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明細書 :近接場光学顕微鏡の信号光測定システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5270280号 (P5270280)
公開番号 特開2010-071871 (P2010-071871A)
登録日 平成25年5月17日(2013.5.17)
発行日 平成25年8月21日(2013.8.21)
公開日 平成22年4月2日(2010.4.2)
発明の名称または考案の名称 近接場光学顕微鏡の信号光測定システム
国際特許分類 G01Q  60/18        (2010.01)
FI G01Q 60/18
請求項の数または発明の数 4
全頁数 8
出願番号 特願2008-241151 (P2008-241151)
出願日 平成20年9月19日(2008.9.19)
審査請求日 平成23年8月2日(2011.8.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】市村 垂生
【氏名】矢野 隆章
【氏名】井上 康志
【氏名】河田 聡
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
【識別番号】100095670、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 良平
【識別番号】100155228、【弁理士】、【氏名又は名称】市岡 牧子
審査官 【審査官】渡▲辺▼ 純也
参考文献・文献 特表2006-526779(JP,A)
特開平07-260808(JP,A)
特開2002-243618(JP,A)
市村垂生 他,チップ増強近接場ラマンスペクトルのチップ-試料間距離依存性の測定法,第54回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,日本,(社)応用物理学会,2007年 3月27日,2007年(平成19年)春季第3分冊,p1092
Taka-aki Yano et al,Confinement of enhanced field investigated by tip-sample gap regulation in tapping-mode tip-enhanced,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,American Institute of Physics,2007年 9月17日,Vol. 91,p 121101-1 - 121101-3
調査した分野 G01Q 10/00 ~ 90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
先端が尖鋭なプローブを試料上で走査しつつ、前記プローブ近傍に生成される近接場光によって前記試料から放射される信号光を検出し当該試料のイメージングを行う近接場光学顕微鏡の信号光測定システムにおいて、
a) 前記プローブと前記試料との相対距離を周期的に変化させる振動付与機構と、
b) 前記プローブ近傍に近接場光を生成させるための光を照射する光照射機構と、
c) 前記プローブと前記試料との相対距離の変化に同期して、前記光照射機構が照射する光をON/OFFするためのON/OFF信号を、前記相対距離が異なる複数のタイミングで出力する光強度変調機構と、
d) 異なる複数の出力タイミングで前記試料から放射される信号光をそれぞれ測定することにより、前記相対距離が異なる複数のスペクトルを求め、該複数のスペクトルの形状の変化から該試料の同定を行う信号光測定機構と、
を備えることを特徴とする近接場光学顕微鏡の信号光測定システム。
【請求項2】
光強度変調機構は、ON/OFF信号の出力タイミングを変更可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の近接場光学顕微鏡の信号光測定システム。
【請求項3】
更に、前記試料を載置するガラス製の基板を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の近接場光学顕微鏡の信号光測定システム。
【請求項4】
信号光は、レーリー散乱、ラマン散乱、蛍光、非線形光学信号の中から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の近接場光学顕微鏡の信号光測定システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、近接場光によって前記試料から放射される信号光を測定して当該試料のイメージングを行う近接場光学顕微鏡の信号光測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
走査型プローブ顕微鏡の一種である近接場光学顕微鏡は、光の回折限界を超えた空間分解能で顕微イメージングを実現できることから、産業上の実用化が進んでいる。近接場光学顕微鏡では、プローブの周りに発生させた近接場光で試料を照らし、プローブと試料表面との相互作用による散乱光の光強度や光学特性を計測することにより、試料の表面状態を検出する(例えば特許文献1参照)。
【0003】
プローブには開口型、散乱型があるが、いずれにおいてもプローブ先端と試料の距離に依存して計測される信号光(近接場光)の光強度や光学特性(分光特性)が変化する。これは、プローブと試料の間の化学的相互作用と電磁気学的な相互作用が介在するためである。従って、信号光の、プローブ及び試料間距離依存性を調べることができれば、プローブと分子との相互作用の解明が可能になる。
【0004】
プローブ先端と試料との距離を制御する方式として、シアーフォース方式、走査型トンネル顕微鏡(STM)方式、原子間力顕微鏡(AFM)方式等がある。
いずれの方式も、プローブ先端と試料間を一定の距離に保つように制御するものであり、任意の距離における信号光を検出するものではない。

【特許文献1】特開2004-132711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、近接場光により試料から放射される信号光のプローブ・試料間距離依存性を調べることができる近接場光学顕微鏡の信号光測定方法及び近接場光学顕微鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために成された本発明は、先端が尖鋭なプローブを試料上で走査しつつ、前記プローブ近傍に生成される近接場光によって前記試料から放射される信号光を検出し当該試料のイメージングを行う近接場光学顕微鏡の信号光測定システムであって、
a) 前記プローブと前記試料との相対距離を周期的に変化させる振動付与機構と、
b) 前記プローブ近傍に近接場光を生成させるための光を照射する光照射機構と、
c) 前記プローブと前記試料との相対距離の変化に同期して、前記光照射機構が照射する光をON/OFFするためのON/OFF信号を、前記相対距離が異なる複数のタイミングで出力する光強度変調機構と、
d) 異なる複数の出力タイミングで前記試料から放射される信号光をそれぞれ測定することにより、前記相対距離が異なる複数のスペクトルを求め、該複数のスペクトルの形状の変化から該試料の同定を行う信号光測定機構と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
この場合、光強度変調機構は、ON/OFF信号の出力タイミングを変更可能に構成されていると良い。

【発明の効果】
【0008】
プローブと試料との相対距離を周期的に変化させることによりプローブと試料との間の化学的、電磁気学的な相互作用が変化し、これにより試料から放射される信号光の強度や分光特性が変化する。本発明では、プローブと試料との相対距離の周期的変化に同期して試料に照射される光強度が変化するため、得られる信号光の強度もプローブと試料との相対距離の周期的変化に同期して変化する。このため、例えば1周期分の信号光のうち最大値の信号光の強度や分光特性等を計測することにより、プローブ・試料間距離が任意の大きさのときの信号光の検出が可能になる。従って、プローブ・試料間距離に依存して信号光の強度や分光特性が変化する様子を観察することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の具体的な実施形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態である近接場光学顕微鏡の信号光計測システム10の概略構成を示すブロック図である。このシステム10は、近接場光学顕微鏡とラマン分光器とを組み合わせたものであり、プローブを用いた近接場光学顕微鏡により観察されるラマン散乱スペクトルを測定し、試料分子のイメージングを行う。
【0010】
具体的には、前記システム10は、試料が載置されるガラス基板などの透明基板12、前記試料の表面を走査するプローブ14、前記試料に励起光を照射する励起光源16、試料から放射される信号光としてのラマン散乱光を検出する分光器18を備えている。
前記プローブ14は、例えば原子間力顕微鏡用のカンチレバーの先端に約35nmの銀薄膜を蒸着した銀チップから成る。前記カンチレバーは、バイモルフピエゾ素子などの振動子20によって試料に垂直な方向に一定の振動数で強制振動されるようになっており、これにより銀チップの先端が試料表面に間欠接触する。また、銀チップの試料表面に対する接触によるカンチレバーの振幅の減衰量が一定になるように自動制御される。
【0011】
前記試料は透明基板12の一方の面に接するように設けられ、前記透明基板12の他方の面と対向して高開口の対物レンズ22が設けられている。なお、透明基板12は、図示しないピエゾ移動ステージに載置されており、2次元的に走査可能に構成されている。
前記励起光源16はHe-Cdレーザー(λ=441nm)等の単色光レーザー光源から成る。励起光源16から出射された励起光は、光変調器24、ビームスプリッタ26、対物レンズ22、透明基板12を経て、試料表面に照射される。励起光源16からの光は、高開口数の対物レンズ22により試料表面上に集光され、試料表面に近接場光を生成する。この近接場光と試料とが相互作用し、ラマン散乱光を生じる。従って、この実施の形態では、励起光源16、ビームスプリッタ26、対物レンズ22、透明基板12が光照射機構を構成する。
ラマン散乱光は、透明基板12、対物レンズ22、ビームスプリッタ26、ミラー28、励起光除去フィルタ30、レンズ32を経て分光器18に入射し、窒素冷却CCDカメラ34によって検出される。励起光除去フィルタ30はラマン散乱光に比べて非常に強い励起光を除去するためのもので、一般的にノッチフィルタもしくはエッジフィルタ(長波長透過フィルタ)が用いられる。
【0012】
前記光変調器24は例えば音響光学変調器(AOM)や電気光学変調器(EOM)から成り、パルスジェネレーター36からの変調信号に基づいて励起光源16から出射される光をON/OFF変調する。
前記パルスジェネレーター36は、カンチレバーの振動周波数に同期する所定のパルス幅のパルス波形を変調信号として出力するようになっている。また、パルスジェネレーター36は変調信号の出力タイミングを変更可能に構成されている。これにより、励起光源16からのレーザー光はカンチレバーの振動周波数に同期した任意のタイミングで光パルス信号に変換される。従って、この光パルス信号の周期Tはカンチレバーの振動周波数をfとするとT=1/fになる。
【0013】
図2~図4は、プローブ・試料間距離と励起光強度との関係を説明するための図である。これらの図に示すように、パルスジェネレーター36の変調信号の出力タイミングをτ1~τ3に変化させることにより、任意のプローブ・試料間距離にあるときにのみ試料表面に光が照射される。このため、プローブ・試料間距離が任意の大きさのときにおけるラマン散乱光を検出できる。
【0014】
カンチレバーは高さ方向に正弦関数で振動していると近似できることから、次の式(1)に示すように、プローブ・試料間距離(Z)は変調信号の出力タイミング(τ)を用いて表すことができる。
【数1】
JP0005270280B2_000002t.gif
式(1)中、Dはプローブ・試料間距離の最大値、fはプローブの振動周波数、Φは位相ずれを示す。
従って、変調信号の出力タイミングを変化させることにより、プローブ・試料間距離に依存してラマン散乱光が変化する様子を観察することができる。
【0015】
図5は、プローブの振動周波数fを123kHz(T=8.15μs)とし、変調信号のパルス幅を0.5μs、出力タイミング(τ)を0.5μs刻みで変化させたときに得られるラマン散乱スペクトルを示している。試料には、単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いた。図6は、ラマン散乱スペクトルのG-bandの強度と出力タイミングτ(μs)との関係を示している。さらに、図7は、図6の横軸の出力タイミングを数式1により距離に変換したものである。
【0016】
図7から明らかなように、ラマン散乱光強度はプローブが試料から離れると指数関数的に減衰している。そして、その減衰距離はおよそ26.5nmであった。これは、銀チップによる電磁気学的増強効果によるものと考えられる。つまり、上記システム10を用いて試料からの信号光を測定することにより、電磁気学的増強がみられるプローブ・試料間距離や電磁気学的増強効果のプローブ・試料間距離依存性等を調べることができる。
【0017】
図8(a)~(c)は、上記システム10を用いて試料としてアデニン分子の凝集体を用いたときのラマン散乱スペクトルを示している。図8(a)はプローブ先端がアデニン分子から十分に離れているとき(距離d~200nm)、(b)はプローブ先端がアデニン分子に接触したとき(距離d~0.0nm)、(c)はプローブ先端がアデニン分子に押し込んだとき(距離d<0.0nm)のラマン散乱スペクトルである。なお、図8(a)~(c)には、実験データと共にローレンツカーブでフィッティングした滑らかな曲線が示されている(図の(a)では1本、(b)、(c)ではそれぞれ2本のフィッティング曲線が示されている)。
【0018】
図8(a)に示すように、プローブ先端がアデニン分子から十分に離れているときは、プローブ先端の銀チップとアデニン分子との間に相互作用が介在しないため、通常の(つまり、銀チップがない状態で観察されるラマン散乱スペクトルと同様の)ラマン散乱スペクトルが観察される。従って、振動数721cm-1の通常のピーク(リングフリージングモードと呼ばれる振動モードによるピーク)が観察される。
【0019】
これに対して、図8(b)に示すように、銀チップがアデニン分子に接触するときは、通常のピークに加えて、振動数731cm-1にシフトしたピークが観察される。このピークは、銀チップとアデニン分子との化学的相互作用(吸着)による増強と考えられた。
また、図8(c)に示すように、銀チップがアデニン分子を押し込んでいるときは、通常のピークに加えて736cm-1にシフトしたピークが観察される。これは、銀チップがアデニン分子を押圧することによる力学的作用が加わったためで、このとき、アデニン分子が歪んで分子振動の振動数が変化する。
【0020】
以上より、試料としてアデニン分子を用いたときは、プローブ・試料間距離が変化することによってラマン散乱光強度だけでなくスペクトル形状(ピーク)が変化することが分かる。これは、アデニン分子とプローブ先端との間に電磁気学的相互作用、化学的相互作用が生じているためであると考えられる。
これに対して、上述のカーボンナノチューブはプローブ先端との間で化学的相互作用が生じ難いため、カーボンナノチューブを試料として用いたときは、プローブ・試料間距離の変化によってラマン散乱光強度は変化したが、スペクトル形状はあまり変化しなかった。
従って、上記近接場光学顕微鏡システムを用いれば、化学的相互作用の起き易い分子の同定も可能となる。
【0021】
このように本実施の形態によれば、光変調器24はプローブ先端と試料間距離の変化に同期して励起光をON/OFFするように構成した。また、励起光をON/OFFする切換タイミングを変更可能に構成した。このため、プローブ・試料間距離が任意の大きさのときの信号光のみを測定することができ、プローブ・試料間距離に依存した信号光の変化を観察することができる。
【0022】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、光変調器24の変調信号のON時間を短くして光パルス信号のパルス幅を小さくすれば、より高分解能で距離依存性を測定することができる。
また、プローブの振動振幅を小さくすれば、プローブ・試料間距離がナノメートル以下の近接領域でのスペクトル変化を観察することができる。
さらに、プローブ・試料間距離が任意の大きさのときの信号光を計測できるため、例えば金属チップ増強型の蛍光イメージングにおいては、金属表面による蛍光の消光(クエンチング)が作用する距離領域(5ナノメートル以下)よりも離れた位置で蛍光信号を計測し続けることができる。
【0023】
プローブ増強型のラマン散乱イメージングにおいては、金属チップと分子が化学的に相互作用する瞬間のみの信号光を選択的に検出することができ、原子間力顕微鏡の空間分解能でラマンイメージングが実現できる。また、表面増強ラマン現象における分子と金属表面の吸着機構の解明にも大いに貢献できる。
【0024】
振動付与機構は、プローブと試料の両方に振動を付与しても良く、プローブのみ、試料のみに振動を付与しても良い。要は、プローブと試料との相対距離を周期的に変化させることができれば良い。
プローブは散乱型に限らず、開口型でも良い。
本発明は、近接場光学顕微鏡において様々な光学信号(レーリー散乱、ラマン散乱、蛍光、非線形光学信号など)を検出するシステムに適用できる。

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る近接場光学顕微鏡の信号光測定システムの概略構成を示すブロック図。
【図2】励起光の出力タイミングとプローブ・試料間距離との関係を説明するための図(その1)。
【図3】励起光の出力タイミングとプローブ・試料間距離との関係を説明するための図(その2)。
【図4】励起光の出力タイミングとプローブ・試料間距離との関係を説明するための図(その3)。
【図5】励起光の出力タイミングを変化させたときに得られるラマン散乱スペクトルの変化を示す図。
【図6】励起光の出力タイミングとラマン散乱光強度との関係を示す図。
【図7】図6の横軸をプローブ・試料間距離に換算して示す図。
【図8】プローブ・試料間距離によるラマン散乱スペクトルの変化を示す図。
【符号の説明】
【0026】
10…近接場光学顕微鏡
12…透明基板
14…プローブ
16…励起光源
18…分光器
20…振動子
24…光変調器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7