含む還元雰囲気で、1100℃に10時間保った後に徐冷し、灰色の粉
末試料を得た。得られた粉末のX線回折スペクトルから、得られた粉末は、空間群P4/
nmmに属するZrCuSiAs型結晶構造を有する層状LaMnOSb化合物相であり
、含有される不純物相は、1質量%未満であることが示された。
【0055】
試料12,13及び14の電気伝導度を4端子法により測定した。図8に、試料13の磁
場無印加及び磁場1.5T印加時の電気抵抗の温度変化を示す。磁場無印加時の室温にお
ける電気抵抗は、約0.4Ωcmで、電気抵抗は、Mg濃度により増加する。また、室温
付近で、マイナス10%程度の磁気抵抗効果が観測される。
【0056】
試料12,13,14の磁気モーメントの磁場(0~7T)及び温度(4K~400K)
依存性を試料振動型磁化測定装置で測定した。自発磁気モーメントは、磁気転移温度より
低温では、Mn2+イオン当たり、0.3μB未満の小さな自発磁気モーメントが観測され
るが、この発生原因は、LaMnOAs化合物が弱強磁性スピン配列を有するか、又は含
有される微量MnAsの強磁性に由来するかのいずれかである。
【実施例4】
【0057】
(LaMnOPホモpn接合構造の形成)
実施例1-1で得られた試料3をプレスして、ターゲットを作成した。同ターゲットを用
い、パルスレーザー堆積法(PLD法)により、800℃でMgO基板上にLaMnOP
:Ca膜を堆積させた。得られた薄膜を成長チャンバーから取り出し、X線解析スペクト
ルを測定した。その結果から、得られた薄膜は、基板に対してc軸が垂直方向に配向した
LaMnOP単相多結晶膜であることが示された。MgO基板上に堆積したLaMnOP
薄膜の光透過スペクトルを図9に示す。半導体エネルギー幅は、約1eVで、1.3μm
より長波長光に対して50%以上の光透過率を示し、透明であることが示された。また、
ゼーベック係数の測定から、p型電気伝導を示すことを確認した。
【0058】
同様の条件で、MgO基板上にLaMnOP:Ca膜を堆積させ、次に、実施例1-2で
得られた試料6から作成したターゲットに変更して、同様の条件で、LaMnOP:Ca
膜上に、LaMnOP:Zr膜を成長させた。積層膜を成長チャンバーから取り出し、金
電極を蒸着した後、電極プローバーを用いて、電圧-電流特性(I-V特性)を室温で測
定した。I-V特性では、順方向に電圧を印加したときには、急激な電流の増加が見られ
た。一方、逆方向に電圧を印加したときには、-10Vの電圧を印加しても電流はほとん
ど流れなかった。すなわち、明確な整流特性が見られ、ホモpn接合構造が形成されてい
ることが示された。
【0059】
以上の実施例から、LnMnOPhは、p-型、n-型両極性を出現できるバイポーラ磁性
半導体であること、さらに該特徴を用いてpnホモ磁性半導体接合が形成出来ることが示
された。また、自発磁気モーメントの出現に対応して、磁気抵抗効果が観測される。自発
磁気モーメントの出現の原因は明らかでないが、該磁気抵抗効果を利用して、磁気センサ
ー、磁気メモリー素子を構成することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明では、新たに見出した電子キャリアの注入によりn型電気伝導、及びホールキャリ
ヤの注入によりp型電気伝導を発現することを特徴とする磁性半導体材料の磁気抵抗効果
、又は該化合物による磁性pnホモ接合構造を用いて、高感度な磁気センサー、電流セン
サー及びメモリーデバイスを作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】LaMnOPのエネルギーバンド構造を模式的に示す図。
【図2】LaMnOPの粉末X線回折パターンを示すグラフ。
【図3】LaMnOPの電気伝導度(S/cm)とゼーベック係数のCa及びZr濃度(原子%)依存性を示す図。
【図4】試料3(LaMnOP:Ca(10原子%))及び試料5(LaMnOP:Zr(3原子%))の電気抵抗及び磁気抵抗効果の温度依存性を示すグラフ。
【図5】Mg及びZr添加したLaMnOAsの室温での電気伝導度とゼーベック係数の添加量依存性を示すグラフ。
【図6】Mgを添加したLaMnOAs(試料7、8,9)の磁場無印加(H=0T)及び印加時(H=2T)の電気抵抗の温度変化を示すグラフ。
【図7】Zrを添加したLaMnOAs(試料10、11,12)の磁場無印加(H=0T)及び印加時(H=2T)の電気抵抗比(磁気抵抗効果)の温度変化を示すグラフ。
【図8】LaMnOSbの磁場無印加(H=0T)及び印加時(H=1.5T)の電気抵抗の温度変化を示すグラフ。
【図9】実施例4で得られたMgO基板上に堆積したLaMnOP薄膜の光透過スペクトルを示すグラフ。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8