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明細書 :極小ワイヤー状分子集合体及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5527683号 (P5527683)
公開番号 特開2011-056617 (P2011-056617A)
登録日 平成26年4月25日(2014.4.25)
発行日 平成26年6月18日(2014.6.18)
公開日 平成23年3月24日(2011.3.24)
発明の名称または考案の名称 極小ワイヤー状分子集合体及びその製造方法
国際特許分類 B82B   3/00        (2006.01)
B82B   1/00        (2006.01)
B82Y  40/00        (2011.01)
B82Y  30/00        (2011.01)
C25B   3/02        (2006.01)
C07D 487/22        (2006.01)
H01B   1/12        (2006.01)
H01B  13/00        (2006.01)
C07F  15/02        (2006.01)
FI B82B 3/00
B82B 1/00
B82Y 40/00
B82Y 30/00
C25B 3/02
C07D 487/22
H01B 1/12 Z
H01B 13/00 Z
C07F 15/02
請求項の数または発明の数 5
全頁数 14
出願番号 特願2009-208247 (P2009-208247)
出願日 平成21年9月9日(2009.9.9)
審査請求日 平成24年6月6日(2012.6.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】長谷川 裕之
個別代理人の代理人 【識別番号】100116850、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 隆行
審査官 【審査官】宮川 数正
参考文献・文献 特開2010-045124(JP,A)
特開2007-000991(JP,A)
特開2007-005684(JP,A)
国際公開第03/076332(WO,A1)
調査した分野 B82B 1/00-3/00
B82Y 5/00-99/00
C25D 1/00-1/22,3/00-3/66
H01L 29/00-29/38,29/76,29/78
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
極小ワイヤー状分子集合体の製造方法であって,
酸化還元を担う部位と,前記極小ワイヤー状分子集合体において電気伝導を担う部位とを含む溶液を用意する工程と,
前記溶液を2本の電極と接触させる工程と,
前記2本の電極に電圧を印加することにより電気化学反応を起こす工程と,
を含み,
前記極小ワイヤー状分子集合体は,
前記有機導電体を形成する有機分子が連続的に結合し,これにより前記極小ワイヤー状分子集合体が電気伝導性を有するものであり,
前記2本の電極に電圧を印加する工程において,
前記酸化還元を担う部位が酸化されることにより,前記電気伝導を担う分子が酸化される事なく連続的に結合し,これによりバンド絶縁体型の極小ワイヤー状分子集合体を形成し,
前記電気伝導を担う部位は,有機導電体を形成する配位子を有するフタロシアニンであり,
前記酸化還元を担う部位は,前記有機金属錯体に含まれる鉄(II)原子であり,
前記鉄(II)原子の酸化還元電位が,前記電気伝導を担う部位の酸化還元電位より低いものである,
バンド絶縁体型の極小ワイヤー状分子集合体の製造方法。
【請求項2】
前記配位子はCN,又はClである,
請求項1に記載の極小ワイヤー状分子集合体の製造方法。
【請求項3】
前記「酸化還元を担う部位と,前記極小ワイヤー状分子集合体において電気伝導を担う部位とを含む溶液」は,[FeII(Pc)(CN)]を含有する溶液である,
請求項1に記載の極小ワイヤー状分子集合体の製造方法。
【請求項4】
前記「酸化還元を担う部位と,前記極小ワイヤー状分子集合体において電気伝導を担う部位とを含む溶液」は,ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウム・[FeII(Pc)(CN)]のアセトニトリル飽和溶液である,
請求項1に記載の極小ワイヤー状分子集合体の製造方法。
【請求項5】
フタロシアニン誘導体を含み,単結晶の極小ワイヤー状分子集合体であって,
前記フタロシアニン誘導体は,
錯体に含まれる金属原子と,配位子を有するフタロシアニン誘導体であり,
前記金属原子は,フタロシアニン誘導体の中心金属原子となるものであって,配位子より酸化還元電位が低いものであり,
前記金属原子は,鉄(II)原子である,
バンド絶縁体型の極小ワイヤー状分子集合体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は,極小ワイヤー状分子集合体及びその製造方法などに関する。より詳しく説明すると,本発明は,電解法により極小ワイヤー状分子集合体を製造する方法において,フタロシアニンなど電気伝導を担う部位が酸化されるのではなく,酸化還元を担う部位が酸化されることで,バンド絶縁体型の単結晶を成長させ,これによりフタロシアニンなどにキャリアがドープされない極小ワイヤー状分子集合体を製造する方法や,その方法を用いて得られた極小ワイヤー状分子集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-5684(下記特許文献1)には,導電性ワイヤー状分子集合体及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2007-5684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の方法でワイヤー状分子集合体を製造した場合,ナノスケールの単結晶を得ることができる。しかしながら,電解法にてワイヤー状分子集合体を製造する際に,フタロシアニン配位子など電気伝導を担う部分にキャリアがドープされてしまい,その結果伝導性が高くなるという問題があった。すなわち,得られた分子集合体は,金属的な単結晶であるか,又はモット絶縁体形の単結晶であった。
【0005】
そこで,本発明は,電解法にて極小ワイヤー状の分子集合体を製造するに際して,電気伝導を担う部位を酸化させない方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,基本的には,極小ワイヤー状の分子集合体を製造するに際して,酸化還元を担う部位を付加するものである。そして,電解法にて極小ワイヤー状の分子集合体を製造する際に,この酸化還元を担う部位が酸化されるので,電気伝導を担う部分が酸化されない。本発明は,これにより導電性が高くなりすぎない極小ワイヤー状の分子集合体を製造することができる。特に,本発明では,電気伝導を担うπ電子系化合物が参加されないので,従来得られた金属的なワイヤー状分子集合体やモット型絶縁体と異なり,バンド絶縁体型の単結晶を得ることができる。
【0007】
本発明の第1の側面は,極小ワイヤー状分子集合体の製造方法に関する。そして,溶液を用意する工程と,溶液を2本の電極と接触させる工程と,2本の電極に電圧を印加することにより電気化学反応を起こす工程とを含む。溶液を用意する工程は,酸化還元を担う分子と,極小ワイヤー状分子集合体において電気伝導を担う分子とを含む溶液を用意する工程である。ここで,電気伝導を担う分子は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,又はポルフィリン誘導体があげられる。そして,極小ワイヤー状分子集合体は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,又はポルフィリン誘導体が連続的に結合されたものである。また,2本の電極に電圧を印加する工程において,電気化学反応が惹き起こされ,酸化還元を担う分子が酸化される。これにより,電気伝導を担う分子が酸化される事なく連続的に結合し,バンド絶縁体型の極小ワイヤー状分子集合体を形成する。
【0008】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,電気伝導を担う分子がフタロシアニン誘導体のものに関する。そして,酸化還元を担う分子は,フタロシアニン誘導体の錯体に含まれる金属原子であり,錯体に含まれる金属原子は,たとえばフタロシアニン誘導体の中心金属原子となるものであって,フタロシアニン配位子より酸化電位が低い金属である。
【0009】
このようにフタロシアニン配位子より酸化電位が低い金属を有するフタロシアニン錯体を用いることで,電解の際に金属部分が酸化される。そして,フタロシアニン部分が酸化されないにもかかわらず,単結晶を形成することができ,これにより極小ワイヤー状分子集合体を得ることができる。
【0010】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,フタロシアニン誘導体は,配位子を有するフタロシアニンである。そして,錯体に含まれる金属原子は,鉄(II)原子である。
【0011】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,フタロシアニン誘導体は,配位子を有するフタロシアニンであり,ここで配位子はCN,又はClである。そして,錯体に含まれる金属原子は,鉄(II)原子である。
【0012】
本発明の第1の側面の好ましい上記とは別の態様は,電気伝導を担う分子が,フタロシアニン誘導体であり,酸化還元を担う分子は,フタロシアニン誘導体と化学結合により結合された分子である。このように,酸化還元を担う分子がフタロシアニン錯体に含まれる金属でなくてもフタロシアニン誘導体を含む単結晶からなる極小ワイヤー状分子集合体を得ることができる。
【0013】
本発明の第2の側面は,フタロシアニン誘導体を含み,単結晶の極小ワイヤー状分子集合体に関する。そして,フタロシアニン誘導体は,フタロシアニン誘導体からなる錯体に含まれる金属原子と,配位子を有するフタロシアニン誘導体である。また,錯体に含まれる金属原子は,フタロシアニン誘導体の中心金属原子となるものであって,フタロシアニン配位子より酸化電位が低い金属である。
【0014】
本発明の第2の側面の好ましい態様は,フタロシアニン誘導体は,ジシアノ鉄フタロシアニンからなるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は,極小ワイヤー状の分子集合体を製造するに際して,酸化還元を担う分子を用いる。そして,電解法にて極小ワイヤー状の分子集合体を製造する際に,この酸化還元を担う分子が酸化されるので,電気伝導を担う部分が酸化されない。本発明は,これにより導電性が高くなりすぎない極小ワイヤー状の分子集合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は従来のワイヤー状分子集合体の製造過程での化学反応の様子を示す。図1Aは,電解前の分子集合体を構成する分子の様子を示す。図1Bは,電解後の分子集合体を構成する分子の様子を示す。
【図2】図2は極小ワイヤー状分子集合体の製造過程での化学反応の様子を示す図である。図2Aは,電解前の分子集合体を構成する分子の様子を示す。図2Bは,電解後の分子集合体を構成する分子の様子を示す。
【図3】図3は,本発明の極小ワイヤー状分子集合体の構造を模式的に示す図である。図3Aは,電解前の分子集合体を構成する分子の様子を示す。図3Bは,電解後の分子集合体を構成する分子の様子を示す。
【図4】図4は,本発明の極小ワイヤー状分子集合体を含むワイヤーの模式構造例を示す。図4Aは,電解前の分子集合体を構成する分子の様子を示す。図4Bは,電解後の分子集合体を構成する分子の様子を示す。
【図5】図5は,本発明の極小ワイヤー状分子集合体を含むワイヤーの模式構造例を示す。図5Aは,電解前の分子集合体を構成する分子の様子を示す。図5Bは,電解後の分子集合体を構成する分子の様子を示す。
【図6】図6は,実施例により得られた極小ワイヤー状分子集合体を示す図面に替わる写真である。
【図7】図7は,実施例により得られた極小ワイヤー状分子集合体を示す図面に替わる写真である。
【図8】図8は,実施例により得られた極小ワイヤー状分子集合体を示す図面に替わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1の側面は,バンド絶縁体型の極小ワイヤー状分子集合体の製造方法に関する。極小ワイヤー状分子集合体とは,複数の分子が連続的に結合した結果,線状な形状を有する組成物となったものを意味する。具体的な極小ワイヤー状分子集合体の例は,特許文献1に記載のワイヤー状分子集合体の形状を有するものである。バンド絶縁体型の分子集合体とは,π電子系物質など結晶となった場合に電気伝導を担う部分が酸化(又は還元)されずに,結晶が形成されて得られた分子集合体を意味する。バンド絶縁体型の分子集合体は,その合成過程を検証するか,その組成と電気伝導度とを分析することで把握できる。

【0018】
極小ワイヤー状分子集合体の例として,針状結晶があげられる。本明細書において極小ワイヤー状分子集合体とは,分子が規則的に整列した,幅分子1個分~100μm,長さ分子2個分以上の針状又は線状物質を意味する。

【0019】
実施例で得られたように,極小ワイヤー状分子集合体の幅は1μm以上50μm以下でもよく,5μm以上30μm以下のものでもよい。極小ワイヤー状分子集合体の長さは,10μm以上のものがあげられる。微小な極小ワイヤー状分子集合体の直径(最大幅)として,1nmから1μmがあげられ,1nm~200nmであればより好ましい。極小ワイヤー状分子集合体の長さとしては,10nm~100μmがあげられる。本発明の極小ワイヤー状分子集合体としては,長軸lと短軸sの比(l/s)が,1以上であれば好ましく,2以上であればより好ましく10以上であればさらに好ましい。

【0020】
極小ワイヤー状分子集合体として,特に極小ワイヤー状分子集合体を構成する分子(結晶)が1列~100列規則正しく並んだ単位が繰り返され極小ワイヤー状分子集合体を構成しているものが好ましく,分子が1列~50列であればより好ましく,分子が1列~20列であれば更に好ましく,分子が1,2,3,4,又は5列であれば特に好ましい。針状結晶は,ある程度湾曲した極小ワイヤー状のものでもよい。

【0021】
極小ワイヤー状分子集合体の形状としては,針状,線状,柱状,円柱状,ブロック状,又は板状が好ましいが,分子が規則的に整列したものであれば特に限定されるものではない。

【0022】
極小ワイヤー状分子集合体は基板上に成長することが好ましい。また, 極小ワイヤー状分子集合体は電極上,電極周囲に成長することがより好ましく,電極間,とくにギャップ部に成長することが特に好ましい。電極間又はギャップ部に極小ワイヤー状分子集合体を成長させるためには電気分解を行うのが好ましい。電気分解時の電流には直流電流又は交流電流が好ましく,交流電流が特に好ましい。電解セルは成長期間中,静置されていることが好ましい。

【0023】
電解などで得られた結晶は,そのまま極小ワイヤー状分子集合体としても良い。得られた結晶をさらに束ねて極小ワイヤー状分子集合体としても良いし,得られた結晶をカップリング処理し,例えば導電性フィラー用に処理して極小ワイヤー状分子集合体としてもよい。

【0024】
そして,本発明の極小ワイヤー状分子集合体を製造する方法は,溶液を用意する工程と,溶液を2本の電極と接触させる工程と,2本の電極に電圧を印加する工程とを含む。極小ワイヤー状分子集合体を製造する方法として,たとえばWO03/076332号公報に開示された電解装置を用いて行うことがあげられる。極小ワイヤー状分子集合体を製造する際には,極小ワイヤー状分子集合体となる物質(極小ワイヤー状分子集合体を構成する分子など)を溶解させた溶液(電解液)を用いることが好ましい。極小ワイヤー状分子集合体となる物質を溶解させた電解液に上記電極を用いて電圧を印加する電解法により極小ワイヤー状分子集合体を製造することができる。本発明においては,電極間が微小であり微小な極小ワイヤー状分子集合体(針状結晶や棒状結晶など)を製造することができる。

【0025】
溶液を用意する工程は,酸化還元を担う分子と,極小ワイヤー状分子集合体において電気伝導を担う分子とを含む溶液を用意する工程である。ここで,電気伝導を担う分子は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,又はポルフィリン誘導体からなる。そして,極小ワイヤー状分子集合体は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,又はポルフィリン誘導体が連続的に結合するものである。

【0026】
ここで酸化還元を担う分子とは,電解においてキャリアがドープされる分子を意味する。換言すると,電解の際に酸化される分子を意味する。酸化還元を担う分子は,電気伝導を担う分子と1つの分子を形成しており,そのうち酸化還元を担う部分であってもよい。また,電気伝導を担う分子とは,極小ワイヤー状分子集合体において電気伝導を担う部位となる分子を意味する。電気伝導を担う分子の例は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,又はポルフィリン誘導体のようにπ電子系を有する分子があげられる。電気伝導を担う部位の例は,フタロシアニン誘導体,ポルフィリン誘導体,ジチオールチオンジチオラート(dmit)誘導体錯体,マロノニトリルジチオラート(mnt)誘導体錯体,エチレンジチオラート(edt)誘導体錯体,ビストリフルオロメチレンジチオラート(tfd)誘導体錯体,ジチオオキサラート(dto)誘導体錯体,オキサラート(ox)誘導体錯体,ジメチルグリオキシン(dmg)誘導体錯体,o-フェニレンジアミン(opd)誘導体錯体,ジチオオキサミド誘導体錯体,メタロセン誘導体錯体,5,6-ジヒドロ-1,4-ジチイン-2,3-ジチオラート(dddt)誘導体錯体,又は5,7-ジヒドロ-1,4,6-トリチイン-2,3-ジチオラート(dtdt)誘導体錯体があげられる。フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,又はポルフィリン誘導体が連続的に結合するとは,構成分子が結合しあう様子を意味する。具体的な連続的に結合する態様は,単結晶を構成することである。

【0027】
フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,及びポルフィリン誘導体の例は,それぞれフタロシアニン,フェロセン,及びポルフィリン,又はそれらに配位子が付いたものである。また,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,及びポルフィリン誘導体の別の例は,環の外部にある水素原子が1つ又は2つ以上以下のいずれかの置換基により置換されたもの又は,それらに配位子がついたものがあげられる。なお,水素原子が置換基により置換される場合は,対称な位置に存在する水素原子の同じ置換基により置換されるものが好ましい。置換基として,ハロゲン,ヒドロキシ基,カルボキシル基,シアノ基,カルバモイル基,置換基群Aから選択される置換基を有しても良いC-Cアルキル基,置換基群Aから選択される置換基を有しても良いC-Cアルケニル基,置換基群Aから選択される置換基を有しても良いC-Cアルキニル基,置換基群Aから選択される置換基を有しても良いC-Cアルコキシ基置換基群Aから選択される置換基を有しても良いC-Cアルキルチオ基又は置換基群Aから選択される置換基を有しても良いC-Cアルキルスルホニル基を示し,置換基群Aは,ハロゲン;ヒドロキシ基;カルボキシル基;シアノ基;ハロゲン,及びヒドロキシ基からなる群を示すものがあげられる。

【0028】
本明細書において“C-C”とは,炭素数がm個~n個のいずれかであることを意味する。

【0029】
“アルキル基”とは,直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族炭化水素から水素が1原子失われて生ずる1価の基をいう。C-Cアルキル基として,メチル基,エチル基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基及びtert-ブチル基があげられる。

【0030】
“アルケニル基”とは,二重結合を有する直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族炭化水素から水素が1原子失われて生ずる1価の基をいう。C-Cアルケニル基として,エテニル基,1-プロペニル基,2-プロペニル基,2-メチル-1-プロペニル基,1-ブテニル基,2-ブテニル基,及び3-ブテニル基があげられる。

【0031】
“アルキニル基”とは,三重結合を有する直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族炭化水素から水素が1原子失われて生ずる1価の基をいう。C-Cアルキニル基として,エテニル基,1-プロペニル基,2-プロペニル基,2-メチル-1-プロペニル基,1-ブテニル基,2-ブテニル基,及び3-ブテニル基があげられる。

【0032】
“アルコキシ基”とは,直鎖状又は分枝鎖状のアルコール類の水酸基から水素原子が失われて生ずる1価の基をいう。C-Cアルコキシ基として,メトキシ基,エトキシ基,プロポキシ基,イソプロポキシ基,ブトキシ基,イソブトキシ基,sec-ブトキシ基,及びtert-ブトキシ基があげられる。

【0033】
“アルキルチオ基”とは,アルコキシ基の酸素が硫黄に置き換わった基である。C-Cアルキルチオ基として,メチルチオ基,エチルチオ基,プロピルチオ基,イソプロピルチオ基,ブチルチオ基,イソブチルチオ基,sec-ブチルチオ基,及びtert-ブチルチオ基があげられる。

【0034】
“アルキルスルホニル基”とは,アルキル基の1つの水素原子がスルホニル基により置換された1価の基をいう。C-Cアルキルスルホニル基として,メチルスルホニル基,エチルスルホニル基,プロピルスルホニル基,イソプロピルスルホニル基,ブチルスルホニル基,イソブチルスルホニル基,sec-ブチルスルホニル基及びtert-ブチルスルホニル基があげられる。

【0035】
“ハロゲン”として,フッ素,塩素,臭素,及びヨウ素があげられる。

【0036】
極小ワイヤー状分子集合体の原料は,基本的には有機モット絶縁体となる原料であればよい。極小ワイヤー状分子集合体としての具体例として,有機化合物の結晶を含むものがあげられる。そして,有機化合物の結晶として,有機化合物錯体の単結晶からなるものがあげられる。

【0037】
溶液は,有機化合物の結晶を溶解したものであってもよい。有機化合物の結晶として,Catx[M(Pc)L]y(Catはカチオン,Mは金属を示し,Lは軸配位子を示し,Pcはフタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,又はポルフィリン誘導体を示し,x及びyは0以上の数を示す。)の部分酸化塩結晶であるものがあげられる。錯体に含まれる金属Mの例は,マンガン(Mn),亜鉛(Zn),クロム(Cr),鉄(Fe)及びカドニウム(Cd)である。これらは,コバルト(Co)よりもイオン化傾向が高い遷移金属である。Lとして,CN,Cl,O,OH,NHがあげられ,好ましくはCN又はClである。

【0038】
Catx[M(Pc)L]yの例として,[M(Pc)(CN)]・2CHOH結晶,[M(Pc)(CN)]・2CHBr結晶,[M(Pc)(CN)]・2CHCl結晶,[M(Pc)(CN)]・2CHCl結晶,[M(Pc)(CN)]・CHCN結晶,[M(Pc)(CN)]・2(CHSO結晶,[M(Pc)(CN)]・2HO結晶,[M(Pc)Cl]・2(CHCO結晶,[M(Pc)(CN)]・2(CHCO結晶,[M(Pc)(CN)]・CHCHOH結晶,又は[M(Pc)Cl]・CHCHOH結晶があげられる。

【0039】
極小ワイヤー状分子集合体となる物質を溶解する溶媒としては,有機溶剤があげられ,これらの中でも,アセトニトリル,アセトン,アルコール類,ベンゼン,ハロゲン化ベンゼン,1-クロロナフタレン,ジメチルスルホキシド,N,N-ジメチルホルムアミド,テトラヒドロフラン,ニトロベンゼン,ピリジンなどが好ましく,アセトニトリル,アセトン,エタノール,メタノールがより好ましく,アセトン,アセトニトリルが更に好ましい。有機溶剤の割合としては,例えば,極小ワイヤー状分子集合体となる物質を飽和させたものがあげられるが,特に限定されるものではない。

【0040】
電解などにより極小ワイヤー状分子集合体を製造する際には,通常原料を含む溶液(電解液)を用いる。この溶液における,極小ワイヤー状分子集合体となる物質の濃度として,任意の濃度があげられるが,0.1重量%~90重量%があげられ,好ましくは1重量%~50重量%であり,さらに好ましくは10重量%~40重量%又は20重量%~30重量%である。電解液の温度としては,-30°C~200°Cが好ましく,-30°C~120°Cであればより好ましく,15°C~30°Cであれば特に好ましいが,電解液が沸騰あるいは凝固していないものが好ましい。

【0041】
溶液を2本の電極と接触させる工程は,極小ワイヤー状分子集合体となる物質を含む溶液を電解装置に入れることで達成できる。電解装置は,特開2007-5684号公報や,WO03/076332号公報に開示された電解装置を用いることができる。

【0042】
本発明の電解装置は,2本の電極と,電解セルとを有する。また,2本の電極に印加する電圧を制御するための図示しない電圧制御装置,及び/または前記2本の電極に供給する電流を制御するための電流制御装置を有していてもよい。本発明の電解装置は,電解セルに極小ワイヤー状分子集合体を構成する分子を含む電解液を保持させ,電解液と前記2本の電極とが接触した状態で前記2本の電極に電圧を印加する(または,電流を供給する)ことにより極小ワイヤー状分子集合体を製造する。

【0043】
なお,電解装置は,電極の電位を測定するための参照電極や電位測定装置,FETとして機能させるためのゲート電極,制御用コンピュータを更に具備してもよい。電解セルは,電解液(溶液)を保持する電解液保持部と,基板を差し込む基板差し込み部とを具備する。

【0044】
本発明の基板は,少なくとも2本の電極をその上に搭載できるものであることが好ましい。基板の材質としては,ガラス基板や,シリコン基板,プラスチック基板などがあげられるが,フォトリソグラフィーや電子線リソグラフィーの基板として適するものであれば特に限定されるものではない。基板の形状としては,直方体が好ましい。基板の長さとしては,0.1mmから10cmが好ましく,1mmから5cmであればより好ましく,1cmから4cmであればさらに好ましく,2cmから3cmであれば特に好ましい。基板は,不純物を含まないように洗浄された後に,用いられることが好ましい。

【0045】
本発明における電極としては,基板上に設けられ,対向する(又は平行に並べられた)2本の電極を含むものが好ましい。

【0046】
基板上に設けられる電極の材質としては,金,白金,銅,グラファイトなど導電性の材質のものがあげられ,これらのうちでは,白金が好ましいが,リソグラフィーに適したものであれば特に限定されるものではない。

【0047】
電極は,基板上に少なくとも2本以上形成されることが好ましい。なお,電解セルが,電極のうち1本の役割を果たす電極であってもよい。また,ゲート電極や,参照電極がさらに設けられていてもよいし,電解液等の物性を測定するための電極がさらに設けられてもよい。

【0048】
電極として,2つの電極が,その先端に,もう一方の電極方向へ電極が曲げる(対向する)突起部を有する電極のものがあげられる。また,別の電極として,2つの電極が,それぞれの電極の途中に,もう一方の電極方向へ向けた(対向する)突起部を有するものが好ましい。そのようにすれば,極小ワイヤー状分子集合体が成長する部分を制御することができることとなる。

【0049】
電極の間隔としては,1nm~100μmが好ましく,1nm~1μmであればより好ましく,1nm~200nmであればさらに好ましいが,希望する極小ワイヤー状分子集合体の長さに適するものであれば特に限定されるものではない。電極の幅としては,0.5nm~1cmが好ましく,0.5nm~200nmあるいは1mm~3mmであればより好ましい。電極の長さとしては,1nm~25mmが好ましい。

【0050】
電極は電解液に浸っていることが好ましく,電極の体積の20%以上が浸っている場合が好ましく,50%以上が浸っている場合は更に好ましく,80%以上が浸っている場合は特に好ましい。また,電極間に電解液を滴下して基板上で電気分解を行うことも好ましい。

【0051】
本発明においては,電極が基板上に形成されることが好ましい。電極を基板上に形成する方法としては,マスク蒸着法,フォトリソグラフィー法,および電子線リソグラフィー法およびこれらの方法を組合せた方法があげられるが,これらに限定されるものではない。

【0052】
マスク蒸着法では,電極となるべき形状をくりぬいたマスクを基板にかぶせ,その上から金属膜を蒸着する。その後にマスクを基板から除去する。このようにして電極部分だけに金属膜が蒸着され,微小電極を作成することができる。

【0053】
フォトリソグラフィー法による電極作成では,基板上に金属膜を形成する金属膜形成工程と,金属膜形成工程で蒸着された金属膜の上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と,レジスト層形成工程により形成されたレジスト層を所望のパターンに感光させる感光工程と,感光させたレジスト層を現像する現像工程と,現像により残ったレジスト層をマスクとして,金属膜をエッチングするエッチング工程とを含む。レジスト層を形成するレジストとしては,いわゆるフォトレジストであれば特に限定されるものではない。

【0054】
電子線リソグラフィー法による電極作成では,基板上に金属膜を形成する金属膜形成工程と,金属膜形成工程で蒸着された金属膜の上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と,レジスト層形成工程により形成されたレジスト層を所望のパターンに電子線を照射する電子線照射工程と,電子線を照射したレジスト層を現像する現像工程と,現像により残ったレジスト層をマスクとして,金属膜をエッチングするエッチング工程とを含む。レジスト層を形成するレジストとしては,いわゆる電子線レジストであれば特に限定されるものではない。

【0055】
電極に印加される電圧は,電極と連結した電圧制御装置により制御されることが好ましい。なお,電解セル中に参照電極があり,電極間の電位差を測定することができ,その測定結果に応じて電極に印加する電圧を制御することができることはより好ましい。電圧制御装置とともに,または電圧制御装置に変えて電極に供給する電流を制御する電流制御装置であってもよい。

【0056】
2本の電極に電圧を印加することにより電気化学反応を起こす工程は,電解装置において電極に電圧を印加し,これにより2本の電極の間に電位差を生じさせ,電気化学反応を引き起こす工程である。2本の電極に電圧を印加する工程において,酸化還元を担う分子が酸化されることにより,電気伝導を担う分子が酸化される事なく連続的に結合し,これにより極小ワイヤー状分子集合体を形成する。

【0057】
電極間の電位差としては,10mV~20Vが好ましく,1V~5Vであればより好ましく,2V~3Vであれば特に好ましい。交流電圧の場合には,周波数1mHz~1kHzが好ましく,500mHz~10Hzがより好ましい。また,交流電圧の場合には,波形は正弦波,方形波,ノコギリ波などがあげられるが,正弦波,方形波が好ましく,方形波が特に好ましい。交流電圧の場合の振幅には,10mV~20Vが好ましく,1V~5Vであればより好ましく,2.5V~5Vが特に好ましい。電圧を印加する時間としては,例えば10日以下があげられ,0.001秒から10日が好ましく,1秒から2日であればより好ましいが,得ようとする極小ワイヤー状分子集合体の大きさ,種類,印加する電圧などにより適当な時間とすればよい。
本発明の極小ワイヤー状分子集合体の製造方法は,基本的には,有機モット絶縁体の原料を含む電解液を用いる。有機モット絶縁体の原料はフタロシアンン誘導体又はフェロセン誘導体であり,電解液はCoよりもイオン化傾向が高い遷移金属を含む。そして,最も近接した部位の間隔が1nm~100μmである2本の電極に,最大電位差を10mV~20Vとする直流電圧または交流電圧のいずれかまたは両方を,電解液中で印加することにより,極小ワイヤー状分子集合体を製造する。

【0058】
特に,交流電圧を前記2本の電極に印加することにより,前記2本の電極間に幅が1nm~1μmであり,長さが1nm~500μmである極小ワイヤー状分子集合体を選択的に成長させることができる。従来の超高真空中での分子蒸着法や分子ビーム法などでは,モット絶縁体である極小ワイヤー状分子集合体を製造することはできなかった。しかしながら,本発明では,閉殻分子のHOMOから1分子につき1個電子が抜き取られ,極小ワイヤー状分子集合体の全部がSOMOとなった状態を作り出すことができ,有機モット絶縁体極小ワイヤー状分子集合体を作製することができる。本発明では,電気分解によってSOMOとなった分子が,電荷共鳴や電荷移動相互作用によって自己組織化し,有機モット絶縁体である極小ワイヤー状分子集合体を成長させることができる。

【0059】
本発明の第1の側面の好ましい上記とは別の態様は,電気伝導を担う分子が,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体であり,酸化還元を担う分子は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体と化学結合により結合された分子である。このように,酸化還元を担う分子がフタロシアニン錯体に含まれる金属でなくてもフタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体を含む単結晶からなる極小ワイヤー状分子集合体を得ることができる。

【0060】
フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体と化学結合により結合された分子として,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体に直接結合した分子又はフタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体と1又は複数の二重結合により結合した分子があげられる。そして,そのようなフタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体と化学結合により結合された分子の例は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,及びポルフィリン誘導体,又は飽和又は不飽和の5員環~8員環があげられる。

【0061】
“飽和又は不飽和の5員環~8員環”として,フラン,チオフェン,ピロール,2H-ピロール,オキサゾール,イソオキサゾール,チアゾール,イソチアゾール,イミダゾール,ピラゾール,フラザン,ピラン,ピリジン,ピリダジン,ピリミジン,ピラジン,シクロペンタン,シクロヘキサン,シクロヘプタン,シクロオクタン,チオラン,チオアン,チオパン,チオカン,ジチオラン,ジチオアン,ジチオパン,又はジチオカンがあげられる。

【0062】
これらの分子に含まれる酸化還元を担う部位は電気伝導を担う部位より酸化電位が低いため,酸化還元を担う部位が電解の際に酸化される。すると,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体が連続的に結合し,極小ワイヤー状分子集合体を形成する。なお,還元に対しても同様の仕組みで極小ワイヤー状分子集合体の形成することができる。すなわち,酸化還元を担う部位が電気伝導を担う部位より酸化電位が高い場合,酸化還元を担う部位が電解の際に還元される。

【0063】
なお,酸化還元を担う分子は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体と結合されていない分子であってもよい。酸化還元を担う分子は,溶液中に存在する分子であってもよい。そして,溶液中に存在する酸化還元を担う分子が酸化されると,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体が連続的に結合し,極小ワイヤー状分子集合体を形成する。

【0064】
次に,本実施例及び比較例について説明する。図1は従来の極小ワイヤー状分子集合体の製造過程での化学反応の様子を示す。図1Aは,電解前の分子集合体を構成する分子の様子を示す。図1Bは,電解後の分子集合体を構成する分子の様子を示す。図2は極小ワイヤー状分子集合体の製造過程での化学反応の様子を示す図である。図2Aは,電解前の分子集合体を構成する分子の様子を示す。図2Bは,電解後の分子集合体を構成する分子の様子を示す。

【0065】
これまで出願人は,有機モット絶縁体の原料として,[Co(Pc)L]中性ラジカル結晶(Lは軸配位子を示し,Pcはフタロシアニン)の有機化合物錯体の結晶又は単結晶を用いて,上述してきたような電解法によって,極小ワイヤー状分子集合体を作製した。この結果,微細の極小ワイヤー状分子集合体を得ることができた。しかしながら,図1Bに示されるように,ワイヤーの製造工程で電子が付加されると,フタロシアン配位子が酸化されていた。フタロシアン配位子は電気伝導を担う部位である。このため,フタロシアン配位子が酸化されると高伝導性の極小ワイヤー状分子集合体が得られた。

【0066】
本発明は,[Fe(Pc)L]中性ラジカル結晶(Lは軸配位子を示し,Pcはフタロシアニン)の有機化合物錯体の結晶又は単結晶を用いて電解法によって,極小ワイヤー状分子集合体を作製した。有機モット絶縁体の原料として,ジシアノ鉄(II)フタロシアニン塩を用いることで,図2A及びBに示されるように,ワイヤーの製造工程でワイヤーの製造工程で電子が付加されると,錯体に含まれる金属原子であるジシアノ鉄(II)のみが酸化し,フタロシアン配位子は酸化されなかった。このように,有機化合物錯体に含まれる金属として,酸化数の低い2価の鉄(Fe)を適用したことで,金属のみを酸化させ,金属の周囲に配置されたフタロシアニン配位子を酸化させることなく,ナノ単結晶を得ることができた。このナノ単結晶は,電気伝導を担うフタロシアニン配位子が酸化していないので,低伝導である。そして,このようなナノ結晶を用いることで,低伝導の極小ワイヤー状分子集合体を得ることができる。

【0067】
なお,Mとして,鉄(Fe)に限らず,マンガン(Mn),亜鉛(Zn),クロム(Cr),鉄(Fe)及びカドニウム(Cd)を用いても同様の効果が得られる。これら金属の共通の性質は,コバルト(Co)よりもイオン化傾向が高い遷移金属である。

【0068】
次に,本発明の極小ワイヤー状分子集合体の構造を模式図に基づいて説明する。図3は,本発明の極小ワイヤー状分子集合体の構造を模式的に示す図である。図4及び図5は,本発明の極小ワイヤー状分子集合体を含むワイヤーの模式構造例を示す。

【0069】
図3Aは,極小ワイヤー状分子集合体の原料となる[Fe(Pc)L]中性ラジカル結晶(Lは軸配位子を示し,Pcはフタロシアニン)の模式図である。酸化還元を担う分子1として,たとえば鉄が用いられる。また,前記極小ワイヤー状分子集合体において電気伝導を担う分子としてフタロシアニン又はフタロシアニンに配位子が付いたものが用いられている。なお,上述の通り,Fe以外でCoよりもイオン化傾向の高い遷移金属を用いてもよく,更にPcをフタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,又はポルフィリン誘導体を用いてもよい。図3Bは,[Fe(Pc)L]中性ラジカル結晶を用いて作製した極小ワイヤー状分子集合体の模式構造を示す。[Fe(Pc)L]中性ラジカル結晶は,平面上に順次連なって重なるように配置され,電気伝導部位であるフタロシアニン配位子が互いに接触した状態となり,フタロシアニン配位子を通じて電気が伝導する。また,上述の通り,有機モット絶縁体錯体に含まれる金属をFeとすることで,電気伝導部位であるフタロシアニン配位子は酸化されない。従って,電気がフタロシアニン配位子を伝導するときの電気伝導性は低伝導となる。

【0070】
図4Aでは,酸化還元を担う分子は,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体と化学結合により結合された分子である。この例では,極小ワイヤー状分子集合体を構成するフタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体に酸化還元を担う部位が結合している。このように構成することで,図4Bに示すように,電解において酸化還元を担う部位が酸化されるとともに,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体が連続的に結合し,極小ワイヤー状分子集合体を構成する。

【0071】
図5Aは,酸化還元を担う分子がフタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体と結合されていない分子であるものの模式図である。そして,溶液中に存在する酸化還元を担う分子が酸化されると,図5Bに示されるように,フタロシアニン誘導体,フェロセン誘導体,ポルフィリン誘導体が連続的に結合し,極小ワイヤー状分子集合体を形成する。
【実施例1】
【0072】
電解装置として,特開2009-079295号公法に開示されたものを用いた。PNP・[FeII(Pc)(CN)](PNP:ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウム)のアセトニトリル飽和溶液を調製し,電解液保持部に加えた。基板差し込み部に電極基板を挿入しパテを用いて電極基板を定位置に固定した。電極の上部と電解セルの銅線の間に金線を渡し,銀ペーストで固定した。基板保持部を電解液保持部と結合させた後,銅線にファンクションジェネレータを接続した。電極に振幅2.2V,0.6kHzの方形波を印加し,5分間静置した。この際の溶解液の温度は,23℃であった。この際得られた,極小ワイヤー状分子集合体のSEM写真を図6に示す。
【実施例2】
【0073】
電解条件を振幅2.0V,2.0kHzの方形波,電解時間を3分とした以外は実施例1と同様にして極小ワイヤー状分子集合体を得た。この際得られた極小ワイヤー状分子集合体のSEM写真を図7に示す。
【実施例3】
【0074】
電解条件を振幅2.0V,2.0kHzの方形波,電解時間を20分とした以外は実施例1と同様にして極小ワイヤー状分子集合体を得た。この際得られた極小ワイヤー状分子集合体のSEM写真を図8に示す。
実施例により得られた極小ワイヤー状分子集合体は,鉄イオンが酸化されており,フタロシアニン分子部分は酸化されていない。その結果,得られた極小ワイヤー状分子集合体の電気伝導度はそれほど高くないものであった。
【実施例3】
【0075】
上記の実施例においては,PNP・[FeII(Pc)(CN)]のアセトニトリル飽和溶液を用いてバンド絶縁型の単結晶を得た。一方,本発明は,これらの実施例に限定されるものではない。たとえば,これらの実施例では,電気伝導を担う部分としてフタロシアニン誘導体が用いられ,酸化還元を担う部分としてフタロシアニン誘導体錯体に含まれる金属としてFIIが用いられている。しかし,同様の原理に基づいて,酸化還元を担う部分が溶液中に存在すればよい。よって,本発明は,酸化還元を担う部分として錯体に含まれる金属を有する系に限定されるものではないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の極小ワイヤー状分子集合体は,たとえばナノスケールのトランジスタなどの配線として利用できる。よって,本発明は,材料化学の分野で利用されうる。
【符号の説明】
【0077】
1 酸化還元を担う分子
2 電気伝導を担う分子
3 極小ワイヤー状分子集合体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7