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明細書 :灌漑システムおよび灌漑方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5731791号 (P5731791)
公開番号 特開2012-090525 (P2012-090525A)
登録日 平成27年4月17日(2015.4.17)
発行日 平成27年6月10日(2015.6.10)
公開日 平成24年5月17日(2012.5.17)
発明の名称または考案の名称 灌漑システムおよび灌漑方法
国際特許分類 A01G  27/00        (2006.01)
A01G  25/00        (2006.01)
A01G  25/06        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
A01G   1/00        (2006.01)
FI A01G 27/00 503B
A01G 25/00 501B
A01G 25/06 D
A01G 25/06 F
A01G 7/00 602Z
A01G 1/00 303A
請求項の数または発明の数 3
全頁数 14
出願番号 特願2010-237855 (P2010-237855)
出願日 平成22年10月22日(2010.10.22)
審査請求日 平成25年8月28日(2013.8.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
【識別番号】510040363
【氏名又は名称】株式会社鳥取再資源化研究所
発明者または考案者 【氏名】井上 光弘
【氏名】山下 道洋
個別代理人の代理人 【識別番号】100084146、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 宏
【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100122286、【弁理士】、【氏名又は名称】仲倉 幸典
審査官 【審査官】竹中 靖典
参考文献・文献 特開平10-033074(JP,A)
特開2001-120085(JP,A)
特開2010-051175(JP,A)
特開平10-066462(JP,A)
特開2000-201551(JP,A)
特開平07-327493(JP,A)
特開2004-166571(JP,A)
特開平08-000085(JP,A)
特開2003-274760(JP,A)
調査した分野 A01G 25/00 - 25/06
A01G 1/00 - 1/12
A01G 27/00 - 27/06
特許請求の範囲 【請求項1】
一定水圧を発生する一定水圧発生装置と、
上記一定水圧発生装置に接続される多孔質ホースと
を備える灌漑装置と、
土壌中に位置すると共に、砂よりも大きな粒径の廃ガラスの粒子からなって土壌水の浸透を抑制する土壌水浸透抑制層と
を備え、
上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に、上記多孔質ホースを配置していることを特徴とする灌漑システム。
【請求項2】
請求項1に記載の灌漑システムにおいて、
上記一定水圧発生装置は、
容器と、
上記容器内に設けたフロートと、
上記フロートに連結されて、上記容器内への水供給口を開閉する開閉弁と
を備えることを特徴とする灌漑システム
【請求項3】
土壌中に位置すると共に、砂よりも大きな粒径の廃ガラスの粒子からなって土壌水の浸透を抑制する土壌水浸透抑制層と、
一定水圧を発生する一定水圧発生装置と、
上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に位置すると共に、上記一定水圧発生装置に接続された多孔質ホースと
を用いて、
上記多孔質ホースから、上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に灌水を行うことを特徴とする灌漑方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、中近東、アフリカ等の半乾燥地および乾燥地や、水資源の枯渇が問題になっている地域等において、水資源を有効に活用できる好適な灌漑システムおよび灌漑方法に関する分野である。
【背景技術】
【0002】
従来の灌漑方法としては、植物栽培用土に素焼陶器からなる筒状の貯水容器を埋設し、貯水タンクから上記貯水容器に水を供給して、上記貯水容器の周壁から透過した水を植物栽培用土に供給することによって灌水するようにしたものがある(特開平10-66462号公報、図1(特許文献1))。
【0003】
ところが、上記記載の従来の灌漑方法では、貯水タンクの水位が一定ではない。このため、貯水タンクの水位が高い場合には、貯水容器にかかる水圧が高く、貯水容器の周壁から透過していく水が多くて、植物の栽培に適した量以上の水を提供することとなり、無駄な灌漑水を供給してしまうという問題がある。さらに、この無駄な灌漑水の供給によって、植物栽培用土の水分が過多となって、植物の根腐れを招くという問題がある。一方、貯水タンクの水位が低い場合には、貯水容器にかかる水圧が低く、貯水容器の周壁から透過していく水が少なくて、植物の栽培に適した量の水を提供することができず、植物が枯死してしまうという問題がある。すなわち、従来の灌漑方法では常に水位が変化するために、一定の水を植物に供給することができない欠点がある。
【0004】
また、貯水容器の周壁から透過していく水は、植物の根だけでなく、植物栽培用土にも吸引されるため、植物の根がある範囲外の、例えば、貯水容器の下方の植物栽培用土にも吸引されて、無駄な灌漑水を供給してしまうという問題がある。
【0005】
さらに、地下水に塩分を含む場合には、塩分を含む地下水の上昇を遮断するものが何もないため、地下水に含まれた塩分による塩害を防止することができず、持続的な営農ができないという問題がある。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平10-66462号公報、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、無駄な灌漑水の供給を低減することができると共に、植物の根腐れや植物の枯死を防止することができ、さらに塩害を防止することができる灌漑システムおよび灌漑方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の灌漑システムは、
下記に示す多孔質ホースの特性にあわせた一定の水圧を発生する一定水圧発生装置と、
上記一定水圧発生装置に接続される多孔質ホースと
を備える灌漑装置と、
土壌中に位置すると共に、砂よりも大きな粒径の廃ガラスの粒子からなって土壌水の浸透を抑制する土壌水浸透抑制層と
を備え、
上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に、上記多孔質ホースを配置していることを特徴としている。
【0009】
ここで、多孔質ホースは、水又は水蒸気がごく僅かに通過する程度の微小孔を有する多孔質材料からなる。この多孔質ホースは、多孔質材料の材質や寸法等を変えることにより、水又は水蒸気の通過量(ホースの内側からホース周壁(肉)を透過して外側へ出てゆく水量を意味する。以下同様。)を所望の値にすることができる。
【0010】
上記構成の灌漑システムは、上記一定水圧発生装置に上記多孔質ホースを接続する。このため、多孔質ホースに一定水圧をかけて、植物の根の活性度(植物の根による吸収量に対応する)に応じて吸収される分だけ、自動的に、かつ、安定的に灌漑水を供給することができる。したがって、無駄な灌漑水の供給を低減し、水やりの労力を低減することができる。これにより、植物の根腐れや植物の枯死を防止することができ、さらに、灌漑水量や灌漑装置に供給する水の量を気にする必要がなくて、簡単に灌漑水を供給することができる。なお、多孔質ホースに大きな水圧をかけると多孔質ホースの入口端と末端で大きな水圧差が発生し、そのために多孔質ホースからの浸出量に差が生じ、均等な灌漑ができない。したがって、多孔質ホースの材質や寸法等との関係を考慮して適切で小さな水圧を選定することが好ましい。
【0011】
提案した上記一定水圧発生装置は、適切な小さな水圧を発生する。このため、上記一定水圧発生装置は、ポンプ等の高価な設備を使用しなくても、例えば、ボールタップ方式で水位を制御する水タンク等の簡単かつ安価な設備を用いて実現できる。
また、上記構成の灌漑システムによれば、一定水圧を発生する上記一定水圧発生装置に上記多孔質ホースを接続する。このため、多孔質ホースに適切な小さな一定の水圧をかけて、植物の根の活性度および土壌の湿度に応じて吸収される分だけ、自動的に、かつ、安定的に、灌漑水を供給することができる。したがって、無駄な灌漑水の供給を低減し、水やりの労力を低減することができる。これにより、植物の根腐れや植物の枯死を防止することができ、さらに、灌漑水量や灌漑装置に供給する水の量を気にする必要がなくて、簡単に灌漑水を供給することができる。
また、上記土壌水浸透抑制層は、砂よりも大きな粒径の廃ガラスの粒子からなっていて、土壌水が上記土壌水浸透抑制層を浸透するのを抑制する一方、塩分を含む地下水の上昇を遮断する。したがって、土壌水が上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に保持されて、さらに無駄な灌漑水の供給をより低減することができると共に、塩害を防止することができる。
さらに、上記多孔質ホースは、土壌水が保持されている上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に配置しているので、上記多孔質ホースの周りの土壌は水の吸収量が少なく、無駄な灌漑水の供給を大幅に低減することができる。
【0012】
一実施形態では、
上記一定水圧発生装置は、容器と、上記容器内に設けたフロートと、上記フロートに連結されて、上記容器内への水供給口を開閉する開閉弁とを備えることを特徴としている。
【0013】
上記実施形態によれば、上記フロートで上記容器内の水位を検知し、この水位に応じて上記開閉弁を開閉して、上記容器内への水の供給量を自動的に調整することで、上記容器内の水位、つまり、水圧を一定にすることができる。したがって、ポンプ等の高価な設備投資を行う必要がなく、上記一定水圧発生装置を簡単かつ安価に構成することができて、メンテナンスが容易である。さらに、電力や動力を使用しないので、電気代等の維持費を削減できる。また、電力や動力のインフラストラクチャが整備されていない地域に適する。
【0018】
また、本発明の灌漑方法は、
土壌中に位置すると共に、砂よりも大きな粒径の廃ガラスの粒子からなって土壌水の浸透を抑制する土壌水浸透抑制層と、
適切な小さな一定水圧を発生する一定水圧発生装置と、
上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に位置すると共に、上記一定水圧発生装置に接続された多孔質ホースと
を用いて、
上記多孔質ホースから、上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に灌水を行うことを特徴としている。
【0019】
上記構成の灌漑方法によれば、一定水圧を発生する上記一定水圧発生装置に上記多孔質ホースが接続されている。このため、多孔質ホースに適切な小さな一定の水圧をかけて、植物の根の活性度および土壌の湿度に応じて吸収される分だけ、自動的に、かつ、安定的に、灌漑水を供給することができる。したがって、無駄な灌漑水の供給を低減し、水やりの労力を低減することができる。これにより、植物の根腐れや植物の枯死を防止することができ、さらに、灌漑水量や灌漑装置に供給する水の量を気にする必要がなくて、簡単に灌漑水を供給することができる。
【0020】
また、上記土壌水浸透抑制層は、砂よりも大きな粒径の廃ガラスの粒子からなっていて、土壌水が上記土壌水浸透抑制層を浸透するのを抑制する一方、塩分を含む地下水の上昇を遮断する。したがって、土壌水が上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に保持されて、さらに無駄な灌漑水の供給をより低減することができると共に、塩分を含む地下水の上昇による塩害を防止することができる。
【0021】
さらに、上記多孔質ホースは、土壌水が保持されている上記土壌水浸透抑制層よりも上方の土壌中に位置して、灌水を行うので、上記多孔質ホースの周りの土壌は水の吸収量が少なく、無駄な灌漑水の供給を大幅に低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、多孔質ホースに適切な小さな一定の水圧をかけて、植物の根の活性度および土壌の湿度に応じて吸収される分だけ、自動的に、かつ、安定的に、灌漑水を供給することができる。また、土壌水浸透抑制層は、土壌水が上記土壌水浸透抑制層を浸透するのを抑制する一方、塩分を含む地下水の上昇を遮断する。したがって、無駄な灌漑水の供給を低減し、水やりの労力を低減することができると共に、植物の根腐れや植物の枯死を防止することができ、さらに塩害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態の灌漑装置の概略構成図である。
【図2】上記実施形態の土壌水浸透抑制層の効果を説明する図である。
【図3】本発明の実証実験における日灌漑水量を示す図である。
【図4A】上記実証実験の試験区(1)における収穫時のケニヤホウレンソウの状況を示す図である。
【図4B】上記実証実験の試験区(2)における収穫時のケニヤホウレンソウの状況を示す図である。
【図4C】上記実証実験の試験区(3)における収穫時のケニヤホウレンソウの状況を示す図である。
【図4D】上記実証実験の試験区(4)における収穫時のケニヤホウレンソウの状況を示す図である。
【図4E】上記実証実験の試験区(5)における収穫時のケニヤホウレンソウの状況を示す図である。
【図5】上記実証実験の水利用効率を示す図である。
【図6】上記実施形態の灌漑装置を養液栽培に用いた変形例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図示の実施形態により詳細に説明する。

【0025】
この灌漑装置は、図1に示すように、一定水圧発生装置10と、この一定水圧発生装置10に接続されると共に、土壌に埋設されている多孔質ホース20とを備えている。

【0026】
上記一定水圧発生装置10は、容器11と、フロート12と、リンク13と、開閉弁14とを有している。上記容器11の容量は15Lであり、容器11は、水源、例えば雨水等を集めた容量200Lの給水タンクから給水された水が入っていて、容器11内に設けた上記フロート12は、水に浮かんでいる。このため、容器11内でのフロート12の高さ位置は、容器11内の水位に連動するようになっている。上記フロート12と、上記給水タンクから容器11内へ水を供給する水供給口15を開閉する開閉弁14とは、リンク13によって連結されていて、フロート12の高さ位置、すなわち、容器11内の水位に応じて、開閉弁14が開閉するようになっている。上記一定水圧発生装置10の下方には出口配管16が設けられ、この出口配管16には、手動で開閉することができる開閉弁17が設けられている。

【0027】
上記多孔質ホース20は、廃タイヤにセラミックを混合させて生成したポーラスチューブ(商品名は新素材ユニホースFAL-5000、株式会社ユニホース製)からなり、外径25.9mm、内径17.7mmの円筒状に形成されている。上記多孔質ホース20の周壁(肉)は、水又は水蒸気がごく僅かに通過する微細孔を有する。上記多孔質ホース20の入口端112は、一定水圧発生装置10の出口配管16に接続されている。この例では、上記多孔質ホース20の末端113は通常閉じられている。

【0028】
上記多孔質ホース20から下方へ向かって順番に、根群域30と、砂よりも大きな粒径の粒子からなっている土壌水浸透抑制層40と、下層土壌50と、地下水60とからなる。上記土壌水浸透抑制層40は、具体的には、土壌表面から深さ30cmに、廃ガラスから生産した土壌改良材であるポーラスm(株式会社鳥取再資源化研究所製)を容量80L,厚さ3cmで、防草シートの上に敷設している。一方、上記多孔質ホース20は、土壌表面から深さ5cmの根群域30内に水平方向の間隔が30cmで埋設されていて、土壌水浸透抑制層40よりも上方の土壌中に位置している。また、土壌表面には植物70が植えられている。

【0029】
上記土壌水浸透抑制層40をなすポーラスmは、砂よりも大きな粒径の廃ガラスの粒子からなるため、キャピラリーバリアを形成して土壌水が降下して浸透するのを抑制できる一方、塩分を含む地下水の上昇を遮断できる。

【0030】
図2は、土壌(例えば砂質土壌)の上から水を供給したときの上記土壌中の土壌水分量を例示したものである。具体的には、図2は、上記土壌水浸透抑制層40として、土壌表面から30cmの位置に、廃ガラスから生産した土壌改良材であるポーラスアルファ(株式会社鳥取再資源化研究所製)を2cmの厚さで敷設した場合と、土壌水浸透抑制層を設けなかった場合のそれぞれについて、土壌表面から15cmの位置における土壌中の土壌水分量を示している。図2に示すように、土壌水浸透抑制層40を設けた場合には、土壌水浸透抑制層を設けなかった場合に比べて、土壌水浸透抑制層40の上方に位置する土壌中の土壌水分量が常に多いことが分かる。

【0031】
上記構成の灌漑装置の作動を、図1を参照しながら、詳細に説明する。

【0032】
上記水タンクから水供給口15を経て容器11に供給された水は、容器11に溜まる。容器11内の水位が、例えば土壌表面から9cmの高さになると、水位を検知しているフロート12に連結している開閉弁14によって水供給口15が閉鎖されて、水源から容器11への水の供給が止まる。一方、容器11内の水位が土壌表面から9cm以下の高さになると、開閉弁14によって水供給口15が開放されて、水源から容器11へ水を供給する。このようにして、容器11内の水位が土壌表面から高さ9cmの一定水位になるように自動的に制御できて、上記水圧発生装置10は、一定水圧を発生できる。なお、上記水タンクから水と共に液肥を供給することもできる。

【0033】
次に、容器11に溜まっている水は、出口配管16を経て多孔質ホース20の内側に流入し、一旦保持される。このとき、多孔質ホース20に保持されている水は、容器11内の水位である土壌表面から9cmの高さと多孔質ホース20が埋設されている土壌表面から5cmの深さとの位置関係から、14cmの水頭の水圧を有する。多孔質ホース20に保持された水は、多孔質ホース20の内側から多孔質ホース20の周壁の微細孔を通過して、土壌の吸引力(毛管現象)によって、矢印a1で示すように土壌へ供給される。この水が供給された湿潤域31は、根群域30内に浸透して広がる。そして、その水は、根群域30の下方に位置する土壌水浸透抑制層40によって浸透が抑制される。この結果、供給された水は、土壌水浸透抑制層40の上の根群域30の土壌が有する保水力の分だけ土壌に保持され、土壌を湿潤させる。

【0034】
根群域30の土壌中に保持された水は、植物70の根に吸収される。その結果、根群域30の土壌水分が不足すると、多孔質ホース20からその不足を補うように、水が根群域30へ供給される。すなわち、根群域30に一旦土壌水が保持された後は、植物70の根によって吸収される分だけ、多孔質ホース20から水が根群域30へ供給される。

【0035】
なお、塩分を含む地下水60は、矢印a2で示すように、上方の下層土壌50中を浸透して上昇するが、土壌水浸透抑制層40によって形成されるキャピラリーバリアによって、地下水60の上昇は遮断される。

【0036】
上記実施形態によれば、多孔質ホース20に14cmの水頭の一定水圧、つまり、比較的小さい水圧をかけて、植物70の根の活性度および土壌の湿度によって吸収される分だけ、自動的に、かつ、安定的に灌漑水を供給することができる。したがって、無駄な灌漑水の供給を低減し、水やりの労力を低減することができる。これにより、植物70の根腐れや植物70の枯死を防止することができ、さらに、灌漑水量や灌漑装置に供給する水の量を気にする必要がなくて、簡単に灌漑水を供給することができる。

【0037】
また、上記土壌水浸透抑制層40は、砂よりも大きな粒径のポーラスmからなっていて、土壌水が上記土壌水浸透抑制層40を浸透するのを抑制する一方、塩分を含む地下水の上昇を遮断する。したがって、土壌水が上記土壌水浸透抑制層40よりも上方の根群域30中に保持されて、さらに無駄な灌漑水の供給をより低減することができると共に、塩分を含む地下水の上昇による塩害を防止することができる。なお、大雨が降ったときなど、保水力を越える水が根群域30に入った場合、その水は、矢印a3で示すように土壌水浸透抑制層40を通過して、下方へ浸透するので,根群域30は過剰な水分状態にならずに根腐れなどの心配がない。

【0038】
さらに、大雨による水は砂よりも大きな粒径の土壌水浸透抑制層40を飽和させ,速やかに矢印a3で示すように下方に浸透して,地下水を涵養する。

【0039】
また、上記フロート12で容器11内の水位を検知し、この水位に応じて開閉弁14を開閉して、容器11内への水の供給量を自動的に調整することで、容器内11の水位、つまり、水圧を一定にすることができる。したがって、ポンプ等の高価な設備投資を行う必要がなく、一定水圧発生装置10を簡単かつ安価に構成することができて、メンテナンスが容易である。さらに、電力や動力を使用しないので、電気代等の維持費を削減できる。また、電力や動力のインフラストラクチャが整備されていない開発途上国に適する。

【0040】
また、上記多孔質ホース20に廃タイヤにセラミックを混合させて生成した多孔質の養殖用散気ホースを用い、土壌水浸透抑制層40に廃飲料用ガラスをリサイクルした浸透抑制土壌改良材であるポーラスmを用いているので、リサイクル資材を活用することができて、地球環境にやさしい。

【0041】
さらに、図1に示すように、上記多孔質ホース20の末端113にメンテナンス用開閉弁114を設ける。これは、送水開始時に多孔質ホース20内の空気を追い出したり、もし、異物が多孔質ホース20内に混入した場合、メンテナンス用開閉弁114を開けて空気を逆送させて、混入物を多孔質ホース20内から除去することができる。多孔質ホース20を地中から掘り起こすことなく,多孔質ホース20内を簡単に清掃することが可能である。

【0042】
上記実施形態では、一定水圧発生装置10によって、14cmの水頭の一定水圧を多孔質ホース20にかけていたが、多孔質ホース20にかける圧力は、14cmの水頭の一定水圧に限定されない。つまり、多孔質ホース20にかける圧力は、土壌の種類や植物の種類によって異なり、好ましくは、0cm~2mの水頭の一定水圧、より好ましくは、1cm~1mの水頭の一定水圧、より好ましくは、2cm~50cmの水頭の一定水圧、より好ましくは、5cm~20cmの水頭の一定水圧、より好ましくは、10cm~15cmの水頭の一定水圧に設定する。

【0043】
また、上記実施形態では、多孔質ホース20を土壌表面から深さ5cmの根群域30内に埋設していたが、土壌水浸透抑制層40よりも上方であれば、土壌表面の植物70に対応して、土壌中のどの位置に配置してもよい。

【0044】
また、上記実施形態では、多孔質ホース20としてポーラスチューブを用いて灌水していたが、例えば、シーパーホース(株式会社ユニホース社製)等の他の多孔質材料を用いてもよい。

【0045】
また、上記実施形態では、土壌表面から30cmの位置に、ポーラスmを3cmの厚さで敷設して土壌水浸透抑制層40を設けていたが、土壌水浸透抑制層40を設けるのは、土壌表面から30cmの位置に限定されない。土壌水浸透抑制層40は、土壌表面の植物に対応して、どの位置に配置してもよく、また、どのような厚さにしてもよい。

【0046】
また、上記実施形態では、上記土壌水浸透抑制層40にポーラスmを用いていたが、例えば、ポーラスアルファ(株式会社鳥取再資源化研究所製)など、他の砂よりも小さな粒径の粒子を有するものを用いてもよい。

【0047】
(実験例)
次に、本実施形態の灌漑装置の植物の収量および水利用効率を実証した実証実験の結果を示す。

【0048】
この実証実験は、実証試験は、ケニヤ,ナイロビの南東70km,ケニヤ農業研究所カトマニ試験場で行った。このカトマニ試験場の土壌は、砂78%,シルト18%,粘土4%であり、ローム質砂に分類される。

【0049】
実証実験の1つの試験区の大きさは、長さ5.4m,幅0.6mで、図3の日灌漑水量(mm/日)で示した5つの試験区を設けた。この5つの試験区では、それぞれ異なる灌漑方法を適用し、(1)バケット地中灌漑,(2)定水位地中灌漑,(3)ジョウロによる手灌水,(4)浸透抑制層を有する定水位地中灌漑,(5)ケニヤ式バケット点滴灌漑により、ケニヤホウレンソウを栽培した。上記試験区(2),(4)の定水位地中灌漑では、上記実施形態の灌漑装置を用いて灌漑を行った。上記試験区(4)は、上記実施形態と同じであり、上記土壌浸透抑制層を土壌中に設けると共に、上記灌漑装置を用いて灌漑を行った。上記試験区(1)の地中灌漑では、上記灌漑装置の一定水圧発生装置10の代わりに市販の容積19Lのバケツを用いて給水することで灌漑を行った。上記試験区(3)の手灌水では、市販の容積9Lのジョウロを用いて灌水した。上記試験区(5)のケニヤ式バケット点滴灌漑方式は,容積19Lのバケツを高さ1.15mに設置し、エミッタ間隔30cm,ラテラルライン長5.4m,間隔30cmの点滴灌漑である。なお、灌漑に伴う土壌水分量(体積含水率)を把握するために、各試験区の中央部の深さ10cmの位置にSM200水分センサー(デルタT社製)とデータロガーGP1を埋設している。

【0050】
上記実証実験は、まず、2010年7月8日に200穴のセルトレーにケニヤホウレンソウを播種した。7月27日に、山羊糞,牛糞,藁などを混合した堆肥20Lを上記各試験区に施用した。7月31日に、上記セルトレーから同じ大きさのケニヤホウレンソウを選び、後述する図4Eに示すように2列であって間隔30cmのちどり状に、各試験区に35本ずつ移植した。ケニヤホウレンソウの収穫は9月21日(播種後75日目)に行った。

【0051】
灌漑水量は、移植時の7月31日に、各試験区すべてに12Lの水を灌漑し、その後,天候に関係なく毎日灌漑した。上記試験区(1),(5)では1日1回19Lの水を灌漑し、上記試験区(3)では、上記ジョウロで1日1回9Lの水を灌漑した。上記試験区(2),(4)の定水位地中灌漑は,一定水圧発生装置10に接続されている水タンクの水位を1日1回測定して,この水位の低下量から、使用した灌漑水量を計算した。なお,灌漑水のpH値は7.3,電気伝導度は0.021dS/mであった。

【0052】
図3は、8月19日から9月18日の30日間の上記各試験区における日灌漑水量を示している。日灌漑水量は、毎日の灌漑水量を各試験区の広さ(長さ5.4m,幅0.6m)で割ったものである。図3に示すように、試験区(2),(4)では、播種後60日後頃から灌漑水量が増加傾向にある。これは、ケニヤホウレンソウが大きくなり、ケニヤホウレンソウの根による吸水量が増加したことにともなって、上記灌漑装置から多くの水が灌漑された結果であることが分かる。なお、8月1日から9月20日までの52日間の総灌漑水量は,それぞれ,試験区(1)が1038L,試験区(2)が817L,試験区(3)が498L,試験区(4)が2068L,試験区(5)が1038Lであった。また、試験区(4)の浸透抑制層を有する定水位地中灌漑の場合は,ポーラスmを埋設する作業で,他の試験区と比べて,乾燥した土壌を使用したために,初めに多くの灌漑水が必要であった。

【0053】
図4A~図4Eは、上記各試験区における収穫時のケニヤホウレンソウの状況を示す図である。図4A~図4Eに示すように、試験区(2)、試験区(4)、試験区(1)、試験区(5)、試験区(3)の順に生育がよい。

【0054】
図5は、上記実証実験の水利用効率を示す図である。ここで、水利用効率は、収穫した植物の乾物重を供給した灌漑水量で割った値である。具体的には、播種後45日目から9月21日の収穫(播種後75日目)までの30日間を対象にして、その間に供給した灌漑水量と収穫したケニヤホウレンソウの乾物重を用いて、水利用効率を算出した。なお、上記乾物重は、各試験区からそれぞれ収穫した10サンプルのケニヤホウレンソウから平均乾物重を算出し、この平均乾物重のケニヤホウレンソウが各試験区に均一に35本生育しているとして、総乾物重を算出した。図5に示すように、試験区(5)よりも試験区(1)の水利用率が高く、地中灌漑がケニヤ式バケット点滴灌漑よりも節水効果があることが分かった。また、試験区(2)よりも試験区(4)の水利用率が高く、土壌浸透抑制層40が、節水に大きな役割を果たしていることが分かった。

【0055】
以上の実証実験から、本発明の実施形態により、従来の灌漑方法よりも無駄な灌漑水の供給を大幅に低減して、水利用効率の非常に高い灌漑ができることが分かった。

【0056】
(変形例)
図6は本発明の灌漑装置を野菜工場等の養液栽培に用いた変形例の概略構成図である。

【0057】
図6に示す変形例は、上記灌漑装置と、養液栽培用の容器110とを備えている。上記容器110は、水及び水蒸気を透過しない発泡スチロールからなり、略密閉された容器である。容器110内の下部には、上記灌漑装置の多孔質ホース20が配置されている一方、容器110の上面には植物70が配置され、植物70の根の部分が、容器110の上面から容器110の内部空間111へ伸びている。

【0058】
上記灌漑装置の一定水位発生装置10から供給された水は、一旦、多孔質ホース20の内側に保持されてから、多孔質ホース20の周壁の微細孔を通過して、内部空間111へ蒸発する。容器110が略密閉されていることから、容器110の内部空間111は、水蒸気の飽和状態になる。ここで、上記植物70の根の部分は、根の活性度に応じて、上記空気中の水蒸気を吸収する。内部空間111の水蒸気量が飽和状態から低下すると、多孔質ホース20からその低下を補うように、水蒸気が内部空間111へ供給される。したがって、植物70の根の活性度に応じて吸収される分だけ、多孔質ホース20から自動的に、かつ、安定的に灌漑水を供給することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 一定水圧発生装置
11 容器
12 フロート
13 リンク
14 開閉弁
15 水供給口
16 出口配管
17 開閉弁
20 多孔質ホース
30 根群域
31 湿潤域
40 土壌水浸透抑制層
50 下層土壌
60 地下水
70 植物
110 容器
111 内部空間
112 入口端
113 末端
114 メンテナンス用開閉弁
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図4A】
5
【図4B】
6
【図4C】
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【図4D】
8
【図4E】
9