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明細書 :B細胞におけるCD22機能を抑制することから成る免疫応答の促進方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5243269号 (P5243269)
登録日 平成25年4月12日(2013.4.12)
発行日 平成25年7月24日(2013.7.24)
発明の名称または考案の名称 B細胞におけるCD22機能を抑制することから成る免疫応答の促進方法
国際特許分類 A61K  48/00        (2006.01)
A61P  37/04        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
FI A61K 48/00
A61P 37/04
C12Q 1/02
C12N 15/00 A
C12N 15/00 G
請求項の数または発明の数 18
全頁数 16
出願番号 特願2008-551076 (P2008-551076)
出願日 平成19年12月21日(2007.12.21)
国際出願番号 PCT/JP2007/074634
国際公開番号 WO2008/078673
国際公開日 平成20年7月3日(2008.7.3)
優先権出願番号 2006349458
優先日 平成18年12月26日(2006.12.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年11月20日(2009.11.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】鍔田 武志
【氏名】小野寺 大志
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査官 【審査官】中尾 忍
参考文献・文献 O'Keefe,T.L. et al.,Hyperresponsive B Cells in CD22-Deficient Mice,SCIENCE,1996年11月 1日,Vol.274,No.5288,P.798-801
Wakabayashi,C. et al.,A Distinct Signaling Pathway Used by the IgG-Containing B Cell Antigen Receptor,SCIENCE,2002年12月20日,Vol.298,No.5602,P.2392-2395
鍔田武志,"膜型レクチン分子CD22が鍵を握る免疫グロブリンクラス特異的B細胞抗原受容体シグナル",細胞工学,日本,2003年 1月22日,Vol.22,No.2,P.176-177
鍔田武志,TOPICS "免疫グロブリンクラス特異的なBリンパ球活性化制御機構 -ワクチンによる感染防御を支える分子機構-",炎症と免疫,日本,2005年 7月,Vol.13,No.4,P.467-471
調査した分野 A61K 48/00
A61K 45/00
A61K 39/395
C12P 21/08

JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
人体以外におけるか、又は、インビトロにおける、IgM及びIgD陽性のナイーブB細胞におけるCD22機能を抑制することから成る免疫応答初期における免疫応答の促進方法であって、以下に記載のいずれかの方法又は手段
(1)遺伝子ターゲッティングによるCD22遺伝子のノックアウト;
(2)CD22遺伝子に特異的なRNA干渉(RNAi)による遺伝子ノックダウン;
(3)CD22遺伝子に特異的なアンチセンスRNA;及び、
(4)CD22遺伝子に特異的なリボザイム、
によってCD22機能を抑制する、前記方法
【請求項2】
免疫応答の促進が免疫応答初期におけるB細胞の増殖、分裂及び/又は生存の亢進を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
B細胞がIgG1+B細胞IgM+B細胞及び胚中心B細胞を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
免疫応答の促進がB細胞のクラススイッチ及び/又は分化の早期化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
IgG1+陽性細胞へのクラススイッチであり、又は、抗体産生細胞数及び胚中心B細胞への分化である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
免疫応答初期が抗原による免疫後3~5日である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
免疫応答の促進が抗体産生細胞数及び産生抗体量の増大及び/又は早期化を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
産生が増大及び又は早期化される抗体がIgG及び/又はIgMである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
CD22機能の抑制がCD22遺伝子の欠損又は変異による機能障害によるものである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
CD22機能の抑制がCD22遺伝子の発現の抑制によるものである、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
CD22遺伝子の発現の抑制が転写レベルで行われる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
CD22遺伝子に特異的な siRNAによる遺伝子ノックダウンを用いる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
siRNAがCD22遺伝子の塩基配列又はその一部の連続する塩基配列を含む21~23個の塩基から成るオリゴヌクレオチド及びその相補的オリゴヌクレオチドから成る二本鎖RNAである、請求項12記載の方法:
【請求項14】
B細胞及び/又はCD22若しくはCD22遺伝子が哺乳動物由来である、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
B細胞及び/又はCD22若しくはCD22遺伝子がマウス由来である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
B細胞がT細胞依存性抗原に反応して活性化され抗体産生細胞に分化するような能力を潜在的に有する、請求項1ないし15のいずれか一項に記載の方法
【請求項17】
IgM及びIgD陽性のナイーブB細胞におけるCD22機能の変化に基づき、免疫応答初期における免疫応答を促進させる物質のスクリーニング方法
であって、以下の工程:
(a) 被検物質とIgM及びIgD陽性のナイーブB細胞を接触させる工程、
(b)該細胞におけるCD22遺伝子発現の抑制の程度を測定することによってCD22機能の変化を検出する工程、及び
(c)該CD22遺伝子発現の抑制をおこさせる物質を選択する工程、を含む方法。
【請求項18】
B細胞及び/又はCD22若しくはCD22遺伝子が哺乳動物由来である、請求項17に記載のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、CD22機能を抑制することから成る免疫応答の促進方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のT細胞依存性抗原に反応したIgMおよびIgD陽性のナイーブB細胞は免疫応答初期において赤脾髄及びBridging channelに移動して増殖し、extrafollicular fociを形成する。ここで増殖したplasmablastは抗体産生細胞へと分化して抗体を産生し、抗原排除に働く。この初期に生成された抗体産生細胞の多くは短寿命であり、一部はIgGクラスなどへのクラススイッチを起こす。抗原に反応したB細胞の一部は濾胞内で増殖し胚中心を形成する。胚中心反応時にB細胞は免疫グロブリンV領域に点突然変異を蓄積して抗原に対してより親和性をあげる。また、胚中心B細胞の多くはクラススイッチを起こす。この胚中心反応を経た抗体産生細胞がその後の抗体産生を担う。初回免疫応答の際に抗原刺激によって活性化したB及びTリンパ球の一部は記憶リンパ球となる。記憶B細胞は胚中心B細胞の一部から生成する。記憶リンパ球は長期間生存し、同じ抗原に再度暴露された時、ナイーブB細胞に比し迅速に増殖してbridging channel及び赤脾髄にplasmablastとplasma cellの巨大なfociを形成し、その結果迅速かつ大量の抗体産生がおこる。ワクチンは免疫記憶を誘導することにより感染防御を行うものである。
【0003】
B細胞抗原受容体(B cell receptor; BCR)は膜型免疫グロブリンとシグナルコンポーネントIgα/Igβ分子分子からなる。抗原と反応するとIgα/Igβ分子(クラスII抗原)を通して細胞内にシグナルを伝達する。BCRの共受容体であるCD19やCD22、CD72またFcγR2BはこのBCRシグナル伝達を正もしくは負に制御することで、適切なシグナルの閾値を調節し、細胞増殖や抗体産生細胞への分化、もしくは不応答やアポトーシスを起こすなどB細胞の運命決定を左右する。この中でもCD22はBCRシグナル伝達を負に制御する分子として知られる。CD22の細胞内領域には3つはITIMモチーフが存在しており、BCR架橋の後に直ちにリン酸化されフォスファターゼであるSHP-1をBCR近傍にリクルートし活性化することで、BCRシグナル伝達を負に制御する。
【0004】
記憶B細胞は主にIgGにクラススイッチした細胞から分化し、膜型IgGをBCRとして発現する。IgG-BCRはナイーブB細胞が発現するIgM-BCRおよびIgD-BCRと同様にIgα/Igβ分子を介してシグナルを伝達する。しかし、近年、IgG-BCRが記憶B細胞の迅速な応答に関与することを示唆する知見が得られた(Wakabayashi, C., et al., Science, 2002. 298(5602): p. 2392-5)。Goodnowらのグループは、ほぼすべてのB細胞がHEL特異的なIgGを発現するトランスジェニックマウスを作成し、IgG陽性ナイーブB細胞の免疫応答について解析した。彼らは、抗原刺激の際にIgG陽性ナイーブB細胞が、記憶免疫応答の際と同様に迅速に増殖し、巨大なplasmablast のfociを形成し、さらに、多量の抗体産生をすることを明らかにした(Martin, S.W. and C.C. Goodnow, Nat Immunol, 2002. 3(2): p. 182-8)。この結果は、IgG-BCRがIgM-BCRやIgD-BCRの機能とは異なった機能を持ち、記憶応答の際の迅速なB細胞の活性化に関与することを示す。
【0005】
一方、本発明者らは、IgM-BCRおよびIgD-BCRがCD22による負の制御を受けるが、IgG-BCRはCD22による制御を受けず、その結果、IgG-BCRが効率よくシグナル伝達をすることを明らかにした(Wakabayashi, C., et al., Science, 2002. 298(5602): p. 2392-5)。

【非特許文献1】Nitschke, L. and T. Tsubata,. Trends Immunol, 2004. 25(10): p. 543-50.
【非特許文献2】Tedder, T.F., et al., Annu Rev Immunol, 1997. 15: p. 481-504.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、CD22によるシグナル制御の解除がIgG-BCRによるB細胞の迅速な応答にどの程度関与しているのか、また、CD22の機能を制御することにより記憶応答の際のような迅速な抗体応答を誘導できるかはこれまで不明であった。
【0007】
そこで本発明者は上記課題を解決すべく、ほぼすべてのB細胞がハプテンNPに反応するQMマウスとCD22欠損マウスを交配して得られたNP反応性CD22欠損B細胞の免疫応答時における生体内動態を詳細に解析し、その結果、野生型にくらべ、CD22が欠損することでIgM-BCR及びIgD-BCRを発現するナイーブB細胞においても、記憶免疫応答時に認められるような強力なクローン増殖と大量の抗体産生細胞の産生が起こることを明らかにし、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、以下の各態様を含むものである。
[態様1]B細胞におけるCD22機能を抑制することから成る免疫応答の促進方法。
[態様2]B細胞がIgM及びIgD陽性のナイーブB細胞である、態様1記載の方法。
[態様3]免疫応答の促進が免疫応答初期におけるB細胞の増殖、分裂及び/又は生存の亢進を含む、態様1又は2記載の方法。
[態様4]B細胞がIgG1+B細胞IgM+B細胞及び胚中心B細胞を含む、態様3記載の方法。
[態様5]免疫応答の促進がB細胞のクラススイッチ及び/又は分化の早期化を含む、態様1又は2記載の方法。
[態様6]IgG1+陽性細胞へのクラススイッチであり、又は、抗体産生細胞数及び胚中心B細胞への分化である、態様5記載の方法。
[態様7]免疫応答初期が抗原による免疫後3~5日である、態様2~6のいずれか一項に記載の方法。
[態様8]免疫応答の促進が抗体産生細胞数及び産生抗体量の増大及び/又は早期化を含む、態様1記載の方法。
[態様9]産生が増大及び又は早期化される抗体がIgG及び/又はIgMである、態様8記載の方法。
[態様10]CD22機能の抑制がCD22遺伝子の欠損又は変異による機能障害によるものである、態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
[態様11]CD22機能の抑制がCD22遺伝子の発現の抑制によるものである、態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
[態様12]CD22遺伝子の発現の抑制が転写レベルで行われる、態様11記載の方法。
[態様13]CD22遺伝子に特異的な siRNAによる遺伝子ノックダウンを用いる、態様12記載の方法。
[態様14]siRNAがCD22遺伝子の塩基配列又はその一部の連続する塩基配列を含む21~23個の塩基から成るオリゴヌクレオチド及びその相補的オリゴヌクレオチドから成る二本鎖RNAである、態様13記載の方法:
[態様15]CD22機能の抑制がB細胞受容体シグナル伝達を阻害することによるものである、態様1~9のいずれか一項に記載の方法。
[態様16]B細胞及び/又はCD22若しくはCD22遺伝子がマウス由来である、態様1ないし15のいずれか一項に記載の方法。
[態様17]CD22機能が抑制されているB細胞。
[態様18]CD22遺伝子がノックアウトされたノックアウト動物から単離されたものである、態様17記載のB細胞。
[態様19]態様1ないし15のいずれか一項に記載の方法、又は態様17若しくは18記載のCD22機能が抑制されているB細胞を利用することを特徴とする、抗体の製造方法。
[態様20]抗体がT細胞依存性抗原に対するものである、態様19記載の製造方法。
[態様21]B細胞におけるCD22機能の変化に基づき、免疫応答を促進させる物質のスクリーニング方法。
[態様22]請求21に記載のスクリーニング方法であって、以下の工程:
(a) 被検物質とB細胞を接触させる工程、
(b)該細胞におけるCD22機能を検出する工程、及び
(c)該機能を抑制させる物質を選択する工程、を含む方法。
[態様23]B細胞及び/又はCD22若しくはCD22遺伝子がマウス由来である、態様19ないし22のいずれか一項に記載の方法。
[態様24]態様21ないし23のいずれか一項に記載の方法に用いるスクリーニングキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、初めて、B細胞におけるCD22機能を抑制・制御することによって、免疫応答が促進されることが解明され、本発明方法によってB細胞におけるCD22機能を抑制することによって、IgM-BCR及びIgD-BCRを発現するナイーブB細胞においても、記憶免疫応答時に認められるような強力なクローン増殖と大量の抗体産生細胞の産生が起こさせることができた。このような結果は、記憶B細胞で発現するIgG-BCRを介するシグナル伝達がCD22によるシグナル抑制を受けないことにより、記憶免疫応答における迅速なB細胞活性化がおこることを示すと共に、CD22の機能を制御することにより迅速な免疫応答を誘導しワクチンに代わって感染防御ができる可能性を示唆するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】CD22欠損B細胞は免疫応答初期においてextrafollicular plasmablastのburstを起こすことを示す図である。(Fig1A)単離したB細胞のフローサイトメトリー解析。CD23でNIP反応性BCRB細胞のパーセンテージを示す(左)。またNIP反応性BCRの発現量をhistogramで示す(右)(Fig1B)Adopted transferのプロトコール。
【図2】CD22欠損B細胞は免疫応答初期においてextrafollicular plasmablastのburstを起こすことを示す、共焦点蛍光顕微鏡で観察した脾臓組織切片である(Fig1C)。
【図3】免疫後3,5,7日目にCD22+/+QM B細胞(下の折れ線)またはCD22-/-QMB細胞(上の折れ線)を移植したrecipientマウスの脾細胞を採取し、B220(Fig2,A-F)、Ly5.2(Fig2,A-F)、IgM(Fig2C)、IgG1(Fig2D)の発現、またNIP反応性及びPNA反応性(Fig2,E,F)をフローサイトメトリーで解析した。死細胞はDAPIにより染色し解析から除外した。recipientマウスのDAPI-、2x105脾細胞のうちのDonor由来B細胞数(B220+,Ly5.2+)(Fig2,A,B)、IgM+Donor由来B細胞(B220+,Ly5.2+,IgM+)(Fig2C)、IgG1+Donor由来B細胞(B220+,Ly5.2+,IgG1+)(Fig2D)、及びDonor由来胚中心B細胞(B220+,Ly5.2+,NIP及びPNAに反応)( Fig2,E,F)の細胞数を求めた。各群4個体の平均値をBarで示す。
【図4】図3と同様である。
【図5】図3と同様である。
【図6】免疫応答時のDonor B細胞の増殖、クラススイッチ、及び胚中心B細胞への分化をフローサイトメトリーにより観察した結果を示す。(Fig3A)B細胞の細胞分裂。ネガティブコントロールとしてB細胞移植後PBSのみを注射して2日目に同様に解析した結果を最下段に示す。死細胞はDAPIにより染色し解析から除外した。それぞれrecipientマウスの全脾細胞の内、DAPI- 、2x105細胞を解析した結果を示す。同じ実験を2回行い同様の結果を得ている。(Fig3B)細胞分裂に依存したIgクラススイッチと胚中心B細胞への分化。IgG1+B細胞のパーセンテージを示す(上,中段)。胚中心B細胞(CD38lo)のパーセンテージを示す(下段)。死細胞はDAPIにより染色し解析から除外した。recipientマウスのDAPI- 、2x105脾細胞を解析した結果を示す。同じ実験を2回行い同様の結果を得ている。
【図7】(Fig4,A,B)脾臓中の抗体産生細胞数。免疫後3,5,7日目にCD22+/+QM B細胞(黒:下の折れ線)またはCD22-/-QMB細胞(赤:上の折れ線)を移植したrecipientマウスから脾細胞を採取し、全脾細胞1x106のうちのDonor B細胞由来のNP特異的なIgMa抗体(Fig4A)およびIgG1a抗体(Fig4B)産生細胞数をELISPOT法により測定した。各群4個体の平均値をBarで示す。(Fig4,C,D)血清中のDonor B細胞由来のNP特異的抗体価。Recipientマウスの血清に含まれるCD22+/+QM B細胞(黒:下の折れ線)またはCD22-/-QMB細胞(赤:上の折れ線)由来のNP特異的なIgMa抗体(Fig4C)、IgG1a抗体(Fig4D)の産生量(μg/ml)をELISA法により測定した。各群4個体の平均値をBarで示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、B細胞におけるCD22機能を抑制(又は、阻害)することによって、免疫応答の促進作用が見られる。ここで、「B細胞」とは、通常、IgM及びIgD陽性のナイーブB細胞(成熟B細胞)を意味するが、必ずしもこのタイプに限定されず、一般的に、T細胞依存性抗原に反応して活性化され抗体産生細胞に分化するような能力を潜在的に有するB細胞を含むものである。更に、本発明方法において、B細胞等の各種細胞及びCD22(遺伝子)は、マウス及びヒト等の哺乳類を含む当業者に公知の任意の動物細胞由来のものが含まれる。
【0012】
本発明方法における免疫応答の促進作用には、当業者に公知の任意の反応、例えば、免疫応答初期におけるB細胞の増殖及び生存の亢進、特に、抗原刺激によるB細胞の増殖、分裂及び/又は生存の亢進、例えば、免疫応答初期における、IgG1+B細胞、IgM+B細胞及び胚中心B細胞数のCD22+/+B細胞に比べて約2~3倍の増加、例えば、IgG1+陽性細胞へのB細胞のクラススイッチ及び/又は、例えば、抗体産生細胞及び胚中心B細胞への分化の早期化、脾臓などの免疫器官におけるIgG及び/又はIgM等の抗体産生細胞の増大数、及び、例えば、産生抗体量の血清中での増大(CD22+/+B細胞に比べて約3~5倍)、及び/又はそれらの早期化、並びに、B細胞受容体シグナル伝達の阻害等の当業者に公知の多様な態様が含まれる。
【0013】
ここで、「免疫応答初期」とは、免疫原となった抗原の種類、免疫応答の促進作用における態様の相違等によって1~2日程度は変動するが、通常、免疫(抗原による感作・刺激)後の数日間、例えば、免疫後3~5日を意味する。
【0014】
本発明の方法において、B細胞におけるCD22機能の抑制は、当業者に公知の様々な遺伝子工学(ゲノム工学)的方法・手段で実施することが出来る。免疫応答が有意に促進される限り、CD22機能が完全に抑制又は阻害されている必要はない。
【0015】
B細胞におけるCD22機能の抑制は、例えば、CD22遺伝子の欠損又は変異による機能障害等のCD22遺伝子自体に対する作用の結果によるものであり得る。このような遺伝子自体に対する作用は、例えば、当業者に公知の遺伝子ターゲッティング技術によって、CD22遺伝子をノックアウトさせたり、各種の遺伝子変異導入法によって該遺伝子に突然変異等を導入させることにより、所定の機能を有していないCD22変異体が発現されるようにすることによって達成することが可能である。
【0016】
或いは、CD22遺伝子の発現を抑制することによってCD22機能の抑制をすることが可能である。このような発現の抑制は、転写及び翻訳等の任意の各段階で実施することが可能である。
【0017】
例えば、転写レベルでの抑制にはCD22遺伝子(DNA又はmRNA)を標的とするsiRNA等のRNA干渉(RNAi)を誘導する核酸配列(該遺伝子の部分塩基配列に特異的な配列を有する一本鎖RNA又は二本鎖RNA)による遺伝子ノックダウン、アンチセンスRNA、又は各種のリボザイム等を用いる方法を挙げることが出来る。
【0018】
RNA干渉を誘導する核酸は、当業者であれば、公知の各種のデータベースに登録されているCD22遺伝子の塩基配列、例えば、マウスCD22遺伝子に関してはGenBank/EMBL/DDBJ のaccession number(ACCESSION No.L16928)に基き、適宜設計して調製することが出来る。例えば、CD22遺伝子の塩基配列又はその一部の連続する塩基配列を含む15~30個、特に、21~23個の塩基から成るオリゴヌクレオチド及びその相補的オリゴヌクレオチドから成る二本鎖RNAである。尚、かかるsiRNAには、細胞内で上記核酸配列がDicer により消化されて生成されるものも含まれる。
【0019】
又、転写レベルで抑制するには、CD22遺伝子の発現調節領域を操作することによって転写反応が正常に行われないようにすることも可能である。
【0020】
更に、当業者に公知の各種形質転換方法を用いて、CD22の機能を任意の段階で阻害する物質を発現させることで、CD22機能を抑制することも可能である。
【0021】
B細胞におけるCD22機能の抑制は、インビトロ又はインビボで生起させることが可能である。インビボの場合には、例えば、CD22遺伝子がノックアウトされたマウス等のノックアウト動物を作製することにより達成される。
【0022】
従って、本発明は又、CD22機能が抑制されたB細胞(集団)にも係る。このような細胞は、例えば、上記のCD22遺伝子がノックアウトされたマウス等の哺乳動物であるノックアウト動物、或いは、遺伝的にこのようなノックアウト動物に由来するマウス等の哺乳動物(例えば、本明細書の実施例に記載されているQMマウスのような、特定の抗原(ハプテン)に反応するマウス等の他の動物との掛け合わせで作製されたもの)の脾細胞からCD23+濾胞B細胞を当業者に公知のソーティング技術を用いて単離することによって調製することが可能である。その一例として、実施例1で調製されたCD22-/-QMマウスの脾細胞(IgHa,Ly5.2)を挙げることが出来る。或いは、上記の各種遺伝子工学的技術を適用することによって、CD22機能が抑制されたB細胞(集団)を容易に作製することも可能である。更に、ES細胞等の各種の幹細胞においてCD22遺伝子をノックアウトし、これをB細胞に分化させることによって、本発明のCD22機能が抑制されたB細胞を得ることも可能である。
【0023】
このようなCD22機能が抑制されたB細胞は、本発明方法に使用される他に、免疫応答反応を解析する手段、又は、免疫応答反応に関与する物質等のスクリーニング方法等で有効に使用することができる。
【0024】
本発明は更に、上記のいずれかの方法、又はCD22機能が抑制されているB細胞を利用する抗体の製造方法にも係る。このような抗体は、当業者に公知の任意の方法・手段を用いることによって任意の抗原に対して作製することが可能であり、一例として、T細胞依存性抗原を挙げることが出来る。
【0025】
既に記載したように、B細胞におけるCD22機能を抑制することによって、免疫応答が促進されることが判明したので、この作用を利用することによって、B細胞におけるCD22機能の変化に基づき、免疫応答を促進させる物質をスクリーニングすることが可能となる。よって、本発明はこのようなスクリーニング方法及び該方法に使用するスクリーニングキットにも係る。
【0026】
本発明のスクリーニング方法の一例として、例えば、以下の工程:
(a) 被検物質とB細胞を接触させる工程、
(b)該細胞におけるCD22機能を検出する工程、及び
(c)該機能を抑制させる物質を選択する工程、を含む方法を挙げることが出来る。
【0027】
該スクリーニング方法において、CD22機能の変化(抑制)は、当業者に公知の任意の方法で、転写及び翻訳等の任意の各段階におけるCD22遺伝子発現の抑制の程度を測定することによって、直接に検出することが可能である。
【0028】
例えば、本発明のスクリーニング方法において、本発明の蛋白質の発現量は、それをコードするmRNAの量により測定することも可能である。このようなmRNAの測定は、本明細書中の実施例に記載された該蛋白質をコードする遺伝子(DNA)の塩基配列に基づき適宜設計したプライマーを使用したRT-PCR法等の各種定量的PCR法、並びにマイクロアレイ(DNAチップ)法等の当業者に公知の方法で行うことが出来る。更に、既に記載したような、B細胞におけるCD22機能の抑制によって得られる免疫応答の促進作用に含まれる様々な態様を検出することによって、間接的にCD22機能の変化・抑制を検出することが可能である。
【0029】
本発明のスクリーニングにおいて使用する、B細胞等の各種細胞及びCD22(遺伝子)は、マウス及びヒト等の哺乳類を含む当業者に公知の任意の動物細胞由来のものが含まれる。又、該スクリーニングはインビトロ又はインビボで行うことができる。例えば、インビトロにおいては、被検物質の存在下にB細胞を培養することによって、被検物質とB細胞を接触させることができる。インビボでは、例えば、被検物質を適当な方法で実験動物に投与することで被検物質とB細胞を体内で接触させることができる。
【0030】
本発明のスクリーニング方法に使用されるキットは、B細胞におけるCD22機能の具体的な検出・測定原理等に応じて、適当な構成をとることが出来る。該キットは、例えば、本発明の蛋白質を特異的に認識する抗体から成る試薬、又は、上記のmRNAの測定の為の、上記遺伝子の増幅用プライマー及びハイブリダイゼーション用のプローブを含むことが出来る。これらは、その用途に応じて、適当な長さ、例えば、10~100個の連続した塩基配列から成る。
【0031】
以上のキットに構成要素として含まれる、各種のプライマー、プローブ、又は、抗体は、当業者に公知の任意の放射性物質、蛍光物質、色素等の適当な標識物質によって標識されていても良い。更に、上記キットには、その構成・使用目的などに応じて、当業者に公知の他の要素又は成分、例えば、各種試薬、酵素、緩衝液、反応プレート(容器)等が含まれる。
【0032】
尚、既に記載したように、本明細書において、B細胞等の各種細胞及びCD22(遺伝子)は、マウス及びヒト等の哺乳類を含む当業者に公知の任意の動物細胞由来のものが含まれる。これら遺伝子に関する情報(塩基配列情報等)は当業者に公知であり、各種の公的データベースから容易に入手することが可能である。例えば、ヒトのCD22遺伝子については、公的データベース(DDBJ/EMBL/GenBank; ACCESSION No.X59350参照)に配列情報が記載されている。
【0033】
更に、本発明における「CD22」をコードするDNA(ゲノムDNA及びcDNA)には、上記の具体的な塩基配列からなるDNAの他に、上記DNA(又は、それらに対応するcDNA)と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、及び上記DNAと約80%以上、好ましくは約95%以上である配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、実質的にCD22の少なくとも一つの作用を有する蛋白質をコードするDNAが含まれる。
【0034】
ここで、ハイブリダイゼーションは、例えば、Molecular cloninng third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)、又は、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al.,1987)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0035】
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、温度60℃~68℃において、ナトリウム濃度15~900mM、好ましくは15~600mM、さらに好ましくは15~150mM、pH6~8であるような条件を挙げることができる。
【0036】
従って、上記の配列番号で表される塩基配列を含むDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、該DNAの全塩基配列との相同性の程度が、全体の平均で、約80%以上、好ましくは約95%以上、更に好ましくは99%以上である塩基配列を含有するDNA等を挙げることができる。
【0037】
このようなDNAは、例えば、非特許文献1及び本明細書に開示の塩基配列情報等に基づき調製した適当なプライマーを用いてPCR等により取得することが可能である。また、本発明のDNAは当業者に公知の任意の方法によって化学合成することも可能である。
【0038】
又、本発明の「CD22」は、上記の配列番号で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質に加えて、このようなアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列(上記アミノ酸配列と配列相同性を有するアミノ酸配列)からなり、実質的にCD22の少なくとも一つの作用を有する蛋白質も含まれる。
【0039】
2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列相同性を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行う。その後、各部位におけるアミノ酸残基又は塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じアミノ酸残基又は塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列相同性は、配列間での同一である部位数の全部位(全アミノ酸又は全塩基)数に対する百分率で示される。
【0040】
上記の原理に従い、2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列相同性は、例えば、Karlin及びAltschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-2268、1990及びProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877、1993)により決定される。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムやFASTAプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い配列相同性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば、米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。
【0041】
上記のような塩基配列の配列相同性又はコードするアミノ酸配列の配列相同性を示すようなDNAは、上記のようにハイブリダイゼーションを指標に得ることもでき、ゲノム塩基配列解析等によって得られた機能未知のDNA群又は公共データベースの中から、当業者が通常用いている方法により、例えば、前述のBLASTソフトウェアを用いた検索により発見することも可能である。
【0042】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。又、特に記載のない場合には、以下の実施例は、例えば、Sambrook and Maniatis, in Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989; Ausubel, F. M. et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 1995等に記載されている、当業者に公知の標準的な遺伝子工学及び分子生物学的技術に従い、実施することが出来る。又、本明細書中に引用された文献の記載内容は本明細書の開示、及び、内容の一部を構成するものである。
【実施例1】
【0043】
免疫応答初期におけるCD22欠損B細胞のextrafollicular plasmablastのburst:
免疫応答の際の抗原に反応したCD22欠損B細胞の動態を明らかにするために、ほとんどすべてのB細胞がニトロフェノール(NP)に反応するQMマウスとCD22欠損マウス(デューク大学より提供)を掛け合わせることで、CD22欠損QMマウス(以下「CD22-/-QM」と称す)を得た。通常のT細胞依存性抗原に対してはB細胞の中でも濾胞B細胞が関与している。そこで、CD22を欠損していないQMマウス(以下「CD22+/+QM」と称す)及びCD22-/-QMマウスの脾細胞(IgHa,Ly5.2)をPE標識抗CD23抗体(Cat No. 12-0232-85:e-Bioscience)及びMagnet beads標識抗PE抗体(Mat.No.120-000-294:Miltenyi biotec)で染色した後、Auto MACSによりpositive sortingしてNP反応性CD23濾胞B細胞を得た(Fig1A)。NP特異的な表面免疫グロブリン(B細胞抗原受容体)の発現はCD22-/-B細胞でCD22+/+B細胞の約半分であった(Fig1A)。これはCD22-/-B細胞において細胞表面のB細胞抗原受容体の発現量が下がるとの報告と一致する。尚、上記のCD22欠損マウスは、National Institute of General Medical Sciences (NIGMS: 45 Center Drive MSC 6200 Bethesda, MD 20892-62 USA) によって設立されたConsortium for Functional Glycomics (CFG)のCore F 又はThe Jackson Laboratory (600 Main Street Bar Harbor, Maine 04609 USA) から入手可能(Original publication name:mSiglec-2 ;Colony Code Name:CD22)である。
【0044】
次に、に示されるように、Helper T細胞を活性化するためにあらかじめCGG100μgとCFAアジュバントでprimeしたC57BL/6 Ly5.1コンジェニックマウス(IgHb,Ly5.1)1個体あたりに、上記で調製した4x105 の濾胞B細胞を静脈経由で移入した(Day-1)。翌日(Day0)、T細胞依存性抗原であるNP-CGG50μgとalumアジュバントを用いて免疫した。免疫後3,5,7日目にCD22+/+QM B細胞を移植したrecipient又はCD22-/- QMB細胞を移植したrecipientの脾臓組織切片を抗CD38抗体(青)(Cat.No.12-0381-81:e-Bioscience)、抗IgMa抗体(Cat.No.553515:BD PharmMingen)((a)- (f))又は抗IgG1a抗体(緑)(Cat.No.553500:BD PharMingen)((g)-(l))、及びNIP-APC(赤)で染色し、共焦点蛍光顕微鏡で観察した(Fig1C)。Recipient由来の濾胞B細胞は抗CD38抗体のみで染色され、Donor由来のB細胞は抗IgMa抗体、抗IgG1a抗体及びNIP-APCで染色された。CD22-/-Donor B細胞由来のburstがBridging Channel(arrow)及び赤脾髄(arrowhead)に認められた。
【0045】
その結果、免疫後3日目にはCD22+/+B細胞移入マウスでは少数のDonor由来B細胞がB細胞濾胞とT細胞領域の境界に散在していたが、CD22-/-B細胞移入マウスでは同じ領域に多数のB細胞の増殖が観察された。そのほとんどがIgM陽性B細胞であった)。5日目にはCD22+/+B細胞ではBridging Channelにおいてわずかにplasmablastとして増殖しているのに対し、CD22-/-B細胞はBridging Channel、及び赤脾髄で爆発的なPlasmablastの増殖を見せた。その多くはIgG1へクラススイッチしていることが観察された。7日目においてはCD22-/-B細胞またはCD22+/+B細胞のどちらもB細胞の多くはB細胞濾胞もしくは胚中心内に観察され、5日目に認められたようなPlasmablastのクラスターは観察されず、いくつかのplasma cellが赤脾髄に存在している程度であった。
【0046】
これらの結果から、CD22-/-B細胞は免疫後5日目といったごく初期において大量のplasmablastを産生することが明らかになった。この結果は記憶B細胞が2次免疫応答のごく初期に大量のplasmablastを形成する現象と酷似しており、またGoodnowらが報告しているIgGトランスジェニックB細胞の免疫応答時5日目に認められるextrafollicular proliferative burstと共通するものである。これらの結果はCD22による制御シグナルの制御の解除により記憶免疫応答時に認められるようなExtrafollicular Plasmablastの爆発的な増殖が起こることを示している。尚、各群4匹のマウスについて同様の解析を行い同様の結果を得た。
【実施例2】
【0047】
抗原反応後のCD22-/-B細胞の迅速なクローン増殖と生存維持:
次にCD22-/-B細胞において免疫応答初期に認められるplasmablastの大量の増殖のメカニズムの検索を行った。免疫応答の間にハプテンNPに対して応答したB細胞はIgMから主にIgG1へのクラススイッチすることが知られている、またT細胞依存性抗原に対しては胚中心B細胞が産生されることが知られている。そこで実施例1と同様に、CD22+/+及びCD22-/-B細胞(それぞれ4x105cells)をrecipientマウスに移入後、Donor由来の全B細胞、IgM陽性B細胞、IgG1陽性B細胞、また胚中心B細胞の数をフローサイトメーターで測定した。
【0048】
その結果、CD22+/+及びCD22-/-QMB細胞は共に全B細胞、IgM陽性B細胞、IgG1陽性B細胞、胚中心B細胞すべてが免疫後5日目まで増殖し7日目では減少したことが判明した(Fig2)。IgG1陽性B細胞はIgM陽性B細胞に比し若干遅れて増加する傾向にあった(Fig2D)。免疫後5日目のピーク時には全B細胞、IgM陽性B細胞、IgG1陽性B細胞、胚中心B細胞すべてでCD22-/-B細胞はCD22+/+B細胞の約2~3倍に増加していた(Fig2E,F)。一方、免疫後7日目ではCD22-/-QMB細胞はCD22+/+QMB細胞に比し急激に減少し、その結果CD22+/+B細胞と同程度になった。したがってCD22-/-B細胞はIgM+B細胞、IgG1+B細胞、胚中心B細胞のすべての亜集団で免疫応答の初期にCD22+/+B細胞に比し増加していることが明らかとなった。
【0049】
更に、CD22-/-B細胞の増加のメカニズムを検索するため、CD23陽性のCD22+/+QM B細胞またはCD22欠損QMB細胞をCFSEで染色し、それぞれ4x106 cellsをC57BL/6 Ly5.1マウスに移植しNP-CGGで免疫した。免疫応答時のDonor B細胞の増殖、クラススイッチ、及び胚中心B細胞への分化をフローサイトメトリーにより観察した(Fig3)。Donor B細胞の増殖は、免疫後1,2,3日目のdonor由来IgM+ B細胞(B220+,Ly5.2+,IgM+)のCFSEの蛍光強度をフローサイトメトリーで検出した。クラススイッチは免疫後2,3日目のDonor由来B細胞(B220+,Ly5.2+)のCFSEの蛍光強度とIgG1産生から解析した。胚中心B細胞への分化は免疫後3日目のDonor由来B細胞(B220+,Ly5.2+)のCFSEの蛍光強度とCD38の発現から解析した。
【0050】
免疫後1日目ではCD22+/+B細胞,CD22-/-B細胞ともCFSE蛍光の減少した細胞は検出できず細胞増殖していないことがわかった。免疫後2日目においてCD22+/+B細胞,CD22-/-B細胞ともCFSE蛍光の減少した細胞が多数出現し細胞分裂が起きていることが観察されたが、CD22+/+ B細胞では4回目の分裂に留まっているにも関らず、CD22-/-B細胞では5~6回目の分裂が起きていた。また、細胞分裂のピークはCD22+/+B細胞では3回目であるのに対しCD22-/-B細胞では4回目をピークとしており、CD22-/-B細胞では免疫応答初期において細胞分裂が速く起きていることが明らかとなった。この時、それぞれの分裂時のピークの高さはどの分裂時においてもCD22-/-B細胞で高いことから、生存も亢進していることがわかる。免疫後3日目ではCD22+/+B細胞に比べてCD22-/-B細胞ではCFSEの蛍光強度の減少が顕著であった。この結果はCD22-/-B細胞でより速く細胞分裂を起こしていることを示している。またDonor B細胞を移入後、抗原を免疫していないマウスにおいては細胞分裂が起きていないことから、この細胞増殖が抗原特異的な反応であることが明らかである(Fig3A)。したがってCD22-/-B細胞では抗原刺激によりB細胞の細胞増殖および生存が共に亢進していることが明らかとなった。
【0051】
次いでIgG1陽性細胞の出現および胚中心B細胞への分化をCFSEの蛍光と同時に解析した。CD22+/+B細胞およびCD222-/-B細胞は共に3回目の細胞分裂時からIgG1陽性B細胞が出現してきており、免疫後3日目ではCD22-/-B細胞由来のIgG1+B細胞はCD22+/+B細胞由来のものに比し2倍程度増加していた。またどちらも細胞分裂7-8回目から胚中心B細胞(CD38lo)に移行したがCD22-/-B細胞由来の胚中心B細胞はCD22+/+B細胞由来のものに比し約3倍程度増加していた(Fig3B)。分化に必要な細胞分裂回数はCD22-/-B細胞とCD22+/+B細胞で違いはなかった。しかし、おそらくCD22-/-B細胞で細胞分裂が亢進するためにCD22-/-B細胞からはCD22+/+B細胞に比し多くのIgG1+B細胞および胚中心B細胞が生成したと考えられる。
【実施例3】
【0052】
CD22-/-B細胞による免疫応答初期における多量の抗体産生細胞及び抗体産生の産生:
CD22-/-B細胞は脾臓組織切片で顕著なplasmablastのburstが観察されたのでCD22-/-B細胞を移入したマウスでの抗体産生を検索した。まず免疫後3,5,7日目のrecipientマウスの脾細胞におけるDonor B細胞由来のNP特異的な抗体産生細胞数をELISPOT法により測定した(Fig4A,B)。IgMクラス、IgG1クラスとも抗体産生細胞は免疫後3日目からCD2-/-B細胞ではCD22+/+B細胞の約5倍検出され、5日目においても著明に多く、IgG1クラスは5倍以上であった。しかしCD22-/-B細胞由来の抗体産生細胞数はIgMクラス、IgG1クラスの両方で7日目には減少した。一方、CD22+/+B細胞では7日目にいたるまで徐々に増加しておりそのkineticsに違いが見られた。この結果はCD22-/-B細胞ではCD22+/+B細胞に比し抗体産生細胞の出現が早期化していることを示す。
【0053】
次いで血清中におけるDonor B細胞由来のNP特異的な抗体価を測定した(Fig4C,D)。脾臓中における抗体産生細胞の増加に相関してCD22-/-B細胞を移入した個体では免疫後3日目からすでにIgMクラスの特異抗体が検出され、5日目にはCD22+/+B細胞の約3倍の特異抗体が検出された。そのkineticsはCD22-/-B細胞で5日目にピークを迎えているのに対し、CD22+/+B細胞では7日目にピークを迎えており、CD22-/-B細胞において抗体産生が早期化していることが示された(Fig4C)。またCD22-/-B細胞のIgG1クラスの抗体産生もCD22+/+B細胞に比し顕著に増加し、増加の程度はIgMクラスの場合より大きかった。5日目から10日目にいたるまでCD22-/-B細胞からはCD22+/+B細胞の約5倍量のIgG1抗体産生がおこっていた(Fig4D)。以上よりCD22-/-B細胞では抗体産生細胞への分化が早期化し、その結果免疫応答初期からCD22+/+B細胞に比し多量の抗体産生をすることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
ワクチンなどにより免疫記憶が成立すると、病原微生物の侵入に際して速やかに抗体産生を含め免疫応答がおこり病原微生物を排除するため、重篤な感染症状発生以前に病原微生物を排除することにより感染症を防御することができる。記憶免疫と同様の早期の免疫応答を誘導する薬剤等を開発できれば、ワクチンに代わって広く種々の微生物による感染を防御することができる。このような薬剤は、ワクチンのように個々の微生物について開発する必要がないため、とりわけ病原微生物が未知の新興感染症に有用である。本発明の結果からCD22の機能を抑制・制御することにより抗体産生を早期化できることが明らかになったので、CD22を標的にすることにより、ユニバーサルな感染防御薬の開発が可能になると考えられる。
図面
【図1】
0
【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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