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明細書 :走査プローブ顕微鏡装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5095619号 (P5095619)
登録日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
発明の名称または考案の名称 走査プローブ顕微鏡装置
国際特許分類 G01Q  60/24        (2010.01)
FI G01Q 60/24
請求項の数または発明の数 5
全頁数 15
出願番号 特願2008-527707 (P2008-527707)
出願日 平成19年7月19日(2007.7.19)
国際出願番号 PCT/JP2007/064237
国際公開番号 WO2008/015916
国際公開日 平成20年2月7日(2008.2.7)
優先権出願番号 2006207297
優先日 平成18年7月31日(2006.7.31)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年2月6日(2009.2.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小林 大
【氏名】西田 周平
【氏名】川勝 英樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】荒巻 慎哉
参考文献・文献 特開2003-194699(JP,A)
特開平08-166396(JP,A)
調査した分野 G01Q 60/00 - 60/60
特許請求の範囲 【請求項1】
試料に機械的振動子を作用させて試料の撮像を行う走査プローブ顕微鏡装置において、
(a)第1の制御器と、
(b)該第1の制御器に接続される、試料のXYZスキャナ及びXY走査画像化システムと、
(c)信号発生器と、
(d)該信号発生器に接続される振動励起手段と、
(e)該振動励起手段からの出力信号により強制振動する機械的振動子と、
(f)該機械的振動子の振動を検出する振動検出手段と、
(g)該振動検出手段に接続される位相差検出手段と、
(h)該位相差検出手段からの位相差信号を入力するとともに、前記第1の制御器と前記信号発生器に周波数制御信号を出力する第2の制御器と、
(i)前記位相差検出手段からの位相差信号と前記第2の制御器からの周波数制御信号の両方を任意の割合で混合して前記第1の制御器に入力する装置と、
(j)前記周波数制御信号を任意の強度に調整してから前記信号発生器に入力する装置とを備え、
(k)前記信号発生器から前記機械的振動子の共振周波数付近の周波数の駆動信号を発生させ、それを前記振動励起手段に入力し、前記機械的振動子を強制振動させ、前記位相差検出手段からの位相差を一定の値に維持するように制御することによって、前記試料の撮像を行うことを特徴とする走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項2】
請求項1記載の走査プローブ顕微鏡装置において、前記機械的振動子の共振周波数を計測し、該共振周波数に基づいて前記試料と前記機械的振動子との相互作用力像を取得することを特徴とする走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項3】
請求項1記載の走査プローブ顕微鏡装置において、前記機械的振動子の共振周波数を計測し、該共振周波数に基づいて前記試料の凹凸像を取得することを特徴とする走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項4】
請求項1記載の走査プローブ顕微鏡装置において、前記機械的振動子の共振周波数を計測し、該共振周波数に基づいて前記共振周波数と機械的振動子-試料間距離の関係を取得することを特徴とする走査プローブ顕微鏡装置。
【請求項5】
請求項1記載の走査プローブ顕微鏡装置において、前記機械的振動子がカンチレバーであることを特徴とする走査プローブ顕微鏡装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、走査プローブ顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走査プローブ顕微鏡としての原子間力顕微鏡の撮像モードの一つに、FM(周波数変調:Frequency Modulation)モードがある。このFMモードでは、原子間力顕微鏡装置のカンチレバーに自励振動を発生させ、その周波数の変化からカンチレバーと試料(サンプル)の相互作用力を検出し、この相互作用力を画像化するか、あるいはこの相互作用力が一定になるようにカンチレバーとサンプルの距離を調節することによって、サンプルの凹凸を画像化することができる。
【0003】
図1は従来のカンチレバーとサンプルの距離に対する特性図である。
図1(a)はカンチレバーとサンプルの距離対相互作用力の一例を示している。カンチレバーには固有のバネ定数と質量から決まる機械的共振周波数があるが、図1(a)のような距離によって値が変化する外力が作用すると、見かけのバネ定数が変化し、共振周波数が変化する。図1(b)は距離対共振周波数の関係の一例である。
【0004】
図2は従来の原子間力顕微鏡のFMモードの制御システムの一例である。
この図において、101は試料(サンプル)、102はサンプル台、103はXYZスキャナ、104はサンプル101の特性を計測するためのカンチレバー、105はカンチレバー104の振動を検出する振動検出手段、106は振動検出手段105からの検出信号を受ける、バンドパスフィルタ、振幅安定化及び位相調整を行う検出信号波形処理システム、107は検出信号波形処理システム106に接続されるFM検波器、108はFM検波器107に接続される制御器、109は検出信号波形処理システム106に接続される振動励起手段、110はXY走査画像化システムであり、サンプル101は、制御器108からのZ軸制御信号と、XY走査画像化システム110からのXY走査信号によって、XYZの走査を行うことができる。
【0005】
すなわち、カンチレバー104の振動を検出した信号(検出信号)を、検出信号波形処理システム106により、必要に応じて増幅し、振幅を安定化させ、位相を調節した上で振動励起手段109にフィードバックすると、カンチレバー104は共振周波数で自励振動する。この自励振動の周波数をFM検波器107で検出することによって、カンチレバー104の共振周波数を知り、ひいてはカンチレバー104とサンプル101の相互作用力を知ることができる。
【0006】
上記の方法で相互作用力を検出しながら、サンプル101をXY走査画像化システム110からのXY走査信号によりXY走査し、該当するXY座標点における相互作用力を画像化することによって、相互作用力像を得ることができる。また、相互作用力が一定になるように、カンチレバー104とサンプル101の距離(Z軸の位置)を、制御器108からのZ軸制御信号によりZ軸を制御しながらXY走査することにより、サンプル101の凹凸像を得ることもできる。
【0007】
なお、自励振動を発生させるフィードバックループ(自励ループ)に周波数変換を含む(スーパーヘテロダイン方式)場合もある。また、スーパーヘテロダインにPLLを組み合わせ発振の安定化を図ったものもある。
なお、試料の撮像装置の位相フィードバック方式としては、詳細に後述するが、下記非特許文献を挙げることができる。
【0008】
また、カンチレバーの励振については下記特許文献1が、プローブ及びプローブ顕微鏡装置については下記特許文献2を挙げることができる。

【特許文献1】WO 02/103328 A1 カンチレバーの励振など
【特許文献2】WO 2005/015570 A1
【非特許文献1】Applied Surface Science 157(2000)、pp.332-336
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
カンチレバーには、通常、複数の振動モードが存在する。また、カンチレバー以外の機構の共振周波数や、カンチレバーが水中に設置される場合には水面での音波の反射による共振周波数が寄生的に存在する場合もある。目的のモードで自励振動を発生させるためには、自励ループにバンドパスフィルタを入れ、目的のモード以外のループゲインを低下させる必要がある。隣接するモードの周波数が近接している場合、バンドパスフィルタの通過帯域を狭帯域にしなければならない。
【0010】
また、カンチレバーが空気中や水中に設置されているような場合、機械振動子としてのQ値が下がるので、検出信号のS/N比が悪化して自励発振の周波数と振幅が不安定になりやすい。バンドパスフィルタは検出信号に含まれるノイズを除去する効果も果たすので、バンドパスフィルタの通過帯域を狭帯域にすれば、Q値が低い環境でも安定な自励振動が得られる。
【0011】
しかしながら、狭帯域のバンドパスフィルタを用いると、発振周波数は主としてバンドパスフィルタの中心周波数で決定されるようになり、カンチレバーの共振周波数を検出するという本来の目的から外れることになる。
スーパーヘテロダイン方式にPLLを組み合わせることによって発振を安定化させる方式も存在するが、装置が複雑になるためコストがかかり、また、使用者が動作を理解しにくいという欠点がある。
【0012】
図3は従来のカンチレバーとサンプルの距離に対する共振周波数の関係の測定システムの構成図である。
また、従来技術によれば、カンチレバーとサンプルの距離に対する共振周波数の関係(図1の(b)のごときプロット)を取得する場合、図3に示すように、XY走査を停止し、Z軸に強制的に三角波発生器111からの三角波を入力し、それに対して自励発振周波数がどう変化するかをFM検波器107によって検出し、プロットすることになる。
【0013】
しかしながら、この方法は、距離が入力で共振周波数が出力になっているため、図1(b)のカーブの極小点よりも左側のように、僅かな距離の変化に対して共振周波数が大きく変化する部分においては、測定の精度が悪い。また、Z軸はオープンループ制御になっているため、Z軸のドリフトが無視できる程度の短時間に測定を終了しなければならない。
【0014】
本発明は、上記状況に鑑みて、FMモードの走査プローブ顕微鏡のカンチレバーが、機械的Q値が低い環境においても安定に振動し、かつ、カンチレバーとサンプルの相互作用に対して高い感度を持つ走査プローブ顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕試料に機械的振動子を作用させて試料の撮像を行う走査プローブ顕微鏡装置において、第1の制御器と、この第1の制御器に接続される、試料のXYZスキャナ及びXY走査画像化システムと、信号発生器と、この信号発生器に接続される振動励起手段と、この振動励起手段からの出力信号により強制振動する機械的振動子と、この機械的振動子の振動を検出する振動検出手段と、この振動検出手段に接続される位相差検出手段と、この位相差検出手段からの位相差信号を入力するとともに、前記第1の制御器と前記信号発生器に周波数制御信号を出力する第2の制御器とを備え、前記信号発生器から前記機械的振動子の共振周波数付近の周波数の駆動信号を発生させ、それを前記振動励起手段に入力し、前記機械的振動子を強制振動させ、前記位相差検出手段からの位相差を一定の値に維持するように制御することによって、前記試料の撮像を行うことを特徴とする。
【0016】
〕上記〔1〕記載の走査プローブ顕微鏡装置において、前記機械的振動子の共振周波数を計測し、該共振周波数に基づいて前記試料と前記機械的振動子との相互作用力像を取得することを特徴とする。
〕上記〔〕記載の走査プローブ顕微鏡装置において、前記機械的振動子の共振周波数を計測し、この共振周波数に基づいて前記試料の凹凸像を取得することを特徴とする。
【0017】
〕上記〔〕記載の走査プローブ顕微鏡装置において、前記機械的振動子の共振周波数を計測し、この共振周波数に基づいて前記共振周波数と機械的振動子-試料間距離の関係を取得することを特徴とする。
〕上記〔〕記載の走査プローブ顕微鏡装置において、前記機械的振動子がカンチレバーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、振幅が安定した信号発生器の信号によってカンチレバーに他励振動を誘起するので、カンチレバーのQ値が低くても振動の振幅を安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の走査プローブ顕微鏡装置は、第1の制御器と、この第1の制御器に接続される、試料のXYZスキャナ及びXY走査画像化システムと、信号発生器と、この信号発生器に接続される振動励起手段と、この振動励起手段からの出力信号により強制振動する機械的振動子と、この機械的振動子の振動を検出する振動検出手段と、この振動検出手段に接続される位相差検出手段と、この位相差検出手段からの位相差信号を入力するとともに、前記第1の制御器と前記信号発生器に周波数制御信号を出力する第2の制御器と、前記位相差検出手段からの位相差信号と前記第2の制御器からの周波数制御信号の両方を任意の割合で混合して前記第1の制御器に入力する装置と、前記周波数制御信号を任意の強度に調整してから前記信号発生器に入力する装置とを備え、前記信号発生器から前記機械的振動子の共振周波数付近の周波数の駆動信号を発生させ、それを前記振動励起手段に入力し、前記機械的振動子を強制振動させ、前記位相差検出手段からの位相差を一定の値に維持するように制御することによって、前記試料の撮像を行う。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図4は本発明の実施例を示す走査プローブ顕微鏡装置(トラッキング他励方式)のシステム構成図である。
この図において、1は試料(サンプル)、2はサンプル台、3はXYZスキャナ、4はサンプル1の撮像を行うためのカンチレバー、5はそのカンチレバー4の振動を検出する振動検出手段、6は振動検出手段5からの検出信号を受ける、位相差検出手段、7は位相差検出手段6からの位相差信号を受ける第2の制御器、8は第2の制御器7に接続される第1の制御器、9は第2の制御器7からの周波数制御信号を受ける信号発生器、10は信号発生器9からの駆動信号を受ける振動励起手段、11は第1の制御器8に接続されるXY走査画像化システムであり、第1の制御器8からのZ軸制御信号はXYZスキャナ3に接続される。また、信号発生器9からの駆動信号は振動励起手段10を介してカンチレバー4を振動させる。信号発生器9からの駆動信号は、参照信号として、位相差検出手段6の入力側に接続される。
【0021】
ここでは、位相差検出手段6によって検出した位相差がゼロになるように信号発生器9の周波数を変化させ、駆動信号の周波数がカンチレバー4の共振周波数に一致するように自動制御する。このとき、周波数制御信号の値は、信号発生器9の周波数をカンチレバー4の共振周波数に一致させるために必要だった補正の量を意味している。つまり、周波数制御信号の値はカンチレバー4の共振周波数(ただしオフセット付きの)を表している。
【0022】
従って、XY座標の各位置における周波数制御信号の値をプロットすると共振周波数像、言い換えると、相互作用力像が得られる。また、周波数制御信号が常にゼロ(または一定値)になるようにカンチレバー4とサンプル1の距離(Z軸の位置)を制御し、XY座標の各位置におけるZ軸の位置をプロットすると、サンプル1の凹凸像が得られる。
要するに、カンチレバー4の共振周波数に近い周波数を持つ駆動信号を信号発生器9から振動励起手段10に供給し、カンチレバー4を他励振動(強制振動)させる。振動検出手段5によって検出されたカンチレバー4の振動と前記駆動信号との位相差がゼロになるように、即ち前記駆動信号とカンチレバー4の共振周波数が一致するように、(1)前記駆動信号の周波数、または、(2)カンチレバーの共振周波数を(カンチレバー4とサンプル1の距離を調整することによって)制御する。
【0023】
ここで、本発明の参考例として、位相フィードバック方式について説明する。
図5は本発明の第1参考例を示す走査プローブ顕微鏡装置(位相フィードバック方式)のシステム構成図である。
この図に示すように、位相フィードバック方式は、図4における第2の制御器7を不要にした構成であり、位相差信号のみを監視するシステムとしている。すなわち、第1の制御器21には位相差信号のみが入力され、信号発生器22には周波数制御信号は入力されることはなく、独立して信号を発生するようにしている。
【0024】
位相差検出手段6により検出した位相差がゼロになるように、カンチレバー4とサンプル1の距離(Z軸の位置)を制御する。この制御は、相互作用力が一定になるように制御することを意味する。XY座標の各位置におけるZ軸の位置をプロットすると、サンプル1の凹凸像が得られる。
また、Z軸の制御の応答を遅くすると、XY走査による相互作用力の変動(つまり位相差信号の変動)の補正が追いつかなくなるので、位相差信号に相互作用力の情報が残るようになり、XY座標の各位置における位相差信号の値をプロットすることによって、相互作用力像を得ることもできる。
【0025】
なお、タッピングモードのAFMの制御法として、ブロックダイヤグラムのレベルではこの図とほとんど同じ図になる制御法があるが、そのタッピングモードはカンチレバーの共振周波数から相互作用力を検出するわけではなく、振動の振幅も格段に大きいものといった相違点がある。
次に、位相フィードバック方式によるΔf-Zカーブの取得について説明する。
【0026】
前述の位相フィードバック方式はなんらかの像の取得を目的としているが、XY走査を停止して、カンチレバーとサンプルの距離に対する共振周波数の変化(Δf-Zカーブ、すなわち、従来技術の図1の(b)のようなプロットを測定する場合、前述の位相フィードバック方式のZ軸制御が利用できる。
位相フィードバック方式では、カンチレバーはつねに周波数発生器の周波数で強制振動させられ、カンチレバーの共振周波数の方が周波数発生器の周波数に一致するまでカンチレバーとサンプルの距離が調節される。
【0027】
したがって、信号発生器の周波数を変化させ、それに伴うZ軸の制御信号をプロットすれば、カンチレバーとサンプルの距離に対する共振周波数の変化を取得することができる。
また、この方法では、入力が共振周波数で出力が距離と見なすことができるので、従来技術の図1(b)のカーブの極小点より左側のような、僅かな距離変化に対して共振周波数が大きく変動する場合に、精度良く測定することが可能である。
【0028】
次に、トラッキング他励方式と位相フィードバック方式による撮像について説明する。
図6は本発明の第2参考例を示す走査プローブ顕微鏡装置(トラッキング他励方式によるアプローチと位相フィードバック方式によるアプローチ)のシステム構成図(その1)である。
このシステムでは、位相差検出手段6からの位相差信号を導入する第1の端子31Aと第2の制御器7からの周波数制御信号を導入する第2の端子31Bとを切り替え可能な第1の切替器31と、第2の制御器7からの周波数制御信号を開閉可能な第2の切替器32とを備え、第1の切替器31の出力側に第1の制御器8を、第2の切替器32の出力側に信号発生器9をそれぞれ接続するようにしたものである。
【0029】
上記したように、位相差検出手段6からの出力信号と、第2の制御器7から出力信号とを切り替えることができる第1の切替器31と、第2の制御器7から出力信号をオンオフできる第2の切替器32を配置して、位相フィードバック方式と、図4に示したトラッキング他励方式とを切り替えて用いるようにしている。
カンチレバー4やサンプル1の取付など、手作業による準備の段階では、カンチレバー4とサンプル1の間にはミリメートルオーダーの距離がある。一方、走査プローブ顕微鏡の撮像時には、カンチレバー4とサンプル1間の距離はナノメートルオーダーの距離に接近させる必要がある。Z軸のスキャナ(通常は圧電素子)の可動範囲はマイクロメートル程度しかないため、ミリメートルオーダーの可動範囲を持つ粗動機構をZ軸スキャナとは別に設置し、これによってカンチレバー4とサンプル1の距離をZ軸スキャナの可動範囲まで接近させる必要がある。
【0030】
ところが、位相フィードバック方式は、カンチレバー4とサンプル1の距離を変えるためには信号発生器9の周波数を変え、結果的にその周波数が共振周波数に一致するように距離が制御されるのであるから、この制御方法はZ軸スキャナの可動範囲内でのみ成立する。言い換えれば、位相フィードバック方式は、距離が先に与えられる状況では成立しない。従って、Z軸の粗動機構を使用する時は、位相フィードバック方式を使えない。
【0031】
この問題は、図6に示すように、粗動機構を使用してカンチレバー4とサンプル1を所定の距離まで接近させる間にはトラッキング他励方式を使い、その後、制御方式を位相フィードバック方式に切替えることによって解決できる。
本発明によれば、振幅が安定した信号発生器の信号によってカンチレバー4に他励振動(強制振動)を誘起するので、カンチレバー4のQ値が低くても振動の振幅を安定させることができる。駆動信号と検出信号の位相差は、駆動信号の周波数とカンチレバー4の共振周波数の差を反映しており、カンチレバー4をサンプル1に対して走査したときに、前記位相差が変化したならば、これはカンチレバー4とサンプル1の間の相互作用力が変化したことを意味する。そこで、カンチレバー4を走査しながら、前記位相差がゼロになるように(1)カンチレバー4とサンプル1の距離を変化させることによって常に共振周波数が駆動周波数に一致する(言い換えるとカンチレバー4とサンプル1の相互作用力が常に一定になる)ように制御し、カンチレバー4とサンプル1の距離を凹凸像として取得する。または、(2)駆動信号の周波数を調整することによってカンチレバー4の共振周波数に一致させるようにフィードバックすることによりカンチレバー4とサンプル1の相互作用力を推定し、それを相互作用力像として取得するか、あるいはもう一重のフィードバックループを構成して相互作用力が一定になるようにカンチレバー4とサンプル1の距離を変化させ、この距離変化を凹凸像として取得する。上記(1)、(2)いずれの場合においても、制御ループの応答速度は必要なS/N比によって決定すればよく、たとえS/N比を重視して応答を遅くしても、従来技術のように共振周波数の検出感度を低下させる要因が存在しない。
【0032】
なお、上記参考例では、位相差検出手段6からの位相差信号を導入する第1の端子31Aと前記第2の制御器7からの周波数制御信号を導入する第2の端子31Bとを切り替え可能な第1の切替器31と、前記第2の制御器7からの周波数制御信号を開閉可能な第2の切替器32とを備え、第1の切替器31の出力側に第1の制御器8を、第2の切替器32の出力側に信号発生器9をそれぞれ接続するように構成しているが、上記参考例と等価な結果を与える、切替器を使用しない実現方法を用いてもよい。例えば、制御器1と制御器2をディジタル信号処理によって実現し、それらの間のディジタル信号線の接続をディジタル的な切替器によって切替える方法、あるいは制御器1と制御器2をディジタル的に実装するプログラマブルロジックデバイス(PLD)のプログラムを変更することによって、上記参考例における切替えと等価な結果を得る方法、あるいは制御器1と制御器2をマイクロコンピュータやディジタルシグナルプロセッサ(DSP)によってソフトウエア的に実現し、ソフトウエアのアルゴリズムを変化させることによって切替えを達成する方法などを用いてもよい。
【0033】
図7は本発明の第3参考例を示す走査プローブ顕微鏡装置(トラッキング他励方式によるアプローチと位相フィードバック方式によるアプローチ)のシステム構成図(その2)である。
この参考例では、位相差信号が導かれる端子41と周波数制御信号が導かれる端子42との間に第1の可変抵抗器43を配置して、その第1の可変抵抗器43上の調整された点に第1の制御器8を摺動子44で接続可能にする。また、周波数制御信号が導かれる端子45と接地E間には第2の可変抵抗器46を配置して、その第2の可変抵抗器46上の調整された点に信号発生器9を摺動子47で接続可能にする。摺動子44と47とは連動するようにする。
【0034】
上記したように、位相差検出手段6からの位相差信号と第2の制御器7からの周波数制御信号の両方を任意の割合で混合して第1の制御器8に入力する装置と、周波数制御信号を任意の強度に調整してから信号発生器9に入力する装置とを備えるようにすることができる。その場合、上記した装置は、可変抵抗器に代えて電子回路装置で構成するようにしてもよい。
【0035】
この参考例では、アプローチに際して摺動子44を端子42側に、摺動子47を最も上側にそれぞれ移動させ、完全なトラッキング他励方式になるようにしてアプローチを行う。撮像時は摺動子44を端子41側に、摺動子47を接地Eの側にそれぞれ移動させ、位相フィードバック方式で撮像を行うことができる。可変抵抗を使用することにより、トラッキング他励から位相フィードバックへ切り替わる過程での信号の不連続な変化による急激なZ軸の移動によってサンプル1又はカンチレバー4が損傷することを防止することができる。また、トラッキング他励方式で撮像することもできる。
【0036】
図8は本発明の走査プローブ顕微鏡装置により撮像されたへき開マイカのAFM像であり、図8(a)は10×10nm、図8(b)は5×5nm、図8(c)は2×2nmのそれぞれのサイズで示されている。
なお、ここでは、市販のシリコン製のカンチレバーを使用し、純水中たわみ2次モードを用いて撮像した。撮像前に測定した純水中たわみ2次モードの共振周波数は862kHzである。斥力領域(共振周波数が882kHzの地点)で撮像した。振幅(A)を一定に保ち(0.38nmpp)撮像した。
【0037】
図9は本発明の走査プローブ顕微鏡を用いた試料としてのへき開マイカ〔図8(c)参照〕のAFM像、図10はその断面(A-A)の断面プロファイルである。
このように、本発明によれば、微小なpmレベルの試料の凹凸を撮像することができる。
なお、上記実施例では、プローブとしてのカンチレバーについて述べたが、機械的振動子であれば、種々のプローブを用いることができる。
【0038】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の走査プローブ顕微鏡装置は、試料の撮像を高精度で行う走査プローブ顕微鏡に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】従来のカンチレバーとサンプルの距離に対する特性図である。
【図2】従来の原子間力顕微鏡のFMモードの制御システムの一例である。
【図3】従来のカンチレバーとサンプルの距離に対する共振周波数の関係の測定システムの構成図である。
【図4】本発明の実施例を示す走査プローブ顕微鏡装置(トラッキング他励方式)のシステム構成図である。
【図5】本発明の第1参考例を示す走査プローブ顕微鏡装置(位相フィードバック方式)のシステム構成図である。
【図6】本発明の第2参考例を示す走査プローブ顕微鏡装置(トラッキング他励方式によるアプローチと位相フィードバック方式によるアプローチ)のシステム構成図(その1)である。
【図7】本発明の第3参考例を示す走査プローブ顕微鏡装置(トラッキング他励方式によるアプローチと位相フィードバック方式によるアプローチ)のシステム構成図(その2)である。
【図8】本発明の走査プローブ顕微鏡装置により撮像されたへき開マイカのAFM像である。
【図9】本発明の走査プローブ顕微鏡を用いた試料としてのへき開マイカ〔図8(c)参照〕のAFM像である。
【図10】図9の断面(A-A)の断面プロファイルである。
図面
【図1】
0
【図10】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
9