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明細書 :高耐熱性,高強度Ir基合金及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4833227号 (P4833227)
登録日 平成23年9月30日(2011.9.30)
発行日 平成23年12月7日(2011.12.7)
発明の名称または考案の名称 高耐熱性,高強度Ir基合金及びその製造方法
国際特許分類 C22C   5/04        (2006.01)
C22F   1/14        (2006.01)
C22F   1/00        (2006.01)
FI C22C 5/04
C22F 1/14
C22F 1/00 602
C22F 1/00 630A
C22F 1/00 630C
C22F 1/00 630D
C22F 1/00 630F
C22F 1/00 630K
C22F 1/00 631Z
C22F 1/00 640B
C22F 1/00 640A
C22F 1/00 641A
C22F 1/00 641Z
C22F 1/00 650A
C22F 1/00 651B
C22F 1/00 651Z
C22F 1/00 682
C22F 1/00 691B
C22F 1/00 691C
C22F 1/00 692A
請求項の数または発明の数 4
全頁数 13
出願番号 特願2007-557852 (P2007-557852)
出願日 平成19年1月31日(2007.1.31)
国際出願番号 PCT/JP2007/052069
国際公開番号 WO2007/091576
国際公開日 平成19年8月16日(2007.8.16)
優先権出願番号 2006032294
優先日 平成18年2月9日(2006.2.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年4月17日(2008.4.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】石田 清仁
【氏名】貝沼 亮介
【氏名】及川 勝成
【氏名】大沼 郁雄
【氏名】大森 俊洋
【氏名】佐藤 順
個別代理人の代理人 【識別番号】100108121、【弁理士】、【氏名又は名称】奥山 雄毅
審査官 【審査官】鈴木 毅
参考文献・文献 特開2002-285260(JP,A)
特開2000-290741(JP,A)
特開平10-259435(JP,A)
特開平08-311584(JP,A)
特開平09-067632(JP,A)
調査した分野 C22C 5/04
C22F 1/14
特許請求の範囲 【請求項1】
質量比でAl:0.1~9.0%,W:1.0~45%,残部が不可避的不純物を除きIrの組成、及び
Al:0.1~1.5%の成分系では原子比でIr(Al,W)のL1型金属間化合物が、Al:1.5%を超え9.0%以下の成分系では原子比でIr(Al,W)のL1型金属間化合物及びIr(Al,W)のB2型金属間化合物が析出した金属組織
で特徴付けられる高耐熱性,高強度Ir基合金。
【請求項2】
更にグループ(I)から選ばれた一種又は二種以上を合計で0.001~2.0%含み、残部が不可避的不純物を除き50%を超えるIrの組成を有する請求項1記載のIr基合金。
グループ(I):
B:0.001~1.0%, C:0.001~1.0%, Mg:0.001~0.5%, Ca:0.001~1.0%,
Y:0.01~1.0%, La又はミッシュメタル:0.01~1.0%
【請求項3】
更にグループ(II)から選ばれた一種又は二種以上を合計で0.1~48.9%含み、残部が不可避的不純物を除き50%を超えるIrの組成、及び
Al:0.1~1.5%の成分系では原子比で(Ir,X)(Al,W,Z)のL1型金属間化合物が、Al:1.5%を超え9.0%以下の成分系では原子比で(Ir,X)(Al,W,Z)のL1型金属間化合物及び(Ir,X)(Al,W,Z)のB2型金属間化合物(ただし、XはCo,Fe,Cr,Rh,Re,Pd,Pt及び/又はRu,ZはMo,Ti,Nb,Zr,V,Ta及び/又はHfであり、NiはX,Zの双方に入る)が析出した金属組織
を有する請求項1又は2記載のIr基合金。
グループ(II):
Co:0.1~48.9%, Ni:0.1~48.9%, Fe:0.1~20%, V:0.1~20%,
Nb:0.1~15%, Ta:0.1~25%, Ti:0.1~10%, Zr:0.1~15%,
Hf:0.1~25%, Cr:0.1~15%, Mo:0.1~15%, Rh:0.1~25%,
Re:0.1~25%, Pd:0.1~15%, Pt:0.1~25%, Ru:0.1~15%
【請求項4】
請求項1~3何れかに記載の組成をもつIr基合金に800~1800℃の温度域で熱処理を1回以上施し、Al:0.1~1.5%の成分系ではL1型金属間化合物を、Al:1.5%を超え9.0%以下の成分系ではL1型金属間化合物及びB2型金属間化合物を析出させることを特徴とする高耐熱性,高強度Ir基合金の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のNi基合金よりも耐熱性,耐酸化性が格段に優れ、過酷な高温雰囲気に曝されても必要強度を維持するジェットエンジン,ガスタービン等の部材として好適なIr基合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン,飛行機用エンジン,化学プラント,ターボチャージャーロータ等の自動車用エンジン,高温炉等の部材では、高温環境下で強度が必要とされ、優れた耐酸化性が要求される場合もある。この種の高温用途には、Ni基合金やCo基合金が従来から使用されてきた。
Ni基合金の多くは、L1構造を有するγ’相〔Ni(Al,Ti)〕で強化されている。γ’相は、温度上昇に伴い強度も高くなる逆温度依存性を呈することから、優れた高温強度,高温クリープ特性を付与し、ガスタービンの動翼,タービンディスク等の耐熱用途に適したNi基合金となる。他方、Co基合金は、固溶強化及び炭化物の析出強化を利用しており、多量のCrを含有する系では耐食性,耐酸化性に優れ、耐磨耗性も良好なため、静翼,燃焼器等の部材に使用されている。
最近では、各種熱機関において燃費の向上,環境負荷の低減を目的に熱効率の改善が強く求められており、熱機関構成材料に要求される耐熱性が一段と過酷になっている。そのため、従来のNi基やCo基合金に代わる新規耐熱材料の開発が検討されている。
新規の耐熱合金に関し現在まで多くの研究報告が発表されており、Ir系,Pt系等の貴金属材料が近年大きな注目を浴びている(文献1)。Ir,Ptは共に良好な耐酸化性を示し、Ni基合金のγ’相と同じL1構造を有するIrNb等の金属間化合物を強化相とする材料が報告されている(文献2)。
文献1:JOM,56(9),2004,pp.34-39
文献2:特開2001-303152号公報
【発明の開示】
【0003】
本発明者等は、Ir基合金の強化に有効な析出物について種々調査・検討した。その結果、L1構造を有するγ’相の金属間化合物Ir(Al,W)を発見し、当該金属間化合物が有効な強化因子であることを解明した。
本発明は、かかる知見をベースとし、高温強度の改善に有効なγ’相の金属間化合物Ir(Al,W)を耐熱性に優れたIrマトリックスに分散させることにより、従来のNi基合金を凌駕する高温強度,耐熱性,耐酸化性を付与し、過酷な環境下で使用されるガスタービン,飛行機用エンジン,化学プラント,ターボチャージャーロータ等の自動車用エンジン,高温炉等の部材に適したIr基合金を提供することを目的とする。
本発明のIr基合金は、L1型金属間化合物Ir(Al,W)の分散析出で強化する場合には質量比でAl:0.1~1.5%,W:1.0~45%,残部:Irを第一の基本組成とし、L1型金属間化合物Ir(Al,W)及びB2型金属間化合物Ir(Al,W)の分散析出で強化する場合にはAl:1.5%を超え9.0%以下,W:1.0~45%,残部:Irを第二の基本組成としている。
第一,第二の基本組成を有するIr基合金に、必要に応じグループ(I)及び/又はグループ(II)から選ばれた一種又は二種以上の合金成分を含ませる。グループ(I)の合金成分は合計含有量を0.001~2.0%の範囲で、グループ(II)の合金成分は合計含有量を0.1~48.9%の範囲で、且つIrが50%以下にならない範囲で選定することが好ましい。
グループ(I)
B:0.001~1.0%, C:0.001~1.0%, Mg:0.001~0.5%, Ca:0.001~1.0%,
Y:0.01~1.0%, La又はミッシュメタル:0.01~1.0%
グループ(II)
Co:0.1~48.9%, Ni:0.1~48.9%, Fe:0.1~20%, V:0.1~20%,
Nb:0.1~15%, Ta:0.1~25%, Ti:0.1~10%, Zr:0.1~15%,
Hf:0.1~25%, Cr:0.1~15%, Mo:0.1~15%, Rh:0.1~25%,
Re:0.1~25%, Pd:0.1~15%, Pt:0.1~25%, Ru:0.1~15%
グループ(II)の合金元素を添加した成分系では、L1型金属間化合物は(Ir,X)(Al,W,Z)として表される。式中、XはCo,Fe,Cr,Rh,Re,Pd,Pt及び/又はRu,ZはMo,Ti,Nb,Zr,V,Ta及び/又はHfであり、NiはX,Zの双方に入る。また、添え字は各元素の原子比を示す。
所定組成に調製されたIr基合金を800~1800℃の温度域で熱処理すると、L1型金属間化合物又はL1型,B2型金属間化合物が析出し、高温特性が向上する。熱処理には、1300℃×24hrs.,1300℃×24hrs.→1100℃×12hrs.,1300℃×24hrs.→900℃×1hr.等の条件が採用される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、マトリックス(γ相),γ’相に対する各元素の分配傾向を示したグラフ
図2は、Ir-1.5Al-10.5W合金時効材の組織を示す光学顕微鏡像
図3は、Ir-1.5Al-10.5W合金の二相組織を示すTEM像
図4は、Ir-1.5Al-10.5W合金のL1構造を示す電子回折像
図5は、Ir-Al-W合金,Ir-Co-Al-W合金,従来のNi基合金(WASPALOY,Mar-M247)のビッカース硬さの温度依存性を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明者等は、Ir-Al-Wの三元系合金にL1型を有するγ’相の金属間化合物Ir(Al,W)を析出させると、高温強度が顕著に向上することを見出した。Ir(Al,W)は、Ni基合金の主要な強化相であるNiAl(γ’)相と同じ結晶構造を有し、マトリックス(γ相)との整合性が良く均一微細な析出が可能なため高強度化に寄与する。マトリックスとなるIrは、融点が2410℃と高く、耐酸化性にも極めて優れた特性を示す。
そのため、Ir(Al,W)をマトリックスに分散析出させたIr基合金は、次のように従来のNi基超合金を超える高温特性を呈する。
(1)Irは、Niよりも1000℃近く高い融点をもち、耐熱性が格段に優れている。
(2)Ir自体がNiよりも優れた耐酸化性を呈する。
(3)析出強化相であるγ’相Ir(Al,W)は、Ni基合金のγ’相Ni(Al,Ti)よりも600~700℃ほど高い固溶温度(約1800℃)を有している。γ’相Ni(Al,Ti)と同様に強度の逆温度依存性を呈し析出強化相の高温安定性も良好なため、Ni基合金の耐熱温度よりも一段と高い高温雰囲気に曝されても優れた高温特性を維持する。
Ir基合金は、一般的に利用されているNi基合金に比べ融点が1000℃程度高く、置換型元素の拡散係数がNiよりも小さいので、Ni基合金に比較して原子拡散に起因する析出物相の粗大化やクリープ変形が起こりにくく、耐用温度の向上,材料寿命の大幅な改善を期待できる。
強化相に使用している金属間化合物〔Ir(Al,W)〕は、マトリックスとのミスマッチが大きくても0.5%程度であり、γ’相で析出強化したNi基合金を凌駕する組織安定性を呈する。
本発明では、L1型金属間化合物〔Ir(Al,W)〕又は〔(Ir,X)(Al,W,Z)〕を適量分散させるため、Ir基合金の成分・組成を特定している。基本組成はAl:0.1~9.0%,W:1.0~45%を含み、更にX成分やZ成分を含む場合、Irが50%を超えるように合金設計されている。Al含有量が0.1~1.5%と低い系ではIr(Al,W)が析出するが、1.5%を超え9.0%以下と高い系ではIr(Al,W)の他にIr(Al,W)のB2型金属間化合物も析出する。
Alは、γ’相の主要な構成元素であると共に、γ’相の析出,安定化に必要な成分であり、耐酸化性の向上にも寄与する。0.1%未満のAlではγ’相が析出せず、或いは析出しても高温強度に寄与しない。しかし、過剰添加は脆弱で硬質な相の生成を助長するので、0.1~9.0%(好ましくは、0.5~5.0%)の範囲に含有量を定めている。
Wは、γ’相の主要な構成元素であり、マトリックスを固溶強化する作用も呈する。1.0%未満のW添加ではγ’相が析出せず、或いは析出しても高温強度に寄与しない。45%を超える過剰添加は、有害相の生成を助長する。そのため、1.0~45%(好ましくは、4.5~30%)の範囲でW含有量を定めている。
Ir-Al-Wの基本成分系にグループ(I),グループ(II)から選ばれた一種又は二種以上の合金成分を必要に応じて添加する。グループ(I)から選ばれた複数の合金成分を添加する場合、合計含有量を0.001~2.0%の範囲で選定し、グループ(II)から選ばれた複数の合金成分を添加する場合、合計含有量をIrが50%以下にならない0.1~48.9%の範囲で選定する。
グループ(I)は、B,C,Mg,Ca,Y,La,ミッシュメタルからなるグループである。
Bは、結晶粒界に偏析して粒界を強化する合金成分であり、高温強度の向上に寄与する。Bの添加効果は0.001%以上で顕著になるが、過剰添加は加工性にとって好ましくないので上限を1.0%(好ましくは、0.5%)とする。Cは、Bと同様に粒界強化に有効であると共に炭化物となって析出し高温強度を向上させる。このような効果は0.001%以上のC添加でみられるが、過剰添加は加工性や靭性にとって好ましくないので1.0%(好ましくは、0.8%)をC含有量の上限とする。Mgは粒界の脆化を抑制する効果があり、0.001%以上で添加効果が顕著になるが、過剰添加は有害相の生成を引き起こすので0.5%(好ましくは0.4%)を上限とした。Caは脱酸、脱硫に効果がある合金成分であり、延性,加工性の向上に寄与する。Caの添加効果は0.001%以上で顕著になるが、過剰添加は却って加工性を低下させるので上限を1.0%(好ましくは、0.5%)とした。Y,La,ミッシュメタルは共に耐酸化性の向上に有効な成分であり、何れも0.01%以上で添加効果を発揮するが、過剰添加は組織安定性に悪影響を及ぼすので1.0%(好ましくは、0.5%)を上限とした。
グループ(II)は、Co,Ni,Cr,Ti,Fe,V,Nb,Ta,Mo,Zr,Hf,Rh,Re,Pd,Pt,Ruからなるグループである。Ir合金の(γ+γ’)二相組織が極めて微細であるため詳細な組成の決定は困難であったが、Ni基,Co基合金に関する本発明者等によるこれまでの知見(文献3)によると、グループ(II)の合金成分の分配係数Kxγ’/γは、合金系に依らず同様の傾向を示すことが判った。
文献3:特願2005-267964号
分配係数Kxγ’/γは、Kxγ’/γ=Cxγ’/Cxγ〔ただし、Cxγ’:γ相のX元素濃度(原子%),Cxγ:マトリックス(γ相)のX元素濃度(原子%)〕として表され、マトリックス(γ相)に含まれる所定元素Xに対するγ’相に含まれる所定元素Xの濃度比を示す。分配係数>1はγ’相安定化元素,分配係数<1はマトリックス(γ相)安定化元素である。
Co基合金と同様にIr基合金についても添加元素のγ相、γ’相への分配傾向を調査したところ、図1に示すようにTi,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Moはγ’相安定化元素であり、なかでもTaのγ’相安定化効果が大きいことが判った。
Ni,Coは、マトリックスを強化する作用を呈し、γ相に全率で固溶するため広い組成範囲で(γ+γ’)の二相組織が得られる。また、L1型金属間化合物のIrと置換するため、貴金属であるIrの使用量を抑え、低コスト化が図られる。Ni:0.1%以上,Co:0.1%以上で添加効果がみられるが、過剰添加すると融点及びγ’相の固溶温度が下がり、Ir基合金の優れた高温特性が損なわれてしまう。そのため、Ir含有量が50%以下にならないようにNi,Coの含有量上限を48.9%(好ましくは、40%)とした。
FeもIrと置換し、加工性を改善する作用があり、0.1%以上で添加効果が顕著になる。しかし、過剰添加は高温域における組織の不安定化をもたらす原因となるので、添加する場合には上限を20%(好ましくは、5.0%)とする。
Crは、Ir基合金表面に緻密な酸化皮膜を作り、耐酸化性を向上させる合金成分であり、高温強度,耐食性の改善に寄与する。このような効果は0.1%以上のCrで顕著になるが、過剰添加は加工性劣化の原因になるので15%(好ましくは、10%)を上限とした。
Moは、γ’相の安定化,マトリックスの固溶強化に有効な合金成分であり、0.1%以上でMoの添加効果がみられる。しかし、過剰添加は加工性劣化の原因になるので15%(好ましくは、10%)を上限とした。
Re,Rh,Pd,Pt,Ruは耐酸化性の向上に有効な合金成分であり、何れも0.1%以上で添加効果が顕著になるが、過剰添加は有害相の生成を誘発させるので添加量上限をRe,Rh,Ptでは25%(好ましくは、10%),Pd,Ruでは15%(好ましくは、10%)とした。
Ti,Nb,Zr,V,Ta,Hfは、何れもγ’相の安定化,高温強度の向上に有効な合金成分であり、Ti:0.1%以上,Nb:0.1%以上,Zr:0.1%以上,V:0.1%以上,Ta:0.1%以上,Hf:0.1%以上で添加効果がみられる。しかし、過剰添加は有害相の生成や融点降下の原因となるので、Ti:10%,Nb:15%,Zr:15%,V:20%,Ta:25%,Hf:25%を上限とした。
所定組成に調製されたIr基合金は、鋳造品として使用する場合、普通鋳造,一方向凝固,溶湯鍛造,単結晶法の何れの方法でも作製される。
各種の溶解法で作製されたIr合金を800~1800℃(好ましくは、900~1600℃)の温度域に加熱し、金属間化合物Ir(Al,W)を析出させる。Ir(Al,W)は、マトリックスとの格子定数ミスマッチが小さいL1構造の金属間化合物であり、Ni基合金のγ’相〔Ni(Al,Ti)〕よりも高温安定性が格段に優れ、Ir基合金の高温強度,耐熱性の向上に寄与する。グループ(II)の合金成分を添加した成分系で生成する金属間化合物(Ir,X)(Al,W,Z)も同様にIr基合金の高温強度,耐熱性の向上に寄与する。
L1型の金属間化合物〔Ir(Al,W)〕又は〔(Ir,X)(Al,W,Z)〕は、粒径:3nm~1μm,析出量:20~85体積%でマトリックスに析出していることが好ましい。析出強化作用は、粒径:3nm以上の析出物で得られるが、1μmを超える粒径では却って低下する。十分な析出強化作用を得るためには20体積%以上の析出量が必要であるが、85体積%を超える過剰析出量では延性低下が懸念される。好適な粒径,析出量を得る上では、所定温度域において段階的な時効処理を行うことが好ましい。
このようにして製造されたIr基合金は、優れた高温特性を活用し、ガスタービン,飛行機用エンジン,化学プラント,ターボチャージャーロータ等の自動車用エンジン,高温炉等の部材に好適な素材として使用される。また、高強度,高弾性で耐食性,耐磨耗性も良好なことから、肉盛り材,ゼンマイ,バネ,ワイヤ,ベルト,ケーブルガイド等の素材としても使用される。
【実施例1】
【0006】
表1の組成をもつIr基合金を不活性ガス雰囲気中でアーク溶解により溶製し、インゴットに鋳造した。インゴットから切り出した試験片に表2の時効処理を施した後、組織観察,組成分析,特性試験を行った。
各試験結果を表3に示す。表中、γ’,B2はγ’相,B2〔Ir(Al,W)〕相の共存を示す。
Al,Wの添加量が比較的少ない試験No.1~3の試料では、析出物としてγ’相のみが検出されたが,ほぼ純Irの合金No.6(試験No.9)と比較するとビッカース硬さが倍近く高くなっており,Al,Wの添加効果が窺われる。合金No.3~5(試験No.4~8)は、図2の組織写真に示すようにγ’相の他にB2構造のIr(Al,W)相が析出していた。B2相のある試料は,γ’相のみが析出した合金よりも更に硬質化しており,B2相が材料の強化に寄与していることが判る。
試験No.4~6は、同一の合金No.3に異なる時効を施したものであるが,単一の時効処理を施した試験No.4に比べ、複数回(試験No.5),それも低温で時効(試験No.6)した方が一層微細な析出物が得られ,析出強化が図られている。
本発明例の試料は、何れも優れた高温特性を示し、1000℃まで300HV以上のビッカース硬さを維持している。また、Ir本来の優れた耐酸化性と相俟って、耐酸化性も良好であった。
試験No.9は、耐酸化性が良好であったものの、Al,Wの添加量不足のため固溶強化,析出強化の何れも期待できず、ビッカース硬さは低いままであった。試験No.10は、析出物がB2相のみで且つ粗大に成長したため、硬さが劣っていた。
【表1】
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【表2】
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【表3】
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図2は、1300℃で時効したNo.3合金の光学顕微鏡写真である。溶解時に形成されたB2構造のIr(Al,W)相が粒界に析出していることが判る。同じ材料の粒内をTEM観察すると、図3の暗視野像にみられるように、極めて微細な析出物が均一分散しており、従来から使用されているNi基超合金と同様な組織をもっていた。析出物の結晶構造は、図4の電子回折図形からL1構造であることが確認された。
熱処理されたNo.3合金は、図5に示すビッカース硬さの温度依存性から明らかなように高温でも優れた強度を示し、1000℃前後の高温雰囲気に曝されても400HVを越えるビッカース硬さを維持していた。
図5では、Ni基耐熱合金として従来から使用されているMar-M247,Waspaloyの硬さも併せ示すが、本発明例のNo.3合金の方が室温から1000℃の温度域で優れた高温強度を有していることが判る。
Mar-M247(残部はNi)
Cr:8.5% Co:10% W:10% Ta:3% Al:5.5% Ti:1% Hf:1.5% C:0.15%
Waspaloy(残部はNi)
Cr:19.5% Mo:4.3% Co:13.5% Al:1.4% Ti:3% C:0.07%
【実施例2】
【0007】
表4は、Ir-Al-W合金にグループ(I)の合金成分を添加した合金設計を示す。Al,W含有量は表1のNo.3合金に基づいて決定した。所定組成に調製した合金を実施例1と同様に溶解,熱処理し、特性試験した。得られた特性を表5に示す。
グループ(I)の元素は、何れも微量添加するため、金属組織に大きな変化は観察されなかった。B,C,Mg,Caは共に粒界に偏析する傾向を示し、何れも高温クリープ強度の向上に寄与することが知られているが、硬さに関してはNo.3合金とそれほど大きな違いは無く、実施例1と同様に高温まで高い強度が保たれている。Y,Laの添加はNi基合金の耐酸化性向上に有効なことが知られているが、本発明の成分系においても同様な効果が得られた。両者の添加による強度特性の低下は小さいため、耐酸化性の向上に非常に有効であることが理解できる。
【表4】
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【表5】
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【実施例3】
【0008】
表6は、Ir-Al-W合金にグループ(II)の合金成分を添加した合金設計を示す。所定組成に調製された合金を実施例1と同様に溶解,熱処理し、特性試験を行った。得られた特性を表7に示す。
グループ(II)の元素のうち、Co,NiはIrと置換し、固溶強化に寄与する。試験No.18,19ではこれらの元素を添加したことによりIr-Al-W三元系合金に比べて著しい硬さの上昇が確認された。試験No.18ではB2相の析出強化も寄与するため、強度の上昇が特に顕著である。表7の結果をみると、概してAl量が多く、B2相が析出している方が高いビッカース硬さの値を示している。
図1によると、Cr,Feはマトリックス(γ)安定化元素であり、γ’相の析出量減少,固溶温度の低下をもたらすが、試験No.20,22から室温、高温共に添加によって硬さが向上していることが判る。Crは耐酸化性・耐食性の向上に顕著な効果を奏するので実用上不可欠な元素であり、Feは安価な強化元素として期待できるが、両者共に過剰添加は有害相の出現,加工性劣化の原因となるため、添加量の調整が必要である。
Mo,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Taは何れもγ’相を安定化する元素であり、室温,高温共に優れた特性を示している。しかし、これらの元素は脆い金属間化合物相を形成する傾向が大きいので、実際の合金設計では添加量の調整が必要である。
No.26~30合金で添加したRh,Re,Pd,Pt,RuはIrと同様の貴金属元素であり、優れた組織安定性と耐酸化性を有しており、高温でも硬さの低下が少ない。
【表6】
JP0004833227B2_000007t.gif
【表7】
JP0004833227B2_000008t.gif
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4