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明細書 :疼痛治療剤

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5414366号 (P5414366)
公開番号 特開2010-275247 (P2010-275247A)
登録日 平成25年11月22日(2013.11.22)
発行日 平成26年2月12日(2014.2.12)
公開日 平成22年12月9日(2010.12.9)
発明の名称または考案の名称 疼痛治療剤
国際特許分類 A61K  38/46        (2006.01)
A61P  25/04        (2006.01)
A61P  29/00        (2006.01)
A61K   9/08        (2006.01)
A61K   9/10        (2006.01)
FI A61K 37/54
A61P 25/04
A61P 29/00
A61K 9/08
A61K 9/10
請求項の数または発明の数 3
全頁数 12
出願番号 特願2009-130615 (P2009-130615)
出願日 平成21年5月29日(2009.5.29)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本薬学会第129年会http://nenkai.pharm.or.jp/129/web/2009年2月2日掲載
審査請求日 平成23年1月19日(2011.1.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】東 秀好
【氏名】渡辺 俊
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】▲高▼岡 裕美
参考文献・文献 特表平06-506698(JP,A)
特表2008-545705(JP,A)
下山直人 他,癌治療と宿主,2001年,vol.13, No.4,p.75-83
J.Mao et al.,Brain Research,1992年,vol.584,p.18-27
調査した分野 A61K 38/46
A61K 9/08
A61K 9/10
A61P 25/04
A61P 29/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
αシアリダーゼ活性を有するシアリダーゼを有効成分として含有する、GT1bが関与する末梢性疼痛の局所投与用治療剤であって、前記GT1bが関与する末梢性疼痛が、外傷、異種生物の感染、侵入もしくは寄生、自己免疫の破綻、関節炎または癌により引き起こされる疼痛または痛覚過敏、および神経損傷または帯状疱疹により引き起こされる痛覚異常からなる群より選択され、前記局所投与は前記GT1bが関与する末梢性疼痛の発生箇所に対する関節内注射、筋肉内注射、又は皮下注射である、治療剤
【請求項2】
前記シアリダーゼが、アルスロバクター・ウレアファキエンス(Arthrobacter ureafaciens)由来シアリダーゼ、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)由来シアリダーゼ、ビブリオコレラ(Vibrio cholerae)由来シアリダーゼ、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)由来シアリダーゼ、ミクロモノスポラ・ビリディファシエンス(Micromonospora viridifaciens)由来シアリダーゼ、インフルエンザAウイルス(Influenza A Virus) H1N1由来シアリダーゼ、マクロブデラ・デコラ(Macrobdella decora)由来シアリダーゼ、サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)由来シアリダーゼ、ニューキャッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)由来シアリダーゼ、ストレプトコッカス種(Streptococcus sp.)由来シアリダーゼ、および脊椎動物由来シアリダーゼからなる群より選択される、請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
薬学的に許容し得る担体をさらに含有する、請求項1又は2に記載の治療剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、疼痛、特に外傷、細菌をはじめとする異種生物の感染、侵入もしくは寄生、リウマチなど自己免疫の破綻、関節炎または癌などにより引き起こされる疼痛または痛覚過敏、あるいは種々の神経損傷または帯状疱疹により引き起こされる痛覚異常などに対して優れた治療効果を奏する疼痛治療剤、そのような治療剤を用いる疼痛の治療方法等に関する。より詳しくは、本発明は、シアリダーゼを有効成分とする疼痛治療剤、その治療剤を用いる疼痛の治療方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織が損傷を受けると、痛みとして感じることで損傷を認識する。炎症などによる過度な痛みは患者に苦痛となるばかりで、生物学的な意義が少なく、よってこの痛み(疼痛)を早急に緩和することが望ましい。しかし、疼痛を感じる機構は複雑で、多様な機構が報告されているが、未解明な部分も多い(例えば、Okuse K Int J Biochem Cell Biol. 39(3):490-6 2007、Ueda H. Pharmacol Ther. 109(1-2) 57-77 2006、Scholz J,and Woolf CJ.Nat Neurosci.5 1062-7 2002を参照のこと)。
【0003】
現在、疼痛抑制のため各種鎮痛剤や麻薬などが用いられているが、これら薬剤が疼痛抑制効果を示さない疼痛もある。従来の薬物療法において使用されてきた鎮痛剤としては、モルヒネに代表される中枢性オピオイド受容体作動薬、インドメタシンに代表される非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)などが知られている。しかし、これらの鎮痛剤は、有用性、安全性、常習性などの面で問題がある。
【0004】
痛みの分生生物学的機構としては、まず、損傷された部位において、ブラジキニンやATPなどの痛みのメディエーターが産生され、末梢神経がこれを感知して興奮することで発生することが知られている(Scholz J,and Woolf CJ.Nat Neurosci.5 1062-7 2002)。しかし、このメディエーターとなる物質は、ブラジキニンやATPなどが見出されているものの(Scholz J,and Woolf CJ.Nat Neurosci.5 1062-7 2002)、現在でも未だ全貌は明らかでない。このため、新たなメディエーターの発見を目指した研究が精力的に行われ、そのような研究によって発見されたそれぞれのメディエーターをターゲットとした新規の鎮痛薬の開発が進められている(例えば、グルタミン酸について、Beirith A, et.al. Brain Res. 924(2) 219-28 2002年、Jin YH et. al., J Pharmacol Sci. 109(2) 233-41. 2009年、およびまたはLPAについて、Renbaeck K et. al., Brain Res Mol Brain Res.X 75(2), 350-4.2000など)。
【0005】
ガングリオシドはシアル酸を有するスフィンゴ糖脂質の一群であり、すべての内在性のスフィンゴ糖脂質はセラミドから一連の酵素反応を経て生合成される。ガングリオシドには、シアル酸を分子内に複数有する高級ガングリオシドなどの多数のバリエーションが見出されている。ガングリオシドは細胞表面に存在する糖脂質であり、生体内では特に中枢神経系に豊富に存在することから、神経機能に注目された研究が行われてきた。しかし、末梢神経の主要な役割の一つである、痛みの惹起と伝達におけるガングリオシドの機能は研究されていない。
【先行技術文献】
【0006】

【非特許文献1】Okuse K Int J Biochem Cell Biol. 39(3):490-6 2007
【非特許文献2】Ueda H. Pharmacol Ther. 109(1-2) 57-77 2006、Scholz J,and Woolf CJ.Nat Neurosci.5 1062-7 2002
【非特許文献3】Scholz J,and Woolf CJ.Nat Neurosci.5 1062-7 2002
【非特許文献4】Beirith A, et.al. Brain Res. 924(2) 219-28 2002
【非特許文献5】Jin YH et. al., J Pharmacol Sci. 109(2) 233-41. 2009
【非特許文献6】Renbaeck K et. al., Brain Res Mol Brain Res.X 75(2), 350-4.2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況において、より優れた治療効果を発揮する新規な疼痛治療剤を提供することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく独自の発想に基づき研究を進めたところ、高級ガングリオシドが末梢において痛みの発生に関与していることを見出した。この知見に基づき、さらに研究を進めたところ、シアル酸分解酵素(シアリダーゼ)が高級ガングリオシドを痛みに関与しない物質までに変換することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、次のような疼痛治療剤、疼痛治療のための医薬組成物、疼痛の治療方法などを提供する。
(1)シアリダーゼを有効成分として含有する疼痛治療剤。
(2)前記シアリダーゼが、Arthrobacter ureafaciens由来シアリダーゼ、Clostridium perfringens由来シアリダーゼ、Vibrio cholerae由来シアリダーゼ、Streptococcus pneumoniae由来シアリダーゼ、Clostridium perfringens由来シアリダーゼ、Micromonospora viridifaciens由来シアリダーゼ、Influenza A Virus H1N1由来シアリダーゼ、Macrobdella decora由来シアリダーゼ、Salmonella typhimurium由来シアリダーゼ、Newcastle disease virus由来シアリダーゼ、Streptococcus sp. 由来シアリダーゼ、および脊椎動物由来シアリダーゼからなる群より選択される、αシアリダーゼ活性を有する酵素である上記(1)記載の疼痛治療剤。
(3)外傷、異種生物の感染、侵入もしくは寄生、自己免疫の破綻または癌により引き起こされる疼痛または痛覚過敏、および神経損傷または帯状疱疹により引き起こされる痛覚異常からなる群より選択される疼痛を治療するための、上記(1)または(2)に記載の疼痛治療剤。
(4)シアリダーゼ及び薬学的に許容し得る担体を含有する、疼痛治療用医薬組成物。
(5)シアリダーゼの疼痛治療のための使用。
(6)シアリダーゼの有効量を哺乳動物に投与して疼痛を治療する方法。
(7)疼痛治療剤を製造するための、シアリダーゼ又はその薬学的に許容し得る塩の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明の疼痛治療剤は、例えば、特に外傷、細菌をはじめとする異生物の感染および侵入、寄生、リュウマチなど自己免疫の破綻などにより引き起こされる炎症を原因とする疼痛、痛覚過敏。また、種々の神経損傷により引き起こされる痛覚異常等の症状を呈する疼痛の治療に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ガングリオシドGT1bをはじめとする高級ガングリオシドがシアリダーゼによってガングリオシドGM1に分解される模式図を示す。
【図2】図2は、ガングリオシドGT1bおよび対照(GM1)をマウス右後肢足底に投与し、疼痛関連行動である足なめ行動(licking)の時間を測定した結果を示す。
【図3】図3(a)は、マウス右後肢足底にGT1bもしくはPBSを投与し、20分、40分、100分後に0.05 % ホルマリンを同じ箇所に投与して疼痛を誘導した際の、足なめ行動(licking)を起こす時間を測定した結果を示す。図3(b)は、GT1bまたはGM1ガングリオシドのそれぞれを各量投与の40分後、同様に0.05 %ホルマリンを投与して足なめ行動を起こす時間を測定した結果を示す。
【図4】図4は、シアリダーゼを投与し、2 % ホルマリン投与後の足なめ行動を起こす時間を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは高級ガングリオシドが末梢において痛みの発生に関与しており、具体的には、高級ガングリオシドGT1bがマウスにおいて足舐め行動(licking)を起こす時間を明らかに増加することを見出した。この知見に基づき、疼痛を増強させる原因物質である高級ガングリオシドGT1bを、よりシアル酸が少ない疼痛持続効果のないガングリオシドGM1に分解するシアル酸分解酵素(シアリダーゼ)を患部に投与することによって、高級ガングリオシドをGM1ガングリオシドにまで分解し、特にホルマリン投与時の二相目の痛みを緩和することを見出した。この二相目の疼痛においては、多様な要因により発生し、特に炎症性のモデルであるとともに、神経因性疼痛において増強されるモデルの一つである。高級ガングリオシドは種々知られているが、これまでに疼痛モデルにおいて、これら高級ガングリオシドと疼痛との関係を検討した報告は一切ない。驚くべきことに、本発明者は、これら高級ガングリオシドが発痛物質として作用しており、これら高級ガングリオシドを分解することにより、疼痛に対し治療効果があることを初めて見出したものである。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。

【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、シアリダーゼを有効成分として含有する疼痛治療剤を提供する。
本明細書中、「シアリダーゼ」とは、糖脂質や糖蛋白糖鎖からシアル酸を加水分解により脱離する糖分解酵素をいう。「αシアリダーゼ」とは、糖鎖末端にα配位ケトシド結合したシアル酸を脱離する酵素をいう。シアリダーゼは、糖鎖分解の初発反応を触媒する酵素である。本発明は、GT1bなどの高級ガングリオシドが疼痛の原因物質であることをつきとめている。本発明においては、このような高級ガングリオシドを、疼痛を誘起しない物質までに分解するシアリダーゼが有効成分として用いられる。より具体的には、本発明において用いられる有効成分は、好ましくは、GT1bなどの高級ガングリオシドをモノシアル酸ガングリオシドなどへ分解または代謝する作用を有する。

【0014】
ガングリオシドは、シアル酸を有するスフィンゴ糖脂質の総称であり、少なくとも80種以上のガングリオシドが知られている。生体内で様々な臓器・組織にも普遍的に存在し、特に脳神経系に多量に存在する。本明細書中、「高級ガングリオシド」とは、分子内に2分子以上のシアル酸を含有するガングリオシドを意味する。ガングリオシドには一般的な略号により示され、具体的には、Gがガングリオシドを、M、D、T、Q・・・がシアル酸の数を、アラビア数字は薄層クロマトグラフィーにおける移動度の順を、またシアル酸結合位置をa、b、c、…、α、β、…を意味する。本明細書中、高級ガングリオシドとしては、例えば、GQ1b、GT1b、GT1a、GD1b、GD1aなどが挙げられる。本発明において、高級ガングリオシドは好ましくはGT1bである。明細書中、モノシアル酸ガングリオシドとしては、例えば、GM1、GM2、GM3、GM4が挙げられる。本発明において、モノシアル酸ガングリオシドは好ましくはGM1である。

【0015】
本発明において用いられるシアリダーゼとしては、例えば、Acinetobacter baumannii , Actinomyces johnsonii, Actinomyces naeslundii, Actinomyces oris, Actinomyces viscosus, Akkermansia muciniphila, Arthrobacter aurescens, Arthrobacter chlorophenolicus, Arcanobacterium pyogenes, Arthrobacter ureafaciens, Bacteroides thetaiotaomicron, Bacteroides fragilis, Bacteroides vulgatus, Beutenbergia cavernae , Bifidobacterium longum, Capnocytophaga canimorsus, Clostridium perfringens, Clostridium septicum, Clostridium tertium, Corynebacterium diphtheriae, Corynebacterium glutamicum, Erysipelothrix rhusiopathiae, Haemophilus parasuis, Mannheimia haemolytica, Micromonospora viridifaciens, Mycoplasma alligatoris, Mycoplasma gallisepticum, Mycoplasma synoviae, Parabacteroides distasonis, Pasteurella multocida, Porphyromonas gingivalis, Propionibacterium acnes, Salmonella typhimurium, Pseudoalteromonas haloplanktis, Rhodopirellula baltica, Saccharopolyspora erythraea, Shewanella pealeana, Solibacter usitatus, Streptococcus agalactiae, Streptococcus equi, Streptomyces avermitilis, Streptococcus mitis, Streptococcus pneumoniae, Streptococcus sp., Streptomyces coelicolor, Streptomyces griseus, Tannerella forsythia, Treponema denticola, Vibrio choleraeなど原核生物由来のシアリダーゼ、Asterina pectinifera, Asterias ruben、Bos taurus , Ciona intestinalis, Cricetulus griseus, Callithrix jacchus, Danio rerio, Homo sapiens, Mus musculus, Pongo abelii , Rattus norvegicus , Takifugu rubripes , Xenopus laevis , Xenopus (Silurana) tropicalisなど動物由来のシアリダーゼ、特にヒト、マウス、ラットなど脊椎動物由来のNEU1,NEU2,NEU3,NEU4と相似なアミノ酸配列をもつシアリダーゼ、そのほかArabidopsis thaliana, Cryptococcus neoformans, Macrobdella decora, Medicago truncatula, Oryza sativa, Penicillium chrysogenum, Penicillium chrysogenum, Philodina roseola, Trypanosoma brucei, Trypanosoma carassii, Trypanosoma congolense, Trypanosoma cruzi, Trypanosoma evansi , Trypanosoma rangeli, Zea mays など、植物、原虫、菌類由来のシアリダーゼ、さらにはAtlantic salmon paramyxovirus, Avian paramyxovirus, Beilong virus, Avirulent turkey hemorrhagic enteritis virus, Bovine parainfluenza virus, Bovine parainfluenza virus, Canine parainfluenza virus, Emiliania huxleyi virus, Equine influenza virus, Fer-de-lance virus, Frog adenovirus, Goose paramyxovirus, Hendra virus, HPIV-1, Human parainfluenza virus, Influenza A virus, Influenza B virus, Mapuera virus, Menangle virus, Mossman virus, Mumps virus, Murayama virus, Newcastle disease virus, Nipah virus, Nipah virus, Pigeon paramyxovirus, Porcine rubulavirus, Porcine rubulavirus , Sendai virus , Simian virus , Swine parainfluenza virus, Tioman virus, Tupaia paramyxovirus, Turkey adenovirus, Yucaipa virus などウィルス由来のシアリダーゼなどが挙げられる。

【0016】
好ましくは、本発明において使用されるシアリダーゼとしては、Arthrobacter ureafaciens由来シアリダーゼであるノイラミニダーゼアイソザイムL、M1、M2、S(nacalai:製品番号24229-61など)、Clostridium perfringens由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18)(ROCHE:製品番号1585886など)、Vibrio cholerae由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18)(ROCHE:製品番号1080725など)、Streptococcus pneumoniae由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18)(Sigma; N7271など)、Clostridium perfringens由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18)(Sigma; N2876 など)、Micromonospora viridifaciens由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18) (R&D systems;5084-NM-010など)、Influenza A Virus H1N1由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18) (R&D systems; 4858-NM-005)、Macrobdella decora由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18)(Calbiochem; 480706など)、Salmonella typhimurium由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18) (Prozyme, Inc.;GKX-5018など)、Newcastle disease virus由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18)(Prozyme, Inc.;GKX-5017など)、Streptococcus sp. 由来シアリダーゼ(EC3.2.1.18)(TOYOBO;NRH-301など)、その他細菌、ウィルス、藻類、植物、菌類、無脊椎動物に由来するシアリダーゼ、またはヒト、マウス、ラットなど脊椎動物由来シアリダーゼNeu3などが挙げられる(上記ECはEnzyme Commission Numberを意味する)。なお、シアリダーゼの機能などは公知であり、例えば、Schauer R. Glycoconj J. 17(7-9), 485-499.2000年に記載されている。

【0017】
本明細書において用いる「治療」なる用語は、一般的には、ヒト及びヒト以外の哺乳動物の症状を改善させることを意味する。また「改善」なる用語は、例えば、本発明の治療剤を投与しない場合と比較して、疾患の程度が軽減する場合及び悪化しない場合を指し、予防という意味をも包含する。さらに「医薬組成物」なる用語は、本発明において有用な活性成分(シアリダーゼ等)と医薬の調製において用いられる担体等の添加物を含有する組成物を意味する。

【0018】
なお、本明細書中、「シアリダーゼを有効成分として含有する」という用語は、シアリダーゼの医薬的に許容し得る形態(例えば、その塩、エステル、アミド、水和または溶媒和形態、ラセミ混合物、光学的に純粋な形態等)での使用を全て包含する意味で用いられる。

【0019】
したがって、本発明において用いられる有効成分としてのシアリダーゼはフリー体であっても、医薬的に許容される塩であってもよい。このような「塩」は、酸塩と塩基塩を含む。酸塩としては、たとえば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、重酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、糖酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、1,1'-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸)塩などが挙げられる。塩基塩としては、たとえば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、N-メチルグルカミン塩などの水溶性アミン付加塩、低級アルカノールアンモニウム塩、薬学的に許容することができる有機アミンの他の塩基から誘導される塩を挙げることができる。

【0020】
本発明の疼痛治療剤及び医薬組成物は、種々の疼痛の治療に有効である。本発明において、疼痛としては、例えば、頭痛(例えば、偏頭痛、筋緊張性頭痛、群発頭痛、発熱その他の症候性頭痛等)、口腔顔面痛(例えば、歯痛、舌痛症、顎関節症、舌咽神経痛、三叉神経痛、眼痛、緑内障、耳痛等)、頚肩腕痛(例えば、頚部椎間板ヘルニア、変形性頚椎症、頚肩腕症候群、肩関節周囲炎(五十肩)、頚部脊柱管狭窄症、胸部出口症候群、腕神経叢引き抜き損傷、肩手症候群、外傷性頚部症候群(むち打ち症)等)、胸痛(狭心症、急性心膜炎、食道炎、肺栓塞等)、腹痛(例えば、急性腹症、胆石症、急性膵炎、尿路結石症等臓器の病変による痛み等)、腰背部痛(例えば、骨粗鬆症、腰部椎間板ヘルニア、変形性腰椎症、腰部脊柱管狭窄症、腰椎分離症、腰椎すべり症、椎間関節症等)、膝の痛み、筋骨格系の痛み[例えば、筋肉痛(例えば、筋・筋膜痛症候群(MPS)、線維性筋痛症候群(FMS)等)、関節痛(例えば、関節炎、関節リウマチ(RA)、痛風等)、脊椎関連の痛み、骨の痛み等]、血流障害による痛み(例えば、閉塞性動脈硬化症(ASO)、バージャー病(TAO)等)、外傷による痛み、細菌などの異種生物の感染、侵入もしくは寄生による疼痛、神経因性疼痛[例えば、神経痛(例えば、神経損傷、三叉神経痛、肋間神経痛、感覚異常性大腿神経痛、鼠径神経痛、伏在神経痛、正中神経痛、尺骨神経痛、坐骨神経痛、神経根痛等)、帯状疱疹疼痛(例えば、急性期帯状疱疹疼痛、帯状疱疹後疼痛(慢性期)等)、糖尿病性疼痛(例えば、糖尿病性ニューロパシー、大径線維ニューロパシー、小径線維ニューロパシー、近位筋優位運動ニューロパシー、急性単神経障害、圧迫による麻痺等)、絞扼性神経障害(例えば、胸郭出口症候群、肩甲上神経絞扼障害、肩甲背神経絞扼障害、四辺形間隙症候群、円回内筋症候群、前骨間神経症候群、肘部管症候群、遅発性尺骨神経麻痺、後骨間神経症候群、手根管症候群、尺骨神経管症候群、Wartenberg病、Blowler's thumb、知覚異常性大腿痛、梨状筋症候群、Hunter管症候群、総腓骨神経絞扼障害、足根管症候群、前足根管症候群、Morton病、頚部脊柱管狭窄症、腰部脊柱管狭窄症、広範脊柱管狭窄症等)、腰痛関連ニューロパシー、腕神経叢引き抜き損傷、反射性交感神経性ジストロフィー(複雑性局所疼痛症候群タイプ1)、反射性交感神経性萎縮症、カウザルギー(灼熱痛、複雑性局所疼痛症候群タイプ2)、有痛性神経障害、脊髄損傷後疼痛、幻影痛(例えば、幻肢痛、幻歯痛等)、求心路遮断痛、医原性ニューロパシー、交感神経依存性疼痛、逆行性C線維興奮症候群(ABC症候群[Angry Backffiring C-nociceptor syndrome])、癌による疼痛、HIV関連神経因性疼痛、結石誘発疼痛(例えば、尿路結石(例えば、腎結石、尿管結石、膀胱結石、尿道結石等)による疼痛、胆嚢結石による疼痛、精管結石による疼痛等)、術後痛、慢性頭痛、口腔顔面痛(例えば、歯痛、舌痛症、顎関節症、三叉神経痛等)、非定型性顔面痛(例えば、抜歯後等の非定型性顔面痛等)、肩関節周囲炎、変形性関節症、関節炎、リウマチに伴う疼痛、バックペイン、多発性硬化症、薬物治療によって誘発される疼痛、放射線治療によって誘発される疼痛、麻薬性鎮痛薬の効果が十分に得られない疼痛等]等が挙げられる。

【0021】
本発明においては、特に、外傷、細菌などの異種生物の感染、侵入もしくは寄生、リウマチなど自己免疫の破綻もしくは癌などにより引き起こされる疼痛または痛覚過敏、および種々の神経損傷により引き起こされる痛覚異常などからなる群より選択される疼痛の治療に有効である。

【0022】
本発明の疼痛治療剤の投与形態は特に制限は無く、経口的あるいは非経口的に投与することが出来る。本発明の疼痛治療剤の有効成分は単独で、あるいは組み合わせて配合されても良いが、これに製薬学的に許容しうる担体あるいは製剤用添加物を配合して製剤の形態で提供することもできる。この場合、本発明の有効成分は、例えば、製剤中、0.1~99.9重量%含有することができる。

【0023】
製薬学的に許容しうる担体あるいは添加剤としては、例えば賦形剤、崩壊剤、崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、溶解剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、安定化剤等を用いることが出来る。

【0024】
経口投与に適する製剤の例としては、例えば散剤、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤またはシロップ剤等を挙げることが出来る。経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシンのような種々の賦形剤を、澱粉、好適にはとうもろこし、じゃがいもまたはタピオカの澱粉、およびアルギン酸やある種のケイ酸複塩のような種々の崩壊剤、およびポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムのような顆粒形成結合剤と共に使用することができる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤も錠剤形成に非常に有効であることが多い。同種の固体組成物をゼラチンカプセルに充填して使用することもできる。これに関連して好適な物質としてラクトースまたは乳糖の他、高分子量のポリエチレングリコールを挙げることができる。経口投与用として水性懸濁液および/またはエリキシルにしたい場合、活性成分を各種の甘味料または香味料、着色料または染料と併用する他、必要であれば乳化剤および/または懸濁化剤も併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。

【0025】
非経口投与に適する製剤としては、例えば注射剤、坐剤等を挙げることが出来る。非経口投与の場合、本発明の有効成分をゴマ油または落花生油のいずれかに溶解するか、あるいはプロピレングリコール水溶液に溶解した溶液を使用することができる。水溶液は必要に応じて適宜に緩衝し(好適にはpH8以上)、液体希釈剤をまず等張にする必要がある。このような水溶液は静脈内注射に適し、油性溶液は関節内注射、筋肉注射および皮下注射に適する。これらすべての溶液を無菌状態で製造するには、当業者に周知の標準的な製薬技術で容易に達成することができる。さらに、本発明の有効成分は皮膚など局所的に投与することも可能である。この場合は標準的な医薬慣行によりクリーム、ゼリー、ペースト、軟膏の形で局所投与するのが望ましい。

【0026】
上記の製剤の被験体としては、ヒト及び非ヒト動物が挙げられる。例えば、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ブタ、ヒツジ、ウマなど、医薬品の試験において一般に利用される動物が挙げられる。好ましくはサル、チンパンジー、ラット、マウスであり、より好ましくはマウスまたはラットである。

【0027】
本発明の疼痛治療剤の投与量は特に限定されず、疼痛の種類、患者の年齢や症状、投与経路、治療の目的、併用薬剤の有無等の種々の条件に応じて適切な投与量を選択することが可能である。本発明の疼痛治療剤の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり0.01から2500mg程度、好ましくは0.1から900mgである。注射剤として投与する場合の投与量は、例えば、成人(例えば、体重60kg)1日当たり10~500mg程度、好ましくは18~180mgである。これらの1日投与量は2回から4回に分けて投与されても良い。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
(使用した実験材料及び一般的実験方法)
(1)モデル動物
実験動物として、ICRマウス(日本クレア、オス、5週齢)を購入し、一週間後実験に用いた。実験用の容器に移したのち、一時間馴化させ、ガングリオシドなどの投与を行った。
(2)投与物質の調製
投与物質について、ガングリオシドGT1bとしては、(和光純薬, 075-03911)を用いた。ガングリオシドGM1は、(和光純薬, 079-03931)を用いた。また、シアリダーゼとしては、Arthrobacter ureafaciens由来シアリダーゼ (nacalai:製品番号24229-61など)を用いた。
(3)投与方法
PBSに溶解し、調製した被験物質を、マウス右後肢足底皮下に注射することにより投与した。また、疼痛刺激を誘導するため、0.05%または2%のホルマリンをマウスの右後肢皮下に投与することにより行った。
(4)疼痛の評価
投与した物質が疼痛に対し効果を持つことを評価するため、痛み関連行動である足舐め行動(licking)を目視にて評価し、その時間を測定した。測定方法としては、例えば、Ferreira J et. al. Pain. 117(1-2), 171-81. 2005年、Sakurada C et. al. Neurochem Int. 38(5), 417-23. 2001年、Piovezan AP et. al. Eur J Pharmacol. 351(1), 15-22. 1998年などに記載される。具体的な手順は、以下のとおりである。
1:マウスを観察用の容器に移し、一時間置く。
2:マウスの右後肢足底に試薬を皮下注射し、容器内に戻す。
3:直後より所定の時間内に、試薬を注射した足(右後肢)を舐める時間をストップウォッチにより目視にて測定する。
4:各試薬についてlicking (time)として舐めていた時間を記載する。
疼痛増強(0.05%ホルマリン投与)効果を観察するため、各種ガングリオシドもしくはPBSをマウス右後肢足底に投与し、所定の時間後、0.05 % ホルマリンを同箇所に投与後、5分間にlickingが引き起こされた時間を測定した。また、鎮痛作用を観察するため、シアリダーゼをマウス右後肢足底に投与30分後、同箇所に2%ホルマリンを投与し、投与後の0-5分を第一相、10-20分を第二相として、その間にlickingが引き起こされた時間を測定した。
【実施例】
【0029】
実施例1:ガングリオシドによる疼痛試験
ガングリオシドが末梢において痛みの発生に関与するかについて、後肢皮下に発痛物質を注入して痛みを感じた際にマウスがとると考えられている、足舐め行動(licking)を起こす時間を測定した。すなわち、lickingの時間が長いほどより強い疼痛を引き起こしていることになる。
【実施例】
【0030】
直径20cmの透明シリンダー内に一時間置いたICRマウスの右後肢足底に、PBS又はガングリオシド(PBSに溶解)40 μl を投与し、その後20 分の間、痛み関連行動である足舐め行動 (licking)を起こした時間を測定することで疼痛を評価した。
【実施例】
【0031】
実験の結果、緩衝液のみの投与に比べてガングリオシドGT1bが明らかにlickingの時間が増加したことを見出した(図2)。以上から、GT1bが発痛物質となる可能性が示された。一方で、GM1には有意な効果が見られなかった。
【実施例】
【0032】
実施例2:疼痛増強効果の検討
同様に、ICRマウス右後肢足底にPBSまたはガングリオシドを投与し、40分後に0.05%ホルマリンを投与し、低濃度ホルマリンにより引き起こされる疼痛をガングリオシドの投与により増強するか検討した。
【実施例】
【0033】
GT1bをマウス右後肢足底に投与し、20分、40分、100分後に0.05 % ホルマリンを同じ箇所に投与したところ、PBSに比べて疼痛関連行動である足なめ行動(licking)を起こす時間が増加した(図3(a))。また、GT1bまたはGM1ガングリオシドを各量投与し、40分後、同様に0.05 %ホルマリンを投与した。GT1bでは有意な疼痛増強効果が現れたが、GM1では有意な効果は認められなかった(図3(b))。
【実施例】
【0034】
したがって、ガングリオシドGT1bは低濃度ホルマリンにより引き起こされる疼痛も増強した(図3)。この結果からも、GT1bが発痛物質となる可能性が示された。また、GT1bよりもシアル酸が少ないタイプのガングリオシドGM1は、疼痛を引き起こす効果も増強する効果もみられなかった。
【実施例】
【0035】
実施例3:シアリダーゼによる鎮痛効果の検討
図1に示されるように、GT1bなどのガングリオシドは複数のシアル酸を含有するので、シアリダーゼ処理によりシアル酸を除き、GM1まで分解できる。なお、GM1などのシアル酸は立体構造的に切断しにくいため、蓄積される。そこで、発痛物質と推測された内在性GT1bをGM1へと分解する目的で、マウスにシアリダーゼを投与し、シアリダーゼによる疼痛抑制効果を検討した。
【実施例】
【0036】
ICRマウス右後肢足底に0.9 %NaCl+50 mM 酢酸緩衝液 (pH 5.2) 又はシアリダーゼ8 mU(約0.13 μg、nacalai:製品番号24229-61) (0.9 % NaCl in 50 mM 酢酸緩衝液 pH 5.2に溶解) を投与し、十分な時間(30分後)をおきシアル酸を除去させたのち、発痛刺激である2 % ホルマリンを投与した。この発痛刺激により、マウスはホルマリンによる直接的な痛みを感じたのち、一度痛みが治まり、炎症によると思われる二相目の痛みが生じる。ホルマリン投与直後から0-5分を第一相とし、10-20分を第二相としてlickingを測定した。その結果、シアリダーゼの投与により、特にこの二相目の痛みが緩和された(図4)。したがって、内在性の高級ガングリオシドを酵素で分解することにより炎症性疼痛を抑制できることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上述べたように、本発明のシアリダーゼを有効成分として含有する疼痛治療剤は、疼痛治療に有効に用いることができる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
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