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明細書 :植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドおよびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4998809号 (P4998809)
登録日 平成24年5月25日(2012.5.25)
発行日 平成24年8月15日(2012.8.15)
発明の名称または考案の名称 植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドおよびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   1/00        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
A01G  16/00        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 1/00 A
A01H 5/00 A
C12Q 1/68 A
A01G 16/00 Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 39
出願番号 特願2009-512948 (P2009-512948)
出願日 平成20年4月24日(2008.4.24)
国際出願番号 PCT/JP2008/057918
国際公開番号 WO2008/136345
国際公開日 平成20年11月13日(2008.11.13)
優先権出願番号 2007117725
優先日 平成19年4月26日(2007.4.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年3月5日(2010.3.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】西澤 直子
【氏名】森 敏
【氏名】小林 高範
【氏名】小郷 裕子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】吉森 晃
参考文献・文献 特開2005-006599(JP,A)
DEFINITION Oryza sativa (japonica cultivar-group) cDNA clone:002-128-C10, full insert sequence.,[online],2003年 7月24日,ACCESSION AK107456,Retrieved on 2012.1.4, Retrieved from the Internet,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/32992665?sat=43&satkey=899175
DEFINITION Oryza sativa (japonica cultivar-group) cDNA clone:J013032G17, full insert sequence.,[online],2003年 7月24日,ACCESSION AK099540,Retrieved on 2012.1.4, Retrieved from the Internet,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/32984749?sat=43&satkey=896918
J. Exp. Bot.,2005年,Vol.56, No.415,p.1305-1316
Plant J.,2003年,Vol.36, No.6,p.780-793
調査した分野 C12N 15/00-15/90
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(A)~(G)のいずれかのポリヌクレオチドを植物に導入する工程を含むことを特徴とする鉄欠乏耐性が向上した植物の作出方法
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、もしくは28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(D)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(E)配列番号2に示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(F)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(G)配列番号2に示される塩基配列の第727番目~第1065番目が、配列番号11、14、17、20、23、26、もしくは29のいずれか1つに示される塩基配列により置換されてなる塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
下記(A)~(G)のいずれかのポリヌクレオチド、または当該ポリヌクレオチドを含んでいるベクターを含んでいることを特徴とする鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用組成物
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、もしくは28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(D)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(E)配列番号2に示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(F)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(G)配列番号2に示される塩基配列の第727番目~第1065番目が、配列番号11、14、17、20、23、26、もしくは29のいずれか1つに示される塩基配列により置換されてなる塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
下記(A)~(G)のいずれかのポリヌクレオチド、または当該ポリヌクレオチドを含んでいるベクターを備えていることを特徴とする鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用キット
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、もしくは28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(D)配列番号2に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(E)配列番号2に示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(F)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(G)配列番号2に示される塩基配列の第727番目~第1065番目が、配列番号11、14、17、20、23、26、もしくは29のいずれか1つに示される塩基配列により置換されてなる塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
植物からの抽出物に含まれる、下記(A)~(C)のいずれかのポリペプチドを検出する工程を包含していることを特徴とする鉄欠乏耐性が向上した植物を選抜する方法
(A)配列番号1、4もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド;
(B)配列番号1、4もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、もしくは28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド。
【請求項5】
植物からの抽出物に含まれる、下記(A)~(G)のいずれかのポリヌクレオチドまたは配列番号12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを検出する工程を包含していることを特徴とする鉄欠乏耐性が向上した植物を選抜する方法
(A)配列番号1、4もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(B)配列番号1、4もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、もしくは28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなるアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチド、をコードするポリヌクレオチド;
(D)配列番号2、5もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(E)配列番号2、5もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;
(F)配列番号2、5もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(G)配列番号2に示される塩基配列の第727番目~第1065番目が、配列番号11、14、17、20、23、26、もしくは29のいずれか1つに示される塩基配列により置換されてなる塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項6】
植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するための検出方法であって、
候補ポリヌクレオチドと、配列番号12、15、18、21、24、または27のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴とする検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の鉄欠乏耐性に関するものであり、詳細には、植物の鉄欠乏耐性を向上させる働きを有するポリペプチドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの生物は自らの成長および繁殖のために鉄を必要としている。植物は、土壌中から可溶化した鉄を吸収し、これが動物および人間へと供給される。しかし、土壌中において鉱物鉄は豊富に存在するものの、有酸素下の高pHの条件では鉄は殆ど可溶化していない。そのため、世界の耕作地の30%を占めるアルカリ土壌において、植物はしばしばクロローシス(クロロフィルの欠陥による黄色化)と称される鉄欠乏症を示し、収量および品質の低減をもたらしている。したがって、鉄欠乏耐性が高い植物が強く求められている。
【0003】
高等植物は、鉄欠乏下において鉄を吸収するための戦略を有している。すなわち、キレーション(戦略II)および還元(戦略I)である。これらのうち、戦略IIはイネ科植物特有のものであり、天然の鉄キレーターであるムギネ酸類ファイトシデロフォア(MAs)を用いて土壌中の鉄をキレートし、根の細胞の細胞膜に存在するトランスポーター(YS1)を経由して鉄を細胞内へ取り込むものである。
【0004】
これまで、広範囲の生理学的、生化学的、および分子的な研究により、MAsの生合成経路および生合成酵素の遺伝子が同定されている:例えば、ニコチアナミン合成酵素(NAS)、ニコチアナミンアミノ基転移酵素(NAAT)、IDS2、IDS3等。これらの生合成酵素は、鉄欠乏に応答して発現が亢進することが知られている。
【0005】
しかしながら、上記の鉄欠乏への応答、すなわち鉄欠乏時における鉄の吸収に関与する遺伝子の発現亢進のための分子的な機構はほとんど判明していなかった。本発明者らは、鉄欠乏時に発現が誘導されるオオムギのIDS2遺伝子のプロモーター領域を解析し、新規の鉄欠乏応答性シスエレメントIDE1(Fe-deficiency responsive element1)およびIDE2(Fe-deficiency responsive element2)を同定した。IDE1およびIDE2は、タバコの根、ならびにイネの根および葉において、協働して鉄欠乏への応答に関与する遺伝子の発現を誘導する(特許文献1)。

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2005-6599号公報(公開日:平成17年1月13日)」
【発明の開示】
【0006】
本発明者らの考えによれば、上記シスエレメントに結合する転写因子を利用すれば、植物において鉄の吸収に関与する遺伝子の発現を亢進させ得るため、鉄欠乏耐性が向上した植物を取得することができる。
【0007】
しかしながら、上記のシスエレメントに結合する転写因子は同定されていないため、該転写因子を利用することはできなかった。
【0008】
本発明は、上記シスエレメントに結合し、植物の鉄欠乏耐性を向上させる転写因子を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、上記シスエレメントに結合するポリペプチドを同定し、該ポリペプチドが植物の鉄欠乏耐性を向上させることを見出し、発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明に係るポリペプチドは、(A)~(C)のいずれか1つのアミノ酸配列からなるポリペプチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させることを特徴としている:(A)配列番号1、4もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列;(B)配列番号1、4もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において1個もしくは数個のアミノ酸が置換、付加もしくは欠失された、アミノ酸配列;または(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、もしくは28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなる、アミノ酸配列。
【0011】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードすることを特徴としている。
【0012】
本発明に係るポリヌクレオチドは、(A)~(D)のいずれか1つの塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードすることを特徴としている:(A)配列番号2、5もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列;(B)配列番号2、5もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列において1個もしくは数個のヌクレオチドが置換、付加もしくは欠失された、塩基配列;(C)配列番号2、5もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る、塩基配列;または(D)配列番号2に示される塩基配列の第727番目~第1065番目が、配列番号11、14、17、20、23、26、もしくは29のいずれか1つに示される塩基配列により置換されてなる、塩基配列。
【0013】
本発明に係るベクターは、本発明に係るポリヌクレオチドを含んでいることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドが導入されていることを特徴としている。
【0015】
本発明に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合することを特徴としている。
【0016】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを植物に導入する工程を含むことを特徴としている。
【0017】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用組成物は、本発明に係るポリヌクレオチドまたは本発明に係るベクターを含んでいることを特徴としている。
【0018】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用キットは、本発明に係るポリヌクレオチドまたは本発明に係るベクターを備えていることを特徴としている。
【0019】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法は、植物からの抽出物に含まれる、本発明に係るポリペプチドを検出する工程を包含していることを特徴としている。
【0020】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法はまた、植物からの抽出物を、本発明に係る抗体とともにインキュベートする工程を包含しているものであってもよい。
【0021】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種用組成物は、本発明に係る抗体を含んでいることが好ましい。
【0022】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種用キットは、本発明に係る抗体を備えていることが好ましい。
【0023】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法はさらに、植物からの抽出物に含まれる、本発明に係るポリヌクレオチドまたは配列番号12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを検出する工程を包含しているものであってもよい。
【0024】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法はなおさらに、植物からの抽出物を、本発明に係るポリヌクレオチド、または配列番号12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとともにインキュベートする工程を包含しているものであってもよい。
【0025】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種用組成物はまた、本発明に係るポリヌクレオチド、または配列番号12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含んでいてもよい。
【0026】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種用キットはまた、本発明に係るポリヌクレオチド、または配列番号12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを備えていてもよい。
【0027】
本発明に係る植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出する検出方法は、候補ポリペプチドと、配列番号12、15、18、21、24、または27のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴としている。
【0028】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】IDE1配列、IDE1様配列、および改変されたIDE1配列を示す図である。
【図2】ABI3/VP1ファミリー転写因子の系統樹を示す図である。
【図3】IDE1についてのイースト結合アッセイの結果を示すグラフである。
【図4】IDE1についてのゲルシフトアッセイの結果を示す図である。
【図5】IDE1についての拮抗試験の結果を示す図である。
【図6】IDEF1のノザンブロッティングの結果を示す図である。
【図7】IDE2についてのワンハイブリッドクスリーニング法およびイースト結合アッセイの結果を示す図である。
【図8】NACファミリー転写因子の系統樹を示す図である。
【図9】IDE2についてのゲルシフトアッセイの結果を示す図である。
【図10】IDE2についての拮抗試験の結果を示す図である。
【図11】IDEF2のノザンブロッティングの結果を示す図である。
【図12】IDE2についての拮抗試験を説明する図であり、(a)は、IDE2についての拮抗試験に用いられた配列を示し、(b)は、IDE2についての精密な拮抗試験の結果を示している。
【図13】本発明に係るポリヌクレオチドにより形質転換されたタバコの特性を示すグラフであり、(a)は、本発明に係るポリヌクレオチドにより形質転換されたタバコの根におけるGUS活性を示し、(b)は、本発明に係るポリヌクレオチドにより形質転換されたタバコの葉におけるクロロフィルの量を示している。
【図14】イースト結合アッセイに用いたコンストラクトの構造を示す模式図である。
【図15】本発明に係る形質転換体の、鉄欠乏条件下における特性を示すグラフであり、(a)は、鉄欠乏条件下の本発明に係る形質転換体の葉におけるクロロフィル量の変化を示し、(b)は、鉄欠乏条件下の本発明に係る形質転換体の茎葉の高さの変化を示している。
【図16】本発明に係る形質転換体の、鉄欠乏条件下における特性を示すグラフであり、(a)は、鉄欠乏条件下の本発明に係る形質転換体の葉におけるクロロフィル量の変化を示し、(b)は、鉄欠乏条件下の本発明に係る形質転換体の茎葉の高さの変化を示している。
【図17】RNAiを用いてIDEF2の発現を抑制した場合の結果を示す図であり、(a)は、抑制されたIDEF2の発現を示し、(b)は、RNAiによりIDEF2の発現が抑制された植物体における鉄獲得機構に関与する遺伝子の発現量を示している。
【図18】IDEF1およびそのホモログのアミノ酸配列を比較する図である。
【図19】IDEF2およびそのホモログのアミノ酸配列を比較する図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
〔1:ポリペプチド〕
1つの局面において、本発明は、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドを提供する。本明細書中で使用される場合、「植物の鉄欠乏耐性」とは、可溶化した鉄分が少ない土壌でも生育することができるという、植物の特性が意図され、具体的には、アルカリ土壌等において生育してもクロローシスを起こし難い等の特性が意図される。なお、植物が鉄欠乏耐性を有しているか否かを判断するためには、これに限定されるものではないが、例えば、後述する実施例に記載のように、鉄欠乏条件下でのSPADインデックスのような葉のクロロフィル含有量等を指標に用いることができる。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0032】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0033】
本発明に係るポリペプチドは、配列番号1、4もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはその変異体であることが好ましい。
【0034】
本明細書中においてタンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、目的のポリペプチドが有する特定の活性を保持したポリペプチドが意図され、「配列番号1、4もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体」は、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドが意図される。
【0035】
ポリペプチドを構成するアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0036】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。
【0037】
好ましい変異体は、保存性または非保存性アミノ酸置換、欠失、または付加を有する。これらは、本発明に係るポリペプチドの植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を変化させない。
【0038】
また、別の好ましい変異体は、本発明のポリペプチドの特定のドメインが、該ポリペプチドのホモログの該ドメインによって置換されているキメラポリペプチドであり得る。特定のポリペプチドに対し、アミノ酸配列の相同性の高いホモログは、同一の機能を有している蓋然性が高く、そのようなホモログのアミノ酸配列を用いて、該ポリペプチドの特定のドメインを置換することにより同一の機能を有する変異体を容易に取得し得ることを当業者は容易に理解する。上記特定のドメインとしては、上記ポリペプチドがDNAに結合するためのドメインが好ましく、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列の第243番目~第355番目であり得る。また、上記ホモログとしては、上記ドメインのアミノ酸配列の相同性が50%以上であることが好ましく、該相同性が60%以上であることがより好ましく、例えば、図18に示すオオムギ(Barley1、Barley2)、コムギ(Wheat)、トウモロコシ(Maize)、サトウモロコシ(Sorghum)、サトウキビ(Sugaecane)、またはイネ(AK072874)のホモログであり得る。したがって、好ましい上記キメラポリペプチドとしては、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、または28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなる、アミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。なお、特定のドメインは、該ドメインの全領域において置換されている必要はなく、一部の領域のみホモログの対応領域と置換されたものであってもよい。
【0039】
このように、本実施形態に係るポリペプチドは、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドであって、(1)配列番号1、4、もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(2)配列番号1、4、もしくは7のいずれか1つに示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、もしくは28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなる、アミノ酸配列からなるポリペプチドであることが好ましい。
【0040】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0041】
本発明に係るポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0042】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、His、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0043】
本発明に係るポリペプチドが植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有しているのは、該ポリペプチドが、植物において鉄欠乏時に誘導される遺伝子(鉄欠乏誘導性遺伝子)の発現を亢進させる活性を有しているためである。
【0044】
鉄欠乏誘導性遺伝子としては、例えばOsNAAT1、OsNAS1、HvNAAT-A、IDS3等がある。これらの遺伝子がコードするタンパク質の多くは植物が土壌中から可溶化していない鉄分を獲得するための機構(鉄獲得機構)に関与している。したがって、本発明に係るポリペプチドの働きにより、上記遺伝子の発現が亢進することにより、植物体はより多くの鉄分を獲得し得、可溶化した鉄分が少ない土壌でも生育し得るようになる。
【0045】
また、逆に言えば、上記鉄欠乏誘導性遺伝子の発現を指標にすれば、任意のポリペプチドが植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有しているか否かを判定し得ることを当業者は容易に理解する。
【0046】
また、本発明に係るポリペプチドが鉄欠乏誘導性遺伝子の発現を亢進させる活性を有しているのは、該ポリペプチドが、多くの鉄欠乏誘導性遺伝子の上流に共通して存在しているシスエレメントに結合し、その近傍の遺伝子の発現を亢進させる転写因子として働くためである。
【0047】
上記シスエレメントとしては、配列番号30に示されるシスエレメント(IDE1)および配列番号32に示されるシスエレメント(IDE2)が存在する(特許文献1を参照)。本発明に係るポリペプチドのうち、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(IDEF1:IDE binding factor1)およびその変異体はIDE1に結合し、配列番号4または7に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド(IDEF2:IDE binding factor2)およびその変異体はIDE2に結合する。
【0048】
さらに好ましくは、IDEF1およびその変異体は配列番号31に示される塩基配列をコア配列として認識し、IDEF2およびその変異体は配列番号33に示される塩基配列をコア配列として認識する。なお、本明細書において、「コア配列」とは、転写因子が結合する塩基配列の最小単位が意図される。IDE1およびIDE2は、それぞれ配列番号31および配列番号33に示される塩基配列を含んでいるので、IDEF1およびその変異体はIDE1に結合し得、IDEF2およびその変異体はIDE2に結合し得る。
【0049】
以上のように本発明に係るポリペプチドは、多くの鉄欠乏誘導性遺伝子の上流に共通して存在しているシスエレメントに結合する転写因子として働くので、鉄欠乏誘導性遺伝子の発現を亢進させ得る。
【0050】
また、逆に言えば、上記シスエレメントと結合し得るか否かを判定することにより、任意のポリペプチドが植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有しているか否かを判定し得ることを当業者は容易に理解する。任意のポリペプチドと、上記シスエレメントとが結合し得るか否かを判定するためには、これに限られるものではないが、後述する実施例において示すように、ゲルシフトアッセイを用いることができる。
【0051】
また、後述するように、本発明に係るポリペプチドは、鉄欠乏時特異的に鉄欠乏誘導性遺伝子の発現を亢進させる。すなわち、本発明に係るポリペプチドは、植物の鉄欠乏への応答において、該応答に関与する遺伝子の発現を上流で制御している。
【0052】
なお、上記IDE1およびIDE2は、鉄欠乏誘導性遺伝子のプロモーター領域に近接して存在し、協働して該遺伝子の発現を亢進する働きを有する(特許文献1を参照)。
【0053】
他の局面において、本発明は、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドの生産方法を提供する。
【0054】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いることを特徴とする。
【0055】
本実施形態の1つの局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターが組換え発現系において用いられることが好ましい。組換え発現系を用いる場合、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能な宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られるポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0056】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0057】
本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
【0058】
本実施形態の他の局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターが無細胞タンパク質合成系において用いられることが好ましい。無細胞タンパク質合成系を用いる場合、種々の市販のキットが用いられ得る。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターと無細胞タンパク質合成液とをインキュベートする工程を包含する。
【0059】
無細胞タンパク質合成系は細胞内mRNAやクローニングされたcDNAにコードされているさまざまなタンパク質の同定等に広く用いられる手法であり、無細胞タンパク質合成系(無細胞タンパク質合成法、無細胞タンパク質翻訳系とも呼ぶ)に用いられるのが無細胞タンパク質合成液である。
【0060】
無細胞タンパク質合成系としては、コムギ胚芽抽出液を用いる系、ウサギ網状赤血球抽出液を用いる系、大腸菌S30抽出液を用いる系、および植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液が挙げられる。一般的には、真核生物由来遺伝子の翻訳には真核細胞の系、すなわち、コムギ胚芽抽出液を用いる系またはウサギ網状赤血球抽出液を用いる系のいずれかが選択されるが、翻訳される遺伝子の由来(原核生物/真核生物)や、合成後のタンパク質の使用目的を考慮して、上記合成系から選択されればよい。
【0061】
なお、種々のウイルス由来遺伝子産物は、その翻訳後に、小胞体、ゴルジ体等の細胞内膜が関与する複雑な生化学反応を経て活性を発現するものが多いので、各種生化学反応を試験管内で再現するためには細胞内膜成分(例えば、ミクロソーム膜)が添加される必要がある。植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液は、細胞内膜成分を保持した無細胞タンパク質合成液として利用し得るのでミクロソーム膜の添加が必要とされないので、好ましい。
【0062】
本明細書中で使用される場合、「細胞内膜成分」は、細胞質内に存在する脂質膜よりなる細胞小器官(すなわち、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、葉緑体、液胞などの細胞内顆粒全般)が意図される。特に、小胞体およびゴルジ体はタンパク質の翻訳後修飾に重要な役割を果たしており、膜タンパク質および分泌タンパク質の成熟に必須な細胞成分である。
【0063】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを天然に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することが好ましい。本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、後述する抗体またはオリゴヌクレオチドを用いて本発明に係るポリペプチドを天然に発現する細胞または組織を同定する工程を包含することが好ましい。また、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。
【0064】
さらに他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを化学合成することを特徴とする。当業者は、本明細書中に記載される本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明に係るポリペプチドを化学合成できることを、容易に理解する。
【0065】
以上のように、本発明に係るポリペプチドを生産する方法によって取得されるポリペプチドは、天然に存在する変異ポリペプチドであっても、人為的に作製された変異ポリペプチドであってもよい。
【0066】
このように、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、少なくとも、当該ポリペプチドのアミノ酸配列、または当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて公知慣用技術を用いればよいといえる。つまり、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0067】
〔2:ポリヌクレオチド〕
1つの局面において、本発明は、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子を提供する。
【0068】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
【0069】
本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするものであることが好ましい。特定のポリペプチドのアミノ酸配列が得られた場合、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を容易に設計することができる。
【0070】
本発明に係るポリヌクレオチドは、配列番号2、5、または8のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその変異体であることがより好ましい。
【0071】
本明細書中においてポリヌクレオチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、特定のポリペプチドの活性と同じ活性を保持しているポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図され、「配列番号2、5、もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの変異体」は、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図される。すなわち、本明細書中で使用される場合、ポリヌクレオチドの観点における変異体は、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、
・配列番号2、5、もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列において、1もしくは数個の塩基が置換、欠失または付加されている塩基配列からなるポリヌクレオチド;
・配列番号2、5、もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列の相補配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るポリヌクレオチド;または
・配列番号2に示される塩基配列の第727番目~第1063番目が、配列番号11、14、17、20、23、26、もしくは29のいずれか1つに示される塩基配列により置換されてなる、塩基配列からなるポリヌクレオチド
であり得る。
【0072】
なお、配列番号2に示される塩基配列の第727番目~第1063番目が、配列番号11、14、17、20、23、26、または29のいずれか1つに示される塩基配列により置換されてなる、塩基配列からなるポリヌクレオチドは、上述の、配列番号1に示されるアミノ酸配列の第243番目~第355番目が、配列番号10、13、16、19、22、25、または28のいずれか1つに示されるアミノ酸配列により置換されてなる、アミノ酸配列からなるキメラポリペプチドをコードするキメラポリヌクレオチドである。本明細書に接した当業者は、周知慣用技術を用いれば、上記キメラポリヌクレオチドを容易に取得し得ることを容易に理解する。
【0073】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、または、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0074】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0075】
本発明に係るポリヌクレオチドはまた、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0076】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
【0077】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30ntより長いポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、本明細書中においてより詳細に考察されるような検出用プローブとしても有用である。
【0078】
以上のように、本発明に係るポリヌクレオチドは、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下のいずれかであることが好ましい:(1)配列番号2、5、もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;(2)配列番号2、5、もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が置換、欠失もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;(3)配列番号2、5、もしくは8のいずれか1つに示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が置換、欠失もしくは付加された塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;または、(4)配列番号2に示される塩基配列の第727番目~第1063番目が、配列番号11、14、17、20、23、26、もしくは29のいずれか1つに示される塩基配列により置換されてなる、塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【0079】
本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列またはベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0080】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、生物材料であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプルまたは細胞サンプル)が意図され、下述する実施例においては、イネ科植物が用いられているが、これらに限定されない。
【0081】
〔3:ベクター〕
本発明は、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでいるベクターを提供する。本発明に係るベクターは、周知の遺伝子組換え技術により、本発明に係るポリヌクレオチドを所定のベクターに挿入することにより作製することができる。上記ベクターとしては、組換え発現ベクターの他にクローニングベクターが挙げられるが、これらに限定されない。本発明に係るベクターは、本発明に係るポリペプチドを製造するために用いることもできるし、本発明に係る形質転換体を作製するために用いることもできる。
【0082】
〔4:形質転換体〕
本発明は、鉄欠乏耐性が向上した植物の作出方法を提供する。「鉄欠乏耐性が向上した植物の作出方法」とは、鉄欠乏耐性が向上した植物体を作製するための方法を指す。本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを植物体内に導入する工程を包含していればよい。一実施形態において、本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを発現していない植物体を、本発明に係るポリヌクレオチドを発現している植物体と交配させる工程を包含する方法であり、形質転換体ではない植物体を作製するに好ましい方法である。
【0083】
他の実施形態において、本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出方法は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入する工程を包含する方法であり、本実施形態に係る方法に従って鉄欠乏耐性が向上した植物体は、植物形質転換体であり得る。
【0084】
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられるべきベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクター、または外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。なお後述するように、恒常的に活性化されているプロモーターよりも、鉄欠乏に応答して活性化されるプロモーターを用いることが好ましい。鉄欠乏に応答して活性化されるプロモーターとしては、例えば、IDS2のプロモーター(配列番号68、Kobayashi,T.et al.Construction of artificial promoters highly responsive to iron deficiency.Soil Sci.Plant Nutr.50,1167-1175(2004)を参照)を用いることができる。
【0085】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、もしくは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されないが、イネ科植物であることが好ましく、イネ、オオムギ、コムギまたはトウモロコシであることがさらに好ましい。
【0086】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられ、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法とに大別される。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27~31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagelらの方法(Micribiol.Lett.、67、325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlantMolecular Biology Manual(S.B.Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞または植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、pBI系のバイナリーベクター(例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221、およびpPZP202など)が使用され得る。
【0087】
また、遺伝子を直接植物細胞または植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。遺伝子銃を用いる場合は、遺伝子を導入する対象として、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450~2000psi程度の圧力、4~12cm程度の距離で行う。
【0088】
遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。選択マーカーとしては、ハイグロマイシン耐性に限定されず、例えば、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコールなどに対する薬剤耐性が挙げられる。
【0089】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法などによって組換えベクターが培養細胞に導入されて形質転換される。形質転換の結果として得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養または器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0090】
遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0091】
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換植物体が一旦取得されれば、当該植物体の有性生殖または無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該植物体またはその子孫、もしくはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。したがって、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、または、当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、またはこれら由来の組織も含まれる。
【0092】
本発明はさらに、鉄欠乏耐性が向上した植物を作出するための組成物およびキットを提供する。本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用組成物は、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを含んでいることを特徴としており、本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用キットは、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを備えていることを特徴としている。なお、本明細書中で使用される場合、「組成物」は各種成分が一物質中に含有されている形態であり、「キット」は各種成分の少なくとも1つが別物質中に含有されている形態であることが意図される。また、「鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用組成物」は、鉄欠乏耐性が向上した植物体を作製するために用いる組成物であり、「鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用キット」は、鉄欠乏耐性が向上した植物を作製するために用いるキットである。
【0093】
本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれているため、本発明に係るポリペプチドを発現し得、鉄欠乏耐性が向上され得るものである。そして、上述したように、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを用いれば、植物体に本発明に係るポリヌクレオチドを導入し得る。したがって、本発明に係るポリヌクレオチドもしくはベクターを含んでいる組成物、または該ポリヌクレオチドもしくはベクターを備えているキットは、鉄欠乏耐性が向上した植物を作出するために好適に用いることができる。すなわち、本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用組成物、または鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用キットは、一実施形態において、上述したような、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターを植物体に導入する方法における該ポリヌクレオチドまたはベクターの供給源として用い得る。
【0094】
本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用組成物は、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターの他、溶媒、分散媒、試薬などを含んでもよい。また、本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の作出用キットは、本発明に係るポリヌクレオチドまたはベクターの他、溶媒、分散媒、試薬、それらを使用するための指示書などを備えていてもよい。本明細書中においてキットの局面において使用される場合、「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュなど)のいずれかの中に内包されている状態が意図される。また、本発明に係るキットは、複数の異なる組成物を1つに梱包した包装であり得、ここで、組成物の形態は上述したような形態であり得、溶液形態の場合は容器中に内包されていてもよい。本発明に係るキットは、物質Aおよび物質Bを同一の容器に混合して備えても別々の容器に備えてもよい。「指示書」は、紙またはその他の媒体に書かれていても印刷されていてもよく、あるいは磁気テープ、コンピューター読み取り可能ディスクまたはテープ、CD-ROMなどのような電子媒体に付されてもよい。本発明に係るキットはまた、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。
【0095】
〔5:抗体〕
本発明は、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドと特異的に結合する抗体を提供する。本発明に係る抗体は、上記ポリペプチドと特異的に結合し得るものであれば限定されず、当該ポリペプチドに対するポリクローナル抗体等でもよいが、当該ポリペプチドに対するモノクローナル抗体であることが好ましい。モノクローナル抗体は、性質が均一で供給しやすい、ハイブリドーマとして半永久的に保存ができるなどの利点を有する。
【0096】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体および抗イディオタイプ抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0097】
なお、「抗体」は、種々の公知の方法に従えば作製され得る。例えば、モノクローナル抗体は、当該分野において公知の技術(例えば、ハイブリドーマ法(Kohler,G.およびMilstein,C.,Nature 256,495-497(1975))、トリオーマ法、ヒトB-細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))およびEBV-ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss,Inc.,77-96(1985))などを参照のこと)を用いれば容易に作製され得る。
【0098】
また、ペプチド抗体は、当該分野に公知の方法(例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910-914;およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347-2354(1985)(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。)に従えば容易に作製され得る。
【0099】
FabおよびF(ab’)ならびに本発明に係る抗体の他のフラグメントが、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることは、当業者には明白である。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生され得る。もしくは、本発明に係るポリペプチドに結合するフラグメントは、組換えDNA技術の適用または化学合成によって産生され得る。
【0100】
このように、本実施形態に係る抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合するフラグメント(例えば、FabフラグメントおよびF(ab’)フラグメント)を備えていればよく、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
【0101】
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合する抗体およびその利用を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、抗体作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0102】
〔6:育種方法〕
本発明は、鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法を提供する。本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法は、植物体内で発現されている本発明に係るポリペプチドを検出する工程を包含していればよく、本発明に係るポリペプチドの発現の有無に基づいて、鉄欠乏耐性を有する植物を選抜するものである。
【0103】
上述したように、本発明に係るポリペプチドは、植物が土壌から鉄を獲得する際に重要な働きを有する遺伝子の発現を亢進させる。従って、上記ポリペプチドを発現する植物は鉄を獲得する能力が高く、鉄欠乏耐性が向上している。なお、本発明に係る方法に従って育種された植物体は、天然の植物体であっても形質転換体であってもよい。
【0104】
一実施形態において、本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法は、植物からの抽出物に含まれる本発明に係るポリペプチドを検出する工程を包含する。
【0105】
植物からの抽出物は、液体窒素を用いた凍結破砕法や、市販の抽出キットを用いて取得することができるが、これらに限定されない。また、本明細書中で使用される場合、「抽出物」は、粗精製物であってもいくつかの精製工程を経た精製標品であってもよい。
【0106】
一つの局面において、上記植物からの抽出物に含まれる本発明に係るポリペプチドを検出する工程は、該植物からの抽出物を本発明に係る抗体と反応させることにより、本発明に係るポリペプチドを検出する。上述したように上記抗体は、本発明に係るポリペプチドと特異的に結合して免疫複合体を形成するので、当該複合体の形成を検出することにより、植物体内において発現されている上記ポリペプチドを容易に検出することができる。上記複合体の形成は、例えば、上記抗体を予め同位体などで標識する方法、もしくは、上記抗体に対する2次抗体を用いる方法などを用いて検出することができる。具体的には、周知のウェスタンブロット法、プロテインチップ法等を用いることができるがこれに限定されない。
【0107】
また、以上のように、本発明に係る抗体は、本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法に好適に用いることができる。したがって、本発明に係る抗体を含んでいる組成物または該抗体を備えているキットは、鉄欠乏耐性が向上した植物を育種するために好適に用いることができる。
【0108】
他の実施形態において、本発明に係る植物の育種方法は、植物からの抽出物に含まれる本発明に係るポリヌクレオチドを検出する工程を包含する。
【0109】
一つの局面において、上記植物からの抽出物に含まれる本発明に係るポリヌクレオチドを検出する工程は、本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを、該植物からの抽出物とインキュベートする工程を包含する。好ましくは、本実施形態に係る育種方法は、植物からの抽出物を目的の植物由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴としている。
【0110】
本実施形態に係る育種方法を用いれば、ハイブリダイズする標的ポリヌクレオチドを検出することによって、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドを発現する植物体を容易に検出することができる。さらに、上述したように、本発明に係るポリペプチドは、鉄欠乏に対する植物体の応答において重要な働きをする。そのため、上記ポリペプチドのアミノ酸配列の細かな変異が、植物の鉄欠乏耐性に影響を及ぼし得ることを当業者は容易に理解する。PCR法、ハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ法等の周知慣用の技術を用いれば、ポリヌクレオチドの1塩基単位の変異を検出し得るので、該ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドのアミノ酸配列の細かな変異を検出し得ることを当業者は容易に理解する。したがって、一つの局面において、本実施形態に係る植物の育種方法を用いれば、植物の鉄欠乏耐性に影響を及ぼす、上記ポリペプチドのアミノ酸配列の細かな変異に基づいて、植物の鉄欠乏耐性が向上した植物を育種することもできる。
【0111】
また、以上のように、本発明に係るポリヌクレオチドは、本発明に係る鉄欠乏耐性が向上した植物の育種方法のために好適に用いることができる。したがって、本発明に係るポリヌクレオチドを含んでいる組成物、および該ポリヌクレオチドを備えているキットは、鉄欠乏耐性が向上した植物を育種するために好適に用いることができる。
【0112】
また、後述するように、配列番号12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列は、本発明に係るポリペプチドのホモログ(図18に示すオオムギ(Barley1、Barley2)、コムギ(Wheat)、トウモロコシ(Maize)、サトウモロコシ(Sorghum)、サトウキビ(Sugaecane)、およびイネ(AK072874))をコードするポリヌクレオチドの部分配列である。上記ホモログは、機能ドメインの相同性が高く、本発明に係るポリペプチドと同一の機能を有している蓋然性が高い。配列番号12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列を用いることにより、本発明に係るポリペプチドのホモログが植物体において発現しているか否かを検出し得るので、上述した、本発明に係るポリペプチドを用いた場合と同様に、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドを発現する植物体を容易に検出することができる。
【0113】
なお、本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個または数百個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マー(30塩基、30ヌクレオチドともいわれる。)または100マー(100塩基、100ヌクレオチドともいわれる。)というように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0114】
本実施形態に係る育種方法において用いられるオリゴヌクレオチドは、本発明に係るポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを得るためのPCRプライマーまたはハイブリダイゼーションプローブとして使用され得る。
【0115】
なお、当業者は、上述した用途がいずれも、本実施形態に係る育種方法において用いられるオリゴヌクレオチドと目的の遺伝子(ポリヌクレオチド)との間で生じるハイブリダイゼーションに起因しており、当該オリゴヌクレオチドが、目的の遺伝子(ポリヌクレオチド)とハイブリダイズさせるために用いられることを容易に理解する。
【0116】
本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントは、少なくとも7nt(ヌクレオチド)、10nt、12nt、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図されるが、当業者は、上述した用途に応じて好ましい長さを適宜設定し得る。「少なくとも20ntの長さのフラグメント」によって、例えば、配列番号2、5、8、12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列からの20以上の連続した塩基配列またはその相補配列を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号2、5、8、12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに示される塩基配列が提供されるので、当業者は、配列番号2、5、8、12、15、18、21、24、もしくは27のいずれか1つに基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。もしくは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
【0117】
本実施形態に係る育種方法において用いられるオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。上記オリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術によって、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物が減少する。上記オリゴヌクレオチドを導入することによって、本発明に係るポリペプチドの含量を低下させ得、その結果、植物中の鉄欠乏耐性を制御することができる。
【0118】
このように、本実施形態に係る育種方法において用いられるオリゴヌクレオチドを、植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するハイブリダイゼーションプローブまたは当該ポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することによって、当該活性を有するポリペプチドを発現する植物体または組織を容易に検出することができる。さらに、上記オリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用して、植物体またはその組織または細胞における植物の鉄欠乏耐性を向上させる活性を有するポリペプチドの発現を制御することができる。
【0119】
〔7:ポリヌクレオチドの検出方法〕
本発明はまた、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するための検出方法を提供する。
【0120】
本発明に係る検出方法は、候補ポリヌクレオチドと、配列番号12、15、18、21、24、または27のいずれか1つに示される塩基配列からなる第2のポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせる工程を包含する。
【0121】
用語「候補ポリヌクレオチド」は、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの候補が意図される。上記候補ポリヌクレオチドは、好ましくは、cDNAライブラリーを構成するcDNAである。
【0122】
配列番号12、15、18、21、24、または27のいずれか1つに示される塩基配列は、後述するように、本発明に係るポリペプチドのホモログをコードするポリヌクレオチドの部分配列である。そのため、第2のポリヌクレオチドは、上記ホモログをコードするポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする。したがって、候補ポリヌクレオチドと、第2のポリヌクレオチドとをハイブリダイズさせ、特異的なハイブリダイゼーションを検出することにより、上記ホモログをコードするポリヌクレオチドを検出することができる。なお、特異的なハイブリダイゼーションは、周知慣用の2本鎖DNA検出手段や、第2のポリヌクレオチドを予め放射性同位体、蛍光色素等により標識することをによって検出し得る。
【0123】
ここで、上記ホモログは、上述したように、本発明に係るポリペプチドと相同性が高く、同一の機能を有する蓋然性が高い。すなわち、上記ホモログは、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドである蓋然性が高い。以上より、本発明の検出方法によれば、植物の鉄欠乏耐性を向上させるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出することができる。
【0124】
具体的には、第2のポリヌクレオチドをプローブとして用いて、cDNAライブラリーを周知慣用技術によりスクリーニングする。例えば、上記ポリヌクレオチドをプローブとして、上記ライブラリーのcDNAが転写されたメンブレン上でハイブリダイゼーションさせることにより、目的のcDNAを検出し得る。
【0125】
cDNAライブラリーとしては、例えば、配列番号11または26に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして用いたスクリーニングにおいて、オオムギから調整したcDNAライブラリーを、配列番号14に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして用いたスクリーニングにおいて、コムギから調整したcDNAライブラリーを、配列番号17に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして用いたスクリーニングにおいて、トウモロコシから調整したcDNAライブラリーを、配列番号20に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして用いたスクリーニングにおいて、サトウモロコシから調整したcDNAライブラリーを、配列番号23に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドをプローブとして用いたスクリーニングにおいて、サトウキビから調整したcDNAライブラリーを用いればよいが、これらに限られない。上記植物の近縁種から調整したcDNAライブラリーを用いてもよい。また、ライブラリーは、鉄欠乏条件下の根において発現されているmRNAから調整したものであることが好ましいが、これに限られない。cDNAライブラリーの作成方法は、例えばSuzuki, M. et al. Plant J. 8, 85-97 (2006)を参照すればよい。
【0126】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0127】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0128】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されない。また、以下において特に記載がない場合、周知の遺伝子等操作技術が用いられている。
【実施例】
【0129】
〔実施例1:IDEF1の同定〕
本発明者らは、IDE1に結合する転写因子を同定するために、ワンハイブリッドスクリーニング法(one-hybrid screening、Li,I.,J.and Herskowitz, I.:Science,262:1870-1874,1993を参照)を行ったが、該転写因子を同定することはできなかった。
【0130】
これは、以下の原因による。まず、IDE1を反復させたレポーター遺伝子を酵母(YM4271)に導入すると、酵母の生育が阻害され、形質転換効率も通常の10分の1程度に低下した。さらに、IDEF1の発現も非常に少なかった。すなわち、IDEF1を単離するためには、IDEF1の発現量が少ないので、膨大なスクリーニング量を、形質転換効率が低く、酵母の生育が阻害された条件下で行う必要があった。酵母株をY187に変更し、通常はレポーター遺伝子を導入した後に候補因子を導入するところを、レポーター遺伝子および候補因子を同時に酵母に導入することにより、酵母の生育効率および形質転換効率を若干改善させることができたが、上記転写因子を同定し得るまでには至らなかった。
【0131】
そこで、本発明者らは、OsNAAT1(イネのニコチアナミンアミノ基転移酵素)、OsNAS1、OsNAS2(ともにイネのニコチアナミン合成酵素)、HvNAAT-A(オオムギのニコチアナミンアミノ基転移酵素)、HvNAS1(オオムギのニコチアナミン合成酵素)、IDS3等の既知の鉄欠乏誘導性遺伝子のプロモーター領域に存在する様々なIDE1様配列について鋭意検討を行った。そして、本発明者らは独自の観点に基づき、OsNAAT1およびOsNAS2の近傍領域のIDE1様配列に存在していた標準Sphモチーフ(TCCATGCAT、配列番号36)/RYエレメント(CATGCA、配列番号37)に注目した(図1参照)。なお、図1中では、標準SphモチーフRYエレメントと一致する部分に実線の下線を付し、相違する部分に破線の下線を付して示した。
【0132】
標準Sphモチーフ/RYエレメントは、植物特異的なABI3/VP1ファミリーに属する転写因子のB3 DNA結合ドメインが認識する配列である。上記ファミリーに属する転写因子のうち、トウモロコシのVIVIPAROUS(VP1)およびシロイヌナズナのアブシジン酸非感受性3(ABI3:Abscisic acid insensitive3)は、アブシジン酸シグナルを伝達し、種子成熟において様々な遺伝子の転写促進をするマルチドメイン転写因子としてよく特徴づけされている。また、OsVP1は、イネにおけるトウモロコシVP1の機能的なオルソログであり、イネにおけるABI3/VP1ファミリーとして唯一特徴付けられている遺伝子である(図2参照)。なお図2中では各遺伝子は、イネ全長cDNAデータベース(KOME)アクセッション番号、TIGR LOC番号、またはシロイヌナズナゲノム開始コードによって示されている。また、距離に対応するアミノ酸残基の変化率をバーによって示す。
【0133】
本発明者らは、OsVP1のB3ドメインとの相同性に基づいてデータベース検索を行い、IDE1(ATCAAGCATGCTTCTTGC、配列番号30)に結合する転写因子の候補タンパク質を5つ見出した(AK107456、AK072874、AK109920、AK101356(以上、イネ全長cDNAデータベース(KOME)アクセッション番号)、およびOs04g_58010(TIGR LOC番号)。図2参照)。これらの候補タンパク質に対し、インビボおよびインビトロにおけるIDE1への結合性を確認するために、イースト結合アッセイおよびゲルシフトアッセイ(EMSA)を行った。
【0134】
図14にイースト結合アッセイに用いられたレポーターおよびエフェクタープラスミドの模式図を示す。図14に示すように、4種の反復IDEシスエレメント(IDE1×3(配列番号38)、IDE2-IDE1×2(配列番号39)、およびIDE2×3(配列番号40))をおとり配列として、pLacZiベクター(Clontech)のlacZ遺伝子に融合し、レポーターとして用いた。
【0135】
また、IDEF1の候補タンパク質のORFを、以下に示す配列からなるプライマーを用いて取得した:OsVP1について、配列番号42(フォワード)および配列番号43(リバース);AK107456について、配列番号44(フォワード)および配列番号45(リバース);AK072874について、配列番号46(フォワード)および配列番号47(リバース);AK109920について、配列番号48(フォワード)および配列番号49(リバース);AK101356について、配列番号50(フォワード)および配列番号51(リバース)。そして、各ORFを、pGAD424プラスミドのイーストADH1プロモーターの下流に、イーストGAL4活性化ドメイン(GAL4AD)にフレーム内で融合するように結合し、エフェクターとして用いた。また、pGAD424そのものをベクターコントロール(VC)として用いた。
【0136】
そして、上記各プラスミドを、製造者の指示に従いイースト(Saccharomyces cerevisiae strain YM4271、Clontech)に導入し、LacZ活性を測定した。
【0137】
図3に、IDEF1の各候補タンパク質をそれぞれ含むエフェクターを、IDE1×3をおとり配列とするレポーターとともに導入したイースト細胞における、ベータガラクトシダーゼ活性単位(平均±標準偏差;n=5)を示すグラフを示す。図3では、ベクターコントロール(pGAD)との間のt-検定(*P<0.05)により解析された有意差が併せて示されている。図3に示すように、AK107456のみが実質的なLacZ活性を誘導した。以降、本明細書において、AK107456をIDEF1(IDE-binding Factor 1)と称する。OsVP1、AK072874、AK109920およびAK101356は、LacZ活性を誘導しなかった(図3)。また、IDE2-IDE1×2をおとり配列としたレポーターを用いた場合でも、上記と同様の結果を得た。
【0138】
IDEF1について、アミノ酸配列を配列番号1に、ORFの塩基配列を配列番号2に、cDNAの塩基配列を配列番号3にそれぞれ示す。
【0139】
続いて、ゲルシフトアッセイのために以下の操作を行った。まず、以下に示す配列からなるプライマーを用いて、各候補タンパク質のB3 DNA結合ドメインを含む部分ORFを取得した:OsVP1の第501~第726アミノ酸について、配列番号52(フォワード)および配列番号53(リバース);AK107456の第141~第362アミノ酸について、配列番号54(フォワード)および配列番号55(リバース);AK072874の第151~第433アミノ酸について、配列番号56(フォワード)および配列番号57(リバース);AK109920の第1~第289アミノ酸について、配列番号58(フォワード)および配列番号59(リバース);AK101356の第287~672アミノ酸について、配列番号60(フォワード)および配列番号61(リバース)。そして各部分ORFを、マルトース結合タンパク質(MBP)遺伝子にフレーム内で融合するように、pMAL-c2(New England Biolabs)に挿入した。得られたプラスミドを用いて、製造者の指示に従い候補タンパク質とMBPとの融合タンパク質を製造した。得られた融合タンパク質を、タンデムに2回反復したIDE1を含む塩基配列(配列番号39)からなる標識されたプローブとともにインキュベートすることにより、ゲルシフトアッセイ(EMSA)を実施した。
【0140】
図4に、ゲルシフトアッセイの結果を示す。図4に示すように、IDEF1およびAK072874タンパク質は、IDE1に特異的に結合した。一方、OsVP1、AK109920およびAK101356はIDE1に対する特異的な結合を示さなかった(図4)。
【0141】
IDEF1およびAK072874の正確な認識配列を決定するために、変異IDE1配列を用いた拮抗試験を行った。具体的には、図1に示される改変されたIDE1配列(IDEm1~m67)を有する標識されていないポリヌクレオチドを拮抗剤として30倍量過剰に添加し、上記と同様にゲルシフトアッセイを行った。結果を図5に示す。
【0142】
上記拮抗試験の結果より、IDEF1およびAK072874はIDE1に存在するCATGC(配列番号31、図1におけるボックス内)を特異的に認識することが明らかになった。この配列は、従前に報告のあったABI3/VP1転写因子の最小の認識配列(CATGCA、配列番号37)よりも短かった。また、いくつかの遺伝子(HvNAS1、IDS3等)の近傍に存在するIDE1様配列にはCATGC(配列番号31)を欠いているものもあるが、これらのIDE1様配列を拮抗剤として拮抗試験を行ったところ、IDEF1はこれらのIDE1様配列には結合しないことが明らかになった。
【0143】
次に、栄養期のイネの根および葉におけるABI3/VP1ファミリー遺伝子の発現を検出するために、ノザンブロッティング解析を行った。図6は、鉄十分下(+)または鉄欠乏下(-)にて2週間生育されたイネの根および葉におけるIDEF1のノザンブロッティング解析の結果を示す図である。水耕栽培されたイネ(Nipponbare)の苗から、SDS-フェノール法により総RNAを根または葉より抽出し、32Pを用いたノザンブロッティング解析に供した。各レーンは、10μgの総RNAが載せられている。プローブとして、IDEF1の全長cDNAを用いた。図6では、推定される転写産物の長さを併せて示す。
【0144】
図6に示すように、IDEF1転写産物は根および葉において恒常的に発現しており、鉄欠乏による顕著な制御の存在は観察されなかった。いくつかのバンドが検出され、そのうちの最も長い転写産物(~1.7kb)が葉において豊富であり、おそらくIDEF1のcDNA全長に対応している。OsVP1、AK109920およびAK101356も、根および葉において恒常的に発現していた、一方、AK072874の発現は検出されなかった。
【0145】
次に、IDEF1の細胞内での局在を調査した。パーティクルガンシステム(Biolistic PDS-1000/He Particle Delivery System、Bio-Rad)を用いて、タマネギ(Allium cepa)の表皮細胞を形質転換し、IDEF1のC末半分(第184~362アミノ酸に対応)およびGFPの融合タンパク質(IDEF1-GFP)、またはGFPそのもの(GFP)を一時的に発現させた。その後、上記表皮細胞を剥がし、スライドガラス上で位相差顕微鏡により観察したところ、IDEF1-緑色蛍光タンパク質(GFP)融合タンパク質が、タマネギ表皮細胞の核に局在していた。
【0146】
また、発現配列タグ(ESTs)のデータベース検索により、様々なイネ科の種においてIDEF1ホモログが存在していることを見出した(図18)。しかし、非イネ科植物において明らかなIDEF1のホモログは存在していなかった。図18は、イネ科のIDEF1ホモログに対して、B3領域(IDEF1推定コーディングタンパク質の243-355)のアミノ酸配列についてのアラインメントを示す図である。なお、AK072874のB3領域(推定コーディングタンパク質の287-399。B3領域のアミノ酸配列を配列番号28に、B3領域の塩基配列を配列番号29にそれぞれ示す。)、OsVP1(526-637)およびVP1(507-619)についても同様にアラインメントした。GenBankアクセッション番号は以下のとおりである:オオムギ1(Barley1、Hordeum Vulgare、B3領域のアミノ酸配列を配列番号10に、B3領域の塩基配列を配列番号11に、ESTクローンの塩基配列を配列番号12に、それぞれ示す。)、CB880834(相補)およびHarvEST database(http://www.harvest-web.org/hweb/bin/wc.dll?hwebProcess~hmain~&versid=1)におけるcontig 10926;オオムギ2(Barley2、Hordeum vulgare、B3領域のアミノ酸配列を配列番号25に、B3領域の塩基配列を配列番号26に、ESTクローンの塩基配列を配列番号27に、それぞれ示す。)、BQ459575;コムギ(Wheat、Triticum aestivum、B3領域のアミノ酸配列を配列番号13に、B3領域の塩基配列を配列番号14に、ESTクローンの塩基配列を配列番号15に、それぞれ示す。)、BJ263200(相補)、トウモロコシ(Maize、Zea mays、B3領域のアミノ酸配列を配列番号16に、B3領域の塩基配列を配列番号17に、ESTクローンの塩基配列を配列番号18に、それぞれ示す。)、BG320301;サトウモロコシ(Sorghum bicolor、B3領域のアミノ酸配列を配列番号19に、B3領域の塩基配列を配列番号20に、ESTクローンの塩基配列を配列番号21に、それぞれ示す。)、BG241297;サトウキビ(Sugarcane、Saccharum officinarum、B3領域のアミノ酸配列を配列番号22に、B3領域の塩基配列を配列番号23に、ESTクローンの塩基配列を配列番号24に、それぞれ示す。)、CA093694。なお、図18中、文字「X」は、未知の塩基に起因する未知のアミノ酸残基を示す。図18に示すように、オオムギ1、オオムギ2、コムギ、トウモロコシ、サトウモロコシ、およびサトウキビのIDEF1のホモログのB3領域は、IDEF1のB3領域に対して60%以上の相同性を示した。
【0147】
〔実施例2:IDEF2の同定〕
他のIDE結合転写因子を同定するために、市販のシステム(MATCHMAKER one-hybrid system、Clontech)を用いたワンハイブリッドスクリーニング法を実施した。IDE2-IDE1×2(図14参照)をおとり配列(bait)として用い、鉄欠乏イネの根におけるcDNAクローン3.2×10個をスクリーニングした。欠乏イネの根におけるcDNAライブラリーは、水耕され、鉄欠乏7日目に収穫されたイネ(Nipponbare)の根から、総RNAを抽出して構築した。
【0148】
ここで、IDE2は27bpであり、イーストワンハイブリッドスクリーニング法に用いるおとり配列としては長い配列であった。長いおとり配列は酵母の内性のタンパク質が結合し易いため、IDE2を3回反復したおとり配列を用いたワンハイブリッドスクリーニングにおいて、バックグラウンド活性が非常に高く(擬陽性のクローンが多く検出され)、IDEF2を単離することは非常に困難であった。多量のヒスチジン合成酵素阻害剤を培地に添加することで、バックグラウンド活性を抑制することも可能であるが、該阻害剤を培地に添加すると、酵母の正常な生育に影響があるため、正しい結果が得られないことが考えられるため好ましくない。そのため、本実施例では、ヒスチジン合成酵素阻害剤の添加量は最小限に抑えて行った。その結果、多くの擬陽性クローンが検出された。
【0149】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を行い、IDE2の突然変異体の解析結果より、酵母の内性のタンパク質の結合部位が、IDE2とIDE2とのつなぎ目に存在することを見出した。本発明者らは、独自の発想により、IDE2とIDE1とをタンデムに結合したものを反復させたおとり配列を設計することにより、IDE2同士のつなぎ目を無くし、バックグラウンド活性を抑制することに成功した。
【0150】
その結果、図7に示すように、一つのポジティブクローン(clone51)が得られ、DNAシーケンスにより、それがNACファミリー転写因子に属していることを見出した。以降、本明細書においてこれをIDEF2(IDE-binding Factor 2)と称する。IDEF2のアミノ酸配列を配列番号4に、ORFの塩基配列を配列番号5に、cDNAの塩基配列を配列番号6にそれぞれ示す。
【0151】
次に、実施例1と同様にイースト結合アッセイを行った。IDEF2のORFは配列番号62および63に示す塩基配列からなるプライマーを用いて増幅した。また、IDEF2に対しGAL4活性化ドメイン(GAL4AD)を融合させていないエフェクター(pYH-IDEF2)を用いた。結果を図7に示す。
【0152】
図7に示すように、IDE2-IDE1×2またはIDE2×3の下流にlacZ遺伝子を有するレポーター(図14参照)が導入されたイースト細胞において、GAL4ADに融合されていないIDEF2は、実質的なlacZ活性を誘導した。すなわち、IDEF2は、IDE2(TTGAACGGCAAGTTTCACGCTGTCACT、配列番号32)に特異的に結合することが示唆された。また、IDEF2は、転写を活性化することができ、おそらく、植物体において転写活性化因子として働くことが示唆された。
【0153】
また、鉄欠乏オオムギ根の5.0×10個のcDNAクローンに対し、IDE2×3をおとり配列としてワンハイブリッドスクリーニング法を行った。IDEF2に近いホモログをポジティブクローンとして取得した(HvIDEF2、図19参照、アミノ酸配列を配列番号7に、ORFの塩基配列を配列番号8に、cDNAの塩基配列を配列番号9にそれぞれ示す)。
【0154】
IDEF2およびHvIDEF2が属すると考えられるNACファミリーは、高度に保存されたN末端のDAN結合ドメインを有する植物特異的な転写因子ファミリーを構成する。いくつかのメンバーは、発生プログラムおよび乾燥耐性に関与することが報告されている。図8に以下のNAC転写因子ファミリーの系統樹を示す:AK063703、AK063399およびAK108080:イネにおける鉄欠乏誘導性NAC転写因子;TtNAM-B1(DQ869673):パスタコムギにおける老化を制御するNAC転写因子;HvNAM-1(DQ869678)およびONAC010(NP_911241):それぞれオオムギおよびイネにおけるTtNAM-B1のホモログ;RD26/ANAC072(At4g27410)、ATAF1(At1g01720)およびATAF2(At5g08790)、ANAC019(At1g52890):シロイヌナズナにおける乾燥および/または塩分応答NAC転写因子;SNAC1(DQ394702):イネにおける乾燥応答NAC転写因子。図8に示すように、IDEF2は、既に特徴付けられた如何なるNAC転写因子とも顕著な類似性を有していなかった。
【0155】
続いて、EMSA法によりIDEF2のIDE2に対する特異的な結合を確認した。配列番号64および65に示される塩基配列からなるプライマーによって増幅したIDEF2のNACドメインをpMAL-c2ベクターにクローニングし、これを用いてIDEF2-MBP融合タンパク質を製造した。そして、IDE2を含む塩基配列(配列番号41)からなる標識されたIDE2プローブを、500ngのIDEF2-MBP融合タンパク質とともにインキュベートした。結果を図9に示す。図9に示すように、IDE2プローブとIDEF2-MBP融合タンパク質とが特異的に結合していることが確認された。
【0156】
次に、標識されていない拮抗剤を30または50倍量過剰に添加することにより拮抗試験を行った。図10および図12の(a)に、拮抗剤として用いるポリヌクレオチド断片に導入された変異を示す。IDE2プローブを、30または50倍量過剰の非標識の拮抗剤、および500ngのIDEF2-MBP融合タンパク質とともにインキュベートした。図10および図12の(b)に、拮抗試験結果を示す。図10および図12の(b)に示すように、IDEF2は主にIDE2中のCA[A/C]G(TTT)配列(配列番号33または34)を認識した。
【0157】
また、Cyclic Amplification and Selection of Target(CASTing)実験により、IDEF2のNACドメインがCA[C/A]G[T/C][T/C/A]に優先的に結合することを明らかにした。この配列は、EMSA法により決定された認識配列の部分配列に対応する。しかしながら、いくつかのCA[C/A]G[T/C][T/C/A](配列番号35)を含んでいる鉄欠乏誘導性プロモーター配列は、IDEF2のIDE2への結合に対し効果的に拮抗しなかった。以上の結果より、IDEF2は、CA[A/C]G(配列番号33)をコア配列として認識し、IDE2に典型的に存在する隣接配列を効果的な結合のために認識することが示唆された。さらなる実験は、IDEF2がまた、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの-90/-47に位置するTGACG繰り返しの5’半分を、CA[A/C]G(配列番号33)が存在しないにもかかわらず認識することを示唆した。
【0158】
鉄十分下(+)または鉄欠乏下(-)にて、5または11日間生育されたイネの茎葉および根におけるIDEF2のノザンブロッティング解析を行った。各レーンは、10μgの総RNAが載せられている。IDEF2ORFの3’末500bpの非NACドメイン領域を、配列番号66および67に示すプライマーを用いて増幅し、プローブとして用いた。結果を図11に示す。
【0159】
図11に示すように、IDEF2転写産物が鉄十分及び鉄欠乏イネの茎葉および根において恒常的に発現しており、特に根において高い発現が観察された。
【0160】
また、実施例1と同様に、IDEF2-GFP融合タンパク質をタマネギ表皮細胞において一時的に発現させた場合、該融合タンパク質は核に局在した。これらの結果は、IDEF1とともにイネ植物体において鉄欠乏応答を仲介するIDEF2の機能的特性を示唆する。
【0161】
〔実施例3:形質転換体の作製〕
植物体内において、IDEF1の機能を特徴付けするために、2コピーのIDE1の下流にベータグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子の融合配列を含んでおり、かつ、恒常的35Sプロモーターの下流にIDEF1遺伝子を導入したもの(35S-IDEF1)またはベクターコントロール(VC)を含んでいる形質転換タバコを作出した。
【0162】
タバコ(Nicotiana tabacum L.、Petit-Havana SR)のリーフディスクが、IDE1-IDE1-GUSコンストラクトを導入するためのアグロバクテリウムを介した形質転換に供された。カナマイシンによるスクリーニングおよびT1種子の取得後、代表的なラインのT1葉が、35S-IDEF1またはVCのさらなる導入のために供され、二重形質転換体が、ハイグロマイシンB(50mg L-1)を用いてスクリーニングされた。発芽後16~17日目のハイグロマイシンBを含んでいるMS(Murashige and Skoog)培地上の苗木は、鉄含有(+Fe)または鉄非含有(-Fe)の新しいMS固形培地に移植された。各ラインにつき2本の苗木の根全体、最新葉、および第2最新葉が移植の14日後に収穫され、クロロフィルメーター(SPAD-502、コニカミノルタ)による葉のクロロフィル測定および蛍光法によるGUS活性の検出のために用いられた。結果を図13に示す。図中の垂直のバーは、平均を示す。
【0163】
図13の(a)に示すように、これらの形質転換体は、鉄十分根において実質的なGUS活性を誘導せず、鉄十分葉および鉄欠乏葉においても同様であった。一方、鉄欠乏根では、VCおよび35S-IDEF1植物体はともに、重複されたIDE1により促進された強力なGUS活性を誘導した。さらに、35S-IDEF1植物体は、VC植物体に比べ、GUS活性が強まる傾向が見られた。また、図13の(b)に示すように、35S-IDEF1植物体はまた、鉄欠乏下において、VC植物体に比べ高いクロロフィル含有量を示した。その他、目に見える形質は示されなかった。導入されたIDEF1遺伝子は、転写後の制御を受けていることが示唆され、これがおそらく、鉄欠乏下、かつ、根に特異的なGUSの発現に関与していることが示唆された。
【0164】
IDEF1の機能をさらに調査するために、我々は、イネに対し、恒常的35Sプロモーター、または鉄欠乏に応答して活性化される鉄欠乏誘導性プロモーターであるIDS2のプロモーター(配列番号68)の制御下にIDEF1遺伝子を導入した(35S-IDEF1およびI2p-IDEF1)。T1形質転換体および非形質転換体(NT)が、鉄欠乏への応答を解析するために水耕栽培された。
【0165】
35S-IDEF1およびI2p-IDEF1コンストラクトが、アグロバクテリウムを介した形質転換により、イネ(Tsukinohikari)に導入された。T1種子を、3%スクロース、0.8%アガロース、および50mgL-1ハイグロマイシンBを含む培地上で、28℃、16時間の明条件および8時間の暗条件下で発芽させ、16日間生育させた。非形質転換体は、ハイグロマイシンBを含まないMS培地上で出芽させた。苗木は3日間の順応期間の後、水耕栽培培地へと移植した。NTおよびI2p-IDEF1植物体について7日後、35S-IDEF1植物体について7-14日後、茎葉の高さが、20-30cmに達したときに、Fe(III)-EDTAを含まず、pH調整されていない培養培地に移植することにより鉄欠乏を導入した。最大葉および最新葉のSPADメーターインデックスおよび茎葉の高さが、鉄欠乏開始から0、2、4、6、および7日後に測定された。栄養溶液は0、4、および7日目に取り替えられた。結果を図15および16に示す。
【0166】
図15の(a)は、I2p-IDEF1形質転換体(ライン9、12、および13)ならびにNTの、鉄欠乏処理開始から0、2、4、6、および7日目における最新葉のクロロフィル含有量の経時的変化を示すグラフである。ドットはSPADインデックスの平均を示す。t-検定(*、p<0.05;**、p<0.01)により解析されたNTに対する有意差をともに示す。
【0167】
図15の(b)は、I2p-IDEF1形質転換体(ライン9、12、および13)ならびにNTの茎葉の高さを示すグラフである。平均値をt-検定(*、p<0.05;**、p<0.01)により解析されたNTに対する有意差とともに示す。
【0168】
図16の(a)は、NT、35S-IDEF1およびI2p-IDEF1形質転換体のクロロフィル含有量を示すグラフである。35S-IDEF1およびI2p-IDEF1の8つの独立ラインならびに3つのNT植物体について、最大葉の平均SPADインデックスを示す。
【0169】
図16の(b)は、 NT、35S-IDEF1およびI2p-IDEF1形質転換体の茎葉の高さを示すグラフである。35S-IDEF1およびI2p-IDEF1の8つの独立ラインならびに3つのNT植物体について、平均高さを示す。t-検定(*、p<0.05;**、p<0.01)により解析されたNTに対する有意差を示す。
【0170】
なお、図15および16における標本数は以下のとおりである:0、2、および4日目のライン12についてn=8;0、2、および4日目のNTおよびライン9、ならびに6および7日目のライン12についてn=6;0、2、および4日目のライン13についてn=5;6および7日目のNTおよびライン9についてn=4;6および7日目のライン13についてn=3。
【0171】
図15の(a)および図16の(a)に示すように、鉄欠乏条件下において、35S-IDEF1およびI2p-IDEF1の多くのラインにおけるクロロフィルの減衰は、NT植物体よりも緩やかであった。鉄欠乏処理下における、3つの代表的なI2p-IDEF1ライン(ライン9、12、および13)の経時的変化の観察により、特にライン9および13において、実質的な鉄欠乏への耐性が明らかになった。
【0172】
但し、図16の(b)に示すように、35S-IDEF1植物体は、I2p-IDEF1イネ植物体と同様に、緩やかなクロロフィルの減衰を示したが、発芽後の基本的な生長がかなり遅滞した。ストレス応答関連転写因子の恒常的な過剰発現の副作用は、乾燥耐性遺伝子を制御するDREB転写因子について同様に報告されている。このことは、ストレス誘導性のプロモーターを転写因子の発現強化のために用いることの有効性を示唆する。
【0173】
〔実施例4:RNAi法〕
IDEF2の機能を調べるため、RNAi法によりIDEF2の発現を抑制した形質転換イネを作製した。具体的には、IDEF2の400bpの5’UTRおよび300bpの3’UTRを増幅し、ベクターpIG121-RNAiーDESTに挿入した。イネの形質転換は、公知の方法を用いた。20の独立した形質転換5’RNAiおよび3’RNAiイネ植物体をそれぞれ作出した。
【0174】
40ラインの形質転換イネを得、その中から強く発現が抑制されているライン(ライン1、2、および3)と穏やかに発現が抑制されているライン(ライン4)を選んだ。詳しく述べれば、5’RNAiイネからIDEF2を強力に抑制する1ラインを選択し(ライン1)、3’RNAiイネから強力に抑制する2ラインを選択した(ライン2および3)。そして、穏やかな抑制を示すライン(ライン4)を3’RNAiイネから選択した。T1種子を解析に供した。図17の(a)に各ラインのノザンブロッティング結果を示す。
【0175】
イネは、14時間の明条件30℃および10時間の暗条件25℃の繰り返しにおいて水耕栽培された。発芽から29~31日目、植物体の高さが34cmに達したときに、Fe(III)-EDTAを培養溶液から除去することにより鉄欠乏が開始された。植物体は、鉄欠乏から7日目に収穫された。
【0176】
それぞれのラインについて、イネの根において、鉄キレート化合物を吸収する働きを有するFe(II)-ニコチアナミントランスポーターOsYSL2の発現量を公知のRT-PCR法により測定した。結果を図17の(b)に示す。
【0177】
図17の(b)に示すように、鉄欠乏条件で生育させたところ、OsYSL2の発現がRNAiイネで著しく抑制されていた。強く発現が抑制されているライン(ライン1、2、および3)ではOsYSL2の強い発現抑制が見られ、穏やかに発現が抑制されているライン(ライン4)でOsYSL2の弱い発現抑制が見られた。このことからIDEF2はOsYSL2の発現制御に関わっており、植物の鉄獲得機構に関与していることが明らかになった。
【0178】
本発明を用いれば、植物において鉄の吸収に関与する遺伝子の発現を亢進させ得るので、鉄欠乏耐性が向上した植物を提供することができる。
【0179】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明を用いれば、鉄欠乏耐性が向上した植物を取得することができるので、可溶化した鉄分が少ないアルカリ性の土壌等でも生育可能な作物を取得することができる。
【0181】
イネ科の作物は、世界の食料供給の主要な部分を構成するが、イネおよびトウモロコシは、鉄欠乏に対し高い感受性を有している。本発明者らは、オオムギHvNAAT遺伝子の導入により鉄欠乏への耐性が強化されたイネ植物体の作出に成功している。鉄欠乏への応答に関する基本的な制御システム、例えば転写因子を操作することができれば、鉄欠乏への応答に関する遺伝子を広い範囲で遺伝的に強化することができる。さらに、本発明者らは、IRO2の過剰発現が、鉄欠乏に対する耐性を向上させることを明らかにした。IDEF1をさらにIDEF2、IRO2、およびその他の未知の因子と組み合わせて操作することにより、新たなタイプの、問題のある土壌における好ましい特性を有する作物やその他の植物を提供できる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
6
【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図17】
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