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明細書 :胚培養容器

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5406481号 (P5406481)
公開番号 特開2010-045980 (P2010-045980A)
登録日 平成25年11月8日(2013.11.8)
発行日 平成26年2月5日(2014.2.5)
公開日 平成22年3月4日(2010.3.4)
発明の名称または考案の名称 胚培養容器
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12N   5/073       (2010.01)
FI C12M 3/00 A
C12N 5/00 202B
請求項の数または発明の数 4
全頁数 9
出願番号 特願2008-210756 (P2008-210756)
出願日 平成20年8月19日(2008.8.19)
審査請求日 平成23年6月13日(2011.6.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
発明者または考案者 【氏名】佐伯 和弘
【氏名】加藤 暢宏
【氏名】谷口 俊仁
個別代理人の代理人 【識別番号】100076406、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 勝徳
審査官 【審査官】鈴木 崇之
参考文献・文献 国際公開第2007/047825(WO,A1)
特表2005-536214(JP,A)
特開昭63-233777(JP,A)
特開2006-098337(JP,A)
調査した分野 C12M 1/00-3/10
C12N 5/073
WPI
Thomson Innovation
特許請求の範囲 【請求項1】
胚を収容して培養するためのウェルを有する胚培養容器であって、
合成樹脂を減圧下で成形してなり、
成形後のウェルの内壁面に直径0.2μm以上の孔が存在せず、かつ直径200μm~500μm、深さ100μm~300μmの円柱状のウェルが複数形成されていることを特徴とする胚培養容器。
【請求項2】
合成樹脂が熱硬化性樹脂である請求項1に記載の胚培養容器。
【請求項3】
熱硬化性樹脂がシリコーン樹脂である請求項に記載の胚培養容器。
【請求項4】
シリコーン樹脂が、ポリジメチルシロキサンである請求項に記載の胚培養容器。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は、体外受精胚やクローン胚を培養するための胚培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物胚の体外培養技術の進歩により、体外受精胚や体細胞クローン胚を胚盤胞期まで発生させることができるようになっている。哺乳動物胚の体外培養は、プラスチックシャーレ(培養容器)内に50μl程度の培養液のドロップを載せ、このドロップをミネラルオイルで被覆したのち、ドロップ内に胚を導入して胚を培養する方法、により行うのが一般的である。ただ、この方法では、数10個の胚を同一の培養液のドロップ内で集合培養しなければ、胚盤胞期胚を効率的に得ることができない(非特許文献1を参照。)。
【0003】
一方、体細胞クローン胚のように作製が困難な胚は、多数の胚を同時に作製・培養するこができない。そのため、前記方法によって体細胞クローン胚などから効率よく胚盤胞期胚を得ることは困難であり、少数胚でも効率的に発生させることができる培養系の開発が求められている。
【0004】
近年、培養皿の底面に穿設した微小なウェル内で胚を培養する方法(Well of well; WOW法)によって、少数胚でも効率的に胚盤胞へ発生させることができることが報告されている。しかし、この方法は、微小なウェルを手作業で穿設するため、同一形状のウェルを安定的に穿設することが難しく、容易に製造できなかった(非特許文献2を参照。)。

【非特許文献1】Nagao Y, Iijima R and Saeki K. Interaction between embryos and culture conditions during in vitro development of bovine early embryos. Zygote. 2008;16: 127-133.
【非特許文献2】Vajta G, Peura TT, Holm P, Paldi A, Greve T, Trounson AO, Callesen H. New method for culture of zona-included or zona-free embryos: the Well of the Well (WOW) system. Mol Reprod Dev. 2000; 55: 256-264.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、体細胞クローン胚のように多数の胚を作製することが困難であるため集合培養が困難な胚を、一つ一つ個別に培養することで胚盤胞期胚まで効率よく発生させることができるとともに、容易に製造できる胚培養容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の発明者らが、鋭意研究した結果、胚培養装置の表面に設けられているウェル内外における物質交換を抑制・防止することによって、少数胚であっても高効率かつ高品質で培養できることを発見し、この発明を完成させた。
【0007】
すなわち、この発明の請求項1に記載の胚培養容器は、胚を収容して培養するためのウェルを有する胚培養容器であって、合成樹脂を減圧下で成形してなり、成形後のウェルの内壁面に直径0.2μm以上の孔が存在せず、かつ直径200μm~500μm、深さ100μm~300μmの円柱状のウェルが複数形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
この発明の請求項に記載の胚培養容器は、請求項1に記載の胚培養容器であって、合成樹脂が熱硬化性樹脂のものである。
【0010】
この発明の請求項に記載の胚培養容器は、請求項に記載の胚培養容器であって、熱硬化性樹脂がシリコーン樹脂のものである。
【0011】
この発明の請求項に記載の胚培養容器は、請求項に記載の胚培養容器であって、シリコーン樹脂がポリジメチルシロキサンのものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明の胚培養容器を使用すれば、体外受精胚やクローン胚などの少数胚を高効率で培養することができ、得られる胚の品質も高い。そのため、哺乳動物の体外受精や体細胞クローンをより高効率で行うことができ、哺乳動物の品種改良等に貢献できる。また、ヒト胚の培養への適用により、生殖補助医療技術の改善にも貢献ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明の胚培養容器は、胚を収容して培養するためのウェルを有する胚培養容器であって、ウェル内壁面の多孔度が低く、ウェルの内外で実質的に物質交換できないものである。以下にその詳細について説明する。
【0014】
胚培養容器1は、図1に示すように、胚を収容して培養するためのウェル2が表面に設けられたものであり、その形状は特に限定する必要はないが、一般的には長方形のものが好ましい。また、胚培養容器1の材質についても、ウェル2の内外で実質的に物質交換できないのであれば特に限定する必要はなく、合成樹脂に加えてガラス等も使用できる。また、培養容器1は単独の材料だけで製造してもよいが、複数の材料を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
ウェル2の形状は、一般的な円柱状のほか、細胞を集めやすい断面がU字状のもの、V字状のもの、半球状のものが挙げられる。また、ウェル2の大きさは、1~数個程度の胚が入る程度の大きさであり、ウェル2の形状が円柱状の場合、その直径は200μm~500μm程度であり、深さは100μm~300μm程度である。
【0016】
ウェル2の内壁面は多孔度が低く、ウェルの内外で蛋白質、ホルモン、酸素等の各種の物質交換ができないようになっている。そのため、胚から分泌された物質がウェルの内部に蓄積し、分泌された物質が胚自らに作用(オートクライン、autocrine)することで、胚の生育が促進される。
【0017】
なお、ここでいう多孔度とは、一定面積に開いている孔の数のことであり、原子間力顕微鏡(AFM)で観察することによって計測する。また、多孔度が低いとは、直径0.2~0.5μmの孔が1,000,000個/mm2以下しか存在しないことを意味している。
【0018】
このような胚培養容器1は、例えば、胚培養容器の母型を準備しておき、この母型に熱硬化性樹脂を注いだのち、熱硬化性樹脂を減圧下でヒータ等によって加熱・硬化して成形することによって製造できる。なお、減圧下とは、培養容器周囲の気圧を大気圧よりも低くすることであり、多孔率をより効率よく低くするため、減圧して真空にすることが好ましい。
【0019】
前記熱硬化性樹脂としては、ウェルの内壁面の多孔度が低くなるのであれば特に限定することなく使用できる。中でも、成形が容易で低コストであり、生体親和性も高いことから、シリコーン樹脂、特にポリジメチルシロキサン(以下、PDMSと略記する。)が好ましい。
【0020】
なお、この発明の胚培養容器は、胚培養容器の母型に光硬化性樹脂を注いだのち、減圧下で光硬化性樹脂に紫外線等の光を照射して成形することによっても製造できる。さらに、この発明の胚培養容器は、多孔度が低く物質透過性の低い樹脂、例えばポリスチレン樹脂等をウェルの内壁面にコーティングすることによっても製造できる。加えて、この発明の胚培養容器は、抜き勾配を有する母型と離型剤を使用して、ポリスチレンなどの熱可塑性樹脂を減圧下で射出成形することによっても製造できる。
【0021】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明する。ただし、以下の実施例によって、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても制限されるものではない。
【実施例1】
【0022】
体外受精胚を使用して、培養容器の違いが胚盤胞期胚の発生率に与える影響について、PDMSを減圧下で成形してなる胚培養容器(以下、PDMSW-LPと省略する。)、PDMSを大気圧下で成形してなる胚培養容器(以下、PDMSW-APと省略する。)、従来技術であるWOW法による胚培養容器、市販の細胞培養プレートを使用して調べた。以下にその詳細について説明する。
【0023】
1.胚培養容器の作製
PDMSW-APとPDMSW-LPは母型を利用して作製した。母型は以下のようにして作製した。まず、片面研磨した3インチのシリコンウェハ上にネガ型厚膜フォトレジスト(SU-8 3050、化薬マイクロケム製)を1インチ角あたり1ml載せ、スピンコーター(1H-D7、MIKASA製)により2000rpmで5秒間コーティングした。定温乾燥炉(DO-300FPA、アズワン製)により90℃で40分間ソフトベーキングし、フォトレジストから溶媒を除去した。
【0024】
レジスト面に目的のパターンを描いたフォトマスク(特注品、トピック製)を接触させながら、自作の簡易露光装置により、365nmの紫外光を18.5秒間照射した。90℃で40分間ベークしたのち、現像液に約10分間浸して、余分なレジストを除去し、イソプロパノールで洗浄した。
【0025】
完成した母型を、培養皿の底面に接着剤により固定した。一方、PDMS(Slygard184、東レ・ダウコーニング製)を母剤10:触媒1(重量比)となるように、混合・攪拌した。混合したPDMSを真空デシケータ(240型、アズワン製)に移し、約40分間脱気した。
【0026】
PDMSW-APの場合は、脱気したPDMSを母型に注ぎ、大気圧下でフィルムヒータ(5Ω、共立電子製)により約120分間加熱してPDMSを固化し、PDMSフィルムを得た。また、PDMSW-LPの場合には、母型を真空デシケータ(240型、アズワン製)に入れ、脱気したPDMSを母型に注ぎ、真空デシケータ内で脱気(-0.08Mpaに減圧)しながら、フィルムヒータにより120分間加熱してPDMSを固化した。
【0027】
得られたPDMSシートをガラスボトムディッシュ(日本ジェネティックス製)の底面に酸素プラズマ処理によって接着させた。その結果、直径300μm、深さ200μmの円柱状のウェルが形成された胚培養容器、PDMSW-AP及びPDMSW-LPが得られた。
【0028】
得られた胚培養容器、PDMSW-APとPDMSW-LPの表面を原子間力顕微鏡(SPI3800、SII製)で観察した。その結果を図2に示す。なお、図2(a)はPDMSW-APの観察結果であり、図2(b)はPDMSW-LPの観察結果である。
【0029】
この図から、大気圧下で作製したPDMSW-APの表面には0.2~0.5μmの穴が10μm×10μmの中に128個(=1,000,000個以上/mm2以上)開いている(多孔度が高い)ことが確認できた。これに対して、減圧下でPDMSを固化したPDMSW-LPの表面には穴が開いていない(多孔度が低い)ことが確認できた。
【0030】
なお、WOW法による培養容器は、前記非特許文献2に記載の方法を一部修正して作製した。具体的には、アグリゲーションニードル(BLS製)を使用してペトリディッシュ(Becton Dickinson製)底面に微小なウェル(直径約300μm、深さ約250μm)を設けることにより、作製した。また、対照区(集合培養法)には、ペトリディッシュ(Becton Dickinson製)を使用した。
【0031】
2.体外授精及び体外受精胚の培養
体外受精及び体外受精胚の培養は、下記のSaekiらによる文献1及び2、Brackettらによる文献に従って、以下の(1)から(4)に記載の手順に沿って行った。
Saekiらによる文献1:Saeki K, Hoshi M, Leibfried-Rutledge ML, First NL. In vitro fertilization and development of bovine oocytes matured in serum-free medium. Biol Reprod. 1991; 44: 256-260.
Saekiらによる文献2:Saeki K, Nagao Y, Kishi M, Nagai M, Iritani A. Timing of completion of the first meiotic division in bovine oocytes after maintenance of meiotic arrest with cycloheximide and their subsequent development. J Vet Med Sci. 1998; 60: 523-526.
Brackettらによる文献:Brackett BG, and Oliphant G. Capacitation of rabbit spermatozoa in vitro. Biol Reprod. 1975; 12: 260-274
【0032】
(1)ウシ卵子の体外成熟培養
食肉処理場で採取したウシ卵巣を25℃の生理食塩水で保温しながら実験室に持ち帰った。持ち帰ったウシ卵巣から、21G注射針(テルモ製)を装着した10mlシリンジ(テルモ製)を使用して、直径2-8mmの卵胞内から卵丘卵子複合体(以下、COCsと省略する。)を吸引採取した。採取したCOCsから、緊密な卵丘細胞層が3層以上付着したCOCsのみを選別したのち、5%牛胎子血清(Bio West製。以下、FBSと省略する。)を含む199培地(Earle塩、GIBCO製)中で21時間体外成熟培養した(5%CO2、95%空気、39℃、飽和湿度)。
【0033】
(2)精子液の調製
黒毛和種の凍結精液を融解し、この凍結精液融解液を45%及び90%パーコール溶液の入った遠心管に積層したのち、25℃、700xgで30分間遠心して、正常精子と不良精子を分離した(不連続密度勾配法)。上清を除去したのち、沈殿した正常精子を受精用培養液に浮遊させ、25℃、700xgで10分間遠心することにより精子を洗浄した。
【0034】
なお、受精用培養液は、defined medium(以下、DMと省略する。)からグルコースを除去し、ペニシリンに替えて1%(v/v)抗生物質-抗真菌剤溶液(GIBCO製)を添加した修正受精用培養液(以下、修正DMと省略する。)を使用した。
【0035】
(3)体外受精
21時間体外成熟培養したCOCsを、流動パラフィン下の10μg/mlへパリンを含む修正DMにより2×106精子/mlまで希釈した精子懸濁液に導入して18時間培養(39℃、5%CO2、95%空気、飽和湿度)することにより、受精させた。培養後、卵子に付着した精子および卵丘細胞を卵子直径に加工したパスツールピペットを使用して剥離除去した。
【0036】
(4)細胞培養
得られた胚を修正合成卵管液培養液(以下、mSOFMと省略する。)内に導入して、使用するマイクロプレートに応じて、以下に示す方法で受精後168時間まで培養した(39℃、5%CO2、5%O2、90%N2、飽和湿度)。
【0037】
集合培養法(対照区)の場合は、流動パラフィンが重層されている50μlのmSOFMドロップ内に胚を25個ずつ導入して培養した。また、WOW法、PDMSW-AP法、PDMSW-LP法の場合は、各ウェル当たり胚1個となるように導入して培養した。なお、PDMSW-AP,PDMSW-LPをmSOFMで覆う際に形成されたウェル内の気泡については、真空デシケータで空気を吸引して除去した。
【0038】
3.観察と測定
実体顕微鏡を使用して受精してから48時間後に胚を観察して卵割した胚の数を数えて卵割率を計算し、同様に受精168時間後に胚を観察して発生した胚盤胞期胚を数えて発生率を調べた。その結果を表1に示す。なお、表1は同一の実験を3回行った結果をまとめたものである。
【0039】
【表1】
JP0005406481B2_000002t.gif

【0040】
表1に示すように、各実験区において、その卵割率は大差なく同程度(約70%)であった。また、PDMSW-APで培養した胚はほとんど胚盤胞へ発生しなかった(発生率4%)。これに対して、PDMSW-LPで培養した胚は、対照区とほぼ同等の割合(発生率24~25%)で胚盤胞期胚へ発生した。
【0041】
胚盤胞期胚の個体発生能は、胚に含まれる内部細胞塊(Inner cell mass 以下、ICMと省略する。)と栄養膜細胞(Trophectoderm 以下、TEと省略する。)の数や割合に関係することが知られている。そこで、胚盤胞期胚について、下記のThouasらの文献に従って細胞数を計測した。具体的には、以下のようにして計測した。
Thouasらの文献:Thouas GA, Korfiatis NA, French AJ, Jones GM, Trounson AO. Simplified technique for differential staining of inner cell mass and trophectoderm cells of mouse and bovine blastocysts. Reprod Biomed Online. 2001; 3: 25-29.
【0042】
まず、胚盤胞期胚を1% Triton-X100(SIGMA製)を含む0.1mg/ml propidium iodide(PI、SIGMA製)液に移し、30秒間静置することでTEを赤色蛍光染色した。つぎに、胚盤胞期胚を10mg/ml hoechst 33342(SIGMA製)を含む4%(w/v)パラホルムアルデヒド液に移して、30分間暗所で静置し、胚の全ての細胞を青色蛍光染色した。さらに、VECTA SHIELD(Vector Laboratory製)を使用して、染色した胚盤胞期胚をスライドガラス上に封入した。最後に、スライドガラスを蛍光顕微鏡観察して、得られた蛍光染色像から、総細胞数、ICM及びTEの細胞数を数え、胚全体に占めるICMの割合を算出した。その結果を表2に示す。なお、表中の細胞数は平均値である。
【0043】
【表2】
JP0005406481B2_000003t.gif

【0044】
表2に示すように、対照区とPDMSW-LPでは、総細胞数(Total)と胚全体に占めるICMの割合(ICM/Total)はほぼ等しかった。このことから、多孔率が低い胚培養容器(PDMSW-LP)でウシ体外受精胚を培養することによって、質的にも優れた胚盤胞期胚が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の胚培養装置の外観斜視図である。
【図2】PDMSW-APとPDMSW-LPの表面を原子間力顕微鏡で観察した結果である。
図面
【図1】
0
【図2】
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