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明細書 :金属的電気伝導性12CaO・7Al2O3化合物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4833221号 (P4833221)
登録日 平成23年9月30日(2011.9.30)
発行日 平成23年12月7日(2011.12.7)
発明の名称または考案の名称 金属的電気伝導性12CaO・7Al2O3化合物の製造方法
国際特許分類 C01F   7/16        (2006.01)
C01F   7/02        (2006.01)
H01B   1/08        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
H01J   1/304       (2006.01)
FI C01F 7/16
C01F 7/02 D
H01B 1/08
H01B 13/00 Z
H01J 1/30 F
請求項の数または発明の数 2
全頁数 10
出願番号 特願2007-546420 (P2007-546420)
出願日 平成18年11月17日(2006.11.17)
国際出願番号 PCT/JP2006/322991
国際公開番号 WO2007/060890
国際公開日 平成19年5月31日(2007.5.31)
優先権出願番号 2005339538
優先日 平成17年11月24日(2005.11.24)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年5月20日(2008.5.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】細野 秀雄
【氏名】金 聖雄
【氏名】林 克郎
【氏名】宮川 仁
【氏名】松石 聡
【氏名】神谷 利夫
【氏名】平野 正浩
【氏名】戸田 善丈
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】横山 敏志
参考文献・文献 特開2005-314196(JP,A)
特開2002-003218(JP,A)
特開2005-067915(JP,A)
国際公開第2005/000741(WO,A1)
Satoru MATSUISHI, et al.,High-density electron anions in a nanoporous single crystal: [Ca24Al28O64]4+(4e-),Science,2003.08.01, Vol.301,pp.626-629
調査した分野 C01F1/00-17/00
C30B29/22
H01B1/08
H01B13/00
H01J1/304
CAplus(STN)
JSTPlus(JDreamII)
Science Direct
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
12CaO・7Al23化合物の結晶中に存在するケージ中に含まれるフリー酸素イオンを、該酸素イオン当たり2個の電子で置換する方法において、
600℃から1450℃未満の範囲内の選択する熱処理温度での平衡蒸気圧にするのに十分な量のチタン金属(Ti)片又は粉末と、12CaO・7Al23単結晶、12CaO・7Al23化合物粉末又は基板上に作成した該化合物薄膜を、容器中に真空封入し、600℃から1450℃の温度範囲の前記熱処理温度に、1時間以上240時間未満、加熱保持して、発生するチタン金属(Ti)の蒸気中で熱処理することによって、
前記フリー酸素イオンの95%以上を電子で置換して電気伝導度が温度の低下と共に増加する金属的電気伝導を示す化合物を得ることを特徴とする金属的電気伝導性12CaO・7Al23化合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された製造方法で得られた化合物を電子放出材料に用いたことを特徴とする電子放出素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、12CaO・7Al23化合物(以下C12A7と記す。)に高濃度に電子を
導入し、金属的電気伝導、すなわち、電気伝導度が温度の低下と共に増加する化合物の製
造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1970年にH.B.Bartlらは、C12A7結晶が2分子を含む単位胞にある66
個の酸素のうち2個を、結晶中に存在するケージ(籠状構造)内の空間に「フリー酸素」
として包接しているという、特異な特徴を持つことを示していた(非特許文献1)。以後
、このフリー酸素が種々の陰イオンに置換できることが明らかにされた。
【0003】
本発明者らの一人である細野は、CaCO3とAl23又はAl(OH)3を原料とし、空
気中で1200℃の温度で固相反応により合成したC12A7結晶の電子スピン共鳴を測
定することで、1×1019個cm-3程度のO2-が包接されていることを発見し、フリー酸素
の一部がO2-の形でケージ内に存在するというモデルを提案した(非特許文献2、3)。
【0004】
本発明者らは、カルシウムとアルミニウムを概略12:14の原子当量比で混合した原料
を、雰囲気と温度を制御した条件下で固相反応させ、1020個cm-3以上の高濃度の活性酸
素種を包接するC12A7化合物が得られることを新たに見出した。その化合物自体、そ
の製法、包接イオンの取り出し手段、活性酸素イオンラジカルの同定法、及び該化合物の
用途に関する発明について、特許出願した(特許文献1)。さらに、本発明者らは、高濃
度の活性酸素種を含むC12A7化合物単結晶と、気泡の無いC12A7単結晶の製造方
法に関する発明について特許出願している(特許文献2)。
【0005】
また、該化合物中のOH-イオンなど酸素以外のアニオン濃度を制御し、700℃付近で
、活性酸素を包接させたり、取り出したりする方法を新たに見出し、これに関する発明を
特許出願した(特許文献3)。また、水中、水分を含む溶媒中、又は水蒸気を含む気体中
で水和反応させたC12A7化合物粉末を、酸素雰囲気で焼成することにより、OH-
オンを1021個cm-3以上の濃度で含むC12A7化合物を合成し、その化合物自体、その
製法、OH-イオンの同定法、及び該化合物の応用に関する発明について、特許出願した
(特許文献4)。
【0006】
また、水素陰イオンを含むC12A7化合物に電場を印加し、水素陰イオンを真空中に引
き出せることを見出した。さらには、紫外線又はX線照射により緑色の着色が生じること
、同時に電気的絶縁体から電気伝導体に永続的に変化し、加熱又は強い可視光の照射によ
り再び絶縁状態に戻せることも発見し、これの応用に関する発明について特許出願した(
特許文献5、非特許文献4)。また、C12A7に、アルカリ金属を包接させることによ
って、本来は電気的絶縁体であるC12A7を電気伝導体に永続的に転換させる方法と、
室温大気中で電気伝導性を発現できる材料に関する発明について特許出願した(特許文献
6)。なお、C12A7の電気伝導性に及ぼす水素還元の効果について報告されている(
非特許文献5)。
【0007】
エレクトライド(Electride)化合物は、J.L.Dyeがはじめて提案した概念(非特許
文献6)で、クラウンエーテルを陽イオンとし、電子を陰イオンとした化合物などではじ
めて実現した。エレクトライドは、陰イオンとして含まれる電子のホッピングにより電気
伝導性を示す事が知られている。その後いくつかの有機化合物エレクトライドが見出され
たが、これらの化合物は、いずれも、200K程度以下の低温でのみ安定であり、空気や
水と反応する著しく不安定な化合物である。
【0008】
最近、シリカを骨格とするゼオライト化合物粉末に、セシウムをドープすることで無機エ
レクトライド化合物が見出された。シリカゼオライトにクラウンエーテルのような錯形成
の役割を演じさせ、室温安定化を狙ったものである。しかしながら、この化合物も、水分
との反応性が高く、化学的に不安定である(非特許文献7)。また、エレクトライド化合
物の優れた電子放出特性を用いたダイオードが提案されている(特許文献)が、これま
で得られたエレクトライド化合物が温度及び化学的に不安定なため、提案された真空ダイ
オードは低温でしか作動しない。
【0009】
本発明者らは、C12A7単結晶をアルカリ金属及びアルカリ土類金属蒸気中で、高温で
熱処理すること、不活性イオンをイオン打ち込みすること、又は炭素を含む還元雰囲気で
融液から直接固化することで、103S/cm未満の電気伝導度を有するC12A7化合
物が得られることを見出し、関連する発明について特許出願した(特許文献)。これらの
高電気伝導度を有するC12A7は、該化合物中のフリー酸素がほとんどすべて電子で置
換されたものであり、実質的に[Ca24Al2864]4+(4e-)と記述され、無機エレク
トライド化合物とみなすことができる(非特許文献8)。本発明者らは、さらに、C12
A7またはその同型化合物を水素雰囲気中で熱処理したプロトン・電子混合伝導体に関す
る発明(特許文献9)や電気伝導性複合酸化物結晶化合物に関する発明(特許文献10)につ
いて特許出願した。
【0010】

【特許文献1】特願2001-49524(特開2002-3218号公報)
【特許文献2】特願2001-226843号(特開2003-40697号公報)
【特許文献3】特願2001-321251(特開2003-128415号公報)
【特許文献4】特願2001-117546(特開2002-316867号公報)
【特許文献5】特願2003-586095(再表03/089373)
【特許文献6】特願2002-188561(特開2004-26608号公報)
【特許文献7】米国特許第5,675,972号明細書・図面
【特許文献8】PCT/JP2004/001507(WO2005/000741 A1)
【特許文献9】特願2003-209138(特開2005-67915号公報)
【特許文献10】特願2004-136942(特開2005-314196公報)
【非特許文献1】H.B.Bartl and T.Scheller,Neuses Jarhrb.Mineral,Monatsh.1970,547-552
【非特許文献2】H.Hosono and Y.Abe,Inorg.Chem.,26,1192-1195,1987
【非特許文献3】細野秀雄 他「材料科学」,第33巻,第4号,p171-172,1996
【非特許文献4】K.Hayashi,Satoru Matsuishi,Toshio Kamiya,Masahiro Hirano,Hideo Hosono,Nature, Vol.419,No.6906,pp.462-465,3 October 2002
【非特許文献5】A.R.West,et al.,Solid State Ionics,Vol.59,pages 257-262(1993)
【非特許文献6】.J.Tehan,B.L.Barrett,J.L.Dye,J.Am.Chem.Soc.,96,7203-7208(1974)
【非特許文献7】Ichimura,J.L.Dye,M.A.Camblor,L.A.Villaescusa,J.Am.Chem.Soc.,124,1170,(2002)
【非特許文献8】S. Matsuishi, Y.Toda,M. Miyakawa, K. Hayashi, T. Kamiya,M. Hirano, I. Tanaka, and H. Hosono, Science, 301,626-629,(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これまで、CaOとAl23の固溶系において、室温で高い電気伝導性(>10-4Scm-1
を有する物質を得ることは困難であった。また、上に述べた水素陰イオンを包接したC1
2A7では、永続的な電気伝導性を実現するためには、紫外線照射の処理が必要であり、
高温にすると、電気伝導率が低下するなどの問題があった。
【0012】
また、C12A7単結晶をアルカリ金属及びアルカリ土類金属蒸気中で高温熱処理するこ
と、C12A7単結晶及び薄膜に不活性イオンをイオン打ち込みすること、又は炭素を含
む還元雰囲気で融液から直接C12A7化合物を固化することで、C12A7のフリー酸
素を電子で置換して得られるC12A7エレクトライドでは、電気伝導度は、室温で10
3S/cm未満で、温度の低下とともに、電気伝導度が低下する半導体的電気伝導、又は
、電気伝導度が一定の値を保つ縮退半導体的電気伝導であり、金属的電気伝導を示すC1
2A7エレクトライドは得ることはできなかった。
【0013】
電子放出材料として、C12A7エレクトライドを使用する場合には、室温で、5×10
2S/cm超の電気伝導度を有し、金属的な電気伝導を示す化合物が望まれている。本発
明が解決しようとする課題は、金属的な電気伝導を示すC12A7エレクトライドの製造
方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、C12A7単結晶を高温熱処理する際に用いる金属蒸気の種類をアルカリ
金属及びアルカリ土類金属から、さらに範囲を広げて、C12A7化合物中のフリー酸素
の引き抜きプロセスに関する研究を精力的に実施した結果、チタン金属が、アルカリ金属
及びアルカリ土類金属より、優れたフリー酸素引き抜き効果を有することを見出した。
【0015】
チタン金属は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属に比べて、熱力学フリーエネルギーの
考察からは、フリー酸素引き抜き能力は劣っている。しかし、チタン金属は融点が高く(
約1670℃)、チタン金属の蒸気を用いた場合には、C12A7の熱処理温度を高温に
することが可能である。さらに、フリー酸素引き抜きの結果C12A7の表面に堆積して
生成するTiOx化合物膜中を酸素イオンが拡散できるため、該膜の外側表面に付着した
チタン金属もフリー酸素引き抜き機能を保持しており、C12A7中のフリー酸素が枯渇
するまでフリー酸素引き抜き反応が継続する。
【0016】
一方、例えばアルカリ土類金属であるCa蒸気を用いた場合は、Ca金属の融点が低いた
め(約870℃)、カルシウム(Ca)金属の蒸気を用いた場合には、C12A7の熱処
理温度を高温にできない。また、フリー酸素引き抜きの結果C12A7の表面に堆積して
生じるCaOがC12A7の表面を完全にカバーするとそれ以上はフリー酸素引き抜き反
応が継続しないなどの欠点がある。
【0017】
上記理由により、チタン金属の蒸気を用いると、アルカリ金属及びアルカリ土類金属蒸気
を用いた場合に比較し、C12A7中のフリー酸素を、より短時間で、ほぼ完全に電子で
置換することができ、より高い電子濃度を得ることができる。加えて、電子濃度が最大に
なると、電子と結晶格子との相互作用が減少し、電子はより動きやすくなり、金属的な電
気伝導を示す。
【0018】
本発明の製造方法は、12CaO・7Al23化合物の結晶中に存在するケージ中に含ま
れるフリー酸素イオンを、該酸素イオン当り2個の電子(e-と記述。)で置換し、実質
的に[Ca24Al2864]4+(4e-)と記述され、室温での電気伝導度が5×102S/c
m超105S/cm未満で、電気伝導度が温度の低下と共に増加する金属的電気伝導を示
すことを特徴とするエレクトライド12CaO・7Al23化合物を得るための方法であ

【0019】
すなわち、本発明は、(1)12CaO・7Al23化合物の結晶中に存在するケージ中
に含まれるフリー酸素イオンを、該酸素イオン当たり2個の電子で置換する方法において
、600℃から1450℃未満の範囲内の選択する熱処理温度での平衡蒸気圧にするのに
十分な量のチタン金属(Ti)片又は粉末と、12CaO・7Al23単結晶、該化合物
粉末又は基板上に作成した該化合物薄膜を、容器中に真空封入し、600℃から1450
℃の温度範囲の前記熱処理温度に、1時間以上240時間未満、加熱保持して、発生する
チタン金属(Ti)の蒸気中で熱処理することによって、前記フリー酸素イオンの95%
以上を電子で置換して電気伝導度が温度の低下と共に増加する金属的電気伝導を示す化合
物を得ることを特徴とする金属的電気伝導性12CaO・7Al23化合物の製造方法
である
【0020】
また、本発明は、(2)上記(1)の製造方法で得られた化合物を電子放出材料に用いた
ことを特徴とする電子放出素子、である
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明において出発物質とされるものは、C12A7単結晶、焼成により形成したC12
A7粉末、又は基板上に堆積したC12A7薄膜でも良い。C12A7薄膜の基板として
は、MgO、イットリヤ安定化ジルコニア(YSZ)が適しているが、チタン金属の蒸気
を用いた熱処理温度に耐えられる材料を用いた基板でも良い。また、C12A7薄膜は単
結晶薄膜でも、多結晶薄膜でも良い。
【0022】
出発物質であるC12A7は、カルシウムとアルミニウムを原子当量比で12:14含む
原料を用い、焼成温度1200℃以上、1415℃未満で固相反応させることで合成され
る。代表的な原料は炭酸カルシウムと酸化アルミニウムである。
【0023】
単結晶は、固相反応で得られたC12A7を前駆体として、帯融法(FZ法)又はチョコラ
ルスキー法(Cz法)によって得ることができる。FZ法によるC12A7単結晶の育成
には、棒状のセラミック前駆体に赤外線を集光しながら前駆体棒を引き上げることにより
溶融帯を移動させて、溶融帯-凝固部界面に単結晶を連続的に成長させる。本発明者らは
、高濃度の活性酸素種を含むC12A7化合物単結晶と、気泡の無いC12A7単結晶の
製造方法に関する発明について特許出願している(特許文献2;特開2003-40697号公報)
。また、Cz法では、イリジウムルツボ中のC12A7融液に種結晶をつけ、種結晶を回
転しながらC12A7単結晶を引き上げる。結晶育成中の雰囲気は、酸素を約2容積%含
むアルゴン雰囲気が適している。
【0024】
C12A7薄膜は、C12A7焼結体をターゲットに用い、パススレーザー堆積法(PL
D)によりMgOなどの基板上に成膜する。製膜法はPLD法に限られるものではなく、
スパッター法、プラズマ溶射法などの気相法を用いることができる。
【0025】
出発物質のC12A7焼結体、単結晶又は薄膜を、チタン金属の蒸気を含む雰囲気中、6
00℃超1450℃未満、望ましくは1000℃超1450℃未満の温度に、1時間以上
240時間未満、望ましくは、10時間超14時間未満保持した後、300℃/時間程度
の降温速度で室温まで冷却する。
【0026】
チタン金属の蒸気を含む雰囲気は、石英ガラスのような熱的、化学的耐久性のある容器中
にチタン金属片や粉末と出発物質のC12A7を真空封入し、600℃超1450℃未満
、望ましくは1000℃超1450℃未満の温度に加熱してチタン金属の蒸気を発生させ
るとよい。C12A7は気相の金属蒸気と直接反応するのではなく、C12A7表面に堆
積した金属Tiと反応すると思われるので、容器中のチタン金属の蒸気圧は、厳密に制御
する必要はないが、600℃超1450℃未満の範囲内の選択する熱処理温度での平衡蒸
気圧にするのに十分な量のチタン金属片や粉末が容器中に存在すれば加熱時間が1時間よ
りも長いので平衡蒸気圧になる。例えば、内容量10cm3の封管用石英ガラス管中に5
gのチタン金属を封入すれば、平衡蒸気圧を得ることができる。または、別のところで平
衡蒸気圧のチタン金属の蒸気を発生させ、これを600℃以上、1450℃未満に加熱し
ているC12A7のところに流通させても良い。
【0027】
いずれの方法でも、雰囲気中の酸素を除くため、雰囲気は真空にする必要がある。石英ガ
ラス管を用いた場合には、該ガラスの軟化点未満の温度で熱処理する必要があり、熱処理
温度は1000℃超1200℃未満が適している。石英ガラスに代わって、アルミナ管を
用いる場合には、1200℃超1450℃未満での熱処理が可能である。
【0028】
チタン金属の蒸気は、C12A7の表面にチタン金属として堆積し、C12A7の内部に
包接されケージ中に含まれているフリー酸素とチタン金属とが反応して、C12A7の表
面に酸化チタニウム(TiOx)膜を形成する。C12A7を保持する温度を高温に保つ
とC12A7中の酸素拡散が早くなり、またC12A7の表面でのチタン金属とフリー酸
素との反応速度が大きくなり、フリー酸素引抜が高速に進展する。焼結体及び薄膜試料で
、フリー酸素引き抜き反応を緩やかにすることが要求される場合には、熱処温度を600
℃程度の低温にすればよい。600℃より低い温度では、チタン金属の蒸気圧が小さく、
また、フリー酸素引き抜き反応速度が遅く、高濃度の電子を含むC12A7化合物を作成
することができない。
【0029】
しかし、熱処理温度が1450℃を超えるとC12A7が分解する、又は、融解してしま
うためC12A7エレクトライドは得ることが出来ない。また、熱処理時間が240時間
を越えると、石英管などから酸素が析出され、フリー酸素引き抜き反応が抑制され、C1
2A7エレクトライド中の電子濃度は飽和してしまう。石英ガラスからの酸素析出量が多
いときは、逆に、電子含有量は減少してしまう。
【0030】
保持時間は1時間程度からフリー酸素引き抜き反応が見られるが、保持時間の長さと共に
、引き抜かれるケージ中に含まれていたフリー酸素量が増加し、C12A7表面のTiO
x層が厚くなる。しかし、C12A7表面が完全にTiOxで覆われても、TiOx中を
酸素が拡散するために、引き抜き反応が阻害されることはなく、熱処理時間を十分長く取
れば、ほぼ完全に、すなわち約95%以上のフリー酸素を電子で置換することができる。
引き抜かれたフリー酸素量、すなわちC12A7のケージ中に含まれる電子濃度は、X線
回折スペクトル、TiOx層の厚さ、0.4eV及び2.8eV付近にピークを持つ光吸
収バンド強度、又は電気伝導度から求める事ができる。
【0031】
得られたエレクトライドC12A7化合物は、ケージ中に含まれるフリー酸素イオンを、
該酸素イオン当り2個の電子(e-と記述。)でほぼ完全に置換し、実質的に[Ca24Al
2864]4+(4e-)と記述され、室温での電気伝導度が5×102S/cm超105S/c
m未満で、電気伝導度が温度の低下と共に増加する金属的電気伝導を示す。
【0032】
得られたエレクトライドC12A7化合物を先端面積1mm2程度の角錐形に加工し、真
空中で、加熱して、電場を印加する。600℃超950℃未満に試料を加熱すると、10
0時間超に亘って安定で、平方センチメータ当たり1アンペア超の高密度熱電場電子ビー
ムが放出される。比較的低温の900℃で、6kV程度の低電場で効率よく電子が放出さ
れる原因は、フリー酸素に代わって導入された電子の仕事関数が、約2.1eVと小さい
ためである。例えば、熱電場電子放出材料として実用化しているLaB6の仕事関数は、
2.7eVであり、その動作温度は、1500℃程度である。エレクトライドC12A7
の電気伝導度が5×102S/cm超になると、材料内での電圧降下が1kV未満となり
、印加した電場がすべて有効に電子放出に寄与するようになる。また、電子放出時に材料
からの発熱が無視でき、電子放出材料の温度制御が容易になる。
【実施例1】
【0033】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
チョコラルスキー法(Cz法)によって作製したC12A7単結晶を3mm×3mm×1
0mmの直方体に加工し、両面を鏡面研磨した。該単結晶薄板と約5gのチタン金属片を
、内部容量約10cm3の石英管中に入れ、真空封入した。5個の該試料を、表1に示す
熱処理条件の試料加熱温度、加熱時間で、熱処理を行った。熱処理後の試料の電子濃度と
電気伝導度を表1に示す。
【表1】
JP0004833221B2_000002t.gif

【0034】
熱処理後の単結晶試料の表面はいずれも黒色であり、X線回折スペクトルから、試料の表
面にTiOxが付着していることが確認された。試料の表面からTiOx層を除去した単
結晶は、X線回折パターンから、C12A7の結晶構造を維持していることが分かった。
しかし、いずれの試料も、X線回折ピークの相対強度から、フリー酸素が引き抜かれてい
る事が分かった。また、光反射スペクトルから求めた2.8eV付近の吸収強度から、試
料c,d及びeでは、電子濃度が1021/cm3以上であることがわかった。
【0035】
図1に、試料a,b,c,d及びeに関する、4.2Kから400Kでの電気伝導度の温
度変化を示す。試料a及びbの室温での電気伝導度は、2×102S/cm未満で、電気
伝導度が温度の上昇と共に増加する半導体的電気抵抗を示した。一方、試料c,d及びe
では、黒実線で示すように、いずれも、電気伝導度が温度の上昇と共に減少する金属的な
振る舞いを示した。室温での電気伝導度は、試料cは、8×102S/cm,試料dは、
10×102S/cm、試料eでは、15×102S/cmであった。すなわち、チタン金
属の蒸気中での熱処理により、金属電気伝導性を示し、室温での電気伝導度が5×102
S/cm超の値を有するエレクトライドC12A7が得られることが示された。
【実施例2】
【0036】
図2に、熱電場電子放出装置を模式的に示す。実施例1で得られた試料eを、0.6mm
×0.6mm×2mmの直方体に加工し、さらに、その一方を、先端が80μmφの平面
を有する円錐形にチップ加工した。該チップ(1)を両側からグラファイト電極(2)で挟
み込み、さらに上部をレニウム金属フィルム(3)で包んだ。また、グラファイト電極(2)
を、該電極(2)を支持する導電性部材(7)で挟んだ。レニウム金属フィルム(3)は、グ
ラファイト電極(2)とチップ(1)間に電気接続が取れない場合でも、グラファイト電極
(2)に電流を流すための備えであり、また、チップ(1)側面からの材料の蒸発を抑える
ためのものである。
【0037】
グラファイト電極(2)に電流を流し、該チップ(1)を加熱した。該チップ(1)の先端
から1mm離れた位置に引き出し電極(4)を設定し、該チップ(1)と該電極(4)間
に、0から6kVの引き出し電圧を印加した。引き出し電極(4)から下方に30mm離
れた位置にアノード電極(5)を設置し、該チップ(1)からの放出電子ビーム(6)を
測定した。この熱電場電子放出装置を真空チャンバー内に設置した。
【0038】
チャンバー内の真空度を1.0 ~1.2×10-5 Paにした後、チップに直接通電して、
加熱し、引き出し電極に6kVの電場を印加し、放出電子ビームをアノード電極で捕獲し
、そのアノード電流を各温度で測定した。図3に示すように、チップ温度600℃付近か
ら、電子の放出が開始し、チップ温度900℃付近から、アノード電流が急速に増加した
。チップ温度900℃、印加電圧6kVでの熱電場放出電子ビーム電流は、50μA超で
あり、このアノード電流は、100時間超に亘って、安定に持続した。すなわち、金属伝
導性を有するエレクトライドC12A7が熱電場電子放出材料として使用できることが示
された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実施例1における試料a、b、c、d及びeの電気伝導度の温度変化を示すグラフである。
【図2】実施例1の試料eを加工した電子放出チップを用いた熱電場放出装置を模式的に示す図である。
【図3】実施例2における熱電場放出電子ビーム電流の電子放出チップ温度依存性を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2