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明細書 :任意の分布形状と分布密度を有する分子または粒子の集団を同時に多種大量生成する方法とその方法に使用するマスク材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5231909号 (P5231909)
公開番号 特開2010-068728 (P2010-068728A)
登録日 平成25年3月29日(2013.3.29)
発行日 平成25年7月10日(2013.7.10)
公開日 平成22年4月2日(2010.4.2)
発明の名称または考案の名称 任意の分布形状と分布密度を有する分子または粒子の集団を同時に多種大量生成する方法とその方法に使用するマスク材
国際特許分類 C12N   5/07        (2010.01)
C12M   1/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202Z
C12M 1/00 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 11
出願番号 特願2008-237696 (P2008-237696)
出願日 平成20年9月17日(2008.9.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成20年9月発行 「日本移植学会雑誌 移植(第43巻 総会臨時号第389頁「P‐139」)」に発表
審査請求日 平成22年1月27日(2010.1.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】生田幸士
【氏名】池内真志
個別代理人の代理人 【識別番号】100099265、【弁理士】、【氏名又は名称】長瀬 成城
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 特表2003-517581(JP,A)
特表2006-523458(JP,A)
特開2004-065087(JP,A)
特開2005-176630(JP,A)
J Vac Sci Technol Vol.23 No.3 Page.984-989 (2005.05)
調査した分野 C12N 1/00-5/10
C12M 1/00-3/10
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
Science Direct
Wiley InterScience
CiNii


特許請求の範囲 【請求項1】
微細な粒子あるいは分子の集団を、分布形状と分布面密度を規定して、基材上に形成する方法であって、目的とする分布形状と、分布密度に応じて設計される、先端がナイフリッジを形成するように接続された傾斜付き壁構造を有する貫通孔を並列配置したマスク材を準備し、当該物質の溶液あるいは懸濁液を、前記基材上に密着させた前記マスク材上に載置し、マスク材の傾斜付き壁構造によって規定される領域内に当該物質を沈降させることにより、前記壁構造の上部境界によって囲まれた領域を通過して、傾斜付き壁面に沿って沈降する物質が、前記壁構造の下部境界によって囲まれる領域の面積(下部開口面積)をs(mm2 )、壁構造の上部境界によって囲まれる領域の面積(上部開口面積)をS(mm2 )、対象物質の溶液又は懸濁液の濃度をC(mm-3)、加える液体の深さをL(mm)としたとき、壁構造の下部境界によって囲まれた所定の領域内に集積する物質の分布面密度D(mm-2)は、式D=CLS/sにしたがって、壁構造の下部境界によって囲まれた基材上の所定領域内に堆積することを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、前記微細粒子あるいは分子が、細胞、タンパク質、核酸、生体由来高分子、金属微粒子、半導体微粒子、セラミック微粒子、樹脂微粒子のいずれかを含むことを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、当該物質を溶解、あるいは懸濁させる液体が、マスク材と反応しない液体であることを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、前記マスク材上の壁構造の上部境界線に沿って、壁構造の上面に溝を有するものを用いていることを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、前記マスク材の壁構造の表面が、対象物質の接着を抑制する材料で作製されているものを用いていることを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、前記マスク材を載置する前記基材の全部又は一部が、多孔質材、繊維材、ゲル材のいずれか、または、これらの組み合わせたものを用いていることを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法。
【請求項7】
請求項1~請求項6に記載の微細な粒子あるいは分子の集団を、分布形状と分布面密度を規定して、基材上に形成する方法に使用するマスク材であって、前記マスク材は上部開口面と下部開口面の形状を独立に任意に規定し、その間を傾斜付き壁構造によって繋いだ形状として構成されていることを特徴とするマスク材。
【請求項8】
前記マスク材の壁構造の上部境界線に沿って、壁構造の上面に溝を形成したことを特徴とする請求項7に記載のマスク材。
【請求項9】
前記マスク材の壁構造の表面が、対象物質の接着を抑制する材料で作製されていることを特徴とする請求項7または8に記載のマスク材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な粒子あるいは分子の集団を、分布形状と分布密度を規定して、基材上に形成する方法に係り、より詳細には、当該物質の溶液あるいは懸濁液から、物質の沈降を利用して、複数条件の分布形状と分布密度を有する当該物質の子集団群を、1回の操作で、同一の基材上に多種大量形成することができる方法と、その方法を実施するためのデバイス(以下マスク材という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微細な粒子あるいは分子の集団を、規定の分布形状と分布密度で基材上に形成する過程は、多くの分野で重要となってきている。
例えば、再生医療研究では、細胞の生体内での機能を生体外で再現するため、細胞を3次元的に集合させて、培養する研究が盛んになってきている。そのための一般的手法としては、細胞の接着を防ぐ表面処理を施した容器内で細胞を浮遊状態で培養し、流体の揺動と細胞同士の接着力によって、微小な球状に自己集合させる手法や、細胞が3次元的に自由に移動できるゲル材料内で培養し、自己組織化させる手法などがある。しかし、これらの手法では、集合体の形成がランダムに起こるため、同一の容器内であっても、形成される集合体のサイズは、10μmから数100μmまでと、大きく分散する。
【0003】
規定のサイズを有する細胞の集合体を形成する手法として、〔1〕微小な円筒容器を用いるものや、〔2〕微小貫通孔を有する基板(基材)を用いる手法などがある。これらはいずれも、平坦な基材上に微細な孔構造を作製し、その上に対象細胞を懸濁した液体を加えることにより、細胞が基材底面に向かって沈降し、最終的に、孔構造の規定する形状内で細胞集合体を形成させるものである。
【0004】
微細な粒子あるいは分子の集団を、規定の分布形状と分布密度で形成する過程が必要となる分野としては、前記以外にも、遺伝子導入剤などの生化学試薬を、培養中の細胞に対して、局所的に規定の濃度で作用させる技術が、細胞の分化を誘導する上で、極めて重要となってきている。あるいは、電子産業分野でも、金属ナノ粒子などの機能性材料を、規定のパターンと密度で基板(基材)上に堆積させる技術が、新たな回路基板作製プロセスとして注目されている。
【0005】
上記技術に関連した特許公報の例として以下のものがある。

【特許文献1】特許公開2006-55069
【特許文献2】特許公開2006-122012
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
対象とする物質や、目的とする機能によって、対象物質の集合体の分布形状及び、分布密度の最適値は異なる。よって、形状と密度の多数の組み合わせについて集合体を形成させ、最適値を実験的に検討しなければならない。従来手法では、原理上、集合体の形状に関しては、1枚の基板(基材)上に複数形状の孔構造を作製することにより、一括して多種類の形状の集合体を形成させることが可能である。
しかし、分布密度に関しては、複数の基板(基材)を用意し、基板ごとに、対象物質の濃度の異なる溶液あるいは懸濁液を用いて集合体を形成させなければならない。
また、従来手法では、隣接する孔構造の間が平坦面となっているため、孔以外の部分にも対象物質が堆積し、それらは集合体形成に利用されないため、対象物質の利用効率が低い。
さらに、従来手法では、初期に微小容器や孔以外の部分に堆積した物質が、周囲の液体の揺動により、その後の集合体形成中に孔内に侵入し、集合体の安定的形成を乱す要因となる。
【0007】
従って、本発明が解決しようとしている課題の一つは、対象物質を含む1種類の濃度の母溶液あるいは懸濁液を、基材上に載置した所定の構造を有するマスク材上に加えることにより、物質の沈降を利用して、分布形状と分布密度の複数の組み合わせ条件を有する当該物質の子集団群を、同一の基材上に多種大量形成することができる方法及び、そのためのマスク材を提供することである。
本発明のもう1つの課題は、上記の如き手法であって、目的とする領域外に堆積する、集団形成に利用されない物質の割合を削減することにより、物質の利用効率を改善する方法及び、そのためのマスク材を提供することである。
本発明のさらにもう1つの課題は、前記の如き方法であって、初期段階で、目的とする領域外に堆積した物質が、その後の流体の揺動などによって、目的領域内に侵入することを防ぐことのできる方法及び、そのためのマスク材を提供することである。
【0008】
上記の課題は、本発明によれば、当該物質の溶液あるいは懸濁液から、複数条件の分布形状と分布密度を有する当該物質の子集団群を、同一の基材上に多種大量形成することができる方法であって、目的とする分布形状と分布密度に応じて設計される傾斜付き壁構造を有するマスク材を作製する過程と、当該物質の溶液あるいは懸濁液を、対象基材上に載置した前記マスク材に加え、傾斜付き壁構造によって規定される領域内に当該物質を沈降させる過程とを含み、これにより壁構造の上部境界によって囲まれた領域内を通過して沈降する物質が、壁構造の下部境界によって囲まれた所定の領域内に集積されることを特徴とする方法により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため、本発明が採用した技術解決手段は、
微細な粒子あるいは分子の集団を、分布形状と分布面密度を規定して、基材上に形成する方法であって、目的とする分布形状と、分布密度に応じて設計される、先端がナイフリッジを形成するように接続された傾斜付き壁構造を有する貫通孔を並列配置したマスク材を準備し、当該物質の溶液あるいは懸濁液を、前記基材上に密着させた前記マスク材上に載置し、マスク材の傾斜付き壁構造によって規定される領域内に当該物質を沈降させることにより、前記壁構造の上部境界によって囲まれた領域を通過して、傾斜付き壁面に沿って沈降する物質が、前記壁構造の下部境界によって囲まれる領域の面積(下部開口面積)をs(mm2 )、壁構造の上部境界によって囲まれる領域の面積(上部開口面積)をS(mm2 )、対象物質の溶液又は懸濁液の濃度をC(mm-3)、加える液体の深さをL(mm)としたとき、壁構造の下部境界によって囲まれた所定の領域内に集積する物質の分布面密度D(mm-2)は、式D=CLS/sにしたがって、壁構造の下部境界によって囲まれた、基材上の所定領域内に堆積することを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法である。
また、前記微細粒子あるいは分子が、細胞、タンパク質、核酸、生体由来高分子、金属微粒子、半導体微粒子、セラミック微粒子、樹脂微粒子のいずれかを含むことを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法である。
また、当該物質を溶解、あるいは懸濁させる液体が、マスク材と反応しない液体であることを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法である。
また、前記マスク材上の壁構造の上部境界線に沿って、壁構造の上面に溝を有するものを用いていることを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法である。
また、前記マスク材の壁構造の表面が、対象物質の接着を抑制する材料で作製されているものを用いていることを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法である。
また、前記マスク材を載置する前記基板の全部又は一部が、多孔質材、繊維材、ゲル材のいずれか、または、これらの組み合わせたものを用いていることを特徴とする任意の分布形状と分布密度を有する微細な粒子あるいは分子の集団を同時に多種大量生成する方法である。
また、微細な粒子あるいは分子の集団を、分布形状と分布面密度を規定して、基材上に形成する方法に使用するマスク材であって、前記マスク材は上部開口面と下部開口面の形状を独立に任意に規定し、その間を傾斜付き壁構造によって繋いだ形状として構成されていることを特徴とするマスク材である。
また、前記マスク材の壁構造の上部境界線に沿って、壁構造の上面に溝を形成したことを特徴とするマスク材である。
また、前記マスク材の壁構造の表面が、対象物質の接着を抑制する材料で作製されていることを特徴とするマスク材である。

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下のような優れた効果を奏することができる。
1)1種類の濃度の当該物質の溶液又は懸濁液から、任意の分布形状と分布密度を有する当該物質の集団群を、様々な材料の基材表面に、1回の操作で、多種大量に一括形成することが可能となり、結果として、多種多量の形状と密度の組み合わせ条件の解析を効率的に行うことが可能となる。
2)また、本発明の手法によれば、操作に用いる当該物質のほぼ全量が集団形成に利用される。結果として、高価な物質、希少な物質の使用量を節約できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る発明は、目的とする分布形状と分布密度に応じて設計される傾斜付き壁構造を有するマスク材を作製する過程と、当該物質の溶液あるいは懸濁液を、対象基材上に載置した前記マスク材に加え、傾斜付き壁構造によって規定される領域内に当該物質を沈降させる過程とを含み、これにより壁構造の上部境界によって囲まれた領域内を通過して沈降する物質が、壁構造の下部境界によって囲まれた所定の領域内に集積されることを特徴とするものである。
【実施例】
【0012】
本発明の1実施例について、図に基づいて説明すると、図1は本発明に係る傾斜付き壁構造を有するマスク材およびそれを用いた物質集団形成方法の一例を示す断面模式図、図2は図1と同様の傾斜付き壁構造を有するマスク材およびそれを用いた物質集団形成方法の一例を示す断面模式図、図3は傾斜付き壁構造を有するマスク材の1実施形態の電子顕微鏡斜視像、図4は図3に示すマスク材を使用して形成したビーズ集団について、上部境界領域の一辺の長さと、下部境界領域面に堆積したビーズの数の関係を示すグラフ、図5はマイクロビーズの集団形成後の光学顕微鏡観察像である。
【0013】
図1、図2において、1はマスク材であり、このマスク材は上部開口面(上部境界面)2と下部開口面(下部境界面)3の形状を独立に任意に規定し、その間を傾斜付き壁構造(傾斜面)4によって繋いだ形状として構成された略逆四角錐状の凹部を有し、マスク材にはこの凹部が図3に示すように枡目状に多数配列されている。なお、凹部の形状は逆四角錐状に限定することはなく、逆円錐形、逆三角錐形等適宜の形状を選択することができる。また、傾斜付き壁構造は、必要に応じて複数段階に傾斜角度を変更することができる。
【0014】
マスク材1の外周には図2に示すように適宜外周溝5が形成されており、また凹部同士を連結する境界部は図2に示すように傾斜面同士が当接してナイフリッジを形成するように接続されている。このように壁上部を全て傾斜面とすることにより、目的領域外への対象物質の堆積を防ぐことができ、また外周に外周溝を形成することにより容器側面の影響による不均等な物質侵入を防止することができる。
【0015】
前記マスク材1を載置する基材6は図2では周囲に壁7を有しており、この壁7の内側に前記マスク材1が図2に示すように載置される。なお、前記基材6の周囲に形成する壁7は、必ずしも必要ではなく、適宜不要とすることができる。
【0016】
上述したように本発明によれば、対象物質の分布形状は、壁構造の下部境界(下部開口面の形状)によって規定することができる。即ち、前記壁構造の下部境界によって囲まれる領域の面積(下部開口面積)をs(mm2 )、壁構造の上部境界によって囲まれる領域の面積(上部開口面積)をS(mm2 )、対象物質の溶液又は懸濁液の濃度をC(mm-3)、加える液体の深さをL(mm)とすると、壁構造の下部境界によって囲まれた所定の領域内に集積する物質の分布面密度D(mm-2)は、下式で表される。
D=CLS/s
よって、傾斜付き壁構造の上部境界と、下部境界を、それぞれ独立に規定することにより、任意の分布形状と分布密度を有する、当該物質の集団を対象基材上に形成することができる。さらに、上部境界と下部境界の形状の複数の組み合わせを、同一のマスク材上に多数作製しておくことにより、対象物質を含む1種類の濃度の母溶液あるいは懸濁液から、分布形状と分布密度の異なる複数の組み合わせを有する当該物質の子集団群を、一度の母溶液あるいは懸濁液を対象基材上に載置した前記マスク材に加える操作で、同一基材上に一括形成することができる。
【0017】
上記の本発明において、マスク材1の傾斜付き壁構造4の上面を全て、いずれかの下部境界面へ向か傾斜面とすれば、目的領域外への物質の堆積を防ぐことができる。これにより、加えた物質のほぼ全量を集団形成に利用することができる。
また、上記の本発明において、マスク材1の壁構造4の上部境界線に沿って、壁構造の上面に溝を設けることにより、初期段階で、目的領域外に堆積した物質が、その後の過程で、意図せず、領域内に侵入することを防ぐことができる。
【0018】
本発明の傾斜付き壁構造を有するマスク材1は、傾斜付き壁構造部分と、上面部分と、底面部分とが、それぞれ同一材料もしくは、異なる材料で作製されていてよい。
また、本発明の傾斜付き壁構造を有するマスク材は、少なくとも傾斜壁部分に当該物質の接着を抑制するための物質が、適当な表面修飾あるいはコーティングがなされていることが好ましいが、マスク材を構成する材料自体が当該物質に対して非接着性である場合は、この限りでない。
また、当該物質を溶解、あるいは懸濁させる液体が、マスク材と反応しない液体であることを使用することができる。
【0019】
本発明の手法で集団形成させる対象となる物質は、細胞、タンパク質、核酸、生体由来高分子、金属微粒子、半導体微粒子、セラミック微粒子、樹脂微粒子のいずれかまたは、これらを組み合わせた系であってよい。
【0020】
実施例1.マイクロビーズの集合体形成
本発明の実施例の1つとして、直径10μmのラテックス製マイクロビーズを用いた集団形成について示す。図3に示すPDMS製の、逆四角錐形状の傾斜付き壁構造を有するマスク材をモールドにより作製した。モールドの鋳型は、エポキシ系光感光性樹脂を用いて、光造形法により作製したが、本発明のマスク材の作製方法はこれに限るものではない。
傾斜付き壁構造の上部境界領域の正方形の一辺は、400μm、600μm、800μmの3通り、下部境界領域の正方形の一辺は、40μm、80μm、160μmの3通りとし、合計9種類の組み合わせを有する傾斜付き壁構造を、8mm四方の基材上に密に多数配置した。
【0021】
前記マスク材をガラス基材上に吸着させ、その上に、2.3×105個/mlの濃度のマイクロビーズ懸濁液50μlを滴下した。その結果、壁で囲まれた各領域内に堆積したビーズ数は、ほぼ理論値どおり、上部境界領域の面積に正比例することが確認された(図4参照)。また、その結果、下部境界領域内のビーズの分布面密度は、下部境界領域の面積に反比例することも確認された(図5)。さらに、この時、目的領域外、すなわち、下部境界領域以外での、ビーズの堆積は確認されなかった。これにより、壁構造の上部を全て傾斜面とすることにより、対象物質を効率よく集団形成に利用できることが示された。 以上の結果により、本発明の手法を用いて、規定の分布形状、分布面密度を有するマイクロビーズの集団群を、1種類の濃度の懸濁液から、同一の基材上に一括形成できることが示された。
【0022】
実施例2.細胞非接着性でありプラスチック基材上での細胞の集合体形成
図6に本発明の応用例の模式図を示す。この例は、浮遊状態での細胞塊形成を示すものであり、細胞は基材上に堆積して集合するが、基材は細胞非接着性であるため、細胞同士で接着し、自発的に球状の細胞塊を形成する状態を示している。
細胞を浮遊状態で培養すると、近隣の細胞同士が自発的に接合して、最大で200μm程度の凝集塊を形成することが知られている。本発明の方法を用いることにより、初期細胞数、細胞分布密度を規定して、浮遊状態での細胞塊の自発形成過程を観察することが可能となった(図6)。下記実施例では、マウス膵管由来幹細胞を用いた。
【0023】
図3に示す形状のPDMS製マスク材を、実施例1と同様の方法により作製した後、マスク材表面を両親媒性の高分子量PEG溶液に浸漬し、親水化した。これにより、細胞のマスク材表面への接着が抑制される。このマスク材を細胞非接着性の基材上に載置した。 図7は非接着性マスク材上に、2×105個/mlの濃度の細胞懸濁液200μlを滴下し、37°C、5%CO2雰囲気下で、3日間培養した膵幹細胞の細胞塊を示す写真である。その結果、壁で囲まれた各領域内で、2日後に球状の細胞凝集塊が確認された。凝集塊のサイズは、上部境界領域の面積、即ち、初期細胞数に比例して大きくなっていた(図7)。また、今回の条件範囲内では、初期分布密度の有意な影響は見られなかった。
以上の結果により、本発明の方法を用いて、対象物質の、分布形状(サイズ)と分布密度の多数の組み合わせによる実験結果が、1回の準備操作で、一括して取得できることが示された。
【0024】
実施例3.細胞接着性ゲル基材上での細胞の集合体形成
細胞は生体内では、接着の足場となる高分子に囲まれて生存している。生体外でも、細胞接着性の高い高分子ゲル中で細胞培養することにより、生体内と類似の組織構造を形成させ、同等の機能を発現させることが、再生医療への応用などの観点から検討されている。
図8は本例に係る3次元ゲルマトリックス内での細胞塊形成を説明するための断面模式図を示す。
細胞はマスク材の下部開口面に堆積した後、細胞接着性の高い3次元ゲルマトリックス内に自発的に移動するため、基材表面に形成された細胞集団群は、時間とともにゲル内に移動する。ゲル内では、細胞は3次元的に増殖し、自発的に球状の細胞塊を形成する。
本発明の手法によれば、分布形状と、分布面密度を規定して形成された細胞集団群を、固体基材のみならず、様々な素材面上に形成することが可能であり、細胞の成長に好適なゲル材料にも適用できる。下記実施例では、マウス膵管由来幹細胞を対象物質として、前記細胞の成長に適したマトリゲル層の表面に、本発明のマスク材を用いて細胞集団群を形成することにより、マトリゲル内で生体の膵島に類似した構造及び機能を発現させるための、至適初期条件を一括検討した(図8)。
【0025】
図3に示した形状のPDMS製マスク材を、底面が貫通するように、モールドにより作製した後、実施例2と同様の方法により、表面を親水化した。その後、厚さ2mmのマトリゲル層の表面に前記マスク材を静置し、ゲルの吸着力により両者を接着した。
前記のマスク材上に、2×105個/mlの濃度の細胞懸濁液200μlを滴下し、37°C、5%CO2雰囲気下で、4日間培養した。その結果、壁で囲まれた各領域内のマトリゲル層表面に形成された細胞集団は、数時間以内にマトリゲル層の内部に自発的に移動し、1日後には、球状の細胞凝集塊が確認された。応用例2の場合と同様、上部境界領域の面積に正比例して、初期細胞数が決まるため、細胞塊のサイズもことなっている(図9)。実施例2の浮遊状態での凝集塊形成と比べ、24時間程度早く凝集塊が形成された。これは、細胞周囲に移動及び、増殖の足場となるマトリゲルが豊富に存在したためであると考えられる。以上の結果により、本発明の手法を用いて、対象物質の、分布形状(サイズ)と分布密度の組み合わせを規定した集団群が、任意の材料面に形成できることが示された。
【0026】
以上実施例をあげて本発明について説明したが、本発明は上記実施例に限定されることはない。例えば、マスク材の材質、マスク材に形成する凹部形状等は対象とする母液にあわせて自由に選択することができる
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、細胞の生体内での機能を生体外で再現するための再生医療分野に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る傾斜付き壁構造を有するマスク材およびそれを用いた物質集団形成方法の一例を示す断面模式図である。
【図2】図1に示す傾斜付き壁構造を有するマスク材およびそれを用いた物質集団形成方法の一例を示す断面模式図である。
【図3】傾斜付き壁構造を有するマスク材の1実施形態の電子顕微鏡斜視像である。
【図4】図2に示すマスク材を使用して形成したビーズ集団について、上部境界領域の一辺の長さと、下部境界領域面に堆積したビーズの数の関係を示すグラフである。
【図5】マイクロビーズの集団形成後の光学顕微鏡観察像である。
【図6】浮遊状態での細胞塊形成を示す図である。
【図7】非接着性マスク材上に、2×105個/mlの濃度の細胞懸濁液200μlを滴下し、37°C、5%CO2雰囲気下で、3日間培養した膵幹細胞の細胞塊を示す写真である。
【図8】本例に係る3次元マトリックス内での細胞塊形成を説明するための断面模式図である。
【図9】本発明を用いて、マトリゲル面上に集団形成された後、4日間培養した膵幹細胞の細胞塊を示す写真である。
【符号の説明】
【0029】
1 マスク材
2 上部境界面(上部開口面)
3 下部境界面(下部開口面)
4 傾斜付き壁構造
5 外周溝
6 基材
7 壁

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8