TOP > 国内特許検索 > ウイルスベクターおよびその利用 > 明細書

明細書 :ウイルスベクターおよびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5070283号 (P5070283)
登録日 平成24年8月24日(2012.8.24)
発行日 平成24年11月7日(2012.11.7)
発明の名称または考案の名称 ウイルスベクターおよびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12N   1/15        (2006.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12N   1/21        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/00 101
C12P 21/02 C
請求項の数または発明の数 20
全頁数 24
出願番号 特願2009-512912 (P2009-512912)
出願日 平成20年4月11日(2008.4.11)
国際出願番号 PCT/JP2008/057170
国際公開番号 WO2008/136253
国際公開日 平成20年11月13日(2008.11.13)
優先権出願番号 2007120181
優先日 平成19年4月27日(2007.4.27)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年2月8日(2010.2.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】森 正之
【氏名】土肥 浩二
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】戸来 幸男
参考文献・文献 国際公開第2006/003018(WO,A1)
Plant Cell,2002年,vol.14, no.6,pp.1207-1222
Plant J.,2002年,vol.30, no.5,pp.593-600
Arch. Virol.,2006年,vol.151, no.6,pp.1075-1084
調査した分野 C12N 15/00-15/90
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
タバコモザイクウイルスまたはトマトモザイクウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、
タバコモザイクウイルスまたはトマトモザイクウイルスの塩基配列は、タバコモザイクウイルスまたはトマトモザイクウイルスの複製タンパク質をコードする第1の塩基配列およびタバコモザイクウイルスまたはトマトモザイクウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列を含み、第2の塩基配列は第1の塩基配列の下流に位置し、かつ発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位を、第2の塩基配列の下流に有しており、
第2の塩基配列は、タバコモザイクウイルスまたはトマトモザイクウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入、置換または付加されており、
第2の塩基配列に挿入、置換または付加される上記塩基配列は、イントロン以外の配列であり、その塩基長が100塩基長以上の配列である
ことを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項2】
第2の塩基配列は、配列番号20に示される塩基配列の第17位~第795位のいずれかの位置に、さらなる塩基配列が挿入されていることを特徴とする請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記複製タンパク質が、以下のポリペプチド:
・配列番号1および2に示される、各アミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは
・配列番号1および2に示されるアミノ酸配列の少なくとも一方のアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加された、各アミノ酸配列からなるポリペプチド
であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記移行タンパク質が、以下のポリペプチド:
・配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは
・配列番号3に示されるアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド
であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
第2の塩基配列からなるポリヌクレオチドが、以下のポリヌクレオチド:
・配列番号4~17のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;
・配列番号4~17のいずれか1つに示される塩基配列の1または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;
・配列番号4~17のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;あるいは
・配列番号4~17のいずれか1つに示される塩基配列と少なくとも80%同一であるポリヌクレオチド
であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含んでいることを特徴とするベクター。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含んでいることを特徴とする植物。
【請求項8】
請求項6に記載のベクターを含んでいることを特徴とする植物。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含んでいることを特徴とする形質転換体。
【請求項10】
請求項6に記載のベクターを含んでいることを特徴とする形質転換体。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを用いて植物を形質転換またはトランスフェクトする工程を包含することを特徴とするポリペプチド生産方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴とするポリペプチド生産方法。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを備えていることを特徴とするポリペプチド生産用キット。
【請求項14】
請求項6に記載のベクターを用いて植物を形質転換またはトランスフェクトする工程を包含することを特徴とするポリペプチド生産方法。
【請求項15】
請求項6に記載のベクターを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴とするポリペプチド生産方法。
【請求項16】
請求項6に記載のベクターを備えていることを特徴とするポリペプチド生産用キット。
【請求項17】
請求項7または8に記載の植物を用いる工程を包含することを特徴とするポリペプチド生産方法。
【請求項18】
請求項9または10に記載の形質転換体を用いる工程を包含することを特徴とするポリペプチド生産方法。
【請求項19】
請求項7または8に記載の植物を備えていることを特徴とするポリペプチド生産用キット。
【請求項20】
請求項9または10に記載の形質転換体を備えていることを特徴とするポリペプチド生産用キット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスの塩基配列からなるポリヌクレオチドを用いて、タンパク質を生産する技術に関するものであり、より詳細には、ウイルスの改変された塩基配列を含むポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを含むベクター、当該ベクターが導入された植物または形質転換体、ならびに当該ポリヌクレオチド、当該ベクター、当該植物または当該形質転換体を用いたタンパク質生産方法およびタンパク質生産用キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物において、有用タンパク質を生産する方法としては、植物細胞に外来遺伝子を導入した形質転換植物を用いる方法、およびウイルスベクターを植物細胞に感染させる方法が挙げられる。ウイルスベクターを用いる方法は、形質転換植物を用いる方法に比して発現効率が高いという利点を有している。
【0003】
非特許文献1には、ウイルスベクターを組み込んだ2つ以上のアグロバクテリウムを植物細胞に感染させ、植物細胞中において外来遺伝子を発現させる方法が開示されている。この方法によれば、有用タンパク質をコードする種々の遺伝子の組み合わせを試験する際に、複数の遺伝子毎にコンストラクトを作製する必要がないため、多くのタンパク質の機能等を解析するのに有効である。また、非特許文献1に記載のウイルスベクターは、発現速度が速くかつ安価に構築可能であり、従来の遺伝子組換え工程を省略可能であるという利点も有している。
【0004】
植物において生産される有用タンパク質は、食糧のみならず医薬品等にも用いられるため、高効率に大量生産することが望まれており、本発明者らは、ウイルスベクターを用いたタンパク質生産系を構築している(特許文献1~3)。
【0005】
ウイルスベクターを用いた他のタンパク質生産系として、転写産物の生成効率を向上させることによって、有用タンパク質の生産量を増加させる方法が特許文献4に開示されている。特許文献4には、ウイルスベクターの複製配列にイントロン配列を挿入し、得られたウイルスベクターを宿主細胞に導入することによって、目的のタンパク質を発現させる方法が開示されている。この方法によれば、ウイルスベクターの複製配列のうち、アデノシン(A)、ならびにチミジン(T)またはウラシル(U)を多く含むイントロン様領域を除去、または植物細胞由来のイントロンで置換することによって、植物細胞内での転写産物の分解を抑制し生成効率を向上させるため、目的とするタンパク質の生産量を増加させることが可能である。
【0006】
一方、宿主細胞に導入された、ポティウイルスの塩基配列を含むベクターの複製効率を向上させる方法が、非特許文献2および3に記載されている。非特許文献2および3に記載の方法では、ポティウイルスの塩基配列にイントロン配列を挿入し、当該変異配列を含むベクターを大腸菌に導入している。当該ベクターが導入された大腸菌内においては、イントロンの挿入によって、ポティウイルスの塩基配列のコードするウイルスのタンパク質の発現が抑制されるため、大腸菌に対するウイルスの毒性が抑えられ、大腸菌の生育状態が向上する。その結果、大腸菌内のベクターの複製効率を向上し得る。

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2005-102652号公報(公開日:2005年4月21日)」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2005-245228号公報(公開日:2005年9月15日)」
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2005-110594号公報(公開日:2005年4月28日)」
【特許文献4】WO2005/049839号公報(2005年2月6日公開)
【非特許文献1】S.Marillonnetら、PNAS,101(18):6852-6857(2004)
【非特許文献2】I.E.Johansen、PNAS.USA,93:12400-12405(1996)
【非特許文献3】S.J.Yangら、Arch Virol,143:2443-2451(1998)
【発明の開示】
【0007】
ウイルスのDNA配列を含むベクターを大腸菌、アグロバクテリウム等の宿主細胞に導入した場合、宿主細胞の生育が低下し、全く生育しなくなるか、生育したとしても増殖効率が非常に悪い。その結果、得られるベクターの収量が減少し、当該ベクターを用いて、目的とする有用タンパク質を効率よく生産することができないという問題がある。
【0008】
上述した従来のタンパク質生産方法によれば、宿主細胞内における転写活性を向上させる、または転写産物の生成量を増加させることによって、目的とする有用タンパク質の生産量を増加させることが可能である。しかしながら、ウイルスの塩基配列を含むベクターが導入された宿主細胞の生育状態については考慮されていない。このため、宿主細胞の生育低下によって、ウイルスの塩基配列を含むベクターの収量が低下する。それゆえ、当該ベクターを用いた遺伝子組換え操作を効率よく行うことが困難である。すなわち、当該ベクターをタンパク質の生産に用いる場合、ベクター収量の低下によって、当該ベクターを用いた有用タンパク質の生産量が減少してしまう。
【0009】
また、非特許文献2および3に記載の方法は、宿主細胞の生育状態を改善させるものであるが、ウイルス配列中にイントロンを挿入することによってウイルスタンパク質の発現を抑制している。したがって、転写産物の各分子からイントロン配列が切り出される必要があるため、ベクターに含まれるウイルスの増殖能が低下し、当該ベクターを利用した効率の良い有用タンパク質の生産に適用することができない。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウイルスの塩基配列からなるポリヌクレオチドを用いて、当該ポリヌクレオチドを含むベクターが導入された宿主細胞の生育状態を改善させることによって、細胞内におけるベクターの複製効率を向上させ、かつ当該ベクターを用いたタンパク質の生産効率を向上させるための技術を提供することにある。
【0011】
本発明者らは、宿主細胞の生育状態を低下させることがなく、かつウイルスベクターの複製能力を失うことがない、ウイルスの塩基配列を含むベクターを構築することを目的とし、その必要条件を検討した。その結果、トマトモザイクウイルスの塩基配列の特定領域を改変することによって、当該ウイルスの塩基配列を含むベクターが導入された宿主細胞の生育状態が低下せず、その結果として、細胞内におけるベクターの収量が増加することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、ウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、該ウイルスの塩基配列は、ウイルスの複製タンパク質をコードする第1の塩基配列およびウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列を含み、第2の塩基配列は第1の塩基配列の下流に位置し、かつ発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位を、第2の塩基配列の下流に有しており、第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入、置換または付加されていることを特徴とする。
【0013】
上記ウイルスは、トバモウイルス属に属するウイルスであることが好ましい。また、上記ウイルスは、タバコモザイクウイルスまたはトマトモザイクウイルスであることが好ましい。
【0014】
上記複製タンパク質が、以下のポリペプチド:・配列番号1および2に示される、各アミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは・配列番号1および2に示されるアミノ酸配列の少なくとも一方のアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加された、各アミノ酸配列からなるポリペプチドであることが好ましい。
【0015】
また、上記移行タンパク質が、以下のポリペプチド:配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;あるいは配列番号3に示されるアミノ酸配列の1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであることが好ましい。
【0016】
第2の塩基配列からなるポリヌクレオチドが、以下のポリヌクレオチド:配列番号4~17のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;あるいは配列番号4~17のいずれか1つに示される塩基配列の1または数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;配列番号4~17のいずれか1つに示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;または配列番号4~17のいずれか1つに示される塩基配列と少なくとも80%同一であるポリヌクレオチドであることが好ましい。
【0017】
また第2の塩基配列に挿入、置換または付加される塩基配列の塩基長が、100塩基長以上であることが好ましい。さらに第2の塩基配列は、配列番号20に示される塩基配列の第17位~第795位のいずれかの位置に、さらなる塩基配列が挿入されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係るベクターは、上記ポリヌクレオチドのいずれか1つを含んでいることを特徴としている。
【0019】
本発明に係る植物は、上記ポリヌクレオチドのいずれか1つを含んでいることを特徴としている。
【0020】
本発明に係る植物は、上記ベクターを含んでいることを特徴としている。
【0021】
本発明に係る形質転換体は、上記ポリヌクレオチドのいずれか1つを含んでいることを特徴としている。
【0022】
本発明に係る形質転換体は、上記ベクターを含んでいることを特徴としている。
【0023】
本発明に係るポリペプチド生産方法は、上記ポリヌクレオチドを用いて植物を形質転換またはトランスフェクトする工程を包含することを特徴としている。
【0024】
本発明に係るポリペプチド生産方法は、上記ポリヌクレオチドを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴としている。
【0025】
本発明に係るポリペプチド生産用キットは、上記ポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている。
【0026】
本発明に係るポリペプチド生産方法は、上記ベクターを用いて植物を形質転換またはトランスフェクトする工程を包含することを特徴としている。
【0027】
本発明に係るポリペプチド生産方法は、上記ベクターを用いて細胞を形質転換する工程を包含することを特徴としている。
【0028】
本発明に係るポリペプチド生産用キットは、上記ベクターを備えていることを特徴としている。
【0029】
本発明に係るポリペプチド生産方法は、上記植物を用いる工程を包含することを特徴としている。
【0030】
本発明に係るポリペプチド生産方法は、上記形質転換体を用いる工程を包含することを特徴としている。
【0031】
本発明に係るポリペプチド生産用キットは、上記植物を備えていることを特徴としている。
【0032】
本発明に係るポリペプチド生産用キットは、上記形質転換体を備えていることを特徴としている。
【0033】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明に係るウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチドの構造を示す模式図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施例において構築したプラスミドコンストラクトの構造を示す模式図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施例において構築したプラスミドコンストラクトの構造を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施例において、プラスミドコンストラクトを保持する大腸菌のコロニーの直径を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の実施例において構築したプラスミドコンストラクトの構造を示す模式図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
ウイルスの塩基配列を含むベクターを宿主細胞内に導入したとき、宿主細胞の生育状態が低下することによってベクターの増殖効率が低下する。その結果、該ベクターを用いた、外来遺伝子がコードするタンパク質の生産量が低下する。
【0036】
本発明者らは、ウイルスの塩基配列を含み、宿主細胞の生育状態を低下させることがないベクターを構築することによって、効率的なタンパク質生産系を構築することを目的とし、その必要条件を検討した。
〔1:ウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドを含むベクター〕
本発明は、ウイルスの複製タンパク質をコードする第1の塩基配列およびウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列を含むウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0037】
本発明に係るウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチドは、ウイルスベクターとして機能し得るポリヌクレオチドであることが意図される。本明細書中において使用される場合、「ウイルスベクター」は、ウイルスゲノム由来配列を含むポリヌクレオチドであって、外来遺伝子を発現可能に含むものが意図され、ウイルス由来RNA配列を含むRNA、またはウイルス由来RNAのcDNA配列を含むDNAであって、外来遺伝子を発現可能に含むもの、またはこれから転写されたRNAであることが好ましい。
【0038】
本発明に係るポリヌクレオチドは、第1の塩基配列の下流に第2の塩基配列を有している。本発明に係るポリヌクレオチドは、ウイルス由来のネイティブな塩基配列の一部または全部を含み、細胞に任意のタンパク質を生産させるために使用し得る。
【0039】
本明細書中で使用される場合、「ウイルスの塩基配列」は、野生型ウイルスのゲノム塩基配列であることが意図され、RNAウイルスのゲノムRNA、または当該ゲノムRNAから得られるcDNAであることが好ましい。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「ウイルスの複製タンパク質」は、ウイルス由来のタンパク質であって、ウイルスの複製に関与するタンパク質が意図され、単に「複製タンパク質」と称する場合もある。ウイルスの複製に関与するタンパク質は、ウイルスが感染した細胞内において、ウイルスを複製するタンパク質が意図され、例えば、従来公知の複製タンパク質が挙げられ、具体的には、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RNA dependent RNA polymerase:RdRP)、RNA複製酵素、タバコモザイクウイルス130Kタンパク質、タバコモザイクウイルス180Kタンパク質、トマトモザイクウイルス130Kタンパク質、トマトモザイクウイルス180Kタンパク質等を挙げることができる。
【0041】
ウイルスの複製タンパク質をコードする塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな塩基配列であることが好ましいが、ウイルス由来のネイティブな配列が変異したものであって、複製機能活性を有するタンパク質をコードする塩基配列であり得る。本明細書中で使用される場合、「複製機能活性」は、ウイルスが感染した細胞内において、ウイルスを複製する機能活性が意図される。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「ウイルスの移行タンパク質」は、ウイルス由来のタンパク質であって、ウイルスの細胞間移行に関与するタンパク質が意図され、単に「移行タンパク質」と称する場合もある。ウイルスの細胞間移行に関与するタンパク質は、ウイルスが感染した細胞に隣接する細胞に、ウイルスを移行することによるウイルスの感染拡大に寄与するタンパク質が意図され、例えば、従来公知の移行タンパク質が挙げられ、具体的には、タバコモザイクウイルス30Kタンパク質、トマトモザイクウイルス30Kタンパク質等を挙げることができる。
【0043】
ウイルスの移行タンパク質をコードする塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな塩基配列であることが好ましいが、ウイルス由来のネイティブな配列が変異したものであって、移行機能活性を有するタンパク質をコードする塩基配列であり得る。また、ウイルス由来のネイティブな配列が変異したものであって、変異により移行機能活性を喪失したタンパク質をコードする塩基配列であってもよい。本明細書中で使用される場合、「移行機能活性」は、ウイルスが感染した細胞に隣接する細胞に、ウイルスを移行する機能活性が意図される。
【0044】
上記ウイルスは、トバモウイルス属に属するウイルスであることが好ましいが、これに限定されない。また、上記ウイルスとしては、タバコモザイクウイルス(TMV)、タバコモザイクウイルス普通系(TMV-OM)、タバコモザイクウイルスCg系(TMV-Cg)、トマトモザイクウイルス(ToMV)、およびSunn-hempモザイクウイルス(SHMV)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
ウイルスの複製タンパク質および移行タンパク質について、トマトモザイクウイルスを例に挙げて説明する。トマトモザイクウイルスは、トバモウイルス属に属するウイルスである。
【0046】
トマトモザイクウイルスの複製タンパク質を構成するポリペプチドは、配列番号1および2に示される、各アミノ酸配列として提供され、これらのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを構成する塩基配列は、配列番号18および19に示される、各塩基配列として提供される。
【0047】
1つの局面において、トマトモザイクウイルスの複製タンパク質は、配列番号1および2に示される、各アミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはこれらのポリペプチドをコードする各アミノ酸配列の少なくとも一方が変異したアミノ酸配列からなり、かつウイルスゲノムを複製する機能活性を有するポリペプチドであり得る。
【0048】
他の局面において、トマトモザイクウイルスの複製タンパク質は、配列番号18および19に示される、各塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいはこれらのポリヌクレオチドの少なくとも一方が変異した塩基配列によってコードされるポリペプチドであって、ウイルスゲノムを複製する機能活性を有するポリペプチドであり得る。
【0049】
すなわち、トマトモザイクウイルスの複製タンパク質は、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる130Kタンパク質(126Kタンパク質と称されることもある)、および配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる180Kタンパク質(183Kタンパク質と称されることもある)の2つのタンパク質によって構成される。この130Kタンパク質は、配列番号35に示されるトマトモザイクウイルスのゲノム配列の直接翻訳産物であり、配列番号18に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされている。180Kタンパク質は、配列番号35に示されるトマトモザイクウイルスのゲノム配列のリードスルー翻訳産物であり、配列番号19に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされている。
【0050】
トマトモザイクウイルスの移行タンパク質を構成するポリペプチドは、配列番号3に示されるアミノ酸配列として提供され、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを構成する塩基配列は、配列番号20に示される塩基配列として提供される。
【0051】
1つの局面において、トマトモザイクウイルスの移行タンパク質は、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または当該ポリペプチドの変異体でありかつ細胞間においてウイルスゲノムを移行する機能活性を有するポリペプチドであり得る。また、当該ポリペプチドの変異体であって、変異により移行機能活性を喪失したポリペプチドであってもよい。
【0052】
他の局面において、トマトモザイクウイルスの移行タンパク質は、配列番号20に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、または当該ポリヌクレオチドの変異体によってコードされるポリペプチドであって、ウイルスゲノムを細胞間において移行する機能活性を有するポリペプチドであり得る。また、当該ポリヌクレオチドの変異体によってコードされるポリペプチドであって、変異により移行機能活性を喪失したポリペプチドであってもよい。
【0053】
本明細書中においてタンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、具体的なアミノ酸配列が異なっていても、野生型ポリペプチドの有する活性を保持するポリペプチドが意図される。すなわち、本明細書中において使用される場合、ポリペプチドの変異体は、特定のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を含む変異体であり得る。
【0054】
ポリペプチドのアミノ酸配列におけるいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変し得ることは、当該分野において周知である。さらに人為的に改変させるだけではなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。
【0055】
このように、ウイルスの複製タンパク質および移行タンパク質を具体的に説明するために、トマトモザイクウイルスを例に挙げて説明したが、本発明において、上記ウイルスがトマトモザイクウイルスに限定されないことを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0056】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「タンパク質」は、「ペプチド」または「ポリペプチド」と交換可能に使用される。また、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)、またはリボヌクレオチド(A、G、CおよびUと省略される)の配列として示される。
【0057】
本発明に係るポリヌクレオチドは、発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位を、第2の塩基配列の下流に有しており、第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入、置換または付加されていることを特徴としている。すなわち、第1の塩基配列の下流であって、外来塩基配列を連結するための連結部位の上流に位置する、ウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列にさらなる塩基配列が挿入、置換または付加されている。
【0058】
本発明に係るポリヌクレオチドにおいて、第2の塩基配列は、配列番号4~17に示されるポリヌクレオチド、または当該ポリヌクレオチドの変異体として提供される。
【0059】
本明細書中において遺伝子またはポリヌクレオチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、具体的な塩基配列が異なっても、野生型ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの有する活性を保持したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図される。すなわち、本明細書中において使用される場合、ポリヌクレオチドの変異体は、(I)特定の塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;(II)特定の塩基配列またはその相補配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;または(III)特定の塩基配列と少なくとも80%同一な塩基配列からなるポリヌクレオチド、であることが意図される。
【0060】
ハイブリダイゼーションは、「Molecular Cloning:A Laboratory Manual 第3版,J.SambrookおよびD.W.Russll編,Cold Spring Harbor Laboratory,NY(2001)」(本明細書中に参考として援用される)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。
【0062】
本発明に係るポリヌクレオチドにおいて、発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位は、第1の塩基配列の下流に存在する第2の塩基配列の、さらに下流に位置している。そして、上記連結部位に外来塩基配列を連結し、外来塩基配列を含むポリヌクレオチドを用いて細胞を形質転換することによって、外来塩基配列がコードするポリペプチドを細胞内にて発現させることが可能である。なお、本発明に係るポリヌクレオチドに連結される外来塩基配列は、上記連結部位において、第2の塩基配列に隣接して配置される必要はない。
【0063】
また、本発明に係るポリヌクレオチドが有する外来塩基配列を連結するための連結部位は、具体的なカセットとして本発明のポリヌクレオチドの塩基配列中に存在している必要はなく、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列に、外来塩基配列を挿入かつ連結し得る構成であればよい。本発明に係るポリヌクレオチドは、上記連結部位に連結した外来塩基配列からなる遺伝子を増幅し、当該遺伝子産物の生産を可能にするものである。
【0064】
本発明に係るポリヌクレオチドにおいて、第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入、置換または付加されていることを特徴としている。本明細書中で使用される場合、「ウイルス由来のネイティブな配列」は、野生型ウイルス固有の配列であることが意図され、野生型ウイルスから得られる配列に変異が加えられていない、天然の配列であり得る。
【0065】
また、本発明に係る第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな塩基配列の変異体であって、移行機能活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列に対して、さらなる塩基配列が挿入、置換または付加されていてもよい。さらに、本発明に係る第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな塩基配列の変異体であって、変異により移行機能活性を喪失したポリペプチドをコードする塩基配列に対して、さらなる塩基配列が挿入、置換または付加されていてもよい。
【0066】
本発明に係るポリヌクレオチドにおいて、第2の塩基配列に対して挿入、置換または付加されるさらなる塩基配列は、一定の塩基長からなる塩基配列であればよく、その配列または由来は問わない。本明細書中で使用される場合、第2の塩基配列に対して挿入、置換または付加されるさらなる塩基配列は、単に「挿入配列」と称する場合もある。後述する本発明の一実施例においては、挿入配列として大腸菌トランスポゾンIS2由来配列およびGUS遺伝子の逆相補鎖由来配列を採用したが、好適に用いることができた。
【0067】
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドにおいて使用される挿入配列は、100塩基以上であり得、100~1609塩基であることが好ましく、300~1609塩基であることがより好ましい。本発明に係るポリヌクレオチドの第2の塩基配列に対して、100塩基長以上の挿入配列を挿入、置換または付加することによって、後述する実施例に示すように、当該ポリヌクレオチドが導入された宿主細胞の生育状態をさらに改善することができる。これにより、細胞内におけるベクターの複製効率が向上し、ベクターの収量をさらに増加させることが可能である。
【0068】
本発明に係るポリヌクレオチドにおいて使用される第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列中のいずれかの位置に上記挿入配列が挿入されていればよい。好ましい挿入位置は、第1の塩基配列のC末端領域と、連結部位に連結される外来塩基配列の開始コドン領域との間に存在する、第2の塩基配列領域であり、より好ましくは、第1の塩基配列の終止コドンと外被タンパク質をコードする塩基配列のサブゲノムプロモーターの間であるが、これに限定されない。また第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に上記挿入配列が付加されていてもよく、ウイルス由来のネイティブな配列の一部が、挿入配列によって置換された配列であってよい。さらに第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列の一部を除去し、配列が除去された部位に挿入配列が挿入された配列であってもよい。
【0069】
すなわち本発明に係る第2の塩基配列は、ウイルスゲノムの細胞間移行に関する機能を保持したタンパク質をコードする配列に対して、上述したような変異が加えられた配列が意図される。
【0070】
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドにおいて使用される第2の塩基配列の任意の位置に挿入配列が挿入され得る。挿入配列の挿入位置は特に限定されないが、配列番号20に示される塩基配列の第17位~第795位のいずれかの位置であることが好ましく、第17位~第620位のいずれかの位置であることがより好ましい。
【0071】
また、本発明に係るポリヌクレオチドにおいて使用される第2の塩基配列は、配列番号20に示される塩基配列の5’または3’末端に上記挿入配列が付加された配列であってもよく、配列番号20に示される塩基配列の一部が、上記挿入配列によって置換された配列であってもよい。
【0072】
本発明はさらに、任意のポリペプチドを生産するためのベクターを提供する。本発明に係るベクターは、ウイルスの複製タンパク質をコードする第1の塩基配列およびウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列を含むウイルスの塩基配列を含み、第2の塩基配列は第1の塩基配列の下流に位置しており、かつ発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位を、第2の塩基配列の下流に有しており、第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入、置換または付加されているポリヌクレオチドを含み、本ベクターを組み込む宿主細胞内において当該ポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであり得る。
【0073】
ウイルスの塩基配列を含むベクターは変異が生じやすく、構築するのが非常に困難であり、発現させるべき外来遺伝子との組み合わせによっては、ベクターを構築するのが不可能であった。本発明のポリヌクレオチドを用いれば、これまで作製することができなかった外来遺伝子を含むベクターであっても、構築することが可能であった。このことから、本発明のポリヌクレオチドを用いて構築したベクターは、変異の発生が抑制され、安定していると推測される。
【0074】
また、本発明に係るベクターは、導入された宿主細胞の生育状態を改善し、宿主細胞内における複製効率を向上させることが可能である。このため、複製されたベクターを用いて外来遺伝子がコードする有用タンパク質を効率よく生産することが可能である。
【0075】
本発明に係るポリヌクレオチドを含むベクターとしては、例えば、導入したポリヌクレオチドを発現させることが可能な適当なpBR系、pUC系等の発現ベクター(ファージベクター或いはプラスミドベクター等)を使用することが可能であり、の本発明に係るベクターを組み込む宿主細胞中において上記ポリヌクレオチドを発現することが可能なベクターを適宜選択し得る。また、植物細胞のゲノムに組み込まれる性質を有するベクターとして、pBI系、pCAMBIA系等のベクタ—を使用することが可能であり、例えば、のTiプラスミドベクターを使用してもよい。
【0076】
なお、本発明に係るポリヌクレオチドおよびベクターの構築方法は特に限定されるものではなく、公知の遺伝子工学的手法を用いればよい。
【0077】
本発明のポリヌクレオチドを用いて構築したベクターは、外来遺伝子がコードするタンパク質の生産に好適に使用し得る。すなわち、本発明に係るポリヌクレオチドを含むベクターを用いて宿主細胞を形質転換することによって、宿主細胞の生育状態を低下させることなく、効率よくベクターを複製し得、複製されたベクターを用いて、外来遺伝子がコードするタンパク質を効率よく生産することが可能である。
【0078】
なお、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターに含まれる連結部位に連結される外来遺伝子の種類は特に限定されず、例えばGFP遺伝子、ヒト由来ガンマインターフェロン遺伝子、アルファインターフェロン遺伝子、カルモジュリン遺伝子、ミオシンフォスファターゼ阻害タンパク質(CPI-17)機能ドメイン遺伝子(アミノ酸残基22から120)、一本鎖抗体遺伝子等を連結することが可能である。本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを用いれば、これらの遺伝子を含むベクターを容易に作製し、効率よくベクターを複製し得、複製されたベクターを用いて、これらの遺伝子がコードするタンパク質を効率よく生産することが可能である。
【0079】
〔2.ウイルスの塩基配列を含む植物〕
本発明はさらに、ウイルスの塩基配列を含む植物を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「植物」は、植物細胞および植物個体を含むことが意図され、例えばアラビドプシス、タバコ、ベンサミアーナ等の植物、タバコBY2細胞、アラビドプシスmm2d細胞等の植物細胞であり得る。
【0080】
本発明に係る植物は、ウイルスの複製タンパク質をコードする第1の塩基配列およびウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列が導入されており、第2の塩基配列は第1の塩基配列の下流に位置し、かつ発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位を、第2の塩基配列の下流に有しており、第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入、置換または付加されていることを特徴としており、上記ポリペプチドを効率よく発現し得る。
【0081】
一実施形態において、本発明に係る植物は、ウイルスの複製タンパク質をコードする第1の塩基配列およびウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列を含むウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、第2の塩基配列は第1の塩基配列の下流に位置し、かつ発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位を、第2の塩基配列の下流に有しており、第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入または付加されているポリヌクレオチド、または当該ポリヌクレオチドを含んでいるベクターを生物中に取り込ませることによって取得され得る。
【0082】
1つの局面において、本発明に係る植物は、本発明に係るポリヌクレオチド、または本発明に係るポリヌクレオチドを含むベクターを用いて植物または植物細胞を形質転換することによって取得され得る。例えば、本発明に係るポリヌクレオチドを、エレクトロポレーション等によって植物細胞に導入することによって、本発明に係る植物を取得することが可能である。
【0083】
他の局面において、本発明に係る植物は、本発明に係るポリヌクレオチド、または本発明に係るポリヌクレオチドを含むベクターを、植物または植物細胞にトランスフェクトすることによって取得され得る。例えば本発明に係るポリヌクレオチドを、植物または植物細胞に感染させることによって、本発明に係る植物を取得することが可能である。また、本発明に係るポリヌクレオチドにプロモーターを付加したcDNAが組み込まれたプラスミドを植物細胞にトランスフェクトし、細胞内においてcDNAを転写させることによっても、本発明に係る植物を取得し得る。さらに、本発明に係るポリヌクレオチドのcDNAを植物細胞にトランスフェクトし、細胞内においてcDNAを転写させることによっても、本発明に係る植物を作製することが可能である。
【0084】
また、本発明に係る植物は、例えば、本発明に係るポリヌクレオチドを含むプラスミドベクターが導入されたアグロバクテリウムを植物細胞に感染させることによっても、取得することが可能である。さらに、アグロバクテリウムを利用した、アグロインフィルトレーション法によっても、本発明に係る植物を作製することが可能である。具体的には、本発明に係るポリヌクレオチドを含むアグロバクテリウムを培養した培養液を、植物体の細胞間隙に浸潤させることによって、植物体に対して局所的に本発明に係るポリヌクレオチドを導入する。
【0085】
すなわち、本発明に係る植物は、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを用いて形質転換された形質転換植物であってもよく、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターに感染した感染植物であってもよい。本発明に係る植物が、形質転換植物である場合、本発明に係るポリヌクレオチドが、植物のゲノムに組み込まれていない状態で一過性の発現をする、一過性形質転換体であってもよく、植物内に取り込まれた本発明に係るポリヌクレオチドが、植物細胞のゲノムに組み込まれ安定的に発現しつづける、安定形質転換体であってもよい。また、形質転換植物は、導入された本発明に係るポリヌクレオチドを恒常的に発現するものであってもよく、ステロイドホルモン等によって誘導的に発現するものであってもよい。本発明に係る植物が、感染植物である場合、植物全体が本発明に係るポリヌクレオチドに感染していてもよく、局所的に感染していてもよい。
【0086】
このように、本発明に係る植物を用いれば、植物内に本発明に係るポリヌクレオチドを含んでいるため、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターに任意の外来遺伝子が組み込まれたとき、当該遺伝子がコードするタンパク質を効率よく生産することができる。
【0087】
〔3.ウイルスの塩基配列を含む形質転換体〕
本発明はさらに、ウイルスの塩基配列を含む形質転換体を提供する。用語「形質転換体」は、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体をも含むことが意図されるが、細胞(特に、原核生物細胞、菌類など)であることが好ましい。本発明に係る形質転換体は、例えば、大腸菌、アグロバクテリウム、酵母等であり得る。
【0088】
本発明に係る形質転換体は、ウイルスの複製タンパク質をコードする第1の塩基配列およびウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列が導入されており、第2の塩基配列は第1の塩基配列の下流に位置し、かつ発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位を、第2の塩基配列の下流に有しており、第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入、置換または付加されているポリヌクレオチドを含むことを特徴としており、上記ポリペプチドの効率よい発現に利用し得る。
【0089】
一実施形態において、本発明に係る形質転換体は、ウイルスの複製タンパク質をコードする第1の塩基配列およびウイルスの移行タンパク質をコードする第2の塩基配列を含むウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチドであって、第2の塩基配列は第1の塩基配列の下流に位置し、かつ発現させるべきポリペプチドをコードする外来塩基配列を連結するための連結部位を、第2の塩基配列の下流に有しており、第2の塩基配列は、ウイルス由来のネイティブな配列に対してさらなる塩基配列が挿入または付加されているポリヌクレオチド、または当該ポリヌクレオチドを含んでいるベクターを生物中に取り込ませることによって取得され得る。
【0090】
1つの局面において、本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチド、または本発明に係るポリヌクレオチドを含むベクターを用いて、生物体を形質転換することによって取得され得る。例えば、本発明に係るポリヌクレオチドが組み込まれたプラスミドを塩化カルシウム法等によって大腸菌に導入することによって、本発明に係る形質転換体を取得し得る。
【0091】
このように、本発明に係る形質転換体を用いれば、例えば宿主内に導入された本発明に係るベクターの収量が向上するため、当該ベクターに任意の外来遺伝子が組み込まれたとき、当該遺伝子がコードするタンパク質を生産するためのベクターを容易にかつ効率よく生産することができる。また、例えば形質転換体の生育が改善されるため、本発明にかかるベクターに任意の外来遺伝子が組み込まれたとき、上記形質転換体を用いて当該遺伝子がコードするタンパク質を効率よく生産することができる。
【0092】
〔4.細胞に任意のポリペプチドを生産させるための方法およびキット〕
本発明は、上記ポリヌクレオチド、ベクター、植物または形質転換体を用いるポリペプチドの生産方法、上記ポリヌクレオチド、ベクター、植物または形質転換体を備えているポリペプチド生産用キットもまた提供する。
【0093】
本発明に係るポリペプチド生産方法は、上述したポリヌクレオチド、ベクター、植物または形質転換体を用いることを特徴としている。また、本発明に係るポリペプチド生産用キットは、上述したポリヌクレオチド、ベクター、植物または形質転換体を備えていることを特徴としている。なお、本明細書中で使用される場合、「キット」は各種成分の少なくとも1つが別物質(例えば、容器)中に含有されている状態であることが意図される。
【0094】
本発明は、任意のポリペプチドを効率よく生産する方法およびキットを提供する。本発明に係る細胞に任意のポリペプチドを生産させる方法を用いれば、ウイルスの塩基配列が導入された細胞であっても、その生育状態が低下しないため、ポリペプチドを効率よく生産し得る。
【0095】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリヌクレオチド、または当該ポリヌクレオチドを含むベクターを用いることを特徴としており、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを用いて、植物体および植物細胞を含む生物体を形質転換またはトランスフェクトする工程を包含する。上記の工程により形質転換またはトランスフェクトされた生物体内において、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターに含まれる外来塩基配列がコードするポリペプチドが発現される。
【0096】
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチド生産方法は、本発明に係る植物または形質転換体を用いることを特徴としており、本発明に係る植物または形質転換体を、ポリペプチドを発現し得る条件下で生育または培養する工程を包含する。上記の工程により植物または形質転換体内において、これらの生物体内に含まれる外来塩基配列がコードするポリペプチドが発現される。
【0097】
上述したように、本発明に係るポリペプチド生産方法を用いれば、任意のポリペプチドを生産させる生物体の生育状態を低下させることがないため、ポリペプチドを効率よく生産し得る。
【0098】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを宿主に導入する方法としては、特に限定されず、アグロバクテリウム法、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、本発明に係るベクターを用いて形質転換またはトランスフェクトされる生物体の種類は特に限定されるものではなく、動物由来細胞であっても、植物由来細胞であってもよい。また、枯草菌、大腸菌、菌類、酵母等の微生物を宿主として用いてもよい。
【0099】
本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを、植物体または植物由来細胞に導入するときの導入方法もまた特に限定されないが、アグロバクテリウム法、アグロインフィルトレーション法、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法、パーティクルガン法等を好適に用いることができる。
【0100】
本発明に係るポリペプチド生産用キットは、本発明に係るポリヌクレオチド、ベクター、植物または形質転換体を備えていることを特徴としている。好ましい実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを備えたポリペプチド生産用キットは、形質転換またはトランスフェクトすべき植物体または生物体をさらに備えていることが好ましい。これにより、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを用いて細胞を形質転換またはトランスフェクトし、導入された植物体内または生物体内において本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターに含まれる外来塩基配列がコードするポリペプチドを発現することが可能である。
【0101】
なお、細胞に任意のポリペプチドを生産させる方法およびキットは、上述した態様に限定される必要はなく、上述した以外のポリペプチド生産方法およびポリペプチド生産用キットの具体的な態様を、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。
【0102】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、請求項および上記実施形態に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0103】
[実施例1:GFP生産用プラスミドの構築]
トマトモザイクウイルスの複製タンパク質をコードする遺伝子からなる塩基配列と、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子からなる塩基配列との間に位置する、移行タンパク質をコードする遺伝子からなる塩基配列(配列番号20)に種々の塩基配列(配列番号21~34)を挿入したトマトモザイクウイルスのcDNAを合成した。合成したcDNAを用いて、プラスミドコンストラクトを構築した(図1)。
【0104】
移行タンパク質をコードする遺伝子からなる塩基配列中における、挿入塩基配列を挿入、置換または付加した位置を図2Aおよび図2Bに示す。図2Aおよび図2Bにおいて、A~Fは挿入塩基配列の挿入位置を示し、各アルファベットの下に記載された数字は、トマトモザイクウイルスのネイティブな配列中の位置を示している。なお、番号16のコンストラクト(piLrcG11erG3SRz)は、B-D間の塩基配列を配列番号33に示される配列で置換したものであり、番号17のコンストラクト(piLrcG12erG3SRz)は、B-D間の塩基配列を配列番号34に示される配列で置換したものである。
【0105】
本実施例においては、表1に示す番号4および5のコンストラクト(piLIS2erG3SRzおよびpiLIS2(-SpeI)erG3SRz)には、挿入配列として大腸菌トランスポゾンIS2由来配列を挿入し、他のコンストラクトには、GUS遺伝子の逆相補鎖由来配列を挿入した。また、本実施例においては、目的の外来タンパク質をコードする遺伝子として、GFPタンパク質をコードする遺伝子を用いた。
【0106】
上記のように構築した各プラスミドコンストラクトを用いて大腸菌を形質転換し、出現したコロニーのうち、任意のコロニーを選択用の抗生物質を含む3mlのLB培地に植菌し、37℃で20時間振盪培養した。培養液1.5mlからアルカリSDS法でプラスミドを精製した。精製したプラスミドを、DNA定量キット(Quant-iT dsDNA Assay Kit,invitrogen社)を用いて定量した。
【0107】
上記のように構築した各プラスミドコンストラクトの細胞内における収量を、挿入配列を挿入していないプラスミドコンストラクトの収量と比較し、その相対値を表1および表2に示す。
【0108】
【表1】
JP0005070283B2_000002t.gif

【0109】
【表2】
JP0005070283B2_000003t.gif

【0110】
表1および表2に示すように、配列番号21~34の塩基配列をそれぞれ挿入した番号4~17の塩基配列を含むプラスミドコンストラクトは、挿入配列を挿入していないネイティブな塩基配列を含むプラスミドコンストラクト(番号1)と比較して、プラスミドコンストラクトの収量が2.2~17.2倍に増加した。なお、移行タンパク質をコードする遺伝子がフレームシフトしたプラスミドコンストラクト(番号2)、および移行タンパク質をコードする遺伝子が欠失したプラスミドコンストラクト(番号3)においては、プラスミドコンストラクトの収量が増加しなかった。
【0111】
[実施例2:宿主微生物細胞の生育改善]
実施例1において構築した各プラスミドコンストラクトを用いて、大腸菌JM109株(東洋紡製)を形質転換し、カルベニシリン100μg/mlを含むLB寒天培地上において37℃で18時間培養した。出現したコロニーのうち、他のコロニーの影響をうけることなく生育しているもの5つを無作為に選択し、その長径を測定した。
【0112】
実施例1において構築した各プラスミドコンストラクトのうち、挿入配列を含むプラスミドを保持するコロニーの長径と、挿入配列を含まないプラスミドを保持するコロニーの長径とを比較し、その相対値を表3および図3に示す。
【0113】
【表3】
JP0005070283B2_000004t.gif

【0114】
表3に示すように、挿入配列を含むプラスミドコンストラクト(番号4、8、12~16)を保持する大腸菌のコロニーの長径は、挿入配列を有さないプラスミドコンストラクト(番号1および3)に比して、1.14~1.89倍大きく、ウイルスの塩基配列を含むプラスミドコンストラクトが導入された大腸菌の生育が改善されたことが分かる(図3)。
【0115】
[実施例3:外来タンパク質生産用プラスミドの構築]
実施例3においては、外来タンパク質をコードする遺伝子としてヒト由来ガンマインターフェロン(hIFNγ)遺伝子を用いて、プラスミドコンストラクトを構築した。
【0116】
実施例1において構築した、表1に示す番号1(piLerG3SRz)、番号3(piLΔMPerG3SRz)、番号4(piLIS2erG3SRz)、番号6(piLrcG1erG3SRz)、および番号8(piLrcG3erG3SRz)の各プラスミドコンストラクトのGFP遺伝子の5’側のAatII認識部位および3’末端側のBstEIIサイトを用いて、GFP遺伝子とPCR法により増幅したhIFNγ遺伝子を正確に置換したプラスミドコンストラクト、番号1’(piLhIFNγSRz)、番号3’(piLΔMPhIFNγSRz)、番号4’(piLIS2hIFNγSRz)、番号6’(piLrG1hIFNγSRz)、および番号8’(piLrG3hIFNγSRz)を構築した。
【0117】
上記のように構築したプラスミドコンストラクトについて、実施例1と同様に細胞内におけるプラスミドコンストラクトの収量を定量した。挿入塩基配列を挿入していないプラスミドコンストラクト(番号1’および3’)と比較して、挿入塩基配列を挿入したプラスミドコンストラクト(番号4’、6’、および8’)は、プラスミドコンストラクトの収量が著しく多かった。
【0118】
同様に、外来タンパク質をコードする遺伝子として、アルファインターフェロン遺伝子、ミオシンフォスファターゼ阻害タンパク質(CPI-17)機能ドメイン遺伝子(アミノ酸残基22から120)、一本鎖抗体遺伝子、またはカルモジュリン遺伝子を上記実施例と同様に用いて、図2Aの番号4に示すように変異させたウイルスゲノムRNAのcDNAを導入したプラスミドコンストラクトも容易に作製することが可能であった。また、プラスミドの収量および安定性も良好であった。
【0119】
[実施例4:バイナリプラスミドの構築]
さらに、hIFNγ遺伝子を含むウイルスの塩基配列を、ウイルス配列誘導発現用バイナリプラスミドに導入するために、上述したように構築した各プラスミドコンストラクトを、SpeIおよびAvrIIで切断し、pBICER8-ToMV5’-Spe(Dohiら., 2006,Archives of Virlogy, 151: 1075-1084)のSpeI認識部位に連結した。番号1’および番号3’のプラスミドコンストラクトに由来する遺伝子断片を挿入したバイナリプラスミドは得られなかった。しかしながら、番号4’、番号6’、および番号8’のプラスミドコンストラクト由来の遺伝子断片を挿入したバイナリプラスミドは、容易に得ることができた。このことから、ウイルスの移行タンパク質をコードする塩基配列に挿入配列を挿入、置換または付加することによって、作製が困難な外来遺伝子を含むプラスミドコンストラクトを作製することが可能になった。
【0120】
同様に、外来タンパク質をコードする遺伝子として、アルファインターフェロン遺伝子、CPI-17タンパク質機能ドメイン遺伝子、一本鎖抗体遺伝子、またはカルモジュリン遺伝子を上記実施例と同様に用いて、図2Aの番号4に示すように変異させたウイルスゲノムRNAのcDNAを導入したバイナリプラスミドについても、容易に作製することができた。また、プラスミドの収量や安定性も良好であった。
【0121】
[実施例5:プロトプラストにおけるタンパク質の発現]
T7RNAポリメラーゼを用いて試験管内で合成したウイルスゲノムRNAに、図2Aおよび図2Bの番号4~15に示すように、挿入配列を挿入、置換または付加し、ウイルスゲノムRNAの変異体を生成した。生成したウイルスゲノムRNAをタバコBY2細胞から調整したプロトプラストに、エレクトロポレーション法により接種した(実験手法については、Watanabeら、FEBS Letters,219:65-69、参照のこと)。得られたプロトプラストの形質転換体を、26℃で24時間培養した後、サンプリングした。
【0122】
上記プロトプラストにおいて、GFP遺伝子を外来遺伝子として組み込んだときのウイルスゲノムRNAの増殖をノーザンブロット法により確認した。番号4~15のウイルスゲノムRNAを含むプロトプラストにおいて、ウイルスゲノムRNAの増殖が確認された。また、番号4~9、12~15の挿入配列を有するウイルスゲノムRNAを含むプロトプラストでは、サブゲノムGFPメッセンジャーRNAの増殖が確認された。一方、番号10および11のウイルスゲノムRNAを含むプロトプラストにおいては、サブゲノムGFPメッセンジャーRNAの蓄積は検出できなかった。
【0123】
また、上記プロトプラストにおいて、GFP遺伝子の発現を蛍光顕微鏡観察により確認した。番号4~9、12~15のウイルスゲノムRNAを含むプロトプラストにおいては、GFP遺伝子の発現が確認されたが、番号10および番号11のウイルスゲノムRNAを含むプロトプラストにおいては、GFP遺伝子の発現が確認されなかった。
【0124】
番号10および11の挿入配列を有するウイルスゲノムRNAを含むプロトプラストにおいて、サブゲノムGFPメッセンジャーRNAが蓄積しなかったのは、挿入配列の挿入または付加によって、ウイルスサブゲノムRNAプロモーター領域が改変されたためであると考えられる。したがって、これらのウイルスゲノムRNAについても、さらにネイティブなサブゲノムRNAプロモーター配列を付加することによって、GFP遺伝子を発現し得ると考えられる。
【0125】
さらに、上記プロトプラストにおいて、hIFNγ遺伝子を外来遺伝子として組み込んだときのウイルスゲノムRNAの増殖能をノーザンブロット法により確認し、hIFNγ遺伝子の発現をウエスタンブロット法により確認した。番号6、7、および12~14の挿入配列を有するウイルスゲノムRNAを含むプロトプラストにおいて、ウイルスゲノムRNAおよびサブゲノムhIFNγメッセンジャーRNAの増殖が確認され、また、hIFNγタンパク質が検出されたことから、hIFNγ遺伝子の発現も確認された。
【0126】
同様に、外来タンパク質をコードする遺伝子として、アルファインターフェロン遺伝子、CPI-17タンパク質機能ドメイン遺伝子、一本鎖抗体遺伝子、またはカルモジュリン遺伝子を上記実施例と同様に用いて、図2Aの番号4に示すように変異させたウイルスゲノムRNAのcDNAを導入したウイルスゲノム変異体についても、プロトプラストにおいてゲノムRNAおよびサブゲノムメッセンジャーRNAの増殖が確認できた。
【0127】
[実施例6:タバコBY2細胞におけるタンパク質の発現]
外来遺伝子としてGFP遺伝子およびhIFNγ遺伝子を組み込んだ、図2Aの番号4に示すように変異させたウイルスゲノムRNAのcDNAを用いて、アグロバクテリウム法によりエストロジェンで活性化する転写因子XVEを発現するタバコBY2細胞(Dohiら、Archives of Virology,151,1075-1084)を形質転換した。形質転換タバコBY2細胞を含む培地にエストロジェンを添加し、3日後にサンプリングした(実験手法については、Dohiら、Archives of Virology,151,1075-1084、参照のこと)。
【0128】
GFP遺伝子を含む形質転換タバコBY2細胞において、ウイルスゲノムRNAおよびサブゲノムGFPメッセンジャーRNAの増殖が確認され(ノーザンブロット法)、GFP遺伝子の発現が確認された(蛍光顕微鏡観察およびSDS-PAGE)。
【0129】
また、hIFNγ遺伝子を含む形質転換タバコBY2細胞においても、ウイルスゲノムRNAおよびサブゲノムhIFNγメッセンジャーRNAの増殖が確認され(ノーザンブロット法)、hIFNγタンパク質の蓄積が確認された(ウエスタンブロット法)。
【0130】
また、外来タンパク質をコードする遺伝子として、CPI-17タンパク質機能ドメイン遺伝子または一本鎖抗体遺伝子を上記実施例と同様に用いて、図2Aの番号4に示すように変異させたウイルスゲノムRNAのcDNAを導入した形質転換タバコBY2細胞においても、それぞれウイルスゲノムRNAおよびサブゲノムメッセンジャーRNAの増殖が確認され、さらにタンパク質の蓄積が確認された。
【0131】
[実施例7:挿入配列の塩基長の検討]
トマトモザイクウイルスの移行タンパク質をコードする遺伝子からなる塩基配列(配列番号20)において、ウイルスの5’末端から5166塩基の位置に、塩基長が300、100、50、20塩基対の塩基配列(配列番号36~39)をそれぞれ挿入した改変トマトモザイクウイルスのcDNAを合成した。合成したcDNAにより、プラスミドベクターpiL.erG3SRz(Avr)のコードする改変トマトモザイクウイルスのcDNAを置換し、プラスミドコンストラクトを構築した(図4)。図4において、挿入配列を挿入していないプラスミドコンストラクトをpiL.erG3SRz(Avr)、300塩基長、100塩基長、50塩基長、20塩基長の挿入配列が挿入されたプラスミドコンストラクトをそれぞれ、piL.erG3(C0.3)SRz(Avr)、piL.erG3(C0.1)SRz(Avr)、piL.erG3(C0.05)SRz(Avr)、piL.erG3(C0.02)SRz(Avr)で示した。
【0132】
構築した各プラスミドコンストラクトを用いて、大腸菌JM109株(東洋紡製)を形質転換し、カルベニシリン100μg/mlを含むLB寒天培地上において37℃で26時間培養した。出現したコロニーのうち、他のコロニーの影響をうけることなく生育しているもの5つを無作為に選択し、その直径を測定した。
【0133】
挿入配列を含むプラスミドを保持する大腸菌のコロニーの直径と、挿入配列を含まないプラスミドを保持する大腸菌のコロニーの直径とを比較し、その相対値および標準誤差を表4に示す(n=5)。表4において「*」は、t検定の結果、挿入配列を有さないpiL.erG3SRz(Avr)に対して有意差があることを示している。
【0134】
【表4】
JP0005070283B2_000005t.gif

【0135】
表4に示すように、300塩基長の挿入配列が挿入されたpiL.erG3(C0.3)SRz(Avr)、または100塩基長の挿入配列が挿入されたpiL.erG3(C0.1)SRz(Avr)を保持する大腸菌のコロニー直径は、挿入配列が挿入されていないpiL.erG3SRz(Avr)を保持する大腸菌のコロニー直径よりも有意に大きく、大腸菌の生育の改善が認められた。一方、50塩基長の挿入配列が挿入されたpiL.erG3(C0.05)SRz(Avr)、または10塩基長の挿入配列が挿入されたpiL.erG3(C0.02)SRz(Avr)を保持する大腸菌のコロニー直径は、挿入配列が挿入されていないpiL.erG3SRz(Avr)を保持する大腸菌のコロニー直径よりも大きくなったが、その差は有意な差ではなかった。
【0136】
また、各プラスミドコンストラクトを用いて大腸菌JM109株を形質転換し、出現したコロニーのうち、任意のコロニーを選択用の抗生物質を含む3mlのLB培地に植菌し、37℃で24時間振盪培養した。培養液1.5mlからアルカリSDS法でプラスミドを精製した。精製したプラスミドを、DNA定量キット(Quant-iT dsDNA Assay Kit,invitrogen社)を用いて定量した。挿入配列が挿入された各プラスミドコンストラクトの収量を、挿入配列が挿入されていないプラスミドコンストラクトの収量と比較し、その相対値および標準誤差を表4に示す(n=3)。
【0137】
表4に示すように、300塩基長の挿入配列が挿入されたpiL.erG3(C0.3)SRz(Avr)、および100塩基長の挿入配列が挿入されたpiL.erG3(C0.1)SRz(Avr)の収量は、挿入配列が挿入されていないpiL.erG3SRz(Avr)の収量よりも有意に大きく、プラスミドが安定化していることが認められた。一方、50塩基長の挿入配列が挿入されたpiL.erG3(C0.05)SRz(Avr)、および10塩基長の挿入配列が挿入されたpiL.erG3(C0.02)SRz(Avr)の収量は、挿入配列が挿入されていないpiL.erG3SRz(Avr)の収量よりも大きくなったが、その差は有意な差ではなかった。
【0138】
本発明を用いれば、ウイルスの塩基配列を含むポリヌクレオチドを含むベクターを構築し、当該ベクターが導入された宿主細胞の生育状態を改善することによって、細胞内におけるベクターの複製効率を向上させることが可能である。その結果、効率よく複製されたベクターを用いて、有用タンパク質を効率よく生産し得る。
【0139】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明を用いれば、任意のタンパク質を効率よく生産することが可能となり、得られたタンパク質は、植物バイオ産業、医薬品産業、食品産業等の広範な分野において有効に利用し得る。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3】
3
【図4】
4