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明細書 :新規糖固定化金属ナノ粒子およびこれを用いて糖-タンパク質相互作用を測定する方法、並びに糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4883640号 (P4883640)
登録日 平成23年12月16日(2011.12.16)
発行日 平成24年2月22日(2012.2.22)
発明の名称または考案の名称 新規糖固定化金属ナノ粒子およびこれを用いて糖-タンパク質相互作用を測定する方法、並びに糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法
国際特許分類 G01N  33/543       (2006.01)
G01N  33/547       (2006.01)
G01N  33/553       (2006.01)
G01N  33/566       (2006.01)
C07K   1/22        (2006.01)
FI G01N 33/543 541Z
G01N 33/543 525U
G01N 33/543 525E
G01N 33/547
G01N 33/553
G01N 33/566
C07K 1/22
請求項の数または発明の数 5
全頁数 26
出願番号 特願2007-517926 (P2007-517926)
出願日 平成18年5月26日(2006.5.26)
国際出願番号 PCT/JP2006/310592
国際公開番号 WO2006/126689
国際公開日 平成18年11月30日(2006.11.30)
優先権出願番号 2005154550
優先日 平成17年5月26日(2005.5.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年3月4日(2009.3.4)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
【識別番号】505196288
【氏名又は名称】隅田 泰生
発明者または考案者 【氏名】隅田 泰生
【氏名】西村 知晃
【氏名】岸本 裕子
【氏名】中川 裕美
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】宮澤 浩
参考文献・文献 特開2004-157108(JP,A)
特開2004-194669(JP,A)
特開2004-333232(JP,A)
特開2005- 69955(JP,A)
国際公開第2004/022583(WO,A1)
Biomacromolecules,vol.6,p.818-824
Analytical Biochemistry,vol.332, p.253-260
調査した分野 G01N 33/543
C07K 1/22
G01N 33/547
G01N 33/553
G01N 33/566
特許請求の範囲 【請求項1】
末端に芳香族アミノ基を有するとともに、主鎖に炭素-窒素結合を有していてもよい炭化水素誘導鎖を備えるとともに、硫黄原子を含む炭化水素構造を備えているリンカー化合物と、還元末端を有する糖とが上記アミノ基を介して結合している構造を有するリガンド複合体と、金とを結合させてなる糖固定化金属ナノ粒子であって、
テトラクロロ金(III)酸ナトリウムと、水素化ホウ素ナトリウムと、を混和することによって調製された金ナノ粒子の溶液に、上記構造を有するリガンド複合体を混和することによって調製され、
安定であり、
上記金ナノ粒子の溶液と、上記リガンド複合体とを混和することによって調製された糖固定化金属ナノ粒子の溶液に対し、テトラクロロ金(III)酸ナトリウムが0.5mM~4mM、水素化ホウ素ナトリウムが金イオンのモル濃度の3~10倍モル濃度、上記リガンド複合体が10μM~1000μM含まれており、
上記糖固定化金属ナノ粒子は、糖をタンパク質と相互作用させることによって糖-タンパク質相互作用体を生成しうることを特徴とする糖固定化金属ナノ粒子。
【請求項2】
上記硫黄原子を含む炭化水素構造は、S-S結合またはSH基を含む炭化水素構造であることを特徴とする請求項1に記載の糖固定化金属ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和することによって、糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程を含むことを特徴とする糖-タンパク質相互作用の測定方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和して糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程と、
当該糖-タンパク質相互作用体と水とを混和した混和液のpHを5以下とする工程と、を含むことを特徴とする糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和して、糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程と、
当該糖-タンパク質相互作用体と上記タンパク質が認識可能な糖とを混和する工程と、
を含むことを特徴とする糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規糖固定化金属ナノ粒子およびこれを用いて糖-タンパク質相互作用を測定する方法、並びに糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法に関するものであり、特に、還元末端を有する糖とリンカー化合物を結合させたリガンド複合体と、金属ナノ粒子とを結合させた新規糖固定化金属ナノ粒子、これを測定媒体とすることにより非標識で糖-タンパク質相互作用を測定する方法、並びに糖-タンパク質相互作用体の凝集が解離する条件を利用して糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖とタンパク質との相互作用(以下「糖-タンパク質相互作用」と記載する)は、細胞-細胞や細胞-細胞外基質そして細胞-病原体相互作用の理解を深めるために、構造生物学上長い間興味を持たれている領域である。
【0003】
糖-タンパク質相互作用は、通常、リガンドタンパク質または複合糖質を放射性同位元素や酵素で標識して解析される。例えば、ELISA法やブロッティング法などにおいて、ピリジルアミノ化や蛍光等により標識した糖鎖や、2次抗体などで標識されたタンパク質を用いる方法がある。ピリジルアミノ化や蛍光等により標識した糖鎖を用いて糖-タンパク質相互作用を分析する方法としては、ピリジルアミンを結合させた糖鎖を用いて、糖-タンパク質間相互作用を蛍光により、TLC(薄相クロマトグラフィ)やHPLC(高速液体クロマトグラフィ)で測定する方法が挙げられる(非特許文献1)。また、2次抗体などで標識されたタンパク質を用いて糖-タンパク質相互作用を分析する方法としては、標識を施した2次抗体を用いて蛍光をアレイで測定する方法が挙げられる(非特許文献2)。
【0004】
一方、標識剤を必要としない方法としては、例えば表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance;以下SPRと記載する)や水晶発振子マイクロバランス(Quarts Crystal Microbalance;以下QCMと記載する)等の方法がある。
【0005】
SPRは、糖の一部を模擬したオリゴ糖を含んでなるリガンド複合体をセンサチップ表面上に導入し、このリガンド複合体が導入されたセンサチップを用いて、オリゴ糖と特異的に相互作用するタンパク質等の物質を特定する方法である。QCMは、交流電圧を印加した水晶発振子が外的な要因が加わらない限り常に一定の振動を繰り返す性質を利用し、水晶発振子上に何かが付着した場合の振動数の変化を測定することにより糖-タンパク質相互作用を測定する方法である。
【0006】
糖を固定化する合成手法としては、あらかじめ糖鎖を芳香族アミノ基で修飾したものと、金属コロイドにアルデヒド基を導入したものを還元アミノ化反応を用いて結合させる方法(非特許文献3)や、金属コロイドと結合するためのチオール基を持つ化合物と糖鎖との結合をグリコシル化反応(トリクロロアセトイミデート法)を用いて行う方法(非特許文献4)など多く報告されている。

【非特許文献1】M.S.Stoll et al.,Eur.J.Biochem.267,1795-1804,2000
【非特許文献2】M.Schwarz et al.,Glycobiol.13,no.11,749-754,2003
【非特許文献3】H.Otsuka et al.,J.Am.Chem.Soc.123,8226-8230,2001
【非特許文献4】J.M.de la Fuente et al.,Angew.Chem.Int.Ed.40,No.12,2258-2260,2001 しかしながら、標識した糖鎖やタンパク質を用いて糖-タンパク質相互作用を測定する方法は、標識という前処理が必要となるため、標識効果が測定のばらつきに大きく影響するという問題がある。一方、非標識の方法であっても、従来のSPRやQCMでは非常に高価な装置が必要であり、簡便な測定は困難であった。
【0007】
また、従来、糖鎖を固定化するためには、例えば上記非特許文献3に記載の方法では糖鎖に芳香族アミノ基を導入したものを用いるため前処理が必要となり、上記非特許文献4に記載の方法では合成に少なくとも5ステップは必要である等、合成・精製過程が非常に複雑であり、容易に糖鎖を固定化することは困難であるという問題があった。
【0008】
さらに、糖-タンパク質相互作用を分析する手法として、タンパク質を基にして糖鎖を評価する方法は古くから行われているが、糖鎖を基にしてタンパク質を評価する方法はあまり行われていない。また、糖とタンパク質とが相互作用した糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収することができれば非常に経済的であるが、係る方法は見出されていなかった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、容易に糖鎖を固定化することができる安定な新規糖固定化金属ナノ粒子、およびこれを用いて非標識でしかも安価かつ容易に糖-タンパク質相互作用を測定する方法、並びに糖-タンパク質相互作用体から簡便にタンパク質を回収する方法を提供することにある。
【発明の開示】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、還元アミノ化反応によりリンカー化合物と還元末端を有する糖とを結合させたリガンド複合体に、任意の金属を結合させた糖固定化金属ナノ粒子が糖鎖を容易に固定化でき、しかも安定であることを見出した。
【0011】
さらに、本発明者は上記糖固定化金属ナノ粒子にタンパク質を添加するだけで、非標識で非常に容易に糖-タンパク質相互作用を測定した。そして、糖-タンパク質相互作用体のpHを調整すること、または糖-タンパク質相互作用体に当該タンパク質が認識可能な糖鎖を加えることによって、糖-タンパク質相互作用体から非常に容易にタンパク質を回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子は、末端にアミノ基を有するとともに、主鎖に炭素-窒素結合を有していてもよい炭化水素誘導鎖を備えるとともに、硫黄原子を含む炭化水素構造を備えているリンカー化合物と、還元末端を有する糖とが、上記アミノ基を介して結合している構造を有するリガンド複合体と、任意の金属とを結合させてなることを特徴としている。
【0013】
上記炭化水素誘導鎖とは、炭素及び水素からなる炭化水素鎖にて、一部の炭素や水素が他の原子や置換基に置き換わっていてもよいものを指すとする。すなわち、上記炭化水素誘導鎖とは、末端にアミノ基を有し、炭化水素鎖の主鎖構造である炭素-炭素結合(C-C結合)の一部が、炭素-窒素結合(C-N結合)、炭素-酸素結合(C-O結合)、アミド結合(CO-NH結合)に置き換わっていてもよいものを指す。
【0014】
また、上記硫黄原子を含む炭化水素構造とは、炭素及び水素からなる炭化水素構造にて、一部の炭素が硫黄に置き換わっているものを意味する。また、この硫黄原子を含む炭化水素構造は、鎖状(直鎖、枝分かれ鎖の両方を含む)であっても、環状であってもよく、また、鎖状構造および環状構造の両方の構造を含んでいてもよいものとする。
【0015】
本発明の糖固定化金属ナノ粒子において、上記硫黄原子を含む炭化水素構造は、S-S結合またはSH基を含む炭化水素構造を備えているものであってもよい。つまり、上記硫黄原子を含む炭化水素構造中に、ジスルフィド結合(S-S結合)またはチオール基(SH基)が含まれていてもよい。
【0016】
また、本発明の糖固定化金属ナノ粒子において、上記アミノ基は芳香族アミノ基であることが好ましい。還元アミノ化反応の最適条件であるpH3~4においては、アミノ基がプロトン化されないことが必要である。そのため、芳香族との共役によってpH3~4でも非共有電子対が窒素原子上に存在する芳香族アミノ基が好ましい。
【0017】
また、本発明の糖固定化金属ナノ粒子において、上記金属は金であることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、リンカー化合物内のS-S結合にて、任意の金属と、金属-硫黄(S)結合、例えば金-硫黄(Au-S)結合により結合することができる。これにより、このAu-S結合を介して、糖固定化金属ナノ粒子を提供することができる。
【0019】
また、本発明に係る糖-タンパク質相互作用の測定方法は、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和することによって、糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程を含むことを特徴としている。
【0020】
上記構成によれば、糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖をタンパク質が認識し、その結果、水素結合等の糖-タンパク質相互作用が生じる。そのため、非標識で簡便に糖-タンパク質相互作用を測定することができる。また、凝集反応を目視で確認するだけで糖-タンパク質相互作用を測定することも可能となる。
【0021】
また、本発明に係る糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法は、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和して糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程と、当該糖-タンパク質相互作用体と水とを混和した混和液のpHを5以下とする工程と、を含むことを特徴としている。
【0022】
上記構成によれば、液性が酸性となるため、糖-タンパク質相互作用体の糖鎖部分からタンパク質を切断することができる。または、上記混和液のpHを5以下にすることにより、糖-タンパク質相互作用体を構成するタンパク質の構造が変性し、糖のタンパク質認識能が低下するため、糖-タンパク質相互作用体から完全に解離させることができる。したがって、糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を容易に回収することができる。
【0023】
また、本発明に係る糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法は、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和して、糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程と、当該糖-タンパク質相互作用体を上記タンパク質が認識可能な糖鎖を含む溶液と混和する工程と、を含むことを特徴としている。
【0024】
上記構成によれば、糖-タンパク質相互作用体を構成するタンパク質と、上記タンパク質が認識可能な糖との間に置換反応が生じるため、上記糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を解離させることができる。したがって、糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を容易に回収することができる。
【0025】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】マルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図2】マルトースとConAまたはBSAとの糖-タンパク質相互作用を示す紫外可視吸光スペクトル図である。
【図3】左からマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の写真、糖-タンパク質相互作用により凝集している糖-タンパク質相互作用体の写真、糖-タンパク質相互作用体にグルコースを添加することにより、糖-タンパク質相互作用体からタンパク質が解離したことを示す写真をそれぞれ表す図である。
【図4】解離したマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液に含まれるConAのMALDI-TOF/MS分析の結果を示す図である。
【図5】ラクトースとRCA120またはBSAとの糖-タンパク質相互作用を示す紫外可視吸光スペクトル図である。
【図6】マルトースとConAまたはBSAとの糖-タンパク質相互作用を示す紫外可視吸光スペクトル図である。
【図7】キトビオースとWGAまたはBSAとの糖-タンパク質相互作用を示す紫外可視吸光スペクトル図である。
【図8】ラクトースとConA、RCA120、WGAを用いて糖-タンパク質相互作用を測定した結果を示すものである。
【図9】マルトースとConA、RCA120、WGAを用いて糖-タンパク質相互作用を測定した結果を示すものである。
【図10】キトビオースとConA、RCA120、WGAを用いて糖-タンパク質相互作用を測定した結果を示すものである。
【図11】ラクトース、マルトース、またはキトビオースとレクチンとの糖-タンパク質相互作用をSDS-PAGEで確認した結果を示すものである。
【図12】解離に用いるガラクトースの濃度を変化させた場合におけるラクトース-RCA120相互作用体の解離状況を、縦軸に紫外可視吸収スペクトル(532nm)を取ることによってグラフ化したものである。
【図13】左からラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の写真、糖-タンパク質相互作用により凝集しているラクトース-RCA120相互作用体の写真、ラクトース-RCA120相互作用体に100mMのガラクトース溶液を添加することにより、ラクトース-RCA120相互作用体からRCA120が解離したことを示す写真をそれぞれ表すものである。
【図14】解離に用いるグルコースの濃度を変化させた場合におけるマルトース-ConA相互作用体の解離状況を、縦軸に紫外可視吸収スペクトル(532nm)を取ることによってグラフ化したものである。
【図15】左からマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の写真、糖-タンパク質相互作用により凝集しているマルトース-ConA相互作用体の写真、マルトース-ConA相互作用体に100mMのグルコース溶液を添加することにより、マルトース-ConA相互作用体からConAが解離したことを示す写真をそれぞれ表す図である。
【図16】図13に示すRCA120が解離したラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をSDS-PAGEに供した結果と、図15に示すConAが解離したマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をSDS-PAGEに供した結果とを表すものである。
【図17】マルトース固定化金ナノ粒子のConA保持能力を示すSDS-PAGEの結果を示すものである。
【図18】ラクトース固定化金ナノ粒子のRCA120保持能力を示すSDS-PAGEの結果を示すものである。
【図19】コロイド溶液としてマルトース固定化金ナノ粒子を、レクチンとしてConAを、糖鎖としてグルコース、マルトース、またはGlcNAcを用いた場合において、凝集阻害反応を行い、吸光度を測定した結果を示すものである。
【図20】525nmにおける吸光度(Abs525)が0.3(/mm)であるコロイド溶液を用いた場合のドットブロットの結果を示すものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。以下、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子、糖-タンパク質相互作用の測定方法、および糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法について詳述する。
【0028】
(1)糖固定化金属ナノ粒子
本明細書において、「糖固定化金属ナノ粒子」とは、以下に詳述するリガンド複合体と、任意の金属とを結合させてなるものである。
【0029】
本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子の構成要素であるリガンド複合体は、任意の金属と結合することのできるリンカー化合物と、分析対象となるタンパク質などと特異的に相互作用することのできる糖鎖とから構成されている。そのため、上記リガンド複合体は、タンパク質等の物質と非特異的に相互作用を起こさないものであることが必要とされる。
【0030】
そこで、本発明のリガンド複合体には、硫黄原子(S)が含まれており、この硫黄原子(S)は、例えば、コロイド溶液中に分散している金(Au)と、金属-硫黄結合(Au-S結合)を形成し、金属に強固に結合することができる。
【0031】
また、上記リンカー化合物は、末端にアミノ基を有するとともに主鎖に炭素-窒素結合を有していてもよい炭化水素誘導鎖を備えている。これによって、上記リンカー化合物は、金属に糖分子を集合化して配列することができるとともに、末端にアミノ基を有していることによって、糖分子を簡便に導入することができる。なお、上記アミノ基は、修飾されているアミノ基、例えばアセチル基、メチル基やホルミル基等で修飾されたアミノ基や、芳香族アミノ基であってもよいし、未修飾のアミノ基であってもよい。
【0032】
当該リンカー化合物は、金属-硫黄結合(Au-S結合)を容易に形成することができるという点で、S-S結合またはSH基が含まれている炭化水素構造を備えていることが好ましい。ジスルフィド結合(S-S結合)またはSH基中の硫黄(S)は、例えば、コロイド溶液中に分散している金(Au)と、金属-硫黄結合(Au-S結合)を形成し、コロイド溶液中の金属に強固に結合することができる。
【0033】
そして、上記リガンド複合体には、上記リンカー化合物のアミノ基に、還元末端を有する糖鎖が導入されている。言い換えれば、上記リガンド複合体は、上記リンカー化合物と、還元末端を有する糖とが、アミノ基を介して結合している構造を有している。この糖の導入は、例えば、上記リンカー化合物のアミノ基(-NH基)と糖との還元アミノ化反応によって行うことができる。つまり、糖中の平衡によって生じるアルデヒド基(-CHO基)またはケトン基(-CRO基、Rは炭化水素基)と、上記リンカー化合物が有するアミノ基とが反応する。そして、この反応によって形成されたシッフ塩基を引き続き還元することによって、アミノ基に容易に糖を導入することができる。
【0034】
なお、上記「還元末端を有する糖」とは、アノマー炭素原子が置換を受けていない単糖またはオリゴ糖である。上記還元末端を有する糖としては、市販のものであっても天然のものであってもよく、あるいは、市販および天然の多糖を分解、合成して調製したものを用いることができる。
【0035】
上記還元末端を有する糖としてより具体的には、グルコース、ガラクトース、マンノース、マルトース、イソマルトース、ラクトース、パノース、セロビオース、メリビオース、マンノオリゴ糖、キトオリゴ糖、ラミナリオリゴ糖、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン(以下「GlcNAc」と略記)、グルクロン酸、硫酸化オリゴ糖、シアル酸、各種抗原糖鎖、N-アセチルガラクトサミン、フコース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、ゲンチビオース、フコシルラクトース、キトビオース、グロボビオースなどが挙げられるが、これに限定されることはない。
【0036】
上記リガンド複合体に含まれるリンカー化合物は、金属に結合可能な硫黄原子と、オリゴ糖鎖等の糖分子に結合可能なアミノ基とを有している。従って、例えばAu-S結合などの金属-硫黄結合により上記リガンド複合体が金属に固定されるので、上記リンカー化合物を介して、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子に糖分子を強固にかつ簡単に結合させることができるとともに、糖固定化金属ナノ粒子を溶液状態で安定化することができる。また、上記リガンド複合体と金属との結合は、上記リガンド複合体と金属を含む溶液とを混和するだけで行うことができるので、非常に容易に糖鎖を固定化することができる。
【0037】
また、上記リガンド複合体は、タンパク質との非特異的な相互作用の影響をほぼ無視することができる。それゆえ、上記リンカー化合物を有する上記リガンド複合体を用いることによって、上記糖とタンパク質との相互作用を再現性よく評価することが可能になる。
【0038】
上記リンカー化合物は、例えば以下に示す製造方法によって製造される。つまり、上記リンカー化合物は、チオクト酸と、芳香族アミノ基末端との縮合反応を行うことによって製造される。
【0039】
上記チオクト酸と芳香族アミノ基との縮合反応により、チオクト酸のカルボキシル基(-COOH基)と、芳香族アミノ基とが縮合して、アミド結合が形成されることによって、上記したリンカー化合物を得ることができる。
【0040】
上記リガンド複合体は、上述のようにして作製されたリンカー化合物に、還元末端を有する糖が導入されたものである。
【0041】
上記のリガンド複合体は、リンカー化合物と糖分子とを含んでなっているので、リンカー化合物内のS-S結合にて、任意の金属と、金属-硫黄(S)結合、例えば金-硫黄(Au-S)結合により結合することができる。これにより、このAu-S結合を介して、上記金属に糖分子を固定化されてなる糖固定化金属ナノ粒子を提供することができる。上記任意の金属としては、上記リガンド複合体と結合可能なものであればよく、上記金の他、銅、銀、白金等の金属を用いることができるが、特に金を用いることが好ましい。金としては、入手の容易性に鑑みると塩化金酸およびその塩類であることが好ましく、特に塩化金酸ナトリウムであることが好ましい。
【0042】
なお、上記リガンド複合体に導入されている糖は、還元末端を有するものであれば単糖でもよいし、同一の単糖分子からなる単一オリゴ糖であってもよいし、種々の単糖分子やその誘導体からなる複合糖質であってもよい。また、上記糖は、いずれも、自然界から単離・精製して得られる種々の天然の糖であってもよく、人工的に合成された糖であってもよい。また、上記糖は、多糖を分解して得られたものであってもよい。
【0043】
本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子は、金属を含む溶液を上記リガンド複合体と混和することによって得ることができ、リガンド複合体のS-S結合の各S原子が、金属と金属-硫黄結合によって結合する。具体的には、例えば、金属のコロイド溶液を上記リガンド複合体を含む溶液に添加して攪拌することによって、上記リガンド複合体のS-S結合を、金属のコロイド溶液に含まれる金等との金属-硫黄結合に変換して、糖固定化金属ナノ粒子を得ることができる。
【0044】
なお、金属が塩として溶液に含まれているときは、上記リガンド複合体と混和する前に、還元剤を用いて金属を還元しておくことが好ましい。これにより、金属と上記リガンド複合体との結合を形成しやすくすることができる。還元剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、水素化ホウ素ナトリウムおよびその塩類、アスコルビン酸およびその塩類、リン、タンニン酸およびその塩類、エタノール、ヒドラジン等を用いることができる。
【0045】
金属を含む溶液の分散媒およびリガンド複合体を含む溶液に用いる溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、水やこれらの混合溶媒等を挙げることができる。また、上記混和によって得られた糖固定化金属ナノ粒子を透析し、低分子の塩などを除くことによって、溶液状態で安定な糖固定化金属ナノ粒子を得ることができる。
【0046】
糖固定化金属ナノ粒子を調製するために用いる金属、還元剤、上記リガンド複合体の混合比は、特に限定されるものではないが、金属が塩化金酸およびその塩類である場合は、塩化金酸およびその塩類の溶液中の最終濃度が0.5mM~4mMであることが好ましく、1mM~2mMであることがさらに好ましい。
【0047】
還元剤としては、溶液中の最終濃度として金イオンのモル濃度の3~10倍モル濃度であることが好ましく、4~5倍モル濃度であることがさらに好ましい。
【0048】
また、上記リガンド複合体は溶液中の最終濃度として10μM~1000μMであることが好ましく、50μM~150μMであることがさらに好ましい。
【0049】
(2)糖-タンパク質相互作用の測定方法
本発明に係る糖-タンパク質相互作用の測定方法は、糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和することによって、糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程を含むものである。
【0050】
上記「糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液」とは、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子が液体に分散したものとの意味である。糖固定化金属ナノ粒子を含んでいれば、他に塩などが含まれていてもよい。上記液体としては、例えば水や緩衝液等を用いることができる。
【0051】
上記タンパク質としては、特に限定されるものではなく、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識することができるものであればよい。例えば、糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖がグルコースの場合は、グルコースを認識することができるタンパク質であるコンカナバリンA(ConA)、レンチルレクチン(LCA)、ピーナッツレクチン(PNA)などを使用する。
【0052】
同様に、糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖がガラクトースである場合は、ガラクトースを認識するタンパク質であるヒママメレクチン(RCA120)等を用いることができる。また、糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖がN-アセチルグルコサミンである場合は、N-アセチルグルコサミンを認識するタンパク質である小麦胚芽レクチン(WGA)等を用いることができる。
【0053】
また、他の糖鎖を認識するものとしては、ドリコスマメレクチン(BPA)、イヌエンジュレクチン(MAM)、ニホンニワチコレクチン(SSA)、エンドウマメレクチン(PSA),ジャッカリン(JAC)、バンデリアマメレクチン(GS-II)、ハシリニエダレクチン(UEA-I)等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0054】
糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和する方法は、特に限定されるものではなく、糖とタンパク質とを相互作用させることができるものであればよい。例えば、マイクロプレートやエッペンドルフチューブなどにタンパク質の希釈系列を作製し、糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液を添加して放置することにより混和を行うことができる。
【0055】
糖とタンパク質との相互作用(糖-タンパク質相互作用)としては、水素結合、イオン結合、静電気的相互作用、ファンデルワールス力等を挙げることができる。すなわち、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖をタンパク質が認識し、その結果、水素結合等の糖-タンパク質相互作用が生じる。
【0056】
なお、上記「認識」とは、タンパク質が分子内に有する糖結合部位(糖鎖認識部位)によって糖鎖に結合することをいう。
【0057】
上記「糖-タンパク質相互作用体」とは、糖とタンパク質とが相互作用して特異的に結合し、その結果生成される凝集物を意味する。本発明に係る糖-タンパク質相互作用の測定方法は、糖-タンパク質相互作用を上記糖-タンパク質相互作用体の生成として目視で確認することができる。糖とタンパク質とが相互作用しない場合は、糖-タンパク質相互作用体は形成されない。
【0058】
ここで、凝集反応を確認することによって物質間の相互作用を測定する方法としては、例えば抗原抗体反応を用いたラテックス凝集法等を挙げることができる(「バイオ診断薬の開発・評価と企業」、CMCテクニカルライブラリー146、シーエムシー出版、P92-97,P109-113)。上記ラテックス凝集法は、ラテックス表面に抗体を固定化させておき、96穴のマイクロプレートを用いて試料抗原の希釈系列を作り、凝集を生じる最大希釈倍率を求め標準溶液と比較して測定するという方法である。結果は一定波長の光で吸光度として測定される。
【0059】
しかしながら、コロイドについて凝集反応を確認することによって物質間の相互作用を測定する方法としては、比較的小さな粒子の呈する赤色と比較的大きな粒子の呈する紫色をもって結果を判断するという手法が知られているのみである。したがって、コロイドにおいても糖とタンパク質とを相互作用させて凝集物を生成させ、当該凝集物の生成を確認することによって結果を判定することができる本発明に係る方法は、従来の方法よりも非常に簡便であり、有用な方法であるということができる。
【0060】
また、本発明に係る方法は、糖-タンパク質相互作用を非標識で測定することができるので、標識を要する方法のような前処理を必要としない点で簡便である。さらに、標識効果が測定のばらつきに大きく影響するという問題も存在せず、再現性のよい測定を行うことができる。また、糖-タンパク質相互作用を目視で確認することができるので、特別な装置も必要なく、非常に安価かつ容易に糖-タンパク質相互作用を測定することができる。
【0061】
したがって、本発明に係る方法は、糖やタンパク質の機能解析や、検査・診断などに用いることが可能である。
【0062】
なお、本発明に係る糖-タンパク質相互作用の測定方法は、糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和することによって、糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程を含んでいればよい。したがって、例えば上述のように糖-タンパク質相互作用体の生成を目視で確認するだけでもよいし、より詳細な測定を行いたい場合は、一定波長の紫外可視吸光スペクトルを測定する工程を含んでいてもよい。
【0063】
(3)糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法
一実施形態において、本発明に係る糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法は、糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和して糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程と、当該糖-タンパク質相互作用体と水とを混和した混和液のpHを5以下とする工程と、を含んでいる。
【0064】
上記「糖-タンパク質相互作用体と水とを混和した混和液のpHを5以下とする工程」は、糖とタンパク質との相互作用の結果生成した上記糖-タンパク質相互作用体を遠心分離などの方法によって回収し、回収した上記糖-タンパク質相互作用体と水とを混和した混和液のpHを、酸を用いて5以下にする工程である。上記酸としては、上記混和液の液性を酸性にすることができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば塩酸、シナピン酸、硝酸、硫酸等を用いることができる。
【0065】
上記混和液のpHを5以下にすることにより、液性が酸性となるため、糖-タンパク質相互作用体の糖鎖部分からタンパク質を切断することができる。または、上記混和液のpHを5以下にすることにより、糖-タンパク質相互作用体を構成するタンパク質の構造が変性し、糖のタンパク質認識能が低下するため、糖-タンパク質相互作用体から完全に解離させることができる。
【0066】
糖-タンパク質相互作用体から解離したタンパク質は、後述する実施例に示すように糖固定化金属ナノ粒子からも明確に解離し、簡単に回収することができる。また、解離したタンパク質は、アクリルアミド電気泳動、タンパク質定量、質量分析等の方法を用いて同定することが可能である。上記質量分析は、マトリックス支援型レーザ脱離/飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF/MS)などの従来公知の質量分析計を使用し、従来公知の方法に従って実施すればよい。
【0067】
一実施形態において、本発明に係る糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法は、糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液と、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質とを混和して糖とタンパク質とを相互作用させ、糖-タンパク質相互作用体を生成させる工程と、当該糖-タンパク質相互作用体と上記タンパク質が認識可能な糖とを混和する工程と、を含んでいる。
【0068】
当該糖-タンパク質相互作用体と上記タンパク質が認識可能な糖とを混和する工程では、糖とタンパク質との相互作用の結果生成した上記糖-タンパク質相互作用体を遠心分離などの方法によって回収し、回収した上記糖-タンパク質相互作用体に、上記糖-タンパク質相互作用体を構成するタンパク質が認識可能な糖を添加して混和する。
【0069】
その結果、上記糖-タンパク質相互作用体を構成するタンパク質と、上記タンパク質が認識可能な糖との間に置換反応が生じるため、上記糖-タンパク質相互作用体からタンパク質が解離するものと考えられる。置換反応としては特に限定されるものではなく、求核置換反応であっても求電子置換反応であってもよい。
【0070】
なお「当該糖-タンパク質相互作用体と上記タンパク質が認識可能な糖とを混和する工程」における混和の方法は特に限定されるものではなく、攪拌は行ってもよいし、行わなくてもよい。また、上記工程は糖-タンパク質相互作用体を構成する糖と、上記タンパク質が認識可能な糖との親和置換を伴う工程であるため、上記タンパク質が認識可能な糖は過剰量添加することが好ましい。
【0071】
解離したタンパク質は、アクリルアミド電気泳動、タンパク質定量、質量分析等の方法を用いて同定することが可能である。
【0072】
また、タンパク質と糖固定化金属ナノ粒子とを反応させる際に予めタンパク質が認識可能な様々な糖鎖を添加しておくことにより糖-タンパク質相互作用に起因する凝集を阻害することができれば、より詳しくタンパク質の機能を解析することができる。例えば、タンパク質に対してどの糖鎖がより強固に結合するかということ等の機能解析が可能になると考えられる。
【0073】
なお、本発明は以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0074】
本発明について、実施例および図1~図20に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正および改変を行うことができる。
【0075】
〔実施例1:マルトース固定化金ナノ粒子の調製〕
テトラクロロ金(III)酸ナトリウムの終濃度が1mM、水素化ホウ素ナトリウムの終濃度が5mMとなるように、テトラクロロ金(III)酸ナトリウムと水素化ホウ素ナトリウムとを水を用いて激しく攪拌・混和し、金ナノ粒子溶液を調製した。リガンド複合体としては、チオクト酸、m-フェニレンジアミンおよびマルトースからなる化合物(質量比 1:1:1)を用い、終濃度が100μMになるように適宜水で調製した上記リガンド複合体を、上記金ナノ粒子溶液に添加して激しく攪拌・混和し、粗マルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を調製した。
【0076】
次に、上記粗マルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を透析チューブ(MWCO:3,500)へ移し、水とPBS-T(0.05%)で透析して精製し、マルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を得た。図1は上記マルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の紫外可視吸収スペクトルを示すものである。図1に示すように、最大吸収波長は525nmであった。
【0077】
〔実施例2:糖-タンパク質相互作用の測定〕
96穴タイタープレートに、マルトースを認識するタンパク質であるコンカナバリンA(以下「ConA」と記載する;EYラボラトリーズ製)の希釈系列およびマルトースを認識しないタンパク質であるウシ血清アルブミン(以下「BSA」と記載する;SIGMA製)の希釈系列(PBS-T(0.05%))を10μMから作製(25μl)し、そこへ上記マルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を1:1で添加した。30分から2時間放置し、マルトース固定化金ナノ粒子が完全に凝集し終わった後、目視および紫外可視吸収スペクトル(540nm)の測定により結果を評価した。
【0078】
図2はマルトースとConAまたはBSAとの糖-タンパク質相互作用を示す紫外可視吸光スペクトル図である。横軸はConAまたはBSAの濃度を表し、縦軸は540nmにおける吸光度を表す。図3は左からマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の写真、糖-タンパク質相互作用により凝集している糖-タンパク質相互作用体の写真、糖-タンパク質相互作用体にグルコースを添加することにより、糖-タンパク質相互作用体からタンパク質が解離したことを示す写真をそれぞれ表す図である。
【0079】
図2より、ConAを用いた場合は糖-タンパク質相互作用によってマルトースとConAとの糖-タンパク質相互作用体が生成され、ConAの濃度に依存して凝集するため、マルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液由来の赤紫色(540nm付近の吸収)が消失することが分かった。なお、マルトースに特異的に結合するタンパク質(ConA)の濃度が低い際には、吸収強度はもとのマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液と変わらなかった。一方、マルトースに特異的に結合しないタンパク質(BSA)を添加した場合は、凝集は全く生じず、紫外可視吸光スペクトルは殆ど変化していないことが分かった。
【0080】
図3の写真中央は糖-タンパク質相互作用体が凝集していることを表す。糖はマルトース、タンパク質はConAである。このように、本発明に係る糖-タンパク質相互作用の測定方法によれば、非標識で目視によって非常に簡便に糖-タンパク質相互作用を確認することができる。また、図2に示すように、紫外可視吸光スペクトルを測定すれば、より詳細な結果を知ることができる。
【0081】
〔実施例3:糖-タンパク質相互作用体からのConAの回収〕
エッペンドルフチューブに250μg/ml(PBS-T(0.05%))のConAを100μl分注し、実施例1で調製したマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を100μl添加してボルテックスで10秒以上撹拌した。約2時間撹拌放置した後、遠心分離にて糖-タンパク質相互作用体を沈殿させ、上清を回収した後、当該糖-タンパク質相互作用体をPBS-T 0.05%、水で数回洗浄した。当該洗浄後、200mMのグルコース水溶液を100μl添加し約1時間放置した。結果は、糖-タンパク質相互作用体からConAが解離したことにより、ConAが糖-タンパク質相互作用体からマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液へ戻ることを目視することおよび紫外可視吸光スペクトルを測定することにより評価した。
【0082】
図3の写真左はマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を表しており、写真中央は糖-タンパク質相互作用体が凝集していることを表す。写真右はグルコースを添加することにより、マルトース固定化金ナノ粒子と選択的に結合していたConAが解離して溶液がマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液由来の赤紫色に戻ったことを表す。
【0083】
このとき、ConAが認識しない糖鎖を添加しても凝集は解離しない。このConAが解離したマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液のタンパク質をSDS-PAGE、MALDI-TOF/MS(アプライドバイオシステムズ、VOYAGER-DE PRO)を用いて分析したところ、ConAのみが検出された。図4は、解離したマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液に含まれるConAのMALDI-TOF/MS分析の結果を示す図である。m/z値が7873.66、12948.99、25818.69の点において見出される3つのピークがConAのピーク(フラグメント)である。
【0084】
〔実施例4:種々の糖-タンパク質相互作用の測定〕
本実施例では、マルトース、ラクトース、キトビオースをそれぞれ固定して、糖固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を調製した。そして、糖固定化金ナノ粒子のコロイド溶液について、レクチンと特異的に結合するかどうかを調べることにより、糖-タンパク質相互作用を測定した。
【0085】
テトラクロロ金(III)酸ナトリウムの終濃度が1mM、水素化ホウ素ナトリウムの終濃度が5mMとなるように、テトラクロロ金(III)酸ナトリウムと水素化ホウ素ナトリウムとを水を用いて激しく攪拌・混和し、金ナノ粒子溶液を調製した。リガンド複合体としては、チオクト酸、m-フェニレンジアミンおよび糖からなる化合物を用い、終濃度が100μMになるように適宜水で調製した上記リガンド複合体を、上記金ナノ粒子溶液に添加して激しく攪拌・混和し、粗糖固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を調製した。上記糖としては、マルトース、ラクトースまたはキトビオースを用いた。
【0086】
次に、上記粗糖固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を透析チューブ(MWCO:3,500)へ移し、水とPBS-T(0.05%)で透析して精製し、糖固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を得た。
【0087】
次に、96穴タイタープレートに、マルトースを認識するタンパク質であるコンカナバリンA(以下「ConA」と記載する;EYラボラトリーズ製)の希釈系列、ラクトースを認識するタンパク質であるヒママメレクチン(RCA120;生化学工業製)またはキトビオースを認識するタンパク質である小麦胚芽レクチン(以下「WGA」と記載する;生化学工業製)およびこれらの糖を認識しないタンパク質であるウシ血清アルブミン(以下「BSA」と記載する;SIGMA製)の希釈系列(PBS-T(0.05%))を1mg/mlから作製(25μl)し、そこへ上記糖固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を1:1で添加した。30分から2時間放置し、糖固定化金ナノ粒子が完全に凝集し終わった後、目視および紫外可視吸収スペクトル(540nm)の測定により結果を評価した。
【0088】
図5は、ラクトースとRCA120またはBSAとの糖-タンパク質相互作用を示す紫外可視吸光スペクトル図、図6はマルトースとConAまたはBSAとの糖-タンパク質相互作用を示す紫外可視吸光スペクトル図、図7はキトビオースとWGAまたはBSAとの糖-タンパク質相互作用を示す紫外可視吸光スペクトル図である。
【0089】
図5より、RCA120を用いた場合は糖-タンパク質相互作用によってラクトースとRCA120との糖-タンパク質相互作用体が生成され、RCA120の濃度に依存して凝集するため、ラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液由来の赤紫色(540nm付近の吸収)が消失することが分かった。
【0090】
一方、ラクトースに特異的に結合しないタンパク質(BSA)を添加した場合は、凝集は全く生じず、紫外可視吸光スペクトルは殆ど変化していないことが分かった。
【0091】
図6は、ConAとマルトースとを用いた場合の結果であり、図2と同様の結果を示している。
【0092】
図7より、WGAを用いた場合は糖-タンパク質相互作用によってキトビオースとWGAとの糖-タンパク質相互作用体が生成され、WGAの濃度に依存して凝集するため、キトビオース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液由来の赤紫色(540nm付近の吸収)が消失することが分かった。
【0093】
続いて、ラクトース、マルトース、またはキトビオースとレクチンとの糖-タンパク質相互作用をSDS-PAGEで確認できるか否かを確かめた。
【0094】
図8は、ラクトースとConA、RCA120、WGAを用いて糖-タンパク質相互作用を測定した結果を示し、図9は、マルトースとConA、RCA120、WGAを用いて糖-タンパク質相互作用を測定した結果を示し、図10は、キトビオースとConA、RCA120、WGAを用いて糖-タンパク質相互作用を測定した結果を示す。図8~10において、塗りつぶした点のサンプルをSDS-PAGEに供した。なお、SDS-PAGEは、15%のアクリルアミドを用いて行った。
【0095】
図11は、SDS-PAGEの結果を示す写真である。図中、「ConA」と記載した直下に示した3レーンのうち、mono-Lacと示したレーンは、ラクトースとConAとの混和物を供したものであり、mono-キトビオースと示したレーンは、図11に示すように、キトビオースとConAとの混和物を供したものであるが、これらは図8,10に示すように、糖-タンパク質相互作用体(凝集物)を形成しないため、レーン上部からバンドに至るまでの部分にコロイドの色が残存して濃くなっている。
【0096】
一方、mono-Malと示したレーンは、マルトースとConAとの混和物を供したものであり、これらは図9に示すように糖-タンパク質相互作用体を形成するため、レーン上部からバンドに至るまでの部分にコロイドの色が残存しておらず、またConAのバンドが薄くなっている。このように、糖-タンパク質相互作用をSDS-PAGEで確認できることが本実施例で確かめられた。
【0097】
同様に、図11中、「RCA120」と記載した直下に示した3レーンでは、mono-Lacと示したレーンで糖-タンパク質相互作用体が形成されていることが判別でき、図11中、「WGA」と記載した直下に示した3レーンでは、mono-GlcNAcと示したレーンで糖-タンパク質相互作用体が形成されていることが判別できる。なお、「M」と記載したレーンは分子量マーカーである。
【0098】
〔実施例5:糖-タンパク質相互作用体からのタンパク質の回収〕
本実施例は、糖-タンパク質相互作用体として、実施例3に記載した以外のものを用いた場合においてもタンパク質を回収できることを示すものである。
【0099】
まず、エッペンドルフチューブに250μg/ml(PBS-T(0.05%))のRCA120溶液を25μl分注し、実施例4で調製したラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液を25μl添加してボルテックスで10秒以上撹拌した。約2時間撹拌放置した後、遠心分離にて糖-タンパク質相互作用体(ラクトース-RCA120相互作用体)を沈殿させ、上清を回収した後、当該糖-タンパク質相互作用体をPBS-T 0.05%、水で数回洗浄した。当該洗浄後、当該糖-タンパク質相互作用体に対して、表1に示す濃度のガラクトース溶液を50μl添加し、約2時間放置後、目視およびUV-Vis測定によって結果を評価した。
【0100】
【表1】
JP0004883640B2_000002t.gif
表1は、ラクトース-RCA120相互作用体からのRCA120の解離を、目視で確認した結果を示すものである。表1に示すように、25mM以上のガラクトース溶液を用いた場合に、RCA120の良好な解離が見られた。
【0101】
表1、2において、◎はレクチンが完全に解離したことを表し、○はレクチンがほぼ解離したことを表し、△は糖-タンパク質相互作用体(凝集物)が残った状態で解離したことを表し、×は凝集状態が保たれ、レクチンが解離しなかったことを表す。
【0102】
図12は、解離に用いるガラクトースの濃度を変化させた場合におけるラクトース-RCA120相互作用体の解離状況を、縦軸に紫外可視吸収スペクトル(532nm)を取ることによってグラフ化したものである。ガラクトース溶液の添加濃度が増加するに従い、解離してコロイド溶液中に溶解するRCA120の量が増加し、それに伴って紫外可視吸収スペクトル(532nm)も増加する傾向が見られた。
【0103】
図13は、左からラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の写真、糖-タンパク質相互作用により凝集しているラクトース-RCA120相互作用体の写真、ラクトース-RCA120相互作用体に100mMのガラクトース溶液を添加することにより、ラクトース-RCA120相互作用体からRCA120が解離したことを示す写真をそれぞれ表すものである。図13に示すように、ラクトースとRCA120を用いた場合も、非標識で目視によって非常に簡便に糖-タンパク質相互作用を確認することができた。
【0104】
次に、上記RCA120溶液の代わりにConA溶液、ラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の代わりにマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液、表1に示すガラクトース溶液の代わりに、表2に示すグルコース溶液を用い、同様の実験を行った。表2は、マルトース-ConA相互作用体からのConAの解離を、目視で確認した結果を示すものである。
【0105】
【表2】
JP0004883640B2_000003t.gif
表2に示すように、50mM以上のグルコース溶液を用いた場合に、ConAの良好な解離が見られた。図14は、解離に用いるグルコースの濃度を変化させた場合におけるマルトース-ConA相互作用体の解離状況を、縦軸に紫外可視吸収スペクトル(532nm)を取ることによってグラフ化したものである。グルコース溶液の添加濃度が増加するに従い、解離してコロイド溶液中に溶解するConAの量が増加し、それに伴って紫外可視吸収スペクトル(532nm)も増加する傾向が見られた。
【0106】
図15は、左からマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液の写真、糖-タンパク質相互作用により凝集しているマルトース-ConA相互作用体の写真、マルトース-ConA相互作用体に100mMのグルコース溶液を添加することにより、マルトース-ConA相互作用体からConAが解離したことを示す写真をそれぞれ表す図である。図13に示すように、マルトースとConAを用いた場合も、非標識で目視によって非常に簡便に糖-タンパク質相互作用を確認することができた。
【0107】
図16は、図13に示すRCA120が解離したラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をSDS-PAGEに供した結果と、図15に示すConAが解離したマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をSDS-PAGEに供した結果とを表すものである。図中、「Mono-Lac Gal解離」と記載したレーンが、RCA120が解離したラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をSDS-PAGEに供した結果を示すものであり、RCA120の標品と同じ位置にバンドが得られていることから、RCA120がラクトース-RCA120相互作用体から解離してラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液に戻ったことが分かる。
【0108】
また、「Mono-Mal」と記載したレーンが、ConAが解離したマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をSDS-PAGEに供した結果を示すものであり、ConAの標品と同じ位置にバンドが得られていることから、ConAがマルトース-ConA相互作用体から解離してマルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液に戻ったことが分かる。
【0109】
〔実施例6:コロイド溶液のタンパク質保持能力検定〕
本実施例では、SDS-PAGEを用いて、糖固定化金ナノ粒子のコロイド溶液が保持可能なタンパク質の量を検定することを目的として、以下の実験を行った。
【0110】
タンパク質としては、ConA,RCA120、WGAを用い、これら各レクチンをエッペンドルフチューブにPBS-T(0.05%)溶液として10μM、8μM,6μM、4μM、2μMとなるように100μl調製した。また、糖固定化金ナノ粒子のコロイド溶液(以下単に「コロイド溶液」とも言う)としては、マルトース固定化金ナノ粒子、ラクトース固定化金ナノ粒子またはキトビオース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液(525nmにおける吸光度が0.3/mm)を用い、マルトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をConAのPBS-T(0.05%)溶液に、ラクトース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をRCA120のPBS-T(0.05%)溶液に、キトビオース固定化金ナノ粒子のコロイド溶液をWGAのPBS-T(0.05%)溶液に、それぞれ100μl添加して、コロイド溶液とタンパク質溶液との混合溶液を調製した。したがって、上記混合溶液におけるタンパク質の最終濃度は、5μM、4μM、3μM、2μM、1μMとなる。続いて、上記エッペンドルフチューブをボルテックスで10秒間激しく攪拌後、1時間ゆっくりと攪拌した。
【0111】
次に、上記エッペンドルフチューブを遠心分離機にかけ、10krpmで10秒間遠心分離した。遠心分離後、上清を回収し、凝集物をPBS-T(0.05%)で洗浄し、10krpmで10秒間遠心分離して、さらに、上清を回収した。凝集物を水で洗浄し、10krpmで10秒間遠心分離した。得られた凝集物に、200mMのグルコース水溶液を100μl添加し約1時間放置した。
【0112】
次に、上記グルコース水溶液を添加した凝集物に1N塩酸を1μl添加し、完全に凝集物が溶解した後、上記チューブから溶液を回収した(タンパク質解離溶液)。
【0113】
SDS-PAGEの結果を図17、図18に示す。図17は、マルトース固定化金ナノ粒子のConA保持能力を示すSDS-PAGEの結果を示すものである。図17に示すように、上清については濃度依存的にバンドが濃くなっている。タンパク質解離溶液のバンドでは、1μMのバンドが多少薄いが、2μM以上のバンドでは殆ど同じ濃さとなっている。
【0114】
したがって、上記混合溶液に含まれるマルトース固定化金ナノ粒子のConA保持能力は最大で2μMであると考えられる。なお、例えば「1μMのバンド」とは、上記混合溶液における最終濃度を1μMとした系から得られたタンパク質解離溶液をSDS-PAGEに供して得られたバンドのことである。
【0115】
図18は、ラクトース固定化金ナノ粒子のRCA120保持能力を示すSDS-PAGEの結果を示すものである。図18に示すように、上清については濃度依存的にバンドが濃くなっているが、タンパク質解離溶液のバンドでは、1μMのバンドが多少薄いが、2μM以上のバンドでは殆ど同じ濃さとなっている。したがって、上記混合溶液に含まれるラクトース固定化金ナノ粒子のRCA120保持能力は最大で2μMであると考えられる。
【0116】
〔実施例7:糖鎖を用いた糖-タンパク質相互作用の阻害〕
既に説明したように、タンパク質と糖固定化金属ナノ粒子とを反応させる際に予めタンパク質が認識可能な様々な糖鎖を添加しておくことにより糖-タンパク質相互作用に起因する凝集を阻害することができれば、より詳しくタンパク質の機能を解析することができる。例えば、タンパク質に対してどの糖鎖がより強固に結合するかということ等の機能解析が可能になると考えられる。
【0117】
そこで、本実施例では、種々の糖鎖を用いて糖-タンパク質相互作用の阻害実験を行った。
【0118】
糖固定化金ナノ粒子としては、マルトース固定化金ナノ粒子、または、ラクトース固定化金ナノ粒子を用い、PBS-T(0.05%)で525nmにおける吸光度が0.6(/mm)となるようにコロイド溶液を調製した。糖鎖としては、グルコース、マルトース、GlcNAc,ガラクトース、またはラクトースの400mM PBS-T(0.05%)溶液を用いた。
【0119】
まず、レクチン溶液として、ConAまたはRCA120の2μM PBS-T(0.05%)溶液を調製し、96穴タイタープレートに上記レクチン溶液を10μl分注した。次に、ConA添加区に対してグルコース溶液、マルトース溶液、またはGlcNAc溶液を、RCA120添加区に対してガラクトース溶液またはラクトース溶液をそれぞれ20μl添加し、室温で1時間攪拌した。続いて、ConA添加区に対してマルトース固定化金ナノ粒子を10μl添加し、RCA120添加区に対してラクトース固定化金ナノ粒子を10μl添加して、室温で1時間攪拌し、攪拌終了後、攪拌物の525nmにおける吸光度を測定した。
【0120】
図19は、コロイド溶液としてマルトース固定化金ナノ粒子、レクチンとしてConA、糖鎖としてグルコース、マルトース、またはGlcNAcを用いた場合における、上記吸光度の測定結果を示すものである。
【0121】
表3は、図19に示した結果から算出されたグルコース、マルトース、GlcNAcの50%阻害濃度(IC50)を示すものである。表中の「after」の欄に記載した結果は、レクチンとコロイド溶液の凝集物に対して糖鎖を添加した場合におけるIC50を示し、「before」の欄に記載した結果は、レクチンと糖鎖を先に混和したところへコロイド溶液を添加した場合におけるIC50を示している。
【0122】
【表3】
JP0004883640B2_000004t.gif
〔実施例8:ドットブロットによる糖-タンパク質相互作用の確認〕
本実施例では、糖-タンパク質相互作用をドットブロットによって確認できるか否かについて検討した。
【0123】
まず、メンブラン(バイオダイン(登録商標)A 孔経0.2μm、素材;ナイロン6,6、日本ポール製(BNRG3R))に、ConA、RCA120,またはWGAの1000μg/ml PBS-T(0.05%)溶液を0.5μlスポットして完全に乾燥するまで放置した。続いて、上記メンブランをコロイド溶液に浸漬し、約1時間放置後、メンブランを取り出して水洗・風乾し、スポットを確認した。上記コロイド溶液としては、マルトース固定化金ナノ粒子、ラクトース固定化金ナノ粒子またはキトビオース固定化金ナノ粒子を用い、PBS-T(0.05%)で、525nmにおける吸光度が0.3、0.15、または0.03(/mm)となるように調製したコロイド溶液を用いた。
【0124】
結果を図20に示す。図20は、525nmにおける吸光度(Abs525)が0.3(/mm)であるコロイド溶液を用いた場合のドットブロットの結果を示すものである。図20の(a)に示すように、マルトース固定化金ナノ粒子はConAを特異的に認識したことが確認でき、図20の(b)に示すように、ラクトース固定化金ナノ粒子はRCA120を特異的に認識したことが確認でき、図20の(c)に示すように、キトビオース固定化金ナノ粒子はWGAをそれぞれ特異的に認識したことが確認できた。すなわち、糖-タンパク質相互作用をドットブロットによって確認できることが分かった。
【0125】
表4は、種々の糖固定化金ナノ粒子と、種々のレクチンとの間における、糖-タンパク質相互作用についてまとめたものである。表中、「+++」は、供試した糖固定化金ナノ粒子の100%が凝集したことを示し、「++」は、供試した糖固定化金ナノ粒子の50%が凝集したことを示し、「+」は、供試した糖固定化金ナノ粒子の10%が凝集したことを示す。また、表中、「-」は、供試した糖固定化金ナノ粒子の10%未満が凝集したことを示す。
【0126】
なお、表中「ヘパリン部分構造」とあるのは、GlcNS6Sα1-4IdoA2Sβ1-6Glcのことである。
【0127】
【表4】
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表5は、表4に示したレクチンが認識可能な糖鎖についてまとめたものである。
【0128】
【表5】
JP0004883640B2_000006t.gif
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0129】
以上のように、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子は、リガンド複合体と任意の金属を混和するだけで調製でき、安定であるため、容易に糖鎖を固定化できるという効果を奏する。また、本発明に係る糖-タンパク質相互作用の測定方法は、本発明に係る糖固定化金属ナノ粒子を含む溶液に、上記糖固定化金属ナノ粒子の末端に位置する糖を認識するタンパク質を添加するだけで、糖とタンパク質とが相互作用した凝集物を生成するので、糖-タンパク質相互作用を非標識で目視によって容易に測定することができるという効果を奏する。
【0130】
さらに、本発明に係る糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を回収する方法は、液性を酸性にすることやタンパク質が認識可能な糖鎖を含む溶液に添加することによって、糖とタンパク質との相互作用に変化を与えることができるので、糖とタンパク質との相互作用によって生じた糖-タンパク質相互作用体からタンパク質を容易に回収することができるという効果を奏する。
【0131】
そのため、本発明は糖やタンパク質の機能解析や、検査・診断に用いることが可能であり、医薬品開発や生命現象の解明に寄与することが期待される。したがって、医薬、バイオ産業等において広く利用することが可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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