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明細書 :プルキンエ細胞指向性ウイルスベクター

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4975733号 (P4975733)
登録日 平成24年4月20日(2012.4.20)
発行日 平成24年7月11日(2012.7.11)
発明の名称または考案の名称 プルキンエ細胞指向性ウイルスベクター
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
A01K  67/027       (2006.01)
C12N   7/00        (2006.01)
A61K  35/76        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  25/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 15/00 G
A01K 67/027
C12N 7/00
A61K 35/76
A61K 48/00
A61P 25/00
A61P 43/00 105
請求項の数または発明の数 16
全頁数 47
出願番号 特願2008-505175 (P2008-505175)
出願日 平成19年3月7日(2007.3.7)
国際出願番号 PCT/JP2007/055017
国際公開番号 WO2007/105744
国際公開日 平成19年9月20日(2007.9.20)
優先権出願番号 2006062192
2006198398
優先日 平成18年3月8日(2006.3.8)
平成18年7月20日(2006.7.20)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成20年8月18日(2008.8.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】平井 宏和
【氏名】寅嶋 崇
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
審査官 【審査官】西村 亜希子
参考文献・文献 特表2004-506444(JP,A)
特開2006-050956(JP,A)
J. Neurobiol.,1998年,Vol.36, No.4,pp.559-571
調査した分野 C12N 15/09
A61K 48/00
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ウイルス由来プラスミドベクターに改変型L7プロモーターと外来遺伝子を機能しうる態様で連結して成る小脳プルキンエ細胞指向性ベクターであって、前記改変型L7プロモーターが下記a)又はb)のDNAからなることを特徴とする前記ベクター:
a) 配列番号3又は4に示される塩基配列からなるDNA
b) 少なくとも配列番号4に示される塩基配列を含む、配列番号3に示される塩基配列のうち連続した1006~1319bpの断片からなるDNA。
【請求項2】
前記ウイルスが、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、及びレンチウイルスから選ばれるものである、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記ウイルスがレンチウイルスである、請求項1に記載のベクター。
【請求項4】
前記ベクターが、プロテアーゼ阻害剤を含む培養液中で産生されたものである、請求項1~のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項5】
前記プロテアーゼ阻害剤がカテプシンK阻害活性を有するものである、請求項に記載のベクター。
【請求項6】
前記ベクターが、pH7.2~pH8.0の培養液中で産生されたものである、請求項1~のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項7】
前記ベクターが、血清を含まない培養液中で産生されたものである、請求項1~のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項8】
前記外来遺伝子がプルキンエ細胞障害性疾患の治療用遺伝子又は当該疾患遺伝子である、請求項1~のいずれか1項に記載のベクター。
【請求項9】
前記治療用遺伝子が、GTPase CRAG、ubiquitin chain assembly factor E4B (UFD2a)、ATPase VCP/p97、HDJ-2、HSDJ及びBiPを含む分子シャペロン、YAPdeltaCを含む細胞死抑制分子、ER degradation enhancing alpha-mannosidase-like protein (EDEM)を含む小胞体蛋白質分解促進分子、CREB/ATF family member OASIS、IRE1、PERK及びATF6を含むERセンサー分子、スフィンゴミエリナーゼ、AT-mutated(atm)、Reelin、Bcl-2、ネプリライシン、BDNF、ならびにNGFをコードする遺伝子から選ばれるいずれか1つ又は2つ以上、あるいはataxin-1、ataxin-2、ataxin-3、α1a電位依存型カルシウムチャネル、及びPKCγをコードする遺伝子から選ばれるいずれか1つ又は2つ以上のsiRNAである、請求項に記載のベクター。
【請求項10】
前記疾患遺伝子が、異常伸長したCAGリピートを持つataxin-1、ataxin-2、ataxin-3、huntingtin、及びα1a電位依存型カルシウムチャネルコードする遺伝子、ならびに変異を持つPKCγをコードする遺伝子から選ばれるいずれか1つ又は2つ以上である、請求項に記載のベクター。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のベクターを導入された非ヒト哺乳動物。
【請求項12】
異常伸長したCAGリピートを持つataxin-1、ataxin-2、ataxin-3、huntingtin、及びα1a電位依存型カルシウムチャネルコードする遺伝子、ならびに変異を持つPKCγをコードする遺伝子から選ばれるいずれか1つ又は2つ以上を導入され、小脳プルキンエ細胞障害性疾患のモデル動物である、請求項11に記載の非ヒト哺乳動物。
【請求項13】
ウイルス由来ベクタープラスミドに、a) 配列番号3又は4に示される塩基配列からなる改変型L7プロモーター、又はb) 少なくとも配列番号4に示される塩基配列を含む、配列番号3に示される塩基配列のうち連続した1006~1319bpの断片からなる改変型L7プロモーターを、外来遺伝子に機能しうる態様で連結して宿主細胞に導入し、前記細胞をプロテアーゼ阻害剤を含む培養液中で培養して、ウイルスを産生させることを特徴とする、プルキンエ細胞指向性ウイルスベクターの作製方法。
【請求項14】
前記プロテアーゼ阻害剤がカテプシンK阻害活性を有するものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記培養液がpH7.2~pH8.0である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記培養液が血清を含まないものである、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、改変型L7プロモーターを利用したプルキンエ細胞指向性ウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
小脳は複数の筋肉が関与する歩行などの協調運動に重要な役割を果たしている。小脳に損傷があると、協調運動の調節がうまく行かず、なめらかな動きができなくなる。大脳皮質からの運動の指令は脳幹を通って、脊髄、筋肉に伝達されるが、同時に脳幹(橋)から苔状線維を介して小脳皮質にも伝達される。苔状線維を介して伝達された信号は、小脳皮質の神経細胞である顆粒細胞に入力される。そして、顆粒細胞はその軸索である平行線維を介してプルキンエ細胞に信号を伝える。
一つのプルキンエ細胞は平行線維との間に10万個以上のシナプスを形成し、そこからの入力情報を統合し、小脳の深部にある小脳核へ情報を出力する。プルキンエ細胞は小脳皮質からの唯一の出力神経細胞であり、小脳において非常に重要な役割を果たしているが、脆弱であり、小脳出血、外傷、小脳腫瘍や遺伝性神経変性疾患により障害を受けやすい。
近年のゲノム科学の発展によりヒトやマウスの全ゲノム配列が決定され、生命科学研究は同定された遺伝子の役割解明へと向かっている。神経細胞に野生型や変異遺伝子を導入し、その影響を調べる手法は、神経科学分野の研究面において非常に効果的であるが、遺伝子治療としての臨床応用面からも、神経細胞への遺伝子導入は注目を集めている。
しかしながら、神経細胞は非分裂細胞であり遺伝子導入が難しい。なかでも、プルキンエ細胞への遺伝子導入は極めて困難であり、2000年以前まで効率的な遺伝子導入の成功例も報告されていなかった。最近ウイルスベクターの開発が進み、プルキンエ細胞への効率的な遺伝子導入が可能になってきたが、それでもわずか4編の論文が報告されているにすぎない(非特許文献1~4)。
プルキンエ細胞に効率的に遺伝子導入するには、レンチウイルスやアデノ随伴ウイルスなどの神経に対して高親和性を持つウイルスベクターを使う必要がある。ちなみに、これまでの報告では、プルキンエ細胞への遺伝子導入には、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス由来レンチウイルスが用いられている。
ところで、野生型のレンチウイルスはCD4受容体を持つリンパ球にしか感染しない。そのため、現在使われているレンチウイルスベクターは神経細胞にも感染するように、そのエンベロープがVesicular somatitis virus glycoprotein(VSV-G)に置換されている。このVSV-Gは細胞膜の構成成分であるリン脂質(フォスファチジルセリン)に結合能を持つため、神経以外のグリア細胞、血管内皮細胞などにも非特異的に感染する。また小脳においては、レンチウイルスはプルキンエ細胞以外にも、星状細胞(Stellate cell)、籠細胞(Basket cell)、ゴルジ細胞(Golgi cell)、バーグマングリア(Bergmann glia)にも感染する。
上述のとおり、アデノ随伴ウイルスベクターやレンチウイルスベクターは神経細胞に外来遺伝子を導入し発現させる能力を持つが、パッケージング能力の問題から発現可能な遺伝子サイズに制限がある。発現可能遺伝子サイズはアデノ随伴ウイルスベクターとレンチウイルスベクターにおいて、プロモーター領域と合わせてそれぞれ4kbと8kbといわれている。しかしこれは理論的な値であり、レンチウイルスベクタープラスミドでは安全性を増すためさまざまな改良がなされていることから、使用するベクタープラスミドによって異なるが、発現は5kb前後が限界であることが多い。
一方、L7プロモーターはプルキンエ細胞特異的に活性を持ち、プルキンエ細胞だけに外来遺伝子を発現するトランスジェニックマウスの作出に利用されている。しかしながら、L7プロモーターは全長約3kbと大きく、アデノ随伴ウイルスベクターやレンチウイルスベクターに組み込んで用いる場合、発現可能な外来遺伝子のサイズは大きな制限を受ける。また、そのプロモーター活性はCMVやMSCVプロモーター等の非特異的プロモーターに比べて著しく低い。
小脳プルキンエ細胞への効率的かつ特異的な遺伝子導入は、トランスジェニックマウスを作出するしか方法がなかった。しかしウイルスベクターを用いて、プルキンエ細胞に特異的に高効率で遺伝子導入することができれば、これまでできなかったさまざまな研究が可能となり、小脳を対象とする研究の進展に大きく寄与すると考えられる。また、プルキンエ細胞が障害される脊髄小脳変性症などの遺伝子治療への応用も期待される。
また、最近、ウイルスベクターを遺伝子治療としてヒトに用いる場合、牛海綿状脳症をはじめとする感染が近年、大きな問題となっている。これは、現在のプロトコールではウイルス産生時の培地にウシの血清を加えることが必要であるためである。このようなことから、特に血清を用いることなく、プルキンエ細胞に高効率で遺伝子導入できるウイルスベクターを産生できれば、その臨床応用はより広がることが期待される。

【非特許文献1】Agudo M.,Trejo J.L., Lim F.,Avila J.,Torres-Aleman I.,Diaz-Nido J.& Wandosell F.(2002)Highly efficient and specific gene transfer to Purkinje cells in vivo using a herpes simplex virus I amplicon.Hum.Gene Ther.,13,665-674.
【非特許文献2】Alisky J.M.,Hughes S.M.,Sauter S.L.,Jolly D.,Dubensky T.W.Jr.,Staber P.D.,Chiorini J.A.& Davidson B.L.(2000)Transduction of murine cerebellar neurons with recombinant FIV and AAV5 vectors.Neuroreport,11,2669-2673.
【非特許文献3】Kaemmerer W.F.,Reddy R.G.,Warlick C.A.,Hartung S.D.,McIvor R.S.& Low W.C.(2000)In vivo transduction of cerebellar Purkinje cells using adeno-associated virus vectors.Mol.Ther.,2,446-457.
【非特許文献4】Xia H.,Mao Q.,Eliason S.L.,Harper S.Q.,Martins I.H.,Orr H.T.,Paulson H.L.,Yang L.,Kotin R.M.& Davidson B.L.(2004)RNAi suppresses polyglutamine-induced neurodegeneration in a model of spinocerebellar ataxia.Nat.Med.,10,816-820.
【発明の開示】
【0003】
本発明は、小脳プルキンエ細胞に高い親和性を持ち、プルキンエ細胞選択的に感染して遺伝子発現するウイルスベクターを提供することにある。
発明者らは、これまで小脳への遺伝子導入について報告がなかったヒト免疫不全ウイルス由来レンチウイルスベクターを用いて小脳への遺伝子導入実験を行い、ウイルスのプルキンエ細胞選択性は、ウイルス産生時の培養液pHがわずかに酸性側にシフトするだけで急激に低下すること、培養液に添加する血清のLotによりウイルスのプルキンエ細胞への選択性が異なり、それゆえ血清中の何らかの成分がプルキンエ細胞選択性維持に関与していることを発見した。
さらに、上記の知見に基づき、発明者らは以下のような仮説を立て、その実証を試みた。
(1)培養液のpHに依存して変化することから、pH感受性酵素、おそらく宿主細胞から放出されたプロテアーゼがウイルスの蛋白質(特に、ウイルスエンベロープ上に存在する糖蛋白質)を分解することで、ウイルスのプルキンエ細胞への選択性が低下する。
(2)血清にはプロテアーゼの活性を阻害する物質が含まれており、そのためにウイルスエンベロープの糖蛋白質の分解が抑えられ、プルキンエ細胞への選択性が保たれる。
実際、センダイウイルスやインフルエンザウイルスではプロテアーゼによりエンベロープの糖蛋白質が分解され、細胞への感染性が変化することが知られている。そして、発明者らの実験結果は上記の仮説を支持するものであった。ウイルス産生時の培養液にプロテアーゼ阻害剤を加えることで、プルキンエ細胞に親和性の高いベクターを得ることができた。しかしながら、プルキンエ細胞以外の細胞にも全体の1~2割程度は感染し、遺伝子発現を誘導する。そこで、完全にプルキンエ細胞だけで遺伝子発現が誘導されるように、ウイルスベクターに組み込まれているプロモーターを非選択的なCMVあるいはMSCVプロモーターからL7プロモーターへの変更を検討した。その際、従来のL7プロモーターは3kbの長さがあるため、これより短い種々の長さのものを調整し、ウイルスプラスミドに組み込んだ。これらのウイルスプラスミドを用いて、ウイルスベクターを得、生体マウス小脳に接種して検討した。その結果、配列番号3又は4で示される塩基配列を有する改変型L7プロモーターを組み込んだウイルスベクターでは、プルキンエ細胞だけに遺伝子発現が見られ、かつその発現程度も従来のL7プロモーターよりはるかに高いことがわかった。
すなわち、本発明は、ウイルス由来ベクタープラスミドに配列番号3又は4で示される塩基配列を有する改変型L7プロモーターを、外来遺伝子に機能しうる態様で連結して成る小脳プルキンエ細胞指向性ベクターに関する。
用いられるウイルス由来ベクタープラスミドとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、及びレンチウイルス由来のベクタープラスミドが挙げられ、プロテアーゼ阻害剤の効果に関してはエンベローブの糖蛋白質がVSV-Gであることが望ましい。
前記ベクターによって産生されるウイルスの蛋白質、特にウイルスエンベロープ上に存在する糖蛋白質は、実質的に分解修飾を受けていない状態にあることが望ましい。
前記ウイルスエンベロープ上に存在する糖蛋白質が実質的に分解修飾を受けていない状態にあるベクターは、プロテアーゼ阻害剤を含む培養液中で宿主細胞にウイルスを産生させることにより得ることができる。前記プロテアーゼ阻害剤としては、カテプシンK阻害活性を有するもの(カテプシンK阻害剤やカテプシン阻害剤)が好ましい。
ウイルス産生時の培養液のpHは、7.2~8.0に維持されることが望ましい。
また、感染防止等の安全性の点から、前記培養液は血清を含まないことが望ましい。
本発明はまた、レンチウイルスベクタープラスミドに外来遺伝子を機能しうる態様で連結して成る小脳プルキンエ細胞指向性ベクターであって、前記ベクターによって産生されるウイルスの蛋白質、特にウイルスエンベロープ上に存在する糖蛋白質が、実質的に分解修飾を受けていない状態にあることを特徴とするベクターも提供する。ウイルスエンベロープ上に存在する糖蛋白質が実質的に分解修飾を受けていない状態にあるベクターは、上記した方法によって得ることができる。
ウイルスベクターに導入される外来遺伝子としては、プルキンエ細胞障害性疾患の治療用遺伝子や当該疾患遺伝子が挙げられる。このような遺伝子を導入することで、本発明のベクターはプルキンエ細胞障害性疾患の遺伝子治療やモデル動物の作製に用いることができる。
前記治療用遺伝子の具体例としては、たとえば、GTPase CRAG、ubiquitin chain assembly factor E4B(UFD2a)、ATPase VCP/p97、HDJ-2、HSDJ及びBiPを含む分子シャペロン、YAPdeltaCを含む細胞死抑制分子、ER degradation enhancing alpha-mannosidase-like protein(EDEM)を含む小胞体蛋白質分解促進分子、CREB/ATF family member OASIS、IRE1、PERK及びATF6を含むERセンサー分子(Endoplasmic reticulum stress transducer)、スフィンゴミエリナーゼ、AT-mutated(atm)、Reelin、Bcl-2、ネプリライシン、BDNF、ならびにNGFをコードする遺伝子、あるいはataxin-1、ataxin-2、ataxin-3、α1a電位依存型カルシウムチャネル、PKCγをコードする遺伝子のsiRNAを挙げることができる。
また、前記疾患遺伝子の具体例としては、たとえば、異常伸長したCAGリピートを持つataxin-1、ataxin-2、ataxin-3、huntingtin、もしくはα1a電位依存型カルシウムチャネルをコードする遺伝子、又は変異を持つPKCγをコードする遺伝子を挙げることができる。
本発明は、上記した小脳プルキンエ細胞指向性ベクターを含む、小脳プルキンエ細胞障害性疾患の治療用医薬組成物も提供する。
前記小脳プルキンエ細胞障害性疾患としては、たとえば、脊髄小脳変性症やハンチントン病を含むポリグルタミン病、ニーマンピック病、毛細血管拡張性運動失調症、自閉症、アルツハイマー病、胎児アルコール症候群(FAS)、アルコール中毒、加齢性小脳失調を挙げることができる。
本発明はまた、本発明のベクターを導入された非ヒト哺乳動物を提供する。特に、プルキンエ細胞を障害する遺伝子(異常伸長したCAGリピートを持つataxin-1、ataxin-2、ataxin-3、huntingtin、もしくはα1a電位依存型カルシウムチャネルをコードする遺伝子、又は変異を持つPKCγをコードする遺伝子を導入され、当該遺伝子をプルキンエ細胞特異的に発現する非ヒト哺乳動物は、前記した小脳プルキンエ細胞障害性疾患のモデル動物として用いることができる。
本発明はまた、レンチウイルスプラスミドベクターに外来遺伝子を機能しうる態様で連結して宿主細胞に導入し、前記細胞をプロテアーゼ阻害剤を含む培養液中で培養してウイルスを産生させることを特徴とする、プルキンエ細胞指向性ウイルスベクターの作製方法を提供する。あるいは、ウイルス由来ベクタープラスミドに配列番号3又は4で示される塩基配列を有する改変型L7プロモーターを、外来遺伝子に機能しうる態様で連結し、前記細胞をプロテアーゼ阻害剤を含む培養液中で培養してウイルスを産生させることを特徴とする、プルキンエ細胞指向性ウイルスベクターの作製方法を提供する。
さらに本発明は、カテプシンK阻害活性を有する物質を含んで成る、プルキンエ細胞指向性ウイルスベクター作製用培養液や、そのような培養液(カテプシンK阻害活性を有する物質と細胞培養液、またはカテプシンK阻害活性を有する物質を含む細胞培養液)を構成要素として含む、プルキンエ細胞指向性ウイルスベクター作製用キットも提供する。
本発明で用いられる改変型L7プロモーターは、従来のL7プロモーターのおよそ3分の1のサイズであるため、ベクターに組込みうる外来遺伝子のサイズは大幅に拡大する。しかも、同じコピー数が染色体に組み込まれた場合、従来のL7プロモーターよりもはるかに高いプロモーター活性を持ち、強力に下流に配置された外来遺伝子の発現を誘導する。
よって、本発明によれば、小脳で最も重要なプルキンエ細胞に選択的に、かつ高効率で遺伝子発現が可能となる。これにより、基礎研究においては、小脳が司る運動学習、協調運動のメカニズムを分子レベルで解明するための研究が大きく進展することが期待される。また、遺伝子治療をはじめとする臨床応用においては、プルキンエ細胞選択的な遺伝子導入が可能となり、他の神経細胞やグリア細胞への遺伝子導入および発現に伴う副作用の軽減が期待される。さらに、本発明では、ウシ血清を使用することなくベクターを調製しうるため、牛海綿状脳症などの感染の問題もなく、血清のLotに依存することなく、安定してプルキンエ細胞指向性ベクターを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1は、pCL20c MSCV-GFPの構造を示す。
図2は、(A)実施例1の実験手順、(B)トランスフェクション後40時間でウイルスを回収する直前のHEK293FT細胞におけるGFPの発現、及び(C)トランスフェクション後64時間でウイルスを回収する直前のHEK293FT細胞におけるGFPの発現を示す蛍光顕微鏡画像である。
図3は、(左)トランスフェクション後40時間で回収したウイルス、(中)トランスフェクション後64時間で回収したウイルス、(右)トランスフェクション後40時間のウイルスを含む培養液に希塩酸を加えてpHを7.0に調節した後に回収したウイルス、を接種して1週間後の小脳皮質の全GFP発現細胞における各細胞の割合(%)を示したグラフである。図中、(A)プルキンエ細胞(Purkineje cells)、(B)バーグマングリア(Bergman glias)、(C)星状細胞/籠細胞(Stellate & Basket cells)、(D)判別不能(Unknown cells)を示す。
図4は、トランスフェクション後40時間のウイルスを含む培養液に希塩酸を加え、pHを7.0に調節した後に回収したウイルスを接種後一週間の、小脳皮質分子層におけるGFPの発現を示す共焦点レーザー顕微鏡画像である。図中(A)バーグマングリア(矢印)に選択的なGFPの発現を認める。プルキンエ細胞はGFPの発現がなく、黒く抜けて見える(矢頭)。(B)(A)の拡大像。(C)グリア細胞マーカーであるGFAPに対する抗体を用いた2重染色像。GFPの発現はGFAPの分布(赤)と重なる。(A)のスケールバー100μm、(B)のスケールバー50μm
図5は、Lotの異なる8種のウシ血清を用いて産生、回収したウイルスを小脳に接種し、一週間後の脳の蛍光実体顕微鏡写真、及びその矢状断におけるGFPの発現の様子を示す共焦点レーザー顕微鏡画像である。
図6は、20倍の対物レンズを用いた観察視野における、GFPを発現している全細胞中のプルキンエ細胞の割合(%)を示すグラフである。
図7は、20倍の対物レンズを用いた観察視野における、全プルキンエ細胞中のGFP発現プルキンエ細胞の割合(%)を示すグラフである。
図8は、GFPと融合した脊髄小脳変性症3型遺伝子ataxin-3[Q69]を発現するウイルスのプロウイルス部分の構造を示した模式図(A)、このウイルスを小脳に接種後、2ヶ月して施行したロータロッドテストの結果(B)、このマウスのプルキンエ細胞内のGFP融合ataxin-3[Q69]凝集塊(C)、を示す。
図9は、プルキンエ細胞特異的L7プロモーター制御下で、脊髄小脳変性症3型遺伝子ataxin-3[Q69]を発現するマウス作出に用いたコンストラクトの模式図(A)、作出した3ライン(a,b,c line)の脊髄小脳変性症3型モデルマウスにおける、生後3週から14週にかけてのロータロッドテストの成績(B)、生後80日の野生型マウスの脳矢状断(C)、同週齢の脊髄小脳変性症3型モデルマウスb lineの脳矢状断(D)、を示す。
図10は、Flagタグを付加したCRAG、あるいはVCP(C522T)(VCP/p97の522番目のシステインをスレオニンに置換したもの)を発現するウイルスベクターのプロウイルス部分の構造を示した模式図(A)、このウイルスベクターの脊髄小脳変性症3型モデルマウスの小脳への接種を示す模式図(B)、c lineのモデルマウスの小脳にCRAG発現ウイルスを接種した後8週間までのロータロッドの成績(C)、b lineのモデルマウスの小脳にGFP、CRAG、あるいはVCP(C522T)発現ウイルスを接種後4週間と8週間で行ったロータロッドの成績(D)(C,Dともロッドは止まった状態からスタートし、180秒後に40回転/分の速度となる)、b lineのモデルマウスの小脳にGFP、CRAG、あるいはVCP(C522T)発現ウイルスを接種後8週間で行った定速(5回転/分)ロータロッドの成績(E)、を示す。
図11は、何も接種していない(A,B)、CRAG(C,D)、あるいはVCP(C522T)(E,F)発現ウイルスを接種後、8週間で灌流固定して作製した小脳切片を、抗HAタグ抗体を用いて免疫組織染色したもの(A,C,E)、それらを抗カルビンディン抗体による二重免疫組織染色の像と重ね合わせたもの(B,D,E)、それぞれの切片の小脳皮質における封入体の数(G)、それぞれの切片における分子層の厚さ(H)、を示す。
図12は、L7プロモーターL(7-1)及びその各種改変型(L7-2~L7-7)の構造を示す模式図を示す。
図13は、L7-4プロモーターをレンチウイルスベクタープラスミド(pCL20c)に挿入し、その下流に緑色蛍光タンパク質GFPを配置したプラスミドpCL20c L7-4-GFPの模式図を示す。
図14は、種々のプロモーターを用いたときのプルキンエ細胞へのGFPの発現割合を示す。(a)全GFP発現細胞中のプルキンエ細胞の割合:GFP発現プルキンエ細胞数/GFP発現細胞数(b)全プルキンエ細胞中のGFP発現プルキンエ細胞の割合:GFP発現プルキンエ細胞数/全プルキンエ細胞数
図15は、(a)種々のプロモーターを組み込んだレンチウイルスベクターを用いて培養小脳プルキンエ細胞にGFPを発現させたときの蛍光強度の比較、(b)CMVプロモーター制御下でGFPを発現するレンチウイルスベクターをさまざまなMOIでHEK293T細胞に感染させたときのGFP蛍光強度を示す。
図16は、種々のプロモーターを組み込んだレンチウイルスベクターを用いて、培養小脳プルキンエ細胞にGFP遺伝子を発現させたときの蛍光免疫染色写真を示す。
図17は、生体小脳への遺伝子導入の結果を示す。(a-d)は、レンチウイルスベクターを用いて、従来のL7プロモーター(L7-1)制御下でGFPを発現させたときのGFPの蛍光写真、(c),(d)は抗GFP抗体を用いて免疫染色した写真(これにより蛍光は増強する)、(e-h)はL7-4プロモーターを用いた場合の小脳プルキンエ細胞のGFP蛍光写真を示す。
なお、上記図面のグラフ中、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001(ANOVA with least significance test)
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2006-062192号及び特願2006-198398号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
1.プルキンエ細胞指向性ベクター
本発明にかかる「プルキンエ細胞指向性ベクター」(以下、「本発明のベクター」という)とは、小脳プルキンエ細胞に高い親和性を有し、プルキンエ細胞特異的に遺伝子導入を行うことができるベクターであって、小脳に存在するバーグマングリア、星状細胞、籠細胞等の他の神経細胞やグリア細胞よりも、プルキンエ細胞に対して高い選択性を有するベクターである。
本発明のベクターは、ウイルス由来プラスミドベクターに改変型L7プロモーターと外来遺伝子を機能しうる態様で連結して成る。あるいは、レンチウイルスプラスミドベクターに適当なプロモーターと外来遺伝子を機能しうる態様で連結して成る。
ここで、ウイルス由来プラスミドベクターとは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルス、及びレンチウイルス由来のプラスミドベクターを含み、特にプルキンエ細胞に対する選択性が高いアデノ随伴ウイルスとレンチウイルス由来のプラスミドベクターが好ましく、レンチウイルスベクターが最も好ましい。
「レンチウイルス」とは、逆転写酵素を有するRNAウイルスの1つであって、非分裂細胞にもサイトカイン刺激なしに高効率で感染し、宿主染色体にウイルスゲノムを組み込むことができる。そのため、レンチウイルス由来のベクターは、哺乳動物への遺伝子導入用ベクターとして汎用されている。レンチウイルスとしては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ヒツジ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、マエディウイルス等が知られているが、ベクターとしては、一般にヒト免疫不全ウイルス、ネコ免疫不全ウイルス、サル免疫不全ウイルスに由来するものが使用されている。
レンチウイルスのウイルス粒子は、2本のプラス鎖RNAとこれを囲むコア蛋白質(gag蛋白質)、コアを囲むマトリックス、さらにその外側を囲む脂質二重膜で構成される。コアの中には、逆転写酵素、RNaseH、インテグラーゼ、プロテアーゼが含まれ、脂質二重膜には糖蛋白質であるエンベロープ蛋白質がスパイクしている。
ウイルスの感染、宿主中での増殖には、上記した蛋白質が複雑に関与する。特に、ウイルスエンベロープ上の糖蛋白質はウイルスの感染性に非常に重要であり、インフルエンザウイルスでは、この糖蛋白質が酵素により切断されることで感染性が変化することが知られている。HIVはCD4陽性細胞にしか感染できないが、HIV由来レンチウイルスベクターではさまざまな種類の細胞への感染を可能にするため、Vesicular somatitis virus glycoprotein(VSV-G)VSV-Gに置換されている。したがって、HIV由来レンチウイルスベクターのプルキンエ細胞選択性についても、このVSV-Gが深く関与していることが予測される。
レンチウイルスプラスミドベクターは、通常2~4つのコンポーネント[パッケージング(パッケージングプラスミド、REVプラスミド)、エンベロープ、ベクター]から構成される。このうちパッケージングプラスミドは、エンベロープ以外のウイルス粒子形成に必要な蛋白質を供給するが、宿主内で複製できないよう、複製に必要なtat-rev領域を破壊したり、tatあるいはrevの一方を削除して他方を別なプラスミドに移している。エンベローププラスミドはエンベロープ形成に必要な蛋白質を供給するが、上述のごとくHIVのエンベロープではCD4陽性細胞にしか感染できないため、その蛋白質をVSV-Gに置換されている。ベクタープラスミドは、LTR、パッケージングシグナル、逆転写に必要なプライマー結合部位を含む。汎用されているベクタープラスミドでは、安全性を高めるために、LTRのエンハンサー/プロモーター部分を削除し、代わりにCMVプロモーター等の外来のプロモーターを組み込んでいる。
特に好ましい態様として、本発明ではプルキンエ細胞での外来遺伝子の適切かつ効率的な発現のために、前記外来プロモーターとして、改変型L7プロモーター使用する。この改変型L7プロモーターについては次項で詳述する。
本発明のベクターでは、レトロウイルスプラスミドベクターにプロモーター、特に改変型L7プロモーターと外来遺伝子が機能しうる態様で連結されている。ここで「機能しうる態様」とは、前記外来遺伝子が感染宿主に導入され、そこで適切に発現されることを意味する。
前記「外来遺伝子」は、レトロウイルスが本来有していない遺伝子であって、研究のためのレポーター遺伝子(GFP遺伝子など)のほか、遺伝子治療のための治療用遺伝子や疾患モデルマウス作出のための疾患遺伝子が用いられる。これら「治療用遺伝子」及び「疾患遺伝子」については、後で詳述する。
本発明のベクターによって産生されるウイルスは、その蛋白質が実質的に分解修飾されていない状態にあることが望ましい。特に、ウイルスエンベロープ上に存在する糖蛋白質VSV-Gが実質的に分解修飾されていない状態にあることが望ましい。これは、上述したように、ウイルスの蛋白質は感染や宿主での増殖において重要なはたらきをしているからであり、実際、発明者らはウイルス産生のための培養液にプロテアーゼを添加しておくことで、そのプルキンエ細胞選択性が大きく向上することを実証した。したがって、「実質的に」分解修飾されていない状態とは、ウイルスの産生から使用時まで、ウイルス蛋白質が100%分解修飾されないことを厳密に要求したものではなく、その目的(プルキンエ細胞指向性)が達成される範囲において、影響を与えない程度の微細な不可避的に生じる分解修飾を許容する意味である。
2.改変型L7プロモーター
本発明で用いられる改変型L7プロモーターは、従来の3kbの長さを持つ小脳プルキンエ細胞特異的L7プロモーター(配列番号1)を基に、約3分の1の長さ(1kb)で細胞特異性を保持したまま、より強い活性を持つプロモーター領域として同定されたものである。
具体的には、本発明の改変型L7プロモーターは、配列番号3(L7-3)又は配列番号4(L7-4)に示される塩基配列を有する。しかしながら、これらの配列に限定されず、配列番号3又は4で示される塩基配列と相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるDNAもまた、それが前記改変型L7プロモーターと同等の塩基長(900bp~1500bp程度)を有し、かつ同等のプルキンエ細胞特異的プロモーター活性を有する限り、本発明の改変型L7プロモーターに包含される。少なくとも配列番号4に示されるL7-4プロモーター配列を含む限り、L7プロモーター配列(配列番号1)上の連続した1006bp~1500bpの任意の断片、とくに配列番号4に示されるL7-4プロモーター配列を含むL7-3プロモーター配列(配列番号3)上の連続した1006~1319bpの任意の断片は、本発明の改変型L7プロモーターとして利用可能なことは理解できるであろう。
なお、本明細書において、前記「ストリンジエントな条件」とは、6xSSC(1xSSCの組成:0.15M NaCl,0,015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5xデンハルトと100μg/ml変性断片化サケ精子DNAと50%ホルムアミドを含む溶液中、配列番号1に示される塩基配列からなる核酸とともに55℃で一晩保温し、低イオン強度、例えば、2xSSC、よりストリンジエントには、0.1xSSC等の条件及び/又はより高温、37℃以上、ストリンジエントには、42℃以上、よりストリンジエントには、50℃以上、より一層ストリンジエントには、60℃以上等の条件下での洗浄を行なう条件により達成されうる。
3.プルキンエ細胞指向性ベクターの調製
本発明のベクターは、たとえば、ウイルスベクタープラスミドに治療用遺伝子を機能しうる態様で連結させ、適当な宿主細胞にトランスフェクションし、これをプロテアーゼ阻害剤を含む培養液中で培養して、ウイルスを産生させることにより作製される。
前記「宿主細胞」としては、通常HEK293FT細胞、HEK293T細胞等が用いられる。ベクタープラスミドのトランスフェクションは、カルシウムイオンを用いる方法[Cohen,S.N.et al.:Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,69:2110-2114(1972)]や、エレクトロポレーション法等、公知の方法を用いて、前項に記載したベクターシステムを構成するすべてのプラスミド(パッケージング、エンベロープ、ベクター)を宿主細胞に導入することにより達成される。
ウイルスを培養するための培養液はとしては、MEM、α-MEM、D-MEM、BME、RPMI-1640、D-MEM/F-12、Ham’s F-10、Ham’s F-12等、公知の培養液を培養する細胞に合わせて適宜選択して用いることができる。
前記培養液に加えるプロテアーゼ阻害剤は特に限定されないが、カテプシンK阻害活性を有するものを好適に用いることができる。そのような物質としては、市販のカテプシンK阻害剤:たとえば、Cathepsin K inhibitor I、Cathepsin K inhibitor II、Cathepsin K inhibitor III(いずれも、メルク カルビオケム社製等)のほか、カテプシン阻害剤:たとえば、Cathepsin inhibitor I、Cathepsin inhibitor II、Cathepsin inhibitor III(いずれも、メルク カルビオケム社製等)を使用することができる。
前記培養液は、ウイルス産生時においてpH7.2~pH8.0が維持されていることが好ましい。これ以下のpHではベクターのプルキンエ細胞指向性(選択性)が低下し、これ以上のpHでは細胞の増殖が悪くなるからである。細胞の増殖につれて、培養液のpHは酸性にシフトするため、培養液中にはプロテアーゼ阻害剤のほか、HEPES等のpH低下を防ぐ効果のある試薬を適宜加えてもよい。
宿主細胞の培養は、一般には3~10%CO、30~40℃、特に5%CO、37℃、の条件下で行われるが、これに限定されるものではない。トランスフェクション後の培養期間は、特に限定されないが、少なくとも24時間、長い場合は216時間、好ましくは36から72時間、より好ましくは40から48時間程度である。
なお、インビトロシェン社製のレンチウイルスベクター(商品名:pLenti6/V5-DEST)を用いる場合は、そのまま使用するとあまり高い力価は得られないが、該ベクターからSV40プロモーターとBlasticidine耐性遺伝子を除去することで、高力価(10TU/ml)を得ることができる(特願2005-231514参照)。
4.プルキンエ細胞指向性ベクターによる遺伝子治療
本発明のベクターは、プルキンエ細胞に対する親和性、選択性が極めて高いため、プルキンエ細胞への送達ベクターとして、遺伝子治療に有用である。すなわち、本発明のベクターは、プルキンエ細胞における障害を病因とする「プルキンエ細胞障害性疾患」の治療用医薬組成物として有用である。前記医薬組成物は、本発明のベクターを薬理学的に許容しうる担体とともに適当なバッファーに溶解・懸濁することによって調製され、小脳皮質及び/あるいは小脳表面のクモ膜下腔に注入される。
前記「プルキンエ細胞障害性疾患」としては、脊髄小脳変性症やハンチントン病を含むポリグルタミン病、ニーマンピック病、毛細血管拡張性運動失調症、自閉症、アルツハイマー病、胎児アルコール症候群(FAS)、アルコール中毒、ならびに加齢性小脳失調を挙げることができる。
本発明のベクターに連結される「治療用遺伝子」とは、プルキンエ細胞で発現された場合、前記したプルキンエ細胞障害性疾患の治療に有用な遺伝子であって、その治療対象とする疾患に合わせて、以下のように選択することができる。
ポリグルタミン病の治療を目的とした場合は、GTPase CRAG(Qin et al.J.cell Biol.2006 Feb 13;172(4):497-504.)、ubiquitin chain assembly factor E4B(UFD2a)(Matsumoto et al.EMBO J.2004 Feb 11;23(3):659-69.)、ATPase VCP/p97(Hirabayashi et al.Cell Death Differ.2001 Oct;8(10):977-84.)、分子シャペロンHDJ-2 HSDJ(Cummings et al.Nat Genet.1998 Jun;19(2):148-54.)や分子シャペロンBiP(Kozutsumi et al.Nature.1988 Mar 31;332(6163):462-4.)、小胞体蛋白質分解を促進する分子:ER degradation enhancing alpha-mannosidase-like protein(EDEM)(Oda et al.Science.2003 Feb 28;299(5611):1394-7.)、ERのセンサー分子(Endoplasmic reticulum(ER)stress transducer):CREB/ATF family member OASIS(Kondo et al.Nat Cell Biol.2005 Feb;7(2):186-94.)、IRE1(Welihinda and Kaufman.J Biol Chem.1996 Jul 26;271(30):18181-7.)、PERK,ATF6(Yoshida et al.J Biol Chem.1998 Dec 11;273(50):33741-9.)をコードする遺伝子を用いることができる。
また、脊髄小脳変性症1型、2型、6型の治療を目的とした場合は、ataxin-1、ataxin-2、α1a電位依存型カルシウムチャネル、PKCγ遺伝子をコードする遺伝子に対するsiRNA、ハンチントン病の治療を目的とした場合は、Huntingtinに対するsiRNAを用いて、これら遺伝子の発現を抑制してもよい。
ニーマンピック病の治療を目的とした場合は、スフィンゴミエリナーゼをコードする遺伝子を治療用遺伝子として用いることができる。毛細血管拡張性運動失調症の治療を目的とした場合は、AT-mutated(atm)、自閉症の治療を目的とした場合は、ReelinやBcl-2をコードする遺伝子を治療用遺伝子として用いることができる。アルツハイマー病の治療を目的とした場合は、ネプリライシンをコードする遺伝子を治療用遺伝子として用いることができる。さらに、胎児アルコール症候群(FAS)、アルコール中毒、及び加齢性小脳失調の治療を目的とした場合は、Bcl-2、DNF、NGFをコードする遺伝子を治療用遺伝子として用いることができる。
こうした遺伝子治療の薬理評価は、治療対象となる疾患の種類により異なるが、脊髄小脳変性症の場合、ベクターを、小脳皮質及び/あるいは小脳表面のクモ膜下腔に投与した後、細胞学的にはプルキンエ細胞、星状細胞や籠細胞を含む小脳の神経細胞の変性脱落の防止によって、さらに臨床的(動物の場合は行動学的)には小脳失調の改善程度により行うことができる。
本発明の医薬組成物は、好ましくは、小脳表面のクモ膜下腔に注入することにより、投与される。注入されたベクターは、注入部位周辺のプルキンエ細胞のみに限局することなく、プルキンエ細胞全体に高い親和性で、かつ広範囲に治療用遺伝子を送達することができる。また、小脳表面のクモ膜下腔への本発明のベクターの注入は、ヘルペスウイルスやアデノ随伴ウイルスで報告された脳深部に位置する下オリーブ核や小脳核への注入に比べて簡便で、脳実質の損傷を抑制できるため、臨床応用に優れる。
投与にあたっては、注入の際、脳圧を安定して維持させる観点から、好ましくは、一定した速度で注入可能な手段、例えばマウスでは、ハミルトンシリンジとそれを取りつけることができるマイクロマニピュレーター及び注入のためのマイクルインジェクションポンプ等を用いることが望ましい。注入速度及び投与量は、脳圧を安定して維持できる範囲であれば特に限定されるものではなく、個体の年齢、体重、疾患状態等に応じて、適宜設定され得る。例えばマウスの場合、10nl/分~800nl/分、好ましくは、50nl/分~400nl/分、より好ましくは、100nl/分~200nl/分、計2~8μlであることが望ましい。
本発明の医薬組成物の投与量は、治療効果を発揮させるに適した量であれば特に限定されるものではなく、個体の年齢、体重、疾患状態等に応じて、適宜設定され得る。また、本発明の治療剤の投与回数は、治療効果を発揮させるに十分な回数であればよい。アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、センダイウイルスおよびレンチウイルスを用いた場合、長期の遺伝子発現が確認されているため1回の投与でもよいが、組み込まれる遺伝子のコピー数を増加させ、より広範囲の細胞に導入させるためには、治療効果を見ながら、小脳表面の場所を変更して3回程度投与してもよい。
5.小脳プルキンエ細胞障害性疾患のモデル動物
本発明のベクターを非ヒト哺乳動物のクモ膜下腔に注入することにより、対象動物のプルキンエ細胞特異的に特定遺伝子の発現を抑制したり、過剰発現させることができる。
使用可能な非ヒト哺乳動物は、特に限定されないが、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヒツジ、イヌ、ネコ、サルを挙げることができる。特にマウス、ラット以外の動物ではトランスジェニックマウスを作出するのが極めて困難であるため、本発明のベクターの使用は非常に有効である。
たとえば、本発明のベクターに外来遺伝子として、前記した小脳疾患遺伝子(異常伸長したCAGリピートを持つataxin-1、ataxin-2、ataxin-3、α1a電位依存型カルシウムチャネル、Huntingtinをコードする遺伝子や変異を持つPKCγをコードする遺伝子(Klebe S.et al.New mutations in protein kinase Cgamma associated with spinocerebellar ataxia type 14.Ann Neurol.2005 Nov;58(5):720-9)などを非ヒト哺乳動物に導入して発現させれば、当該遺伝子が関与する小脳プルキンエ細胞障害性疾患を発症させることができる。このようなトランスジェニック動物は、小脳プルキンエ細胞障害性疾患のモデル動物や小脳機能研究用モデル動物として有用である。
6.プルキンエ細胞指向性ウイルスベクター作製用培養液及びキット
本発明はまた、カテプシンK阻害活性を有する物質を含んで成る、プルキンエ細胞指向性ウイルスベクター作製用培養液や、そのような培養液(カテプシンK阻害活性を有する物質と細胞培養液、またはカテプシンK阻害活性を有する物質を含む細胞培養液)を構成要素として含む、プルキンエ細胞指向性ウイルスベクター作製用キットも提供する。
本発明の培養液は、MEM、α-MEM、D-MEM、BME、RPMI-1640、D-MEM/F-12、Ham’s F-10、Ham’s F-12等、公知の培養液にカテプシンK阻害活性を有する物質を添加して調製される。カテプシンK阻害活性を有する物質としては、カテプシンK阻害剤:たとえば、Cathepsin K inhibitor I、Cathepsin K inhibitor II、Cathepsin K inhibitor III(いずれも、メルク カルビオケム社製等)のほか、カテプシン阻害剤:たとえば、Cathepsin inhibitor I、Cathepsin inhibitor II、Cathepsin inhibitor III(いずれも、メルク カルビオケム社製等)などを適宜用いることができるが、これらに限定されるものではない。
前記培養液は、ウイルス産生時においてpH7.2~pH8.0が維持されているように、HEPES等のpH低下を防ぐ効果のある試薬を適宜含んでいてもよい。
本発明のキットは、前記した必須の構成要素(カテプシンK阻害活性を有する物質と細胞培養液、またはカテプシンK阻害活性を有する物質を含む細胞培養液)のほか、ウイルスプラスミドトランスフェクション用の塩化カルシウム溶液やHank’s平衡塩溶液(Hank’s Balanced Salt Solution:HBSS)、リン酸バッファー、ろ過滅菌用フィルター(径0.22μmのものなど)等を含んでいてもよい。塩化カルシウムは、たとえば、36.76g CaCl2HOに精製水100mlを加え、ろ過滅菌することにより調製される。また、Hank’s平衡塩溶液(2xHBSS)は、たとえば、NaCl 8.2g(final 0.28M)、HEPES 5.95g(final 0.05M)、NaHPO 0.108g(final 1.5mM)、HO 400mlを混合し、5N NaOHでpH7.05に調製し、精製水を加えて500mlにすることにより調製される。
【実施例】
【0006】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1:トランスフェクション後の培養時間がウイルスのプルキンエ細胞選択性に与える影響
<方法>
(1)ウイルスの産生
以下の操作を、P2実験室で行なった。ウイルス産生には、HEK293FT細胞を用いた。培養液は通常用いられている、10%ウシ血清を加えたDulbecco’s modified Eagle’s medium(D-MEM)を使用した。対数増殖期のHEK293FT細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(Mg2+とCa2+とを含有しない)[PBS(-)]に分散させ、ついで、10cmディッシュ(ファルコン社製)あたり5×10細胞となるように播種した。播種後の10cmディッシュに、10重量%ウシ胎仔血清含有D-MEM10mlを添加し、その後、細胞を、5体積%CO,37℃で培養した。24時間後、前記ディッシュ中の培養液を、新しい培養液(10重量%ウシ胎仔血清含有D-MEM)10mlと交換した。その後、細胞を、5体積%CO,37℃で0.5時間培養した。
一方、pCAGkGP1R(St.Jude Children’s Research Hospital)6μg,pCAG4RTR2(St.Jude Children’s Research Hospital)2μg,pCAG-VSV-G(St.Jude Children’s Research Hospital)2μg,pCL20c MSCV-GFP(St.Jude Children’s Research Hospital/George Washington University)10μgそれぞれを450μl滅菌水に溶解させ、プラスミド溶液を得た。
・pCAGkGP1R:gag(ウイルスの構造蛋白質をコード)とpol(逆転写酵素をコード)を含むパッケージングプラスミド。
・pCAG4RTR2:tat(転写調節遺伝子)を含むプラスミド。revを削除してあるため、ウイルス粒子は宿主内で複製することができない。
・pCAG-VSV-G:VSV-GはVesicular somatitis virus glycoproteinの略。レンチウイルスの本来のEnvelopeではCD4陽性細胞にしか感染できない。これをリン脂質をターゲットとするVSV(Vesicular stomatitis virus)のEnvelopeに置換し、神経を含むさまざまな細胞に感染可能としたエンベローププラスミド。
・pCL20c MSCV-GFP:レンチウイルスのメインベクターpCL20cにおいて、2つのLTR内にMSCVプロモーターを配置し、これにGFP遺伝子を連結させたプラスミド(図1)。
このようにウイルス産生に不可欠な遺伝子を4つのプラスミドに分割し、複製に必要な領域等を削除することにより、産生されたウイルスは感染能を持つ一方、感染後は自己増殖能が欠如するため安全性が増す。
得られたプラスミド溶液に2.5M CaCl 50μlを添加して攪拌し、2xHBSS〔組成:50mM HEPES、0mM NaCl,1.5mM NaHPO,pH7.05)〕500μlを添加し、すばやく攪拌した。
前記ディッシュにプラスミド溶液を均等に滴下し、穩やかにディッシュ内の培地と混合した。その後、細胞を、5体積%CO,35℃で培養した。以下、バイオハザード対策用安全キャビネットの中で操作を行なった。
16時間後、前記ディッシュ中の培地を、新しい培地(10重量%ウシ胎仔血清含有D-MEM)10mlと交換した。さらに細胞を、5体積%CO,37℃で培養しトランスフェクション後から40時間でウイルスを含む培養液を回収した(40h virus)。その後、新しい培養液を加えてさらに24時間培養し、トランスフェクション後64時間(64h virus)でウイルスを含む培養液を回収した(図2参照)。
(2)濃縮
前記(1)で回収した培地は、それぞれ50ml遠心管に移し、1000rpm(120×g)、4分間遠心分離して、上清を得た。得られた上清を、フィルター(ミリポア社製、0.22μm径)に通した。得られた濾液を、ベックマン社製ローターSW28.1を用いた超遠心分離(25,000rpm,2時間、4℃)に供してウイルス粒子を沈殿させ、上清を除去した。
得られたウイルス粒子沈殿物をPBS(-)に懸濁し、最終量を200μlとし、感染用ウイルス液を得た。なお、すぐに使用しないウイルス液を、20μlずつ分注し、-80℃で保存した。
(3)ウイルス力価の測定
(i)GFPの蛍光を指標とする方法
対数増殖期のHELA細胞をPBS(-)に分散させ、ついで、12ウェルディッシュ(イワキ硝子社製)に1ウェルあたり5x10細胞となるように播種した。播種後の12ウェルディッシュに、10重量%ウシ胎仔血清含有D-MEMを、1ml/ウェルとなるように添加し、その後、細胞を、5体積%CO,37℃で24時間培養した。
ウイルス液を10~10倍となるように前記ウェル内の培地に添加した。また、同時に、Hexadimethrine Bromide(SIGMA社製、商品名:ポリブレン)を6μg/mlとなるように各ウェルに添加した。その後、細胞を5体積%CO,37℃で88時間培養した。
ウェルの中の緑色蛍光蛋白質(GFP)発現細胞を蛍光顕微鏡(オリンパス社製商品名:CKX41)下でセルカウンター(アズワン社製、商品名:数取器)を用いて計測し、ウイルスの力価を算出した。10希釈ウイルス液を添加した中、Y個の細胞のGFP発現細胞が見出された場合、ウイルス力価は、Y×10TU/ml(TU:transductionunit)として算出される。
(ii)培養細胞(HeLa細胞)のゲノムに組み込まれるプロウイルスのコピー数による評価(Izopet et al.J Med Virol.1998 Jan;54(1):54-9.)
HeLa細胞を10cmディッシュで培養し、播種24時間後にウイルス液を感染させる。感染3日後に5.0x10個の細胞を得た。これと平行して同数のLAV-8E5細胞(ATCC社,Manassas,VA,USA)を得た。LAV-8E5細胞は1細胞にHIV1型のプロウイルスを1コピー持っており、これをスタンダードとした。これらの細胞からゲノムDNAを抽出し、最終的に100μlのTEバッファーに溶解した。このうち1μlを用い、HIVプロウイルスのRRE(rev responsive element)に含まれる290ベースペアの領域を、以下のプライマーを用いて増幅した:
5’-ATGAGGGACAATTGGAGAAGTGAATTA-3’(配列番号9)、5’-CAGACTGTGAGTTGCAACAGATGCTGT-3’(配列番号10)。
ゲノムに組み込まれるプロウイルスのコピー数はゲノムDNAを段階希釈して求めた。すなわち、バンドが現れなくなる直前の希釈倍率を決定し、LAV-8E5細胞を用いたスタンダードと比較することで、5.0x10個のHeLa細胞あたり何個のプロウイルスが組み込まれているか(ゲノムコピー数/ウイルス液1ml)を計算した。
(4)マウス小脳クモ膜下腔へのベクターの接種
マウス(SLC供給、4~10週齢)に、ペントバルビタール(商品名:ネンブタール)を、腹腔内投与(40mg/kg body weight)にて麻酔し、以下の操作を、バイオハザード対策用安全キャビネットの中で行なった。
麻酔後、マウスを、小動物固定装置〔ナリシゲ社製、商品名:SG-4〕を用いて固定した。また、体温コントローラー〔FST社製、商品名:体温コントロールシステム(マウス用)FST-HPSM〕にて、マウス体温を37℃となるように維持した。マウスの頭部の毛を刈った後、Bregmaより数ミリ吻側から小脳直上にかけて皮膚を切開した。ついで、実体顕微鏡(ニコン社製、商品名1SMZ645)下で、Bregmaより5~7mm尾側の正中部の頭蓋骨に、マイクロドリル〔浦和工業社製、商品名:パワーコントローラーUC100+HB1(ドリル)〕を用いて、内径2~3mmの穴を開けた。また、注射針を用いて、骨の下の硬膜及びクモ膜に穴を開けた。
得られたレンチウイルスベクターを、商品名:レックスフィルマイクロシリンジ(WPI社製、10μl容量)に充填し、フレックスフィルマイクロシリンジをマイクロマニピュレーターに取りつけたウルトラマイクロポンプ2(WPI社製)にセットした。
マイクロシリンジの針先を小脳直上に開けた硬膜の穴より約0.5mm刺入し、クモ膜下腔に留置後、前記レンチウイルスベクターを、ウルトラマイクロポンプ2専用デジタルコントローラーMicro4(商品名、WPI社製)を用いて、100nl/分の速度で40分間、計4μI注入した。
注入後、切開したマウスの皮膚を、縫合糸付き眼科用微小針(夏目製作所社製、商品名.眼科用弱弩針C67-0)で縫合した。その後、固定装置からマウスをはずし、ヒーティングパッド(昭和精機工業社製、商品名:ゴムマットヒーターSG-15)上に置いたケージ(安全キャビネット内)で観察した。マウスが、麻酔から覚醒した後、マウスケージをHEPAフィルター付の感染動物用ラック(トキワ科学器械株式会社製、商品名:バイオクリーンガプセルユニットT-BCC-M4)内で飼育した。
接種後7日目のマウスについて、4%ホルムアルデヒド-リン酸緩衝液で灌流固定後、脳を摘出した。蛍光実体顕微鏡を用いて脳全体の写真とGFPの蛍光写真を撮影後、厚さ50μm、あるいは100μmの小脳矢状断切片をマイクロスライサー(堂阪イーエム社製 商品名:DTK-1000)を用いて作製した。作製された脳切片を、一次抗体[Mouse monoclonal anti-parvalbumin(星状細胞、籠細胞のマーカー):SIGMA社製、あるいはMouse monoclonal anti-GFAP(グリア細胞のマーカー):ケミコン社製、あるいはMouse monoclonal anti-neuron-specific nuclear protein(NeuN、顆粒細胞のマーカー):ケミコン社製、あるいはmouse monoclonal anti-mGluR2(ゴルジ細胞のマーカー):生理学研究所重本隆一教授より譲り受け)と共に24時間室温でインキュベーションし、ついで、二次抗体(Alexa fluor 568-conjugated anti-mouse IgG:Invitrogen社製)で2時間、室温でインキュベーションし、顕微鏡用標本を得た。その後、蛍光顕微鏡(Leica社製 商品名:DMI 6000B)及び共焦点顕微鏡(CarlZeiss社製 商品名:LSM5 Pascal)で標本の観察を行なうことにより発現GFP蛋白質の局在と発現細胞の種類を調べた。
<結果>
トランスフェクション後40時間で培養液中に放出されたウイルスの接種では、全GFP発現細胞のうち約半分(51%)がプルキンエ細胞であった。バーグマングリア(22%)、星状細胞/籠細胞(16%)がこれに続いた(図2及び図3)。一方、トランスフェクション後、40時間から64時間で培養液中に放出されたウイルス(64h virus)の接種では、GFP発現プルキンエ細胞の割合は15%、星状細胞/籠細胞(4%)に減少し、バーグマングリアは77%にまで増加した(図2及び図3)。
表1に示すように、トランスフェクション後40時間の培養液のpHは7.2であるが、トランスフェクション後64時間後の培養液のpHは7.0に低下する。したがって、プルキンエ細胞への親和性の低下は培養液のpHの変化によるものではないかと考えた。
【表1】
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実施例2:プルキンエ細胞選択性に対するウイルス産生時の培養液のpHの影響
実施例1の結果に基づき、培養液のpHとプルキンエ細胞選択性の関係について検討した。
<方法>
実施例1に従い、トランスフェクション後40時間のウイルスを含む培養液に希塩酸を加えてpHを7.0に調節した後、ウイルスを精製し、同様にマウス小脳に接種し、7日後の脳切片を観察した。さらにHEK293FT細胞より増殖が遅く、したがって培養液の増殖に伴う酸性化も遅いHEK293T細胞を用いて同様の実験を行った。
<結果>
トランスフェクション後40時間の培養液のpH(7.2)を0.2だけ酸性側にシフト(pH7.0)させ、同じようにウイルスをマウス小脳に接種すると、予想通りトランスフェクション後64時間で回収したときとほぼ同様の結果を得た。すなわち、GFP発現プルキンエ細胞14%、バーグマングリア72%、星状細胞/籠細胞1.7%であった(図2の40h virus(pH↓)、及び図4)。さらにHEK293FT細胞より育ちの遅いHEK293T細胞を用いると培養液の酸性化が遅くなり、同じようにウイルスを産生させても、プルキンエ細胞への親和性が高いウイルスが得られることがわかった。このことは細胞膜の構成成分であるリン脂質(フォスファチジルセリン)と結合能を持つVSV-Gエンベロープを用いても、プルキンエ細胞への選択性は、ウイルス産生時の培養液のpHに大きく影響されることを示している。
実施例3:プルキンエ細胞選択性に対する血清の影響
<方法>
表1に示すLotの異なる9種のウシ血清を用いて、実施例1と同様の手順でウイルスを産生させ、それぞれのプルキンエ細胞への選択性を検討した。
【表2】
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<結果>
図5に示すとおり、プルキンエ細胞への選択性は血清のLotの違いにより大きく異なることが明らかになった。さらに血清を加えなかった場合でもウイルスは産生されるが、プルキンエ細胞への選択性が低く、さまざまな細胞に遺伝子発現することが確認された。
実施例4:プルキンエ細胞選択性に対するプロテアーゼ阻害剤の影響
<方法>
血清の代わりに、表3に示す様々な種類のプロテアーゼ阻害剤の存在下で、実施例1の手順にしたがいHEK293T細胞にウイルスを産生させ、精製したウイルスのマウス小脳における遺伝子発現のプルキンエ細胞選択性を検討した。
【表3】
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ウイルスはすべて1x10TU/mlの力価に合わせた後、マウス小脳に接種し、1週間後に厚さ100μmの小脳矢状断切片を作製した。共焦点レーザー顕微鏡(20倍の対物レンズ)を用いて切片を2μmの厚みで切片の下から上までスキャンし、GFPのシグナルを3次元的に再構成した。評価は以下の2つの方法により行った。
(1)観察視野(0.95mm)における、GFPを発現している全細胞中のプルキンエ細胞の割合(%)を求めた。これはウイルス感染のプルキンエ細胞への選択性(Selectivity)を表す。
(2)観察視野における、全プルキンエ細胞中のGFP発現プルキンエ細胞の割合(%)を求めた。これはウイルスのプルキンエ細胞への感染効率(efficiency)を表す。
<結果>
(1)プルキンエ細胞への選択性(図6)
血清もプロテアーゼ阻害剤も添加せず、D-MEMのみの培地で産生したウイルスベクターでは、プルキンエ細胞への選択性は48%であった(GFPを発現している細胞のうち約半分がプルキンエ細胞)。血清を加えた培地で産生させたウイルスでは、選択性が大きく上昇するもの(GIBCO、メキシコ産血清など)もあったが、ほとんど変わらないもの(HyClone社製血清)もあった。これに対し、血清を加えずにプロテアーゼ阻害剤を用いたものでは、TIMP-1を除く使用した薬剤いずれにおいてもプルキンエ細胞への選択性が大きく上昇した。特にカテプシンK阻害剤を加えたもの顕著であった。
(2)プルキンエ細胞の遺伝子発現効率(図7)
血清もプロテアーゼ阻害剤も添加せず、D-MEMのみの培地で産生したウイルスベクターでは、プルキンエ細胞への遺伝子発現効率は37%であった(観察視野の全プルキンエ細胞中37%の細胞がGFP遺伝子を発現していた)。選択性の結果とは異なり、プルキンエ細胞における遺伝子発現効率は、使用する血清のLotを変化させても有意な上昇は見られなかった。同様にプロテアーゼ阻害剤の添加でも、5種類中3種類で有意な上昇は見られなかった。しかし、カテプシンKを添加したものでは、プルキンエ細胞の遺伝子発現効率は86%と、著しい上昇が見られた。
以上の結果から、血清を添加する通常のプロトコールでレンチウイルスベクターを産生する場合、ウイルスベクターのプルキンエ細胞への選択性と遺伝子発現効率は培地中のプロテアーゼの働きにより、影響を受けていると考えられた。この現象には、特にシステインプロテアーゼファミリーの一つ、カテプシンKが大きな役割を果たしていると考えられ、ウイルス産生時の培地にカテプシンKの阻害剤を加えることで、プルキンエ細胞に極めて選択性が高く、かつ親和性も高いウイルスを産生することが可能となることが明らかとなった。
実施例5:プルキンエ細胞選択性とウイルスVSV-Gに対するカテプシンK阻害剤の影響
1.培養液のpHと培養液中のカテプシンK活性
<方法>
実施例1の手順でトランスフェクション後40時間の培養液(pH7.2)と64時間(pH7.0)の培養液を得る。これら2つの培養液中のカテプシンK活性をCathepsin K Detection Kit(メルク カルビオケム社製)を用いて測定する。
2.カテプシンKによるVSV-Gの切断
<方法>
40時間ウイルスと64時間ウイルスを産生、回収する。またトランスフェクション後40時間の培養液をカテプシンKで処理、あるいはpHを希塩酸を用いて7.0に低下させた後、ウイルスを回収する。これら4種のウイルスのVSV-G蛋白質の切断の状態を、直接アミノ末端シークエンシングを行い、どこで切断されているのか確認する。
3.ウイルスをカテプシンKで処理することで、プルキンエ細胞選択性が低下すること
<方法>
実施例1の手順に従い、トランスフェクション後40時間でウイルス粒子を含む培養液を得る。この培養液をカテプシンKで2時間処理する。その後超遠心を行ないウイルスを回収、マウス小脳に接種する。1週間後にウイルスのプルキンエ細胞選択性が低下しているのを確認する。カテプシンKに関しては、すでにHEK293T細胞からmRNAを抽出し、RT-PCR法を用いて遺伝子を得ている(HEK293T細胞からRT-PCRでカテプシンK遺伝子が得られたことは、HEK293T細胞がカテプシンKを発現していることを示している)。さらにカテプシンK遺伝子をpcDNA3.1ベクターにサブクローニングし、これを用いてHEK293T細胞をトランスフェクションし、3日後に培養液を回収したが、この培養液にカテプシンKが十分量含まれることも、rabbit polyclonal anti-cathepsin K抗体(BioVision社製)を用いたウエスタンブロット法にて確認している。このようにして得られたカテプシンKを用いてウイルスを処理する。
実施例6:プルキンエ細胞障害遺伝子を用いた疾患モデルマウスの作出
<方法>
脊髄小脳変性症3型(MJD病)の原因遺伝子はataxin-3であり、患者ではこの遺伝子内に存在するCAGリピートが異常伸長している。そこでCAGリピートが異常伸長したataxin-3を、レンチウイルスベクターを用いてプルキンエ細胞に発現させることにより、MJD病のモデルマウスを作出した。
<結果>
CAGリピートが異常伸長したataxin-3をMSCVプロモーターの制御下で発現するようにベクタープラスミドを作製した(図8A)。次に実施例1の手順に従い、40時間ウイルスを得た。なお、ウイルス産生の宿主細胞としてHEK293T細胞を用いた。得られたウイルスをマウス小脳に接種し、2ヵ月後に小脳失調の程度をロータロッド(室町機械社製、MK-660C)にて解析した。ロッド(棒)は停止状態から次第に加速し180秒後に40回転/分の速度になるように調節し、マウスがロッドに乗っている時間を測定した。実験は8回繰り返した。ウイルスで小脳にGFPを発現させたマウスは、ウイルスを接種していないコントロールマウスとロータロッドの成績に差がないことはあらかじめ確認している。これに対して、ウイルスを接種したマウスは、ウイルスを接種していないコントロールのマウスに比べて、有意に短時間でロッドから落下し、運動失調が出現していることが示された(図8B)。実験終了後、マウスを灌流固定し、小脳切片を作製して観察したところ、プルキンエ細胞内にataxin-3の凝集塊が認められた(図8C矢印)。
このように、ウイルスを用いて小脳疾患原因遺伝子をプルキンエ細胞に発現することにより、小脳疾患モデルマウスの作出が可能であることが示された。
実施例7:脊髄小脳変性症モデルマウスを用いた治療用遺伝子発現ウイルスの治療効果の検討
<方法>
プルキンエ細胞特異的L7プロモーターの制御下で、CAGリピートが異常伸長した脊髄小脳変性症3型遺伝子ataxin-3[Q69]を発現するように配置したDNAコンストラクト(図9A)を作製した。これをマウス受精卵に接種し、小脳プルキンエ細胞特異的にataxin-3[Q69]を高発現するトランスジェニックマウス(脊髄小脳変性症モデルマウス)を3ライン得た。これらのマウスの小脳に治療用遺伝子候補であるCRAG、あるいはVCP/p97の522番目のシステインをスレオニンに変換したVCP(C522T)を発現するウイルスベクター(図10A)を接種し、運動失調が回復するかを観察した(図10B-E)。
<結果>
得られた3つのラインの脊髄小脳変性症モデルマウスのうち、a lineとb lineは生後すぐの時点から運動失調が極めて強く(図9B)、小脳の萎縮も顕著であった(図9C,D)。これに対し、c lineの運動失調の程度は野生型とa,b lineと野生型の中間であった(図9B)。生後30日のc lineのモデルマウスの小脳にCRAGを発現するウイルスを接種し、1週間おきにロータロッドテスト(ロッドは静止状態から、180秒で40回転/分まで加速)を施行した。接種1週間後では、接種していないモデルマウスとほとんど差は認められなかった。しかしその後、ウイルスを接種したマウスは徐々に成績が向上した(図9D)。すなわち、ウイルスを用いたプルキンエ細胞選択的なCRAGの発現により、脊髄小脳変性症3型モデルマウスの運動障害が顕著に回復した。より運動失調が強いb lineマウス(生後21日)にCRAGまたはGFPを発現するレンチウイルスベクターを接種したところ、4週後にロータロッドの成績の有意な回復が観察された(図10D)。8週後にはさらに長い間加速するロータロッドに乗ることができた(何も接種していないマウスとGFP発現レンチウイルスベクターを接種したマウスでは、20秒弱しかのることができなかったのに対し、CRAG発現ウイルスベクターを接種したものでは40秒以上ものることができた)。接種2ヶ月後に定速5回転でロータロッド試験を6回行ったところ、何も接種していないマウスとGFP発現レンチウイルスベクターを接種したマウスでは、何度行ってもロッドが回転するとすぐに落ちたのに対し、CRAG発現レンチウイルスベクターを接種したマウスでは、回数を重ねるごとに乗っていられる時間が長くなった(図10E)。このことはCRAGやVCP(C522T)発現により小脳が司る運動学習機能も回復したことを示している。
ウイルスベクター接種2ヶ月後にb lineマウスを灌流固定し小脳切片を作製した。小脳切片は抗HAタグ抗体(図11A,C,E)、と抗カルビンディン抗体を用いて二重免疫組織染色した(図11B,D,E)。何も発現していない切片ではプルキンエ細胞層は大きく乱れ、細胞内部にataxin-3を含む封入体を認めた(図11A,B)。これに対し、CRAGやVCP(C522T)発現させた切片では大部分の封入体が消失し、プルキンエ細胞層も1~2層と野生型に近い状態であった(図11C-F)。小脳皮質における封入体の数(図11G)、小脳皮質分子層の厚さ(図11H)を測定したところ、CRAGやVCP(C522T)発現させた切片で封入体の数の有意な減少と分子層の厚さの有意な増大を認めた。
実施例8:
図12に示されるように、従来のL7プロモーター(L7-1)を基に、種々の縮小型L7プロモーター(L7-2,L7-3,L7-4,L7-5,L7-6,L7-7)を作製し、レンチウイルスベクターを用いて、この縮小型プロモーター制御下でGFPを発現させ、プルキンエ細胞選択性をCMVプロモーター、MSCVプロモーター、あるいは従来のL7プロモーター(L7-1)の場合と比較した。なお、L7-1~L7-7の配列をそれぞれ配列表の配列番号1~7に示す。
<方法>
(1)ウイルスの産生
以下の操作を、P2実験室で行なった。ウイルス産生には、HEK293FT細胞を用いた。培養液は通常用いられている、10%ウシ血清を加えたDulbecco’s modified Eagle’s medium(D-MEM)を使用した。対数増殖期のHEK293FT細胞をリン酸緩衝化生理食塩水(Mg2+とCa2+とを含有しない)[PBS(-)]に分散させ、ついで、10cmディッシュ(ファルコン社製)あたり5×10細胞となるように播種した。播種後の10cmディッシュに、10重量%ウシ胎仔血清含有D-MEM10mlを添加し、その後、細胞を、5体積%CO,37℃で培養した。24時間後、前記ディッシュ中の培養液を、新しい培養液(10重量%ウシ胎仔血清含有D-MEM)10mlと交換した。その後、細胞を、5体積%CO,37℃で0.5時間培養した。
一方、pCAGkGP1R(St.Jude Children’s Research Hospital)6μg,pCAG4RTR2(St.Jude Children’s Research Hospital)2μg,pCAG-VSV-G(St.Jude Children’s Research Hospital)2μg,pCL20c L7-X-GFP又はpCL20c MSCV-GFP(St.Jude Children’s Research Hospital/George Washington University)10μgそれぞれを450μl滅菌水に溶解させ、プラスミド溶液を得た。
・pCAGkGP1R:gag(ウイルスの構造蛋白質をコード)とpol(逆転写酵素をコード)を含むパッケージングプラスミド。
・pCAG4RTR2:tat(転写調節遺伝子)を含むプラスミド。revを削除してあるため、ウイルス粒子は宿主内で複製することができない。
・pCAGS-VSVG:VSVGはVesicular somatitis virus glycoproteinの略。レンチウイルスの本来のEnvelopeではCD4陽性細胞にしか感染できない。これを細胞膜の構成成分であるリン脂質(フォスファチジルセリン)をターゲットとするVSVのEnvelopeに置換することで、神経を含むさまざまな細胞に感染することが可能となる。
・pCL20c MSCV-GFP:レンチウイルスのメインベクターpCL20cのプロモーターをMSCVプロモーターに置換し、2つのLTR内にGFPを連結させたプラスミド(図1)。
・pCL20c L7-X-GFP:レンチウイルスのメインベクターpCL20cのプロモーターをL7プロモータ(L7-1)又はその縮小型(L7-2~7)に置換し、2つのLTR内にGFPを連結させたプラスミド(図13にpCL20c L7-4-GFPの構造を、またその全配列を配列表の配列番号8に示す)。
得られたプラスミド溶液に2.5M CaCl 50μlを添加して攪拌し、2xHBSS〔組成:50mM HEPES、0mM NaCl,1.5mM NaHPO,pH7.05)〕500μlを添加し、すばやく攪拌した。
前記ディッシュにプラスミド溶液を均等に滴下し、穩やかにディッシュ内の培地と混合した。その後、細胞を、5体積%CO,35℃で培養した。以下、バイオハザード対策用安全キャビネットの中で操作を行なった。
16時間後、前記ディッシュ中の培地を、新しい培地(10重量%ウシ胎仔血清含有D-MEM)10mlと交換した。さらに細胞を、5体積%CO,37℃で培養しトランスフェクション後から40時間でウイルスを含む培養液を回収した(40h virus)。
(2)濃縮
前記(1)で回収した培地は、それぞれ50ml遠心管に移し、1000rpm(120×g)、4分間遠心分離して、上清を得た。得られた上清を、フィルター(ミリポア社製、0.22μm径)に通した。得られた濾液を、ベックマン社製ローターSW28.1を用いた超遠心分離(25,000rpm,2時間、4℃)に供してウイルス粒子を沈殿させ、上清を除去した。
得られたウイルス粒子沈殿物をPBS(-)に懸濁し、最終量を200μlとし、感染用ウイルス液を得た。なお、すぐに使用しないウイルス液を、20μlずつ分注し、-80℃で保存した。
(3)ウイルス力価の測定
培養細胞(HeLa細胞)のゲノムに組み込まれるプロウイルスのコピー数によって評価した(Izopet et al.J Med Virol.1998 Jan;54(1):54-9.)。HeLa細胞を10cmディッシュで培養し、播種24時間後にウイルス液を感染させる。感染3日後に5.0x10個の細胞を得た。これと平行して同数のLAV-8E5細胞(ATCC社,Manassas,VA,USA)を得た。LAV-8E5細胞は1細胞にHIV1型のプロウイルスを1コピー持っており、これをスタンダードとした。これらの細胞からゲノムDNAを抽出し、最終的に100μlのTEバッファーに溶解した。このうち1μlを用い、HIVプロウイルスのRRE(rev responsive element)に含まれる290ベースペアの領域を、以下のプライマーを用いて増幅した:
5’-ATGAGGGACAATTGGAGAAGTGAATTA-3’(配列番号9)
5’-CAGACTGTGAGTTGCAACAGATGCTGT-3’(配列番号10)。
ゲノムに組み込まれるコピー数はゲノムDNAを段階希釈して求めた。すなわち、バンドが現れなくなる直前の希釈倍率を決定し、LAV-8E5細胞を用いたスタンダードと比較することで、5.0x10個のHeLa細胞あたり何個のプロウイルスが組み込まれているか(ゲノムコピー数/ウイルス液1ml)を決定した。
(4)培養小脳プルキンエ細胞への遺伝子導入実験
胎生20あるいは21日のウイスターラットの小脳を用いて、12ウエルディッシュに以下の手順で培養した。1.0x10個/mlの密度の小脳細胞懸濁液を10%FBS入りのDMEM/F12で作製した。予めpoly-L-ornithineでコーティングした直径13mmのプラスチックカバースリップ(住友ベークライト社製、Sumilon MS-80060)の上に、懸濁液を1ウェルあたり20ml使用し(細胞20万個分)、直径約6mmになるように薄く伸ばした。その後、5%CO、37℃に保たれた加湿培養機の中に2時間静置した。細胞がカバースリップに貼りついた後、上清を吸引除去し37℃に温めた培養液(以下の成分)を800mlずつ加えた。培養液の成分:DMEM-nutrient mixture of Ham’s F-12(シグマ社製)+bovine insulin(10mg/ml)、bovine serum albumin(100mg/ml)、gentamicin(5mg/ml)、glutamine(200mg/ml)、human apotransferin(100mg/ml)、prostegerone(40nM)、putrescine(100nM)、sodium selenite(30nM)、triiodothyronine(0.5ng/ml)。次に2-4x10ゲノムコピー/mlの力価のウイルス液を1ml加えて感染させた。翌日(24時間後)に最終濃度が1%になるようにFBSを加えた。
14日後に培養細胞のGFP蛍光写真を撮像し、40個のプルキンエ細胞を無作為に選んで、その蛍光強度の平均を測定した。CMVプロモーターを使用した場合の平均GFP蛍光強度を100%として評価した。
(5)マウス小脳クモ膜下腔へのベクターの接種
マウス(SLC供給、4~10週齢)に、ペントバルビタール(商品名:ネンブタール)を、腹腔内投与(40mg/kg body weight)にて麻酔し、以下の操作を、バイオハザード対策用安全キャビネットの中で行なった。
麻酔後、マウスを、小動物固定装置〔ナリシゲ社製、商品名:SG-4〕を用いて固定した。また、体温コントローラー〔FST社製、商品名:体温コントロールシステム(マウス用)FST-HPSM〕にて、マウス体温を37℃となるように維持した。マウスの頭部の毛を刈った後、Bregmaより数ミリ吻側から小脳直上にかけて皮膚を切開した。ついで、実体顕微鏡(ニコン社製、商品名1SMZ645)下で、Bregmaより5~7mm尾側の正中部の頭蓋骨に、マイクロドリル〔浦和工業社製、商品名:パワーコントローラーUC100+HB1(ドリル)〕を用いて、内径2~3mmの穴を開けた。また、注射針を用いて、骨の下の硬膜及びクモ膜に穴を開けた。
得られたレンチウイルスベクターを、商品名:レックスフィルマイクロシリンジ(WPI社製、10μl容量)に充填し、フレックスフィルマイクロシリンジをマイクロマニピュレーターに取りつけたウルトラマイクロポンプ2(WPI社製)にセットした。
マイクロシリンジの針先を小脳直上に開けた硬膜の穴より約0.5mm刺入し、クモ膜下腔に留置後、得られたレンチウイルスベクターを、ウルトラマイクロポンプ2専用デジタルコントローラーMicro4(商品名、WPI社製)を用いて、100nl/分の速度で40分間、計4μI注入した。
注入後、切開したマウスの皮膚を、縫合糸付き眼科用微小針(夏目製作所社製、商品名.眼科用弱弩針C67-0)で縫合した。その後、固定装置からマウスをはずし、ヒーティングパッド(昭和精機工業社製、商品名:ゴムマットヒーターSG-15)上に置いたケージ(安全キャビネット内)で観察した。マウスが、麻酔から覚醒した後、マウスケージをHEPAフィルター付の感染動物用ラック(トキワ科学器械株式会社製、商品名:バイオクリーンガプセルユニットT-BCC-M4)内で飼育した。
接種後7日目のマウスについて、4%ホルムアルデヒド-リン酸緩衝液で灌流固定後、脳を摘出した。蛍光実体顕微鏡を用いて脳全体の写真とGFPの蛍光写真を撮影後、厚さ50μm、あるいは100μmの小脳矢状断切片をマイクロスライサー(堂阪イーエム社製 商品名:DTK-1000)を用いて作製した。作製された脳切片を、一次抗体[Mouse monoclonal anti-parvalbumin(星状細胞、籠細胞のマーカー):SIGMA社製、あるいはMouse monoclonal anti-GFAP(グリア細胞のマーカー):ケミコン社製、あるいはMouse monoclonal anti-neuron-specific nuclear protein(NeuN、顆粒細胞のマーカー):ケミコン社製、あるいはmouse monoclonal anti-mGluR2(ゴルジ細胞のマーカー):生理学研究所重本隆一教授より譲り受け)と共に24時間室温でインキュベーションし、ついで、二次抗体(Alexa fluor 568-conjugated anti-mouse IgG:Invitrogen社製)で2時間、室温でインキュベーションし、顕微鏡用標本を得た。その後、蛍光顕微鏡(Leica社製商品名:DMI 6000B)及び共焦点顕微鏡(CarlZeiss社製 商品名:LSM5 Pascal)で標本の観察を行なうことにより発現GFP蛋白質の局在と発現細胞の種類を調べた。
<結果>
図14は、培養小脳神経細胞に、レンチウイルスベクターを用いて各種プロモーター制御下でGFPを発現させたときの導入率(発現割合)を示す。(a)は、全GFP発現細胞中のプルキンエ細胞の割合:GFP発現プルキンエ細胞数/GFP発現細胞数を示す。CMVプロモーターやMSCVプロモーターを用いた場合、GFP発現細胞のほとんどがプルキンエ細胞以外であるのに対し、L7-1~L7-4ではプルキンエ細胞にしか遺伝子発現が起こらなかった。L7-5、L7-6ではGFP発現細胞が存在しなかった。L7-7ではプルキンエ細胞に対する特異性が低下し、GFP発現細胞の約半分はプルキンエ細胞以外であった。(b)は、全プルキンエ細胞中のGFP発現プルキンエ細胞の割合:GFP発現プルキンエ細胞数/全プルキンエ細胞数を示す。CMVプロモーターでは全プルキンエ細胞の約5分の1、L7-1では約3分の1のプルキンエ細胞にしかGFP発現が見られない。これに対し、L7-4ではほぼ100%、すなわち存在するすべてのプルキンエ細胞にGFPが発現している。少なくとも4回の独立した小脳神経細胞培養標本を用いた結果の平均を示している。また使用したウイルスベクターはほぼ同じ力価(2-4x10ゲノムコピー/ml)のものを用いている。
図15は、培養小脳プルキンエ細胞に、レンチウイルスベクターを用いて各種プロモーター制御下でGFPを発現させたときの蛍光強度(a)を示す。40個のプルキンエ細胞を無作為に選び、冷却CCDカメラで蛍光画像を取り込んだ後、その蛍光強度をIPLabイメージングソフトウェアー(Scanalytics社製)を用いて測定した。(b)は、HEK293T細胞にCMVプロモーター制御下でGFPを発現するレンチウイルスベクターを、さまざまなMOIで感染させたときのGFP蛍光強度を示すグラフである。無作為に40個のHEK293T細胞を選び、その蛍光強度をIPLabイメージングソフトウェアーを用いて測定した。MOI10から1000にかけて、蛍光強度はMOIの対数にほぼ比例した。
図16は、培養小脳プルキンエ細胞に、レンチウイルスベクターを用いてMSCVプロモーター、従来のL7プロモーター(L7-1)あるいはその縮小型プロモーター(L7-2,L7-4,L7-5,L7-7)制御下でGFPを発現させた結果を示す。左のパネルは、プルキンエ細胞特異的な抗カルビンディン抗体を用いた蛍光免疫染色写真を示す。ただしMSCVプロモーターを用いた場合(左上)のみ、抗カルビンディン抗体に加えて顆粒細胞特異的な抗NeuN抗体も用いて染色した(プルキンエ細胞と顆粒細胞が赤く見える)。中央のパネルはそれぞれのウイルスベクターによって発現したGFPの蛍光写真を示す。右のパネルは左と中央のパネルを重ね合わせたもの(Overlay)である。MSCVプロモーターを用いた場合は、プルキンエ細胞、顆粒細胞に加えてグリア細胞(矢印)や顆粒細胞とプルキンエ細胞の中間サイズの細胞体を持つ細胞(矢頭)にもGFPの発現が見られた。これに対し、L7-1、L7-2、L7-4ではプルキンエ細胞のみにGFPの発現が見られた。特に、L7-4では存在するすべてのプルキンエ細胞にGFPが発現し、さらにGFPの発現も強く、プロモーター活性が従来のL7-1より顕著に高いことが確認された。
図15は、各種プロモーターを組み込んだレンチウイルスベクターによるマウス小脳への遺伝子発現実験の結果を示す。(a-d)は、レンチウイルスベクターを用いて、従来のL7プロモーター(L7-1)制御下でGFPを発現させたときのGFPの蛍光写真である(力価:3.7x10ゲノムコピー/ml)。(c),(d)は、抗GFP抗体を用いて免疫染色した写真(これにより蛍光は増強する)である。(e-h)は、従来のL7-1プロモーターの代わりに、L7-4を持つレンチウイルスベクター(力価:2.4x10ゲノムコピー/ml)を用いた場合の小脳プルキンエ細胞のGFP蛍光写真である。ほぼ同じ力価(ほぼ同じ数のプロウイルスを染色体に導入する)を用いているにもかかわらず、L7-4を用いた場合には、L7-1を用いた場合に比較して、GFPを発現するプルキンエ細胞の数、GFP発現量が顕著に高いことが確認された。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0007】
本発明によれば、小脳プルキンエ細胞に高い選択性を有するベクターを、血清を使用することなく作製することができる。本発明のベクターは、小脳が司る運動学習や協調運動の分子レベルでのメカニズム解明、及び脊髄小脳変性症等のプルキンエ細胞障害性疾患の遺伝子治療など、神経科学分野において基礎研究から臨床応用まで幅広く利用可能である。
【配列表フリ-テキスト】
【0008】
配列番号1-L7-1
配列番号2-L7-2
配列番号3-L7-3
配列番号4-L7-4
配列番号5-L7-5
配列番号6-L7-6
配列番号7-L7-7
配列番号8-pCL20c L7-4-GFP
配列番号9-人工配列の説明:プライマー
配列番号10-人工配列の説明:プライマー
[配列表]
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図面
【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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