TOP > 国内特許検索 > センサー素子およびこれを用いた外部刺激測定装置並びに外部刺激の測定方法 > 明細書

明細書 :センサー素子およびこれを用いた外部刺激測定装置並びに外部刺激の測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5120808号 (P5120808)
登録日 平成24年11月2日(2012.11.2)
発行日 平成25年1月16日(2013.1.16)
発明の名称または考案の名称 センサー素子およびこれを用いた外部刺激測定装置並びに外部刺激の測定方法
国際特許分類 G01N  21/64        (2006.01)
G01N  21/27        (2006.01)
FI G01N 21/64 F
G01N 21/27 Z
請求項の数または発明の数 14
全頁数 24
出願番号 特願2007-514713 (P2007-514713)
出願日 平成18年4月24日(2006.4.24)
国際出願番号 PCT/JP2006/308556
国際公開番号 WO2006/118077
国際公開日 平成18年11月9日(2006.11.9)
優先権出願番号 2005133431
優先日 平成17年4月28日(2005.4.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年3月17日(2009.3.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
発明者または考案者 【氏名】宮田 隆志
【氏名】浦上 忠
【氏名】大川 香織
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】横井 亜矢子
参考文献・文献 特開2002-201366(JP,A)
特開2002-174597(JP,A)
特開2003-147210(JP,A)
特開2003-113249(JP,A)
調査した分野 G01N 21/00,21/01
G01N 21/17-21/83
C08L 101/00
C08J 5/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
外部刺激に応じて体積変化する刺激応答性ゲルの、外部刺激に応じた体積変化を光学的情報に変換するセンサー素子であって、
当該センサー素子は、刺激応答性ゲルに、光学特性分子が導入されている、光学特性分子導入刺激応答性ゲルからなり、
上記光学特性分子は、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子であり、
当該光学特性分子導入刺激応答性ゲルにおける、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、上記刺激応答性ゲル内の蛍光発色団を有する分子の濃度、または、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲル内の可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度が、それぞれ、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度と、略比例するような範囲であり、
上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化と、蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度との両対数プロットは直線関係にあり、
上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度の測定結果を、体積変化を定量的に示すものとして用いて、外部刺激を測定可能となっていることを特徴とするセンサー素子。
【請求項2】
上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、乾燥状態の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを100重量%としたときに、0.01重量%以上10重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のセンサー素子。
【請求項3】
上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、乾燥状態の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを100重量%としたときに、0.1重量%以上5重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサー素子。
【請求項4】
上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子は、化学結合により、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルに導入されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項5】
上記光学特性分子は、蛍光発色団を有する分子であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項6】
上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて膨潤または収縮により体積変化する際に、吸収または放出する液体が水または有機溶媒である請求項1ないしのいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項7】
上記外部刺激は、pH、イオン濃度、熱、電気、認識する分子、生体状態の変化を示すシグナル、磁場または光であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載のセンサー素子。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項に記載のセンサー素子と、センサー素子が外部刺激に応じて吸収または放出する液体とを含み、当該センサー素子を外部刺激に暴露させて体積変化を起こす試料部と、当該試料部に特定波長の光を照射して、センサー素子の蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定する光学的情報測定部とを少なくとも含むことを特徴とする外部刺激測定装置。
【請求項9】
さらに、上記光学的情報測定部で測定された蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を電気信号に変換し出力する光学的情報出力部を含むことを特徴とする請求項に記載の外部刺激測定装置。
【請求項10】
さらに、上記光学的情報出力部から出力された電気信号からセンサー素子の体積変化を引き起こした外部刺激の大きさを算出する演算処理部とを備えることを特徴とする請求項に記載の外部刺激測定装置。
【請求項11】
上記演算処理部は、上記蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度に応じた上記外部刺激の大きさを示す検量線を記憶していることを特徴とする請求項10に記載の外部刺激測定装置。
【請求項12】
上記外部刺激は、pH、イオン濃度、熱、電気、認識する分子、生体状態の変化を示すシグナル、磁場または光であることを特徴とする請求項ないし11のいずれか1項に記載の外部刺激測定装置。
【請求項13】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のセンサー素子と、当該センサー素子が外部刺激に応じて吸収または放出する液体とを、大きさの異なる既知の外部刺激に暴露させて、センサー素子に体積変化を起こし、それぞれの大きさの外部刺激に暴露させたセンサー素子に特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定し、蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度に応じた外部刺激の大きさを示す検量線を決定するステップと、
上記センサー素子と、センサー素子が外部刺激に応じて吸収または放出する液体とを、未知の大きさの外部刺激に暴露させて、暴露させたセンサー素子に特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定するステップと、
測定により得られた蛍光強度または吸光度から、上記検量線を用いて、対応する外部刺激の大きさを決定するステップとを含むことを特徴とする外部刺激の測定方法。
【請求項14】
上記外部刺激は、pH、イオン濃度、熱、電気、認識する分子、生体状態の変化を示すシグナル、磁場または光であることを特徴とする請求項13に記載の外部刺激の測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性分子導入刺激応答性ゲルおよびこれを用いた外部刺激測定装置並びに外部刺激の測定方法に関するものであり、特に外部刺激に応じた体積変化を、簡便且つ確実に、光学的情報に転換可能な光学特性分子導入刺激応答性ゲルおよびこれを用いた外部刺激測定装置並びに外部刺激の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
pH、温度、イオン濃度などの外部刺激に応じて膨潤または収縮により体積変化を起こす刺激応答性ゲルはセンサー素子等として高い可能性を持っている。従来、その体積変化は主に顕微鏡による体積測定や天秤などによる重量測定による評価が中心であった。しかし、かかる方法では、実際に刺激応答性ゲルをセンサー素子として利用して新しいシステムを構築する場合には取り扱いの上で大きな障害となる。
【0003】
そこで最近では、このような問題を解決するために、刺激応答性ゲル内にシリカ粒子などの微粒子を配列し、これによって生じる構造色を利用したシステムが報告されている(例えば、非特許文献1、特許文献1等参照。)。この方法では、刺激応答性ゲルが外部刺激によって膨潤率を変化させるとシリカ粒子の間隔が変化して、構造色の波長や強度が変化することを利用して、体積変化を光学的変化に変換する。また、かかる微粒子を並べた刺激応答性ゲルから当該微粒子のみを溶解して規則正しい孔を並べることによっても同様に構造色が現れるので、かかる方法によって体積変化を光学的変化に変換するシステムも報告されている(例えば、特許文献2等参照。)。
【0004】
また、刺激応答性ゲルの体積変化自体を光学的情報に変換するものではないが、2枚の透明な板の間に刺激応答性ゲル粒子を並べて光を照射し、刺激応答性ゲル粒子の体積変化によって光の透過率を変化させる光学素子やセンサについての報告がある(例えば、特許文献3、4、5、6等参照。)。これらの報告では、色材が分散されている刺激応答性ゲル粒子を用いることについて記載されており、刺激応答性ゲル粒子が膨潤すると、2枚の板の間には膨潤したゲル粒子が充満し、光はすべてゲル粒子中の顔料等に吸収されるため着色状態となり、一方ゲル粒子が収縮した状態では、ゲル粒子が2枚の板の間の空間を占める割合が非常に小さくなり、光は殆ど顔料等に吸収されずに透過するため消色状態となることを利用することが記載されている。

【特許文献1】特表2001-505236号公報(平成13年(2001)4月17日公開)
【特許文献2】特開2004-27195号公報(平成16年(2004)1月29日公開)
【特許文献3】特開2000-266676号公報(平成12年(2000)9月29日公開)
【特許文献4】特開平11-228850号公報(平成11年(1999)8月24日公開)
【特許文献5】特開2001-33832号公報(平成13年(2001)2月9日公開)
【特許文献6】特開2005-10490号公報(平成17年(2005)1月13日公開)
【非特許文献1】J.H.Holtz,S.A.Asher,Nature,389,829-832(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の構成では、簡便且つ確実に、刺激応答性ゲルの体積変化を光学的情報に変換することは困難である。
【0006】
すなわち、上記特許文献1、非特許文献1で報告されているシリカ粒子を充填した刺激応答性ゲルや、特許文献2で報告されているシリカ粒子を並べた刺激応答性ゲルから当該微粒子のみを溶解して規則正しい孔を並べる刺激応答性ゲルでは、その合成段階でシリカ粒子を厳密に配列させる必要があるため、簡便さ・確実さに欠ける。また、シリカ粒子を充填した刺激応答性ゲルでは、刺激応答性ゲル内に多量のシリカ粒子を充填させなければならない。そのため、刺激応答性ゲルそのものの性質が損なわれてしまう場合がある。
【0007】
また、特許文献3、4、5、6で報告されている、光学素子やセンサで用いられている色材が分散されている刺激応答性ゲル粒子を用いる技術は、単に、2枚の板の間に存在する刺激応答性ゲル粒子の集合が膨潤すれば多くの光が顔料等に吸収されることを利用するものであり、吸収される光の量により、体積変化の有無を定性的に検知することはできるが、外部刺激に応じた刺激応答性ゲルの体積変化を光学的情報に変換することができるものではない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、外部刺激に応じた体積変化を、簡便且つ確実に、光学的情報に転換可能な刺激応答性ゲルおよびこれを用いた外部刺激測定装置並びに外部刺激の測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、上記課題を解決するために、外部刺激に応じて体積変化する刺激応答性ゲルに、光学特性分子が導入されている、光学特性分子導入刺激応答性ゲルであって、上記光学特性分子は、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子であり、当該光学特性分子導入刺激応答性ゲルにおける、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、上記刺激応答性ゲル内の蛍光発色団を有する分子の濃度、または、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲル内の可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度が、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度と、略比例するような範囲であることを特徴としている。
【0010】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルでは、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、乾燥状態の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを100重量%としたときに、0.001重量%以上30重量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルでは、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子は、化学結合により、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルに導入されていることが好ましい。また、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子は、静電相互作用または水素結合により、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルに導入されていてもよい。
【0012】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルでは、光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて膨潤または収縮により体積変化する際に、吸収または放出する液体が水または有機溶媒であることが好ましい。また、光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて膨潤または収縮により体積変化する際に、吸収または放出する液体は有機溶媒であってもよい。
【0013】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルでは、上記外部刺激は、pH、イオン濃度、熱、電気、認識する分子、生体状態の変化を示すシグナル、磁場または光であることが好ましい。
【0014】
本発明にかかる外部刺激測定装置は、本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルと、光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて吸収または放出する液体と含み、当該光学特性分子導入刺激応答性ゲルを外部刺激に暴露させて体積変化を起こす試料部と、当該試料部に特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定する光学的情報測定部とを少なくとも含むことを特徴としている。
【0015】
本発明にかかる外部刺激測定装置は、さらに、上記光学的情報測定部で測定された蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を電気信号に変換し出力する光学的情報出力部を含むことが好ましい。
【0016】
本発明にかかる外部刺激測定装置は、さらに、上記光学的情報出力部から出力された電気信号から光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を引き起こした外部刺激の大きさを算出する演算処理部とを備えることが好ましい。
【0017】
上記演算部は、上記蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度に応じた上記外部刺激の大きさを示す検量線を記憶していることが好ましい。
【0018】
本発明にかかる外部刺激測定装置では、外部刺激は、pH、イオン濃度、熱、電気、認識する分子、生体状態の変化を示すシグナル、磁場または光であることが好ましい。
【0019】
本発明にかかる外部刺激の測定方法は、本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルと、当該光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて吸収または放出する液体とを、大きさの異なる既知の外部刺激に暴露させて、光学特性分子導入刺激応答性ゲルに体積変化を起こし、それぞれの大きさの外部刺激に暴露させた光学特性分子導入刺激応答性ゲルに特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定し、蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度に応じた外部刺激の大きさを示す検量線を決定するステップと、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルと、光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて吸収または放出する液体とを、未知の大きさの外部刺激に暴露させて、暴露させた光学特性分子導入刺激応答性ゲルに特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定するステップと、測定により得られた蛍光強度または吸光度から、上記検量線を用いて、対応する外部刺激の大きさを決定するステップとを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、以上のように、外部刺激に応じて体積変化する刺激応答性ゲルに、光学特性分子が導入されている、光学特性分子導入刺激応答性ゲルであって、上記光学特性分子は、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子であり、当該光学特性分子導入刺激応答性ゲルにおける、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、上記刺激応答性ゲル内の蛍光発色団を有する分子の濃度、または、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲル内の可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度が、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度と、略比例するような範囲である構成を備えているので、刺激応答性ゲル内に規則正しく粒子を入れるなどの面倒な手順を必要とせず、光学特性分子導入刺激応答性ゲル製造時に蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子を導入するだけで製造できるという非常に簡便で確実な方法で、刺激応答性ゲルの体積変化を光学的情報に変換することが可能になる。また、導入する蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が少量であるために刺激応答性ゲルそのものの性質をほとんど損なうことがない。
【0021】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施例において、ビニル基導入5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)を合成する化学反応式を示す図である。
【図2】図2は、実施例において、蛍光発色団が導入されている光学特性分子導入刺激応答性ゲル(PAAc-EDANSゲル)を製造するための化学反応式を示す図である。
【図3】図3は、実施例において、様々な濃度のNaCl水溶液中における円柱状のPAAc-EDANSゲルの膨潤率(体積変化)を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例において、様々な濃度のNaCl水溶液中における板状のPAAc-EDANSゲルの膨潤率(重量変化)を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例において、円柱状のPAAc-EDANSゲルの膨潤率(体積変化)と蛍光強度との関係を示す図である。
【図6】図6は、実施例において、相対的蛍光強度と円柱状のPAAc-EDANSゲルの膨潤率(体積変化)との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例において、板状のPAAc-EDANSゲルの膨潤率(重量変化)と相対蛍光強度との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルの膨潤率と蛍光強度との関係を模式的に示す図である。
【図9】図9は、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを用いたゲルチップをアレイ状に複数配列した構成を示す図である。
【図10】図10は、実施例において、ビスフェノールAに応答する光学特性分子導入刺激応答性ゲル(EDANS導入BPA応答性ゲル)を製造するために用いられるアクリロイル-6-アミノ-6-デオキシ-β-シクロデキストリンを合成する方法を示す図である。
【図11】図11は、実施例において、ビスフェノールAに応答する光学特性分子導入刺激応答性ゲル(EDANS導入BPA応答性ゲル)を製造する方法を示す図である。
【図12】図12は、実施例において、ビスフェノールA水溶液中に円柱状のEDANS導入BPA応答性ゲルを浸漬したときの膨潤率(体積変化)の経時変化を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例において、ビスフェノールA水溶液中に浸漬後0時間、6時間および24時間に行ったEDANS導入BPA応答性ゲルの蛍光顕微鏡観察の結果を示す図である。
【図14】図14は、蛍光顕微鏡写真を画像解析することによって算出したビスフェノール水溶液中に浸漬したEDANS導入BPA応答性ゲルの蛍光強度を示す図である。
【図15】図15は、蛍光強度とEDANS導入BPA応答性ゲルの膨潤率(体積変化)との関係を示すグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、刺激応答性ゲルの体積変化を、簡便且つ確実に光学的情報に変換するために、蛍光発色団を有する分子の濃度と蛍光強度、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度と吸光度との間の比例関係に着目した。そして、蛍光発色団を有する分子や可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度が、それぞれ蛍光強度や吸光度と比例関係を有するような濃度の範囲で、蛍光発色団を有する分子や可視光若しくは紫外光を吸収する分子が導入された光学特性分子導入刺激応答性ゲルでは、体積変化を蛍光強度や吸光度の変化として、光学的情報に変換できるのではないかと考えた。そして実際に、蛍光発色団を導入した光学特性分子導入刺激応答性ゲルを製造し、種々のイオン濃度における、体積変化を実際に測定するとともに、蛍光強度を測定し、蛍光強度と、体積変化との関係を調べた。その結果、体積変化と蛍光強度との両対数プロットには明確な直線関係が認められることを見出した。また、蛍光発色団を有する分子が導入された光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化と蛍光強度との両対数プロットに直線関係が認められることから、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が導入された光学特性分子導入刺激応答性ゲルの場合にも体積変化と吸光度との両対数プロットに直線関係があると考えられる。かかる知見より、本発明者らは、蛍光発色団を有する分子や可視光若しくは紫外光を吸収する分子が導入された光学特性分子導入刺激応答性ゲルでは、外部刺激による体積変化を蛍光強度または吸光度として光学的情報に変換できることを見出し、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを用いて、蛍光強度または吸光度を測定することによって、外部刺激を測定することができることを見出して、本発明を完成させるに至った。以下、(I)本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲル、(II)外部刺激測定装置、(III)外部刺激の測定方法の順に説明する。
【0024】
(I)本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲル
(I-1)本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲル
本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、外部刺激に応じて体積変化する刺激応答性ゲルに光学特性分子が導入されている構成を有する。ここで、光学特性分子とは、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子をいう。
【0025】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、刺激応答性ゲルであり、pH、イオン濃度、熱、電気、認識する分子、生体状態などの変化を示すシグナル、磁場または光等の外部刺激によって、液体を吸収または放出して、膨潤または収縮して体積変化を起こすゲルである。ここで、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルの外部刺激に応じた体積変化は、可逆的なものであっても、不可逆的なものであってもよいが、可逆的であることがより好ましい。可逆的であることによりゲルを繰り返し使用が可能であり,さらに再現性よいセンサー材料として利用することが可能となるため好ましい。
【0026】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて体積変化を起こすときの、体積変化量は特に限定されるものではないが、体積変化量が高いほど好ましく、膨潤時と収縮時との体積比が、2以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましく、10以上であることが特に好ましい。体積変化量が2以上であることにより、より高感度で光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化による蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度の変化を検知し、体積変化を光学的情報に転換することができる。また、体積変化量が大きいほど、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化による蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度の変化が大きくなり、感度が向上するため好ましい。
【0027】
また、本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、光学特性分子、すなわち、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が導入されているものである。これにより、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの外部刺激に応じた体積変化を、蛍光強度、または、可視光若しくは紫外光の吸光度を測定することによって、光学的情報に変換することが可能となる。
【0028】
本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルにおける、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲル内の蛍光発色団を有する分子の濃度、または、上記刺激応答性ゲル内の可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度が、上記光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度と、略比例するような範囲であることが好ましい。かかる範囲では、外部刺激に応じて体積変化が起こった光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光強度または、可視光又は紫外光の吸光度と、刺激応答性ゲル中の上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の濃度は比例関係にある。ここで、光学特性分子導入刺激応答性ゲル中の上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の絶対量は一定であるため、体積変化により濃度が変化し、それゆえ、体積変化を、光学的情報に正確に変換することが可能となる。なお、上記特許文献3ないし5では、色材の濃度は飽和吸収濃度以上であることが記載され、飽和吸収濃度以上とは、色材濃度と、光吸収量の関係が一次直線の関係から大きく乖離するような高い色材濃度であることが開示されているが、本発明では、かかる一次直線の関係を利用する。
【0029】
本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルにおける、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、上述したような関係が満たされる範囲であれば、特に限定されるものではないが、乾燥状態の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを100重量%としたときに、0.00001重量%以上80%以下であることが好ましく、0.001重量%以上50%以下であることがより好ましく、0.001重量%以上30%以下であることがさらに好ましく、0.01重量%以上10重量%以下であることが特に好ましく、0.1重量%以上5重量%以下であることが最も好ましい。上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量が、0.00001重量%よりも大きいことにより、蛍光強度または吸光度と、蛍光発色団等を有する分子の濃度の比例関係から、体積変化を好適に光学的情報に変換することができる。また、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量が、80重量%よりも小さいことにより、蛍光強度または吸光度と、蛍光発色団等を有する分子の濃度の比例関係から、体積変化を好適に光学的情報に変換することができる。また、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルにおける、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量が小さい程、少量の蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子を導入するのみで、簡便に体積変化を光学的情報に変換することができるとともに、導入する分子が少量であるためにゲルそのものの性質をほとんど損なうことがないため好ましい。かかる観点からは、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルにおける、上記蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子の含有量は、乾燥状態の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを100重量%としたときに、30重量%以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が導入されているものである。ここで、「導入されている」とは、光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて液体を吸収または放出して、体積変化を起こすときに、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が液体とともに放出されないように、光学特性分子導入刺激応答性ゲル内に保持されているものであればよい。
【0031】
このように、外部刺激に応じて液体を吸収または放出して、体積変化を起こすときに、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が、液体とともに放出されないように、光学特性分子導入刺激応答性ゲル内に保持されているためには、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルでは、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が、光学特性分子導入刺激応答性ゲル内に、例えば、イオン結合、共有結合等の化学結合により保持されていることが好ましい。また、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの架橋構造内に外部に放出されないように、水素結合若しくは静電相互作用で保持されていてもよいし、または、架橋された網目構造に物理的に保持されているものであってもよい。
【0032】
本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルでは、蛍光発色団を有する分子は特に限定されるものではなく、蛍光発色団を有する分子であればいかなるものであってもよい。かかる蛍光発色団を有する分子としては、具体的には例えば、アントラセン、ローダミン、フルオレセイン、エオシン、クマリン、エリスロシン、アクリジン、ピレン、スチルベン、ナフタレン、ニトロベンゾキサジアゾール、キノリン、アシドアクリジン、カルバゾール、ピリジウム、これらの誘導体等を挙げることができる。
【0033】
可視光を吸収する分子も特に限定されるものではなく、種々の染料や顔料等を用いることができる。かかる可視光を吸収する分子としては、具体的には例えば、メチルイエロー、メチルオレンジ、メチルレッドなどのアゾ系色素やアントシアニン、フタロシアニンなどのシアニン系色素等を挙げることができる。
【0034】
紫外光を吸収する分子も特に限定されるものではないが、具体的には例えば、アントラセン、メラニン色素、フラボン、ベンゾフェノン、核酸およびタンパク質等を挙げることができる。
【0035】
本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを構成する高分子としては、pH、イオン濃度、認識する分子、電気、熱、生体状態などの変化を示すシグナル、磁場または光等の外部刺激によって、膨潤または収縮して体積変化を起こす刺激応答性ゲルであれば特に限定されるものではないが、具体的には、pHやイオン濃度に応じて体積変化を起こす刺激応答性ゲルとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリマレイン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルベンゼンスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリアクリルアミドアルキルスルホン酸、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、これらと(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等との共重合体、ポリジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドとポリビニルアルコールとの複合体、ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との複合体、カルボキシアルキルセルロース金属塩、ポリ(メタ)アクリロニトリル、アルギン酸、キトサンまたはこれらの架橋物や金属塩を挙げることができる。これらの中でも、pHやイオン濃度に応じて体積変化を起こす刺激応答性ゲルとしては、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル等との共重合体、またはこれらの架橋物や金属塩であることが好ましい。なお、本明細書において、「アクリル」または「メタアクリル」のいずれをも意味する場合「(メタ)アクリル」と表記する。
【0036】
また、熱により体積変化を起こす刺激応答性ゲルとしては、具体的には、例えば、ポリN-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のポリアルキル置換(メタ)アクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のアルキル置換セルロース誘導体、ポリN-ビニルイソブチルアミド、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体またはこれらの架橋物等を挙げることができる。
【0037】
また、認識する分子に応じて体積変化を起こす刺激応答性ゲルとしても、特に、限定されるものではないが、例えば、認識する物質としての酵素、抗原、抗体、核酸等を、上述したpHやイオン濃度、熱などに応じて体積変化を起こす刺激応答性ゲルに固定化したものを挙げることができる。また、上述したpHやイオン濃度、熱などに応じて体積変化を起こす刺激応答性ゲルに認識する分子の形をインプリントしたものであってもよい。
【0038】
また、電気により体積変化を起こす刺激応答性ゲルとしても、特に限定されるものではないが、上述したpHやイオン濃度に応じて体積変化を起こす刺激応答性ゲルと同様の刺激応答性ゲルを挙げることができる。
【0039】
一般に、刺激応答性ゲルは、外部刺激に応じて、液体を吸収または放出して、膨潤または収縮し体積変化を起こす。本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルにおいて、膨潤または収縮の際に、吸収または放出される液体は、特に限定されるものではなく、水や水系の緩衝液であってもよいし有機溶媒であってもよい。かかる液体としては、具体的には、例えば、水;リン酸緩衝液等の水系の緩衝液;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコール;アセトン、2-ブタノン、3-ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、メチルn-プロピルケトン、3-ヘキサノン、メチルn-ブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;酢酸エチルエステル等のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル等の二トリル;プロピレンカーボネート;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の低級飽和炭化水素;キシレン;トルエン;またはこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。
【0040】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルの形状は特に限定されるものではなく、どのような形状のものであってもよく、用途に応じて好ましい形状を適宜選択すればよい。かかる形状としては、例えば、円筒状、板状、フィルム状、粒子状、直方体状等を挙げることができる。例えば蛍光分光光度計などの装置を利用する場合や、診断システム等に用いるゲルチップに使用する場合には、板状、フィルム状等であることが好ましい。
【0041】
所望の形状とするためには、例えば、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの原料となるモノマー組成物等を重合前に所望の型に注入し、重合を行う方法等を用いることができる。
【0042】
また、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの大きさも特に限定されるものではなく、いかなる大きさのものでもよく、用途に応じて好ましい大きさを適宜選択すればよい。
【0043】
(I-2)本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルの製造方法
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、上述したように、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が、外部刺激に応じて液体を吸収または放出して、体積変化を起こすときに、液体とともに放出されないで、光学特性分子導入刺激応答性ゲル内に保持されるように、これらの分子が、例えば、光学特性分子導入刺激応答性ゲル内に、化学結合されるように製造する。かかる方法としては、例えば、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの重合時に、重合性基を導入した蛍光発色団を有する分子、または、重合性基を導入した可視光若しくは紫外光を吸収する分子を、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの主鎖を形成するモノマーに添加して重合する方法を挙げることができる。すなわち、本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、重合性基を導入した蛍光発色団を有する分子、または、重合性基を導入した可視光若しくは紫外光を吸収する分子、主鎖を形成するモノマー、開始剤、架橋剤等を適当な溶媒に溶解し、または、溶媒を用いずに、外部からの熱、光等で重合することにより容易に製造することができる。
【0044】
また、認識する分子に応じて体積変化を起こす刺激応答性ゲルを製造する場合には、さらに、認識する物質としての酵素、抗原、抗体、核酸等に重合性基を導入したものを添加して重合を行えばよい。認識する分子の形をインプリントした刺激応答性ゲルを製造する場合には、認識する分子と特異的に結合するリガンドに重合性基を導入したものと認識する分子とを添加して重合を行い、その後認識する分子を得られたポリマーから遊離除去すればよい。なお、上記リガンドに重合性基を導入したものと認識する分子とを添加する方法としては、両者を共に添加してもよいし、上記リガンドに重合性基を導入したものに認識する分子を包接させた後添加してもよい。
【0045】
また、上述した、重合性基を導入した蛍光発色団を有する分子、酵素、抗原、抗体、核酸等に重合性基を導入したもの、上記リガンドに重合性基を導入したものにおいて、重合性基の代わりに重合性基以外の反応性官能基を導入したものももちろん好適に用いることができる。ここで、導入される基としては、高分子ゲルの網目構造を形成する高分子化合物と化学的に結合可能な基であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を挙げることができる。
【0046】
上記モノマーとしては、上述したような、光学特性分子導入刺激応答性ゲルを構成する高分子の主鎖を構成するモノマーであればよく、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、アクリルアミドアルキルスルホン酸、アクリルアミドアルキルスルホン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ置換(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アミノ置換アルキルエステル、スチレン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ジメチルアミノスチレン、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等のアルキル置換(メタ)アクリルアミド等を単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
また、架橋剤としても、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、トリレンジイソシアネート、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0048】
また、重合開始剤としても、特に限定されるものではなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾビスイオブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等を好適に使用することができる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩やパーオキシド類等のような酸化性を示す開始剤は、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等とのレドックス開始剤としても用いることができる。
【0049】
また、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が、化学結合により、光学特性分子導入刺激応答性ゲルに導入されるような製造方法としては、上述した製造方法に限定されるものではなく、先に、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの主鎖を形成するモノマーを重合して刺激応答性ゲルを合成した後に、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子を化学結合するように導入してもよい。かかる方法としては、例えば、ヒドロキシル基やカルボキシル基等の反応性官能基を有する高分子(ポリビニルアルコールやセルロース、ポリアクリル酸など)またはその架橋体と、反応性官能基を有する蛍光発色団分子、反応性官能基を有する可視光吸収分子、または反応性官能基を有する紫外光吸収分子とを官能基同士の反応(高分子反応)によって結合させることにより、目的とする光学特性分子導入刺激応答性ゲルを製造する方法を挙げることができる。
【0050】
また、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子を、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの外部に放出されないように、架橋された網目構造に物理的に保持させることにより製造してもよい。かかる方法としては、例えば、光学特性分子導入刺激応答性ゲルのモノマー組成物を重合後、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子を混合し、均一に分散させた後、架橋する方法等を挙げることができる。蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子を、均一に分散させる方法として、機械的に混練する方法、分散剤を用いる方法等を挙げることができる。
【0051】
(II)外部刺激測定装置
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、上述したように、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が導入されているので、外部刺激による光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を蛍光強度変化または吸光度変化として光学的情報に変換でき、光学特性分子導入刺激応答性ゲルをセンサー素子などとして用いる際の簡便なシステムとして利用することができる。それゆえ、外部刺激に応じた体積変化を、顕微鏡等による体積測定や、天秤等による重量測定等の取り扱いにくい方法を用いる必要がなく、蛍光強度や吸光度等の光学的な測定結果を体積変化を定量的に示すものとして、そのまま用いることができる。したがって、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを用いて、外部刺激に応じた光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を光学的情報に変換し、かかる光学的情報から、外部刺激を検知または測定する外部刺激測定装置も本発明に含まれる。
【0052】
なお、体積変化と蛍光強度または吸光度との両対数プロットが直線関係にあることについては、以下のように考えられる。
【0053】
一般に溶液中に存在する蛍光分子の濃度が低い場合には,蛍光強度Fとその濃度Cとの間には(1)式で示されるような関係がある。
【0054】
【数1】
JP0005120808B2_000002t.gif
ここで、εは蛍光分子の吸光係数であり、lは測定するサンプルの長さである。
したがって、ゲル内の蛍光発色団の濃度と蛍光強度との関係を外部刺激のない基準溶液中および例えばイオン濃度等の外部刺激を与える刺激溶液中に対して適用すると(2)式が得られる。
【0055】
【数2】
JP0005120808B2_000003t.gif
ここで下付がある記号が基準溶液中での値であり、下付の付いていない記号が刺激溶液中の値である。
基準溶液中および刺激溶液中でゲルの体積Vが変化する際、ゲル中に存在する蛍光発色団の絶対量nは一定なので次のような関係がある。
【0056】
【数3】
JP0005120808B2_000004t.gif
一方,膨潤率Qは(5)式の定義よりlと次式の関係にある。
JP0005120808B2_000005t.gif
【0057】
【数4】
JP0005120808B2_000006t.gif
したがって(3)、(4)、(6)式を(2)式に代入すると次式のようにゲルの膨潤率と蛍光強度との関係が得られる。
【0058】
【数5】
JP0005120808B2_000007t.gif
したがって、膨潤率と蛍光強度の両対数プロットは直線となり、その勾配は-2/3となることがわかる。この結果は、後述する実施例で測定したPAAc-EDANSゲルの膨潤率と蛍光強度との関係を調べた図5および6から得られた直線の勾配(-0.65)とよく一致している。
【0059】
また、一般的に紫外光あるいは可視光を吸収する分子をゲルに導入することによって、その膨潤率と紫外光あるいは可視光の吸光度との間にも同様の関係が成立すると考えられる。すなわち、紫外吸収および可視吸収に関する一般理論であるLambert-Beerの法則((9)式)を用いると,同様にゲルの膨潤率と吸光度との関係は(10)式のようになり、やはり相対的吸光度は膨潤率の-2/3乗に比例することになる。
【0060】
【数6】
JP0005120808B2_000008t.gif
本発明にかかる外部刺激測定装置は、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルと、光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて吸収または放出する液体と含み、当該光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に暴露されて体積変化を起こす試料部と、当該試料部に特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定する光学的情報測定部とを少なくとも含んでいればよい。ここで、光学特性分子導入刺激応答性ゲル、外部刺激、液体については、上記(I-1)本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルで説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0061】
上記試料部には、少なくとも、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルと、光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて吸収または放出する液体とが含まれ、当該液体は、光学特性分子導入刺激応答性ゲルに自由に吸収され、放出されるように光学特性分子導入刺激応答性ゲルに接触している。光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、試料部で、pH、イオン濃度、熱、電気、認識する分子、生体状態などの変化を示すシグナル、磁場または光等の外部刺激に暴露されるようになっており、外部刺激に応じて、共存する液体を吸収または放出して体積変化を起こす。したがって、外部刺激がpH、イオン濃度、認識する分子等である場合には、試料部は、外部刺激としての溶液や分子を、光学特性分子導入刺激応答性ゲルと接触させることができるようになっている必要がある。また、熱、電気等が外部刺激である場合は、これらを光学特性分子導入刺激応答性ゲルと必ずしも接触させる必要はないので、試料部は閉鎖系となっていてもよい。また、試料部における試料の大きさや、数も目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、多くの測定を同時に行うような場合には、図9に示すように、ゲルチップをアレイ状に複数配列したような構成であってもよい。
【0062】
また、上記光学的情報測定部は、上記試料部に特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定するようになっていればよい。本発明の外部刺激測定装置で用いられる光学特性分子導入刺激応答性ゲルが、蛍光発色団を有する分子を導入しているものである場合には、上記試料部に、励起光を照射して、発生した蛍光の強度を測定する。蛍光強度の測定方法は、特に限定されるものではなく、光学特性分子導入刺激応答性ゲルの形状等に応じて適宜選択すればよい。蛍光強度の測定方法としては、例えば、蛍光分光光度計を用いて蛍光強度を測定する方法、蛍光顕微鏡観察を行い画像解析により蛍光強度を求める方法等を用いることができる。ここで、画像解析により蛍光強度を求める方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、蛍光顕微鏡画像をコンピュータに読み込み、画像解析ソフトを用いてグレースケール画像に変換し、画像の輝度をヒストグラム表示した後、その値から相対蛍光強度を算出する方法等を挙げることができる。また、かかる画像解析ソフトとしては、特に限定されるものではなく、画像をヒストグラムにすることができる画像解析ソフトであれば何でも用いることができる。
【0063】
また、本発明の外部刺激測定装置で用いられる光学特性分子導入刺激応答性ゲルが、可視光若しくは紫外光を吸収する分子を導入しているものである場合は、上記試料部に、導入した分子が吸収する特定波長の光を照射して、反射光または透過光の吸収を測定し、吸光度を測定すればよい。なお、本発明の外部刺激測定装置で用いられる光学特性分子導入刺激応答性ゲルが、可視光を吸収する分子を導入しているものである場合には、目視により、吸収の大きさを確認することも可能となる。
【0064】
本発明にかかる外部刺激測定装置は、さらに、上記光学的情報測定部で測定された蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を電気信号に変換し出力する光学的情報出力部を含んでいることがより好ましい。これにより、外部刺激に応じた光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を、データとしてより取り扱いやすく、測定の自動化を可能とする電気信号として得ることが可能となる。
【0065】
また、本発明にかかる外部刺激測定装置は、さらに、上記光学的情報出力部から出力された電気信号から光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を引き起こした外部刺激の大きさを算出する演算処理部とを備えていてもよい。また、上記演算部は、上記蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度に応じた上記外部刺激の大きさを示す検量線を記憶していることが好ましい。上記検量線は、予め、種々の大きさの外部刺激を加えて、外部刺激に応じた光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を、蛍光強度、吸光度等の光学的情報として得て、その相関関係を示すものとして決定されるものである。かかる検量線を記憶させて、得られた光学的情報から、自動的に外部刺激の大きさを検知、測定することが可能となる。また、本発明の外部刺激測定装置は、外部刺激の大きさを検知、測定する目的に限られず、一定量の外部刺激に対応する光学的情報の値を記憶させておき、外部刺激がそれ以上か、以下かの判定を行うような場合にも非常に有効である。
【0066】
(III)外部刺激の測定方法
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が導入されているので、外部刺激による光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を蛍光強度変化または吸光度変化として光学的情報に変換でき、光学特性分子導入刺激応答性ゲルをセンサー素子などとして用いる際の簡便なシステムとして利用することができる。したがって、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルを用いて、外部刺激に応じた光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を光学的情報に変換し、かかる光学的情報から、外部刺激を検知または測定する外部刺激の測定方法も本発明に含まれる。
【0067】
本発明にかかる外部刺激の測定方法は、本発明の光学特性分子導入刺激応答性ゲルと、当該光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて吸収または放出する液体とを、大きさの異なる既知の外部刺激に暴露させて、光学特性分子導入刺激応答性ゲルに体積変化を起こし、それぞれの大きさの外部刺激に暴露させた光学特性分子導入刺激応答性ゲルに特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定し、蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度に応じた外部刺激の大きさを示す検量線を決定するステップと、光学特性分子導入刺激応答性ゲルと、光学特性分子導入刺激応答性ゲルが外部刺激に応じて吸収または放出する液体とを、未知の大きさの外部刺激に暴露させて、暴露させた光学特性分子導入刺激応答性ゲルに特定波長の光を照射して蛍光強度または可視光若しくは紫外光の吸光度を測定するステップと、測定により得られた蛍光強度または吸光度から、上記検量線を用いて、対応する外部刺激の大きさを決定するステップとを含む。
【0068】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0069】
〔実施例1:光学特性分子導入刺激応答性ゲルの製造〕
<ビニル基導入5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)の合成>
図1の化学反応式で示すように、EDANSにビニル基を導入した。まず、EDANS50mg(0.18mmol)、炭酸水素ナトリウム420mg(5.00mmol)、N-スクシンイミジルアクリレート(NSA)38mg(0.22mmol)に純水25mlを加え一晩撹拌した。濃塩酸を加えて弱酸性とし、これにアセトンを加えて炭酸水素ナトリウムなどの無機塩を沈殿させて濾別した。ろ液を濃縮後、シリカゲルクロマトグラフィ(Wakogel C-200、和光純薬製)により分画し、得られたフラクションを濃縮した後に酢酸エチルで洗浄し、室温下で真空乾燥してビニル基導入EDANS(ビニル-EDANS)を得た。
【0070】
<蛍光発色団が導入されている光学特性分子導入刺激応答性ゲル(PAAc-EDANSゲル)の合成>
図2の化学反応式で示すように、蛍光発色団が導入されている光学特性分子導入刺激応答性ゲル(PAAc-EDANSゲル)を合成した。純水7.613gにアクリル酸(AAc)2gと100mg/mlビニル-EDANS0.087ml、20mg/mlN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)0.1mlおよびレドックス開始剤として0.1M過硫酸アンモニウム(APS)0.1mlと0.8M N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)0.1mlを加え、内径0.7mmのガラス管および厚さ1mmのシリコンスペーサーを挟んだガラス板に流し込み、25℃で24時間重合することにより円柱状および板状PAAc-EDANSゲルを合成した。
【0071】
〔実施例2:円柱状の光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化の測定〕
実施例1で製造した円柱状の光学特性分子導入刺激応答性ゲル(PAAc-EDANSゲル)を、純水中で十分に平衡膨潤させた後、各濃度の塩化ナトリウム(NaCl)水溶液に入れて平衡状態になるまで収縮させた。PAAc-EDANSゲルの体積変化を、塩化ナトリウム水溶液の各濃度でのゲルの直径変化を測定することによって、以下の式(11)に示す膨潤率(体積変化)として求めた。
膨潤率(体積変化)=(d/d ・・・(11)
ここで、dは純水中での円柱状のPAAc-EDANSゲルの直径(cm)、dはNaCl水溶液中での円柱状のPAAc-EDANSゲルの直径(cm)である。
【0072】
図3に、様々な濃度のNaCl水溶液中における円柱状のPAAc-EDANSゲルの膨潤率(体積変化)を示す。図3中、縦軸は膨潤率(体積変化)を、横軸はNaCl水溶液のモル濃度を示す。図3に示すように、NaClのモル濃度の増加に伴って、PAAc-EDANSゲルの膨潤率は次第に減少することがわかる。これは、イオン強度の増加と共にPAAc-EDANSゲルのネットワークに存在する-COO-の電荷が遮蔽されるためと考えられる。
【0073】
〔実施例3:板状の光学特性分子導入刺激応答性ゲルの膨潤率(重量変化)の測定〕
実施例1で製造した板状の光学特性分子導入刺激応答性ゲル(PAAc-EDANSゲル)を、純水中で十分に平衡膨潤させた後、各濃度の塩化ナトリウム(NaCl)水溶液に入れて平衡状態になるまで収縮させた。PAAc-EDANSゲルの重量変化を、塩化ナトリウム水溶液の各濃度で測定することによって、以下の式(12)に示す膨潤率(重量変化)として求めた。
膨潤率(重量変化)=w/w ・・・(12)
ここで、wは水中での板状のPAAc-EDANSゲルの重量(g)、wはNaCl水溶液中の板状のPAAc-EDANSゲルの重量(g)である。
【0074】
図4に、様々な濃度のNaCl水溶液中における板状のPAAc-EDANSゲルの膨潤率(重量変化)を示す。図4中、縦軸は膨潤率(重量変化)を、横軸はNaCl水溶液のモル濃度を示す。図4に示すように板状PAAc-EDANSゲルの場合にもNaCl濃度と共に膨潤率が減少することがわかる。
【0075】
〔実施例4:円柱状の光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光発光特性の観察および蛍光強度の測定〕
次に,ゲルの膨潤率(体積変化)と蛍光強度との関係について検討するため、様々なNaCl溶液中における円柱状PAAc-EDANSゲルの蛍光顕微鏡観察を行った。まず、実施例1で製造した円柱状および板状の光学特性分子導入刺激応答性ゲル(PAAc-EDANSゲル)を、純水中で十分に平衡膨潤させた後、各濃度のNaCl水溶液に入れ、平衡状態になるまでPAAc-EDANSゲルを収縮させた。各濃度で、円柱状のPAAc-EDANSゲルについて、倒立型顕微鏡(オリンパス(株)製:IX-70型)に取り付けた落射蛍光観察装置(蛍光ミラーユニットU-MWU(励起フィルタBP330-385、ダイクロイックミラーDM400、吸収フィルタBA420);オリンパス(株)製:IX-FLA型)により蛍光顕微鏡観察を行った。
【0076】
図5にその結果を示す。図5に示すように、外部溶液中のNaCl濃度が増加してPAAc-EDANSゲルが収縮すると、蛍光顕微鏡写真中のPAAc-EDANSゲルの蛍光強度が増加していることがわかる。このようにPAAc-EDANSゲルの収縮に伴う蛍光強度の増加は、図8に模式的に示すように、ゲル内の蛍光発色団であるEDANS(図8中楕円で示す)の絶対量は変化しないが、PAAc-EDANSゲルの体積が減少する結果としてEDANSの密度(濃度)が増加するためと考えられる。そこで、このときの蛍光顕微鏡写真を画像解析することにより、相対的蛍光強度を算出し、ゲルの膨潤率(体積変化)と蛍光強度との関係を調べた。なお、蛍光強度の算出は、以下の方法で行った。まず、蛍光顕微鏡画像をコンピュータに読み込み、画像解析ソフト(Origin Ver.7.5)を用いてグレースケール画像に変換した。次に、画像の輝度をヒストグラム表示した後、その値から相対蛍光強度を算出した。
【0077】
図6に、図5の蛍光顕微鏡写真を画像解析することによって得られる相対的蛍光強度とPAAc-EDANSゲルの膨潤率(体積変化)との関係を示す。図6中、縦軸は相対的蛍光強度(F/F)の対数を、横軸は、膨潤率(体積変化)の対数を示す。ここで、相対的蛍光強度は、画像解析によってゲルの輝度を求め、純水中における輝度(F)に対するNaCl水溶液中でのゲルの輝度(F)の比として決定した値である。図6に示すように、膨潤率(体積変化)と蛍光強度の両対数プロットには明確な直線関係が認められ、その直線の勾配は-0.65であることがわかった。すなわち、PAAc-EDANSゲルの膨潤率(体積変化)と蛍光強度との間には強い相関が存在し、PAAc-EDANSゲルの体積を蛍光強度として情報変換できることが明らかとなった。
【0078】
〔実施例5:板状の光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光強度の測定〕
次に、板状ゲルについては蛍光分光光度計((株)島津製作所製:RF-5300PC型)を用いて波長340nmで励起させたときの蛍光強度(波長480nm)を測定した。
【0079】
さらに、ゲルの形状がゲル体積と蛍光強度との関係に及ぼす影響を検討するため,板状のゲルについても膨潤率(重量変化)と蛍光強度との関係を調べた。図7に、板状のPAAc-EDANSゲルの膨潤率(重量変化)と相対蛍光強度との関係を示した。ここでは、板状ゲルであるのでその蛍光強度は,蛍光分光光度計によって直接測定した値を用いており、純水中における蛍光強度(F)とNaCl水溶液中における蛍光強度(F)の比として示している。図7中、縦軸は相対的蛍光強度(F/F)の対数を、横軸は、膨潤率(体積変化)の対数を示す。図7より、膨潤率(重量変化)と蛍光強度の両対数プロットの間には明確な直線関係が認められ、その直線の勾配は円柱状ゲルの場合と同様に-0.65であった。このことから、本実施例においては、膨潤率(重量変化)は、膨潤率(体積変化)と近似的に扱うことができ、したがって、蛍光発色団導入ゲルの膨潤率と蛍光強度との間には、そのゲル形状にかかわらず明確な相関関係が認められ、蛍光強度は膨潤率の-0.65乗に比例することが明らかとなった。
【0080】
〔実施例6:ビスフェノールAに応答する光学特性分子導入刺激応答性ゲルの製造〕
本実施例では、内分泌撹乱物質(環境ホルモン)の疑いのあるビスフェノールA(BPA)を標的分子として選択し、ビスフェノールAに応答する刺激応答性ゲル(BPA応答性ゲル)に、蛍光発色団が導入されている光学特性分子導入刺激応答性ゲルを合成した。光学特性分子導入刺激応答性ゲルの合成は、ビスフェノールAを認識するリガンドとしてシクロデキストリンを用いた分子インプリント法によって刺激応答性ゲル(BPA応答性ゲル)を合成する際に、重合性基を導入した蛍光発色団を添加することによって行った。
【0081】
<アクリロイル-6-アミノ-6-デオキシ-β-シクロデキストリン(acryloyl-CD)の合成>
まず、図10に示す方法によりアクリロイル-6-アミノ-6-デオキシ-β-シクロデキストリン(acryloyl-CD)の合成を行った。β-シクロデキストリン(CD)を無水トルエンスルホン酸(TsO)と反応させた後、得られたトシル化CDをアジ化ナトリウム(NaN)でアジド化させ、続いてトリフェニルホスフィン(PPh)でアミノ化を行った。得られたアミノ化物を、さらに炭酸緩衝溶液中で塩化アクリロイルと反応させることによりアクリロイル-6-アミノ-6-デオキシ-β-シクロデキストリン(acryloyl-CD)を合成した。
【0082】
<光学特性分子導入刺激応答性ゲル(EDANS導入BPA応答性ゲル)の製造>
次に、図11に示すようにして、光学特性分子導入刺激刺激応答性ゲルを製造した。acryloyl-CD220mgと、鋳型として用いるビスフェノールA(BPA)21.5mgとを、蒸留水1928μlに溶解し、acryloyl-CDにBPAを包接させた後、モノマーとしてアクリルアミド(AAm)130mgおよびビニル-EDANS0.58mg、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)1mg/mlを100μl、開始剤として0.1M過硫酸アンモニウム(APS)50μlおよび0.8M N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)50μlを加えて25℃で24時間共重合させた。なお、用いたビニル-EDANSの合成は上記実施例1と同様にして行った。また、ゲルの製造はガラス製の毛細管を用いて行い、円柱状ゲルを作製した。得られたゲルを30%アセトン水溶液に浸漬して鋳型BPAを十分に取り除き、蒸留水中で平衡膨潤させることにより目的の光学特性分子導入刺激応答性ゲルであるEDANS導入BPA応答性ゲルを調製した。得られたEDANS導入BPA応答性ゲルでは、図11に模式的に示すように、acryloyl-CDと、蛍光発色団であるビニル-EDANS(図中楕円で示す)とが、高分子ゲルの網目構造内に固定されている。かかるEDANS導入BPA応答性ゲルでは、標的分子であるビスフェノールAが存在すると、acryloyl-CDにビスフェノールAが包接され、図11の鋳型BPAを取り除く前の模式図のように、2個のacryloyl-CDとその間に包接されるビスフェノールAによりゲルの網目構造内に架橋が形成される。一般に高分子ゲルの膨潤率は架橋密度が増加すると減少することが知られているように、標的分子であるビスフェノールAが存在すると、架橋点が増加する結果、ビスフェノールA応答性ゲルは収縮すると考えられる。
【0083】
〔実施例7:光学特性分子導入刺激応答性ゲル(EDANS導入BPA応答性ゲル)の体積変化の測定〕
実施例6で製造した円柱状の光学特性分子導入刺激応答性ゲル(EDANS導入BPA応答性ゲル)を、ビスフェノール水溶液(120mg/l)に浸漬させたときの体積変化を測定した。なお、体積変化は、浸漬時を0時間として、経時的にゲルの直径変化を測定することによって、上記式(11)に示す膨潤率(体積変化)として求めた。
【0084】
図12に、ビスフェノール水溶液中に円柱状のEDANS導入BPA応答性ゲルを浸漬したときの膨潤率(体積変化)の経時変化を示す。図12中、縦軸は膨潤率(体積変化)を、横軸は時間(時間)を示す。図12に示すように、浸漬後の時間経過に伴って、EDANS導入BPA応答性ゲルの膨潤率は次第に減少した。すなわち、EDANS導入BPA応答性ゲルは、ビスフェノール水溶液中で次第に収縮した。
【0085】
〔実施例8:円柱状の光学特性分子導入刺激応答性ゲルの蛍光発光特性の観察および蛍光強度の測定〕
次に、ゲルの膨潤率(体積変化)と蛍光強度との関係について検討するため、ビスフェノール水溶液中にEDANS導入BPA応答性ゲルを浸漬後、EDANS導入BPA応答性ゲルの蛍光顕微鏡観察を行った。なお、蛍光顕微鏡観察は実施例4と同様にして行った。
【0086】
図13に、浸漬後0時間、6時間および24時間に行ったEDANS導入BPA応答性ゲルの蛍光顕微鏡観察の結果を示す。図13に示すように、時間の経過とともEDANS導入BPA応答性ゲルが収縮すると、蛍光顕微鏡写真中のEDANS導入BPA応答性ゲルの蛍光強度が増加していることがわかる。このようにEDANS導入BPA応答性ゲルの収縮に伴う蛍光強度の増加は、ゲル内の蛍光発色団であるEDANSの絶対量は変化しないが、BPA応答性ゲルの体積が減少する結果としてEDANSの濃度が増加するためと考えられる。そこで、このときの蛍光顕微鏡写真を画像解析することにより、実施例4と同様にして相対的蛍光強度を算出し、ゲルの膨潤率(体積変化)と蛍光強度との関係を調べた。
【0087】
図14に蛍光顕微鏡写真を画像解析することによって算出したビスフェノール水溶液中に浸漬したEDANS導入BPA応答性ゲルの相対的蛍光強度を示す。ここで、相対的蛍光強度は、画像解析によってゲルの輝度を求め、純水中における輝度(F)に対するビスフェノール水溶液中でのゲルの輝度(F)の比として決定した値である。図14中、縦軸は相対的蛍光強度である。図14に示すように、相対的蛍光強度はゲル中心が最も強く、その強度は時間と共に増加した。
【0088】
図15に、得られた相対的蛍光強度とEDANS導入BPA応答性ゲルの膨潤率(体積変化)との関係を示す。図15中、縦軸は相対的蛍光強度(F/F)の対数を、横軸は、膨潤率(体積変化)の対数を示す。図15に示すように、膨潤率(体積変化)と蛍光強度の両対数プロットには明確な直線関係が認められ、その直線の勾配は-0.58であることがわかった。すなわち、EDANS導入BPA応答性ゲルの膨潤率(体積変化)と蛍光強度との間には強い相関が存在し、EDANS導入BPA応答性ゲルの体積を蛍光強度として情報変換できることが明らかとなった。
【0089】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明にかかる光学特性分子導入刺激応答性ゲルは、以上のように、蛍光発色団を有する分子、または、可視光若しくは紫外光を吸収する分子が導入されているので、外部刺激による光学特性分子導入刺激応答性ゲルの体積変化を蛍光強度変化または吸光度変化として光学的情報に変換でき、光学特性分子導入刺激応答性ゲルをセンサー素子などとして用いる際の簡便なシステムとして利用することができる。それゆえ、環境分野における汚染物質検査や、医療分野における疾病のシグナルとなる生体分子を検出・測定できる新しい診断システム等、種々の目的に応用されうる。それゆえ、本発明は、医薬品製造業、工業薬品製造業等の各種化学工業、さらには医療産業等に利用可能であり、しかも非常に有用であると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14