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明細書 :非天然アミノ酸をタンパク質に導入するためのtRNA変異体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4917044号 (P4917044)
登録日 平成24年2月3日(2012.2.3)
発行日 平成24年4月18日(2012.4.18)
発明の名称または考案の名称 非天然アミノ酸をタンパク質に導入するためのtRNA変異体
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12P 21/02 C
請求項の数または発明の数 13
全頁数 66
出願番号 特願2007-544247 (P2007-544247)
出願日 平成18年11月14日(2006.11.14)
国際出願番号 PCT/JP2006/323064
国際公開番号 WO2007/055429
国際公開日 平成19年5月18日(2007.5.18)
優先権出願番号 2005329115
優先日 平成17年11月14日(2005.11.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年5月7日(2008.5.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】芳坂 貴弘
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100111741、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 夏夫
審査官 【審査官】山中 隆幸
参考文献・文献 Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1985年,vol.82,p.2306-2309
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2004年,vol.101,p.7566-7571
Nucleic Acids Research,2003年,vol.31,p.6700-6709
J. Am. Chem. Soc.,1999年,vol.121,p.34-40
2種類の蛍光標識アミノ酸を部位特異的に導入したタンパク質の作製とFRET分析,日本化学会第85春季年会 講演予稿集,2005年 3月11日,vol.85,p.1213
調査した分野 C12N15/00-15/90
PubMed
Science Direct
JSTPlus(JDreamII)
BIOSIS/WPI(DIALOG)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
大腸菌、マイコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)、バシルス・ハロドランス(Bacillus halodurans)、バシルス・サブチリス(Bacillus subtilis)、ボレリア・バーグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、マイコプラズマ・ゲニタリウム(Mycoplasma genitalium)、マイコプラズマ・プネウモニア1(Mycoplasma pneumoniae 1)、マイコプラズマ・プネウモニア2(Mycoplasma pneumoniae 2)およびスタフィロコッカス・アウレウスN315(Staphylococcus aureus N315)からなる群から選択される微生物由来のトリプトファン用tRNAの塩基を改変させた、アンチコドンとしてCUAを有しUAGコドンに対合するtRNA変異体であって、塩基の改変が、5’末端がGであり、該5’末端のGに対合する3'末端から5番目の塩基がCであり、該Cの3’側に隣接する、3'末端から4番目の塩基がAであるようにする改変である、UAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項2】
配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号18、配列番号19、配列番号20及び配列番号25に表される塩基配列からなる群から選択される塩基配列からなる、請求項1記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項3】
イコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)由来のtRNAである請求項記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項4】
配列番号1で表される塩基配列からなるマイコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)由来のtRNA変異体である、請求項記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項5】
3’末端から1~3番目ACC配列の5’側に隣接する、3'末端から4番目の位置にA、C、GまたはUのいずれかの1個の塩基が挿入された請求項1~のいずれか1項に記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項6】
アミノ酸でアミノアシル化された請求項1~のいずれか1項に記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項7】
アミノ酸が非天然アミノ酸、修飾化アミノ酸またはそれらの誘導体である、請求項記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項8】
アミノ酸の誘導体がヒドロキシ酸、メルカプト酸およびカルボン酸からなる群から選択される請求項記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項9】
アミノ酸が蛍光標識されたものである請求項のいずれか1項に記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体。
【請求項10】
タンパク質に所望のアミノ酸を導入する方法であって、アミノ酸を導入しようとするタンパク質のmRNAであって導入しようとするアミノ酸の導入位置に対応するコドンがUAGコドンであるmRNAおよび請求項1~のいずれか1項に記載のUAGコドンに対合するtRNA変異体を用い、UAGコドンに該tRNA変異体を割り当てることによりタンパク質にアミノ酸を導入する方法。
【請求項11】
蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸を含むタンパク質であって、該タンパク質と結合し得る分子と結合したときに立体構造が変化しエネルギー供与体蛍光物質とエネルギー受容体蛍光物質の距離および配向が変化するような位置に2種類の蛍光標識アミノ酸が存在し蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化し得るタンパク質の製造方法であって、
1つの4塩基コドンおよび1つのUAGコドンが挿入されたタンパク質のmRNAを調製する工程であって、4塩基コドンおよびUAGコドンを挿入する位置が前記タンパク質が他の分子と相互作用したときに蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るタンパク質上の位置に対応するmRNAの位置である工程、
蛍光共鳴エネルギー移動を起こし得る2種類の蛍光物質でそれぞれ標識した2種類のアミノ酸であって、前記4塩基コドンに対するアンチコドンを有するtRNAが結合したアミノ酸と請求項1~のいずれか1項に記載のtRNA変異体が結合したアミノ酸を調製する工程、ならびに
前記mRNAおよびアミノ酸結合tRNAを用いてタンパク質を合成する工程とを含む製造方法。
【請求項12】
無細胞翻訳系でタンパク質を合成する請求項10に記載の方法。
【請求項13】
無細胞翻訳系でタンパク質を合成する請求項11に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、標識アミノ酸等の非天然アミノ酸をタンパク質に導入するためのtRNAに関する。
【背景技術】
【0002】
機能性基を蛋白質表面に導入する場合、一般に用いられるのが蛋白質の特定残基への化学修飾である。この化学修飾は簡単であり、一度に多数の特定の残基を修飾できるというメリットがある反面、修飾部位および/または修飾数の制御の再現性という点では優れた結果が得られ難いという課題もある。近年の遺伝子工学の発展により、蛋白質中のアミノ酸残基の置換が可能となり、蛋白質合成系を改変することで、アミノ骨格を有する所望の非天然型アミノ酸を蛋白質中に導入することが可能となり、機能性基を担持する蛋白質を再現性よく合成することが可能となった。
蛋白質合成においてアミノ酸はまずtRNAの3’末端に結合し、次に蛋白質合成の場であるリボソームへ運ばれる。リボソームではコドンからアミノ酸への翻訳が行われる。非天然型アミノ酸を結合させたtRNAを用いることによって非天然型アミノ酸を蛋白質に組み込むことができる。
非天然アミノ酸をタンパク質へ導入する方法として、導入したい部位のコドンを終止コドンUAGに置換しておき、アンチコドンにCUAを持ち非天然アミノ酸でアミノアシル化されたtRNA存在下で翻訳する方法がある(非特許文献1から4参照)。これら方法において、tRNAとして酵母フェニルアラニン用tRNA(非特許文献1および2参照)、大腸菌アスパラギン用tRNA、デトラヒメナグルタミン用tRNA(非特許文献3参照)、大腸菌グリシン用tRNA(非特許文献4参照)などが用いられていた。
しかし、アンチコドンにCUAを持ち非天然アミノ酸でアミノアシル化されたtRNAは、UAGを翻訳する際に終結因子と競合するため、非天然アミノ酸の導入の効率は高くなかった。

【非特許文献1】Science,244,p.182.1989
【非特許文献2】Nucleic Acids Res.,18,83-88,1989
【非特許文献3】Chem.Biol.,3,1033-1038,1996
【非特許文献4】J.Am.Chem.Soc.,111,p.8013,1989
【発明の開示】
【0003】
本発明は、アンチコドンにCUAを持ち非天然アミノ酸でアミノアシル化されたtRNAであって、終結因子と競合することなく、非天然アミノ酸を高効率でタンパク質に導入することができるtRNAの提供を目的とする。
本発明者は、終止コドンUAGを用いて非天然アミノ酸をタンパク質に効率良く導入することのできるtRNAを種々の生物種由来のtRNAの中から探索し、Trp用のtRNAであってアンチコドンにCUAを持つものが効率良く導入できることを見い出した。また、それを改変して、Trp用のtRNAであってアンチコドンにCUAを持ち、5’にGを持ち、その5’のGに対合する塩基(通常は72番と定義される)がCでその次の塩基がAであるものが、より効率良く導入でき、かつ、アミノアシルtRNA合成酵素による天然アミノ酸の付加を受けないことを見い出した。さらにこれらのtRNAのうち、GGGAGAGUAG UUCAAUGGUA GAACGUCGGU CUCUAAAACC GAGCGUUGAG GGUUCGAUUC CUUUCUCUCC CACCA(配列番号1)の配列を有するマイコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)Trp tRNA(G1-C72,A73変異体)が最も適していることを見い出した。これらに加えて、tRNAの3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入することによって、非天然アミノ酸の導入効率を向上させることができることを見い出した。本発明は、以上のtRNAを用いることで終結因子との競合する場合でも非天然アミノ酸を効率良く導入することができるよう、上記課題を解決したものである。
すなわち、本発明の以下のとおりである。
[1] トリプトファン用tRNA変異体であって、アンチコドンとしてCUAを有し終止コドンに対合するtRNA変異体。
[2] 5’末端がGであり、該5’末端のGに対合する塩基がCであり、該Cの3’側に隣接する塩基がAである[1]の終止コドンに対合するtRNA変異体。
[3] 5’末端のGに対合するCの位置が5’末端から72番目であり、該Cの3’側に隣接するAの位置が5’末端から73番目である[2]の終止コドンに対合するtRNA変異体。
[4] 原核細胞由来のtRNAである[1]~[3]のいずれかの終止コドンに対合するtRNA変異体。
[5] 大腸菌またはマイコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)由来のtRNAである[4]の終止コドンに対合するtRNA変異体。
[6] 配列番号1で表される塩基配列からなるマイコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)由来のtRNA変異体であって、終止コドンに対合するtRNA変異体。
[7] 3’末端のCCA配列の直前にA、C、GまたはUのいずれかの1個の塩基が挿入された[1]~[6]のいずれかの終止コドンに対合するtRNA変異体。
[8] 5’末端のGに対合するCの位置が5’末端から72番目であり、該Cの3’側に隣接するAの位置が5’末端から73番目であり、さらに5’末端から74番目にA、C、GまたはUのいずれかの1個の塩基が挿入された[7]の終止コドンに対合するtRNA変異体。
[9] アミノ酸でアミノアシル化された[1]~[8]のいずれかの終止コドンに対合するtRNA変異体。
[10] アミノ酸が非天然アミノ酸またはその誘導体である、[9]の終止コドンに対合するtRNA変異体。
[11] アミノ酸の誘導体がヒドロキシ酸、メルカプト酸およびカルボン酸からなる群から選択される[10]の終止コドンに対合するtRNA変異体。
[12] アミノ酸が蛍光標識されたものである[9]~[11]のいずれかの終止コドンに対合するtRNA変異体。
[13] タンパク質に所望のアミノ酸を導入する方法であって、アミノ酸を導入しようとするタンパク質のmRNAであって導入しようとするアミノ酸の導入位置に対応するコドンが終止コドンであるmRNAおよび[1]~[12]のいずれかの終止コドンに対合するtRNA変異体を用い、終止コドンに該tRNA変異体を割り当てることによりタンパク質にアミノ酸を導入する方法。
[14] アンチコドンとして4塩基からなる配列を有し、4塩基コドンに対合するtRNA変異体であって、3’末端のCCA配列の直前にA、G、CまたはUのいずれかの1個の塩基が挿入された4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[15] アンチコドンとしてCCCGを有し、4塩基コドンCGGGに対合する[14]の4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[16] フェニルアラニン用tRNA変異体である[14]または[15]の4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[17] 酵母由来のtRNAである[14]~[16]のいずれかの4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[18] 配列番号40で表される塩基配列からなる酵母由来のtRNA変異体であって、4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[19] アミノ酸でアミノアシル化された[14]~[18]のいずれかの4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[20] アミノ酸が非天然アミノ酸、修飾化アミノ酸またはそれらの誘導体である、[19]の4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[21] アミノ酸の誘導体がヒドロキシ酸、メルカプト酸およびカルボン酸からなる群から選択される[20]の4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[22] アミノ酸が蛍光標識されたものである[19]~[21]のいずれかの4塩基コドンに対合するtRNA変異体。
[23] タンパク質に所望のアミノ酸を導入する方法であって、アミノ酸を導入しようとするタンパク質のmRNAであって導入しようとするアミノ酸の導入位置に対応するコドンが4塩基コドンであるmRNAおよび[14]~[22]のいずれかの4塩基コドンに対合するtRNA変異体を用い、4塩基コドンに該tRNA変異体を割り当てることによりタンパク質にアミノ酸を導入する方法。
[24] 蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸を含むタンパク質であって、該タンパク質と結合し得る分子と結合したときに立体構造が変化しエネルギー供与体蛍光物質とエネルギー受容体蛍光物質の距離および配向が変化するような位置に2種類の蛍光標識アミノ酸が存在し蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化し得るタンパク質の製造方法であって、
1つの4塩基コドンおよび1つの終止コドンが挿入されたタンパク質のmRNAを調製する工程であって、4塩基コドンおよび終止コドンを挿入する位置が前記タンパク質が他の分子と相互作用したときに蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るタンパク質上の位置に対応するmRNAの位置である工程、
蛍光共鳴エネルギー移動を起こし得る2種類の蛍光物質でそれぞれ標識した2種類のアミノ酸であって、前記4塩基コドンに対するアンチコドンを有するtRNAが結合したアミノ酸および[1]~[12]のいずれかのtRNA変異体が結合したアミノ酸を調製する工程、ならびに
前記mRNAおよびアミノ酸結合tRNAを用いてタンパク質を合成する工程とを含む製造方法。
[25] 4塩基コドンに対するアンチコドンを有するtRNAが[14]~[22]のいずれかの4塩基コドンに対合するtRNA変異体である[24]のタンパク質の製造方法。
[26] 無細胞翻訳系でタンパク質を合成する[13]の方法。
[27] 無細胞翻訳系でタンパク質を合成する[23]の方法。
[28] 無細胞翻訳系でタンパク質を合成する[24]の方法。
[29] 無細胞翻訳系でタンパク質を合成する[25]の方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2005-329115号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、蛍光標識アミノ酸-tRNAの作製方法の概要を示す図である。
図2は、蛍光標識アミノ酸の導入評価方法の概要を示す図である。
図3Aは、大腸菌由来tRNAの構造を示した図である。
図3Bは、大腸菌由来tRNAの構造を示した図である。
図3Cは、大腸菌由来tRNAの構造を示した図である。
図3Dは、大腸菌由来tRNAの構造を示した図である。
図3Eは、大腸菌由来tRNAの構造を示した図である。
図3Fは、大腸菌由来tRNAの構造を示した図である。
図3Gは、大腸菌由来tRNAの構造を示した図である。
図3Hは、大腸菌由来tRNAの構造を示した図である。
図4は、蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを加えた場合のSDS-PAGEの蛍光イメージであり、大腸菌由来tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す写真である。
図5は、大腸菌由来トリプトファン用tRNA変異体の構造を示す図である。
図6Aは、大腸菌由来トリプトファン用tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示し、アミノ酸を付加していないtRNAを用いた場合のSDS-PAGEの蛍光イメージングの結果を示す写真である。
図6Bは、大腸菌由来トリプトファン用tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示し、蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合のウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。
図6Cは、大腸菌由来トリプトファン用tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示し、各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す図である。
図7Aは、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNAの構造を示した図である。
図7Bは、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNAの構造を示した図である。
図7Cは、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNAの構造を示した図である。
図7Dは、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNAの構造を示した図である。
図7Eは、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNAの構造を示した図である。
図7Fは、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNAの構造を示した図である。
図7Gは、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNAの構造を示した図である。
図7Hは、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNAの構造を示した図である。
図8は、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す写真である。
図9は、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体の構造を示す図である。
図10Aは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す図であり、アミノ酸を付加していないtRNAおよび蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果を示す写真である。図10A中、BFLAFは、蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを示し、no AAは、アミノ酸を付加していないtRNAを示す。
図10Bは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す図であり、各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す図である。
図11Aは、種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体の構造を示す図である。
図11Bは、種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体の構造を示す図である。
図12Aは、種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す写真である。
図12Bは、種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す写真である。
図13Aは、種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す図であり、アミノ酸を付加していないtRNAおよび蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果を示す写真である。図13A中、BFLAFは、蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを示し、no AAは、アミノ酸を付加していないtRNAを示す。
図13Bは、種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す図であり、各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す図である。
図14Aは、4塩基コドン法によるマルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入方法の概要を示す図である。
図14Bは、4塩基コドン法によるマルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入の結果を示す写真である。
図15Aは、4塩基コドン法および本発明のtRNA変異体を用いた終止コドン法によるマルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入方法の概要を示す図である。本法において、UAG以外の部位に蛍光標識アミノ酸を導入することはない。
図15Bは、4塩基コドン法および本発明のtRNA変異体を用いた終止コドン法によるマルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入の結果を示す写真である。
図16Aは、TAMRAを有する蛍光標識アミノ酸の化学構造を示す図である。
図16Bは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体によるUAGに対するTAMRAを有する蛍光標識アミノ酸の導入と、酵母由来フェニルアラニン用tRNA変異体によるCGGGに対するTAMRAを有する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す写真であり、蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果を示す写真である。
図16Cは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体によるUAGに対するTAMRAを有する蛍光標識アミノ酸の導入と、酵母由来フェニルアラニン用tRNA変異体によるCGGGに対するTAMRAを有する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す図であり、導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す図である。
図17は、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体で、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものの構造を示す図である。
図18Aは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体で、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものによるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す写真であり、蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果を示す写真である。
図18Bは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体で、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものによるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す図であり、各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す図である。
図19Aは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体で、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものによる、2番目の部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNAを用いた場合のリン酸化チロシンの導入の結果を示す写真であり、図19Aはリン酸化チロシンを付加したtRNAを用いた場合の抗リン酸化チロシン抗体によるウエスタンブロットの結果を示す写真である。
図19Bは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体で、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものによる、2番目の部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNAを用いた場合のリン酸化チロシンの導入の結果を示す図であり、各変異体を用いた場合の導入タンパク質のウエスタンブロットのバンド強度を示す図である。
図20Aは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体で、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものによる、N末端にT7tagを持ち83番目の部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNAを用いた場合の、リン酸化チロシンの導入の結果を示す写真であり、リン酸化チロシンを付加したtRNAを用いた場合の抗T7tag抗体によるウエスタンブロットの結果を示す写真である。
図20Bは、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体で、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものによる、N末端にT7tagを持ち83番目の部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNAを用いた場合の、リン酸化チロシンの導入の結果を示す図であり、各変異体を用いた場合の導入タンパク質のウエスタンブロットのバンド強度を示す図である。
図21は、酵母由来フェニルアラニン用tRNA変異体で、アンチコドンに4塩基CCCGを持ち、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したもの(73.1A、73.1C、73.1G、73.1U)の構造を示す図である。
図22Aは、酵母由来フェニルアラニン用tRNA変異体で3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものにより、ストレプトアビジンの83番目に導入した4塩基コドンCGGGに対して蛍光標識アミノ酸を導入した結果を示す写真であり、蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果を示す写真である。
図22Bは、酵母由来フェニルアラニン用tRNA変異体で3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものにより、ストレプトアビジンの83番目に導入した4塩基コドンCGGGに対して蛍光標識アミノ酸を導入した結果を示す図であり、各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す図である。
図23Aは、酵母由来フェニルアラニン用tRNA変異体で3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものにより、N末端にT7tag配列を持ちその直後にCGGGを導入したストレプトアビジンのmRNAを用いた場合の、TAMRAを有する蛍光標識アミノ酸を導入した結果を示す写真であり、蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果を示す写真である。
図23Bは、酵母由来フェニルアラニン用tRNA変異体で3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したものにより、N末端にT7tag配列を持ちその直後にCGGGを導入したストレプトアビジンのmRNAを用いた場合の、TAMRAを有する蛍光標識アミノ酸を導入した結果を示す図であり、各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明のtRNAは、トリプトファン用tRNAであって、アンチコドンとしてCUAを有し終止コドンに対合するtRNA変異体である。該tRNA変異体は、微生物由来のトリプトファンに対応したtRNAのアンチコドンをCUAに改変することにより得ることができる。微生物としては、大腸菌、マイコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)、バシルス・ハロドランス(Bacillus halodouranns)、バシルス・サブチリス(Bacillus subtillis)、ボレリア・バーグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、マイコプラズマ・ゲニタリウム(Mycoplasma genitalium)、マイコプラズマ・プネウモニア(Mycoplasma pneumoniae)およびスタフィロコッカス・アウレウス N315(Staphylococcus aureus N315)が好ましい。天然に見出される大腸菌またはマイコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)のトリプトファンに対応したtRNAの構造をそれぞれ図3A~図3Hおよび図7A~図7Hに示す。この中でも大腸菌またはマイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体が好ましく、特にマイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体が好ましい。公知のアンチコドンとしてCUAを有するtRNAを用いた場合に、終結因子と競合が生じ導入効率が悪くなるのに対して、上記本発明のtRNAに標識アミノ酸等の非天然アミノ酸を結合させて、タンパク質に導入する場合は、競合することなく効率的に非天然アミノ酸をタンパク質に導入することができる。
さらに、本発明のtRNAは、上記トリプトファン用tRNAであって、アンチコドンとしてCUAを有し終止コドンに対合するtRNA変異体をさらに変異させた変異体を含む。該変異体は、tRNAの塩基配列の5’末端の塩基をGに置換し、tRNAがクローバー葉構造をとった場合に、前記5’末端のGに対合する塩基をCに置換し、該Cの3’側に隣接する塩基をAに置換した変異体である。通常、前記5’末端のGに対合する塩基は5’末端から72番目の塩基である。すなわち、本発明のtRNA変異体は、典型的には72番目の塩基をCに置換し、73番目の塩基をAまたはGに置換したものである。このうち73番目の塩基をAに置換したものが特に好ましい。本発明において、5’末端の塩基をGに置換し、72番目の塩基をCに置換し、73番目の塩基をAまたはGに置換したtRNA変異体をそれぞれ、G1-C72,A73またはG1-C72,G73と表現する。このようなtRNA変異体に標識アミノ酸等の非天然アミノ酸を結合させて、タンパク質に導入する場合、さらに非天然アミノ酸の導入効率が高くなり、さらに、G1-C72,A73の場合は、tRNAに天然アミノ酸が付加することなくさらに非天然アミノ酸の導入効率が高くなる。
例えば、本発明のtRNAとして、マイコプラズマ・カプリコラム(Mycoplasma capricolum)、大腸菌(E.coli)、バシルス・ハロドランス(Bacillus halodouranns)、バシルス・サブチリス(Bacillus subtillis)、ボレリア・バーグドルフェリ(Borrelia burgdorferi)、マイコプラズマ・ゲニタリウム(Mycoplasma genitalium)、マイコプラズマ・プネウモニア 1(Mycoplasma pneumoniae 1)、マイコプラズマ・プネウモニア 2(Mycoplasma pneumoniae 2)およびスタフィロコッカス・アウレウス N315(Staphylococcus aureus N315)由来のトリプトファン用tRNAであって、アンチコドンとしてCUAを有し終止コドンに対合するtRNA変異体であって、5’末端がGであり、5’末端のGに対合するCの位置が5’末端から72番目であり、該Cの3’側に隣接するAの位置が5’末端から73番目である終止コドンに対合するtRNA変異体が挙げられる。それぞれの配列を配列番号1、2、4、5、6、18、19、20および25に示す。また、大腸菌(E.coli)由来トリプトファン用tRNAの構造を図5に示し、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNAの構造を図9に示す。図5および図9において、5’末端の塩基をGに置換し、5’末端と対合する72番目の塩基をCに置換し、さらにCに置換した塩基の3’側の塩基を置換することを示している。
以上に加えて、本発明のtRNAは、3’末端のCCA配列の直前にA、G、CまたはUのいずれかの1個の塩基を挿入した変異体を含む。上記の本発明のtRNAは、3’末端のCCA配列の直前すなわち通常73番目には、5’末端の塩基とは対合しない1個の塩基が存在する。3’末端のCCA配列の直前にA、G、CまたはUのいずれかの1個の塩基を挿入した変異体は、通常72番目の塩基をCに置換し、通常73番目の塩基をAまたはGに置換し、さらに74番目の塩基としてA、G、C又はUのいずれかを挿入したものを含む。tRNAの種類によっては、ループ部分やステム部分などの塩基数が異なるため、5’末端の塩基と対合する塩基が72番目にならない場合があり、すなわち上記の5’末端から72番目、73番目及び74番目の置換部位の塩基番号が数個、例えば、1個、2個、3個、4個または5個ずれる場合がある。tRNAが立体構造をとった場合に、5’末端および5’末端の塩基に対合する塩基が置換し、その塩基の一つ3’側の塩基が置換されており、非天然アミノ酸の導入効率が上昇している限り、本発明の変異tRNAに包含される。言い換えれば、本発明の変異tRNAは典型的な通常のtRNA、例えば大腸菌由来トリプトファン用tRNAまたはマイコプラズマカプリコム由来トリプトファン用tRNAの5’末端から72番目の塩基に相当する塩基が置換され、さらにその塩基の一つ3’側の塩基、すなわち大腸菌由来トリプトファン用tRNAまたはマイコプラズマカプリコム由来トリプトファン用tRNAの5’末端から73番目の塩基に相当する塩基が置換された変異tRNAである。ここで、72番目の塩基に相当する塩基とは5’末端の塩基に対合する位置にある塩基を意味し、73番目の塩基に相当する塩基とは72番目の塩基の一つ3’側の位置にある塩基を意味する。
本発明では、CCA配列の直前に1個の塩基を挿入したtRNA変異体を73.1A、73.1C、73.1Gまたは73.1U(A、C、G、Uはそれぞれ挿入した塩基の種類を示す)と表現する。このようなtRNA変異体に標識アミノ酸等の非天然アミノ酸を結合させてタンパク質に導入する場合、非天然アミノ酸の導入効率が高くなる。
例えば、本発明のtRNA変異体として、マイコプラズマ・カプリコラム由来のトリプトファン用のtRNA変異体であって、CCA配列の直前に1個の塩基を挿入したtRNA変異体が挙げられる。
また、本発明の変異tRNAは、4塩基コドンCGGGを用いて非天然アミノ酸を導入するための4塩基コドンに対合する変異tRNAを含む。例えば、該変異tRNAはアンチコドンに4塩基CCCGを有する、酵母由来のフェニルアラニン用tRNA変異体であり、3’末端のCCA配列の直前にA、C、G又はUのいずれかの1個の塩基を挿入したtRNA変異体である。
上記tRNAの変異体は、配列情報に基づいて合成することができる。また、上記tRNAの変異体は上記微生物由来のトリプトファン用tRNA等のtRNAに変異を導入して作製することができる。変異体の作成は、公知の遺伝子工学の技法を用いて行うことができる。
例えば、遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法などの公知の手法又はこれに準ずる方法により、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(TAKARA社製)やMutant-G(TAKARA社製)など)を用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキットを用いて行うことができる。
本発明はさらに、上記tRNAをアミノ酸またはその類似体でアミノアシル化したアミノアシルtRNAを包含する。アミノアシル化に用いるアミノ酸またはその類似体は限定されないが、天然アミノ酸もしくは非天然アミノ酸またはそれらの誘導体がある。また、リン酸化やメチル化、アセチル化などの翻訳後修飾によって生じる修飾化アミノ酸も含まれる。
「非天然アミノ酸」とは、同一分子内にアミノ骨格を有する天然に存在しない人工のあらゆる化合物を指し、種々の標識化合物をアミノ酸骨格に結合させることにより作製することができる。「アミノ酸骨格」はアミノ酸中のカルボキシル基、アミノ基、およびこれらを連結している部分を含有する。
非天然アミノ酸の一例として、標識化合物と結合したアミノ酸である「標識化アミノ酸」が挙げられる。例えば、側鎖にベンゼン環等の芳香環を含むアミノ酸骨格を有するアミノ酸に標識化合物を結合させたアミノ酸がある。また、機能を考慮した場合、光応答性アミノ酸、光スイッチアミノ酸、蛍光プローブアミノ酸、蛍光標識アミノ酸等がある。
また、アミノ酸の誘導体としては、ヒドロキシ酸、メルカプト酸、カルボン酸等が挙げられる。
本発明において用いる標識化合物は、当業者には公知の色素化合物、蛍光物質、化学/生物発光物質、酵素基質、補酵素、抗原性物質およびタンパク質結合性物質である。
蛍光標識化合物としては、可視光域内(400~700nm付近)に励起波長を有し、さらに可視光域内に発光波長を有するものが好ましく、水溶液中での発光強度が強いものが特に好ましい。
ルシフェリン、ルミジェン等の化学もしくは生物発光物質またはその誘導体も標識化合物として本発明に用いることができる。
さらに、補酵素類、抗原性を有する物質および特定のタンパク質に結合することが判っている物質などの中から、対象とするタンパク質に付与したい機能に応じて適宜選んで、それを標識化合物として本発明に用いることができる。例えば、特定の酵素に対する基質(例えば、アルカリホスファターゼまたはβガラクトシダーゼに対する基質等)を導入すれば、その酵素による呈色反応を利用して検出することができる。また、抗原性を有する物質、特定のタンパク質に結合することが判っている物質で標識されたタンパク質は、抗体または結合するタンパク質を用いた間接的検出法に用いることができる、および、精製が簡便であるという利点を有している。例えば、本発明の方法を用いてビオチンで標識した機能性タンパク質は、ビオチンを介してアビジンまたはストレプトアビジンと結合するという機能を有しており、この機能を利用すれば、本発明の方法によりまたは化学的に蛍光化合物等で標識したアビジンもしくはストレプトアビジンとの結合を利用して特定の物質の検出系を確立することが可能である。この他、種々の色素、ならびに、さまざまな生化学的、化学的、免疫化学的な検出方法で検出可能な物質を標識化合物に用いることができることが、当業者には理解できる。
アミノ酸と標識化合物とはスペーサーを介してまたは介さず連結することができる。「スペーサー」という用語は、標識化アミノ酸分子におけるアミノ酸部と標識化合物とを連結している部分を指す。即ち、標識化アミノ酸分子内のアミノ酸側鎖と標識化合物が直接結合しているのではなく、アミノ酸側鎖と標識化合物との間に1つ以上の原子が存在する場合、該標識化アミノ酸のアミノ酸部と標識化合物はスペーサーを介して連結しているという。スペーサーは、その主鎖部分にC、O、NおよびSのうちの少なくとも1種を少なくとも1つ以上含んでいればよい。またスペーサーの主鎖構造は、上記原子が2~10個、好ましくは3~8個、さらに好ましくは5、6または7個が直鎖状に結合したものが好ましく、直鎖構造内には、二重結合が1つ以上含まれていてもよい。さらに、スペーサーは、ベンゼン環および/またはシクロヘキシル環などの環状構造を1~数個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~3個、有していてもよい。また、ベンゼン環やシクロヘキシル環などの環状構造、もしくは環状構造と上記直鎖構造とが組み合わされた構造のものでもよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプテン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリ塩化ビニルなどのポリオレフィン、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリウレタン、ポリカーボネートなどが挙げられる。
標識化合物の種類によっては、導入されたタンパク質内においてその機能をより効果的に発揮するために、スペーサーを介してアミノ酸と結合することが有利なものもある。例えば、標識化合物の種類によっては、スペーサーを介して結合している方が、導入されたタンパク質内での該標識化合物への立体障害が軽減されるということが考えられる。
さらに、本発明の標識化アミノ酸は、アミノ酸部の側鎖に芳香環を有し、該芳香環に、スペーサーを介してまたはスペーサーを介さずに、標識化合物が結合しているものが好ましい。
本明細書で用いる「芳香環」とは、一般的に、あらゆる不飽和環状化合物を指す。したがって、5もしくは6員の複素芳香環、または2個以上、好ましくは2~5個、さらに好ましくは2~3個の環構造を含む多環性化合物も含む。特に、芳香環はベンゼン環であることが好ましい。天然型アミノ酸のうち、フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンはその側鎖に芳香環を含有する天然型芳香族アミノ酸であり、該芳香環に標識化合物が(スペーサーを介してまたはスペーサーを介さずに)結合したものは、本発明の非天然アミノ酸の好ましい例として挙げることができる。
芳香環を有するアミノ酸と標識化合物の結合およびスペーサーを介した芳香環を有するアミノ酸と標識化合物との結合は、適当な官能基どうしの結合を利用すればよい。タンパク質合成の際にペプチド伸長反応に関与しない、天然型あるいは非天然型アミノ酸の、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、水酸基、アルデヒド基、アリル基、ハロゲン化アルキル基など種々の官能基のいずれかに標識化合物を、スペーサーを介して、または介さずに結合する。アミノ基標識用プローブとしてスクシンイミドエステル、イソチオシアネート、スルホニルクロライド、NBD-ハライド、ジクロロトリアジンなどの化合物が、チオール基標識用プローブとしてアルキルハライド、マレイミド、アジリジンなどの化合物が、カルボキシル基標識用プローブとしてジアゾメタン化合物、脂肪族臭化物、カルボジイミドなどが利用できる。例えば、標識化合物にスペーサーを介して、または介さずに、スクシンイミドエステルを導入し、かつアミノ酸の芳香環にアミノ基を導入しアミド結合により両者を結合させることができる。芳香環にアミノ基を導入したアミノ酸として、例えばアミノフェニルアラニンが挙げられる。この際に用いる官能基は、適宜選択導入できるし、結合方法も適宜選択できる。この際、アミド結合形成反応をpH5程度で行なうことで、他にアミノ基が存在していても、アミノフェニルアラニンの側鎖のアミノ基に選択的に反応させることができる。あるいは、他のアミノ基をBoc化等により保護し、反応後脱Boc化すればよい。この方法は、例えば、「新生化学実験講座1 タンパク質 VI 構造機能相関」の記載等を参照すればよい。
アミノ酸骨格を形成する原子に芳香環が直接結合していても、C、O、NおよびSのうちの少なくとも1種の1、2、または3個の原子を介して間接的に結合していてもよい。芳香環はベンゼン環である場合、ベンゼン環上にスペーサーまたは標識化合物が結合する位置は、アミノ酸骨格の位置に対して、パラ位またはメタ位であると、リボゾームへの取り込み効率がより高くなり、より好ましく、特にパラ位であることが好ましい。
前述のように、芳香環の官能基にスペーサーを介してまたは介さずに標識化合物を結合させる。アミノフェニルアラニンの場合、パラアミノフェニルアラニン、メタアミノフェニルアラニンが好ましい。
tRNAにアミノ酸を結合させ、アミノアシルtRNAを作製するためには、必要な特定の基を結合させておく必要がある。例えば、アミノ酸のカルボキシル基にジヌクレオチド(pdCpA)を結合させておけば、3’末端のCAジヌクレオチドを欠落させたtRNA(tRNA(-CA))と結合させ、人工アミノアシルtRNAを作製することができる。人工アミノアシルtRNAの作製は、WO2004/009709国際公開パンフレット等の記載に従って行うことができる。例えば、アミノ酸のαアミノ基をBoc基で、側鎖官能基をBocもしくはOtBocで保護し、Boc-アミノ酸をシアノメチルエステル化した後、pdCpAと反応させるか、縮合剤カルボニルイミダゾール(CDI)を用いてBocアミノ酸とpdCpAを反応させる方法により、アミノアシルpdCpAを作製することができる。tRNA(-CA)との連結はT4 RNAリガーゼを用いればよい。
本発明のtRNAを用いたタンパク質へのアミノ酸またはその誘導体の導入は、アミノ酸またはその誘導体を導入しようとするタンパク質をコードするDNAの導入部位に相当するコドン位置に終止コドンTAGを導入したDNAとアミノ酸またはその誘導体を結合させた本発明のアミノアシルtRNAを用いて細胞内または無細胞翻訳系でタンパク質を合成することにより行うことができる。
無細胞翻訳系による合成は、発現させようとする遺伝子を含む発現ベクターを宿主細胞に導入することなく、in vitroで必要な試薬と混合し遺伝子を発現させることにより行うことができる(Spirin,A.S.et al,(1988)“A continuous cell-free translation system capable of production polypeptides in high yield”Science 242,1162;Kim,D.M.,et al.,(1996)“A highly efficient cell-free protein synthesis system from E.coli”Eur.J.Biochem.239,881-886)。無細胞タンパク質合成系は、mRNAの有する遺伝情報を読み取ってリボソーム上でタンパク質を合成する無細胞翻訳系のみをさす場合もあるし、DNAをテンプレートとしてRNAを合成する無細胞転写系と前記無細胞翻訳系の両方を包含するものをさす場合もある。無細胞翻訳系においては、生物抽出液が用いられる。生物抽出液とは、リボソーム、20種類のアミノアシルtRNA合成酵素、メチオニル-tRNAトランスフォルミラーゼ、3種類の翻訳開始因子(translation initiation factor;IF1、IF2、IF3)、3種類の翻訳伸長因子(translation elongation factor;EF-G、EF-Tu、EF-Ts)、3種類の翻訳終結因子(translation termination factor;RF1、RF2、RF3)、リボソームリサイクリング因子(RRF)、RNAポリメラーゼ等のタンパク質合成に必要な成分を含む生物の抽出液をいう。ここに挙げた以外のタンパク質を効率的な翻訳のために添加してもよく、当業者ならばより効率的な添加のために如何なるタンパク質を添加すればよいか決定できる。生物抽出液は、大腸菌由来のもの、コムギ胚芽由来のもの、ウサギ網状赤血球由来のもの、動物細胞や昆虫細胞由来のものいずれを用いてもよい。生物抽出液はフレンチプレスによる破砕またはグラスビーズを用いた破砕等によって得ることができる。大腸菌由来微生物抽出液としてはS30エクストラクトがあり、例えばPrattらの方法により得ることができる(Pratt,Transcription and Translation-a practical approach,Henes,B.D.and Higgins,S.J.ed.,IRL Press,Oxford.,179-209[1984])。S30エクストラクトは、リボソーム、20種類のアミノアシルtRNA合成酵素、メチオニル-tRNAトランスフォルミラーゼ、3種類の翻訳開始因子(translation initiation factor;IF1、IF2、IF3)、3種類の翻訳伸長因子(translation elongation factor;EF-G、EF-Tu、EF-Ts)、3種類の翻訳終結因子(translation termination factor;RF1、RF2、RF3)、リボソームリサイクリング因子(RRF)等を含む。無細胞タンパク質合成系は、上記生物抽出液の他、ATP再生系、プロモーターおよび発現させようとするタンパク質をコードする核酸を含むプラスミドまたは発現させようとするタンパク質をコードするmRNA、tRNA、RNAポリメラーゼ、RNAアーゼ阻害剤、ATP、GTP、CTP、UTP等のエネルギー源、緩衝剤、アミノ酸、塩類、抗菌剤等を含んでいてもよく、それぞれの濃度は適宜決定すればよい。
ATP再生系は限定されず、公知のリン酸ドナーおよびキナーゼの組合せを用いることができる。この組合せとして例えば、ホスホエノールピルビン酸(PEP)-ピルビン酸キナーゼ(PK)の組合せ、クレアチンリン酸(CP)-クレアチンキナーゼ(CK)の組合せ、アセチルリン酸(AP)-アセテートキナーゼ(AK)の組合せ等が挙げられ、これらの組合せでATP再生系を無細胞タンパク質合成系に加えればよい。
無細胞タンパク質合成系には製造しようとするタンパク質をコードするmRNAも必要である。該mRNAは無細胞タンパク質合成系に核酸を転写する系、すなわち該タンパク質をコードするmRNAを産生する系を包含させてもよい。この場合は、DNAを添加する。また、別途mRNAを鋳型DNAよりT7 DNAポリメラーゼ等を用いた転写等により合成し、得られたmRNAを本発明の無細胞タンパク質合成系に含ませてもよい。mRNAの産生は、適当なプロモーターおよび該プロモーターの下流に位置する製造しようとするタンパク質をコードするDNAを含むプラスミドならびに該プロモーターに作用するRNAポリメラーゼにより達成できる。ここで、用いるプラスミドは限定されず、公知のものが用いられ、公知の遺伝子工学的手法により、適当なプロモーターやリボソーム結合部位等を導入して用いることができる。当業者ならば、本発明で用いるプラスミドを適宜選択し、また自ら設計して構築することができる。プロモーターは無細胞タンパク質合成系で用いる微生物が有する内在性のプロモーターを用いてもよいし、外来性のプロモーターを用いてもよい。プロモーターとしては、上記Trcプロモーター、T7プロモーターやTacプロモーターが効率の面で優れており好適に用いられる。
市販の無細胞発現キットを用いてタンパク質を発現させることができる。このようなキットとして例えば、Rapid Translation System(RTS)(Roche)やExpressway In Vitro Protein Synthesis System(Invitrogen)等がある。この際、用いる発現ベクターは限定されないが、それぞれの無細胞翻訳系に適したベクターがあるのでそれを使用すればよい。前者のキット用発現ベクターとして、pIVEX2.2bNdeが挙げられ、後者のキット用発現ベクターとして、pEXP1やpEXP2が挙げられる。
本発明のtRNAを用いることにより、タンパク質の任意の位置に蛍光物質で標識したアミノ酸等の非天然アミノ酸を導入することができ、蛍光標識タンパク質を製造することができる。例えば、PDIPY FL-アミノフェニルアラニンをストレプトアビジンのTyr84部位に導入し、蛍光標識ストレプトアビジンを作製することができる。
また、タンパク質の任意の2ヶ所の位置に蛍光共鳴エネルギー移動の供与体および受容体となる蛍光標識アミノ酸を導入することでタンパク質を他の分子との相互作用の検出を行うことができる。この場合、一方の蛍光標識アミノ酸を4塩基コドン法で導入すればよい。4塩基コドン法は、Hohsaka T.,et al.,J.Am.Chem.Soc.,118,9778-9779,1996およびHohsaka T.,et al.,J.Am.Chem.Soc.,121,34-40,1999の記載に従って実施することができる。この場合のタンパク質として分子と相互作用することにより立体構造が変化するあらゆるタンパク質が挙げられる。このようなタンパク質として、例えば、カルモジュリン、cGMP依存性蛋白質キナーゼ、ステロイドホルモン受容体、ステロイドホルモン受容体のリガンド結合ドメイン、タンパク質キナーゼC、イノシトール-1,4,5-トリホスフェート受容体、レコベリン、マルトース結合タンパク質、DNA結合タンパク質等が挙げられる。タンパク質と相互作用する分子は、タンパク質ごとに決まっており、タンパク質、核酸、糖、イオン等のその他の有機または無機の低分子量分子が含まれる。例えば、タンパク質がカルモジュリンの場合、カルモジュリン結合タンパク質やカルシウムイオンが挙げられる。また、cGMP依存性蛋白質キナーゼにはcGMP、マルトース結合タンパク質にはマルトースが挙げられる。さらに、ステロイドホルモン受容体やDNA結合タンパク質には、それぞれのタンパク質に特異的なステロイドホルモンやDNAが挙げられる。蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体(ドナー)となる物質およびエネルギー移動のエネルギー受容体(アクセプター)となる物質としては、BODIPY化合物、ローダミン(TAMRA)、フルオレセイン(FITC)、テキサスレッド、アクリジンオレンジ、サイバーグリーン、Cy3、Cy5等、ならびにこれらの誘導体を含む公知のあらゆる蛍光物質が挙げられる。蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体(ドナー)となる蛍光物質およびエネルギー移動のエネルギー受容体(アクセプター)となる蛍光物質は、エネルギー受容体となる物質の励起スペクトルがエネルギー供与体となる物質の放射スペクトルと重複するように選択すればよい。例えば、エネルギー供与体としてBODIPY(登録商標)FL、エネルギー受容体としてBODIPY(登録商標)558/568を選択すればよい。あるいは、エネルギー供与体とエネルギー受容体の組み合わせとして、BODIPY FLとBODIPY 576/586、BODIPY FLとTAMRA、BODIPY FLとCy3、FluoresceinとBODIPY 558/568、Alexa488とBODIPY 558/568、BODIPY 558/568とCy5、などでもよい。
本発明のタンパク質において、立体構造に変化が生じたときにエネルギー供与体とエネルギー受容体が蛍光共鳴エネルギー移動を起こすのに適切な配向を保つ相対的位置に存在するようにタンパク質中に含ませる必要がある。
このためには、タンパク質中の特定の部位に蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸を導入すればよい。蛍光標識アミノ酸を導入する位置は、蛍光標識アミノ酸を導入するタンパク質によって異なるが、天然タンパク質のアミノ酸配列に基づいて立体構造を解析し、立体構造上近接する位置にあるアミノ酸部位に蛍光標識アミノ酸を導入すればよい。タンパク質の立体構造は、例えば市販のタンパク質立体構造解析ソフトウェアを用いることにより予測することができる。あるいは、エネルギー供与体とエネルギー受容体のどちらか一方をタンパク質のN末端あるいはC末端に導入しておき、もう一方をタンパク質の内部の数~数十ヶ所に導入して、その中から本発明に適した導入位置を特定すればよい。
例えば、タンパク質がカルモジュリンである場合、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY FL)で標識したアミノ酸および,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY 558/568)で標識したアミノ酸をそれぞれカルモジュリンのアミノ酸配列の40番目とN末端、またはカルモジュリンのアミノ酸配列の99番目とN末端に導入すればよい。一方、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸で標識したアミノ酸および,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸で標識したアミノ酸をそれぞれカルモジュリンのアミノ酸配列の113番目とN末端、または148番目とN末端に導入した場合は、タンパク質が他の分子と相互作用しても充分な蛍光共鳴エネルギー移動の効率の変化が起こらない。このようにして得られた、本発明のタンパク質を用いてタンパク質と該タンパク質と他の分子の相互作用を検出することができる。本発明のタンパク質に他の分子を相互作用させることにより、本発明のタンパク質の立体構造が変化し、エネルギー受容体とエネルギー供与体の距離および配向が変化する。該状態のタンパク質にエネルギー供与体の励起光を照射すると、エネルギー供与体とエネルギー受容体の間で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が起こるが、エネルギー受容体とエネルギー供与体の距離および配向が変化することにより、FRETの効率も変化する。これを測定することによりタンパク質の構造変化を検出することができる。
励起光の光源としては、ブロードな紫外光や可視光をフィルターや分光器を用いて所望の波長範囲とした光源を用いてもよいし、レーザー等の単色光を用いてもよい。レーザー光源を使う場合は、ヘリウムカドミウムレーザー(442nm)が一般的であるが、ブルーダイオードレーザー(405nm)、アルゴンイオンレーザー(457nm)、LD励起固体レーザー(diode-pumped solid-state laser)(430nm)等を用いてもよい。二光子励起法であれば800nm付近のパルスレーザーを用いてもよい。
上記タンパク質は以下のようなタンパク質である。
1. 蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸を含むタンパク質であって、該タンパク質と結合し得る分子と結合したときに立体構造が変化しエネルギー供与体蛍光物質とエネルギー受容体蛍光物質の距離および配向が変化するような位置に2種類の蛍光標識アミノ酸が存在し蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化し得るタンパク質、
2. 蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸の一方がタンパク質のN末端またはC末端に存在し、もう一方がN末端およびC末端以外の部位に存在する上記1のタンパク質、
3. 蛍光物質で標識したアミノ酸を4塩基コドン法により導入した上記1または2のタンパク質、
4. タンパク質と結合し得る分子が、タンパク質、核酸、糖および低分子量分子からなる群から選択される上記1~3のいずれかのタンパク質、
5. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質が、可視光域に励起波長および発光波長を有する蛍光物質である上記1~4のいずれかのタンパク質、
6. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質が、その化学構造に4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセンを基本骨格として含む分子又はその塩もしくはその誘導体である上記5のタンパク質、
7. エネルギー供与体となる蛍光物質が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩であり、エネルギー受容体となる蛍光物質が4,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩である上記6のタンパク質、
8. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質がp-アミノフェニルアラニンのパラ位アミノ基に結合している上記1~7のいずれかのタンパク質、
9. タンパク質が、カルモジュリンである上記1~8のいずれかのタンパク質、
10. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識したアミノ酸が、カルモジュリンがカルモジュリン結合タンパク質およびカルシウムイオンと相互作用したときに、蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るカルモジュリン上の位置に存在する、上記9のカルモジュリン、
11. エネルギー供与体となる蛍光物質が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩であり、エネルギー受容体となる蛍光物質が,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩であり、それらの蛍光物質で標識したアミノ酸が、カルモジュリンがカルモジュリン結合タンパク質およびカルシウムイオンと相互作用したときに蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るカルモジュリン上の位置に存在する、上記10のカルモジュリン、ならびに
12. 4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩ならびに,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩をそれぞれカルモジュリンのアミノ酸配列の40番目とN末端、またはカルモジュリンのアミノ酸配列の99番目とN末端に含むカルモジュリン。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0006】
蛍光標識アミノ酸-tRNAの作製方法
それぞれのtRNAの塩基配列に基づいて、3個のオリゴヌクレオチドを化学合成した。T7プロモーターとtRNAの1~31番目までの塩基配列を含むプライマーと、tRNAの24~46番目までの塩基配列を含むプライマーを用いて、PCR(KOD Dash buffer,0.2mM dNTP,1.25units KOD Dash、50nmolのそれぞれのプライマーを50μL中に含む)により2本鎖DNAを得た。この反応液の1μLを鋳型として、T7プロモーター配列(CTAATACGACTCACTATA)(配列番号32)を持つプライマーと、tRNAの39~74番目の塩基配列を含むプライマーを用いて、上記と同じ条件でPCRを行ない、tRNA(-CA)遺伝子を作製した。MinElute PCR Purification kit(キアゲン社製)を用いて精製した。
次に、tRNA(-CA)を転写反応により合成した。反応液100μLは、40mM Tris-HCl(pH8.0),20mM MgCl,5mM DTT,4mM NTP,20mM GMP,2mM spermidine,10μg/mL BSA,40units ribonuclease inhibitor,1unit inorganic pyrophosphatase,400units T7 RNA Polymerase、10μg tRNA(-CA)遺伝子を含む。反応液を37℃、18時間反応させて、DEAE-セルロースカラム(Whatman社製)によりtRNA(-CA)を精製した。
続いて、5xLigation Buffer(275mM Hepes-Na pH7.5,75mM MgCl,16.5mM DTT,5mM ATP)4μL、200μM tRNA(-CA)2.5μL、BODIPY FL-aminophenylalanine-pdCpAのDMSO溶液2μL、0.1% BSA 0.4μL、T4 RNA Ligase(25units/μL)1.2μL、水9.9μLを混合し、4℃で2時間反応させた。3M AcOK pH4.5を10μL、水70μLを加え、等量のフェノール/クロロホルム=1/1(0.3M AcOK pH4.5で飽和させたもの)を加え撹拌し、遠心した。上層を回収し、等量のクロロホルムを加え、撹拌、遠心した。上層を回収し、エタノール300μLを加え、軽く混合し、-20℃で1時間置いた。15000rpm 30min 4℃で遠心した後、上清を除き、-20℃で保存してある70% EtOH 200μLを加え、15000rpm 4℃で5秒遠心した。上清を除き、減圧乾燥した。1mM 酢酸カリウムpH4.52μLに溶解させた。
【実施例2】
【0007】
蛍光標識アミノ酸の導入評価
反応液(10μL)に、55mM Hepes-KOH(pH7.5),210mM グルタミン酸カリウム,6.9mM 酢酸アンモニウム,1.7mM ジチオスレイトール,1.2mM ATP,0.28mM GTP,26mM ホスホエノールピルビン酸,1mM スペルミジン,1.9% ポリエチレングリコール-8000,35μg/mL 葉酸,12mM 酢酸マグネシウム,0.1mM 20種類のアミノ酸、ストレプトアビジンmRNA(終止コドンUAGがTyr83部位に導入されたもの)8μg/μLを1μL、大腸菌抽出液(Promega社製)を2μL、蛍光標識アミノ酸-tRNA溶液を1μL混合した。37℃で1時間翻訳反応を行なった。
翻訳反応液1μLに、水9μLと2×サンプルバッファー10μLを加え、95℃5分間加熱した。このうちの5μLを15% SDS-PAGEに流し、この電気泳動ゲルを蛍光スキャナー(日立ソフトウェアエンジニアリング社製 FMBIO-III)で観察した。488nm励起/520nm検出により、蛍光標識アミノ酸の導入を確認し、その導入効率を定量した。また同一の電気泳動ゲルを用いて、抗T7tag抗体(Novagen社製)によりウエスタンブロット分析を行なった。
Tyr83部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNA配列を以下に示す(配列番号33)。開始コドンから本来の終止コドンまでを示してある。下線部は挿入した終止コドンを示す。
JP0004917044B2_000002t.gif
【実施例3】
【0008】
大腸菌由来tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入
大腸菌由来tRNA配列を持ちアンチコドンをCUAに置換した22種類のtRNAを、実施例1に記述の方法で作製した。続いて実施例2に記載の方法で蛍光標識アミノ酸の導入評価を行なった。
図4に蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを加えた場合のSDS-PAGEの蛍光イメージを示す。図4に示すように、大腸菌tRNAの中では、トリプトファンtRNAが非天然アミノ酸の導入に適していることがわかった。
図6Aにアミノ酸を付加していないtRNAを用いた場合のウエスタンブロッティングの結果、図6Bは蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合のSDS-PAGEの蛍光イメージ、図6Cは各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す。図6A~図6Cに示すように、G1-C72,A73およびG1-C72,G73は高い導入活性を有する。ただし、G1-C72,G73は蛍光標識非天然アミノ酸を付加していなくても、完全長タンパク質が生成することから、翻訳系内で天然アミノ酸が付加されていると考えられる。従って、天然アミノ酸の付加を受けないG1-C72,A73が最適である。
【実施例4】
【0009】
マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入
マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA配列を持ちアンチコドンをCUAに置換した30種類のtRNAを、実施例1に記述の方法で作製した。続いて実施例2に記載の方法で蛍光標識アミノ酸の導入評価を行なった。
図8にマイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す。図8に示すようにマイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体の中でもトリプトファン用tRNAが非天然アミノ酸の導入に適していることがわかった。
図10Aにアミノ酸を付加していないtRNAおよび蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージを、図10Bに各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す。図10Aおよび図10Bに示すように、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体は、全ての変異体において大腸菌トリプトファン用tRNA変異体(G1-C72,A73変異体)よりも高い導入活性を示した。特に、蛍光標識アミノ酸を付加していないときに完全長タンパク質がほとんど生成しないG1-C72,A73が最適である。
【実施例5】
【0010】
種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA変異体(G1-C72,A73変異体)によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入
種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA配列を持ち、G1-C72,A73の変異を導入してアンチコドンをCUAに置換した31種類のtRNAを、実施例1に記述の方法で作製した。続いて実施例2に記載の方法で蛍光標識アミノ酸の導入評価を行なった。図11A及び図11Bに種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA、G1-C72,A73の変異を導入してアンチコドンをCUAに置換した31種類のtRNA変異体の配列を示す(配列番号1~31)。図11A及び図11B中では、UをTと表現してある。なお、配列番号1~31においては、73番目の塩基はAであるが、Gであっても(G1-C72,G73)、本発明の効果を奏することができる。
図12A及び図12Bに種々の生物体由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体によるUAGに対する蛍光標識アミノ酸の導入の結果を示す。
図13Aにアミノ酸を付加していないtRNAおよび蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果を、図13Bに各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す。図13Aおよび図13Bに示すように、マイコプラズマ・カプリコラムを含む8種類のトリプトファン用tRNAが高い導入活性を示した。この中では、蛍光標識アミノ酸を付加していないときに完全長タンパク質がほとんど生成しないマイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体(G1-C72,A73変異体)が最も適している。
【実施例6】
【0011】
マルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入
(1)4塩基コドン法のみによる導入
酵母フェニルアラニン用tRNAを用いて、実施例1に記載の方法でBODIPY FL-aminophenylalanine-tRNA(アンチコドンにACCCを有する)、および、BODIPY 558/568-aminophenylalanine-tRNA(アンチコドンにCCCGを有する)を作製した。続いて、マルトース結合タンパク質のmRNA(N末端部分にCGGG、C末端部分にGGGUを有する)を用いて、実施例2に記載の方法で蛍光標識アミノ酸の二重導入を行なった。ただし、電気泳動ゲルの蛍光検出は、488nm励起/520nm検出に加えて532nm励起/605nm検出でも行なった。
図14Aに4塩基コドン法によるマルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入方法の概要を示し、図14Bに4塩基コドン法によるマルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入の結果を示す。CCCGを有するtRNAは、CGGGを有する遺伝子に対してのみ蛍光標識アミノ酸を導入した。一方、ACCCを有するtRNAは、GGGUを有しない遺伝子に対しても蛍光標識アミノ酸を導入した。すなわち、この遺伝子では蛍光表域アミノ酸が4塩基コドンGGGU以外の部位へも導入されてしまうため、4塩基コドンの代わりに終止コドンUAGの使用を試みた。
N末端部分にCGGG、C末端部分にGGGUを有するマルトース結合タンパク質のmRNA配列を以下に示す(配列番号34)。開始コドンから本来の終止コドンまでを示してある。下線部は挿入したコドンを示す。
JP0004917044B2_000003t.gif(2)4塩基コドン法および本発明のtRNA変異体を組合せた導入
酵母フェニルアラニン用tRNAを用いて、実施例1に記載の方法でBODIPY 558/568-aminophenylalanine-tRNA(アンチコドンにCCCGを有する)を作製した。一方、マイコプラズマ・カプリコラム由来トリプトファン用tRNA変異体(G1-C72,A73変異体)を用いて、実施例1に記載の方法でBODIPY FL-aminophenylalanine-tRNA(アンチコドンにCUAを有する)を作製した。続いて、マルトース結合タンパク質のmRNA(N末端部分にCGGG、C末端部分にUAGを有する)を用いて、実施例2に記載の方法で蛍光標識アミノ酸の二重導入を行なった。ただし、電気泳動ゲルの蛍光検出は、488nm励起/520nm検出に加えて532nm励起/605nm検出でも行なった。
図15Bに4塩基コドン法および本発明のtRNA変異体を用いた終止コドン法によるマルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入方法の概要を示し、図15Bに4塩基コドン法および本発明のtRNA変異体を用いた終止コドン法によるマルトース結合タンパク質(MBP)への蛍光標識アミノ酸の二重導入の結果を示すマイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体(G1-C72,A73変異体)は、UAGを有する遺伝子に対してのみ蛍光標識アミノ酸を導入できた。また、その導入効率も4塩基コドンGGGUと同程度であった。これより、2種類の蛍光標識アミノ酸を導入するためにCGGGとUAGの組合せも良好であることがわかった。
N末端部分にCGGG、C末端部分にUAGを有するマルトース結合タンパク質のmRNA配列を以下に示す(配列番号35)。開始コドンから本来の終止コドンまでを示してある。下線部は挿入したコドンを示す。
JP0004917044B2_000004t.gifJP0004917044B2_000005t.gif
【実施例7】
【0012】
TAMRAを有する蛍光標識アミノ酸の導入
マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体(G1-C72,A73変異体)を用いて、実施例1に記載の方法でTAMRA-X-aminophenylalanine-tRNAを作製した。続いて、2番目の部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNA(SA2UAG)を用いて、実施例2に記載の方法でTAMRA標識アミノ酸の導入を行なった。ただし、電気泳動ゲルの蛍光検出は、532nm励起/605nm検出で行なった。比較のために、アンチコドンに4塩基CCCGを持つ酵母フェニルアラニン用tRNAにより、2番目の部位をCGGGに置換したストレプトアビジンのmRNAを用いて同様に導入を行なった。図16AにTAMRAを有する蛍光標識アミノ酸(TAMRAXAF)の化学構造を示す。図16A中、「5、6」の部分は、5と6の位置に結合したものの混合物であることを示す。また、図16Bに蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果を示す。さらに、図16Cに導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す。図16Bおよび図16Cに示すように、マイコプラズマ・カプリコラム由来tRNA変異体(G1-C72,A73変異体)は、実施例4に記載のBODIPY FLを有する蛍光標識アミノ酸の場合と同様に、TAMRAを有する蛍光標識アミノ酸も効率良く導入できた。また、4塩基コドンCGGGに対してアンチコドンに4塩基CCCGを持つ酵母フェニルアラニン用tRNAにより導入した場合よりも高い導入活性を示した。
2番目の部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNA配列を以下に示す(配列番号36)。開始コドンから本来の終止コドンまでを示してある。下線部は導入したUAGを示す。
JP0004917044B2_000006t.gifJP0004917044B2_000007t.gif また、2番目の部位をCGGGに置換したストレプトアビジンのmRNA配列を以下に示す(配列番号37)。開始コドンから終止コドンまでを示してある。下線部は導入したCGGGを示す。
JP0004917044B2_000008t.gif
【実施例8】
【0013】
3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したtRNA変異体による非天然アミノ酸の導入
(1)マイコプラズマ・カプリコラム由来のトリプトファン用tRNA変異体
マイコプラズマ・カプリコラム由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体であって、3’末端のCCA配列の直前にA、C、G、Uのいずれか1個を挿入したものを、実施例1に記載の方法で作製した。本発明において、このような変異tRNAを1塩基伸長tRNAと呼ぶことがあり、例えばマイコプラズマ・カプリコラム由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体であって、3’末端のCCA配列の直前にA、C、G、Uのいずれか1個を挿入したものを、MycWの1塩基伸長tRNAと呼ぶことがある。続いて実施例2に記載の方法で蛍光標識アミノ酸の導入評価を行なった。図17に使用したtRNA変異体の構造を示す(配列番号1及び38)。図17右(配列番号38)が、3’末端のCCA配列の直前にA、C、G、Uのいずれか1個を挿入したものである。図18に1塩基伸長MycWによるSA83UAGへのBFLAFの導入の結果を示し、図18Aに蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果、図18Bに各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す。図18Aおよび図18Bに示すように、3’末端のCCA配列の直前にA、C、G、Uのいずれか1個を挿入したtRNAは元のtRNAと同程度の高い導入活性を示した。またこの結果は、マイコプラズマ・カプリコラム由来のトリプトファン用tRNA(G1-C72,A73)変異体が、蛍光標識アミノ酸以外にもリン酸化チロシンを効率良く導入できることを示す。
さらに、蛍光標識アミノ酸の代わりにリン酸化チロシンを使用して、実施例1に記載の方法でtRNAを作製した。続いて実施例2に記載の方法でリン酸化チロシンの導入評価を行なった。ただし蛍光イメージングは行なわず、抗リン酸化チロシン抗体または抗T7tag抗体によるウエスタンブロットのみを行なった。図19に1塩基伸長MycWによるSA2UAGへのリン酸化チロシン(pTyr)の導入の結果を示し、図19Aに2番目の部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNAとリン酸化チロシンを付加したtRNAを用いた場合のウエスタンブロットの結果、図19Bに導入タンパク質のウエスタンブロットのバンド強度を示す。図19Aおよび図19Bに示すように、3’末端のCCA配列の直前にA、C、G、Uのいずれか1個を挿入したtRNAは元のtRNAと同程度の高い導入活性を示した。
一方、図20Aに83番目の部位をUAGに置換したストレプトアビジンのmRNA(SA83UAG)とリン酸化チロシンを付加したtRNAを用いた場合のウエスタンブロットの結果、図20Bに導入タンパク質のウエスタンブロットのバンド強度を示す。図20Aおよび図20Bに示すように、3’末端のCCA配列の直前にA、C、G、Uのいずれか1個を挿入したtRNAは元のtRNAよりも高い導入活性を示し、特にCを1個挿入したものが効率が良い。
(2)酵母由来のフェニルアラニン用tRNA変異体
アンチコドンにCCCGを有する酵母由来のフェニルアラニン用tRNA変異体(YF(CCCG))であって、末端に塩基を挿入あるいは削除したものを、実施例1に記載の方法で作製した。続いて実施例2に記載の方法で蛍光標識アミノ酸の導入評価を行なった。ただしストレプトアビジンのmRNAとしては、Tyr83部位にUAGの代わりにCGGGを含むものを用いた。図21に使用したtRNA変異体の構造を示す(配列番号39および40)。図22Aに蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果、図22Bに各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す。図22Aおよび図22Bに示すように、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したtRNA、および、CCA配列の直前の1個の塩基を削除したtRNAは、元のtRNAと同程度の高い導入活性を示すものがあった。
さらに、N末端にT7tag配列を持ちその直後にCGGGを導入したストレプトアビジンのmRNAを用いて、実施例2に記載の方法で蛍光標識アミノ酸の導入評価を行なった。図23Aに蛍光標識アミノ酸を付加したtRNAを用いた場合の蛍光イメージングの結果、図23Bに各変異体を用いた場合の導入タンパク質の蛍光バンド強度を示す。図23Aおよび図23Bに示すように、3’末端のCCA配列の直前に1個の塩基を挿入したtRNAは、元のtRNAよりも高い導入活性を示すものがあった。
N末端にT7tag配列を持ちその直後にCGGGを導入したストレプトアビジンのmRNA配列を以下に示す(配列番号41)。開始コドンから終止コドンまでを示してある。下線部は挿入したCGGGコドンを示す。
JP0004917044B2_000009t.gif
【産業上の利用可能性】
【0014】
非天然アミノ酸をタンパク質に導入することで、タンパク質の機能改変や構造機能解析が行なわれている。非天然アミノ酸をタンパク質に導入するための手法として、導入したい部位のコドンを終止コドンUAGに置換しておき、アンチコドンにCUAを持ち非天然アミノ酸でアミノアシル化されたtRNA存在下で翻訳する方法があった。しかし、このtRNAがUAGを翻訳する際には終結因子との競合が生じる。これまで用いられてきた酵母Phe用tRNAなどでは、この終結因子との競合が強く生じ、非天然アミノ酸の導入の効率が低下していた。
そこで、終止コドンUAGを用いて非天然アミノ酸をタンパク質に効率良く導入することのできるtRNAを種々の生物種由来のtRNAの中から探索し、さらにそれを改変することで、効率良く非天然アミノ酸を導入できるtRNAを見い出した。このtRNAを用いることで、蛍光標識非天然アミノ酸を導入した蛍光標識タンパク質を合成すること(WO2004/009709 A1)や、タンパク質の特定部位に蛍光共鳴エネルギー移動の供与体と受容体となる蛍光標識非天然アミノ酸を導入することでタンパク質と他の分子との相互作用の検出することを、より効率良く行なうことが可能である。
例えば、蛍光標識非天然アミノ酸BODIPY FL-アミノフェニルアラニンをTyr83部位に導入したストレプトアビジンを合成することや、4塩基コドンCGGGと組み合わせてマルトース結合タンパク質へ蛍光共鳴エネルギー移動の供与体と受容体となる蛍光標識非天然アミノ酸を導入することができる。
導入するアミノ酸は蛍光標識非天然アミノ酸に限定されず、あらゆるアミノ酸あるいはヒドロキシ酸などのアミノ酸類似体であってタンパク質へ導入されるものについて適用できる。また、tRNAは異なる生物種においても翻訳活性を示すことから、本tRNAが使用できるのは大腸菌無細胞翻訳系に限定されず、あらゆる生物種由来の無細胞翻訳系あるいは細胞内での翻訳に使用できる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
[配列表]
JP0004917044B2_000010t.gifJP0004917044B2_000011t.gifJP0004917044B2_000012t.gifJP0004917044B2_000013t.gifJP0004917044B2_000014t.gifJP0004917044B2_000015t.gifJP0004917044B2_000016t.gifJP0004917044B2_000017t.gifJP0004917044B2_000018t.gifJP0004917044B2_000019t.gifJP0004917044B2_000020t.gifJP0004917044B2_000021t.gifJP0004917044B2_000022t.gifJP0004917044B2_000023t.gif
図面
【図1】
0
【図3A】
1
【図3B】
2
【図3C】
3
【図3D】
4
【図3E】
5
【図3F】
6
【図3G】
7
【図3H】
8
【図7A】
9
【図7B】
10
【図7C】
11
【図7D】
12
【図7E】
13
【図7F】
14
【図7G】
15
【図7H】
16
【図10B】
17
【図13B】
18
【図14A】
19
【図15A】
20
【図16A】
21
【図16C】
22
【図17】
23
【図18B】
24
【図19B】
25
【図20B】
26
【図21】
27
【図22B】
28
【図23B】
29
【図2】
30
【図4】
31
【図5】
32
【図6A】
33
【図6B】
34
【図6C】
35
【図8】
36
【図9】
37
【図10A】
38
【図11A】
39
【図11B】
40
【図12A】
41
【図12B】
42
【図13A】
43
【図14B】
44
【図15B】
45
【図16B】
46
【図18A】
47
【図19A】
48
【図20A】
49
【図22A】
50
【図23A】
51