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明細書 :分子マーカーを用いた間葉系幹細胞の識別方法及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5190654号 (P5190654)
登録日 平成25年2月8日(2013.2.8)
発行日 平成25年4月24日(2013.4.24)
発明の名称または考案の名称 分子マーカーを用いた間葉系幹細胞の識別方法及びその利用
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/077       (2010.01)
C12N   5/0775      (2010.01)
FI C12Q 1/68 A
C12N 15/00 ZNAF
C12N 5/00 202G
C12N 5/00 202H
請求項の数または発明の数 9
全頁数 48
出願番号 特願2007-512850 (P2007-512850)
出願日 平成18年3月30日(2006.3.30)
国際出願番号 PCT/JP2006/306658
国際公開番号 WO2006/106823
国際公開日 平成18年10月12日(2006.10.12)
優先権出願番号 2005104563
優先日 平成17年3月31日(2005.3.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年12月22日(2008.12.22)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
【識別番号】503328193
【氏名又は名称】株式会社ツーセル
発明者または考案者 【氏名】加藤 幸夫
【氏名】河本 健
【氏名】辻 紘一郎
【氏名】五十嵐 晃
【氏名】清水 正和
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】水落 登希子
参考文献・文献 特開2005-027579(JP,A)
特開2004-290189(JP,A)
Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2004年,Vol.101, No.9,p.2957-2962
再生医療,2005年 2月10日,Vol.4, 増刊号,p.115, PD-24
Gene,2004年,Vol.340,p.141-150
Bone,2004年,Vol.34,p.809-817
Osteoarthritis Cartilage,2000年,Vol.8,p.87-95
調査した分野 C12Q 1/00-1/70
C12N 1/00-15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
GenBank/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
下記表に記載の配列番号49に示される塩基配列を有する遺伝子FLGを識別マーカーとして用い、
上記識別マーカーの遺伝子の発現の差を検出して、間葉系幹細胞と線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞及び脂肪細胞とを識別する工程を有することを特徴とする間葉系幹細胞の識別方法。
【表1】
JP0005190654B2_000018t.gif
JP0005190654B2_000019t.gifJP0005190654B2_000020t.gifJP0005190654B2_000021t.gifJP0005190654B2_000022t.gifJP0005190654B2_000023t.gifJP0005190654B2_000024t.gifJP0005190654B2_000025t.gifJP0005190654B2_000026t.gifJP0005190654B2_000027t.gif
【請求項2】
さらに、配列番号1~48,50~116に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される、少なくとも1つ以上の遺伝子を識別マーカーとして用い、
上記識別マーカーの遺伝子の発現の差を検出して、間葉系幹細胞と線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞及び脂肪細胞とを識別する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の間葉系幹細胞の識別方法。
【請求項3】
下記(a)~(d)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上を固定化させてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法に使用するための間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ:
(a)配列番号49に示される塩基配列を有する遺伝子FLG;
(b)配列番号49に示される塩基配列を有する遺伝子FLGのアンチセンス鎖;
(c)上記(a)又は(b)の部分塩基配列;及び
(d)上記(a)~(c)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【請求項4】
さらに下記(e)~(h)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上を固定化させてなることを特徴とする請求項3に記載の間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ:
(e)配列番号1~48,50~116に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(f)配列番号1~48,50~116に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(g)上記(e)又は(f)の部分塩基配列;及び
(h)上記(e)~(g)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【請求項5】
下記(i)又は(j)に記載の物質を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法に使用するための間葉系幹細胞の識別・分離キット:
(i)請求項3又は4に記載の間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ;
(j)配列番号49に示される塩基配列を有する遺伝子FLG又はその部分配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなる間葉系幹細胞の識別マーカー遺伝子の検出用プローブ。
【請求項6】
さらに下記(k)に記載の物質を備えることを特徴とする請求項5に記載の間葉系幹細胞の識別・分離キット:
(k)配列番号1~48,50~116のいずれかに示される塩基配列を有する遺伝子又はその部分配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなる間葉系幹細胞の識別マーカー遺伝子の検出用プローブ。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の間葉系幹細胞の識別方法によって識別された間葉系幹細胞を、分離する間葉系幹細胞の識別分離方法。
【請求項8】
配列番号49に示される塩基配列を有する遺伝子FLGを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法に使用するための間葉系幹細胞の識別用マーカー。
【請求項9】
さらに、配列番号1~48,50~116に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される、少なくとも1つ以上の遺伝子を含むことを特徴とする請求項8に記載の間葉系幹細胞の識別用マーカー。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の検出、識別・分離に関し、特に、間葉系幹細胞と線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞等の結合組織系の細胞とにおいて、発現が異なる間葉系幹細胞検出用の遺伝子マーカー及び/又は間葉系幹細胞検出用のタンパク質マーカー等を用いて行う間葉系幹細胞の識別方法及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、哺乳類の骨髄等に存在し、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞に分化する多能性の幹細胞として知られている。間葉系幹細胞は、その分化多能性の故に、多くの組織の再生医療のための移植材料として注目されている。すなわち、間葉系幹細胞を用いて、従来の治療方法では再生しなかった、疾病や障害により失った組織を再生し、機能を回復させる「細胞移植による再生医療」である。具体的には、例えば、下肢虚血(ビュルガー病)患者に対する骨髄間葉系幹細胞の移植、歯周病患部への骨髄間葉系幹細胞の移植、変形性関節症患者に対する骨髄間葉系幹細胞の移植、火傷患部への羊膜上皮シートの移植、糖尿病患者への羊膜幹細胞の移植等の治療が開始又は計画されている。
【0003】
このように間葉系幹細胞を再生医療に利用するためには、まず、幹細胞を生体組織から採取し、それを未分化のまま増殖させ、さらに増殖させた未分化幹細胞を所望の細胞へ分化誘導し、再生治療用の組織の調製を行うことが必要となる。
【0004】
ここで、本発明者らは以前に、間葉系幹細胞の採取に際して、採取母体に安全で、且つ採取が容易な分離採取を行うために、口腔組織から間葉系幹細胞を分離採取する方法を報告している(特許文献1参照)。また、基底膜細胞外基質の存在下において、または線維芽細胞増殖因子(FGF)等の含有培地で間葉系幹細胞を培養することによって、間葉系幹細胞が著しく速く増殖させ、かつ、その分化能を維持できることを見出して、従来の培養方法と比較して顕著に多くの間葉系幹細胞を得る培養方法を報告している(特許文献2参照)。
【0005】
しかし、間葉系幹細胞を用いた再生医療を実用化するためには、上述の技術のみでは十全とはいえない。具体的には、培養増殖させた間葉系幹細胞を所望の細胞へ分化誘導し再生医療用の組織を調製する場合、まず培養した細胞が間葉系幹細胞であることを確認する必要がある。すなわち、培養増殖させた間葉系幹細胞を検出し、識別する方法を開発することが必要であった。
【0006】
この技術的課題に対して、本発明者らは、形態的に類似しており、その区別が困難な間葉系幹細胞と線維芽細胞とを、間葉系幹細胞検出用遺伝子マーカー及び/又は間葉系幹細胞検出用タンパク質マーカーを用いて効果的に識別し、分離する方法を開発している(特許文献3参照)。
【特許文献1】
特開2003-52365号公報(公開:平成15(2003)年2月25日)
【特許文献2】
特開2003-52360号公報(公開:平成15(2003)年2月25日)
【特許文献3】
特開2005-27579号公報(公開:平成17(2005)年2月3日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱、神経などに分化することから、再生医療への利用の観点から、これらの組織の障害を修復させるための移植用細胞として期待されている細胞であるが、従来、間葉系幹細胞であることを確認するためには、in vitroまたは、in vivoで多分化能を証明する以外に確実な方法はなかった。しかし、間葉系幹細胞を組織再生医療に実用化するためには、その細胞が間葉系幹細胞であること、及び該間葉系幹細胞が多分化能を維持していることを正確に、精度よく、かつ簡便に確認する必要があった。
【0008】
確かに、上記特許文献3に開示の方法では、間葉系幹細胞と線維芽細胞とを識別・分離するには十分である。しかしながら、骨髄等には、線維芽細胞の他にも骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞等の他の結合組織系の細胞が数多く存在する。
【0009】
このため、間葉系幹細胞を用いた再生医療の実用化のためには、間葉系幹細胞と線維芽細胞とを識別する技術だけでは十分とはいえない。そこで、未分化の間葉系幹細胞を、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞等の他の結合組織系の細胞とを正確に、精度よく簡便に識別し、分離する技術の開発が強く望まれていた。また、かかる技術が開発された場合、未分化の間葉系幹細胞を大量に培養した際に、多分化能を維持している間葉系幹細胞のみを識別し、再生医療に役立てることもできる。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、間葉系幹細胞と、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞等の結合組織系の細胞とを正確に、精度よく識別し、及び/又は、分離する方法及びその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、間葉系幹細胞と、線維芽細胞及びそれ以外の結合組織系の細胞とにおいて、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子の発現プロファイルを調べたところ、間葉系幹細胞において特異的に発現するが、線維芽細胞及びそれ以外の結合組織系の細胞では間葉系幹細胞における発現と明確な差を検出できる遺伝子が存在するという新事実を見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0012】
(1)下記表1a~表1jに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子から選択される、少なくとも1つ以上の遺伝子を分別マーカーとして用い、
間葉系幹細胞と結合組織系細胞とにおける、上記分別マーカーの発現の差を検出して、間葉系幹細胞と結合組織系細胞とを識別する工程を有する間葉系幹細胞の識別方法。
【0013】
【表1a】
JP0005190654B2_000002t.gif【表1b】
JP0005190654B2_000003t.gif【表1c】
JP0005190654B2_000004t.gif【表1d】
JP0005190654B2_000005t.gif【表1e】
JP0005190654B2_000006t.gif【表1f】
JP0005190654B2_000007t.gif【表1g】
JP0005190654B2_000008t.gif【表1h】
JP0005190654B2_000009t.gif【表1i】
JP0005190654B2_000010t.gif【表1j】
JP0005190654B2_000011t.gif (2)上記分別マーカーとして、上記表1a~表1jに記載のクラス6,7,8,10,及び13に記載の遺伝子から選択される、少なくとも1つ以上の遺伝子を用いる(1)に記載の間葉系幹細胞の識別方法。
【0014】
(3)上記分別マーカーとして、上記表1a~表1jに記載のクラス6,7,8,10,及び13に記載のクラスのそれぞれから、少なくとも1つずつ選択された遺伝子を組み合わせて用いる(2)に記載の間葉系幹細胞の識別方法。
【0015】
(4)上記分別マーカーとして、下記表2に記載の遺伝子から選択される、少なくとも1つ以上の遺伝子を用いる(1)~(3)のいずれかに記載の間葉系幹細胞の識別方法。
【0016】
【表2】
JP0005190654B2_000012t.gif【0017】
(5)上記分別マーカーの発現の差の検出は、上記遺伝子の発現の検出、又は上記遺伝子がコードするタンパク質の発現の検出によって行われるものである(1)~(4)のいずれかに記載の間葉系幹細胞の識別方法。
【0018】
(6)下記(a)~(d)のいずれかのうち、少なくとも1つ以上を固定化させてなる間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ:
(a)上記表1a~表1jに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b)上記表1a~表1jに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c)上記(a)又は(b)の部分塩基配列;及び
(d)上記(a)~(c)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0019】
(7)下記(e)又は(f)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体:
(e)上記表1a~表1jに記載のいずれかのアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子によってコードされるポリペプチド;及び
(f)上記(e)の部分ポリペプチド。
【0020】
(8)下記(g)~(i)のいずれかに記載の物質を備える間葉系幹細胞の識別・分離キット:
(g)上記(6)に記載の間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ;
(h)上記(7)に記載の抗体;及び
(i)上記表1a~表1jに記載のいずれかのアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子又はその部分配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなる間葉系幹細胞の分別マーカー遺伝子の検出用プローブ。
【0021】
(9)上記(1)~(5)のいずれかに記載の間葉系幹細胞の識別方法によって識別された間葉系幹細胞を、分離する工程を有する間葉系幹細胞の識別分離方法。
【0022】
(10)上記(9)に記載の間葉系幹細胞の識別分離方法によって分離された間葉系幹細胞、又は当該間葉系幹細胞を増殖させたものを含む細胞含有組成物。
【0023】
(11)上記(10)に記載の細胞含有組成物を含む再生医療用医薬。
【0024】
(12)上記表1a~表1jに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、いずれか1つの遺伝子であることを特徴とする間葉系幹細胞の識別用分別マーカー。
【0025】
(13)上記表1a~表1jに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子にコードされるポリペプチドのうち、いずれか1つのポリペプチドである間葉系幹細胞の識別用分別マーカー。
【0026】
(14)生体から分離した試料に対して、上記(1)~(5)のいずれかに記載の間葉系幹細胞の識別方法,(6)に記載の間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ,(7)に記載の抗体,(8)に記載の間葉系幹細胞の識別・分離キット,及び(12)または(13)に記載の間葉系幹細胞の識別用分別マーカーから選択される手段を、いずれか単独、または複数を組み合わせて用いることにより、当該試料の提供者において間葉系幹細胞が関連する疾患が発症しているか、または将来発症する可能性があるかを判定する方法。なお、本方法は、診断方法と予防方法の両方を意図したものである。
【0027】
(15)上記表1a~表1jに記載のいずれかのアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子又はその部分配列に対するsiRNAを含む間葉系幹細胞の未分化性を抑制する再生医療用医薬。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る間葉系幹細胞の識別方法及びその利用法によれば、未分化の間葉系幹細胞における発現パターンと、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞等の結合組織系の細胞における発現パターンとを比較した場合、明確に発現パターンに差が存在する遺伝子等を分別マーカーとして用いている。このため、例えば、骨髄中に含まれる未分化の間葉系幹細胞と、結合組織系の細胞とを正確に、精度よく、かつ簡便に識別し、及び/又は、分離することができるという効果を奏する。
【0029】
それゆえ、本発明によれば、骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱、神経等への分化が可能な、多分化能を有する未分化の間葉系幹細胞を、再生医療へ利用する場合に障害となっていた問題、すなわち未分化の間葉系幹細胞と線維芽細胞や結合組織系の細胞等の他細胞集団との識別の問題を克服することができる。したがって、間葉系幹細胞を用いた再生医療の実用化に大きく貢献することができる。
【0030】
また、この間葉系幹細胞の識別方法を用いた間葉系幹細胞、間葉系幹細胞含組成物は再生医療用医薬に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施例における手順の流れの概略を模式的に示す図である。
【図2】本実施例において、DNAマイクロアレイを用いて、間葉系幹細胞(MSC)と他の結合組織系の細胞とにおける遺伝子の発現の差を解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、DNAマイクロアレイ等を用いて、未分化の間葉系幹細胞に特異的に発現する遺伝子を分別マーカーとして検出し、間葉系幹細胞を結合組織系の細胞(例えば、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞)等の他細胞集団から効果的に識別・分離する方法を構築することが可能となる。また、本発明の方法を利用して、試験管内で増殖させた間葉系幹細胞の品質(多分化能を維持しているか否か)を検定することも可能となり、間葉系幹細胞を用いた再生医療の実用化に資することも可能となる。
【0033】
そこで、以下では、まず本発明の特徴的な部分である間葉系幹細胞の識別方法について説明するとともに、併せて当該方法に使用する材料としての識別分離マーカー、マイクロアレイ、抗体について説明する。最後に、識別分離方法、細胞含有組成物(さらに、細胞分泌物(成長因子等)を含むことが好ましい)、再生医療用の医薬、識別・分離キット等の各種応用技術について説明する。
【0034】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、組換え生成されても、化学合成されてもよい。
【0035】
また、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。また、「遺伝子」には、DNAのみならず、RNA(例えばmRNA)をも含む意である。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「遺伝子配列」、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0036】
<1.間葉系幹細胞の識別方法>
本発明に係る間葉系幹細胞の識別方法は、上記表1a~表1jに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子を分別マーカーとして利用し、上記分別マーカーの間葉系幹細胞と結合組織系の細胞とにおける発現の差を検出して、間葉系幹細胞と結合組織系の細胞とを識別する工程を有するものであればよく、その他の工程、条件、使用材料、使用機器等の具体的な構成が特に限定されるものではない。
【0037】
ここで、上記表1a~表1jには、139個の遺伝子を16のクラス(Classification)に分類して表示している。この分類は、各遺伝子がコードするタンパク質の分子機能をEuropean Bioinformatics InstituteによるGene Ontology(GO)に基づいて行った。
【0038】
具体的には、クラス1(Classification 1)は、ATP/GTP結合タンパク質に関するカテゴリーであり、8種類、8つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。また、クラス2(Classification 2)は、結合タンパク質に関するカテゴリーであり、10種類、10のアクセッション番号で示す遺伝子が属する。なお、本明細書及び表では、このクラス2に示す“binding-1~10”は、“DNA/metal ion/collagen binding-1~10”を意味する。クラス3(Classification 3)は、細胞増殖またはメンテナンスに関する因子のカテゴリーであり、11種類、11つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。
【0039】
クラス4(Classification 4)は、サイトカインに関するカテゴリーであり、6種類、6のアクセッション番号で示す遺伝子が属する。クラス5(Classification 5)は、細胞内骨格に関するカテゴリーであり、9種類、9つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。クラス6(Classification 6)は、酵素のカテゴリーであり、3種類、3つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。
【0040】
クラス7(Classification 7)は、細胞外マトリックスまたは細胞内骨格に関するカテゴリーであり、5種類、5つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。クラス8(Classification 8)は、増殖因子またはレセプターに関するカテゴリーであり、7種類、7つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。
【0041】
クラス9(Classification 9)は、膜に関するカテゴリーであり、12種類、12のアクセッション番号で示す遺伝子が属する。クラス10(Classification 10)は、膜結合タンパク質に関するカテゴリーであり、4種類、4つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。
【0042】
クラス11(Classification 11)は、タンパク質結合に関する因子のカテゴリーであり、10種類、10のアクセッション番号で示す遺伝子が属する。クラス12(Classification 12)は、タンパク質修飾に関する因子のカテゴリーであり、8種類、8つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。クラス13(Classification 13)は、シグナル伝達に関与する因子のカテゴリーであり、5種類、5つのアクセッション番号で示す遺伝子が属する。
【0043】
クラス14(Classification 14)は、転写因子に関するカテゴリーであり、12種類、12のアクセッション番号で示す遺伝子が属する。クラス15(Classification 15)は、細胞内輸送に関する因子のカテゴリーであり、13種類、13のアクセッション番号で示す遺伝子が属する。
【0044】
クラス16(Classification 16)は、上記クラスに属しない、その他の因子に関するカテゴリーであり、16種類、16のアクセッション番号で示す遺伝子が属する。なお、上記カテゴリーは、NCBIに開示の公知の情報に基づき分類したものである。
【0045】
このように、上記表1a~表1jに示す遺伝子群は、遺伝子がコードするタンパク質の分子機能に着目して分類したものである。このため、これらの遺伝子を分別マーカーとして利用することにより、間葉系幹細胞と結合組織系細胞とにおける各遺伝子の機能や働きに着目して、間葉系幹細胞と結合組織系細胞とを分別することができる。具体的には、例えば、間葉系幹細胞では、特定の細胞外マトリックスに関連する因子の発現量が多く、一方結合組織系細胞ではそれほどでもないことが知られている場合は、クラス7に属する遺伝子を分別マーカーとして利用することで、簡便かつ正確に間葉系幹細胞を識別できる。
【0046】
また、これらの遺伝子を分別マーカーとして使用することにより、分子機能の面から間葉系幹細胞のマーカーとして評価できる利点もある。
【0047】
なお、上記表1a~表1j中、「Gene symbol」は遺伝子の略称を示し、「Gene title」は遺伝子の一般的な名称およびその他関連する情報を示し、「Genbank number」はGenbankのアクセッション番号を示している。遺伝子データベースに、同一の遺伝子について複数のアクセッション番号が与えられているものが存在する場合(例えばTranscript variantなど)は、その全てのアクセッション番号で示される遺伝子についても本願発明の権利範囲に属することはいうまでもない。
【0048】
また、本明細書において「結合組織」とは、軟骨組織、骨組織を含む支持・結合組織全般の組織のことである。支持組織とは、狭義の結合組織(Connective tissue)と、特殊に分化した結合組織(軟骨組織、骨組織、血液とリンパ)を総称したものである。なお、広義に解釈し、支持組織のことを「結合組織」と称してもかまわない。個体発生学的には「中胚葉(一部、外胚葉に由来する場合もある)」に由来し、身体の内部構造を保持する役割をもつものである。また「結合組織系の細胞」とは、上記支持・結合組織を構成する細胞のことであり、例えば、固定細胞として、線維芽細胞(Fibroblasts)、細網細胞(Reticular cells)、脂肪細胞(Adipose cells)、自由(遊走)細胞として、マクロファージ(組織球または大食細胞)(Macrophages)、肥満細胞(Mast cells)、形質細胞(Plasma cells)、リンパ球(Lymphoid cells)、顆粒性白血球(Granulocytes)、軟骨組織を構成する固定細胞として軟骨細胞(chondrocytes)、骨組織を構成する骨芽細胞(Osteoblasts)、骨細胞(Osteocytes)を挙げることができる。本発明では、これら各種細胞のなかでも特に、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞(これらをまとめて結合組織系細胞と称する)と、間葉系幹細胞との識別を行うものであることが好ましい。
【0049】
また、本発明において「分別マーカー」として使用する上記表1a~表1jの遺伝子群は、後述する実施例に示すように、DNAマイクロアレイを用いて、未分化の間葉系幹細胞、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞のそれぞれの発現プロファイルを調べた実験により、未分化の間葉系幹細胞と他の細胞集団(結合組織系細胞)との間に顕著な発現の差が認められたものである。
【0050】
このため、これらの遺伝子群の発現の差を指標として、未分化の間葉系幹細胞を、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞と簡便、正確にかつ精度よく分別することができる。上記表1の遺伝子群の塩基配列及び当該遺伝子群がコードするタンパク質のアミノ酸配列情報は既に公知であり、特に、遺伝子群の塩基配列情報は、Genbankの遺伝子データベースにおいて、上記表1a~表1jに記載のアクセッション番号によりアプローチすることができる。
【0051】
また、上記表1a~表1jに記載の遺伝子のうち、後述の実施例に示すような判断基準を満たすものが好ましい。例えば、「Fold Average」及び「Expression level」がともに高い数値の遺伝子を単独で、又は適宜組み合わせて用いることが好ましい。さらにいえば、「Fold Averageが2以上」及び/又は「Expression levelが0.5以上」の遺伝子をマーカーとして用いることが好ましい。
【0052】
また、上記分別マーカーとしては、上記表1a~表1jに記載のクラス6,7,8,10,及び13に属する遺伝子から選択される、少なくとも1つ以上の遺伝子を用いることが好ましい。
【0053】
上記表1a~表1j中のクラス6,7,8,10,及び13に属する遺伝子は、特に、間葉系幹細胞と結合組織系細胞とにおいて、大きく発現パターンが異なり、間葉系幹細胞で発現が高いものが多い。このため、分別マーカーとして好適に用いることができる。また、これらの発現の高い、かつ個体差が少ない遺伝子を分別マーカーとして使用することにより、間葉系幹細胞の正確な識別を可能にするような利点もある。
【0054】
さらに、上記表1a~表1jに記載されたクラス6,7,8,10,及び13のそれぞれのクラスから、少なくとも1つずつ選択された遺伝子を組み合わせて用いることがより好ましい。これは、間葉系幹細胞と結合組織系細胞との間において発現パターンが大きく異なるクラスから、それぞれ少なくとも1つずつ遺伝子を選択し、組み合わせて分別マーカーとして用いるという意である。上記のように5つのクラスから少なくとも1つずつ遺伝子を選択することにより、5つのカテゴリーに属する遺伝子のそれぞれについて発現パターンを確認できるため、識別の正確性と精度をより一層高めることができる。
【0055】
また、上記分別マーカーとして、上記表2に記載の遺伝子から選択される、少なくとも1つ以上の遺伝子を用いることが特に好ましい。
【0056】
上記表2は、上記表1a~表1jに記載されている139個の遺伝子のうち、特に好ましいものを6個選択して、まとめたものである。これらの遺伝子は、間葉系幹細胞と結合組織系細胞とにおいて、特に発現パターンが大きく異なっており、かつ、遺伝子自体の発現量も多く、分別マーカーとして使用する場合、最も好適なものである。また、これらの少数のマーカーを用いることにより、間葉系幹細胞の識別においては利便性の向上、コストの削減ができるという利点もある。
【0057】
さらに、上記16クラスに属する遺伝子のうち、同一のクラスに属する遺伝子を複数組み合わせて使用することもできる。例えば、転写因子に関連するクラスに属する遺伝子を組み合わせて分別マーカーとして用いることにより、間葉系幹細胞に特異的なタンパク質合成をかなり上流から把握することができる。また、細胞骨格に関連するクラスに属する遺伝子を組み合わせて用いることにより、ケラチン類等の間葉系幹細胞に特徴的なタンパク質の産生等について把握することができる。また、成長因子に関連するクラスに属する遺伝子を組み合わせて用いることにより、細胞の成長因子産生等について把握できる。また、細胞外基質に関連するクラスに属する遺伝子を組み合わせて用いることにより、細胞の接着性等について把握できる。また、シグナル伝達に関連するクラスに属する遺伝子を組み合わせて用いることにより、細胞外刺激に対する応答性等を把握できる。また、輸送に関連するクラスに属する遺伝子を組み合わせて用いることにより、細胞内輸送の状態等を把握できる。
【0058】
このように、各カテゴリーに含まれる分別マーカーを組み合わせることにより、それぞれのカテゴリーに特有の効果を期待でき、非常に有用性が高い。また、識別の正確性と精度も高くなる。
【0059】
また、上述のような利用以外にも、例えば、16のクラス(その他のクラスは除いてもよい)のそれぞれから少なくとも1つずつ遺伝子を選択し、各クラスの特徴を網羅的に解析することも可能である。なお、このような場合、上記分別マーカーの使用は、各クラスにおいて少なくとも1つずつ用いればよいが、特に、後述する実施例に示す“評価基準”の高いマーカーを使用するほど、また、使用するマーカーの数が増加するほど、識別・解析の正確性と精度が高まり、信頼性の高い識別方法を実行することができる。したがって、上述のように、複数の分別マーカーを組み合わせる場合は、“評価基準”が高いものを優先的に採用し、かつできる限り使用する分別マーカーの数を増やすことが好ましい。
【0060】
また、上記分別マーカーの発現の差の検出は、上記遺伝子の発現の検出、又は上記遺伝子がコードするタンパク質の発現の検出によって行うことができる。具体的には、まず、本発明においては、間葉系幹細胞と結合組織系の細胞とにおける上記のような分別マーカー遺伝子の発現の差を、後記するそれ自体公知の遺伝子の検出手段を用いて検出し、間葉系幹細胞の識別を行うことができる。このため、本発明には、上記表1a~表1jのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、いずれか1つの遺伝子である間葉系幹細胞の識別用分別マーカーが含まれる。
【0061】
本発明において、上記分別マーカーの遺伝子群の発現を検出するには、公知の遺伝子の発現の検出に用いられる従来公知の方法を好適に用いることができる。例えば、下記(a)~(d)のいずれかを、少なくとも1つ以上を固定化させてなる間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイを用いて分別マーカーの遺伝子群の発現を検出することができる:
(a)上記表1a~表1jのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子;
(b)上記表1a~表1jに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、少なくとも1つ以上の遺伝子のアンチセンス鎖;
(c)上記(a)又は(b)の部分塩基配列;及び
(d)上記(a)~(c)のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0062】
上記マイクロアレイとしては、例えば、米国Affymetrix社のDNAマイクロアレイやスタンフォード(Stanford)型のDNAマイクロアレイ等、その他半導体製造で用いられる微細加工技術を用いてシリカ基板上に直接オリゴヌクレオチドを化学合成するDNAマイクロアレイを含む従来公知のあらゆるタイプのマイクロアレイを好適に用いることができ、その具体的な大きさ、形状、システム等については特に限定されるものではない。
【0063】
上述した間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイによれば、多数の分別マーカーの遺伝子群の発現を網羅的・体系的に解析できるため、間葉系幹細胞と結合組織系の細胞とを非常に簡便、正確かつ精度よく識別でき、極めて有用性が高い。したがって、本発明には上記間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイが含まれる。
【0064】
換言すれば、本発明に係る間葉系幹細胞の識別方法においては、複数の分別マーカーを指標として用いることが非常に好ましいといえる。特に、間葉系幹細胞と他の細胞群とにおいて、発現の差が十分に存在し、発現レベルも高い分別マーカーを複数組み合わせて使用することが好ましい。例えば、Fold Average、Expression levelが高いようなCHI3L1,FLG,KRTAP1-5,RGS4,HNT,SLC14A1,IFI30,ZNF423,LXNを適宜組み合わせて使用する場合を挙げることができる。
【0065】
また、上記間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ以外にも、例えば、本発明における分別マーカーの遺伝子群の発現の検出のために、ノーザンブロッティング法を用いることができる。また、本発明における分別マーカーの遺伝子の発現を検出、識別するために、本発明における分別マーカーの遺伝子の全長DNA配列又はその部分配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を有する分別マーカー遺伝子の検出用プローブを用いることができる。
【0066】
上記検出用プローブを用いて間葉系幹細胞と結合組織系の細胞とにおける遺伝子の発現を検出するには、公知の方法を用いて適宜実施することができる。例えば、公知の分別マーカーの遺伝子のDNA配列から適宜の長さのDNAプローブを作製し、適宜蛍光標識等の標識を付与しておき、これを被検体とハイブリダイズすることにより、間葉系幹細胞の検出を行う。上記検出用プローブとしては、公知の分別マーカーの遺伝子の塩基配列のアンチセンス鎖の全長配列又は部分配列からなる分別マーカー遺伝子の検出用のプローブを用いることができる。
【0067】
なお、上記DNAプローブの作製に際して、本発明の塩基配列において、「マーカー遺伝子のDNA配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」条件としては、例えば、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC(0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム)、0.1%のSDS(Sodium dodecyl sulfate)を含む緩衝液による65℃での洗浄処理を挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば種々の要素を組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0068】
また、被検細胞における分別マーカーの遺伝子の発現を検出するに際しては、被検細胞の遺伝子を増幅するために、定量的又は半定量的PCRを用いることができる。上記定量的又は半定量的PCRとしては、例えば、RT-PCR(逆転写PCR)を用いることができる。上記定量的又は半定量的PCRを行うに際しては、本発明におけるマーカー遺伝子を増幅するためのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーからなる1対のプライマーセットを用いる。
【0069】
また、本発明の間葉系幹細胞の識別方法は、インベーダ(Invader(登録商標))法を利用して簡便に行うこともできる。例えば、上述の分別マーカーの配列に特異的にハイブリダイズする配列と酵素切断部位とを有するシグナルプローブを設計し、被検査対象の細胞から抽出したトータルRNA(cDNAでも構わない)、インベーダオリゴ(Invader(登録商標)Oligo)、クリベース酵素(Cleavase(登録商標)Enzyme)、及びフレットプローブ(FRET Probe)とともに所定の温度、所定の時間(例えば、63℃、2時間等)反応させることにより行うことができる。なお、具体的な実験手法や条件については、下記参考文献を参照して適宜行うことができる(参考文献:(i)T.J.Griffin et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 96,6301-6(1999)、(ii)M.W.Kaiser et al.,J Biol Chem 274,21387-94(1999)、(iii)V.Lyamichev et al.,Nat Biotechnol 17,292-6(1999)、(iv)R.W.Kwiatkowski et al.,Mol Diagn 4,353-64(1999)、(v)J.G.Hall et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 97,8272-7(2000)、(vi)M.Nagano et al.,J Lipid Res 43,1011-8(2002)等参照)。上記のように、インベーダ法を利用すれば、遺伝子増幅の必要がない場合もあり、迅速かつ低コストで行うことができる。なお、市販のインベーダ法キットを利用すれば、より一層簡便に本発明を実施できる。
【0070】
また、in situハイブリダイゼーションを用いて、本発明に係る間葉系幹細胞の識別方法を行うこともできる。例えば、上述の分別マーカー又はその部分配列を標識したものをプローブとして用い、スライドグラス上の被検査対象細胞の標本に直接分子雑種を形成させて、その部分を検出することにより簡易に行うことができる。具体的には、スライドグラス上に被検査対象の細胞の薄切片(パラフィン切片、凍結切片など)を調製し、これに標識したプローブをハイブリダイズさせ、ノーザンハイブリダイゼーション法と同じように、プローブを洗い落とし、写真用エマルジョンを塗布し、露光する。現像後、銀粒子の分布から、ハイブリダイズした場所を特定する。より具体的な実験手法や条件については、下記参考文献を用いて適宜行うことができる(参考文献:(i)「in situハイブリダイゼーション法」、(1995年7月)、古庄敏行、井村裕夫監修、金原出版(株)発行、932頁~937頁、(ii)「in situハイブリダイゼーションによる遺伝子発現の解析」、「遺伝子工学実験」、(1991年5月)、野村慎太郎著、(社)日本アイソトープ協会発行、221頁~232頁等参照)。in situハイブリダイゼーション法には、ラジオアイソトープ(主としてH)標識したDNAをプローブとして、その座位をオートラジオグラフィーで検出する方法と、標識されたDNAプローブの蛍光シグナルを蛍光顕微鏡下で検出する方法があるが、いずれの方法を用いてもよい。
【0071】
また、本発明の分別マーカー遺伝子の発現を、当該遺伝子がコードするタンパク質として検出する場合には、このタンパク質を用いて、このタンパク質に特異的に結合する抗体を作製し、この抗体を用いて、後記するそれ自体公知の方法で分別マーカータンパク質の間葉系幹細胞と結合組織系の細胞とにおける発現を検出し、間葉系幹細胞の識別を行うことができる。
【0072】
このため、上記表1a~表1jのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子にコードされるポリペプチドのうち、いずれか1つのポリペプチドである間葉系幹細胞の識別用分別マーカーが含まれる。さらに、下記(e)又は(f)に記載のポリペプチドを用いて誘導され、当該ポリペプチドに特異的に結合する抗体が含まれる:
(e)上記表1a~表1jのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子のうち、いずれかの遺伝子によってコードされるポリペプチド;及び
(f)上記(e)の部分ポリペプチド。
【0073】
なお、上記抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。上記抗体の作製は、例えば、本発明の分別マーカーの遺伝子がコードするポリペプチドの全長配列又はその部分配列を抗原として、従来公知の常法により作製することができる。
【0074】
例えば、モノクローナル抗体を生産する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、抗原でマウスを免疫した後、そのマウス脾臓リンパ球とマウス由来のミエローマ細胞とを融合させてなる抗体産生ハイブリドーマにより、モノクローナル抗体を得ればよい。ハイブリドーマの生産方法は、従来公知の方法、例えば、ハイブリドーマ法(Kohler,G.and Milstein,C.,Nature 256,495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB-細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))、及びEBV-ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R Liss,Inc.,77-96(1985))等を利用することが可能であり、特に限定されるものではない。
【0075】
また、上記抗原としては、ポリペプチドであれば特に限定されるものではないが、抗原決定基とする物質をキャリアタンパク質に結合してなる抗原タンパク質が用いられてもよい。具体的には、上記抗原がハプテンであれば、抗体の産生等を誘導する能力をもたないため、抗体を産生することができないが、抗原を異種由来のタンパク質などの生体高分子からなる担体と共有結合させて抗原タンパク質を得て、これで免疫すれば、抗体産生を誘導することができる。上記担体としては、特に限定されるものではなく、オボアルブミン、γグロブリン、ヘモシアニン等、この分野で従来公知の各種タンパク質を好適に用いることができる。また、モノクローナル抗体は遺伝子組換え技術等によっても生産できる。
【0076】
また、ポリクローナル抗体を生産する方法としては、実験動物に抗原を接種・感作させ、その体液から抗体成分を精製して取得する方法を挙げることができる。なお、免疫させる動物としては、マウス、ラット、ウサギ、サル、ウマ等の従来公知の実験動物を用いることができ、特に限定されるものではない。また、抗原を接種・感作させる場合、その間隔や量についても常法にしたがって適宜行うことができる。
【0077】
また、本発明の抗体を用いて、被検細胞における分別マーカーのタンパク質の発現を検出するには、公知の抗体を用いた免疫学的測定法を用いて実施することができる。上記免疫学的測定法としては、例えばRIA法、ELISA法、蛍光抗体法等の公知の免疫学的測定法を挙げることができる。また、上述した以外にも、例えば、ウェスタンブロッティング法、酵素免疫測定法、抗体による凝集や沈降や溶血反応を観察する方法、組織免疫染色や細胞免疫染色などの形態学的検出法も必要に応じて利用することができる。
【0078】
なお、本発明において、分別マーカーの発現の差の検出は、単一の分別マーカーについて行い、その結果から間葉系幹細胞を識別してもよいが、より正確に、より精度の高い識別を行うためには、複数の分別マーカーの発現の差を指標として識別することが好ましい。このような点からも、分別マーカーとして遺伝子の発現の差を指標する場合、上述の間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイを用いて識別方法を実施することが好ましいといえる。
【0079】
<2.間葉系幹細胞の識別分離方法>
本発明に係る間葉系幹細胞の識別分離方法は、上記<1>欄に記載の間葉系幹細胞の識別方法によって識別された間葉系幹細胞を、分離する工程を有するものであればよく、その他の工程、条件、使用材料、使用機器等の具体的な構成については特に限定されるものではない。
【0080】
本発明において、間葉系幹細胞を分離する方法としては、例えば、蛍光活性化セルソーター(Fluorescence-Activated Cell Sorter:FACS)を用いることができる。具体的には、本発明における抗体を用いて蛍光抗体法により、間葉系幹細胞を標識化し、被検細胞における間葉系幹細胞の分別マーカーのポリペプチドの発現を検出し、間葉系幹細胞を識別、分離することができる。蛍光抗体法により未分化の間葉系幹細胞を標識化するには、本発明における分別マーカーのポリペプチドに特異的に結合する抗体を蛍光標識し、これを、抗原を発現している間葉系幹細胞に結合させて、間葉系幹細胞を標識化する(直接蛍光抗体法)か、或いは、抗原を発現している間葉系幹細胞に、未標識の本発明の特異抗体を結合させた後に、標識化した二次抗体(抗免疫グロブリン抗体)を結合させて間葉系幹細胞を標識化することができる(間接蛍光抗体法)。上述の手法により標識化した間葉系幹細胞は、フローサイトメトリーで測定分離を行い、採取することができる。なお、分離した試料をフィルターにとり落斜蛍光顕微鏡で観察し確認してもよい。
【0081】
また、上述のFACS以外にも、磁気セルソーティング(Magnetic Cell Sorting:MACS)システムにより分離することもできる。MACSは、蛍光標識に替えて磁性を帯びたマイクロビーズを標識化した抗体を用いる。目的細胞はMACS用の磁性マイクロビーズにて標識化された抗体により特異的に標識され、強力な永久磁石に設置された分離カラムにアプライされる。分離カラムでは強力な磁場が生じており、磁気標識された細胞はカラムに保持され、標識されていない細胞はカラムを通過する。分離カラムを強磁場から外すと磁気標識により保持されていた細胞が溶出され、間葉系幹細胞のみを分離・取得することができる。
【0082】
なお、上述のFACSやMACS等による分離工程の前段階として、メンブレンフィルター又は凝集法により試料を濃縮する工程を含んでいてもよい。
【0083】
<3.識別・分離キット>
本発明に係る間葉系幹細胞の識別・分離キットは、下記(g)~(i)のいずれかに記載の物質を備えるものであればよく、その他の具体的な材料、構成部品等については特に限定されるものではない。
(g)上述の間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ;
(h)上述の抗体;及び
(i)上記表1a~表1jのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子又はその部分配列のいずれかと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなる間葉系幹細胞の分別マーカー遺伝子の発現の検出用プローブ。
【0084】
上記間葉系幹細胞の識別・分離キットは、上記<1>欄の間葉系幹細胞の識別方法、又は<2>欄の間葉系幹細胞の識別分離方法を容易に実施するためのものであり、上記(g)~(i)のいずれかを備えることにより、容易に製品化することができる。
【0085】
また、上述したように、上記表1a~表1jに記載の分別マーカーを複数用いて識別方法等を実施することが、正確性、精度の面から好ましいため、本識別・分離キットには、複数の分別マーカーが含まれることが好ましい。例えば、上記<1>欄で説明したように、様々な好ましい組み合わせで遺伝子を選択し、分別マーカー用キットとして使用することができる。
【0086】
上記のように、複数の分別マーカーを組み合わせた場合、単一の分別マーカーを用いる場合に比べて、著しく正確性と精度のよい識別・分離を行うことができる。
【0087】
<4.細胞含有組成物及び再生医療用の医薬>
本発明に係る細胞含有組成物は、上記<2>欄に記載の間葉系幹細胞の識別分離方法によって分離された間葉系幹細胞、又は当該間葉系幹細胞を増殖させたものを含むものであればよく、その他の緩衝液・培養液等の組成、細胞数等の具体的な構成については特に限定されるものではない。さらに、上記細胞含有組成物には、本組成物に含まれる細胞から分泌される分泌物(例えば、増殖因子等)が含まれることが好ましい。
【0088】
上記細胞含有組成物は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱、神経等への多分化能を有する未分化の間葉系幹細胞を含むため、例えば、再生医療用医薬(薬学的組成物)として用いることができる。すなわち、本発明に係る再生医療用医薬は、上記細胞含有組成物を含むものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。なお、本医薬は、例えば、使用に際して、未分化の間葉系幹細胞を使用に適した各種細胞へ分化させて使用することもできる。具体的には、各種サイトカイン等の分化誘導物質を用いて間葉系幹細胞を骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、筋肉細胞、神経細胞等へ分化させ、当該分化させた各種細胞を再生医療の治療対象となる患者に投与すればよい。したがって、本発明には、未分化の間葉系幹細胞を含む医薬以外にも、上記未分化の間葉系幹細胞を分化させた各種細胞組成物を含む再生医療用の医薬も含まれる。
【0089】
また、臨床適用のための上記再生医療用の医薬の投与条件は、常法のモデル動物系等を用いて適宜決定することができる。すなわち、モデル動物を用いて投与量、投与間隔、投与ルートを含む投与条件を検討し、適切な予防または治療効果を得られる条件を決定することができる。このような再生医療用の医薬は、従来の治療方法では再生しなかった、疾病や障害により失った組織を再生し、機能を回復させる「細胞移植による再生医療」のための医薬となる。
【0090】
上記再生医療用の医薬は、上述の「細胞移植による再生医療」を目的として使用されるものであればよく、使用される具体的な疾患・症状・病態等については特に限定されるものではない。具体的には、例えば、下肢虚血(ビュルガー病)患者に対する骨髄間葉系幹細胞の移植、歯周病患部への骨髄間葉系幹細胞の移植、変形性関節症患者に対する骨髄間葉系幹細胞の移植、火傷患部への羊膜上皮シートの移植、糖尿病患者への羊膜幹細胞の移植等の治療等を挙げることができる。
【0091】
また、上記再生医療用の医薬は、薬学的に許容できる所望の担体と組み合わせて組成物とすることができる。担体としては、例えば、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、植物油、乳化剤、懸濁剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、徐放剤、他のタンパク質(BSAなど)、トランスフェクション試薬(リポフェクション試薬、リポソーム等を含む)等が挙げられる。さらに、使用可能な担体としては、グルコース、ラクトース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプンのり、マグネシウムトリシリケート、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、ばれいしょデンプン、尿素、ヒアルロン酸、コラーゲン等の細胞外マトリックス物質、ポリ乳酸、リン酸カルシウム担体などが挙げられる。
【0092】
製剤化する場合の剤型は制限されず、たとえば溶液(注射剤)、マイクロカプセル、錠剤などであってよい。投与は全身または局所的に行い得るが、全身投与による副作用や効果の低下がある場合には、局所投与することが好ましい。
【0093】
また、患者への投与は、各種細胞や疾患等の性質に応じて、例えば外科的、経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内、または経口的に行われうるがそれらに限定されない。投与は全身的または局所的にされ得るが、全身投与による副作用が問題となる場合には病変部位への局所投与が好ましい。投与量、投与方法は、本医薬の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0094】
治療対象となる個体は、原則としてヒトを対象としているが、これ以外にも、愛玩動物(ペット)用の治療用の用途へ使用してもよい。愛玩動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウマ、ヒツジ、ウシなどの非ヒト哺乳動物およびその他の脊椎動物を挙げることができる。
【0095】
また、本発明に係る医薬に含まれる間葉系幹細胞及び当該間葉系幹細胞から分化した各種細胞の由来は、治療対象の個体と同じ由来(いわゆる自家細胞)であることが免疫寛容の点から好ましいが、量産化等を考慮すると異なる由来(いわゆる他家細胞)であっても構わない。この場合は、別途免疫抑制剤等の常法により免疫反応を抑制する必要がある。
【0096】
<5.その他の利用>
間葉系幹細胞は生体内(例えば、骨髄中)でどのように局在しているかについては、全く知見が得られていない。しかし、本発明に係る抗体を用いることにより、生体内の間葉系幹細胞の局在を調べることができる。したがって、この技術を応用して、あらたな医薬品の開発等を行うことが可能になる。具体的には、生体内において、間葉系幹細胞が傷害部分へ移動や遊走する知見が得られた場合、間葉系幹細胞の傷害部分への移動・遊走を促進するような有効成分を含む医薬品を開発することができる。
【0097】
また、本発明に係る間葉系幹細胞の識別方法、間葉系幹細胞の識別用マイクロアレイ、抗体、間葉系幹細胞の識別・分離キット、及び間葉系幹細胞の識別用分別マーカーのいずれか単独、または複数を組み合わせて用いることにより、間葉系幹細胞が関連する疾患が発症しているか、または将来発症する可能性があるかを判定することもできる。本判定方法は、上記疾患の予防と診断の両方を意図したものである。
【0098】
本発明を実行する場合、直接人体に対して処置するのではなく、生体から分離した試料を対象とすることが好ましい。上記生体から分離した試料とは、常法により人体より得ることが可能であるが、例えば、骨髄液、末梢血、臍帯血、脂肪組織、骨膜、筋肉、滑膜、口腔組織から採取した細胞(間葉系幹細胞を含む)等を挙げることができる。特に、上記特許文献1~3に開示の方法により間葉系幹細胞が含まれる生体試料を採取することが好ましい。なお、上記試料には、間葉系幹細胞が含まれていることが好ましい。
【0099】
本判定方法は、例えば、本発明に係る間葉系幹細胞の識別方法等を用いることにより、健常者と疾病罹患者とにおける間葉系幹細胞における分別マーカーの遺伝子発現プロファイルをあらかじめ調べておき、被験者(患者)における間葉系幹細胞の発現プロファイルが上記健常者・疾病罹患者のいずれの発現プロファイルと類似するかを比較検討することによって、被験者が現在疾病を発症しているか、あるいは将来的に疾病を発症する危険性がどの程度あるかを判定することができる。本明細書において「健常者」とは診断対象とする疾患を罹患していない者をいい、「疾病罹患者」とは文字通り診断対象となる疾患を発症している者をいう。なお、本発明に係る疾病の発症を判定する方法において、間葉系幹細胞の識別方法等を利用する形態は上述のものに限られるものではなく、出願当時の常法を用いて適宜変更して利用することができることはいうまでもない。
【0100】
また上記「間葉系幹細胞が関連する疾患」としては、従来公知の間葉系幹細胞の異常、又は間葉系幹細胞からの分化異常等の間葉系幹細胞が関連して引き起こされる疾患(所謂、「再生不良症候群」)であればよく、その具体的な疾患については特に限定されるものではない。例えば、疾病や障害により失った組織を再生し、機能を回復させる「細胞移植による再生医療」の対象となる疾患の他、間葉系幹細胞の量的変化(細胞数の異常等)や質的変化(分化能の異常等)が低下する結果、引き起こされる疾患、つまり間葉系幹細胞の供給不足により発症する疾患等を挙げることができる。具体的には、例えば、下肢虚血(ビュルガー病)、歯周病、変形性関節症、難治性皮膚疾患、糖尿病、及び骨粗しょう症、虚血性の心疾患、肝疾患、腎疾患、神経変性疾患(アルツハイマー病等)等を挙げることができる。
【0101】
また、上記間葉系幹細胞の供給不足により発症する疾患としては、例えば、変形性関節症がある。この疾患は、加齢や生活習慣等の種々の原因により、生体内の間葉系幹細胞の量的変化に異常が起こる(具体的には、間葉系幹細胞の数が減少する)ことにより引き起こされることが推定されている。このため、本発明に係る識別方法等を利用して、生体内の間葉系幹細胞の量的変化を把握することにより、疾患の発症の有無を診断・予防することが可能と考えられる。つまり、本発明に係る識別方法や識別用分別マーカー等を用いることにより、間葉系幹細胞の量的変化を知ることができるため、この技術を利用して、間葉系幹細胞の供給不足により発症する疾患の発症可能性を診断することが可能と考えられる。具体的には、例えば、被験者(患者)から定期的(数ヶ月~数年の間隔)に生体試料を採取し、生体試料中の間葉系幹細胞の量的変化について上記本発明に係る識別方法等を利用して検査する。その検査結果と、予め同様の手法により検査しておいた健常者・疾病罹患者とにおける間葉系幹細胞の量的変化についての検査結果とを比較検討して、上記被験者が変形性関節症に現在発症しているか、または将来的に発症する可能性があるか否かを正確に、精度よく診断することができる。
【0102】
また、本発明には、上記表1a~表1jのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子又はその部分配列に対するsiRNAを含む間葉系幹細胞の未分化性を抑制する再生医療用医薬が含まれる。これは、RNAiを利用して、間葉系幹細胞の未分化性を抑制する医薬のことである。すなわち、上記表1a~表1jのいずれかに記載のアクセッション番号に示される塩基配列を有する遺伝子又はその部分配列を用いたRNAi/siRNAを用いる間葉系幹細胞の未分化性を抑制する再生医療用医薬とも換言できる。
【0103】
上記再生医療用医薬によれば、確実かつ効率的に間葉系幹細胞の未分化性を抑制することができる。このため、再生医療に大きな利点をもたらすことができる。
【0104】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0105】
本実施例では、ヒトの線維芽細胞(以下、「FB」と称する場合もある)を3株、間葉系幹細胞(以下、「MSC」と称する場合もある)を3株、骨芽細胞(以下、「OS」と称する場合もある)を3株、軟骨細胞(以下、「CH」と称する場合もある)を3株、脂肪細胞(以下、「AD」と称する場合もある)3株を対象として、DNAマイクロアレイを用いて、それぞれの細胞における遺伝子の発現プロファイルを調べた。なお、骨芽細胞、軟骨細胞、及び脂肪細胞は、それぞれ間葉系幹細胞から試験管内にて分化誘導して得られたものである。
【0106】
(0)分化誘導及びトータルRNAの回収
まず、間葉系幹細胞を脂肪細胞、軟骨細胞、又は骨芽細胞へと分化させ、トータルRNAを回収した。具体的には、以下のように行った。
【0107】
(0-1)脂肪細胞への分化誘導及びRNA回収
基本培地及び脂肪分化誘導培地、脂肪分化維持培地として以下の組成の培地を使用した。
・脂肪分化誘導培地
基本培地:DMEM(Sigma:D5796,high glucose=4500mg/L)
添加物:10%(V/V)FBS(Hyclone,Lot No.:ANC18139)
Penicillin-Streptomycin(Sigma:P0781)
以下は、用時添加する(2週間で使い切り)
Insulin:10μg/mL(10mg/mL酢酸水溶液ストック)(Wako:090-03446)
Dexamethason:1μM(10mM EtOHストック)(Sigma:D4902)
Indomethacin:200μM(2000mM DMSOストック)(Wako:097-02471)
3-isobutyl-1-methylxanthine:500μM(1000mM DMSOストック)(Wako:537-72353)
脂肪分化維持培地
基本培地:DMEM(Sigma:#D-5796,high glucose=4500mg/L)
添加物:10%(V/V)FBS(Hyclone,Lot No.:ANC18139)
Penicillin-Streptomycin(Sigma:P0781)
以下は、用時添加する(2週間で使い切り)
Insulin:10μg/mL(10mg/mL酢酸水溶液ストック)(Wako:090-03446)
なお、培地が2週間経過した場合は、L-glutamine:2mM(200mM PBSストック)(Sigma:G3126)を添加した。以後、2週間毎に再添加する。
【0108】
MSCがコンフルエントに達した後、上記脂肪分化誘導培地で2日、脂肪分化維持培地で3日間交互に培地交換し、計11日間培養後、トータルRNAを回収した。培地交換は古いメディウムを10%残し、水面に滴下するようにして穏やかに新しい培地を加えた。全ての添加物は、培地交換時に調製した。
【0109】
脂肪分化後のRNAの抽出は以下のように行った。まず、11日間、脂肪分化誘導した細胞(φ100mmディッシュ)を準備した。次に、培地を吸引除去し、PBSで2回洗浄した。次いで、TRIzol(登録商標)(4000μL/φ100mmディッシュ)を加え、21Gニードル、1mlシリンジを使用してホモジナイズした。続いて、クロロホルムを1/4量加えてボルテックス後、20分間室温で静置した。次に、14000rpm,20分間室温で遠心した(Tomy,MCX-150)。その後、上清を新しいエッペンドルフチューブに移し、上清と等量の70%EtOH(RNase free水使用)を加えた。サンプル700μlをRNeasy(登録商標)Miniカラムにアプライ後、バキュームを行った(Qiagen,QIAvac 24)。全てのサンプルが無くなるまで繰り返した(2カラム/φ100mmディッシュ1枚)。なお、以上の処理は、RNeasyキットに添付の説明書に従った。最後に、Ambion社製のキット(#1906)を使用し、RNAの精製を行った。
【0110】
(0-2)軟骨細胞への分化誘導及びRNA回収
軟骨分化誘導培地として以下の組成の培地を使用した。
・軟骨分化誘導培地
αMEM(Sigma:#4526)
Penicillin Streptomycin:(Sigma:#P0781)
L-glutamine:2mM(stock sol 200mM PBS)(Sigma:#G3126)
Dexamethason:10-7M(stock sol 1M EtOH)(Sigma:#D-1756)
Ascorbate 2-phosphate:50μg/ml(stock sol 50mg/ml MQ)(Sigma:#A-8960)
D-(+)-glucose:4.5g/l(stock sol 450g/l)(Sigma:#G-8769)
Pyruvate:100μg/ml(stock sol 100mg/ml MQ)(Sigma:#28-4020-2)
ITS-plus:1%(V/V)(insulin 6.25μg/ml,transferring 6.25μg/ml,selenous acid 6.25μg/ml,linoleic acid 5.33μg/ml,bovine serum albumim 1.25mg/ml)(BD:#354352)
TGF-β3:10ng/ml(stock sol 10μg/ml HCl 4mM,HSA or BSA 1mg/ml)(Pepro Tec ECL Ltd #100-36)
なお、軟骨分化誘導培地は2週間使い切りとした。また、TGF-β3は最初に添加せず、培地交換の際に用時添加した。
【0111】
軟骨分化培養法は、ペレット培養法を用いた。具体的には、まず、播種密度は2.5×10cell/試験管とし、最初の軟骨分化培地添加量は、0.5ml/試験管として培養した。次に、播種後、遠心した(500g×5min)。続いて、細胞播種した日をday0とし、1回目の培地交換から1ml/試験管とし、3日ごとに培地交換を行った。培養期間は28日とした。
【0112】
RNAの抽出は以下のように行った。まず、28日間軟骨分化誘導した細胞(×6ペレット以上)を準備した。次に、培地を吸引除去し、PBS0.4ml加えて、これを吸引した。続いて、TRIzol(登録商標)(Invitrogen:15596-018)を0.2ml/tube加え、ペレットペッスルとシリカ粉末で粉砕抽出した。さらに0.8ml/tube追加し、抽出物をチューブに移した後、クロロホルム処理、エタノール処理以後はRNeasyキットを用いた。その後の処理は、上述の脂肪分化の場合と同様に抽出した。
【0113】
(0-3)骨芽細胞への分化誘導及びRNA回収
基本培地及び骨分化誘導培地として以下の組成の培地を使用した。
基本培地
・DMEM(Sigma D6046)
・終濃度10% FBS(Hyclone社)(牛胎仔血清)
・抗生剤penicillin-streptmycin(Sigma:P0781)
骨分化誘導培地
・DMEM(Sigma D6046含 glucose 1000mg/L)
・終濃度10% FBS(Hyclone社)
・終濃度10-7M Dexamethason(Sigma D-1756)
・終濃度10mM β-glycerophosphate(東京化成工業G-0195)
・終濃度50μg/ml Ascorbate 2-phosphate(Sigma:A-8960)を2週間おきに添加
・終濃度2mM L-glutamineを2週間おきに添加
・抗生剤penicillin-streptmycin(Sigma:P0781)
なお、参考文献として、Osteogenic differentiation of purified culture-expanded human、mesenchymal stem cell in vitro.、Jaiswal N.J.et al.,Cell Biochem.64,295-312,1997を参照した。
【0114】
まず、0.01% Collagen type1溶液(機能性ペプチドIFP9660)で、培養プレート表面を4℃、一昼夜浸した。その後、溶液を除き、PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)で2回洗浄した。次に、間葉系幹細胞の上記基本培地で細胞を播種した(10000cells/cm)。コンフルエント状態(集密状態)になるまで培養(播種後2~3日)し、上記骨分化誘導培地に培地交換した(day0)。以降3日おきに骨分化誘導培地で培地交換した。28日目にトータルRNAを回収した。なお、トータルRNAの回収は上述した脂肪細胞の欄で説明したものと同様の方法で行った。
【0115】
トータルRNAを回収した後の実験の大まかな流れを、図1に示す。
【0116】
(1)cDNA/cRNA合成
まず、サンプルRNAからT7オリゴdTプライマーを使用して2本鎖cDNAを合成した。続いて、得られた2本鎖cDNAを用いて、in vitro Transcription反応によりcRNAを合成。このcRNA合成の際にビオチン標識リボヌクレオチドを取り込み、サンプルを標識した。
【0117】
(2)ハイブリダイゼーション
次に、ビオチン標識cRNAを断片化してGeneChip(登録商標、Affymetrix社製)プローブアレイにハイブリダイズした。
【0118】
(3)蛍光標識
次いで、オーバーナイトでハイブリさせたアレイを洗浄した後、ストレプトアビジン-フィコエリスリンを投入しサンプルを蛍光標識した。
【0119】
(4)スキャニング/データ解析
最後に、蛍光標識されたアレイをスキャニングし、イメージ画像を取得。得られた画像を、専用解析ソフトを用いて、シグナルの数値化・発現解析を行った。
【0120】
なお、上記(1)~(4)の各工程については、(株)KURABOが提供する、Affymetrix社の作製するDNAマイクロアレイ「GeneChip(登録商標)」を使用した受託解析サービスを利用した(http://www.bio.kurabo.co.jp/idensi/genechip/genechiptop.htm)。本受託解析サービスは、サンプルRNAを提供するだけで、GeneChip(登録商標)の解析を行ってくれるものである。したがって、(2)~(4)の各工程についての説明は上記URL及び同社の提供する受託解析サービスを参照することにより当業者であれば理解可能であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0121】
本実施例では、GeneChip(登録商標)は、Human Genome U133 Plus 2.0 Arrays(HG-U133 Plus 2.0)を用いた。また、本実施例における上記受託解析サービスのGeneChip解析条件は以下の通りである。
【0122】
ビオチン標識ターゲット調製は、開始条件としてトータルRNAを2μg用いた。解析プロトコールとして、One-cycle Target Labeling、GeneChip Expression Analysis Technial Manual,701021 Rev.5、Section 2 Eukaryotic Sample and Array Processing、Chapter 1 Eukaryotic Target Preparationを用いた。
【0123】
ハイブリダイゼーション/スキャンにおいては、解析プロトコールとして、GeneChip Expression Analysis Technial Manual,701021 Rev.5、Section 2 Eukaryotic Sample and Array Processing、Chapter 2 Eukaryotic Target Hybridizationを用いた。また、ハイブリダイゼーションオーブンとしては、Hybridization Oven 640 110V(Affymetrix 800138)を用いた。洗浄/染色装置として、Fluidies Station 450(Affymetrix 00-0079)を用いた。スキャナとして、GeneChip Scanner 3000(Affymetrix 00-0074)を用いた。ソフトウェアは、GeneChip Operating Software ver1.1(Affymetrix 690036)を用いた。
【0124】
スキャン画像解析・数値化においては、解析プロトコールとして、GeneChip Expression Analysis Technial Manual,701021 Rev.5、Section 2 Eukaryotic Sample and Array Processing、Chapter 3 Washing,Staining,and Scanningを用いた。ソフトウェアとして、GeneChip Operating Software ver1.1を用い、アルゴリズムとして、Statisticalを用いた。解析パラメータとして、CIIPファイル作成時に、Scaling Factor;1、Target Value;500、Detection Call;Alpha1=0.05,Alpha2=0.065,Tau=0.015を用いた。
【0125】
上記(4)のスキャニング/データ解析の結果得られたシグナルの数値化・発現解析に関するデータを、Silicon Genetics社製の遺伝子解析ソフトウェアGeneSpring(商品名、トレードマーク、http://www.silicongenetics.com/cgi/SiG.cgi/Products/GeneSpring/index.smf)を用いて遺伝子リストの作成等の解析作業を行った。なお、ソフトウェアGeneSpringの使用方法については、添付の取扱説明書にしたがった。
【0126】
すなわち、本実施例では、ヒト遺伝子(プローブ)54675個に関する、各種細胞の遺伝子発現プロファイルを解析した。具体的には、多様な細胞に分化する能力をもった間葉系幹細胞(MSC)3株と、MSCを骨分化させた細胞(OS)3株と、MSCを軟骨分化させた細胞(CH)3株と、MSCを脂肪分化させた細胞(AD)2株と、MSCと形は良く似ているが、多様な細胞に分化する能力をもたない皮膚・歯肉由来繊維芽細胞(FB)3株と、の合計15株に関して各々細胞に含まれるRNAを回収し、54675個のヒト遺伝子(プローブ)に関して発現強度をDNAマクロアレイで解析した。
【0127】
上述の解析結果を図2に示す。図中の折れ線1本は1つの遺伝子(プローブ)に対応し(つまり、図中には54675本の折れ線が存在する)、横軸に示した細胞毎の遺伝子発現強度を縦軸に示した。横軸の左から、脂肪分化したAD(3株)、軟骨分化したCH(3株)、皮膚・歯肉のFB(3株)、幹細胞MSC(3株)、骨分化したOS(3株)を示す。なお、例えば、左端の脂肪分化させたAD2株は同種の細胞であるため、同じ遺伝子は同じ発現レベルを示す傾向がある。このため、折れ線も平行になる傾向がある。
【0128】
また、図2をカラー図面で示す場合、折れ線はMSCの発現強度を基準に色付けされており、赤色はMSCで強発現している遺伝子、青色はMSCにおいて弱い発現、黄色は中程度の発現を示す。なお、モノクロ図面の場合、上記情報は示さない。
【0129】
このため、図2の中ほど右に並べたMSC3株において赤く示され、かつ、その他の細胞種において発現強度が低くなる遺伝子は、MSCの特異的未分化マーカーとして利用可能であると考えられる。つまり、「MSCでは発現が高いが、その他の細胞では低い遺伝子」という特徴的な発現プロファイルを示す遺伝子群を選び出し、骨、軟骨、脂肪、線維芽細胞と、間葉系幹細胞とを区別できるMSCの特異的分別マーカーとして同定した。上記MSCの特異的な分別マーカーの具体的な選別方法については、以下のように行った。
【0130】
まず、具体的な分別マーカーの選定の前処理として、GeneChip(登録商標)の解析結果から得られるflag情報を用いた。具体的には、flag情報のうち、遺伝子が発現していることを示すpresent callまたはmargenal callを示す遺伝子を選択した。これは、MSCの発現レベルが低ければ、他の細胞群と比較して発現に差があった場合でも、正確で精度よく検出できない可能性があるためである。
【0131】
そして、上記前処理条件を満たす遺伝子群から、MSC特異的な分別マーカーを選別した。具体的には、今回の実験では、MSC、OS(MSCから骨分化させたもの)、CH(MSCから軟骨分化させたもの)、AD(MSCから脂肪分化させたもの)、FBの5つの細胞において、種々の遺伝子の発現を調べて比較している。このため、1つの遺伝子に対して、5つの細胞の相対的な発現強度の値が得られる。この5つの値のうち、MSCの値を除いた4つの値と、MSCの値とを比較して、MSCの発現強度の値と最も差の小さな細胞の発現強度の値で、MSCの発現強度の値を除した数値が、2以上であることを選定基準の1つとした。
【0132】
換言すれば、MSCの発現レベルが、ADの発現レベルの2倍以上を示し、かつ、CHの発現レベルの2倍以上を示し、かつ、FBの発現レベルの2倍以上を示し、かつ、OSの発現レベルの2倍以上を示すことを選定基準の1つとした。これは、MSCの発現強度と最も差の少ない細胞の発現強度との間において、少なくとも2倍の違いがあれば、正確に、精度よくMSCと他の細胞群とを識別することができるためである。つまり、MSCと他の細胞群との発現の差の値が2以上であれば、実用的なマーカーとして使用に堪え得るわけである。
【0133】
このようにして算出したMSCと他の細胞群とにおける発現の差の数値は、MSCにおける各遺伝子の発現が、他の細胞に比べてどの程度強く発現しているかを具体的に示す指標となり得る。このため、「この値が2以上であること」を選択基準の1つとした。すなわち、本発明では、未分化の間葉系幹細胞を特異的に選択するための分別マーカーの探索を目的としているため、間葉系幹細胞における遺伝子の発現が、他の細胞に比べて、明らかに大きいものを選定すべきだとの理由から、上述のように選択基準を設定した。
【0134】
もう1つの選択基準として、「MSCにおける遺伝子の発現強度が高いこと」を用いた。これは、間葉系幹細胞における発現量の絶対値が小さくては、正確に精度の高い検出が困難となったり、誤差が大きくなったりする可能性があるためである。つまり、絶対的な発現量が大きな遺伝子でなければ、分別マーカーの候補として不適切であると考えたため、この「MSCにおける遺伝子の発現強度が0.5以上であること」をもう1つの選択基準とした。
【0135】
上述の選定基準を満たす遺伝子として、139個の遺伝子を未分化のMSCの分別マーカーとして選別した。その139個の分別マーカー情報及び選別した際の基準となった上記選定基準に関する評価を下記表3a~表3eに示す。
【0136】
【表3a】
JP0005190654B2_000013t.gif【表3b】
JP0005190654B2_000014t.gif【表3c】
JP0005190654B2_000015t.gif【表3d】
JP0005190654B2_000016t.gif【表3e】
JP0005190654B2_000017t.gif【0137】
ここで、表3a~表3e中、「Classification」、「Gene symbol」、「Genbank number」は、上記表1a~表1jそれらと同一である。また、「Fold Average」は、各遺伝子の発現が、他の細胞に比べてどの程度強く発現しているかを示す指標であり、上述した選択基準の1つである。本発明では、この数値が2以上であるものを好ましいものと判定した。
【0138】
また、「Expression level」は、MSCにおける発現強度が高いことの指標であり、選択基準の1つである。本発明では、この数値が0.5以上であるものを好ましいものと判定した。
【0139】
また、「Fold Average」は以下のように算出した。本実施例における実験では、1つの遺伝子に対して、5種類の細胞毎に相対的な発現強度の値が得られる。そこで、この5つの値のうち、MSCの値を除いた4つの値と、MSCの値とを比較して、MSCの発現強度の値と他の細胞の発現強度の値で、MSCの発現強度の値を除したものを“Fold Change”とし、各細胞に対するFold Changeの平均値を「Fold Average」とした。すなわち、例えば、MSCにおける遺伝子の発現量の値が4.2、OSの値が0.3、CHの値が0.4、ADの値が1.5、FBの値が1.3である場合、“Fold Change”の値は、MSC/OS=14.0となる。同様に、各細胞に対するFold Changeを求め、これらの平均値を「Fold Average」とする。
【0140】
上記表3a~表3eに示す139個の遺伝子は、上述した選定基準を満たし、本発明に係る分別マーカーとしての使用に堪えるものである。なお、これらの遺伝子の中で、特に、上記2つの選択基準を満たすものが好ましい。
【0141】
したがって、これらの遺伝子は、MSCと他の結合組織系の細胞(FB,OS,CH,AD)とにおいて、発現が異なる。具体的には、MSCのみにおいて特異的に発現しており、他の結合組織系の細胞においては、MSCと識別できる程度に弱く発現している。このため、これらの遺伝子の発現を分別マーカーとして用いることにより、MSCのみを特異的に識別することができる。
【0142】
【産業上の利用可能性】
以上のように、未分化の間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、筋肉、腱、神経などに分化することができる。このため、再生医療への利用の観点から、これらの組織の障害を修復させるための移植用細胞として期待されている。再生医療の実用化に際しては、その細胞が間葉系幹細胞であること、及び該間葉系幹細胞が多分化能を維持していることを正確に、精度よく、かつ簡便に確認する必要があるが、本発明によれば、上記の技術的課題を解決することができる。このため、間葉系幹細胞を用いた再生医療の実用化に非常に大きな役割を果たすことができる。このような本発明は、学術的だけでなく、医療業・製薬業等を含めた幅広い産業上の利用可能性がある。
図面
【図1】
0
【図2】
1