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明細書 :種子収量が向上した植物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5774809号 (P5774809)
登録日 平成27年7月10日(2015.7.10)
発行日 平成27年9月9日(2015.9.9)
発明の名称または考案の名称 種子収量が向上した植物
国際特許分類 A01H   5/00        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01H 5/00 ZNAA
A01G 7/00 604Z
A01H 1/00 A
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 19
全頁数 36
出願番号 特願2008-554030 (P2008-554030)
出願日 平成20年1月15日(2008.1.15)
国際出願番号 PCT/JP2008/050341
国際公開番号 WO2008/087932
国際公開日 平成20年7月24日(2008.7.24)
優先権出願番号 2007007464
優先日 平成19年1月16日(2007.1.16)
優先権主張国 日本国(JP)
審判番号 不服 2014-004114(P2014-004114/J1)
審査請求日 平成22年12月27日(2010.12.27)
審判請求日 平成26年3月3日(2014.3.3)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小川 健一
【氏名】岩▲崎▼ 郁
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
参考文献・文献 国際公開第2002/33105(WO,A1)
国際公開第2007/091634(WO,A1)
J. Exp. Bot, 1998, Vol.49, No.321, p.623-647
Plant Physiol, 1996, Vol.112, No.3, p.1071-1078
Plant Physiol, 1998, Vol.118, No.2, p.471-482
Plant Physiol, 1999, Vol.121, No.4, p.1169-77
Plant Cell, 1999, Vol.11, No.7, p.1277-1291
Proc Natl Acad Sci U S A, 1994, Vol.91, No.21, p.10059-63
蛋白質核酸酵素(1988)第33巻第9号第1513-1521頁
Plant Physiol. 2001 Jun;126(2):564-74.
調査した分野 C12N15/00-90
A01H1/00-17/00
C12N1/00-5/10
MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
CA/REGISTRY(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが導入されている形質転換植物であって、該ポリヌクレオチドの翻訳産物は葉緑体移行シグナルペプチドを有しておらず、かつ、親植物における単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培されることで、親植物と比較して単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量がさらに増加することを特徴とする形質転換植物。
【請求項2】
上記γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが以下の(e)~(h)からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の形質転換植物。
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなりかつ葉緑体移行シグナルペプチドを有していないポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(g)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ葉緑体移行シグナルペプチドを有していない翻訳産物をコードするポリヌクレオチド
【請求項3】
グルタチオン結合型アルドラーゼをコードするポリヌクレオチドがさらに導入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の形質転換植物。
【請求項4】
植物の花の数および種子の数の少なくともいずれかを増加させる方法であって、
植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドを植物に導入する工程、および
上記ポリヌクレオチドが導入されている植物を、親植物における単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培する工程
を包含することを特徴とする方法。
【請求項5】
上記γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが以下の(a)~(h)からなる群より選択されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(g)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項6】
植物の単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量を増加させる方法であって、
植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドを植物に導入する工程、および
上記ポリヌクレオチドが導入されている植物を、親植物における単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培する工程
を包含することを特徴とする方法。
【請求項7】
上記植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドの翻訳産物は葉緑体移行シグナルペプチドを有していることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが以下の(a)~(d)からなる群より選択されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項9】
上記植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドの翻訳産物は葉緑体移行シグナルペプチドを有しておらず、収穫指数が向上していることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
上記γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが以下の(e)~(h)からなる群より選択されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(g)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項11】
グルタチオン結合型アルドラーゼをコードするポリヌクレオチドを導入する工程をさらに包含することを特徴とする請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
親植物における単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培することによって、親植物と比較して単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量が増加する植物の生産方法であって、
植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドを所望の植物に導入する工程、ならびに
親植物における単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培した場合に親植物と比較して花の数および種子の数の少なくともいずれかが増加している植物を選択する工程
を包含することを特徴とする生産方法。
【請求項13】
グルタチオン結合型アルドラーゼをコードするポリヌクレオチドを導入する工程をさらに包含することを特徴とする請求項12に記載の生産方法。
【請求項14】
上記γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが以下の(a)~(h)からなる群より選択されることを特徴とする請求項12または13に記載の生産方法。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(g)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項15】
植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドの、植物の花の数および種子の数の少なくともいずれかを増加させるための、使用。
【請求項16】
上記γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが以下の(a)~(h)からなる群より選択されることを特徴とする請求項15に記載の使用。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(g)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項17】
植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドの、単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量を増加させるための、使用。
【請求項18】
上記γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが以下の(a)~(h)からなる群より選択されることを特徴とする請求項17に記載の使用。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(g)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
【請求項19】
グルタチオン結合型アルドラーゼをコードするポリヌクレオチドとともに用いられることを特徴とする請求項17または18に記載の使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、種子収量が向上した植物に関するものであり、より詳細には、植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子を導入することにより花の数および種子の数、種子の重量の少なくともいずれかが増加した植物、および植物の花の数および種子の数の少なくともいずれかを増加させる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物は、食糧としてだけでなく、鑑賞用や、紙や薬品などの工業材料や燃料として多種多様な場において人類と深くかかわってきた。また、近年では、化石燃料に替わるバイオマスエネルギーとしても注目を集めている。
【0003】
このような様々な用途に利用される植物の発芽、成長、開花等のメカニズムについては未だ明らかとなっていない点も多い。このため、植物は、経験や勘により栽培されることが主であり、気候などの自然の影響により収穫が大きく左右されていた。それゆえ、植物の発芽、成長、開花のメカニズムを解明して、それらを調整・制御することは、鑑賞用の草花や、穀物・野菜等の食糧の収量増加において重要なだけでなく、森林における木材の育成や、さらにバイオマスエネルギーに関しても極めて重要なことである。
【0004】
これまで植物の成長を調整する手段として、温室などの人工的な気候環境により開花時期を調整したり、エチレンなどの化学薬品を用いて成長を促進させたりするなどの努力が行われてきた。しかし、これら従来手法の多くも植物の成長を経験と勘により調整するものであり、植物の成長の過程を科学的に判断できる材料に基づくものではない。
【0005】
本発明者らは、植物の発芽、成長、開花のメカニズムについて研究を進めており、これまでに活性酸素やグルタチオンなどの酸化還元状態調節物質が植物の発育における制御因子として必要であることを示してきた(特許文献1、2参照)。
【0006】
グルタチオン(GSH)は、γ-グルタミルシステインシンセターゼによってシステインとグルタミン酸からγ-グルタミルシステインが合成され、さらにGSHシンセターゼによりグリシンが付加することで合成されるトリペプチドである。グルタチオンは細胞内の主要な抗酸化物質であり、また、細胞内の異物を解毒する機能を有している。
【0007】
大腸菌のγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子を導入した形質転換植物では、効果的にグルタチオン量が増加することが報告されている(非特許文献1~3を参照)。しかしながら、当該形質転換植物は光に弱くなる場合があることが報告されている(非特許文献3を参照)。
【0008】
一方、植物自身が持っているγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子を過剰発現させた場合、具体的には、シロイヌナズナのγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子をシロイヌナズナに導入して過剰発現させた形質転換植物では、γ-グルタミルシステインシンセターゼmRNAおよびその翻訳産物(タンパク質)の発現量は大幅に増加するが、グルタチオン量の増加は小さいことが報告されている(非特許文献4)。それゆえ、植物においてグルタチオン量を増加させる方法として植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子を用いることは劣ると認識されていた。

【特許文献1】WO01/080638(公開日:平成15(2003)年7月22日)
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2004-352679(公開日:平成16(2004)年12月16日)
【非特許文献1】Noctor G, Strohm M, Jouanin L, Kunert KJ, Foyer CH, Rennenberg H. Synthesis of glutathione in leaves of transgenic poplar overexpressing γ-glutamylcysteine synthetase. Plant Physiol. 1996 Nov;112(3):1071-1078.
【非特許文献2】Noctor G, Arisi AC, Jouanin L, Foyer CH. Manipulation of glutathione and amino acid biosynthesis in the chloroplast. Plant Physiol. 1998 Oct;118(2):471-482.
【非特許文献3】Creissen G, Firmin J, Fryer M, Kular B, Leyland N, Reynolds H, Pastori G, Wellburn F, Baker N, Wellburn A, Mullineaux P. Elevated glutathione biosynthetic capacity in the chloroplasts of transgenic tobacco plants paradoxically causes increased oxidative stress. Plant Cell. 1999 Jul;11(7):1277-1292.
【非特許文献4】Xiang C, Werner BL, Christensen EM, Oliver DJ. The biological functions of glutathione revisited in arabidopsis transgenic plants with altered glutathione levels. Plant Physiol. 2001 Jun;126(2):564-574.
【発明の開示】
【0009】
上述したように、γ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子を植物に導入してグルタチオン量を増加させる試みが行われているが(非特許文献1~4)、過去の報告ではγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子を植物に導入した場合(非特許文献4)に、非ストレス下における植物の正常な成長過程(形態等)には大きな影響は認められないことが示されているが、収穫量にどのような影響が出るかについては検討されていない。
【0010】
また、植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子を植物に導入してもグルタチオン量を大幅に増加させることは難しいと考えられていることから、植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子産物と植物の成長との関係については、本発明者ら以外のグループではほとんど研究されていない。
【0011】
しかしながら、本発明者らはグルタチオンが植物の生長調節剤として効果を有することを見出していたため、内生のグルタチオン合成系も植物の成長に伴い、何らかの制御を受けていると考えた。植物の成長の過程を科学的に把握し、開花時期を科学的に予測し、調整することは、鑑賞用の草花や食糧用の植物だけでなく、森林やバイマスエネルギー用の植物資源においても極めて重要なことである。それゆえ、内生グルタチオン合成の未知の制御系を明らかにすべく、その合成系の第一段階を触媒するγ-グルタミルシステインシンセターゼに関して植物由来の遺伝子産物の働きを解明し、植物の成長との関係を明らかにすることは非常に意義深いことである。
【0012】
その研究の結果、グルタチオン合成の制御は種子収量と密接な関係にあることを見出し、その制御が合成の第一段階を触媒するγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子産物にあることを解明した。
【0013】
本発明の目的は、その発見を基にして、種子収量の向上した植物を作出する技術を提供することにある。
【0014】
本発明者らは、植物の成長における植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子産物の制御機構を研究する過程において、植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子を導入した形質転換植物のうちγ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子の発現量が向上した植物は、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度の栽培条件で、親植物と比較して花の数・種子の数が増加していることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る植物は、γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルを増加させる変異を有しており、かつ、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培されることで、親植物と比較して単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量がさらに増加することを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る植物は、γ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルを増加させる変異を有しており、かつ、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培されることで、野生型植物と比較して単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量がさらに増加することを特徴としている。
【0017】
また、本発明に係る形質転換植物は、植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが導入されており、かつ、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培されることで、親植物と比較して単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量がさらに増加することを特徴としている。
【0018】
本発明に係る形質転換植物において、上記植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドの翻訳産物は葉緑体移行シグナルペプチドを有していることが好ましい。
【0019】
葉緑体移行シグナルペプチドを有しているγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドは以下の(a)~(d)からなる群より選択されることが好ましい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0020】
本発明に係る形質転換植物において、上記植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドの翻訳産物は葉緑体移行シグナルペプチドを有しておらず、収穫指数が向上していることが好ましい。
【0021】
葉緑体移行シグナルペプチドを有していないγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドは以下の(e)~(h)からなる群より選択されることが好ましい。
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(g)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0022】
本発明に係る形質転換植物は、グルタチオン結合型アルドラーゼをコードするポリヌクレオチドがさらに導入されていてもよい。
【0023】
本発明に係る方法は、植物の花の数および種子の数の少なくともいずれかを増加させる方法であって、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドを植物に導入する工程、および上記ポリヌクレオチドが導入されている植物を単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培する工程を包含することを特徴としている。
【0024】
本発明の方法において、上記γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドは以下の(a)~(h)からなる群より選択されることが好ましい。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
(e)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(g)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)配列番号4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明によって明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】Aは、葉緑体移行シグナルペプチドを有するGSH1遺伝子および葉緑体移行シグナルペプチドを有しないGSH1遺伝子のクローニングに用いたプライマーおよび制限酵素サイトを示す図であり、Bは、形質転換に用いたコンストラクトを示す図である。
【図2】35S-Chl.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物(2-16)および親植物である野生型植物(Col)におけるGSH1 mRNAのRT-PCRの結果を示す電気泳動画像である。なお、ACT1は本生育条件で構成的に発現が認められるコントロール遺伝子である。
【図3】野生型植物、35S-Chl.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物および35S-cyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物における葉緑体移行シグナルを有するGSH1 mRNAの定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。
【図4】野生型植物、35S-Chl.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物および35S-cyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物における全GSH1 mRNAの定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。
【図5】野生型植物、35S-Chl.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物および35S-cyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物における導入した35S-GSH1-pBI121由来(35S-Chl.GSH1-pBI121または35S-cyt.GSH1-pBI121)GSH1 mRNAの定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。
【図6】野生型植物、35S-Chl.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物および35S-cyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物における宿主ゲノム由来のGSH1 mRNAの定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。
【図7】35S-cyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物(35S-cyt.GSH1 1-1, 2-7, 3-6)における35S-GSH1-pBI121由来GSH1 mRNA量を野生型植物(Col-0)のゲノム由来GSH1 mRNA量を1として相対値で示したグラフである。
【図8】野生型植物および35S-Chl.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物におけるGSH1遺伝子産物のγ-グルタミルシステインシンセターゼ活性を示すグラフである。
【図9】生育する光強度を変えたときの35S-Chl.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物における内生グルタチオン量の変化を示すグラフである。
【図10】35S-cyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物における内生グルタチオン量を示すグラフである。
【図11】シロイヌナズナ(Col-0, 35S-cyt.GSH1)の植物体の写真である。
【図12】22℃、長日条件下で生育させたシロイヌナズナ(Col-0, 35S-Chl.GSH1 2-16, 35S-cyt.GSH1 1-1, 2-7, 3-6)の地上部バイオマス量(種子以外)(A)、種子重量(B)、収穫指数(C)、および地上部バイオマス量(D)を比較したグラフである。
【図13】Aは、35S-cyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物(35S-cyt.GSH1 (2-7))および35S-5’UTRcyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物における、35S-GSH1-pBI121(35S-cyt.GSH1-pBI121または35S-5’UTRcyt.GSH1-pBI121)由来のGSH1 mRNAの定量的RT-PCRの結果を示すグラフであり、Bは、同植物における宿主ゲノム由来のGSH1 mRNAの定量的RT-PCRの結果を示すグラフである。35S-cyt.GSH1 (2-7)のGSH1 mRNAの量を1として相対値で示した。
【図14】Aは、大腸菌由来GSH1遺伝子のクローニングに用いたプライマーおよび制限酵素サイトを示す図であり、Bは、形質転換に用いたコンストラクトを示す図である。
【図15】GSH1遺伝子の5’非翻訳領域を挿入することによりmRNAの安定性が向上した植物の、生育および生産性がColよりも向上していることを示す図である。
【図16】大腸菌由来のGSH1をシロイヌナズナに発現させ、葉緑体に局在させた場合の植物の様子を示す図である。
【図17】大腸菌由来のGSH1をシロイヌナズナに発現させ、細胞質に局在させた場合の植物の様子を示す図である。
【図18】生育時の光強度を200μE/m2/sに設定した場合の、植物の成長性および種子収量を示す図である。
【図19】植栽密度と個体あたりの成長性および種子収量との関係を示す図である(数値は相対値)。
【図20】植栽密度によるバイオマス量、種子収量およびHarvest Indexの低下を、GSH1遺伝子導入によって抑制できることを示す図である。
【図21】GSH1を発現した植物の単位面積あたりの収量と種子量の違いを示す図である。
【図22】野生型植物の植栽密度と種子収量の関係を示す図である。
【図23】グルタチオン結合型アルドラーゼの発現を高めた場合のGSH1遺伝子の導入効果を示す図である。
【図24】グルタチオン結合型アルドラーゼの発現を高めた場合のGSH1遺伝子の導入効果を示す図である。
【図25】35S-cyt.GSH1-pBI121を導入したキクの鉢あたりの総花数を示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルを増加させる変異を有しており、かつ、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度において栽培されることで、親植物と比較して単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量がさらに増加する植物を提供する。
【0027】
また、本発明は、γ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルを増加させる変異を有しており、かつ、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培されることで、親植物と比較して単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量がさらに増加する植物を提供する。
【0028】
本発明に係る植物は、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培することによって、親植物と比較して、花の数および種子の数、種子の重さの少なくともいずれかが増加している。
【0029】
「植栽密度」は、単位面積あたりに植栽した個体数をいう。通常、植物を育成する場合には、適切な間隔で苗や苗木を植栽したり、間引いたりする。これは、個体の植栽密度が高まると、個体あたりのバイオマス生産性が低下し、単位面積当たりのバイオマス生産性は頭打ちとなるからである。このように、植物の単位面積あたりのバイオマス生産性に適した植栽密度があり、それを上回る密度で植栽されることは種子や苗の購入費用に対する収穫物量の低下を招くことから好ましくない。本発明においては、「単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度」とは、各品種における最適な植栽密度(すなわち、単位面積あたりのバイオマス生産性が最大となる最適な植栽密度)を意味する。なお、植物の品種毎に最適な植栽密度は異なるが、用いる植物に応じて最適な植栽密度を当業者は容易に知ることができる。本発明に係る植物は、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培された場合であっても、親植物/野生型植物と比較して単位面積あたりのバイオマス量または種子収穫量がさらに増加する。ただし、本発明に係る植物を栽培する際の植栽密度は、上記最適な植栽密度よりも高い場合に限定される必要がなく、各品種における最適な植栽密度の30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、100%以上であることがなお好ましい。
【0030】
本発明において、「γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性」とは、グルタミン酸をγ位でシステインとアミド結合させる反応を触媒する活性を意味する。
【0031】
γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルは、例えば、溶液を窒素置換するなどして酸化防止措置を講じつつ、破砕した植物体を遠心分離して得られる上清を試料として、システインおよびグルタミン酸、ATPを含む反応液に試料を添加した後、一定時間に合成されるγ-グルタミルシステイン量として求めることができる。その他、その反応に伴い、生成されるリン酸量を定量して求めることもできる。
【0032】
「γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルが増加」とは、同一種の親植物のγ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルと比較して活性レベルが高いことを意味する。同一条件で栽培した同一種の親植物の同一部位のγ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルと比較して、活性レベルが1.1倍以上である場合に活性レベルが増加していると判断することが好ましく、さらにt検定で5%レベルの有意差がある場合に活性レベルが増加としていると判断することがより好ましい。なお、親植物の活性レベルは同一の方法で同時に測定したものであることが必須である。
【0033】
本発明において、「γ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベル」とは、γ-グルタミルシステインシンセターゼmRNAの量またはγ-グルタミルシステインシンセターゼタンパク質の量を意味する。
【0034】
γ-グルタミルシステインシンセターゼmRNAレベルを測定する方法としては、特定のmRNAレベルを測定できる方法であれば特に限定されず、公知の方法から適宜選択して用いることができる。具体的には、例えば、RT-PCR法、リアルタイムRT-PCR法、コンペティティブPCR法、ノーザンブロット法、in Situ ハイブリダイゼーション法、in Situ PCR法、DNAアレイ法などを挙げることができる。
【0035】
γ-グルタミルシステインシンセターゼタンパク質レベルを測定する方法としては、特定のタンパク質レベルを測定できる方法であれば特に限定されず、公知の方法から適宜選択して用いることができる。例えば、測定対象のγ-グルタミルシステインシンセターゼタンパク質と特異的に結合する抗体を用いる方法を挙げることができる。抗体を用いてタンパク質レベルを測定する公知の方法としては、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)法、ELISA法(固相酵素免疫検定法)、ウエスタンブロット法、免疫沈降法、免疫組織化学法、抗体アレイ法などを挙げることができる。
【0036】
「γ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルが増加」とは、同一種の親植物のγ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルと比較してmRNAレベルまたはタンパク質レベルが増加していることを意味する。同一条件で栽培した同一種の親植物の同一部位のγ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルと比較して、発現レベルが1.1倍以上である場合に発現レベルが増加していると判断することが好ましく、さらにt検定で5%レベルの有意差がある場合に発現レベルが増加していると判断することがより好ましい。なお、親植物の発現レベルは同一の方法で同時に測定したものであることが好ましいが、背景データとして蓄積されているデータを用いてもよい。
【0037】
本発明において「花の数」とは、1個体もしくは単位面積あたりに植えられた植物に形成された花の数を意味する。
【0038】
また、「種子の数」とは、1個体もしくは単位面積あたりに植えられた植物に形成された種子の数を意味する。
【0039】
「花の数が増加」とは、同一の栽培条件で栽培した同一種の親植物の花の数と比較して増加していることを意味する。また、「種子の数が増加」とは、同一の栽培条件で栽培した同一種の親植物の種子の数と比較して増加していることを意味する。
【0040】
花の数が増加すれば、例えば、花を観賞することを目的とした観葉植物の価値が高まる。また、花の数の増加は果実の増加に繋がるため、果実を利用する植物の価値が高まる。また、種子の数が増加すれば、種子を利用する植物の価値が高まる。
【0041】
γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルが増加している植物は、例えば、目的の植物に、公知の変異導入法を用いてランダムに変異を導入し、その中からγ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルが増加している個体をスクリーニングすることにより取得することができる。
【0042】
同様に、γ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルが増加している植物も、ランダムに変異を導入した植物集団の中からγ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルが増加している個体をスクリーニングすることにより取得することができる。
【0043】
植物にランダムに変異を導入する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜選択して使用することができる。具体的には、例えば、種子を化学物質(例えば、EMS、NTGなど)で処理する方法、放射線を利用する方法、トランスポゾンを利用する方法、T-DNAを利用する方法、ジーンガンなどで物理的に導入する方法などを挙げることができる。
【0044】
γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルが増加している個体のスクリーニングには、上述したγ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルの測定方法を用いればよい。同様に、γ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルが増加している個体のスクリーニングには、上述したγ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルの測定方法を用いればよい。
【0045】
なお、γ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルが増加すれば、通常、それに伴いγ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルが増加する。したがって、γ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルが増加している植物は、γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルが増加している植物にも該当することは、容易に理解できる。
【0046】
ここまでは、内因性のγ-グルタミルシステインシンセターゼの活性レベル、または発現レベルが増加した変異体を取得する方法について説明したが、γ-グルタミルシステインシンセターゼの活性レベル、または発現レベルが増加している植物は、植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドを導入することにより取得することができる。すなわち、本発明は、植物由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが導入されており、花の数および種子の数の少なくともいずれかが増加している形質転換植物を提供する。以下、本発明に係る形質転換植物、および、本発明に係る植物の花の数および種子の数の少なくともいずれかを増加させる方法について説明する。
【0047】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。
【0048】
本発明に用いられるγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチド(以下「GSH1遺伝子」と記す。)は、植物由来であれは特に限定されない。好ましくは、宿主植物自身が有するGSH1遺伝子であるが、宿主植物と異なる植物由来のGSH1遺伝子も好適に用いることができる。
【0049】
ここで、本発明に用いられる植物由来のGSH1遺伝子の翻訳産物が葉緑体移行シグナルペプチドを有する場合、本発明に係る形質転換植物は、花の数および種子の数の少なくともいずれかが増加していることに加えてバイオマス量および種子収量が増加していることが確認されている。一方、本発明に用いられる植物由来のGSH1遺伝子の翻訳産物が葉緑体移行シグナルペプチドを有しない場合、本発明に係る形質転換植物は、花の数および種子の数の少なくともいずれかが増加していることに加えて収穫指数が向上していることが確認されている。これらの表現型の特長については後段で説明する。
【0050】
植物由来のGSH1遺伝子がコードするタンパク質には、通常、葉緑体移行シグナルペプチドが含まれている。それゆえ、植物由来のGSH1遺伝子産物、すなわちγ-グルタミルシステインシンセターゼは通常葉緑体に存在している。一方、葉緑体移行シグナルペプチドを有していないγ-グルタミルシステインシンセターゼは葉緑体に移行できない。
【0051】
本明細書において「葉緑体移行シグナルペプチドを有していないγ-グルタミルシステインシンセターゼ」とは、正常に機能する葉緑体移行シグナルペプチドが存在しないγ-グルタミルシステインシンセターゼを意図するものであり、例えば、本来存在している葉緑体移行シグナルペプチド領域の全てが欠損したもの、一部が欠損し葉緑体移行機能を失ったもの、アミノ酸の置換や付加により葉緑体移行機能を失ったもの、本来葉緑体移行シグナルペプチドを有しないもの、などが含まれる。
【0052】
したがって、葉緑体移行シグナルペプチドを有していないγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするGSH1遺伝子は、例えば、葉緑体移行シグナルペプチドをコードする領域を欠損した変異GSH1遺伝子として人工的に作製する必要がある。
【0053】
本発明に用いられる好適なGSH1遺伝子の1種として、本発明者らが用いているシロイヌナズナのGSH1遺伝子(TAIR Accession Gene:2127172、Name AT4G23100.1)を挙げることができる。シロイヌナズナのγ-グルタミルシステインシンセターゼは配列番号1に示されるアミノ酸配列からなり、それをコードする遺伝子(全長cDNA)は配列番号5に示される塩基配列からなる。配列番号5に示される塩基配列のうち、第172位~第174位が開始コドンであり、第1738位~第1740位が終止コドンである。すなわち、シロイヌナズナGSH1遺伝子は、配列番号5に示される塩基配列のうち、第172位~第1740位をオープンリーディングフレーム(ORF)として有している。配列番号2に示される塩基配列は、シロイヌナズナGSH1遺伝子のORFの塩基配列である。
【0054】
また、シロイヌナズナのGSH1遺伝子産物(配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)の場合、N末端側から73アミノ酸を欠失させると、γ-グルタミルシステインシンセターゼは葉緑体へ移行せず細胞質に存在することが、本発明者らにより確認されている。したがって、葉緑体移行シグナルペプチドを有していないシロイヌナズナのγ-グルタミルシステインシンセターゼとしては配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができ、それをコードする遺伝子は配列番号4に示される塩基配列からなる。ただし、欠失させるアミノ酸はN末端側から73アミノ酸に限定されるものではなく、葉緑体移行シグナルペプチドの機能が損なわれる限りにおいて、適宜選択することができる。どのように改変すれば葉緑体移行シグナルペプチドの機能が損なわれるかを確認することは、当業者が公知技術を用いることにより容易に確認することができる。
【0055】
シロイヌナズナ以外の植物由来のGSH1遺伝子としては、例えば、ヒャクニチソウ(Genbank accession: AB158510)、イネ(Genbank accession: AJ508915)、タバコ(Genbank accession: DQ444219)等が知られており、これらも本発明に好適に用いることができる。これらの遺伝子の翻訳産物も、シロイヌナズナと同様にN末端領域に葉緑体移行シグナルペプチドを有している。
【0056】
また、配列番号1または3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつγ-グルタミルシステインシンセターゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも本発明に好適に用いることができる。
【0057】
ここで「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0058】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0059】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。
【0060】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0061】
また、本発明においては、γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性を有するタンパク質をコードし得る限りにおいて、配列番号2または4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドを用いることもできる。このようなポリヌクレオチドには、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれる。
【0062】
本発明において「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。
【0063】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同性の高いポリヌクレオチドを取得することができる。
【0064】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: 2264-2268 (1990); Karlin S, Altschul SF, Proc. Natl. Acad Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993) )を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF, et al., J. Mol. Biol., 215: 403 (1990) )。
【0065】
本発明に用いられるGSH1遺伝子は、ゲノムDNAに由来しても、cDNAに由来してもよく、化学合成DNAであってもよい。また、RNAでもよい。
【0066】
本発明に用いられるGSH1遺伝子を取得する方法として、公知の技術により、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするDNA断片を単離し、クローニングする方法が挙げられる。例えば、シロイヌナズナのγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするDNAの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。
【0067】
あるいは、本発明に用いられるGSH1遺伝子を取得する方法として、PCR等の増幅手段を用いる方法を挙げることができる。例えば、シロイヌナズナのγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするcDNAのうち、5’側および3’側の配列(またはその相補配列)の中からそれぞれプライマーを調製し、これらプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)を鋳型にしてPCR等を行い、両プライマー間に挟まれるDNA領域を増幅することで、本発明に用いられるγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするDNA断片(GSH1遺伝子)を大量に取得できる。
【0068】
本発明に用いられるGSH1遺伝子は、適当な植物の組織や細胞を供給源として取得することができる。全ての植物はGSH1遺伝子を有しているので、所望の植物を供給源としてGSH1遺伝子を取得すればよい。
【0069】
本発明において、GSH1遺伝子を植物に導入する方法としては、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするDNAの上流に植物細胞で機能するプロモーターを、下流に植物細胞で機能するターミネーターを連結した組換え発現ベクターを構築し、植物に導入する方法を好適に用いることができる。
【0070】
後述する実施例においては、植物細胞で機能するプロモーターとして、構成的に発現するカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターを用いているがこれに限定されない。カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター以外の構成的プロモーターとしては、イネのアクチンプロモーター、トウモロコシのユビキチンプロモーターなどを挙げることができ、これらのプロモーターも本発明に好適に用いることができる。
【0071】
構成的プロモーター以外のプロモーターとしては、rbcSプロモーター、Cabプロモーターなどの緑葉組織特異的なプロモーターやHSP70プロモーターなどの誘導性プロモーターが挙げられるが、これに限定されない。また、葉緑体のゲノムに直接挿入する場合のプロモーターは、rbcLプロモーターなどが挙げられるが、葉緑体内で機能するプロモーターであればこれに限定されない。
【0072】
植物細胞で機能するターミネーターとしては、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子由来のターミネーター、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーターなどを挙げることができる。
【0073】
植物の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に限定しない。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系等のバイナリーベクターを用いることが好ましい。バイナリーベクターとしては、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221などを挙げることができる。
【0074】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、用いられるGSH1遺伝子が発現可能な植物を適宜選択すればよい。
【0075】
ここで、シロイヌナズナのGSH1遺伝子を用いる場合、形質転換の対象となる植物は、シロイヌナズナに近縁なアブラナ科の植物が好適であるがこれに限定されない。例えば、タバコ、ポプラ、レモンなどは、シロイヌナズナの遺伝子で形質転換植物を作出し得ることが報告されている。(Franke R, McMichael CM, Meyer K, Shirley AM, Cusumano JC, Chapple C. (2000) Modified lignin in tobacco and poplar plants over-expressing the Arabidopsis gene encoding ferulate 5-hydroxylase. Plant J. 22: 223-234; Pena L, Martin-Trillo M, Juarez J, Pina JA, Navarro L, Martinez-Zapater JM. (2001) Constitutive expression of Arabidopsis LEAFY or APETALA1 genes in citrus reduces their generation time. Nat Biotechnol. 19: 263-267)したがって、シロイヌナズナのGSH1遺伝子を上記のような植物に導入すれば、花の数および種子の数の少なくともいずれかが増加した種々の形質転換植物が作出できるものと考えられる。
【0076】
植物細胞への組換え発現ベクターの導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著,植物遺伝子操作マニュアル,1990,27-31pp,講談社サイエンティフィック,東京)などにしたがって無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。
【0077】
また、パーティクルガン法を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450~2000psi程度の圧力、4~12cm程度の距離で行う。
【0078】
目的の遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずカナマイシン耐性やハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性マーカーで選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。
【0079】
目的の遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、導入されたDNAに特異的プライマーを設計してPCRを行う。その後、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウムなどによって染色し、目的の増幅産物を検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。
【0080】
ゲノム内にGSH1遺伝子が導入された形質転換植物体がいったん得られれば、当該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができる。また、当該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、プロトプラストなど)を得て、それらを基に目的の植物体を量産することも可能である。
【0081】
以上のようにして得られた形質転換植物(すなわち本発明に係る形質転換植物)は、単位面積あたりのバイオマス量および種子収穫量を十分に向上させる植栽密度よりも高い植栽密度にて栽培することによって、親植物(形質転換に用いた植物)と比較して、花の数および種子の数の少なくともいずれかが増加している。
【0082】
本発明に係る植物のうち、葉緑体移行シグナルペプチドを有するγ-グルタミルシステインシンセターゼの発現レベルが増加し、γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性レベルが増加している植物は、親植物と比較して花の数および種子の数の少なくともいずれかが増加していることに加えてバイオマス量および種子収量が増加していることが確認されている。このような植物としては、人工的な変異誘導、または天然の変異により葉緑体移行シグナルペプチドを有するγ-グルタミルシステインシンセターゼの発現量が増加している植物、並びに、葉緑体移行シグナルペプチドを有するγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが導入されている形質転換植物が該当する。
【0083】
本発明において「バイオマス量」とは植物個体の乾燥重量を意味する。また、「種子収量」とは1植物個体の全種子の重量または、単位面積あたりの種子収量を意味する。
【0084】
バイオマス量が増加することにより、二酸化炭素を炭水化物として固定することができるので大気中のCO量を効率的に減らす効果、野菜の場合その可食部も大きくなり食糧増産となる効果、樹木などの場合は紙などの原料を増産できるという効果など、種々の利益が得られる。また、種子収量が増加することにより、食糧およびエネルギー作物としての種子収量の大幅な増産が実現でき、生産コストの大幅な削減を促すという利益が得られる。
【0085】
本発明に係る植物のうち、葉緑体移行シグナルペプチドを有しないγ-グルタミルシステインシンセターゼが発現している植物は、親植物と比較して花の数および種子の数の少なくともいずれかが増加していることに加えて収穫指数が向上していることが確認されている。このような植物としては、人工的な変異誘導、または天然の変異により、本来の葉緑体移行シグナルペプチドを有するγ-グルタミルシステインシンセターゼと共に葉緑体移行シグナルペプチドを有しないγ-グルタミルシステインシンセターゼをも発現するようになった植物、並びに、葉緑体移行シグナルペプチドを有しないγ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドが導入されている形質転換植物が該当する。
【0086】
本発明において「収穫指数」とは(1植物個体の全種子の重量)/(種子重量を含む当該植物個体の乾燥重量)で計算される値を意味する。
【0087】
収穫指数が増加することにより、単位面積当たりの種子収量が増し、栄養素の制限された土地などでは特に効率的に収穫量があがるという利益が得られる。
【0088】
本発明に係る形質転換植物は、グルタチオン結合型アルドラーゼをコードするポリヌクレオチド(グルタチオン結合型アルドラーゼ遺伝子)がさらに導入されていてもよい。本発明者らは、グルタチオン結合性アルドラーゼをコードするDNAが導入された形質転換植物は、その成長性および病虫害抵抗性が向上していることをこれまでに見出している(WO2007/091634)。グルタチオン結合型アルドラーゼ遺伝子が導入された形質転換植物は、その成長性が向上しているが、必ずしもその収穫指数は向上しておらず、光条件に依存する。GSH1遺伝子をグルタチオン結合型アルドラーゼ遺伝子とともに導入することによって、植物の収穫指数および種子収量の向上効果がさらに増強される。グルタチオン結合型アルドラーゼ遺伝子を導入する手段は、上述したGSH1遺伝子の導入手段に準じて行われればよいことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解し得る。
【0089】
なお、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0090】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0091】
以下、本発明について実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
(1)使用植物
形質転換体を作製するための親植物として、野生型シロイヌナズナのColumbia (Col-0)を用いた。植物は、正方形のプラスチックポット(6.5×6.5×5 cm)の中に底からバーミキュライト(旭工業、岡山)、クレハ培養土(クレハ園芸培土、呉羽化学、東京)、バーミキュライトを2:1:1の割合で3層に入れた土壌に播種し、生育温度22℃、長日条件(16時間明期/8時間暗期)で生育させた。
【0093】
(2)GSH1遺伝子のクローニング、GSH1遺伝子の改変、およびGSH1形質転換体の作出
3週齢のシロイヌナズナの野生型Columbia(Col-0)から全RNAを単離し、Prostar first strand RT-PCRキット(Stratagene, La Jolla, CA, USA)を用いてcDNAを合成した。
【0094】
図1のAの上段(Chl.GSH1)に示したように、GSH1のcDNA配列に基づいて設計した以下の特異的なプライマーを用いて、完全長cDNAを2つの断片としてPCRにより増幅し、それぞれの断片をpGEM-T Easyベクター(Promega, Madison, WI, USA)にサブクローニングした。プライマーGSH1_5'-3とGSH1_3'-2上には、植物形質転換用binary vector pBI121へ導入する時に必要なXba IとSac I切断部位をそれぞれ挿入している(以下に示す配列における下線は置換した塩基を示す)。
【0095】
【化1】
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【0096】
2つの断片をKpn I切断部位で融合し完全長cDNAを含むベクター(Chl.GSH1-pGEM)を構築した。Chl.GSH1-pGEMを制限酵素Xba IとSacIで処理後、断片をbinary vector pBI121のcauliflower mosaic virusの35Sプロモーターの下流のβ-グルクロニダーゼ(GUS)をコードする領域と置き換え、形質転換植物を作出するためのコンストラクト(35S-Chl.GSH1-pBI121)を作製した(図1のB参照)。
【0097】
シロイヌナズナゲノム上には、GSH1遺伝子は1コピーしか存在せず、葉緑体への移行シグナルを含んでいる。そこで、細胞質にGSH1遺伝子産物(γ-グルタミルシステインシンセターゼ)を蓄積させるため、葉緑体移行シグナルと推定されるN末側73アミノ酸を除き、N末から74番目のアラニン残基をメチオニン残基に置換したタンパク質を発現させるためのコンストラクト(35S-cyt.GSH1-pBI121)を作製した。まず、以下に示すN末から74番目のアラニン残基がメチオニン残基に置換され、その上流にXba I切断部位が挿入された(塩基置換部位は下線で表示)プライマーGSH1(cyt.)_5’と上記GSH1_3’-3を用いてPCRを行い(図1のA中段を参照)、断片を制限酵素Xba IとKpn Iで処理後、pBluescriptベクター(Stratagene, La Jolla, CA, USA)にサブクローニングした(cyt.GSH1-pBS)。
【0098】
【化2】
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【0099】
cyt.GSH1-pBSを制限酵素Xba IとKpn Iで処理後、断片を35S-Chl.GSH1-pBI121のGSH1上のXba I-Kpn I断片と置き換え、35S-cyt.GSH1-pBI121を作製した(図1のB参照)。
【0100】
さらに、GSH1遺伝子のmRNAの安定性を向上させるため、GSH1遺伝子の64bpの5’非翻訳領域をもつ35S-5’UTRcyt.GSH1-pBI121を作製した。まず、Chl.GSH1-pGEM上のXba I-Nco I断片をcyt.GSH1-pBS上のXba I-Nco I断片と置き換えた(5’UTRcyt.GSH1-pBS)。これを制限酵素Xba IとKpn Iで処理後、断片を35S-Chl.GSH1-pBI121上のXba I-Kpn I断片と置き換え、35S-5’UTRcyt.GSH1-pBI121を作製した(図1のB参照)。
【0101】
また、大腸菌由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼを植物内に過剰に蓄積する形質転換植物を作製するため、大腸菌(DH5α)からGSH1遺伝子をクローニングし、形質転換用コンストラクトを作製した(35S-EcGSH1-pBI121)。このコンストラクトは細胞質に蓄積すると予想される。そこで、大腸菌由来γ-グルタミルシステインシンセターゼを葉緑体に蓄積させるため、シロイヌナズナのγ-グルタミルシステインシンセターゼの葉緑体移行シグナルと推定される領域を含むN末側89アミノ酸を大腸菌由来のγ-グルタミルシステインシンセターゼのN末に融合したコンストラクトも作製した(35S-Chl.EcGSH1-pBI121)。まず、大腸菌(DH5α)細胞を鋳型として、図14のAの上段(EcGSH1)に示したように、大腸菌GSH1の塩基配列(Genbank accession:X03954)に基づいて設計した以下の特異的なプライマーEcGSH1_F1とEcGSH1_R1およびEcGSH1_F2とEcGSH1_R2をそれぞれ用いて、完全長GSH1遺伝子を2つの断片としてPCRにより増幅し、断片を制限酵素Xba IまたはSac Iで処理後、pBluescriptベクター(Stratagene, La Jolla, CA, USA)にサブクローニングした(EcGSH1_FR1-pBSおよびEcGSH1_FR2-pBS)。プライマーEcGSH1_F1には、植物形質転換用binary vector pBI121へ導入する時に必要なXba Iおよび葉緑体移行シグナル挿入に必要なHinc II切断部位を挿入している。また、開始コドンをロイシン残基からメチオニン残基に置換するために塩基置換を導入した。プライマーEcGSH1_R2には植物形質転換用binary vector pBI121へ導入する時に必要なSac I切断部位を挿入している(以下に示す配列における下線は置換した塩基を示す)。
【0102】
【化3】
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【0103】
2つの断片をSnaB I切断部位で融合し完全長GSH1を含むベクター(EcGSH1-pBS)を構築した。EcGSH1-pBSを制限酵素Xba IとSacIで処理後、断片をbinary vector pBI121のcauliflower mosaic virusの35Sプロモーターの下流のβ-グルクロニダーゼ(GUS)をコードする領域と置き換え、形質転換植物を作出するためのコンストラクト(35S-EcGSH1-pBI121)を作製した(図14のB)。
【0104】
葉緑体移行シグナルを融合したコンストラクト(35S-Chl.EcGSH1-pBI121)は、EcGSH1_FR1-pBSを制限酵素Hinc IIで処理して得られた大腸菌GSH1遺伝子の上流部分を含む断片を、前述したシロイヌナズナGSH1遺伝子の完全長cDNAを含むChl.GSH1-pGEMを制限酵素Hinc IIで処理したものと融合した(Chl.EcGSH1_FR1-pGEM)。これを制限酵素Ava IとSac Iで処理し、EcGSH1-pBSのAva I-Sac I断片を挿入した(Chl.EcGSH1-pGEM)。Chl.EcGSH1-pGEMを制限酵素Xba IとSac Iで処理後、断片をbinary vector pBI121のcauliflower mosaic virusの35Sプロモーターの下流のβ-グルクロニダーゼ(GUS)をコードする領域と置き換え、形質転換用コンストラクト(35S-Chl.EcGSH1-pBI121)を作製した(図14のB)。
【0105】
上記により作製した35S-Chl.GSH1-pBI121、35S-cyt.GSH1-pBI121、35S-5’UTRcyt.GSH1-pBI121、35S-EcGSH1-pBI121および35S-Chl.EcGSH1-pBI121の5種の発現ベクターをアグロバクテリウム法 (Clough, S.J. and SH1-pB Bent, A.F. (1998) Floral dip: A simplified method for Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana. Plant J. 16: 735-743. )を用いて、Col-0に導入し、形質転換植物を作出した。
【0106】
具体的には、選抜マーカーであるカナマイシンを含む寒天培地(1/2倍の濃度のムラシゲ-スクーグ培地)上で、すべての種子がカナマイシン耐性を示す世代(分離しなくなった世代)になるまで選抜を繰り返した。また選抜途中で、カナマイシン耐性の形質が3対1で分離し、発現ベクターが少なくとも単一の染色体上に導入されていることを確認した。
【0107】
(3)RT-PCRによるGSH1遺伝子の発現量の解析
35S-Chl.GSH1-pBI121を導入した形質転換体においては、以下のようにRT-PCRを行い、GSH1遺伝子の発現量を調べた。
【0108】
まず3週齢の形質転換シロイヌナズナの地上部から、RNeasy Plant Mini Kit (Qiagen Inc., Valencia, CA, USA)を用いて全RNAを抽出した。1μgの全RNAをDNase I (Invitrogen)で処理後、Prostar first Strand RT-PCR Kit (Stratagene, La, jolla, CA, USA)を用いてcDNA合成を行った。cDNA 1μgを鋳型として、94℃ 2 min, 1cycle、94℃ 30 sec, 50℃ 30 sec, 72℃ 60 sec, 32 cycle、72℃, 5 minの条件でPCRを行った。プライマーには以下のGSH1_F7とGSH1_R2とを用いた。コントロールには構成的に発現が認められるACT1遺伝子を用いた。ACT1のPCRは、ACT1FとACT1Rのプライマーセットを用い、反応液は前述と同様とし、94℃ 2 min, 1cycle、94℃ 30 sec, 55℃ 30 sec, 72℃ 60 sec, 30 cycle、72℃, 5 minの条件で行った。PCR産物を1.2%アガロースゲル電気泳動で分離した。
【0109】
【化4】
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【0110】
結果を図2に示した。図2から明らかなように、35S-Chl.GSH1 2-16は、野生型(Col-0)と比較して、GSH1の相対mRNA量が増加していることが確認された。
【0111】
35S-cyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物のGSH1遺伝子発現量を、葉緑体移行シグナルをもつGSH1遺伝子と葉緑体移行シグナルを欠損したGSH1遺伝子を合わせた全GSH1遺伝子、もしくは、宿主である野生型ゲノム由来のGSH1遺伝子とpBI121ベクターを用いて導入したGSH1遺伝子の発現量をそれぞれ定量的に調べるため、リアルタイムRT-PCR法を用いた。具体的な手順は以下の通りである。
【0112】
2週齢の形質転換シロイヌナズナの地上部から、RNeasy Plant Mini Kit (Qiagen, Valencia, CA, USA)を用いて全RNAを抽出した。1μgの全RNAからQuantiTect Reverse Transcription (Qiagen, Valencia, CA, USA)を用いてcDNA合成を行い、SYBR GREEN PCR Master Mix (Applied Biosystems, Warrington, WA1 4SR, UK)を用いてABI 7700 によりリアルタイムPCRを行った。cDNA template 1μl, 20μM forward primer 1μl, 20μM reverse primer 1μl, H2O 9μl, Master mix 12μLの反応液で、50℃ 2 min、95℃, 10 min 、95℃ 15 sec, 60℃ 60 sec, 40 cycleの条件で行った。内部コントロールとして構成的に発現が認められる18SリボゾームRNAを用いた。定量は野生型Col-0から単離したゲノムDNA、または形質転換に用いたプラスミド35S-Chl.GSH1-pBI121を鋳型にしたPCR産物より得られた検量線を用いて算出した。
【0113】
用いたプライマーの配列および組み合わせと、検出できるmRNAの種類は以下の通りである。
【0114】
【化5】
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【0115】
chl.GSH1_7SとAtGSH1_R2: 葉緑体移行シグナルを含むGSH1 mRNA
cyt.GSH1_7SとAtGSH1_R1: 全GSH1 mRNA(葉緑体移行シグナルを含むGSH1 mRNAと含まないGSH1 mRNAを合わせたもの)
AtGSH1_F2とAtGSH1_R3: 宿主ゲノム由来のGSH1 mRNA
AtGSH1_F1とNos term_R2: 導入した発現ベクター由来のGSH1 mRNA。
【0116】
葉緑体移行シグナルを含むGSH1 mRNAの発現レベルを図3に、全GSH1 mRNAの発現レベルを図4に、導入した発現ベクター由来のGSH1 mRNAの発現レベルを図5に、宿主ゲノム由来のGSH1 mRNAの発現レベルを図6にそれぞれ示した。なお、いずれの図も、数値は18SリボゾームRNA量で標準化した相対値で示している。
【0117】
図4および図5から明らかなように、野生型(Col-0)と比較して、35S-Chl.GSH1 (2-16)のGSH1の相対mRNA量が増加している。これに対し、35S-cyt.GSH1 (1-1、2-7および3-6)では、全GSH1の相対mRNA量はほとんど変わらず(図4)、図3および図6から分かるように、宿主ゲノム由来のGSH1のmRNAもほとんど変わっていない。しかし、図5に示したように、導入した35S-cyt.GSH1由来のGSH1 mRNAはわずかであるが蓄積していることが確認され、収穫指数および種子収量が向上していることがわかった(図12のBおよびC参照)。
【0118】
図7は、35S-cyt.GSH1 (1-1、2-7および3-6)における35S-cyt.GSH1由来のGSH1 mRNA量を野生型(Col-0)におけるGSH1 mRNA量(genome GSH1 mRNA)を1として相対値で示したものである。細胞質型GSH1をゲノム由来GSH1発現量の千分の一から数十分の一のオーダーで発現させることで収穫指数(図12のC)を上げることができることを示している。
【0119】
35S-5’UTRcyt.GSH1-pBI121を導入した形質転換植物のT2世代における、宿主である野生型ゲノム由来のGSH1遺伝子の発現量とpBI121ベクターを用いて導入したGSH1遺伝子の発現量をそれぞれ定量的に調べるために、リアルタイムRT-PCR法を用いた。T2世代の種子を選択マーカーであるカナマイシンを含む寒天培地(1/2倍の濃度のムラシゲ-スクーグ培地)に播種し、カナマイシン耐性を示した植物体を土壌に移植して1週間生育させた後に葉を採取し、全RNAを抽出した。1μgの全RNAからcDNAを合成し、SYBR GREEN PCR Master Mix (Applied Biosystems, Warrington, WA1 4SR, UK)を用いてABI 7500 によりリアルタイムPCRを行った。具体的な手順は、上述した35S-cyt.GSH1-pBI121と同様である。
【0120】
導入した発現ベクター由来のGSH1 mRNAの発現レベルおよび宿主ゲノム由来のGSH1 mRNAの発現レベルを図13に示した。数値は18SリボゾームRNA量で標準化し、35S-cyt.GSH1(2-7)におけるGSH1 mRNA量を1とした相対値で示している。図13に示すように、宿主ゲノム由来のGSH1のmRNA量はほとんど変化していないが(図13のB)、導入した35S-5’UTRcyt.GSH1由来のGSH1は、35S-cyt.GSH1(2-7)に比べてGSH1 mRNAの蓄積量の著しい増加が認められた(図13のA)。このように、GSH1遺伝子の5’非翻訳領域を挿入することにより植物体内でのmRNAの安定性が向上することがわかった。また、これらの植物の生育および生産性はColよりも向上していた(図15)。一方、大腸菌由来のEcGSH1を葉緑体で発現させても(図16)、細胞質で発現させても(図17)、野生型よりも莢が短くなるか、または不稔となり、明らかな種子収量の低下が認められた。
【0121】
図18は、ポットあたり3個体を植栽し、22℃、長日(16時間明期/8時間暗期)、200μE/m2/sの光強度で生育させた場合の、個体あたりの地上部バイオマス量および種子収量を計測し、収穫指数を算出した結果を示す。図より明らかなように、収穫指数を高めるためには、生育時の光強度によってGSH1の発現量が変化した形質転換体を適当に選ぶことが重要であるが、GSH1の発現量が高いほど、生育時の光強度における種子収量が高いことがわかった。
【0122】
図19は、22℃、長日(16時間明期/8時間暗期)、100μE/m2/sの光強度で植物を生育させた場合の植栽密度と個体あたりの成長性および種子収量の関係を示す。Aは植物個体あたりの種子収量を示す。Bは単位区画(47.25cm2)あたりの播種種子粒数を変化させることによる、地上部バイオマスの状態の違いを示す。Cは、播種種子粒数を変化させた際の、地上部バイオマス量および種子収量の変動を示す。Cの左図は、植物個体あたりの地上部バイオマス量および種子収量の変動を示し、右図は、単位区画あたりの地上部バイオマス量および種子収量の変動を示す。示すように、通常の植物は、個体の植栽密度が高まると、個体あたりのバイオマス生産性が低下し、単位面積当たりのバイオマス生産性は頭打ちとなる。こうした条件で植物由来のGSH1導入した植物と野生型植物のバイオマス量および種子収量を比較した結果を図20に示す。AおよびBは、植栽密度がそれぞれ低い場合(単位区画(47.25cm2)あたり0.5個体)および高い場合(単位区画(47.25cm2)あたり5個体)の結果を示し、単位区画あたりの地上部バイオマス量(左図上段)、種子収量(右図上段)、収穫指数(左図下段)の、野生型Colに対する増加率を示す。植物由来のGSH1導入によるバイオマス量および種子収量の増加は、植栽密度が高いほど効果的に増加することを示している。単位面積あたりの収穫量が最大となるように植栽密度を高めている作物であっても、このように植物由来のGSH1遺伝子を導入することによりその収穫量を効果的に増加させることができる。
【0123】
図21には、植物由来のGSH1遺伝子を導入した植物における、単位面積あたりの種子収量(A)、単位面積あたりの総バイオマス量(B)の、野生型Colに対する増加率を示し、Cは収穫指数(種子収量/総バイオマス量)を示す。細胞質にGSH1を発現させた場合には、種子の数が増加していることも明らかになった(図21)。なお、各個体から得られる平均種子数は、野生型1482個に対して、35S-chl.GSH1 2-16は1486個、35S-cyt.GSH1 2-7-1は2317個、35S-cyt.GSH1 3-6-1は1815個であり、野生型に対する増加率(%)はそれぞれ0.3%、56.3%、22.5%であった。
【0124】
図22は、長日(16時間明期/8時間暗期)、光強度100μE/m2/sまたは200μE/m2/sで生育させた場合の野生型植物の植栽密度と種子収量の関係を示す。野生型植物では、単位面積(47.25cm2)あたりの植栽数が2~3の場合に種子収量が最大になることがわかるなお、それぞれの密度で得られる種子収量は、最大値を1とした相対値で示している)。図23および24に示す結果は図22で示した植栽密度で得られた結果であり、植物由来のGSH1遺伝子の導入することで、種子収穫量の最大値が上昇することが分かる。また、この効果はグルタチオン結合型アルドラーゼ(gFBA)を導入した植物では、さらに効果が高くなることを示す。図23および24の植物は、それぞれ光強度100μE/m2/sおよび200μE/m2/sで生育させた。Aは、単位面積あたりの種子収量、Bは、単位面積あたりの総バイオマス量、Cは収穫指数を示す。なお、gFBAの過剰発現体の作製についてはWO2007/091634に記載の手順に従った。
【0125】
図25には、35S-cyt.GSH1-pBI121を導入したキクの鉢あたりの総花数を示す。100mLのクレハ園芸培土での形質転換体を、2Lの培養土(下層バーミキュライト1L、中層クレハ園芸培土0.5L、上層バーミキュライト0.5L)を詰めた鉢に植え替え、3~4週間おきにくみあい燐硝安加里S-604号3gを追肥した。グリーンハウスで加温して最低27℃に設定し、自然日長で開花させた。鉢植えの植替え時期や苗のロットで4つの実験区を設けた。AおよびBは6月末に植え替え、CおよびDは7月末に植え替えた場合の鉢あたりの総花数を示す。自然日長で開花させたキクは、植替え時期に応じて開花数に違いが生じるが、図25に示すように、35S-cyt.GSH1植物の方が花数が増していることが明らかであり、本発明の効果は植替え時期に依存しないことがわかる。なお、35S-cyt.GSH1-pBI121のキクの形質転換体作製については
http://www.affrc.go.jp/ja/db/seika/data_flower/h13/flower01004.htmlに記載の手順に従った。
【0126】
(4)γ-グルタミルシステインシンセターゼ(γ-ECS)活性の測定
3齢週のシロイヌナズナ(Col-0, 35S-Chl.GSH1 2-16)の植物体を0.2mM EDTA、10% glycerol、10mM MgCl2を含む50mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)中で破砕し、遠心分離して得られた上清からMicrocon YM-10 (Amicon, Inc., Beverly, MA, USA)を用いて低分子を除いたものを酵素液とした。酵素液を反応液[120mM HEPES (pH 8.0)、60mM MgCl2、6mM ATP、6mM PEP、6 units pyruvate kinase、5mM DTE、48mM L-glutamate、40mM L-cysteine]に加え30℃で反応させた。反応はL-cysteine 添加で開始しトリクロロ酢酸添加で停止させた。反応液はMicrocon YM-3 (Amicon, Inc., Beverly, MA, USA)を用いて高分子を除いた後、逆相C18カラムを用いたHPLC (Shiseido, Tokyo, Japan)で分離し、γ-ECをmodel 5200A Coulochem II electrochemical detector (ESA, Inc., Chelmsford, MA, USA)で検出した。移動相の組成は、50mM sodium phosphate monobasic monohydrate (pH 2.7)、1.0mM octanesulfonic acid、2.7% methanolとした。
【0127】
結果を図8に示した。35S-Chl.GSH1 (2-16)では、GSH1遺伝子産物γ-ECS活性が野生型と比較しておよそ2倍になっていることがわかった。
【0128】
(5)グルタチオン(GSH)定量
5-1 方法1
25、50、100、200、500μE/m2/sの光条件下で生育させた3齢週のシロイヌナズナ(Col-0, 35S-Chl.GSH1 2-16)の地上部を5%トリクロロ酢酸中で破砕し、遠心分離して得られた上清に等量のジエチルエーテルを加えて懸濁し、エーテル層を取り除きトリクロロ酢酸を除去した。これを3回繰返した後、遠心エバポレーターで完全にエーテルを除去し測定に用いた。測定はEllmanの方法(Ellman, G.L. (1959) Tissue sulfhydryl goups. Arch. Biochem. Biophys. 82: 70-77)に従いグルタチオンレダクターゼ-DTNB (5,5’-Dithiobis 2-nitrobenzonic acid)リサイクル法により行った。抽出液を反応液[5mM EDTA、0.25mM NADPH、0.75units glutathione reductaseを含む10mM sodium phosphate緩衝液(pH7.5)]に加え、5mM DTNBを添加し反応を開始した。2-nitro-5-thiobenzonic acidの生成を412nmの吸光度増加の初速から求めた。全GSH量は標準物質を用いて作製した検量線により算出した。
【0129】
結果を図9に示した。35S-Chl.GSH1 形質転換植物はどの光強度下においても、野生型と比較して内生グルタチオン量が増加していることがわかった。
【0130】
5-2 方法2
2齢週のシロイヌナズナ(Col-0, 35S-cyt.GSH1 1-1, 2-7, 3-6)の地上部を液体窒素中で粉末状に破砕した後、10倍量の抽出バッファー(0.1 M HCl: (0.1 M NaClO4, 0.1% H3PO4) = 1:1)を添加し、氷中で融解、混合し、遠心分離した。得られた上清はMicrocon YM-3 (Amicon, Inc., Beverly, MA, USA)を用いて高分子を除いた後、逆相C18カラム(Shiseido, Tokyo, Japan)を用いたHPLC で分離し、還元型グルタチオン(GSH)および酸化型(GSSG)をLaChrom UV-VIS Detector L-7420 (Hitachi, Japan)で検出した。移動相の組成は、0.1 M NaClO4、0.1% H3PO4、1% acetonitrileとした。グルタチオン量は標準物質を用いて作製した検量線により算出した。
【0131】
結果を図10に示した。35S-cyt.GSH1 形質転換植物の内生グルタチオン量は野生型とほとんど変わらなかった。
【0132】
(6)種子収量、バイオマス量の測定、並びに、花の数および種子の数
シロイヌナズナ(Col-0, 35S-Chl.GSH1 2-16, 35S-cyt.GSH1 1-1, 2-7, 3-6)をポットに播種し、22℃、長日条件下で生育させた。図11に、播種後33日目のCol-0、並びに35S-cyt.GSH1 2-7および 3-6の植物体の写真を示した。図11から明らかなように、35S-cyt.GSH1 2-7および 3-6は既に開花しているが、Col-0は未だ開花に至っていない。すなわち、35S-cyt.GSH1 形質転換植物は親植物(Col-0)に比べて成長速度が速いことが分かる。
【0133】
植物体が抽だい・開花し、有限花序になった先端部分で種子が形成されたところで地上部に袋をかけて、種子および地上部を回収した。乾燥後、個体当りの種子および地上部の重量(地上部バイオマス量)を測定した。
【0134】
結果を図12のA~Dに示した。図中のアスタリスクはCol野生型(親植物)と比較して、統計学的に有意差があることを示している。具体的には、t-検定を実施した結果p<0.05で有意であることを示している。
【0135】
図12のAは種子以外の地上部バイオマス量を比較したグラフである。35S-Chl.GSH1 2-16はCol野生型(親植物)と比較して増加傾向が認められたが、有意差はなかった。ただし、図12のDに示したように、35S-Chl.GSH1 2-16の種子を含む地上部バイオマス量は、Col野生型(親植物)と比較して有意に増加していた。一方、35S-cyt.GSH1形質転換植物のバイオマス量は、いずれもCol野生型(親植物)と同程度であった。図12のBは種子重量を比較したグラフである。Col野生型(親植物)と比較して35S-Chl.GSH1 2-16および35S-cyt.GSH1 1-1が有意に増加していた。図12のCは、収穫指数を比較したグラフである。収穫指数は種子重量/地上部バイオマス量(種子以外)で算出した。収穫指数は、Col野生型(親植物)と比較して、35S-Chl.GSH1 2-16, 35S-cyt.GSH1 1-1, 2-7が有意に増加しており、35S-cyt.GSH1 3-6も増加傾向を示した。
【0136】
種子の大きさの平均値は、Col野生型(親植物)と比較して、35S-Chl.GSH1 2-16、35S-cyt.GSH1 3-6、2-7、1-1の順に小さくなっていた。したがって、収穫指数との関係から、各形質転換植物の個体当たりの種子数は、Col野生型(親植物)より大幅に増加していることが示された。
【0137】
また、シロイヌナズナは無限花序であるため、生育を続ける限り茎頂分裂組織では花芽を作り続ける。上述したように35S-cyt.GSH1 形質転換植物は親植物(Col-0)に比べて成長速度が速いことから、同一期間内に得られる花の数は親植物より多いことが示される。なお、35S-Chl.GSH1 形質転換植物も35S-cyt.GSH1 形質転換植物と同様に親植物(Col-0)に比べて成長速度が速いことが確認されている。
【0138】
以上の結果から、35S-Chl.GSH1 形質転換植物は、花の数、種子の数、バイオマス量および種子重量がいずれも増加し、その結果収穫指数が増加することが明らかとなった。一方、35S-cyt.GSH1 形質転換植物は、バイオマス量は大幅に増加しないが、花の数、種子の数および種子重量が増加し、その結果収穫指数が増加することが明らかとなった。
【0139】
本発明により、花の数・種子の数を増加させることができる。その結果、種子収量や収穫指数の向上した生産性の高い植物を提供できるという効果を奏する。
【0140】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内において、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、植物の花の数または種子の数を増加させることができる。それゆえ、例えば、鑑賞用の草花や食糧用の植物だけでなく、森林やバイマスエネルギー用の植物資源において花の数や収量を増加させることができる。したがって、農林業だけでなく、食品産業、エネルギー産業等の広範な産業に利用可能である。
図面
【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図25】
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【図2】
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【図3】
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【図11】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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