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明細書 :蛍光読取装置及び蛍光読取方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5093522号 (P5093522)
登録日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
発明の名称または考案の名称 蛍光読取装置及び蛍光読取方法
国際特許分類 G01N  21/64        (2006.01)
G01N  21/15        (2006.01)
FI G01N 21/64 G
G01N 21/64 F
G01N 21/15
請求項の数または発明の数 14
全頁数 34
出願番号 特願2009-500018 (P2009-500018)
出願日 平成19年8月27日(2007.8.27)
国際出願番号 PCT/JP2007/000910
国際公開番号 WO2008/102417
国際公開日 平成20年8月28日(2008.8.28)
優先権出願番号 2007038706
優先日 平成19年2月19日(2007.2.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年5月27日(2010.5.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】杉浦 忠男
【氏名】森 正人
【氏名】稲本 英次
個別代理人の代理人 【識別番号】100116850、【弁理士】、【氏名又は名称】廣瀬 隆行
審査官 【審査官】横井 亜矢子
参考文献・文献 特開2006-038816(JP,A)
特開2005-106711(JP,A)
特開2005-121796(JP,A)
特開2006-105658(JP,A)
特開2005-030906(JP,A)
特開2006-317433(JP,A)
特開2007-003490(JP,A)
調査した分野 G01N 21/00-21/83
G01N 33/48-33/98
G02B 21/00
G02B 21/06-21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,
前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,
光源(7)と,
前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,
前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)と
を具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,
前記光学系(8)は,前記光源(7)からの光が前記基板(2)へ入射する際の入射角を調整する入射角調整手段(10)と,
前記入射角調整手段(10)が調整する入射角の量を制御する制御装置(11),
を具備し,
前記制御装置(11)は,
前記入射角調整手段(10)が調整した入射角に関する情報と,複数の入射角における前記蛍光検出部(9)が検出した蛍光強度又は蛍光像に関する情報とが入力され,
前記複数の入射角について,前記入射角に関する情報からエバネッセント場の侵入長を求める手段と,求められた複数の侵入長における前記蛍光強度に関する情報を求める手段と,を具備する,
蛍光読取装置(12)であって,
前記制御装置は,前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める手段を具備する,
蛍光読取装置(12)。
【請求項2】
前記光学系(8)は,前記光源(7)からの光が入射する光学素子(13)と,前記光学素子を経由した光が入射する対物レンズ(14)とを具備し,
前記入射角調整手段(10)は,
前記光学素子(13)を,前記対物レンズ(14)との相対的な位置が変化するように,移動させる光学素子移動手段を具備する,
請求項1に記載の蛍光読取装置(12)。
【請求項3】
前記基板(2)の位置を移動させるための基板移動手段(15)を具備する,
請求項1に記載の蛍光読取装置(12)。
【請求項5】
前記制御装置は,
さらに,前記グラフ上の各点を用いて,エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度を求める手段と,
前記エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度と,設定された閾値とを比較する手段と,
前記比較結果を用いて,前記プローブ物質(1)と前記ターゲット物質(4)とが相互作用したかどうかを判断する手段と,
を具備する,
請求項1に記載の蛍光読取装置(12)。
【請求項6】
前記制御装置は,経過時間を観測する手段を具備する,
請求項1に記載の蛍光読取装置(12)。
【請求項7】
プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,
前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,
光源(7)と,
前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,
前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)と
を具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,
前記光学系(8)は,前記光源(7)からの光が前記基板(2)へ入射する際の入射角を調整する入射角調整手段(10)と,
前記入射角調整手段(10)が調整する入射角の量を制御する制御装置(11),
を具備し,
前記制御装置(11)は,
前記入射角調整手段(10)が調整した入射角に関する情報と,複数の入射角における前記蛍光検出部(9)が検出した蛍光強度又は蛍光像に関する情報とが入力され,
前記複数の入射角について,前記入射角に関する情報からエバネッセント場の侵入長を求める手段と,求められた複数の侵入長における前記蛍光強度に関する情報を求める手段と,を具備する,
蛍光読取装置(12)であって,
前記基板(2)は,前記プローブ物質(1)が固定されたスポット(21)を有し,
前記蛍光検出部(9)は,前記蛍光物質(3)が発する蛍光像を取得するものであり,
前記制御装置(11)は,前記蛍光像を走査して,蛍光強度が変化する境界(21)を算出する手段と,
前記境界の形状から,蛍光像のうちスポット内の領域(23)とスポット外の領域(24)を把握する手段と,
前記スポット内の蛍光強度を求める手段と,を具備する,
蛍光読取装置(12)。
【請求項8】
プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,
前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,
光源(7)と,
前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,
前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)と
を具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,
前記光学系(8)は,前記光源(7)からの光が前記基板(2)へ入射する際の入射角を調整する入射角調整手段(10)と,
前記入射角調整手段(10)が調整する入射角の量を制御する制御装置(11),
を具備し,
前記制御装置(11)は,
前記入射角調整手段(10)が調整した入射角に関する情報と,複数の入射角における前記蛍光検出部(9)が検出した蛍光強度又は蛍光像に関する情報とが入力され,
前記複数の入射角について,前記入射角に関する情報からエバネッセント場の侵入長を求める手段と,求められた複数の侵入長における前記蛍光強度に関する情報を求める手段と,を具備する,
蛍光読取装置(12)であって,
前記プローブ物質(1)が固定された基板(2)は,試料室の下流域に位置するに従って,プローブ物質の濃度が大きくなる蛍光読取装置(12)。
【請求項9】
ターゲット物質を蓄える試料庫と試料室とを接続する接続管が,試料室の最上流領域と接続されるのみならず,試料室の中流域にも1つ又は2つ以上接続される請求項1に記載の蛍光読取装置(12)。
【請求項10】
複数の対物レンズを具備するとともに,前記複数の対物レンズに光を導入するための光学系を具備する請求項1に記載の蛍光読取装置(12)。
【請求項11】
ターゲット物質を蓄える試料庫と,前記試料庫と複数の試料室とを接続する接続管とを有し,前記接続管は分岐部を有し,前記接続管の分岐部により分岐されるそれぞれの接続管の下流部は,前記複数の試料室にそれぞれ接続される請求項1に記載の蛍光読取装置(12)。
【請求項12】
プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,光源(7)と,前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)とを具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置を用いた蛍光読取方法において, 前記エバネッセント場の侵入長を変化させる工程と,前記エバネッセント場の侵入長を変化させた後に蛍光強度を求める工程とを繰り返し行い,
複数のエバネッセント場の侵入長における蛍光強度を求めることを特徴とする蛍光読取方法であって,
前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める蛍光読取方法。
【請求項13】
前記エバネッセント場の侵入長を変化させる工程は,基板(2)へ入射する入射光の入射角を調整することにより,前記エバネッセント場の侵入長を変化させる請求項12に記載の蛍光読取方法。
【請求項15】
前記基板(2)は,前記プローブ物質(1)が固定されたスポット(21)を有し,
あるスポット(21)について前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求めた後,所定時間後にそのスポット(21)について前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求める
請求項12に記載の蛍光読取方法。
【請求項16】
プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,
前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(6)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,
光源(7)と,
前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,
前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)と
を具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,
前記プローブ物質(1)が固定された基板(2)は,試料室の下流域に位置するに従って,プローブ物質の濃度が大きくなることを特徴とする蛍光読取装置(12)。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は,プローブ物質とターゲット物質との相互作用に関与しない蛍光物質に由来する蛍光の影響を考慮した蛍光読取装置に関する。より詳しく説明すると,本発明は,エバネッセント場の侵入長を変化させ,複数の侵入長における蛍光強度を求めることで,プローブ物質とターゲット物質とが相互作用したかどうかを精度よく判断できるマイクロアレイ読取装置及び読取方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAマイクロアレイは,基板に遺伝子断片などのDNAを配置し固定したものである。例えば,複数の遺伝子断片をそれぞれのスポットに固定することによりプローブを用意する。そして,ヒトの細胞から抽出したmRNAを逆転写酵素でcDNAに変換したものをターゲット物質とする。DNAマイクロアレイ読取装置は,ターゲット物質と基板に固定されたプローブとがハイブリダイズすることを観測し,これにより様々な遺伝子情報を解析することができる。ターゲット物質とプローブ物質とが相互作用したことを検出するために,例えば,蛍光物質が用いられる。蛍光物質は,ターゲット物質に付加されても良いし,ターゲット物質とプローブ物質とが相互作用した影響を受けて蛍光を発するようなものであっても良い。蛍光物質に由来する蛍光を観測するマイクロアレイ読取装置などの蛍光読取装置として,例えば,プローブ物質が固定されている領域にエバネッセント場を発生させて,蛍光物質を励起するものがある。これらは,ターゲット物質とプローブ物質とがハイブリダイズするために長時間を要するものであった。そこで,これらの物質が相互作用する様子を検出できる実時間型のマイクロアレイ読取装置が望まれた。
【0003】
そのような要求に応えるため,特開2006-38816号公報(下記特許文献1)には,「プローブ物質が固定化された基板に対して,少なくとも蛍光物質とターゲット物質とを含む試料を接触させた場合の,上記プローブ物質と上記ターゲット物質との特異的な相互作用を検出するためのマイクロアレイ読取装置であって,光を照射するための光照射手段と,上記基板におけるプローブ物質が固定されている表面にエバネッセント場を発生させるように,上記光照射手段によって照射される光を上記基板に対して入射させる光入射手段と,上記エバネッセント場により励起された試料中に含まれる蛍光物質から出射される蛍光を検出するための光検出手段と,を備え,上記光検出手段は,対物レンズとして機能する光学レンズを有しており,該光学レンズが上記光入射手段として機能することを特徴とするマイクロアレイ読取装置」が開示されている(同文献の請求項1を参照)。
【0004】
特開2006-38816号公報(下記特許文献1)に開示されたマイクロアレイ読取装置は,迅速かつ高精度にターゲット物質とプローブ物質とがハイブリダイズすることを観測できるので,優れたものである。しかしながら,ターゲット物質とプローブ物質とがハイブリダイズしたことに由来する発光のみならず,フロースルーセル中を流れる蛍光物質に由来する蛍光などのノイズを観測してしまうという問題があった。
【0005】
すなわち,従来の実時間型のマイクロアレイ読取装置では,発光物質が励起されるのに十分な強度のエバネッセント場が,基板表面から100nm程度の領域まで生ずる。そして,プローブ物質には,試料として蛍光物質を含むものを接触させ続けるため,その基板表面から100nm以内の領域には,ターゲット物質とプローブ物質とが相互作用したことによらないで発光する発光物質も多数存在する。このため,従来のマイクロアレイ読取装置では,ターゲット物質とプローブ物質とがハイブリダイズしない場合であっても,強い蛍光が観測される場合が多々あり,そのためターゲット物質とプローブ物質とが相互作用したかどうか正確に判断できない場合があった。
【0006】
さらに,従来のマイクロアレイ読取装置では,ターゲット物質とプローブ物質とが相互作用したことよる発光のみを観測することはできなかったため,プローブ物質と相互作用したターゲット物質の量を定量的に評価することはできなかった。
【0007】
また,従来のマイクロアレイ読取装置では,基板からどの程度の位置においてターゲット物質とプローブ物質とが相互作用したかを示す,蛍光を発する蛍光物質の分布を把握することはされていなかった。
【0008】
特開2006-189741号公報(下記特許文献2)には,エバネッセント光のしみ出し深さを所望の量に設定するように入射角調整手段を制御する発明が開示されている(たとえば,請求項12を参照)。しかしながら,同文献に開示された発明では,レーザ光源が変わってもエバネッセント光のしみ出し深さを一定量にするために入射角を制御するものである。すなわち,同文献では,できる限りエバネッセント場の侵入長を一定することを,本質とするものであるから,様々なエバネッセント場の侵入長において,蛍光測定を行うための動機付けとなるものがない。
【0009】
特開2001-194310号公報(下記特許文献3)は,表面プラズモン分光装置に関する。そして同文献では,ひとつの対物レンズしか用いないものの,一度に複数の試料を測定することが開示されている。
【0010】
米国公開特許US2003/0205681号明細書(下記特許文献4)には,2つの光を用いて,2種類のエバネセント場の侵入長を得る,マイクロアレイを用いた蛍光分析装置が開示されている(段落[0069],請求項41)。しかしながら,同文献には,多数のエバネッセント場の侵入長における蛍光観測を行って,ハイブリダイズの有無を効果的に観測することは,開示されていない。

【特許文献1】特開2006-38816号公報
【特許文献2】特開2006-189741号公報
【特許文献3】特開2001-194310号公報
【特許文献4】米国公開特許US2003/0205681号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は,プローブ物質とターゲット物質との相互作用に関与しない蛍光物質に由来する蛍光の影響を考慮したマイクロアレイ読取装置などの蛍光読取装置を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は,プローブ物質と相互作用したターゲット物質の量を比較できるマイクロアレイ読取装置などの蛍光読取装置を提供することを目的とする。
【0013】
本発明は,蛍光を発する蛍光物質の分布をも観測できる蛍光読取装置を提供することを目的とする。
【0014】
本発明は,プローブ物質と相互作用したターゲット物質の蛍光強度の経時的変化をも観測できる蛍光読取装置を提供することを目的とする。
【0015】
本発明は,フロースルーセルを用いる場合,試料中に含まれるターゲット物質が基板に固定されるプローブ物質と順次結合するので,上流域に比べて下流域の方がターゲット物質の濃度が小さくなるという問題を解決し,フロースルーセルの上流と下流におけるターゲット物質の濃度の違いによる測定条件の不均一さを抑えることができる蛍光読取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は,基本的には,エバネッセント場の侵入長を変化させ,複数の侵入長における蛍光強度を求め,それらの関係をグラフ上にプロットすることで,プローブ物質とターゲット物質とが相互作用したかどうかを精度よく判断できるという知見に基づくものである。
【0017】
本発明の第1の側面は,プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,光源(7)と, 前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)とを具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,前記光学系(8)は,前記光源(7)からの光が前記基板(2)へ入射する際の入射角を調整する入射角調整手段(10)と,前記入射角調整手段(10)が調整する入射角の量を制御する制御装置(11),を具備する蛍光読取装置(12)に関する。
【0018】
すなわち,本発明の蛍光読取装置は,入射角調整手段(10)を具備するので,光が前記基板へ入射する際の入射角を調整することができ,これによりエバネッセント場の侵入長を制御できる。さらに,本発明の蛍光読取装置は,制御装置を具備するので,侵入長を制御できるとともに,制御した侵入長を記憶することもできる。
【0019】
本発明の第1の側面は,前記制御装置が,前記入射角調整手段(10)が調整した入射角に関する情報と,複数の入射角における前記蛍光検出部(9)が検出した蛍光強度又は蛍光像に関する情報とが入力され,前記複数の入射角について,前記入射角に関する情報からエバネッセント場の侵入長を求める手段と,求められた複数の侵入長における前記蛍光強度に関する情報を求める手段と,を具備する,蛍光読取装置(12)に関する。
【0020】
この蛍光読取装置は,入射角を調整することで,エバネッセント場の侵入長を制御するとともに,複数の侵入長における蛍光強度に関する情報を求めることができる。
【0021】
後述するように,複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求めることができれば,観測された蛍光が,ノイズ蛍光(“プローブ物質とターゲット物質(4)との相互作用に関与しない蛍光物質に由来する蛍光”)のみかどうかを判断できる。また,観測された蛍光強度のうち,ノイズ蛍光に由来する量を推測することができ,これにより真の蛍光(プローブ物質とターゲット物質との相互作用に関与した蛍光物質に由来する蛍光”)を定量的に把握できる。また,スポット外の蛍光を排除して,スポット内における蛍光のみの蛍光強度を検出することもできる。すなわち,本発明によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる蛍光読取装置を提供することができる。
【0022】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記光学系(8)は,前記光源(7)からの光が入射する光学素子(13)と,前記光学素子を経由した光が入射する対物レンズ(14)とを具備し,前記入射角調整手段(10)は,前記光学素子(13)を,前記対物レンズ(14)との相対的な位置が変化するように,移動させる光学素子移動手段を具備する,上記に記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0023】
この態様の蛍光読取装置は,光学素子移動手段を具備するので,例えば,光学素子(13)を,対物レンズ(14)から一定方向に遠ざけることや,近づけることで,対物レンズに入射する光の位置を調整できる。これにより,対物レンズから出射される光の基板表面に対する入射角が変化するので,エバネッセント場の進入長をも制御できる。この光学素子(例えば,レンズやミラーなど)が移動する量は,制御装置(11)により制御される。そして,制御装置(11)は,光学素子の位置に関する情報を用いて,それと関連した入射角に関する情報,及びエバネッセント場の侵入長に関する情報を求めることができる。
【0024】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,基板(2)の位置を移動させるための基板移動手段(15)を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0025】
基板としてマイクロアレイ基板を用いる場合,マイクロアレイには,複数のスポットが設けられている。そして各スポットには,様々な種類のプローブ物質が固定されている。この態様の蛍光読取装置は,基板移動手段(15)を具備するので,各スポットにエバネッセント場が生ずるように基板(2)を移動させることができる。これにより,様々なプローブ物質について蛍光強度を観測できることとなる。なお,基板(2)に複数のスポットが設けられる場合,各スポットの位置と,現在どのスポットの蛍光を観測しているかについての情報は,制御装置(11)により制御され,把握される。
【0026】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記制御装置は,前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸(たとえば縦軸)を蛍光強度,もう一方の軸(たとえば横軸)をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める手段を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0027】
この態様の蛍光読取装置は,例えば,求めたグラフに関する情報をモニタなどの表示装置に出力する。すると,グラフが表示される。すなわち,この態様の蛍光読取装置によれば,複数の侵入長についての,エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを表示することができるので,視覚により,容易にノイズ蛍光(“プローブ物質とターゲット物質との相互作用に関与しない蛍光物質に由来する蛍光”)のみかどうかを判断できる。すなわち,グラフをみて,各観測点をプロットした状況を想定する。すると,ノイズ蛍光(プローブ物質とターゲット物質との相互作用に関与しない蛍光物質のみの蛍光)のみを観測した場合は,侵入長を0としたときの切片が閾値以下となる。よって,この態様の蛍光読取装置によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる。
【0028】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記制御装置は,前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める手段と,前記グラフ上の各点を用いて,エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度を求める手段と,前記エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度と,設定された閾値とを比較する手段と,前記比較結果を用いて,前記プローブ物質(1)と前記ターゲット物質(4)とが相互作用したかどうかを判断する手段と,を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0029】
この態様の蛍光読取装置(12)によれば,前記プローブ物質と前記ターゲット物質とが相互作用したかどうかを自動的に判断できる。また,設定された閾値を修正することで,判断基準を適宜変えることができる。
【0030】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記制御装置は,経過時間を観測する手段を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0031】
この態様の蛍光読取装置(12)によれば,あるスポットについて,複数時間についての蛍光強度を観測できるので,あるスポットにおける蛍光強度の経時変化を観測できる。これにより,ハイブリダイズなどの相互作用が進行する様子を観測できるとともに,最終的な相互作用量も予測することができる。
【0032】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記基板(2)は,前記プローブ物質(1)が固定されたスポット(21)を有し,前記蛍光検出部(9)は,前記蛍光物質(3)が発する蛍光像を取得するものであり,前記制御装置(11)は,前記蛍光像を走査して,蛍光強度が変化する境界(21)を算出する手段と,前記境界の形状から,蛍光像のうちスポット内の領域(23)とスポット外の領域(24)を把握する手段と,前記スポット内の蛍光強度を求める手段と,を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0033】
一般に,あるスポットの蛍光像を取得した場合に,スポット内とスポット外との両方が含まれる場合がある。そのような場合,スポット外からの蛍光の方が,スポット内からの蛍光よりも強度が強い場合がある。一方,スポット外には,プローブ物質が固定されていないので,スポット外からの蛍光はノイズ成分といえる。したがって,蛍光像からそのまま蛍光強度を分析すると,プローブ物質とターゲット物質との相互作用を正確に把握することはできない。この態様の蛍光読取装置(12)によれば,蛍光像からスポット内とスポット外との境界を把握して,その上でスポット内の蛍光強度を求めるので,従来に比べて精度高く相互作用を把握できる。
【0034】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記プローブ物質(1)が固定された基板(2)は,試料室の下流域に位置するに従って,プローブ物質の濃度が大きくなる上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)である。フロースルーセルを用いる場合,試料中に含まれるターゲット物質が基板に固定されるプローブ物質と順次結合するので,上流域に比べて下流域の方がターゲット物質の濃度が小さくなるという問題がある。本発明の好ましい態様では,フロースルーセルの上流と下流におけるターゲット物質の濃度の違いによる測定条件の不均一さを抑えることができる。
【0035】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,ターゲット物質を蓄える試料庫と試料室とを接続する接続管が,試料室の最上流領域と接続されるのみならず,試料室の中流域にも1つ又は2つ以上接続される上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)である。フロースルーセルを用いる場合,試料中に含まれるターゲット物質が基板に固定されるプローブ物質と順次結合するので,上流域に比べて下流域の方がターゲット物質の濃度が小さくなるという問題がある。本発明の好ましい態様では,フロースルーセルの上流と下流におけるターゲット物質の濃度の違いによる測定条件の不均一さを抑えることができる。
【0036】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,複数の対物レンズを具備するとともに,前記複数の対物レンズに光を導入するための光学系を具備する上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)である。すなわち,ひとつの基板に対して複数の対物レンズを用いて,複数個所においてエバネッセント場を発生させることで,複数のプローブ物質についてハイブリダイズする様子を同時に観測できる。
【0037】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,ターゲット物質を蓄える試料庫と,前記試料庫と複数の試料室とを接続する接続管とを有し,前記接続管は分岐部を有し,前記接続管の分岐部により分岐されるそれぞれの接続管の下流部は,前記複数の試料室にそれぞれ接続される上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)である。このように,複数の試料室を有しており,それぞれの試料室には,観測系を有しているので,複数のプローブ物質についてハイブリダイズする様子を同時に観測できる。
【0038】
本発明の第2の側面は,プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,光源(7)と,前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)とを具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置を用いた蛍光読取方法において,前記エバネッセント場の侵入長を変化させる工程と,前記エバネッセント場の侵入長を変化させた後に蛍光強度を求める工程とを繰り返し行い,複数のエバネッセント場の侵入長における蛍光強度を求めることを特徴とする蛍光読取方法に関する。
【0039】
後述するように,複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求めることができれば,観測された蛍光が,ノイズ蛍光のみかどうかを判断できる。また,観測された蛍光強度のうち,ノイズ蛍光に由来する量を推測することができ,これにより真の蛍光を定量的に把握できる。また,スポット外の蛍光を考慮して,スポット内における蛍光のみの蛍光強度を検出することもできる。すなわち,本発明によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる蛍光読取方法を提供することができる。
【0040】
本発明の第2の側面の好ましい態様は,前記エバネッセント場の侵入長を変化させる工程は,基板(2)へ入射する入射光の入射角を調整することにより,前記エバネッセント場の侵入長を変化させる上記に記載の蛍光読取方法である。後述する実施例により実証されたとおり,基板(2)へ入射する入射光の入射角を調整することにより,前記エバネッセント場の侵入長を変化させることができるので,容易に複数のエバネッセント場の侵入長における蛍光強度を求めることができる。
【0041】
本発明の第2の側面の好ましい態様は,前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸(たとえば,縦軸)を蛍光強度,もう一方の軸(たとえば,横軸)をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める上記いずれかに記載の蛍光読取方法である。複数の侵入長についての,エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを表示することができるので,視覚により,容易にノイズ蛍光かどうかを判断できる。すなわち,グラフをみて,各観測点をプロットした状況を想定する。すると,ノイズ蛍光のみを観測した場合は,侵入長を0としたときの切片が閾値以下となる。よって,この態様の蛍光読取方法によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる。
【0042】
本発明の第2の側面の好ましい態様は,前記基板(2)は,前記プローブ物質(1)が固定されたスポット(21)を有し,あるスポット(21)について前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求めた後,所定時間後にそのスポット(21)について前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求める上記いずれかに記載の蛍光読取方法である。この方法によれば,あるスポットについて,複数時間についての蛍光強度を観測できるので,あるスポットにおける蛍光強度の経時変化を観測できる。これにより,ハイブリダイズなどの相互作用が進行する様子を観測できるとともに,最終的な相互作用量も予測することができる。
【0043】
本発明の第3の側面は,プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,光源(7)と, 前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)とを具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,前記プローブ物質(1)が固定された基板(2)は,試料室の下流域に位置するに従って,プローブ物質の濃度が大きくなることを特徴とする蛍光読取装置(12)に関する。
【0044】
本発明の第4の側面は,プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,光源(7)と, 前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)とを具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,前記ターゲット物質を蓄える試料庫と,前記試料庫と前記試料室とを接続する接続管をさらに具備し,前記接続管が,試料室の最上流領域と接続されるのみならず,試料室の中流域にも1つ又は2つ以上接続されることを特徴とする蛍光読取装置(12)に関する。
【0045】
本発明の第5の側面は,プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,光源(7)と, 前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)とを具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,ターゲット物質を蓄える試料庫と,前記試料庫と複数の試料室とを接続する接続管とを有し,前記接続管は分岐部を有し,前記接続管の分岐部により分岐されるそれぞれの接続管の下流部は,前記複数の試料室にそれぞれ接続されることを特徴とする蛍光読取装置(12)に関する。
【発明の効果】
【0046】
本発明では,エバネッセント場の侵入長を変化させ,複数の侵入長における蛍光強度を求める。そして,それらの関係をグラフ上にプロットする。すると,ノイズ蛍光のみを観測した場合は,侵入長を0としたときの切片が閾値以下となる。よって,本発明によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる蛍光読取装置を提供することができる。
【0047】
本発明によれば,上記の通りノイズ蛍光の影響を把握できる。よって,実際に観測された蛍光から,ノイズ蛍光に由来する蛍光強度を引くことで,真の蛍光を把握できる。よって,本発明によれば,プローブ物質と相互作用したターゲット物質の量を比較できる蛍光読取装置を提供することができる。
【0048】
本発明は,真の蛍光を把握でき,しかも,エバネッセント場の侵入長を変化させ,複数の侵入長における蛍光強度を求めることができる。よって,本発明によれば,蛍光を発する蛍光物質の分布をも観測できる蛍光読取装置を提供することができる。
【0049】
本発明によれば,計時手段を具備することで,プローブ物質と相互作用したターゲット物質の経時変化をも観測できる蛍光読取装置を提供することができる。
【0050】
本発明によれば,フロースルーセルの上流と下流におけるターゲット物質の濃度の違いによる測定条件の不均一さを抑えることができる蛍光読取装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は,本発明の蛍光読取装置の構成を示す概略図である。
【図2】図2は,基板の表面例を示す図面に代わる写真である。
【図3】図3は,本発明の光学系の例を示す図である。
【図4】図4は,本発明の光学系の図3とは別の例を示す図である。
【図5】図5は,本発明の光学系の図3及び図4とは別の例を示す図である。
【図6】図6は,蛍光検出器の例を示す図である。
【図7】図7は,ある観測点における,縦軸を蛍光強度,横軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフの例を示す図である。図7(a)は,観測データを示し,図7(b)は観測データをプロットしたものを示す。
【図8】図8は,観測される蛍光像の例を示す図である。図8(a)は,観測される蛍光像の例を示す図面に代わる写真であり,図8(b)は,図8(a)の像を用いて蛍光強度が変化する境界を求めた図を示す。
【図9】図9は,マイクロアレイの検出原理を説明するための概念図である。
【図10】図10は,実時間観測型DNAマイクロアレイ装置の観測パターンを示す仮想的なグラフである。
【図11】図11は,実施例において用いた装置の概念図である。
【図12】図12は,蛍光物質の濃度と照射時間を変化させた場合において,観測される蛍光像及びマイクロアレイを示す図面に代わる写真である。図12(a)は,濃度200nM,照射時間817msのものを示す。図12(b)は,濃度20nM,照射時間1.87sのものを示す。図12(c)は,濃度10nM,照射時間4.13sのものを示す。
【図13】図13は,蛍光物質の濃度と照射時間を変化させた場合において,観測される蛍光像及びマイクロアレイを示す図面に代わる写真である。図13(a)は,濃度5nM,照射時間4.13sのものを示す。図13(b)は,濃度2nM,照射時間9.31sのものを示す。図13(c)は,濃度1nM,照射時間9.31sのものを示す。
【図14】図14は,観測される蛍光像の例を示す図面に代わる写真である。図14(a)は侵入長が194nmのものを示し,図14(b)は侵入長が94nmのものを示す。
【図15】図15は,侵入長を変化させた場合に観測される蛍光像の例を示す図面に代わる写真である。図15(a)は侵入長が94nmのものを示し,図15(b)は侵入長が101nmのものを示し,図15(c)は侵入長が108nmのものを示し,図15(d)は侵入長が113nmのものを示し,図15(e)は侵入長が123nmのものを示し,図15(f)は侵入長が143nmのものを示し,図15(g)は侵入長が194nmのものを示す。
【図16】図16は,図15に示す各蛍光像において,スポット内とスポット外における侵入長と蛍光強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1 プローブ物質
2 基板
3 蛍光物質
4 ターゲット物質
5 試料
6 試料室
7 光源
8 光学系
9 蛍光検出部
10 入射角調整手段
11 制御装置
12 蛍光読取装置
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
1 本発明の蛍光読取装置の基本構成
以下,図面を用いて,本発明を具体的に説明する。図1は,本発明の蛍光読取装置の構成を示す概略図である。図1に示されるように,本発明の第1の側面に係る蛍光読取装置は,基本的には,プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,光源(7)と,前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)とを具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置において,前記光学系(8)は,前記光源(7)からの光が前記基板(2)へ入射する際の入射角を調整する入射角調整手段(10)と,前記入射角調整手段(10)が調整する入射角の量を制御する制御装置(11)を具備する。
【0054】
すなわち,入射角調整手段(10)を具備するので,光が前記基板へ入射する際の入射角を調整することができ,これによりエバネッセント場の侵入長を制御できる。さらに,制御装置(11)を具備するので,複数の侵入長についての,エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求めることができる。
【0055】
後述するように,複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求めることができれば,観測された蛍光が,ノイズ蛍光(プローブ物質とターゲット物質との相互作用に関与しない蛍光物質に由来する蛍光)かどうかを判断できる。また,観測された蛍光強度のうち,ノイズ蛍光に由来する量を推測することができ,これにより真の蛍光を定量的に把握できる。すなわち,本発明によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる蛍光読取装置を提供することができる。
【0056】
1.1 蛍光読取装置
蛍光読取装置は,プローブ物質とターゲット物質の特異的な相互作用を検出するための装置である。蛍光読取装置の例であるマイクロアレイ読取装置は公知であり,本発明においては,公知のマイクロアレイに関する技術に適宜修正を加えて用いることができる。例えば,マイクロアレイに関する技術は,杉浦忠男, "次世代DNAマイクロアレイ計測技術," BME, Vol. 18, No. 3 pp. 29-36 (2004),“春名かおり,杉浦忠男,佐藤哲大,田畑慶人,湊小太郎「DNA
マイクロアレイにおけるハイブリダイゼーション過程のリアルタイム検出」,生体医工学41(Suppl.),148,2003”やCarolin Peter et al.,“Optical DNA-sensor chip for real-time detection of hybridization events”Fresenius J. Anal. Chem. (2001) Vol. 371,pp.120-127.などに開示されている。
【0057】
1.2 基板
基板は,プローブ物質が固定された基板である。基板の具体例として,マイクロアレイ基板があげられる。マイクロアレイ技術は,公知であるので,本発明においては,例えば,マイクロアレイに用いられる公知の基板を適宜用いることができる。また,マイクロアレイ基板は,市販されているので,市販されているものを購入して用いても良い。基板は,プローブ物質が固定されているものがあげられる。プローブ物質は,公知物質であり,ターゲット物質を含む試料と接触した際に,試料中に含まれるターゲット物質と特異的に相互作用することがある。この相互作用の有無を利用することで,ターゲット物質を検出することができる。
【0058】
なお,フロースルーセルを用いる場合,試料中に含まれるターゲット物質が基板に固定されるプローブ物質と次々と結合するので,上流域に比べて下流域の方がターゲット物質の濃度が小さくなるという問題がある。このため,上流域と下流域とでは,ターゲット物質の濃度が異なり,均質な条件の下でターゲット物質とプローブとの相互作用を計測できない。そこで,本発明の好ましい態様は,試料室の下流域に位置するに従って,プローブ物質の濃度を大きくするものである。具体的には,固定されるプローブ物質の密度を下流域に行くにつれて大きくするものや,プローブが設けられるスポットの大きさを下流域に行くにつれて大きくするものがあげられる。また,基板を2又は複数の流域に分けて,それぞれの領域ごとにプローブの濃度が下流域に行くにつれて大きくなるように調整しても良い。このようにすることで,フロースルーセルの上流と下流におけるターゲット物質の濃度の違いによる測定条件の不均一さを抑えることができる。
【0059】
試料液を送液する流速vとターゲット分子が分子吸着によって濃度が減少してゆくときの時定数をτとすると,上流から距離xの位置に存在するスポット中のプローブ密度g(x)は,g(x)=g0exp(x/(vτ)) となるようにプローブの密度を調整するものが好ましい。ここでg0は,最上流側 (x=0) のスポット中のプローブ密度である。プローブの濃度を変調するにはスポッティングに用いるスポッティング液に含まれるプローブの濃度を調整すればよい。なお,上記の式は,以下のようにして求められる。試料液中のターゲット分子の和が分子吸着によって減少してゆく様子は,p(t)=p0exp(-t/τ)で表される。p0は分子数の初期値である。試料が速度vで送液されているとすると,上流から距離xの位置に至るまでにx/vだけ時間が経過しているので,その場所でのターゲット分子の数P(x)は P(x)=p0exp(-x/(vτ))となる。スポットで吸着されるターゲット分子数はターゲット液中の分子数P(x)とスポット中のプローブ分子の密度g(x)との積で表される。よってスポットで吸着されるターゲット分子数を場所にかかわらず一定にするには,スポット中のプローブ分子の密度を上記式にしたがって調整するのが望ましいといえる。
【0060】
図2は,基板の表面例を示す図面に代わる写真である。図2に示されるように,基板には,複数のスポット(21)が設けられるもの,すなわちマイクロアレイ基板が好ましい。また,基板は,複数の種類のプローブ物質が固定されたものが好ましい。なお,スポットの大きさは,図2に示すマイクロアレイ基板では直径が約20μmである。しかしながら,スポットの大きさは,公知の基板において採用されているものを適宜採用することができる。具体的には,例えば,直径が10μm以上1000μm以下であってもよい。勿論,スポットの形状は円形のみならず,楕円形,正方形,長方形又はひし形などであっても構わない。
【0061】
本発明の好ましい態様では,試料室において蛍光が発生し,この蛍光が基板を経て,観測される。よって,基板として,光透過性のものが好ましい。具体的な,基板の材質として,ガラス,ポリカーボネート,又はPMMAなどがあげられる。これらの中では,ガラス基板が,熱による屈折率の変化が小さいので,好ましい。
【0062】
基板として,公知のものを適宜用いることができるので,基板の大きさは,適宜調整すればよく,特に限定されない。
【0063】
基板に固定されるプローブ物質として,遺伝子断片など公知の物質があげられる。プローブ物質として,DNA,RNA,ポリヌクレオチド,オリゴヌクレオチドなどの核酸,ペプチド,ポリペプチド,タンパク質,抗体などがあげられる。これらの中で好ましいものは,一本鎖DNAである。一本鎖DNAであれば,例えば得られたRNAを逆転写して得られるcDNAをターゲット物質とすることで,ハイブリダイズするかどうかを検出できる。プローブ物質として用いるDNAの大きさとして,数十塩基以上数千塩基以下があげられる。また,オリゴヌクレオチドの大きさとして,10mer以上100mer以下があげられるが,好ましいオリゴヌクレオチドの大きさは20mer以上25mer以下程度である。このヌクレオチドは,予め遺伝子の特異的な塩基配列を特定するためにコンピュータを用いてデザインし,合成することにより得ることができる。
【0064】
基板に固定されるプローブ物質の量は,公知の方法に従って適宜調整すればよい。基板にプローブ物質を固定する方法も公知である。例えば,基板にプローブ物質を固定する方法として,予め調製されたオリゴヌクレオチドを,スライドガラス上の決まった位置に,スポッターを用いて定量的に打ち付けるものがあげられる。
【0065】
1.3 試料
本発明において用いられる試料は,少なくとも,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む。蛍光物質やターゲット物質として,マイクロアレイ技術に用いられる公知のものを適宜用いることができる。また,試料に含有される蛍光物質やターゲット物質の濃度も,マイクロアレイ技術に用いられる公知のものを適宜用いることができる。蛍光物質は,ターゲット物質と結合させておくことが好ましい。しかしながら,蛍光物質は,プローブ物質とターゲット物質とが相互作用した場合に,これらと蛍光物質が結合するといったものでもよい。
【0066】
例えば,プローブ物質およびターゲット物質として1本鎖のDNAを用いる場合,Cy3,Cy5などの蛍光性官能基をターゲットDNAの5’末端に結合させることや,ターゲットDNAに取り込ませることができる。また,cDNAをビオチンにより標識してもよい。一方,2本鎖を形成したDNAに特異的に付着して蛍光発光するPOPO-3(Molecular Probes, Inc.)などのインカレーター分子を用いても,プローブ物質とターゲット物質との相互作用を検出できる。
【0067】
試料には,蛍光物質やターゲット物質の他に,公知の溶媒,緩衝液(バッファ),pH調整剤などが適宜含まれていてもよい。
【0068】
1.4 試料室
試料室は,プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を前記プローブ物質(1)と接触するように収容するための部分である。この試料室も,マイクロアレイ技術に用いられる公知のものを適宜用いることができる。試料室の好ましいものは,試料が試料室内を流れ続けるいわゆるフロースルーセルである。よって,試料を収容する試料庫と試料室とを接続する接続管が設けられるものが好ましい。さらに,試料と混合する緩衝液の量を制御する制御部を有しており,これにより試料室を流れる試料の流量を制御できるものが好ましい。また,試料室として,試料室から試料を排出するための排出管を具備するものが好ましい。
【0069】
なお,フロースルーセルを用いる場合,試料中に含まれるターゲット物質が基板に固定されるプローブ物質と順次結合するので,上流域に比べて下流域の方がターゲット物質の濃度が小さくなるという問題がある。このため,上流域と下流域とでは,ターゲット物質の濃度が異なるので,均質な条件の下でターゲット物質とプローブとの相互作用を計測できていない。そこで,本発明の好ましい態様は,ターゲット物質を蓄える試料庫と試料室とを接続する接続管が,試料室の最上流領域と接続されるのみならず,試料室の中流域にも1つ又は2つ以上接続されるものである。このような構成を採用することで,多くの試料を必要とすることになるものの,上流域と下流域におけるターゲット物質の濃度差を緩和できることとなる。
【0070】
また,試料室は,試料の温度を調整するための温度調節部を具備するものが好ましい。温度調節部は,例えば,マイクロアレイ基板上に存在する試料溶液の温度を調節することができるものであれば特に限定されず,公知の温度調節装置を適宜用いることができる。温度調節部の例として,セラミックヒータ,熱電対温度センサー,及びヒータ制御部を具備し,ヒータとセンサーとを,ヒータ制御部によりPID制御するものがあげられる。例えば,DNAマイクロアレイを用いて観察を行う場合,温度調節部は,少なくともマイクロアレイ基板の表面領域にある試料(好ましくは試料室中の試料全体)の温度を,ハイブリダイゼーションが行われるのに好適な温度である65℃前後に保つことができる。このように試料の温度が制御されているので,ハイブリダイゼーションの様子を効果的に測定できる。
【0071】
1.5 光学系
光学系は,1個又は複数の光学素子を含み,前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるためのものである。具体的な光学系として,反射面に入射する光が,対物レンズ(14)の光軸と平行な光であって,この光軸から一定の距離はなれた光となるように制御するものがあげられる。このように制御された場合,好ましくは,反射面に入射する光が,対物レンズ(14)の光軸と平行な光であって,この光軸から一定の距離オフセットされた光となるように,対物レンズ(14) に対して反射する。本発明における光学系(8)は,前記光源(7)からの光が前記基板へ入射する際の入射角を調整する入射角調整手段(10)を具備するので,光が前記基板へ入射する際の入射角を調整することができ,これによりエバネッセント場の侵入長を制御できる。ただし,エバネッセント場を発生させるため,入射角調整手段(10)は,いわゆる臨界角より大きな入射角となるように制御することが好ましい。
【0072】
光源(7)として,マイクロアレイ技術に用いられる公知のものを適宜用いることができる。具体的な光源として,連続光のレーザ光源があげられる。レーザ光源の種類,波長,光強度は,発生させたエバネッセント場で蛍光を励起できるものであればよく,特に限定されない。具体的なレーザ光源として,Nd:YAGレーザ,ヘリウムネオンレーザ,LED,水銀ランプなどを適宜用いることができる。
【0073】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記光学系(8)は,前記光源(7)からの光が入射する光学素子(13)と,前記光学素子を経由した光が入射する対物レンズ(14)とを具備し,前記入射角調整手段(10)は,前記光学素子(13)を,前記対物レンズ(14)との相対的な位置が変化するように,移動させる光学素子移動手段を具備する上記に記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0074】
この態様の蛍光読取装置は,光学素子移動手段を具備するので,例えば,光学素子(13)を,対物レンズ(14)から一定方向に遠ざけることや,近づけることで,対物レンズに入射する光の位置を調整できる。これにより,対物レンズから出射される光の基板表面に対する入射角が変化するので,エバネッセント場の進入長をも制御できる。
【0075】
図3は,本発明の光学系の例を示す図である。図3に示されるように,この光学系の例は,光源(7)からの光が入力する光ファイバ(31)と,前記光ファイバ(31)の出力端(32)と,前記出力端(32)から放出された光が入射し,入射した光を集光する第1のレンズ(33)と,前記第1のレンズ(33)から放出された光を対物レンズ(14)へ導くための任意要素であるミラー(34,35,36)を具備する。そして,前記第1のレンズ(33),第1のミラー(34)のいずれか又は両方は,移動ステージ(37)に搭載されている。移動ステージ(37)には,光学素子移動手段(13)が設けられている。光学素子移動手段(13)は,具体的には,移動ステージ(37)に取り付けられたアクチュエータがあげられる。アクチュエータによる移動方向は,光ファイバ(31)の出力端(32)から放出された光の進行方向又は進行方向逆側があげられる。そして,アクチュエータによる移動ステージの移動量は,例えば,制御装置(11)により制御されればよい。なお,そのような制御装置は,移動ステージを移動させた量から,基板への入射角を求めることができるようにされているものが好ましい。例えば,第1のレンズを移動させると,焦点位置がずれるので,対物レンズから出射される光の放射角度を制御できる。また,第1のレンズを移動させると,光路長を変化させることができるので,それにより焦点位置をずらすことができ,対物レンズから出射される光の放射角度を制御できる。なお,図3において,符号38は,オイルを示す。
【0076】
第1のレンズ(33)は,レーザ光を集光できるものであれば,特に限定されず公知のレンズを適宜用いることができる。たとえば,アクチュエータを移動させる替わりに,いずれか1つ以上のミラー(34,35,36)の角度を制御することによっても,焦点位置をずらすことができる。ミラーの角度を制御するものは,光学系を移動させる手法よりも可動部の質量を減らすことができるので高速にスキャニングできることとなる。
【0077】
対物レンズ(14)は,基板(2)上において発生した蛍光を集めるためのレンズとして機能する光学素子である。さらに,本発明の好ましい実施態様においては,対物レンズ(14)は,基板(2)のプローブ物質が固定されている表面に,エバネッセント場を発生させるように,光源(7)からの光を基板(2)に対して入射させる。対物レンズとして,マイクロアレイ装置に用いられる公知のものを適宜用いることができる。プリズムの断面形状は三角形以外にも,多角形,半円,又は扇形状のものなどを適宜用いることができる。
【0078】
なお,対物レンズ(14)と基板(2)と間には,オイル層が設けられることが好ましい。このオイル層により,対物レンズ(14)の屈折率と基板(2)の屈折率とを整合させることができる。これにより,対物レンズと基板との境界面において,光が反射する事態を軽減できる。また,これにより,マイクロアレイ基板の表面においてエバネッセント場を効果的に発生させることができ,さらに検体からの蛍光を効率よく集めることができる。なお,オイル層を構成するオイルとして,マイクロアレイ検出装置に用いられる公知のオイル(屈折率マッチングオイル)を適宜用いることができる。
【0079】
図4は,本発明の光学系の図3とは別の例を示す図である。図4に示されるように,この光学系の例は,光源(7)からの光が入力する光ファイバ(31)と,前記光ファイバ(31)の出力端(32)と,前記出力端(32)から放出された光が入射し,入射した光を集光する第1のレンズ(33)と,前記第1のレンズ(33)から放出された光を対物レンズ(14)へ導くための任意要素である第1のミラー(34)を具備する。そして,前記第1のレンズ(33),第1のミラー(34)のいずれか又は両方は,移動ステージ(37)に搭載されている。移動ステージ(37)には,光学素子移動手段(13)が設けられている。すなわち,ミラーは光路を調整するためのものであり,より多くのものが設けられてもよいし省略されても良い。また,第1のミラーがないものであってもよく,その場合は,前記光ファイバ(31)の出力端(32),第1のレンズ(33),及び対物レンズ(14)が例えば,同一直線状に配置されればよい。
【0080】
図5は,本発明の光学系の図3及び図4とは別の例を示す図である。図5に示すように,エバネッセント場を発生させるための光学系を,対物レンズから独立させて構成することもできる。その場合には,照明光を全反射角以上の角度で入射するために適宜三角柱状のプリズムなどを用い,蛍光を検出するために対物レンズを設置すればよい(図5を参照)。対物レンズから独立した光学系を用いた場合では,対物レンズの開口数を1.33以下に下げることができるので,光学系の設計自由度を高めることができ,かつ安価に光学系を設計できる。また,対物レンズを通して照明光を与えることにより,光学系の構成要素を少なくすることができ,さらに照明光と観察領域との位置あわせが不要になる。さらに,高開口数の対物レンズを用いることで,観察領域からの蛍光をより効率良く受光できることとなる。
【0081】
なお,本発明の好ましい態様は,複数の対物レンズを具備するとともに,前記複数の対物レンズに光を導入するための光学系を具備するものである。この態様の蛍光読取装置は,例えば,上記において説明した光学系を2個又は複数個有するか,光源からの光を適宜分割して,複数の光照射系を設けることで,ひとつの基板上の複数のスポットを同時に観測できるものである。それぞれの対物レンズは,基板(2)に設けられたあるスポットにエバネッセント場を発生させる。すなわち,フロースルーセルを用いた実時間型のマイクロアレイ読取装置では,複数のスポットにおける蛍光強度の経時的変化をも観測できることがメリットのひとつである。しかしながら,一度に測定できるスポットは,1箇所であるので,複数のスポットを測定する場合に,時間差が生ずるという問題がある。本発明の好ましい態様では,同時に複数のスポットを測定できるので,同一時間における複数のスポットの経時間変化を適切に測定できる。このような要求に応え,光学系の動作範囲を確保するために,基板におけるスポットの間隔を通常のものより大きめ(たとえば,スポットの中心間距離が50μm以上200μm以下)にすることが好ましい。具体的には,例えば,図1の符号7,符号8及び符号9で示される光源(7),光学系(8)及び蛍光検出器(9)を複数セット用意し,それぞれの対物レンズ(14)が,基板(2)の異なるスポットに位置するようにすればよい。そのようにすることで,複数のスポットを同時に観測できることとなる。また,光源(7)からの光をビームスプリッタ等の光分割手段で分割して,光学系を組み立てるとともに,基板(2)に面した複数の対物レンズ(14)を用意し,ビームスプリッタなどで分割されたそれぞれの光がそれぞれの対物レンズ(14)に導かれるようにしてもよい。この場合,それぞれの対物レンズに対応した蛍光検出器(9)が設けられることが好ましく,全ての蛍光検出器(9)からの出力は,コンピュータ(11)などの制御装置で所定の演算を施されるようにされるものが好ましい。また,基板(2)の各スポットに対応する対物レンズを設置し,それらの対物レンズに光を導く複数の光ファイバを設けることで,複数の励起光を複数のスポットに導いてもよい。対物レンズを用いずに,複数のスポットにおいてエバネッセント場が発生するように,複数の光を基板(2)に導いてもよい。
【0082】
1.6 蛍光検出器
蛍光検出器は,エバネッセント場により励起された蛍光物質が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための装置である。蛍光検出器(9)として,マイクロアレイ技術に用いられる公知のものを適宜用いることができる。
【0083】
図6は,蛍光検出器の例を示す図である。図6に示されるように,蛍光検出器(9)は,例えば,蛍光物質が発する蛍光を透過させ,励起光をカットすることでノイズを軽減するための光フィルタ(41)と,前記光フィルタを透過した蛍光を結像させるための結像レンズ(42)と,前記結像レンズを経た光を検出する光検出器(43)とを具備するものがあげられる。特に,光フィルタは任意要素であり、なくても構わない。光フィルタは,例えば,励起光を含む波長領域の光の強度を軽減できるものであればよい。光検出器として,従来公知の光学機器に使用され得る光検出器を適宜利用することができる。具体的な光検出器として,フォトダイオード,冷却CCDカメラなどのCCDカメラがあげられる。光検出器として,フォトダイオードを用いた場合,観測点全体としての蛍光強度を検出できる。また,CCDカメラを用いることは,CCDを構成する画素ごとに蛍光強度を得て,蛍光像を得ることができるので,好ましい。
【0084】
1.7 制御装置
制御装置(11)は,入射角調整手段(10)が調整する入射角の量を制御する装置である。例えば,入射角調整手段(10)として,ミラーなどの光学素子の位置を変化させるものである場合,所定の制御指令に基づいて,光学素子の位置を変化させることにより,入射角の量を制御できる。さらに,制御装置には,光学素子の位置と,入射角との関係とが制御装置に記憶されており,光学素子の位置を制御するとともに,入射光の入射角が求められるようにされていることが好ましい。また,入射角と,エバネッセント場の侵入長との関係についても記憶されており,入射角についての情報からエバネッセント場の侵入長に関する情報が求められるようにされているものが好ましい。
【0085】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記制御装置は,前記入射角調整手段(10)が調整した入射角に関する情報と,複数の入射角における前記蛍光検出部(9)が検出した蛍光強度又は蛍光像に関する情報とが入力され,前記複数の入射角について,前記入射角に関する情報からエバネッセント場の侵入長を求める手段と,求められた複数の侵入長における前記蛍光強度に関する情報を求める手段と,を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。この態様の蛍光読取装置は,入射角を調整することで,エバネッセント場の侵入長を制御するとともに,複数の侵入長における蛍光強度に関する情報を求めることができる。
【0086】
具体的には,“コンピュータを,入射角調整手段(10)が調整した入射角に関する情報と,複数の入射角における前記蛍光検出部(9)が検出した蛍光強度に関する情報とが入力され,前記複数の入射角について,前記入射角に関する情報からエバネッセント場の侵入長を求め,求められた複数の侵入長における前記蛍光強度に関する情報を求めることにより,前記複数の侵入長についての,エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求める手段として機能させるプログラム”をインストールしたコンピュータを用いればよい。
【0087】
入射角と,エバネッセント場の侵入長とは,所定の関係にあることが知られている。そこであらかじめ係数と,所定の演算プログラムとを記憶しておき,入射角に関する情報が入力された場合に,その係数を読み出すと共に,前記演算プログラムを実行させて,エバネッセント場の侵入長を求めればよい。すなわち,制御装置は,入射角に関する情報が入力される入力手段と,入射角とエバネッセント場の関係式における所定の係数情報を記憶させる係数記憶手段と,前記入力手段が入射角に関する情報を入力した場合に,前記係数記憶手段が記憶する係数情報を読み出すと共に,前記入力された入射角に関する情報を用いて,エバネッセント場の侵入長を求める演算を行う演算手段と,前記演算手段が求めたエバネッセント場の侵入長に関する情報を記憶する侵入長記憶手段と,前記侵入長記憶手段が記憶したエバネッセント場の侵入長に関する情報を出力する出力手段とを具備するものがあげられる。なお,制御装置は,入射角ごとに,所定の侵入長を関連付けて記憶するテーブルを具備しており,入射角に関する情報が入力された場合に,その入射角に関する情報から,侵入長に関する情報を読み出すようにされていても良い。
【0088】
上記のようにして,所定の侵入長が求められるとともに,その侵入長を与えた入射角(すなわち,光学素子の位置)と,その際の蛍光強度とが制御装置に入力されるので,ある侵入長における蛍光強度を観測することができる。制御装置は,入力部,制御部,演算部,記憶部,及び出力部を具備し,それぞれの部は情報をやり取りできるようにバスなどで接続されるものがあげられる。そして,記憶部は,様々な値や,テーブル,制御プログラムなどを記憶する。そして,所定の情報が入力部から制御部へ入力されると,制御部は例えば,記憶部に記憶された各種情報を用いて演算部で所定の演算を行い,演算結果を記憶部に記憶して,適宜出力部から出力するものであっても良い。また,所定の情報が入力部から制御部に入力された場合,制御部は入力された情報に基づいて,メインメモリなどの記憶部に記憶される制御プログラムを読み出して,制御プログラムの指令に従って記憶部から各種情報を読み出すと共に,演算部を用いて各種演算処理を行い,演算結果を記憶部に記憶して,適宜出力部から出力するものであっても良い。
【0089】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記制御装置は,前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸(たとえば,縦軸)を蛍光強度,もう一方の軸(たとえば,横軸)をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める手段を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。このような制御装置は,前記複数の侵入長についての,エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを得るための手段を具備するものである。“エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係”とは,あるエバネッセント場の侵入長dと,その侵入長dにおける蛍光強度の値を意味する。
【0090】
この態様の蛍光読取装置は,例えば,求めたグラフに関する情報をモニタなどの表示装置に出力する。すると,グラフが表示される。すなわち,この態様の蛍光読取装置によれば,複数の侵入長についての,エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを表示することができるので,視覚により,容易にノイズ蛍光のみかどうかを判断できる。すなわち,グラフをみて,各観測点をプロットした状況を想定する。すると,ノイズ蛍光のみを観測した場合は,侵入長を0としたときの切片が閾値以下となる。よって,この態様の蛍光読取装置によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる。
【0091】
図7は,ある観測点における,縦軸を蛍光強度,横軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフの例を示す図である。図7(a)は,観測データを示し,図7(b)は観測データをプロットしたものを示す。図中,三角,十字,及び丸は,それぞれ別の観測点における観測値を示す。これらの各点は,“エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係”を示す情報である。そして,図7(a)に示されるグラフが,“縦軸を蛍光強度,横軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフ”の例である。
【0092】
この態様の蛍光読取装置は,例えば,求めたグラフに関する情報をモニタなどの表示装置に出力する。すると,グラフが表示される。すなわち,この態様の蛍光読取装置によれば,複数の侵入長についての,エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを表示することができるので,視覚により,容易にノイズ蛍光かどうかを判断できる。
【0093】
図7(b)は,図7(a)のグラフを目視によりプロットした状況を示す概念図である。すなわち,グラフをみて,各観測点をプロットした状況を想定する。すると,ノイズ蛍光のみを観測した場合は,侵入長を0としたときの切片が閾値以下となる。よって,この態様の蛍光読取装置によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる。具体的に説明すると,丸で示されるグラフは,全体的に蛍光強度が低いけれども,切片が閾値を超えるので,プローブ物質とターゲット物質とが相互作用したと考えられる。
【0094】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記制御装置は,前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める手段と,前記グラフ上の各点を用いて,エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度を求める手段と,前記エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度と,設定された閾値とを比較する手段と,前記比較結果を用いて,前記プローブ物質(1)と前記ターゲット物質(4)とが相互作用したかどうかを判断する手段と,を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0095】
具体的には,“コンピュータを,前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める手段と,前記グラフ上の各点を用いて,エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度を求める手段と,前記エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度と,設定された閾値とを比較する手段と,前記比較結果を用いて,前記プローブ物質(1)と前記ターゲット物質(4)とが相互作用したかどうかを判断する手段として機能させるプログラム”を,コンピュータにインストールしたものを制御装置として用いればよい。
【0096】
“前記グラフ上の各点を用いて,エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度を求める手段”は,図7(a)に示される各観測点について,例えば,図7(b)に示されるようにプロットを行うための手段である。グラフ上の観測点をプロットする方法として,様々な方法が知られており,公知の方法を適宜用いればよい。最も簡単なプロット方法は,隣接する観測点同士を単に接続するというものである。端点については,例えば,端点と隣接する観測点とを結ぶ直線を延長してもよい。そして,観測点をプロットしたものと縦軸と交わる点,すなわち侵入長が0の点における蛍光強度を求めればよい。
【0097】
“前記エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度と,設定された閾値とを比較する手段”は,記憶部に記憶された閾値を読み出すと共に,先の工程で求めた“エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度”と前記閾値とを比較するための手段である。値の比較は比較回路を用いて容易に行うことができる。例えば,前者が大きかった場合,“1”を出力し,後者が前者と同じか前者より大きかった場合に,“0”を出力するようにすればよい。
【0098】
“前記比較結果を用いて,前記プローブ物質(1)と前記ターゲット物質(4)とが相互作用したかどうかを判断する手段”は,例えば,“エバネッセント場の侵入長が0の場合の仮想的な蛍光強度”と閾値とを比較した結果,前者が大きかった場合に,前記プローブ物質と前記ターゲット物質とが相互作用したと判断する手段である。具体的には,“1”の出力を受取った場合,前記プローブ物質と前記ターゲット物質とが相互作用したと判断し,一方,“0”の出力を受取った場合,相互作用しなかったと判断するものがあげられる。これらの場合は,前記“1”又は“0”に応じた表示信号が読み出されて,出力されればよい。すると,モニタなどには,相互作用の有無に関する情報が表示されることとなる。
【0099】
この態様の蛍光読取装置(12)によれば,前記プローブ物質と前記ターゲット物質とが相互作用したかどうかを自動的に判断できる。また,設定された閾値を修正することで,判断基準を適宜変えることができる。
【0100】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記制御装置は,経過時間を観測する手段を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。
【0101】
具体的には,マイクロアレイなどは,複数のスポットからの蛍光を迅速に検出する。あるスポットからの蛍光を検出した場合の,時刻情報を記憶しておけば,そのスポットの蛍光を後に検出した場合,あるスポットについて,複数時間についての,蛍光強度を観測できる。よって,あるスポットにおける蛍光強度のが経時変化を観測できる。これにより,ハイブリダイズなどの相互作用が進行する様子を観測できるとともに,最終的な相互作用量も予測することができる。すなわち,本発明の好ましい態様では,ある観測点又は切片の蛍光強度と,時間との関係を求める手段を具備するものである。これにより,あるスポットにおける蛍光強度の経時変化を観測できる。よって,本発明によれば,リアルタイム観測(実時間観測)を行うことができる蛍光読取装置を提供できる。また,本発明の好ましい態様は,所定時間後の蛍光強度の変化を求める手段と,蛍光強度の変化と閾値とを比較する手段とを具備し,蛍光強度の変化が閾値以下であった場合に,最後の蛍光強度を,最終的な蛍光強度とするものがあげられる。このようにすれば,最終的な蛍光強度を迅速に予測することができる。なお,閾値は,例えば,ある一定の値であってもよいし,直前の蛍光強度の変化の1/3以上1/2以下などの値であってもよい。
【0102】
なお,特開2006-38816号公報には,ターゲットDNAとプローブDNAとのハイブリダイズする様子について以下の説明がなされている。すなわち,ターゲットDNAとプローブDNAとがハイブリダイズし,マイクロアレイ基板表面へ固定されたターゲットDNAの分子数をXとすると,以下の式により表すことができるとされる。
X=C(1-exp(-t/α))
ここで,C は,検体中に含まれるターゲットDNAの分子数である。αは、ハイブリダイゼーション反応が起こるときの反応速度と脱離速度の比から決まる定数である。tは検出時間を示す。
【0103】
すなわち,本発明においても,蛍光強度の経時変化を求めることができるので,複数の時間において検出された蛍光強度に関する情報を用いて,上記の式にフィッティングさせることにより,αの値とCの値とを求めることができる。
【0104】
本発明の第1の側面の好ましい態様は,前記基板は,前記プローブ物質が固定されたスポット(21)を,好ましくは10個以上,より好ましくは30個以上,さらに好ましくは100個以上,特に好ましくは300個以上有し,前記蛍光検出部(9)は,前記蛍光物質(3)が発する蛍光像を取得するものであり,前記制御装置(11)は,前記蛍光像を走査して,蛍光強度が変化する境界(21)を算出する手段と,前記境界の形状から,蛍光像のうちスポット内の領域(23)とスポット外の領域(24)を把握する手段と,前記スポット内の蛍光強度を求める手段と,を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。なお,スポット(21)は,基板(2)に複数個設けられるものが好ましい。
【0105】
図8は,観測される蛍光像の例を示す図である。図8(a)は,観測される蛍光像の例を示す図面に代わる写真であり,図8(b)は,図8(a)の像を用いて蛍光強度が変化する境界を求めた図を示す。図中,符号21は,スポットを示す。符号22は,境界を示す。符号23は,スポット内からの蛍光が観測される領域を示し,符号24はスポット外で蛍光が観測される部位を示す。
【0106】
図8に示されるように,一般に,あるスポットの蛍光像を取得した場合に,スポット内(21)とスポット外との両方が含まれる場合がある。そのような場合,スポット外からの蛍光(24)の方が,スポット内からの蛍光(23)よりも強度が強いときがある。一方,スポット外には,プローブ物質が固定されていないので,スポット外からの蛍光はノイズ成分といえる。したがって,蛍光像からそのまま蛍光強度を分析すると,プローブ物質とターゲット物質との相互作用を正確に把握することはできない。この態様の蛍光読取装置(12)によれば,蛍光像からスポット内とスポット外との境界(22)を把握して,その上でスポット内の蛍光強度を求めるので,従来に比べて精度高く相互作用を把握できる。
【0107】
“前記蛍光像を走査して,蛍光強度が変化する境界を算出する手段”として,OCR,OMR,指紋認識や静脈認識などのバイオアフィメトリクスにおいて用いられている公知の方法を適宜採用するができる。具体的には,蛍光強度の分布をX軸方向に走査(スキャン)する操作を,Y軸を変化させつつ繰返し行い,蛍光強度の分布に変化が生じた点を求めればよい。そのようにすることで,蛍光強度が変化する境界を算出することができる。
【0108】
“前記境界の形状から,蛍光像のうちスポット内とスポット外の領域を把握する手段”は,例えば,前記の工程で,境界が求められているので,その境界に関する情報を用いればよい。具体的には,スポットの外周は,例えば,円形状である。よって,境界の傾きを求めることで,スポットの内外を把握することができる。また,エバネッセント場の侵入長を変化させた場合に,蛍光強度の変動が大きい部分がスポット外といえる。そこで,境界により区別される2つの領域について,複数の侵入長における蛍光強度の変化を観測し,変動が小さいものをスポット内であると判断してもよい。
【0109】
“前記スポット内の蛍光強度を求める手段”は,例えば,上記のようにして把握されたスポット内における単位面積あたりの蛍光強度を算出するものがあげられる。CCDカメラでは,各画素に応じた部位の蛍光強度に関する情報が得られているので,ある領域に含まれる蛍光強度の合計や平均は,加算演算や除算演算を行うことで容易に求めることができる。
【0110】
1.8 基板移動手段
本発明の第1の側面の好ましい態様は,基板(2)の位置を移動させるための基板移動手段(15)を具備する,上記いずれかに記載の蛍光読取装置(12)に関する。基板移動手段として,基板に取り付けられたアクチュエータがあげられる。アクチュエータによる移動方向は,対物レンズ(14)の表面と水平方向に縦方向及び横方向に移動するものがあげられる。そのように移動するので,マイクロ基板に設けられた各スポットにエバネッセント場を移動させることができる。このように検出を行うためには,制御装置(11)の記憶部には,基板における各スポットの位置情報が記憶されると共に,アクチュエータによる移動ステージの移動量は,制御装置(11)により制御されればよい。すなわち,マイクロアレイには,複数のスポットが設けられており,そして各スポットには,様々な種類のプローブ物質が固定されている。この態様の蛍光読取装置は,基板移動手段(15)を具備するので,各スポットにエバネッセント場が生ずるように基板(2)を移動させることができる。これにより,様々なプローブ物質について蛍光強度を観測できることとなる。
【0111】
1.9 自動焦点維持機構
本発明の蛍光読取装置は,対物レンズと基板との間の距離を一定に保つための自動焦点維持機構を具備しても良い。自動焦点維持機構を具備することで,蛍光読取装置は,エバネッセント場を生成する照明光のうち,基板から反射して戻ってくる成分を用いて対物レンズと基板との間の距離を計測することができる。対物レンズから戻ってくる光はダイクロイックミラー(35)で反射するので,ミラー(34)を部分透過性ミラーとすることで上方に反射光を取り出すことができる。たとえば,レンズ(40)によってCCD(43)上に集光して集光スポット位置をモニタする。対物レンズと基板との間の距離が変化すると集光スポットが横方向に移動するので,集光スポット位置が一定位置になるように対物レンズの上下位置を移動機構により調整することで,焦点を維持することができる。焦点維持装置を自動化するにはCCD(43)から得られた画像をコンピュータに取り込み画像処理によって集光スポット位置を検出して,その位置が一定になるように移動機構を制御する信号を発するようにすればよい。自動焦点維持機構を組み込むことで長時間にわたって結合反応が進む様子を安定して観察できるようになる。ハイブリダイゼーションの進行を観察するときには基板と溶液を50℃程度にまで温度を上昇させることが望ましいので,温度変化によって生じる焦点ずれが問題になる。しかしながら,自動焦点機構を組み込むことでこの影響を軽減できる。
【0112】
1.10 複数同時測定系
通常の実時間型のマイクロアレイ測定装置では,試料室はひとつである。その様な場合,一度に測定できるスポットはひとつである。したがって,複数のスポットにおける同時期の様子を正確に観測できないという問題がある。そこで,本発明の好ましい態様では,ターゲット物質を含む試料庫と,前記試料庫と複数の試料室とを接続する接続管とを有し,前記接続管は分岐部を有し,前記接続管の分岐部により分岐されるそれぞれの接続管の下流部は,前記複数の試料室にそれぞれ接続される蛍光読取装置に関する。そして,それぞれの試料室ごとに,対応する光源(7),光学系(8)及び蛍光検出器(9)が設けられる。そのようにすることで,ある試料の複数のスポットを容易に同時観測することができる。
【0113】
2.1 マイクロアレイの検出原理
次にマイクロアレイの検出原理を説明する。図9は,マイクロアレイの検出原理を説明するための概念図である。図9に示されるように,基板(2)には,プローブ物質(1)が固定されている。試料室には,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料が流れている。なお,試料室における試料の流れの方向は,矢印(51)で示されるとおりである。図9に示されるマイクロアレイ検出装置では,光学系からの入射光(52)が基板に入射する。入射光の進行方向は,矢印(53)で示されるとおりである。一方,入射光は,基板と試料室との境界面で反射する。符号54は,反射光を示す。なお,符号55は,入射角を示す。
【0114】
所定の条件を満たす場合,上記のような条件の下,エバネッセント場が発生する。そして,エバネッセント場により蛍光物質(3)が励起され,蛍光を発する。この励起される蛍光物質には,プローブ物質とターゲット物質との相互作用に関与した蛍光物質(3a)のほかに,プローブ物質とターゲット物質との相互作用に関与しない蛍光物質(3b)が含まれる。
【0115】
2.2 入射角とエバネッセント場の侵入長の関係
例えば,特開平10-2836号公報に示されるように,入射角とエバネッセント場の侵入長(侵入深さ)は,以下のような関係がある。
【0116】
【数1】
JP0005093522B2_000002t.gif

【0117】
ここで,D0は,エバネッセント場の侵入長(μm)を示し,λは,入射光の波長を示し,θは,基板へ入射する光の入射角を示す。また,nは,下基板の屈折率を示し,nは液晶(及び配向膜)の屈折率を示すとされる。特開平10-2836号公報に開示された光学的異方性測定装置と,本発明の蛍光読取装置とは,対物レンズの形状や観測対象などに相違があるけれども,エバネッセント場の発生原理は同様である。すなわち,本発明の系においても,エバネッセント場の侵入長は,入射光の入射角によって変化する。
【0118】
2.3 エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係
プローブ物質とターゲット物質とがハイブリダイズした場合,ハイブリダイズにより基板に固定された蛍光物質がエバネッセント場を受けて蛍光を発する。DNAマイクロアレイ装置では,このハイブリダイズにより生じた蛍光を観測することにより,プローブ物質とターゲット物質との相互作用を観測する。しかし,実時間観測型DNAマイクロアレイ装置では,ハイブリダイズに関連する発光以外にも,基板から離れた部分を流れる蛍光物質に由来する蛍光も観測してしまう。このような基板に固定されない蛍光物質に由来する蛍光は,ハイブリダイズにより生ずるものではないので,取り除かれることが望ましい。
【0119】
従来の実時間観測型DNAマイクロアレイ装置では,基板に固定されない蛍光物質に由来する蛍光の方が,観測したいハイブリダイズに由来する蛍光よりも強い場合がある。
【0120】
本発明におけるDNAマイクロアレイ装置は,プローブ物質とターゲット物質とがハイブリダイズし,基板に固定された蛍光物質をエバネッセント場により励起する。そして,エバネッセント場により励起された蛍光物質が発する蛍光の強度を測定することにより,プローブ物質とターゲット物質との相互作用を評価する。
【0121】
エバネッセント場の強度は,基板からの距離zに対して指数関数的に減衰する。エバネッセント場により,蛍光物質は局所的な光強度に比例した励起確率で励起され,蛍光を発する。すなわち,dをエバネッセント場の侵入長とし,Aを定数とすると,励起確率を示す局所的な光強度は以下のように表すことができる。
【0122】
【数2】
JP0005093522B2_000003t.gif

【0123】
一方,実時間観測型DNAマイクロアレイ装置において検出される蛍光Iは,フロースルーセルを流れる基板に固定されていない蛍光物質に由来する蛍光IPiと,プローブ物質とターゲット物質とがハイブリダイズすることにより基板に固定された蛍光物質に由来する蛍光IQiの和であると考えられる。よって,観測される蛍光Iと,ノイズ成分である蛍光IPiと観測対象である蛍光IQiとの関係は以下のように表すことができる。
【0124】
【数3】
JP0005093522B2_000004t.gif

【0125】
フロースルーセルを流れる蛍光物質に由来する蛍光強度IPiとフロースルーセルを流れる蛍光物質は,距離zに対して一様に分布すると仮定する。すると,蛍光物質の濃度をPとするとノイズ成分である蛍光IPiは,以下のように求めることができる。
【0126】
【数4】
JP0005093522B2_000005t.gif

【0127】
基板に固定された蛍光物質に由来する蛍光IQiと基板に固定された蛍光物質に由来する蛍光IQiは,単位面積当たりに固定された蛍光分子の数をQとして,以下のようにして求めることができる。
【0128】
【数5】
JP0005093522B2_000006t.gif

【0129】
式(2),式(4)及び式(6)から,観測される蛍光Iと,ノイズ成分である蛍光IPiと観測対象である蛍光IQiとの関係は以下の式(7)のように表すことができる。
【0130】
【数6】
JP0005093522B2_000007t.gif

【0131】
式(7)において,P,及びA0は定数であり,Qはある値であるから,蛍光強度は,dの関数であることが分かる。簡単のため,dをdとすると,観測される蛍光強度I(d)は,以下のように表すことができる。
【0132】
【数7】
JP0005093522B2_000008t.gif

【0133】
上記式(8)に基づいて,実時間観測型DNAマイクロアレイ装置の観測パターンを分析する。図10は,実時間観測型DNAマイクロアレイ装置の観測パターンを示す仮想的なグラフである。縦軸は,観測される蛍光強度(任意単位),横軸はエバネッセント場の侵入長(任意単位)である。
【0134】
図10において,グラフAは,観測される蛍光のうち,フロースルーセルを流れる蛍光物質に由来する蛍光強度IPiが支配的な場合を示すグラフである。すなわち,式(8)から,基板に固定された蛍光物質に由来する蛍光IQiが存在しない場合,dが0(ゼロ)のときに,蛍光強度I(d)も0となる。つまり,フロースルーセルを流れる蛍光物質に由来する蛍光強度IPiが支配的な場合,dを0に近づけるとy切片が0に近くなる。よって,いくつかのエバネッセント場の侵入長において,蛍光強度を観測し,それら観測点をプロットした場合,y切片が0に近い場合は,フロースルーセルを流れる蛍光物質に由来する蛍光強度IPiが支配的であり,プローブ物質とターゲット物質とがハイブリダイズしていないといえる。
【0135】
次にグラフBについて検討する。あるエバネッセント場の侵入長についてみると,グラフAの場合とグラフBの場合とでは,グラフAの蛍光強度の方が強い領域がある。すなわち,従来の実時間観測型DNAマイクロアレイ装置では,ある固定されたエバネッセント場の侵入長において蛍光強度を測定するので,グラフAがハイブリダイズしたものを示し,グラフBがハイブリダイズしなかったものを示すと判断されるおそれがある。しかしながら,グラフBは,いくつかのエバネッセント場の侵入長において,蛍光強度を観測し,それら観測点をプロットした場合,y切片が0に近づかない。よって,グラフBは,プローブ物質とターゲット物質とがハイブリダイズした可能性が高いと判断される。
【0136】
次に,グラフCについて検討する。グラフCは,通常の実時間観測型DNAマイクロアレイ装置における測定領域においては,蛍光強度が強く,通常であればハイブリダイズしたと判断される可能性が高い。しかしながら,グラフCは,いくつかのエバネッセント場の侵入長において,蛍光強度を観測し,それら観測点をプロットした場合,y切片が0に近づく。すなわち,本発明によれば,このような通常であればハイブリダイズしたと誤認するような場合であっても,ハイブリダイズしていないと正しく判定できる。
【0137】
すなわち,エバネッセント場の侵入長を固定して,蛍光強度を測定した場合,蛍光強度が強くてもそれが,プローブ物質とターゲット物質とがハイブリダイズしたことによるものか,それともノイズ成分が多いことに由来するか判断が容易ではなかった。しかしながら,本発明によれば,測定された蛍光強度が高い場合であっても,ノイズ成分が多いことに由来かどうか判断することができるので,精度よくプローブ物質とターゲット物質とがハイブリダイズしたかどうかを判定できる。
【0138】
次に,グラフA’について検討する。グラフA’は,グラフAを与えた情況からしばらく時間をおいた後に,いくつかのエバネッセント場の侵入長において,蛍光強度を観測し,それら観測点をプロットした場合の侵入長と蛍光強度との関係を示すものである。同じ観測点を観測したにも係わらず,グラフの位置が,グラフAからグラフA’へと変化したことは,グラフAの観測時にはプローブ物質とターゲット物質とのハイブリダイズが進行していなかったものの,時間が経つにつれハイブリダイズが進行したものと考えられる。
【0139】
すなわち,同じ位置について,時間をおいた後にいくつかのエバネッセント場の侵入長において,蛍光強度を観測し,それら観測点をプロットすることで,プローブ物質とターゲット物質とがハイブリダイズしてゆく経時変化を把握することができる。なお,グラフAとグラフA’の傾きを比較することで,フロースルーセル中に存在する蛍光物質の濃度Pが変化したかどうか判断できる。すなわち,同じ位置について,時間をおいた後にいくつかのエバネッセント場の侵入長において,蛍光強度を観測し,それら観測点をプロットした場合のグラフの傾きを比較することで,フロースルーセル中に含まれる蛍光物質の濃度が一定であり良好な条件であるかどうか判定できる。
【0140】
3 動作
次に,本発明の蛍光読取装置の動作について説明する。本発明の第2の側面は,プローブ物質(1)が固定された基板(2)と,前記プローブ物質(1)を収容するとともに,蛍光物質(3)とターゲット物質(4)とを含む試料(5)を,前記プローブ物質(1)と接触するように収容できる試料室(6)と,光源(7)と,前記光源(7)からの光を,前記基板(2)に導き,エバネッセント場を発生させるための,光学系(8)と,前記エバネッセント場により励起された前記蛍光物質(3)が発する蛍光強度又は蛍光像を検出するための蛍光検出部(9)とを具備する,プローブ物質とターゲット物質との特異的な相互作用を検出するための蛍光読取装置を用いた蛍光読取方法において,前記エバネッセント場の侵入長を変化させる工程と,前記エバネッセント場の侵入長を変化させた後に蛍光強度を求める工程とを繰り返し行い,複数のエバネッセント場の侵入長における蛍光強度を求めることを特徴とする蛍光読取方法に関する。図1に示されるように,基板(2)には,プローブ物質(1)が固定されている。そして,プローブ物質(1)は,試料室(6)において,試料(5)と接触される。試料は,例えば,常時供給され続けてもよく,その場合,試料に含まれる蛍光物質(3),ターゲット物質(4)及びバッファなどの量や,試料の流速などは制御装置により適宜調整されればよい。なお,ターゲット物質とプローブ物質とが,ハイブリダイズする性質を有していれば,ターゲット物質とプローブ物質とがハイブリダイズする。
【0141】
光源(7)から放出された光は,集光レンズにより集光された後,ミラー(13)にて反射され,対物レンズ(14)へと導かれる。そして,対物レンズを経た光は,基板(2)表面に導かれ,そこでエバネッセント場が生ずる。基板(2)で反射した光は,対物レンズ(14)を介して,出力され,適宜観測されてもよい。ターゲット物質とプローブ物質とがハイブリダイズした場合,蛍光物質が基板に固定されるので,基板表面で生じたエバネッセント場により,蛍光物質が励起され,蛍光を発生する。
【0142】
発生した蛍光は,例えば,励起光をカットする光学フィルタや,蛍光を集光するための集光レンズを介して,CCDカメラなどの蛍光検出部(9)へと導かれる。蛍光検出部で検出された蛍光像又は蛍光強度に関する情報は,制御装置(11)へ伝えられ,適宜演算処理がなされる。
【0143】
一方,制御装置は,入射角制御手段を制御して,入射角を制御するとともに,制御した入射角におけるエバネッセント場の侵入長を求める。基板(2)へ入射する入射光の入射角を調整することにより,前記エバネッセント場の侵入長を変化させることができるので,容易に複数のエバネッセント場の侵入長における蛍光強度を求めることができる。そして,検出時刻,スポット位置,侵入長,及び蛍光像(又は蛍光強度)を関連付けて記憶する。複数の入射角について,同様の作業を行い,侵入長と蛍光強度との関係を求める。なお,蛍光像を得た場合は,これまで説明した方法に従って,蛍光強度を得ることができる。具体的には,図8(a)及び図8(b)に示されるように,蛍光像から,スポット内の領域を把握して,スポット内の蛍光領域における蛍光強度を求めればよい。
【0144】
制御装置は,侵入長と蛍光強度との関係をグラフとして表示する。その様子が例えば,図7(a)に示される。図7(a)に示されるグラフが表示されれば,目視により図7(b)のようなプロットを認識できるので,容易にハイブリダイズの有無を確認できる。
【0145】
一方,本発明の好ましい態様では,実際に,各観測点をプロットするなどして,グラフの切片を求め,閾値と比較することで,ハイブリダイズの有無,又はハイブリダイズ量を求めることができる。本発明の第2の側面の好ましい態様は,前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸(たとえば,縦軸)を蛍光強度,もう一方の軸(たとえば,横軸)をエバネッセント場の侵入長としたグラフを求める上記いずれかに記載の蛍光読取方法である。複数の侵入長についての,エバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を用いて,一方の軸を蛍光強度,もう一方の軸をエバネッセント場の侵入長としたグラフを表示することができるので,視覚により,容易にノイズ蛍光のみかどうかを判断できる。すなわち,グラフをみて,各観測点をプロットした状況を想定する。すると,ノイズ蛍光のみを観測した場合は,侵入長を0としたときの切片が閾値以下となる。よって,この態様の蛍光読取方法によれば,ノイズ蛍光の影響を考慮できる。
【0146】
本発明の第2の側面の好ましい態様は,前記基板(2)は,前記プローブ物質(1)が固定されたスポット(21)を有し,あるスポット(21)について前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求めた後,所定時間後にそのスポット(21)について前記複数の侵入長についてのエバネッセント場の侵入長と蛍光強度との関係を求める上記いずれかに記載の蛍光読取方法である。この方法によれば,あるスポットについて,複数時間についての蛍光強度を観測できるので,あるスポットにおける蛍光強度が経時変化を観測できる。これにより,ハイブリダイズなどの相互作用が進行する様子を観測できるとともに,最終的な相互作用量も予測することができる。
【実施例1】
【0147】
以下,実施例を用いて本発明を具体的に説明する。本発明は,実施例によって限定されることなく,当業者にとって自明な事項を用いて適宜修正することができる。
【0148】
図11は,実施例において用いた装置の概念図である。図11に示されるように,本実施例では,フロースルーセルを用いたDNAマイクロアレイ読取装置を用いた。DNAマイクロアレイ読取装置は,試料を調整する制御機構,光源部及び検出部を含む検出光学系,及び各種制御を行うパーソナルコンピュータなどの制御装置を含む。
【0149】
制御機構において,ターゲット物質を含む試料が試料室へ導かれる。なお,図示されるように,試料には,バッファが適宜補充されるようにされており,制御装置が電磁弁の開閉及びシリンジポンプの動作を制御することで,試料の濃度及び流速を制御できるようにされている。また,ハイブリダイゼーションセルは,プローブ物質が固定されたマイクロアレイ基板と,試料が流れる試料室と,試料室の温度を観測するための主サーミスタ及び副サーミスタ,試料室の温度を制御するための主ヒータ及び副ヒータを有する。そして,サーミスタが観測した試料室の温度は,制御装置に伝えられ,試料室内の温度が制御される。具体的には,サーミスタが観測した温度が閾値以下であれば,ヒータを動作させる指令を出力し,その指令を受けたヒータが発熱することにより試料の温度が上昇する。そして,試料の温度が一定値を超えた場合に,ヒータの発熱が止まる。なお,マイクロアレイには,複数のスポットが存在し,それぞれのスポットにおける蛍光を観測するため,基板は図11の垂直方向及び上下方向に移動することができる。
【0150】
検出光学系のうち光源部は,光源と,メカニカルシャッタと,ミラーと,光ファイバとを含む。そして,光源として,He-Neレーザ,及びDPSS(ダイオード励起固体)レーザであるNd:YAGレーザの第二高調波を用いた。光源からの光は,メカニカルシャッタにより,ONとOFFとを切り替えることができるようにされている。そして,2つのミラーは,前記何れの光源がONされている場合であっても,光ファイバの導入口へ光を導くことができるように設定されている。
【0151】
検出光学系のうち検出部は,光ファイバの放出端と,ミラーと,対物レンズと,フィルタとレンズとを含む。光源部で放射された光は,光ファイバを経由して,ミラーへと伝えられる。そして,ミラーにより反射された光が対物レンズを経て基板に入射する。入射した光は,反射し,対物レンズを経てレンズにて反射される。この反射された光を図示しない検出器で検出しても良い。一方,入射光により基板と試料室との境界には,エバネッセント場が発生する。そして,発生したエバネッセント場により、試料室内の蛍光物質が励起され,蛍光を発生する。発生した蛍光は,基板及び対物レンズを経て,フィルタに到達する。すると,フィルタは,蛍光に相当する領域以外の光の強度を弱めるので,蛍光を抽出することができる。フィルタを経た光は,レンズに入射し,集光され,CCDカメラなどの光検出器に入射する。
【0152】
光検出器は,入射した光の強度を電気信号に変換して,ケーブルを介してコンピュータなどの制御装置に伝える。なお,この際,蛍光を観察した像そのものも制御装置に伝えても良い。この場合は,制御装置が,入力された像に基づいて蛍光強度を解析すればよい。
【0153】
図11に示す例では,光ファイバと対物レンズとの間にあるレンズを移動できるようにされている。そして,レンズが移動する距離や位置は,制御装置により制御できるようにされている。すなわち,制御装置は,レンズの位置に関連して,基板への入射角の大きさや,エバネッセント場の侵入長を把握できるようなプログラムを具備しており,その結果,ある侵入長における蛍光強度を把握できるようにされている。なお,図11に示す例では,自動焦点機構を実現するために対物レンズから戻ってきた光がミラーで反射されてCCD素子上に集光する。対物レンズは,ストローク100μmのピエゾアクチュエーターで保持され,コンピュータを介してCCD素子上での集光スポット位置が一定になるように制御されている。
【0154】
蛍光物質としてPOPO-3を用いて実際に蛍光を観察した。マイクロアレイにおけるスポットの直径は150μmであり,各スポットの中心間の距離は250μmであった。
【0155】
図12は,蛍光物質の濃度と照射時間を変化させた場合において,観測される蛍光像及びマイクロアレイを示す図面に代わる写真である。図12(a)は,濃度200nM,照射時間817msのものを示す。図12(b)は,濃度20nM,照射時間1.87sのものを示す。図12(c)は,濃度10nM,照射時間4.13sのものを示す。また,図13は,蛍光物質の濃度と照射時間を変化させた場合において,観測される蛍光像及びマイクロアレイを示す図面に代わる写真である。図13(a)は,濃度5nM,照射時間4.13sのものを示す。図13(b)は,濃度2nM,照射時間9.31sのものを示す。図13(c)は,濃度1nM,照射時間9.31sのものを示す。
【0156】
図12及び図13から,蛍光物質の濃度が薄いと照射時間を十分にとっても有効に観測できない場合があることがわかる。すなわち,蛍光物質の濃度は,用いる蛍光物質の種類やターゲット物質によって,適宜調整することが望ましいが,一般的には5nM以上とすることが好ましいといえる。
【0157】
図14は,観測される蛍光像の例を示す図面に代わる写真である。図14(a)は侵入長が194nmのものを示し,図14(b)は侵入長が94nmのものを示す。図14に示されるように,実際に観測される蛍光像では,スポット内からの蛍光に比べてスポット外からの蛍光の方が,強い強度をもって観測されることがわかる。
【0158】
図15は,侵入長を変化させた場合に観測される蛍光像の例を示す図面に代わる写真である。図15(a)は侵入長が94nmのものを示し,図15(b)は侵入長が101nmのものを示し,図15(c)は侵入長が108nmのものを示し,図15(d)は侵入長が113nmのものを示し,図15(e)は侵入長が123nmのものを示し,図15(f)は侵入長が143nmのものを示し,図15(g)は侵入長が194nmのものを示す。
【0159】
図15から,基板表面に吸着した蛍光分子は,基板表面から100nm以内の位置に多く存在することがわかる。一方,基板表面から100nmを越えた領域では,基板表面に吸着した蛍光分子に由来する蛍光を観測できないことが分かった。このように,本発明によれば,基板表面に結合した分子からの蛍光強度を検出できるだけでなく,その分布を求めることもできる。
【0160】
図16は,図15に示す各蛍光像において,スポット内とスポット外における侵入長と蛍光強度との関係を示すグラフである。図16において,黒丸がスポット内の観測点を示し,四角がスポット外の観測点を示す。そして,グラフ中の実線は,スポット内の観測点における侵入長94nm,108nm及び123nmの観測点を用いて,最小二乗法により近似直線を得たものである。一方,図中点線は,スポット外について同様にして近似直線を得たものである。
【0161】
図16から,ターゲット物質とプローブ物質とが相互作用しないスポット外においては,プロットした直線の切片がほぼ0となったことがわかる。一方,ターゲット物質とプローブ物質とが相互作用するスポット内では,蛍光強度がスポット外に比べて弱いものの,観測点をプロットした直線の切片は0とはならず,大きな値をとったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は,エバネッセント場による蛍光励起を利用した各種検出系において効果的に利用することができる。具体的な例としては,DNAマイクロアレイ読取装置などとして効果的に利用することができる。また,本発明は,タンパクチップ読み取り装置や,タンパク質の相互間作用を計測する装置などとしても利用されうる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15