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明細書 :形質転換植物、形質転換細胞、タンパク質生産キットおよびタンパク質の生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5089680号 (P5089680)
登録日 平成24年9月21日(2012.9.21)
発行日 平成24年12月5日(2012.12.5)
発明の名称または考案の名称 形質転換植物、形質転換細胞、タンパク質生産キットおよびタンパク質の生産方法
国際特許分類 A01H   5/00        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  21/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01H 5/00 ZNAA
C12N 5/00 103
C12P 21/00 C
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 19
全頁数 23
出願番号 特願2009-506352 (P2009-506352)
出願日 平成20年3月26日(2008.3.26)
国際出願番号 PCT/JP2008/055637
国際公開番号 WO2008/117811
国際公開日 平成20年10月2日(2008.10.2)
優先権出願番号 2007082289
優先日 平成19年3月27日(2007.3.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年2月8日(2010.2.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】森 正之
【氏名】土肥 浩二
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 特開2004-135597(JP,A)
FEBS Letters,2002年,Vol. 532,pp. 75-79
The Plant Journal,2001年,Vol. 27, No. 1,pp. 79-86
第28回 日本分子生物学会年会 講演要旨集,2005年11月25日,p. 224, 1P-0547
調査した分野 A01H 5/00
C12N 5/10
C12N 15/09
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、
NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている形質転換植物であって、
上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、
上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであることを特徴とする植物。
【請求項2】
上記植物RNAウイルスがブロムモザイクウイルスであることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の植物。
【請求項3】
上記プロモーターが、ステロイドホルモンによって誘導されることを特徴とする請求の範囲第1項または第2項に記載の植物。
【請求項4】
上記ステロイドホルモンはデキサメタゾンであることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の植物。
【請求項5】
上記植物は、マメ科、セリ科、アブラナ科、ウリ科、ナス科およびイネ科よりなる群より選ばれる科に属することを特徴とする請求の範囲第1項から第4項のいずれか1項に記載の植物。
【請求項6】
上記植物はベンサミアーナ植物であることを特徴とする請求の範囲第5項に記載の植物。
【請求項7】
発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、
NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている形質転換細胞であって、
上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、
上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであることを特徴とする形質転換細胞。
【請求項8】
上記植物RNAウイルスがブロムモザイクウイルスであることを特徴とする請求の範囲第7項に記載の形質転換細胞。
【請求項9】
上記プロモーターが、ステロイドホルモンによって誘導されることを特徴とする請求の範囲第7項または第8項に記載の形質転換細胞。
【請求項10】
上記ステロイドホルモンはデキサメタゾンであることを特徴とする請求の範囲第9項に記載の形質転換細胞。
【請求項11】
発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、
NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを少なくとも含むタンパク質生産キットであって、
上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、
上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであることを特徴とするタンパク質生産キット。
【請求項12】
上記植物RNAウイルスがブロムモザイクウイルスであることを特徴とする請求の範囲第11項に記載のタンパク質生産キット。
【請求項13】
上記タンパク質生産キットであって、さらに、ステロイドホルモンを含むことを特徴とする請求の範囲第11項または第12項に記載のタンパク質生産キット。
【請求項14】
上記ステロイドホルモンはデキサメタゾンであることを特徴とする請求の範囲第13項に記載のタンパク質生産キット。
【請求項15】
発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターをコードするポリヌクレオチドを植物に導入する工程と、
NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドを植物に導入する工程と、
上記植物を転写誘導する工程と、を少なくとも含むタンパク質の生産方法であって、
上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備え、
上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に、発現誘導型のプロモーターを備えることを特徴とするタンパク質の生産方法。
【請求項16】
上記植物RNAウイルスがブロムモザイクウイルスであることを特徴とする請求の範囲第15項に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項17】
上記転写誘導はステロイドホルモンによって行われることを特徴とする請求の範囲第15項または第16項に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項18】
上記植物は、マメ科、セリ科、アブラナ科、ウリ科、ナス科およびイネ科よりなる群より選ばれる科に属することを特徴とする請求の範囲第15項から第17項のいずれか1項に記載のタンパク質の生産方法。
【請求項19】
上記植物は、ベンサミアーナ植物であることを特徴とする請求の範囲第18項に記載のタンパク質の生産方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換植物、形質転換細胞、タンパク質生産キットおよびタンパク質の生産方法に関するものであり、より具体的には、通常はサイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドの発現を抑制しておき、ウイルスベクターの誘導発現が行われている場合に、上記ポリヌクレオチドを誘導発現させることができるため、生育阻害を起こすことなくサイレンシング反応を抑制でき、効率よく外来タンパク質を生産可能な形質転換植物、形質転換細胞、タンパク質生産キットおよびタンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1990年代初頭より、植物細胞における外来有用タンパク質の生産、いわゆる分子農場の概念が提唱され、その実現のため数多くの研究がなされている。その中で、ウイルスベクターを利用した方法は、植物ウイルスの持つ際立った増殖力を利用できることから、最も有力な手段の一つとされてきた。
【0003】
例えば、植物ウイルスのRNA複製酵素遺伝子のcDNA,および外被タンパク質遺伝子と外来遺伝子を置き換えた組換えウイルスゲノムRNAcDNAとをそれぞれ別個に植物ゲノムに導入し、外来遺伝子を発現させる方法等が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、細胞は、その活動に不適切なRNAを効率よく排除するために、特定の配列を持つRNAを選択的に分解する反応系である転写後型ジーンサイレンシング(PTGS;posttranscriptional gene silencing)を起動する。その結果、サイレンシングサプレッサーを持たないウイルスをベクターとして用いた誘導ウイルスベクター形質転換植物においては、感染後期になると、サイレンシング反応によってウイルスベクターRNAの蓄積が低下し、外来タンパク質の発現が妨げられる(非特許文献1)。なお、ここで「サイレンシング」とは植物が有する機構の一つで、ウイルスRNAまたはmRNAが配列特異的に分解されることにより、ウイルスの複製または特定の遺伝子の発現が抑制される現象を意味する。
【0005】
これを避けるために、サイレンシングサプレッサーの遺伝子をウイルスベクターとは別に導入し、発現させることにより、サイレンシング反応を抑制することが考えられている(例えば、非特許文献2)。
【0006】
なお、本明細書において「サイレンシングサプレッサー」とは、その働きによりサイレンシング機構を抑制するタンパク質を意味し、具体的にはサイレンシング反応が誘導された植物に導入した場合にサイレンシング反応を抑制し、その結果遺伝子発現の抑制を解除する活性を有するタンパク質を意味する。あるタンパク質におけるサイレンシングサプレッサー活性の有無は、GFPを発現する植物で、目的の蛋白質とサイレンシング誘導配列を同時に発現させるアグロバクテリウムコインフィルトレーションアッセイ法により調べることができる(Voinnetら, 2000, Cell 103, 157-167.)。それによりサイレンシング抑制活性を有するとされたものについては、サイレンシングサプレッサーであると定義される。
【0007】
しかしながら、サイレンシングサプレッサーを恒常的に発現する植物は、その生育が異常になる場合が多く、外来タンパク質の発現改善を目的としたサイレンシング反応の抑制に利用できないという問題がある(非特許文献3)。これに対し、サイレンシングサプレッサーとして、ある特定の部位に変異を導入したタバコエッチウイルス(TEV)のHC-Pro変異体を用いることにより、ジャガイモウイルスX(PVX)をベクターとして用いた増幅系において、HC-Proを恒常的に発現させても植物の生育異常が発生しないという研究が報告されている(非特許文献3)。

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開平6-46874号公報(公開日:平成6年2月22日)」
【非特許文献1】飯 哲夫、「ジーンサイレンシングとサプレッサー」、化学と生物 41 (2003) 390-397.
【非特許文献2】Olivier Voinnet et al. Plant J., 33, 949-956, 2003.
【非特許文献3】Allison C. Mallory et al. Nature Biotech., 20, 622-625, 2002
【発明の開示】
【0008】
このように、サイレンシングサプレッサーを恒常的に発現する植物は、その生育が異常になる場合が多い。また、上述のように、ある特定の部位に変異を導入したHC-Pro変異体は、PVXベクターを用いた増幅系ベンサミアーナ植物に導入した場合には、恒常的に発現させても生育異常が発生しないことが報告されている。
【0009】
しかしながら、ここに挙げられているのはPVXの例のみであり、他の全てのウイルスベクターについても上記変異体が効果を示すかどうかは明らかではない。また、特定の場合において、Hc-Proが効果を示さないことが報告されており(Simmons and VanderGheynst, 2007, Biotechnology Letters, 29, 641-645)、この場合には上記Hc-Pro変異体は利用できない。さらに、サイレンシングサプレッサーの作用機作は、いくつか異なるものが知られており、このことは、サイレンシングサプレッサーを持つ植物ウイルスの増殖メカニズムの多様性を反映していると考えられる。すなわち、遺伝子発現に用いるウイルスベクターの種類によって、それぞれサイレンシング反応の抑制に好適なサイレンシングサプレッサーは異なると考えられる。
【0010】
しかしながら、Hc-Pro以外のサイレンシングサプレッサー、特にHc-Proと配列相同性が低いサイレンシングサプレッサーやHc-Proと作用機作が異なるサイレンシングサプレッサーを用いて、非特許文献3に記載されているような、その発現によって生育阻害を生じないサイレンシングサプレッサー変異体を作製することは、一般に植物の正常な生育にはマイクロRNAによって誘導されるサイレンシング反応が関与していることを考慮すると、かなりの試行錯誤を伴うか、あるいは実現困難であると考えられる。
【0011】
ここで、ブロムモザイクウイルス(brome mosaic virus, BMV)、cucumber mosaic virus(CMV)、alfalfa mosaic virus(AlMV)のような、ウイルスゲノムが3本のRNA鎖に分かれている植物RNAウイルスは、次の(1)~(3)のような利点を備えているため、ベクターとして非常に有用である。(1)ゲノムサイズが短いため、遺伝子操作が容易である。(2)ゲノムサイズが短いため、イントロンがない場合に、ゲノムサイズが長い遺伝子よりも転写効率がよい。(3)複製酵素と外来タンパク質遺伝子が分離しているため、交配によって容易に様々な外来遺伝子を発現可能な形質転換植物が作製できる。
【0012】
とりわけBMVは植物RNAウイルスのなかで基礎的な研究が最も進んでいるため、ベクター改良に必要な複製メカニズム等に関する知見が集積していること(KAO & SIVAKUMARAN, 2001,Mol. Plant Pathol. 1, 91-97)、増殖能力が他のウイルスに比して非常に大きいこと、コムギやオオムギなどのイネ科植物において利用できること、等の利点を有している。しかしながら、上記植物RNAウイルスのうち、既知のサイレンシングサプレッサーを持たないものについては、ウイルスベクターとして用いても、サイレンシング反応により、形質転換体において目的の遺伝子の発現が低下してしまうという問題点がある。したがって、上記植物RNAウイルスを用いた増幅系において、サイレンシング反応を抑制しつつ、植物の生育異常を抑制する必要がある。
【0013】
一方、非特許文献3に記載された技術は、上述のように、HC-Pro変異体が全ての場合において適用できるとは限らないため、上記植物RNAウイルスベクターを用いた増幅系に適用できるとは限らないという問題点がある。また、上記植物RNAウイルスベクターを用いた増幅系に適用できない場合は、上記(1)~(3)のような、BMV等の植物RNAウイルスの特徴を十分に生かすこともできないという問題点もある。
【0014】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、サイレンシングサプレッサーを有さない植物RNAウイルスベクターを用いた増幅系においても、サイレンシングおよび生育異常を起こすことなく、効率的に外来タンパク質を生産可能な形質転換植物、形質転換細胞、タンパク質生産キットおよびタンパク質の生産方法を提供することにある。
【0015】
本発明者は、上記の課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、通常はサイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドの発現を抑制しておき、ウイルスベクターの誘導発現が行われている場合に、上記ポリヌクレオチドを誘導発現することにより、植物RNAウイルスベクターを用いた増幅系においても、サイレンシングおよび生育異常を起こすことなく、効率的に外来タンパク質を生産できることを発見し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
【0017】
本発明に係る形質転換植物は、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている形質転換植物であって、上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであることを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、ウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つと、サイレンシングサプレッサーであるNSsタンパク質とが、恒常的な発現ではなく、いずれも誘導発現される。それゆえ、通常は、サイレンシングサプレッサーであるNSsタンパク質の遺伝子発現を抑制しておき、ウイルスベクターの誘導発現が行われている場合に、NSsタンパク質を誘導発現させることができる。
【0019】
そのため、サイレンシングサプレッサーを持たないウイルスベクターを用いて形質転換を行った植物でも、サイレンシング反応を抑制し、感染後期におけるウイルスベクターRNAの蓄積量を増やすことができるとともに、生育異常を回避することができる。したがって、形質転換植物において、外来タンパク質の発現量を効率的に増加させることができる。
【0020】
また、BMV等の植物RNAウイルスベクターを用いた増幅系でもサイレンシングが起こらないので、背景技術の項に記載した(1)~(3)のような植物RNAウイルスベクターの特徴を十分に発揮させることができる。したがって、外来遺伝子に基づくタンパク質を効率的に生産することができる。
【0021】
また、本発明に係る形質転換植物は、上記植物RNAウイルスがブロムモザイクウイルスであることが好ましい。BMVは、既知のサイレンシングサプレッサーを有さない。また、(1)感染植物細胞内における増殖量が多いこと、(2)ゲノムが分割されているという特徴から、複製酵素のみが複製に必要であり、RNA3の産物である3aタンパク質およびRNA4の産物である外被タンパク質ともウイルス複製に関与しないことから、外被タンパク質遺伝子への外来遺伝子の置き換えによってウイルス複製の制御機構が影響を受けにくい、等の利点を持っている。
【0022】
また、形質転換植物で誘導発現することにより、サイレンシングが誘導されるまでの時期においては、効率よく複製し、外来遺伝子を発現できることがわかっている(誘導mRNA増殖システム)(Mori et al. (2001) Plant J. 27(1), 79-86)。
【0023】
したがって、BMVベクターは、ウイルスベクターが誘導発現されているときにNSsタンパク質を誘導発現し、外来タンパク質を高効率で生産するという、本発明のメカニズムに好適なベクターであるといえる。上記構成によれば、外来タンパク質をより効率よく生産することができる。
【0024】
また、本発明に係る形質転換植物は、上記プロモーターが、ステロイドホルモンによって誘導されることが好ましく、上記ステロイドホルモンはデキサメタゾンであることが好ましい。
【0025】
ステロイドホルモンは、標的細胞内で、ステロイドホルモンと特異的な強い結合を示す細胞質受容体と複合体を形成し、種々の遺伝子の転写制御を行うことが知られている。また、デキサメタゾンは、最も強力な作用を持つグルココルチコイドの一つであることが知られている。したがって、上記構成によれば、ウイルスベクターおよびNSsタンパク質の誘導発現をより好適に行うことができる。
【0026】
また、本発明に係る形質転換植物は、マメ科、セリ科、アブラナ科、ウリ科、ナス科およびイネ科よりなる群より選ばれる科に属することが好ましく、ベンサミアーナ植物であることが特に好ましい。
【0027】
特許文献1に記載されているように、上記植物は、植物RNAウイルスの宿主として好適に用いられることが知られている。また、ベンサミアーナ植物を用いた系では、後述する実施例に示すように、BMVベクターとNSsタンパク質の両方を好適に誘導発現することに成功している。したがって、これらの植物は、本発明を適用し、外来タンパク質を生産させる上で有用であるということができる。
【0028】
本発明に係る形質転換細胞は、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている形質転換細胞であって、上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであることを特徴としている。
【0029】
上記構成によれば、形質転換細胞においては、通常はサイレンシングサプレッサーであるNSsタンパク質の遺伝子発現が抑制されており、ウイルスベクターが誘導発現されている場合にNSsタンパク質が誘導発現される。したがって、例えば、上記形質転換細胞を培養することにより、サイレンシング反応が抑制され、かつ、生育異常を起こすことのない植物体を得ることができ、外来タンパク質を効率的に生産することができる。
【0030】
また、本発明に係る形質転換細胞では、上記植物RNAウイルスがブロムモザイクウイルスであることが好ましい。上述のように、BMVウイルスベクターは、外来タンパク質の生産に好適であるといえるため、上記構成によれば、外来タンパク質をより効率よく生産することができる。
【0031】
また、本発明に係る形質転換細胞では、上記プロモーターが、ステロイドホルモンによって誘導されることが好ましく、上記ステロイドホルモンはデキサメタゾンであることが特に好ましい。上述のように、ステロイドホルモンは、種々の遺伝子の転写制御を行うことができるため、上記構成によれば、ウイルスベクターおよびNSsタンパク質の誘導発現を好適に行うことができる。
【0032】
また、デキサメタゾンは、最も強力な作用を持つグルココルチコイドの一つであるため、上記構成によれば、ウイルスベクターおよびNSsタンパク質の誘導発現をより好適に行うことができる。
【0033】
本発明に係るタンパク質生産キットは、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを少なくとも含むタンパク質生産キットであって、上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであることを特徴としている。
【0034】
上記キットは、上記植物RNAウイルスベクターと、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを少なくとも含むので、形質転換細胞や形質転換植物体等の形質転換体において、通常はサイレンシングサプレッサーであるNSsタンパク質の遺伝子発現が抑制されており、ウイルスベクターが誘導発現されている場合にNSsタンパク質が誘導発現されるという状態にすることができる。したがって、ステロイドホルモン等の誘導物質を用いれば、サイレンシング反応を抑制でき、かつ、生育異常を起こさず、任意の有用タンパク質を生産可能な植物を簡易に作製することができる。
【0035】
本発明に係るタンパク質生産キットでは、上記植物RNAウイルスがブロムモザイクウイルスであることが好ましい。上述のように、BMVベクターは、外来タンパク質の生産に好適であるため、上記キットを用いれば、生育異常を起こさず、サイレンシング反応を抑制でき、任意の有用タンパク質を生産可能な植物をより簡易に作製することができる。
【0036】
本発明に係るタンパク質生産キットは、さらに、ステロイドホルモンを含むことが好ましく、上記ステロイドホルモンはデキサメタゾンであることが好ましい。上記構成によれば、ステロイドホルモンの転写誘導作用により、ウイルスベクターおよびNSsタンパク質の誘導発現を好適に行うことができる。
【0037】
本発明に係るタンパク質の生産方法は、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターを植物に導入する工程と、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドを植物に導入する工程と、上記植物を転写誘導する工程と、を少なくとも含むタンパク質の生産方法であって、上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備え、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に、発現誘導型のプロモーターを備えることを特徴としている。
【0038】
上記構成によれば、通常はサイレンシングサプレッサーであるNSsタンパク質の遺伝子発現を抑制しておき、ウイルスベクターの誘導発現が行われている場合にNSsタンパク質を誘導発現させることができ、NSsタンパク質の発現時期を最適化することができるので、サイレンシング反応を抑制し、感染後期におけるウイルスベクターRNAの蓄積量を増やすことができるとともに、植物の生育異常を回避することができる。したがって、外来タンパク質の発現量を効率的に増加させることができる。
【0039】
本発明に係るタンパク質の生産方法は、上記植物RNAウイルスがブロムモザイクウイルスであることが好ましい。
【0040】
本発明に係るタンパク質の生産方法では、上記転写誘導はステロイドホルモンによって行われることが好ましい。
【0041】
本発明に係るタンパク質の生産方法では、上記植物は、マメ科、セリ科、アブラナ科、ウリ科、ナス科およびイネ科よりなる群より選ばれる科に属することが好ましい。
【0042】
本発明に係るタンパク質の生産方法では、上記植物は、ベンサミアーナ植物であることが好ましい。
【0043】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明によって明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施例においてベンサミアーナ植物に導入されている遺伝子の概念図を示すものである。
【図2】GVG1xB2xGRxGVG-2b植物と、GVG1xB2xGRxGVG-NSs植物におけるノーザンブロッティングの結果を示すものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
(1.本発明に係る形質転換植物)
本発明に係る形質転換植物は、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている形質転換植物であって、上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、上記サイレンシングサプレッサーポリヌクレオチドは、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に、発現誘導型のプロモーターを備える。
【0047】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。
【0048】
(1-1.植物RNAウイルス)
本発明において、利用される植物RNAウイルスは、サイレンシングサプレッサーを含まない植物ウイルスであり、好ましくはウイルスゲノムが複数本の(+)鎖RNAから構成されるものである。より好ましくは、BMV、AlMV、 cowpea chlorotic mottle virus(CCMV)であり、特に好ましくはBMVである。なお、上記CCMVは、BMVと極めて近縁なブロモウイルス属のウイルスであり、特にマメ科でよく増えるという特徴を有する。
【0049】
本明細書において、「植物RNAウイルスベクター」とは、複製可能なウイルスRNAを転写可能に含むcDNAであって、外来遺伝子を発現可能に含むもの、またはこれから転写されたRNAをいう。上記cDNAは複数であってもよく、上記cDNAが複数である場合、それぞれのcDNAは、別々のウイルスゲノムに由来していてもよい。例えば、BMVはウイルスゲノムがRNA1,RNA2,RNA3という3本のRNA鎖に分かれているが、この場合、植物RNAウイルスベクターとは、RNA1,RNA2,RNA3を転写可能に含むcDNAであって、外来遺伝子を発現可能に含むもの、または当該cDNAから転写されたRNA、となる。
【0050】
また、例えばCMVのように、元来サイレンシングサプレッサーを有しているウイルスであっても、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを除去すれば使用可能である。当該除去を行う方法としては、特に限定されるものではないが、PCR法等を使用してウイルスcDNAのサイレンシングサプレッサー遺伝子に変異を導入することにより不活化する方法等が挙げられる。
【0051】
本発明は、サイレンシングサプレッサーを持たないウイルスをベクターとして用いた形質転換体において、サイレンシングを回避するとともに、植物の生育異常を回避し、その結果、形質転換体における外来タンパク質の生産向上を図ることを目的としている。
【0052】
これらのウイルスのRNA複製酵素遺伝子を含むcDNAは植物ゲノムに導入されるか、もしくはin vitroで合成されたRNAとして接種される。BMV、CMV、AlMV、CCMVの場合、ゲノムは3種類のRNAに分かれており、本発明において最も扱いやすいウイルスである。これら以外のウイルスでも、サイレンシングサプレッサーを含まず、RNA複製酵素遺伝子と外被タンパク質遺伝子を、それぞれを単独で発現できる状態で植物ゲノムに組み込むことができるものであれば、本発明において利用可能である。
【0053】
BMV、CMV,AlMV、CCMVを例にとれば、本発明において、植物ゲノムに導入されるべく改造される部分は、RNA1、2及び3であり、改造されたRNA3のうち所望の外来遺伝子によって置き換えられるのは3’末端側の外被蛋白質遺伝子部分である。ウイルスゲノムが導入される植物としては、ベンサミアーナ、タバコ、ダイズ、インゲン、キュウリ、ジャガイモ、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ、シロイヌナズナ、ミヤコグサなどがあげられるが、これらに限られるわけではない。
【0054】
上記した植物ウイルスは、それぞれの宿主となる植物が異なる。例えば、BMVはイネ科に属する多くの植物を宿主とするが、タバコ植物へのウイルス粒子又はウイルスRNAの接種では、BMVは植物体中で増殖しないために、タバコはBMVの宿主と考えられていない。しかし、BMV粒子又はRNAをタバコプロトプラストに接種すると、細胞中でウイルスRNAが複製され外被蛋白質の生産がおこることが報告されている(Maekawaら、(1985)Ann.Phytopath.Soc.Japan 51:227-230)。
【0055】
このことは、ウイルス遺伝子を植物細胞中で発現できれば、従来のウイルスと宿主の関係に捕らわれる必要はないことを示唆している。従って、本発明において、ウイルス遺伝子を植物ゲノムに導入する場合にも、従来のウイルスと宿主の概念に捕らわれずに本発明を適用する植物を選ぶことができる。また、植物細胞とはカルスおよびプロトプラストを含む概念である。
【0056】
(1-2.植物RNAウイルスベクターの構築)
ウイルスRNAは、RNA抽出法として公知の方法、例えばグアニジン法、熱フェノール法、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)フェノール法等を用い、ウイルス粒子から抽出することができる。BMV、CMV、AlMV、CCMVの場合、ゲノムが数種類のRNAからなるため、アガロースゲル電気泳動でRNA1、2及び3として分画精製する。それぞれのRNAの相補性DNA(cDNA)の構築は、常法の遺伝子操作技術を利用して行うことができる(Ahlquistら、(1984)J.Mol.Biol.172:369-383;Moriら、(1991)J.Gen.Virol.72:243-246)。
【0057】
本発明において、RNA複製酵素遺伝子を含むゲノムRNA、例えばBMV、CMV、AlMV、CCMVの場合、RNA1及び2は、i)植物で機能するプロモーター、ii)RNA1又は2のcDNA、iii)植物で機能するターミネーターからなるDNA分子、あるいは、i)植物で機能するプロモーター、ii)1a蛋白質又は2a蛋白質遺伝子をコードする配列、iii)植物で機能するターミネーターからなるDNA分子として、それぞれ植物ゲノムに導入される。
【0058】
そのようなDNA分子が導入された形質転換植物細胞では、RNA1及びRNA2、あるいは1a蛋白質又は2a蛋白質のmRNAが転写され、1a及び2a蛋白質が生産される。RNA3のcDNAの外被蛋白質遺伝子領域は所望の外来遺伝子と組換えられ組換え体RNA3cDNAが構築された後、i)植物で機能するプロモーター、ii)組換え体RNA3cDNA、iii)植物で機能するターミネーターからなるDNA分子として、上述の1a及び2a蛋白質が生産される植物のゲノムに導入される。
【0059】
i)植物で機能するプロモーター、ii)植物ウイルスのRNA複製酵素遺伝子、又はそれを含むウイルスRNAのcDNA、例えばRNA1、2又は組換え体ウイルスゲノムRNAのcDNA、例えばRNA3のcDNA、iii)植物で機能するターミネーターからなるDNA分子を植物ゲノムに導入するために使用される植物RNAウイルスベクターとしては、RNAを遺伝子とするウイルス由来のウイルスベクターであり、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まないウイルスベクターであれば特に限定されるものではないが、植物細胞のゲノムに組み込まれる性質を有し、植物体内におけるタンパク質生産に好適であるため、Tiプラスミドベクターを特に好適に用いることができる。
【0060】
例えば、Mori et al. (2001) Plant J. 27(1), 79-86に記載されているベクター;RNA1のcDNA形質転換用TiプラスミドベクターであるpTA7001BB1、RNA2のcDNA形質転換用TiプラスミドベクターであるpBICBPB2R、RNA3の形質転換用TiプラスミドベクターであるpBICHGCP2IFNR、pBICHGCP2smGFPR等を用いることができる。
【0061】
またMori et al. (1992) J. Gen. Virol. 73, 169-172.に記載されているベクター;RNA1のcDNA形質転換用TiプラスミドベクターであるpBICBR1,pBICBR1(-3)、RNA2のcDNA形質転換用TiプラスミドベクターであるpBICBR2,pBICBR2(-3)、Mori et al. (1993) FEBS Lett. 336(1), 171-174.に記載されているベクター;RNA3の形質転換用TiプラスミドベクターであるpBICBPCP2IFN等を用いることができる。また、上記ベクターは、リボザイム配列を有していてもよい。
【0062】
上記リボザイム配列としては、任意のタンパク質をコードする遺伝子を挿入したウイルスベクターのcDNAから転写されたウイルスRNAの3’末端に付加された余分な配列を切断できるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、肝炎デルタウイルスのリボザイム配列またはサテライトタバコリングスポットウイルスのリボザイム配列を用いることができる。
【0063】
上記「発現させるタンパク質」とは、本発明に係る形質転換植物、または、後述する本発明に係る形質転換細胞において生産させることを意図する任意のタンパク質を意味する。生産させる任意のタンパク質は特に限定されるものではなく、外来の有用タンパク質であってもよく、当該植物が本来有するタンパク質であってもよい。例えば、医薬品として利用可能なヒトのタンパク質等が好適である。
【0064】
所望の外来遺伝子によって置き換え可能な部分は、1a蛋白質、2a蛋白質、3a蛋白質および外被蛋白質遺伝子の1番目の翻訳開始コドン、あるいは外被蛋白質遺伝子の1番目以降にある翻訳開始コドン、例えば2番目、3番目など、からの部分である。所望の外来遺伝子をこれらの部位に導入するためには、置き換えられる遺伝子の翻訳開始コドン(ATG)および外来遺伝子の翻訳開始コドンにKunkelらの方法(Kunkelら、(1987)Methods inEnzymology 154:367-382)によってNsiI切断部位を導入しておき、NsiIで切断後T4DNAポリメラーゼで一本鎖部分を取り除き平滑末端化した後結合することによって、翻訳の読み枠を変えることなく(インフレームに)外来遺伝子の置き換えが行える。
【0065】
さらに、外被タンパク質遺伝子の翻訳開始コドンに変異を導入したうえで、それより下流の部分に所望の外来タンパク質遺伝子を翻訳可能に導入してもよく、外被タンパク質遺伝子の翻訳開始コドンよりも上流に所望の外来タンパク質遺伝子を翻訳可能に導入しても良い。
【0066】
上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えていることが必要である。これにより、後述するNSsタンパク質の発現と同時に上記ウイルスベクター発現させ、複製させることが可能となる。
【0067】
ここで、発現誘導型のプロモーターとは、転写因子が転写誘導物質あるいは熱などの特定の刺激によって活性化された場合にのみ、プロモーターの下流に連結されたポリヌクレオチドの転写が開始される場合のプロモーターをいい、恒常発現型のプロモーターとは、転写因子を転写誘導物質あるいは熱などの特定の刺激で活性化しなくても、プロモーターの下流に連結されたポリヌクレオチドの転写が開始される場合のプロモーターをいう。
【0068】
「上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つ」とは、上述のBMVのように、ウイルスゲノムが数本の(+)鎖RNAから構成されるものである場合、ウイルスをコードするポリヌクレオチドのうちいずれか一つ以上が、上流に発現誘導型のプロモーターを備えていればよいことを意味する。これにより、デキサメタゾンなどの転写誘導物質あるいは熱などの特定の刺激で処理した場合のみ、プロモーターが誘導されてウイルスの複製酵素が形成され、外来タンパク質のmRNAが増幅される。
【0069】
例えば、後述する実施例では、BMV RNA1のcDNAの上流に6XUASGal4が連結され、BMV RNA2のcDNA、および、BMV RNA3のcDNA上の外被タンパク質遺伝子がGFP遺伝子に置換されたcDNAの上流に、恒常発現型のプロモーターであるカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーターが連結されている。このように、植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドであって、発現誘導型プロモーターを備えていないポリヌクレオチドは、上流に恒常発現型のプロモーターを備えていることが好ましい。
【0070】
ただし、誘導の形態としてはこれに限られるものではない。例えば、RNA1とRNA2のcDNAの上流に恒常発現型のプロモーターが連結され、外来遺伝子を導入したRNA3のcDNAの上流に誘導発現型のプロモーターが連結されている誘導の形態も可能である。
【0071】
発現誘導型のプロモーターとしては、特に限定されるものではなく、従来公知のプロモーターを使用すればよい。例えば、ステロイドホルモンで転写誘導可能なプロモーター、グルココルチコイドで転写誘導可能なプロモーター、熱刺激で転写誘導可能なプロモーター、メタロチオネインプロモーター等を好適に用いることができる。具体的には、デキサメタゾンで転写誘導可能なプロモーターである6XUASGal4、エクジソンで転写誘導可能なプロモーターであるGRE、エストロジェンで転写誘導可能なプロモーターとしてOLexA-46、熱刺激で転写誘導可能なヒートショックプロモーターとしてシロイヌナズナHSP18.2プロモーター等を用いることができる。
【0072】
恒常発現型のプロモーターも、特に限定されるものではなく、従来公知のプロモーターを使用することができる。例えば、CaMV 35Sプロモーターや、イネアクチン1プロモーター等を用いることができる。
【0073】
上記転写誘導可能なプロモーターを用いて転写を制御する場合、転写誘導物質あるいは熱などの刺激により活性化される転写因子が必要である。当該転写因子としては、用いるプロモーターに適したものを選択して使用すればよい。例えば、プロモーターとして6XUASGal4を用いる場合には、転写因子としてはGVGが選択され、エストロジェンで転写誘導可能なプロモーターであるOLexA-46を用いる場合には、転写因子としてはXVEが選択され、エクジソンで転写誘導可能なプロモーターとしてGREを用いる場合には、転写因子としてはエクジソンレセプターGR Act and DBDとヘルペスウイルストランスアクチベーションドメインHecR LBDのキメラタンパク質が選択される。HSP18.2プロモーターを用いる場合等は、内在性の転写因子が利用できる。
【0074】
転写因子をコードする遺伝子は、植物に広く使用されている恒常発現型のプロモーター、例えばCaMV 35Sプロモーターの下流に配置することが好ましい。また、転写誘導可能なプロモーターを用いて転写を制御する場合は、転写因子を不活性化しておくことが好ましい。これによって、転写因子は、恒常的に発現するが、通常は不活性な状態で存在し、ステロイドホルモン等の転写誘導物質や、熱などの刺激で処理した場合にのみ活性化されて、プロモーター下流の遺伝子が転写されることになる。
【0075】
転写誘導物質としては、特に限定されるものではない。例えば、ステロイドホルモン等を用いることができる。ステロイドホルモンとしては、特に限定されるものではなく、アンドロゲン、エストロゲン、ゲスターゲン、コルチコイドの何れであってもよい。エストロゲンとしては、エストラジオールであることが好ましく、特に本発明に係る形質転換細胞においては、後述するデキサメタゾンによる誘導の他に、エストラジオールによる誘導も効果的である。
【0076】
コルチコイドとしては、ミネラルコルチコイドであってもグルココルチコイドであってもよいが、グルココルチコイドであることが好ましい。グルココルチコイドは、細胞内でグルココルチコイドレセプターと結合し、種々の遺伝子の転写制御を行うことが知られているため、ウイルスベクターおよびNSsタンパク質の誘導発現を好適に行うことができる。
【0077】
グルココルチコイドとしては、特に限定されるものではなく、コルチゾール、コルチコステロン、コルチゾン、デキサメタゾン、プレドニソロン等を用いることができる。中でも、グルココルチコイド中、最も強力な転写誘導物質であり、最も効率的に転写因子を活性化することができるため、デキサメタゾンであることが特に好ましい。ミネラルコルチコイドとしては、特に限定されるものではないが、アルドステロン、9α-フルオロコルチゾール等を用いることができる。
【0078】
また、転写誘導物質として、例えば、カドミウム、亜鉛、銅、水銀、金、銀、ビスマス、これらの金属のイオンを用いることもできる。
【0079】
転写誘導物質による処理の方法は特に限定されるものではなく、例えば、形質転換植物の植物体に転写誘導物質を塗布する方法や、形質転換細胞の培養系に転写誘導物質を添加する方法などを挙げることができる。また、熱刺激による遺伝子誘導の方法も特に限定されるものではなく、例えば42℃の温室に2時間静置する方法などを挙げることができる。
【0080】
上記不活性化の方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、転写因子をコードする遺伝子を転写、翻訳後、転写因子中の転写誘導物質結合ドメインにヒートショックプロテイン等を結合させ、転写因子とヒートショックプロテイン等との相互作用をさせる方法を挙げることができる(Mori et al., Plant J. 27(1), 79-86, 2001)。
【0081】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を用いた植物形質転換法としては、リーフディスク法(Horschら、(1985)Science 227:1229-1231)を利用することができる。
【0082】
Tiプラスミドにはvir領域があり、この領域の働きによって、Tiプラスミド中のT-DNA領域をA.tumefaciensの宿主細胞ゲノム中に導入できる(Nesterら、(1984)Ann.Rev.Plant Physiol.35:387-413)。
【0083】
Tiプラスミドを用いた遺伝子導入法としては、現在バイナリーベクター法(以下「アグロバクテリウム法」とも記載する)が広く用いられている。これは、TiプラスミドをT-DNAの欠失したvir領域を持つTiプラスミドとT-DNAを含むバイナリーベクターとに分割して用いるものである。バイナリーベクターとはA.tumefaciensでも大腸菌でも増殖できるベクターである。プロモーター、ウイルスRNAのcDNA、ターミネーターで構成されるDNAは、バイナリーベクター中のT-DNA領域に組み込まれ、形質転換用ベクターが構築される。
【0084】
このような形質転換用ベクターをT-DNAの欠失したvir領域を持つTiプラスミドを保持するA.tumefaciens細胞中に導入し、該A.tumefaciensを宿主植物に接種すれば、vir領域の働きによって、該組み合わせの構成からなるDNAを含むT-DNA領域を宿主ゲノム中に導入しうる。その他の公知の遺伝子導入法、すなわちプロトプラストへのエレクトロポーレーション(electroporation)法、リポゾーム融合、マイクロインジェクション、植物組織へのパーティクルガン(particle gun)あるいはそれらに準じた方法等によっても、上記構成からなるDNAを植物細胞に導入できる。
【0085】
上記植物細胞(形質転換細胞)の選抜には、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスホノトリシン等の薬剤を用いることができる。形質転換細胞は、適宜の培地で培養してカルス形成、カルス増殖、さらに必要に応じて不定胚分化または器官分化を行い、ついで植物ホルモンを添加した植物体再分化用培地で植物体に再生させることができる。
【0086】
双子葉植物に本発明を使用する場合には、対象の植物は、マメ科(アルファルファ、ダイズ、クローバー、インゲン、ミヤコグサなど)、セリ科(ニンジン、セロリなど)、アブラナ科(キャベツ、ダイコン、ナタネ、シロイヌナズナなど)、ナス科(ジャガイモ、タバコ、トマトなど)がある。ナス科の植物の場合は、ベンサミアーナ植物(Nicotiana benthamiana)を特に好適に用いることができる。
【0087】
単子葉植物に使用する場合には、対象の植物としては、イネ科(イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシなど)がある。
【0088】
(1-3.NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチド)
本発明に係る形質転換植物は、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドが導入されていることを要する。NSsタンパク質とは、Tomato spotted wilt virus(以下「TSWV」と記載する)の一本鎖RNAのうちS RNA(2.9kb)がコードするタンパク質であり、サイレンシングサプレッサーとして機能することが知られている(Atsushi Takeda et al., FEBS Letters, 532, 75-79, 2002)。本発明者らは、上記植物RNAウイルスベクターと、当該NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている形質転換植物において、上記植物RNAウイルスベクターが誘導発現されている場合にNSsタンパク質を誘導発現させることにより、サイレンシングを抑制すると共に、植物の生育異常を回避でき、植物RNAウイルスベクター中の外来タンパク質を効率よく生産することができることを見出した。
【0089】
NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列に基づき、従来公知の方法を用いて合成することができ、従来公知の方法を用いて上記ポリヌクレオチドを含むTiプラスミド等のベクターを構築し、当該ベクターを、バイナリーベクター法等の上述の方法を用いて植物細胞に導入できる。
【0090】
上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであることが必要である。上記発現誘導型のプロモーターとしては、(1-2)で説明したものと同様のプロモーターを用いることができる。
【0091】
この場合、発現誘導型のプロモーターによって上記ポリヌクレオチドの転写が制御されるので、転写誘導物質や熱などの刺激により活性化される転写因子が必要である。当該転写因子としては、用いるプロモーターに適したものを選択して使用すればよい。例えば、プロモーターとして6XUASGal4を用いる場合には、転写因子としてはGVGが選択され、エクジソンで転写誘導可能なプロモーターとしてGREを用いる場合には、転写因子としてはエクジソンレセプターGR Act and DBDとヘルペスウイルストランスアクチベーションドメインHecR LBDのキメラタンパク質が選択される。HSP18.2プロモーターを用いる場合等は、内在性の転写因子が利用できる。
【0092】
転写因子をコードする遺伝子は、植物に広く使用されている恒常発現型のプロモーター、例えばCaMV 35Sプロモーターの下流に配置することが好ましい。好適な転写誘導物質については(1-2)と同様である。
【0093】
(1-4.本発明に係る形質転換植物、形質転換細胞およびタンパク質生産方法)
本発明に係る形質転換植物は、(1-2)で説明した植物RNAウイルスベクターと、(1-3)で説明したNSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている。上記導入は、上述の公知の遺伝子導入法を用いることによって行うことができる。上記導入は、植物個体に直接行ってもよいし、植物細胞、植物の断片等に導入し、導入された植物細胞や植物の断片を、(1-2)に記載した方法によって植物体に再生してもよい。植物としては、上述のように、双子葉植物であっても単子葉植物であってもよく、マメ科、セリ科、アブラナ科、ウリ科、ナス科およびイネ科よりなる群より選ばれる科に属することが好ましく、ベンサミアーナ植物であることが特に好ましい。
【0094】
本発明に係る形質転換細胞は、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている形質転換細胞であって、上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、ウイルスの複製酵素をコードするポリヌクレオチドの少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであるが、当該形質転換細胞は、(1-2)で説明した植物RNAウイルスベクターと、(1-3)で説明したNSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを、上述の公知の遺伝子導入法を用いて植物細胞に導入することによって得ることができる。
【0095】
BMV等のようにウイルスゲノムが分節ゲノムである場合、分節ゲノムごとに構築したウイルスベクターをそれぞれ別個の植物に導入し、誘導発現後、導入されたcDNAの発現量が高い個体を選抜し、当該個体を交配することによって、全ての分節ゲノムが導入された形質転換植物を得ることができる。さらに、当該形質転換植物を、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入し、誘導発現させた植物と交配させることにより、植物RNAウイルスを誘導発現し、かつ、NSsタンパク質を誘導発現させた植物である、本発明に係る形質転換植物を得ることができる。
【0096】
ただし、本発明に係る形質転換植物を得る方法は、これに限られるものではなく、例えば、上記分節ゲノムごとに構築したウイルスベクターと、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとを同一の植物に導入し、誘導発現させることによって得ることも可能である。
【0097】
本発明に係るタンパク質生産方法は、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターを植物に導入する工程と、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドを植物に導入する工程と、上記植物を転写誘導する工程と、を少なくとも含むタンパク質の生産方法であって、上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、ウイルスの複製酵素をコードするポリヌクレオチドの少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備え、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものである。
【0098】
上記植物RNAウイルスベクターを植物に導入する工程と、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドを植物に導入する工程は、上述のように公知の遺伝子導入法を用いて行うことができる。
【0099】
上記植物を転写誘導する工程を行う方法としては、特に限定されるものではなく、上記植物RNAウイルスベクターと、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが導入された植物体に転写誘導物質の溶液を塗布する方法、転写誘導物質の溶液を噴霧する方法、上記植物体を転写誘導物質の溶液に浸漬する方法等を用いることができる。熱などの転写誘導刺激により処理する工程を行う方法としては、特に限定されるものではなく、例えば42℃の温室に2時間静置する方法などを挙げることができる。
【0100】
上記植物を転写誘導する工程によって、ウイルスベクターの誘導発現とNSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドの誘導発現とが行われる。すなわち、通常はサイレンシングサプレッサーであるNSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドの誘導発現を抑制しておき、ウイルスベクターの誘導発現が行われている場合に上記ポリヌクレオチドを誘導発現することができる。その結果、サイレンシング反応を抑制できるため、感染後期におけるウイルスベクターRNAの蓄積量を増やし、外来タンパク質の発現量を増やすことができ、しかも植物の生育阻害を回避することができる。
【0101】
なお、「ウイルスベクターの誘導発現が行われている場合に上記ポリヌクレオチドを誘導発現する」とは、ウイルスベクターの誘導発現とNSsタンパク質の誘導発現とが同時に起こっている時間が存在することを意味する。ウイルスベクターの誘導発現と、NSsタンパク質の誘導発現とを同時に開始してもよいが、必ずしもそれに限られるものではない。例えば、ウイルスベクター用の誘導発現型のプロモーターと、NSsタンパク質用の誘導発現型プロモーターの種類を変えれば、ウイルスベクターの誘導発現開始時期とNSsタンパク質の誘導発現開始時期とをずらすことができる。
【0102】
上記転写誘導物質としては、(1-2)で説明した転写誘導物質と同様のものを用いることができる。中でもステロイドホルモンが好ましく、ステロイドホルモンの中ではグルココルチコイドがより好ましく、デキサメタゾンであることが特に好ましい。
【0103】
以上の工程を少なくとも含むことによって、本発明に係るタンパク質の生産方法では、上記植物RNAウイルスベクターに含まれる目的の有用タンパク質を生産することができる。
【0104】
(1-5.本発明に係るタンパク質生産キット)
(1-2)で説明した植物RNAウイルスベクターおよび(1-3)で説明したNSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、有用な任意のタンパク質を生産する細胞または植物を作製するために利用できるものである。したがって、上記植物RNAウイルスベクターおよびNSsタンパク質をコードするポリヌクレオチド、並びに細胞の形質転換に必要な試薬、器具等をキット化しておけば、利用者は上記植物RNAウイルスベクターおよびNSsタンパク質を導入した形質転換植物または形質転換細胞を簡便に作製することが可能となる。
【0105】
本発明に係る形質転換用キットは、少なくとも上記植物RNAウイルスベクターおよびNSsタンパク質を含むものであればよく、他にどのような構成を有していてもよい。上記植物RNAウイルスベクターおよびNSsタンパク質以外のキット構成としては、例えば、細胞、培地、制限酵素、修飾酵素類、転写誘導用化学物質(ステロイドホルモン等)、培養フラスコ、アグロバクテリウム(植物細胞の場合)等を挙げることができる。
【0106】
(2.本発明の有用性)
非特許文献3に記載されているように、PVXベクターを用いた増幅系において特定の部位に変異を導入したHC-Pro変異体を恒常的に発現させた場合、ベンサミアーナ植物の生育異常は起こらないことが示されている。
【0107】
したがって、BMV等のサイレンシングサプレッサーを持たないウイルスベクターを用いた増幅系でHC-Pro以外のサイレンシングサプレッサーを用いてサイレンシングを抑制しつつ有用タンパク質を生産することを考える場合、当業者は、通常、非特許文献3に記載されている技術、すなわち生育阻害を起こさないサイレンシングサプレッサー変異体を作製し、恒常的に発現させる技術の利用を想起すると考えられ、本発明を用いることを想起するとは考えにくい。したがって、非特許文献3に記載された技術に基づいて本発明に想到することは当業者といえども容易ではないと考えられる。
【0108】
また、本発明は、サイレンシングサプレッサーを有さないウイルスをベクターとして用いた形質転換植物においても、サイレンシング反応および植物の生育阻害を回避しつつ、有用外来タンパク質の生産性を向上させることができる。さらに、比較的容易に外来遺伝子を含むウイルスベクターを導入した形質転換植物を作製することができるという、BMV等のウイルスベクターが有する利点を十分に生かすことができるものである。このように、本発明は、非特許文献3に記載された技術の問題点を解決したものであり、非常に有用であるといえる。
【0109】
また、本発明者らは、Mori, M., Fujihara, N., Mise, K. and Furusawa, I. (2001) Inducible high-level mRNA amplification system by viral replicase in transgenic plants. Plant J 27(1), 79-86.に記載されているように、BMVを用いた高効率mRNA誘導増幅系を開発しているが、当該増幅系では、BMVがサイレンシングサプレッサーを持たないため、増幅の後半にmRNAの分解が顕著に認められるという問題点があった。当該問題点を解決するために、BMVの代わりに、サイレンシングサプレッサーを持ち、かつ、かつ複製能力の高い一本鎖プラス鎖RNAウイルスであるトマトモザイクウイルス(以下適宜「ToMV」と略記する。)を用いて高効率mRNA誘導増幅系の構築も行い、当該増幅系において有用タンパク質の生産効率を向上させることができることを確認している(特開2005-110594号公報)。
【0110】
そのため、有用タンパク質を生産する場合、当業者は通常、サイレンシングサプレッサーの形質転換が不要である上記ToMVベクターを用いた増幅系を用いるものと考えられ、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを形質転換によって導入する必要がある本発明を用いることは通常想起しないと考えられる。
【0111】
一方、本発明は、BMVなどのウイルスベクターを用いた増幅系においてサイレンシングおよび植物の生育異常を解消したことにより、当該増幅系を用いたタンパク質の効率的な生産を可能にした。したがって、本発明は、非常に有用性の高いものであるといえる。
【0112】
なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0113】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0115】
(1)サプレッサー誘導発現用Tiプラスミドベクター作出
デキサメタゾン(DEX)特異的遺伝子発現形質転換植物の作出には、TiプラスミドpTA7001(McNellisら, 1998, Plant J., 14, 247-257)を用いた。
【0116】
また、pTA7001を鋳型とし、プライマー5’-CGACTCTAGAGGATCCGGGTGACAG-3’(配列番号1)および5’CCGCTCGAGAGGCCTCTCCAAA-‘3 (配列番号2)を用いたPCRにより増幅したDNA断片をXbaIとXhoIで部分切断し、pTA7001のXbaI/XhoIサイトへ挿入することにより、pTA7001の6xUASgal4プロモーター下流のXhoI切断サイトをStuI切断サイトに置換したプラスミドpTA7001(Stu)を作出した。
【0117】
5’端側にStuIサイト、3’端側にEcoRIを付加したTSWVのNSs遺伝子をPCR法によって合成し、得られたDNA断片をStuIおよびEcoRIで切断処理し、T4 DNAポリメラーゼで末端を平滑化後pTA7001(Stu)の6xUASgal4プロモーター下流に位置するStuIサイトに挿入し、TiプラスミドベクターpTA7001-NSsを作出した。同様に、トマトブッシースタントウイルス(TBSV) のP19遺伝子(GenBank AJ288943)を、その5’端側および3’端側に導入されたBamHIサイトで切断し、末端を平滑化後、pTA7001(Stu)のStuIサイトに挿入し、Tiプラスミドベクター pTA7001-P19を作出した。
【0118】
また、キュウリモザイクウイルス(CMV)2b遺伝子(GenBank D12538: nt. 2420-2752)は、5’端側に導入されたBamHIサイトで切断し、末端平滑化後さらに3’端側に導入されたAvrIIサイトで切断した。得られた2b遺伝子を含む断片を、pTA7001の6xUASgal4プロモーター下流に位置するXhoI/SpeIサイトに挿入し、Tiプラスミドベクター pTA7001-2bを作出した。
【0119】
(2)ブロムモザイクウイルスベクター誘導発現用Tiプラスミドベクター作出
6xUASgal4プロモーター下流に連結したBMV RNA1cDNAの形質転換用TiプラスミドpTA7001と、35Sプロモーターの下流に連結したBMV RNA2cDNAの形質転換用TiプラスミドpBICBPB2Rは、(Mori et al., Plant J. 27(1), 79-86, 2001)に記載されているものを用いた。上記6xUASgal4プロモーターの上流には、転写因子としてGVGが連結されており、GVGは35Sプロモーターの下流に連結されている。
【0120】
TiプラスミドpBICHGCP2smGFPRはpBICHGCP2IFNR(Mori et al., Plant J. 27(1), 79-86, 2001)に含まれるBMV RNA3ベクターのヒトガンマインターフェロン遺伝子をsoluble-modified GFP遺伝子(GenBank: U70495)と置換することにより作出したものであり、BMV RNA3cDNA上の外被タンパク質遺伝子がGFP遺伝子に置換されており、さらにcDNAの3’末端には、リボザイム配列が付加されている。
【0121】
図1は、本実施例においてベンサミアーナ植物に導入されている遺伝子の概念図を示すものである。図1の(a)~(c)に示すように、転写因子GVG,BMV RNA2およびBMV RNA3をコードするポリヌクレオチドは、恒常発現型のプロモーターの下流に連結されており、図1の(d)、(e)に示すように、BMV RNA1およびNSsをコードするポリヌクレオチドは、発現誘導型のプロモーターの下流に連結されている。
【0122】
(3)サプレッサー遺伝子の形質転換と誘導発現の確認
TiプラスミドベクターpTA7001-NSs、pTA7001-P19およびpTA7001-2bを用い、アグロバクテリウム法によって、6xUASgal4プロモーター下流に連結したNSs、P19または2b遺伝子を導入した形質転換ベンサミアーナ植物を作出した。再分化したハイグロマイシン耐性植物の種子を播種し、4週間後、展開葉にDEX(30μg/mlになるようエタノールに溶解したもの)を適量塗布した(DEX処理)。処理1日後に全RNAを抽出してノーザンブロッティングを行い、DEX特異的にNSs、P19または2b遺伝子が発現している形質転換植物を選抜した(夫々の植物を、GVG-NSs植物、GVG-P19植物、GVG-2b植物と称する)。
【0123】
(4)DEX処理によりブロムモザイクRNA1を誘導発現する植物
pBICBPB2R、pTA7001BB1、pBICHGCP2smGFPRを用い、それぞれアグロバクテリウム法によりベンサミアーナ植物を形質転換し、6XUASGAL4プロモーター下流に連結したBMV RNA1 cDNAを導入したGVG1植物、35Sプロモーター下流に連結したBMV RNA2 cDNAを導入した35S2植物、35Sプロモーター下流に連結した外被タンパク質遺伝子がGFP遺伝子と置換されたBMV RNA3 cDNAを導入した35SGR植物を得た。
【0124】
それぞれ導入したcDNAの発現量(GVG1植物についてはDEX処理後に誘導される発現量)の高い個体を選抜し、これらを交配することにより、上記3種類のcDNA遺伝子が全て導入された形質転換ベンサミアーナ植物(GVG1xB2xGR植物)を得た。播種4週間後の展開葉にDEX処理を行ったところ、処理後2日目には、DEX特異的なGFP蛍光が蛍光実体型顕微鏡による観察によって認められ、ノーザンブロッティングにおいて、BMVのゲノムRNAおよびサブゲノムRNAの蓄積が認められた。しかしながら、処理後8日目にはGFP蛍光は消失し、BMVサブゲノムRNAの蓄積は低下した。
【0125】
(5)交配
GVG1xB2xGR植物と、GVG-NSs植物、GVG-P19植物、およびGVG-2b植物をそれぞれ交配することにより、ブロムモザイクウイルスベクターを誘導発現し、さらにサプレッサー遺伝子を誘導発現する形質転換植物(GVG1xB2xGRxGVG-NSs植物、GVG1xB2xGRxGVG-P19植物、GVG1xB2xGRxGVG-2b植物)を作出した。
【0126】
図2は、GVG1xB2xGRxGVG-2b植物と、GVG1xB2xGRxGVG-NSs植物におけるノーザンブロッティングの結果を示すものである。得られた植物の播種4週間後の展開葉にDEX処理を行ったところ、GVG1xB2xGRxGVG-NSs植物では、処理2日後にウイルスベクターRNAの蓄積が認められた。また処理8日後においてもウイルスベクターRNAの高い蓄積が認められ、さらにGFP蛍光が観察された。処理後8日目のウイルスベクターRNAの蓄積量と、NSs遺伝子の発現量には相関が認められたことから、誘導発現したNSs遺伝子が処理後長期間経過後のウイルスベクターRNAの高い蓄積量に関与していることが明らかとなった。
【0127】
一方、GVG1xB2xGRxGVG-P19植物は、DEX処理後に処理葉が壊死し、ウイルスベクターRNAおよびGFPを検出することが困難であった。また、GVG1xB2xGRxGVG-2b植物の場合は、処理後2日目にはウイルスベクターRNAの蓄積が認められたが、処理後8日目にはウイルスベクターRNAの量は低下した。このとき、GFP蛍光は認められなかった。
【0128】
以上の結果から、NSs遺伝子には、他のサプレッサー遺伝子とは異なり、BMVウイルスベクター誘導発現植物において、感染後期におけるウイルスベクターRNAと、外来タンパク質の蓄積量を増大させる効果があることが明らかとなった。
【0129】
本発明に係る形質転換植物は、発現させるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含み、サイレンシングサプレッサーをコードするポリヌクレオチドを含まない植物RNAウイルスベクターと、NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドとが少なくとも導入されている形質転換植物であって、上記植物RNAウイルスベクターに含まれるポリヌクレオチドのうち、少なくとも一つは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えており、上記NSsタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、当該ポリヌクレオチドの上流に発現誘導型のプロモーターを備えるものであるという構成である。
【0130】
したがって、NSsタンパク質の発現時期が最適化され、サイレンシング反応を抑制することができ、感染後期におけるウイルスベクターRNAの蓄積量を増やすことができるとともに、生育異常を回避することができる。それゆえ、本発明は、外来タンパク質の発現量を効率的に増加させることができるという効果を奏する。
【0131】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内において、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、サイレンシングサプレッサーを有さない植物RNAウイルスベクターを用いた増幅系においても、サイレンシングおよび生育異常を起こすことなく、効率的に外来タンパク質を生産可能な形質転換植物、形質転換細胞、タンパク質生産キットおよびタンパク質の生産方法を提供するものである。したがって、生産された有用タンパク質の用途により、医薬品産業や食品産業等に利用可能である。また、広く農業の発展にも大いに貢献できるものである。
図面
【図1】
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【図2】
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