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明細書 :成長性および病虫害抵抗性が向上した植物、並びにその作出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5205563号 (P5205563)
登録日 平成25年3月1日(2013.3.1)
発行日 平成25年6月5日(2013.6.5)
発明の名称または考案の名称 成長性および病虫害抵抗性が向上した植物、並びにその作出方法
国際特許分類 A01H   5/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01H 5/00 A
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 9
全頁数 29
出願番号 特願2007-557888 (P2007-557888)
出願日 平成19年2月8日(2007.2.8)
国際出願番号 PCT/JP2007/052216
国際公開番号 WO2007/091634
国際公開日 平成19年8月16日(2007.8.16)
優先権出願番号 2006032895
優先日 平成18年2月9日(2006.2.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年9月29日(2009.9.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
発明者または考案者 【氏名】小川 健一
【氏名】松本 雅好
【氏名】白石 友紀
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 国際公開第02/016655(WO,A1)
欧州特許出願公開第01033405(EP,A1)
特表2001-520522(JP,A)
Plant Cell Physiol.,2003年,vol. 44, no. 7,p. 655-660
Photosynthesis: Fundamental aspects to global perspectives, 13th International congress on photosynthesis,Allen Press,2005年,p. 468-470. (CD-ROM),Edited by van der Est A and Bruce D
Plant J.,1998年,vol. 14, no. 2,p. 147-157
調査した分野 A01H 5/00
C12N 15/09
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするDNA植物の成長性および病虫害抵抗性向上させるための、使用。
【請求項2】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするDNAが下記(a)~(d)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の使用
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、10個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるDNAと少なくとも90%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こるストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【請求項3】
グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするDNAを植物に導入する工程を包含することを特徴とする成長性および病虫害抵抗性が向上した植物の作出方法。
【請求項4】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするDNAが下記(a)~(d)からなる群より選択されることを特徴とする請求項3に記載の成長性および病虫害抵抗性が向上した植物の作出方法。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、10個以下のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるDNAと少なくとも90%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こるストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【請求項5】
上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするDNAを導入した植物から、向上した成長性および病虫害抵抗性を示す植物を選択する工程をさらに包含する、請求項3に記載の作出方法。
【請求項6】
上記選択する工程によって選択された植物が、改善された虫害抵抗性を示す、請求項5に記載の作出方法。
【請求項7】
上記選択する工程によって選択された植物が、改善された病害抵抗性を示す、請求項5に記載の作出方法。
【請求項8】
上記病害抵抗性が、炭疽病菌の感染に対する抵抗性である、請求項7に記載の作出方法。
【請求項9】
上記病害抵抗性が、トマト斑葉細菌病菌の感染に対する抵抗性である、請求項7に記載の作出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、成長性および病虫害抵抗性が同時に向上した植物、並びにその作出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作物の生産性の向上は、経験に基づく品種改良や農薬の使用による病害虫の駆除等により行われてきた。しかし、近年の分子生物学の急速な進展により、今日では形質転換植物などの分子育種の手法により、生産性の高い作物の開発が可能となっている。作物の生産性を向上させるための具体的な技術としては、成長促進(成長性の向上)、病虫害抵抗性付与、ストレス抵抗性付与、矮性付与、開花時期の調節などを挙げることができ、これら以外にも直接的および間接的に生産性向上に結びつく技術の範囲は多岐にわたる。
【0003】
直接的に生産性向上に結びつく技術としては、植物の成長促進(成長性の向上)が挙げられる。例えば、非特許文献1には、シアノバクテリア由来のfructose-1,6/sedoheptulose-1,7-bisphosphataseを過剰発現させたタバコは成長性が向上することが報告されている。また、非特許文献2には、転写因子Dof1を導入したシロイヌナズナは低窒素環境下において成長性が向上することが報告されている
また、作物に病虫害抵抗性を付与することで、病虫害を受けた作物と比較して生産性を向上させることができる。これまでにも、特定の遺伝子を導入して病虫害抵抗性植物を作出する技術が報告されている。例えば、特許文献1には恒常的活性型のGタンパク質αサブユニット遺伝子で形質転換することによりイネ白葉枯病に対し耐病性が高められたイネの作出方法が開示されている。また、特許文献2にはディフェンシンタンパク質をコードする遺伝子で形質転換されたイネが、イネいもち病およびイネ白葉枯病に抵抗性を示すことが開示されている。
【0004】
しかしながら、病虫害抵抗性を付与することが、必ずしも生産性の向上に繋がらない場合もある。例えば、病虫害抵抗性を含むストレス抵抗性遺伝子を植物体で構成的に発現させた場合、植物体の成長性が損なわれることが知られており(非特許文献3~5を参照)、成長性を確保するためには何らかの工夫を要することが記載されている。

【特許文献1】特開2005-192496(公開日:平成17年(2005年)7月21日)
【特許文献2】特開2003-88379(公開日:平成15年(2003年)3月25日)
【非特許文献1】Miyagawa Y, Tamoi M, Shigeoka S. Overexpression of a cyanobacterial fructose-1,6-/sedoheptulose-1,7-bisphosphatase in tobacco enhances photosynthesis and growth. Nat Biotechnol. 2001 Oct;19(10):965-9.
【非特許文献2】Yanagisawa S, Akiyama A, Kisaka H, Uchimiya H, Miwa T. Metabolic engineering with Dof1 transcription factor in plants: Improved nitrogen assimilation and growth under low-nitrogen conditions. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 May 18;101(20):7833-8. Epub 2004 May 10.
【非特許文献3】Berrocal-Lobo M, Molina A, Solano R. (2002) Constitutive expression of ETHYLENE-RESPONSE-FACTOR1 in Arabidopsis confers resistance to several necrotrophic fungi. Plant J. 29: 23-32.
【非特許文献4】Kasuga M, Liu Q, Miura S, Yamaguchi-Shinozaki K, Shinozaki K. (1999) Improving plant drought, salt, and freezing tolerance by gene transfer of a single stress-inducible transcription factor. Nat Biotechnol. 17: 287-291.
【非特許文献5】Tang X, Xie M, Kim YJ, Zhou J, Klessig DF, Martin GB. (1999) Overexpression of Pto activates defense responses and confers broad resistance. Plant Cell. 11:15-29.
【発明の開示】
【0005】
上述のように、植物の成長を促進(成長性を向上)させる技術と植物に病虫害抵抗性を付与する技術とは個別の技術として研究されてきた。それゆえ、植物に成長性の向上と病虫害抵抗性を同時に付与するためには、2つの異なる技術を適用しなければならなかった。具体的には、例えば形質転換により成長性の向上と病虫害抵抗性を同時に付与するためには、2つの異なる遺伝子を導入しなければならないが、この場合、それぞれを単独で導入した場合と同様の表現型が同時に発現しないことも予想される。
【0006】
一方、1つの技術の適用で成長性の向上と病虫害抵抗性を同時に付与できる技術が見出されれば、上記のような問題は生じることがなく、作物の生産性向上に大いに貢献することが期待できる。しかしながら、このような技術は過去に報告されていない。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は成長性および病虫害抵抗性が同時に向上している形質転換植物、並びに当該形質転換植物の作出方法を提供することにある。
【0008】
本発明者らは、植物の成長における活性酸素の制御機構を研究する過程において、シロイヌナズナの培養細胞および単離葉緑体においてグルタチオン結合性のプラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼを同定した。野生型シロイヌナズナから当該タンパク質をコードする遺伝子をクローニングし、大腸菌に組換えタンパク質を発現させ、その機能解明を行った。また、当該研究過程において上記グルタチオン結合性のプラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナを作出したところ、当該形質転換植物体は、野生型植物体と比較して成長性が向上していることを見出した。さらに、当該当該形質転換植物体は、病虫害抵抗性も同時に向上していることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る形質転換植物は、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするDNAが導入されており、成長性および病虫害抵抗性が向上していることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る成長性および病虫害抵抗性が向上した植物の作出方法は、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするDNAを植物に導入する工程を包含することを特徴としている。
【0011】
本発明に係る形質転換植物および本発明に係る成長性および病虫害抵抗性が向上した植物の作出方法において、上記グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするDNAは下記(a)~(d)からなる群より選択されることが好ましい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
【0012】
本発明によれば、植物の成長性および病虫害抵抗性が同時に向上した植物を、1つの遺伝子を導入することにより、作出することが可能となる。したがって、本発明は、作物の生産性の向上や、バイオマス生産性の向上に大いに貢献できるという効果を奏する。また、化学肥料や農薬の使用を大幅に軽減できるという効果を奏する。
【0013】
さらに、原料として適当な植物に導入すれば、現在はコスト的に原油に依存している様々な工業原料やエネルギーの生産を植物で行うことが可能になることも期待できる。
【0014】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】FBA1遺伝子のクローニングに用いたプライマーおよび制限酵素サイトを示す図である。
【図2】FBA1遺伝子を導入した形質転換植物におけるFBA1mRNAのRT-PCRの結果を示す電気泳動画像である。
【図3】FBA1遺伝子のT-DNA挿入変異体(049B07)におけるT-DNA挿入位置を示す図である。
【図4】炭疽病菌(Colltotricum higginsianum)の胞子を接種したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)の葉の写真(上段)およびトリパンブルー染色を施した葉の写真(下段)である。
【図5】炭疽病菌(Colltotricum higginsianum)の胞子を接種したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)の葉において、侵入できた菌の数を示すグラフである。
【図6】炭疽病菌(Colltotricum higginsianum)の胞子を接種したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)の葉にトリパンブルー染色を施し、侵入菌糸を観察した顕微鏡写真である。
【図7】炭疽病菌(Colltotricum higginsianum)の胞子を接種したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)の接種後24日目の植物体の写真である。
【図8】トマト斑葉細菌(Pseudomonas syringae pv. tomato strain DC3000)の胞子を接種したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)の接種後5日目の植物体の写真である。
【図9(a)】サリチル酸処理したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)におけるPR1mRNAのRT-PCRの結果を示す電気泳動画像である。
【図9(b)】サリチル酸処理したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)におけるPR1の相対mRNA量を示すグラフである。
【図10(a)】ジャスモン酸処理したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)におけるPDF1.2mRNAのRT-PCRの結果を示す電気泳動画像である。
【図10(b)】ジャスモン酸処理したシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)におけるPDF1.2の相対mRNA量を示すグラフである。
【図11】野生型シロイヌナズナ(Col-1)およびFBA1遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ(35S-FBA1/Col-0)の播種後42日目の植物体の写真である。
【図12】野生型シロイヌナズナ(Col-1)、FBA1遺伝子のT-DNA挿入変異体(049B07)、FBA1遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ(35S-FBA1/Col-0)、並びにFBA1のシステイン残基がアラニン残基に置換されるように変異を導入した4種類のFBA1遺伝子をそれぞれ導入した形質転換シロイヌナズナの播種後30日目の植物体の写真である。
【図13】野生型シロイヌナズナ(Col-1)、FBA1遺伝子のT-DNA挿入変異体(049B07)、FBA1遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ(35S-FBA1/Col-0)、並びにFBA1のシステイン残基がアラニン残基に置換されるように変異を導入した4種類のFBA1遺伝子をそれぞれ導入した形質転換シロイヌナズナにおいて、各植物のロゼット葉の湿重量および全ロゼット葉数を比較したグラフである。
【図14】野生型シロイヌナズナ(Col-0)およびFBA1遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ(35S-FBA1)を大気と同じCO2条件および高CO2条件で生育させたときの播種後25日目の植物体の写真である。
【図15】野生型シロイヌナズナ(Col-0)およびFBA1遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ(35S-FBA1)を大気と同じCO2条件および高CO2条件で生育させたときのロゼット葉の湿重量およびロゼット葉数をそれぞれ比較したグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明の完成に至る背景を簡単に説明する。
【0017】
本発明者らは、植物において適当な濃度の活性酸素が生合成の基質としてばかりでなく植物の発育における制御因子として必要であり、また適当な濃度の活性酸素で種子や植物体、葉や根などを処理することで植物の生育を改善できることを示してきた。さらに、活性酸素の成長改善効果には細胞内のグルタチオンが関与することを示してきた。このような研究の一環として、本発明者らは、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)培養細胞中のグルタチオン結合性タンパク質をスクリーニングし、そのなかにプラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼと推定されるタンパク質を同定した(Ito, H., Iwabuchi, M. and Ogawa, K. (2003) Plant Cell Physiol. 44, 655-660.)。
【0018】
その後、野生型シロイヌナズナから当該タンパク質をコードするcDNAをクローニングし、大腸菌に組換えタンパク質を発現させ、精製した当該組換えタンパク質を用いてその機能解明を試みた。
【0019】
ここで、シロイヌナズナにはフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(以下「FBA」と記す。)をコードしていると考えられる遺伝子が少なくとも7個あり、そのうちの3個がプラスチドにターゲットすると予想されている。発明者らはこれら3個のFBAについて、上記グルタチオン結合性のFBAを「FBA1」、他の2つを「FBA2」および「FBA3」と名付けて実験を行った。その結果、
1)組換えFBA1がFBAの活性をもつこと、
2)組換えFBA1がグルタチオンで制御されること、
3)FBA1、FBA2およびFBA3のいずれもジチオスレイトールや還元型チオレドキシン(Trx)で抑制されるが、FBA1のみがグルタチオンで再活性化されること、
などが明らかとなった。また、FBA1遺伝子のT-DNA挿入変異体から単離した葉緑体にはFBA1活性が欠失していたことから、FBA1は実際に葉緑体に存在することが示された(Ogawa, K. Matsumoto, M. and Ito, H., (2005) Vol.1 , Photosynthesis: Fundamental Aspects to Global Perspectives, edited by Van der Est A and Bruce D. Lawrence, Allen Press, Inc., 468-469. 、松本雅好、小川健一、第23回日本植物細胞分子生物学会大会・シンポジウム要旨集、2005年8月4日発行)。
【0020】
本発明者らは、さらに研究を進めるため、FBA1遺伝子を野生型シロイヌナズナに導入し、形質転換植物を作出した。そして、当該FBA1で形質転換されたシロイヌナズナの成長性が向上していること、および、病虫害抵抗性が向上していることを見出した。
【0021】
以下、本発明に係る形質転換植物、並びにその作出方法ついて詳細に説明する。
【0022】
本発明は、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(FBA1)をコードするDNAが導入されており、成長性および病虫害抵抗性が向上している形質転換植物、並びにその作出方法を提供する。
【0023】
本発明において、「成長性が向上している」とは、FBA1をコードするDNAが導入された植物と導入されていない植物を比較した場合に、FBA1をコードするDNAが導入された植物の方が、成長量が多い、または成長速度が速いことが意図され、より具体的には、生重量または乾重量が重いこと、種子・果実の生産量が多いまたは乾重量が重いこと、葉の枚数が多いことなどが意図される。
【0024】
また、本発明において、「病虫害抵抗性が向上している」とは、FBA1をコードするDNAが導入された植物と導入されていない植物を比較した場合に、FBA1をコードするDNAが導入された植物の方が、病原真菌や病原細菌に対して病兆の進行が遅れること、または軽減されること、および害虫の食害が遅延、または軽減されることが意図される。ここで虫害抵抗性とは、害虫の忌避物質の生産による忌避効果および天敵を誘引する物質や害虫に対する毒性物質の生産による害虫の駆除または増殖抑制効果をいう。
【0025】
本発明に用いられるグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(以下「FBA1」と記す。)をコードするDNAは、FBA活性を有し、葉緑体などのプラスチドに存在し、グルタチオンにより活性が制御されるものであればよく、その由来する植物は特に限定されない。葉緑体のFBA活性として従来から生化学的な方法で測定されたものは、シロイヌナズナのFBA1と同様にpH依存性を示すことが知られていること、また、葉緑体ストロマ内で光合成の際に働く酵素の最適pHは、光合成を行うときのpH8に適合していることが容易に予想できることから、多くの植物にFBA1が存在することが以前より示唆されている。なお、FBA活性とは、フルクトースー1,6-ビスリン酸をジヒドロキシアセトンリン酸とグリセルアルデヒド3-リン酸に変換する反応を可逆的に触媒する活性が意図される。
【0026】
本発明に用いられるFBA1をコードするDNAとしては、シロイヌナズナ由来のFBA1遺伝子を挙げることができる。シロイヌナズナ由来のFBA1は配列番号1に示されるアミノ酸配列からなり、それをコードする遺伝子(全長cDNA)は配列番号3に示される塩基配列からなる。配列番号3に示される塩基配列のうち、第145位~第147位が開始コドンであり、第1318位~第1320位は終止コドンである。すなわち、シロイヌナズナFBA1遺伝子は、配列番号3に示される塩基配列のうち、第145位~第1320位をオープンリーディングフレーム(ORF)として有している。配列番号2に示される塩基配列は、シロイヌナズナFBA1遺伝子のORFの塩基配列である。なお、シロイヌナズナのFBA1遺伝子の塩基配列と相同性を有する遺伝子としては、イネのゲノム上に見出される遺伝子(dbj|BAB55475.1)を挙げることができる。
【0027】
また、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFBA1活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明に好適に用いることができる。発明者らは後述の実施例で示すように、シロイヌナズナFBA1のアミノ酸配列(配列番号1)において、第72位のシステインを他のアミノ酸(実施例ではアラニン)に置換した変異FBA1をコードするDNA、または第187位のシステインを他のアミノ酸(実施例ではアラニン)に置換した変異FBA1をコードするDNAを導入したシロイヌナズナは、変異を有しないFBA1をコードするDNAを導入したシロイヌナズナと同様に成長性が向上することを実証している。
【0028】
ここで「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0029】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0030】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。
【0031】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0032】
また、本発明においては、FBA1活性を有するタンパク質をコードし得る限りにおいて、配列番号2に示される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを用いることもできる。このようなDNAには、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAが含まれる。
【0033】
本発明において「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。
【0034】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同性の高いDNAを取得することができる。
【0035】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 2264-2268 (1990); Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993) )を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J. Mol. Biol., 215: 403 (1990) )。
【0036】
本発明に用いられるFBA1をコードするDNAは、ゲノムDNAに由来しても、cDNAに由来してもよく、また化学合成DNAであってもよい。
【0037】
本発明に用いられるFBA1をコードするDNAを取得する方法として、公知の技術により、FBA1をコードするDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、シロイヌナズナFBA1をコードするDNAの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。
【0038】
あるいは、本発明に用いられるFBA1をコードするDNAを取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、シロイヌナズナFBA1をコードするcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に用いられるFBA1をコードするDNA断片を大量に取得できる。
【0039】
本発明に用いられるDNAは、適当な植物の組織や細胞を供給源として取得することができる。植物としては特に限定されず、例えば、シロイヌナズナに近縁な他のアブラナ科の植物、イネ、タバコ、アブラヤシ、ポプラなどが挙げられる。なお、上述のように、多くの植物にFBA1活性を有するタンパク質の存在が示唆されており、当業者は、シロイヌナズナ以外の植物においてもFBA1をコードするDNAが存在することを容易に予想し得る。
【0040】
本発明において、FBA1をコードするDNAを植物に導入する方法としては、FBA1をコードするDNAの上流に植物細胞で機能するプロモーターを、下流に植物細胞で機能するターミネーターを連結した組換え発現ベクターを構築し、植物に導入する方法を好適に用いることができる。
【0041】
後述する実施例においては、植物細胞で機能するプロモーターとして、構成的に発現するカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターを用いているがこれに限定されない。カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター以外の構成的プロモーターとしては、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーターなどを挙げることができ、これらのプロモーターも本発明に好適に用いることができる。
【0042】
構成的プロモーター以外のプロモーターとしては、rbcSプロモーター、Cabプロモーターなどの緑葉組織特異的なプロモーターやHSP70プロモーターなどの誘導性プロモーターが挙げられるが、これに限定されない。また、葉緑体のゲノムに直接挿入する場合のプロモーターは、rbcLプロモーターなどが挙げられるが、葉緑体内で機能するプロモーターであればこれに限定されない。
【0043】
植物細胞で機能するターミネーターとしては、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子由来のターミネーター、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーターなどを挙げることができる。
【0044】
植物の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に限定しない。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系等のバイナリーベクターを用いることが好ましい。バイナリーベクターとしては、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221などを挙げることができる。
【0045】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、用いられるFBA1をコードするDNAが発現可能な植物を適宜選択すればよい。
【0046】
ここで、シロイヌナズナのFBA1をコードするDNAを用いる場合、形質転換の対象となる植物は、シロイヌナズナに近縁なアブラナ科の植物が好適であるがこれに限定されない。例えば、タバコ、ポプラ、レモンなどは、シロイヌナズナの遺伝子で形質転換植物を作出し得ることが報告されている(Franke R, McMichael CM, Meyer K, Shirley AM, Cusumano JC, Chapple C. (2000) Modified lignin in tobacco and poplar plants over-expressing the Arabidopsis gene encoding ferulate 5-hydroxylase. Plant J. 22: 223-234; Pena L, Martin-Trillo M, Juarez J, Pina JA, Navarro L, Martinez-Zapater JM. (2001) Constitutive expression of Arabidopsis LEAFY or APETALA1 genes in citrus reduces their generation time. Nat Biotechnol. 19: 263-267)。したがって、シロイヌナズナのFBA1をコードするDNAを上記のような植物に導入すれば、成長性および病虫害抵抗性が向上した種々の形質転換植物が作出できるものと考えられる。
【0047】
植物細胞への組換え発現ベクターの導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著,植物遺伝子操作マニュアル,1990,27-31pp,講談社サイエンティフィック,東京)などにしたがって無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。
【0048】
また、パーティクルガン法を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450~2000psi程度の圧力、4~12cm程度の距離で行う。
【0049】
目的のDNAが導入された細胞または植物組織は、まずカナマイシン耐性やハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性マーカーで選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
【0050】
目的のDNAが植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、導入されたDNAに特異的プライマーを設計してPCRを行う。その後、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウムなどによって染色し、目的の増幅産物を検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。
【0051】
ゲノム内にFBA1をコードするDNAが導入された形質転換植物体がいったん得られれば、当該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができる。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、プロトプラストなど)を得て、それらを基に目的の植物体を量産することも可能である。
【0052】
以上のようにして得られた形質転換植物は、野生型植物と比較して成長性および病虫害抵抗性が向上していることが期待される。成長性の向上は、同時に播種した野生型植物と植物体の大きさ、重量などを比較することにより確認することができる。また、病虫害抵抗性の向上は、例えば後述の実施例に記載のように、炭疽病菌(Colltotricum higginsianum)接種後の病兆を野生型植物と比較することにより確認することができる。
【0053】
本発明に係る形質転換植物の成長性は、シロイヌナズナの場合、極低照度(太陽光の50分の1程度)でも10~15%以上の増加が認められ、照度をその倍に上げると、30~40%程度以上の増加、太陽光の20分の3程度の光では70~80%程度以上の増加が見込まれる。また、CO2濃度を上昇させた場合、通常の植物に比べて、2~3倍以上の成長性を示し、好適な条件では10~20倍以上の成長性を示す。こうして作出される植物は、林床などの照度が限られた場所でも生育が可能となり、植物の生育可能面積を増加せせることができる。また、高照度下では極めて成長性を改善できるので、畑などの開放地では作物の生産性を飛躍的に向上させることが期待できる。一方、工業およびエネルギー原料として注目される植物に導入すれば、生産コストを大幅に低下させ、それら植物を石油の代替原料にすることが期待できる。パルプ用の樹木、たとえばポプラに導入すれば、効率的な植林と育林が可能になり、新たな森林伐採を抑制できると期待される。乾燥地の植物に導入した場合には、乾燥地の植物の生産性を向上させることができ、緑化の促進もしくは砂漠化の進行の抑制に寄与できると期待できる。
【0054】
本発明に係る形質転換植物の病虫害抵抗性は、真菌だけでなく細菌、および害虫にもおよぶ広いスペクトルを有している。サリチル酸やジャスモン酸は病原菌に感染したときに作られる病害抵抗性に重要なシグナル物質である。本発明に係る形質転換植物は、サリチル酸による病害抵抗性応答もジャスモン酸による病害抵抗性応答のどちらも増強されているという、従来にはない顕著な特徴を有している。また、ジャスモン酸は虫害抵抗性にも関与している物質であることが知られている(Ozawa, R., Arimura, G., Takabayashi, J., Shimoda, T., and Nishioka, T. (2000) Involvement of jasmonate- and salicylate-related signaling pathways for the production of specific herbivore-induced volatiles in plants: Plant Cell Physiol. 41: 391-398.、高林純示編集(2003) 蛋白質核酸酵素 Vol 48 (13) 2003年10月号)。それゆえ、本発明に係る形質転換植物が虫害に対する抵抗性も向上していることを、当業者は容易に理解する。
【0055】
〔実施例〕
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(1)使用植物
野生型シロイヌナズナは、Columbia (Col-0)を用いた。内生グルタチオン量が減少した変異体cad2-1 (Howden, R., Anderson, C.R., Goldsbrough, P.B. and Cobbett, C.S. (1995) A cadmium-sensitive, glutathione-deficient mutant of Arabidopsis thaliana. Plant Physiol. 107: 1067-1073.)は、Dr. Christopher S. Cobbett (The University of Melbourne, Parkville, Australia) より提供されたものを用いた。
【0057】
植物は、正方形のプラスチックポット(6.5×6.5×5 cm)の中に底からバーミキュライト(旭工業、岡山)、クレハ培養土(クレハ園芸培土、呉羽化学、東京)、バーミキュライトを2:2:1の割合で3層に入れた土壌に播種し、生育温度22℃、長日(16-h 明/8-h 暗)または短日(10-h 明/14-h 暗)条件で生育させた。
【0058】
(2)FBA1遺伝子のクローニング、変異FBA1遺伝子の作製、およびFBA1過剰発現形質転換植物の作出
4週齢のシロイヌナズナの野生型Columbia(Col-0)からトータルRNAを単離し、Prostar first strand RT-PCRキット(Stratagene, La Jolla, CA, U.S.A)を用いてRT-PCR(テンプレートRNA量 5.0μg)を行い、cDNAを作製した。
【0059】
図1に示したように、FBA1のcDNA配列(配列番号3)に基づいて設計した下記の特異的なプライマーを用いて、完全長cDNAを2つの断片としてPCRにより増幅し、それぞれの断片をpGEM-Tベクター(Promega, Madison, WI, USA)にTA-クローニングした。
1F-1: 5'-GGATCCTATGGCGTCTGCTAG-3'(配列番号4)
1R-1: 5'-ATCTGCAACGGTCTCGGGAGA-3'(配列番号5)
1F-2: 5'-GTGTGGTCCGAGGTGTTCTTCT-3'(配列番号6)
1R-2: 5'-GAGCTCGAGTAGGTGTAACCCTTG-3'(配列番号7)
2つの断片をBstpIサイトで融合し完全長cDNAを含むベクター(pGEM-FBA1)を構築した。形質転換植物を作出するためにpGEM-FBA1を制限酵素BamHIとSacIで処理後、断片をpBI121ベクターに導入した。
【0060】
また、FBA1タンパク質に存在する4つのシステイン残基をそれぞれアラニン残基に置換した変異型FBA1タンパク質(fba1C72A, fba1C128A, fba1C156A, fba1C187A)を発現させるためのコンストラクトを作製した。上記pGEM-FBA1を作製するために用いた2つのcDNA断片のうちBamHI-BstpI断片を含むコンストラクトには4つのシステイン残基全てがコードされている。そこで、まず、プライマーpGEM-del-ApaΙとプライマーSP6の組み合わせでPCRを行いpGEMベクターのマルチクローニングサイトを消失させた断片を増幅した。一方、プライマー Ald-C72A、Ald-C128A、Ald-C156AまたはAld-C187AとプライマーT7との組み合わせでPCRを行い、部位特異的な変異を導入した断片を得た。PCRは95℃ 5分を1サイクル、94℃ 30秒、60℃ 1分、72℃ 1分を30サイクルの条件で行った。
T7: 5'-CCGCTGAGCAATAACTAGC-3'(配列番号8)
SP6: 5'-ATTTAGGTGACACTATAGAAT-3'(配列番号9)
pGEM-del-ApaΙ: 5'-TCACTATAGGGCGAATTGGTACCGA-3'(配列番号10)
Ald-C72A : 5'-AATGCAACCGCTGGGAAGAGG-3'(配列番号11)
Ald-C128A: 5'-TTTGTCGATGCCTTGCGCGATG-3'(配列番号12)
Ald-C156A: 5'-GTCTTGGGCCCAAGGCTTGG-3'(配列番号13)
Ald-C187A: 5'-AGTGTTCCCGCCGGTCCTTCA-3'(配列番号14)
2つのPCR産物0.5 μlずつを混合し、熱変性後除冷して(94℃ 10分、37℃ 15分、4℃ 35分)、LA-Taq (TAKARA BIO Inc., Tokyo, Japan) 0.5 μlを加えて72℃、3分間処理した。さらに、プライマーT7 (10 μM)とプライマーSP6 (10 μM)とを加えて94℃ 30秒、57℃ 1分、72℃ 1分を10サイクルのPCRを行った。制限酵素 ApaΙとBamHΙで消化後、pBluscript SKベクターにサブクローニングした。サブクローニング後、BamHΙとBstpΙの消化断片と、もう一方のcDNA断片(BstpΙ-SacΙ断片)を融合し、pBI121の発現ベクターに導入した。
【0061】
上記により作製した各pBI121発現ベクターをアグロバクテリウム法 (Clough, S.J. and Bent, A.F. (1998) Floral dip: A simplified method for Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana. Plant J. 16: 735-743. )を用いて、Col-0とcad2-1に導入し、形質転換植物を作出した。
【0062】
具体的には、選抜マーカーであるカナマイシンを含む寒天培地(1/2倍の濃度のムラシゲ-スクーグ培地)で選抜を繰り返し、カナマイシン入りの培地ですべての種子が生育できる段階(形質が分離しなくなった世代)になってから、RT-PCR解析により導入遺伝子の発現量を確認し、形質転換植物の作出を確認した。RT-PCRは、4週齢の形質転換シロイヌナズナの成葉3枚から、RNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN, Valencia, CA, USA)を用いて全RNAを抽出し、Prostar first Strand RT-PCR Kit (Stratagene, La, jolla, CA, USA)を用いてcDNA作製を行った後、premix EX-taq (TaKaRa, Otsu, Shiga, Japan)7.5 μl、 FBA1-F primer (1.33 μM)2μl、FBA1-R primer (1.33 μM)2μl、cDNA template (0.025 μg) 2μl、 H2O 1.5μlの反応液で、26 cycle (94℃ 30 sec, 58℃ 60 sec, 72℃ 60 sec)の条件で行った。コントロールとしては構成的に発現が認められるTubulin遺伝子を用いた。TubulinのRT-PCRは、Tublin-FとTublin-Rのprimerセットを用い、反応液は前述と同様とし、22 cycle (94℃ 30 sec, 58℃ 60 sec, 72℃ 60 sec)の条件で行った。PCR産物を1.2%アガロースゲル電気泳動で確認し、Agilent Technologies 2100 Bioanalyzer (Agilent Technologies, Hachioji, Japan)を用いて定量した。
FBA1-F: 5'-TCTGCTAGCTTGGTTAAGCCTAAC-3'(配列番号15)
FBA1-R: 5'-GGCATCGCGCAAGCAATCGACAAA-3'(配列番号16)
Tubulin-F: 5'-GTCCAGTGTCTGTGATATTGCAC-3'(配列番号17)
Tubulin-R: 5'-GCTTACGAATCCGAGGGTGC-3'(配列番号18)
電気泳動の結果を図2に示した。Tubulinは本生育条件で構成的に発現が認められるコントロール遺伝子ある。図2から明らかなように、35S-FBA1、35S-fba1C72A、35S-fba1C128A、35S-fba1C156Aおよび35S-fba1C187Aは、野生型(Col-0)と比較してFBA1 mRNA量が増加していることが確認された。同様に、35S-FBA1/cad2-1は、cad2-1と比較してFBA1 mRNA量が増加していることが確認された。
【0063】
なお、本実施例ではcDNAを用いて発現ベクターを構築したが、ゲノムDNAからイントロンを含むFBA1遺伝子をクローニングし、発現ベクターを構築して、植物に導入しても形質転換植物体が得られることを、当業者は容易に理解する。
【0064】
(3)FBA1遺伝子のT-DNA挿入変異体
シロイヌナズナのFBA1遺伝子にT-DNAが挿入された変異体(GK Line ID 049B07)の種子(heterogenousな状態)をGABI-Kat (Germany http://www.gabi-kat.de/db)から購入した。T-DNAの挿入位置を図3に示した。図3に示したように、T-DNAとFBA1に特異的な下記のプライマーを設計し、ゲノムDNAを鋳型としたPCRにより、homogenousな変異体を選抜した。
T-1: 5'-CTGGTTTGCCCCAGCAGGCGAAA-3'(配列番号19)
F-1: 5'-GGGGAATAAAATGGTAAAGAGAAGGAGGC-3'(配列番号20)
F-2: 5'-GCAATAATCAGAGAATCTCACTCT-3'(配列番号21)
具体的な手順は以下のとおりである。
【0065】
上記GABI-Katから購入した種子を播種して2週間後の葉を2枚切り取り、1.5 mlのエッペンチューブに入れて乳棒で磨り潰した。100 μlのDNA抽出液(200 mM Tris/HCl pH 7.5, 250 mM NaCl, 2.5mM EDTA pH 8.0, 0.5% SDS)を入れ、よく撹拌した。10,080×gで10分間遠心後、上清80 μlを新しい1.5 mlのエッペンチューブに入れ、60 μlのイソプロパノールを加えて撹拌した。10,080×gで10分間遠心後、上清を廃棄し、200 μlの70%エタノールを入れ、よく撹拌した。10,080×gで5分間遠心後、上清を廃棄し、真空乾燥(TOMY Micro Vac)を15分間行った。20 μlのTEで溶解し、10,080×gで10分間遠心後、上清をPCRの鋳型に用いた。PCR反応液の組成は、25 mM MgCl2 2 μl, 10×PCR buffer 2 μl, 10 mM dNTP 0.5 μl, Sigma Taq DNA polymerase 0.15 μl, 鋳型DNA溶液 1.0 μl, primer1 1.0 μl, primer2 1.0 μl, H2O 12.35 μlとし、25cycle(94℃ 30sec, 60℃ 60sec, 72℃ 120sec)で行った。プライマーの組み合わせは、F-1とF-2およびF-1とT-1の2種類で行った。PCR後、1.2%アガロースゲルによる電気泳動を行い、プライマーF-1とT-1との組み合わせのみにバンドが見られる個体をhomogenousなFBA1のT-DNA挿入変異体として得た。なお、当該FBA1のT-DNA挿入変異体を、以下「049B07」と記載する。
【0066】
(4)炭疽病菌(Colltotricum higginsianum)の接種実験1
供試菌としてアブラナ科植物を宿主とする炭疽病菌:Colltotricum higginsianumを用いた。菌をPDA斜面培地上で22℃、10日間培養後、胞子を白金耳で掻き取り、滅菌水で懸濁して濃度を1×105spore/mlに調整した。
【0067】
4週齢のシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)の葉1枚あたり、胞子懸濁液10 μlを2箇所にスポットした。ポットをトレイに置き、十分な湿度を保持するために透明なプラスチック製のカバーで蓋をし、22℃、長日条件で6日間インキュベートした。
【0068】
接種後6日目に菌を接種した葉を写真撮影し、感染によって壊死した細胞を染色するため、Koch and Slusarenkoの方法(Koch, E. and Slusarenko, A. (1990) Arabidopsis is susceptible to infection by a downy mildew fungus. Plant Cell 2, 437-445)に準じてトリパンブルー染色を行った。すなわち、菌を接種した葉を、エタノールで1/2希釈したLactophenol-trypane blue溶液(10ml lactic acid, 10 ml glycerol, 10g phenol, 10 mg trypane blue in 10 ml water)に沈め、3分間ボイルした。その後、2.5 g/mlの抱水クロラール(Wako, Tokyo, Japan)により洗浄した。
【0069】
結果を図4に示した。図4の上段は菌を接種した葉の写真であり、下段は菌を接種した葉のトリパンブルー染色後の写真である。矢印は接種箇所を示す。図4から明らかなように、Col-0(野生型)は接種箇所が壊死していた(トリパンブルー染色により濃い青色に染色されている)が、FBA1の形質転換植物(35S-FBA1/Col-0)では壊死はほとんど認められなかった。一方、cad2-1にFBA1を導入した35S-FBA1/cad2-1では、35S-FBA1を導入した効果がなく、接種箇所に壊死が認められた。
【0070】
上記のトリパンブルー染色を行った後、光学顕微鏡で胞子数と侵入菌糸のある胞子数を計測した。結果を図5に示した。35S-FBA1/Col-0は、他の系統と比較して進入菌糸数が少ないことが明らかとなった。
【0071】
さらに、上記のトリパンブルー染色を行った後、光学顕微鏡(×250)で侵入菌糸を撮影し、その画像を図6に示した。35S-FBA1/Col-0は、他の系統と比較して侵入菌糸が短く、かつ、少ないことが明らかとなった。
【0072】
(5)炭疽病菌(Colltotricum higginsianum)の接種実験2
上記(4)と同様の手順で、炭疽病菌:Colltotricum higginsianumの胞子懸濁液(濃度:1×102 spore/ml)を調製した。
【0073】
4週齢のシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)に噴霧接種した。ポットをトレイに置き、十分な湿度を保持するために透明なプラスチック製のカバーで蓋をし、22℃、長日条件で24日間インキュベートした。
【0074】
図7に接種後24日目の各系統の植物体の写真を示した。図7から明らかなように、35S-FBA1/Col-0では、はじめの噴霧で感染した葉のみが壊死を起こしているが、新しい葉が形成され更なる感染は起きていないことがわかる。一方、他の系統の植物体では殆どの葉が壊死を起こしており、新しく形成された葉にも感染が広がっていることが確認された。
【0075】
(6)トマト斑葉細菌(Pseudomonas syringae pv. tomato strain DC3000)の接種実験
植物病原細菌としてシロイヌナズナにも感染することが知られているトマト斑葉細菌病菌(Pseudomonas syringae pv. tomato strain DC3000)を用いて、植物病原細菌に対する抵抗性を調べた。グリセロールストック(-80℃)からKB寒天培地 (proteose peptone No.3 20 g; K2HPO4 1.4 g; MgSO4・7H2O 0.4 g; glycerol 10 ml/L)に画線して28℃で2日間培養し、Cell Scrapter (Asahi Techno Glass, Funahashi, Chiba, Japan)で菌を掻き取り、適量の10 mM MgCl2溶液で懸濁し、濃度を108cfu/mlに調整した。その懸濁液で、4週齢のシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)に噴霧接種を行った。22℃長日条件でインキュベートした。
【0076】
結果を図8に示した。図8から明らかなように、35S-FBA1/Col-0は、他の系統に比べて壊死している葉が明らかに少なかった。導入される植物側(ホスト植物)についてであるが、Col-0に導入した場合に比べ、cad2-1に導入した場合には効果が薄れることから、グルタチオンの合成能の高い系統の植物に導入するほうがFBA1の導入の効果は高いといえる。
【0077】
(7)サリチル酸処理
4週齢のシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)に1 mMのサリチル酸を噴霧処理し、湿度を保持するために透明のプラスチック製のカバーで蓋をした。ここで、サリチル酸は、植物に病原菌(特に細菌)が感染したときに植物体内で合成される病害抵抗反応のためのシグナル物質であり、PR-1はサリチル酸のシグナルで発現が制御されている抗細菌性のタンパク質である。
【0078】
噴霧処理後、6 h、12 h、24 h目に各植物体から葉3枚を採取し、液体窒素で固定した。全RNAを精製し、18S rRNAの量を揃えてcDNAを作製後、premix EX-taq(TaKaRa, Shiga, Japan) 7.5 μl, PR1-F primer(1.33 μM) 2 μl, PR1-R primer(1.33 μM) 2 μl, cDNA template (0.025 μg) 2 μl, H2O 1.5 μlの反応液を調製し、30cycle(94℃ 30sec, 58℃ 60sec, 72℃ 60sec)でRT-PCRを行った。
【0079】
用いたプライマーを以下に示す。
PR1-F: 5'-CAGCCCCAAGACTACTTCAATGC-3'(配列番号22)
PR1-R: 5'-GGTCGTTCAATAAGAATGACAGACG-3'(配列番号23)
PCR産物を1.2%アガロースゲルによる電気泳動に供し、Bio-Analyzer (Agilent Technologies, Germany)による定量を行った。結果を図9(a)および図9(b)に示した。図9(a)は電気泳動の結果を示し、図9(b)はPR1の相対mRNA量を示している。図9(a)および図9(b)から明らかなように、35S-FBA1/Col-0は他の系統と比較して、サリチル酸処理24時間後でもPR-1遺伝子の発現を高く維持していることが示された。導入される植物側(ホスト植物)に関しては、Col-0に導入した場合に比べ、cad2-1に導入した場合には効果が薄れることから、グルタチオンの合成能の高い系統の植物に導入するほうがFBA1導入の効果は高いといえる。
【0080】
(8)ジャスモン酸処理
4週齢のシロイヌナズナ(Col-0, 35S-FBA1/Col-0, cad2-1, 35S-FBA1/cad2-1, 049B07)に50 μMのジャスモン酸を噴霧処理し、湿度を保持するために透明のプラスチック製のカバーで蓋をした。ここで、ジャスモン酸は、植物が病原菌(特に真菌)に感染したり昆虫による食害を受けたときに植物体内で合成される病虫害抵抗反応のためのシグナル物質として知られおり、PDF1.2はジャスモン酸のシグナルで発現が制御される抗菌タンパク質である。
【0081】
噴霧処理後、6 h、12 h、24 h目に各植物体から葉3枚を採取し、液体窒素で固定した。RNAを精製し、18S rRNAの量を揃えてcDNAを作製後、premix EX-taq(TaKaRa, Shiga, Japan) 7.5 μl, PDF1.2-F primer(1.33 μM) 2 μl, PDF1.2-R primer(1.33 μM) 2 μl, cDNA template (0.025 μg) 2 μl, H2O 1.5 μl, 27cycle (94℃ 30sec, 58℃ 60sec, 72℃ 60sec)でRT-PCRを行った。
【0082】
PDF1.2の増幅に用いたプライマーを以下に示す。
PDF1.2-F: 5'-TAAGTTTGCTTCCATCATCACCC-3'(配列番号24)
PDF1.2-R: 5'-GTGCTGGGAAGACATAGTTGCAT-3'(配列番号25)
上記(5)と同様に、PCR産物を1.2%アガロースゲルによる電気泳動に供し、Bio-Analyzerによる定量を行った。結果を図10(a)および図10(b)に示した。図10(a)は電気泳動の結果を示し、図10(b)はPR1の相対mRNA量を示している。図10(a)および図10(b)から明らかなように、35S-FBA1/Col-0は他の系統と比較して、ジャスモン酸処理後24時間後のPDF1.2遺伝子の発現が高いことが示された。導入される植物側(ホスト植物)に関しては、Col-0に導入した場合に比べ、cad2-1に導入した場合には効果が薄れることから、グルタチオンの合成能の高い系統の植物に導入するほうがFBA1導入の効果は高いといえる。
【0083】
(9)植物体の成長性
9-1 形質転換植物(35S-FBA1/Col-0)と野生型植物(Col-0)との比較
FBA1遺伝子を導入した形質転換シロイヌナズナ(35S-FBA1/Col-0)は野生型(Col-0)と比較して成長性が大幅に向上していることが観察された。
【0084】
図11は6週齢のCol-0と35S-FBA1/Col-0とを比較した写真である。明らかに35S-FBA1/Col-0の方が大きいことがわかる。
【0085】
9-2 アミノ酸置換FBA1を導入した形質転換植物の成長性
FBA1のアミノ酸配列(配列番号1)中のシステイン残基の重要性を明らかにするために、それぞれのシステイン残基をアラニンに置換した酵素を発現するシロイヌナズナ(35S-fba1C72A,35S-fba1C128A,35S-fba1C156A,35S-fba1C187A)を上記(2)に記載の手順で作出した(例えば、C72Aは配列番号1の第72位のシステインがアラニンに置換されたFBA1酵素を発現するコンストラクトを導入したことを示している)。
【0086】
図12に播種後30日目の各植物体の写真を示した。また、図13に各植物におけるロゼット葉の湿重量および全ロゼット葉数を比較したグラフを示した。図12および図13から明らかなように、35S-fba1C72Aおよび35S-fba1C187Aは35S-FBA1/Col-0と同様に、野生型(Col-0)と比較して成長性が向上していた。一方、35S-fba1C128Aおよび35S-fba1C156Aは、生育照度によって効果が異なるものの、野生型(Col-0)と同程度の成長性を示した。この結果から、FBA1の機能に重要な役割を果たしているシステインは、配列番号1における第128位および第156位のシステインである可能性が示唆された。一方、第72位および第187位のシステインは他のアミノ酸に置換しても植物の成長性を向上させた。したがって、FBA1のアミノ酸配列において本来のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異FBA1をコードする遺伝子を導入した場合でも、植物の成長性を向上させることができることが実証された。
【0087】
また、図13から明らかなように、成長性の向上は、ロゼット葉の枚数の増加を伴っていることから、FBA1遺伝子の導入によって成長量のみならず成長速度も早められることが示された。
【0088】
9-3 CO2固定能力向上の確認
35S-FBA1植物の潜在的なCO2の固定能力が向上しているかを検討するために、CO2濃度を0.3%に制御し、大気のCO2濃度で生育させた場合と比較した。結果を図14および図15に示した。図14および図15に示したように、野生型(Col-0)においてもCO2濃度の上昇に伴って成長性の向上が認められたが、35S-FBA1植物はCO2濃度の上昇に伴う成長性の顕著な向上が認められた。この結果から、FBA1遺伝子を導入することでCO2の固定能力を著しく上昇させることができることが示された。
【0089】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【0090】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用の可能性】
【0091】
本発明は成長性および病虫害抵抗性が同時に向上している植物を提供するものであり、農林業への応用が期待される。
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図5】
2
【図9(b)】
3
【図10(b)】
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【図13】
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【図15】
6
【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
10
【図8】
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【図9(a)】
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【図10(a)】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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