TOP > 国内特許検索 > 微小物体操作・計測用の局所蛍光標識マイクロデバイス > 明細書

明細書 :微小物体操作・計測用の局所蛍光標識マイクロデバイス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4919232号 (P4919232)
公開番号 特開2009-294008 (P2009-294008A)
登録日 平成24年2月10日(2012.2.10)
発行日 平成24年4月18日(2012.4.18)
公開日 平成21年12月17日(2009.12.17)
発明の名称または考案の名称 微小物体操作・計測用の局所蛍光標識マイクロデバイス
国際特許分類 G01N  11/00        (2006.01)
FI G01N 11/00 A
請求項の数または発明の数 7
全頁数 11
出願番号 特願2008-146448 (P2008-146448)
出願日 平成20年6月4日(2008.6.4)
審判番号 不服 2011-007075(P2011-007075/J1)
審査請求日 平成21年5月11日(2009.5.11)
審判請求日 平成23年4月5日(2011.4.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】生田 幸士
【氏名】池内 真志
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100099265、【弁理士】、【氏名又は名称】長瀬 成城
参考文献・文献 特表2005-500914(JP,A)
特表2008-509821(JP,A)
特開2004-230528(JP,A)
特開2003-001599(JP,A)
調査した分野 G01H,M,N,V
特許請求の範囲 【請求項1】
微小物体の操作を可能とするためのマイクロデバイスであって、このマイクロデバイスはUV硬化性エポキシ系光硬化性樹脂にフェムト秒パルスレーザを照射して3次元的に硬化させた一つの部位と、前記未硬化の樹脂を洗浄した後、UV硬化性エポキシ系硬化性樹脂に蛍光色素を混合した樹脂によりマイクロデバイス上の対象物との接触部位の反対端部に形成され、かつ、光圧力によって捕捉される局所領域としての少なくとも1つの部位を備え、前記3次元的に硬化させた一つの部位は対象物の操作に適した形状あるいは機構を有する部位として形成され、かつ、対象物との接触部位に、酵素、タンパク、核酸、抗体、細胞外マトリクス、脂質、糖鎖、無機触媒の少なくとも1つが固定されており、また、接触部位の反対端部に形成される1つの部位は光圧力によって捕捉される円柱状突起として成され、前記突起のみに蛍光標識が付与されて構成されていることを特徴とするマイクロデバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1つの部位のX、Y、Zいずれかの方向の寸法が100μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロデバイス。
【請求項3】
前記少なくとも1つの蛍光標識された検出領域のX-Y方向の寸法が、50μm未満であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロデバイス。
【請求項4】
前記蛍光標識された局所領域に、別の蛍光特性を有する蛍光標識を施したことを特徴とする請求項1に記載のマイクロデバイス。
【請求項5】
前記蛍光標識された複数の局所領域が、それぞれ異なる蛍光特性を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロデバイス。
【請求項6】
前記少なくとも1つの蛍光標識された局所領域が、蛍光色素、無機蛍光粒子、量子ドット、蛍光ビーズのいずれか、またはこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のマイクロデバイス。
【請求項7】
前記光圧力によって流体中で捕捉される少なくとも1つの部位に作用する力と平衡点からの変位の関係が、理論または実験的に校正されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロデバイス。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微小物体の操作を行うためのマイクロデバイスに関する。より詳細には、本発明は、液中等(液体はもとより、気体や真空中にての微小物体の操作を行うためのマイクロデバイスにも適用が可能である)の流体中で微小物体を操作するための、局所的に蛍光ラベルされた3次元構造を有するマイクロデバイスおよび、それを用いた位置・作用力計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液中に分散した微小物体の操作・計測には、延伸したガラスピペットや、MEMS技術を用いて作製した微小ピンセット、あるいはマイクロビーズ等が用いられてきた。光ピンセットと呼ばれるレーザによって捕捉されたマイクロビーズと呼ばれる微小球を用いてマイクロ・ナノサイズの対象物の操作・計測は、屈折率の大きい微小球に光が入射する際に、屈折によって光の運動量が変化するが、その運動量変化に応じた力が微粒子表面に生じる。これらの合力がレーザ焦点に向くために、微粒子を引き寄せるように働く原理を利用したものである。中でも、光学的、電気的、あるいは磁気的な作用力によって捕捉されたマイクロビーズを用いて、微小物体を操作する手法は、密閉された容器内でも適用可能なことや、多数のマイクロビーズを分散させることにより多数の対象物の操作が可能なこと、さらに可動範囲が大きいこと等から、細胞や生体分子を扱う研究において多用されている(下記特許文献1参照)。
【0003】
しかし、マイクロビーズは形状が球状体に限定されるため、掴んだり、引っ張ったり、捩じったりする局所的な操作や、単分子の操作を行うことは困難であった。そのため、対象物の操作に適したより複雑な構造を有し、かつマイクロビーズと同様に液中分散可能な、各種マイクロデバイス(下記非特許文献1および特許文献2、3参照)が開発されてきた。そして、本件発明者は、前述したような光駆動ナノマニピュレータとして、長さ10μmに満たない2自由度ナノニードル、2自由度ナノムーバ、2自由度ナノロボットハンドをこれまでに開発し、数μm径の生細胞の個別遠隔操作に成功している。

【特許文献1】特許公開2001-165840
【非特許文献1】Applied Physics Letters,Vol.82(1),pp.133-135,2003
【特許文献2】特許公表2005-500914
【特許文献3】特許公開2007-97475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、これらのマイクロデバイスは、顕微鏡に接続されたカメラによって、明視野下で観察される。しかし、細胞や生体分子を扱う研究においては、対象物を蛍光物質で染色している場合が多いため、蛍光観察下で操作可能なマイクロデバイスが求められている。そのためには、蛍光観察下でもマイクロデバイスの位置を検出できなければならない。しかしながら、マイクロデバイスを蛍光強度の高い材料で作製した場合、蛍光のバックグラウンドが高くなり、対象物自体の蛍光の観察が妨げられるという問題がある。
【0005】
そこで本発明では、前記課題を解決して、微小物体を操作するためのマイクロデバイスであって、蛍光観察下で位置を検出することが可能であり、かつ、対象物の蛍光観察を妨げないマイクロデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明は、
微小物体の操作を可能とするためのマイクロデバイスであって、このマイクロデバイスはUV硬化性エポキシ系光硬化性樹脂にフェムト秒パルスレーザを照射して3次元的に硬化させた一つの部位と、前記未硬化の樹脂を洗浄した後、UV硬化性エポキシ系硬化性樹脂に蛍光色素を混合した樹脂によりマイクロデバイス上の対象物との接触部位の反対端部に形成され、かつ、光圧力によって捕捉される局所領域としての少なくとも1つの部位を備え、前記3次元的に硬化させた一つの部位は対象物の操作に適した形状あるいは機構を有する部位として形成され、かつ、対象物との接触部位に、酵素、タンパク、核酸、抗体、細胞外マトリクス、脂質、糖鎖、無機触媒の少なくとも1つが固定されており、また、接触部位の反対端部に形成される1つの部位は光圧力によって捕捉される円柱状突起として成され、前記突起のみに蛍光標識が付与されて構成されていることを特徴とするマイクロデバイスである。
また、前記少なくとも1つの部位のX、Y、Zいずれかの方向の寸法が100μm未満であることを特徴とするマイクロデバイスである。
また、前記少なくとも1つの蛍光標識された検出領域のX-Y方向の寸法が、50μm未満であることを特徴とするマイクロデバイスである。
また、前記蛍光標識された局所領域に、別の蛍光特性を有する蛍光標識を施したことを特徴とするマイクロデバイスである。
また、前記蛍光標識された複数の局所領域が、それぞれ異なる蛍光特性を有することを特徴とするマイクロデバイスである。
また、前記少なくとも1つの蛍光標識された局所領域が、蛍光色素、無機蛍光粒子、量子ドット、蛍光ビーズのいずれか、またはこれらの混合物を含むことを特徴とするマイクロデバイスである。
また、前記光圧力によって流体中で捕捉される少なくとも1つの部位に作用する力と平衡点からの変位の関係が、理論または実験的に校正されていることを特徴とするマイクロデバイスである。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、微小物体の操作を可能とするためのマイクロデバイスであって、静電気力、磁気力、光圧力、流体力等によって捕捉される少なくとも1つの部位と、対象物の操作に適した形状あるいは機構を有する少なくとも1つの部位とからなり、かつ、該マイクロデバイス上の対象物との接触部位から十分離れた少なくとも1つの局所領域に蛍光標識を有することにより、蛍光観察下でのマイクロデバイスの位置の検出を容易にするとともに、対象物自体の蛍光の観察との両立が可能となり、微小な力の計測や細胞内小器官等の弾性等をより精度良く計測することが可能となる。
【0008】
また、前記少なくとも1つの部位のX、Y、Zいずれかの方向の寸法が100μm未満である場合は、微小物体の操作をより精確に行うことが可能となる。
また、前記マイクロデバイスは、樹脂、ガラス、金属、生体高分子、機能性微粒子、またはこれらの混合物から構成される場合は、液による溶解等の影響を受けることがなく、液中での確実な操作が可能となる。
さらに、前記各部位が前記樹脂、ガラス、金属、生体高分子、機能性微粒子、またはこれらの混合物の材料の内、異なる材料によって形成されている場合は、適材を適所に使用して、対象となる微小物体との点接触、線接触、面接触、あるいは対象物体の搬送、回転、切断、圧縮、引っ張り、穿孔等の操作に適した形状を採用するのに適した素材を自由に選定することができて、設計の自由度が向上する。
【0009】
さらにまた、前記静電気力、磁気力、光圧力、流体力等によって流体中で捕捉される少なくとも1つの部位が、誘電体微粒子、磁性微粒子、透明微粒子の少なくとも1つを含む場合は、静電気力、磁気力、光圧力、流体力等によって流体中で前記部位を捕捉する力が向上し、操作すべき対象物を、誘電体微粒子、磁性微粒子、透明微粒子の少なくとも1つを含むマイクロデバイスによってより効果的に操作することができる。
また、前記少なくとも1つの部位の表面に、親水基を有するタンパク、高分子またはこれらの混合物が、結合、混合、吸着、あるいはコーティングされている場合は、表面の接着力が低下し、液中での操作がより容易となる。
さらに、前記対象物の操作に適した形状あるいは機構を有する少なくとも1つの部位に、酵素、タンパク、核酸、抗体、細胞外マトリクス、脂質、糖鎖、無機触媒の少なくとも1つが固定されている場合は、対象物への接触部に化学的あるいは生化学的作用を加えることができて、試験条件等の選択領域の幅が増大する。
【0010】
さらに、前記対象物の操作に適した形状あるいは機構を有する少なくとも1つの部位に、酵素、タンパク、核酸、抗体、細胞外マトリクス、脂質、糖鎖、無機触媒の少なくとも1つを含む液体、あるいは微粒子群が供給される構成となっている場合は、対象物への接触部に液体、あるいは微粒子群の供給により、化学的あるいは生化学的作用を連続的に加えることができる。
さらにまた、前記少なくとも1つの部位が、リソグラフィー、化学的エッチング、物理的エッチング、レーザーによる除去・切断加工、ステレオリソグラフィー、放電加工、マイクロ切削、モールディング、エンボス、ソフトリソグラフィー、インプリント、インクジェット、印刷のいずれか、又はこれらの組み合わせによって作製された場合は、蛍光観察に使用される励起波長下での蛍光発光の要否の選択に伴う加工、特にマイクロデバイスの局所領域での位置検出用の蛍光標識の付与等が各種加工法によって容易に行える。
【0011】
また、前記少なくとも1つの蛍光標識された検出用領域のX-Y方向の寸法が、50μm未満である場合は、μmオーダの微細な対象物の弾性等の変化をより精度良く計測することが可能となる。
さらに、前記蛍光標識された検出用領域以外の領域に、別の蛍光特性を有する蛍光標識を施した場合は、マイクロデバイスの位置の検出はもとより、方向等や姿勢も蛍光標識の識別力によって精度よく検出することが可能となる。
【0012】
さらにまた、前記蛍光標識された複数の検出用領域が、それぞれ異なる蛍光特性を有する場合は、複数の検出用領域を容易に識別でき、マイクロデバイスの位置や方向さらには姿勢の検出精度が向上する。
また、前記少なくとも1つの蛍光標識された検出用領域が、蛍光色素、無機蛍光粒子、量子ドット、蛍光ビーズのいずれか、またはこれらの混合物を含む場合は、マイクロデバイス上の局所領域に位置検出用の蛍光標識を付与する方法として、固定あるいは内包させるだけで容易に行える。
【0013】
さらに、前記静電気力、磁気力、光圧力、流体力等によって流体中で捕捉される少なくとも1つの部位に作用する力と平衡点からの変位の関係が、理論または実験的に校正されている場合は、変位と力の校正式から、対象物を操作中のマイクロデバイスに加わる対象物からの作用力を計算により容易に求めることができる。
【0014】
以上のように、本発明によれば、特に液中で、微小な対象物を蛍光観察しながら、同時に、対象物に搬送、回転、切断、圧縮、引っ張り、穿孔等の操作を加え、さらに同時に対象物からの作用力を計測することができる。その結果、細胞や生体分子等を蛍光観察しながら、同時に操作を加え、それに対する反応を観察するという、新たな実験手法が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の局所蛍光標識マイクロデバイスの概略図、図2は本発明の局所蛍光標識マイクロデバイスを用いた操作・計測システムの概略図、図3は前記マイクロデバイスおよび装置を用いて、細胞を操作中のCCDカメラで取得した蛍光像図、図4は図3に示したマイクロデバイスの突起のみを上面から拡大した模式図、図5は本発明によって求められた、イースト菌細胞圧縮時における細胞膜の変位量と細胞膜への作用力との時系列図である。
【0016】
本発明のマイクロデバイスは、好適には、樹脂、ガラス、金属、生体高分子、機能性微粒子、またはこれらの混合物から構成される。さらに、該マイクロデバイス内の部位ごとに異なる材料が使用されてもよい。本発明のマイクロデバイスの少なくとも1つの構成部は、静電気力、磁気力、光圧力、流体力のいずれか、またはこれらの組み合わせによって、液中で操作可能な材料からなり、操作に適した形状を有している。本発明のマイクロデバイスの、前記部分とは異なる、さらに少なくとも1つの構成部は、対象となる微小物体との点接触、線接触、面接触、あるいは対象物体の搬送、回転、切断、圧縮、引っ張り、穿孔等の操作に適した形状を有している。
【0017】
本マイクロデバイスの対象物と接触する部位においては、対象物との接着性あるいは非接着性を制御する目的で、少なくとも表面上の一部領域に適切な高分子が存在していることが望ましい。また、対象物への化学的、あるいは生化学的作用を加えることを目的として、対象物との接触部位に、酵素、タンパク、核酸、抗体、細胞外マトリクス、脂質、糖鎖、無機触媒の少なくとも1つが固定されている、もしくはそれらを含む液体あるいは微粒子群が供給される構成となっていてもよい。多くの場合、本発明の実施形態において、マイクロデバイスのX-Y-Zの各次元は100μm未満の構造を形成する。より好ましくは、X-Y-Zの各次元が10μm未満の構造を形成し、さらに好ましくは、少なくとも1つの部分の寸法が500nm未満となる。
【0018】
本発明のマイクロデバイスの少なくとも1つの部分は、公知のリソグラフィー、化学的エッチング、物理的エッチング、レーザーによる除去・切断加工、ステレオリソグラフィー、放電加工、マイクロ切削、モールディング、エンボス、ソフトリソグラフィー、インプリント、インクジェット、印刷のいずれか、又はこれらの組み合わせによって作製される。多くの場合、本発明の実施形態において、該マイクロデバイスの主要部分は、蛍光観察に使用される励起波長下で、蛍光を発しない材料が選択される。該マイクロデバイスを用いた微小物質操作において、対象物質と近接する該マイクロデバイス上の領域から十分離れた、該マイクロデバイス上の局所領域のみに、位置検出用の蛍光標識が付与される。
【0019】
本発明のマイクロデバイス上の局所領域に蛍光を付与する方法としては、蛍光色素、無機蛍光粒子、量子ドット、蛍光ビーズの少なくとも1つからなる材料を、該局所領域表面に固定する、または、該局所領域に内包させることによって実現される。本発明のマイクロデバイスは、該マイクロデバイス上に少なくとも1つの局所蛍光標識された検出用の領域を有し、より好ましくは、2つの蛍光標識された検出用領域を有し、さらに好ましくは3つ以上の蛍光標識された検出用領域を有する。本発明のマイクロデバイスは、蛍光観察下において、該マイクロデバイス上の蛍光が付与された検出用領域からの蛍光シグナルを光学的に取得することによって、位置を検出することが可能である。該マイクロデバイス上の蛍光を付与された領域が2つの場合、該マイクロデバイスの位置に加え、方向も検出することが可能であり、さらに、蛍光を付与された領域が3つ以上の場合には、姿勢をも検出することが可能である。
【0020】
本発明の多くの実施形態では、該マイクロデバイスは、液中において操作のために印加される静電気力、磁気力、光圧力、流体力のいずれか、又はこれらの組み合わせによる外力との平衡点、即ち、該マイクロデバイスに印加される外力の合ベクトルが0となる位置および姿勢を有する。そのような実施形態では、該マイクロデバイスを用いて対象物を操作中の該マイクロデバイスの位置および姿勢と、当初の平衡点での位置および姿勢との変位から、予め理論的あるいは実験的に求められた、変位と力の校正式から、対象物を操作中の該マイクロデバイスに加わる、対象物からの作用力を計算により求めることができる。
【実施例】
【0021】
本実施例は、液中で細胞を圧縮した際の作用力を計測するための、光圧力によって操作されるマイクロデバイスである。図1は本発明の以下の実施例で使用される局所蛍光標識マイクロデバイスの概略図である。本実施例でのマイクロデバイスは、縦5μm、横10μm、高さ1μmのU字型のフレーム1の先端に、縦5μm、高さ5μm、厚さ1μmの平板2が固定されている。U字型フレーム1上の平板と反対の端部には円柱状の突起3が形成されており、この突起3のみに蛍光が付与されている。また、この突起3は光圧力によるトラップに最適な形状に形成されており、この突起3にレーザー光4を対物レンズ5を通して集光することにより、突起部に光圧力が作用し、突起部がレーザー焦点6に捕捉される。平板2と対向する位置に壁7が設置されており、レーザー焦点6を移動させることにより、平板2と壁7の間に載置された細胞8が圧縮される。
【0022】
本発明者が開発した前述の光駆動マイクロデバイスは、二光子ナノ光造形法によって作製する。非線形現象である二光子吸収を用いた3次元マイクロ加工法である。二光子吸収とは、光子の密度が非常に高いとき、二つの光子が同時に吸収される現象である。この現象は焦点近傍でのみ発生する。この現象を利用して、紫外線レーザ等により液体から固体に固まる光硬化性樹脂を準備しておくことで、焦点以外では通常の一光子吸収が起きるが、エネルギーが足りずに樹脂は硬化しない。しかしながら、焦点付近では二光子吸収は起きるので、二つの光子を吸収し、近赤外線の半波長の紫外線を照射したのと同様の現象が起きて樹脂が硬化する。レーザを操作することで任意の3次元マクロ構造物を構築することが可能である。
【0023】
本マイクロデバイスにおける円柱状の突起3以外の部分(1、2、7。以下、第1の部分)は、UV硬化性エポキシ系光硬化性樹脂(ディーメック、SCR701)から作製される。この樹脂を2光子吸収ステレオリソグラフィーによって、3次元的に硬化させ、構造を作製する。図示しての詳述はしないが、まず、未硬化の樹脂が顕微鏡スライドガラス上に載置され、対物レンズで集光されたフェムト秒パルスレーザー(756nm、80MHz、Tsunami、スペクトラフィジクス)が未硬化の樹脂内に照射されることにより、約100nm四方の体積が硬化する。レーザーの集光点をX、Y、Z方向に移動させることにより、目的のマイクロデバイスの第1の部分の構造が形成される。次に、未硬化の樹脂を洗浄した後、UV硬化性エポキシ系光硬化性樹脂に蛍光色素ローダミンBを混合した樹脂を、第1の部位が形成されたスライドガラス上に載置し、前記と同じ手法により、円柱状の突起3の構造を形成する。これにより、本マイクロデバイスの突起3のみに蛍光が付与される。
【0024】
光駆動には、赤外線レーザを用いる。前記光駆動マイクロデバイスの後部にはトラップポイントと呼ぶ円柱状の突起を付加する工夫で光のトラップ力を数倍から数十倍の増大させることができる。マイクロビーズの場合と同様の原理で、トラップポイントはレーザ焦点に引き寄せられる。ガルバノスキャナミラーでレーザを走査すると、それに追従してマイクロデバイスが水溶液中で運動する。トラップポイントにレーザを集光させると、トラップポイントはバネのようにレーザ焦点に捕捉される。屈折率の大きいトラップポイントに光が入射する際、屈折によって光の運動量が変わり、その運動量変化に応じた力がトラップポイント表面に生じて、これらの合力はレーザ焦点にトラップポイントは引き寄せられるように作用する。レーザ焦点とトラップポイントに中心との距離が離れる程、合力は大きくなる。したがって、マイクロデバイスに作用する力Fとトラップポイント中心Xrからレーザ焦点XL までの変位δの関係を予め明らかにしておけば、変位δからトラップポイントに作用する外力を計測することが可能である。
【0025】
図2は以下の実施例で使用する本発明の局所蛍光標識マイクロデバイスを用いた操作・計測システムの概略図である。本装置システムは、マイクロデバイスの操作および計測に用いるものである。操作者は、コントローラリモコン9を操作し、その操作量を計算機10が取得する。計算機10は操作量を1組のガルバノミラー11の回転量に変換し、出力する。赤外レーザー光12は、ガルバノミラー11によって偏向され、対物レンズ13を通して、マイクロデバイスの突起14(前記図1の突起3に相当)に集光される。突起14はレーザー光の焦点に捕捉されているため、コントローラ9を操作することにより、マイクロデバイスを任意に操作することができる。マイクロデバイス14および、対象物15は、光路中に挿入されたダイクロイックミラー16によって照射される励起光17によって、蛍光を発し、蛍光像はダイクロイックミラー18により反射されて、CCDカメラ19により検出される。検出された蛍光像は、モニター20上に表示され、操作者に提示されると同時に、計算機10によって取得される。
【0026】
図3は前記マイクロデバイスおよび装置を用いて、細胞を操作中のCCDカメラで取得した蛍光像図である。本マイクロデバイスの局所蛍光標識された突起21(前記図1の突起3に相当)のみが高い蛍光シグナルを有し、他のU字型フレーム22、平板23、対抗壁24(それぞれ前記図1の1、2、7に相当)は蛍光シグナルを発していない。また、対象の細胞25(前記図1の8に相当)は本実施例では、蛍光を発していないが、可視化するべき分子に対応した蛍光修飾を加えることにより、該細胞内あるいは表面からの蛍光シグナルを操作と同時に観察することは容易である。さらに、このCCD画像を計算機に取得し、蛍光標識された突起21の重心位置を計算することで、マイクロデバイスの位置を正確に求めることができる。本実施形態での重心位置の計算アルゴリズムには、テンプレートマッチング、輝度重心、エッジ検出、ハフ変換等を用いているが、何らこれらに限られるものではない。この時、取得画像上で突起21を探索する範囲26を予め限定しておくことにより、計算時間を短縮することが可能である。
【0027】
図4は図3に示したマイクロデバイスの突起のみを上面から拡大した模式図である。前述の操作時、細胞25からマイクロデバイスに作用する力26と、レーザー光による光圧力27が平衡状態にある。計算機からガルバノミラーを介して出力されたレーザー光の焦点位置28と、CCDカメラによる画像から計算された突起の重心位置29との差分30を、予め用意された光圧力の校正式31に代入することにより、この時点で作用している光圧力27すなわち、細胞からの作用力26が計算される。
【0028】
図5は本発明によって求められ、イースト菌細胞を対象例とした圧縮時における細胞膜の変位量と細胞膜への作用力との時系列図である。点線で示された各時刻における、マイクロデバイスと細胞との位置関係が示されている。イースト菌細胞は、BSA1wt%添加したミリQ水に懸濁し、マイクロデバイスの前方に5μmの対抗壁を造形して、該対抗壁とマイクロデバイスとの間にイースト菌細胞を挟んで、0.5Hz周期で細胞圧縮をしながら、反力をリアルタイムで計測することに成功した。かくして、マイクロデバイスの位置と細胞反力が連続的に計測され、画像により、イースト菌細胞は最大で0.099μm変形したことが分かった。本実施形態では、局所的に蛍光標識されたマイクロデバイスを、光圧力によって操作することにより、蛍光観察下で、細胞周辺の蛍光バックグラウンドを上げることなく、細胞の観察と操作、作用力の計測が同時に実現された。
【0029】
以上、本発明の各実施の形態について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、微小物体の捕捉形態(静電気力、磁気力、光圧力、流体力等)、対象物の操作に適したデバイスの形状、機構、そのX-Y方向の寸法、対象物との接触部位からの蛍光標識の距離、マイクロデバイスの材質(樹脂、ガラス、金属、生体高分子、機能性微粒子、これらの混合物等またはそれらの混合物)、マイクロデバイスにおける表面の素材の特性(親水基を有するタンパク、高分子、またはこれらの混合物が結合、混合、吸着あるいはコーティングされる構成等)、マイクロデバイスにおける捕捉部位の素材の特性(誘電体微粒子、磁性微粒子、透明微粒子等。酵素、タンパク、核酸、抗体、細胞外マトリクス、脂質、糖鎖、無機触媒の少なくとも1つが固定されてもよいし、それらの1つを、含む液体、あるいは微粒子群が供給される構成)、形状あるいは機構、マイクロデバイスにおける捕捉部位の加工形態(リソグラフィー、化学的エッチング、物理的エッチング、レーザーによる除去・切断加工、ステレオリソグラフィー、放電加工、マイクロ切削、モールディング、エンボス、ソフトリソグラフィー、インプリント、インクジェット、印刷のいずれか、又はこれらの組み合わせ)、蛍光標識された検出用領域のX-Y方向の寸法、蛍光標識の蛍光特性、検出用領域における蛍光標識の作製形態(蛍光色素、無機蛍光粒子、量子ドット、蛍光ビーズのいずれか、またはこれらの混合物等)、静電気力、磁気力、光圧力、流体力等によって液中で捕捉される少なくとも1つの部位に作用する力と平衡点からの変位の関係の、理論または実験的に校正形態等については適宜選定できる。詳細な説明中の各諸元等については限定的に解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の局所蛍光標識マイクロデバイスの概略図である。
【図2】同、局所蛍光標識マイクロデバイスを用いた操作・計測システムの概略図である。
【図3】同、前記マイクロデバイスおよび装置を用いて、細胞を操作中のCCDカメラで取得した蛍光像図である。
【図4】同、図3に示したマイクロデバイスの突起のみを上面から拡大した模式図である。
【図5】本発明によって求められ、イースト菌細胞を例とした圧縮時における細胞膜の変位量と細胞膜への作用力との時系列図である。
【符号の説明】
【0031】
1 U字型のフレーム
2 平板(接触部位)
3 蛍光標識用の突起(トラップポイント)
4 レーザー光
5 対物レンズ
6 レーザー焦点
7 壁
8 対象物(細胞)
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4