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明細書 :蛍光顕微鏡、蛍光観察方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5095663号 (P5095663)
公開番号 特開2010-237554 (P2010-237554A)
登録日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
公開日 平成22年10月21日(2010.10.21)
発明の名称または考案の名称 蛍光顕微鏡、蛍光観察方法
国際特許分類 G02B  21/06        (2006.01)
G01N  21/64        (2006.01)
FI G02B 21/06
G01N 21/64 F
請求項の数または発明の数 10
全頁数 10
出願番号 特願2009-086891 (P2009-086891)
出願日 平成21年3月31日(2009.3.31)
審査請求日 平成21年4月1日(2009.4.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】大津 元一
【氏名】川添 忠
個別代理人の代理人 【識別番号】100120868、【弁理士】、【氏名又は名称】安彦 元
審査官 【審査官】高橋 雅明
参考文献・文献 特開2006-058642(JP,A)
特開2008-187932(JP,A)
特表2007-532982(JP,A)
特開2008-134460(JP,A)
特開2006-310186(JP,A)
調査した分野 G02B 19/00-21/00、21/06-21/36
特許請求の範囲 【請求項1】
観察対象である試料に色素を導入し、上記色素を励起する励起光を試料に照射し、その励起光により励起されて発生される蛍光を結像して蛍光像を得る蛍光顕微鏡において、
上記励起光として、上記色素を励起させる励起エネルギーよりもエネルギーの低い可視域又は赤外域のCW光を照射する励起光照射手段を備え、
照射された上記励起光に基づいて上記試料中に近接場光を発生させ、発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて上記色素を励起させること
を特徴とする蛍光顕微鏡。
【請求項2】
上記励起光照射手段は、上記試料としての細胞に上記励起光を照射し、
照射された上記励起光に基づいて上記細胞における何れかの構成要素に上記近接場光を発生させること
を特徴とする請求項1記載の蛍光顕微鏡。
【請求項3】
上記励起光照射手段は、予め金属性の微粒子を添加した上記試料に上記励起光を照射し、
照射された上記励起光に基づいて上記試料中の微粒子に上記近接場光を発生させること
を特徴とする請求項1記載の蛍光顕微鏡。
【請求項4】
上記励起光照射手段は、先端部から近接場光を滲出可能な光ファイバプローブであり、その滲出させた近接場光による上記非断熱過程に基づいて上記色素を励起させること
を特徴とする請求項1記載の蛍光顕微鏡。
【請求項5】
観察対象である試料に照明光を照射し、上記試料が発する光を結像して像を得る光学顕微鏡において、
上記照明光として、上記試料を構成する分子を励起させる励起エネルギーよりもエネルギーの低い可視域又は赤外域のCW光を照射する光照射手段を備え、
照射された上記照明光に基づいて上記試料中に近接場光を発生させ、発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて上記試料を構成する分子を励起させ、励起させた分子から発生される蛍光を結像して蛍光像を得ること
を特徴とする光学顕微鏡。
【請求項6】
観察対象である試料に色素を導入し、上記色素を励起する励起光を試料に照射し、その励起光により励起されて発生される蛍光を結像して蛍光像を観察する蛍光観察方法において、
上記励起光として、上記色素を励起させる励起エネルギーよりもエネルギーの低い可視域又は赤外域のCW光を照射し、
照射した上記励起光に基づいて上記試料中に近接場光を発生させ、
発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて上記色素を励起させること
を特徴とする蛍光観察方法。
【請求項7】
上記試料としての細胞に上記励起光を照射し、
照射した上記励起光に基づいて上記細胞における何れかの構成要素に上記近接場光を発生させること
を特徴とする請求項6記載の蛍光観察方法。
【請求項8】
上記試料に予め金属性の微粒子を添加した上記試料に上記励起光を照射し、
照射した上記励起光に基づいて上記試料中の微粒子に上記近接場光を発生させること
を特徴とする請求項6記載の蛍光観察方法。
【請求項9】
光ファイバプローブの先端部から近接場光を上記試料へ滲出させ、この滲出させた近接場光による上記非断熱過程に基づいて上記色素を励起させること
を特徴とする請求項6記載の蛍光観察方法。
【請求項10】
観察対象である試料に照明光を照射し、上記試料が発する光を結像して像を得る光学観察方法において、
上記照明光として、上記試料を構成する分子を励起させる励起エネルギーよりもエネルギーの低い可視域又は赤外域のCW光を照射し、
照射した上記照明光に基づいて上記試料中に近接場光を発生させ、発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて上記試料を構成する分子を励起させ、励起させた分子から発生される蛍光を結像して蛍光像を得ること
を特徴とする光学観察方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の蛍光像を表示する機能を備えた蛍光顕微鏡に関し、特に細胞を始めとした各種生体を蛍光観察する上で好適な蛍光顕微鏡、蛍光観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光観察は予め標本や対象物等の試料に色素を導入し、試料に特定波長の励起光を照射し、試料から発生する蛍光を観察する。この蛍光観察は、細胞の微細構造や分子の局在状況等を観察する上で好適である。
【0003】
ところで、この色素を効率よく発光させるためには、上述した励起光として紫外光を照射する必要がある(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この紫外光は、皮膚癌の原因で知られるように、観察すべき細胞に損傷を与えてしまう可能性がある。このため、生きたままの細胞を蛍光観察する場合や、細胞本来の活動をリアルタイムに蛍光観察したい場合に、この紫外光の照射は必ずしも適していない。しかも、紫外光を細胞への照射した場合には、その紫外光が細胞に吸収されて減衰してしまう場合もあることから、蛍光観察における励起光として極力紫外光以外の波長の光を使用する必要性があった。
【0004】
また可視-赤外のパルス光源を用いた多光子励起による色素発光を用いた蛍光観察方法も提案されている。
【0005】
しかしながら、かかる蛍光観察方法によれば、パルス光源が別途必要となり、システム構成が高価になってしまう。またパルス光は、光強度が大きくなるため、生じる熱によって細胞そのものが破壊されてしまうという問題点があった。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2001-212070号公報
【0007】

【非特許文献1】大津元一、小林潔“ナノフォトニクスの基礎”オーム社、P141、P206~P208(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、特に細胞を始めとした試料を蛍光観察する際において、その細胞へのダメージを極力軽減させることが可能であり、しかもシステム構成を簡略化させて安価とすることが可能な蛍光顕微鏡、蛍光観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の蛍光顕微鏡は、観察対象である試料に色素を導入し、上記色素を励起する励起光を試料に照射し、その励起光により励起されて発生される蛍光を結像して蛍光像を得る蛍光顕微鏡において、上記励起光として、上記色素を励起させる励起エネルギーよりもエネルギーの低い可視域又は赤外域のCW光を照射する励起光照射手段を備え、照射された上記励起光に基づいて上記試料中に近接場光を発生させ、発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて上記色素を励起させることを特徴とする。

【0010】
請求項2記載の蛍光顕微鏡は、請求項1記載の発明において、上記励起光照射手段は、上記試料としての細胞に上記励起光を照射し、照射された上記励起光に基づいて上記細胞における何れかの構成要素に上記近接場光を発生させることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の蛍光顕微鏡は、請求項1記載の発明において、上記励起光照射手段は、予め金属性の微粒子を添加した上記試料に上記励起光を照射し、照射された上記励起光に基づいて上記試料中の微粒子に上記近接場光を発生させることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の蛍光顕微鏡は、請求項1記載の発明において、上記励起光照射手段は、先端部から近接場光を滲出可能な光ファイバプローブであり、その滲出させた近接場光による上記非断熱過程に基づいて上記色素を励起させることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の光学顕微鏡は、観察対象である試料に照明光を照射し、上記試料が発する光を結像して像を得る光学顕微鏡において、上記照明光として、上記試料を構成する分子を励起させる励起エネルギーよりもエネルギーの低い可視域又は赤外域のCW光を照射する光照射手段を備え、照射された上記照明光に基づいて上記試料中に近接場光を発生させ、発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて上記試料を構成する分子を励起させ、励起させた分子から発生される蛍光を結像して蛍光像を得ることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の蛍光観察方法は、観察対象である試料に色素を導入し、上記色素を励起する励起光を試料に照射し、その励起光により励起されて発生される蛍光を結像して蛍光像を観察する蛍光観察方法において、上記励起光として、上記色素を励起させる励起エネルギーよりもエネルギーの低い可視域又は赤外域のCW光を照射し、照射した上記励起光に基づいて上記試料中に近接場光を発生させ、発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて上記色素を励起させることを特徴とする。

【0015】
請求項7記載の蛍光観察方法は、請求項6記載の発明において、上記試料としての細胞に上記励起光を照射し、照射した上記励起光に基づいて上記細胞における何れかの構成要素に上記近接場光を発生させることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の蛍光観察方法は、請求項6記載の発明において、上記試料に予め金属性の微粒子を添加した上記試料に上記励起光を照射し、照射した上記励起光に基づいて上記試料中の微粒子に上記近接場光を発生させることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の蛍光観察方法は、請求項6記載の発明において、光ファイバプローブの先端部から近接場光を上記試料へ滲出させ、この滲出させた近接場光による上記非断熱過程に基づいて上記色素を励起させることを特徴とする。
【0018】
請求項10記載の光学観察方法は、観察対象である試料に照明光を照射し、上記試料が発する光を結像して像を得る光学観察方法において、上記照明光として、上記試料を構成する分子を励起させる励起エネルギーよりもエネルギーの低い可視域又は赤外域のCW光を照射し、照射した上記照明光に基づいて上記試料中に近接場光を発生させ、発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて上記試料を構成する分子を励起させ、励起させた分子から発生される蛍光を結像して蛍光像を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明を適用した蛍光顕微鏡によれば、細胞に対して励起光として紫外光を照射することなく、赤外光又は可視光を照射することにより、非断熱過程に基づいて電子を励起準位まで励起させることができ、発光させた蛍光によって組織観察を行うことが可能となる。その結果、試料としての細胞に従来であれば紫外光を照射しなければ得られなかった蛍光を、あくまで赤外光や可視光の照射によって得ることができる。この赤外光や可視光は、紫外光と比較して細胞に与えるダメージ、損傷を軽減させることが可能となる。また、紫外光を細胞への照射した場合には、その紫外光が細胞に吸収されて減衰してしまう場合もあるが、本発明では可視光や赤外光を細胞へ照射するため、このような減衰を防止することもでき、蛍光を発生させる上でのエネルギー効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した蛍光顕微鏡の構成を示す図である。
【図2】試料における細胞の例について説明するための図である。
【図3】色素を構成する分子のポテンシャルエネルギーの概念図である。
【図4】非断熱過程のメカニズムについて説明するための図である。
【図5】近接場光プローブを利用した蛍光顕微鏡の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明を適用した蛍光顕微鏡1の構成を示している。この蛍光顕微鏡1は、励起光源11と、励起光源11の光出射側に配設された励起フィルタ12と、この励起フィルタ12を通過した光を反射するダイクロックミラー13と、ダイクロックミラー13に対して試料2側に配設された対物レンズ14と、ダイクロックミラー13に上方に順に配置されてなる吸収フィルタ15、接眼レンズ16とを備えている。ちなみに、この蛍光顕微鏡1は、いわゆる落射型蛍光顕微鏡を例に挙げているが、これに限定されるものではなく、透過型蛍光顕微鏡として適用されるものであってもよい。

【0022】
励起光源11は、励起光を出射するデバイスで構成され、例えば、超高圧水銀灯やキセノンランプ、発光ダイオード、レーザーダイオード等の何れかからなる。この励起光源11は、CW(Continuous Wave)光を発光することを前提としている。励起光源11から射出された光は、励起フィルタ12に入射されることになる。

【0023】
励起フィルタ12は、所定の帯域の光の通過を制限する、いわゆる帯域フィルタとして構成されている。本発明を適用した蛍光顕微鏡1において、この励起フィルタ12は、紫外域の光の通過を制限するとともに、可視域、赤外域の光のみ通過可能となるように構成されている。この励起フィルタ12を通過した可視域、赤外域の励起光は、ダイクロックミラー13へと送られる。

【0024】
ダイクロックミラー13は、多重反射膜で構成されており、励起フィルタ12を通過してきた励起光を対物レンズ14側へ反射する。また、このダイクロックミラー13は、対物レンズ14から送られてきた、後述する蛍光をそのまま通過させて吸収フィルタ15へと導く。

【0025】
対物レンズ14は、ダイクロックミラー13を反射してきた励起光を、ステージ21上に載置された試料2の表面へと集光させる。また、この対物レンズ14は、試料2からの蛍光を取り込み、これをダイクロックミラー13側へと出射する。

【0026】
吸収フィルタ15は、ダイクロックミラー13を通過してきた光のうち、蛍光成分のみを通過させ、その他の成分をカットする。また、接眼レンズ16は、吸収フィルタ15を通過してきた蛍光を結像させる役割を担う。この結像された焦点に例えば光センサを配置することにより、これを画像表示用のデータを生成することが可能となる。また接眼レンズ16を介して肉眼で直接観察することも可能となる。

【0027】
次に、本発明を適用した蛍光顕微鏡1を用いた蛍光観察方法について、説明をする。

【0028】
先ず観察対象としての試料2に色素を導入する。この添加する色素は、一般的な蛍光色素であればいかなるものを使用してもよく、紫外域の波長の光により励起されて所定の波長の蛍光を発する。この色素の例としては、ローダミン、DCM((ジアノメチレンピラン誘導体)等を適用するようにしてもよい。

【0029】
以下の例において、この試料2は、細胞を始めとした生体を想定しているが、これに限定されるものではなく、いかなる対象物を観察対象としてもよい。

【0030】
次に励起光源11からCW光としての励起光を発光する。励起光源11から出射された光は、励起フィルタ12を通過し、紫外域の光がカットされ、可視域、赤外域の光のみ通過する。この通過した励起光は、ダイクロックミラー13を反射し、対物レンズ14を介して試料2に照射される。その結果、試料2内において近接場光が発生する。

【0031】
図2(a)は、この試料2における細胞4の例を示している。細胞4は細胞壁41によって囲まれてなり、リボゾーム43を始めとした各種構成要素により成り立っている。このような細胞4に対して励起光を照射すると、例えば細胞4中の小胞体44等において近接場光が発生する。ちなみに、この細胞4中においては、励起光を照射することにより、小胞体44以外に各種構成要素において近接場光が発生しえる。

【0032】
また、図2(b)において、この細胞4に対して予め金属性の微粒子47を添加するようにしてもよい。その結果、この細胞4に対して励起光を照射すると、この微粒子47において近接場光が発生することになる。特に、この微粒子47を添加することにより、近接場光をより確実に発生させることが可能となる。

【0033】
このように、細胞4内において近接場光を発生させると、以下に説明する非断熱過程が生じることになる。

【0034】
図3は、色素を構成する分子のポテンシャルエネルギーの概念図を示している。色素を構成する原子同士が分子として結合している場合は、電子は結合状態のポテンシャルにいるため、原子核間距離を一定に保った状態で安定している。しかし光子エネルギーにより分子軌道中の電子が励起されると、電子は分離状態のポテンシャルに移り、それぞれに分離することによりエネルギーが下がるため、分子が原子に分解されることがある。

【0035】
しかし、上述のように細胞4中において近接場光を発生させると、非断熱過程が生じる。この非断熱過程とは、図4に示すように、原子同士の結合をバネで置き換えたモデルで考えることができる。一般に伝搬光の波長は分子の寸法に比べると遥かに大きいため、分子レベルでは空間的には一様な電場とみなせる。その結果、図4(a)に示すように、バネで隣り合う電子は同振幅、同位相で振動させられる。色素の原子核は重いため、この電子の振動には追従できず、伝搬光では分子振動は極めて起こりにくい。このように伝搬光では、分子振動が電子の励起過程に関わることを無視することができるため、この過程を断熱過程という(非特許文献1参照。)。

【0036】
断熱過程により色素分子を分解するには、電子を励起準位まで上げる高エネルギーの紫外光が必要になる。

【0037】
一方、近接場光の空間的な電場勾配は非常に急峻に低下する。このため近接場光では隣り合う電子に異なる振動を与えることになり、図4(b)に示すように、この異なる電子の振動により重い原子核も振動させられる。近接場光が分子振動を起こすことは、エネルギーが分子振動の形態を取ることに相当するため、近接場光では図3に示すように、振動準位を介した励起過程(非断熱過程)が可能となる。このように原子核の振動準位を介した励起過程は、通常の光学応答である断熱過程に対し、原子核が応答し動くため、非断熱過程という(非特許文献1参照。)。非断熱過程では、図3に示すように振動準位を介し電子を励起するため、エネルギーの低い可視光や赤外光でも分子の分解を引き起こさせることが可能となる。

【0038】
このように、細胞4内において近接場光を発生させることにより、予め細胞4中に導入した色素は、非断熱過程に基づいて励起状態へ励起されることになる。この非断熱過程では、エネルギーの低い可視光や赤外光であっても、上述した振動準位を介した励起過程により励起させることが可能となる。そして、この励起準位まで電子を励起させた後、当該励起準位から蛍光が発光することになる。この発光させた蛍光に基づいて細胞4の内部構造や活動状況を観察することが可能となる。

【0039】
本発明を適用した蛍光顕微鏡1によれば、細胞4に対して励起光として紫外光を照射することなく、赤外光又は可視光を照射することにより、非断熱過程に基づいて電子を励起準位まで励起させることができ、発光させた蛍光によって組織観察を行うことが可能となる。その結果、試料としての細胞4に従来であれば紫外光を照射しなければ得られなかった蛍光を、あくまで赤外光や可視光の照射によって得ることができる。この赤外光や可視光は、紫外光と比較して細胞4に与えるダメージ、損傷を軽減させることが可能となる。また、紫外光を細胞4への照射した場合には、その紫外光が細胞に吸収されて減衰してしまう場合もあるが、本発明では可視光や赤外光を細胞4へ照射するため、このような減衰を防止することもでき、蛍光を発生させる上でのエネルギー効率を向上させることが可能となる。

【0040】
また本発明によれば、励起光としてCW光を使用する。その結果、パルス光源を使用する場合と比較して、システム構成をより安価にすることが可能となる。また、励起光としてCW光を使用することにより、光強度が大きくなることも無くなり、パルス光の如く光照射により生じる熱によって細胞4そのものが破壊されてしまうのを防止することが可能となる。

【0041】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではない。例えば、近接場光を発生させる手段として、いわゆる光ファイバプローブを使用するようにしてもよい。

【0042】
図5は、近接場光プローブを利用した蛍光顕微鏡5の例を示している。蛍光顕微鏡5は、物体表面からの距離が光の波長よりも小さい、極めて近接した領域に局在する近接場光を検出して物体の形状を測定するものである。具体的には、この蛍光顕微鏡5は、全反射条件下で試料53に励起光を照射されることにより生じた近接場光52aを、光ファイバプローブ54のナノメートルサイズの先端部56の先端によって散乱させる。この蛍光顕微鏡5では、光ファイバプローブ54の先端部56によって散乱された光が当該先端部56を通じて光ファイバのコアに導かれる。そして、コア内に導かれた光は、コア内を伝搬し、光ファイバのもう一方の端部(出射端)から出射し、検出器により検出される。そして、このとき、光ファイバプローブ54を試料53上で走査させることにより、2次元的な検出光の画像を得ることができる。

【0043】
このような構成からなる光ファイバプローブ54を利用し、その先端部56から滲出させた近接場光52aを直接試料に接触させることにより、その近接場光52aに基づいて、非断熱過程を通じて色素を構成する電子を励起準位まで励起させることができ、発光させた蛍光によって組織観察を行うことが可能となる。このとき、励起光として紫外光を照射することなく、赤外光又は可視光を照射することにより、非断熱過程に基づいて電子を励起準位まで励起させることができ、紫外光と比較して細胞4に与えるダメージ、損傷を軽減させることが可能となり、また蛍光を発生させる上でのエネルギー効率を向上させることが可能となる。特にこの光ファイバプローブ54を利用することにより、細胞4内における何れかの構成要素に近接場光を発生させることについて特段必要とすることなく、あくまで光ファイバプローブ54のみを介して近接場光を滲出させれば足りることから、細胞4内において近接場光を比較的容易に発生させることができる。

【0044】
また、本発明は、上述した蛍光顕微鏡1の構成に限定されるものではなく、光学顕微鏡として適用されるものであってもよい。かかる場合において、観察対象である試料に照明光を照射し、上記試料が発する光を結像して像を得る点においては、従来の光学顕微鏡と同様であるが、可視域又は赤外域のCW光を照射する点において相違する。そして、この可視域又は赤外域の照明光を試料に照射することにより、試料中に近接場光を発生させ、発生させた上記近接場光に基づく非断熱過程に基づいて試料を構成する分子を励起させる。蛍光観察と同様に、あえて色素を導入することは必須とはならないが、試料に含まれている分子の中で、可視域又は赤外域の近接場光による非断熱過程に基づいて励起するものも少なからず存在する。これにより、励起させた分子から発生される蛍光を結像して蛍光像を得ることも可能となり、上述した蛍光顕微鏡1と同等の効果を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 蛍光顕微鏡
11 励起光源
12 励起フィルタ
13 ダイクロックミラー
14 対物レンズ
15 吸収フィルタ
16 接眼レンズ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4