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明細書 :抗生物質によるタンパク質の転写・分解二重制御法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5126907号 (P5126907)
登録日 平成24年11月9日(2012.11.9)
発行日 平成25年1月23日(2013.1.23)
発明の名称または考案の名称 抗生物質によるタンパク質の転写・分解二重制御法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A61K 48/00
請求項の数または発明の数 20
全頁数 51
出願番号 特願2009-505252 (P2009-505252)
出願日 平成20年3月14日(2008.3.14)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 BMB2007(第30回日本分子生物学会年会・第80回日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集(2007年11月25日発行)に4P-1311として発表
国際出願番号 PCT/JP2008/055200
国際公開番号 WO2008/114856
国際公開日 平成20年9月25日(2008.9.25)
優先権出願番号 2007065415
優先日 平成19年3月14日(2007.3.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年6月23日(2010.6.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】三輪 佳宏
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100126354、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 尚
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】吉田 知美
参考文献・文献 特表2004-500061(JP,A)
特表平11-506901(JP,A)
特表2003-515314(JP,A)
国際公開第2007/032555(WO,A1)
電気学会研究会資料,2007年 1月30日,Vol.BMS-07-3, No.1-6,p.9-12
Science,1995年,Vol.268,p.1766-1769
BMB2007 (第30 回日本分子生物学会年会・第80 回日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集,2007年11月25日,4P-1311
調査した分野 C12N 15/09
A61K 48/00
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクターを導入した細胞においてテトラサイクリン系抗生物質の有無によって該細胞内での該目的遺伝子の発現を転写レベルおよびタンパク質レベルで制御するための遺伝子発現制御組成物であって、
(a)前記抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体と組換え酵素との融合タンパク質であって、前記組換え配列部位での組換えを仲介し、前記抗生物質の非存在下では前記細胞内で分解される融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、前記変異体が、配列番号2の野生型テトラサイクリンリプレッサータンパク質のアミノ酸配列における95位のアスパラギン酸のアスパラギンによる置換、101位のロイシンのセリンによる置換、および102位のグリシンのアスパラギン酸による置換のうちの少なくとも2つの変異を有する、ポリヌクレオチド、および
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写制御領域に結合し、該ポリヌクレオチドの転写を増強するタンパク質であって、前記抗生物質の非存在下では前記転写制御領域に結合しないタンパク質をコードするポリヌクレオチド
を発現可能に含む発現ベクターを含む、組成物。
【請求項2】
前記組換え酵素が、
(a)Creリコンビナーゼ;
(b)FLPリコンビナーゼ;
(c)ファージphi(ファイ)13インテグラーゼ;
(d)ファージR4インテグラーゼ;
(e)ファージTP901-1インテグラーゼ;
(f)ファージλ(ラムダ)インテグラーゼ;
(g)ファージHK022インテグラーゼ;
(h)β(ベータ)リコンビナーゼ;
(i)Rリコンビナーゼ;
(j)γδ(ガンマデルタ)レソルバーゼ;
(k)Dreリコンビナーゼ;
(l)ファイRv1インテグラーゼ;
(m)Int;
(n)IHF;
(o)Xis;
(p)Fis;
(q)Hin;
(r)Gin;
(s)Cin;
(t)Th3レソルバーゼ;
(u)TndX;
(v)XerC;および
(w)XerD
からなる群から選択される1以上のタンパク質である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組換え配列が、
(a)loxP;
(b)frt;
(c)attB/attP;
(d)six;
(e)RS;
(f)res;
(g)rox;
(h)psi;
(i)dif;
(j)cer;および
(k)組換えを起こす能力を保持した(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、または(j)の組換え配列の変異体、改変体、または誘導体からなる群より選択される1以上の組換え配列を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、前記組換え配列がloxP配列である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記目的遺伝子が、転写因子である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
前記転写因子が、Oct3/4、Klf4、Sox2、またはc-Myc遺伝子のいずれかである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記(b)のポリヌクレオチドが、前記(a)のポリヌクレオチドの転写制御領域に結合して該ポリヌクレオチドの転写を増強するタンパク質をコードし、該タンパク質は、前記抗生物質と結合した場合にのみ該転写制御領域に結合することができる、請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記テトラサイクリン系抗生物質が、テトラサイクリン、またはその誘導体であるドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、もしくは無水テトラサイクリンである、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
前記リプレッサータンパク質の変異体が、テトラサイクリンリプレッサータンパク質の変異体である、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
前記テトラサイクリンリプレッサータンパク質の変異体が、野生型テトラサイクリンリプレッサータンパク質のアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を有する、請求項に記載の組成物。
【請求項11】
前記アミノ酸残基の置換が、野生型テトラサイクリンリプレッサータンパク質のアミノ酸配列の95位のアスパラギン酸、101位のロイシン、および102位のグリシンのいずれか少なくとも2つの部位において存在する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
インビトロまたはトランスジェニック非ヒト動物においてテトラサイクリン系抗生物質の有無によって細胞内での目的遺伝子の発現を制御するための遺伝子発現制御方法であって、
(a)(a1)前記抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体と組換え酵素との融合タンパク質であって、前記組換え配列部位での組換えを仲介し、前記抗生物質の非存在下では前記細胞内で分解される融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、前記変異体が、配列番号2の野生型テトラサイクリンリプレッサータンパク質のアミノ酸配列における95位のアスパラギン酸のアスパラギンによる置換、101位のロイシンのセリンによる置換、および102位のグリシンのアスパラギン酸による置換のうちの少なくとも2つの変異を有する、ポリヌクレオチド、および
(a2)(a1)のポリヌクレオチドの転写制御領域に結合し、該ポリヌクレオチドの転写を増強するタンパク質であって、前記抗生物質の非存在下では前記転写制御領域に結合しないタンパク質をコードするポリヌクレオチド
を発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(b)目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクター
を、前記細胞内で前記抗生物質の存在下または非存在下で発現させる工程を含む、方法。
【請求項13】
前記組換え酵素が、
(a)Creリコンビナーゼ;
(b)FLPリコンビナーゼ;
(c)ファージphi(ファイ)13インテグラーゼ;
(d)ファージR4インテグラーゼ;
(e)ファージTP901-1インテグラーゼ;
(f)ファージλ(ラムダ)インテグラーゼ;
(g)ファージHK022インテグラーゼ;
(h)β(ベータ)リコンビナーゼ;
(i)Rリコンビナーゼ;
(j)γδ(ガンマデルタ)レソルバーゼ;
(k)Dreリコンビナーゼ;
(l)ファイRv1インテグラーゼ
(m)Int;
(n)IHF;
(o)Xis;
(p)Fis;
(q)Hin;
(r)Gin;
(s)Cin;
(t)Th3レソルバーゼ;
(u)TndX;
(v)XerC;および
(w)XerD
からなる群から選択される1以上のタンパク質である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記組換え配列が、
(a)loxP;
(b)frt;
(c)attB/attP;
(d)six;
(e)RS;
(f)res;
(g)rox;
(h)psi;
(i)dif;
(j)cer;および
(k)組換えを起こす能力を保持した(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、または(j)の組換え配列の変異体、改変体、または誘導体からなる群から選択される1以上の組換え配列を含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、前記組換え配列がloxP配列である、請求項1214のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記目的遺伝子が、c-Myc遺伝子である、請求項1215のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記発現ベクターが、(a)の融合タンパク質のアミノ酸配列のC末端側に核外移行配列を付加してなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド含む、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
前記(a)の発現ベクターが、(a1)の融合タンパク質のアミノ酸配列のC末端側に核外移行配列を付加してなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド含む、請求項1216のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクターを導入した細胞においてテトラサイクリン系抗生物質の有無によって該細胞内での該目的遺伝子の発現を転写レベルおよびタンパク質レベルで制御するための遺伝子発現制御組成物であって、
(a)前記抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体と組換え酵素との融合タンパク質であって、前記組換え配列部位での組換えを仲介し、前記抗生物質の非存在下では前記細胞内で分解される融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクターであって、前記変異体が、配列番号2の野生型テトラサイクリンリプレッサータンパク質のアミノ酸配列における95位のアスパラギン酸のアスパラギンによる置換、101位のロイシンのセリンによる置換、および102位のグリシンのアスパラギン酸による置換のうちの少なくとも2つの変異を有する、発現ベクター、および
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写制御領域に結合し、該ポリヌクレオチドの転写を増強するタンパク質であって、前記抗生物質の非存在下では前記転写制御領域に結合しないタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター
を含む、組成物。
【請求項20】
インビトロまたはトランスジェニック非ヒト動物においてテトラサイクリン系抗生物質の有無によって細胞内での目的遺伝子の発現を制御するための遺伝子発現制御方法であって、
(a)前記抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体と組換え酵素との融合タンパク質であって、前記組換え配列部位での組換えを仲介し、前記抗生物質の非存在下では前記細胞内で分解される融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクターであって、前記変異体が、配列番号2の野生型テトラサイクリンリプレッサータンパク質のアミノ酸配列における95位のアスパラギン酸のアスパラギンによる置換、101位のロイシンのセリンによる置換、および102位のグリシンのアスパラギン酸による置換のうちの少なくとも2つの変異を有する、発現ベクター
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写制御領域に結合し、該ポリヌクレオチドの転写を増強するタンパク質であって、前記抗生物質の非存在下では前記転写制御領域に結合しないタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(c)目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクター
を、前記細胞内でテトラサイクリン系抗生物質の存在下または非存在下で発現させる工程を含む、方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質による遺伝子の転写制御方法および/またはタンパク質の分解制御方法に関する。特に、本発明は、抗生物質による遺伝子の転写制御およびタンパク質の分解制御を含む二重制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞タンパク質の機能解析等を目的として、外来刺激により制御可能な遺伝子発現系を開発する試みがなされている。
【0003】
特表平11-506901は、1つ以上のtetオペレーターに結合した遺伝子の発現を調節することができる、転写アクチベーターおよび転写インヒビター融合タンパク質を開示する。特表平11-506901に開示される転写アクチベーターによれば、テトラサイクリンの存在時にtetオペレーターに結合してtetオペレーターに結合された遺伝子の転写を刺激するが、不在時には結合等しない(したがって、転写の刺激をしない)、という制御が可能であると報告されている。
【0004】
STANKUNAS K et al.,“Conditional protein alleles usingknockinmice anda chemical inducer of dimerization”,Mol Cell.,2003,Vol.12,No.6,p.1615-24は、FRAP(FKBP12-ラパマイシン結合タンパク質)のFKBP-12ラパマイシン結合のための最小領域である89アミノ酸ドメインであるFRB*と、GSK-3β(内因性のグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β)との融合タンパク質GSK-3βFRB*を開示する。STANKUNAS K et alは、FRB*がGSK-3βの不安定化を引き起こすこと、すなわち、GSK-3βがFRB*と融合することによって不安定化し、分解することを記載する。さらに、STANKUNAS K et alは、GSK-3βFRB*が、ラパマイシン誘導体(C20-MaRap)の存在下で、FKBP12に結合し、この相互作用がGSK-3βFRB*を安定化することを記載する。STANKUNAS K et alのシステムは、専らラパマイシン誘導体を利用することによって、FKB*とFKBP12の2量体化を促進するものとして記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表平11-506901号公報
【0006】

【非特許文献1】STANKUNAS K et al, Conditional protein alleles using knockin mice and a chemical inducer of dimerization., Mol Cell., 2003, Vol. 12, No. 6, p.1615-24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
STANKUNAS K et al記載のシステムでは、(i)標的タンパク質(Target)、(ii)FRB*、(iii)FKBP12、および(iv)ラパマイシン誘導体(C20-MaRap)の4要素を必要とする。すなわち、STANKUNASK et alの2量体化システムにおいては、GSK-3βFRB*融合タンパク質を安定化する要素として、細胞内に元々存在するFKBP12の存在を必要とする。外来の融合タンパク質と細胞内の正常タンパク質とが結合してはじめて分解制御がかかるため、STANKUNASK et al記載のシステムを使用する際には細胞への有害作用の可能性を考慮しながら実験をしなくてはならない。また、STANKUNAS K et alで使用されるラパマイシン誘導体は、臨床での使用例もなく、また免疫制御効果など余分な作用がどう生物に影響するか未知数な部分が多く、実験後の廃棄物に関しても、取り扱いに注意が必要である。
【0008】
したがって、生きた細胞中でのタンパク質量を、人工的分解制御機構を用いてコントロールするための、代替的システムまたはより使いやすいシステムが求められている。
【0009】
他方、本発明者の知見から、特表平11-506901に記載されるような遺伝子の転写制御のシステムにおいても、また、STANKUNASK et alに記載されるようなタンパク質の分解制御のシステムにおいても、生きた細胞中でのタンパク質発現量の制御効果が不十分な場合が生じることがわかっている。そのような場合、導入遺伝子の非誘導時の発現抑制が不十分であるために、細胞毒性を示す遺伝子、細胞の増殖に影響するような遺伝子等の導入が極めて困難であり、遺伝子発現の効果の正確な判定が難しい。
【0010】
したがって、生きた細胞内でのタンパク質の発現の制御をより確実にするためのシステムが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、以下のような目的のタンパク質の発現制御のための発現ベクター、該発現ベクターを導入された宿主細胞もしくは宿主生物、該発現ベクターを含む組成物、キット発現制御システム、および発現制御方法を提供する。
(1)(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体と目的のタンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、および
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写を制御するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、
を発現可能に含む発現ベクターであって、
細胞内での(a)のポリヌクレオチドの転写および(a)のポリヌクレオチドの発現産物である上記融合タンパク質の分解が、細胞内での抗生物質の有無によって制御される、発現ベクター。
(2)上記(b)のポリヌクレオチドが、上記(a)のポリヌクレオチドの転写制御領域に結合して該ポリヌクレオチドの転写を増強するタンパク質をコードし、該タンパク質は、上記抗生物質と結合した場合にのみ該転写制御領域に結合することができる、上記(1)に記載の発現ベクター。
(3)上記(a)のポリヌクレオチドの発現産物である上記融合タンパク質が、上記細胞内で、上記抗生物質と結合していないときに分解される、上記(1)または(2)に記載の発現ベクター。
(4)上記抗生物質が、テトラサイクリン系抗生物質である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の発現ベクター。
(5)上記テトラサイクリン系抗生物質が、テトラサイクリン、またはその誘導体であるドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、もしくは無水テトラサイクリンである、上記(4)に記載の発現ベクター。
(6)上記リプレッサータンパク質の変異体が、変異型TetRタンパク質である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の発現ベクター。
(7)上記変異型TetRタンパク質が、野生型TetRタンパク質のアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を有する、上記(6)に記載の発現ベクター。
(8)上記アミノ酸残基の置換が、野生型TetRタンパク質のアミノ酸配列の95位のアスパラギン酸、101位のロイシン、および102位のグリシンのいずれか少なくとも2つの部位において存在する、上記(7)に記載の発現ベクター。
(9)上記目的のタンパク質が、蛍光タンパク質または発光タンパク質である、上記(1)~(8)のいずれかに記載の発現ベクター。
(10)上記目的のタンパク質が、治療用タンパク質である、上記(1)~(9)のいずれかに記載の発現ベクター。
(11)上記目的のタンパク質が、機能解析に供するためのタンパク質である、上記(1)~(9)のいずれかに記載の発現ベクター。
(12)上記(1)~(11)のいずれかに記載の発現ベクターで遺伝子導入された宿主細胞または宿主生物。
(13)上記(9)に記載の発現ベクターを含有する、細胞内または生体内イメージング用組成物。
(14)上記(10)に記載の発現ベクターを含有する、治療用組成物。
(15)上記(11)に記載の発現ベクターを含有する、タンパク質機能解析用組成物。
(16)テトラサイクリン系抗生物質と組み合わせて使用する、上記(13)~(15)のいずれかに記載の組成物。
(17)上記テトラサイクリン系抗生物質が、テトラサイクリン、またはその誘導体であるドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、もしくは無水テトラサイクリンである、上記(16)に記載の組成物。
(18)上記(1)~(11)のいずれかに記載の発現ベクター、上記(10)に記載の宿主細胞もしくは宿主生物、または上記(11)~(15)のいずれかに記載の組成物を含む、キット。
(19)細胞内での目的のタンパク質の発現を転写レベルおよびタンパク質分解レベルで制御するためのタンパク質発現制御システムであって、
細胞、
上記細胞内に導入される上記(1)~(11)のいずれかに記載の発現ベクター、および
上記細胞内に導入される抗生物質、
を含む、システム。
(20)細胞内での目的のタンパク質の発現を転写レベルおよびタンパク質分解レベルで制御するタンパク質発現制御システムであって、
(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体と目的のタンパク質との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む第1の発現ベクター、および
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写を制御するタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む第2の発現ベクター、
を含み、
上記第1および第2の発現ベクターが導入された細胞内で、(a)のポリヌクレオチドの転写および(a)のポリヌクレオチドの発現産物である上記融合タンパク質の分解が、該細胞内での抗生物質の有無によって制御される、タンパク質発現制御システム。
(21)抗生物質によって、細胞内での目的のタンパク質の発現レベルを制御する方法であって、
上記(1)~(11)のいずれかに記載の発現ベクターを細胞内に導入する工程、および
上記細胞内での抗生物質の濃度を調節することによって、上記目的のタンパク質の発現レベルを調節する工程
を含む、方法。
また、本発明の別の局面では、以下の目的遺伝子発現制御用組成物、キット、システム、および方法が提供される。
(22)目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクターを導入した細胞において、抗生物質の有無によって該細胞内での該目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した遺伝子発現制御組成物であって、
(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクターを含む、組成物。
(23)上記組換え酵素が、
(a)Creリコンビナーゼ;
(b)FLPリコンビナーゼ;
(c)ファージphi(ファイ)13インテグラーゼ;
(d)ファージR4インテグラーゼ;
(e)ファージTP901-1インテグラーゼ;
(f)ファージλ(ラムダ)インテグラーゼ;
(g)ファージHK022インテグラーゼ;
(h)β(ベータ)リコンビナーゼ;
(i)Rリコンビナーゼ;
(j)γδ(ガンマデルタ)レソルバーゼ;
(k)Dreリコンビナーゼ;および
(l)ファイRv1インテグラーゼ
からなる群から選択される1以上のタンパク質である、上記(22)に記載の組成物。
(23a)上記組換え酵素が、
(a)Int;
(b)IHF;
(c)Xis;
(d)Fis;
(e)Hin;
(f)Gin;
(g)Cin;
(h)Th3レソルバーゼ;
(i)TndX;
(j)XerC;および
(k)XerD
からなる群から選択される1以上のタンパク質である、上記(22)に記載の組成物。
(24)上記組換え配列が、
(a)loxP;
(b)frt(Fkp recombination target);
(c)attB/attP;
(d)six;
(e)RS;
(f)res;
(g)rox;および
(h)組換えを起こす能力を保持した(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、または(g)の組換え部位の変異体、改変体、および誘導体からなる群から選択される1以上の組換え配列を含む、上記(22)または(23)に記載の組成物。
(24a)上記組換え配列が、
(a)psi;
(b)dif;
(c)cer;
(d)frt;
(e)att;および
(f)組換えを起こす能力を保持した(a)、(b)、(c)、(d)、または(e)の組換え部位の変異体、改変体、および誘導体からなる群より選択される1以上の組換え配列を含む、上記(22)または(23a)に記載の組成物。
(25)上記組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、上記組換え配列がloxP配列である、上記(22)~(24)のいずれかに記載の組成物。
(26)上記目的遺伝子が、転写因子である、上記(22)~(25)のいずれかに記載の組成物。
(26a)上記転写因子が、Oct3/4、Klf4、Sox2、またはc-Myc遺伝子のいずれかである、上記(26)に記載の組成物。
(27)上記(b)のポリヌクレオチドが、上記(a)のポリヌクレオチドの転写制御領域に結合して該ポリヌクレオチドの転写を増強するタンパク質をコードし、該タンパク質は、上記抗生物質と結合した場合にのみ該転写制御領域に結合することができる、上記(22)~(26)のいずれかに記載の組成物。
(28)上記(a)のポリヌクレオチドの発現産物である上記融合タンパク質が、上記細胞内で、上記抗生物質と結合していないときに分解される、上記(22)~(27)のいずれかに記載の組成物。
(29)上記抗生物質が、テトラサイクリン系抗生物質である、上記(22)~(28)のいずれかに記載の組成物。
(30)上記テトラサイクリン系抗生物質が、テトラサイクリン、またはその誘導体であるドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、もしくは無水テトラサイクリンである、上記(29)に記載の組成物。
(31)上記リプレッサータンパク質の変異体が、テトラサイクリンリプレッサータンパク質の変異体である、上記(22)~(30)のいずれかに記載の組成物。
(32)上記テトラサイクリンリプレッサータンパク質の変異体が、野生型テトラサイクリンリプレッサータンパク質のアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を有する、上記(31)に記載の組成物。
(33)上記アミノ酸残基の置換が、野生型テトラサイクリンリプレッサータンパク質のアミノ酸配列の95位のアスパラギン酸、101位のロイシン、および102位のグリシンのいずれか少なくとも2つの部位において存在する、上記(32)に記載の組成物。
(34)目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクターを導入した細胞において、抗生物質の有無によって該細胞内での該目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した遺伝子発現制御キットであって、
(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクターを含む、キット。
(35)上記組換え酵素が、
(a)Creリコンビナーゼ;
(b)FLPリコンビナーゼ;
(c)ファージphi(ファイ)13インテグラーゼ;
(d)ファージR4インテグラーゼ;
(e)ファージTP901-1インテグラーゼ;
(f)ファージλ(ラムダ)インテグラーゼ;
(g)ファージHK022インテグラーゼ;
(h)β(ベータ)リコンビナーゼ;
(i)Rリコンビナーゼ;
(j)γδ(ガンマデルタ)レソルバーゼ;
(k)Dreリコンビナーゼ;
(l)ファイRv1インテグラーゼ;
(m)Int;
(n)IHF;
(o)Xis;
(p)Fis;
(q)Hin;
(r)Gin;
(s)Cin;
(t)Th3レソルバーゼ;
(u)TndX;
(v)XerC;および
(w)XerD
からなる群から選択される1以上のタンパク質である、上記(34)に記載のキット。
(36)上記組換え配列が、
(a)loxP;
(b)frt;
(c)attB/attP;
(d)six;
(e)RS;
(f)res;
(g)rox;
(h)psi;
(i)dif;
(j)cer;および
(k)組換えを起こす能力を保持した(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、または(j)の組換え配列の変異体、改変体、または誘導体からなる群から選択される1以上の組換え配列を含む、上記(34)または(35)に記載のキット。
(37)上記組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、上記組換え配列がloxP配列である、上記(34)~(36)のいずれかに記載のキット。
(38)上記目的遺伝子が、転写因子である、上記(34)~(37)のいずれかに記載のキット。
(38a)上記転写因子が、Oct3/4、Klf4、Sox2、またはc-Myc遺伝子のいずれかである、上記(38)に記載のキット。
(39)抗生物質の有無によって細胞内での目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した遺伝子発現制御システムであって、
(a)細胞
(b)上記細胞内に導入される、抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、
(c)上記細胞内に導入される、(b)のポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、
(d)上記細胞内に導入される、目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(e)上記細胞内に導入される抗生物質
を含み、
細胞内での(b)のポリヌクレオチドの転写および(b)のポリヌクレオチドの発現産物である上記融合タンパク質の分解が抗生物質の有無によって制御され、上記目的遺伝子の発現が上記融合タンパク質の発現量によって制御される、発現制御システム。
(40)上記組換え酵素が、
(a)Creリコンビナーゼ;
(b)FLPリコンビナーゼ;
(c)ファージphi(ファイ)13インテグラーゼ;
(d)ファージR4インテグラーゼ;
(e)ファージTP901-1インテグラーゼ;
(f)ファージλ(ラムダ)インテグラーゼ;
(g)ファージHK022インテグラーゼ;
(h)β(ベータ)リコンビナーゼ;
(i)Rリコンビナーゼ;
(j)γδ(ガンマデルタ)レソルバーゼ;
(k)Dreリコンビナーゼ;
(l)ファイRv1インテグラーゼ;
(m)Int;
(n)IHF;
(o)Xis;
(p)Fis;
(q)Hin;
(r)Gin;
(s)Cin;
(t)Th3レソルバーゼ;
(u)TndX;
(v)XerC;および
(w)XerD
からなる群から選択される1以上のタンパク質である、上記(39)に記載のシステム。
(41)上記組換え配列が、
(a)loxP;
(b)frt;
(c)attB/attP;
(d)six;
(e)RS;
(f)res;
(g)rox;
(h)psi;
(i)dif;
(j)cer;
および
(k)組換えを起こす能力を保持した(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(または(j)の組換え配列の変異体、改変体、または誘導体からなる群から選択される1以上の組換え配列を含む、上記(39)または(40)に記載のシステム。
(42)上記組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、上記組換え配列がloxP配列である、上記(39)~(41)のいずれかに記載のシステム。
(43)上記目的遺伝子が、転写因子である、上記(39)~(42)のいずれかに記載のシステム。
(43a)上記転写因子が、Oct3/4、Klf4、Sox2、またはc-Myc遺伝子のいずれかである、上記(43)に記載のシステム。
(44)抗生物質の有無によって細胞内での目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した遺伝子発現制御方法であって、
(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(c)目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクター
を、上記細胞内で抗生物質の存在下または非存在下で発現させる工程を含む、方法。
(45)上記組換え酵素が、
(a)Creリコンビナーゼ;
(b)FLPリコンビナーゼ;
(c)ファージphi(ファイ)13インテグラーゼ;
(d)ファージR4インテグラーゼ;
(e)ファージTP901-1インテグラーゼ;
(f)ファージλ(ラムダ)インテグラーゼ;
(g)ファージHK022インテグラーゼ;
(h)β(ベータ)リコンビナーゼ;
(i)Rリコンビナーゼ;
(j)γδ(ガンマデルタ)レソルバーゼ;
(k)Dreリコンビナーゼ;
(l)ファイRv1インテグラーゼ;
(m)Int;
(n)IHF;
(o)Xis;
(p)Fis;
(q)Hin;
(r)Gin;
(s)Cin;
(t)Th3レソルバーゼ;
(u)TndX;
(v)XerC;および
(w)XerD
からなる群から選択される1以上のタンパク質である、上記(44)に記載の方法。
(46)上記組換え配列が、
(a)loxP;
(b)frt;
(c)attB/attP;
(d)six;
(e)RS;
(f)res;
(g)rox;
(h)psi;
(i)dif;
(j)cer;
および
(m)組換えを起こす能力を保持した(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、または(j)の組換え配列の変異体、改変体、または誘導体からなる群から選択される1以上の組換え配列を含む、上記(44)または(45)に記載の方法。
(47)上記組換え酵素がCreリコンビナーゼであり、上記組換え配列がloxP配列である、上記(44)~(46)のいずれかに記載の方法。
(48)上記目的遺伝子が、転写因子である、上記(44)~(47)のいずれかに記載の方法。
(48a)上記転写因子が、Oct3/4、Klf4、Sox2、またはc-Myc遺伝子のいずれかである、上記(48)に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡単な分子システムを用いて、目的のタンパク質の機能解析、イメージングによる薬物の動態解析、副作用の少ない疾患の治療等を行うことができる。
【0013】
本発明において使用するテトラサイクリン系抗生物質(本明細書中、「Tet」と略すことがある。)は、例えば、STANKUNASK et alで使用されるラパマイシンに比較して、非常に安価であり、また動物に用いた際の吸収や体内での浸透が良く、安全性も高いという利点を有する。本発明において使用するテトラサイクリン系抗生物質は、マウスでの投与実験例も非常に多く、またすでに臨床の現場で多く使用されている薬物であり、安全性について確認がなされている点で有利である。
【0014】
本発明のタンパク質分解制御法によれば、細胞へ外部から導入する融合タンパク質以外のタンパク質(例えば、細胞内に元々存在するタンパク質)を使用しないため、細胞への余分な影響を排除することができる。
【0015】
さらに、本発明の遺伝子転写およびタンパク質分解の二重制御法によれば、転写段階での制御とタンパク質分解の制御が、1種類の薬剤の添加によって簡便に同時に実現可能になる。それによって、非誘導時のタンパク質発現をほぼ完全に抑制し、タンパク質発現の厳密な制御が可能となる。またこの効果によって、非誘導時に比べて誘導時のタンパク質発現誘導効率は数百倍となり、転写制御のみまたはタンパク質分解制御のみの場合に数十倍の誘導効率であることと比べて格段に改善される。
【0016】
本発明の遺伝子転写制御およびタンパク質分解制御の組み合わせ(二重制御法)によれば、抗生物質による遺伝子転写制御のみまたはタンパク質分解制御のみでは十分に厳密な発現コントロールが難しい場合でも、きわめて厳密な遺伝子発現制御が実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、(A)TetR-EGFPをコードするcDNAの模式図;および(B~D)野生型TetR-EGFPおよび変異TetR-EGFPの安定性をフローサイトメーターを用いて試験した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、変異型TetR-EGFPを発現させた細胞をドキシサイクリンの存在下で培養した場合の蛍光変化を示す写真である。(A)28位アルギニンの置換無し。(B)28位のアルギニンをグルタミンに置換したもの。
【図3】図3は、様々な濃度のドキシサイクリンを添加して、変異型TetR-EGFPを発現させた細胞の蛍光強度をフローサイトメーターで解析した結果を示すグラフである。
【図4】図4は、(A)変異型TetR-EGFPを発現する細胞のドキシサイクリン添加後の蛍光強度の変化を、単にEGFPを発現するのみの細胞と比較して示すグラフである。(B)変異型TetR-EGFPを発現する細胞のドキシサイクリン除去後の蛍光強度の変化を、単にEGFPを発現するのみの細胞と比較して示すグラフである。
【図5】図5は、変異型TetR-EGFPおよびDsRedの遺伝子を組み込んだベクターを注射して発現させたマウスにおける蛍光を、倒立顕微鏡を用いて時間経過に伴い観察した結果を示す写真である。
【図6】図6は、図5の実験における蛍光強度の時間変化を示すグラフである。
【図7】図7は、変異型TetR-EGFPをコードするmRNAをゼブラフィッシュの受精卵に注入して、ドキシサイクリンの存在下または非存在下で、倒立顕微鏡を用いて蛍光を観察した結果を示す写真である。(A)処理なし、ドキシサイクリンなしの細胞;(B)処理無しの細胞にドキシサイクリンを添加した細胞;(C)変異型TetR-EGFPをコードするmRNAを導入し、ドキシサイクリンを添加した細胞。
【図8】図8は、本発明のシステムを用いて遺伝子の転写および/またはタンパク質分解を制御した場合の細胞内タンパク質量の制御効果を示すグラフである。
【図9】図9は、細胞中でのドキシサイクリンのみによる毒素遺伝子の転写の制御と、本発明のタンパク質分解制御方法を利用した毒素遺伝子の発現制御との間で、ドキシサイクリンの存在下および非存在下で、生細胞数を比較した結果を示すグラフである。
【図10】図10は、組換えレポーターベクターpEB6CAG-Venus-lox-R1を示す模式図である。
【図11】図11は、組換えレポーターベクターpEB6CAG-Venus-lox-R1を用いた遺伝子発現およびタンパク質分解の二重制御による細胞内Creタンパク質量の制御効果を示す図である。
【図12】図12は、抗生物質により細胞内でのタンパク質量の制御(タンパク質分解の制御)を行う場合に使用する代表的な発現ベクターの模式図である。目的のタンパク質としてEGFPを使用する場合を示す。
【図13】図13は、抗生物質により細胞内でのタンパク質量の制御(タンパク質分解の制御)を行う場合に使用する代表的な発現ベクターの別の例を示す模式図である。目的のタンパク質として任意のものを使用できるようにmcsが挿入されている。
【図14】図14は、抗生物質により遺伝子の転写レベルおよびタンパク質の分解レベルの両方での制御(二重制御)を行う場合に使用する、代表的な発現ベクターの模式図である。目的のタンパク質挿入部位をmcsとしてある。
【図15】図15は、抗生物質により遺伝子の転写レベルおよびタンパク質の分解レベルの両方での制御(二重制御)を行う場合に使用する、代表的な発現ベクターの模式図である。目的のタンパク質としてEGFPを使用する態様を示す。
【図16】図16は、本発明の抗生物質によるタンパク質の転写・分解制御(二重制御)システムの原理を説明する模式図である。
【図17】図17は、抗生物質によるタンパク質分解制御のみ、または抗生物質による転写制御のみでCreタンパク質の発現調節を行う場合と、抗生物質によるタンパク質分解制御および転写制御の両方(二重制御)でCreタンパク質の発現調節を行う場合との間での制御効率の比較(または細胞数および蛍光強度の比較)を示すグラフである。
【図18】図18は、本発明のタンパク質のTetによる転写・分解二重制御系の制御効率の、抗生物質濃度依存性を示すグラフである。
【図19】図19は、組換え効率を改善したTet二重制御ベクターのCre発現解析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.本発明の融合タンパク質
本発明は、1つの実施形態において、抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質およびそれに融合した目的のタンパク質を含む融合タンパク質を提供する。ここで、上記変異タンパク質は、細胞内で、上記抗生物質と結合していない場合は分解されるが、上記抗生物質と結合している場合には安定化され、上記融合タンパク質は、細胞内で、上記抗生物質と結合していない場合は分解されるが、上記抗生物質と結合している場合には安定化される。より具体的には、本発明は、大腸菌由来テトラサイクリンリプレッサータンパク質(TetRタンパク質)に点変異を導入した変異タンパク質を提供する。より詳細には、TetRタンパク質に点変異を導入した変異タンパク質とそれに融合した目的のタンパク質を含む融合タンパク質が提供される。

【0019】
本明細書中、「抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質」とは、抗生物質に結合するタンパク質のアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基が置換、欠失、付加、または挿入されているアミノ酸配列を有し、該抗生物質の非存在下では不安定化してプロテアーゼによる分解を受けるが、該抗生物質と結合すると安定化して分解を免れるようになる該タンパク質の変異体のことをいうものとする。

【0020】
「抗生物質」の例としては、テトラサイクリン系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、クロラムフェニコール系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質などが挙げられる。またそのような抗生物質に結合する「タンパク質」の例としては、該抗生物質のリプレッサータンパク質、β-ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、アミノグリコシド3’-ホスホトランスフェラーゼなどが挙げられる。本発明の好ましい実施形態では、上記抗生物質がテトラサイクリン系抗生物質、上記抗生物質に結合するタンパク質が上記抗生物質のリプレッサータンパク質である。

【0021】
好ましくは、上記リプレッサータンパク質は、TetRタンパク質であり、前記変異タンパク質は、変異型TetRタンパク質である。したがって、本発明は1つの好ましい実施形態において、変異型TetRタンパク質およびそれに融合した目的のタンパク質を含む、融合タンパク質を提供する。

【0022】
本明細書中、「TetRタンパク質」または「野生型TetRタンパク質」とは、GenBankGeneID:2653970のDNAによってコードされる大腸菌由来テトラサイクリンリプレッサータンパク質(NCBIタンパク質データベースアクセッション番号:NP_941292(配列番号2);CDS:NC_005211(配列番号1))のことをいう。

【0023】
本明細書中、「変異型TetRタンパク質」とは、上記TetRタンパク質のアミノ酸配列において、少なくとも1つのアミノ酸残基が置換、欠失、付加、または挿入されているアミノ酸配列を有し、テトラサイクリン系抗生物質の非存在下では不安定化してプロテアーゼによる分解を受けるが、テトラサイクリン系抗生物質と結合すると安定化して分解を免れるようになるTetRタンパク質の変異体のことをいうものとする。

【0024】
好ましくは、上記変異型TetRタンパク質は、野生型TetRタンパク質のアミノ酸配列において、少なくとも2つのアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を有する。さらに好ましくは、上記アミノ酸残基の置換は、野生型TetRタンパク質のアミノ酸配列の95位のアスパラギン酸、101位のロイシン、および102位のグリシンのいずれか少なくとも2つの部位において存在する。最も好ましくは、前記変異型TetRタンパク質は、野生型TetRタンパク質のアミノ酸配列において、95位のアスパラギン酸がアスパラギンに、101位のロイシンがセリンに、および102位のグリシンがアスパラギン酸に置換される変異のうちのいずれか少なくとも2つ、もしくは上記3つ全ての変異を有するアミノ酸配列を有する。変異型TetRタンパク質のアミノ酸配列の変異の形態は、野生型TetRタンパク質からのアミノ酸残基の置換のみならず、1つ以上のアミノ酸残基の欠失、付加、および/または挿入であってもよい。また、そのような変異を有するアミノ酸の位置は、上記で例示したものに限定されない。

【0025】
本発明の融合タンパク質において、「目的のタンパク質」とは、(1)蛍光タンパク質または発光タンパク質;(2)治療用タンパク質;(3)機能解析に供するためのタンパク質、(4)組換え酵素のような、そのタンパク質の分解(または安定性もしくは活性)を、変異型TetRタンパク質およびTetを利用して制御することによって産業上有用な効果の得られるタンパク質のことをいうものとする。目的のタンパク質が公知のタンパク質であるような場合には、通常、それをコードする遺伝子のヌクレオチド配列は、公に利用可能な種々の配列データベース(例えば、GenBankデータベース)から入手することができる。また、目的のタンパク質のアミノ酸配列もしくはそれをコードするヌクレオチドレセプター配列が未知の場合は、当業者に周知の配列決定方法を用いて、該タンパク質のアミノ酸配列およびそれをコードするヌクレオチド配列を決定することができる(例えば、Sambrook& Russell、MolecularCloning;A Laboratory Manual,Third Edition,2001,ColdSpring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,New Yorkなどを参照)。

【0026】
本発明の融合タンパク質は、当該分野での常法に従って作製され得る。簡単には、目的のタンパク質をコードするcDNAに、変異型TetRタンパク質をコードするcDNAを連結させ、該目的のタンパク質と変異型TetRタンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを構築し、このDNAを、例えば、真核生物用の発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを真核生物へ導入することにより発現させることができる(例えば、上記Sambrook& Russellを参照)。

【0027】
本発明の実施形態において使用される「蛍光タンパク質」の例としては、緑色蛍光タンパク質(GreenFluorescent Protein(GFP))、強化(Enhanced)緑色蛍光タンパク質(EGFP)、シアン蛍光タンパク質(CyanFluorescent Protein)(CFP))、強化シアン蛍光タンパク質(ECFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、強化黄色蛍光タンパク質(EYFP)、赤色蛍光タンパク質DsRedおよびその変異体(DsRed2、DsRed-express、タイマー(Timer)、mRFP1とその変異体など)、AmCyan、ZsGreen、ZsYellow、AsRed、HcRed、KusabiraOrange、Kaede、AzamiGreenなどが挙げられる。

【0028】
本発明の実施形態において使用される「発光タンパク質」の例としては、ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、クラゲエクオリンなどが挙げられる。これらの蛍光タンパク質または発光タンパク質は、当業者に周知の供給業者(例えば、ClontechやPromegaなど)により市販されている。

【0029】
本明細書中、「治療用タンパク質(therapeutic protein)」とは、疾患の予防および/または治療に有効なタンパク質をいい、例えば、免疫を担う細胞を活性化するサイトカイン(例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球-マクロファージ-コロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、ヒトインターロイキン12等)などが挙げられる。また、癌細胞などを直接殺傷するために、リシンやジフテリア毒素などの毒素やヘルペスウイルスチミジンキナーゼを抗ウイルス剤ガンシクロビルと組み合わせて用いることもできる。また、抗体なども用いることができる。例えば、抗体との融合タンパク質については、抗体または抗体断片をコードするcDNAに変異型TetRタンパク質をコードするcDNAを連結させ、抗体と変異型TetRタンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを構築し、このDNAを、例えば、真核生物用の発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを真核生物へ導入することにより発現させることができる。あるいは、生体組織中の特定の抗原に対して部位特異的な治療用タンパク質の送達を行うために、該抗原に対する抗体と、治療用タンパク質と、変異型TetRタンパク質との融合タンパク質をコードするDNAを構築し、このDNAを、例えば、真核生物の発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを真核生物へ導入して発現させることもできる。あるいは、そのような融合タンパク質をエキソビボで作製した後、生体内へ導入してもよい。

【0030】
また、本発明の別の実施形態において使用される「機能解析に供するためのタンパク質」の例としては、タンパク質キナーゼ、転写因子などが挙げられる。タンパク質キナーゼの例としては、例えば、MAPKファミリーキナーゼ、PKCファミリーキナーゼ、PKAファミリーキナーゼ、Srcファミリーキナーゼ、Jakファミリーキナーゼ、Ablファミリーキナーゼ、IKKファミリーキナーゼなどが挙げられる。転写因子の例としては、RUNXファミリー、STATファミリー、核内受容体、ロイシンジッパーファミリー、NF-κBファミリーなどがある。

【0031】
上記本発明の融合タンパク質は、テトラサイクリン系抗生物質の非存在下では、不安定であるが、テトラサイクリン系抗生物質と結合すると安定化する。したがって、本発明の融合タンパク質によって、目的のタンパク質の分解の制御がテトラサイクリン系抗生物質の濃度によって可能となるため、本発明の融合タンパク質は、蛍光または発光タンパク質を用いた生体内イメージング、治療用タンパク質の作用の制御、タンパク質の生体内での機能解析等のために用いることができる。

【0032】
本発明において使用される「テトラサイクリン系抗生物質(Tet)」としては、本発明の変異型TetRタンパク質に結合して、その構造を安定化し、タンパク質分解酵素による分解を抑制するものであれば、特に限定されないが、例えば、テトラサイクリンおよびその誘導体であるドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、または無水テトラサイクリンが挙げられる。

【0033】
2.本発明の遺伝子発現調節およびタンパク質分解調節を含む二重制御システムによる目的遺伝子の発現調節
本発明の別の局面では、抗生物質の有無によって細胞内での目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した目的遺伝子の発現制御システム、組成物、キット、および方法が提供される。

【0034】
1つの実施形態では、本発明は、目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクターを導入した細胞において、抗生物質の有無によって該細胞内での該目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した発現制御組成物が提供する。この組成物は、

【0035】
(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、ならびに

【0036】
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクターを含む。ここで、細胞内での(a)のポリヌクレオチドの転写および(a)のポリヌクレオチドの発現産物である上記融合タンパク質の分解は抗生物質の有無によって制御される。また、目的遺伝子の発現は上記融合タンパク質の発現量によって制御される。

【0037】
本発明の別の実施形態では、目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクターを導入した細胞において、抗生物質の有無によって該細胞内での該目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した発現制御キットが提供される。このキットは、
(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクターを含む。ここで、細胞内での(a)のポリヌクレオチドの転写および(a)のポリヌクレオチドの発現産物である前記融合タンパク質の分解は抗生物質の有無によって制御される。また、目的遺伝子の発現は、上記融合タンパク質の発現量によって制御される。

【0038】
本発明のさらに別の実施形態では、抗生物質の有無によって細胞内での目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した発現制御システムが提供される。このシステムは、
(a)細胞
(b)前記細胞内に導入される、抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、
(c)前記細胞内に導入される、(b)のポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、
(d)前記細胞内に導入される、目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(e)前記細胞内に導入される抗生物質
を含み、細胞内での(b)のポリヌクレオチドの転写および(b)のポリヌクレオチドの発現産物である前記融合タンパク質の分解は抗生物質の有無によって制御され、上記目的遺伝子の発現は上記融合タンパク質の発現量によって制御される。

【0039】
本発明のなおさらなる実施形態では、抗生物質の有無によって細胞内での目的遺伝子の発現を制御するための、部位特異的組換え酵素を利用した方法が提供される。この方法は、
(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、
(b)(a)のポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、ならびに
(c)目的遺伝子を組換え配列の間および/または下流に発現可能に含む発現ベクター
を、前記細胞内で抗生物質の存在下または非存在下で発現させる工程を含む。ここで、細胞内での(a)のポリヌクレオチドの転写および(a)のポリヌクレオチドの発現産物である前記融合タンパク質の分解は、抗生物質の有無によって制御される。また、目的遺伝子の発現は、上記融合タンパク質の発現量によって制御される。

【0040】
本発明において使用される「組換え酵素」は、特定の複数のDNA配列(組換え配列)の間の部位特異的な組換えを仲介する組換え酵素のことをいう。本発明において使用される「組換え酵素」および「組換え配列」の例には、Garcia-Otin& Guillou,“Mammalian genometargeting using site-specific recombinases”,Frontiers in Bioscience 11,1108-1136,January 1,2006、およびWO2001/042509(特表2004-500061)(これらの文献は全て、具体的に、本明細書中で参考として援用される)に記載される組換え酵素/組換え配列が挙げられる。なかでも代表的な組換え酵素/組換え配列の例としては、Creリコンビナーゼ/loxP配列が挙げられる。

【0041】
loxP(locus of crosscover()in 1)は、34塩基対(bp)にわたる配列であり、8bpの非対称的中央配列(これはloxP要素の方向を決める)およびこれに隣接する2つの13bpのパリンドローム配列からなる。Creリコンビナーゼ(本明細書中、単に「Cre」と略すことがある。)はP1バクテリオファージの複製サイクルにおいてリゾルバーゼ(resolvase)として重要な働きをし、ファージの複製したゲノムを切断、再結合して2つの類似の粒子にする。Creリコンビナーゼは343アミノ酸(aa)/38kDaのタンパク質であり、補因子を必要としない4量体の複合体として機能する。Creは2つのloxP部位(配列)を、それらが同じDNA鎖に配置されている場合および異なるDNA鎖に配置されている場合のいずれにおいても、組み換えることができる。2つのloxP配列が同じDNA鎖上にある場合、それらが同じ方向を向いている場合は、2つのloxP配列間にあるDNAセグメントを切り出す反応が起こる。切り出された部分は環状の粒子となり、loxP配列はそれぞれのDNA部分に残る(例えば、図10を参照)。

【0042】
このような部位特異的組換え酵素および組換え配列を、本発明の抗生物質による細胞内での目的のタンパク質の発現を制御する方法と組み合わせて使用することによって、目的遺伝子の発現の制御を行うことができる。すなわち、(c)2つの組換え配列(例:loxP)の間および/または下流に目的遺伝子のDNAセグメントを発現可能に担持する発現ベクター、(a)抗生物質に結合するリプレッサータンパク質の変異体および組換え酵素(例:Creリコンビナーゼ)との融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現可能に含む発現ベクター、ならびに(b)該融合タンパク質をコードするするポリヌクレオチドの転写を制御するためのタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例:人工転写因子rtTA)を発現可能に含む発現ベクターを細胞内に導入して発現させ、抗生物質の存在/非存在(または濃度)によって、目的遺伝子の発現を制御することが可能である。ここで、ベクター上の目的遺伝子は1つに限らず、複数存在してもよい。例えば、2つの組換え配列の間に第一の目的遺伝子、2つの組換え遺伝子の下流の第二の目的遺伝子を連結して使用することも可能であることは当業者ならば理解できるはずである。

【0043】
このような本発明の遺伝子発現制御系によれば、例えば、Cre/loxP系を用いて、Creリコンビナーゼの発現を抗生物質(例:ドキシサイクリン)の有無(または濃度)により制御することができ、さらにCreリコンビナーゼの有無により、目的遺伝子の発現を制御することができる。より具体的には、抗生物質の非存在下では、Creリコンビナーゼの発現が転写レベルおよびタンパク質レベルで抑制されるため、Creリコンビナーゼの作用によるloxP間の遺伝子セグメントの切り出しも起こらず、目的遺伝子の発現が維持される。他方、抗生物質の存在下では、Creリコンビナーゼと変異型TetRの融合蛋白質の発現が転写レベルでもタンパク質レベルでも抑制されないため、発現産物である融合蛋白質(Creリコンビナーゼ+変異型TetR)のCreの作用によりloxP間に挟まれた目的遺伝子セグメントが切り出されるため、この目的遺伝子の発現が抑制される。また、例えば、ここで第二の目的遺伝子が2つのloxP配列の下流に連結されていれば、loxP間の目的遺伝子が切り出された後に、第二の目的遺伝子の発現が起こるようにすることができる。

【0044】
例えば、目的遺伝子として、Oct3/4、Klf4、Sox2、および/またはc-Myc遺伝子を使用することができる。Oct3/4、Klf4、Sox2、およびc-Myc遺伝子は、皮膚細胞のiPS細胞(inducedpluripotent stemcells)化に必要とされるが、iPS化後細胞の癌化を引き起こすことが問題となっていることが知られている。本発明の目的遺伝子発現制御方法によれば、細胞のiPS化に必要とされる間は、上記遺伝子を抗生物質の非存在下で発現させておき、iPS細胞を分化させて必要でなくなったときには、細胞の癌化の原因となる上記遺伝子の発現を抗生物質の存在下で抑制するというような遺伝子発現制御が可能となる。ここで、本発明において使用される「目的遺伝子」には、その発現の制御を必要とされる任意の遺伝子が含まれ、Oct3/4、Klf4、Sox2、およびc-Myc遺伝子の他に、例えば、細胞の分化や組織特異的な機能に関わることが知られている様々な転写因子群、例えばホメオボックス遺伝子群のHox遺伝子群や非Hox遺伝子群、フォークヘッド遺伝子群、Tボックス遺伝子群、ポリコーム遺伝子群、トリソラックス遺伝子群、GATA遺伝子群、Maf遺伝子群、Hes遺伝子群や、細胞のストレス応答に関与する転写因子、ATF-2、Nrf2、HSF1、HIFなど、あるいは、細胞内のシグナル伝達に関与するキナーゼであるセリンスレオニンキナーゼ群のMAPキナーゼ、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、プロテインキナーゼD、プロテインキナーゼGなどや、チロシンキナーゼ群のSrcキナーゼ群、受容体キナーゼ群等も使用可能であることは当業者には理解できるはずである。

【0045】
本発明によるタンパク質の転写および発現の二重制御系とともに使用し得る、Creリコンビナーゼ/loxP系以外の組換え酵素/組換え配列(部位)系の例としては、例えば、Flpリコンビナーゼ/frt(Fkprecombination target)部位、ファージphi13インテグラーゼ/att部位、ファージR4インテグラーゼ/att部位、ファージTP901-1インテグラーゼ/att部位、ファージラムダインテグラーゼ/att部位、ファージHK022/att部位、ベータリコンビナーゼ/six部位、ガンマデルタレソルバーゼ/res部位、Dreリコンビナーゼ/rox部位、ファイRv1インテグラーゼ/att部位等が挙げられる(Garcia-Otin& Guillou(前出))。

【0046】
さらなる組換え酵素の例としては、ラムダIntタンパク質、IHF、Xis、Fis、Hin、Gin、Cin、Th3レソルバーゼ、TndX、XerC、およびXerDが含まれる。組換え配列(部位)としては、loxP部位、frt部位、att部位、six部位、res部位、rox部位、psi部位、dif部位、およびcer部位が含まれる(WO2001/042509(特表2004-500061))。

【0047】
本発明の遺伝子発現調節およびタンパク質分解調節を含む二重制御システムによる、部位特異的組換え酵素を利用した目的遺伝子の発現制御システム、組成物、キット、または方法の好ましい実施形態では、組換え効率を上げるために、組換え酵素をコードするDNAセグメントのC末端側に核外移行配列(NES)を付加してもよい(実施例8を参照)。

【0048】
3.本発明のポリヌクレオチド、発現ベクターおよびそれを用いて遺伝子導入された宿主
本発明は、別の実施形態において、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。さらに、本発明は、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを提供する。好ましくは、本発明の発現ベクターは、以下の(a)~(c)の構成要素を含む発現カセットを含む:
(a)宿主細胞内で転写可能なプロモーター
(b)該プロモーターに結合した、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド;及び
(c)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、宿主細胞で機能するシグナル。

【0049】
プロモーターおよび転写終結シグナル(ターミネーター)としては、上記発現カセットを導入する宿主に応じて、遺伝子発現の効率を増大させるように適切な組み合わせを使用する。当業者は、そのような適切な組み合わせを選択することができる。このような発現ベクターの非限定的な例としては、ヒト細胞中で安定に複製および維持される本願の実施例において使用した発現ベクターpEB6CAGが挙げられ、これは、プロモーターとしてCAGプロモーター、融合タンパク質として変異型TetR-EGFP、および転写終結シグナル配列としてSV40polyA配列を含んでいる。

【0050】
本発明の発現ベクターは、上記の発現カセットの他に、他の構成要素を含んでいても良い。そのような他の構成要素の非限定的な例としては、本明細書の実施例で使用したような、変異型TetR—EGFPとSV40polyAの間に挿入された、IRES配列およびその下流のDsRedのタンデムダイマーのような蛍光タンパク質を発現することができるcDNAが挙げられる。

【0051】
その他、細胞または生体内での本発明の融合タンパク質の発現のために使用し得る発現ユニットまたは発現ベクターとしては、例えば、プラスミドpcDNA3(Invitrogen)、プラスミドAH5、pRC/CMV(Invitrogen)、pCAGGS、pCXN2、pME18S、pEF-BOS等で見出される発現ユニットなどを使用することができる。発現ユニットおよび/またはベクターへの遺伝子の導入は、例えば、MolecularCloning & Current Protocols inMolecular Biology(Sambrook,J.ら、MolecularCloning,Cold SpringHarbor Press(1989);Ausbel.F.M.ら、CurrentProtocols in Molecular Biology、Green Publishing Associates and Wiley-Interscience(1989)のような説明書に記載されるような遺伝子操作技術を使用して達成され得る。生じる発現可能なポリヌクレオチドは、発現可能な形態で(例えば、裸のプラスミドもしくは他のDNAとして、標的化リポソームにおいて、またはウイルスベクターの一部として)、ポリヌクレオチドを細胞へ配置し得る任意の方法によって被験体(例えば、ヒト被験体)の細胞へ導入され得る。遺伝子導入の方法には、組織または患部(例えば、腫瘍)への直接注射、リポソームによるトランスフェクション(Fraleyら、Nature370:111-117(1980))、レセプター媒介エンドサイトーシス(Zatloukalら、Ann.N.Y.Acad.Sci.660:136-153(1992))、およびパーティクルボンバードメント媒介遺伝子移入(Eisenbraunら、DNA& Cell.Biol.12:791-797(1993))などが含まれる。

【0052】
本発明の一つの実施形態に従う、細胞内での目的のタンパク質の分解制御のために使用する発現ベクターの代表的な例を図12および図13に示す。図12は、目的のタンパク質としてEGFPを使用する態様である。図13は、目的のタンパク質としてその他任意のタンパク質(例えば、治療用タンパク質、機能解析に供するためのタンパク質)の遺伝子を挿入したい場合に使用するもので、EGFP遺伝子の代わりにマルチクローニングサイト(mcs)が挿入されている。

【0053】
本発明は、さらに別の実施形態において、上記発現ベクターに本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写の制御を可能にするポリヌクレオチドをさらに組み込んだ、発現ベクターを提供する。このような発現ベクターによれば、抗生物質によるタンパク質分解の制御に加えて、遺伝子の転写の制御も同時に可能となる(細胞内でのタンパク質発現の二重制御)。

【0054】
本発明の一つの実施形態において抗生物質により遺伝子の転写レベルおよびタンパク質の分解レベルの両方での制御(二重制御)を行う場合に使用する、代表的な発現ベクターの模式図を図14示す。このベクターの構造は、大きく4つのユニットから構成される。
(1)EBVレプリコンユニット
CMVプロモーター、EBNA-1 cDNA、およびoriP(EBNA-1タンパク質が結合して、ヒト細胞中でベクターの複製を行う領域)を含む。
(2)目的タンパク質発現ユニット
TREプロモーター(独自に改変)、hTetR、MCS、RNA不安定化配列、およびSV40polyAを含む。
(3)転写制御のための人工転写因子発現ユニット
SRαプロモーター、人工転写因子rtTA、およびSV40 polyAを含む。
(4)シャトルベクター機能ユニット
ampプロモーター(図に記載なし)、SV40プロモーター、薬剤体制遺伝子Kan/Neo、チミジンキナーゼpolyA(図に記載なし)、およびpUCori(大腸菌内での複製)を含む。

【0055】
このような構成のベクターを使用することにより、たった一つのベクターを細胞に導入するだけで、目的のタンパク質の遺伝子の転写制御および該タンパク質の分解制御が可能となる。

【0056】
なお、たった1つのベクターに上記(2)および(3)のユニットの両方を担持させて発現させる代わりに、上記(2)のユニットと上記(3)のユニットとをそれぞれ異なる発現ベクター中に発現可能に担持して、細胞内で使用してもよいことは当業者に理解できる。

【0057】
なお、上記(2)のユニットに含まれるTetR遺伝子については、ヒト由来のhTetR遺伝子の代わりに、E.coli由来のeTetR遺伝子を使用することもできる。hTetRとeTetRは、目的に応じて次のように使い分けることができる。
・発現誘導時に、なるべく高い発現を確保したい場合にはhTetRを用いる。
・非発現誘導時の抑制を最も厳密に(低く)したい場合にはeTetRを用いる。
これは、大腸菌由来のもの(eTetR)をヒト細胞中で使用すると、ヒト細胞中では頻度の低いコドンが使われているために塩基配列をアミノ酸に翻訳する際に、一般的にタンパク質の合成が遅くなり発現レベルが低くなるという傾向があるためである。ヒト細胞中では、ヒト由来のTetR(hTetR)を用いると、翻訳効率が上がり発現レベルを高めることができる。このように目的に合わせた使い分けにより、より望ましい発現調節系を実現しやすくなる。

【0058】
図15は、図14に示すものと実質的に同様の構成の発現ベクターにおいて、目的のタンパク質をEGFPとした場合の発現ベクターの例を示す。

【0059】
本発明に従う抗生物質による細胞内タンパク質発現の二重制御法の一つの代表的な実施形態では、ドキシサイクリンにより分解調節が可能な変異TetRと目的のタンパク質との融合タンパク質をコードするcDNAを、転写レベルでの調節発現が可能なベクター「pOSTet15」に組み込み、「pOSTet15-eTetR-cDNA」または「pOSTet15-hTetR-cDNA」というベクターを構築する(図14または図15を参照)。

【0060】
図16は、本発明に従う抗生物質によるタンパク質の転写・分解制御(二重制御)システムの原理を説明する模式図である。この図では、抗生物質としてドキシサイクリン(図中、楔形で示す要素。)を使用する例を示している。ドキシサイクリン非存在下(図16(A))では、ドキシサイクリンの結合していない人工転写因子rtTAは、転写制御領域(図16中のTREに相当する)に結合できないため、転写量が低く、わずかに転写が起こり産生されるタンパク質も、本発明のタンパク質分解制御機構により分解を受けるため、結果としてタンパク質発現が厳密に抑制される。ドキシサイクリン存在下(図16(B))では、rtTAが転写制御領域に結合し、転写量も高くなり、さらに産生されるタンパク質についてもドキシサイクリンの結合により安定化されるため、タンパク質発現量が非常に高くなる。このようにして、細胞内でのタンパク質発現のオン・オフが明確に制御され得る。

【0061】
本発明にしたがって、一つのベクターに転写制御のためのポリヌクレオチドとタンパク質の分解制御のためのポリヌクレオチドを組み込むことによって、1種類のベクターを細胞に導入するだけで、導入したcDNAの発現を2重制御することができる。

【0062】
本発明はまた、1つの実施形態において、上記ポリヌクレオチドを導入されたまたは上記発現ベクターで遺伝子導入された宿主細胞または宿主生物を提供する。そのような宿主生物および宿主細胞の非限定的な例としては、脊椎動物およびその細胞が挙げられ、例えば、魚類、両生類、は虫類、鳥類、哺乳動物など、またはそれらの細胞が使用され得る。他に昆虫類およびその細胞が使用されうる。哺乳動物の例としては、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなどが挙げられる。より具体的な宿主細胞または宿主生物の例としては、これらに限定されることはないが、本願の実施例で使用したヒト細胞、マウス、ゼブラフィッシュの受精卵などが挙げられる。

【0063】
4.本発明の融合タンパク質または該融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する組成物
本発明はさらに別の実施形態において、本発明の融合タンパク質を含有する組成物、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する組成物、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有する組成物、ならびに本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドの発現を制御するためのポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有する組成物を提供する。これらの本発明の組成物は、上記融合タンパク質に結合する抗生物質と組み合わせて用いられる。例えば、上記融合タンパク質がテトラサイクリン系抗生物質のリプレッサータンパク質の変異型を含む場合、本発明の組成物は、テトラサイクリン系抗生物質(テトラサイクリンおよびその誘導体であるドキシサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、または無水テトラサイクリン)と組み合わせて用いられる。

【0064】
1つの好ましい実施形態では、本発明の組成物は、蛍光タンパク質もしくは発光タンパク質と抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質との融合タンパク質を含有するか、またはそのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有する。好ましい変異タンパク質の例は、変異型TetRタンパク質であり、好ましい蛍光タンパク質または発光タンパク質の例は、既に本発明の融合タンパク質の説明において記載したものと同様である。好ましい変異型TetRタンパク質は、既に本発明の融合タンパク質の説明において記載したものと同様である。好ましくは、細胞の核内への蛍光の偏りを防ぐために、上記変異型TetRタンパク質は、さらに28位のアミノ酸残基においてアルギニンからグルタミンへの置換を有していても良い。本発明の融合タンパク質は、Tetの濃度によって分解が制御され得るため、本発明の組成物は、テトラサイクリン系抗生物質の細胞内または生体内での量を検出しイメージングすることに使用することができ、薬物の動態のモニタリングに使用することができる。

【0065】
別の実施形態では、本発明の組成物は、治療用タンパク質と抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質との融合タンパク質を含有するか、またはそのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有する。好ましい変異タンパク質の例は、変異型TetRタンパク質であり、好ましい治療用タンパク質の例は、既に本発明の融合タンパク質の説明において記載したものと同様である。好ましい変異型TetRタンパク質は、既に本発明の融合タンパク質の説明において記載したものと同様である。遺伝子治療として患者に外来遺伝子を導入し、その遺伝子の産物であるタンパク質の働きによって症状を改善するような場合、そのタンパク質が抗原となって予想外の副作用を引き起こす危険が存在する。そこで、本発明の組成物を用いて、例えば、治療用タンパク質をコードする遺伝子と変異TetRの融合遺伝子を導入すれば、その産物である融合タンパク質の発現量は、Tetによりコントロールでき、患者の状況に応じてTetを投与することによって、副作用を抑えつつ治療することが可能となる。

【0066】
さらに別の実施形態では、本発明の組成物は、機能解析に供するためのタンパク質と抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質との融合タンパク質を含有するか、またはそのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有する。好ましい変異タンパク質は、変異型TetRタンパク質であり、好ましい機能解析に供するためのタンパク質は、既に本発明の融合タンパク質の説明において記載したものと同様である。好ましい変異型TetRタンパク質は、既に本発明の融合タンパク質の説明において記載したものと同様である。本発明の組成物を使用して、例えば、変異TetRと、機能解析の対象である目的のタンパク質との融合タンパク質を細胞に発現させると、添加するTetの量により細胞内の目的のタンパク質の量をコントロールすることができる。これにより、目的のタンパク質が、細胞や生物個体に与える影響を実験的に解析することが可能となる。

【0067】
本発明の組成物が、疾患の治療、生体中での薬物動態のイメージングもしくはモニタリング等の診断および/もしくは治療、または生体中でのタンパク質の機能解析等の目的で使用される場合は、本発明の組成物は、薬理学的に許容され得る担体、希釈剤もしくは賦形剤をさらに含有しても良く、非経口投与に適する医薬組成物として提供され得る。

【0068】
経口投与のための組成物の剤形としては、例えば、注射剤などが含まれ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤などの剤形を包含する。このような注射剤は、公知の方法に従って、例えば、本発明の融合タンパク質またはそれをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例、エタノール)、ポリアルコール(例、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例、ポリソルベート80、HCO-50(polyoxyethylene(50mol)adductof hydrogenatedcastor oil)〕などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される

【0069】
上記の非経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好ましい。そのような投薬単位の剤形としては、例えば、注射剤(アンプル)などが挙げられ、それぞれの投薬単位剤形当たり通常5~500mg、注射剤では5~100mg、その他の剤形では10~250mgの上記活性成分が含有されていることが好ましい。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトまたは温血動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して非経口的に投与することができる。

【0070】
本発明の融合タンパク質の分解を防止するために投与する抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、非経口的に投与する場合は、該抗生物質の投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、テトラサイクリン系抗生物質を注射剤の形で通常成人(体重60kgとして)に投与する場合、一日につき該抗生物質を約0.1~300mg、好ましくは約1~200mg、より好ましくは約10~100mgを静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。

【0071】
本発明の組成物は、抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)と組み合わせて使用される。1つの実施形態では、本発明の組成物は、さらに抗生物質)を含有する。別の実施形態では、本発明の組成物は、抗生物質と同時、または抗生物質を投与する前もしくは後に、細胞または被験体に投与することによって使用される。

【0072】
5.本発明のキット
本発明はまた、1つの実施形態において、本発明の融合タンパク質を含有するキット、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するキット、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有するキット、ならびに本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよび該ポリヌクレオチドの発現を制御するためのポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有するキットを提供する。また、本発明は、上記4.で説明した本発明の組成物を含むキットを提供する。

【0073】
本発明のキットは、通常、さらに抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)を含んでいる。本発明のキットは、例えば、インビトロまたはエキソビボで、細胞に本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを導入して、形質転換細胞を作製および選択するために使用され得る。本発明のキットはさらに、インビボでの使用のための所望の剤形に必要な緩衝液、注射器、バイアル等を含んでいても良い。また、本発明のキットはさらに、使用方法および/または使用上の注意などを記載した製造業者による指示書を含んでいても良い。

【0074】
6.本発明の抗生物質によってタンパク質の分解を制御する方法
本発明はまた、1つの実施形態において、細胞内に導入可能な抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)によってタンパク質の分解を制御する方法を提供する。この方法は、以下の(A)または(B)のいずれかの工程を包含する。
(A)上記抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質およびそれに融合した目的のタンパク質を含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、上記抗生物質の存在下または非存在下で、細胞内または生体内で発現させる工程、
(B)上記抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質およびそれに融合した目的のタンパク質を含む融合タンパク質を、上記抗生物質の存在下または非存在下で、細胞内または生体内で使用する工程。

【0075】
好ましい実施形態では、上記抗生物質はテトラサイクリン系抗生物質であり、上記抗生物質に結合するタンパク質は、該抗生物質のリプレッサータンパク質である。

【0076】
上記本発明の1つの好ましい実施形態は、テトラサイクリン系抗生物質によってタンパク質の分解を制御する方法である。この方法は、以下の(A)または(B)いずれかの工程を包含する。
(A)変異型TetRタンパク質およびそれに融合した目的のタンパク質を含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、テトラサイクリン系抗生物質の存在下または非存在下で、細胞内または生体内で発現させる工程、
(B)変異型TetRタンパク質およびそれに融合した目的のタンパク質を含む融合タンパク質を、テトラサイクリン系抗生物質の存在下または非存在下で、細胞内または生体内で使用する工程。

【0077】
本発明は、さらに別の実施形態において、細胞内に導入可能な抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)によって、目的のタンパク質をコードする遺伝子の転写を制御し、かつ該遺伝子の発現産物としての該目的のタンパク質の分解を制御する方法を提供する。この方法は、以下の工程を包含する。
(C)上記抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質およびそれに融合した目的のタンパク質を含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド、ならびに該ポリヌクレオチドの転写を制御するためのポリヌクレオチドを発現可能に含有する発現ベクターを用いて、上記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、上記抗生物質の存在下または非存在下で、細胞内または生体内で発現させる工程。

【0078】
上記本発明の方法において、(i)抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質およびそれに融合した目的のタンパク質を含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、(ii)該ポリヌクレオチドの転写を制御するためのポリヌクレオチドとは、それぞれ別々の発現ベクターに発現可能に含有されていてもよい。

【0079】
上記本発明の方法は、例えば、実験目的または疾患の診断、予防、治療の目的で、インビトロもしくはエキソビボで細胞内に本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子を導入して、抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)の存在下または非存在下で、該遺伝子を発現させるため、あるいは、インビボで被験体の細胞またはそのような細胞を含む組織もしくは臓器内に本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子を導入し、そこで抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)の存在下または非存在下で、該遺伝子を発現させるために使用され得る。細胞内への本発明の融合タンパク質をコードする遺伝子(またはポリヌクレオチド)の導入は、既に上記3.において説明したものと同様の方法に従って行い得る。

【0080】
さらに、上記本発明の方法は、例えば、実験目的または疾患の診断、予防、治療の目的で、インビトロもしくはエキソビボで細胞内において本発明の融合タンパク質を、抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)の存在下または非存在下で使用するために、あるいは、インビボで被験体の細胞またはそのような細胞を含む組織もしくは臓器内で本発明の融合タンパク質を、抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)の存在下または非存在下で使用するために、用いられ得る。

【0081】
本発明の方法において、上記融合タンパク質または上記融合タンパク質をコードする遺伝子は、直接細胞または被験体の組織などに投与または接触されてもよいが、好ましくは、上記4.において説明したように、適切な担体、希釈剤もしくは賦形剤などとともに処方されて、細胞または生体内に導入されてもよい。上記方法において、抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)は、上記融合タンパク質または上記融合タンパク質をコードする遺伝子を細胞または生体内に投与または提供する前、同時、または後のいずれかで該細胞または生体内に投与または提供され得る。上記方法において、タンパク質の分解は、抗生物質(例えば、テトラサイクリン系抗生物質)の(細胞または組織内での)濃度を調節(加減)することによって、調節され得る。

【0082】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されない。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
野生型TetR-EGFPおよび変異TetR-EGFPの調製および安定性の検証
1.材料および方法
A.cDNAの調製
【実施例】
【0084】
抗生物質のテトラサイクリン(Tet)に結合する大腸菌タンパク質である、テトラサイクリンリプレッサー(TetR)に、95番目のアスパラギン酸をアスパラギン、101番目のロイシンをセリン、および102番目のグリシンをアスパラギン酸に置換する3種類の変異を全て、またはいずれか2つの変異を組み合わせで導入した。手順は、以下の通りである。
(手順)
導入するべきアミノ酸置換を含むアミノ酸配列をコードするオリゴヌクレオチドを合成し、これを用いてPCR反応によって、変異を含んだDNA断片を調製した。これを野生型タンパク質をコードするDNAの当該部位と入れ替えることにより、上記変異を導入した。
【実施例】
【0085】
次いで、野生型および変異導入TetR遺伝子を緑色蛍光タンパク質(EGFP)と融合させたTetR-EGFPをコードするcDNAを作製した。手順は、以下の通りである。
(手順)
TetR遺伝子の終止コドンのかわりに他のアミノ酸をコードするように置換した塩基配列とその下流に制限酵素によって認識され切断される配列を有するオリゴDNAを合成し、これを用いてPCR反応を行い終止コドンを持たないTetRをコードするDNA断片を調製し、これを野生型遺伝子をコードするDNAの当該部位と置換した。次に制限酵素にて切断し、EGFPをコードするDNA断片の上流側とタンパク質合成の翻訳の読み枠が合うように連結した(図1A)。
【実施例】
【0086】
B.遺伝子発現ベクターの作製
上記のように作製したcDNAを、本発明者および共同研究者らが開発した、ヒト細胞中で安定に複製・維持される遺伝子発現ベクター「pEB6CAG」に組み込んだ。構築した発現ベクターDNAは、市販のDNA精製キットを用いて大腸菌から大量調製した。
【実施例】
【0087】
C.形質転換細胞の作製および選択
このDNAを市販のリポフェクション試薬を用いてヒト細胞株HEp-2に導入し、4日間1.5mg/mlG418存在下で培養し、DNAが導入された細胞だけを選択した。細胞をトリプシン処理して回収し、フローサイトメーター(BD社FACSCalibur)で蛍光陽性細胞率や個々の細胞の蛍光強度を解析した。
【実施例】
【0088】
2.結果
A.フローサイトメーターによる蛍光強度の測定
図1B~Dは、野生型TetR-EGFPおよび変異TetR-EGFPの安定性をフローサイトメーターを用いて試験した結果を示すグラフである。
【実施例】
【0089】
野生型TetR-EGFPを発現させた細胞では、90%以上の細胞でEGFP由来の蛍光が認められたが、変異TetR-EGFPを発現させた細胞では、10~20%程度の細胞で、非常に微弱な蛍光しか観察されなかった(図1B)。
【実施例】
【0090】
これらの細胞を、プロテアソーム阻害剤であるMG132、100μg/ml存在下で12時間培養したところ、野生型TetR-EGFPを発現させた細胞では蛍光強度に大きな変化は見られなかったが、変異TetR-EGFPを発現させた細胞では著しい蛍光の増強が見られた(図1C)。このことから、変異TetR-EGFPタンパク質が細胞内でプロテアソームによって分解されていることが、わずかな蛍光しか観察されない原因であることがわかった。
【実施例】
【0091】
またこの細胞を、1.5μg/mlのドキシサイクリンを添加して4日間培養した場合には、野生型TetR-EGFPでは変化が見られないが、変異体を発現させた細胞では、MG132を添加した場合以上に著しい蛍光の増強が見られた(図1D)。なお、ここでTetRは、上述の3種類の変異を3つとも導入したものを使用した。
B.倒立顕微鏡による観察
【実施例】
【0092】
図2Aは、上記の細胞の倒立顕微鏡写真である。示されるように、細胞全体で緑色蛍光が観察されたが、特に核に蛍光が片寄っていた(図2A)。これはTetRがDNA結合タンパク質であるために、ヒト細胞中のゲノムDNAに結合することにより、タンパク質が核に片寄って存在することが原因であると予想された。これは一般的な目的に応用しようとする場合に問題となる場合もあることが予想される。そこでDNA結合能を失わせるために、さらに28番目のアルギニンをグルタミンに置換する変異を導入した。
【実施例】
【0093】
図2Bは、R28Q変異を追加したTetR-EGFP変異体を使用して蛍光顕微鏡観察を行った結果を示す写真である。示されるように、核への蛍光の局在は解消され、細胞内に均一に蛍光が観察され核と細胞質の境界がはっきりしなくなった。また、この変異では、ドキシサイクリン依存的な蛍光増強の程度も維持されていた(図2B)。
【実施例】
【0094】
C.ドキシサイクリン濃度と蛍光強度との相関
ドキシサイクリンの濃度と蛍光強度の相関を解析するために、様々な濃度のドキシサイクリンを添加した状態での蛍光強度をフローサイトメーターで解析した。図3は、その結果を示す。示されるように、0.05μg/ml以上の濃度で蛍光の増強が見られはじめ、1.5μg/mlの濃度のときに最大の蛍光強度になった。
【実施例】
【0095】
D.ドキシサイクリン添加後の経過時間と蛍光強度との相関
ドキシサイクリン添加後に時間変化を解析するために、1.5μg/mlのドキシサイクリン添加後8時間ごとに蛍光強度を測定した。図4Aは、その結果を示す。示されるように、EGFPを単純に発現するだけのベクターをトランスフェクションした細胞と比較したところ、変異型TetR-EGFPを発現するベクターをトランスフェクションした細胞は、初めの8時間に急激な蛍光増強を示し、24時間後には蛍光はほぼ平衡に達していた(図4A)。逆にドキシサイクリン除去後の時間経過を観察するために、1.5μg/mlのドキシサイクリンで4日処理した後、ドキシサイクリンを含まないMEM培地に交換し8時間ごとの蛍光強度を測定した。その結果を図4Bに示す。示されるように、半減期は8時間であり24時間後にはほぼ完全に蛍光が消失した(図4B)。
【実施例】
【0096】
(実施例2)
本発明のタンパク質分解制御システムのインビボでの性能の評価
1.トラスジェニックマウスにおける評価
このタンパク質分解制御システムを使って、生きたままの動物個体中でのドキシサイクリンの挙動を蛍光として検出可能かどうかを解析するために、トランスジェニックマウスを作成した。
【実施例】
【0097】
マウスに全身性に導入遺伝子を発現させやすいことが知られているCAGプロモーターの下流に、R28Q、D95N、L101S、G102Dの変異を導入したTetR-EGFPのcDNAを結合し、さらにIRES配列をはさんで下流に蛍光タンパク質DsRedのタンデムダイマーを発現し得るcDNAを配置した。これにより、TetR-EGFPタンパク質はドキシサイクリンの有無により分解制御を受けるために緑の蛍光強度は変動するが、DsRedの赤い蛍光は常に一定になることが予想されるため、各種臓器ごとの発現強度は赤色蛍光でモニターし、ドキシサイクリンの挙動による緑の蛍光強度の変動は、緑と赤の蛍光強度比をとることによって標準化して数値化し得ることが期待された。
【実施例】
【0098】
そこで、大量調製したDNAをマウス受精卵にインジェクションした後、偽妊娠マウスに戻し、生まれてきた仔マウスの中からトランスジーンを持つものを選択し飼育した。
【実施例】
【0099】
このマウスでは期待通り、普段から赤色蛍光が観察され、さらに腹腔にドキシサイクリンを投与すると8時間後に全身性に緑の蛍光増強が起こった(図5)。赤と緑の蛍光強度比をグラフ化したところ、8時間目に緑の蛍光強度が最大となり、その後減衰することが確認された(図6)。
【実施例】
【0100】
2.ゼブラフィッシュでの評価
他の動物種においても同様な分解制御が起こるかどうかを確認するために、R28Q、D95N、L101S、G102Dの変異を導入したTetR-EGFPをコードするmRNAを、市販のキットによって合成しゼブラフィッシュの受精卵にインジェクションを行った。
【実施例】
【0101】
ドキシサイクリンを添加しない場合には、緑の蛍光は検出されなかったが、1.5μg/mlのドキシサイクリンを添加すると24時間後には40%の卵において弱い蛍光が観察され、15μg/ml添加した場合には100%の卵において非常に強い蛍光が観察された(図7)。以上のように、魚類においてもマウスにおいて使用したものと同様な分解制御システムを利用することができることが示された。
【実施例】
【0102】
(実施例3)
本発明の遺伝子発現調節および/またはタンパク質分解調節システムを用いて発現されるタンパク質の定量分析(その1)
A.遺伝子発現ベクターの作製
cDNAを、恒常的遺伝子発現ベクター「pEB6CAG」または本発明者が特表2003-515314(その全体が本明細書中に参考として援用される)の方法を応用して開発したドキシサイクリンにより転写での調節発現が可能なベクター「pOSTet15」に組み込んだ。発現させるcDNAは、単純な蛍光タンパク質EGFP、またはドキシサイクリンによって分解制御が可能なeTetREGFPまたはhTetREGFPを組み込んだ。これにより次の6通りのベクターを構築した。1)全く制御なしに恒常的に発現する「pEB6CAG-EGFP」、2)転写レベルでのみ制御が可能な「pOSTet15-EGFP」、3)タンパク質分解レベルでのみ制御が可能な「pEB6CAG-eTetREGFP」「pEB6CAG-hTetREGFP」、4)転写レベル、タンパク質分解レベルで2重制御が可能な「pOSTet15-eTetREGFP」「pOSTet15-hTetREGFP」。構築した発現ベクターDNAは、市販のDNA精製キットを用いて大腸菌から大量調製した。
【実施例】
【0103】
B.形質転換細胞の作製および選択
このDNAを市販のリポフェクション試薬を用いてヒト細胞株HEp-2に導入し、4日間1.5mg/mlG418存在下で培養し、DNAが導入された細胞だけを選択した。この細胞をフローサイトメーターにかけ、1つ1つの細胞のEGFPによる蛍光強度を測定し、その平均蛍光強度を求めた。
【実施例】
【0104】
結果
図8に示すように、転写またはタンパク質分解のいずれの制御もかけない場合には、ドキシサイクリンの有無にかかわらず、強い蛍光が検出された。転写のみ、または分解のみで発現制御をかけた場合には、ドキシサイクリンを添加しない場合の蛍光強度が減弱し、一定の制御の効果がみられるものの、やはりかなりの細胞において蛍光が検出された。これは、単独の制御では発現抑制が不十分であることを意味する。
【実施例】
【0105】
一方、2重制御をかけた場合には、ドキシサイクリン非添加時において蛍光はほとんど検出されず、また、ここにドキシサイクリンを添加すると強い蛍光が検出されたため、その誘導比率は単独の制御の場合が数十倍であるのに対して、400倍以上という著しい誘導がみられた。しかも、cDNAの配列が大腸菌由来のままのeTetRを用いた場合には、より低い発現レベルでの制御、cDNAの配列をヒトで使用頻度が高いコドンに変換したhTetRではより高い発現レベルでの制御が可能であることが明らかとなった。このことから、導入・発現したい目的タンパク質の種類と目指している発現レベルによって、eTetRとhTetRを使い分けることが可能であることが示された。
【実施例】
【0106】
以上の結果より、従来技術のドキシサイクリンによる転写制御だけでは、十分に厳密な発現コントロールが難しい場合でも、本発明によるタンパク質分解の制御と組み合わせることにより、きわめて厳密な遺伝子発現制御を実現可能であることが示された。
【実施例】
【0107】
(実施例4)
本発明の遺伝子発現調節および/またはタンパク質分解調節システムを用いて発現されるタンパク質の定量分析(その2)
ヒト細胞に対して強い毒性を示すジフテリア由来の毒素タンパク質ジフテリアトキシンA(DTA)遺伝子を緑色蛍光タンパク質(EGFP)と融合させたDTA-EGFPおよびこれをさらに変異TetRと融合させたeTetR-DTA-EGFPおよびhTetR-DTA-EGFPをコードするcDNAを作製し、遺伝子の転写を制御する実験を行った。手順は、以下の通りである。
【実施例】
【0108】
(手順)
A.TetR-DTA-EGFPの作製
既存のpMC1 DT-3ベクターから制限酵素BamHI-DraIで切り出して、DTAをコードするcDNA断片を調製した。これを上記、変異TetR-EGFP遺伝子のTetR部分を制限酵素BglII-SmaIで切除したものに挿入してDTA-EGFPをコードするcDNAを作製した。またTetR-EGFP遺伝子のTetRとEGFPの間に制限酵素BamHIを用いてDTAをコードするcDNA断片を挿入することによって、eTetR-DTA-EGFPおよびhTetR-DTA-EGFPを作製した。
【実施例】
【0109】
B.遺伝子発現ベクターの作製
上記のように作製したcDNAを、恒常的遺伝子発現ベクター「pEB6CAG」または本発明者が特許公開2003-515314の方法を応用して開発したドキシサイクリンにより調節発現が可能なベクター「pOSTet15」に組み込んだ。これにより次の6通りのベクターを構築した。1)転写レベル、タンパク質分解レベルで2重制御が可能な「pOSTet15-eTetRDTAEGFP」「pOSTet15-hTetRDTAEGFP」、2)転写レベルでのみ制御が可能な「pOSTet15-DTAEGFP」、3)タンパク質分解レベルでのみ制御が可能な「pEB6CAG-eTetRDTAEGFP」「pEB6CAG-hTetRDTAEGFP」、4)まったく制御なしに恒常的に発現する「pEB6CAG-DTAEGFP」。これらに加えて、比較実験のためにDTAを有さず細胞毒性を示さない「pOSTet15-eTetREGFP」「pOSTet15-hTetREGFP」も作成した。構築した発現ベクターDNAは、市販のDNA精製キットを用いて大腸菌から大量調製した。
【実施例】
【0110】
C.形質転換細胞の作製および選択
このDNAを市販のリポフェクション試薬を用いてヒト細胞株HEp-2に導入し、4日間1.5mg/mlG418存在下で培養し、DNAが導入された細胞だけを選択した。このとき生き残った細胞数を計測した。また遺伝子導入の確認のためEGFPの蛍光観察を行った。
【実施例】
【0111】
結果
図9に示すように、転写またはタンパク質分解のいずれかのみで制御をかけた場合には、発現制御が無い場合と同じく、ドキシサイクリンを添加せず発現が抑制されている場合でもほぼ全ての細胞が死滅した。これは、単独の制御では発現抑制が不十分であり、低いレベルでの発現の漏れであってもDTAの高い毒性のために細胞が死滅したことを意味する。
【実施例】
【0112】
一方、2重制御をかけた場合には、hTetRを用いた場合には、単独制御の場合と同様にドキシサイクリンを添加していなくても細胞が死滅してしまった。一方、eTetRを用いると、ドキシサイクリン非添加時において毒性のない遺伝子を導入した場合よりは細胞数が減少するものの、毒素遺伝子が十分に発現抑制されていることにより十分な数の細胞が生き残ることが示された。また、ここにドキシサイクリンを添加すると、毒素遺伝子が発現し細胞が死滅することも明らかとなった。
【実施例】
【0113】
以上の結果より、従来技術のドキシサイクリンによる転写制御だけでは、十分に厳密な発現コントロールが難しい場合でも、本発明によるタンパク質分解の制御と組み合わせることにより、きわめて厳密な遺伝子発現制御を実現可能であることが示された。とくに、今回のジフテリア毒素のように、わずかな発現でも細胞に与える影響が大きいような遺伝子の発現制御を行いたい場合には、eTetRを選択することによって、最も厳密な発現抑制が実現できることも明らかとなった。
【実施例】
【0114】
(実施例5)
本発明の遺伝子発現調節およびタンパク質分解調節を含む二重制御システムによる目的遺伝子の発現調節
A.遺伝子発現ベクターの作製
λファージのCreタンパク質を発現制御するためのベクターとして、タンパク質分解のみによる制御、転写のみによる制御、および二重制御の3種類のベクターを構築した。またその際、実施例3および4においてTetRのコドンを変更したhTetRを用いたのと同様に、通常の塩基配列のcre遺伝子と、哺乳動物細胞中で翻訳効率を高くするためにアミノ酸配列はそのままでコドンの種類を変更して塩基配列のみを改変したhCre(配列番号3)を比較したところ、hCreのほうが全体に組換え効率が高くなることを確認したため、本実施例ではhCreを用いた。hCrecDNAを、ドキシサイクリンによって分解制御が可能なTetRhCreにして、上述の恒常的遺伝子発現ベクター「pEB6CAG」に組み込んだ、分解のみによって制御する「pEB6CAG-TetRhCre」、「pOSTet15」にhCrecDNAを組み込んで転写のみによって制御できる「pOSTet15-hCre」、「pOSTet15」にTetRhCreを組み込んで二重制御が可能な「pOSTet15-TetRhCre」の3種類のベクターを構築した。これに加えて、Creタンパク質によるDNA組換え効果を確認するためのモニターベクターとして、黄色蛍光タンパク質Venusが、loxP配列によって挟まれその下流に赤色蛍光タンパク質DsRed1を配置した組換えレポーターベクター、「pEB6CAG-Venus-lox-R1-SRZ」(図10)も作成した。これを上記のCre制御ベクターのいずれかと同時に細胞に導入することにより、Creの発現が見られない細胞は黄色の蛍光を発するが、CreによるloxP間での組換えが起こると、VenuscDNAが排除されDsRed1の発現が開始されるために、赤色蛍光を発するようになる。この蛍光波長の変化から、Creの発現効果を簡便に検出することができる(図10)。
【実施例】
【0115】
構築した発現ベクターDNAは、市販のDNA精製キットを用いて大腸菌から大量調製した。
【実施例】
【0116】
B.形質転換細胞の作製および選択
このDNAを市販のリポフェクション試薬を用いてヒト細胞株HEp-2に導入し、4日間1.5mg/mlG418および0.1mg/ml zeocin存在下で培養し、2種類のDNAが導入された細胞だけを選択した。フローサイトメーターによって黄色と赤の2波長の蛍光を測定した。
【実施例】
【0117】
結果
図11に示すように、ドキシサイクリン非添加時には、ほとんどの細胞が黄色の蛍光のみを示し、赤い蛍光も同時に示す細胞は5%程度であった。一方、1μg/mlのドキシサイクリンを添加した場合には、60%の細胞が赤い蛍光のみを示し、黄色と赤の両方を示す細胞と合わせて70%以上の細胞で、赤い蛍光が検出されCreによるレポーターベクターの組換えが観察された。また黄色の蛍光しか発しない細胞でも、その蛍光強度は大きく減弱しており、DsRed1は正しく発現していないものの、組換えそのものは起こっていることが示唆された。
【実施例】
【0118】
(実施例6)
二重制御系と、タンパク質分解制御系または転写制御系との間の制御効率の比較
次に、タンパク質分解制御のみ、および転写制御のみでCreタンパク質の発現調節を行う場合と本発明の二重制御系との性能の比較を行った。2つのベクターを導入後、1)まったくドキシサイクリンを添加せずに6日培養したもの、2)1日だけ1.0μg/mlのドキシサイクリンを添加し、その後ドキシサイクリンを除去して5日培養したもの、3)3日間1.0μg/mlのドキシサイクリンを添加し、その後ドキシサイクリンを除去して3日培養したもの、の3通りの実験を実施した。
【実施例】
【0119】
図17Aに示すように、Creタンパク質を分解のみで制御しようとしても、ドキシサイクリン非添加時においてすでにCreによるレポーターベクターの組換えは完全に起こっており、黄色い蛍光を発する非組換え細胞は10%以下であった。さらにここにドキシサイクリンを添加すると、Creタンパク質を細胞に過剰に発現させた場合に見られる細胞毒性が出現して細胞が死滅し、ごくわずかな細胞しか回収されなかった。このことから、タンパク質分解のみによる制御では非誘導時の抑制が不十分であることが明らかとなった。
【実施例】
【0120】
次に、図17Bに示すように、Creタンパク質を転写のみで制御しようとした場合においても、分解のみの場合よりは軽減されているものの、ドキシサイクリン非添加時においてすでにCreによるレポーターベクターの組換えが顕著に見られ、組換えが起こったことを示す赤い蛍光を強く発している細胞が3分の2以上であり、一方黄色い蛍光を発する非組換え細胞は25%以下であった。さらにここにドキシサイクリンを添加すると、分解制御の場合と同様に細胞毒性が見られ、特に発現レベルの高い、赤い蛍光の強い細胞ほどよく死滅してしまったため、細胞集団の赤い蛍光の平均強度が著しく低下し、ドキシサイクリンの処理時間を延長するとさらに蛍光強度が低下した。以上のことから、転写のみで制御する場合のほうが分解のみで制御する場合よりもいくらか厳密ではあるが、Creタンパク質の発現制御法としては不十分であることが示された。
【実施例】
【0121】
次に図17Cに示すように二重制御系を用いると、7割以上の細胞が全く組換えを起こさない黄色の蛍光のみを発する細胞であり、かつその蛍光強度も大きかった。ところがここにドキシサイクリンを添加すると、1日だけの処理においても7割以上の細胞が赤い蛍光に変化し、非常に効率よく組換えを誘導することができた。また3日処理した場合でも、他の場合に見られたような細胞毒性による細胞数の減少はほとんど見られなかったが、組換え効率そのものには1日だけの処理と大きな変化はなかった。
【実施例】
【0122】
以上のことから、二重制御系を用いることにより、目的タンパク質の酵素活性を、ドキシサイクリン非添加時には厳密に抑制することができ、さらにドキシサイクリン添加によってほとんどの細胞で酵素活性が検出可能になる事が明らかとなった。
【実施例】
【0123】
(実施例7)
Tet二重制御系の抗生物質濃度依存性の検証
次に、ドキシサイクリンの濃度が組換え効率に及ぼす影響について解析を行った。上記のCre二重制御用ベクターと組換えレポーターベクターの2種類を細胞に導入し、薬剤選択の後、0.001μg/mlから1.0μg/mlまで4段階の濃度のドキシサイクリンを1日または3日間細胞に処理し、組換え効率について検討した。
【実施例】
【0124】
図18に示すように濃度依存的に組換えの効率は上昇し、確実に組換えを起こすには1.0μg/mlまで濃度を上げた方がよいことがわかった。逆に処理時間を3倍にしてもそれほど効率に変化がないことから、ドキシサイクリン処理は24時間で十分でありかなり早い誘導が実現できていることが明らかとなった。
【実施例】
【0125】
(実施例8)
二重制御システムによるCre遺伝子の発現制御について、制御の厳密さを増す方法
A.遺伝子発現ベクターの作製
実施例5において作成した「pOSTet15」にTetRhCreを組み込んで二重制御が可能な「pOSTet15TetRhCre」のベクターにおいて、TetRとhCreの融合タンパク質によるDNA組換えをより厳密に制御する方法として、融合タンパク質の細胞内局在を変化させる方法を試みた。すなわち、A)もともとのTetRhCre融合タンパク質の他に、B)N末に核移行シグナル(NLS)を付加したもの、C)C末に核外移行配列(NES)を付加したもの、D)N末にNLS、C末にNESの両方を配置したもの、を新たに作成した。これらを実施例5と同様に細胞へ導入し組換え効率について解析した。
【実施例】
【0126】
B.形質転換細胞の作製および選択
これらを実施例5と同様に細胞へ導入し組換え効率について解析した。
【実施例】
【0127】
結果
図19AとBに示すように、一般的によく用いられているNLSを付加して核内への運び込みを促進したCreを用いると、ドキシサイクリン非添加時の非組換え細胞の割合が8割から7割に減ってしまい、しかもドキシサイクリンを添加した際の組換え効率も何も付加しないものと差がないため、発現制御の厳密さがよけいに損なわれることが明らかとなった。一方、図19Cに示すように、NESを付加して核から排出される速度をあげると、ドキシサイクリン非添加時であるにもかかわらず組換えを起こしてしまう細胞は14%から7%へと半減し厳密さが増していることがわかった。またドキシサイクリン添加による組換えの誘導効率もやや低下してしまったが、処理時間を3日に延長することである程度改善できることが示された。図19Dに示すように、NLSとNESの両方を付加すると、ドキシサイクリン非添加時の制御も向上せず、添加時の組換え公立は大幅に低下し望ましい性能を発揮しなかった。以上のことより、Creタンパク質の発現制御をより厳密に行いたい場合には、NESを付加することが有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の融合タンパク質は、生きた動物細胞中において、単独の状態では不安定で急速な分解を受けるが、抗生物質(例えば、テトラサイクリン系)との結合により安定化し分解を免れるという性質を有する。また、遺伝子の転写制御と組み合わせた本発明のタンパク質分解制御システム(二重制御システム)によれば、生きた細胞内でのタンパク質の発現をより厳密に制御することが可能となる。
【0129】
したがって、本発明は、以下の(1)~(3)のような用途に使用することができる。
【0130】
(1)大腸菌テトラサイクリンリプレッサー(TetR)タンパク質は、ヒト細胞中で安定であるが、これに変異(例えば、2カ所以上)を導入した変異体は、テトラサイクリン系抗生物質のない状態では急速に分解されるが、Tetを添加すると分解を免れるようになり、細胞中に蓄積するようになる。したがって、例えば、この変異型TetRタンパク質と、機能解析の対象である目的のタンパク質との融合タンパク質を細胞に発現させると、添加するTetの量により細胞内の目的のタンパク質の量をコントロールすることができる。これにより、目的のタンパク質が、細胞や生物個体に与える影響を実験的に解析することが可能となる。
【0131】
(2)遺伝子治療として患者に外来遺伝子を導入し、その遺伝子の産物であるタンパク質の働きによって症状を改善する場合、そのタンパク質が抗原となって予想外の副作用を引き起こす危険が存在する。そこで、治療のためのタンパク質と変異型TetRタンパク質の融合遺伝子を導入すれば、その産物である融合タンパク質量は、Tetによりコントロールし得、患者の状況に応じてTetを投与することによって副作用を防ぎつつ治療を行うことが可能となる。したがって、本発明は医療分野等での適用に有用である。
【0132】
(3)抗生物質に結合するタンパク質の変異タンパク質(例えば、変異TetR)を、蛍光タンパク質や発光タンパク質(例:ルシフェラーゼ)といった検出が可能なタンパク質との融合タンパク質として細胞に発現させれば、抗生物質(例えば、Tet)の量に応じて蛍光量や発光量が変動するため、生きた細胞中や生物個体中の抗生物質(例えば、Tet)量を検出し、イメージングすることが可能となる。したがって、本発明は、薬物のインビボでのイメージング等においても有用である。
【0133】
(4)本発明の目的遺伝子の発現制御のための組成物、キット、システム、および方法によれば、例えば、細胞分化の過程のある時期に必要とされる目的遺伝子の発現をその期間だけ維持し、必要とされなくなった時点でその遺伝子の発現を抑制するというような目的遺伝子の発現調節が可能となる。
図面
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