TOP > 国内特許検索 > 変性ヒトclassI白血球抗原に特異的なモノクローナル抗体 > 明細書

明細書 :変性ヒトclassI白血球抗原に特異的なモノクローナル抗体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4697980号 (P4697980)
登録日 平成23年3月11日(2011.3.11)
発行日 平成23年6月8日(2011.6.8)
発明の名称または考案の名称 変性ヒトclassI白血球抗原に特異的なモノクローナル抗体
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C07K  16/34        (2006.01)
G01N  33/577       (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
FI C12N 5/00 102
C07K 16/34 ZNA
G01N 33/577 B
C12P 21/08
請求項の数または発明の数 8
微生物の受託番号 FERM BP-10550
全頁数 10
出願番号 特願2007-510479 (P2007-510479)
出願日 平成18年3月27日(2006.3.27)
国際出願番号 PCT/JP2006/306121
国際公開番号 WO2006/104085
国際公開日 平成18年10月5日(2006.10.5)
優先権出願番号 2005094920
優先日 平成17年3月29日(2005.3.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年3月18日(2008.3.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】502351224
【氏名又は名称】佐藤 昇志
発明者または考案者 【氏名】佐藤 昇志
【氏名】鳥越 俊彦
【氏名】下澤 久美子
【氏名】中澤 恵実理
個別代理人の代理人 【識別番号】100110249、【弁理士】、【氏名又は名称】下田 昭
【識別番号】100113022、【弁理士】、【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
審査官 【審査官】石丸 聡
参考文献・文献 日本病理学会会誌,第94巻,第1号,第223頁,3-F-5(2005年3月18日)
J. Immunother., vol. 28, page 660 (Dec. 2005)
Int. Immunol., vol. 2, pages 113-125 (1990)
調査した分野 C12N 5/0781
C07K 16/34
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
変性ヒトclass I白血球抗原のHLA-A、HLA-B及びHLA-Cの各重鎖と特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(FERM BP-10550)。
【請求項2】
ハイブリドーマ(FERM BP-10550)により産生され、変性ヒトclass I白血球抗原のHLA-A、HLA-B及びHLA-Cの各重鎖と特異的に結合するモノクローナル抗体。
【請求項3】
前記変性ヒトclass I白血球抗原が、アルデヒド処理、アルコール処理又はアセトン処理したヒト組織から得られた請求項2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
請求項2に記載のモノクローナル抗体を検体に反応させることから成る変性ヒトclass I白血球抗原の検査方法。
【請求項5】
前記検体がヒト由来の細胞若しくは組織を変性させた検体である請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
前記変性の方法がアルデヒド処理、アルコール処理又はアセトン処理である請求項4又は5に記載の検査方法。
【請求項7】
前記検体を前記モノクローナル抗体と反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出することから成る請求項4~6のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項8】
請求項2に記載のモノクローナル抗体を主成分とする変性ヒトclass I白血球抗原の検査薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、変性ヒトclass I白血球抗原(HLA-A、B、C)重鎖と特異的に結合するモノクローナル抗体に関し、更に、この抗体を用いた変性ヒトclass I白血球抗原の検査方法やこの抗体を含む変性ヒトclass I白血球抗原の検査薬に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数十年にわたり、世界中で大部分の臨床組織検体は10%~20%ホルマリン固定液等によって保存されてきたが、ホルマリンのような固定液は組織中の蛋白質を高度に変性させるため、固定された標本中の蛋白質を特異抗体によって検出するためには変性蛋白質を認識できる抗体が必要である。
一方、ヒトclass I白血球抗原(HLA class I)は、免疫担当細胞に抗原分子を提示している重要な分子である。例えば、ウイルス感染細胞ではウイルス蛋白質の分解産物抗原ペプチドが、癌細胞では癌抗原蛋白質の分解産物抗原ペプチドが、それぞれHLA class I分子と結合し、細胞表面に表出している。免疫担当細胞のなかでT細胞は、細胞表面に持つT細胞抗原受容体によって標的細胞表面の抗原ペプチド・HLA複合体を認識し、正常細胞とウイルス感染細胞・癌細胞とを識別する。そのためHLA class I分子の発現が抑制された状態では、T細胞の標的細胞識別機構が正常に働かないため、ウイルス感染細胞や癌細胞が免疫系の監視機構から逃れることになる。このように、HLA class I抗原分子は免疫系において重要な役割を果たしている分子であり、ヒトの組織や細胞においてこの分子の発現を検査することは、各種ヒト疾患の免疫病態を知るうえで重要な情報となる。
しかし、従来使用されているヒトclass I白血球抗原(HLA class I)抗体(例えば、W6/32抗体)は、変性したHLA class I蛋白質を認識できないため、ホルマリン等で固定した組織中の抗原蛋白質を免疫染色法によって検出することはできなかった。
【0003】
一方、変性したHLA class I蛋白質と優先的に結合するモノクローナル抗体としては、クローン名HC10とHCA2の2種類のマウスモノクローナル抗体が報告されている(非特許文献1)。しかし、HC10は、HLA-B、HLA-Cの2種類の遺伝子由来のHLA class I重鎖蛋白質とは結合するが、HLA-A遺伝子由来の重鎖蛋白質とは結合しない。また、HCA2は、HLA-A遺伝子由来のHLA class I重鎖蛋白質とは結合するが、HLA-B、HLA-C遺伝子由来の重鎖蛋白質とは結合しない。
このようにホルマリン等で固定した標本のような変性ヒト組織を材料としてHLA class Iを構成するHLA-A、HLA-B、HLA-Cの3種類の重鎖蛋白質の発現をすべて同時に検出可能なモノクローナル抗体は、これまでに報告されていなかった。
【0004】

【非特許文献1】Stam NJ, et al. Int Immunol. 1990;2(2):113-25.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ホルマリン等によって固定され保存されているヒト病理組織検体は、HLA class I分子だけでなくすべての組織蛋白質が変性しているため、モノクローナル抗体によって固定組織中の蛋白質を検出しようとする場合、変性蛋白質を認識することのできる抗体を用いる必要があるが、これまでHLA-A、B、Cのすべてを認識するモノクローナル抗体は存在せず、HLA-A、B、Cのすべてを認識するモノクローナル抗体が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、変性させたリコンビナントHLA-A*2402重鎖蛋白質をマウスに免疫することによって、変性HLA-A、B、Cのすべてに優先的に結合するHLA class I特異抗体を樹立できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、ハイブリドーマ(FERM BP-10550)により産生され、変性ヒトclass I白血球抗原のHLA-A、HLA-B及びHLA-Cの各重鎖と特異的に結合するモノクローナル抗体である。
また本発明は、変性ヒトclass I白血球抗原のHLA-A、HLA-B及びHLA-Cの各重鎖と特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ(FERM BP-10550)である。
また本発明は、このモノクローナル抗体をヒト由来の細胞若しくは組織を変性させた検体に反応させることから成る変性ヒトclass I白血球抗原の検査方法である。
更に本発明は、このモノクローナル抗体を主成分とする変性ヒトclass I白血球抗原の検査薬である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のモノクローナル抗体により、ホルマリン等で固定したパラフィン包埋切片におけるHLA-A、B、C遺伝子由来重鎖蛋白質の免疫組織染色が可能となった。これにより、日常臨床の場で手術摘出標本や生検標本として提出されるホルマリン等で固定した病理組織検体を用いたHLA class I抗原の検出を組織レベルで可能にするばかりでなく、過去に保存されたホルマリン固定パラフィン包埋標本に関しても、さかのぼってHLA class I抗原を検索することが可能になった。
また後述の実施例4で示すように、癌組織のHLA class I検査は癌の病理学的診断だけでなく患者の予後を予測する診断にも有用である。
また後述の実施例5で示すように、本抗体を用いた癌組織の免疫組織染色法はCTLに依存した免疫療法の適応決定診断法としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
ヒトclass I白血球抗原(HLA class I)は、主としてHLA-A、HLA-B、HLA-Cの3種類の遺伝子によってコードされる重鎖と、beta2-microglobulinという1種類の遺伝子によってコードされる軽鎖の2分子のヘテロ2量体から成り、重鎖遺伝子には遺伝子多型が存在する。例えば、日本人に最も頻度の高いHLA遺伝子はHLA-A*2402と命名された遺伝子(Genbank ACCESSION #M64740)であることが知られている。
【0009】
本発明の、変性したヒトclass I白血球抗原(HLA-A、B、C)重鎖と優先的に結合するマウスモノクローナル抗体は、クローン名EMR8のハイブリドーマ及びそのサブクローンが培養上清中に産生する抗体で、サブクラスIgG1、k鎖を有すマウスモノクローナル抗体である。この抗体をEMR8抗体と命名する。
ハイブリドーマEMR8は、平成17年3月9日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM AP-20454が付与されたが、その後国際寄託に移管され、平成18年3月9日に同センターから受託番号FERM BP-10550が付与された。
変性手段としては、ホルマリン処理、パラホルムアルデヒド処理、グルタールアルデヒド処理等のアルデヒド処理、アセトン処理、アルコール処理、尿素処理、グアニジン塩酸処理、蟻酸処理、加熱処理等が挙げられ、好ましくはアルデヒド処理、アセトン処理又はアルコール処理が挙げられる。
【0010】
本発明の抗体は、ハイブリドーマEMR8とそのサブクローンの培養上清中に産生される。HLA class I抗原の検出には培養上清を使用してもよい。また、ハイブリドーマをマウスの腹腔内に移植し、EMR8抗体を含む腹水を使用してもよい。更に、ハイブリドーマEMR8細胞の免疫グロブリン遺伝子DNA又はRNAを抽出し、その可変領域遺伝子配列を含んだ遺伝子を組み替えて作成したリコンビナント蛋白質を使用してもよい。
本発明の抗体を使用して、ホルマリン等で固定したパラフィン包埋切片の組織中に発現している変性したヒトclass I白血球抗原(HLA-A、B、C)重鎖を免疫組織染色法やウエスタンブロッティング法によって検出することができる。したがって、本発明の抗体は、臨床検査試薬、組織染色試薬、HLA class I検出試薬として使用することができる。
例えば、ホルマリンやパラホルムアルデヒドなどの化学物質によって固定されたヒト癌組織やウイルス感染組織におけるHLA class I抗原蛋白質の発現検査や各種ヒト疾患の病理組織におけるHLA class I抗原蛋白質の発現レベル解析や細胞内局在部位の検出に応用される。
【0011】
本発明の抗体をHLA検出試薬として使用する場合、本発明の抗体はそれ自身で又は他の抗体と共に使用することができ、更に抗体を直接蛍光標識したり、酵素標識したりすることができる。
この抗原抗体反応を検知する方法に特に制限はないが、イムノブロット法、ドットブロット法、ELISA法等が挙げられ、ELISA法を用いることが好ましい。
検査方法の一例として,本発明の抗体を、検体中に存在するHLAと反応させ、更にこの抗体を認識するプローブを反応させる。このプローブとしては、抗ヒトIgG抗体、プロテインG、プロテインA、プロテインLなどが挙げられる。このプローブには通常標識を付す。この標識としては、放射性同位元素(125I)、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)、蛍光物質、発光物質等が挙げられる。酵素抗体を用いた場合には、基質を反応させてその変化(着色等)を観察すればよい。

以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0012】
大腸菌発現ベクターにHLA-A*2402 重鎖蛋白質の細胞外ドメインをコードするcDNA(配列番号1)を挿入し、Histidineタグ融合リコンビナントHLA-A*2402重鎖蛋白質を作成した。
このcDNA(配列番号1)はHLA-A2402 cDNA(Genbank ACCESSION #M64740)の73番から900番までの遺伝子の3'末端にBirA基質ペプチドとトロンビン認識ペプチドとをそれぞれコードする遺伝子配列を結合した構造を有する。本遺伝子は、シグナル配列を含まないHLA-A2402重鎖蛋白質細胞外ドメインのC末端側にビオチン化部位とトロンビン切断部位とが結合した融合蛋白質をコードする(Journal of Immunological Methods 271, 177-184, 2002)。
大腸菌を超音波によって破砕し、尿素HEPESバッファーに溶解。ニッケルNTAアガロースカラムにHisタグリコンビナント蛋白質を結合させた後、イミダゾール添加尿素HEPESバッファーで溶出させた。この溶液をPBSで一晩透析し、変性凝集したリコンビナントHLA-A*2402重鎖蛋白質浮遊液を得た。
【0013】
この重鎖蛋白浮遊液(約1 mg相当のリコンビナント蛋白質)と完全フロイドアジュバントとをエマルジョンにし、BALB/c miceの皮下に免疫した。2回目以後は不完全フロイドアジュバントとのエマルジョンを1週間おきに全8回免疫した。最終免疫の5日後、マウスの脾臓を摘出し、脾細胞をマウスミエローマ細胞株NS-1と細胞融合させた。HAT選択培養液の中で約1ヶ月培養し、約100個のハイブリドーマコロニーを得た。これらの培養上清を回収し、1次スクリーニングを行った。
1次スクリーニングはELISA法によって、尿素変性リコンビナントHLA-A*2402重鎖蛋白質に反応するハイブリドーマを選択した。具体的には、ELISAプレートに尿素変性リコンビナントHLA-A*2402重鎖蛋白質を固相化し、ハイブリドーマ培養上清を添加。2時間後、洗浄した後に、ペルオキシダーゼ標識抗マウス免疫グロブリン抗体を反応させ、洗浄した後にペルオキシダーゼ基質液で発色させた。得られた約15クローンの陽性ハイブリドーマについて、2次スクリーニングを行った。
【0014】
2次スクリーニングはホルマリン固定パラフィン包埋切片のヒト病理組織の免疫組織染色によって行った。HLA陽性のヒト癌組織薄切標本に15種類のハイブリドーマ培養上清をそれぞれ添加。洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗マウス免疫グロブリン抗体を反応させ、洗浄した後にペルオキシダーゼ基質液で発色させた。陽性対照染色としては抗HLA-B、C抗体HC10を用いて染色。細胞膜がHC10と同様に染色されたものを陽性とした。その結果、1種類のハイブリドーマだけが陽性と判断された。
【0015】
3次スクリーニングはウエスタンブロッティングによって行った。HLA陽性のヒト癌細胞株OSC-20とHLA-A*2402遺伝子導入細胞株OSC-20A24、HLA class I陰性細胞株K562のそれぞれの細胞溶解液を作成。SDS電気泳動後、PVDF膜に転写した。この蛋白転写膜にハイブリドーマ培養上清を添加。洗浄後、ペルオキシダーゼ標識抗マウス免疫グロブリン抗体を反応させ、洗浄した後にペルオキシダーゼ基質液ECLで発光させた。陽性対照抗体としては抗HLA-B、C抗体HC10を用いてイムノブロッティングを行った。陽性対照抗原としては、免疫原であるリコンビナントHLA-A*2402重鎖蛋白質を泳動した。リコンビナントHLA-A*2402重鎖蛋白質及びOSC-20細胞溶解液にHLA class I重鎖の特異的なバンドが検出されたものを陽性と判定した。
以上3段階のスクリーニングによって、ハイブリドーマEMR8を陽性として選択した。
【0016】
このハイブリドーマを限界希釈法によってクローニングし、20クローンのサブクローンを得た。サブクローン名にはEMR8-1、EMR8-2、~ EMR8-20のようにサブナンバーを付加した。これらサブクローンの培養上清については、上記の2次スクリーニングと3次スクリーニングを再検し、変性したHLA class Iの重鎖蛋白質を特異的に認識することを確認した。
さらに、種々の遺伝子多型のHLA-A、B、C遺伝子由来リコンビナント重鎖蛋白質を用いてウエスタンブロッティングを行い、EMR8サブクローンの反応特異性について解析した。その結果、陽性対照抗体HC10がHLA-B、C重鎖のみに反応するのに対し、EMR8サブクローンは検索したすべてのHLA-A、B、C重鎖と反応することが示された。EMR8抗体はサブクラスIgG1、k鎖を有すマウスモノクローナル抗体で、ホルマリン固定パラフィン包埋切片の病理組織の細胞膜に発現するHLA-A、B、Cを同時に検出することが可能であった。
なお用いた陽性対照抗体HC10は、Dr. Soldano Ferrone (Department of Immunology, Roswell Park Cancer Institute, Buffalo, New York)から供与されたものを用いた。
【実施例2】
【0017】
本実施例では、実施例1で得た抗体を用いてホルマリン固定ヒト組織の免疫組織染色を行った。その手順を以下に示す。
(1)20%ホルマリン固定液で固定されたヒト大腸癌組織のパラフィン包埋切片をエチルアルコールによって脱パラフィン処理した。
(2)抗原賦活化処理として、切片を0.01 mol/Lクエン酸buffer (pH6.0)に浸して、マイクロウエーブ処理(95℃、15分)した。
(3)一次抗体としてハイブリドーマEMR8-5培養上清10倍希釈液を0.5 ml切片上に滴下し、室温で1時間インキュベーションした。
(4)洗浄液PBS-T (0.05% Tween 20/PBS、pH 7.4)で3回洗浄した。
(5)二次抗体ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(シンプルステインMAX-PO、NICHIREI)を切片上に滴下し、室温で30分間インキュベーションした。
(6)洗浄液PBS-T (0.05% Tween 20/PBS、pH 7.4)で3回洗浄した。
(7)切片を過酸化水素水とDAB基質の混合液(シンプルステインMAX-PO、NICHIREI)に浸し、1~2分間発色反応させた。
(8)切片を流水で1分間洗浄した。
(9)Hematoxylin核染色(1~2分)を行った。
【0018】
図1に、ホルマリン固定された大腸癌組織標本パラフィン包埋切片の免疫染色例を示す。図(1)は腫瘍組織にHLA class Iが茶色に染色されているが、図(2)では腫瘍細胞にHLA class Iが陰性であり、腫瘍間質に浸潤しているリンパ球や血管内皮細胞が茶色に染色されている。すなわち、同じ大腸癌であってもHLA class I抗原陽性の癌と陰性の癌とが存在し、実施例2に示したようなEMR8抗体を用いた免疫組織染色法によって、これら癌組織の判別が可能となることを実証している。
【実施例3】
【0019】
本実施例では、本発明の抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。その手順を以下に示す。
(1)1×106の細胞を100 microLの細胞溶解液(RIPA buffer)に溶解し、可溶性分画をライゼートとして回収する。ライゼートにSDS sample bufferを加えた。
使用したリコンビナント蛋白質は、MBL医学生物学研究所から提供されたHLA重鎖リコンビナント蛋白質を用いた。但し、HLA-A2402*は、実施例1で得たHisタグ融合リコンビナント蛋白質である。
(2)リコンビナント蛋白質の場合は6M UREA bufferに溶解した試料にSDS sample bufferを加えた。
(3)蛋白試料を7.5% SDSポリアクリルアミドゲルにロードし、電気泳動した。
(4)ゲル中の蛋白質をPVDF膜に転写した。
(5)転写膜を5%スキムミルク・PBSに浸し、約1時間ブロッキングした。
(6)転写膜を一次抗体ハイブリドーマEMR8-5培養上清10倍希釈液に浸し、室温で1時間インキュベーションした。
(7)転写膜を洗浄液PBS-T (0.05% Tween 20/PBS、pH 7.4)で3回洗浄した。
(8)転写膜を二次抗体ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体に浸し、室温で1時間インキュベーションした。
(9)転写膜を洗浄液PBS-T (0.05% Tween 20/PBS、pH 7.4)で3回洗浄した。
(10)転写膜をECLキット(アマシャム社、USA)発光液に浸し、約1分間発色反応させた。
(11)発光シグナルをX線フィルムで検出した。
【0020】
図2に、ウエスタンブロッティング法によるEMR8抗体と各種リコンビナントHLA class Iアリル蛋白質との反応性検査結果を示す。
EMR8抗体は図に示すすべてのHLA-A、HLA-B、HLA-Cアリル由来のリコンビナント蛋白質と反応するが、HC10抗体はHLA-Aアリル由来の蛋白質とは反応しない。すなわち、EMR8抗体はHC10抗体と異なり、HLA-A、B、Cの3つすべてのアリル由来HLA class I重鎖蛋白質をウエスタンブロッティングにおいて認識することを示している。
【0021】
図3に、ウエスタンブロッティング法によるEMR8抗体と各種ヒト腫瘍細胞株ライゼートとの反応例を示す。用いた細胞は、HLA-A24陰性のヒト口腔癌細胞株OSC20、OSC20細胞にHLA-A*2402遺伝子を導入して安定的にHLA-A24を発現させた細胞株OSC20-A2402、すべてのHLA class I遺伝子を発現していないヒト白血病細胞株K562の3種類の細胞である。
EMR8抗体は口腔癌細胞株OSC20とHLA-A*2402遺伝子を導入したOSC20-A2402細胞株の発現するHLA class I重鎖と反応する。HLA class I陰性の細胞株K562のライゼートとは反応しない。右レーンには陽性対照として免疫原であるリコンビナントHLA-A*2402重鎖蛋白質に対する反応性を示す。すなわち、EMR8抗体はリコンビナントHLA class I重鎖蛋白質だけでなく、細胞内在性に発現しているHLA class I重鎖蛋白質をも、ウエスタンブロッティング法によって認識していることを示している。
【実施例4】
【0022】
過去に手術で摘出されたホルマリン固定腎癌組織標本45症例について、本発明のEMR8抗体を用いて実施例2と同様の方法で、免疫組織染色を行い、患者生存率との関係を調べた。
その結果、図4に示すように、64%の症例でHLA class I発現陽性であったが、他の36%の症例ではHLA class I発現の低下が認められ、陽性群と低下群との間で手術後の患者生存率を比較すると、HLA低下群の生存率は有意に低いことが判明した。
このように、癌組織のHLA class I検査は癌の病理学的診断だけでなく患者の予後を予測する診断にも有用である。
【実施例5】
【0023】
HLA class I分子によって提示される抗原ペプチドを用いた癌ワクチン療法や樹状細胞療法、遺伝子免疫療法など、癌細胞特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導を目指した免疫療法の開発が世界中で行われているが、その適応条件として標的癌細胞がHLA class I抗原を細胞表面に発現していることは重要である。しかしこれまで、本抗体のようなホルマリン固定標本を免疫染色可能な抗HLA-A、B、C反応性抗体がなかったため、患者の癌組織にHLA class I抗原が陽性であるか陰性であるかチェックできないまま、免疫療法の試験が行われてきた。本発明者らは、癌抗原サバイビン由来の抗原ペプチドSurvivin2Bペプチド(特開2002-284797)を用いた癌ペプチドワクチン療法の臨床試験を2003年より行ってきた。
【0024】
大腸癌を対象とした臨床試験症例15例についてこの方法による臨床結果(腫瘍縮小もしくは増大抑制効果)と、本発明の抗体を用いたワクチン投与前の癌組織におけるHLA class I抗原免疫染色結果との相関を比較した。本発明の抗体を用いた試験においては、組織はホルマリン処理されたものを用い、試験方法は実施例2に記載と同様に行った。
その結果、臨床効果の認められた5例は全例でEMR8抗体によるHLA class I抗原免疫染色結果が強陽性であったのに対し、臨床効果の認められなかった10例中4例はHLA class I抗原の消失もしくは減弱が認められ、癌免疫療法の臨床効果とHLA class I抗原発現レベルとの間に相関関係が認められた。
すなわち、EMR8抗体を用いた癌組織の免疫組織染色によって癌細胞の細胞膜にHLA class I抗原が陽性に染色される症例は、CTL誘導性免疫療法の効果が期待できると考えられ、癌免疫療法適応の決定手段として有用性がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ホルマリン固定された大腸癌組織標本パラフィン包埋切片の免疫染色例を示す図である。(1)は腫瘍組織にHLA class I陽性例、(2)はHLA class I陰性例である。
【図2】ウエスタンブロッティング法によるEMR8-5抗体と各種リコンビナントHLA class Iアリル蛋白質との反応性検査結果を示す図である。EMR8-5抗体は図に示す全てのHLA-A、HLA-B、HLA-Cアリル由来のリコンビナント蛋白質と反応するが、HC10抗体はHLA-Aアリル由来の蛋白質とは反応しない。
【図3】ウエスタンブロッティング法によるEMR8-5抗体と各種ヒト腫瘍細胞株ライゼートとの反応例を示す図である。EMR8-5は口腔癌細胞株OSC20とHLA-A2402遺伝子を導入したOSC20-A2402細胞株の発現するHLA class I重鎖と反応する。HLA class I陰性の細胞株K562のライゼートとは反応しない。右レーンには陽性対照として免疫原であるリコンビナントHLA-A2402重鎖蛋白質に対する反応性を示す。
【図4】過去に手術で摘出されたホルマリン固定腎癌組織標本についての免疫組織染色結果と患者生存率の関係を示す図である。
図面
【図4】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図3】
3