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明細書 :光スイッチ用素子材料及びそれを有する光スイッチ装置並びに光スイッング方法。

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5067699号 (P5067699)
公開番号 特開2010-191120 (P2010-191120A)
登録日 平成24年8月24日(2012.8.24)
発行日 平成24年11月7日(2012.11.7)
公開日 平成22年9月2日(2010.9.2)
発明の名称または考案の名称 光スイッチ用素子材料及びそれを有する光スイッチ装置並びに光スイッング方法。
国際特許分類 G02F   1/01        (2006.01)
G02F   1/361       (2006.01)
FI G02F 1/01 A
G02F 1/361
請求項の数または発明の数 15
全頁数 18
出願番号 特願2009-034662 (P2009-034662)
出願日 平成21年2月17日(2009.2.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成20年8月25日 社団法人日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集(第63巻第2号)第4分冊(2008年秋季大会)」に発表
審査請求日 平成23年11月14日(2011.11.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】岡本 博
【氏名】松▲崎▼ 弘幸
【氏名】山下 正廣
【氏名】高石 慎也
【氏名】太田 康公
個別代理人の代理人 【識別番号】100082876、【弁理士】、【氏名又は名称】平山 一幸
【識別番号】100109807、【弁理士】、【氏名又は名称】篠田 哲也
【識別番号】100148127、【弁理士】、【氏名又は名称】小川 耕太
審査官 【審査官】佐藤 宙子
参考文献・文献 特開2007-256775(JP,A)
特開2005-092147(JP,A)
特開2007-010781(JP,A)
電荷密度波-モットハバード相転移を示す臭素架橋Pd錯体における光誘起相転移の探索,日本物理学会講演概要集,2007年,第62巻第2号第4分冊,740
調査した分野 G02F 1/01-3/00
JSTPlus(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
化学式[Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)(ここで、enはエチレンジアミン(ethylenediamine)、C-Yはジアルキルスルホサクシネート(dialkylsulfosuccinate)であり、nは5~9,12の何れかの整数である)で表わされる擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体からなる光スイッチ素子用材料であって、
上記光スイッチ素子用材料は、所定温度で光反射率の高い電荷密度波相を有し、該電荷密度波相が上記所定温度よりも低温で光反射率の低いモットハバード絶縁体からなるモットハバード相となり、
上記モットハバード相へ第1スイッチング光が照射されることによって該モットハバード相が上記電荷密度波相へ光誘起相転移され、
上記光誘起相転移された電荷密度波相が、第2スイッチング光が照射されることにより上記モットハバード相へ光誘起相転移されることを特徴とする、光スイッチ素子用材料。
【請求項2】
前記擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体のジアルキルスルホサクシネート(C-Y)のn値は5~8の何れかであり、室温で電荷密度波相を有し、該室温よりも低温でモットハバード相となることを特徴とする、請求項1に記載の光スイッチ素子用材料。
【請求項3】
前記擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体のジアルキルスルホサクシネート(C-Y)のn値は9又は12であり、室温でモットハバード相を有し、該室温よりも高温で電荷密度波相となることを特徴とする、請求項1に記載の光スイッチ素子用材料。
【請求項4】
前記モットハバード相から前記電荷密度波相への光誘起相転移が、過渡的に生じることを特徴とする、請求項1に記載の光スイッチ素子用材料。
【請求項5】
前記光誘起された電荷密度波相から前記モットハバード相への光誘起相転移が、過渡的に生じることを特徴とする、請求項1に記載の光スイッチ素子用材料。
【請求項6】
光スイッチ素子と、
該光スイッチ素子に第1スイッチング光と第2スイッチング光とからなるパルス励起光を照射する励起光用光源と、
上記光スイッチ素子に参照光を照射する参照光用光源と、
上記参照光の上記光スイッチ素子からの出射光を検出光として検出する光検出器と、を備え、
上記光スイッチ素子は、化学式 [Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)(ここで、enはエチレンジアミン(ethylenediamine)、C-Yはジアルキルスルホサクシネート(dialkylsulfosuccinate)であり、nは5~9,12の何れかの整数である)で表わされる擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体からなる光スイッチ素子用材料からなり、
上記光スイッチ素子用材料は、所定温度で光反射率の高い電荷密度波相を有し、該電荷密度波相が上記所定温度よりも低温で光反射率の低いモットハバード絶縁体からなるモットハバード相となり、
上記光スイッチ素子の上記モットハバード相へ上記第1スイッチング光が照射されることによって該モットハバード相が上記電荷密度波相へ過渡的に光誘起相転移され、
上記光誘起相転移された電荷密度波相は、上記第2スイッチング光が照射されることによって上記モットハバード相へ過渡的に光誘起相転移されることを特徴とする、光スイッチ素子を有する光スイッチ装置。
【請求項7】
前記光スイッチ素子は、前記光スイッチ素子用材料の結晶からなることを特徴とする、請求項6に記載の光スイッチ素子を有する光スイッチ装置。
【請求項8】
前記光スイッチ素子は、前記光スイッチ素子用材料を透明固体中に分散させて形成されていることを特徴とする、請求項6に記載の光スイッチ素子を有する光スイッチ装置。
【請求項9】
前記励起光用光源は、前記第1スイッチング光と第2スイッチング光とを所定の時間遅延させて照射させる遅延手段を備えていることを特徴とする、請求項6に記載の光スイッチ素子を有する光スイッチ装置。
【請求項10】
前記第1スイッチング光は、前記モットハバード相で光吸収率が高い波長近傍のパルス光であることを特徴とする、請求項6に記載の光スイッチ素子を有する光スイッチ装置。
【請求項11】
前記第2スイッチング光は、前記電荷密度波相で光吸収率が高い波長近傍のパルス光であることを特徴とする、請求項6に記載の光スイッチ素子を有する光スイッチ装置。
【請求項12】
化学式 [Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)(ここで、enはエチレンジアミン(ethylenediamine)、C-Yはジアルキルスルホサクシネート(dialkylsulfosuccinate)であり、nは5~9,12の何れかの整数である)で表わされる擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体を光スイッチ素子とし、
上記光スイッチ素子へ該擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体がモットハバード絶縁体からなるモットハバード相となる所定温度において参照光を照射し、
パルスからなる第1スイッチング光を、上記光スイッチ素子へ照射することで上記光スイッチ素子からの反射率を過渡的に増加し、
次に、上記第1スイッチング光の照射後の所定時間後に、上記光スイッチ素子へパルスからなる第2スイッチング光を照射することによって上記光スイッチ素子からの反射率を過渡的に低減し、
上記反射率の変化を、上記参照光の強度変化として検出することを特徴とする、光スイッチング方法。
【請求項13】
前記第1スイッチング光を、前記モットハバード相で光吸収率が高い波長近傍のパルス光とすることを特徴とする、請求項12に記載の光スイッチング方法。
【請求項14】
前記第2スイッチング光を、前記電荷密度波相で光吸収率が高い波長近傍のパルス光とすることを特徴とする、請求項12に記載の光スイッチング方法。
【請求項15】
前記擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体を透明固体中に分散させて前記光スイッチ素子を形成し、
前記参照光を上記光スイッチ素子へ照射し、
上記光スイッチ素子からの透過光を、前記参照光の強度変化として検出することを特徴とする、請求項12に記載の光スイッチング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光スイッチ用素子材料及びそれを有する光スイッチ装置並びに光スイッング方法に関する。さらに詳しくは、本発明は擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体を用いた光スイッチ用素子材料とこの素子材料を有する光スイッチ装置並びに光スイッング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
将来の高速大容量光通信の実現には、光から電気への変換をしないで光だけでスイッチングを行うことができる、所謂全光型の超高速スイッチング動作が不可欠であると考えられている。そのための光学用物質としては、光照射によって材料の透過率や屈折率等の光学特性が大きく変化し、かつ、超高速に変化する物質が必要となる。
【0003】
近年、光照射によって、物質の電子構造や巨視的な物性が変化する現象である光誘起相転移が報告されており、新しい光スイッチング素子の動作原理としての応用が期待され、様々な研究がなされている。光誘起相転移を示す物質は、光スイッチング素子の有力な候補の一つである。
【0004】
光誘起相転移を用いて特に需要の大きいテラビットオーダーの超高速光スイッチング動作を実現するためには、相転移の転換時間及び緩和時間がサブピコ秒程度であることが求めらる。
【0005】
これまでに、光誘起相転移が報告されている幾つかの遷移金属化合物(例えば、非特許文献1~3参照)や有機電荷移動錯体(例えば、非特許文献4、5参照)においては、相転移の転換時間はサブピコ秒以内と高速であるものの、その緩和時間は、早くても数ピコ秒(ps)から数十ピコ秒程度と比較的遅いものであった。
【0006】
非特許文献6には、擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体における相転移が報告されている。
【先行技術文献】
【0007】

【非特許文献1】S. Iwai, M. Ono, A. Maeda, H. Matsuzaki, H. Kishida, H. Okamoto, and Y. Tokura, “Ultrafast Optical Switching to a Metallic State by Photoinduced Mott Transition in a Harogen-Bridged Nickel-Chain Compound”, Phys. Rev. Lett., Vol.91,057401 (2003)
【非特許文献2】M. Fiebig et al.,“Sub-picosecond photo-induced melting of a charge-ordered state in a perovskite manganite”, Appl. Phys. B, Vol.71, 211 (2000)
【非特許文献3】H. Matsuzaki, M. Yamashita and H. Okamoto, “Ultrafast Photoconversion from Charge Density Wave State to Mott-Hubbard State in One-Dimensional Extended Peiels-Hubbard System of Br-Bridged Pd Compound”, J. Phys. Soc. Jpn., Vol.75, 123701 (2006)
【非特許文献4】S. Iwai, K. Yamamoto, A. Kashiwazaki, F. Hiramatsu, H. Nakaya, Y. Kawakami, K. Yakushi, H. Okamoto, H. Mori, and Y. Nishio, “Photoinduced Melting of a Stripe-Type Charge-Order and Metallic Domain Formation in a Layered BEDT-TTF-Based Organic Salt”, Phys. Rev. Lett., Vol.98, 097402 (2007)
【非特許文献5】M.Chollet, L. Guerin, N.Uchida, S.Fukaya, H.Shimoda, T.Ishikawa, K.Matsuda, T.Hasegawa, A.Ota, H.Yamochi, G.Saito, R.Tazaki, S.Adachi and S.Koshihara,“Gigantic Photoreponse in 1/4-Filled-Band Organic Salt (EDO-TTF)2PF6”,Science, Vol.307,86 (2005)
【非特許文献6】S. Takaishi, M. Takamura, T. Kajiwara, H. Miyasaka, M. Yamashita, M. Iwata, H. Matsuzaki, H. Okamoto, H. Tanaka, S. Kuroda, H. Nishikawa, H. Oshio, K. Kato, and M. Takata, “Charge-Density-Wave to Mott-Hubbard Phase Transition in Quasi-One-Dimensional Bromo-Bridged Pd Compounds”, J. Am. Chem. Soc., Vol.130, 12080 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の遷移金属酸化物や誘起電荷移動錯体を用いた光誘起相転移では、相転移の転換時間は高速であるものの、その緩和時間は比較的遅いものであり、現状のままでは超高速光スイッチングへの応用は困難であった。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み、超高速光スイッチングができる光スイッチ用素子材料、それを用いた光スイッチ素子、この光スイッチ素子を有する光スイッチ装置及び光スイッング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するために、本発明の光スイッチ素子用材料は、化学式 [Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)(ここで、enはエチレンジアミン(ethylenediamine)、C-Yはジアルキルスルホサクシネート(dialkylsulfosuccinate)であり、nは5~9,12の何れかの整数である)で表わされる擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体からなる光スイッチ素子用材料であって、光スイッチ素子用材料は、所定温度で光反射率の高い電荷密度波相を有し、電荷密度波相が所定温度よりも低温で光反射率の低いモットハバード絶縁体からなるモットハバード相となり、モットハバード相へ第1スイッチング光が照射されることによってモットハバード相が電荷密度波相へ光誘起相転移され、光誘起相転移された電荷密度波相が、第2スイッチング光が照射されることによってモットハバード相へ光誘起相転移されることを特徴とする。
【0011】
上記構成において、擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体のジアルキルスルホサクシネート(C-Y)のn値は、好ましくは、5~8の何れかであり、室温で電荷密度波相を有し、室温よりも低温でモットハバード相となる。
擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体のジアルキルスルホサクシネート(C-Y)のn値は9又は12であり、室温でモットハバード相を有し、室温よりも高温で電荷密度波相となる。
モットハバード相から電荷密度波相への光誘起相転移は、好ましくは過渡的に生じる。光誘起された電荷密度波相からモットハバード相への光誘起相転移は、好ましくは過渡的に生じる。
【0012】
本発明の光スイッチ素子を有する光スイッチ装置は、光スイッチ素子と、光スイッチ素子に第1スイッチング光と第2スイッチング光とからなるパルス励起光を照射する励起光用光源と、光スイッチ素子に参照光を照射する参照光用光源と、参照光の光スイッチ素子からの出射光を、検出光として検出する光検出器と、を備え、光スイッチ素子は、化学式 [Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)(ここで、enはエチレンジアミン(ethylenediamine)、C-Yはジアルキルスルホサクシネート(dialkylsulfosuccinate)であり、nは5~9,12の何れかの整数である)で表わされる擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体からなる光スイッチ素子用材料からなり、光スイッチ素子用材料は、所定温度で光反射率の高い電荷密度波相を有し、電荷密度波相が所定温度よりも低温で光反射率の低いモットハバード絶縁体からなるモットハバード相となり、光スイッチ素子の上記モットハバード相へ第1スイッチング光が照射されることによってモットハバード相が電荷密度波相へ過渡的に光誘起相転移され、光誘起相転移された電荷密度波相が、第2スイッチング光が照射されることによってモットハバード相へ過渡的に光誘起相転移されることを特徴とする。
【0013】
上記構成において、光スイッチ素子は、好ましくは、光スイッチ素子用材料の結晶からなる。光スイッチ素子は、光スイッチ素子用材料を透明固体中に分散させて形成してもよい。
励起光用光源は、好ましくは、第1スイッチング光と第2スイッチング光とを所定の時間遅延させて照射させる遅延手段を備えている。
第1スイッチング光は、好ましくは、モットハバード相で光吸収率が高い波長近傍のパルス光である。第2スイッチング光は、好ましくは、電荷密度波相で光吸収率が高い波長近傍のパルス光である。
【0014】
本発明の光による光スイッチング方法は、化学式 [Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)(ここで、enはエチレンジアミン(ethylenediamine)、C-Yはジアルキルスルホサクシネート(dialkylsulfosuccinate)であり、nは5~9,12の何れかの整数である)で表わされる擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体を光スイッチ素子とし、光スイッチ素子へ擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体がモットハバード絶縁体からなるモットハバード相となる所定温度において参照光を照射し、パルスからなる第1スイッチング光を、光スイッチ素子へ照射することで光スイッチ素子からの反射率を過渡的に増加し、次に、第1スイッチング光の照射後の所定時間後に、光スイッチ素子へパルスからなる第2スイッチング光を照射することによって光スイッチ素子からの反射率を過渡的に低減し、反射率の変化を、参照光の強度変化として検出することを特徴とする。
【0015】
上記構成において、第1スイッチング光を、好ましくは、モットハバード相で光吸収率が高い波長近傍のパルス光とする。
第2スイッチング光を、好ましくは、電荷密度波相で光吸収率が高い波長近傍のパルス光とする。
擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体を透明固体中に分散させて光スイッチ素子を形成し、参照光を光スイッチ素子へ照射し、光スイッチ素子からの透過光を、参照光の強度変化として検出してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の光スイッチ素子用材料は、モットハバード相へ第1スイッチング光が照射されることによってモットハバード相が電荷密度波相へ光誘起相転移され、この光誘起相転移された電荷密度波相が、第2スイッチング光が照射されることによってモットハバード相へ光誘起相転移される性質を有するため、全光型の光スイッチ用の光学材料として使用することができる。
【0017】
本発明の光スイッチ素子用材料を光スイッチ素子とし、この光スイッチ素子を有する光スイッチ装置によれば、全光型で、サブピコ秒の光スイッチングができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の光スイッチ素子を有する光スイッチ装置の構成例を示す図である。
【図2】擬一次元臭素架橋パラジウム錯体において、(A)が結晶構造を、(B)が(A)の点線で囲ったカウンターイオンであるC-YがC-Yの場合の分子構造を示す図である。
【図3】擬一次元臭素架橋パラジウム錯体の電子構造を模式的に示す図であり、それぞれ、(A)は電荷密度波状態(CDW相)を、(B)はモットハバード絶縁体状態(MH相)を示している。
【図4】光スイッチ素子を有する光スイッチ装置の光スイッチ動作を説明する模式図であり、それぞれ、(A)は参照光だけを照射した場合を、(B)は第1スイッチング光を照射した場合を、(C)は第2スイッチング光を照射した場合を示している。
【図5】光スイッチ素子において、第1スイッチング光の照射によって誘起されるMH相からCDW相への転移を示す模式図である。
【図6】第1スイッチング光によるMH相からCDW相への光誘起相転移と、第2スイッチング光による光誘起のCDW相からMH相への光誘起相転移を模式的に示す図である。
【図7】光スイッチ素子を有する光スイッチ装置の第1スイッチング光、第2スイッチング光及び検出光で検出される反射光強度を示すタイムチャートである。
【図8】光スイッチ素子の変形例を示す模式図である。
【図9】光スイッチ素子を有する光スイッチ装置の別の構成例を示す図である。
【図10】図9の光スイッチ素子を有する光スイッチ装置の第1スイッチング光、第2スイッチング光及び検出器で検出される透過光強度を示すタイムチャートである。
【図11】励起光の照射前の10Kにおける擬一次元臭素架橋パラジウム錯体の一次元鎖方向の光吸収εスペクトルを示す図である。
【図12】10Kにおいて、図11の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体へフェムト秒パルス光を照射した後の過渡光吸収スペクトルの時間依存性を示す図である。
【図13】10Kにおける光スイッチ素子への第1スイッチング光による励起と、第1スイッチング光及び第2スイッチング光の励起と、による光子エネルギー0.4eVにおいて観測される光スイッチング素子の反射率(ΔR/R)の時間変化を示す図である。
【図14】図13の光スイッチ素子へ第1スイッチング光及び第2スイッチング光を両方照射した場合の反射率(B)を、第1スイッチング光のみを照射した場合の反射率(A)で除算した値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明の光スイッチ素子2を有する光スイッチ装置1の構成例を示す図である。光スイッチ素子2を有する光スイッチ装置1は、擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体を用いた光スイッチ素子2と、擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体を用いた光スイッチ素子2に垂直に入射させた参照光3用の光源4と、擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体を用いた光スイッチ素子2に斜めに入射させた第1スイッチング光5と第2スイッチング光6とからなる励起光7用の光源8と、参照光3に基づく擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体からの出射光9を検出する光検出器10と、から構成されている。
ここで、図1の光スイッチ装置1の光学配置は、参照光3に基づく擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体からの出射光9が反射光である場合を示している。光スイッチ素子2は、擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体の単結晶又は多結晶からなる素子である。単結晶又は多結晶の面積は、例えば2mm×2mm程度とすることができる。

【0020】
擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体は、下記化学式(1)で表わされる。

[Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO) (1)

ここで、enはエチレンジアミン(ethylenediamine)、C-Yはジアルキルスルホサクシネート(dialkylsulfosuccinate)であり、nは5~9,12の何れかの整数である。擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体のハロゲンを臭素としたものを、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体と呼ぶ。

【0021】
図2は、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体において、(A)が結晶構造を、(B)が(A)の点線で囲ったカウンターイオンであるC-YがC-Yの場合の分子構造を示す図である。
図2に示すように、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15([Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO))は、Pd原子とBr原子が交互に並んだ構造を持ち、Pd原子の4dz2軌道とBr原子の4p軌道から一次元電子系が形成されている。C-YのCは、図2(B)の分子構造においてC11基のCを示している。

【0022】
次に、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15で生じる相について説明する。
図3は、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の電子構造を模式的に示す図であり、それぞれ、(A)が電荷密度波状態(CDW相)を、(B)がモットハバード絶縁体状態(MH相)を示している。
図3(A)に示すように、室温では、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15は強い電子格子相互作用のために、Br原子が格子定数の二倍周期で変位し、Pd原子の価数が2価と4価で交互に並んだ電荷密度波(CDW)状態が安定となる。本明細書では、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の電荷密度波状態をCDW相と呼ぶ。

【0023】
図3(B)に示すように、室温から温度を下げていくと、カウンターイオンとして導入されたC-Yのアルキル鎖の熱振動が次第に抑制され、アルキル鎖間に働く引力的相互作用によって、隣り合うPd原子間距離が減少し、205K以下で、電荷密度波状態(CDW相)からモットハバード絶縁体(MH)状態へと相転移する。本明細書では、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15がモットハバード絶縁体となる状態を、MH相と呼ぶ。このCDW相からMH相への相転移は、隣り合うPd原子間距離の減少に伴う電子格子相互作用の抑制によって引き起こされている。擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15のMH相の光に対する反射率は、CDW相の場合よりも低下する。

【0024】
擬一次元臭素架橋パラジウム錯体のジアルキルスルホサクシネート(C-Y)のn値が5~8の何れかの場合、室温で電荷密度波相(CDW相)を有し、室温よりも低温でモットハバード相(MH相)となる。

【0025】
一方、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体のジアルキルスルホサクシネート(C-Y)のn値が9又は12の場合、室温でモットハバード相を有し、室温よりも高温で電荷密度波相となる。

【0026】
本発明の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15を用いた光スイッチ素子2の動作温度は、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15が光反射率の低いMH相となる温度領域に保持しておく。

【0027】
励起光用光源8は、光スイッチ素子2の同一領域に対して、第1スイッチング光5と第2スイッチング光6とを、任意の時間差で照射する遅延手段を備えた装置である。第1スイッチング光5は、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15を用いた光スイッチ素子2をMH相からCDW相へ光誘起相転移させるために設けられている。第1スイッチング光5としては、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15をMH相からCDW相に遷移させる特定波長、例えばエネルギーで約0.5~0.7eVのフェムト秒オーダーのパルスレーザ光を用いることができる。

【0028】
第2スイッチング光6は、光スイッチ素子2をCDW相から再びMH相へ光誘起相転移させるために設けられている。第2スイッチング光6としては、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15をCDW相からMH相に遷移させる特定波長、例えばエネルギーで約0.2~0.4eVのフェムト秒オーダーのパルスレーザ光を用いることができる。

【0029】
励起光用光源8の一例として、第1スイッチング光5と第2スイッチング光6とを任意の時間差で発生し、100フェムト秒程度の時間幅を持つレーザー、所謂フェムト秒レーザーを使用することができる。チタンサファイア再生増幅器(波長800nm、パルス幅約100フェムト秒)の光を、波長可変装置(オプティカルパラメトリックアンプ)に入力することで、800nmの光から非線形光学効果によって第1スイッチング光5と第2スイッチング光6を任意の時間差及び繰り返し周波数で発生することができる。

【0030】
参照光3の光スイッチ素子2への照射領域は、励起光7の照射領域と同じとなるように、参照光用光源4が配置されている。参照光3の強度は、励起光7とは異なり、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15を用いた光スイッチ素子2において光誘起相転移が生じないような強度とする。

【0031】
光スイッチ素子2を有する光スイッチ装置1において、参照光3、第1スイッチング光5、第2スイッチング光6、参照光3に基づく反射光9である検出光の偏光方向は、何れも擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の一次元鎖方向に対して平行となるように配置する。

【0032】
本発明に係る光スイッチ装置1は以上のように構成されており、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15を用いた光スイッチ素子2をモットハバード絶縁体状態、即ちMH相となる温度に保持する。

【0033】
次に、光スイッチ装置1の光スイッチについて説明する。
図4は、本発明の光スイッチ装置1の光スイッチ動作を説明する模式図であり、それぞれ、(A)が参照光3だけを照射した場合を、(B)が第1スイッチング光5を照射した場合を、(C)が第2スイッチング光6を照射した場合を示している。
図4(A)に示すように、光スイッチ素子2に対して、MH相からCDW相転移を誘起しない強度にした参照光3を照射すると、光スイッチ素子2から反射された所定の強度の検出光9が観測される。

【0034】
次に、図4(B)に示すように、光スイッチ素子2へ第1スイッチング光5を照射する。第1スイッチング光5は、光スイッチ素子2のMH相をCDW相への相転移を誘起し得る光子エネルギー及び強度を有している。第1スイッチング光5を照射することによって、光スイッチ素子2の第1スイッチング光5の照射領域には、CDW相が形成される。

【0035】
図5は、光スイッチ素子2において、第1スイッチング光5の照射によって誘起されるMH相からCDW相への転移を示す模式図である。
図5から明らかなように、[Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)からなる光スイッチ素子2へ、第1スイッチング光5としてフェムト秒のパルス光を照射することによって、光スイッチ素子2をMH相からCDW相への相転移が実現できる。

【0036】
CDW相が形成された光スイッチ素子2へ、MH相からCDW相への転移を誘起しない強度にした参照光3を照射する。この場合、光スイッチ素子2がMH相からCDW相への光誘起相転移によって反射率が増加しているので、図4(A)に示すように光スイッチ素子2がMH相である場合と比べて、高い強度の検出光9が観測される。

【0037】
次に、図4(C)に示すように、第1スイッチング光5を照射した後、所定時間Δtだけ経過した後、光スイッチ素子2へ第2スイッチング光6を照射する。第2スイッチング光6は、CDW-MH転移を誘起し得る光子エネルギー及び強度を有する第二スイッチング光6を、第1スイッチング光5を照射した同じ領域に照射すると、第1スイッチング光5によって生成したCDW相は元のMH相へ回復する。
したがって、光スイッチ素子2へ参照光3を照射すると、最初(図4(A))の場合と同様の強度の検出光9を観測することができる(図4(C))。

【0038】
図6は、第1スイッチング光5によるMH相からCDW相への光誘起相転移と、第2スイッチング光6による光誘起のCDW相からMH相への光誘起相転移を模式的に示す図である。
図6から明らかなように、フェムト秒パルス対を用いた相制御、即ち第1スイッチング光5で、光スイッチ素子2のMH相からCDW相の相転移を誘起し、準安定なCDW相を形成し、その後、第2スイッチング光6で準安定なCDW相からMH相への転移を誘起することが可能となる。
これにより、検出光9の強度が、第1スイッチング光5と第2スイッチング光6との照射によって、光スイッチ素子2の制御が可能であることが分かる。ここで、光スイッチ素子2に用いる擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15のジアルキルスルホサクシネート(C-Y)のn値が9又は12の場合には、室温でMH相を有しているので、室温で全光型の光スイッチングを行うことができる。

【0039】
図7は、光スイッチ装置1の第1スイッチング光5、第2スイッチング光6及び検出器10で検出される反射光強度を示すタイムチャートである。図7の横軸は時間であり、上縦軸は励起光7となる第1スイッチング光5及び第2スイッチング光6の信号を、下縦軸は反射光強度(任意目盛)を示している。
図7から明らかなように、第1スイッチング光5の照射によって反射率が過渡的に増加し(図7のR参照)、次に時間差Δt1の後で第2スイッチング光6の照射によって反射率が過渡的に減少する(図7のR参照)。第1スイッチング光5によるMH相からCDW相の転移(MH-CDW転移とも呼ぶ)及び第2スイッチング光6によるCDW相からMH相への転移(CDW-MH転移とも呼ぶ)に要する転換時間は、数100フェムト秒以下であり極めて短い。本発明においては、第1スイッチング光5及び第2スイッチング光6の照射によって反射率が変化する転換時間が極めて短いので、この転換時間を過渡的なスイッチングと呼ぶ。
従って、第1スイッチング光5と第2スイッチング光6の時間差Δt1を、MH-CDW転移及びCDW-MH転移の転換時間以上の適当な値に設定すれば、図4(A)から(C)までの一連の現象を少なくとも1ピコ秒以下(サブピコ秒)で発現させることが可能である。図7では、上記スイッチング時間をts1で示している。

【0040】
さらに、第1スイッチング光5と第2スイッチング光6の時間差Δtは、任意に可変であるから、任意の時間差で検出光9の強度を制御することができる。図7の点線は、時間差Δt2を比較的長くした場合の光スイッチング波形を示している。この場合、反射率の低いとき及び反射率の高いときをそれぞれ、0と1に対応させた2値スイッチ、所謂デジタルスイッチとして利用することもできる。

【0041】
擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15を用いた光スイッチ素子2に参照光3を照射しつつ、第1スイッチング光5を照射すると検出光9の強度が増加する。次に、第2スイッチング光6を照射すると、参照光3からの検出光9の強度が減少し、第1スイッチング光5の照射前の検出光9の強度に戻る。このように、第1スイッチング光5及び第2スイッチング光6によって、検出光9の強度を変調することができる。即ち、光による光のスイッチング、所謂全光型の光スイッチングを行うことができる。

【0042】
(光スイッチ素子2の変形例)
図8は、光スイッチ素子2の変形例を示す模式図である。
図8に示すように、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体を用いた光スイッチ素子2Aは、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15からなる微粒子を透明固体18の中に分散させ、所望の形状に成形した素子としてもよい。透明固体18の材料は、ガラスやプラスチック等の樹脂等を用いることができる。光スイッチ素子2Aを成形するには、例えば、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の微粒子を分散させた液状のガラスやプラスチックからなる樹脂などを、所望の形状の鋳型に入れて固化すればよい。

【0043】
(光スイッチ素子2の変形例を有する光スイッチ装置)
図9は、光スイッチ素子2Aを有する光スイッチ装置20の構成例を示す図である。図9に示す光スイッチ装置20が光スイッチ素子2を有する光スイッチ装置1と異なるのは、光スイッチ素子2Aを用いたので、参照光3に基づく擬一次元臭素架橋パラジウム錯体からの出射光9を透過光として検出する点にある。他の構成は、光スイッチ素子2を有する光スイッチ装置1と同様であるので説明は省略する。

【0044】
光スイッチ装置20の光スイッチングについて説明する。
図10は、光スイッチ素子2Aを有する光スイッチ装置20の第1スイッチング光5、第2スイッチング光6及び検出器10で検出される透過光強度を示すタイムチャートである。図10の横軸は時間であり、上縦軸は第1スイッチング光5及び第2スイッチング光6の信号を、下縦軸は透過光強度(任意目盛)を示している。
図10から明らかなように、MH相となる所定温度で、光スイッチ素子2Aへ参照光3を照射しつつ、第1スイッチング光5を照射すると、CDW相へ光遷移するので光スイッチ素子2A中に分散している擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の反射率が増加する。検出器9が検出するのは、光スイッチ素子2Aからの透過光であるので、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の反射率が増加した分だけ透過光は減少する。つまり、第1スイッチング光5の照射によって透過率が過渡的に減少する(図10のT参照)。

【0045】
次に、第2スイッチング光6を照射すると、光スイッチ素子2A中の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15が再びMH相へ光遷移するので擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の反射率は減少し、参照光3からの検出光9である透過光強度が増大し、第1スイッチング光5の照射前の検出光9の強度に戻る。つまり、第1スイッチング光5を照射後に時間差Δt1の後で第2スイッチング光6を照射することによって透過率が過渡的に増加する(図10のT参照)。
このように、光スイッチ素子2Aの透過光を検出する場合であっても、第1スイッチング光5及び第2スイッチング光6によって、検出光9の強度を変調することができ、光による光のスイッチング、所謂全光型の光スイッチングを行うことができる。

【0046】
これにより、本発明に係る上記した実施形態の光スイッチ素子2,2Aを有する光スイッチ装置1,20によれば、従来、光誘起相転移現象を光デバイスに応用する際に問題であった相転移の緩和時間を著しく短くすることができ、テラビットオーダーの全光型の超高速スイッチングを実現することができる。
【実施例1】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の合成)
(C-Y)のn値が4~12の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の結晶を、非特許文献6に記載の合成方法を用いて作製した。
【実施例1】
【0048】
(擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の光吸収特性)
次に、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の光吸収特性の一例について説明する。
図11は、励起光7の照射前の10Kにおける擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の一次元鎖方向の光吸収εスペクトルを示す図である。図11の横軸は光エネルギー(eV)であり、縦軸は、光反射スペクトルからクラマースクロニッヒ変換を用いて求めた光吸収εである。用いた擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15は、[Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)である。
図11から明らかなように、0.6eV付近に見られる鋭い吸収ピークは、励起子吸収によるものである。
【実施例1】
【0049】
(擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15へのパルス光による吸収特性)
次に、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の光吸収特性の一例について説明する。
図12は、10Kにおいて、図11の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15へフェムト秒パルス光を照射した後の過渡光吸収スペクトルの時間依存性を示す図である。図では、フェムト秒パルス光を照射した後の0.1ps,0.2ps,0.4ps,1ps及び15ps後の過渡光吸収スペクトルを実線で示し、図11で示した擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15自体の光吸収スペクトルを点線で示している。図12の横軸及び縦軸は図11と同じである。
ここで、フェムト秒パルス光の光子エネルギーは0.56eVで、パルス幅は130fsである。この光子エネルギーは、図11の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の光吸収ピークに共鳴する波長である。擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15への励起光7となるフェムト秒パルス光の偏光方向は、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の一次元鎖方向に平行である。
なお、過渡光吸収スペクトルは、図11の光吸収特性と同様に、過渡光反射スペクトルからクラマースクロニッヒ変換を用いて求めている。
【実施例1】
【0050】
図12から明らかなように、励起光7の照射直後の0.1psでは、光吸収スペクトルは低エネルギー側に向かって単調に増加しているが、低エネルギー側の緩和は極めて高速であり、1psでほぼ照射前の値に回復している。この吸収増加と高速緩和は、二光子吸収によるものである。
さらに、1ps以降では、0.4eV付近にピークを有する誘導吸収が観測される。これは、光生成した準安定なCDW相によるものであることが分かっている。
【実施例1】
【0051】
一方、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15である[Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)を210Kとした電荷密度波状態(CDW相)において、図12と同様にフェムト秒パルス光を照射すると、図8の逆過程であるCDW相からMH相への相転移が観測される。
【実施例1】
【0052】
(光スイッチ素子2を有する光スイッチ装置1の光スイッチング特性)
光スイッチ素子2を有する光スイッチ装置1の光スイッチング特性の一例について説明する。
光スイッチ装置1において、第1スイッチング光5として、光子エネルギーが0.64eVのフェムト秒パルス光を用いた。パルス幅は130fsとした。第1スイッチング光5の光子エネルギーは、MH-CDW転移を誘起するために、MH相の光吸収ピークに共鳴する光子エネルギーに相当している。
【実施例1】
【0053】
第2スイッチング光6として、光子エネルギー0.29eVのフェムト秒パルス光を用いた。パルス幅は130fsとした。第2スイッチング光6の光子エネルギーは、CDW-MH転移を効率的に誘起するために、第1スイッチング光5で光誘起したCDW相の吸収ピークに共鳴する光子エネルギー(0.29eV)の光を選択している。
なお、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15は、[Pd(en)][Pd(en)Br](C-Y)(HO)の結晶であり、大きさは2mm×2mm、厚さは0.1mmから0.2mm程度である。光スイッチ素子2の温度は10Kとした。
【実施例1】
【0054】
図13は、10Kにおける光スイッチ素子2への第1スイッチング光5による励起と、第1スイッチング光5及び第2スイッチング光6の励起と、による光子エネルギー0.4eVにおいて観測される光スイッチング素子の反射率(ΔR/R)の時間変化を示す図である。図13の横軸は時間(ps)であり、縦軸は反射率(ΔR/R)である。第1スイッチング光5による励起の測定結果を点線で、第1スイッチング光5及び第2スイッチング光6の励起の測定結果を実線で示している。なお、5psまでは点線と実線で示すΔR/Rが重なっている。
図13から明らかなように、第1スイッチング光5だけを光スイッチ素子2へ照射した場合には、反射率が直ちに立ち上がった後で一旦減少し、約5ps以降ではほぼ一定の値となることが分かる。つまり、第1スイッチング光5を照射した直後に、CDW相への転移に対応して、正の方向にΔR/Rが大きく増加し、その後比較的緩やかに減衰していることが分かる。この反射率の増加は、光スイッチ素子2への第1スイッチング光5の照射によって生じたMH-CDW転移による。つまり、光スイッチ素子2に第1スイッチング光5を照射した直後のCDW相への相転移に対応して、反射率は正の方向に大きく増加し、その後比較的緩やかに減衰していることが分かる。
ここで、第1スイッチング光5の光照射直後のΔR/Rの立ち上がり時間は、光検出器10の時間分解能である200fs以下と極めて短く、この時間内にMH-CDW転移が完了していることを示している。
【実施例1】
【0055】
図13に実線で示すように、光スイッチ素子2を第1スイッチング光5で励起した5ps後に、光スイッチ素子2を第2スイッチング光6によって励起すると、瞬時に反射率が減少し、その後は反射率が一定の状態に保持されることが分かる。光スイッチ素子2の反射率が低下するのは、第1スイッチング光5の照射によって光スイッチ素子2に誘起されたCDW相がHM相へ転移したことによる。
ここで、第2スイッチング光6の照射直後の反射率(ΔR/R)の立下り時間もMH-CDW転移の場合と同様に極めて短く、光誘起によって生じるCDW-MH転移が超高速に生じていることを示している。
【実施例1】
【0056】
図14は、図13の光スイッチ素子2へ第1スイッチング光5及び第2スイッチング光6を両方照射した場合の反射率(B)を、第1スイッチング光5のみを照射した場合の反射率(A)で除算した値を示す図である。図14の横軸は時間(ps)であり、縦軸は反射率の比(B/A)である。
図14から明らかなように、第1スイッチング光5の照射直後のB/Aは1であり、第2スイッチング光6の励起後、瞬時にB/Aは約0.7まで減少し、その後1000ps、つまり1ns後まで、約0.7程度の値を保持していることが分かった。
上記の光スイッチング特性は、光スイッチ素子2への第1スイッチング光5の照射によって生成したCDW相が、第2スイッチング光6の照射によって、部分的にMH相に戻っていることを明確に示している。
ここで、第2スイッチング光6の照射直後のB/Aの立下り時間もMH-CDW転移の場合と同様に極めて短く、光誘起によるCDW-MH転移が超高速に生じていることを示している。
【実施例1】
【0057】
(C-Y)のn値が5,6,7,8,9,12の擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体におけるMH相からCDWへの転移温度,光スイッチ素子2,2Aの種類を表1に示す。
表1から明らかなように、n値が5,6の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の転移温度は、それぞれ、205K,237Kであり、MH相における光吸収のピークエネルギーは約0.6eVであり、CDW相における光吸収のピークエネルギーは約0.29eVであった。光スイッチ素子2,2Aは、反射型及び透過型とすることができた。
n値が7,8の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の転移温度は、それぞれ、265K,291Kであり、透過型の光スイッチ素子2Aとすることができた。
n値が9,12の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の転移温度は、何れも室温であり、透過型の光スイッチ素子2Aとすることができた。
n値が7,8,9,12の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15のMH相及びCDW相における光吸収のピークエネルギーはn値が5の場合とほぼ同じであると推察される。
上記測定結果から、n値が8,9,12の擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15を用いた光スイッチ素子2Aは、室温で全光型の光スイッチングができるので、冷却の必要がないという利点が生じる。
【表1】
JP0005067699B2_000002t.gif
【実施例1】
【0058】
上記光スイッチ素子2を有する光スイッチ装置1の光スイッチング特性は一例であり、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体のジアルキルスルホサクシネート(C-Y)のn値は5以外の上記した材料でも同様のスイッチング特性が得られる。例えば、第2スイッチング光6の光子エネルギーの選択や強度を最適化することによって、光スイッチ素子2のCDW-MH転移をより効率良く行うことができる。
【実施例1】
【0059】
本発明は、上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。例えば、上記実施の形態で説明した、擬一次元臭素架橋パラジウム錯体15の材料や、励起光7の光子エネルギーや強度は適宜に調整できることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
1,20:光スイッチ素子を有する光スイッチ装置
2,2A:光スイッチ素子
3:参照光
4:参照光用光源
5:第1スイッチング光
6:第2スイッチング光
7:励起光
8:励起光用光源
9:検出光
10:光検出器
15:擬一次元ハロゲン架橋パラジウム錯体
18:透明固体
図面
【図1】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図7】
3
【図8】
4
【図9】
5
【図10】
6
【図11】
7
【図13】
8
【図14】
9
【図2】
10
【図5】
11
【図6】
12
【図12】
13