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明細書 :磁性薄膜及びそれを用いた磁気抵抗効果素子並びに磁気デバイス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4582488号 (P4582488)
登録日 平成22年9月10日(2010.9.10)
発行日 平成22年11月17日(2010.11.17)
発明の名称または考案の名称 磁性薄膜及びそれを用いた磁気抵抗効果素子並びに磁気デバイス
国際特許分類 H01F  10/16        (2006.01)
H01F  10/32        (2006.01)
H01L  43/08        (2006.01)
H01L  21/8246      (2006.01)
H01L  27/105       (2006.01)
G11B   5/39        (2006.01)
H01F  10/14        (2006.01)
H01F  10/193       (2006.01)
FI H01F 10/16
H01F 10/32
H01L 43/08 M
H01L 43/08 Z
H01L 27/10 447
G11B 5/39
H01F 10/14
H01F 10/193
請求項の数または発明の数 25
全頁数 23
出願番号 特願2008-513300 (P2008-513300)
出願日 平成19年4月27日(2007.4.27)
国際出願番号 PCT/JP2007/059226
国際公開番号 WO2007/126071
国際公開日 平成19年11月8日(2007.11.8)
優先権出願番号 2006123502
優先日 平成18年4月27日(2006.4.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年10月10日(2008.10.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】猪俣 浩一郎
【氏名】手束 展規
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
審査官 【審査官】右田 勝則
参考文献・文献 特開2005-116701(JP,A)
特開2004-221526(JP,A)
特開2005-228998(JP,A)
特開2005-051251(JP,A)
特開2003-338644(JP,A)
特開2004-524689(JP,A)
特開2007-227748(JP,A)
特開2007-150183(JP,A)
調査した分野 H01F 10/16
G11B 5/39
H01L 43/00
特許請求の範囲 【請求項1】
基板上に形成されるCoFe(Si1-xAl)磁性薄膜で成り、
上記CoFe(Si1-xAl)磁性薄膜はL2又はB2構造の結晶構造を有し、かつ、0<x<1であることを特徴とする、磁性薄膜。
【請求項2】
前記基板が、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al単結晶の何れか一つから成ることを特徴とする、請求の範囲1に記載の磁性薄膜。
【請求項3】
前記基板と前記CoFe(Si1-xAl)磁性薄膜との間にバッファ層が配設されていることを特徴とする、請求の範囲1又は2に記載の磁性薄膜。
【請求項4】
基板と、フリー層となる強磁性層と、トンネル層となる絶縁層と、ピン層となる強磁性層と、を含み、
上記強磁性層の何れかが、上記基板上に形成されるL2又はB2構造の結晶構造を有するCoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜から成ることを特徴とする、トンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
基板と、フリー層となる強磁性層と、トンネル層となる絶縁層と、ピン層となる強磁性層と、を含み、
上記フリー層となる強磁性層が、上記基板上に形成されるL2又はB2構造の結晶構造を有するCoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜から成ることを特徴とする、トンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記基板が、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al単結晶の何れか一つから成ることを特徴とする、請求の範囲4又は5に記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記基板と前記CoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜との間にバッファ層が配設されていることを特徴とする、請求の範囲4~6の何れかに記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
基板と、フリー層となる強磁性層と、非磁性金属層と、ピン層となる強磁性層と、を含み、
上記強磁性層の何れかが、上記基板上に形成されるL2又はB2構造の結晶構造を有するCoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜から成り、膜面垂直方向に電流を流すことを特徴とする、巨大磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
基板と、フリー層となる強磁性層と、非磁性金属層と、ピン層となる強磁性層と、を含み、
上記フリー層となる強磁性層は、上記基板上に形成されるL2又はB2構造の結晶構造を有するCoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜から成り、膜面垂直方向に電流を流すことを特徴とする、巨大磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
前記基板が、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al単結晶の何れか一つから成ることを特徴とする、、請求の範囲8又は9に記載の巨大磁気抵抗効果素子。
【請求項11】
前記基板と前記CoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜との間にバッファ層が配設されていることを特徴とする、請求の範囲8~10の何れかに記載の巨大磁気抵抗効果素子。
【請求項12】
基板と、該基板上に形成されるL2又はB2構造の結晶構造を有するCoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜と、を有することを特徴とする、磁気デバイス。
【請求項13】
前記磁気デバイスは、フリー層となる強磁性層を有するトンネル磁気抵抗効果素子又は巨大磁気抵抗効果素子を備え、
上記フリー層が、前記基板上に形成されるCoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜で成ることを特徴とする、請求の範囲12に記載の磁気デバイス。
【請求項14】
前記基板が、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al単結晶の何れか一つから成ることを特徴とする、請求の範囲12又は13に記載の磁気デバイス。
【請求項15】
前記基板と前記CoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜との間にバッファ層が配設されていることを特徴とする、請求の範囲12~14の何れかに記載の磁気デバイス。
【請求項16】
基板と、該基板上に形成されるL2又はB2構造の結晶構造を有するCoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜と、を有することを特徴とする、磁気装置。
【請求項17】
前記磁気装置は、フリー層となる強磁性層を有するトンネル磁気抵抗効果素子又は巨大磁気抵抗効果素子を備え、
上記フリー層が前記基板上に形成されるCoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜で成ることを特徴とする、請求の範囲16に記載の磁気装置。
【請求項18】
前記基板が、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al単結晶の何れか一つから成ることを特徴とする、請求の範囲16又は17に記載の磁気装置。
【請求項19】
前記基板と前記CoFe(Si1-xAl)(ここで、0<x<1)磁性薄膜との間にバッファ層が配設されていることを特徴とする、請求の範囲16~18の何れかに記載の磁気装置。
【請求項20】
前記磁気装置が、磁気ヘッド、該磁気ヘッドを用いた磁気記録装置、MRAM、ハードディスク駆動装置を含むことを特徴とする、請求の範囲16~19の何れかに記載の磁気装置。
【請求項21】
前記バッファ層が、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つから成ることを特徴とする、請求の範囲3に記載の磁性薄膜。
【請求項22】
前記バッファ層が、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つから成ることを特徴とする、請求の範囲7に記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項23】
前記バッファ層が、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つから成ることを特徴とする、請求の範囲11に記載の巨大磁気抵抗効果素子。
【請求項24】
前記バッファ層が、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つから成ることを特徴とする、請求の範囲15に記載の磁気デバイス。
【請求項25】
前記バッファ層が、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つから成ることを特徴とする、請求の範囲19に記載の磁気装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、スピン分極率の大きい磁性薄膜及びそれを用いた磁気抵抗効果素子並びに磁気デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強磁性層/非磁性金属層の多層膜からなる巨大磁気抵抗(GMR)効果素子、及び強磁性層/絶縁体層/強磁性層からなる強磁性スピントンネル接合(MTJ)素子が新しい磁界センサや不揮発性ランダムアクセス磁気メモリ(MRAM)素子として注目されている。巨大磁気抵抗効果素子には、膜面内に電流を流すタイプのCIP(Current In Plane)構造の巨大磁気抵抗効果素子と、膜面垂直方向に電流を流すタイプのCPP(Current Perpendicular to the Plane)構造の巨大磁気抵抗効果素子が知られている。巨大磁気抵抗効果素子の原理は磁性層と非磁性層の界面におけるスピン依存散乱にあるが、磁性体中でのスピン依存散乱(バルク散乱)の寄与もある。そのため一般に、バルク散乱の寄与が期待されるCPP構造の巨大磁気抵抗効果素子の方がCIP構造の巨大磁気抵抗効果素子よりもGMRが大きい。
【0003】
このような巨大磁気抵抗効果素子は、強磁性層の一方に反強磁性層を近接させて強磁性層のスピンを固定させるスピンバルブ型が用いられている。CPP構造のスピンバルブ型巨大磁気抵抗効果素子の場合、反強磁性層の比抵抗が200μΩ・cm程度とGMR膜に比べて2桁程度大きいため、GMR効果が薄められ、スピンバルブ型でCPP構造を有する巨大磁気抵抗効果素子の磁気抵抗の値は1%以下と小さい。そのため、CIP構造の巨大磁気抵抗効果素子はすでにハードディスクの再生ヘッドに実用化されているものの、CPP構造の巨大磁気抵抗効果素子はまだ実用にいたっていない。しかし、ハーフメタルのようなスピン分極率の大きい磁性材料が開発されれば、それを用いることで大きなバルク散乱が期待され、結果として大きなCPP-GMRが期待できる。
【0004】
一方、MTJでは、外部磁場によって2つの強磁性層の磁化を互いに平行あるいは反平行に制御することにより膜面垂直方向のトンネル電流の大きさが互いに異なる、いわゆるトンネル磁気抵抗(TMR)効果が室温で得られる(非特許文献1参照)。このTMRは、用いる強磁性体と絶縁体との界面におけるスピン分極率Pに依存し、二つの強磁性体のスピン分極率をそれぞれP1,P2とすると、一般に下記(1)式(Jullierの式)で与えられることが知られている。
【0005】
TMR=2P12/(1-P12) (1)
ここで、強磁性体のスピン分極率Pは、0<P≦1の値をとる。
【0006】
バリアとなる絶縁体としてAl酸化膜を用いた場合、室温における現在得られているTMRの最大値は、CoFeB合金を用いた場合の約60%である。
【0007】
MTJ素子は現在、ハードディスク用磁気ヘッドに実用化されており、また、将来は不揮発性ランダムアクセス磁気メモリ(MRAM)への応用が期待されている。MRAMでは、MTJ素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して磁界を印加することで、各MTJ素子を構成する二つの磁性層を互いに平行、反平行に制御することにより、“1”,“0”を記録させる。読み出しは、TMR効果を利用して行う。しかし、MRAMでは高密度化のために素子サイズを小さくすると、素子のバラツキに伴うノイズが増大し、TMRの値が現状では不足するという問題がある。従って、より大きなTMRを示す素子の開発が必要である。
【0008】
上記(1)式からわかるように、P=1の磁性体を用いると無限に大きなTMRが期待される。P=1の磁性体はハーフメタルと呼ばれる。これまで、バンド構造計算によって、Fe34,CrO2,(La-Sr)MnO3,Th2MnO7,Sr2FeMoO6などの酸化物、NiMnSbなどのハーフホイスラー合金、及びCo2MnGe,Co2MnSi,Co2CrAlなどのL21構造をもつフルホイスラー合金などがハーフメタルとして知られている。
【0009】
最近、MgOバリアとFeやFeCoBなどの強磁性層を用いることで、室温で200%以上の大きなTMRが得られている。しかし、これはMgOバリアと上記強磁性層の特殊なバンド構造を利用しており、それらの組み合わせを用いることではじめて大きなTMRが得られるものであり、強磁性層自体のスピン分極率が大きいというものではない。実際、Feのスピン分極率は0.4程度、FeCoBのそれは0.6程度であり、Al酸化膜バリアを用いた場合には上記のような大きなTMRは得られない。
【0010】
フルホイスラー合金でL21構造を得るためには、通常、基板を300℃以上に加熱するか、室温で成膜後300℃以上の温度で熱処理することが必要である。しかし、L21構造が得られても、作製された薄膜が室温でハーフメタルであると認識された報告はない。実際、これらのハーフメタル材料を用いて作製されたトンネル接合素子では、いずれも室温のTMRは期待に反して小さく、バリアとしてAl酸化膜を用いた場合、Co2MnAlやCo2MnSiホイスラー合金を用いた場合の60~70%程度が最大であった。しかも、これらMnを含むホイスラー合金は界面で酸化されやすく、安定したTMRを得るのが困難である。また、酸化し易いために接合抵抗が大きく、通常、抵抗と面積の積(RA)が、107Ω・μm2以上になる。抵抗が高すぎると大容量MRAMへの適用が困難になる。
【0011】
このようにハーフメタル薄膜の作製は実際には非常に困難である。その原因は、ハーフメタル特性は組成や原子配列の規則度に敏感であり、特にトンネル接合では、その界面においてハーフメタルの電子状態を得るのが困難であること、また、ハーフメタル薄膜はその構造を得るために基板加熱や熱処理を必要としており、それによって表面のラフネスが増大したり、界面が酸化したりすることなどにあると考えられる。
【0012】
本発明者等は、これまで種々のフルホイスラー合金を用いたMTJ素子を作製してきたが、MgO基板上に作製したCo2FeAlフルホイスラー合金薄膜を用いた場合、室温で50%以上のTMRが安定して得られることを報告している(非特許文献2参照)。このときのCo2FeAlの構造はL21ではなく不規則構造のB2であり、この組成においてはL21構造を得るのは困難であることも見出している。
【0013】
一方、最近、Co2FeSiフルホイスラー合金がハーフメタルになることが報告されている。この材料はバルクでL21構造が得られ易く、薄膜においてもL21構造が得られることを本発明者等は見出している。しかし、非特許文献3では、この材料を用いたトンネル接合では室温TMRは40%程度と小さく、ハーフメタルから期待されるような大きなTMRは得られないことが、本発明者等により報告された。
【0014】

【非特許文献1】T. Miyazaki and N. Tezuka, “Spin polarized tunneling in ferromagnet/insulator/ferromagnet junctions", J. Magn. Magn. Mater, L39, p.1231, 1995
【非特許文献2】Okamura et al., Appl. Phys. Lett., Vol.86, pp.232503-1-232503-3, 2005
【非特許文献3】Inomata et al., J. Phys. D, Vol.39, pp.816-823, 2006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来、理論的にハーフメタルであることが指摘されている材料は上述のように多く存在するが、作製された薄膜はいずれも室温でハーフメタル特性を示していない。そのため、ハーフメタルで期待されるような、室温での大きなTMRは得られていないという課題がある。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑み、従来のFeCo合金やFeCoB合金よりも大きなTMRが室温で安定して得られる、スピン分極率の大きい磁性薄膜及びそれを用いたTMR素子やGMR素子等の磁気抵抗効果素子並びに磁気デバイス、さらにはこれを用いた磁気ヘッドや磁気記録装置などの磁気装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜を作製し、この膜を用いて強磁性トンネル接合(MTJ)素子等を作製した結果、この膜は室温で強磁性であり、かつ、室温で70%を超えるような大きなTMRを発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
上記目的を達するため、本発明の磁性薄膜は、基板と基板上に形成されるCo2Fe(Si1-xAlx)薄膜と、を備え、Co2Fe(Si1-xAlx)薄膜はL21又はB2構造を有し、かつ、0<x<1であることを特徴とする。
上記構成において、基板は、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al23単結晶の何れか一つであればよい。好ましくは、基板とCo2Fe(Si1-xAlx)薄膜の間にバッファ層が配設されおり、バッファ層として、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つであってよい。
【0019】
本発明のCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜によれば、室温において強磁性であり、スピン分極率の大きいハーフメタルとすることができる。
【0020】
本発明のトンネル磁気抵抗効果素子は、基板と、フリー層となる強磁性層と、トンネル層となる絶縁層と、ピン層となる強磁性層と、を含み、強磁性層の何れかが、基板上に形成されるL21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜から成ることを特徴とする。
上記Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜は、フリー層として用いてもよい。基板としては、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al23単結晶の何れか一つが適用できる。基板とCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜との間には、好ましくは、バッファ層が配設されており、このバッファ層として、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つを用いることができる。
【0021】
上記構成によれば、室温において、低電流で、かつ、低外部磁界でTMRの大きいトンネル磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0022】
本発明の巨大磁気抵抗効果素子は、基板と、フリー層となる強磁性層と、非磁性金属層と、ピン層となる強磁性層と、を含み、強磁性層の何れかが、基板上に形成されるL21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜から成り、膜面垂直方向に電流を流すことを特徴とする。
上記Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜を、フリー層として用いてもよい。基板として、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al23単結晶の何れか一つが適用できる。基板とCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜との間には、好ましくは、バッファ層が配設されており、このバッファ層として、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つを用いることができる。
【0023】
上記構成によれば、室温において、低電流で、かつ、低外部磁界でGMRの大きい巨大磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0024】
本発明の磁気デバイスは、基板と、この基板上に形成されるL21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜と、を有することを特徴とする。
上記磁気デバイスは、好ましくは、さらに、フリー層となる強磁性層を有するトンネル磁気抵抗効果素子又は巨大磁気抵抗効果素子を備え、フリー層が、基板上に形成されるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜で成る。基板は、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al23単結晶の何れか一つであってよい。基板とCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜との間には、好ましくは、バッファ層が配設されており、このバッファ層は、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つを用い得る。
【0025】
上記構成によれば、室温において、低電流で、かつ、低外部磁界でTMRやGMRの大きい磁気抵抗効果素子を用いた磁気デバイスを提供することができる。
【0026】
本発明の磁気装置は、基板と、この基板上に形成されるL21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜と、を有することを特徴とする。
上記磁気装置は、好ましくは、さらに、フリー層となる強磁性層を有するトンネル磁気抵抗効果素子又は巨大磁気抵抗効果素子を備え、フリー層が、基板上に形成されるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜で成る。基板としては、熱酸化Si,ガラス,MgO単結晶,GaAs単結晶,Al23単結晶の何れか一つを用いることができる。基板とCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜との間には、好ましくは、バッファ層が配設されており、このバッファ層は、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つを用いることができる。好ましくは、磁気装置は、磁気ヘッド、該磁気ヘッドを用いた磁気記録装置、MRAM、ハードディスク駆動装置を含む。
【0027】
上記構成によれば、室温において、低電流で、かつ、低外部磁界でTMRやGMRの大きい磁気抵抗効果素子を用いることで、大容量、かつ、高速な磁気ヘッドや磁気記録装置などの各種磁気装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上の説明から理解されるように、本発明のL21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)を用いた磁性薄膜は、強磁性特性を示し、スピン分極率が大きい。
【0029】
本発明のL21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜を用いた巨大磁気抵抗効果素子によれば、室温において、低電流で、かつ、低外部磁場で非常に大きなGMRを得ることができる。トンネル磁気抵抗効果素子によっても、同様に、非常に大きなTMRを得ることができる。
【0030】
本発明のL21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)磁性薄膜を用いた各種の磁気抵抗効果素子を、超大容量HDDの磁気ヘッドや不揮発性で高速動作するMRAMをはじめ種々の磁気装置へ応用することにより、小型で高性能の磁気装置が実現できる。スピン注入素子としても応用でき、飽和磁化が小さくスピン分極率が大きいためスピン注入による磁化反転電流が小さくなり、低消費電力で磁化反転を実現することができるほか、半導体への効率的なスピン注入が可能になり、スピンFETが開発される可能性があるなど、広くスピンエレクトロニクス分野を拓くキー材料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る磁性薄膜の断面図である。
【図2】上記第1の実施の形態に係る磁性薄膜の変形例の断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係る磁性薄膜に用いるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)の構造を模式的に説明する図である。
【図4】第2の実施の形態に係る磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の断面を示す図である。
【図5】第2の実施の形態に係る磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の変形例の断面を示す図である。
【図6】第2の実施の形態に係る磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の変形例の断面を示す図である。
【図7】第3の実施の形態に係る磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の断面を示す図である。
【図8】第3の実施の形態に係る磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の変形例の断面を示す図である。
【図9】実施例1のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜のX線回折を測定した結果を示す図である。
【図10】実施例2のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜のX線回折を測定した結果を示す図である。
【図11】実施例2のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜の磁化の温度依存性を示す図である。
【図12】実施例3のトンネル磁気抵抗効果素子の室温における抵抗の磁場依存性を示す図である。
【図13】実施例3のトンネル磁気抵抗効果素子におけるTMRの温度磁場依存性を示す図である。
【図14】実施例3~8及び比較例1~2のトンネル磁気抵抗効果素子における室温でのTMRのCo2Fe(Si1-xAlx)薄膜の組成依存性を示す図である。
【図15】実施例12のトンネル磁気抵抗効果素子における室温のTMR及び接合抵抗のMgO層の膜厚依存性を示す図である。
【図16】MgO層の膜厚を1.7nmとし、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜の熱処理温度を430℃とした実施例12のトンネル磁気抵抗効果素子におけるTMRの温度依存性を示す図である。
【図17】図16のトンネル磁気抵抗効果素子の5Kにおける抵抗の磁場依存性を示す図である。
【図18】実施例12のトンネル磁気抵抗素子におけるTMRの熱処理温度依存性を示す図である。
【図19】実施例12のトンネル磁気抵抗素子における接合抵抗の熱処理温度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1,5:磁性薄膜
2:基板
3,16:Co2Fe(Si1-xAlx)薄膜
4:バッファ層
10,15,20:トンネル磁気抵抗効果素子
11:絶縁層
12,22:強磁性層
13:反強磁性層
14:電極層
21:非磁性金属層
30,35:巨大磁気抵抗効果素子
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。各図において同一又は対応する部材には同一符号を用いる。
最初に、本発明の磁性薄膜の第1の実施の形態を示す。
図1は、本発明に係る第1の実施の形態による磁性薄膜の断面図である。図1に示すように、本発明の磁性薄膜1は、基板2上に、L21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)薄膜3を配設している。ここで、組成xは、z0<x<1である。Co2Fe(Si1-xAlx)薄膜3は、室温で強磁性である。基板2上のCo2Fe(Si1-xAlx)薄膜3の膜厚は、1nm以上で1μm以下であればよい。
【0034】
図2は、本発明に係る第1の実施の形態による磁性薄膜の変形例の断面図である。図2に示すように、本発明の磁性薄膜5は、図1の磁性薄膜1の構造において、さらに、基板2とCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3の間にバッファ層4を挿入している。このバッファ層4を挿入することで、基板1上のCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3の結晶性をさらによくし、表面粗さを小さくすることができる。
【0035】
上記磁性薄膜1,5に用いる基板2は、熱酸化Si、ガラスなどの多結晶、MgO、Al23、GaAsなどの単結晶を用いることができる。バッファ層4としては、Cr,V,Nb,Ta,Fe,FeCo合金などの体心立方晶の金属、及びフルホイスラー合金などを用いることができる。基板2上にバッファ層4を設けることで、表面が滑らかで、より結晶性の良いL21又はB2構造を有するCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3を作製することができる。
【0036】
上記Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3の膜厚は、1nm以上、1μm以下であればよい。この膜厚が1nm未満では実質的に後述するL21又はB2構造を得るのが困難になり、この膜厚が1μmを超えるとスピンデバイスとしての応用が困難になり好ましくない。
【0037】
次に、上記構成の実施の形態1の磁性薄膜の作用を説明する。
図3は、本発明の実施の形態1における磁性薄膜に用いるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)の構造を模式的に説明する図である。図に示す構造は、bcc(体心立方格子)の慣用的単位胞の8倍(格子定数で2倍)の構造を示している。
Co2Fe(Si1-xAlx)のL21構造においては、図3のIの位置にSiとAlが組成比としてSi1-xAlx(ここで、0<x<1)となるように配置され、IIの位置にFe、IIIとIVの位置にCoが配置される。
さらに、Co2Fe(Si1-xAlx)のB2構造においては、図3のIの位置とIIの位置に、FeとSiとAlが不規則に配列される構造となる。この際、SiとAlの組成比は、Si1-xAlx(ここで、0<x<1)となるように配置される。
【0038】
次に、上記構成の実施の形態1の磁性薄膜1,5の磁気的性質を説明する。
上記構成のCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3は、室温で強磁性であり、かつ、L21又はB2構造のCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3が得られる。Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3を加熱基板2上に成膜するか、あるいは成膜した後で、この薄膜3に熱処理を施こすことで、その温度に応じたL21又はB2構造が得られる。上記Co2Fe(Si1-xAlx)薄膜3の組成xを0<x<1としたのは、xが0や1では、CPP構造の巨大磁気抵抗効果素子において大きなGMRやトンネル磁気抵抗効果素子において大きなTMRが得られないからである。
ここで、Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜のB2構造はL21構造と類似しているが、異なるのはL21構造では、Si(Al)とFe原子が規則的に配置しているのに対し、B2構造は、不規則に配列していることである。これらの違いはX線回折で測定することができる。
【0039】
次に、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子に係る第2の実施の形態を示す。
図4は、本発明に係る第2の実施の形態による磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の断面を示す図である。本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子は、トンネル磁気抵抗効果素子の場合を示している。図4に示すように、トンネル磁気抵抗効果素子10は、例えば、基板2上に、Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3が配設され、トンネル層となる絶縁層11,強磁性層12,反強磁性層13が順次積層された構造を有している。
【0040】
ここで、反強磁性層13は、強磁性層12のスピンを固着させる、所謂、スピンバルブ型の構造のために用いている。この構造においてはCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3をフリー層、強磁性層12をピン層と呼ぶ。また、強磁性層12は、単層構造又は複数の層構造とすることができる。絶縁層11にはAl23、Alの酸化物であるAlOx又はMgOを、強磁性層12にはCoFe,NiFe、CoFeB、あるいはCoFeとNiFeとの複合膜などを、反強磁性層13にはIrMnなどを用いることができる。さらに、本発明のトンネル磁気抵抗効果素子10における反強磁性層13の上には、さらに保護膜となる非磁性の電極層14を堆積させることが好ましい。
【0041】
図5は、本発明に係る第2の実施の形態による磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の変形例の断面を示す図である。本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子であるトンネル磁気抵抗効果素子15は、基板2上にバッファ層4とCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3が配設され、トンネル層となる絶縁層11と、ピン層となる強磁性層12と、反強磁性層13と、保護膜となる非磁性の電極層14が順次積層された構造を有している。図5が図4の構造と異なるのは、図4の構造に、さらに、バッファ層4が配設された点である。他の構造は図4と同じである。
【0042】
図6は、本発明に係る第2の実施の形態による磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の変形例の断面を示す図である。本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子であるトンネル磁気抵抗効果素子20は、基板2上にバッファ層4とCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3が配設され、トンネル層となる絶縁層11と、Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜16と、反強磁性層13と、保護膜となる非磁性の電極層14が順次積層された構造を有している。図6が図5の構造と異なるのは、図4のピン層となる強磁性層12も、本発明の磁性薄膜であるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜16を用いた点である。他の構造は図5と同じである。
なお、ピン層となる強磁性層16は、Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜とCoFeのような強磁性層とからなる多層膜としてもよい。
【0043】
トンネル磁気抵抗効果素子10,15,20に電圧を加える場合は、Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3又はバッファ層4と、電極層14との間に印加される。また、外部磁界は膜面内に平行に印加される。バッファ層4と電極層14への電流の流し方は、膜面垂直方向に電流を流すCPP構造とすることができる。
【0044】
ここで、上記トンネル磁気抵抗効果素子10,15,20に用いる基板2は、熱酸化Si、ガラスなどの多結晶や、MgO、Al23、GaAsなどの単結晶であってよい。また、バッファ層4として、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つを用いることができる。上記Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3の膜厚は1nm以上で1μm以下であればよい。この膜厚が1nm未満では実質的にL21又はB2構造を得るのが困難になる。この膜厚が1μmを超えるとトンネル磁気抵抗効果素子としての応用が困難になる。
上記構成の本発明のトンネル磁気抵抗効果素子10,15,20は、スパッタ法、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法などの通常の薄膜成膜法と、所定の形状の電極などを形成するためのマスク工程などを用いて製造することができる。
【0045】
つぎに、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子であるトンネル磁気抵抗効果素子10及び15の動作について説明する。
本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子10,15は、二つの強磁性層3,12を用い、一方には反強磁性層13が近接し、近接した強磁性層12(ピン層)のスピンを固着させるスピンバルブ型を用いているので、外部磁界が印加されたときには、他方の強磁性層であるフリー層のCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3のスピンのみが反転される。
このため、強磁性層12の磁化は、反強磁性層13との交換相互作用により、スピンが1方向に固定される。従って、フリー層であるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3のスピンの平行、反平行が容易に得られる。強磁性層がCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3であるために、室温でスピン分極率が0.5以上と大きいことから、本発明のトンネル磁気抵抗効果素子の10,15におけるTMRは非常に大きくなる。この際、フリー層であるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3の磁化が小さいため、反磁界が小さくそれだけ小さな磁界で磁化反転を起こすことができる。これにより、本発明のトンネル磁気抵抗効果素子10,15は、MRAMなど低電力での磁化反転を必要とする磁気デバイスに好適である。
【0046】
次に、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子であるトンネル磁気抵抗効果素子20の動作について説明する。
トンネル磁気抵抗効果素子20は、さらに、ピン層の強磁性層16もフリー層である強磁性でスピン分極率の大きいCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3と同じCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)を用いているので、上記(1)式の分母がより小さくなり、さらに、本発明のトンネル磁気抵抗効果素子のTMRは大きくなる。これにより、本発明のトンネル磁気抵抗効果素子20は、MRAMなどの大きなTMRを必要とする磁気デバイスに好適である。
【0047】
次に、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子に係る第3の実施の形態を示す。
図7は、本発明に係る第3の実施の形態による磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の断面を示す図である。本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子は、巨大磁気抵抗効果素子の場合を示している。図に示すように、巨大磁気抵抗効果素子30は、基板2上に、バッファ層4と強磁性体となる本発明のCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3がフリー層として配設され、非磁性金属層21と、ピン層となる強磁性層22と、保護膜となる非磁性の電極層14と、が順次積層された構造を有している。
ここで、巨大磁気抵抗効果素子のバッファ層4と電極層14との間に電圧が印加される。また、外部磁界は、膜面内に平行に印加される。バッファ層4と電極層14への電流の流し方は、膜面内に電流を流すタイプであるCIP構造と、膜面垂直方向に電流を流すタイプであるCPP構造とすることができる。
【0048】
図8は、本発明に係る第3の実施の形態による磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子の変形例の断面を示す図である。本発明の巨大磁気抵抗効果素子35が図7の巨大磁気抵抗効果素子30と異なるのは、強磁性層22と電極層14との間に反強磁性層13を設け、スピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果素子とした点である。他の構造は、図7と同じであるので説明は省略する。
反強磁性層13は、近接したピン層となる強磁性層22のスピンを固着させる働きをする。ここで、巨大磁気抵抗効果素子30,35のバッファ層4と電極層14との間に電圧が印加される。また、外部磁界は膜面内に平行に印加される。バッファ層4と電極層14への電流の流し方は、膜面内に電流を流すタイプのCIP構造と、膜面垂直方向に電流を流すタイプのCPP構造とすることができる。
【0049】
上記巨大磁気抵抗効果素子30,35に用いる基板2は、熱酸化Si、ガラスなどの多結晶、さらに、MgO,Al23,GaAsなどの単結晶を用いることができる。バッファ層4としては、Cr,Ta,V,Nb,Ru,Fe,FeCo合金,フルホイスラー合金のうち少なくとも一つを用いることができる。非磁性金属層21としては、Cu,Al,Crなどを用いることができる。また、強磁性層22としてはCoFe,NiFe,Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜などの何れか一つか、又はこれらの材料からなる複合膜を用いることができる。そして、反強磁性層13にはIrMn,PtMnなどを用いることができる。
上記Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3の膜厚は、1nm以上で1μm以下であればよい。この膜厚が1nm未満では実質的にL21又はB2構造を得るのが困難になり、この膜厚が1μmを超えると巨大磁気抵抗効果素子としての応用が困難になる。
上記構成の本発明の巨大磁気抵抗効果素子30,35は、スパッタ法、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法などの通常の薄膜成膜法と、所定の形状の電極などを形成するためのマスク工程などを用いて製造することができる。
【0050】
次に、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子である巨大磁気抵抗効果素子30の動作について説明する。強磁性層のCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3がハーフメタルであることから、外部磁界が印加されたときに、伝導に寄与するのはCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3の一方のスピンのみであるので、非常に大きな磁気抵抗、即ち、GMRが得られる。
【0051】
次に、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子である巨大磁気抵抗効果素子35の動作について説明する。この場合には、スピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果素子35であるので、ピン層である強磁性層22のスピンは反強磁性層13により固定されており、外部磁界の印加により、フリー層であるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3のスピンが外部磁界により平行と反平行の状態になり、さらに、伝導に寄与するのはハーフメタルであるCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3の一方のスピンのみであるので、非常に大きなGMRが得られる。
【0052】
さらに、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子である巨大磁気抵抗効果素子30,35のCPP動作について説明する。CPP構造の巨大磁気抵抗効果素子においては、Co2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)の比抵抗が、反強磁性層13のそれと同等以上であるので、反強磁性層13の存在によるGMRの低下がほとんどなく、大きなCPP-GMRが得られる。
【0053】
次に、本発明の磁性薄膜による磁気抵抗効果素子を用いた磁気装置に係る第4の実施の形態を示す。
図1乃至図8に示すように、本発明の磁性薄膜を用いた各種の磁気抵抗効果素子は、室温において、低電流、かつ、低磁界でTMR、又は、GMRが非常に大きくなる。この場合、磁気抵抗変化率は、外部磁界を印加したとき、下記(2)式で求められ、この値が大きいほど磁気抵抗変化率としては望ましい。
磁気抵抗変化率=(最大の抵抗-最小の抵抗)/最小の抵抗(%) (2)
これにより、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子は、磁界が零よりも極僅かに大きい磁界、即ち低い磁界を加えることで、大きな磁気抵抗変化率が得られる。
【0054】
本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子は、室温において、低電流、かつ、低磁界で大きなTMR又はGMRを示すので、磁気抵抗センサとして用いれば、高い感度を得ることができる。本発明の磁気薄膜を用いたトンネル磁気抵抗素子又は巨大磁気抵抗素子は、各種の磁気デバイスに適用することができる。
また、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子は、室温において、低電流、かつ、低磁界で大きなTMR又はGMRを示すので、感度の高い読み出し用の磁気ヘッド及びこれらの磁気ヘッドを用いた各種の磁気記録装置を構成することができる。
また、本発明の磁性薄膜を用いた磁気抵抗効果素子としての、例えばMTJ素子はMRAMなどの各種の磁気装置に用いることができる。MRAMはMTJ素子をマトリックス状に配置し、別に設けた配線に電流を流して外部磁界を印加する。このMTJ素子を構成するフリー層の強磁性体の磁化を、外部磁界により互いに平行と反平行に制御することにより、“1”、“0”を記録させることができる。さらに、読み出しはTMR効果を利用して行うことができる。
また、本発明の磁気抵抗効果素子であるCPP構造のMTJ素子においては、素子面積を小さくできるので、ハードディスク駆動装置(HDD)やMRAMなどの磁気装置の大容量化ができる。なお、本発明において磁気装置とは、磁気ヘッド、磁気ヘッドを用いた各種の磁気記録装置、上記MRAM、ハードディスク駆動装置などを含む概念で用いている。
【実施例1】
【0055】
以下、本発明の実施例について説明する。
高周波マグネトロンスパッタ装置を用いてMgO(001)基板2上に、厚さ100nmのCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3を室温で作製した。その後、最大600℃までの温度で熱処理した。
図9は、実施例1のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3のX線回折を測定した結果を示している。図9において、縦軸はX線回折強度(任意目盛)、横軸は角度(°)、即ち、X線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度を示している。図9には、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3を室温で成膜した試料と、成膜後に500℃及び600℃で熱処理した試料を示している。図9から明らかなように、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3は(00l)配向をしており、膜面内で45°回転してMgO基板2上にエピタキシャル成長していることが分かる。
【0056】
図9の挿入図は、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3を室温で成膜後に500℃及び600℃で熱処理した試料のX線回折パターンを示す図であり、L21構造の規則相に対応する(111)回折線に角度を合わせ、膜面内で回転した場合のX線回折パターンを示している。4回対称の回折像が見られることから、この膜はL21構造を有していることが判明した。
一方、図示してない熱処理をしなかったCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の場合には、(111)回折像が観測されず、B2構造であることが分かった。これにより、実施例1のMgO基板2上に作製したCo2Fe(Si0.5Al0.5)膜3は、適当な温度で熱処理することでB2又はL21構造が得られることが分かった。
【実施例2】
【0057】
Crから成るバッファ層4を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で、厚さ100nmのCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3を室温で作製した。その後、最大600℃までの温度で熱処理した。
図10は実施例2のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3のX線回折を測定した結果を示す。縦軸及び横軸は図9と同じである。図10には、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3を室温で成膜した試料と、成膜後に400℃及び500℃で熱処理した試料を示している。
図10から明らかなように、実施例2で作製したCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3は、熱処理する前から(00l)配向しており、Crバッファ層4を用いることで(00l)配向性が向上することがわかる。
【0058】
図10の挿入図は、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3を室温で成膜後に、400℃,450℃及び500℃で熱処理した試料のX線回折パターンを示しており、L21構造の規則相に対応する(111)回折線に角度を合わせ、膜面内で回転した場合のX線回折パターンである。450℃以上で熱処理したCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3において(111)回折像が得られており、L21構造が得られることが分かる。これにより、実施例2のMgO基板2上にバッファ層4を挿入して作製したCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3は、バッファ層4を用いない場合よりも、より低温でL21構造が得られることが分かった。
【0059】
図11は、実施例2のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の磁化の温度依存性を示している。図11において、縦軸は磁化(emu/cm3)、横軸は温度(K)である。Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3は、400℃で1時間熱処理した。図11から明らかように、実施例2のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の磁化のHe温度近傍及び300Kの値は、それぞれ、約1090emu/cm3、約1060emu/cm3であり、温度変化による磁化の変化は小さく、キュリー点の高い強磁性体であることが判明した。
【0060】
図11の挿入図は、実施例2のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の室温における磁化曲線を示す。挿入図において、縦軸は磁化(emu/cm3)を、横軸は印加した磁場H(Oe)である。図から明らかなように、実施例2のCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3は、保磁力の小さいソフト磁性を示していることが分かった。
【実施例3】
【0061】
実施例3として、図5に示すスピンバルブ型のトンネル磁気抵抗効果素子(MTJ)15を作製した。
先ず、高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて、MgO(001)基板2上に、Crから成るバッファ層4を40nmとこのバッファ層4上に強磁性のフリー層となるCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3を30nm積層した。成膜後、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の結晶性をよくするために400℃で熱処理した。熱処理したCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3はB2構造であった。
引き続き、トンネル絶縁層11となるAlOx層を1.2nm、強磁性のピン層12となるCoFe層を3nm、CoFe層のスピンを固定する役割をする反強磁性体13となるIrMn層を10nm、保護膜の役割と微細加工におけるマスクの役割とを果す電極層14としてのTa層5nmを順に積層した。なお、ピン層12となるCoFe層の成膜時には、250℃の温度で磁場中熱処理を行った。具体的には、2kOeの磁界を印加して膜面内に一軸異方性を導入した。
次に、上記のように成膜した積層膜をフォトリソグラフィ及びイオンミリングを用いて微細加工を行ない、10μm×10μmの寸法を有するスピンバルブ型のトンネル磁気抵抗効果素子15を作製した。
【0062】
実施例3のトンネル磁気抵抗効果素子15に外部磁界を印加して、室温で磁気抵抗を測定した。
図12は、実施例3のトンネル磁気抵抗効果素子15の室温における抵抗の磁場依存性を示す。図の横軸は外部磁界H(Oe)、左縦軸は抵抗(Ω)、右縦軸は測定した抵抗から計算したTMR(%)である。図の実線と点線は、外部磁界をスイープさせたときの抵抗値を示している。これから、室温で75%のTMRが得られた。このTMRの値は、従来のCoFe合金やCoFeB合金を用いた場合のTMRよりも大きな値である。また、接合抵抗は、RA=1.2×105Ωμm2と小さいことが分かった。
【0063】
図13は、実施例3のトンネル磁気抵抗効果素子15におけるTMRの温度磁場依存性を示す図である。図の横軸は温度(K)であり、縦軸はTMR(%)である。図13から明らかなように、50Kの低温では100%以上、最大110%という大きなTMRが得られることが分かった。Jullierの式(1)を用いてCo2Fe(Si0.5Al0.5)のスピン分極率を求めると、P=0.71となる。このスピン分極率は、従来のCoFeB合金の最大値である0.6よりかなり大きな値である。
【実施例4】
【0064】
強磁性フリー層3となるCo2Fe(Si1-xAlx)の組成xを0.1とし、Co2Fe(Si0.1Al0.9)薄膜とした以外は、実施例3と同様にして実施例4のトンネル磁気抵抗効果素子15を作製した。室温におけるTMRは、約63%であった。
【実施例5】
【0065】
強磁性フリー層3となるCo2Fe(Si1-xAlx)の組成xを0.3とし、Co2Fe(Si0.3Al0.7)薄膜とした以外は、実施例3と同様にして実施例5のトンネル磁気抵抗効果素子15を作製した。室温におけるTMRは、約70%であった。
【実施例6】
【0066】
強磁性フリー層3となるCo2Fe(Si1-xAlx)の組成xを0.6とし、Co2Fe(Si0.6Al0.4)薄膜とした以外は、実施例3と同様にして実施例6のトンネル磁気抵抗効果素子15を作製した。室温におけるTMRは、約80%であった。
【実施例7】
【0067】
強磁性フリー層3となるCo2Fe(Si1-xAlx)の組成xを0.7とし、Co2Fe(Si0.7Al0.3)薄膜とした以外は、実施例3と同様にして実施例7のトンネル磁気抵抗効果素子15を作製した。室温におけるTMRは、約77%であった。
【実施例8】
【0068】
強磁性フリー層3となるCo2Fe(Si1-xAlx)の組成xを0.9とし、Co2Fe(Si0.7Al0.3)薄膜とした以外は、実施例3と同様にして実施例8のトンネル磁気抵抗効果素子15を作製した。室温におけるTMRは、約69%であった。
【0069】
次に、実施例3~8に対する比較例について説明する。
(比較例1)
強磁性フリー層3となるCo2Fe(Si1-xAlx)の組成xを0、すなわち、Co2FeSi薄膜とした以外は、実施例3と同様にして比較例1のトンネル磁気抵抗効果素子を作製した。室温におけるTMRは、約41%であった。
【0070】
(比較例2)
強磁性フリー層3となるCo2Fe(Si1-xAlx)の組成xを1、すなわち、Co2FeAl薄膜とした以外は、実施例3と同様にして比較例2のトンネル磁気抵抗効果素子を作製した。室温におけるTMRは、約53%であった。
【0071】
図14は、実施例3~8及び比較例1~2のトンネル磁気抵抗効果素子における室温でのTMRのCo2Fe(Si1-xAlx)薄膜の組成依存性を示す図である。図の横軸は組成xを示し、縦軸はTMR(%)を示している。Co2Fe(Si1-xAlx)薄膜の組成xが0の場合はCo2FeSiの比較例1を、組成xが1の場合はCo2FeAlの比較例2を、それぞれ示している。
図14から明らかなように、実施例3~8のトンネル磁気抵抗効果素子における室温でのTMRは、Co2Fe(Si1-xAlx)の組成xが0.1から0.9においては、約63%から最大80%という大きなTMRが得られ、本発明によるホイスラー合金はいずれも60%以上のTMRを示しており、大きなスピン分極率をもつことが分かった。
一方、比較例1のCo2FeSi薄膜及び比較例2のCo2FeAlを用いたトンネル磁気抵抗効果素子における室温でのTMRは、それぞれ、約41%、53%であり、何れも、実施例3~8のCo2Fe(Si1-xAlx)(ここで、0<x<1)薄膜3を用いたトンネル磁気抵抗効果素子におけるTMRよりも低いことが分かった。
【実施例9】
【0072】
実施例9として、スピンバルブ型のトンネル磁気抵抗効果素子(MTJ)20を作製した。
先ず、高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて、MgO(001)基板2上に、Crから成るバッファ層4を40nmと、このCrバッファ層4上に強磁性のフリー層となるCo2Fe(Si0.5Al0.5)層3を30nmと、トンネル絶縁層11となるMgO層を2nmと、Co2Fe(Si0.5Al0.5)層を30nm積層した。この成膜後に、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の結晶性をよくするために400℃の温度で熱処理を行なった。熱処理したCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3はB2構造であった。
引き続き、強磁性のピン層16となるCoFe層を3nmと、ピン層16のスピンを固定する役割をする反強磁性体13となるIrMn層を10nm、保護膜であるとともに微細加工におけるマスクの役割も果す電極層14としてのTa層5nmを、順に積層した。次に、500℃の温度で磁場中熱処理を行ない室温まで冷却し、Co2Fe(Si0.5Al0.5)層とCoFe層からなるピン層16に一軸異方性を導入した。
上記のように成膜した積層膜をフォトリソグラフィ及びイオンミリングを用いて微細加工を行ない、10μm×10μmの寸法を有するスピンバルブ型のトンネル磁気抵抗効果素子20を作製した。
【0073】
実施例9のスピンバルブ型のトンネル磁気抵抗効果素子(MTJ)20に外部磁場を印加して、室温で磁気抵抗を測定した。その結果、5Kで254%、室温で170%という非常に大きなTMRが得られた。これは、トンネル絶縁層11としてMgOバリアを用いたことで、(1)式から、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3のスピン分極率が0.75という大きな値が得られたことを意味する。また、接合抵抗RAは、RA=0.8×105Ωμm2と小さかった。
【実施例10】
【0074】
実施例10として、図8に示すスピンバルブ型でCPP構造を有する巨大磁気抵抗効果素子35(CPP-GMR素子)を作製した。
先ず、高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて、MgO(001)基板2上に、Crから成るバッファ層4を40nmと、このCrバッファ層4上に強磁性のフリー層となる厚さが30nmのCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3と、を室温で積層した。この成膜の後で、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の結晶性をよくするために400℃の温度で熱処理を施した。熱処理したCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3はL21構造であった。
引き続き、非磁性金属層21となるCu層を3nm、強磁性のピン層22となるCoFe層を3nm、CoFe層22のスピンを固定する役割をする反強磁性体13となるIrMn層を10nm、保護膜の役割と微細加工におけるマスクの役割をも果たす電極層14となるTa層5nmを、順に積層した。
次に、250℃の温度で、2kOeの磁界を印加して磁場中熱処理を行ない、ピン層22となるCoFe層の膜面内に一軸異方性を導入した。
上記のように成膜した積層膜をフォトリソグラフィ及びイオンミリングを用いて微細加工を行ない、10μm×10μmの寸法を有するスピンバルブ型のCPP型巨大磁気抵抗効果素子35を作製した。
【0075】
実施例10のスピンバルブ型でCPP構造を有する巨大磁気抵抗効果素子35に外部磁場を印加して室温で磁気抵抗を測定した。その結果、5%のCPP-GMRが得られた。これは、従来のスピンバルブ型でCPP構造を有する巨大磁気抵抗効果素子では、そのCPP-GMRが1%に満たない値しか得られないことを考えると非常に大きな値である。これは、実施例10の強磁性フリー層に用いCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の大きなスピン分極率を反映している。また、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の比抵抗が約190μΩ・cmであり、反強磁性層に用いたIrMnの比抵抗の値が200μΩ・cmと同等であることも寄与していると推定される。
【実施例11】
【0076】
強磁性フリー層3となるCo2Fe(Si1-xAlx)の組成xを、実施例10のx=0.5を除く0から1の間の種々の値とした以外は、実施例10と同様にして実施例11のスピンバルブ型でCPP構造を有する巨大磁気抵抗効果素子35を作製した。室温におけるCPP-GMRは、何れの場合も3%以上であり、従来の合金を強磁性フリー層としたスピンバルブ型のCPP構造を有する巨大磁気抵抗効果素子の場合よりも非常に大きいことが分かった。
【実施例12】
【0077】
実施例12として、実施例9と同様にスピンバルブ型のトンネル磁気抵抗効果素子(MTJ)20を作製した。
先ず、高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて、MgO(001)基板2上に、Crから成るバッファ層4を40nmと、このCrバッファ層4上に強磁性のフリー層となるCo2Fe(Si0.5Al0.5)層3を30nmと、トンネル絶縁層11となるMgO層と、Co2Fe(Si0.5Al0.5)層を5nm積層した。この成膜後に、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の結晶性をよくするために400℃で熱処理を行った。熱処理したCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3はB2構造であった。
引き続き、強磁性のピン層16となるCoFe層を3nmと、ピン層16のスピンを固定する役割の反強磁性体13となるIrMn層を10nm、保護膜の役割と微細加工におけるマスクの役割を果たす電極層14としてのTa層2nmを、順に積層した。
次に、種々の温度で磁場中熱処理を行ない、Co2Fe(Si0.5Al0.5)とCoFeとからなるピン層16に一軸異方性を導入した。
上記のように成膜した積層膜をフォトリソグラフィ及びイオンミリングを用いて微細加工を行ない、10μm×10μmの寸法を有するスピンバルブ型のトンネル磁気抵抗効果素子20を作製した。
【0078】
実施例12が実施例9のスピンバルブ型のトンネル磁気抵抗効果素子20と異なるのは、トンネル絶縁層11となるMgO層の膜厚を変えた点と、強磁性フリー層となるCo2Fe(Si0.5Al0.5)層3の熱処理温度を275℃から525℃まで約25℃毎に変えた点である。
【0079】
図15は、実施例12のトンネル磁気抵抗効果素子20における室温のTMR及び接合抵抗のMgO層11の膜厚依存性を示す。図の横軸はMgO層11の膜厚(nm)、左縦軸はTMR(%)、右縦軸は接合抵抗(Ωμm2)である。黒丸印(●)及び白三角印(△)の各プロットは、それぞれ、Co2Fe(Si0.5Al0.5)層3の熱処理で得られた最も大きなTMRとそのときの接合抵抗とを示している。白丸印(○)プロットは、Co2Fe(Si0.5Al0.5)層3に熱処理を施さなかった場合のTMRを示している。
図15から明らかなように、実施例12のトンネル磁気抵抗効果素子20でMgO層11の膜厚を1.5nm,1.7nm,2nm,2.2nm,2,5nmとした場合のトンネル磁気抵抗効果素子20のTMRは、それぞれ、70%,210%,175%,113%,108%であり、MgO層11の膜厚が1.7nmの場合に最も大きなTMR(210%)が得られることが分かった。これらのTMRの値は、何れもCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理を施さなかった場合よりも高くなることが分かる。
【0080】
実施例12のトンネル磁気抵抗効果素子20の接合抵抗は、MgO層11の膜厚が1.5nm,1.7nm,2nm,2.2nm,2.5nmの場合に、それぞれ2×103Ωμm2,7×103Ωμm2,1×105Ωμm2,2×106Ωμm2,2×107Ωμm2であった。接合抵抗は、MgO層11の膜厚の増加と共に対数的に増大していることが分かった。
【0081】
図16は、MgO層11の膜厚を1.7nmとし、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理温度を430℃とした実施例12のトンネル磁気抵抗効果素子20におけるTMRの温度依存性を示す図である。図の縦軸はTMR(%)、横軸は測定温度(K)である。
図16から明らかなように室温のTMRは220%であり、温度を下げるとTMRは増加し、測定温度5KのTMRは390%と非常に高い値となることが分かった。Jullierの式(1)を用いてCo2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3のスピン分極率を求めると、P=0.81となる。このスピン分極率の値は、実施例3で計算された値よりも高いことが分かる。
【0082】
図17に図16のトンネル磁気抵抗効果素子20の5Kにおける抵抗の磁場依存性を示す。図の横軸は外部磁界H(Oe)、左縦軸は抵抗(Ω)、右縦軸は測定した抵抗から計算したTMR(%)である。図の実線と点線は、外部磁界をスイープさせたときの抵抗値を示している。これから、5Kで390%のTMRが得られた。このTMRの値は、従来のCoFe合金やCoFeB合金を用いた場合のTMRよりも大きな値であった。
【0083】
図18は、実施例12のトンネル磁気抵抗素子20におけるTMRの熱処理温度依存性を示す。図の縦軸は室温のTMR(%)であり、横軸は熱処理温度(℃)である。黒四角印(■)、黒丸印(●)及び黒三角印(▲)の各プロットは、それぞれトンネル絶縁層11となるMgO層の厚みが1.5nm、2nm、2.5nmの値を示している。
図8から明らかなように、MgO層11の膜厚が1.5nmの場合、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理温度を、275℃,300℃,350℃,375℃,400℃,425℃,450℃,475℃としたときのTMRは、それぞれ約50%,約55%,約60%,約70%,約55%,約48%,約52%,約22%であった。Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理を施さないときのTMRは約45%であった。
MgO層11の膜厚が2nmの場合、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理温度を、275℃,300℃,350℃,375℃,400℃,425℃,450℃,475℃,500℃,525℃としたときのTMRは、それぞれ約63%,約70%,約83%,約92%,約103%,約123%,約147%,約172%,約175%,約158%であった。Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理を施さないときのTMRは約50%であった。
MgO層11の膜厚が2.5nmの場合、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理温度を、275℃,300℃,350℃,375℃,400℃,425℃,450℃,475℃,500℃,525℃としたときのTMRは、それぞれ約30%,約35%,約45%,約52%,約58%,約72%,約90%,約110%,約110%,約90%であった。Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理を施さないときのTMRは約23%であった。
【0084】
上記結果から、何れのMgO層11の厚みでも、熱処理温度を増加させると、TMRは増加しMgO層11の厚み毎に異なる温度で極大となって減少することが分かる。MgO層11の厚みが1.5nmでは、熱処理温度が375℃でTMRは最大となり、熱処理温度が約425℃までは熱処理をしない場合と比べてTMRは増加し、約425℃以上の温度で熱処理を行うと、熱処理をしない場合と比べてTMRは低くなることが分かる。
MgO層11の厚みが2nm及び2.5nmでは、熱処理温度が500℃でTMRは最大となる。特に、MgO層11の厚みが2nmの場合には、300℃~525℃の熱処理により、TMRを約75%から175%とすることができる。
なお、図示しないが、MgO層11の膜厚が1.7nmの場合には、430℃の熱処理により、TMRが最大となり200%以上とすることができた。
【0085】
図19は、実施例12のトンネル磁気抵抗素子20における接合抵抗の熱処理温度依存性を示す。図の縦軸は接合抵抗(Ωμm2)であり、横軸は熱処理温度(℃)である。黒四角印(■)、黒丸印(●)及び黒三角印(▲)の各プロットは、それぞれトンネル絶縁層11となるMgO層の膜厚が1.5nm、2nm、2.5nmの値を示している。
図19から明らかなように、MgO層11の膜厚が1.5nmの場合、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理温度を、275℃,300℃,350℃,375℃としたときの接合抵抗は、何れも熱処理を施さない場合と同じ約2×103Ωμm2であった。熱処理温度を400℃,425℃,450℃としたときの接合抵抗は約1.5×103Ωμm2であり、熱処理温度を475℃としたときの接合抵抗は約1×103Ωμm2となった。
MgO層11の膜厚が2nmの場合、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理温度を、275℃,300℃,350℃,375℃,400℃としたときの接合抵抗は、何れも熱処理を施さない場合と同じ約5×104Ωμm2であった。熱処理温度を425℃,450℃,475℃,500℃,525℃としたときの接合抵抗は、それぞれ約6×104Ωμm2,7×104Ωμm2,8×104Ωμm2,1×105Ωμm2となり、熱処理温度が400℃以上の場合には温度上昇と共に接合抵抗が増大することが分かった。
MgO層11の膜厚が2.5nmの場合、Co2Fe(Si0.5Al0.5)薄膜3の熱処理温度を、275℃,300℃,350℃,375℃,400℃,425℃としたときの接合抵抗は、何れも熱処理を施さない場合と同じ約2×107Ωμm2であった。熱処理温度を450℃,475℃,500℃,525℃としたときの接合抵抗は、それぞれ約2.5×107Ωμm2,約3×107Ωμm2,約3×107Ωμm2,約4×107Ωμm2となり、熱処理温度が425℃以上の場合には温度上昇と共に接合抵抗が増大することが分かった。
【0086】
上記結果から、実施例12の熱処理温度が増加しても400℃までは、熱処理を施さない場合の接合抵抗とほとんど同じで変化しない。MgO層11の膜厚が1.5nmでは熱処理温度が400℃以上では接合抵抗は減少する。一方、MgO層11の膜厚が2nm,2.5nmでは熱処理温度が400℃以上では接合抵抗は増加した。また、MgO層11が厚くなるにつれて接合抵抗が増加することが分かった。
【0087】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能である。例えば、トンネル磁気抵抗効果素子の場合、フリー層となるCo2Fe(Si1-xAlx)薄膜3(0<x<1)の組成や用いるトンネル絶縁層などの厚さは所望のTMRが得られるように適宜設計することができ、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係る磁性薄膜及びそれを用いた磁気抵抗効果素子並びに磁気デバイスは、室温において、低磁界で大きなTMRとGMRが得られるので、磁界検出、磁界反転の検出に必要な各種の電子機器、各種産業機械用の磁界検出装置として、さらに、医療用電子機器の磁界検出装置などに用いるのに適している。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
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【図13】
12
【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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