TOP > 国内特許検索 > ダチョウを用いた抗体、及びその作製方法 > 明細書

明細書 :ダチョウを用いた抗体、及びその作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4487051号 (P4487051)
登録日 平成22年4月9日(2010.4.9)
発行日 平成22年6月23日(2010.6.23)
発明の名称または考案の名称 ダチョウを用いた抗体、及びその作製方法
国際特許分類 C07K  16/28        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
C07K  16/08        (2006.01)
C07K  16/02        (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
G01N  33/569       (2006.01)
A62B  18/02        (2006.01)
B01D  39/14        (2006.01)
FI C07K 16/28
A61P 35/00
A61K 39/395 E
C07K 16/08
C07K 16/02
A61K 39/395 D
A61K 39/395 B
G01N 33/574 A
G01N 33/569 L
A62B 18/02 C
B01D 39/14 L
請求項の数または発明の数 14
全頁数 16
出願番号 特願2007-533254 (P2007-533254)
出願日 平成18年8月29日(2006.8.29)
国際出願番号 PCT/JP2006/316960
国際公開番号 WO2007/026689
国際公開日 平成19年3月8日(2007.3.8)
優先権出願番号 2005246993
優先日 平成17年8月29日(2005.8.29)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年3月31日(2009.3.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
発明者または考案者 【氏名】塚本 康浩
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100065215、【弁理士】、【氏名又は名称】三枝 英二
【識別番号】100129665、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 順子
【識別番号】100108084、【弁理士】、【氏名又は名称】中野 睦子
【識別番号】100115484、【弁理士】、【氏名又は名称】林 雅仁
【識別番号】100124431、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 順也
審査官 【審査官】高山 敏充
参考文献・文献 特表2005-509598(JP,A)
特開2001-238676(JP,A)
特表2004-535194(JP,A)
国際公開第2005/056777(WO,A1)
国際公開第2005/044249(WO,A1)
国際公開第2004/073393(WO,A1)
Br. Poult. Sci.,1999年,Vol. 40, No. 5,pp.613-618
J. Vet. Diagn. Invest.,2002年,Vol. 14,pp.363-370
Biochem. Biophys. Res. Commun.,2004年,Vol. 314,pp.931-936
Avian Diseases,2000年,Vol. 44,pp.390-398
調査した分野 C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII)
PubMed
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトCD166蛋白質又はヒトCD146蛋白質であるヒト由来の蛋白質又はそのペプチド断片を抗原としてダチョウに投与することにより作製され、当該ヒト蛋白質を特異的に認識することを特徴とするポリクローナル抗体。
【請求項2】
治療又は診断に用いられる医療用抗体である、請求項1記載のポリクローナル抗体。
【請求項3】
がん治療用の医療用抗体である、請求項2記載のポリクローナル抗体。
【請求項4】
IBV(鶏伝染性気管支炎ウイルス)、SARSウイルス又は鳥インフルエンザウイルス由来の蛋白質又はそのペプチド断片を抗原としてダチョウに投与することにより作製され、当該蛋白質を特異的に認識することを特徴とするポリクローナル抗体。
【請求項5】
ダチョウの幼鳥に対して初回免疫することにより作製された、請求項1~4の何れか1項に記載のポリクローナル抗体。
【請求項6】
雌ダチョウに対して免疫し、その産卵した卵の卵黄から作製された、請求項1~4の何れか1項に記載のポリクローナル抗体。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載のポリクローナル抗体の作製方法であって、ヒト由来又はウイルス由来の蛋白質もしくはそのペプチド断片を抗原としてダチョウを免疫し、ポリクローナル抗体を作製することを特徴とする、ポリクローナル抗体の作製方法。
【請求項8】
ダチョウの幼鳥に対して初回免疫する、請求項7記載のポリクローナル抗体の作製方法。
【請求項9】
雌ダチョウに対して免疫し、その産卵した卵の卵黄から作製することを特徴とする、請求項7記載のポリクローナル抗体の作製方法。
【請求項10】
請求項1~6の何れか1項に記載のポリクローナル抗体を備えることを特徴とする診断検査キット。
【請求項11】
請求項1~6の何れか1項に記載のポリクローナル抗体を備えることを特徴とするエアコンフィルター。
【請求項12】
請求項1~6の何れか1項に記載のポリクローナル抗体を備えることを特徴とするマスク。
【請求項13】
請求項1~6の何れか1項に記載のポリクローナル抗体を備えることを特徴とする水道の濾過フィルター。
【請求項14】
請求項1~6の何れか1項に記載のポリクローナル抗体を備えることを特徴とする抗原除去用フィルター。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ダチョウを用いた抗体、及びその作製方法に関する。本発明は、ヒトの治療・診断に用いられる医療用抗体の大量生産、その他抗体を利用し得る種々の分野に有用な技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、抗体の作製には、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ等の動物が使用されている。しかし、これら哺乳類の蛋白質はヒト蛋白質と類似性が高いため、ヒト蛋白質の機能を抑制させる抗体を作製することが困難な場合が多い。すなわち、ヒトの病気に関係する分子(主に蛋白質)を免疫しても、上記の動物では目的とする抗体(特に治療抗体)を得ることが難しい。
【0003】
一方、最近はヒトとかけ離れている鶏(ニワトリ)を用いてヒトの治療・診断用抗体を作製する試みがなされている(例えば、下記の特許文献1参照)。しかし、鶏の血液量の少なさを考えると、大量で均質な抗体を一度に得ることは難しい。また、モノクローナル抗体の作製も行われつつあるが、十分量の抗体量を得るには、莫大な手間と培養細胞・培養液が必要となる。

【特許文献1】特開2001-238676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、抗体(とりわけ哺乳動物を用いた従来法では作製困難であった抗体)を大量かつ均質に、しかも簡易に作製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決するため、特に大型鳥類であるダチョウに焦点をあて鋭意研究を進めた結果、(1)マウスやウサギを用いた従来法では、哺乳類間で類似性が高い蛋白質(又はその一部)に特異的な抗体の作製は困難であったが、ダチョウを免疫することによってこのような抗体を簡易に作製できること、(2)実際にダチョウを用いて作製した抗体によってウエスタンブロット解析および免疫細胞化学法を行ったところ、がんマーカーである目的蛋白質(CD166蛋白質)を特異的に検出することができ、診断用抗体として利用可能であること、さらに、(3)このようにダチョウを用いて作製した抗CD166抗体には腫瘍増殖抑制効果が認められ、治療用抗体としても利用可能であること、等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、ダチョウを用いて作製された抗体、及びその作製方法を提供するものである。ダチョウは近年、日本でも家畜化(食用化)が進み、飼育牧場数も増加傾向にある。飼育用餌も市販されており、栄養効率も極めて高い。体重が約120kgにも達し、1個体でおおよそ鶏100羽分の血液採集が可能である。つまり、マウス、ラットなどの哺乳類では作製不可能であった治療用(もしくは診断用)抗体を、1羽のダチョウを用いて均一かつ大量に生産することが可能となる。これにより、他の動物を用いてポリクローナル抗体を作製した場合の従来のロット差の問題を解決することができる。さらに、ダチョウ幼鳥を用いれば、少量の抗原量で免疫が成立し、その後約10箇月の飼養(成鳥まで)と追加免疫により1羽で大量の抗体の作製が可能となる。
【0007】
つまり、ダチョウを用いれば、従来法では作製困難であった蛋白質(その一部を含む)に特異的な抗体を簡易に作製できる。さらにロット差がない、均一で大量の抗体産生が可能であることより、商品化(治療用、診断用)に好都合となる。
【0008】
ここで抗体とは、抗原を特異的に認識して結合する蛋白質のことを意味しており、その種類(例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgYなど)を問わない。抗体は、一価或いは多価のいずれでもよい。また、本発明の抗体は、蛍光物質、放射能、酵素その他のタンパク質(例えば、アビジン)などによって標識化してもよいし、本発明の抗体を認識して結合する2次抗体を用いることにより、本発明の抗体を標識化することなく、目的分子の検出を行ってもよい。
【0009】
本明細書において、「ダチョウ」とは、ダチョウ目(Struthioniformes)に属する鳥類を意味する。その中、ダチョウ科(Struthionidae)に属するダチョウ(Struthio camelus)を用いることは好ましい。雌雄いずれを用いてもよい。「ダチョウを用いる」とは、抗体作製のため、抗原を投与される動物としてダチョウを使用することを意味する。抗原として投与される物質は特に制限されるものではなく、蛋白質、ペプチド(天然由来、合成ペプチド、組換えペプチドを含む)のほか、多糖類などの生体物質であってもよい。抗原の調製方法、投与方法についても特に制限されないが、好ましい態様については後述する。
【0010】
後述の実施例では、ヒトCD166蛋白質に対する抗体作製のため、20残基の合成ペプチド(哺乳類間で高度に保存されている細胞外領域の第4番目のIgループ内の20アミノ酸)を抗原に使用し、これをダチョウの幼鳥に接種し免疫することにより、抗体を作製した。得られた抗CD166ダチョウ抗体は、がんマーカーであるヒトCD166蛋白質を特異的に認識・検出することができ(図1、3)、がんの診断用抗体として利用可能であることが示された。さらに、この抗CD166ダチョウ抗体は、腫瘍の増殖を抑制する抗腫瘍効果を有し(図4)、がんの治療用抗体としても利用可能であることが示された。このように、ダチョウを用いることで、哺乳動物を用いた従来法では作製困難であった医療用抗体(治療又は診断に用いられる抗体)を簡易に作製することができる。
【0011】
勿論、抗CD166ダチョウ抗体の作製において、抗原は上記合成ペプチドに制限されるものではなく、ヒトCD166蛋白質全体、又はその一部の特異的なペプチド配列(好ましくは10~20残基程度)を抗原に使用することができる。また、同様の方法で、CD166以外のCD抗原に対する抗体(抗CD抗体)を作製することも勿論可能である。ここで、CD(Cluster of differentiation)とは、CD分類によってそれぞれ固有の番号を付された細胞表面の抗原(例えば接着分子)のことであり、上記CD166もその1つである。本発明のダチョウを用いた抗体作製法によって、高感度の抗ヒトCD抗体を大量、均質かつ簡易に作製することができる。
【0012】
前述のように、ダチョウの幼鳥を用いれば少量の抗原量で免疫が成立する等の利点を有するため、ダチョウの幼鳥に対して初回免疫することにより、本発明の抗体を作製することは好ましい。より具体的には、生後2月半齢以上10月齢未満程度の幼鳥に対して初回免疫することが好ましく、生後3月齢以上7月齢以下程度の幼鳥に対して初回免疫することがより好ましく、生後3月齢以上5月齢以下程度の幼鳥に対して初回免疫することが更に好ましい。
【0013】
その他、ダチョウを用いて抗体を作製する場合の利点、好ましい態様などを挙げれば、以下のとおりである。
(1) ダチョウは孵化時(体重約0.8kg)より急速に成長し、6ヶ月齢で60kg、10ヶ月(成鳥)で120kgに達する。つまり、幼鳥時に免疫を開始すれば、抗原が少量ですみ、数回の追加免疫で、大量の抗体を得ることが可能となる。
(2) 抗体作製の一例について説明すると、抗原には合成ペプチドを使用し、免疫する抗原量は1回100μgで、3ヶ月齢時に初回免疫し、その後1ヶ月間隔で成鳥まで1回ずつ同量の抗原量を免疫する(後述の実施例では、隔週で計3回免疫した。)。初回免疫は100μgの抗原液(0.5mL)と完全アジュバント0.5mLを混合し、ダチョウ胸部の筋肉内に接種する。2回目以降は、100μgの抗原液(0.5mL)と不完全アジュバント0.5mLを混合し、ダチョウ頚部筋肉内に接種する。最終免疫から2~5日後以降に採血して得たダチョウの抗血清から、プロテインGカラムを用いて抗体を精製する。
(3) 抗体価の測定のための血液は4ヶ月齢までは翼下静脈から、それ以降は頚静脈から採取するのが最適である(5ヶ月齢以降は凶暴であるため)。
(4) 2ヶ月齢以前のダチョウの幼鳥はストレスに弱いため、3ヶ月齢以降に免疫を開始することが好ましい。
(5) 上記(2)の方法でダチョウを免疫したところ、抗体価の上昇は3回免疫時(5ヶ月齢)にすでに確認され、5回目(7ヶ月齢)で最高値に達する。この段階で血液を大量採取して抗体を得ることが可能であるが、さらなる飼養期間の延長と追加免疫により成鳥(体重120kg)まで抗体価の最高値が維持できるので、成長段階のほうがより多くの抗体を回収することが可能である。
(6) 免疫したダチョウを殺さないかぎり、半永久的に抗体の回収が可能であるので、継続的な抗体提供ができる。
(7) 鳥類の抗体は卵に移行するので、免疫したダチョウの卵には、高精度の抗体が含まれる。つまり、下記にも述べるように、卵を利用すれば継続的かつ簡易的に、さらに大量に抗体の採取が可能である。
(8) ダチョウを免疫して得られた抗体IgGの精製においては、プロテインAとの結合が弱いため、プロテインGを用いることが好ましい。
【0014】
さらに、ダチョウを用いて抗体を作製した場合の利点、好ましい態様および利用例について説明する。
本発明は、ダチョウを用いることによって、鶏(ニワトリ)などを用いる場合と比較して、高感度の抗体を大量、均質かつ簡易に作製することができる。例えば、ダチョウを用いて、ヒトCD146に対する抗体およびヒトCD166に対する抗体を作製し、それぞれの抗原検出感度について、ニワトリを用いて作製した抗体と比較してみたところ、ダチョウ抗体のほうが検出感度が有意に高く、ニワトリ抗体に比べ質的優位性が認められた(図8、9)。
【0015】
また、上記(7)で述べたように、雌ダチョウに対して抗原を免疫し、その産卵したダチョウ卵の卵黄から抗体(IgY)を精製することによって、継続的かつ簡易的に、大量の抗体を得ることができる。例えば、ダチョウの産卵メスに、抗原としてコラーゲン・タイプ1を毎週免疫したところ、初回免疫後4週目に産卵した卵黄中にその抗体産生が確認された(図5、6)。同様に、ダチョウの産卵メスに、IBV(鶏伝染性気管支炎ウイルス)の不活化ワクチンを毎週免疫したところ、初回免疫後6週目に産卵した卵黄中にその抗体産生が確認された(図7)。
【0016】
また、IgY精製法を用いると初回免疫後6週目の一つのダチョウ卵の卵黄より2~4gの抗体(IgY)が精製された。1羽のダチョウメスから4月から9月までの産卵期に約100個の卵が得られることより、最大約400gの抗体(IgY)が得られることになる。このことは、例えばウイルス感染の診断検査用抗体を作製する場合、免疫時期を調整することによって6ヶ月で1羽のダチョウから約400~4000万検体分の診断検査キットに適応可能な大量の抗体が作製可能であることを意味する。
【0017】
ダチョウ卵黄からのIgY精製法は、通常のニワトリ卵黄からの精製法(例えば、J. Immunol. Methods 46: 63-68, 1981.;Agric. Biol. Chem. 54: 2531-2535, 1990.;Immunological Investigations 19: 253-258, 1990.)と基本的に同様に行うことができ、市販のニワトリ卵黄からの抗体(IgY)精製用キットを使用してもよい。なお、ダチョウ卵黄は脂質が多いため、卵黄量に対するすべての溶液(デキストラン硫酸/TBSなど)をニワトリ卵黄の場合の1.5倍程度に増量して、精製を行うことが望ましい。
【0018】
本発明の抗体の用途は特に限定されるものではなく、これまでに述べた医療用抗体のほか、現在種々の分野に利用されている各種抗体に本発明の抗体を用いることができる。特に、本発明の抗体はダチョウを用いて大量生産できることから、がんの検査キットやウイルス感染の検査キットなどに使用する検査用抗体の作製に本発明を適用することによって、健康診断や感染症・食中毒の検査など多数の検体を検査しなければならない場合に、検査に必要な大量の検査キットを1羽のダチョウから短期間で簡易に作製することができる。
【0019】
例えば、前記IBV(鶏伝染性気管支炎ウイルス)は、SARSウイルスと近縁のコロナウイルスであることより、ダチョウを用いてSARSウイルスに対する抗体の大量作製も可能であり、その他、鳥インフルエンザウイルスなどの病原性ウイルス検出用抗体の大量作製も可能である。また、BSE(牛海綿状脳症)などのプリオン病やその他の疾患の検査用抗体の大量作製も可能である。さらに、本発明の抗体は、工業用抗体としても応用可能であり、すなわち、エアコンフィルターやマスク、水道の濾過フィルターなど各種工業製品において、病原体、アレルゲンその他抗原となる物質の除去用の抗体として応用できる。
【0020】
このように、本発明は、ウイルス検出用・疾患検査用抗体としてだけではなく、エアコンフィルターやマスクなどに適応することによって、ウイルス除去用の工業用抗体としても応用可能である。勿論、ウイルス以外の病原体(伝染病や食中毒菌など)や食品中のアレルゲン(ソバや卵白アルブミンなど)、飲料水中の病原体などの検出・除去用の抗体としても応用可能である。
【0021】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、モノクローナル抗体であってもよい。一般的な抗体の作製方法については、例えば、Harlowらの「Antibodies : A laboratory manual」(Cold Spring Harbor Laboratory, New York(1988))、岩崎らの「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA,講談社(1991)」などにも記載されているが、以下、各抗体の作製方法について簡単に説明する。
【0022】
(1)ポリクローナル抗体の作製
ポリクローナル抗体は、抗原となる物質を単独あるいは担体・希釈剤と共に、ダチョウの抗体産生が可能な部位、例えば上述の胸部筋肉内、頚部筋肉内などに投与することによって作製することができる。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバント、又は不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。抗原の投与は1回のみでもよいが、通常は2~6週毎に1回ずつ、計2~10回程度行われる。
【0023】
血清中の抗原に対する抗体価の測定は、液相法(例えば、標識化した抗原と抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の活性を測定する方法)、或いは固相法(例えば、96穴プレートの各ウエル内壁面に抗原を固着させておき、ここに血清を適当に希釈した溶液を添加し、抗体を抗原に結合させた後、ウエル中の溶液を洗浄することで余分な抗体を除去し、ウエル内壁面に結合した抗体量を測定する方法)によりなされる。
【0024】
本発明のポリクローナル抗体の分離精製は、免疫グロブリンの分離精製法(例、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法など)に従って行われる。
【0025】
(2)モノクローナル抗体の作製
モノクローナル抗体の作製に際しては、抗原を免疫されたダチョウから抗体価の認められた個体を選択し、最終免疫の2~5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、本発明のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。
【0026】
融合操作は既知の方法、例えばケーラーとミルスタインの方法(Nature、256巻、495頁、1975年)に従い実施できる。融合促進剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられ、好ましくはPEGなどが用いられる。骨髄腫細胞としては例えばNS-1、P3U1、SP2/0、AP-1などが挙げられ、P3U1などが好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞等)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は、通常1:1~20:1程度であり、PEG(好ましくはPEG1000~PEG6000)が10~80%程度の濃度で添加され、通常20~40℃、好ましくは30~37℃で通常1~10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0027】
抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用できるが、例えば抗原またはその部分ペプチドを直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に蛍光物質や酵素などで標識した抗ダチョウ免疫グロブリン抗体またはプロテインGを加え、固相に結合した本発明のモノクローナル抗体を検出する方法、抗ダチョウ免疫グロブリン抗体またはプロテインGを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、蛍光物質や酵素などで標識した抗原を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などが挙げられる。
【0028】
本発明のモノクローナル抗体のスクリーニング、培養は、通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加して、10~20%牛胎児血清を含む動物細胞用培地(例、RPMI1640)で行われる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体の抗体価の測定と同様にして測定できる。モノクローナル抗体の分離精製は、上記したポリクローナル抗体の分離精製と同様に行われる。
【0029】
以上のようにして、ハイブリドーマ細胞を動物の生体内または生体外で培養し、その体液または培養物から抗体を採取することによって、本発明の抗体を作製することができる。
【0030】
勿論、以上説明した例示の方法に限らず、従来公知の種々の方法を適用して本発明のポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を作製することができる。また、本発明以降に新たに開発された方法を使用するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ヒトCD166ペプチドでマウス、ウサギ、ダチョウをそれぞれ免疫した後、これら動物の抗血清を用いたウエスタンブロット解析による、ヒトCD166蛋白質の検出結果を示す図である。
【図2】精製したダチョウIgGを、SDS-PAGEにて確認した結果を示す図である。
【図3】抗CD166ダチョウ抗体を用いた免疫細胞化学法によって、ヒト肺癌細胞(A549)でヒトCD166蛋白質を検出した結果を示す図である。
【図4】ヒト肺癌細胞が移植されたヌードマウスへの抗CD166ダチョウ抗体投与による腫瘍増殖抑制効果を示すグラフである。「*」はPBS投与と比べ有意差があることを示す。*P<0.01(Student-t)
【図5】ダチョウの産卵メスにコラーゲン・タイプ1を免疫し、経時的にその血清および卵黄中の抗体産生を寒天ゲル内沈降反応で調べた結果を示す図である。図中、Aは抗原(コラーゲン・タイプ1)、1は免疫前のダチョウ血清、2は免疫1週目のダチョウ血清、3は免疫2週目のダチョウ血清、4は免疫3週目のダチョウ血清、5は免疫4週目のダチョウ卵黄抽出液、6はPBS、である。抗原抗体反応による白い沈降線が抗体産生を示す。
【図6】ダチョウの産卵メスにコラーゲン・タイプ1を免疫し、経時的にその卵黄中の抗体産生を寒天ゲル内沈降反応で調べた結果を示す図である。図中、Aは抗原(コラーゲン・タイプ1)、1は免疫前のダチョウ卵黄抽出液、2は免疫1週目のダチョウ卵黄抽出液、3は免疫2週目のダチョウ卵黄抽出液、4は免疫3週目のダチョウ卵黄抽出液、5は免疫4週目のダチョウ卵黄抽出液、6はPBS、である。抗原抗体反応による白い沈降線が抗体産生を示す。
【図7】ダチョウの産卵メスにIBV(鶏伝染性気管支炎ウイルス)の不活化ワクチンを免疫し、経時的にその血清および卵黄中の抗体産生を寒天ゲル内沈降反応で調べた結果を示す図である。図中、Aは抗原(IBV)、1はPBS、2は免疫前のダチョウ血清、3は免疫4週目のダチョウ血清、4は免疫6週目のダチョウ血清、5は免疫6週目のダチョウ卵黄抽出液、6は免疫前のダチョウ卵黄抽出液、である。抗原抗体反応による白い沈降線が抗体産生を示す。
【図8】ダチョウおよびニワトリを用いてそれぞれ抗CD146抗体を作製し、両者の検出強度を比較した図であり、(a)は両抗体のイムノブロットの結果、(b)は両抗体の相対強度を示すグラフである。「*」はニワトリと比べ有意差があることを示す。*P<0.01(Student-t)
【図9】ダチョウおよびニワトリを用いてそれぞれ抗CD166抗体を作製し、両者の検出強度を比較した図であり、(a)は両抗体のイムノブロットの結果、(b)は両抗体の相対強度を示すグラフである。「*」はニワトリと比べ有意差があることを示す。*P<0.01(Student-t)

【実施例】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例によって何ら限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
肺癌、メラノーマ、前立腺癌などのがんマーカーとして期待されているヒトCD166蛋白質に対する抗体作製のため、ヒト、マウス、ウサギの種間で一致する合成ペプチド(哺乳類間で高度に保存されている細胞外領域の第4番目のIgループ内の20アミノ酸)を、マウス(BALBc)、ウサギ(日本白色種)、ダチョウ(3ヶ月齢幼鳥)に免疫(隔週計3回)し、採血した。
【0034】
初回免疫は100μgの抗原液(0.5mL)と完全アジュバント0.5mLを混合し、ダチョウ胸部の筋肉内、ウサギ背部皮内に接種した。マウスには上記混合液0.4mLを背部皮内に接種した。2回目以降は、100μgの抗原液(0.5mL)と不完全アジュバント0.5mLを混合し、ダチョウ頚部筋肉内、ウサギ背部皮内に接種した。マウスには上記混合液0.4mLを背部皮内に接種した。これら動物の抗血清(最終免疫から2週後)を用いてヒト肺癌の膜分画のウエスタンブロットを行ったところ、ダチョウでのみヒトCD166蛋白質を認識する抗体を産生していた(図1)。
【0035】
上記ウエスタンブロットに使用した標識2次抗体は、次のように作製した。まず、非免疫ダチョウの血液よりプロテインGを用いて免疫グロブリンG(IgG)を精製し、SDS-PAGEにて確認した(図2)。これをウサギに免疫した。より詳細には、1回量200μgのダチョウIgGを日本白色種ウサギに隔週4回免疫し、最終回より2週目に全血液を回収し、抗ダチョウIgGウサギポリクローナル抗体(血清)を作製した。精製はプロテインAを用いた定法に従って行った。得られた精製抗体をFITC標識またはHRP標識し、2次抗体として使用した。
【0036】
ダチョウの上記抗血清から次のように抗体を精製した。まず、ダチョウの抗血清をプロテインGカラムに流入した。PBSで洗浄後、クエン酸バッファーとグリシンバッファーの混合液(pH9.0)によるエリューション後、2Mトリス/HCLにより中和した。こうして精製した抗体を、抗CD166ダチョウ抗体として以下の実験で使用した。
【0037】
[実施例2]
実施例1で得られた抗CD166ダチョウ抗体を1次抗体として培養ヒト肺癌細胞(A549)に対して免疫蛍光抗体法を実施したところ、肺癌細胞の細胞膜に強く反応した(図3)。実験ではまず、A549細胞をカバースリップ上で1日間培養し、ザンボニー液で固定した。次に、実施例1で得られた抗CD166ダチョウ抗体(1mg/mL)をPBSで1000倍に希釈し、1次抗体として上記細胞上で37℃、1時間反応させた。その後、実施例1で作製したFITC標識抗ダチョウIgGウサギポリクローナル抗体(1mg/mL)をPBSで1000倍に希釈し、2次抗体として上記細胞上で37℃、1時間反応させ、蛍光顕微鏡により観察した。
【0038】
[実施例3]
培養ヒト肺癌細胞(A549)106個をヌードマウス5匹それぞれに皮下移植し、5日目より毎週、実施例1で得られた抗CD166ダチョウ抗体(120μg)を腹腔内投与し、移植3週間目に腫瘍体積を測定した。コントロールマウスにはPBSのみを投与した。その結果、抗CD166ダチョウ抗体投与群では有意に腫瘍の増殖が抑えられることが判明した(図4)。
【0039】
[実施例4]
卵黄への抗体産生を調べるため、2歳6ヶ月齢のダチョウの産卵メスに、ラットのコラーゲン・タイプ1を毎週免疫し、初回免疫より1週~3週目の血清および4週目の卵黄抽出液における抗体産生を寒天ゲル内沈降反応で確認した。実験方法は、以下のとおりである。
【0040】
抗原量と免疫法:4mg/0.5mLの抗原液を完全アジュバント0.5mLと混和し、ダチョウの背部皮内に接種した。その後の追加免疫は、4mg/0.5mLの抗原液を不完全アジュバント0.5mLと混和し、ダチョウの背部皮内に接種した。
血清の精製:頚静脈より採血し、1時間静置後、遠心分離(15000rpm)により分離した血清を用いた。
卵黄抽出法:ダチョウ卵より卵黄(250~350mL)のみを採取し、攪拌した。10mLのみを使用し、残りは冷凍庫にて保存した。
卵黄液10mLと75mLのTBS(20mM Tris-HCL(pH7.5)、0.15M NaCl、0.5%NaN3)を混和し、10%デキストラン硫酸/TBSを5mL加え30分攪拌した。1M CaCl/TBSを10mL加え攪拌後、2時間以上静置した。10000rpmで30分遠心し、上清を回収した。上清に最終濃度40%になるように硫安を加え12時間以上静置した。10000rpmで遠心分離し、沈殿を回収した。この沈殿を10mLのTBSに再懸濁し、TBSにて透析した。
寒天ゲル内沈降反応:最終濃度が1%になるように寒天を0.8%NaCl液に混和し、加温にて完全に溶かした。スライドガラス上にマウント後冷却し、中央に一つの穴と周りに6つの穴を有する構造を形成させた。中央に抗原液(2mg/ml)30マイクロリットル、周囲の穴にPBS,血清、卵黄抽出液それぞれ30マイクロリットルを滴下し、12時間静置後、沈降線の有無を観察した。
【0041】
結果を図5に示す。図中の記号、数字は以下のとおりである。
A:抗原(コラーゲン・タイプ1)
1:免疫前のダチョウ血清
2:免疫1週目のダチョウ血清
3:免疫2週目のダチョウ血清
4:免疫3週目のダチョウ血清
5:免疫4週目のダチョウ卵黄抽出液
6:PBS
【0042】
同様に、ダチョウの産卵メスに、ラットのコラーゲン・タイプ1を毎週免疫し、初回免疫より1週~4週目の卵黄抽出液における抗体産生を寒天ゲル内沈降反応で確認した。結果を図6に示す。図中の記号、数字は以下のとおりである。
A:抗原(コラーゲン・タイプ1)
1:免疫前のダチョウ卵黄抽出液
2:免疫1週目のダチョウ卵黄抽出液
3:免疫2週目のダチョウ卵黄抽出液
4:免疫3週目のダチョウ卵黄抽出液
5:免疫4週目のダチョウ卵黄抽出液
6:PBS
【0043】
図5、6において、抗原抗体反応による白い沈降線が抗体産生を示す(図7も同じである)。これらの図に示すように、免疫2週目から血液中に、免疫4週目から卵黄中に抗体が産生されており、ダチョウ卵黄への抗体産生が確認された。
【0044】
また同様に、ダチョウの産卵メスにIBV(鶏伝染性気管支炎ウイルス)の不活化ワクチンを免疫し、経時的にその血清および卵黄中の抗体産生を寒天ゲル内沈降反応で調べた。結果を図7に示す。図中の記号、数字は以下のとおりである。
A:抗原(IBV)
1:PBS
2:免疫前のダチョウ血清
3:免疫4週目のダチョウ血清
4:免疫6週目のダチョウ血清
5:免疫6週目のダチョウ卵黄抽出液
6:免疫前のダチョウ卵黄抽出液
図7に示すように、初回免疫より4週、6週目の血清および6週目の卵黄抽出液に抗体が産生されており、ダチョウ卵黄への抗体産生が確認された。
【0045】
[実施例5]
ダチョウ抗体とニワトリ抗体との検出強度を比較するため、ダチョウおよびニワトリを用いてそれぞれ抗CD146抗体を作製し、両者の検出強度を比較した。
【0046】
実験では、ヒトCD146蛋白質を雌鶏および雌ダチョウに隔週免疫し、6週目に採取した血清から抗体を精製し、それぞれ等量(0.1mg)をHRP標識した。CD146蛋白質10ナノグラムをSDSーPAGE後、PVDF膜にて転写し、上記のそれぞれの抗体と反応させた。洗浄後、ECLにて発光させレントゲンフィルムにて感光させた。
【0047】
結果を図8に示す。図中(a)は、ニワトリ2羽、ダチョウ2羽からの抗体を用いたイムノブロットの結果を示し、ダチョウ抗体のほうが検出強度が強いことがわかる。(b)は、レントゲンフィルム上のバンドの濃さをデンシトメトリーで計測し、バンドなしの領域の強度を1とした時の相対強度を算出し、鶏3羽の平均値、ダチョウ3羽の平均値を示す。このグラフから明らかなように、ダチョウ抗体のほうが相対強度が顕著に高かった。
【0048】
同様に、ダチョウおよびニワトリを用いてそれぞれ抗CD166抗体を作製し、両者の検出強度を比較した。
実験では、ヒトCD166蛋白質を雌鶏および雌ダチョウに隔週免疫し、6週目に採取した血清から抗体を精製し、それぞれ等量(0.1mg)をHRP標識した。CD166蛋白質20ナノグラムをSDSーPAGE後、PVDF膜にて転写し、上記のそれぞれの抗体と反応させた。洗浄後、ECLにて発光させレントゲンフィルムにて感光させた。
【0049】
結果を図9に示す。図中(a)は、ニワトリ2羽、ダチョウ2羽からの抗体を用いたイムノブロットの結果を示し、ダチョウ抗体のほうが検出強度が強いことがわかる。(b)は、レントゲンフィルム上のバンドの濃さをデンシトメトリーで計測し、バンドなしの領域の強度を1とした時の相対強度を算出し、鶏3羽の平均値、ダチョウ3羽の平均値を示す。このグラフから明らかなように、ダチョウ抗体のほうが相対強度が顕著に高かった。
このように、ニワトリ抗体に比べてダチョウ抗体の検出感度が高く、ニワトリ抗体に対するダチョウ抗体の質的優位性が、本実施例により認められた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明は、ダチョウを用いて作製された抗体、及びその作製方法に関するものであり、前述したとおり、ヒトの治療又は診断に用いられる医療用抗体の大量生産、その他抗体を利用し得る種々の分野への利用が可能である。
図面
【図4】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8