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明細書 :微粒子-タンパク質複合体およびその作製方法、半導体装置、蛍光標識方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5071854号 (P5071854)
登録日 平成24年8月31日(2012.8.31)
発行日 平成24年11月14日(2012.11.14)
発明の名称または考案の名称 微粒子-タンパク質複合体およびその作製方法、半導体装置、蛍光標識方法
国際特許分類 B82B   3/00        (2006.01)
H01L  21/368       (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
H01L  29/792       (2006.01)
H01L  29/788       (2006.01)
H01L  21/336       (2006.01)
H01L  27/115       (2006.01)
H01L  21/8247      (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C07K  14/435       (2006.01)
FI B82B 3/00 ZNA
H01L 21/368 Z
G01N 21/78 C
H01L 29/78 371
H01L 27/10 434
C12N 15/00 A
C07K 14/435
請求項の数または発明の数 12
全頁数 29
出願番号 特願2007-535431 (P2007-535431)
出願日 平成18年9月6日(2006.9.6)
国際出願番号 PCT/JP2006/317671
国際公開番号 WO2007/032241
国際公開日 平成19年3月22日(2007.3.22)
優先権出願番号 2005264326
優先日 平成17年9月12日(2005.9.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年2月13日(2008.2.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】岩堀 健治
個別代理人の代理人 【識別番号】100077931、【弁理士】、【氏名又は名称】前田 弘
【識別番号】100110939、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 宏
【識別番号】100110940、【弁理士】、【氏名又は名称】嶋田 高久
【識別番号】100113262、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 祐二
【識別番号】100115059、【弁理士】、【氏名又は名称】今江 克実
【識別番号】100115691、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 篤史
【識別番号】100117581、【弁理士】、【氏名又は名称】二宮 克也
【識別番号】100117710、【弁理士】、【氏名又は名称】原田 智雄
【識別番号】100121728、【弁理士】、【氏名又は名称】井関 勝守
【識別番号】100124671、【弁理士】、【氏名又は名称】関 啓
【識別番号】100131060、【弁理士】、【氏名又は名称】杉浦 靖也
審査官 【審査官】佐藤 秀樹
参考文献・文献 国際公開第03/099708(WO,A1)
特表2001-513697(JP,A)
特開平07-133200(JP,A)
特開平07-133102(JP,A)
KIM K. W. WONG,ADVANCED MATERIALS,1996年11月,V8N11,P928-932
調査した分野 B82B 1/00、3/00
C09K 11/00-11/89
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
水溶液中で金属のアンモニウム錯体を形成させる工程(a)と、
内部に空洞が形成されたタンパク質の溶液とチオ酢酸とを前記水溶液中で混合して、前記タンパク質の前記空洞内に前記金属の硫化物からなる微粒子を形成させる工程(b)とを備え、
前記タンパク質はアポフェリチン、リステリアアポフェリチンまたはこれらの組み換え体であり、
前記金属は、CdまたはZnであることを特徴とする微粒子-タンパク質複合体の作製方法。
【請求項2】
前記工程(a)では、酢酸イオンとアンモニウムイオンとを含む溶液と、前記金属の酢酸塩溶液と、アンモニア水とを混合することを特徴とする請求項1に記載の微粒子-タンパク質複合体の作製方法。
【請求項3】
前記工程(b)では、前記水溶液中のアンモニア濃度によって直径の異なる微粒子が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の微粒子-タンパク質複合体の作製方法。
【請求項4】
前記工程(a)および前記工程(b)は、共に0℃以上15℃以下で行うことを特徴とする請求項1~3のうちいずれか1つに記載の微粒子-タンパク質複合体の作製方法。
【請求項5】
前記工程(b)で形成された前記微粒子と前記タンパク質との複合体を精製する工程(c)と、
前記工程(c)で精製された前記微粒子と前記タンパク質との複合体を含む溶液と前記金属を含む溶液とを混合する工程(d)と、
前記工程(d)で作製された混合液にチオ酢酸を加え、前記タンパク質内に形成された前記微粒子を成長させる工程(e)と、
前記工程(e)の後、前記混合液に前記金属を含む溶液と前記チオ酢酸とを交互に加える工程を繰り返して前記微粒子を成長させる工程(f)とをさらに備えていることを特徴とする請求項1~4のうちいずれか1つに記載の微粒子-タンパク質複合体の作製方法。
【請求項6】
内部に空洞が形成されたタンパク質と、前記空洞内に形成された金属の硫化物からなる微粒子との複合体を含む溶液を作製する工程(a)と、
前記微粒子と前記タンパク質との複合体を含む溶液に前記金属を含む溶液を加える工程(b)と、
前記工程(b)の後に、前記微粒子と前記タンパク質との複合体を含む溶液にチオ酢酸を加えて前記微粒子を成長させる工程(c)と、
前記工程(b)と前記工程(c)とを繰り返して前記微粒子を成長させる工程(d)とを備え、
内部に空洞を有する前記タンパク質はアポフェリチン、リステリアアポフェリチンまたはこれらの組み換え体であり、
前記金属はCdまたはZnであることを特徴とする微粒子-タンパク質複合体の作製方法。
【請求項7】
水溶液中でCdまたはZnのアンモニウム錯体を形成させる工程(a)と、
内部に空洞が形成されたタンパク質の溶液とチオ酢酸とを前記水溶液中で混合して、前記空洞内にCdSまたはZnSを含み、励起された場合に蛍光を発する微粒子を形成させ、微粒子-タンパク質複合体を作製する工程(b)と、
前記微粒子-タンパク質複合体を標的物質に結合させて前記標的物質を標識する工程(c)とを備え、
内部に空洞を有する前記タンパク質はアポフェリチン、リステリアアポフェリチンまたはこれらの組み換え体であることを特徴とする蛍光標識方法。
【請求項8】
前記工程(c)の前に、N末端にシステインを付加した第1の変異アポフェリチンまたは第1の変異リステリアアポフェリチンを作製する工程(d)と、
前記工程(c)の前に、前記標的物質をSH基を有する化合物で修飾する工程(e)とをさらに備え、
前記工程(c)では、前記第1の変異アポフェリチンまたは前記第1の変異リステリアアポフェリチンと前記標的物質とをジスルフィド結合によって結合させることを特徴とする請求項7に記載の蛍光標識方法。
【請求項9】
前記標的物質は外表面にアミノ基を有しており、
前記工程(c)では、カップリング剤を用いて前記標的物質の外表面に位置するアミノ基と前記アポフェリチンまたは前記リステリアアポフェリチンの外表面に位置するカルボキシル基とを縮合反応させてアミド結合を形成させることを特徴とする請求項7に記載の蛍光標識方法。
【請求項10】
前記タンパク質は、N末端にTi認識ペプチドが付加された第2の変異アポフェリチンであり、
前記標的物質は表面の一部にTi膜を有する基板であることを特徴とする請求項7に記載の蛍光標識方法。
【請求項11】
前記工程(a)の前に、遺伝子組み換え技術を用いて前記第2の変異アポフェリチンを作製する工程をさらに備えていることを特徴とする請求項10に記載の蛍光標識方法。
【請求項12】
水溶液中でCdまたはZnのアンモニウム錯体を形成させる工程(a)と、
内部に空洞を有するタンパク質を標的物質に結合させる工程(b)と、
内部に空洞が形成されたタンパク質の溶液とチオ酢酸とを前記水溶液中で混合して、前記タンパク質内にCdSまたはZnSを含み、励起された場合に蛍光を発する微粒子を形成させ、微粒子-タンパク質複合体を作製する工程(c)とを備え、
内部に空洞を有する前記タンパク質はアポフェリチン、リステリアアポフェリチンまたはこれらの組み換え体であることを特徴とする蛍光標識方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子-タンパク質複合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ナノメーターサイズの構造体の構築を目指すナノテクノロジーが世界中で注目を浴びている。ナノテクノロジーの一つとして、球殻状あるいは棒状のタンパク質を鋳型として金属ナノ粒子を形成する試みがなされている。このいわゆるバイオナノプロセスに用いられるタンパク質として、アポフェリチンやリステリアフェリチン、DNA binding proteinなどがある。
【0003】
図1は、フェリチン(アポフェリチン)およびリステリアフェリチン(リステリアアポフェリチン)の特性を示す図である。フェリチンは、ほ乳類では肝臓、脾臓、心臓に多く含まれる直径約12nm(ウマの場合)の球殻状タンパク質で、175個のアミノ酸からなるモノマーサブユニット3が24個集まって1つのタンパク質分子を形成している。1個のタンパク質分子の分子量は480kDaである。フェリチンは、生体内においてはタンパク質からなる外殻2の内部に直径が最大で7nmの酸化鉄からなるコア1を有している。フェリチンから酸化鉄のコア1が抜けたものはアポフェリチンと呼ばれる。
【0004】
一方、リステリアフェリチンは、リステリア菌由来のDps様タンパク質であり、12個のモノマーサブユニット9で構成され、直径約9nmの球殻状をしている。リステリアフェリチンもアポフェリチンと同様に、外殻7の内部に酸化鉄からなるコア6を格納できる空洞が形成されており、その空洞径は約4nmである。なお、リステリアフェリチンから酸化鉄からなるコア6が抜けたものは、リステリアアポフェリチンと呼ばれる。
【0005】
アポフェリチンには、酸化鉄からなるコアの代わりに種々の金属からなるコアを形成させることができる。このため、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)など、種々の金属からなる微粒子とアポフェリチンとの複合体が現在までに作製されている。リステリアアポフェリチンについても、種々の金属からなる微粒子の形成に利用することができる。

【特許文献1】特開2003-113198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術では金属あるいは金属酸化物からなる微粒子を作製することができるが、2種類以上の化合物からなる化合物半導体の微粒子を作製することができなかった。そこで、アポフェリチン内の空洞に半導体からなる微粒子を保持させる研究が進められている。化合物半導体からなる微粒子の場合、励起させた場合に発光することが結晶性が良いことのひとつの目安となっている。半導体装置の材料としては結晶性の良好な半導体微粒子が求められているが、バイオナノプロセスを用いた場合、化合物半導体からなり、発光が可能な微粒子を作製することができなかった。
【0007】
本発明は、化合物半導体からなり、発光が可能な微粒子を作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の微粒子-タンパク質複合体は、複数のモノマーサブユニットから構成され、内部に空洞が形成された外殻と、前記外殻内に形成され、化合物半導体からなり、励起された場合に蛍光を発する微粒子とを備えている。
【0009】
このため、微粒子-タンパク質複合体は、半導体からなる微粒子の量子効果を利用した半導体装置の作製に用いられる他、蛍光を生じることを利用して生体物質の標識方法などに用いられることができる。
【0010】
空洞が形成されたタンパク質としてはアポフェリチンやリステリアアポフェリチンなどのフェリチンファミリータンパク質やその組み換え体が好ましく用いられる。
【0011】
微粒子の材料としては、II-VI型の化合物半導体であるCdSあるいはZnSなどが挙げられる。微粒子の直径は、アポフェリチンを用いた場合は約7nm以下で、リステリアアポフェリチンを用いた場合は約4nm以下である。
【0012】
本発明の微粒子-タンパク質複合体の作製方法は、水溶液中で金属のアンモニウム錯体を形成させる工程(a)と、内部に空洞が形成されたタンパク質の溶液とチオ酢酸とを前記水溶液中で混合して、前記タンパク質の前記空洞内に前記金属の硫化物からなる微粒子を形成させる工程(b)とを備えている。
【0013】
これにより、アンモニウム錯体を形成させることでタンパク質の外部で金属硫化物が形成されるのを防ぐとともに、チオ酢酸からS2-イオンが徐々に放出されることにより、タンパク質内に結晶性の良い金属硫化物を形成することができると考えられる。タンパク質としてはアポフェリチンやリステリアアポフェリチンなどのフェリチンファミリータンパク質が好ましく用いられ、金属としてはCdあるいはZnが好ましく用いられる。
【0014】
なお、上述の方法で作製された微粒子-タンパク質複合体を用いれば、微粒子を用いた半導体記憶装置を実現したり、微粒子から発せられる蛍光を利用した生体物質等の標識を行ったりすることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明の方法によって作製される微粒子-タンパク質複合体は、半導体装置の製造や生体物質等の標識など、種々の分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、フェリチン(アポフェリチン)およびリステリアフェリチンの特性を示す図である。
【図2】図2(a)は、本発明の第1の実施形態に係る化合物半導体-アポフェリチン複合体の作製方法を示すフローチャートであり、(b)は、各試薬の最終濃度を示す図である。
【図3】図3(a)は、イオウ源としてチオ尿素を用いた場合の反応液中のアポフェリチンを示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は、イオウ源としてチオ酢酸を用いた場合の反応液中のアポフェリチンを示すTEM写真である。
【図4】図4は、反応液中のアンモニア濃度を変化させた場合のCdS-アポフェリチン複合体を示すTEM写真である。
【図5】図5は、CdS-アポフェリチン複合体の蛍光スペクトルを示す図である。
【図6】図6(a)~(c)は、各条件においてアポフェリチン中に形成されたCdS微粒子の粒子径を測定した結果を示す図である。
【図7】図7(a)は、チオ尿素を用いた場合の反応液中のS2-イオン濃度とpHとを示す図であり、(b)は、チオ酢酸を用いた場合の反応液中のS2-イオン濃度とpHとを示す図である。
【図8】図8は、第1の実施形態に係るCdS-アポフェリチン複合体の作製方法における反応機構を説明するための図である。
【図9】図9(a)は、本発明の第2の実施形態に係る化合物半導体-アポフェリチン複合体の作製方法を示すフローチャートであり、(b)は、各試薬の最終濃度を示す図である。
【図10】図10(a)は、イオウ源としてチオ尿素を用いた場合の反応液中のアポフェリチンを示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は、イオウ源としてチオ酢酸を用いた場合の反応液中のアポフェリチンを示すTEM写真である。
【図11】図11は、ZnS-アポフェリチン複合体の蛍光スペクトルを示す図である。
【図12】図12(a)は、本発明の第3の実施形態に係る化合物半導体-リステリアアポフェリチン複合体の作製方法を示すフローチャートであり、(b)は、各試薬の最終濃度を示す図であり、(c)は、第3の実施形態の変形例に係る化合物半導体-リステリアアポフェリチン複合体の作製方法での各試薬の最終濃度を示す図である。
【図13】図13は、CdS-リステリアアポフェリチン複合体の形成方法の条件を変えた場合のコア形成率を示す図である。
【図14】図14(a)は、本発明の第4の実施形態に係る化合物半導体-リステリアアポフェリチン複合体の作製方法を示すフローチャートであり、(b)は、各試薬の最終濃度を示す図であり、(c)は、第4の実施形態の変形例に係る化合物半導体-リステリアアポフェリチン複合体の作製方法での各試薬の最終濃度を示す図である。
【図15】図15は、市販のアポフェリチン(欠失なし)およびFer8アポフェリチンを用いた場合で、反応液の上清中に残存するタンパク質量を示す図である。
【図16】図16は、反応液中のアンモニア濃度を7.5mM、37.5mM、75mMとした場合のCdS-Fer8アポフェリチン複合体の蛍光スペクトルを示す図である。
【図17】図17は、市販のアポフェリチンを用いた場合とFer8アポフェリチンを用いた場合とでアポフェリチン内にコアが形成される割合を比較した図である。
【図18】図18は、本発明の第6の実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【図19】図19(a)~(f)は、第6の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図20】図20(a)~(g)は、本発明の第7の実施形態の第1の蛍光標識方法を説明するための図である。
【図21】図21(a)、(b)は、第7の実施形態の第2の蛍光標識方法を説明するための図である。
【図22】図22(a)~(c)は、本発明の第8の実施形態に係る基板に対する蛍光標識方法の概略を示す図である。
【図23】図23は、本発明の第9の実施形態に係る化合物半導体-アポフェリチン複合体の作成方法を示すフローチャートである。
【図24】図24(a)は、第9の実施形態に係る方法を用いて作製されたCdS微粒子の直径を示す図であり、(b)は、第1の実施形態の方法で形成させたCdS-アポフェリチン複合体のTEM写真であり、(c)は、本実施形態の方法で形成させたCdS-アポフェリチン複合体のTEM写真である。
【符号の説明】
【0017】
1、6、11 コア
2、7、12 外殻
3、9、13 モノマーサブユニット
101 半導体基板
102 素子分離用絶縁膜
103 トンネル絶縁膜
103a、105a SiO
104 微粒子
105 絶縁膜
106 コントロールゲート
107a ソース領域
107b ドレイン領域
108 層間絶縁膜
109 コンタクトホール
110 タングステンプラグ
111a、111b Al配線
120 半導体装置
130 チャネル
132 アポフェリチン
135 硫化物イオン(金属イオン)
137 微粒子-アポフェリチン複合体
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図2(a)は、本発明の第1の実施形態に係る化合物半導体-アポフェリチン複合体の作製方法を示すフローチャートであり、(b)は、各試薬の最終濃度を示す図である。本実施形態では、硫化カドミウム(CdS)からなる微粒子をアポフェリチン内に形成させる方法を説明する。
【0020】
まず、図2(a)に示すステップS1では、酢酸アンモニウム溶液と酢酸カドミウム溶液とを混合する。具体的には、300mLの純水に、1Mの酢酸アンモニウム、1Mのアンモニア水、100mMの酢酸カドミウム溶液を混合する。酢酸アンモニウムの最終濃度が40mM、アンモニアの最終濃度がそれぞれ7.5mM、37.5mM、75mM、酢酸カドミウムの最終濃度が1mMとなるように各試薬を混合する。その後、反応液にアポフェリチン溶液を添加する。具体的には、適当な濃度のアポフェリチン溶液を最終濃度が例えば0.3mg/mLになるように反応液に加える。なお、本実施形態の方法で用いられる試薬の濃度は、ここで例示したものに限られない。
【0021】
次に、ステップS2では、ステップS1で調整された反応液を室温で10分間放置する。これにより、カドミウムのアンモニウム錯体が形成される。
【0022】
次いで、ステップS3では、反応液にチオ酢酸(COS)を添加する。具体的には、チオ酢酸を最終濃度が1mMとなるように反応液に加える。なお、本実施形態で用いられるアポフェリチンはウマ脾臓由来のアポフェリチンである。また、このアポフェリチンは、LサブユニットとHサブユニットの2種類のモノマーサブユニットで構成されている。
【0023】
その後、ステップS4では、反応液を室温で12時間以上放置してCdS-アポフェリチン複合体を形成させる。この際のpHは4.0以上9.0以下程度とする。
【0024】
なお、各試薬の最終濃度は上述の値に限られない。各試薬の濃度範囲の例は、図2(b)の通りである。ただし、反応液中のアポフェリチンの最終濃度が0.3mg/mL以上1mg/mL以下の範囲外であってもCdS-アポフェリチン複合体を形成することは可能である。また、酢酸アンモニウムの濃度も40mMに限られない。また、ステップS4での反応時間は24時間程度であってもよい。
【0025】
図3(a)は、イオウ源としてチオ尿素を用いた場合の反応液中のアポフェリチンを示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は、イオウ源としてチオ酢酸を用いた場合の反応液中のアポフェリチンを示すTEM写真である。また、図4は、反応液中のアンモニア濃度を変化させた場合のCdS-アポフェリチン複合体を示すTEM写真である。
【0026】
図3(b)に示すように、本実施形態の方法によれば、アポフェリチン中にCdSからなるコアを形成できることが分かる(図中の黒い丸)。これに対し、チオ酢酸に代えてイオウ源としてチオ尿素を用いた場合には、アポフェリチン中にほとんどCdSからなるコアが形成されなかった。この違いについての考察は後述する。
【0027】
また、図4に示す結果から、反応液中のアンモニア濃度を7.5mM~75mMに変化させると微粒子の粒径が異なるCdS-アポフェリチン複合体が形成できることが分かった。
【0028】
図5は、CdS-アポフェリチン複合体の蛍光スペクトルを示す図である。ここでは、CdS-アポフェリチン複合体の濃度を0.5mg/mLとした反応液中で、波長350nmの光で励起した際のCdS-アポフェリチン複合体の蛍光スペクトルを示す。同図において、波長440nm~450nm付近のピークはアポフェリチンによる蛍光であると考えられる。また、特にアンモニア濃度が37.5mMと75mMの場合に波長560nm、610nm、640nm付近にCdS微粒子によるものと見られる蛍光が見られた。なお、励起光を浴びた反応液を目視した場合、アポフェリチンのみを含む反応液では青色になり、アンモニア濃度が増加するに従って反応液は赤に近い色に変わった。
【0029】
ここで、発明者らは、アンモニア濃度が互いに異なる反応液中で形成されたCdS-アポフェリチン複合体の蛍光波長のピークが異なる理由について調べた。図6(a)~(c)は、各条件においてアポフェリチン中に形成されたCdS微粒子の粒子径を測定した結果を示す図である。これは、TEM像を粒径分析ソフトを用いて分析した結果である。
【0030】
この結果、図6(a)に示すように、アンモニア濃度が7.5mMの場合にはCdS微粒子の平均径が4.7nmで標準偏差σが0.7nmであることが分かった。また、図6(b)に示すように、アンモニア濃度が37.5mMの場合にはCdS微粒子の平均径が5.1nm、標準偏差σが0.8nmであることが分かった。また、図6(c)に示すように、アンモニア濃度が75mMの場合にはCdS微粒子の平均径が7.1nm、標準偏差σが0.8nmであることが分かった。これらの結果から、反応液中のアンモニア濃度を調節することで、異なる粒径のCdS微粒子を形成できることが分かった。さらに、本実施形態の方法によれば、他の方法で微粒子を形成する場合に比べて、粒径の均一な微粒子を形成できることも分かった。
【0031】
すなわち、本実施形態の方法により作製されたCdS-アポフェリチン複合体は、図3(b)に示すように、多数(24個)のモノマーサブユニット3により構成され、内部に空洞(保持部)が形成された外殻2と、外殻2の空洞内に形成されたCdSからなり、励起された場合に蛍光を発するコア(微粒子)1とを備えている。
【0032】
次に、本実施形態の方法によってCdS-アポフェリチン複合体を形成することができた理由についての仮説を説明する。
【0033】
図7(a)は、チオ尿素を用いた場合の反応液中のS2-イオン濃度とpHとを示す図であり、(b)は、チオ酢酸を用いた場合の反応液中のS2-イオン濃度とpHとを示す図である。図8は、本実施形態のCdS-アポフェリチン複合体の作製方法における反応機構を説明するための図である。なお、図7では、Cdイオンを含まない反応液を用いて測定している。
【0034】
図7(a)に示すように、チオ尿素をイオウ源として用いた場合、いずれの濃度においても反応液中にS2-イオンは見られず、反応液のpHはチオ尿素の濃度に影響されない。これに対し、図7(b)に示すように、チオ酢酸をイオウ源として用いた場合、チオ酢酸の添加後からS2-イオン濃度はゆっくり上昇し、5時間後に大きくなった後、22時間後には低下する。反応液のpHはチオ酢酸の濃度に応じて変化する。また、S2-イオン濃度はチオ酢酸濃度が10~20mMのときに最も大きくなっている。チオ尿素を用いた場合にはCdS-アポフェリチン複合体はほとんど形成されないことから、S2-イオンの存在がCdS-アポフェリチン複合体の形成に必要であると考えられる。
【0035】
また、アンモニウムイオンを反応液に加えない場合には、CdS粒子がアポフェリチンの外部で形成されてしまうことから、カドミウムがアンモニウムイオンと錯体を形成して安定化されることがCdS-アポフェリチン複合体を形成させる上で好ましいと考えられる。すなわち、本実施形態の方法でCdS-アポフェリチン複合体を形成できるのは、図8に示すように、チオ尿素に比べて不安定なチオ酢酸が水溶液中でゆっくり分解してS2-イオンを供給することと、アンモニウムイオンの添加によりテトラアンミンカドミウムイオンが形成されてアポフェリチンの外部でCdSの沈殿が防がれることとによるものと考えられる。
【0036】
なお、図2(a)に示すステップS1では、酢酸アンモニウム溶液に代えてアンモニウムイオンを加えた酢酸など、アンモニウムイオンと酢酸イオンを含む溶液を用いてもCdS-アポフェリチン複合体を形成させることができる。
【0037】
また、図2(a)に示すステップS2やステップS4では、反応液を室温で放置したが、室温以外の温度であっても錯体やCdS-アポフェリチン複合体を形成させることは可能である。
【0038】
また、イオウ源としてはチオ酢酸が最も好ましいが、硫化アンモニウム((NHS)やチオ硫酸塩(K、Na)等をチオ酢酸の代わりに用いてもCdS-アポフェリチン複合体を形成させることはできる。反応時間を長くすればチオ尿素を用いてもCdS-アポフェリチン複合体は多少形成されるが、複合体形成数が少なく実用的ではない。
【0039】
また、以上で説明した例ではウマ脾臓由来のアポフェリチンを用いたが、他の臓器(心臓や肝臓など)由来のアポフェリチンを用いてもよいし、他の生物のアポフェリチンを用いても、本実施形態と同様の方法でCdS-アポフェリチン複合体を形成させることができる。
【0040】
なお、本実施形態のCdS-アポフェリチン複合体は、CdSからなる微粒子を用いた半導体記憶装置や蛍光を発する特性を用いたマーカーとしての利用など、種々の分野に用いることが可能である。
【0041】
(第2の実施形態)
図9(a)は、本発明の第2の実施形態に係る化合物半導体-アポフェリチン複合体の作製方法を示すフローチャートであり、(b)は、各試薬の最終濃度を示す図である。本実施形態では、硫化亜鉛(ZnS)からなる微粒子をアポフェリチン内に形成させる方法を説明する。
【0042】
まず、図9(a)に示すステップS11では、酢酸アンモニウム溶液と酢酸亜鉛溶液とを混合する。具体的には、300mLの純水に、1Mの酢酸アンモニウム、1Mのアンモニア水、100mMの酢酸亜鉛溶液を混合する。酢酸アンモニウムの最終濃度が40mM、アンモニアの最終濃度がそれぞれ7.5mM~75mM、酢酸亜鉛の最終濃度が1mMとなるように各試薬を混合する。その後、反応液にアポフェリチン溶液を加える。具体的には、適当な濃度のアポフェリチン溶液を最終濃度が例えば0.3mg/mLになるよう加える。なお、本実施形態の方法で用いられる試薬の濃度は、ここで例示したものに限られない。
【0043】
次に、ステップS12では、ステップS11で調整された反応液を室温で10分間放置する。これにより、亜鉛のアンモニウム錯体が形成される。
【0044】
次いで、ステップS13では、反応液にチオ酢酸を添加する。具体的には、チオ酢酸を最終濃度が10mMとなるように反応液に加える。なお、本実施形態で用いられるアポフェリチンはウマ脾臓由来のアポフェリチンである。
【0045】
その後、ステップS14では、反応液を室温で12時間以上放置してZnS-アポフェリチン複合体を形成させる。この際のpHは4.0以上9.0以下程度とする。ここで、アポフェリチン内に形成されるZnSは、条件によっては一部がZnSなどZnS以外の亜鉛硫化物になっている場合がある。なお、ステップS14の反応時間は24時間程度であってもよい。
【0046】
なお、各試薬の最終濃度は上述の値に限られない。各試薬の濃度範囲の例は、図9(b)の通りである。ただし、反応液中のアポフェリチンの最終濃度が0.3mg/mL以上1mg/mL以下の範囲外であってもZnS-アポフェリチン複合体を形成することは可能である。また、酢酸アンモニウムの濃度も40mMに限られない。
【0047】
図10(a)は、イオウ源としてチオ尿素を用いた場合の反応液中のアポフェリチンを示す透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、(b)は、イオウ源としてチオ酢酸を用いた場合の反応液中のアポフェリチンを示すTEM写真である。
【0048】
図10(b)に示すように、本実施形態の方法によれば、アポフェリチン中にZnSを含む亜鉛硫化物からなるコアを形成できることが分かる。これに対し、チオ酢酸に代えてイオウ源としてチオ尿素を用いた場合には、アポフェリチン中にはほとんど亜鉛硫化物からなるコアが形成されなかった。また、反応液中のアンモニア濃度を1.0mM~100mMに変化させてもZnS-アポフェリチン複合体が形成できた(図示せず)。
【0049】
図11は、ZnS-アポフェリチン複合体の蛍光スペクトルを示す図である。ここでは、ZnS-アポフェリチン複合体を含む反応液中で、波長325nmの光でZnS微粒子を励起した際の蛍光スペクトルを示す。同図において、波長400nm以下の領域にあるピークは、150mMNaCl溶液であるブランク試料との比較から、ZnS粒子には依存しない蛍光であると考えられる。そして、反応液中のアンモニア濃度が7.5mM~100mMの範囲で波長400nm~500nmの領域に、ZnS微粒子によるものと考えられる蛍光が見られた。特に、反応液中のアンモニア濃度が15mM以上100mMの範囲であれば、より強い蛍光が見られた。なお、ZnS微粒子による蛍光は目視では青色に見え、長期保存(1年)後の消光もほとんど見られなかった。また、CdS微粒子と同様に、反応液中のアンモニア濃度の上昇に伴ってZnS微粒子の粒径は変化する。
【0050】
本実施形態の方法により作製されたZnS-アポフェリチン複合体は、図10(b)に示すように、多数(24個)のモノマーサブユニット13により構成され、内部に空洞が形成された外殻12と、外殻12の空洞内に形成されたZnSからなり、励起された場合に蛍光を発するコア(微粒子)11とを備えている。なお、本実施形態のZnS-アポフェリチン複合体は、ZnSからなる微粒子を用いた半導体記憶装置や蛍光を発する特性を用いたマーカーとしての利用など、種々の分野に用いることが可能である。
【0051】
なお、図9(a)に示すステップS12やステップS14では、反応液を室温で放置したが、室温以外の温度であってもアンモニウム錯体やZnS-アポフェリチン複合体を形成させることは可能である。
【0052】
また、イオウ源としてはチオ酢酸が最も好ましいが、硫化アンモニウム((NHS)やチオ硫酸塩(K、Na)等をチオ酢酸の代わりに用いてもZnS-アポフェリチン複合体を形成させることはできる。
【0053】
また、以上で説明した例ではウマ脾臓由来のアポフェリチンを用いたが、他の臓器(心臓や肝臓など)由来のアポフェリチンを用いてもよいし、他の生物のアポフェリチンを用いても、本実施形態と同様の条件でZnS-アポフェリチン複合体を形成させることができる。
【0054】
また、酢酸アンモニウムの代わりにアンモニア水を加えた酢酸緩衝液などのアンモニウムイオンと酢酸イオンとを含む溶液を用いてもZnS-アポフェリチン複合体を形成することはできる。
【0055】
(第3の実施形態)
図12(a)は、本発明の第3の実施形態に係る化合物半導体-リステリアアポフェリチン複合体の作製方法を示すフローチャートであり、(b)は、各試薬の最終濃度を示す図である。本実施形態では、CdSからなる微粒子をリステリアアポフェリチン内に形成させる方法を説明する。
【0056】
まず、図12(a)に示すステップS21では、酢酸アンモニウム溶液と酢酸カドミウム溶液とを混合する。具体的には、300mLの純水に、1Mの酢酸アンモニウム、1Mのアンモニア水、100mMの酢酸カドミウム溶液を混合する。酢酸アンモニウムの最終濃度が40mM、アンモニアの最終濃度がそれぞれ7.5mM~75mM、酢酸カドミウムの最終濃度が1mMとなるように各試薬を混合する。その後、反応液にリステリアアポフェリチン溶液を添加する。具体的には、適当な濃度のリステリアアポフェリチン溶液を最終濃度が例えば0.3mg/mLになるように反応液に加える。なお、本実施形態の方法で用いられる試薬の濃度は、ここで例示したものに限られない。
【0057】
次に、ステップS22では、ステップS21で調整された反応液を室温で10分間放置する。これにより、カドミウムのアンモニウム錯体が形成される。
【0058】
次いで、ステップS23では、反応液にチオ酢酸を添加する。具体的には、チオ酢酸を最終濃度が5~10mMとなるように反応液に加える。なお、本実施形態で用いられるリステリアアポフェリチンはリステリア菌由来のDps様タンパク質とその変異タンパク質である。
【0059】
その後、ステップS24では、反応液を室温で12時間以上放置してCdS-アポフェリチン複合体を形成させる。この際のpHは4.0以上9.0以下程度とする。なお、反応液を0℃~55℃の範囲の温度下で放置するのが好ましい。
【0060】
なお、各試薬の最終濃度は上述の値に限られない。各試薬の濃度範囲の例は、図12(b)の通りである。ただし、反応液中のリステリアアポフェリチンの最終濃度が0.3mg/mL以上1mg/mL以下の範囲外であってもCdS-リステリアアポフェリチン複合体を形成することは可能である。また、酢酸アンモニウムの濃度も40mMに限られない。
【0061】
以上の方法により作製されるCdS-リステリアアポフェリチン複合体は、リステリアアポフェリチンの12個のモノマーサブユニットからなり、内部に空洞が形成された外殻と、空洞内に形成されたCdSからなる微粒子とを備えている。微粒子の直径は約5nmあるいはそれ以下である。
【0062】
-第3の実施形態の変形例-
図12(c)は、第3の実施形態の変形例に係る化合物半導体-リステリアアポフェリチン複合体の作製条件を示す図である。
【0063】
本変形例の方法では、図12(a)に示すステップS21において、図12(c)に示す濃度になるように酢酸アンモニウム溶液と、酢酸カドミウム溶液と、アンモニア水、リステリアアポフェリチン溶液とを混合する。この際に、反応温度は0~15℃とする。特に、4℃程度であることが好ましい。また、酢酸カドミウム溶液の濃度は第3の実施形態に比べて高くすることが好ましい。
【0064】
次に、ステップS22において、10分間放置した後、ステップS23において図12(a)に示す濃度になるようにチオ酢酸を反応液に添加する。ここで、酢酸カドミウムとチオ酢酸の濃度は第3の実施形態の方法に比べて高めにすることが好ましい。
【0065】
次に、ステップS24において、反応液を0℃以上15℃以下で12時間以上放置してCdS-リステリアアポフェリチン複合体を形成させる。
【0066】
この方法により、リステリアアポフェリチン内でのCdS微粒子の形成率を100%近くにまで高めることができる。
【0067】
図13は、CdS-リステリアアポフェリチン複合体の形成方法の条件を変えた場合のコア形成率を示す図である。この結果から、25℃で反応させる場合よりも4℃で反応させる方がコアの形成率が向上できること、および低温においては反応液中の酢酸カドミウム濃度(すなわちカドミウム濃度)が高い方がコア形成率が向上できることが分かる。特に、カドミウム濃度を3mMにした場合には、コア形成率はほぼ100%になっている。25℃においてカドミウム濃度を上げた場合にはリステリアアポフェリチン外部でのCdSの析出が増えるためにコア形成率の向上は見られないことから、低温にしつつカドミウム濃度を上げることで、CdSの析出が緩やかになり、リステリアアポフェリチン内での微粒子の形成率が上昇するものと推測される。
【0068】
この方法によれば、より確実にCdS微粒子を作製することができる。そのため、微粒子作製時のコストダウンを図ることもできる。
【0069】
(第4の実施形態)
図14(a)は、本発明の第4の実施形態に係る化合物半導体-リステリアアポフェリチン複合体の作製方法を示すフローチャートであり、(b)は、各試薬の最終濃度を示す図である。本実施形態では、硫化亜鉛(ZnS)からなる微粒子をリステリアアポフェリチン内に形成させる方法を説明する。
【0070】
まず、図14(a)に示すステップS31では、酢酸アンモニウム溶液と酢酸亜鉛溶液とを混合する。具体的には、300mLの純水に、1Mの酢酸アンモニウム、1Mのアンモニア水、50mMの酢酸亜鉛溶液を混合する。酢酸アンモニウムの最終濃度が40mM、アンモニアの最終濃度が10mM、酢酸亜鉛の最終濃度が1mMとなるように各試薬を混合する。その後、反応液にリステリアアポフェリチン溶液を添加する。具体的には、適当な濃度のリステリアアポフェリチン溶液を最終濃度が例えば0.3mg/mLになるように反応液に加える。なお、本実施形態の方法で用いられる試薬の濃度は、ここで例示したものに限られない。
【0071】
次に、ステップS32では、ステップS31で調整された反応液を室温で10分間放置する。これにより、亜鉛のアンモニウム錯体が形成される。
【0072】
次いで、ステップS33では、反応液にチオ酢酸を添加する。具体的には、チオ酢酸を最終濃度が10mMとなるように反応液に加える。
【0073】
その後、ステップS34では、反応液を室温で12時間以上放置してZnS-リステリアアポフェリチン複合体を形成させる。この際のpHは4.0以上9.0以下程度とする。
【0074】
なお、各試薬の最終濃度は上述の値に限られない。各試薬の濃度範囲の例は、図14(b)の通りである。ただし、反応液中のリステリアアポフェリチンの最終濃度が0.3mg/mL以上1mg/mL以下の範囲外であってもZnS-リステリアアポフェリチン複合体を形成することは可能である。また、酢酸アンモニウムの濃度も40mMに限られない。
【0075】
以上の方法により作製されるZnS-リステリアアポフェリチン複合体は、リステリアアポフェリチンの12個のモノマーサブユニットからなり、内部に空洞が形成された外殻と、空洞内に形成されたZnSからなる微粒子とを備えている。微粒子の直径は約5nmあるいはそれ以下である。
【0076】
-第4の実施形態の変形例-
図14(c)は、第3の実施形態の変形例に係る化合物半導体-リステリアアポフェリチン複合体の作製条件を示す図である。
【0077】
本変形例の方法では、図14(a)に示すステップS31において、図14(c)に示す濃度になるように酢酸アンモニウム溶液と酢酸亜鉛溶液とリステリアアポフェリチン溶液とを混合する。この際に、反応温度は0℃以上15℃以下とする。特に、4℃程度であることが好ましい。また、酢酸亜鉛溶液の濃度は第3の実施形態に比べて高くすることが好ましい。
【0078】
次に、ステップS32において、10分間放置した後、ステップS33において図14(c)に示す濃度になるようにチオ酢酸を反応液に添加する。ここで、チオ酢酸の濃度は第4の実施形態の方法に比べて高めにすることが好ましい。
【0079】
次に、ステップS34において、反応液を0~15℃で12時間以上放置してZnS-リステリアアポフェリチン複合体を形成させる。
【0080】
この方法により、リステリアアポフェリチン内でのZnS微粒子の形成率を100%近くにまで高めることができる。CdS-リステリアアポフェリチン複合体の形成時と同様に、低温にしつつ亜鉛濃度を上げることで、ZnSの析出が緩やかになってリステリアアポフェリチン外部での析出が抑えられると考えられる。そのため、リステリアアポフェリチン内での微粒子の形成率が上昇するものと推測される。
【0081】
この方法によれば、第4の実施形態に係る方法よりも確実にZnS微粒子を作製することができる。そのため、微粒子作製時のコストダウンを図ることもできる。
【0082】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態として、遺伝子組み換え技術を用いて作製されたリコンビナントアポフェリチンを用いて化合物半導体からなる微粒子-タンパク質複合体を形成させる方法を説明する。
【0083】
上述したように、第1および第2の実施形態の方法で用いられた市販のアポフェリチンは、HサブユニットとLサブユニットという2種類のモノマーサブユニットの混成体である。Lサブユニットのアミノ酸配列は配列番号1に示された通りである。天然に存在するアポフェリチンは体内でN末端から8残基分がプロセシングを受けて欠失すると言われている。この8残基のうちの一部はアポフェリチンの外表面に突きだしており、この部分を失うことでアポフェリチンの表面電荷の状態は変わると考えられる。本実施形態の方法では、N末端の8残基のうちアミノ酸配列の先頭に位置するメチオニンを除く7残基分を欠失させたLサブユニットのみからなるリコンビナントアポフェリチンを用いて微粒子-タンパク質複合体の形成を行う。
【0084】
まず、遺伝子組み換え技術を用いてウマL-アポフェリチンの(N末端から)2~8番目のアミノ酸を欠失させたLサブユニットを作製する。具体的には、2~8番目のアミノ酸を欠失させたLサブユニットをコードするDNAを発現ベクターに導入し、これを用いて大腸菌を形質転換することでN末端アミノ酸を欠失させたLサブユニットのみからなるリコンビナントアポフェリチンを得る。このリコンビナントアポフェリチンを以後「Fer8アポフェリチン」と呼ぶ。このFer8アポフェリチンのアミノ酸配列は、配列番号2に記載している。
【0085】
次に、市販のアポフェリチンを用いる場合と同様の手順(第1の実施形態参照)によってCdS-Fer8アポフェリチン複合体を形成させる。これにより、CdS-Fer8アポフェリチン複合体が高い収率で得られた。ただし、Fer8アポフェリチンを用いた場合、反応液のpHが4.0~9.5の範囲でCdSからなるコアを形成することができた。
【0086】
図15は、市販のアポフェリチン(C-Apoferritin)およびFer8アポフェリチンを用いた場合で、反応液の上清中に残存するタンパク質量を示す図である。本測定結果は、微粒子-アポフェリチン複合体を形成させた後に反応液を12000rpmで10分間程度遠心分離し、得られた上清中のタンパク質を測定したものである。
【0087】
その結果、図15に示すように、Fer8アポフェリチンを用いた例では、市販のウマ脾臓由来アポフェリチンを用いた例に比べていずれのアンモニア濃度においても上清内に残存するタンパク質量が多くなっていた。これは、Fer8を用いた場合の方が市販のアポフェリチンを用いた場合に比べて反応液中でアポフェリチン同士が集合して沈殿する割合が低いことを意味する。従って、Fer8アポフェリチンを用いれば市販のアポフェリチンを用いる場合よりも高い収率でCdS-アポフェリチン複合体を得ることができると推察される。
【0088】
次に、図16は、反応液中のアンモニア濃度を7.5mM、37.5mM、75mMとした場合のCdS-Fer8アポフェリチン複合体の蛍光スペクトルを示す図である。なお、図16において「C-apoferritin」とあるのは市販のウマ脾臓由来のアポフェリチンのみの蛍光スペクトルを示し、「Fer8」とあるのはFer8アポフェリチンのみの蛍光スペクトルを示すものとする。図16からは、CdS-Fer8アポフェリチン複合体は、励起光を受けて500~600nmの付近に蛍光を発することが分かる。また、市販のアポフェリチンのみとFer8アポフェリチンのみを用いた場合の結果の比較から、Fer8アポフェリチンに由来する蛍光は市販のアポフェリチンに由来する蛍光に比べて強度が小さいことが分かる。従って、CdS-Fer8アポフェリチン複合体においては、CdSに起因する蛍光がFer8アポフェリチンからの蛍光の影響をより受けにくくなっている。
【0089】
さらに、図17は、市販のアポフェリチンを用いた場合とFer8アポフェリチンを用いた場合とでアポフェリチン内にコアが形成される割合を比較した図である。なお、この試験においては、反応液中のCd濃度を1mM、S2-濃度を1mMとし、アンモニア濃度を75mMとした。
【0090】
図17から分かるように、Fer8アポフェリチンを用いた場合には、市販のアポフェリチンを用いた場合に比べてCdSからなるコアがアポフェリチン内に形成する率が高くなっていた。従って、Fer8アポフェリチンを用いれば、CdS-アポフェリチン複合体の収率を大幅に向上させることが可能になる。
【0091】
また、Fer8アポフェリチンは、遺伝子組み換え技術によって大量供給が確保されているので、低コストでCdSからなる微粒子を作製することが可能となる。
【0092】
以上のように、Fer8アポフェリチンを用いれば、高い収率で安価にCdSからなる微粒子を形成することができ、CdSによる蛍光がタンパク質部分の蛍光の影響を受けにくいCdS-アポフェリチン複合体を形成できる。従って、半導体装置などへの利用を図る上では本実施形態の方法を用いることがより好ましい。
【0093】
なお、ここではCdSからなる微粒子をFer8アポフェリチンに導入する方法について説明したが、第2の実施形態と同様の手順によってZnSからなる微粒子をFer8アポフェリチンに導入することができる。
【0094】
また、リステリアアポフェリチンについても、N末端の一部を除去することで、コア形成率を向上させることができる可能性がある。このようなリステリアアポフェリチンも大腸菌などを用いた遺伝子組み換え技術を用いて大量に作製することが可能である。
【0095】
(第6の実施形態)
これ以降の実施形態では、化合物半導体-アポフェリチン(またはリステリアフェリチン)複合体の応用例について説明する。
【0096】
-半導体装置の構成および機能-
図18は、本発明の第6の実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。同図に示す半導体装置は、化合物半導体からなる量子ドットを利用した不揮発性メモリセルである。
【0097】
図18に示すように、本実施形態の半導体装置120は、Siなどの第1導電型の半導体からなる半導体基板101と、半導体基板101上の活性領域を囲む素子分離用絶縁膜102と、半導体基板101の活性領域上に設けられたSiOなどからなるトンネル絶縁膜103と、トンネル絶縁膜103上に間隔を空けて配置された化合物半導体からなる微粒子104と、トンネル絶縁膜103上に設けられ、微粒子104を埋め込むSiOなどからなる絶縁膜105と、絶縁膜105上に設けられたAlなどの導電体からなるコントロールゲート(ゲート電極)106と、半導体基板101のうちコントロールゲート106の両側方に位置する領域に設けられ、第2導電型の不純物を含むソース領域107aおよびドレイン領域107b(不純物拡散層)と、基板の全面上に設けられた層間絶縁膜108と、層間絶縁膜108に形成されたコンタクトホール109と、コンタクトホール109を埋めるプラグを介してソース領域107aおよびドレイン領域107bにそれぞれ接続されるAl配線111a、111bとを備えている。トンネル絶縁膜103の厚みは例えば1.5nm以上4nm以下程度であり、絶縁膜105の厚みは例えば17nm程度である。
【0098】
また、微粒子104は直径が約7nmの球状をしている。微粒子104の中心同士の間隔は約12nmで、トンネル絶縁膜103上に2次元状に配置されている。微粒子104の材料としては、CdSおよびZnSが挙げられる。
【0099】
なお、図18に示す半導体装置の例では、ソース領域107aおよびドレイン領域107bは高濃度のn型不純物を含み、半導体基板101はp型不純物を含んでいるものとする。
【0100】
本実施形態の半導体装置においては、微粒子104に電荷が保持されているか否かによって二通りのドレイン電流-ゲート電圧特性を示すと考えられる。すなわち、本実施形態の半導体装置は、電子が微粒子104に注入された状態と、電子が微粒子104から引き抜かれた状態とでは、異なるドレイン電流-ゲート電圧特性を示すと考えられる。そのため、本実施形態の半導体装置を以下のように動作させることにより、不揮発性メモリセルとして機能させることができる。
【0101】
まず、微粒子104に電子を注入する際には、コントロールゲート106に正電圧を印加する。これにより、トンネル絶縁膜103を介した直接トンネリングにより微粒子104に注入される。これに対し、微粒子104から電子を引き抜く際には、コントロールゲート106に負電圧を印加する。微粒子104に電子が注入された状態とされていない状態を「1」または「0」のいずれかの情報に対応させれば、上述のようにして情報の書き込みが行われる。情報を読み出す際には、所定のゲート電圧を印加した状態でのドレイン電流をセンスアンプ(図示せず)で読み出す。
【0102】
なお、本実施形態の半導体装置において微粒子104の直径は約7nmであるが、これ以下の直径を有する微粒子を用いてもよい。直径が7nmより小さい微粒子は、第1の実施形態で説明したように、CdS-アポフェリチン複合体の形成させる際に、反応液中のアンモニア濃度を変更することによって作製することができる。
【0103】
-半導体装置の製造方法-
図19(a)~(f)は、本実施形態の半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
【0104】
まず、図19(a)に示すように、第1~第4の実施形態で説明した方法により、アポフェリチン132またはリステリアアポフェリチンなどのかご状タンパク質に金属イオンおよび硫化物イオン135を3回対称のチャネル130を介して導入し、CdSあるいはZnSからなる微粒子を形成させる。
【0105】
次に、図19(b)に示すように、1~5×1016cm-3程度のp型不純物を含む半導体基板101上に熱酸化によって厚さ1.5nm以上4nm以下のSiO膜103aを形成後、LOCOS法によって素子分離用絶縁膜102を形成する。素子分離用絶縁膜102はSTI(Shllow Trench Isolation)によって形成されてもよい。次に、基板を3-(2-aminoethyl amino)propyl-trimethoxy silane(APTMS)などのメトキシシラン化合物を用いて素子分離用絶縁膜102およびSiO膜103aの表面をアミノ基で修飾する。その後、素子分離用絶縁膜102およびSiO膜103aの上に先の工程で作製された、微粒子-アポフェリチン複合体137を2次元状に配置する。微粒子-アポフェリチン複合体137の基板への配置方法としては、例えば特開平11-45990号公報に記載された方法などが用いられる。
【0106】
次に、図19(c)に示すように、オゾン存在下で基板に紫外線(UV)を110Wの強度で10分間照射することによってアポフェリチン132(外殻部分)および3-(2-aminoethyl amino)propyl-trimethoxy silane(APTMS)分子を除去する。これにより、基板上に中心間隔が約12nmで2次元状に配置された直径約7nmの微粒子104が残される。本工程ではオゾンを含む雰囲気中、波長がそれぞれ253.7nmおよび184.9nmのUVを110Wの強度で40分間基板に照射する。本工程は、水分を除去するために115℃で行う。なお、アポフェリチン132等の有機物は、室温での酸素プラズマ処理や、窒素雰囲気下、400℃での熱処理などによっても除去することができる。
【0107】
続いて、図19(d)に示すように、素子分離用絶縁膜102およびSiO膜103aの上(基板全面上)にスパッタリングにより微粒子104を埋める厚さ17nmのSiO膜105aを形成する。本工程のスパッタリングは、例えばSiOをターゲットとして用い、室温下、圧力が4.7~5.3×10-1Pa、RF出力が200W、アルゴン流量が16sccm(mL/min at 0℃、101.3kPa)、酸素流量が4sccmの条件で4分30秒間行う。なお、SiO膜105aの形成は、CVD法により行ってもよい。
【0108】
次に、図19(e)に示すように、基板上にAl膜を堆積する。続いて、フォトレジストマスクPr1を用いて、SiO膜103a、絶縁膜105およびAl膜のパターニングを行なってトンネル絶縁膜103、電極間絶縁膜となる絶縁膜105およびAlからなるコントロールゲート106をそれぞれ形成する。その後、フォトレジストマスク及びコントロールゲート106をマスクとしてn型不純物イオンの注入を行なって、ソース領域107aおよびドレイン領域107bを形成する。
【0109】
その後、図19(f)に示す工程で、周知の方法により、層間絶縁膜108の形成と、層間絶縁膜108へのコンタクトホール109の開口と、コンタクトホール109内へのタングステンの埋め込みによるタングステンプラグ110の形成と、Al配線111a、111bの形成とを行なう。
【0110】
以上の方法により、本実施形態の半導体装置を作製することができる。ここで示すように、第1~第4の方法によって作製された化合物半導体-タンパク質複合体を用いて量子ドットの性質を利用した半導体記憶装置を実現することができる。
【0111】
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態として、本発明の化合物半導体-タンパク質複合体を蛍光標識として用いる方法について説明する。
【0112】
-第1の方法-
図20(a)~(g)は、本実施形態の第1の蛍光標識方法を説明するための図である。ここでは、化合物半導体-タンパク質複合体を用いて標的物質を蛍光標識する方法を説明する。
【0113】
まず、図20(a)に示すように、プラスミド中に先頭部分(5’側)にシステイン(図中では「Cys」と表記)をコードする配列を付加したアポフェリチンDNAを組み込む。このプラスミドは発現ベクターである。
【0114】
次に、図20(b)に示すように、作製されたプラスミドをホストである大腸菌に導入し、大腸菌の形質転換を行う。
【0115】
次いで、図20(c)、(d)に示すように、形質転換された大腸菌を培養し、菌体内で生産された変異アポフェリチン(N末端にCysが導入されたアポフェリチン)を抽出、精製する。その後、精製された変異アポフェリチン内に第1または第2の実施形態に係る方法を用いてCdSあるいはZnSからなる微粒子を形成させる。これにより、微粒子とN末端にCysが付加されたアポフェリチンとの複合体が形成できる。
【0116】
一方で、図20(e)に示すように、標識したい物質(例えば図中のタンパク質A)の表面に露出しているアミノ酸残基をCysに置換する。あるいは、標識したいタンパク質の表面露出部にCysあるいはSH基を置換または付加する。なお、標的物質はタンパク質に限らずSH基を導入できるものであれば何でもよい。例えば、DNAやポリマー等の高分子化合物などを標的物質とすることもできる。
【0117】
次に、図20(f)に示すように、タンパク質Aを含む溶液と微粒子-変異アポフェリチン複合体を含む溶液とを混合する。これにより、タンパク質AのCysと微粒子-変異アポフェリチン複合体のCysとがS-S結合(ジスルフィド結合)を形成し、タンパク質Aと微粒子-変異アポフェリチン複合体とが結合される。微粒子-変異アポフェリチン複合体中の微粒子は例えば波長350nmの励起光に対して蛍光を発するので、この蛍光を用いてタンパク質Aを検出することができるようになる。以上のようにして、目的のタンパク質を蛍光標識することができる。標的物質がタンパク質以外の物質である場合には、標的物質に付加されたSH基と微粒子-変異アポフェリチン複合体のCysとでS-S結合を形成させればよい。なお、図20(g)に示すように、このS-S結合は、還元剤の添加によって容易に切断することができる。
【0118】
この方法によれば、任意のタンパク質を蛍光標識することができる上、微粒子の直径が異なる微粒子-変異アポフェリチン複合体を用いることで、標識されたタンパク質の蛍光波長を変えることもできる。このように、本発明の化合物半導体-タンパク質複合体は、生体物質等のマーカーとして利用することができる。
【0119】
なお、以上で説明した方法以外にも、本発明の化合物半導体-タンパク質複合体は、アビジン-ビオチン結合や抗原抗体反応を用いた蛍光標識方法に利用することができる。
【0120】
また、本実施形態の方法では、アポフェリチンに代えてリステリアアポフェリチンを用いることもできる。
【0121】
また、上述のように、タンパク質だけでなくDNA、抗原、ウイルス、ポリマーなどの高分子化合物など、SH基を保持しているもの、あるいはSH基で修飾可能なものであれば蛍光標識することができる。
【0122】
-第2の方法-
図21(a)、(b)は、本実施形態の第2の蛍光標識方法を説明するための図である。
【0123】
まず、図21(a)に示すように、第1および第2の実施形態に係る方法によって微粒子-アポフェリチン複合体を作製する。そして、微粒子-アポフェリチン複合体を含む溶液と標識したい対象物(抗体、抗原を含むタンパク質、細胞などの標的生体物質)を含む溶液とを混合する。次いで、DEC(1-(3-(Dimethyl amino)propyl)-3-ethylcarbodiimide)などのカップリング剤を反応液に添加すると、アポフェリチン外表面に存在するカルボキシル基と標識対象物のアミノ基末端とが縮合反応を起こし、図21(b)に示すように、アミド結合が形成される。これにより、微粒子-アポフェリチン複合体が結合された標識対象物を作製することができる。微粒子-アポフェリチン複合体中の微粒子は、例えば波長350nmの励起光に対して蛍光を発するので、標識対象物を容易に観察することができるようになる。
【0124】
なお、アポフェリチン溶液に標識したい対象物とカップリング剤を加えてアポフェリチンと標識対象物とを結合させた後で、アポフェリチン内に微粒子を形成させてもよい。
【0125】
なお、本方法において、標的物質としてはタンパク質や細胞などの他、DNA、ポリマー、カーボンナノホーンなど、アミノ基を保持しているもの、または化学的にアミノ基を修飾可能な物質を用いることができる。
【0126】
(第8の実施形態)
本発明の第8の実施形態として、基板に対して蛍光標識を行う方法について説明する。
【0127】
チタン(Ti)などを認識して結合するTi認識ペプチドが、文献等により発表されている(Kenichi Sanoら,Small,No.8-9,p826-832(2005))。このTi認識ペプチドはArg-Lys-Leu-Pro-Asp-Alaの6残基のアミノ酸からなり、Ti、Siなどに結合する性質がある。本実施形態の蛍光標識方法では、Ti認識ペプチドを用いて微粒子-アポフェリチン複合体を基板の所望の位置に配置させる。以下にその手順を説明する。
【0128】
図22(a)~(c)は、本発明の第8の実施形態に係る基板に対する蛍光標識方法の概略を示す図である。
【0129】
まず、図22(a)に示すように、アポフェリチンの外表面上にTi認識ペプチド150を付加する。Ti認識ペプチド150はカップリング剤などを用いてアポフェリチンの外表面上に結合されてもよいが、遺伝子組み換え技術を用いてアポフェリチンのN末端にTi認識ペプチド150を導入する方が、生産性の面から見て好ましい。具体的には、アポフェリチンをコードするDNAの上流(5’側)にTi認識ペプチド150をコードするDNAを加えたものを発現ベクターに入れ、これを大腸菌などに導入する。この大腸菌内ではTi認識ペプチド150がN末端側に付加されたリコンビナントアポフェリチンが大量に生産される。次に、リコンビナントアポフェリチンを菌体内から抽出し、精製する。リコンビナントアポフェリチンはモノマーサブユニットが集合した形で精製することが可能である。モノマーサブユニットのN末端はアポフェリチンの外表面上に突出しているため、N末端側に付加されたTi認識ペプチドもリコンビナントアポフェリチンの外表面上に突出している。なお、配列番号3には、リコンビナントアポフェリチンのモノマーサブユニットのアミノ酸配列を示している。
【0130】
次に、図22(b)に示すように、CdSまたはZnSからなる微粒子をリコンビナントアポフェリチン内に形成させる。本工程は、第1および第2の実施形態と同一の方法によって行われる。
【0131】
次いで、図22(c)に示すように、微粒子-リコンビナントアポフェリチン複合体を基板上に配置する。ここで、基板のうち微粒子-リコンビナントアポフェリチン複合体を配置させたい領域上には事前にTi膜を形成しておく。この基板を微粒子-リコンビナントアポフェリチン複合体を含む水溶液中に置けば、微粒子-リコンビナントアポフェリチン複合体が、基板のTi膜が形成された部分にのみ結合する。CdSまたはZnSは紫外光などによって励起すると蛍光を発するので、図22(c)に示すように、基板のうち微粒子-リコンビナントアポフェリチン複合体が配置された部分のみに蛍光が見られる。
【0132】
このように、本実施形態の方法によれば、基板上にTi膜のパターン通りに微粒子-リコンビナントアポフェリチン複合体を配置することができるので、種々の蛍光模様を基板上に描くことができる。
【0133】
また、基板の異なる領域に異なる粒径の微粒子を有する微粒子-リコンビナントアポフェリチン複合体を配置することで、領域ごとに異なる蛍光を生じさせることも可能となる。また、青色を発するZnS-リコンビナントアポフェリチン複合体と赤色を発するCdS-リコンビナントアポフェリチン複合体とをそれぞれ基板の異なる領域上に配置し、ナノ蛍光パターンやナノ蛍光文字を作成することもできる。あるいは、基板の任意の位置に化合物半導体からなる微粒子を配置させることができるので、従来よりもより複雑な半導体デバイスや光デバイスを作製することが可能となる。
【0134】
なお、ここではウマ肝臓由来のアポフェリチンのN末端にTi認識ペプチドを付加したものを用いる例を示したが、他の臓器由来のアポフェリチンや他の生物由来のアポフェリチンのN末端にTi認識ペプチドを付加したものを用いても基板上の任意の領域に配置することができる。
【0135】
また、リステリアフェリチンのN末端側にTi認識ペプチドを付加してもアポフェリチンの場合と同様の効果を得ることができる。
【0136】
(第9の実施形態)
図23は、本発明の第9の実施形態に係る化合物半導体-アポフェリチン複合体の作成方法を示すフローチャートである。本実施形態では、CdSからなる微粒子をアポフェリチン内に形成させる方法を説明する。
【0137】
まず、図23に示すステップS51では、第1の実施形態に係る方法でCdS-アポフェリチン複合体を形成させた後、カラムなどを用いてCdS-アポフェリチン複合体を精製する。
【0138】
次に、ステップS52では、再度図2(b)に示す組成の反応液中に精製されたCdS-アポフェリチン複合体を加える。ここで、CdS-アポフェリチン複合体はアポフェリチンの代わりに用い、その濃度はアポフェリチン濃度と同じ0.3mg/mL~1.0mg/mLであることが好ましい。その後、ステップS53では、反応液を室温で12時間以上放置する。
【0139】
次に、ステップS54では、最終濃度が1mMとなるように反応液に酢酸カドミウムを添加し、ステップS55ではこの反応液を室温で10分間放置する。
【0140】
次いで、ステップS56では、チオ酢酸を最終濃度が1mMとなるように反応液に加える。その後、ステップS57では、反応液を室温で12時間以上放置する。
【0141】
次に、ステップS58では、ステップS54からステップS57までのステップを繰り返す。
【0142】
以上の方法により、アポフェリチン内の微粒子をさらに成長させることができる。
【0143】
図24(a)は、本実施形態の方法において7.5mMアンモニア水を用いて作製されたCdS微粒子の直径を示す図であり、(b)は、第1の実施形態の方法で形成させたCdS-アポフェリチン複合体のTEM写真であり、(c)は、本実施形態の方法で形成させたCdS-アポフェリチン複合体のTEM写真である。
【0144】
図24(a)に示す「条件1」は、第1の実施形態に係る方法により形成された微粒子を表しており、「条件2」は、1mMのカドミウムと1mMのチオ酢酸をCdS-アポフェリチン複合体の精製後に1回添加することにより形成された微粒子を表しており、「条件3」は、1mMのカドミウムと1mMのチオ酢酸をCdS-アポフェリチン複合体の精製後に2回添加することにより形成された微粒子を表しており、「条件4」は、1mMのカドミウムと1mMのチオ酢酸をCdS-アポフェリチン複合体の精製後に3回添加することにより形成された微粒子を表している。
【0145】
これらの結果から、一度CdS-アポフェリチン複合体を形成させた後にカドミウムとチオ酢酸とを交互に添加することで、アポフェリチン内に形成されるCdS微粒子のサイズを大きくすることができることが分かる。カドミウムとチオ酢酸をCdS-アポフェリチン複合体の精製後に3回添加した場合にはCdS微粒子の直径がほぼ7nmとなっており、CdS微粒子の直径がほぼアポフェリチン内の空洞のサイズと等しくなっていることが分かる。また、本実施形態の方法によれば、カドミウムとチオ酢酸の添加を繰り返すことで、CdS微粒子の直径のバラツキを小さくすることも可能である。
【0146】
なお、本実施形態の方法において、ステップS55で反応液の放置時間は10分に限られない。また、ステップS54で添加される酢酸カドミウムの濃度は1mMに限られず、ステップS56で添加されるチオ酢酸の濃度も1mMに限られない。
【0147】
また、上述の反応を0~15℃で行ってもよい。
【0148】
また、本実施形態と同様の方法を用いてZnS-アポフェリチン複合体やCdS-リステリアアポフェリチン複合体、ZnS-リステリアアポフェリチン複合体を形成することもできる。
【0149】
例えば、ZnS-アポフェリチン複合体を形成する際には、第2の実施形態の方法でZnS-アポフェリチン複合体を形成させた後にこれを精製し、ZnS-アポフェリチン複合体を反応液に加える。その後、1mMの酢酸亜鉛、1mMのチオ酢酸を順次反応液に加える。以後、酢酸亜鉛とチオ酢酸を交互に添加していくことで、ZnS微粒子を成長させることができる。また、CdS-リステリアアポフェリチン複合体やZnS-リステリアアポフェリチン複合体を作製する際には、上述の方法において、アポフェリチンとリステリアアポフェリチンを置き換えればよい。
【0150】
以上の方法により、高いレベルで均一なサイズの化合物半導体からなる微粒子を形成することができる。
【0151】
なお、第1の実施形態以外の方法で作製したCdS-アポフェリチン複合体を用いてステップS51~ステップS58を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上説明したように、本発明の方法により作製された化合物半導体-タンパク質複合体は、量子ドットを利用した半導体装置や生体物質の蛍光標識などの種々の用途に用いることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図11】
7
【図12】
8
【図13】
9
【図14】
10
【図15】
11
【図16】
12
【図17】
13
【図18】
14
【図19】
15
【図20】
16
【図21】
17
【図22】
18
【図23】
19
【図3】
20
【図4】
21
【図10】
22
【図24】
23