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明細書 :直鎖状核酸分子懸架支持体、直鎖状核酸分子伸長方法および直鎖状核酸分子標本

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5167449号 (P5167449)
登録日 平成25年1月11日(2013.1.11)
発行日 平成25年3月21日(2013.3.21)
発明の名称または考案の名称 直鎖状核酸分子懸架支持体、直鎖状核酸分子伸長方法および直鎖状核酸分子標本
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI C12Q 1/68 A
G01N 33/53 M
C12M 1/00 A
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 20
全頁数 31
出願番号 特願2008-543157 (P2008-543157)
出願日 平成19年11月7日(2007.11.7)
国際出願番号 PCT/JP2007/072049
国際公開番号 WO2008/056816
国際公開日 平成20年5月15日(2008.5.15)
優先権出願番号 2006301633
優先日 平成18年11月7日(2006.11.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年11月8日(2010.11.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】加畑 博幸
【氏名】福家 有子
【氏名】水野 俊明
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
【識別番号】100100479、【弁理士】、【氏名又は名称】竹内 三喜夫
【識別番号】100098280、【弁理士】、【氏名又は名称】石野 正弘
【識別番号】100125874、【弁理士】、【氏名又は名称】川端 純市
審査官 【審査官】宮澤 浩
参考文献・文献 特開2004-121096(JP,A)
国際公開第02/029083(WO,A1)
特開平 4-148669(JP,A)
特表平 9-509057(JP,A)
特開2004-268192(JP,A)
調査した分野 C12Q 1/68
C12M 1/00
G01N 33/53
C12N 15/09
特許請求の範囲 【請求項1】
複数の線状凸部と、前記線状凸部の間の底部とからなる面を備え、
前記線状凸部は、直鎖状核酸分子と化学反応をしない材料からなり、
伸長された直鎖状核酸分子を前記複数の線状凸部の頂部の間で中空に懸架するための支持体。
【請求項2】
前記底部の幅は、当該底部の両側の前記線状凸部の頂部の間に渡された直鎖状核酸分子が弾性により伸びても当該底部に接触しない値を備えることを特徴とする請求項1に記載された支持体。
【請求項3】
前記複数の線状凸部が同心円をなすことを特徴とする請求項1に記載された支持体。
【請求項4】
前記複数の線状凸部が同心多角形をなすことを特徴とする請求項1に記載された支持体。
【請求項5】
前記複数の線状凸部が網目を形成することを特徴とする請求項1に記載された支持体。
【請求項6】
前記線状凸部および前記底部の少なくとも一方が多孔性材料からなることを特徴とする請求項1に記載された支持体。
【請求項7】
前記複数の線状凸部は高さが一定でないことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載された支持体。
【請求項8】
さらに、前記面に対向するふた材を備え、このふた材の前記面に対応する面は、前記支持体に被された状態で前記線状凸部に当接可能な突状部を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載された支持体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の支持体において、前記複数の線状凸部の間の前記底部は、電荷を帯びた材料または人為的に荷電処理した材料からなる電気浸透流もしくは電気泳動流を生成する表面であり、前記線状凸部の間が前記電気浸透流もしくは前記電気泳動流の流路であり、前記流路で直鎖状核酸分子が搬送されることを特徴とする支持体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載されている支持体と、
前記直鎖状核酸分子懸架支持体の前記複数の線状凸部の間に中空状態で架け渡されて固定されているファイバー状態の直鎖状核酸分子と
からなる直鎖状核酸分子標本。
【請求項11】
前記直鎖状核酸分子が、さらに、加熱、減圧または浸潤のいずれかによって溶解もしくは脆化可能な高分子可塑物質で被覆されていることを特徴とする請求項10に記載されている直鎖状核酸分子標本。
【請求項12】
ファイバー化可能であるが、ファイバー化されていない直鎖状核酸分子を含む液体を、複数の線状凸部と前記線状凸部の間の底部とからなる面を備え前記線状凸部が直鎖状核酸分子と化学反応をしない材料からなる支持体の前記面の上に静置し、
次に、前記直鎖状核酸分子懸架支持体の上の前記直鎖状核酸分子にずり応力を与え、その結果、前記直鎖状核酸分子がファイバー状態になって複数の前記線状凸部の頂部の間に架け渡されて固定される
直鎖状核酸分子伸長方法。
【請求項13】
前記ずり応力は、前記支持体を前記面に垂直な回転軸のまわりに回転して、回転により生じる遠心力により生じることを特徴とする請求項12に記載された直鎖状核酸分子伸長方法。
【請求項14】
さらに、ファイバー状態の前記直鎖状核酸分子をプローブとハイブリダイズすることを特徴とする請求項12または13に記載された直鎖状核酸分子伸長方法。
【請求項15】
直鎖状核酸分子を前記支持体に固定した後に、前記支持体の前記面と可視化のためのカバーガラスとの間に退色剤を封入して、前記直鎖状核酸分子を可視化することを特徴とする請求項12から14のいずれかに記載された直鎖状核酸分子伸長方法。
【請求項16】
前記直鎖状核酸分子が1本鎖DNAまたは複数鎖DNAであり、直鎖状核酸分子を含む液体を前記支持体の前記面の上に静置するとき、さらに、可視化剤を加えて前記直鎖状核酸分子を可視化することを特徴とする請求項12から15のいずれかに記載された直鎖状核酸分子伸長方法。
【請求項17】
前記支持体として、前記線状凸部の間の底部が硬化後に溶解可能な高分子可塑物質で満たされ、前記高分子可塑物質が硬化されている前記支持体を用いることを特徴とする請求項12または13に記載された直鎖状核酸分子伸長方法。
【請求項18】
前記支持体はマイクロ流路であり、前記複数の線状凹部は流れ方向に配置され、前記ずり応力は、電気浸透流により生じることを特徴とする請求項12に記載された直鎖状核酸分子伸長方法。
【請求項19】
直鎖状核酸分子と化学反応をしない材料からなる複数の線状凸部と、前記線状凸部の間の底部とからなる面と、
前記複数の線状凸部の間に中空状態で架け渡され固定されたファイバー状態の直鎖状核酸分子とを備える
回路基板。
【請求項20】
前記ファイバー状態の直鎖状核酸分子が導電性物質あるいは金属で被覆されていることを特徴とする請求項19に記載された回路基板。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、染色体などの直鎖状核酸分子のファイバー状態への伸長やハイブリダイゼーションに関する。
【背景技術】
【0002】
染色体は、遺伝情報を保持する巨大分子であるデオキシリボ核酸(DNA)を含んでいるが、自然状態では直径数μmの大きさに凝集している。DNAの配列や遺伝子を決定する従来の手法では、DNAを断片化してシーケンスを決定するので、解析により得られた各配列がうまくつながらないという問題や、全シーケンスを決定するとき時間と費用がかかるという問題があった。染色体をファイバー状に伸長できれば、DNAについての各種の解析が容易になる。このため、DNAの伸長や、伸長したDNA(DNAファイバー)についての解析が報告されている。また、DNAファイバーを用いたFISH法(蛍光・イン・シトゥ・ハイブリダイゼーション法)も報告されている。
たとえば、ContiおよびBensimonの論文(Genomics 80,135(2002))では、DNAファイバーを得るため、DNAを含む溶液にスライドガラスを沈めて、続いて引き上げる。このとき、スライドガラスの表面に付着したDNAの端部が乾燥して表面上に固定される。さらにスライドガラスを引き上げていくと、端部に続く部分が表面上に伸長され固定されていく。これにより0.24mmの長さの繊維状のDNA断片が得られている。なお、この技術で伸長したDNAは損壊しやすいことが知られている(Frans M.van de Rijke et al.,″DNA Fiber-FISH Staining Mechanism″,J.Histochem.Cytochem.48,743-745(2000))。
一本鎖DNAを伸長して固定したファイバーを、ナノアーキテクチャ法(ナノメートルサイズの複数の機能体を自在に連結させて高次化する技術)に応用することが報じられている(たとえば、居城邦治,「DNAを鋳型とした機能性分子の配列制御」,高分子49,781(2000))。種々の部材を組み上げて集合体を作製する際、組み立てのための鋳型として一本鎖DNAファイバーを活用すると、各部材群の位置決めと部材同士の連結の順番決めを行うことが可能となる。具体的にはつぎのとおりである。DNAは二重らせん体であるが、これは2分子の一本鎖DNAが互いに対合することで形成されている。この二重らせんの内部では、アデニン塩基とチミン塩基の間、そして、シトシン塩基とグアニン塩基の間で、それぞれ塩基特異的な水素結合が構築されている。よって、2分子の一本鎖DNAの塩基の並びは互いに相補的である。二重らせん内部の水素結合は昇温やアルカリ添加などによる変性処理によって解消されるため、可逆的に1分子の二重らせんを元の2分子の一本鎖DNAへと戻すことが可能である。一本鎖DNAファイバーを構成する塩基の並び(塩基配列)は、それ自体が直鎖状に示された番地である。すなわち、つぎの3要素、一本鎖DNAファイバー、ファイバー上の指定位置と塩基配列相補的に結合すること(ハイブリダイゼーション)ができる一本鎖DNA(プローブDNA)、そしてこのプローブDNAに把持されて運搬される部材、を用意すると、部材群は、それらを把持している各々のプローブDNAの塩基配列に応じて、一本鎖DNAファイバー上の指定配列へと誘導され、特異的な水素結合を形成して停留される。これを繰り返すことで、任意の部材同士を設計どおりに一列に配置させ、互いに結合させ、集合体へと成長させることができる。この場合、一本鎖DNAファイバーは溶液中に懸架されているほうが、機能分子の並びが容易になる。
上述のContiおよびBensimonのDNAファイバー化技術では、スライドガラスの上にDNAファイバーを採取する段階でDNAファイバーが断片化されていた。これは、採取時の風乾にともなって気液界面メニスカスが発生し、このメニスカスにおいてはDNAファイバーが切れやすいためである。DNAを長く伸長するには気液界面での表面張力について職人的技術が必要であり、この方法によるファイバー化は再現性が低かった。また、この技術で伸長したDNAの二重らせん構造は、表面特異的で無作為な損壊(らせん間隔とねじれの乱れや、二重らせんのうちの一本鎖の切断)を受ける。
また、上述のContiおよびBensimonの技術で得られるDNAファイバーは、DNA二重らせんが基板の表面に圧着することによって形成される。すなわち、二重らせんを構成する2分子の一本鎖DNAは、両者共に基板表面に拘束されている。したがって、FISH法の工程の内のひとつである二重らせんの変性(2分子の一本鎖DNA双方が解離し合って、外部から別の一本鎖DNAを受容すること)は阻害を受けやすい。阻害を受けることを避け、変性の効率を高める工夫が、より有効なFISH法の実現に求められている。
DNAファイバーを対象にしたFISH法やナノアーキテクチャ法の工程において、二重らせんの変性のあとにはプローブのハイブリダイゼーションが行われる。このプローブは、たとえば蛍光標識された外来の一本鎖DNAである。ハイブリダイゼーションは、解離した2分子の一本鎖DNAのうちのいずれかと塩基配列特異的に結合することである。ところが、上述のContiおよびBensimonの技術で得られるDNAファイバーに関しては、DNAが基板に近接しているため表面から立体障害を被っており、プローブがDNAファイバーと接触し、結合し、ハイブリダイゼーションを果たすことが困難である。このハイブリダイゼーションの効率を高める有効な解決策は、従来のFISH法やナノアーキテクチャ法には不在である。
FISH法においては、たとえばプローブ結合の有無により遺伝子の有無が、あるいは、ファイバー上におけるプローブの存在場所により遺伝子の分布が解析される。ハイブリダイゼーションが実施される際、通例、プローブの量はDNAファイバーの量よりも大過剰である。このとき、プローブの大多数は、DNAファイバーを載せた基板表面と同一の表面上に非特異的に吸着し、強い輝度の蛍光バックグランドを発する。このバックグランドは、DNAファイバーと特異的なハイブリダイゼーションを果たした意義のあるプローブが発する蛍光よりも強い。このことは、解析結果であるはずの光シグナルの検出を困難にすることであり、たとえば前述の遺伝子の有無の同定を阻害する。
また、電気浸透流を用いてDNAの伸長が可能である(たとえばK.Terao,H.Kabata,and M.Washizu,J.Phys,Condens.Matter 18,S654(2006))。ガラス板上に固定された染色体を電気浸透流の中におくことによりDNAをたとえば約0.8mmの長さまで伸長できる。しかし、この方法では、電気浸透流がない状態では、DNAは元のように折りたたまれてしまう。また、電気浸透流を用いるための専用の機材が必要であった。また、専用機材の中の電気浸透流における伸長DNAは、顕微鏡の視野内に収まらないため観察が困難であった。
ガラス板上に一端が固定された染色体を電気浸透流の中におく方法では、電気浸透流がない状態では、DNAは元のように折りたたまれてしまう。また、電気浸透流を用いるための専用の機材が必要であった。また、専用機材の中の電気浸透流における伸長DNAは、顕微鏡の視野内に収まらないため観察が困難であった。
国際公開WO2004/083429A1に記載されたDNA断片増幅のための反応装置では、基板の上に複数の柱状体が形成され、柱状体の表面には、DNA断片の増幅対象部分の配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドが付着されている。柱状体は、DNA断片が固定可能な任意の形状の突起部である。柱状体の間隔は、増幅対象部分の両側に設けられた固定用部分の間の距離と同等、または、それよりわずかに短くする。増幅対象部分を含むDNA断片は、伸長させた状態で導入されて、柱状体の表面のオリゴヌクレオチドとの化学結合により柱状体に固定される。このとき、増幅対象部分の2つの固定用部分のうち一方又は両方が柱状体に固定される。こうして、増幅対象部分が伸長された状態でポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)が行われる。この方法では、DNA断片の伸長は反応装置の外部で行わねばならず、また、増幅対象が異なるごとに、それに対応した反応装置を作成しなければならない。
DNAに関して、たとえば田畑仁らの総説(表面科学24,677(2003))によると、高分子としての電気特性を科学的興味から解明しようとする基礎研究、ならびに、Kerenらの論文(Science 302,1380(2003))によると、直鎖という構造特性を電気回路配線のための足場に転用しようとする応用開発が試みられている。それらはたとえば、DNAを伸長したあとで、DNAに内在すると予測されている電気伝導度を測定すること、あるいは、DNAをカーボンナノチューブで部分的に被覆することである。しかし、DNAは凝集する性質と折りたたまれる性質があるため、厳密な計測に要求されるDNA分子の数と配向を制御することが困難であった。
DNAの電気伝導を厳密に決定するとき、本来は、孤立したDNAファイバー単独を測定対象にすべきであるが、実際は、塊状もしくは膜状に凝集した複数のDNA分子が計測されている。また、このとき、DNA分子の凝集体はたとえばマイカ平板の上に乱雑に固着されているため、測定環境(平板近傍の水和、気液雰囲気、イオンなどの導電性夾雑物の存在、DNA濃度の不均一、DNA構造の不整合)は不確定であった。これを解決するには、一定不変の測定環境を提供できる大量の溶液中においてDNAをファイバー状に固定し測定することである。つまり、DNAファイバーは表面から離れた位置に懸架されることが好ましい。
直鎖状高分子の一例として二重らせんDNAを電気回路の配線に用いるためには、より長いDNA分子を取り扱う必要がある。しかしながら、従来は3000bp長から50000bp長まで(1ミクロンから16ミクロン)の比較的短い、そして、入手が容易な限られた種類のDNAのみが取り扱われている。また、一本の配線(この場合、1分子のDNAファイバー)上に複数の通電点(結節点)が設けられる必要があるが、実現されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上述の問題点がない染色体などの新規な伸長技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る支持体は、複数の線状凸部と、前記線状凸部の間の底部とからなる面を備え、前記線状凸部は、直鎖状核酸分子と化学反応をしない材料からなる。この支持体は、伸長された直鎖状核酸分子を前記複数の線状凸部の頂部の間で中空に懸架するために用いられる。直鎖状核酸分子とは、ファイバー化可能であるが自然状態ではファイバー状態でない直鎖状化合物であって、たとえば、2本鎖のDNA分子を含む染色体や、1本鎖のDNA分子と標識された相補性分子との交雑化合物である。好ましくは、前記底部の幅は、当該底部の両側の前記線状凸部の頂部の間に渡された直鎖状核酸分子が弾性により伸びても当該底部に接触しない値を備える。前記複数の線状凸部は、たとえば、同心円または同心多角形をなす。また、前記複数の線状凸部が網目を形成していてもよい。
前記支持体は、たとえば、前記線状凸部および前記底部の少なくとも一方が多孔性材料からなる。
前記支持体において、前記複数の線状凸部は高さが一定でなくてもよい。
前記支持体は、さらに、前記面に対向するふた材を備える。このふた材の前記面に対応する面は、前記構造体に被された状態で前記構造体の前記線状凸部に当接可能な突状部を備える。
本発明に係る直鎖状核酸分子標本は、上述の支持体と、支持体の前記複数の線状凸部の間に中空状態で架け渡されて固定されているファイバー状態の直鎖状核酸分子とからなる。また、前記直鎖状核酸分子は、さらに、加熱、減圧または浸潤のいずれかによって溶解もしくは脆化可能な高分子可塑性物質で被覆されていてもよい。
前記支持体において、たとえば、前記複数の線状凸部の間の前記底部は、電荷を帯びた材料または人為的に荷電処理した材料からなる電気浸透流もしくは電気泳動流を生成する表面であり、前記線状凸部の間が前記電気浸透流もしくは前記電気泳動流の流路である。直鎖状核酸分子が前記流路で搬送される。
本発明に係る直鎖状核酸分子伸長方法では、ファイバー化可能であるが、ファイバー化されていない直鎖状核酸分子を含む液体を、支持体の面の上に静置する。この支持体は、複数の線状凸部と、前記線状凸部の間の底部とからなる前記面を備え、直鎖状核酸分子と化学反応をしない材料からなる。次に、前記支持体の上の前記直鎖状核酸分子にずり応力を与え、その結果、前記直鎖状核酸分子がファイバー状態になって複数の前記線状凸部の間に架け渡されて固定される。前記ずり応力は、たとえば、前記支持体を前記面に垂直な回転軸のまわりに回転して、回転により生じる遠心力により生じる。
前記直鎖状核酸分子伸長方法において、たとえば、さらに、ファイバー状態の前記直鎖状核酸分子をプローブとハイブリダイズする。
前記直鎖状核酸分子伸長方法において、たとえば、直鎖状核酸分子を前記支持体に固定した後に、前記支持体の前記面と可視化のためのカバーガラスとの間に退色剤を封入して、前記直鎖状核酸分子を可視化する。
前記直鎖状核酸分子伸長方法において、たとえば、前記直鎖状核酸分子が1本鎖DNAまたは複数鎖DNAである。直鎖状核酸分子を含む液体を前記支持体の前記面の上に静置するとき、さらに、可視化剤を加えて前記直鎖状核酸分子を可視化する。
前記直鎖状核酸分子伸長方法において、たとえば、前記支持体として、前記線状凸部の間の底部が硬化後に溶解可能な高分子可塑物質で満たされ、前記高分子可塑物質が硬化されている前記支持体を用いる。
前記直鎖状核酸分子伸長方法において、たとえば、前記支持体はマイクロ流路であり、前記複数の線状凹部は流れ方向に配置され、前記ずり応力は、電気浸透流により生じる。
本発明に係る回路基板は、直鎖状核酸分子と化学反応をしない材料からなる複数の線状凸部と、前記線状凸部の間の底部とからなる面と、前記複数の線状凸部の間に中空状態で架け渡され固定されたファイバー状態の直鎖状核酸分子とを備える。前記回路基板において、たとえば、前記ファイバー状態の直鎖状核酸分子が導電性物質あるいは金属で被覆されている。
【発明の効果】
【0005】
液体の中の直鎖状核酸分子にずり応力(剪断力)が作用して、直鎖状核酸分子は、従来より長く伸長される。線状凸部を備えた支持体を用いるので、圧着されていないファイバー状態の直鎖状核酸分子を簡単につくりだすことができる。
また、現行のFISH技術においてその達成が望まれていた開発課題である、プローブの検出効率の向上や、結合部位の位置関係を明瞭にすることが可能になった。また、この技術は染色体診断や多型解析に適している。遺伝子の光マッピングに有用である。
また、電気電子工学におけるナノワイヤ基板としても、ナノテクノロジーにおけるボトムアップ式組み立て用鋳型としても、応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1は、直鎖状核酸分子の伸長を図式的に説明するための図である。
図2は、同心多角形の支持体の1例の図である。
図3は、網目構造の支持体の1例の図である。
図4は、多孔体からなる支持体の1例の図である。
図5は、多孔体からなる支持体の1例の図である。
図6は、多孔体からなる支持体の1例の図である。
図7は、線分からなる線状凸部を備える支持体の1例の図である。
図8は、線分からなる線状凸部を備える支持体の1例の図である。
図9は、支持体の別の例の図である。
図10は、左側の、同心円状の線状凸部を備えた基板の光顕微鏡写真と、右側の、その基板の上に伸長されたHeLa細胞のDNAの蛍光顕微鏡写真である。
図11は、図10の部分拡大図である。
図12は、EGFR遺伝子標識を用いた第7染色体のFISHについて、左側の、同心円状の線状凸部を備えた基板の光顕微鏡写真と、右側の、その基板の上で伸長されたDNAファイバーへのFISHの蛍光顕微鏡写真である。
図13は、備えた基板の光顕微鏡写真、右側の上下の、その基板の上に伸長されたMYC遺伝子標識を用いたDNAファイバーへのFISHの蛍光顕微鏡写真である。
図14は、セントロメア遺伝子標識が付加されている第7染色体上の蛍光顕微鏡写真である。
図15は、染色体上にあるがん遺伝子のコピー数検出やがん遺伝子の空間的位置の検出を説明するための図である。
図16は、EGFR及びセントロメア遺伝子標識を用いた正常と異常(増幅)の検出例の写真である。
図17は、EGFR及びセントロメア遺伝子標識を用いた懸架染色体ファイバーへの写真である。
図18は、MYC遺伝子標識が付加された懸架染色体の写真である。
図19は、DNAファイバーへのFISHによる転座の検出例の写真である。
図20は、選択的なポリメラーゼ連鎖反応を説明するための図である。
図21は、マイクロ流路の断面図である。
図22は、電気浸透流で伸長されている染色体の図である。
図23は、ナノアーキテクチャの1例の図である。
図24は、直鎖状核酸分子を直鎖状核酸分子懸架支持体から転写し、部分的に提示されたフィルムを得る図である。
図25は、直鎖状核酸分子を直鎖状核酸分子懸架支持体から転写し、直鎖状核酸分子の全部が提示されたフィルムを得る図である。
図26は、線状凸部の頂部に渡り懸架された直鎖状核酸分子の保護および配布を説明するための図である。
図27は、構造物の線状凸部とその間の底部との高低差が著しい場合の直鎖状核酸分子の懸架法を説明する図である。
図28は、ナノワイヤ配線の1例の図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付の図面を参照して発明の実施の形態を説明する。
従来はDNAのファイバー化つまりDNAの伸長自体が困難であった。これについて、本発明者らは、すでに新規な伸長方法を開発している(特願2006-157420号)。この方法では、ファイバー化可能であるが自然状態ではファイバー状態でない直鎖状化合物である直鎖状核酸分子(たとえば染色体)を含む液体をスライドガラスの上に静置し、次に、このスライドガラスをそれに垂直な回転軸のまわりに回転する。回転により生じる遠心力により、直鎖状核酸分子をファイバー状態に伸長する。伸長された直鎖状核酸分子は、ガラス板に固定される。また、別の伸長方法では、直鎖状核酸分子を含む高分子可塑性物質を遠心力により層状にし、その内部で直鎖状核酸分子をファイバー状態に伸長する。そして、高分子可塑性物質の層を固化して、ファイバー状態の直鎖状核酸分子を高分子フィルムの中に埋め込む。これらの方法により、直鎖状核酸分子は高い再現性で容易に伸長できる。従来は0.24mmの長さのDNAファイバーの作製が報告されていたが(ContiおよびBensimonの論文)、この方法では従来例より長く伸長されたDNAファイバーが作製できる。
ファイバーFISH技術は、スライドガラスなどの基板上でDNAを伸長(ファイバー化)し、FISHを行う技術として、ヒト染色体の遺伝子診断や大規模構造多型解析において有用である。上述の伸長方法では、伸長されたDNAファイバーが基板に圧着されるために変形されることがある。この場合、プローブ(たとえばプローブDNA)のシグナルが平面的である。また、基板上の伸長状態のDNAファイバーに対する蛍光・イン・シトゥ・ハイブリダイゼーション法(FISH)において、DNAファイバーをプローブDNAとハイブリダイズ(交雑)する場合、基板への圧着によりファイバー構造が変化し、基板側からはプローブDNAが伸長状態のDNAファイバーにアクセスできないため、プローブの結合能の低下をまねき、FISH効率が下がる。その場合、遺伝子の空間的な位置関係の把握が困難である。
図1は、直鎖状核酸分子(染色体)の伸長の1例を図式的に示す。直鎖状核酸分子を中空状態で支持する支持体である直鎖状核酸分子懸架支持体(以下では単に「支持体」という)10は、複数の線状凸部12とその間の底部14とからなる面を備える。この例では、複数の線状凸部12は同心円状に配置している。伸長に際しては、まず、支持体10の中央に、染色体を含む液体(図示しない)が載せられる。液体に含められる染色体の数は、目的に応じて適当に選択すればよい。そして、支持体10が回転装置18のステージの上に載せられる。次に、ステージをたとえば3000rpmの回転速度で適当な時間(たとえば30秒)回転する。これにより、支持体10の上の液体は回転により生じる遠心力により拡がり、液体中の染色体にずり応力が作用する。これにより染色体16は、複数の線状凸部12に渡ってほぼ直線状に伸長され、凸部12の頂部に圧着される。これにより、支持体の上でファイバー化された染色体16は、線状凸部12の間で、底部14に接触せず、中空に離れて保持される。
「直鎖状核酸分子」とは、ファイバー化可能であるが自然状態ではファイバー状態でない直鎖状化合物であって、たとえば、2本鎖のDNA分子を含む染色体や、1本鎖のDNA分子と標識された相補性分子との交雑化合物を含む。交雑化合物の場合は、交雑処理により、DNAが変性し絡まってしまって、弛緩しにくく伸張しにくい(解かれにくい)ことがある。しかし、交雑処理の前にあらかじめ、たとえば1本鎖DNA分子を先に伸張しておけば、この解かれにくさの欠点は回避される。本発明ではこの欠点を解消できる。すなわち、解かれやすい時期に直鎖状核酸分子をまず伸張しておき、そのあとで交雑処理を実施することができる点で有用である。交雑処理の目的は、たとえば可視化である。よって、直鎖状核酸分子は、好ましくは可視化部位を有する。可視化の例には、たとえば、染色剤の添加とその後の顕微鏡観察、あるいは、放射性同位元素の標識とその後のオートラジオグラフィー、あるいは、蛍光物質の標識とその後のスキャナー読み取りがある。たとえば、染色体(2本鎖DNA)を含む液体を支持体10の上に静置するときに、さらに、可視化剤を加えて可視化する。
支持体10は、複数の線状凸部12と、線状凸部12より低い底部14とからなる面を備えるガラス板である。(なお、支持体10の材料はガラスに限られないが、直鎖状核酸分子と化学結合をしない材料を用いる。)「線状」とは、細長い形状を意味し、凸部12は直鎖状核酸分子を支持可能な適当な幅を持つ。線状凸部12の頂部は好ましくは平らである。図1には、図示を簡単にするために、2つの線状凸部12のみが図式的に描かれているが、実際には底部14の幅と線状凸部12の数は適当に設定される(たとえば、0.1mm幅で20本)。また、染色体を伸長する場合、線状凸部12の高さ(すなわち底部14の深さ)は、染色体のDNA鎖のゴム弾性(自長の120%まで、特殊なタンパク質の共存下では最大170%まで伸長可能)を考慮して、2つの線状凸部12の間に固定されているDNA鎖が延びても、底部14に接触しないように設定する。したがって、凸部12の高さは、底部14の幅の1/3より高く、または底部14の幅の1/2より高くする。1例では、底部の幅=20nm、凸部の高さ=5から10nmとする。直鎖状核酸分子を顕微鏡で観察するため、凸部12の間の深さは、顕微鏡の焦点深度より深いことが望ましい。線状凸部12の間では、ファイバー状態の直鎖状核酸分子は中空にあるため本来のファイバーの形状を保つ。凸部12の幅は狭いことが望ましい。
複数の線状凸部12は、上述の例では同心円状に配置され、その間隔は一定である。支持体10の中央部は平らであり、直鎖状核酸分子を含む液体をその中央部(平面部)に静置する。そして、支持体10を回転装置18のステージに載せ、支持体10の面に垂直な回転軸のまわりに高速で回転させる。回転により、支持体10上の液体に遠心力が作用し、直鎖状核酸分子に対するずり応力が発生して、液体中の直鎖状核酸分子をファイバー状(繊維状)に伸長させる。必要に応じて、回転装置18のステージの周囲に、回転に伴って飛散する物質を遮る障壁が設けられる。これにより、直鎖状核酸分子16は、伸長された状態で複数の線状凸部12の頂部に圧着されて固定され、線状凸部12の間に浮いた状態に維持される。したがって、伸長状態の直鎖状核酸分子(たとえばDNAファイバー)は、線状凸部12を除いて、支持体10から離れた状態であり、線状凸部12の間で中空に浮いていて、支持体10に圧着されていない。この技術により、支持体10に束縛されていない部分を含むDNAファイバーを簡単に作り出すことができる。なお、DNAファイバーに対するFISH技術を用いる場合、線状凸部12の間隔はプローブDNAのハイブリダイズが可能なように設定する。
支持体の構造について、さらに説明する。複数の線状凸部と線状凸部より低い底部との間の高低差(あるいは深度、またはアスペクト比)は、たとえば、支持体の材質の特長(結晶構造など)とそれに高低差を設けるための加工法との組み合わせによって、自在に設定することが可能である。たとえば、ガラス板の表面を液体中で溶解除去することにより掘り下げる加工法(ウェットエッチング)の場合は、得られるアスペクト比は0.5程度である。つまり、底部の幅の1/2程度の高さをもった凸部が製作される。別の加工法では、たとえば、エポキシ系レジストのSU-8を用いて紫外光露光ファブリケーションを行うとアスペクト比15が得られ、あるいは、PMMAレジストと放射光露光の組み合わせではアスペクト比100以上が得られる。つまり作業者は、懸架したい直鎖状核酸分子に関して、希望する中空部分の長さを決め、つぎに直鎖状核酸分子の伸長率(たとえばDNAの場合120%から170%まで)を考慮しながらアスペクト比を設定する。この設定値に相応しい材質と加工法とを選択し組み合わせることで、適切な支持体を製造することができる。そのためにはアスペクト比が1/2より大きい範囲であることが好ましい。
アスペクト比が大きくなればなるほど(複数の凸部の頂部から、複数の凸部の間の底部への深度が増せば増すほど)、直鎖状核酸分子の中空部に関して、底部と接する不具合、あるいは、底部表面や凸部表面に付着した不純物などと混在して可視化される不具合を解消できる。しかしながら、大きいアスペクト比をもつ凸部は、直鎖状核酸分子を伸長しファイバー状にするための工程を阻害する、すなわち、直鎖状核酸分子を含む液体が支持体の面上を広がって展延していくことを遮断する場合が有り得る。この遮断は、粘性と表面張力が低く(展延性が高く)、凸部を乗り越えることができるフロンなどの液体を使用することで解決できる。あるいは、直鎖状核酸分子を含む液体がたとえば水の場合、水が底部に侵入して凸部で堰き止められることを防ぐため、底部上面と凸部側面を疎水化処理(たとえばシリコーン塗布)することにより、水が凸部の頂部を選択的に通過し展延する。このように、支持体の凸部と底部のアスペクト比の上限は、直鎖状核酸分子を含む液体の広がりを阻害しないように設けられる。
支持体10に設ける線状凸部12については、種々の形状を採用できる。たとえば、支持体10における線状凸部12と底部14の構造は同心円に限らない。一般的には、複数の線状凸部12の頂部で、伸長された直鎖状核酸分子を支持可能であり、それらの間で中空に保持できればよい。たとえば、複数の線状凸部12は、同心楕円であってもよい。この場合、線状凸部12の間隔が一定の範囲内で変る。
線状凸部12の形状は円に限定する必要はなく、三角など、直鎖状核酸分子を含む液体を取り囲む構造をしていればよい。従って、一般に同心多角形であってもよい。図2に上面図と斜視図とを示す例では、線状凸部12は3角形であり、複数の線状凸部12は同心三角形として配置される。
線状凸部は、線分同士が組み合わされた形状であってもよい。図3は網目状に底部14を設けた構造の1例を示す。線状凸部12’は、左側の上面図と中央の斜視図に示すように、複数の平行な直立板が他の複数の平行な直立板と互いに直交するように形成される。この場合も、線状凸部12”の間隔がある範囲内で変る。この範囲は、伸長固定の対象となる直鎖状高分子の長さ、および、作業者が希望する直鎖状高分子上の固定点の数によって自在に決定される。図の右側に示すように、1つの仕切りの中の底部14’に位置された染色体は、遠心力により伸長され、2つの線状凸部12’の間で中空に支持される。
また、線状凸部群の素材は、ガラス板などの平滑充填(非孔質)構造体に限定されない。たとえば図4に示すように、線状凸部10は、3次元多孔質構造体(シリカゲルなど)で構成してもよい。3次元多孔質構造体は、液体が通過可能な多孔性材料からなる。
また、図5に示すように、線状凸部12の間の底部14を、あるいは、図6に示すように底部14と線状凸部12の両者を、3次元多孔質構造体で構成しても良い。このとき、一例としてFISHを実施する場合、プローブや可視化剤などは3次元多孔質の網目を自在に通過することで、支持体全体に対して上下左右いかなる位置からも注入と排出が可能となる。
さらに、図7や図8に示すように、線状凸部12’’として、円や三角が分断された線分からなる形状を配置してもよい。これらの場合、複数の線状凸部12’’の間の複数の底部が、互いに通じているので、このような構造は流路として使用できる。このとき外部のポンプを底部に接続することで(図示しない)、たとえば、線状凸部の間の中空部に把持されたDNAファイバーに対して、プローブDNAや可視化剤などを搬送して作用させることが可能である。このことによって、一般的な先染め式のファイバーFISH(染色体中の目的の遺伝子部分をプローブDNAなどであらかじめ標識しておいてから、その染色体を伸長し固定する技術)だけでなく、後染め形式のファイバーFISH(最初に染色体を伸長し固定してから、その後でファイバー上の目的の遺伝子部分を標識する技術)が実現される。
また、線状凸部の細長い形状は、高さ(底部との高低差)が等しい多角柱や円柱に限らず、高さが変化した多角柱や円筒(たとえば図9)であってもよい。この場合、線状凸部12’’’の高さの変化に関して、下限値は、支持体10の上で中空に固定された直鎖状高分子16(たとえば染色体ファイバー)が底部に接触しないだけの高さである。また、線状凸部の高さの変化の上限値は、支持体10に供される直鎖状高分子を含む溶液が、線状凸部を乗り越えて支持体10の表面に拡がることを阻害しないだけの高さである。支持体10がステージ上で回転されると、図の右側に図式的に示すように、染色体は遠心力により伸長され、2つの線状凸部12’’’の間で中空に支持される。
支持体10の上述の各種微細構造は周知のフォトリソグラフィ技術を利用して作製できるが、好ましくは、特開平2005-230647号公報に記載されている方法が用いられる。後者の製造方法では、アルミノシリケートなどのガラス板の表面に、応力影響残留部を形成し、次に、ウェットエッチングを行うと、応力影響残留部とそれ以外の部分とのエッチ速度の違いにより、微細構造が形成される。具体的には、本実施形態に用いるガラス板の製造において、応力影響残留部を、支持体10の線状凸部12を形成するべき部分に形成する。応力影響残留部は、たとえば鋭利な先端を有する圧子または所望の押圧部(いわゆる金型)を有する圧子で押圧することにより形成できる。表面保護被膜剤を塗布してウェットエッチング用のマスクを形成してもよい。次に、ウェットエッチングを行う。通常のマスクを施した場合には無方向的にエッチされるが、応力印加した部位を含んだ状態の場合には方向性をもってエッチされる。これにより、エッチング速度の違いのため、線状凸部12と底部14からなる微細構造が形成される。
直鎖状核酸分子が蛍光プローブによって可視化される染色体の場合、直鎖状核酸分子懸架支持体は、好ましくは、つぎの性質を有する。それは、プローブが蛍光を発するために要する励起光(たとえば紫外光)によって、支持体が光を発しないこと(自家蛍光が少ないこと)である。また、プローブが染色体と効率よく結合するために自在に拡散すること(複数の凸部や複数の凸部の間の底部が物質透過性に富むこと)である。したがって、ガラス多孔質体であることが望ましいが、これには限定されない。さらに好ましくは、支持体の凸部が染色体を固定し易いような親和性の高い物質(ポリカチオンなど)で、逆に底部は、染色体が接触しないような親和性の低い物質(ポリアニオンなど)で、表面修飾される。
ここで、直鎖状核酸分子のファイバー化すなわち伸長についてさらに説明すると、これは液体中のずり応力(剪断力)によるものと考えられる。液体を載置しているステージが回転されるとき、支持体上で、直鎖状核酸分子を含む液体も回転され、回転による遠心力が液体に対して支持体の平行な方向に作用する。遠心力は回転中心からの距離および回転速度の自乗に比例する。回転につれて液体は層状に薄くなっていく。流体力学において知られているように、液体には粘性があるため、流体の流れ速度の大きさが支持体の面に直交する方向に変化する。流れ速度は、支持体から離れるにつれしだいに大きくなり、十分離れると一定になる。この速度の差をなくそうとして、粘性に応じて、ずり応力と呼ばれる力が流れの方向に生ずる。ずり応力は、支持体の表面では0であるが、その表面から離れるにつれ大きくなり、表面から十分離れると一定になる。凝集状態にある1つの直鎖状核酸分子についてみると、その直鎖状核酸分子に作用するずり応力は支持体に近い側と遠い側で大きさが異なり、剪断力として作用する。このため、回転に伴い、自然状態では折りたたまれていた直鎖状核酸分子がほぐされていき、遠心力の方向にファイバー状に伸長される。
直鎖状核酸分子の位置は、回転の前に回転中心の近傍にあることが望ましい。ずり応力は回転中心の近くでは小さく、回転中心から離れるにつれ大きくなる。伸長の際に、直鎖状核酸分子は、その一端は回転中心の近傍にあって小さなずり応力を受けるが、他端は回転中心から離れていき、より大きなずり応力を受ける。直鎖状核酸分子の他端の位置が回転中心から離れているほど、回転による遠心力が大きいため、回転中心から離れていきやすい。これにより、直鎖状核酸分子が伸長される。このように伸長された直鎖状核酸分子は、あたかも回転中心近傍を原点に、そして自身をベクトルに見立てた極座標のように提示されるため、遺伝子座のマッピングにも有効である。なお、直鎖状核酸分子は、回転の前に、必ずしもその一部が支持体10に固定されていなくてもよい。
直鎖状核酸分子の伸長は、回転速度や回転時間にはあまり依存しない。いいかえれば、回転条件(回転速度、回転時間など)は広い範囲内で設定でき、回転の制御は容易である。したがって、直鎖状核酸分子の伸長は、高い再現性で実行できる。回転条件は広い範囲内に設定できるので、回転装置18として、半導体製造に用いられるスピンコーターが使用できるほか、所望の回転速度で回転させるための簡易な回転装置も使用できる。すなわち、直鎖状核酸分子の伸長は、汎用の回転装置を使用して実現できる。回転により生じるずり応力は比較的穏やかであり、直鎖状核酸分子は伸長の際に断片化されにくい。
実際には、直鎖状核酸分子は、エタノールなどの溶媒の中に界面活性剤などを含む弛緩液とともに含まれる。界面活性剤などは、折りたたまれた直鎖状核酸分子を弛緩させやすくするものであり、弛緩液は、直鎖状核酸分子を弛緩させるために用いられる液体である。また、直鎖状核酸分子を可視化する場合には、液体に、さらに直鎖状核酸分子を可視化するための可視化剤たとえば染色剤が含められる。染色剤により染色された直鎖状核酸分子は、たとえば顕微鏡で可視化される。可視化の他の例には、たとえば、放射性同位元素の標識とその後のオートラジオグラフィー、あるいは、蛍光物質の標識とその後のスキャナー読み取りがある。なお、イン・シトゥ・ハイブリダイゼーション(ISH)法では、相補性化合物の側に可視化のための標識が付加されているので、染色剤は使用しない。標識が放射性同位元素に由来する場合は、直鎖状核酸分子はオートラジオグラフィーで可視化される。直鎖状核酸分子がFISH法により蛍光可視化された染色体の場合、遺伝子診断やマッピングが可能である。また、固定された染色体は、DNA合成酵素連鎖反応法(PCR)のみならず、制限、転写、複製などの酵素反応の基質としても、また、タンパク質のDNA上における結合位置の分布を探索するための目印としても、汎用される。
直鎖状核酸分子は、エタノールなどの溶媒の中に弛緩液、染色剤などとともに含まれる。支持体10上の液体が回転装置18により回転されると、液体中の直鎖状核酸分子が、ファイバー化された状態で支持体10に固定され、他の粘性が小さい成分や揮発性が高い成分は遠心力により支持体10の外に飛散する。これにより顕微鏡観察用のプレパラートが得られる。
なお、上述の方法では、支持体の上に染色体を固定していた。しかし、染色体は必ずしも固定しなくても支持体を回転することにより伸長できる。伸長後に風乾することにより、伸長された直鎖状核酸分子は支持体の線状凸部に固定される。
次に、同心円状の複数の線状凸部を備えるガラス板を支持体10として用いたDNAファイバーの伸長の手順の1例について説明する。
(1)-20℃で70%エタノール中に保存されていたたとえば1μlの染色体サンプル(カルノア固定済み)をガラス板(たとえば24mm×24mmの四角形)に滴下する。
(2)次に、風乾して、ガラス板上に染色体を物理的に固定する。
(3)次に、染色体サンプル上に、界面活性剤である0.5%SDS(n-ドデシル硫酸ナトリウム)、100mMのTris-HCL緩衝液(pH8.0)および50mMのEDTA(エチレンジアミン四酢酸)からなる弛緩液をサンプル上に20μl滴下して、染色体を弛緩させ、静置する。このように、ガラス板の回転の前に、染色体を弛緩させる弛緩液を滴下して、染色体を弛緩させる
(4)次に、ガラス板を回転装置(たとえばスピンコーター)のステージに載せ、ガラス板を回転させて、染色体をガラス板上で伸長させる。回転速度と回転時間を含む回転条件(たとえば、5000rpm、30秒)は適当に設定すればよい。たとえば、3000rpmと6000rpmの間の回転速度では、同様な伸長が行われ、また、5秒と30秒の間の回転時間では、同様な伸長が行われている。ここで、液体の中の粘性の小さい成分はガラス板から飛散して失われる。
(5)20nMの蛍光色素Yo-Pro1(DNA染色液)で5分間処理して、DNAを染色する。
(6)さらに、退色を防止するため、このガラス板ともう1枚のガラス板との間に退色防止剤を封入する。
(7)こうして得られたプレパラートはたとえば蛍光顕微鏡(B励起光)で観察される。
図10は、上述の手順を用いた伸長の1例を示す。図10において、左側は、同心円状の線状凸部12を備えたガラス板10の光顕微鏡写真であり、右側は、そのガラス板の上に伸長されたHeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来の細胞)のDNAの蛍光顕微鏡写真(B励起光)である。これは、通常の凝集状態の多数の染色体(蛍光色素Yo-Proで着色された状態)を弛緩液で弛緩し、スピンコーターで3000rpmで回転させた後の状態である。また、図11は、図10に示された写真の拡大図であり、その左側は、同心円状の線状凸部を備えたガラス板の拡大された光顕微鏡写真を示し、右側は、ガラス板の上に伸長されたDNAファイバーの拡大された蛍光顕微鏡写真(B励起光)である。蛍光顕微鏡写真において、線状凸部の両端が平行に明るく見えているが、これは蛍光観察に一般的に見られる2次光(外部からの迷光や両端での乱反射光)によるものである。その他の明るい輝度の線状部は、DNAファイバーの可視化プローブである。多数の染色体がすべてファイバー状に伸長されていることがわかる。したがって、この方法は、遺伝子の光マッピング(可視化プローブ分子群の高空間分解能検出)に有効である。
線状凸部の間に中空状態で架け渡されて固定されているファイバー状態の直鎖状核酸分子は、それ自体、直鎖状核酸分子標本として提供できるが、さらに、線状凸部12の間に架け渡されているDNAファイバーに対して、ISHにより、1本鎖のDNA分子とそれと相補性のある標識分子との交雑化合物(複合体)が得られる。たとえば、FISH法では、蛍光標識付きの相補性分子との交雑化合物が得られる。このとき、DNAは基板表面からの立体障害を受けておらず、また、表面圧着にともなう変形もなく、さらには2重らせんから一本鎖DNAへの変性が阻害されないので、プローブDNAが結合しやすいという効果がある。したがって、プローブDNAとの検出効率が向上し、結合部位の位置関係が明瞭になる。この技術は染色体解析や多型解析に適している。
次に、同心円状の線状凸部を備える支持体を用いたファイバーDNAのFISHの手順の1例について説明する。(1)から(4)は上述の手順と同じである。
(1)-20℃で70%エタノール中に保存されていたたとえば1μlの染色体サンプル(カルノア固定済み)を支持体(たとえば24mm×24mmの四角形ガラス板)に滴下する。
(2)次に、風乾して、ガラス板上に染色体を物理的に固定する。
(3)次に、染色体サンプル上に、界面活性剤である0.5%SDS(n-ドデシル硫酸ナトリウム)、100mMのTris-HCL緩衝液(pH8.0)および50mMのEDTA(エチレンジアミン四酢酸)からなる弛緩液をサンプル上に20μl滴下して、染色体を弛緩させ、静置する。
(4)次に、ガラス板を回転装置(たとえばスピンコーター)のステージに載せ、ガラス板を回転させて、染色体をガラス板上で伸長させる。回転速度と回転時間を含む回転条件(たとえば、5000rpm、30秒)は適当に設定すればよい。たとえば、3000rpmと6000rpmの間の回転速度では、同様な伸長が行われ、また、5秒と30秒の間の回転時間では、同様な伸長が行われる。ここで、液体の中の粘性の小さい成分はガラス板から飛散して失われる。
(5)次に、ガラス板を3.7%のホルムアルデヒドに浸して、DNAをガラス板の上に固定する。
(6)次に、1×SSCで洗浄する(5分間×2)
(7)次に、20μg/mlのProteinase Kで10分間処理して、余分なタンパク質を除去する。
(8)そして、1×SSCで洗浄する(5分間×2)。
(9)サンプルの上にプローブミックス15μlを滴下する。そして、カバーガラスを載せる。
(10)そして、85℃で5分間処理する。
(11)次に、1本鎖のプローブDNAと45℃で6時間ハイブリダイズする。FISH法では、クローン化された遺伝子やDNA断片を標識化合物(可視化用プローブなど)で標識後、スライドグラス上の染色体DNAとハイブリダイズする。
(12)次に、1×SSCで洗浄して(1分間)、カバーガラスを外す。
(13)そして、1×SSC(60℃)で洗浄する(5分間)。
(14)次に、DNA染色剤でDNAを染色する(5分間)。
(15)さらに、退色を防止するため、このガラス板ともう1枚のガラス板との間に退色防止剤を封入する。こうして得られたプレパラートはたとえば蛍光顕微鏡(G励起光)で観察される。分子雑種形成部位は、蛍光シグナルとして直接染色体上に検出される。
次に、EGFR遺伝子標識を用いた第7染色体についてのFISHの1例について説明する。FISHにより、第7染色体にEGFR遺伝子標識が付加される。図12において、左側は、同心円状の線状凸部を備えた支持体の光顕微鏡写真を示し、右側は、その支持体の上に伸長されたDNAファイバーへのFISHの結果の2つの蛍光顕微鏡写真(B励起光)を示す。なお、バーは5μmの長さ(1.5万塩基対)を示す。凸部12の幅は約10μmであり、底部14の幅は約90μmである。右側の上側の蛍光顕微鏡写真は、平面部(すなわち、左側の破線の円で示された線状凸部を含まない部分)を示す。なお、平面部のFISH像は、中空部(すなわち、複数の線状凸部の間、あるいは、底部の上空部)のFISH像よりも、かなり高い感度で撮影されている。すなわち、撮像カメラの輝度設定とコントラスト設定がより増強された条件の下で可視化されている。なぜなら、前述の通り、平面部では蛍光標識プローブのハイブリダイゼーションが当然阻害されるため、観察当初から中空部よりもかなり暗いためである。底部(平面部)には、明るい線状部分の他に、多くの点状部が存在しているが、これは非特異吸着したプローブを示している。このように、平面部は、目的の標識と不要の標識の異なる2つ、すなわち、DNAへ特異的にハイブリダイズした解析上意味のある標識と直鎖状核酸分子懸架支持体表面に非特異吸着しただけの無意味な標識とが混在し、判別が困難である。このため、視野が汚れて見える。一方、右側の下側の蛍光顕微鏡写真は、底部(溝)の上空部すなわち線状凸部を含む中空領域(すなわち、左側の破線の円で示された部分)を示す。底部の上空では、非特異吸着プローブは、はるか下方に位置するため視野に入らない。2つの線状凸部の間に架け渡されたDNAのみに焦点が合っているので、標識のみがきれいに見える。いいかえれば、非特異的吸着と特異的吸着が区別できる。
次に、MYC遺伝子標識を用いた第8染色体についてのFISHの1例について説明する。FISHにより、第8染色体にMYC遺伝子標識が付加される。図13は、左側に、同心円状の線状凸部を備えた支持体の光顕微鏡写真を示し、右側に、その支持体の上に伸長されたDNAファイバーへのFISHの2つの蛍光顕微鏡写真(G励起光)を上下に示す。凸部12の幅は約10μmであり、底部14の幅は約90μmである。なお、バーは5μmの長さを示す。右側の上側の蛍光顕微鏡写真は、平面部(すなわち、左側の破線の円で示された線状凸部を含まない部分)を示す。平板部分に接着されているDNAファイバーのシグナルはつぶれていて、空間的位置関係が不明瞭である。染色が不十分であり、輝点は見えない。これに対し、右側の下側の蛍光顕微鏡写真は、中空部(底部の上方または溝上空部)すなわち線状凸部を含む領域(すなわち、左側の破線の円で示された部分)を示す。線状凸部の間に懸架しているDNAファイバーのシグナルは、鮮明に染色され、輝点分布が明瞭である。このため、立体的構造および空間的位置関係が明瞭である。
次に、セントロメア標識を用いた第7染色体についてのFISHの1例を説明する。FISHにより、第7染色体にセントロメア遺伝子標識が付加される。図14の上側の蛍光顕微鏡写真では、2つの線状凸部の間にファイバー化されたDNAとセントロメア標識が可視化されている。一方、図14の下側の蛍光顕微鏡写真では、右側の線状凸部の左右に中空に架け渡されたファイバーと、平面部に接触しているファイバーを示す。支持体の平面部分(右側)のプローブ標識(矢印で示す)よりも、中空に保持されている部分(左側)の標識(やじり印で示す)の輝度の方が明るく、明瞭である。このように、セントロメア標識における輝度の差異が明らかである。なお、バーは5μmの長さを示す。
上述のDNAファイバーFISH可視化技術を用いると、図15に図式的に示すように、がん遺伝子の距離を求めることにより、がん遺伝子の空間的位置が把握できる。また、染色体上にあるがん遺伝子のコピー数が検出できる。したがって、上述のスライドガラスは、臨床向けの遺伝子検出キットとして提供できる。また、基礎生物学研究(たとえば人類遺伝学研究における染色体の多型解析)における染色体の検鏡用のスライドガラスとして利用できる。
また、ファイバー状態のDNAに対してDNA合成酵素連鎖反応法(PCR)が容易に適用できる。FISH法における不具合(低いハイブリダイゼーション効率)と同一の原因により、PCRにおいてもこれまで、表面に圧着したDNAファイバーに酵素(ポリメラーゼ)が結合する効率と結合後にDNAファイバーにそってDNAを合成する効率は非常に低かった。しかしながら、これらの不具合は、支持体を用いることで解決される。支持体で中空に保持された染色体にPCR用の試薬を加えてから、その支持体に対して所定の加温と冷却を繰り返し行うことにより、PCR(この場合、試験管PCRではなく、スライドPCR)が可能である。このとき染色体は可視化されている必要はない。
さらに、ファイバーFISHの例について説明する。図16は、正常と異常(この場合増幅)の検出の1例を示す。ここで、赤のシグナルはEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子を示し、緑は、第7染色体のセントロメアを示す。左側の写真は、EGFR遺伝子で識別された染色体を示し、右側の写真は、EGFR遺伝子および第7染色体のセントロメアで識別された染色体を示す。どちらの写真も、鮮明に標識されており、左側ではEGFR遺伝子が増幅が認められ、異常であることが判る。
次に、懸架染色体ファイバーのFISHでも染色体の同定は可能であることを示す。赤のシグナルはEGFR(上皮成長因子受容体)遺伝子を示し、緑は、第7染色体のセントロメアを示す。図17の左側の写真では、Hela細胞のM期染色体を、伸長されていない状態で示す。染色体は伸長されていないので、1箇所に赤と緑がまじって存在している。右側の写真では、懸架された同じ染色体ファイバにおいて、EGFR遺伝子を示す赤のシグナルと、第7染色体のセントロメアを標識する緑のシグナルとが局在する。したがって、この例では、懸架された染色体ファイバーはファイバーFISH法で第7染色体と同定された。
次に、上述の支持体を用いて懸架された染色体のFISHが、従来技術に比べてハイブリダイゼーション効率の上昇および非特異吸着(ノイズ)の軽減という優位性を有することを示す。図18は、懸架染色体がMYCで標識された例を示す。図の左側の写真は、支持体凸部間の底の上空に懸架されハイブリダイズされた染色体を示し、右側は、比較例として、平坦部でハイブリダイズされた染色体を示す。左側の例では、比較例(右側)と比較すると、懸架部位の染色体ファイバーがプローブ(MYC)によって特に標識されている(輝度がより高い)。したがって、ハイブリダイゼーション効率が高くなったことが分かる。また、図12と図13により説明したのと同様に、非特異吸着(ノイズ)が軽減され、ノイズ(非特異点)と特異的シグナルの判別もつきやすいことがわかる。
図19は、FISHにより第8染色体にMYC遺伝子標識が付加されるとき、染色体転座が判別された例を示す。この例では、図の下側にプローブの標識部位を示すが、MYCの転座時の切断部位の上流側を緑のプローブで標識し、下流側を赤のプローブで標識している。ここで、懸架されたファイバーFISHについて観察したが、上側の写真に正常な染色体の例を示す。この例では、1つの染色体に赤の標識と緑の標識がともに観察され、正常な染色体であることがわかる。これに対し、下側の写真では、赤で標識された染色体には、緑で標識された部分が欠けており、別の染色体に、緑で標識された部分が結合している。この例では、染色体の転座t(8;14)(MYC;IgH)が判別できた。
さらに、図20に示すようなスライドガラス(支持体10)の上にふた20を被せる工夫を施すことにより、PCR法で増幅されたターゲット産物(目的増幅DNA分子)を、これまで以上に、選択的かつ高い精製度で得ることができる。従来のPCR法では、目的部位由来の目的増幅DNA分子とそれ以外の非特異的な増幅DNA分子との夾雑が不可避であった(図20の(a))。つまり一般的な試験管内やスライド上でのPCRでは高い純度は期待できないが、たとえば図20の(b)と(c)に示すような構造体では、純度の向上が可能である。図20の(b)に示すようなふたは、スライドガラスの線状凸部12に対応する位置に線状凸部22を備える。このため、スライドガラスにふた22を被せると、スライドガラスとふた22で構成される複数の空間(小部屋)が生じ、従来のスライドPCRでは得られなかったDNAの区画化が実現する。そこで、小部屋ごとにPCR試薬が流入され、線状凸部12の間で中空に保持されているDNAにポリメラーゼがアクセスする。したがって、ポリメラーゼは効率よくDNAを合成し増幅できるだけでなく、増幅されたDNA分子は各小部屋内に分画され、混合されることがない。目的部位を含む小部屋からのみ選択的に溶液を回収できるため、増幅DNA分子のみを取得することができる(図20の(c))。
また、電気浸透流を用いて直鎖状核酸分子を運搬できることが知られている。電気浸透流について説明すると、これは、固体/液体界面に生じる電気二重層内のイオンが、外部から印加された電界により移動することにより発生する。マイクロ流路の底部を、電荷を帯びた材料または人為的に荷電処理した材料(たとえばガラス基板、ナフィオン膜またはプラズマアッシング処理シリコン)で構成することにより電気浸透流を発生することは知られている。溶液の下側にあるガラス基板の表面を負に帯電しておくと、これに溶液中の陽イオンが引き寄せられて、固体/液体界面に電気二重層が生じる。いま、流路の両端に設けた1対の電極(たとえば白金箔)の間に、たとえば直流定電圧電源装置により直流電圧を印加すると、電気二重層内の陽イオンが電場により負極側へ移動して、電気浸透流を生じる。
ここで、図21に示すように、複数の線状凸部12”の間の複数の底部14’同士が通ずるような構造を設ける。底部14’は、たとえば、負の電荷に富むように処理されている。線状凸部などの他の部分は絶縁体である。まず、スピンコーターなどを用いて線状凸部12”において染色体ファイバー16を懸架してから、あらかじめ底部14’に設けられた電極対に直流定電圧電源装置を接続する(図21の(a))。次に、電極に定電圧を印加して一様な方向に流れる電気浸透流を発生させる。これにより、図22に図式的に示すように、染色体ファイバー16が線状凸部12”の上に固定される。ここで、たとえばフェムト秒レーザなどで染色体ファイバー16を照射することで(図示しない)、ファイバー上の目的のDNA部分16’の両側隣接部を選択的に焼き切る(図21の(b))。切断された目的DNA部分16’は電気浸透流にそって搬送されて、たとえば負極側で回収される(図21の(c))。このことにより、外部ポンプを必要としない、かつ、試料の量と質の損失が少ない染色体の分画が可能となり、遺伝子診断や染色体構造解析のための統合型の微小化学分析システム(一体型のバイオ電気機械システム)が実現する。なお、図7と図8に示す構造を用いても同様に微小化学分析システムを構成できる。
線状凸部12の頂部に架け渡されて伸長された直鎖状核酸分子16が、外来分子に対して相補性を有する場合は、ボトムアップ型のナノアーキテクチャの鋳型として応用可能である。たとえば塩基配列が既知のDNAである。基板上に、線状凸部12とその間の底部14を含む表面構造が作製される。底部の上空(凸部の頂き間)で、1本鎖DNA16を伸長固定する(図23の(b))。あるいは二重らせんDNAを伸長固定してから、2分子の1本鎖DNAのうちの1分子のみを分解する。この1本鎖化には、たとえば、リン酸エステル結合の加水分解を触媒することにより二重らせんDNAの3’水酸基側末端から5’モノヌクレオチドを遊離させる酵素(Exonuclease IIIなど)を用いることにより可能である。得られた一本鎖DNAファイバー16に対して、このDNAが露出している塩基の配列に相補的な配列をもつプローブを用意する(図23の(c))。このプローブには、あらかじめ、作業者が組み立てたいナノ部材(たとえば、機能の異なる複数のコロイド粒子やマルチサブユニット型タンパク質の各サブユニットなど)を、たとえばポリペプチドやオリゴヌクレオチドなどの連結剤で固定しておく。各ナノ部材は、プローブの配列にしたがって一本鎖DNAファイバー上に整列し、吊り下がる(図23の(d))。隣接したナノ部材同士は、それぞれの化学性質(たとえば抗原抗体親和やラジカル重合など)を介して連結し合う(図23の(d))。その結果、ナノ部材群は、作業者がデザインした順番どおりに、一本鎖DNAファイバー16上で組み立てられる。組上がったナノ部材の集合体30は、連結剤を切除すること(たとえば、アミノ酸分解酵素や核酸分解酵素の添加)により一本鎖DNAファイバー16から切り離され(図23の(e))、たとえば電気浸透流によって搬送され回収される(図21)。
図24に示すように、たとえば懸架されたDNAファイバー16の全部もしくは一部を転写して、保存や頒布をすることができる。たとえばSCR701などの光硬化樹脂32を支持体10の上面全体に重層してから(図24の(a))、UV光を照射することによりフィルム状樹脂32’に硬化する。このフィルムを剥がすことでDNAファイバーは容易に線状凸部12から、フィルター表面へと転写される(図24の(b))。このとき、DNAファイバー分子の全長の内で、線状凸部12と接していた部分のみがフィルム表面に提示される(図24の(c))。
また、図25に示す例では、2つの異なる硬化樹脂を使い分ける。(a)に示すように硬化後に溶解可能な高分子可塑性物質である第1の硬化樹脂32aで底部を充填・硬化し、次に、第2の硬化樹脂32bをDNAファイバーの上で硬化させる。第1の硬化樹脂32aを溶解した後に、第2の硬化樹脂32bを直鎖状核酸分子懸架支持体から取り外す。これにより(b)に示すように、DNAファイバー16の分子全長がフィルム表面に露出した状態を獲得し、標本として提供できる。また、支持体10の上面の一部にのみ樹脂を重層してフィルム化すれば、樹脂と接した箇所のDNAファイバーだけが写し取られ、重層されなかった部分のDNAファイバーは支持体10の上面に選択的に残すことが可能である。
たとえば懸架されたDNAファイバーは、線状凸部とその間の底部から中空に離れて懸架されているが故に不安定であり、たとえば輸送中の過度の外力による切断を受けたり、外来の夾雑物による汚染や改変を受けたりする可能性がある。そこで、図26に示すように、DNAファイバー16を懸架した状態で複数の線状凸部12の間の底部14に向けて、硬化後に溶解可能な塑性流動性をもつ高分子可塑物質34(たとえばアガロースなど)で満たすことで包埋保護することができる。このような力学的に安定で化学的に不活性な状態をDNAファイバーに付与することにより、保管・配布が可能になり、必要に応じて配布先において高分子可塑物質を溶解する(たとえばアガロースを用いた場合、加温によるアガロース融解やβアガラーゼ酵素の添加によるアガロース分解)ことによって、線状凸部12の頂部に架け渡されて伸長された状態のままの直鎖状核酸分子16を得ることができる。
図27に示すように、複数の線状凸部12とその間の底部14との高低差(アスペクト比)が著しく大きい場合、伸長時に直鎖状核酸分子を含む溶液が線状凸部12に遮られてしまい、支持体の面上に展開されない恐れがある。このとき直鎖状核酸分子は伸長することなく、また、懸架されることもない。この問題は、あらかじめ、硬化後に溶解可能な塑性流動性をもつ高分子可塑物質30(たとえばエポキシ樹脂や氷)で満たし(a)、凹凸の少ない(伸長に適した高低差を有する)板状の面を作り出すことで解決可能である。前述板状の面上で直鎖状核酸分子を伸長させ(b)、線状凸部の間に懸架した状態(c)で前述高分子可塑剤を溶解することにより線状凸部12に懸架され中空に離れた状態で保持された直鎖状核酸分子16(d)を得ることができる。
また、図28の例に示すように、線状凸部12’の頂部に架け渡されて伸長された直鎖状核酸分子16は、電気電子工学におけるナノワイヤ基板における配線としても応用可能である。基板上に、線状凸部とその間の底部を含む表面構造10が作製される。ここで、たとえばアルミを蒸着するなどして凸部の頂部にのみ薄膜電極40を設け、さらに、たとえば、底部をまたいで伸長固定したDNA16(図28の(b))に金属コロイドの被覆42(図28の(c))を施せば、直流回路と交流回路いずれにおいてもナノワイヤ配線として使用できる。ナノワイヤ配線とは、1分子幅程度の導電性高分子の配線をいう。なお、図28では直流回路のみが1例として図示されている。金属コロイドの被覆をせずに、金属コロイドの被覆のないDNA部分を、たとえば抵抗器として使用することも可能である。直鎖状核酸分子による配線は、線状凸部どうしの間に限定されず、凸部と底部の間に形成することが可能であり(図28の(a))、このときは立体的な回路が構築される。また、DNA自身が導電体か絶縁体かの議論は実は未決着であり、この賛否を決定するための電気伝導度測定用機器として応用される。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図15】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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