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明細書 :分析方法及び分析装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4993749号 (P4993749)
登録日 平成24年5月18日(2012.5.18)
発行日 平成24年8月8日(2012.8.8)
発明の名称または考案の名称 分析方法及び分析装置
国際特許分類 G01N  33/543       (2006.01)
FI G01N 33/543 521
G01N 33/543 541A
請求項の数または発明の数 23
全頁数 17
出願番号 特願2007-546526 (P2007-546526)
出願日 平成18年11月27日(2006.11.27)
国際出願番号 PCT/JP2006/323617
国際公開番号 WO2007/061098
国際公開日 平成19年5月31日(2007.5.31)
優先権出願番号 2005341256
優先日 平成17年11月25日(2005.11.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年7月10日(2009.7.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
【識別番号】505437907
【氏名又は名称】有限会社バイオデバイステクノロジー
【識別番号】505437860
【氏名又は名称】永谷 尚紀
【識別番号】505437871
【氏名又は名称】由比 光子
発明者または考案者 【氏名】民谷 栄一
【氏名】永谷 尚紀
【氏名】由比 光子
【氏名】遠藤 達郎
【氏名】田中 亮
個別代理人の代理人 【識別番号】100105809、【弁理士】、【氏名又は名称】木森 有平
審査官 【審査官】草川 貴史
参考文献・文献 特開2002-202307(JP,A)
特表平09-502253(JP,A)
Ryo Tanaka, Teruko Yuhi, Naoki Nagatani, Tatsuro Endo, Kagan Kerman, Yuzuru Takamura and Eiichi Tamiya,A novel enhancement assay for immunochromatographic test strips using gold nanoparticles ,Analytical and Bioanalytical Chemistry ,2006年,Vol.385,No.8,Page.1414-1420
調査した分野 G01N 33/48-33/98
特許請求の範囲 【請求項1】
被検物質、被検物質に特異的に結合する捕捉抗体、被検物質に特異的に結合する捕捉抗原から選ばれる1種を固定化した判定部を有する支持体と、被検物質に特異的に結合する標識抗体とを用いた免疫分析法による被検物質の分析方法であって、前記支持体の前記判定部に標識物質が固定化されており、固定化された前記標識物質由来の発色又は発光と、前記判定部に集積した前記標識抗体由来の発色又は発光とが加算されて得られる発色又は発光に基づいて、試料中の被検物質を定性分析又は定量分析することを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記免疫分析法がサンドイッチ法による免疫分析法であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項3】
前記免疫分析法が競合法による免疫分析法であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項4】
前記捕捉抗体及び前記標識物質を含む溶液を前記支持体に塗布することにより前記固定化を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項5】
前記標識物質が、発色物質又は発光物質であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項6】
前記発色物質として、貴金属コロイド粒子、ラテックス微粒子から選ばれる少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項5記載の分析方法。
【請求項7】
前記判定部において、固定化された前記標識物質の発色又は発光が目視で認識不可能であることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項8】
前記判定部に前記発色物質として金コロイド粒子が固定化されており、前記判定部における前記金コロイド粒子の固定化量が40ng/mm以下であることを特徴とする請求項7記載の分析方法。
【請求項9】
前記判定部における発色又は発光を機器分析する場合において、前記判定部に固定化された前記標識物質の固定化量は、当該機器の検出限界以下とされていることを特徴とする請求項1記載の分析方法。
【請求項10】
前記標識物質と前記標識抗体を構成する標識物質とで同種材料を用いることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項11】
前記標識物質と前記標識抗体を構成する標識物質とで異種材料を用いることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項12】
イムノクロマトグラフィー法を利用することを特徴とする請求項1~11のいずれか1項記載の分析方法。
【請求項13】
免疫分析法による被検物質の分析装置であって、被検物質、被検物質に特異的に結合する捕捉抗体、被検物質に特異的に結合する捕捉抗原から選ばれる1種が固定化された判定部を有する支持体を含み、前記支持体の前記判定部に標識物質が固定化されており、固定化された前記標識物質由来の発色又は発光と、前記判定部に集積した前記標識抗体由来の発色又は発光とが加算されて得られる発色又は発光に基づいて、試料中の被検物質を定性分析又は定量分析することを特徴とする分析装置。
【請求項14】
前記捕捉抗体及び前記標識物質は、これらを含む溶液を前記支持体に塗布することにより前記支持体に固定化されることを特徴とする請求項13記載の分析装置。
【請求項15】
前記標識物質が、発色物質又は発光物質であることを特徴とする請求項13又は14記載の分析装置。
【請求項16】
前記発色物質が、貴金属コロイド粒子、ラテックス微粒子から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項15記載の分析装置。
【請求項17】
前記判定部において、固定化された前記標識物質の発色又は発光が目視で認識不可能であることを特徴とする請求項13~16のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項18】
前記判定部に前記発色物質として金コロイド粒子が固定化されており、前記判定部における前記金コロイド粒子の固定化量が40ng/mm以下であることを特徴とする請求項17記載の分析装置。
【請求項19】
前記判定部における発色又は発光を機器分析する場合において、前記判定部に固定化された前記標識物質物質の固定化量は、当該機器の検出限界以下とされていることを特徴とする請求項13~16のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項20】
前記被検物質に特異的に結合する標識抗体が、前記捕捉抗体が固定化された領域より上流側に移動可能な状態で保持されていることを特徴とする請求項13~19のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項21】
前記標識物質と前記標識抗体を構成する標識物質とが同種材料であることを特徴とする請求項13~20のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項22】
前記標識物質と前記標識抗体を構成する標識物質とが異種材料であることを特徴とする請求項13~20のいずれか1項記載の分析装置。
【請求項23】
イムノクロマトグラフィー法を利用して被検物質を検出することを特徴とする請求項13~22のいずれか1項記載の分析装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫分析法による被検物質の分析方法及び分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、試料中の被検物質を微量検出する方法として免疫分析法が知られている。中でもELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)法は、高感度検出が可能であることから広く普及しているが、ELISA法は操作時間や反応時間に長時間を要し、また、測定操作が煩雑等の問題がある。
【0003】
そこで近年、ELISA法に代わる免疫分析法として、抗体を固定化した支持体(メンブレン)の一端に試験溶液を吸収させ、毛細管現象を利用して横方向に試験溶液を展開させていくイムノクロマトグラフィー法や、抗体を固定化した支持体の膜厚方向に試験溶液を通過させるフロースルー法を利用した分析法が注目されている。中でもイムノクロマトグラフィー法は、装置(ストリップ)が小型で可搬性に優れ、ELISA法に比べて保存安定性、迅速測定、判定の容易さ、特別な付属装置が不要等の様々な点においても優れている。このため、イムノクロマトグラフィー法は、例えばインフルエンザ検査、HCV検査、妊娠検査、アレルギー検査、食中毒検査の診断薬の分野において汎用されている。
【0004】
サンドイッチ法を利用したイムノクロマトグラフィー法は例えば以下のように行われる。先ず、被検物質の異なる部位を認識する2種類の抗体とストリップ状のメンブレンとを用意し、一方の抗体(捕捉抗体)はメンブレンのテストラインと呼ばれる領域に固定化しておき、他方の抗体は例えば金コロイド粒子を標識して金コロイド標識抗体とする。そして、試験溶液を金コロイド標識抗体と混合した後、ストリップの一端に吸収させ、展開する。試験溶液中に被検物質が含まれる場合、被検物質と金コロイド標識抗体とが反応して被検物質-金コロイド標識抗体複合体が形成され、この複合体がテストライン上を通過する際に捕捉抗体に捕捉され、捕捉抗体-被検物質-金コロイド標識抗体複合体が形成される。その結果、テストラインにおいて、金コロイド標識抗体の赤色の発色が観察される。
【0005】
前述のイムノクロマトグラフィー法においては、金コロイド粒子に代えてアルカリフォスファターゼやペルオキシダーゼ等の酵素で抗体を標識し、発色剤を後から展開する方法が広く知られており、例えば特許文献1においては、ペルオキシダーゼを使用する酵素免疫測定において塩基の存在下に酵素免疫測定を行う方法が提案されている。また、特許文献2においては、分析対象物と特異的に結合可能な抗体を固定化した抗体固定化部と、任意の色素を固定化した色素固定化部とが同一位置に存在するクロマトグラフィー分析装置が提案されている。

【特許文献1】特開2001-0074740号公報
【特許文献2】特開2001-004613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金コロイド標識抗体等を用いたイムノクロマトグラフィー法では、極めて低濃度の被検物質の検出が困難となることがある。試験溶液中の被検物質濃度が極めて低いと、テストラインに集積する金コロイド標識抗体量も少なくなるため、捕捉抗体が固定化された領域における金コロイド標識抗体由来のシグナル(発色)強度が例えば肉眼で認識可能なレベルに到達しないからである。
【0007】
このため、イムノクロマトグラフィー法の検出感度を高めることを目的とした研究が各方面で進められており、前記特許文献1に記載されるように、検出用抗体を酵素標識し、酵素基質を展開して発色させる技術が前記改善策として実用化されている。しかしながら、この技術では検出のために発色剤を後から展開する必要があるため、分析が煩雑となる欠点がある。
【0008】
また、テストラインには捕捉抗体等を固定化しておく必要があるが、抗体は高価であり、イムノクロマトグラフィー用ストリップの部材コストを引き上げる要因の一つとなっている。したがって、イムノクロマトグラフィー用ストリップの捕捉抗体の使用量の低減に対しては高いニーズがあるものの、単に捕捉抗体の量を減らすと検出感度が低下するという不都合が生じる。
【0009】
一方、競合法による免疫分析法では、被検物質濃度が高くなるにつれて捕捉抗体等を固定化した領域における金コロイド標識抗体の集積量が減少するため、高濃度領域のダイナミックレンジの確保が難しいことが問題となる。
【0010】
なお、特許文献2において、色素と抗体とが混合された状態で固定化されたクロマトグラフィー分析装置が開示されているが、ここでの色素は抗体固定化部の位置を目視等により認識させ、組立作業時の判定部の位置ずれを防止する目的で用いられており、増感効果を得ることは想定外である。
【0011】
そこで本発明は前述の実情に鑑みて提案されたものであり、検出感度の低下を招くことなく例えば捕捉抗体等の使用量の低減を図るとともに、標識抗体の集積量が少量であっても判定部において強い発色又は発光を得ることを可能とし、サンドイッチ法においては検出限界を下げることが可能であり、競合法においてはダイナミックレンジの拡大を図ることが可能な分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決するために、本発明に係る分析方法は、被検物質、被検物質に特異的に結合する捕捉抗体、被検物質に特異的に結合する捕捉抗原から選ばれる1種を固定化した判定部を有する支持体と、被検物質に特異的に結合する標識抗体とを用いた免疫分析法による被検物質の分析法であって、前記支持体の前記判定部に増感作用を有する標識物質を固定化しておくことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る分析装置は、免疫分析法による被検物質の分析装置であって、被検物質、被検物質に特異的に結合する捕捉抗体、被検物質に特異的に結合する捕捉抗原から選ばれる1種が固定化された判定部を有する支持体を含み、前記支持体の前記判定部に増感作用を有する標識物質が固定化されていることを特徴とする。
【0014】
例えば支持体に捕捉抗体を固定化したサンドイッチ法による従来の免疫分析法の場合、捕捉抗体が固定化された領域(判定部)においては、捕捉抗体と被検物質と標識抗体とがサンドイッチ状の複合体を形成することで、標識抗体が判定部に集積する。そして、判定部に集積する標識抗体が一定量を超えた場合、発色又は発光を肉眼で認識可能又は機器で検出可能となり、被検物質の存在を知ることができる。ただし、被検物質が極めて低濃度である場合、標識抗体の集積も不十分となるため、発色又は発光が弱くなり、肉眼で認識できないことや、機器分析で検出できないことがある。
【0015】
これに対し本発明においては、増感作用を有する標識物質が判定部に予め固定化されているため、判定部における発色又は発光は、判定部に集積した標識抗体由来の標識物質と予め固定化されていた増感作用を有する標識物質との和となる。すなわち、判定部における発色強度又は発光強度が底上げされる。したがって、発色強度又は発光強度を肉眼又は機器で検出可能なレベルに到達させるために必要な標識抗体(標識物質)は、従来に比較して少量で済むので、より低濃度の被検物質の検出が実現される。例えば、支持体に捕捉抗体のみを固定化した従来の分析方法において標識抗体が100個以上集積することでその発色が検知可能となる場合、例えば80個の標識物質を捕捉抗体とともに支持体に固定化しておけば、標識抗体が20個以上集積すれば目視により発色を検知できることになる。サンドイッチ法による免疫分析において、捕捉抗体に代えて捕捉抗原を支持体に固定化した場合においても同様の効果が得られる。このとき、酵素等の取扱いに注意を要する材料は不要であるため、分析操作の煩雑化は抑えられる。
【0016】
また、サンドイッチ法の場合、前述したように感度が向上することから、所定の感度を実現するために必要な捕捉抗体量又は捕捉抗原量を従来より低減することができる。したがって、例えば捕捉抗体を判定部に固定化する場合には、コスト削減効果が得られる。
【0017】
一方、競合法による免疫分析法においては、被検物質が高濃度であるほど判定部に集積する標識抗体の集積量が減り、発色又は発光が弱くなる。本発明においては、増感作用を有する標識物質を被検物質とともに支持体に固定化しておくことで、発色強度又は発光強度の底上げを図り、発色又は発光が検知可能なレベルに到達するために必要な標識抗体(標識物質)の量を減らしている。この結果、競合法においては、より高濃度領域の被検物質の検出が実現され、ダイナミックレンジの広い定量分析が実現される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、判定部への標識抗体の集積が不十分な場合であっても、充分に強い発色強度又は発光強度が得られ、目視や機器等による検出が容易なものとなる。その結果、サンドイッチ法による免疫分析法の場合には高感度化を実現し、競合法による免疫分析法の場合にはダイナミックレンジの広い定量分析を実現することができる。さらには、検出感度の低下を招くことなく支持体に固定化する捕捉抗体等の量を低減することも可能であり、分析装置の低コスト化も実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の分析方法の一例を示す要部概略斜視図である。
【図2】従来の分析方法の一例を示す要部概略斜視図である。
【図3】本発明の分析装置の一例であり、イムノクロマトグラフィー用ストリップを示す概略斜視図である。
【図4】メンブレンに対する金コロイド粒子(40nm)の塗布量を検討した結果を示す写真である。
【図5】(a)は本発明のイムノクロマトテストストリップ(実施例)を用いてhCGを検出した結果を示す写真であり、(b)は従来のイムノクロマトテストストリップ(比較例)を用いてhCGを検出した結果を示す写真である。図中の数字は試験溶液中のhCG濃度を表す。図中の矢印は判定部を示す。
【図6】イムノクロマトテストストリップに固定化する金コロイド粒子の粒径を変化させ、リン酸緩衝液中のhCGを検出した結果を示す写真である。(a)は従来のイムノクロマトテストストリップ(比較例)を用いた結果、(b)は粒径15nmの金コロイド粒子を固定化した結果、(c)は粒径40nmの金コロイド粒子を固定化した結果、(d)は粒径60nmの金コロイド粒子を固定化した結果、(e)は粒径80nmの金コロイド粒子を固定化した結果である。図中の矢印は判定部を示す。
【図7】イムノクロマトテストストリップに固定化する金コロイド粒子の粒径を変化させ、男性の血清中のhCGを検出した結果を示す写真である。(a)は従来のイムノクロマトテストストリップ(比較例)を用いた結果、(b)は粒径15nmの金コロイド粒子を固定化した結果、(c)は粒径40nmの金コロイド粒子を固定化した結果、(d)は粒径60nmの金コロイド粒子を固定化した結果である。図中の矢印は判定部を示す。
【図8】PSA検出用イムノクロマトテストストリップを用いてPSA検出を行った結果を示す写真である。(a)はPSA濃度1ng/ml、(b)はPSA濃度0.1ng/mlの検出結果である。図中、Sは本発明のイムノクロマトテストストリップを、Cは従来のイムノクロマトテストストリップを示す。図中の矢印は判定部を示す。
【図9】実施例3の検討結果を示す写真である。(a)は従来のイムノクロマトテストストリップ(比較例)を用いた結果、(b)は捕捉抗体量を(a)の66%としたときの結果、(c)は捕捉抗体量を(a)の50%としたときの結果、(c)は捕捉抗体量を(a)の33%としたときの結果を示す。図中の矢印は判定部を示す。
【図10】PSA濃度とイムノクロマトテストストリップの判定部における発色強度との関係を示す図であり、従来法と本発明を適用した方法とで比較した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 被検物質、2 捕捉抗体、3 抗体、4 支持体、5 標識物質、6 標識抗体、7 標識物質、11 イムノクロマトグラフィー用ストリップ、12 支持体、13 コンジュゲートパッド、14 吸収パッド、15 判定部、16 コントロール部、21捕捉抗体、22 標識物質、23 標識抗体、24 コントロール用抗体
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を適用した分析方法及び分析装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本発明の分析方法は、被検物質、被検物質に特異的に結合する捕捉抗体、被検物質に特異的に結合する捕捉抗原から選ばれる1種を固定化した判定部を有する支持体と、被検物質に特異的に結合する標識抗体とを用い、免疫分析法により試験溶液中の被検物質を分析するものであり、支持体の判定部に増感作用を有する標識物質を固定化しておく。
【0023】
以下では、本発明の分析方法として、支持体に捕捉抗体を固定化し、標識抗体と捕捉抗体とでサンドイッチ状に被検物質に対して結合することにより被検物質を定性分析又は定量分析するサンドイッチ法による免疫分析法を例に挙げ、図1及び図2を参照しながら説明する。なお、図1~図3は、発明の理解を容易とするため、実際とは異なる寸法比率で描かれている。
【0024】
サンドイッチ法による免疫分析法においては、被検物質(抗原)1上の異なる部位をそれぞれ認識する2種類の抗体2,3を用いる。2種類の抗体のうち一方の抗体(捕捉抗体)2は、支持体4に固定化する。捕捉抗体2が固定化された領域が、判定部となる。他方の抗体3は、支持体4に固定化せず、標識物質5で標識して標識抗体6を形成する。本発明では、前記判定部に、増感作用を有する標識物質7を予め固定化しておく。
【0025】
試験溶液中の被検物質1を検出するには、例えば先ず、試験溶液と標識抗体6を混合し、被検物質1と標識抗体6との複合体を形成させた後、支持体4に供給する。イムノクロマトグラフィー法を利用する場合には、支持体4の一端に試験溶液(混合液)を吸収させ、毛細管現象を利用して横方向に試験溶液を展開させる。フロースルー法を利用する場合には、支持体4の表面に試験溶液を滴下し、支持体4の反対側の面へ試験溶液を通過させる。なお、試験溶液と標識抗体6を含む溶液とをこの順に個別に支持体4に供給してもよい。試験溶液中に被検物質1が存在する場合、支持体4に固定化された捕捉抗体2と標識抗体6とがサンドイッチ状に被検物質1に対して結合し、結果として被検物質1に応じた量の標識抗体6が判定部に集積する。
【0026】
従来の方法の場合、図2に示すように、被検物質濃度が極めて低い場合、判定部に集積する標識抗体6の量も少ない。このため、標識抗体6を構成する標識物質5由来のシグナル(発色又は発光)強度が例えば目視で認識可能なレベルに到達しない、又は機器分析の検出限界以下である場合には、被検物質1を検出できないことがある。
【0027】
これに対し本発明では、捕捉抗体2と増感作用を有する標識物質7とを判定部に共存させることで、判定部における発色強度又は発光強度が底上げされる。また、固定化した標識物質7が存在することにより標識物質の間隔が密になる。このため、判定部への標識抗体6の集積量が少量であっても判定部において強い発色強度又は発光強度が得られ、高感度分析が実現される。
【0028】
ここで、増感作用を有する標識物質とは、当該標識物質が固定化された判定部に標識抗体が捕捉されて集積したときに、判定部における発色又は発光を強める方向にシフトさせる効果を示す標識物質のことをいう。
【0029】
増感作用を有する標識物質7としては、発色物質又は発光物質を標識物質として用いることでき、迅速且つ簡便な検出が可能であるため、発色物質を用いることが好ましい。
【0030】
具体的な発色物質としては、金属微粒子、ラテックス微粒子、有機高分子微粒子、無機微粒子、発色剤を包含したリポソーム等の発色微粒子を用いることができる。金属微粒子としては、金微粒子、銀微粒子、白金微粒子等の貴金属微粒子、チタン微粒子、鉄微粒子、ニッケル微粒子等が例示される。金属微粒子は、粒径1nm~100nmのコロイド状の金属微粒子であってもよい。すなわち、金コロイド粒子、銀コロイド粒子、白金コロイド粒子等の貴金属コロイド粒子や、チタンコロイド粒子、鉄コロイド粒子、ニッケルコロイド粒子を用いてもよい。ラテックス微粒子としては、ポリスチレン、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体等から選ばれる少なくとも1種を含む微粒子が例示される。有機高分子微粒子としては、不溶性アガロース、セルロース、不溶性デキストラン等から選ばれる少なくとも1種を含む微粒子が例示される。無機微粒子としては、シリカ、アルミナ等が例示される。これらの中でも、汎用性の高い貴金属コロイド粒子、ラテックス微粒子等を用いることが好ましく、特に、明瞭な発色が得られるため金コロイド粒子を用いることが好ましい。
【0031】
これら標識物質の表面に、ポリエチレングリコール、アルキルチオール、ビオチン、アビジン、核酸等を吸着させ、保護層を形成してもよい。例えば標識物質が金属コロイド粒子等の場合、その凝集が防止されるため、支持体に固定化したときにバックグラウンドとして認識されるおそれが小さくなる。
【0032】
ところで、増感作用を有する標識物質7が支持体4の判定部に高濃度に固定化されていると、この標識物質7由来の発色又は発光がバックグラウンドとなり、正確な検出が難しくなることがある。このため、判定部の発色又は発光を肉眼で認識することにより被検物質の検出や定量を行う場合、判定部における標識物質7の固定化量を目視で認識不可能な量とすることが好ましい。判定部における標識物質の発色又は発光が目視で認識不可能であれば、固定化された標識物質由来の発色又は発光が検出時に妨げにならないので、正確な分析が実現される。
【0033】
また、判定部の発色又は発光をデンシトメーター等の機器を用いて検出することにより被検物質の検出や定量を行う場合には、判定部における標識物質7の固定化量は、当該機器の検出限界以下とされていることが好ましい。判定部における標識物質の発色又は発光が分析に使用する機器の検出限界以下であれば、固定化された標識物質7由来の発色又は発光が検出時に妨げにならないので、正確な分析が実現される。
【0034】
増感作用を有する標識物質7として金コロイド粒子を用いる場合、高精度かつ高感度な測定を行う観点から、金コロイド粒子の粒径は10nm~80nmであることが好ましい。前記範囲以外の金コロイド粒子を用いると、感度の向上効果が不十分となるおそれがある。また、粒径15nm~40nmの金コロイド粒子を用いることで、より高感度な検出が可能となる。
【0035】
増感作用を有する標識物質7としては、標識抗体6を構成する標識物質5と同種材料を用いることができる。同種材料とした場合、増感作用を有する標識物質7と標識抗体6を構成する標識物質5とからそれぞれほぼ同一のシグナルが発せられるため、増感効果を確実に得ることができる。また、増感作用を有する標識物質7と標識抗体6を構成する標識物質5とを同種材料とすることは、材料の入手が容易である点においても好ましい。固定化した標識物質7と標識抗体6を構成する標識物質5とで同種材料を用いる場合、それぞれの寸法(粒径)は同じでもよく、異なっていてもよい。発色微粒子の互いに粒径を異ならせた場合には、発色波長の変化(ピークシフト)あるいは発色波長強度の変化が観察されるが、本明細書においてはこのような場合、同種材料を用いたものとする。
【0036】
また、増感作用を有する標識物質7と、標識抗体6を構成する標識物質5とは、異種材料でもよい。この場合の組合せは、増感効果を得ることが可能であれば、任意に選択することができる。例えば銀微粒子-金微粒子、金微粒子-ラテックス粒子、金微粒子-蛍光粒子、異種蛍光粒子、金コロイド粒子-銀粒子包含リポソーム、タンパク質発色剤-銀粒子包含リポソーム等が挙げられる。
【0037】
増感作用を有する標識物質7を支持体4に固定化する方法は、用いる材料に応じて適宜変わってくるが、標識物質7で捕捉抗体2を修飾して標識物質7と捕捉抗体2との複合体である標識捕捉抗体を調製した後、標識捕捉抗体を含む溶液を支持体4に塗布することにより行うことが好ましい。このとき、標識捕捉抗体とともに、標識物質7で標識しない捕捉抗体2(非標識捕捉抗体)を溶液中に含ませ、標識捕捉抗体と非標識捕捉抗体との割合を変えることで、支持体4への標識物質7の固定化量を制御できる。標識捕捉抗体の状態で支持体4に塗布すると、捕捉抗体2が標識物質7と支持体4とを接着させるような役割を果たし、標識物質7が強固に固定化される。この結果、標識物質7と捕捉抗体2とを個別に塗布する場合に比べて、試験溶液によって標識物質7が支持体4から脱落して例えば下流へ流されることが防止され、被検物質1の検出を確実に行うことができる。
【0038】
増感作用を有する標識物質7を支持体4に固定化する方法としては、標識物質7をタンパク質溶液と混合し、標識物質7にタンパク質を結合させた後、この溶液を支持体4に塗布する方法でもよい。標識物質7に結合させるタンパク質としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)等が挙げられる。この方法は、標識物質7とともに、抗原や分子量の小さい被検物質などを支持体4の判定部に固定化する際に有用である。
【0039】
標識抗体6を構成する標識物質5としては、支持体4に固定化する標識物質7として使用可能な前述の物質をいずれも使用可能である。標識物質5と抗体3とから標識抗体6を調製する方法は、常法に従えばよく、例えば緩衝液中で標識抗体6を構成する標識物質5と抗体3とを混合すればよい。また、ビオチンーアビジン、チオール基を用いた結合も利用できる。
【0040】
本発明では、生体物質、合成物質等あらゆる物質を被検物質1とすることができる。被検物質1を含む試験溶液としても、例えば血液、血清、尿等の生体由来の溶液、自然環境から採取した水や土壌等を含む溶液、これらを用いて調製して得た溶液等、任意のものを用いることができる。
【0041】
次に、以上のような分析を行うための分析装置について説明する。図3は、本発明を適用したイムノクロマトグラフィー用ストリップの一例である。図3に示すイムノクロマトグラフィー用ストリップ11は、短冊状とされた支持体12と、支持体12の上流側に配されたコンジュゲートパッド13と下流側に配された吸収パッド14とを備えている。
【0042】
支持体12としては、この種のイムノクロマトグラフィー法に用いられるメンブレンを制限無く使用することができ、例えばニトロセルロース等を用いることができる。支持体12の途中には、捕捉抗体21が固定化された領域である判定部15が設けられる。判定部15の形状は図1に示すように例えば展開方向に略直交する帯状としているが、これに限定されるものではなく、例えばスポット状等、任意の形状とすることができる。本発明イムノクロマトグラフィー用ストリップ11の判定部15には、捕捉抗体21とともに、増感作用を有する標識物質22が固定化されている。
【0043】
支持体4の判定部15の上流側に設けられたコンジュゲートパッド13は、標識抗体23を移動(展開)可能な状態で保持している。コンジュゲートパッド13は、例えば、標識抗体23を保持したグラスウール等の上面に吸水性に優れたろ紙等が積層された構成とされる。判定部15の上流側に標識抗体23を展開可能に保持しておくことで、試験溶液を展開する1つの工程で分析操作を完了することができる。すなわち、試験溶液の展開後に標識抗体23を別途展開する工程や試験溶液と標識抗体23とを展開前に混合する工程が不要となり、操作を簡略化できる。
【0044】
なお、本発明のイムノクロマトグラフィー用ストリップ11においては、標識抗体23を保持したコンジュゲートパッド13は必須ではない。コンジュゲートパッド13を備えない場合、試験溶液と標識抗体23との混合液を支持体12に供給するか、又は、試験溶液、標識抗体23を含む溶液をこの順に支持体12に供給すればよい。
【0045】
支持体12においては、判定部15に捕捉されなかった標識抗体23を捕捉するためのコントロール部16を判定部15より下流側に備えている。コントロール部16は、標識抗体23を認識するコントロール用抗体24を支持体12に固定化することにより形成される。コントロール部16に捕捉された標識抗体23からの発色又は発光により、検査の終了が示される。
【0046】
吸収パット14は、支持体4の判定部15やコントロール部16の下流側に設けられることで、余剰の試験溶液等を吸収することができる。
【0047】
以上のようなイムノクロマトグラフィー用ストリップ11を用いて分析を行うには、先ず、コンジュゲートパッド13に試験溶液を吸収させる。試験溶液中に被検物質が存在する場合、試験溶液がコンジュゲートパッド13を通過することで標識抗体23が支持体12側へ移動しながら被検物質と反応して被検物質と標識抗体23との複合体を形成する。試験溶液は毛細管現象により矢印Aに示すように横方向に展開されていき、前記複合体が判定部15を通過する際に捕捉抗体21に捕捉される。すなわち、捕捉抗体21と被検物質と標識抗体23との複合体が形成され、標識抗体23を構成する標識物質が判定部15に集積する。ここで、判定部15には増感作用を有する標識物質22が予め固定化されているため、判定部15における発色又は発光は、判定部15に集積した標識抗体23を構成する標識物質と予め固定化されていた標識物質22との両方の和となる。したがって、判定部15に集積した標識抗体23が少量であっても、判定部における発色又は発光が底上げされ、高感度化を実現することができる。また、増感作用を有する標識物質22を判定部15に固定化しておくことで、標識物質22を固定化しない場合と同一の感度を得るために必要な捕捉抗体21の固定化量を減らすことができる。このため、イムノクロマトグラフィー用ストリップ11の低コスト化という利点も得られる。
【0048】
本発明のイムノクロマトグラフィー用ストリップ11は、従来はELISA法のみで達成可能であったような高感度分析が可能なため、ELISA法が汎用されている分野への適用が可能となる。また、本発明のイムノクロマトグラフィー用ストリップ11の分析時間は例えば数分程度であり、分析に数時間を必要とするELISA法に比べて、分析時間の短縮の面で有利である。
【0049】
なお、本発明によれば、被検物質の定性分析だけでなく、試験溶液中の被検物質の定量分析を行うことも可能である。定量分析を行う場合、例えば被検物質濃度と発色強度又は発光強度との対応を予め求めておき、分析後に判定部の発色強度又は発光強度と比較すればよい。
【0050】
ところで、捕捉抗体に代えて被検物質(抗体)に特異的に結合する捕捉抗原を支持体に固定化し、サンドイッチ法により被検物質として抗体を検出する場合も、前述の捕捉抗体を固定化した場合と同様の効果を得ることができる。なお、捕捉抗原を支持体へ固定化する場合、増感作用を有する標識物質をタンパク質溶液と混合し、標識物質にタンパク質を結合させた後、この溶液を支持体に塗布することにより行うことが好ましい。これにより、増感作用を有する標識物質を支持体に対し強固に固定化することができる。標識物質に結合させるタンパク質としては、例えばウシ血清アルブミン等が挙げられる。
【0051】
以上、免疫分析法としてイムノクロマトグラフィー法に適用した例について説明したが、本発明は、いわゆるフロースルー法に適用することも可能である。フロースルー法とは、支持体の膜厚方向に試験溶液を通過させ、その後標識抗体を通過させることで、判定部における発色又は発光を観察する方法である。試験溶液と標識抗体とは、予め混合し、被検物質-標識抗体複合体を形成させた後に支持体に供給してもよい。フロースルー法による免疫分析法に適用する場合も、増感作用を有する標識物質を捕捉抗体又は捕捉抗原とともに判定部に固定化することで、判定部において強い発色又は発光が得られ、高感度分析を実現することができる。また、フロースルー法を採用することにより、イムノクロマトグラフィー法に比べてさらなる迅速分析が可能となる。
【0052】
また、以上の説明では、サンドイッチ法を例に挙げたが、本発明は競合法による免疫分析法に適用することも可能である。
【0053】
競合法では、先ず、予め支持体に被検物質及び標識物質を共存させて固定化して判定部としておく。被検物質を支持体へ固定化する場合、標識物質をタンパク質溶液と混合し、標識物質にタンパク質を結合させた後、この溶液を支持体に塗布することにより行うことが好ましい。これにより、増感作用を有する標識物質を支持体に対し強固に固定化することができる。標識物質に結合させるタンパク質としては、例えばウシ血清アルブミン等が挙げられる。
【0054】
次に、未知濃度の被検物質を含む試験溶液と被検物質に特異的に結合する標識抗体とを支持体に供給する。試験溶液及び標識抗体は、これらを混合して被検物質と標識抗体との複合体を形成させた後に支持体に供給してもよいし、試験溶液と標識抗体を含む溶液とをこの順に個別に支持体に供給してもよい。試料溶液中の被検物質が低濃度の場合、被検物質と複合体を形成しなかった標識抗体が多く集積する一方、試料溶液中の被検物質が高濃度の場合、標識抗体は判定部に集積せずに下流へ移動する。結果として、被検物質の濃度が低くなるほど、判定部への標識抗体の集積量が増加し、判定部において強く発色又は発光するので、固定化する固定化被検物質の濃度や試験溶液と混合する標識抗体濃度等の条件を一定にしておけば、判定部の発色強度又は発光強度を指標として定量分析が可能となる。
【0055】
このような競合法による免疫分析法において、支持体の判定部に固定化被検物質とともに増感作用を有する標識物質を固定化しているので、判定部における標識抗体(標識物質)による発色強度又は発光強度が底上げされ、発色又は発光が検知可能となるために必要な標識抗体(標識物質)の量が減ることになる。また、固定化した標識物質が存在することにより標識物質の間隔が密になり、標識抗体が高濃度に集積した状態が擬似的に実現される。このため、判定部への標識抗体の集積が少量であっても判定部において強い発色強度又は発光強度が得られる。その結果、競合法による免疫分析法において、高濃度側の定量範囲が広がり、ダイナミックレンジの拡大を図ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例について、詳細に説明する。
【0057】
(実験1 hCG(ヒトゴナドトロピン)の検出)
先ず、イムノクロマトグラフィー法の高感度化を目的として、妊娠検査のマーカーであるhCGの検出をモデルとして検討を行った。
【0058】
〈判定部に塗布する金コロイド粒子量の検討〉
先ず、判定部(テストライン)に固定化する標識物質の量を検討した。標識物質として、各種粒径(10nm、15nm、40nm、60nm、80nm、150nm)の金コロイド粒子(BBI社製)を用意した。また、捕捉抗体として、hCGのα-サブユニットを認識するモノクローナル抗体である抗hαS抗体を用意した。前記金コロイド粒子に抗hαS抗体を修飾して金コロイド標識抗hαS抗体を作製した。O.D.値(520nm)が6となるように金コロイド標識抗hαS抗体を含む溶液を調製し、各粒径の溶液の赤色の濃さを同一にした。
【0059】
次に、金コロイド標識抗hαS抗体を含む溶液と、金コロイド粒子で修飾していない非標識抗hαS抗体を含む溶液とを混合し、混合溶液を得た。この混合溶液をスポッター(武蔵エンジニアリング社製、商品名ShotMaster3000)を用いてメンブレンに塗布し、判定部を形成した。前記混合溶液を調整する際には、非標識抗hαS抗体溶液に対して1%、3%、5%、10%、20%、50%又は80%の金コロイド標識抗hαS抗体溶液を混合した。混合溶液のメンブレンへの塗布量は、1スポットあたり0.2μlとした。この場合、判定部における金コロイド粒子の濃度は、収率100%で塗布されたと仮定した場合、それぞれ概ね8ng/mm、24ng/mm、40ng/mm、80ng/mm、160ng/mm、400ng/mm、6400ng/mmと見積もられた。なお、非標識抗hαS抗体溶液に対して金コロイド標識抗hαS抗体溶液を5%混合するとは、非標識抗hαS抗体溶液100mlに対して金コロイド標識抗hαS抗体溶液を5ml添加することを意味する。
【0060】
その後、メンブレンの判定部を目視で観察した。図4に、標識物質として粒径40nmの金コロイド粒子を用いたメンブレンの写真を示す。図4から、金コロイド標識抗hαS抗体量を5%以下とした場合、予めメンブレンに金コロイドが塗布されていたとしても、金コロイド粒子の発色は目視で認識できないことが確認された。また、他の粒径においても、40nmの場合と同様に、金コロイド標識抗hαS抗体量を5%以下、すなわち金コロイド粒子の濃度を40ng/mm以下とした場合、目視で認識できないことが確認された。したがって、判定部における金コロイド粒子の固定化量が5%以下、すなわち40ng/mm以下が、目視で認識できない量であることが明らかとなった。さらに、後述する方法にてhCGの検出を行った結果、金コロイド標識抗hαS抗体量を3%以下、すなわち24ng/mm以下とした場合、抗体間の非特異的吸着に起因する呈色を確実に抑えられることが確認された。
【0061】
〈hCG検出用イムノクロマトストリップの作製〉
次に、hCGを検出するためのイムノクロマトグラフィー用ストリップを作製した。
粒径60nmの金コロイド粒子で抗hαS抗体を修飾して金コロイド標識抗hαS抗体を作製した。金コロイド標識抗hαS抗体を含む溶液は、O.D.520が6となるように調製し、非標識抗hαS抗体を含む溶液を混合して混合溶液を得た。非標識抗hαS抗体溶液に対する金コロイド標識抗hαS抗体溶液の混合割合は、3%とした。
【0062】
前記混合溶液を、BioDot社製の商品名BioJetQuanti300を用いてメンブレンの判定部となる位置に塗布した。前記混合溶液の塗布量は、1cmあたり0.7μlとした。混合溶液を塗布し、乾燥させた後、ブロッキング、ウォッシングを施した。得られたメンブレンをバッキングシートに貼り付け、端部に吸収パッドを付けた後、幅4mmのストリップ状に切断し、hCG検出用イムノクロマトテストストリップを得た。
【0063】
〈hCGの測定〉
濃度0.1ng/ml、0.05ng/ml、0.025ng/ml、0.0125ng/ml、0.00625ng/ml、又は0.00315ng/mlとなるようにリコンビナントhCG(ロート製薬社製)をリン酸緩衝液で希釈し、得られたhCG希釈液を試験溶液として実験に用いた。
【0064】
hCG検出用の標識抗体としては、金コロイド標識抗hCG抗体を用いた。抗hCG抗体は、hCGのβ-サブユニットを認識するモノクローナル抗体である。金コロイド標識抗hCG抗体を含む溶液はO.D.520が6となるように調製した。
【0065】
hCG希釈液(試験溶液)40μlに対して金コロイド標識抗hCG抗体(標識抗体)を含む前記溶液を4μl添加し、混合した後、前記hCG検出用イムノクロマトテストストリップの一端に吸収させ、hCGの検出を行った。結果を図5(a)に示す。
【0066】
また、比較のため、通常の方法でイムノクロマトテストストリップを作製した。すなわち、テストラインに標識物質である金コロイド粒子を塗布せず、捕捉抗体である抗hαS抗体のみを塗布し、固定化した。これを用いて、先の説明と同様に、hCGの検出を行った。結果を図5(b)に示す。
【0067】
従来のイムノクロマトテストストリップでは、0.025ng/mlの段階で判定部の発色が認識し難くなっており、それ以下の濃度では目視で認識することができなかった。これに対し、本発明のイムノクロマトテストストリップを用いた場合、0.00315ng/mlの低濃度であっても、判定部の発色をはっきりと目視で認識することができた。
【0068】
〈固定化金コロイド粒子の粒径の検討〉
メンブレンに固定化する金コロイド粒子の最適な粒径について検討した。
先ず、粒径5nm、15nm、40nm、60nm、80nmの金コロイド粒子を用意し、各粒径の金コロイド粒子で抗hαS抗体を修飾して金コロイド標識抗hαS抗体を作製した。金コロイド標識抗hαS抗体を含む溶液は、O.D.520が6となるように調製し、非標識抗hαS抗体を含む溶液を混合して混合溶液を得た。非標識抗hαS抗体溶液に対する金コロイド標識抗hαS抗体溶液の混合割合は、コントロールラインでの呈色が目視で認識できなかった3%とした。次に、hCG検出用イムノクロマトストリップの作製についての説明に準じ、得られた混合溶液を用いてhCG検出用イムノクロマトストリップを作製した。
【0069】
次に、リン酸緩衝液を用いてhCG抗原希釈液を作製し、これを試験溶液としてhCGの検出を行った。結果を図6に示す。なお、同図中、1、2、3、4及びCは、ストリップに展開した試験溶液のhCG濃度を表すための符号であり、それぞれ1ng/ml、0.1ng/ml、0.01ng/ml、0.001ng/ml、0(hCGを含まない。)に対応している。
【0070】
図6から明らかなように、いずれの粒径においても、判定部に金コロイド粒子を予め固定化しておくことで検出感度が向上している。中でも、粒径15nm~40nmの金コロイド粒子を固定化した場合、hCGが極めて低濃度であっても判定部における呈色がより明瞭に観察され、さらなる高感度検出が実現された。特に粒径15nmの金コロイド粒子を固定化した場合に、最も高い感度が得られた。なお、粒径5nmの金コロイド粒子を固定化したときの検出感度の向上効果は不十分なものであった。
【0071】
〈血清を使用した固定化金コロイド粒子の粒径の検討〉
先ず、リン酸緩衝液を用いて試験溶液を調製した場合と同様に、hCG検出用イムノクロマトストリップを作製した。テストラインには、粒径15nm、40nm、60nmの金コロイド粒子を固定化した。
【0072】
次に、男性の血清を用いてhCG抗原希釈液を作製し、これを試験溶液としてhCGの検出を行った。結果を図7に示す。同図中、1、2、3、4は、ストリップに展開した試験溶液のhCG濃度を表すための符号であり、それぞれ1ng/ml、0.1ng/ml、0.01ng/ml、0.001ng/mlに対応している。
【0073】
図7の結果から、試験溶液として血清を用いた場合も、リン酸緩衝液を用いた場合と同様、高感度検出が実現され、中でも粒径15nm~40nmの金コロイド粒子を固定化した場合、さらなる高感度検出が実現された。また、粒径15nmの金コロイド粒子を固定化した場合に最も良い結果が得られた。
【0074】
(実験2 PSA(前立腺特異抗原)の検出)
前立腺癌の指標であるPSAは、健康な男性にもわずかながら存在し、年齢とともにその値は上昇する。PSA値が4ng/ml以上の場合、初期の前立腺癌を疑い、健康診断では2次検査の対象となる。このため、イムノクロマトグラフィー用ストリップに対しては、血清測定において4ng/ml以下のPSAを正確に検出可能であることが望まれる。したがって、以下の実験では、PSAの高感度検出を目的として検討を行った。
【0075】
〈PSA検出用イムノクロマトテストストリップの作製〉
先ず、標識物質として金コロイド粒子(40nm)を用いるとともに、捕捉抗体として抗PSA抗体を用いてPSAを検出するためのイムノクロマトグラフィー用ストリップを作製した。
【0076】
メンブレンへ標識物質を固定化するため、金コロイド粒子(粒径15nm)で抗PSA抗体(捕捉抗体)を修飾し、金コロイド(15nm)標識抗PSA抗体を作製した。作製した金コロイド(15nm)標識抗PSA抗体を含む溶液をO.D.520が6となるように調製した。次に、未標識抗PSA抗体を含む溶液に対して前記金コロイド(15nm)標識抗PSA抗体を含む溶液を3%の割合で混合して混合溶液を得た。この混合溶液を、実験1と同様にしてメンブレンに塗布し、PSA検出用イムノクロマトテストストリップを得た。
【0077】
〈PSAの検出〉
次に、血液中のPSA検出を試みた。前立腺癌は男性特有の疾患であるため、女性の血液からPSAは通常検出されない。そこで、女性の血液に濃度1ng/ml又は0.1ng/mlとなるようにPSAを添加し、これを試験溶液とした。
【0078】
PSA検出用の標識抗体として、抗PSA抗体を金コロイド粒子(40nm)で修飾し、金コロイド(40nm)標識抗PSA抗体を得た。ここで用いた抗PSA抗体は、前記捕捉抗体としての抗PSA抗体(15nm)とは異なる認識部位でPSAと結合するものである。金コロイド(40nm)標識抗PSA抗体を含む溶液をO.D.520が6となるように調製した。
【0079】
その後、PSAを混合した女性の血液40μlに対して金コロイド(40nm)標識抗PSA抗体を含む溶液を4μl添加し、混合した後、PSA検出用イムノクロマトテストストリップの一端に吸収させ、PSAの検出を行った。
【0080】
また、比較のため、従来の方法でイムノクロマトテストストリップを作製した。すなわち、判定部に標識物質である金コロイド粒子を塗布せず、捕捉抗体である抗PSA抗体のみを塗布し、固定化した。これを用いて、先の説明と同様に、PSAの検出を行った。結果を図8に示す。図8中、Sは本発明のイムノクロマトテストストリップ、Cは従来のイムノクロマトテストストリップを表す。
【0081】
図8から、従来の方法で作製したイムノクロマトテストストリップにおいては、PSA濃度1ng/mlのときには判定部の発色が目視で認識されたが、PSA濃度0.1ng/mlのときには判定部を認識できなかった。一方、本発明のイムノクロマトテストストリップを用いた場合、PSA濃度0.1ng/mlのときにも判定部を認識できた。よって、実験2の結果から、本発明のイムノクロマトテストリップは、PSAの高感度検出が可能であり、初期段階の前立腺癌の簡便且つより正確な診断に有用であることがわかる。
【0082】
以上、実験1及び実験2の結果から、捕捉抗体とともに標識物質を予め固定化しておくことで、イムノクロマトグラフィー用ストリップの高感度化が実現されることが確認された。
【0083】
(実験3 捕捉抗体固定化量の検討)
以下の実験では、本発明を適用したイムノクロマトテストストリップにおいて、判定部に固定化する捕捉抗体の量を減らすことが可能か否か検討を行った。
【0084】
〈PSA検出用イムノクロマトテストストリップの作製〉
標識物質として金コロイド粒子(15nm)を用いるとともに、捕捉抗体として抗PSA抗体を用いてPSAを検出するためのイムノクロマトグラフィー用ストリップを作製した。
【0085】
濃度650ng/mlの抗PSA抗体溶液を用意し、これを判定部に塗布することにより、従来のイムノクロマトグラフィー用ストリップを作製した。また、抗PSA抗体の濃度が430ng/ml(濃度650ng/ml抗PSA抗体溶液を100%としたとき、66%)、325ng/ml(50%)、又は215ng/ml(33%)である抗PSA抗体溶液を用意した。これに金コロイド標識抗hαS抗体を含む溶液(O.D.520)を3%加えて混合溶液を得た。この混合溶液を実施例2と同様にしてメンブレンに塗布し、PSA検出用イムノクロマトテストストリップを得た。
【0086】
その後、実施例2と同様にしてPSAの検出を行った。濃度5ng/ml、1ng/ml、0.5ng/mlのPSA溶液についてそれぞれ検討した。分析後のストリップの写真を図9に示す。また、判定部の色の濃さをデンシトメーターにより測定し、画像解析を行って比較した。結果を図10に示す。
【0087】
メンブレンの判定部に固定化する捕捉抗体量を従来の66%に減らした場合であっても、判定部に金コロイド粒子を予め固定化しておくことで、判定部に金コロイド粒子を固定化していない従来例より強い発色強度を示した。また、メンブレンの判定部に固定化する捕捉抗体量を従来の50%に減らした場合でも、判定部に金コロイド粒子を予め固定化しておくことで、捕捉抗体量100%の場合と同等の発色強度が得られた。イムノクロマトテストストリップにおいて抗体は最もコストの高い部材の1つである。したがって、本発明によれば、必要な捕捉抗体量を従来の半分程度に減らした場合であっても従来と同一の感度を実現することができるため、イムノクロマトテストストリップの大幅なコスト削減が期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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