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明細書 :皮膚再生促進剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5271538号 (P5271538)
登録日 平成25年5月17日(2013.5.17)
発行日 平成25年8月21日(2013.8.21)
発明の名称または考案の名称 皮膚再生促進剤
国際特許分類 A61K   8/86        (2006.01)
A61K   8/63        (2006.01)
A61K   8/02        (2006.01)
A61Q  19/08        (2006.01)
A61Q  19/02        (2006.01)
FI A61K 8/86
A61K 8/63
A61K 8/02
A61Q 19/08
A61Q 19/02
請求項の数または発明の数 9
全頁数 16
出願番号 特願2007-514832 (P2007-514832)
出願日 平成18年4月28日(2006.4.28)
国際出願番号 PCT/JP2006/308972
国際公開番号 WO2006/118245
国際公開日 平成18年11月9日(2006.11.9)
優先権出願番号 2005130971
優先日 平成17年4月28日(2005.4.28)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年4月24日(2009.4.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】506151235
【氏名又は名称】株式会社ナノエッグ
発明者または考案者 【氏名】山口 葉子
【氏名】五十嵐 理慧
個別代理人の代理人 【識別番号】100106611、【弁理士】、【氏名又は名称】辻田 幸史
【識別番号】100087745、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 善廣
【識別番号】100098545、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 伸一
審査官 【審査官】光本 美奈子
参考文献・文献 特開平08-099856(JP,A)
韓国公開特許第2001-0011004(KR,A)
韓国登録特許第10-0356676(KR,B1)
特表平11-506125(JP,A)
国際公開第02/096396(WO,A1)
化粧品ハンドブック,日光ケミカルズ株式会社,1996年11月 1日,p.455-457
調査した分野 A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル5重量%~80重量%と水5重量%~80重量%、さらに補助界面活性剤としてコレステロール0.01重量%~10重量%を含むリオトロピック液晶を有効成分とすることを特徴とする皮膚再生促進剤。
【請求項2】
リオトロピック液晶がさらに油分1重量%~80重量%を含むものであることを特徴とする請求項1記載の皮膚再生促進剤。
【請求項3】
油分がスクアランであるであることを特徴とする請求項2記載の皮膚再生促進剤。
【請求項4】
リオトロピック液晶がさらに多価アルコール1重量%~55重量%を含むものであることを特徴とする請求項1記載の皮膚再生促進剤。
【請求項5】
多価アルコールがグリセリンであることを特徴とする請求項4記載の皮膚再生促進剤
【請求項6】
リオトロピック液晶にケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質および/またはメラニン色素産生抑制作用を有する物質が配合されてなることを特徴とする請求項1記載の皮膚再生促進剤。
【請求項7】
ケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質がレチナール、3-デヒドロレチナール、レチノイン酸、3-デヒドロレチノイン酸、レチノイン酸類似物、レチノール、レチノール脂肪酸エステル、3-デヒドロレチノール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項記載の皮膚再生促進剤。
【請求項8】
メラニン色素産生抑制作用を有する物質がアスコルビン酸グルコシド、アルブチン、スーパーオキサイド・ディスムターゼから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項記載の皮膚再生促進剤。
【請求項9】
ケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質および/またはメラニン色素産生抑制作用を有する物質が2価金属無機酸塩微粒子の内部に封入された形態で配合されてなることを特徴とする請求項記載の皮膚再生促進剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、外用により効果を発揮する新規な皮膚再生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は表皮と真皮からなり、表皮は内部から基底層、有棘層、顆粒層、角質層の順で層状をなしている。表皮を構成する角化細胞(ケラチノサイト)は、細胞分裂によって生成した基底細胞が有棘細胞、顆粒細胞、角質細胞の順に分化した後、表面から角片として剥離する新陳代謝(ターンオーバー)を繰り返している(その周期は健康な肌で28日と言われている)。このターンオーバーが正常に行われなくなると様々な支障を来たし、皮膚の老化現象や表皮内の色素細胞で生成したメラニン色素が排出されずにシミ(色素沈着)として残る現象などが目立つようになる。従って、表皮のターンオーバーが正常に行われ、常に皮膚が再生されるようにすることは、医療面においても美容面においても非常に重要である。
【0003】
従来から知られているケラチノサイトの分化・増殖を促進させることで皮膚の再生を促進させる方法に、レチノイン酸(ビタミンA酸)などのケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質を含有する外用剤を皮膚表面に塗付して行うものがある。しかしながら、有効成分を生体の一次バリアを構成する皮膚を介して体内に浸透させることは容易なことではなく、その生物学的利用能(薬物が血流に吸収される量)は本来的に低いものである。従って、有効成分の生物学的利用能の改善を図るために、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、イソパラフィン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアルコールのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、炭酸プロピル、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、尿素、乳酸、乳酸ナトリウム、レシチン、ジメチルスルホキシド、ピロリドンカルボン酸エステル、ニコチン酸エステル、N-メチルプロリンエステル、オレイン酸コレステリルエステル、アミンオキサイドなどを経皮吸収促進剤として外用製剤に配合することが行われる。
【0004】
本発明者らは、これまでに皮膚再生促進剤の研究開発を精力的に行ってきており、その成果として、レチノイン酸をナノメートルオーダーのカプセル(ナノ粒子)に封入して皮膚表面に塗付することで、経皮吸収促進剤を配合することなくレチノイン酸を効率的かつ徐放的に経皮吸収させることができることを見出している(非特許文献1および非特許文献2)。

【非特許文献1】経皮デリバリーのための新規ナノテクノロジー、山口葉子、Bioベンチャー、第4巻、第6号、62頁-64頁、2004年
【非特許文献2】Y.Yamaguchi, T.Nagasawa, N.Nakamura, M.Takenaga, M.Mizoguchi, S.Kawai, Y.Mizushima, R.Igarashi, Successful treatment of photo-damaged skin of nano-scale atRA particles using a novel transdermal delivery, 104, 29-40, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のレチノイン酸封入ナノ粒子を有効成分とする皮膚再生促進剤は、その効果が高く、また、レチノイン酸が有する皮膚に対する刺激が少ないことから、臨床応用が期待されるところであるが、より優れた皮膚再生促進剤の探求は意義のあることである。
そこで本発明は、新規な皮膚再生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のレチノイン酸封入ナノ粒子を配合する皮膚外用基剤の検討を行う過程において、基材として利用しようとしたリオトロピック液晶自体に皮膚再生促進作用があることを見出した。リオトロピック液晶は外用医薬品や化粧品の基材として公知であるが(例えば特許第2547151号や特許第3459253号など)、リオトロピック液晶が皮膚再生促進作用を有することを記載や示唆した文献は存在しない。
【0007】
上記の知見に基づいてなされた本発明の皮膚再生促進剤は、請求項1記載の通り、界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル5重量%~80重量%と水5重量%~80重量%、さらに補助界面活性剤としてコレステロール0.01重量%~10重量%を含むリオトロピック液晶を有効成分とすることを特徴とする。
また、請求項2記載の皮膚再生促進剤は、請求項1記載の皮膚再生促進剤において、リオトロピック液晶がさらに油分1重量%~80重量%を含むものであることを特徴とする。
また、請求項3記載の皮膚再生促進剤は、請求項2記載の皮膚再生促進剤において、油分がスクアランであるであることを特徴とする。
また、請求項4記載の皮膚再生促進剤は、請求項1記載の皮膚再生促進剤において、リオトロピック液晶がさらに多価アルコール1重量%~55重量%を含むものであることを特徴とする。
また、請求項5記載の皮膚再生促進剤は、請求項4記載の皮膚再生促進剤において、多価アルコールがグリセリンであることを特徴とする
た、請求項記載の皮膚再生促進剤は、請求項1記載の皮膚再生促進剤において、リオトロピック液晶にケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質および/またはメラニン色素産生抑制作用を有する物質が配合されてなることを特徴とする。
また、請求項記載の皮膚再生促進剤は、請求項記載の皮膚再生促進剤において、ケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質がレチナール、3-デヒドロレチナール、レチノイン酸、3-デヒドロレチノイン酸、レチノイン酸類似物、レチノール、レチノール脂肪酸エステル、3-デヒドロレチノール脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
また、請求項記載の皮膚再生促進剤は、請求項記載の皮膚再生促進剤において、メラニン色素産生抑制作用を有する物質がアスコルビン酸グルコシド、アルブチン、スーパーオキサイド・ディスムターゼから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
また、請求項記載の皮膚再生促進剤は、請求項記載の皮膚再生促進剤において、ケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質および/またはメラニン色素産生抑制作用を有する物質が2価金属無機酸塩微粒子の内部に封入された形態で配合されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、これまで外用医薬品や化粧品の基材として利用されてきたリオトロピック液晶の新規な医薬用途としての皮膚再生促進剤が提供され、本発明の皮膚再生促進剤は、皮膚の老化やシミの発生などに対して優れた抑制効果を発揮する。なお、本発明における「皮膚」とは主として表皮を意味するものであるが、粘膜を排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の(A)のレチノイン酸を配合していないリオトロピック液晶を塗付した皮膚の断面写真である。
【図2】同、(B)のレチノイン酸封入ナノ粒子を配合したリオトロピック液晶を塗付した皮膚の断面写真である。
【図3】同、(C)の何も塗布していない皮膚の断面写真である。
【図4】実施例2における4種類のリオトロピック液晶をそれぞれ塗付した際のHB-EGF産生量の変化と何も塗布していない皮膚のHB-EGF産生量を示すグラフである。
【図5】実施例3における3種類の比率で配合したリオトロピック液晶を含むローション剤とローション基剤だけの4種類のサンプルをそれぞれ塗付した皮膚の断面写真である。
【図6】実施例4におけるリオトロピック液晶とその構成成分である界面活性剤,油分,多価アルコールの4種類のサンプルをそれぞれ塗布した皮膚の断面写真と何も塗布していない皮膚の断面写真である。
【図7】実施例5における3種類の比率で配合したリオトロピック液晶を含むローション剤とローション基剤だけの4種類のサンプルをそれぞれ塗付した皮膚の断面写真である。
【図8】実施例6におけるリオトロピック液晶を塗付した際の皮膚の粘弾性の経時変化を示すグラフである。
【図9】実施例7におけるリオトロピック液晶を含むローション剤とローション基剤だけの2種類のサンプルをそれぞれ塗付した皮膚の角質細胞の表面写真である。
【図10】同、角質層水分量の経時変化を示すグラフである。
【図11】実施例9における処方1のリオトロピック液晶を塗布した皮膚の断面写真である。
【図12】同、処方2のリオトロピック液晶を塗布した皮膚の断面写真である。
【図13】同、何も塗布していない皮膚の断面写真である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の皮膚再生促進剤は、リオトロピック液晶を有効成分とすることを特徴とするものである。本発明におけるリオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal)とは、界面活性剤(分子内に親水性部分と疎水性(親油性)部分を有する両親媒性分子)と水との共存系において、両者の混合比率と温度によって液晶状態(結晶のようにその分子配列に一定の規則性を保ちながら液体のような流動性を兼ね備えた状態)を形成するものを意味する。リオトロピック液晶は、原理的には、疎水性部分(アルキル基などの疎水性基)同士を向け合った結晶構造をとる固体状態の界面活性剤に所定の温度範囲で水を加えていくと、当該部分が熱運動により規則性を失って液体状態となるが、今度は親水性部分が水素結合により作用しあって長周期を維持して会合構造(ヘキサゴナル構造やラメラ構造など)をとるものと理解することができる(必要であれば「鈴木敏幸、液晶、第2巻、194頁-201頁、1998年」を参照のこと)。
【0011】
リオトロピック液晶の構成成分となる界面活性剤は、水との共存系において、水との混合比率と温度によって液晶状態(とりわけ面間隔が10nm~800nmの周期構造が望ましい)を形成することができるものであれば特段制限されるものではなく、非イオン性タイプ、アニオン性タイプ、カチオン性タイプ、両性タイプのいずれのタイプの界面活性剤であってもよく、また、レシチン(卵黄レシチンや大豆レシチンなど)やサポニンなどの天然由来の界面活性剤であってもよい。界面活性剤は単一のものを単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0012】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、セッケン(脂肪酸のナトリウム塩やカリウム塩など)、アルキルベンゼンスルホン酸塩(ナトリウム塩など)、高級アルコール硫酸エステル塩(ナトリウム塩など)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(ナトリウム塩など)、α-スルホ脂肪酸エステル、α-オレフィンスルホン酸塩(ナトリウム塩など)、モノアルキルリン酸エステル塩(ナトリウム塩など)、アルカンスルホン酸塩(ナトリウム塩など)などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩(クロリドなど)、ジアルキルジメチルアンモニウム塩(クロリドなど)、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩(クロリドなど)、アミン塩(酢酸塩や塩酸塩など)などが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸塩(ナトリウム塩など)、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。リオトロピック液晶に占める界面活性剤の割合は5重量%~80重量%が望ましく、7重量%~70重量%がより望ましく、10重量%~65重量%がさらに望ましい。界面活性剤のHLB値は8以上が望ましく、10以上がより望ましく、12以上がさらに望ましい。
【0013】
リオトロピック液晶の構成成分となる水としては、蒸留水などを用いることができる。水には水と相溶性のあるエタノールやイソプロパノールなどの有機溶媒が含まれていてもよい。リオトロピック液晶に占める水の割合は5重量%~80重量%が望ましく、10重量%~60重量%がより望ましく、13重量%~50重量%がさらに望ましい。
【0014】
リオトロピック液晶は、界面活性剤と水の他に油分を含んでもよい。油分を含むことで液晶構造は角質層の細胞間脂質が形成するラメラ構造に近似したものとなり、皮膚表面に塗付した際に細胞間脂質構造の相転移を起こさせやすくし、この結果として優れた皮膚再生促進作用を発揮する。油分としては、小麦胚芽油やトウモロコシ油やヒマワリ油やヒマシ油や大豆油などの植物油、シリコーン油、イソプロピルミリステートやグリセリルトリオクタノエートやジエチレングリコールモノプロピレンペンタエリスリトールエーテルやペンタエリスリチルテトラオクタノエートなどのエステル油、スクアラン、スクアレン、流動パラフィン、ポリブテンなどが挙げられる。油分は単一のものを単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。リオトロピック液晶に占める油分の割合は1重量%~80重量%が望ましく、5重量%~70重量%がより望ましく、10重量%~65重量%がさらに望ましい。
【0015】
また、リオトロピック液晶は、多価アルコールを含んでもよい。多価アルコールを含むことで液晶構造の形成容易化(相領域の拡大)や安定化を図ることができる。多価アルコールとしては、ポリエチレングリコールやポリアルキレングリコールなどのポリアルキレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、ペンタン-1,5-ジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、3-メチルペンタン-1,5-ジオール、ペンタン-1,2-ジオール、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ヘキシレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどが挙げられる。多価アルコールは単一のものを単独で用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。リオトロピック液晶に占める多価アルコールの割合は1重量%~55重量%が望ましく、3重量%~52重量%がより望ましく、5重量%~50重量%がさらに望ましい。
【0016】
また、リオトロピック液晶は、コレステロールなどを補助界面活性剤として含んでもよい。補助界面活性剤を含むことで多種多様の界面活性剤を用いた場合でも界面膜曲率の低減化を図ることができ、よって、液晶構造の形成容易化や安定化を図ることができる。リオトロピック液晶に占める補助界面活性剤の割合は0.01重量%~10重量%が望ましい。
【0017】
リオトロピック液晶は、その構成成分となる界面活性剤や水を、所定の温度において所定の比率で混合することにより調製することができる。必要に応じて構成成分を混合前や混合後に一時的に加温するといった操作を行ってもよい。
【0018】
本発明の皮膚再生促進剤には、リオトロピック液晶にケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質やメラニン色素産生抑制作用を有する物質が配合されてもよい。これらの物質がリオトロピック液晶に配合されることで、本発明の皮膚再生促進剤は皮膚の老化やシミの発生などに対してよりいっそう優れた抑制効果を発揮する。これらの物質の配合量は、リオトロピック液晶に対して重量比で例えば0.01%~50%である。ケラチノサイトの分化・増殖促進作用を有する物質としては、レチナール、3-デヒドロレチナール、レチノイン酸、3-デヒドロレチノイン酸、レチノイン酸類似物、レチノール、レチノール脂肪酸エステル、3-デヒドロレチノール脂肪酸エステルなどが挙げられる。メラニン色素産生抑制作用を有する物質としては、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、スーパーオキサイド・ディスムターゼなどが挙げられる。これらの物質は、それ自体をリオトロピック液晶に均一分散させて液晶構造の相間に取り込ませることで配合してもよいし、2価金属無機酸塩微粒子、例えば、直径が100nm~1000nmの炭酸カルシウム微粒子、炭酸マグネシウム微粒子、炭酸亜鉛微粒子、リン酸カルシウム微粒子、リン酸マグネシウム微粒子、リン酸亜鉛微粒子などの内部に封入し(その方法は必要であれば国際公開第02/096396号パンフレットを参照のこと)、これらの物質が封入された微粒子(ナノ粒子)をリオトロピック液晶に均一分散させて液晶構造の相間に取り込ませることで配合してもよい。また、リオトロピック液晶の面上(界面膜)に2価金属イオンとその対イオンを吸着させて膜の粘弾性を上昇させることで、相間に取り込まれた物質の物理化学的安定性を向上させることができる。
【0019】
本発明の皮膚再生促進剤は、これまで外用医薬品や化粧品の基材として利用されてきたリオトロピック液晶を有効成分とするので、そのまま外用製剤として皮膚表面に塗付してもよいし、軟膏基剤やクリーム基剤やローション基剤に分散させて皮膚表面に塗付してもよい。なお、製剤化の際には、防腐剤や保湿剤や抗酸化剤などの公知の成分を適宜添加してもよいことは言うまでもない。
【実施例】
【0020】
実施例1:
(A:実施例)17mLの蒸留水が入ったビーカーに31mLのグリセリン(多価アルコール)を添加してこれを均一に溶解させた。次いで、28mLの花王株式会社の非イオン性界面活性剤である商品名:エマルゲン2020G-HA(ポリオキシエチレンオクチルドデシルエーテル)を添加してこれを均一に分散させた。この際、液の粘性が上昇するので、その現象を各原料の均一分散の目安とした。続いて、20mLのスクアラン(油分)を添加してこれを均一に混合した後、さらに10mLのスクアレンを添加して約5分間攪拌し続けた。さらに5mLのスクアランを添加して攪拌を続けると、液の粘性が徐々に上昇し、瞬間的にゲル化した。この現象を液晶形成の目安とした。その後も数分間攪拌を続け、リオトロピック液晶(界面活性剤28.0重量%,水16.0重量%,油分25.0重量%,多価アルコール31.0重量%)を得た。なお、以上の操作は、全て遮光下で行い、非イオン性界面活性剤は約60℃で融解させてから用いた(以下同じ)。
メラニン色素産生細胞を持つ有色モルモット(Weiser Maples,6週齢,雄)の背部を毛剃りし、毛剃りした部分をぬるま湯で洗浄後、2cm×5cmの面積に、上記のリオトロピック液晶を30mg塗布した。UVA,UVB,UVAとUVBの両方のいずれかの照射下で塗付日から2日後、リオトロピック液晶を塗布した部分の皮膚を採取し、切片をホルマリンで固定した後、パラフィン包埋し、メラニン色素を黒く染め出すフォンタナマッソン法で染色し、皮膚再生促進作用を評価した。皮膚の断面写真を図1に示す。
【0021】
(B:実施例)ビーカーにレチノイン酸(全トランス体)を140mg、エタノールを400μL、1N水酸化ナトリウム水溶液を560μL入れ、レチノイン酸を均一に溶解させた。続いて、グリセリンを5mLとエマルゲン2020G-HAを2mL添加し、約10分間攪拌した。次いで、蒸留水を17.72mL添加して約10分間攪拌を続けることでレチノイン酸と非イオン界面活性剤の混合ミセルを得た。その後、5M塩化マグネシウム水溶液を46.5μL添加して約1時間攪拌を続けた。最後に、1M炭酸ナトリウム水溶液を46.5μL添加して約1時間攪拌し、直径が100nm~1000nmの炭酸マグネシウム薄膜にレチノイン酸が封入されたナノ粒子を得た。(A)で得たリオトロピック液晶に対し、このナノ粒子を、レチノイン酸の配合量がリオトロピック液晶に対して重量比で0.1%になるように配合し、レチノイン酸が封入されたナノ粒子が分解することなく均一分散したリオトロピック液晶を得た。このレチノイン酸封入ナノ粒子を配合したリオトロピック液晶の皮膚再生促進作用を上記の(A)に記載の方法で評価した。皮膚の断面写真を図2に示す。
【0022】
(C:コントロール)何も塗布していない皮膚を採取し、切片をホルマリンで固定した後、パラフィン包埋し、メラニン色素を黒く染め出すフォンタナマッソン法で染色した。皮膚の断面写真を図3に示す。
【0023】
図1~図3から明らかなように、(A)と(B)のリオトロピック液晶を塗付した場合、レチノイン酸の有無によらず、(C)のコントロールよりも表皮の肥厚が顕著であり、皮膚再生促進作用に優れていた。また、(A)のリオトロピック液晶を塗付した場合、(C)のコントロールよりもメラニン色素量が格段に少なかった(黒色のスポットやエリアが少ないことで判定)。
【0024】
実施例2:
ddYマウス(7週齢,雄)の背部を毛剃りし、毛剃りした部分をぬるま湯で洗浄後、1.5cm×1.5cmの面積に、以下の(ア)~(エ)の4種類のリオトロピック液晶をそれぞれ30mg塗布した。塗付日から1日後、2日後、3日後の皮膚再生機能を担うHB-EGF(heparin-binding EGF-like growth factor)の産生量の変化を測定し(測定手法の詳細は必要であれば非特許文献2を参照のこと)、それぞれの皮膚再生促進作用を評価した。結果を何も塗布していない皮膚のHB-EGF産生量とともに図4に示す。図4から明らかなように、リオトロピック液晶自体にHB-EGF産生増加作用が認められ、その作用はレチノイン酸を配合することで、その配合形態によらず増強された。なお、(ア)~(ウ)のリオトロピック液晶はレチノイン酸の保存安定性に優れ、調製後80日経過した時点でもレチノイン酸は95%以上残存していた。
(ア)実施例1の(B)のレチノイン酸封入ナノ粒子を配合したリオトロピック液晶(Mg-atRA/液晶)
(イ)実施例1の(B)のレチノイン酸封入ナノ粒子を調製する際に得られたレチノイン酸と非イオン界面活性剤の混合ミセルをレチノイン酸の配合量がリオトロピック液晶に対して重量比で0.1%になるように配合したリオトロピック液晶(atRAミセル/液晶)
(ウ)レチノイン酸自体をレチノイン酸の配合量がリオトロピック液晶に対して重量比で0.1%になるように配合したリオトロピック液晶(atRA/液晶)
(エ)実施例1の(A)のレチノイン酸を配合していないリオトロピック液晶(液晶のみ)
【0025】
実施例3:
実施例1の(A)のリオトロピック液晶を自家調製したローション基剤(乳液)に10%,20%,30%の割合(重量比)で配合して調製したローション剤と、ローション基剤のみの4種類のサンプルを、ddYマウス(5週齢,雄)の背部の毛剃りしてからぬるま湯で洗浄した部分にそれぞれ13.5mg/cm2の割合で4日間連続塗付した後、5日目にサンプルを塗付した皮膚を採取し、切片をホルマリンで固定した後、パラフィン包埋し、ヒアルロン酸染色(コロイド鉄染色)し、皮膚再生促進作用を評価した。それぞれのサンプルを塗布した皮膚の断面写真を図5に示す。図5から明らかなように、表皮の肥厚の程度はリオトロピック液晶の配合量に依存した。
【0026】
実施例4:
メラニン色素産生細胞を持つ有色モルモット(Weiser Maples,5週齢,雄)の背部を毛剃りし、毛剃りした部分をぬるま湯で洗浄後、2cm×2cmの面積に、実施例1の(A)のリオトロピック液晶とその構成成分である界面活性剤,油分,多価アルコールの4種類のサンプルをそれぞれ30mg塗布し、実施例1の(A)に記載の方法で皮膚再生促進作用を評価した。それぞれのサンプルを塗布した皮膚の断面写真を何も塗布していない皮膚の断面写真とともに図6に示す。図6から明らかなように、リオトロピック液晶の構成成分を単独で塗付しても、皮膚再生促進作用は認められず、皮膚再生促進作用はリオトロピック液晶にのみ認められた。
【0027】
実施例5:
ヒアルロン酸染色のかわりにKi-67染色(細胞が増殖状態にあることを示すマーカー)すること以外は実施例3と同様にして4種類のサンプルの皮膚再生促進作用を評価した。それぞれのサンプルを塗布した皮膚の断面写真を図7に示す。図7から明らかなように、リオトロピック液晶を配合して調製したローション剤を塗付した皮膚においては、増殖状態にある細胞が顕著に増加しており、リオトロピック液晶の皮膚再生促進作用は、基底細胞に対する増殖促進作用が一因となっていることが示唆された。
【0028】
実施例6:
ヒト(女性)の頬部に実施例1の(A)のリオトロピック液晶を10mg/cm2の割合で塗布する前、塗付してから30秒後,5分後,30分後,1時間後に、キュートメーターを用いて、当該部分の皮膚を陰圧(400mba)で吸引した後、瞬時に開放した際の引っ張り強度と戻り度を測定することにより、皮膚の粘弾性を評価した。結果を図8に示す。図8から明らかなように、実施例1の(A)のリオトロピック液晶を塗付することで、塗付してから30分後までは皮膚の粘弾性は経時的に低下したが、1時間後には増大し、5時間後まで同じ程度であった(図示せず)。以上の結果は、角質層の構造変化により皮膚の柔軟化が起こったためであると考えられた。
【0029】
実施例7:
実施例1の(A)のリオトロピック液晶を自家調製したローション基剤(乳液)に30%の割合(重量比)で配合して調製したローション剤と、ローション基剤のみの2種類のサンプルを、ヒト(女性)の頬部にそれぞれ適量を1ヶ月塗布した後、テープスプリット法で塗付した部分の皮膚の角質細胞を転写し、ゲンチアナバイオレットとブリリアントグリーンとの混合液で染色した。それぞれのサンプルを塗付した皮膚の角質細胞の表面写真を図9に示す。図9から明らかなように、ローション基剤のみを塗布した場合に比較して、リオトロピック液晶を配合して調製したローション剤を塗付した場合、角質細胞の重なりが少なく、角質細胞の分化が正常に行われて表皮のターンオーバーが促進されていることを示唆した。また、図10にキュートメーターを用いて測定した2種類のサンプルをそれぞれ塗布した皮膚の角質層水分量の経時変化を示す。図10から明らかなように、ローション基剤のみを塗布した場合に比較して、リオトロピック液晶を配合して調製したローション剤を塗付した場合、角質層水分量は格段に増加した。以上の結果は、リオトロピック液晶の皮膚再生促進作用によって表皮層内でのヒアルロン酸の産生量が増加したことによるものと考えられた。
【0030】
実施例8:
実施例1の(A)のリオトロピック液晶を市販のローション基剤に30%の割合(重量比)で配合するとともに美白効果やメラニン色素産生抑止効果を有するアスコルビン酸グルコシドを2%の割合(重量比)で配合して調製したローション剤と、アスコルビン酸グルコシドだけを2%の割合(重量比)で配合して調製したローション剤の2種類のサンプルを、ヒト(女性)の頬部にそれぞれ適量を2ヶ月塗布した後、それぞれのサンプルを塗付した皮膚の外観を比較観察したところ、アスコルビン酸グルコシドだけを配合して調製したローション剤を塗付した場合に比較して、リオトロピック液晶とアスコルビン酸グルコシドを配合して調製したローション剤を塗付した場合、皮膚の明度が上昇した。具体的には、皮膚の明度の変化をL*値で評価したところ、アスコルビン酸グルコシドだけを配合して調製したローション剤を塗付した場合、塗付前が57.43であったのが塗付後は56.48とほとんど変化がなかったのに対し、リオトロピック液晶とアスコルビン酸グルコシドを配合して調製したローション剤を塗付した場合、塗付前が57.59であったのが塗付後は60.34に増加した(L*値が大きいほど白いと判定される)。以上の結果は、リオトロピック液晶の皮膚再生促進作用によって表皮のターンオーバーが促進されたこととともに、リオトロピック液晶を皮膚表面に塗付することによって角質層の細胞間脂質構造の相転移が起こったことでアルコルビン酸グルコシドの経皮吸収が促進され、シミが除去されたことによるものと考えられた。
【0031】
実施例9:
表1に記載の4種類の処方(単位は重量%)からなるリオトロピック液晶を構成成分を混合することで調製した。具体的には、蒸留水を除く全ての成分を混合後、約60℃に加熱し、大豆レシチン、コレステロール、POE(60)硬化ヒマシ油を融解させ、その後、所定量の蒸留水を添加して攪拌することで調製した。
【0032】
【表1】
JP0005271538B2_000002t.gif

【0033】
メラニン色素産生細胞を持つ有色モルモット(Weiser Maples,5週齢,雄)の背部を毛剃りし、毛剃りした部分をぬるま湯で洗浄後、2cm×2cmの面積に、処方1と処方2のリオトロピック液晶それぞれ30mgを、UVA,UVB,UVAとUVBの両方のいずれかの照射下で10日間連続塗布し、実施例1の(A)に記載の方法で皮膚再生促進作用を評価した。処方1のリオトロピック液晶を塗布した皮膚の断面写真を図11に、処方2のリオトロピック液晶を塗布した皮膚の断面写真を図12に、何も塗布していない皮膚の断面写真を図13に示す。図11~図13から明らかなように、処方1と処方2のリオトロピック液晶を塗付した場合、コントロールよりも表皮の肥厚が顕著であり、皮膚再生促進作用に優れるとともに、コントロールよりもメラニン色素量が少なかった。
【0034】
製剤例1:
実施例9の処方1のリオトロピック液晶に市販の防腐剤を添加して製剤化した。
【0035】
製剤例2:
実施例9の処方2のリオトロピック液晶を自家調製したローション基剤(乳液)に配合し、市販の防腐剤を添加してローション剤に製剤化した。ローション基剤は、大豆レシチン、コレステロール、PEG4000、環状シリコーン、カーボポール(高分子ゲル化剤)、ケルトロール(高分子ゲル化剤)、蒸留水を混合して乳化することで調製した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、これまで外用医薬品や化粧品の基材として利用されてきたリオトロピック液晶の新規な医薬用途としての皮膚再生促進剤を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
図面
【図4】
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【図8】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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