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明細書 :腸管癒着抑制剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5530635号 (P5530635)
登録日 平成26年4月25日(2014.4.25)
発行日 平成26年6月25日(2014.6.25)
発明の名称または考案の名称 腸管癒着抑制剤
国際特許分類 A61K  38/27        (2006.01)
A61K  39/395       (2006.01)
A61P  41/00        (2006.01)
FI A61K 37/36
A61K 39/395 U
A61P 41/00
請求項の数または発明の数 1
全頁数 29
出願番号 特願2008-558089 (P2008-558089)
出願日 平成20年2月13日(2008.2.13)
国際出願番号 PCT/JP2008/052299
国際公開番号 WO2008/099829
国際公開日 平成20年8月21日(2008.8.21)
優先権出願番号 2007033904
優先日 平成19年2月14日(2007.2.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年9月30日(2010.9.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】善本 知広
【氏名】中西 憲司
【氏名】藤元 治朗
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】小森 潔
参考文献・文献 特表平11-511160(JP,A)
特表2003-517007(JP,A)
Surgery,2006年,Vol.140,No.3,p441-447
KUROIWA, T., et al.,Hepatocyte growth factor ameliorates acute graft-versus-host disease and promotes hematopoietic function,The Journal of Clinical Investigation,2001年 6月,Vol.107, No.11,p.1365-1373
REED, K.L., et al.,A neurokinin 1 receptor antagonist decreases postoperative peritoneal adhesion formation and increases peritoneal fibrinolytic activity,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2004年 6月15日,Vol.101, No.24,p.9115-9120
PITTAWAY, D.E., et al.,A comparison of the CO2 laser and electrocautery on postoperative intraperitoneal adhesion formation in rabbits,FERTILITY AND STERILITY,1983年 9月,Vol.40, No.3,p.366-368
森本悟一,電気メス使用の結腸縫合創治癒に及ぼす影響に関する実験的研究,日本消化器外科学会雑誌,日本,1980年10月,Vol.13, No.10,p.1174-1185
玉熊正悦, 他.,現代医療,日本,(株)現代医療社,1982年12月10日,Vol.14, No.12,p.2407-2411
調査した分野 A61K 38/18
A61K 39/395
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
HGF及びIFN-γ中和抗体からなる群より選ばれる少なくとも1つのIFN-γ阻害物質を含むことを特徴とする腸管が侵襲される手術の1日前から当該手術の術前までの間のみに静脈注射又は皮下注射によって投与するための腸管癒着抑制剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、実験動物の腸管癒着を形成する方法、腸管癒着実験動物の製造方法、腸管癒着抑制剤のスクリーニング方法及び腸管癒着抑制剤に関するものである。具体的には、制御された熱量で焼灼することによる、実験動物の腸管癒着を形成する方法及び腸管癒着実験動物の製造方法、当該実験動物の腸管癒着を形成する方法を利用する腸管癒着抑制剤のスクリーニング方法及び腹腔内手術後の腸管癒着を抑制する腸管癒着抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腹腔内手術の術後に生じる腸管癒着は、しばしば腸閉塞等の術後合併症を引き起こし、問題となっている。なお、本明細書において「腸管癒着」とは、腸管癒着症の症状を意図し、具体的には、腸管の一部と当該腸管の他の部位との癒着及び腸管と他の臓器との癒着を意図する。
【0003】
現在、腹腔内手術後に腸管癒着が形成されるメカニズムについて盛んに研究されている。例えば非特許文献1に記載のように、従来、腹腔内手術後の腸管癒着は、Th1免疫応答によって発症すると考えられてきた。
【0004】
また、腸管を手術侵襲することによって誘導され析出するfibrinに対して、線溶系が亢進すると癒着が回避されて、凝固系が亢進すると癒着が促進されることも報告されている。なお、線溶系を亢進する重要な因子として、tissue plasminogen activator(以下、「tPA」と表記する)が知られており、凝固系を亢進する重要な因子としてplasminogen activator inhibitor 1(以下、「PAI」と表記する)が知られている(例えば非特許文献2等を参照)。
【0005】
また、神経伝達因子の一つであるSubstance Pは、手術侵襲によって誘導されて、線溶系を低下させることにより、腸管癒着を誘導及び/又は促進することが報告されている(例えば非特許文献3等を参照)。非特許文献3では、Substance Pの受容体の一つであるNK-1Rのアンタゴニストを用いて、腸管癒着を抑制することができたと開示されている。また、特許文献1には、HGFが腸管癒着の治療に使用できることが記載されている。なお、特許文献2には、HGFを用いて皮下組織と臓器との癒着を形成することが開示されている。
【0006】
一方、腹腔内の手術後の腸管癒着を予防する方法としては、従来、侵襲部位に外科用癒着防止シートを置くことで腸管同士の接触や腸管と他の臓器との接触を遮断する方法が行なわれてきた。
【0007】
以上のように、現在、腹腔内手術の術後に生じる腸管癒着の形成に関するメカニズムやその予防法が盛んに研究されている。このような腸管癒着に関する研究では、人為的にマウス等の実験動物に腸管癒着を形成させることが不可欠である。
【0008】
従来、実験動物の腸管癒着を形成する方法としては、例えば腸管をガーゼ等で摩擦する方法(例えば非特許文献1等参照)、腸管を鉗子で結紮する方法等が用いられてきた。また、組織を癒着する方法に関しては、特許文献3及び4に開示されている。特許文献3には、胃食道接合における組織再生を行なう方法が開示されている。具体的には、傷口を電気焼灼カテーテルで傷つけた後に、傷つけた組織表面を密着状態に固定しておく方法が開示されている。特許文献4には、骨組織に超音波振動等の機械的振動を加えて、組織再生を促進する方法が開示されている。

【特許文献1】日本国公表特許公報「特表2003-517007号(2000年3月21日公表)」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2006-333942号(2006年12月14日公開)」
【特許文献3】日本国公表特許公報「特表2003-533319号(2003年11月11日公表)」
【特許文献4】日本国公表特許公報「特表2007-500521号(2007年1月18日公表)」
【非特許文献1】Chung DR., Chitnis T., Panzo RJ., Kasper DL., Sayegh MH., Tzianabos AO., CD4+T cells regulate surgical and postinfectious adhesion formation, J. Exp. Med., 2002, 195, 1471-1478
【非特許文献2】Holmdahl L., The role of fibrinolysis in adhesion formation, Eur. J. Surg. Suppl., 1997, 577, 24-31
【非特許文献3】Reed KL., Fruin AB., Gower AC., Stucchi AF., Leeman SE., Becker JM., A neurokinin 1 receptor antagonist decreases postoperative peritoneal adhesion formation and increases peritoneal fibrinolytic activity, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 2004, 101, 9115-9120
【発明の開示】
【0009】
しかしながら、従来の腸管癒着を形成する方法では、形成される腸管癒着の程度の再現性が低いという問題を生じる。
【0010】
つまり、上述のガーゼで摩擦する方法等では、腸管に対して与える侵襲の程度の再現性が極めて低い。また、特許文献1及び2には傷口を治癒するための発明が開示されているのみであり、腸管癒着を形成するための発明は開示されていない。そのため、所望の程度の腸管癒着を再現性良く形成することができず、腸管癒着に関する研究を充分に進めることができなかった。
【0011】
実際に、これまで腹腔内の手術後における腸管癒着のメカニズムに関しては、解明されていない事項も多く、また、誤って認識されている事項も存在した。例えば、後で詳述するように、本発明者らの検討により、腸管癒着は従来考えられていたTh1免疫応答ではないことが判明した。
【0012】
このような事情から、顕著な予防、治療効果を奏する薬剤や方法は得られていない。例えば、上述したNK-1Rのアンタゴニストは、実験的にデータが示されただけであり、全く実用化されていない。侵襲部位に外科用癒着防止シートを置く方法等では、腸管癒着を抑制する効果や、予防する効果が充分でない。また、特許文献1にはどのようにHGFを使用すれば腸管癒着を抑制できるのか一切開示されていない。特許文献2は皮下組織と臓器との癒着を抑制することが開示されているのみであり、腸管癒着の治療に資する発明は開示されていない。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の程度の腸管癒着を再現性良く形成可能な、実験動物の腸管癒着を形成する方法及び腸管癒着実験動物の製造方法を提供することにある。さらには、腸管癒着抑制剤を効率的にスクリーニングすることが可能な腸管癒着抑制剤のスクリーニング方法及び腸管癒着を抑制可能な腸管癒着抑制剤を提供することにある。
【0014】
本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法は、上記課題を解決するために、実験動物の腸管を焼灼する焼灼工程を含み、上記焼灼工程では、上記腸管に与えられる侵襲の程度が一定になるように熱量を制御することを特徴としている。
【0015】
本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法では、上記焼灼工程は、電気メスを用いて行なわれることがより好ましい。
【0016】
本発明に係る腸管癒着実験動物の製造方法は、上記課題を解決するために、実験動物の腸管を焼灼する焼灼工程を含み、上記焼灼工程では、上記腸管に与えられる侵襲の程度が一定になるように熱量を制御することを特徴としている。
【0017】
本発明に係る腸管癒着抑制剤のスクリーニング方法は、上記課題を解決するために、下記の(i)~(iii)の工程を含み、(i)実験動物の腸管の少なくとも一部の部位を焼灼する工程;(ii)上記実験動物に被験物質を投与する工程;(iii)腸管癒着の形成を確認する工程;上記(i)の工程では、上記腸管に与えられる侵襲の程度が一定になるように熱量を制御することを特徴としている。
【0018】
本発明に係る腸管癒着抑制剤は、上記課題を解決するために、インターフェロンγ(以下、「IFN-γ」と表記する)阻害物質を含み、腸管が侵襲される手術の1日前から当該手術の30分後までの間に投与されることを特徴としている。
【0019】
本発明に係る腸管癒着抑制剤では、上記IFN-γ阻害物質は、HGF、IFN-γ中和抗体、タキキニン阻害物質、及びiNKT細胞が有するIFN-γを産生する機能を阻害する物質のうち少なくとも一つであることがより好ましい。
【0020】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明によって明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】癒着の形成の程度がadhesion score0~5の場合の、腸管を撮影した結果を示す図である。
【図2】手術類似侵襲施術後経時的に、BALB/c群の腸管細胞の組織をHE染色(上段)及びSirius red染色(下段)した結果を示す図である。
【図3】腸管癒着のための手術類似侵襲施術1週間後の、BALB/c群及びanti-CD4Ab群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図である。
【図4】手術類似侵襲施術1週間後の、BALB/c群及びanti-CD4Ab群の腸管細胞の組織をSirius red染色した結果を示す図である。
【図5】腸管癒着のための手術類似侵襲施術後の、NKT-/-群及びNKT-/-+WTCD4T群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図である。
【図6】腸管癒着形成のための手術類似侵襲施術後の、NKT-/-及びNKT-/-+WTCD4Tの腸管細胞の組織をSirius red染色した結果を示す図である。
【図7】BALB/c群に腸管癒着形成のための手術類似侵襲を施術した後の腸管IFN-γmRNAの発現量を経時的に測定した結果を示す図である。
【図8】腸管癒着形成のための手術類似侵襲施術後のC57BL/6群、IFN-γ-/-群及びIFN-γ-/-+IFNγ群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図である。
【図9】腸管癒着形成のための手術類似侵襲施術後の、NKT-/-+IFNγ-/-CD4T群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図である。
【図10】腸管癒着形成のための手術類似侵襲施術後の、NKT-/-+IFNγ-/-CD4Tの腸管細胞の組織をSirius red染色した結果を示す図である。
【図11】腸管癒着形成のための手術類似侵襲施術後の、STAT1-/-群、STAT4-/-群及びSTAT6-/-群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図であり、図11の(a)は、STAT1-/-群の結果を示し、図11の(b)は、STAT4-/-群及びSTAT6-/-群の結果を示す。
【図12】腸管癒着形成のための手術類似侵襲施術後の、STAT1-/-、STAT4-/-及びSTAT6-/-の腸管細胞の組織をSirius red染色した結果を示す図である。
【図13】Tac1-/-群に対して腸管癒着形成のための手術類似侵襲を施術した結果を示す図であり、図13の(a)は、Tac1-/-群の腸管癒着の程度を評価した結果を示し、図13の(b)は、Tac1-/-群に対して上記手術類似侵襲を施術し、3時間後の腸管IFN-γmRNAの発現量を測定した結果を示す。
【図14】BALB/c群に腸管癒着形成のための手術類似侵襲を施術した後の腸管におけるtPAmRNA及びPAImRNAの発現量、血漿中のtPA及びPAIの蛋白量を経時的に測定した結果を示す図であり、図14の(a)はPAImRNAの発現量を測定した結果を示し、図14の(b)はtPAmRNAの発現量を測定した結果を示し、図14の(c)は血漿中のPAIの量を測定した結果を示し、図14の(d)は血漿中のtPA値を測定した結果を示す。
【図15】STAT1-/-群に腸管癒着形成のための手術類似侵襲を施術し、日後の腸管PAImRNAの発現量を測定した結果を示す図である。
【図16】IFN-γ産生の抑制による腸管癒着形成の抑制を確認した結果を示す図であり、図16の(a)、図16の(b)及び図16の(c)は、それぞれ、PBSのみを投与したBALB/c群及びHGFを投与したBALB/c群における腸管癒着形成のための手術類似侵襲施術後の、腸管癒着の程度を評価した結果、IFN-γmRNAの発現量を測定した結果、PAImRNAの発現量を測定した結果を示す。
【図17】HGFの投与時期と腸管癒着形成との関係を調査した結果を示す図である。
【図18】IFN-γ中和抗体による腸管癒着抑制効果を確認した結果を示す図であり、図18の(a)はPAImRNAの発現量を示し、図18の(b)は腸管癒着をAdhesion Scoreにより評価した結果を示す。
【図19】タキキニンがIFN-γの産生を誘導するか確認した結果を示す図であり、図19の(a)はSPの結果、図19の(b)はNKA及びNPKの混合物、又はSP、NKA及びNPKの混合物の結果を示す。

【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
〔実験動物の腸管癒着を形成する方法〕
本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法は、実験動物の腸管を焼灼する焼灼工程を含み、上記焼灼工程では、上記腸管に与えられる侵襲の程度が一定になるように熱量を制御すればよい。
【0024】
また、本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法は、実験動物の腸管を焼灼する焼灼工程を含み、上記焼灼工程では、上記実験動物が有する腸管に、上記実験動物が有する腸管に、IFN-γの発現を誘導する熱量の熱を与えてもよい。
【0025】
焼灼された部位は、組織再生の際に、腸管の他の部位又は他の臓器と接触することで、これらと癒着する。また、当該部位に与えられる熱量を制御して、腸管に与えられる侵襲の程度を、侵襲する部位毎に、及び/又は実験動物の個体毎に、一定にすることで、所望の程度の腸管癒着を高い再現性で形成することができる。
【0026】
ここで「実験動物」とは、実験で用いる動物であれば特に限定されるものではない。例えば、ラット、マウス、ウサギ、サル等の哺乳動物が挙げられる。特に、マウス、ラット等の齧歯目動物は、実験動物・病態モデル動物として広く用いられている。なかでも近交系が多数作出されており、受精卵の培養、体外受精等の技術が整っているマウスが実験動物・病態モデル動物として好ましい。また、上記実験動物は、実験の目的に応じて遺伝子を欠損させた遺伝子欠損動物(ノックアウト動物)、外来性の遺伝子が導入されたトランスジェニック動物などであってもよい。
【0027】
上記焼灼工程では、実験動物を開腹して、腸管癒着の形成を目的とする部位を焼灼すればよい。腸管を焼灼した後は閉創して、しばらく時間が経過すれば当該実験動物に腸管癒着が形成される。腸管を焼灼してから、腸管癒着が形成されるまでの時間は、実験動物の種類や臓器の種類によって異なるが、例えば、実験動物としてマウスを用いた場合、5日~7日後には腸管癒着が形成される。後に述べる実施例では、正常マウスの盲腸に対して本発明に係る実験動物に腸管癒着を形成させる方法を施した場合、7日後には腸管癒着の形成が確認された。
【0028】
上記焼灼工程における上記腸管に与える熱量は、腸管に与えられる侵襲の程度が一定になるように制御すればよい。例えば、一定の量の熱量を、一定時間付加すれば、腸管に与えられる侵襲の程度が一定となるように制御できる。例えば、後述のように電気メス等を用いて、電熱により焼灼すれば、電圧及び/又は電流によって、所望の熱量に制御可能である。そして、当該電気メスの先端を腸管に接触させる時間を一定にすれば、腸管に与えられる侵襲の程度が一定となる。
【0029】
上記焼灼工程で、焼灼する部位の位置や面積は、焼灼による損傷で腸管癒着が形成できなくならない限り、限定されるものではなく、形成を目的とする腸管癒着の位置や程度等に応じて設定すればよい。例えば、後述の電気メスを用いる場合、腸管癒着の形成を目的とする位置に、当該電気メスの先端を接触させるだけでもよい。
【0030】
腸管を焼灼するために用いる器具としては、発生する熱量を調整することが可能であれば、特に限定されるものではない。例えば、モノポーラ電気メス、バイポーラ電気メス等の電気メスが好ましい。電気メスを用いて焼灼を行なえば、電流及び/又は電圧によって定量的に発する熱量を制御することができる。これにより、腸管に与える侵襲の程度が一定になるように制御しやすくなる。また、電流及び/又は電圧の微調整が可能であるため、焼灼により腸管に加えられる熱量の微調整も可能となる。よって、より高い再現性で、所望の程度に腸管癒着させることができる。また、焼灼する部位の微細な位置調整も可能であるため、所望の部位に腸管癒着を形成することができる。
【0031】
従来は、上述のようにガーゼで摩擦したり、鉗子で結紮したりする等の方法が用いられ、形成される腸管癒着の程度の再現性を高める工夫がなされてこなかった。しかし、本発明者らは、侵襲の程度が一定になるように、焼灼による熱量を制御することで、再現性良く所望の程度の腸管癒着を形成することができることを見出した。そして、電気メス等を用いて電熱による侵襲を施せば、電流及び/又は電圧の定量的な調整により、侵襲の程度を再現性良く制御できることを見出し、本発明に想到した。また、そもそも、人為的に腸管癒着を形成するために電気メスを用いることが可能であるとは、当業者といえども想到し得ない技術的思想である。本発明は、このような新たな知見、技術的思想に基づく、当業者といえども容易に想到し得ない発明である。
【0032】
また、上記焼灼工程では、上記実験動物が有する腸管に、IFN-γの発現を誘導する熱量の熱を与えることが好ましい。IFN-γの発現が誘導されると、腸管癒着が形成される。これは本発明者らが見出した全く新たな知見である。より具体的には、IFN-γの発現を誘導する熱量の熱が加えられると、神経ペプチドの一種であるタキキニン(tachykinin)が神経末端から放出される。次に、iNKT細胞がタキキニンによる刺激を受けてIFN-γを産生する。IFN-γは、STAT1を介して、PAI発現を著明に誘導する結果、腸管癒着が形成されるのである。
【0033】
一方、ガーゼで摩擦する方法、特許文献3及び4に開示されている従来の方法ではIFN-γの発現が誘導されるとは限らない。従来の方法では、癒着を形成させる部位に傷をつけたり、炎症を引き起こしたりした上で、傷、炎症等から回復する際の組織再生機能を利用する。しかし、傷、炎症を再現性良く与えることは困難である。
【0034】
本発明では、IFN-γの発現に基づいて、ひいてはPAIの発現に基づいて腸管癒着を形成させることができるので、また、熱量であれば従来公知の熱を供給する装置(電気メス等)を用いれば定量的に制御できるので、所望のIFN-γの発現量に応じた熱量の熱を、複数の実験動物に等しく与えることにより再現性良く腸管癒着を形成できる。
【0035】
なお、「IFN-γの発現を誘導する」とは、IFN-γの発現量を増加させることを意味し、当該実験動物では元々IFN-γが発現していてもよくしていなくてもよい。
【0036】
また、「IFN-γの発現を誘導する熱量」とは、当業者であれば本明細書の記載に基づいて見出すことができる。即ち、実験動物に対して、任意の熱量を加えた後にIFN-γの発現が増加したか否かを確認すればよい。IFN-γの発現が誘導されたか否かを確認する方法、つまり、IFN-γの発現の増加を確認する方法については特に限定されないが、例えば後述の実施例に記載の方法に従ってもよい。また、DNAチップを用いてIFN-γをコードする遺伝子の発現量の増加を確認してもよいし、IFN-γの抗体を用いたエライザ法等を利用してもよい。また、IFN-γの発現の増加を確認する時期については特に限定されないが、焼灼の直後から1~8時間後後が好ましく、1~4時間後がさらに好ましく、3時間後が最も好ましい。例えば、以下に示す電力等の条件によれば、IFN-γの発現を好適に誘導できる。
【0037】
電気メスを用いる場合の使用条件は、形成させる腸管癒着の程度等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば28~32ワットが好ましく、さらに好ましくは29~31ワットである。28~32ワットにすることで、後述する腸管癒着抑制剤等の投与や遺伝子改変等を施していない正常なマウスであれば、好適に腸管癒着を形成することができ、また、焼灼する部位が過度に加熱されて損傷することを防ぐことができる。
【0038】
また、電気メスを用いる場合、焼灼する部位に当該電子メスを接触させる時間は、電気メスのワット数や、形成させる腸管癒着の程度等に応じて設定すればよく、特に限定されるものではないが、例えば1.0~1.3秒であることが好ましく、さらに好ましくは1.0~1.1秒である。1.0~1.3秒であれば、後述する腸管癒着抑制剤等の投与や遺伝子改変等を施していない正常なマウスであれば好適に腸管癒着を形成することができ、また、焼灼時間が長すぎることによる過度な加熱や、腸管が長時間、外気に露出されることを防ぐことで、腸管の損傷を防ぐことができる。
【0039】
また、電気メスの周波数は300~700kHzが好ましく、さらに好ましくは400~600kHzである。この範囲であれば、腸管が過度に損傷することを防ぐことができる。本発明者らは後述の実施例において500kHzとしている。
【0040】
本発明に係る腸管癒着実験動物の製造方法は、実験動物の腸管を焼灼する焼灼工程を含み、上記焼灼工程では、実験動物が有する腸管に、IFN-γの発現を誘導する熱量の熱を与えればよい。具体的には、上述の本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法に関する説明に順じて行なえばよい。
【0041】
〔腸管癒着抑制剤のスクリーニング方法〕
本発明に係る腸管癒着抑制剤のスクリーニング方法は、下記の(i)~(iii)の工程を含み、(i)実験動物の腸管の少なくとも一部の部位を焼灼する工程;(ii)上記実験動物に被験物質を投与する工程;(iii)腸管癒着の形成を確認する工程;上記(i)の工程では、上記実験動物が有する腸管に、IFN-γの発現を誘導する熱量の熱を与えればよい。
【0042】
本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法によれば、再現性高く実験動物に腸管癒着を形成することができる。そのため、投与する被験物質による、形成される腸管癒着の程度の差を、正確に判定することができる。よって、腸管癒着抑制剤のスクリーニングを正確に行なうことができる。
【0043】
上記(i)の工程は、上述の本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法の説明に準じて行なえばよい。
【0044】
上記(ii)の工程は、上記(i)の工程の前後のいずれに行なってもよく、限定されるものではない。例えば、上記被験物質の使用用途が術前投与である場合は、上記(ii)の工程を、上記(i)の工程の前に行なえばよく、術後投与である場合は、上記(ii)の工程を、上記(i)の工程の後に行なえばよい。
【0045】
また、上記(ii)の工程において、被験物質を投与する方法は、被験物質の種類、用途に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、後の実施例ではHGFを皮下注射した。また、静脈注射等によって投与してもよい。
【0046】
上記(iii)の工程は、上記(i)及び(ii)の工程の後に行なえばよい。また、上記(iii)の工程で腸管癒着の形成を確認する方法としては特に限定されるものではなく、上記(i)の工程で焼灼した部位を肉眼で観察して評価すればよい。例えば、本発明者らは後の実施例で述べるように、肉眼で観察した上で、形成された腸管癒着の程度をadhesion scoreを用いて評価した。
【0047】
〔腸管癒着抑制剤〕
本発明に係る腸管癒着抑制剤は、IFN-γ阻害物質を含むものであればよい。また、投与時期については、腸管が侵襲される手術の1日前から当該手術の30分後までの間がよい。
【0048】
本発明者らが検討したところ、後の実施例で詳述するように、CD4NK1.1T細胞(invariant NKT細胞;以下、「iNKT細胞」と表記する)で産生されるIFN-γが、腸管癒着の形成を促進することが判明した。そして、本発明者らは、iNKT細胞におけるIFN-γの産生を阻害することで、腹腔内の手術後の腸管癒着を抑制することができることを見出した。そもそも腸管癒着の形成は、従来、上述のようにTh1の免疫応答であると考えられていた。後述のようにこれは誤った認識である。この認識では、IFN-γの産生を抑制することで腸管癒着を抑制できることに、誰も想到しなかったであろう。本発明者らは、このような認識があったにもかかわらず、独自に腸管癒着形成のメカニズムを後述の実施例に記載のように検討し、本発明に係る腸管癒着抑制剤を完成させた。つまり、本発明に係る腸管癒着抑制剤は、全く新たな知見に基づく当業者といえども容易に想到し得ない発明である。
【0049】
また、腸管癒着の要因となるIFN-γは、手術から1~5時間後、特に3時間後に発現量が向上することを本発明者らは見出した。そこで、IFN-γの発現を事前に抑制することで、腸管癒着の形成を抑制するために、本発明に係る腸管癒着抑制剤の投与時期は、腸管が侵襲される手術の1日前から当該手術の30分後までの間に投与されるものであればよい。この期間に投与されることにより、腸管癒着の要因となるIFN-γの産生を阻害し、腸管癒着を良好に抑制できる。
【0050】
また、本発明者らは、マウスを用いて、手術後1~5時間後、特に3時間後にIFN-γの発現量が向上することを見出したが、この時間はヒト等の哺乳動物においても同様である。また、腸管に侵襲が与えられてから腸管癒着が形成されるまでの時間については、マウス、ヒトにおいて同様であることが知られている。従って、本発明に係る腸管癒着抑制剤は、マウス、ヒト等の様々な哺乳動物に対して適用可能である。
【0051】
なお、iNKT細胞とは、CD4T細胞のうちの一つである。CD4T細胞は、iNKT細胞及びCD4NK1.1T細胞(conventional T細胞)に分類される(Yoshimoto T. and Paul WE. CD4pos, NK1.1pos T cells promptly produce interleukin 4 in response to in vivo challenge with anti-CD3, J. Exp. Med., 1994, 179,1285-1295)。
【0052】
ここで、「IFN-γ阻害物質」はIFN-γの正常な機能を損なわせるように作用する物質であれば特に限定されない。また、IFN-γの産生を阻害する物質であってもよい。従って、「IFN-γ阻害物質」には、IFN-γ遺伝子からの転写を阻害する物質、IFN-γmRNAからの翻訳を阻害する物質、IFN-γタンパク質の成熟を阻害する物質、成熟したIFN-γタンパク質の機能発現を阻害する物質などが含まれる。
【0053】
IFN-γ阻害物質として、例えば、HGF(hepatocyte growth factor;肝細胞増殖因子)、IFN-γ中和抗体、タキキニン阻害物質、iNKT細胞が有するIFN-γを産生する機能を阻害する物質等が挙げられる。
【0054】
IFN-γ中和抗体は、従来公知の方法で得ればよく、例えば特開2006-199614にIFN-γ中和抗体の取得方法が詳述されている。
【0055】
タキキニン阻害物質としては、タキキニンの正常な機能を損なわせるように作用する物質であれば特に限定されない。従って、「タキキニン阻害物質」には、タキキニンをコードする遺伝子からの転写を阻害する物質、タキキニンのmRNAからの翻訳を阻害する物質、タキキニンの成熟を阻害する物質、成熟したタキキニンの機能発現を阻害する物質等が含まれる。例えば、タキキニンに対する中和抗体、アンタゴニスト、タキキニンの受容体であるNK-1Rのアンタゴニスト等が挙げられる。なお、NK-1Rのアンタゴニストとしては、例えば、CJ-12,255(Pfizer社)、RP67580(Rhone-Poulenc Rorer Recherche Developpement, Centre de Recerche de Vitry-Alfortville)を使用できる。
【0056】
なお、タキキニンの具体例としては、Substance P、neorokinin A、neuropeptide K等が挙げられる。
【0057】
iNKT細胞が有するIFN-γを産生する機能を阻害する物質としては、当該機能を損なわせるように作用する物質であれば特に限定されない。iNKT細胞自体を除去する物質であってもよく、当該機能のみを欠損させる物質であってもよい。例えば、抗NK1.1抗体、抗Ly49C/Ly491抗体等が挙げられる。中でも抗NK1.1抗体は良好にiNKT細胞を除去することができるので有利である。なお、抗NK1.1抗体については、抗NK1.1抗体産生ハイブリドーマ(PK136;ATCCから入手)を用いて精製してもよい。また、抗Ly49C/Ly491抗体はBDバイオサイエンス社等から市販のものを購入して使用してもよい。
【0058】
HGFは、IFN-γの産生を抑制する機能を有する。これは、本発明者らが見出し、Kuroiwa T., Kakishita E., Hamano T., Kataoka Y., Seto Y., Iwata N., Kaneda Y., Matsumoto K., Nakamura T., Ueki T., Fujimoto J., Iwasaki T., Hepatocyte growth factor ameliorates acute graft-versus-host disease and promotes hematopoietic function, J. Clin. Invest., 2001, 107(11), 1365-1373で報告している。そして、本発明者らは、後の実施例で詳述するように、HGFを術前投与することにより、効果的に腸管癒着を抑制することが可能であることを見出した。
【0059】
本発明に係る腸管癒着抑制剤は、その用途に応じた様々な組成物とすることができる。例えば、経口、非経口のいずれの用途にも応じた組成物とすることができる。特に、手術により侵襲される部位に、局所的に投与するための組成物とすることが好ましく、中でも、静脈注射に用いる組成物とすることが好ましい。静脈注射に用いる組成物とする場合、従来公知の溶媒に、IFN-γ阻害物質を含有させて用いればよい。当該溶媒としては、生体に悪影響を及ぼすものでない限り、限定されるものではなく、例えば、水性プロピレングリコール、PBS等が挙げられる。換言すれば、本発明に係る腸管癒着抑制剤の用途としては、静脈注射のように局所的に投与することが好ましい。なお、従来技術の項で説明した外科用癒着防止シートに、含有させて又は塗布した上で、手術後の部位に貼ってもよい。
【0060】
本発明に係る腸管癒着抑制剤中のIFN-γ阻害物質の含有量は、投与対象の状態、手術により与えられる侵襲の程度等に応じて、適宜設定すればよい。IFN-γ阻害物質としてHGFを用いて、静脈注射によって投与する場合は、例えば、1日の投与量が0.2mg/kg~0.8mg/kgとなるように含有させればよいが、これに限定されるものではない。
【0061】
なお、本発明の範疇には、IFN-γ阻害物質を、腸管が侵襲される手術の1日前から当該手術の30分後までの間に投与する腸管癒着の抑制方法も含まれる。
【0062】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
また、本明細書中に記載された学術文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0064】
(腸管癒着マウスを製造するための手術類似侵襲)
後述する実施例では、以下の方法で、各マウスに対して腸管癒着形成のための手術類似侵襲(以下、単に「手術類似侵襲」と表記する)を施術した。
【0065】
まず、マウスから、5mmの腹部正中切開により盲腸を体外に取り出した。次に、取り出した盲腸の表面に、バイポーラ電気メス(泉工医科工業株式会社製、品番MS-1500)の先端を1秒間接触させることで焼灼した。バイポーラ電気メスは30W、周波数500kHz、負荷150Ωで用いた。焼灼後速やかに閉創した。
【0066】
腸管癒着の形成は、上記手術類似侵襲の施術から7日経過後に開腹して、癒着形成を肉眼で観察することで確認した。
【0067】
以下の実施例では、形成された腸管癒着の程度を5段階のadhesion scoreで評価した。各adhesion scoreが示す癒着形成の程度は以下の通りである。
adhesion score0;癒着無し。
adhesion score1;一箇所の薄い膜状の癒着の形成。
adhesion score2;二箇所以上の薄い癒着の形成。
adhesion score3;局所的に厚い癒着の形成。
adhesion score4;播種状に付着した厚い癒着の形成又は二箇所以上の局所的に厚い癒着の形成。
adhesion score5;極めて厚く血管新生も認められる癒着の形成又は二箇所以上の、播種状に付着した厚い癒着の形成。
【0068】
形成された腸管癒着の程度がadhesion score0~5の場合の、それぞれの腸管を撮影した結果を図1に示す。図1は、癒着の形成の程度がadhesion score0~5の場合の、腸管を撮影した結果を示す図であり、図1中の0~5の数字は各腸管癒着の上記Scoreを示し、矢印は腸管癒着が形成された箇所を示す。
【0069】
〔実施例1:腸管癒着を形成した腸管細胞の組織学的検討〕
(使用動物)
正常マウスとしてBALB/cを用いた。BALB/cはJackson Laboratoryから購入した。
【0070】
(BALB/c群に対する手術類似侵襲)
まず、BALB/c群に上記手術類似侵襲を施した。次に、当該手術類似侵襲を施術する直前及び施術後経時的に、BALB/cを開腹して焼灼部位を含む組織を切除して、パラフィン固定を行なった後、3μmの厚さに薄切りした。なお、以下、マウスの表記の後に「群」と付した場合、10匹~15匹を一群とする当該マウス群を示すものとする。
【0071】
次に、薄切りして得た組織切片の炎症浸潤及び繊維化の程度を観察した。炎症浸潤の観察は、ヘマトキシリン・エオジン(Hematoxylin-Eosin:HE)染色によって行なった。また、繊維化の程度は、Sirius red染色によりコラーゲン繊維を染色して行なった。
【0072】
図2に、上記手術類似侵襲の施術から1日、3日、5日、7日経過後のBALB/cの腸管細胞の組織に対してHE染色及びSirius red染色を行なった結果を示す。なお、比較のため、上記手術類似侵襲の施術直前におけるそれぞれ染色の結果をも示す。
【0073】
その結果、施術後3時間後(図示せず)から、焼灼部位のみならず腸管全周の粘膜下層にリンパ球浸潤を伴った炎症像が確認された。この炎症像は時間が経過するに伴い増強された。
【0074】
また、図2に示すように、HE染色を行なった結果、施術後3日後から、腸管漿膜下と筋層との間に顕著なリンパ球浸潤が確認された。このリンパ球浸潤は時間の経過に伴い顕著に増加した。Sirius red染色を行なった結果では、施術後1日後から粘膜下及び漿膜下の繊維化が確認された。さらに、時間の経過に伴い繊維化の程度が増大したことが確認された。
【0075】
また、上記手術類似侵襲施術後のBALB/cの腸管癒着形成を肉眼で観察したところ、1週間後にはadhesion score5に相当する顕著な癒着が確認された。
【0076】
なお、上記手術類似侵襲施術後の肉眼的及び組織学的な癒着形成は、正常マウスであればC57BL/6、B6/129、C3H/HeNでもBALB/cと同様であった。C57BL/6、B6/129、C3H/HeNはいずれもJackson Laboratoryから購入した。
【0077】
〔実施例2:CD4T細胞の腸管癒着形成に対する関与について〕
(使用動物)
本実施例では、正常マウスとしてBALB/cを用いた。また、BALB/cからCD4T細胞を除去したマウス(以下、「anti-CD4Ab」と表記する)を用いた。
【0078】
BALB/cからCD4T細胞の除去は、上記手術類似侵襲の施術2週間前から、0.5mgの抗CD4抗体を、1匹当たり1週間に2回投与することにより行なった。これによりBALB/Cの脾臓細胞に存在するCD4T細胞の98%以上が除去された。
【0079】
(BALB/c群及びanti-CD4Ab群の腸管癒着形成)
まず、BALB/c群及びanti-CD4Ab群に上記手術類似侵襲を施術した。
【0080】
次に、施術から7日経過後に開腹して腸管癒着の形成を肉眼で観察して、adhesion scoreにより腸管癒着の程度を評価した。その結果を図3に示す。図3は上記手術類似侵襲施術後のBALB/c群及びanti-CD4Ab群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図である。
【0081】
図3に示すように、anti-CD4Ab群では腸管癒着の程度がScore0又は1であった。つまり、腸管癒着が全く形成されないか、形成されたとしても極めて軽度のものであった。
【0082】
また、上記手術類似侵襲の施術前及び施術から1週間後の、anti-CD4Abの腸管細胞に対して実施例1に記載の方法と同様の方法でSirius red染色を行なった。その結果を図4に示す。図4は、anti-CD4Abの腸管細胞の組織をSirius red染色した結果を示す図であり、比較のため、BALB/cの腸管に対してSirius red染色を行なった結果をも示している。また、図4において「Non-operation」と示した図は、上記手術類似侵襲の施術前の、anti-CD4Abの腸管細胞に対するSirius red染色の結果を示す。
【0083】
図4に示すように、anti-CD4Abでは、繊維化は全く認められなかった。なお、上記手術類似侵襲の施術から1週間経過後のanti-CD4Abの腸管細胞を、実施例1に記載の方法と同様にしてHE染色を行なった結果、腸管漿膜下のリンパ球浸潤も全く認められなかった。
【0084】
この結果から、腸管癒着形成にはCD4T細胞が関与していることが確認できた。
【0085】
〔実施例3:iNKT細胞の腸管癒着形成に対する関与について〕
CD4T細胞は、上述のように2種類に分類される。ここでは、CD4T細胞のうち、iNKT細胞の腸管癒着に対する関与を検討した。
【0086】
(使用動物)
本実施例では、iNKT細胞欠損マウス(以下、「NKT-/-」と表記する)及びNKT-/-にBALB/c由来のCD4T細胞を1匹当たり1×10個、尾静脈より移入したマウス(以下、「NKT-/-+WTCD4T」と表記する)を用いた。
【0087】
NKT-/-は、理化学研究所横浜研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター 谷口克博士より恵与された。
【0088】
(NKT-/-群及びNKT-/-+WTCD4T群の腸管癒着形成)
まず、NKT-/-群及びNKT-/-+WTCD4T群に上記手術類似侵襲を施術した。次に、施術から7日経過後に開腹して腸管癒着の形成を肉眼で観察して、adhesion scoreにより腸管癒着の程度を評価した。その結果を図5に示す。図5は、上記手術類似侵襲施術後のNKT-/-群及びNKT-/-+WTCD4T群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図であり、比較のため実施例2で行なった、BALB/c群に対する上記手術類似侵襲の施術の結果をも示している。
【0089】
図5に示すように、NKT-/-群ではadhesion scoreの平均が約1であった。一方、NKT-/-+WTCD4T群ではadhesion scoreの平均が約5であった。
【0090】
さらに、NKT-/-及びNKT-/-+WTCD4Tに対して、上記手術類似侵襲の施術前及び施術から1週間後に、実施例2に記載の方法と同様の方法でSirius red染色を行なった。その結果を図6に示す。図6は、上記手術類似侵襲施術後の、NKT-/-及びNKT-/-+WTCD4Tの腸管細胞の組織をSirius red染色した結果を示す図である。
【0091】
図6に示すように、NKT-/-では、繊維化の形成は全く認められなかった。一方、NKT-/-+WTCD4Tでは繊維化の形成が認められた。なお、上記手術類似侵襲の施術後1週間後の、NKT-/-の腸管に対して実施例2に記載の方法と同様の方法でHE染色を行なった結果、腸管漿膜下のリンパ球浸潤も全く認められなかった。
【0092】
以上の結果から、腸管癒着形成にiNKT細胞が関与していることが確認できた。
【0093】
〔実施例4:腸管癒着形成に関与する因子について〕
本実施例では、IFN-γが腸管癒着形成に関与する因子であることを確認した。
【0094】
(使用動物)
本実施例では、正常マウスとしてC57BL/6を用いた。また、IFN-γ欠損マウス(以下、「IFNγ-/-」と表記する)及びIFNγ-/-に対して、施術一日前に浸透圧ポンプを皮下に装着させて、1週間で1匹当たり100μgのIFN-γを投与したマウス(以下、「IFNγ-/-+IFNγ」と表記する)を用いた。IFNγ-/-は、東京大学医科学研究所 岩倉洋一郎教授より恵与された。
【0095】
(IFN-γをコードするmRNAの発現量の測定)
まず、C57BL/6群に上記手術類似侵襲を施術した。次に、施術後の焼灼部位から経時的にmRNAを精製した。そして、精製したサンプルをreal time PCRに供して、IFN-γをコードするmRNA(以下、「IFN-γmRNA」と表記する。)の発現量を測定した。なお、上記mRNAの精製には、RNA抽出キット(QIAGEN社製RNeasy Mini Kit、品番74106)を用いた。
【0096】
real time PCRは、Roche社製のreal time PCR装置(品番LightCycler 04-342-054-001)を用いた。real time PCRでIFN-γmRNAの発現量を測定するための試薬としては、TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(アプライドバイオシステムズ社製、品番Mm00801778-m1)を用いて、付属の説明書に従い調整した。温度条件は、95℃で10分間解離反応を行なった後、95℃で1秒間、60℃で20秒間を45サイクル繰り返した。その結果を図7に示す。図7は、BALB/c群に上記手術類似侵襲を施術した後の腸管におけるIFN-γmRNAの発現量を経時的に測定した結果を示す図である。
【0097】
図7に示すように、IFN-γmRNAの発現が確認された。また施術から3時間後でIFN-γmRNAの発現量が最大となった。
【0098】
また、C57BL/6群、IFNγ-/-群及びIFNγ-/-+IFNγ群に、上記手術類似侵襲を施術した。施術から7日後にそれぞれのマウスを開腹して、腸管癒着形成を肉眼で観察してadhesion scoreで評価した。その結果を図8に示す。図8は、上記手術類似侵襲施術後の、C57BL/6群、IFN-γ-/-群及びIFN-γ-/-+IFNγ群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図である。
【0099】
図8に示すように、IFN-γ-/-群ではadhesion scoreの平均が約1であったが、IFN-γ-/-+IFNγではadhesion scoreの平均が約5であった。
【0100】
以上の結果から、施術から3時間後という早期に、腸管から産生誘導されるIFN-γが、腸管の癒着形成に関与していることが示された。
【0101】
〔実施例5:腸管癒着形成に対するIFN-γの関与について〕
本実施例では、腸管癒着形成に対するIFN-γの関与を詳細に確認した。
【0102】
(使用動物)
本実施例では、実施例3で用いたNKT-/-に、IFNγ-/-由来のCD4T細胞を移入したマウス(以下、「NKT-/-+IFNγ-/-CD4T」と表記する)を用いた。
【0103】
(NKT-/-+IFNγ-/-CD4T群の腸管癒着形成)
まず、NKT-/-+IFNγ-/-CD4T群に上記手術類似侵襲を施術した。次に、施術から7日経過後に開腹して腸管癒着の形成を肉眼で観察して、adhesion scoreにより腸管癒着の程度を評価した。その結果を図9に示す。図9は、上記手術類似侵襲後の、NKT-/-+IFNγ-/-CD4T群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図であり、比較のため実施例2で行なった、NKT-/-+WTCD4T群に対する上記手術類似侵襲の施術の結果をも示している。
【0104】
図9に示すように、NKT-/-+IFNγ-/-CD4T群では、adhesion scoreの平均が約2であった。
【0105】
また、NKT-/-+IFNγ-/-CD4Tに対して、上記手術類似侵襲の施術前及び施術から1週間後に、実施例2に記載の方法と同様の方法でSirius red染色を行なった。その結果を図10に示す。図10は、NKT-/-+IFNγ-/-CD4Tの腸管細胞の組織をSirius red染色した結果を示す図である。
【0106】
図10に示すように、NKT-/-+IFNγ-/-CD4Tでは、繊維化の形成は全く認められなかった。
【0107】
以上の結果から、腸管癒着には、iNKT細胞から産生誘導されるIFN-γが関与していることが確認できた。
【0108】
〔実施例6:腸管癒着形成に対するSTAT1の関与について〕
本実施例では、腸管癒着形成に対するIFN-γの関与について、IFN-γの細胞内シグナル伝達に必須の転写因子であるSTAT1を欠損させたマウスを用いて、より詳細に確認した。
【0109】
また、上述のように腸管癒着は、従来、Th1の免疫応答と考えられていた(例えば、非特許文献1等を参照)。そこで本実施例では、Th1の誘導に必須の転写因子であるSTAT4、Th2の誘導に必須の転写因子であるSTAT6の腸管癒着形成に対する関与も併せて確認した。
【0110】
(使用動物)
本実施例では、STAT1を欠損させたマウス(以下、「STAT1-/-」と表記する)、STAT4を欠損させたマウス(以下、「STAT4-/-」と表記する)及びSTAT6を欠損させたマウス(以下、「STAT6-/-」と表記する)を用いた。
【0111】
STAT1-/-及びSTAT4-/-は、東京医科大学難治性免疫疾患センター 善本隆之助教授より恵与された。また、STAT6-/-は、大阪大学微生物研究所 審良静男教授より恵与された。
【0112】
また、正常マウスとしてB6/129及びBALB/cを用いた。
【0113】
(STAT1-/-群、STAT4-/-群及びSTAT6-/-群の腸管癒着形成)
まず、STAT1-/-群、STAT4-/-群及びSTAT6-/-群に上記手術類似侵襲を施術した。
【0114】
次に、施術から7日経過後に、それぞれのマウスを開腹して腸管癒着の形成を肉眼で観察して、adhesion scoreにより腸管癒着の程度を評価した。その結果を図11に示す。図11は、上記手術類似侵襲施術後の、STAT1-/-群、STAT4-/-群及びSTAT6-/-群の腸管癒着形成を評価した結果を示す図である。なお、図11の(a)は、STAT1-/-群に対して上記手術類似侵襲を施術した結果を示し、比較のためB6/129群に対して上記手術類似侵襲を施術した結果を示す。また、図11の(b)は、STAT4-/-群及びSTAT6-/-群に対して上記手術類似侵襲を施術した結果を示し、比較のためBALB/c群に対して上記手術類似侵襲を施術した結果をも示す。
【0115】
図11に示すように、STAT1-/-群では、ほとんど腸管癒着が確認されず、adhesion scoreの平均は約1であったが、STAT4-/-群及びSTAT6-/-群では、それぞれadhesion scoreの平均が約5となった。
【0116】
また、STAT1-/-、STAT4-/-及びSTAT6-/-に対して、上記手術類似侵襲の施術前及び施術から1週間後に、実施例2に記載の方法と同様の方法でSirius red染色を行なった。その結果を図12に示す。図12は、STAT1-/-、STAT4-/-及びSTAT6-/-の腸管細胞の組織をSirius red染色した結果を示す図であり、比較のためB6/129の腸管細胞をSirius red染色した結果をも示す。
【0117】
図12に示すようにSTAT1-/-では、繊維化が確認されなかったが、STAT4-/-及びSTAT6-/-では、繊維化が確認された。
【0118】
以上の結果から、IFN-γのシグナル伝達に必須の転写因子であるSTAT1が、腸管癒着形成に関与していることが確認できた。
【0119】
〔実施例7:タキキニンによるIFN-γ産生の確認〕
本実施例では、substance Pを含むタキキニンによるIFN-γ産生の機構を確認した。上述のように、substance Pを含むタキキニンは、手術等の物理的刺激が加わることで、神経末端から分泌される神経伝達因子の一つである。
【0120】
(使用動物)
本実施例では、substance Pを含むタキキニンの産生を制御する遺伝子であるtac1を欠損させたマウス(以下、「Tac1-/-」と表記する。)を用いた。Tac1-/-は、Jackson Laboratoryから購入した。
【0121】
(Tac1-/-群の腸管癒着形成)
まず、Tac1-/-群に、上記手術類似侵襲を施術した。
【0122】
次に、施術から7日経過後に開腹して、腸管癒着の形成を肉眼で観察して、adhesion scoreにより腸管癒着の程度を評価した。
【0123】
また、実施例3と同様の方法で、上記手術類似侵襲を施術後のTac1-/-の焼灼部位から経時的にmRNAを精製してreal time PCRに供して、IFN-γmRNAの発現量を測定した。
【0124】
これらの結果を図13に示す。図13は、Tac1-/-群に上記手術類似侵襲を施術した結果を示す図であり、図13の(a)は、Tac1-/-群の腸管癒着の程度を評価した結果を示し、図13の(b)は、Tac1-/-群に対して上記手術類似侵襲を施術し、3時間後のIFN-γmRNAの発現量を測定した結果を示す。なお、図13には、比較のため正常マウス群(C57BL/6)に対して上記手術類似侵襲を施術して、腸管癒着の程度をadhesion scoreで評価した結果及びIFN-γmRNAの発現量を測定した結果をも示す。
【0125】
図13の(a)に示すように、Tac1-/-群では、adhesion scoreは0又は1であった。また、図13の(b)に示すように、Tac1-/-では、IFN-γmRNA発現が誘導されないことが確認された。
【0126】
以上の結果から、substance Pを含むタキキニンは、腸管癒着形成に必須のIFN-γの産生誘導に関与していることが示唆された。
【0127】
〔実施例8:腸管癒着形成にSTAT1が関与するメカニズムについて〕
本実施例では、腸管癒着形成にSTAT1が関与するメカニズムについて、STAT1とtPA及びPAIとの関係等から確認した。
【0128】
(使用動物)
本実施例では、正常マウスとしてBALB/cを用いた。また、実施例6に記載のSTAT1-/-を用いた。
【0129】
(tPA及びPAIの腸管癒着形成に対する関与)
腸管癒着形成に関与するメカニズムを明らかにするため、まず、腸管癒着形成に対するtPA及びPAIの関与を確認した。
【0130】
上述のように、線溶系が亢進すると癒着は回避され、凝固系が亢進すると癒着が形成されると考えられている。そして、tPAは線溶系を亢進する因子であり、PAI凝固系を亢進する因子である。
【0131】
まず、BALB/cに上記手術類似侵襲を施術した。
【0132】
次に、施術後のBALB/c群におけるtPAをコードするmRNA(以下、「tPAmRNA」と表記する)及びPAIをコードするmRNA(以下、「PAImRNA」と表記する)の発現量を測定した。具体的には、tPAmRNAの発現量を測定するための試薬又はPAImRNAの発現量を測定するための試薬実施例4と同様の方法でreal time PCRを行なった。なお、PAImRNAの発現量を測定するための試薬としては、TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(アプライドバイオシステムズ社製、品番Mm00435860-m1)を用い、PAImRNAの発現量を測定するための試薬としては、TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays(アプライドバイオシステムズ社製、品番4322171)を用いた。
【0133】
この結果を図14に示す。図14はBALB/c群に上記手術類似侵襲を施術した後のtPAmRNA及びPAImRNAの発現量、血漿中のtPA及びPAIの蛋白量を経時的に測定した結果を示す図であり、図14の(a)はPAImRNAの発現量を測定した結果を示し、図14の(b)はtPAmRNAの発現量を測定した結果を示し、図14の(c)は血漿中のPAIの量を測定した結果を示し、図14の(d)は血漿中のtPA値を測定した結果を示す。
【0134】
なお、血漿中のPAI値とtPA値との値はELISAにて測定した。具体的には、血漿中のPAI値はMouse PAI‐1 Activity ELISA Kit(インノヴァティブ社製、品番IMPAIKT)を用いた。また、血漿中のtPA値はMouse tPA Activity Assay Kit(オックスフォードバイオメディカルリサーチ社製、品番PA92)を用いた。
【0135】
図14の(a)に示すように、施術から1日後にPAImRNAの発現量は著明に増加した。また、図14の(b)に示すように、tPAmRNAの発現量は施術から1日後に著明に減少した。
【0136】
図14の(c)に示すように、施術から1日後に血漿中のPAI値は著明に増加した。また、図14の(d)に示すように、血漿中のtPA値は施術から1日後に著明に減少した。このことからPAIの腸管癒着に対する関与が示された。
【0137】
(STAT1及びPAIの腸管癒着形成に対する関与)
次に、腸管癒着形成に対するSTAT1及びPAIの関与を検討した。
【0138】
まず、STAT1-/-群に上記手術類似侵襲を施術した。
【0139】
次に、施術後1日後におけるSTAT1-/-のPAImRNAの発現量を、上述のBALB/cでPAImRNAの発現量を測定した方法と同様の方法で測定した。その結果を図15に示す。図15はSTAT1-/-に上記手術類似侵襲を施術した後のPAImRNAの発現量を測定した結果を示す図であり、比較のためコントロールマウスであるB6/129に上記手術類似侵襲を施術してから1日後の、PAImRNAの発現量を測定した結果をも示す。
【0140】
図15に示すように、B6/129群に比較してSTAT1-/-群のPAImRNAの発現量は、極めて低いことが示された。
【0141】
以上の結果から、手術侵襲によって腸管から産生誘導されるIFN-γは、STAT1を介して、PAI発現を著明に誘導する結果、腸管癒着の形成に関与することが示された。
【0142】
〔実施例9:IFN-γ阻害物質による腸管癒着形成の抑制〕
本実施例では、IFN-γ産生を阻害することにより、腸管癒着の形成を抑制できるか否かを確認した。
【0143】
(使用動物)
本実施例ではBALB/cを用いた。
【0144】
(HGFによる腸管癒着形成の抑制)
IFN-γ阻害物質としてHGFを用いて、HGFの投与と、BALB/cの腸管癒着形成との関係を調べた。
【0145】
まず、手術類似侵襲を施術する1日前に、PBS200μl又はHGF20μgをBALB/c群に皮下注射することで投与した。
【0146】
PBSのみを投与したBALB/c群及びHGF20μgを投与したBALB/c群のそれぞれのマウスに、上記手術類似侵襲を施術した後、7日経過後の腸管癒着の形成を肉眼で観察して、adhesion scoreを用いて評価した。
【0147】
また、手術類似侵襲を施術する1日前に、PBS200μl又はHGF20μgをBALB/c群に皮下注射して、施術から3時間後のIFN-γmRNAの発現量及び1日後のPAImRNAの発現量を測定した。IFN-γmRNA及びPAImRNAの発現量を測定する方法は実施例4及び8に記載の方法と同様にした。
【0148】
なお、HGF20μgの皮下注射は、HGF20μgをPBSに溶解して200μlに調整した溶液を皮下注射することで行なった。
【0149】
これらの結果を図16に示す。図16は、IFN-γ産生の抑制による腸管癒着形成の抑制を確認した結果を示す図であり、図16の(a)はHGFの投与と腸管癒着形成との関係を示す。図16の(b)と図16の(c)は、それぞれ、PBSを投与したBALB/c群及びHGFを投与したBALB/c群における、上記手術類似侵襲施術後のIFN-γmRNAの発現量及びPAImRNAの発現量を測定した結果を示す。なお、図16において、PBSのみを投与したBALB/c群は「PBS」と表記して、HGF20μgを投与したBALB/c群は「HGF20」と表記した。
【0150】
図16の(a)に示すように、上記手術類似侵襲を施術する1日前にHGF20μgを投与した群では、癒着は形成されないか、極軽度であった(adhesion score0~1)。また、図16の(b)及び図16の(c)に示すように、手術類似侵襲を施術する1日前にHGF20μgを投与した群では、施術から3時間後のIFN-γmRNA発現と1日後のPAImRNA発現が、PBS投与群に比べて著しく低下しているのを認めた。
【0151】
以上の結果から、手術侵襲による腸管からのIFN-γの産生とそれに続くPAIの産生誘導は、HGFの術前投与によって、抑制することが可能であることが確認された。つまり、HGFは腸管癒着形成を抑制できることが示された。これにより、HGFによるIFN-γの産生を抑制することで、術後の腸管癒着形成を予防するという全く新たな治療法を提供できることが示された。
【0152】
なお、これまで説明した実施例で使用したマウスは、大学等から恵与されたものを用いたが、Takeda K, Tsutsui H, Yoshimoto T, Adachi O, Yoshida N, Kishimoto T, Okamura H, Nakanishi K, Akira S, Defective NK Cell Activity and Th1 Response in IL-18-Deficient Mice, Immunity, 1998, 8, 383-390に記載のIL-18欠損マウスの製造方法に基づいて、所望の遺伝子を欠損させることで得ることも可能である。
【0153】
〔実施例10:本発明に係る腸管癒着抑制剤の投与時期について〕
HGF20μgをPBSに溶解して200μlに調整した溶液の投与時期を変更した以外は、実施例9に記載した方法と同じ方法で、腸管癒着形成の抑制効果を確認した。投与時期としては、手術類似侵襲の施術から30分、1、3、5日後とした。それぞれの投与時期、実施例9の投与時期(施術の1日前)、及び比較のためPBSのみを投与した結果を図17に示す。図17は、HGFの投与時期と腸管癒着形成との関係を調査した結果を示す図であり、横軸は投与時期を示し、縦軸はAdhesion Scoreを示す。なお、PBSのみの投与は施術の1日前に行なった。なお、HGFについてはペプロテック社から購入したヒトHGFをPBSに調整して使用した。
【0154】
図17に示されるように、施術の1日前、施術から30分後にHGFを添加した場合、極めて良好に腸管癒着を抑制した。
【0155】
一方、施術から1日以降に投与しても腸管癒着抑制効果が得られなかった。これは、HGFは腸管癒着の治療効果を有していないことも示している。つまり、実施例1では腸管癒着は術後7日後に確認されたと説明したが、実際には術後3日後から徐々に形成され始める。しかし、本実施例で示したように術後1日以降に投与しても、術後7日後にはadhesion score5の腸管癒着が確認された。このことから、HGF等のIFN-γ阻害物質は腸管癒着が形成された後にこれを治療する効果ではなく、腸管癒着の形成を予め防ぐ効果に極めて優れていることが示された。
【0156】
この結果から、HGFを術前又は術直後投与することにより、手術侵襲によって腸管から産生誘導されるIFN-γの産生を抑制する結果、PAIの発現を抑制し、腸管癒着の形成を予防できることが示された。
【0157】
〔実施例11:IFN-γ阻害物質による腸管癒着形成の抑制2〕
本実施例では、IFN-γ阻害物質としてIFN-γ中和抗体を用い、該IFN-γ中和抗体を、2mg/bodyとなるように投与した以外は実施例9に記載した方法と同じ方法で、腸管癒着形成の抑制効果を確認した。
【0158】
なお、IFN-γ中和抗体はIFN-γ中和抗体産生ハイブリドーマ(XMG1.2;ATCCより入手)から得た。また、比較のため、IFN-γ中和抗体の代わりにcontrol Abを使用した以外は同じ方法で腸管癒着の抑制効果を確認した。control AbとしてはBDバイオサイエンス社から購入したrat IgG1を用いた。
【0159】
結果を図18に示す。図18は、IFN-γ中和抗体による腸管癒着抑制効果を確認した結果を示す図であり、図18の(a)はPAImRNAの発現量を示し、図18の(b)は腸管癒着をAdhesion Scoreにより評価した結果を示す。
【0160】
図18に示されるように、IFN-γ中和抗体の投与群においては、PAImRNAの発現量がコントロールに比べて顕著に低下し、腸管癒着は形成されないか、軽度(Score2)であった。
【0161】
また、施術から1日後にIFN-γ中和抗体を投与して、腸管癒着が形成されるか確認したが、腸管癒着抑制効果は確認できなかった(図示せず)。
【0162】
これらの結果から、IFN-γ中和抗体を術前投与することにより、手術侵襲によって腸管から産生誘導されるIFN-γの産生が抑制される結果、PAIの発現が抑制され、腸管癒着の形成を予防できることが示された。
【0163】
〔実施例12:タキキニンによるIFN-γ産生誘導〕
本実施例ではタキキニンがIFN-γの産生を誘導するか否か確認した。
【0164】
タキキニンとして、Substance P(以下、「SP」という)、neorokinin A(以下、「NKA」という)、neuropeptide K(以下、「NPK」)を用いた。
【0165】
まず、in vitroにて、IL-2の存在下において、C56BL/6マウス由来CD4T細胞又はNKT-/-マウス由来CD4T細胞に、SP、NKA及びNPKの混合物(以下、「NKA+NPK」という)、又はSP、NKA及びNPKの混合物(以下、「SP+NKA+NPK」という)を添加して4日間培養した。
【0166】
なお、上記培養液として、10重量%ウシ胎児血清、50μM 2-メルカプトエタノール、2mM L‐グルタミン、100U/ml ペニシリン、 100μg/ml ストレプトマイシンを添加したRPMI1640を用いた。
【0167】
具体的には、SPについては11、33、100μMとなるように上記培養液に溶解した。また、NKA+NPKについては、NKA、NPKを、それぞれ50μM、50μMとなるように上記培養液に溶解した。SP+NKA+NPKについては、SP、NKA、NPKをそれぞれ33μM、50μM、50μMとなるように上記培養液に溶解した。
【0168】
次に、培養上清中のIFN-γ産生をELISA法にて測定した。結果を図19に示す。図19はタキキニンがIFN-γの産生を誘導するか確認した結果を示す図であり、図19の(a)はSPの結果、図19の(b)はNKA+NPK、又はSP+NKA+NPKの結果を示す。また、図19の(a)及び(b)において横軸は添加したタキキニンを示し、縦軸はIFN-γの産生量を示す。また、図19において、「WT」は正常C56BL/6マウス由来CD4T細胞を用いた結果を示し、「NKT-/-」はNKT-/-マウス由来CD4T細胞を用いた結果を示す。
【0169】
図19に示されるように、正常C56BL/6マウス由来CD4T細胞はtachykininに反応して顕著なIFN-γ産生を誘導した。一方、NKT-/-マウス由来CD4T細胞ではIFN-γ産生は著しく低値であった。以上の結果から、タキキニンはiNKT細胞を刺激してIFN-γの産生を誘導することが示された。
【0170】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0171】
本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法は、以上のように、実験動物の腸管を焼灼する焼灼工程を含み、上記焼灼工程では、上記実験動物が有する腸管に、IFN-γの発現を誘導する熱量の熱を与えるので、所望の程度の腸管癒着を再現性良く形成することができるという効果を奏する。
【0172】
また、本発明に係る腸管癒着実験動物の製造方法は、以上のように、実験動物の腸管を焼灼する焼灼工程を含み、上記焼灼工程では、上記実験動物が有する腸管に、IFN-γの発現を誘導する熱量の熱を与えるので、所望の程度の腸管癒着を再現性良く形成可能な腸管癒着実験動物の製造方法を提供することができる。
【0173】
また、本発明に係る腸管癒着抑制剤のスクリーニング方法は、以上のように、(i)実験動物の腸管の少なくとも一部の部位を焼灼する工程、(ii)上記実験動物に被験物質を投与する工程、(iii)腸管癒着の形成を確認する工程を含み、上記(i)の工程では、上記実験動物が有する腸管に、IFN-γの発現を誘導する熱量の熱を与えるので、腸管癒着抑制剤を効率的にスクリーニングすることができるという効果を奏する。
【0174】
また、本発明に係る腸管癒着抑制剤は、IFN-γ阻害物質を含むので、腹腔内の手術後の腸管癒着を抑制することができるという効果を奏する。
【0175】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内において、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0176】
以上のように、本発明に係る実験動物の腸管癒着を形成する方法は、所望の程度の腸管癒着を再現性高く形成することができるので、腸管癒着の形成に関する医薬品の開発等に好適に用いることができるので医薬品産業に利用可能である。また、本発明に係る腸管癒着抑制剤は好適に腹腔内手術後の腸管癒着を抑制できるので医薬品産業に利用可能である。
図面
【図3】
0
【図5】
1
【図7】
2
【図8】
3
【図9】
4
【図11】
5
【図13】
6
【図14】
7
【図15】
8
【図16】
9
【図17】
10
【図18】
11
【図19】
12
【図1】
13
【図2】
14
【図4】
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【図6】
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【図10】
17
【図12】
18