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明細書 :らせん構造が制御された合成高分子、及びそれからなるホストゲスト化合物、並びにそれらの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5392844号 (P5392844)
登録日 平成25年10月25日(2013.10.25)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
発明の名称または考案の名称 らせん構造が制御された合成高分子、及びそれからなるホストゲスト化合物、並びにそれらの製造方法
国際特許分類 C08F  20/18        (2006.01)
C01B  31/02        (2006.01)
FI C08F 20/18
C01B 31/02 101F
請求項の数または発明の数 32
全頁数 21
出願番号 特願2009-513980 (P2009-513980)
出願日 平成20年3月18日(2008.3.18)
国際出願番号 PCT/JP2008/000636
国際公開番号 WO2008/139674
国際公開日 平成20年11月20日(2008.11.20)
優先権出願番号 2007125098
優先日 平成19年5月9日(2007.5.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年11月30日(2009.11.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】河内 岳大
【氏名】熊木 治郎
【氏名】八島 栄次
個別代理人の代理人 【識別番号】100102668、【弁理士】、【氏名又は名称】佐伯 憲生
審査官 【審査官】久保田 英樹
参考文献・文献 特開2008-238368(JP,A)
Y. Chatani, H. Tadokoro et al.,Structural change of st-PMMA on drawing, absorption and desorption of solvents.,Structural change of st-PMMA on drawing, absorption and desorption of solvents.,NL,Elsevier,1982年,Vol. 23,pp.1256-1258
調査した分野 C08F 20/00-20/70
C08F 6/00- 8/50
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及びキラル化合物を溶媒に溶解させ、次いでこれを冷却又は濃縮して生成する固形分を分離することからなる、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物を製造する方法。
【請求項2】
シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーの分子量が、1,000から10,000,000である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
冷却又は濃縮して生成する固形分が、ゲル化物又は結晶化物である請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
キラル化合物を溶解させた溶液に、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを添加した後、これを加熱して溶解させ、次いでこれを冷却又は濃縮してゲル化させるものである請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
生成した固形分を洗浄してキラル化合物を除去する工程を、さらに含有してなる請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
キラル化合物が、次の一般式(1)
Ar-C(R)(R)-Z (1)
(式中、Arは置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Rは置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Zは水酸基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、又はスルホン酸基を表し、Cは当該炭素原子が不斉炭素原子であることを表す。)
で表されるキラル化合物である請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
キラル化合物が、光学活性な1-フェニルエタノール又は1-フェニルエチルアミンである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
溶媒が、トルエン、1,2-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ベンゼン、酢酸ブチル、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーの濃度が、1×10-7g/mLから5g/mLである請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の方法において、さらにゲスト化合物を添加して、当該ゲスト化合物をらせん構造中に取り込ませることからなる、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接したホストゲスト化合物を製造する方法。
【請求項12】
ゲスト化合物の添加が、冷却又は濃縮する前である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ゲスト化合物の添加が、冷却又は濃縮した後である請求項11に記載の方法。
【請求項14】
ゲスト分子が、フラーレンである請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
溶媒中で、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーに、キラル化合物を共存させることにより、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の巻き方向を、当該キラル化合物のキラリティーに応じて制御させることからなる、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の巻き方向を制御する方法。
【請求項16】
キラル化合物を溶解させた溶液に、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを添加してなる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを含有する溶液に、キラル化合物を添加してなる請求項15に記載の方法。
【請求項18】
さらにゲスト化合物の存在下である請求項15~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
ゲスト化合物が、フラーレンである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
らせん構造の巻き方向が制御され、円二色性測定で吸収円二色性が観察されるものである、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物。
【請求項21】
請求項1~10のいずれかに記載の方法により製造され得る巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物である請求項20に記載のらせん高分子化合物。
【請求項22】
シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートである請求項20又は21に記載のらせん高分子化合物。
【請求項23】
らせん構造の巻き方向が制御され、円二色性測定で吸収円二色性が観察されるものである、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接したホストゲスト化合物。
【請求項24】
請求項11~14のいずれかに記載の方法により製造され得るらせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接したホストゲスト化合物である請求項23に記載のホストゲスト化合物。
【請求項25】
ゲスト化合物が、フラーレンである請求項23又は24に記載のホストゲスト化合物。
【請求項26】
シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートである請求項23~25のいずれかに記載のホストゲスト化合物。
【請求項27】
らせん構造の巻き方向が制御され、円二色性測定で吸収円二色性が観察されるものである、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物、及びイソタクチックポリメタクリレート又はイソタクチックポリアクリレートからなるステレオコンプレックス。
【請求項28】
らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物が、請求項1~10のいずれかに記載の方法により製造され得る巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物である請求項27に記載のステレオコンプッレクス。
【請求項29】
らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系らせん高分子化合物、及びイソタクチックポリメタクリレートからなる請求項27又は28に記載のステレオコンプレックス。
【請求項30】
シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートであり、イソタクチックポリメタクリレートがイソタクチックポリメタクリル酸メチルである請求項29に記載のステレオコンプレックス。
【請求項31】
らせん構造の巻き方向が制御され、円二色性測定で吸収円二色性が観察されるものである、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物と、イソタクチックポリメタクリレートの溶液を混合し、撹拌して、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物とイソタクチックポリメタクリレートポリマーとのステレオコンプレックスを製造する方法。
【請求項32】
溶媒がトルエンである請求項31に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造のらせんの向きが制御されたらせん高分子化合物を製造する方法、及びらせん構造のらせんの向きを制御する方法、並びにこれらの方法で製造されたらせん高分子化合物に関する。詳しくは、これらのらせん高分子化合物において少量のキラル化合物を利用することによりらせんの向きを制御する方法、及び制御されたらせん高分子に関する。さらには、らせんの向きを制御されたらせん高分子の内部にゲスト化合物を包接したホストゲスト化合物、及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチックポリメタクリル酸メチル(以下、st-PMMAと略記することもある。)は、トルエンやアセトンなどの有機溶媒を取り込んでらせん構造を形成し、ゲル化・結晶化することが知られている(非特許文献1~3参照)。その結晶構造は、通常、18/1程度のゆるく巻いたらせんコンフォメーションを取り、そのらせんの内部には直径1nm程度の空間を有し、その空間に溶媒分子が包接されている。
本発明者らは既に、シンジオタクチックポリメタクリレート系もしくはシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーのらせんコンフォメーションの内部にフラーレンを包接したフラーレン高分子複合体、及びその製造法に関する発明を完成し特許を出願している(特許文献1参照)。
これまでに報告されている汎用ポリマーを用いてらせんの巻き方向を制御した例としては、ポリメタクリレート系又はポリアクリレート系のイソタクチックポリマーに限られており、しかも、嵩高い側鎖構造を有する高分子に限定されていた。得られたらせんポリマーの巻き方向は、重合反応時に用いるキラルな開始剤又は助剤により決定され、その後の変更ができない静的ならせん構造であった(非特許文献4)。
こうした一方向巻きのらせん構造を有するメタクリル酸エステルポリマーとして、イソタクチックポリメタクリル酸トリフェニルメチルがよく知られている(例えば、非特許文献5)。この一方向巻きポリマーは、キラル化合物の分離用カラムとして実用化されている。ところが、これらのポリマーは、嵩高い3級エステル基が加水分解されカルボン酸へ容易に変化してしまい易く、その結果、簡単にらせん構造が壊れてしまうという欠点がある(非特許文献6)。また、原料が、トリフェニルメチルエステルという特殊なエステルであり汎用モノマーではないため、合成過程が繁雑であり、かつ製造コストが高くなるという欠点があり、実用上大きな課題になっている。
【0003】

【特許文献1】特願2006-238368号
【非特許文献1】Kusuyama, H.; Takase, M.; Higashihata, Y.; Tseng, H.; Chatani, Y.; Tadokoro, H. Polymer, 1982, 23, 1256.
【非特許文献2】Kusuyama, H.; Miyamoto, N.; Chatani, Y.; Tadokoro, H. Polymer 1983, 24, 119.
【非特許文献3】Berghmans, M.; Thihs, S.; Cornette, M.; Berghmans, H.; Schryver, F. C. Macomolecules 1994, 27, 7669.
【非特許文献4】Nakano, T.; Okamoto, Y. Chem. Rev. 2001, 101, 4013.
【非特許文献5】Okamoto, Y.; Suzuki, K.; Ohta, K.; Hatada, K.; Yuki, H. J. Am. Chem. Soc. 1979, 101, 4763.
【非特許文献6】Okamoto, Y.; Yashima, E.; Ishikura, M.; Hatada, K. Polym. J. 1987, 19, 1183.
【非特許文献7】Spevacek, J.; Schneider, B. Adv. Colloid Interface Sci. 1987, 27, 81.
【非特許文献8】Yoshida, Z.; Takekuma, H.; Takekuma, S.; Matsubara, Y. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1994, 33, 1597
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、任意の巻き方向のらせん高分子を廉価な汎用高分子から簡便に製造する方法、及び巻き方向が制御されたらせん高分子を提供する。さらには、巻き方向が制御されたらせん高分子の内部にゲスト化合物を包接したホストゲスト化合物を製造する方法、及びその方法で得られたホストゲスト化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、シンジオタクチック-ポリメタクリレート及びシンジオタクチック-ポリアクリレート系ポリマーによる安定ならせん構造体の開発をしてきた。そして、本発明者らは、フラーレンなどのゲスト化合物の存在下において安定ならせん構造体を得ることができることを見出してきたが(特許文献1参照)、らせん構造の巻き方向を制御することはできず、右巻きと左巻きのらせん構造の混合物しか得ることができず、またこれらを分離する方法も開発されていなかった。そこで、本発明者らは、いずれかの巻き方向を有するらせん構造体を選択的に製造する方法を検討してきた。
シンジオタクチック-ポリメタクリレート又はシンジオタクチック-ポリアクリレート系ポリマーは、トルエンなどの溶媒や、フラーレンなどのゲスト化合物が存在していないと安定ならせん構造体を得ることはできず、らせん構造体の製造自体が困難であることから巻き方向を制御することは非常に困難であった。本発明者らはさらに鋭意検討して結果、これらのポリマーが溶媒中でゲル化・結晶化する際、少量のキラル化合物を共存させると、らせんの向きを制御することができ、このキラル化合物を除去した後も、この制御された巻き方向を有するらせんの構造が、そのまま保持、記憶されるという驚くべき現象を見出し、本発明の完成に至った。
【0006】
本発明者らは、さらに検討してきた結果、添加するキラル化合物は僅かの量でも、らせんの向きを鋭敏、且つ確実に制御することが可能で、巻き方向が定まった後は適正な溶媒を用いゲルや結晶を洗浄して当該キラル化合物を除去することができ、しかも、当該キラル化合物が除去された後も、らせん構造は安定に保持される。このことは、当該キラル化合物は、トルエンなどの溶媒や、フラーレンなどのゲスト化合物とは異なる作用機序で、らせん構造の形成に関与していると考えられる。ポリマーとキラル化合物との間には、共有結合が無く、水素結合やイオン間の相互作用などの強い分子間力も無いにもかかわらず、らせん構造の巻き方向が制御されることは驚くべきことであると考えられる。
このように、シンジオタクチック-ポリメタクリレート又はシンジオタクチック-ポリアクリレート系ポリマーにおいては、キラル化合物の存在下で、らせん構造の巻き方法を制御することができ、しかもゲル化・結晶化によりらせん構造が安定化した後は、当該キラル化合物を除去することができ、こうして除去されたキラル化合物は容易に再利用することができる。
また、本発明者らは、さらに、こうして得られたらせん構造を制御された高分子の内部にゲスト化合物を取り込ませて、キラル構造を保持したままホストゲスト化合物が得られることも見出した。
【0007】
即ち、本発明は、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及びキラル化合物を溶媒に溶解させ、好ましくは加熱して溶解させ、次いで冷却や濃縮などにより生成する固形分、即ちゲル化物又は結晶化物などの固形成分を分離することからなる、らせん構造の巻き方向が制御された、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物を製造する方法に関する。
また、本発明は、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及びキラル化合物を溶媒に溶解させ、好ましくは加熱して溶解させ、次いで冷却や濃縮などにより生成する固形分、即ちゲル化物又は結晶化物などの固形成分を分離することからなる、らせん構造の巻き方向が制御された、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物を製造する方法において、さらにゲスト化合物を添加して、当該ゲスト化合物をらせん構造中に取り込ませることからなる、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接したホストゲスト化合物を製造する方法に関する。
さらに、本発明は、溶媒中で、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーに、キラル化合物を共存させることにより、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の巻き方向を、当該キラル化合物のキラリティーに応じて制御させることからなる、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の巻き方向を制御する方法に関する。この方法においても、さらにゲスト化合物を添加して、当該ゲスト化合物をらせん構造中に取り込ませることからなる、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接したホストゲスト化合物のらせん構造の巻き方向を制御する方法とすることもできる。
また、本発明は、これらの方法により製造し得る巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物、及びらせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接したホストゲスト化合物に関する。
【0008】
さらに、本発明は、巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物に関する。
また、本発明は、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物、及びイソタクチックポリメタクリレート又はイソタクチックポリアクリレートからなるステレオコンプレックス、及びその製造方法に関する。
【0009】
本発明をより詳細に説明すれば以下のとおりとなる。
(1)シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及びキラル化合物を溶媒に溶解させ、次いでこれを冷却又は濃縮して生成する固形分を分離することからなる、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物を製造する方法。
(2)シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーの分子量が、1,000から10,000,000である前記(1)に記載の方法。
(3)シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートである前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)冷却又は濃縮して生成する固形分が、ゲル化物又は結晶化物である前記(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)キラル化合物を溶解させた溶液に、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを添加した後、これを加熱して溶解させ、次いでこれを冷却又は濃縮してゲル化させるものである前記(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)生成した固形分を洗浄してキラル化合物を除去する工程を、さらに含有してなる前記(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)キラル化合物が、次の一般式(1)
Ar-C(R)(R)-Z (1)
(式中、Arは置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Rは置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Zは水酸基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、又はスルホン酸基を表し、Cは当該炭素原子が不斉炭素原子であることを表す。)
で表されるキラル化合物である前記(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)キラル化合物が、光学活性な1-フェニルエタノール又は1-フェニルエチルアミンである前記(7)に記載の方法。
(9)溶媒が、トルエン、1,2-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ベンゼン、酢酸ブチル、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーの濃度が、1×10-7g/mLから5g/mLである前記(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)前記(1)~(10)のいずれかに記載の方法において、さらにゲスト化合物を添加して、当該ゲスト化合物をらせん構造中に取り込ませることからなる、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接したホストゲスト化合物を製造する方法。
(12)ゲスト化合物の添加が、冷却又は濃縮する前である前記(11)に記載の方法。
(13)ゲスト化合物の添加が、冷却又は濃縮した後である前記(11)に記載の方法。
(14)ゲスト分子が、フラーレンである前記(11)~(13)のいずれかに記載の方法。
(15)溶媒中で、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーに、キラル化合物を共存させることにより、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の巻き方向を、当該キラル化合物のキラリティーに応じて制御させることからなる、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の巻き方向を制御する方法。
(16)キラル化合物を溶解させた溶液に、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを添加してなる前記(15)に記載の方法。
(17)シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを含有する溶液に、キラル化合物を添加してなる前記(15)に記載の方法。
(18)さらにゲスト化合物の存在下である前記(15)~(17)のいずれかに記載の方法。
(19)ゲスト化合物が、フラーレンである前記(18)に記載の方法。
【0010】
(20)らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物。
(21)巻き方向が制御された、右方向又は左方向のいずれか一方向に片寄った巻き構造を有するシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物。
(22)前記(1)~(10)のいずれかに記載の方法により製造され得るらせん構造の巻き方向が制御された前記(20)又は(21)に記載のシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物。
(23)シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートである前記(20)~(22)のいずれかに記載のらせん高分子化合物。
(24)らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接したホストゲスト化合物。
(25)前記(11)~(14)のいずれかに記載の方法により製造され得るらせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物のらせん構造の内部にゲスト分子を包接した前記(24)に記載のホストゲスト化合物。
(26)ゲスト化合物が、フラーレンである前記(25)に記載のホストゲスト化合物。
(27)シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートである前記(24)~(26)のいずれかに記載のホストゲスト化合物。
(28)らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物、及びイソタクチックポリメタクリレート又はイソタクチックポリアクリレートからなるステレオコンプレックス。
(29)らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物が、右方向又は左方向のいずれか一方向に片寄った巻き構造を有するものである前記(26)に記載のステレオコンプレックス。
(30)らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物が、前記(1)~(10)のいずれかに記載の方法により製造され得る巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物である前記(28)又は(29)に記載のステレオコンプッレクス。
(31)らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系らせん高分子化合物、及びイソタクチックポリメタクリレートからなる前記(28)~(30)のいずれかに記載のステレオコンプレックス。
(32)シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーが、シンジオタクチックポリメチルメタクリレートであり、イソタクチックポリメタクリレートがイソタクチックポリメタクリル酸メチルである前記(31)に記載のステレオコンプレックス。
(33)らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物と、イソタクチックポリメタクリレートの溶液を混合し、撹拌して、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物とイソタクチックポリメタクリレートポリマーとのステレオコンプレックスを製造する方法。
(34)溶媒がトルエンである前記(33)に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、任意の巻き方向のらせん高分子を廉価な汎用高分子であるシンジオタクチックポリアクリル酸エステル又はシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルから簡便に製造する方法を提供することができ、こうしたシンジオタクチック構造のらせんの内部の空間にフラーレンなどの種々のゲスト分子を包接することができることから、包接されたゲスト分子をキラルな環境下に置くことを可能にするものである。種々のゲスト化合物をキラルな環境に置くことにより得られたキラルな高分子材料は、化学物質認識センサー、キラル触媒、キラルなカラム材料、高密度記録デバイス等としての広範なキラル材料への利用が可能となる。また、本発明により得られる高分子は、らせん構造を有する分子素子ともいうべき新材料の創製の根幹を成すものと考えられる。
そして、本発明の方法によれば、これらのらせん構造を有する分子素子を、大型の製造設備なしに簡便かつ安価に、しかもらせんの巻き方法を選択的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明のst-PMMAゲルの実測VCD及びIRスペクトルを示すものである。
【図2】図2は、本発明のst-PMMA/C60包接複合体ゲルのCD及びIRスペクトルを示すものである。
【図3】図3は、本発明のst-PMMAゲルのトルエン洗浄前と後での1H-NMRスペクトルの変化を示すものである。
【図4】図4は、一段階で調製した本発明のst-PMMA/C60複合体ゲルの実測VCD及びIRスペクトルを示すものである。
【図5】図5は、一段階で調製した本発明のst-PMMA/C60包接複合体ゲルのCD及びIRスペクトルを示すものである。
【図6】図6は、本発明のらせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリル酸メチルとフラーレンから成る高分子包接複合体から形成させたステレオコンプレックスゲルのVCD及びIRスペクトルを示すものである。
【図7】図7は、本発明のらせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリル酸メチルから形成させたステレオコンプレックスゲルのVCD及びIRスペクトルを示すものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物を提供するものである。本発明者らは、フラーレンなどのゲスト化合物の存在下において安定ならせん構造体を得ることができることを見出してきたが(特許文献1参照)、らせん構造の巻き方向を制御することはできず、これらのらせん構造体は右方向のものと左方向のものの混合物として存在していたが、これらを分離する方法も開発されておらず、らせん構造の巻き方向が制御されているものは単離されていないなかった。即ち、安定ならせん構造を有するものであって、右方向か左方向かのどちらか一方向の巻き構造にらせん構造が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物を、本発明が初めて提供するものである。
らせんの巻き方向を高度に制御するには、ポリマーを溶液状態で処理するのが最も効率的である。その場合、シンジオタクチックポリメタクリレート系、又は、シンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及び少量のキラル化合物を溶媒に溶かした溶液として処理される。少量のキラル化合物は、前記したポリマーと一緒に加えても、ポリマーがすっかり溶けてから加えても良いが、降温過程に入る前が好ましく、ポリマーのらせん構造の形成が始まる前であることが必要である。
【0014】
本発明における、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー(両者を併せ、以下、st-PMMAsと表示することもある。)におけるエステルとしては、炭素数1から30,好ましくは1から20、1から10,さらには1から5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。これらのアルキル基は、アルコキシ基、ハロゲンなどの汎用されている置換基で置換されていてもよい。また、高分子の立体規則性はシンジオタクチック3連子含量(rr含量)で60%以上が好ましく用いられる。シンジオタクチシチーが高いほどポリマーがらせん構造をとり易く、取り込むフラーレン等のゲスト化合物の量が増加するので好ましい。より好ましくはrr含量80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは93%以上である。
本発明の効果を損なわない範囲であれば共重合体を使用してもよく、その構造は、ランダム、ブロック、グラフト共重合体でもよい。また、2種以上のポリマーをブレンドして用いてもよい。
また、本発明のst-PMMAsのポリマーの分子量(重合度)には制限は無いが、溶媒に溶ける事が必要である。通常、数平均分子量で1,000万以下が使われ、10~1000万、好ましくは1000~1000万、より好ましくは1000~100万が溶解性と汎用性の点で好ましい。
【0015】
本発明のポリマーは、実質的にシンジオタクチックであることが必要であるが、他のポリマーが共存していてもよい。例えば、st-PMMAsとイソタクチックポリメタクリル酸メチル(以下、it-PMMAと略記することもある。)はトルエン中でステレオコンプレックス(以下、SCと略記することもある。)と呼ばれる高分子錯体を形成することが知られており(Spevacek, J., Schneider, B., Adv. Colloid. Interface Sci., 1987, 27, 81参照)、このSC形成により、単独ポリマーで観測されたガラス転移点を示さない高融点になるなど、耐熱性の著しい向上が見られる。このSCを用いても、本発明は達成される(以下の実施例4及び5参照)。
したがって、本発明は、キラル化合物を溶解させた溶液に、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを添加して溶解させ、次いで冷却や濃縮などによりゲル化物や結晶などの固形分を生成させることからなる、らせん構造の巻き方向が制御された、シンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物を製造し、次いでこれにイソタクチックポリメタクリレートポリマーを添加して、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物とイソタクチックポリメタクリレートポリマーとのステレオコンプレックスを製造する方法を提供する。
また、前記方法においては、後述するゲスト化合物を添加することもできる。
【0016】
本発明における溶媒としては、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマー、及びキラル化合物を溶解することができるものであれば特に制限はないが、通常、非極性有機溶媒が好ましい。
好ましい溶媒としては、トルエン、1,2-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ベンゼン、酢酸ブチル、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。混合の比率はポリマーの種類と反応器、その他の事情で任意に選択し得る。特に好ましい溶媒としては、トルエンが挙げられる。
シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーや、キラル化合物を溶解するための溶解温度には制限は無く、溶媒の融点以上、沸点以下のどの温度も可能である。しかし、溶解度と溶解速度の関係で、50℃以上が好ましく、より好ましくは50~120℃、70~120℃、70~110℃程度であればよいが、沸点以下であれば高温ほど好ましい。
溶媒中でのポリマーの濃度は、溶解度以下であれば制限は無い。溶解度に近い高濃度では均質性に心配があり、低濃度に過ぎると効率的でない。本発明のポリマーの濃度としては、1×10-7g/mL~5g/mL、好ましくは1~1000mg/mL、10~500mg/mL、50~300mg/mLが好ましい範囲である。
【0017】
本発明におけるキラル化合物としては、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを溶解することができる溶媒に溶解することができるものであって、1つ以上の不斉部位を有するものであって、シンジオタクチック構造の周囲の空間に少なくともその一部が入る化合物であれば特に制限はない。このような不斉としては、不斉炭素原子による不斉であってもよいし、また回転障害などによる分子不斉であってもよい。
本発明における好ましいキラル化合物としては、アリール基を有するものが挙げられ、次の一般式(1)
Ar-C(R)(R)-Z (1)
(式中、Arは置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Rは水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Rは置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアラルキル基を表し、Zは水酸基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、又はスルホン酸基を表し、Cは当該炭素原子が不斉炭素原子であることを表す。)
で表されるキラル化合物が挙げられる。
【0018】
前記した一般式(1)におけるアリール基としては、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、炭素数6~12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基が挙げられる。このようなアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、などが挙げられる。好ましいアリール基としては、フェニル基が挙げられる。
前記した一般式(1)におけるアラルキル基としては、炭素数6~36、好ましくは炭素数6~18、炭素数6~12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基に、炭素数1~20のアルキル基が結合した、炭素数7~40、好ましくは炭素数7~20、炭素数7~15のアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)が挙げられる。このような置換基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、α-ナフチル-メチル基などが挙げられる。
前記した一般式(1)におけるアルキル基としては、炭素数1~20、好ましくは炭素数1~15、炭素数1~10の直鎖状又は分枝状のアルキル基や、炭素数3~15、好ましくは炭素数3~10の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式のシクロアルキル基が挙げられる。このようなアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、などが挙げられる。
これらのアリール基、アラルキル基、アルキル基は置換基で置換されていてもよく、このような置換基としては、例えば、前記した炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数3~15の脂環式炭化水素基、炭素数2~21のアルキルカルボニル基、炭素数4~16の脂環式炭化水素-カルボニル基、炭素数8~41のアラルキルカルボニル基、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、炭素数6~36の炭素環式芳香族基、1個~4個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子からなる異種原子を含有する3~8員の環を有する複素環基、炭素数7~40のアラルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~21のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数7~37の炭素環式芳香族-カルボニルオキシ基、炭素数8~41のアラルキルカルボニルオキシ基、炭素数2~21のアルコキシカルボニル基、炭素数7~37の炭素環式芳香族-オキシカルボニル基、炭素数8~41のアラルキルオキシカルボニル基、置換若しくは非置換のアミノ基、アルキルシリル基、などが挙げられる。
【0019】
前記した一般式(1)のZ基は、各種の官能基が好ましく、このような官能基としては、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、ハロゲン原子、スルホン酸基などが挙げられる。これらの官能基は、前記したアルキル基やアリール基などで置換されていてもよい。例えば、水酸基はアルコキシ基になっていてもよいし、アミノ基はモノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアシル化アミノ基などとなっていてもよい。また、カルボキシル基やスルホン酸基は塩であってもよいし、エステルとなっていてもよい。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
好ましい一般式(1)で表されるキラル化合物としては、Arがフェニル基であり、Rが水素原子であり、Rがアルキル基、好ましくはメチル基であり、Zが水酸基又はアミノ基である化合物が挙げられる。より具体的には、1-フェニルエタノール、1-フェニルエチルアミンなどが挙げられる。
これらのキラル化合物は、光学純度が高いものが好ましいが、光学純度は必ずしも100%でなくてもよい。光学純度が低くなれば、得られるらせん構造体のらせんの巻き方向も右巻きのものと左巻きのものが混在してくることになるので、このような混在を防止するためには、光学純度の高いものが好ましい。
【0020】
本発明のキラル化合物は、らせん構造を制御した後に回収することができるので、任意の量で使用することができるが、好ましい量としては、使用する溶媒の5~100容量%、好ましくは10~50容量%、10~30容量%程度が挙げられる。
【0021】
本発明の方法としては、前記した方法により、まず本発明のポリマーとキラル化合物を含有する溶液を調製する。この場合に、キラル化合物は、ポリマーと一緒に加えてもよいし、ポリマーが溶解した後に加えても良いが、降温過程に入る前が好ましく、ポリマーのらせん構造の形成が始まる前であることが必要である。溶液の調製は、好ましくは撹拌しながら、前記した温度まで加熱して溶解させる。
次いで、得られた溶液を、放冷や濃縮すると固形分、即ちゲル化物又は結晶化物などの固形成分が生成し、結晶が析出する。温度は室温で良いが、濃度によっては、更に低温でも、高温でも可能である。また、場合によっては濃縮することもできる。
このようにして析出したゲル化物又は結晶の分離には、濾過、傾斜、遠心分離、等々の既知の手法が使用できる。また、溶媒が少ない場合には、少量の溶媒を含有したものを、本発明の固形分としてそのまま分離するということもある。分離したゲル化物又は結晶などの本発明の固形分は、トルエン等の溶解に使用した溶媒、又は別の溶媒で洗浄することにより、巻き方向を制御するために用いたキラル化合物を除去し、回収することができる。一般に、洗浄と回収は同時に行なわれる。
【0022】
このように、キラル化合物を共存させるという簡便な手段により、シンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーのらせん構造の巻き方向を、キラル化合物のキラリティーに応じて制御することができる。例えば、(R)-体のキラル化合物を用いた場合には、st-PMMA鎖は右巻きのらせん構造となり、(S)-体のキラル化合物を用いた場合には、st-PMMA鎖は左巻きのらせん構造となる。
なお、上述してきたらせん構造の制御は最も効率に優れる溶液系での製造方法を示したがシンジオタクチックポリメタクリレート系、または、シンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーを固体状態でキラル化合物と接触させることでらせん構造を制御してもかまわない。
また、らせんの巻き方向が制御されているかどうかは、紫外—可視光に吸収がある場合は円二色性測定(CD)で観察することができる。紫外-可視光の吸収がない場合は、赤外吸収の円二色性(VCD)を測定することで判断することができる。らせんの巻き方向が制御されていない場合は、これらのキラルな吸収円二色性が観察されないが、左右どちらかが優勢に制御されていれば吸収が観察されることになる。
したがって、本発明は、このようなキラル化合物を用いたシンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーのらせん構造が制御されたらせん高分子化合物の製造方法を提供し、また、らせん構造の制御方法を提供するものである。また、本発明は、このれらの方法により製造されたシンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーのらせん構造が制御されたらせん高分子化合物を提供するものである。
【0023】
また、本発明は、前記したようなシンジオタクチックポリメタクリレート系ポリマーやシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーのらせん構造が制御されたらせん高分子化合物に関するだけでなく、これらのらせん構造体の内部にゲスト化合物が包接されたホストゲスト化合物にも関する。
本発明のホストゲスト化合物を製造する方法としては、前述してきたらせん構造が制御されたらせん高分子化合物の製造方法のいずれかの工程で、ゲスト化合物を添加することにより行うことができる。例えば、ゲル化し、ゲル化物又は結晶が得られた後に、ゲスト化合物を添加してもよいし、またキラル化合物との溶液中にゲスト化合物を添加してもよい。このようにしてゲスト化合物を添加した後、前述してきた方法と同様に処理することにより、本発明のホストゲスト化合物を製造することができる。
【0024】
本発明におけるゲスト化合物としては、らせん構造の内部に取り込まれることができる物質であれば特に制限は無い。本発明における好ましいゲスト化合物としては、フラーレンが挙げられる。フラーレンは凝集力が強く、一般にフラーレンと高分子を混合するだけでは、フラーレンは高分子中で相分離して不定形の凝集体を形成してしまい、高濃度で配合することは困難であり、フラーレンの優れた電気、光、磁気特性を高度に活用することができない。このために、本発明のらせん構造体の内部にこれを取り込むことにより均一に分散することが可能となり、フラーレンの機能を有効に活用することが可能となる。
本発明におけるフラーレンとしては、一般的にフラーレンと称される範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、例えばC60フラーレン、C70フラーレン、C74フラーレン、C76フラーレン、C78フラーレン、C82フラーレンなどが挙げられる。これらのフラーレンは、化学修飾、表面処理、フラーレン内部への気体や金属を内包したものであってもよい。これらの処理を施したフラーレン、金属等を内包したフラーレン、及び高次フラーレンを用いたものも、本発明に包含される。ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスや、リチウム、カルシウムなどの金属原子を内包するフラーレンは、光学的性質及び/又は電気的性質に優れるフラーレンとして知られており、このような不活性ガスや金属原子を内包するフラーレンの使用が好ましい。
【0025】
ゲスト化合物として、フラーレンを使用する際に、フラーレンの包接量を増やす手段として、フラーレンの溶解度の高い溶媒と、ポリマーの溶解度の高い溶媒を組み合わせて、それぞれ別の溶媒に溶解した後、両者を混合させた後、溶媒を除去する方法も可能である。例えば、フラーレンの溶解度が高いジクロロベンゼンにフラーレンを、ポリマーの溶解度の高いトルエンにポリマーを、それぞれ溶解した後、両者を混合、高濃度のフラーレンを含有するフラーレン高分子複合体を得ることもできる。この場合のジクロロベンゼンとトルエンの体積比は、ジクロロベンゼン対トルエン=5/95から85/15が好ましく、更に好ましくは10/90から55/45である。
このようにして得られたフラーレン含有の本発明のホストゲスト化合物は、結晶性の錯体として得ることができるので、遠心分離や濾過などにより、これを溶媒と分離することができる。また、溶媒の留去により、溶媒を分離してもよいが、この場合には未包接のフラーレンが混入することもあるので、必要により、さらに精製するのが好ましい。
また、フラーレン含有の本発明のホストゲスト化合物は、原料であるフラーレン、高分子の各々の単体と異なる融点を持ち、その結晶構造も異なっているので、その生成は、種々の分析手法により容易に確認することができる。例えば、示差走査熱量計(DSC)による融点の測定、X線回折による結晶構造の解析、偏光顕微鏡による結晶相の観察、原子間力顕微鏡(AFM)による結晶表面の観察などにより確認することができる。
【0026】
フラーレン含有の本発明のホストゲスト化合物は、通常の高分子材料と同様に、膜状(フィルム状)などに成形することができる。また、単分子膜(LB膜)とすることも可能である。
フラーレン含有の本発明のホストゲスト化合物は、機能性のフラーレンを含有するものであり、かつらせん構造の巻き方向が一定化されているので、当該フラーレンの光学的性質や電気的性質などの機能を発現させることができる高分子材料として応用することができる。例えば、光電変換素子、レジスト材料、量子ドット素子などの工業製品として利用することができる。
【0027】
さらに、本発明は、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物、及びイソタクチックポリメタクリレート又はイソタクチックポリアクリレートからなるステレオコンプレックスを提供するものである。好ましくは、本発明は、らせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系らせん高分子化合物、及びイソタクチックポリメタクリレートからなるステレオコンプレックスを提供するものである。
本発明のステレオコンプレックスにおけるイソタクチックポリメタクリレート又はイソタクチックポリアクリレート、好ましくはイソタクチックポリメタクリレートのエステルとしては、炭素数1から30,好ましくは1から20、1から10,さらには1から5の直鎖状又は分岐状のアルキル基が挙げられる。これらのアルキル基は、アルコキシ基、ハロゲンなどの汎用されている置換基で置換されていてもよい。最も好ましいのはメチルエステルである。また、高分子の立体規則性はイソタクチック3連子含量(mm含量)で60%以上が好ましく用いられる。より好ましくはmm含量80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは93%以上である。
本発明の効果を損なわない範囲であれば共重合体を使用してもよく、その構造は、ランダム、ブロック、グラフト共重合体でもよい。また、2種以上のポリマーをブレンドして用いてもよい。
また、本発明のイソタクチックポリメタクリレートの分子量(重合度)には制限は無いが、溶媒に溶ける事が必要である。通常、数平均分子量で1,000万以下が使われ、10~1000万、好ましくは1000~1000万、より好ましくは1000~100万が溶解性と汎用性の点で好ましい。
【0028】
本発明のステレオコンプレックスは、本発明のらせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物と、イソタクチックポリメタクリレート又はイソタクチックポリアクリレート、好ましくはイソタクチックポリメタクレートの溶液とを混合し、撹拌することにより製造することができる。原料として使用されるらせん構造の巻き方向が制御されたシンジオタクチックポリメタクリレート系又はシンジオタクチックポリアクリレート系ポリマーらせん高分子化合物は、それ自体であってもよいし、フラーレンなどを取り込んでいるホストゲスト化合物であってもよい。
混合して撹拌した後、放置することによりステレオコンプレックスを得ることができる。これを必要に応じて溶媒で洗浄することにより、過剰の原料化合物やゲスト化合物を除去することができる。
この方法で使用される溶媒としては、トルエン、1,2-ジクロロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ベンゼン、酢酸ブチル、及びジメチルホルムアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。混合の比率はポリマーの種類と反応器、その他の事情で任意に選択し得る。特に好ましい溶媒としては、トルエンが挙げられる。
【0029】
以下、本発明をより分り易くする為に、本発明を以下の具体例に基づいて説明するが、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
トルエン溶媒中、1-フェニルエタノールにより形成させた一方向巻きらせん構造を有するシンジオタクチックポリメタクリル酸メチルの製造
(1)トルエンにキラル化合物として(R)-1-フェニルエタノールを9対1(容量分率)の割合で混合した溶液0.5mLを調製した。この溶液に、st-PMMA(数平均分子量46万、シンジオタクチック3連子含量(rr含量)93.5%)を20mg加え、110℃に加熱して均一溶液とした。
得られた溶液を室温で静置すると、3時間後にはゲル化した。得られたゲルをトルエンで洗浄し、キラル化合物である(R)-1-フェニルエタノールを除去した。(R)-1-フェニルエタノールが除去できたことは、後述する実施例3に示されるように、トルエンでの洗浄前、及び洗浄後のH-NMR(バリアン製Unity Inova 500)スペクトルにより確認した。
【0031】
(2)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、(S)-1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
(3)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、ラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
【0032】
(4)前記(1)、(2)、および(3)で得られたそれぞれのゲルの赤外円二色性(VCD、JASCO製 JV-2001)スペクトル及びIRスペクトルを図1に示す。図1の横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は吸光度差(×10)を示す。図1の(a)は前記(3)でラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(b)は前記(1)で(R)-1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(c)は前記(2)で(S)-1-フェニルエタノールを用いたものである。図1の下側の(d)及び(e)はst-PMMAのらせん構造の理論に基づいて計算されたVCDスペクトルの計算値を示し、(d)は右巻きの理論計算値であり、(e)は左巻きの理論計算値である。
この結果、(R)-体と(S)-体のそれぞれの1-フェニルエタノールから得られたゲル(図1の(b)及び(c))では、st-PMMAの赤外吸収領域に誘起円二色性(ICD)が観測でき、たがいに鏡像関係になっていたことが判明した。しかし、ラセミ体の1-フェニルエタノールから得られたゲル(図1の(a))では、ICDを示さなかった。
また、st-PMMAの18/1らせんの量子力学理論計算(Gaussian 03)から得られた予想スペクトルを図1の(d)及び(e)にそれぞれ示した。これらのスペクトルが、実測スペクトル(図1の(b)及び(c))と良く一致していることから、(R)-体及び(S)-体の1-フェニルエタノールから得られたゲル中のst-PMMAらせん構造は、一方向巻きになっていることが確認できた。また、計算スペクトルとの比較から、(R)-体の1-フェニルエタノールから得られたゲルのst-PMMA鎖は右巻きであり、(S)-体からのものは左巻きのものである。
【実施例2】
【0033】
一方向巻きらせん構造を有するシンジオタクチックポリメタクリル酸メチルとフラーレンから成る高分子包接複合体(ホストゲスト化合物)の製造
(1)トルエンにキラル化合物である(R)-1-フェニルエタノールを9対1(容量分率)の割合で混合した溶液0.5mLに、st-PMMA(数平均分子量46万、シンジオタクチック3連子含量(rr含量)93.5%)を20mg加え、110℃に加熱して均一溶液とした。この溶液を室温で静置すると、3時間後にはゲル化した。得られたゲルをトルエンで洗浄し、キラル化合物を除去した。キラル化合物が除去できていることは、後述する実施例3の場合と同様に、H-NMRにより確認された。
得られたゲルに、フラーレンC60のトルエン溶液(2mg/mL)を1mL加え、10分間撹拌した。遠心分離によりゲルを沈降させると、ゲル部が濃紫に着色し、C60がゲルに取り込まれていることがわかった。再びトルエンでゲルを洗浄し、一方向巻きst-PMMA/C60包接複合体ゲルを得た。
【0034】
(2)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、(S)-1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
(3)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、ラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
【0035】
(4)前記の(1)、(2)、及び(3)で得られたそれぞれのゲルの紫外-可視領域の円二色性スペクトル(CD)を図2に示す。図2の横軸は波長(nm)を示し、縦軸はモル円二色性(M-1cm-1)を示す。図2の(a)は前記(3)でラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(b)は前記(1)で(R)-1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(c)は前記(2)で(S)-1-フェニルエタノールを用いたものである。図2の下側はUVスペクトルの結果を示す。その吸光度を右側の目盛り示す。
この結果、(R)-体及び(S)-体の1-フェニルエタノールを用いたゲルではC60の吸収領域にICDが観測された(図2の(b)及び(c))。C60はアキラルな分子であるので、観測されたICDはst-PMMAが一方向に優先的に巻いたらせん構造を取っており、その摂動を受けてC60に誘起されたによるものと考えられる(Yoshida, Z., Takekuma, H., et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1994, 33, 1597参照)。
一方向巻きst-PMMAに包接させることで、ゲスト分子であるC60をキラルな環境下に置くことができることが確認された。
【実施例3】
【0036】
一方向巻きらせん構造を有するシンジオタクチックポリメタクリル酸メチルとフラーレンから成る高分子包接複合体(ホストゲスト化合物)の一段階での製造
(1)フラーレンC60のトルエン溶液(フラーレン濃度2mg/mL)とキラル化合物である(R)-1-フェニルエタノールを8対2(容量分率)の割合で混合した溶液0.5mLに、st-PMMA(数平均分子量46万、シンジオタクチック3連子含量(rr含量)93.5%)を20mg加え、110℃に加熱して均一溶液とした。この溶液を室温で静置すると、15時間後にはゲル化した。得られたゲルをトルエンで洗浄し、(R)-1-フェニルエタノールを除去した。 トルエンでの洗浄前、及び洗浄後の1H-NMR(バリアン製Unity Inova 500)スペクトルを図3に示す。図3の上段の(a)は洗浄前のスペクトルを示し、下段の(b)は洗浄後のスペクトルである。
この結果、約4.85ppmの1-フェニルエタノールのベンジルプロトンに基づくピークが消失していることが確認され、(R)-1-フェニルエタノールが除去できていることが確認された。
遠心分離によりゲルを沈降させると、ゲル部が濃紫に着色し、C60がゲルに取り込まれていることがわかった。以上の操作により、一方向巻きst-PMMA/C60包接複合体ゲルを得た。
【0037】
(2)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、(S)-1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
(3)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、ラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
【0038】
(4)前記(1)、(2)、および(3)で得られたそれぞれのゲルの赤外円二色性(VCD、JASCO製 JV-2001)スペクトル及びIRスペクトルを図4に示す。図4の横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は吸光度差(×10)を示す。図4の(a)は前記(3)でラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(b)は前記(1)で(R)-1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(c)は前記(2)で(S)-1-フェニルエタノールを用いたものである。図4の下側の(d)及び(e)はst-PMMAのらせん構造の理論に基づいて計算されたVCDスペクトルの計算値を示し、(d)は右巻きの理論計算値であり、(e)は左巻きの理論計算値である。
この結果、得られたゲルのVCD測定では、(R)-体及び(S)-体の1-フェニルエタノールを用いたゲルにおいてst-PMMAの吸収領域にICDが観測された(図4参照)。
【0039】
(5)前記の(1)、(2)、及び(3)で得られたそれぞれのゲルの紫外-可視領域の円二色性スペクトル(CD)を図5に示す。図5の横軸は波長(nm)を示し、縦軸はモル円二色性(M-1cm-1)を示す。図5の(a)は前記(3)でラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(b)は前記(1)で(R)-1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(c)は前記(2)で(S)-1-フェニルエタノールを用いたものである。図5の下側はUVスペクトルの結果を示す。その吸光度を右側の目盛り示す。
この結果、紫外-可視領域CD測定においてもC60の吸収領域にICDが観測された(図5参照)。この結果は、st-PMMAのゲル化をC60とキラル化合物である1-フェニルエタノールの存在下で行うことにより、一方向巻きst-PMMA/C60複合体を一段階で得ることができたことを示している。
【実施例4】
【0040】
シンジオタクチックポリメタクリル酸メチルとフラーレンから成る高分子包接複合体から形成させた一方向巻きらせん構造を有するシンジオタクチックポリメタクリル酸メチルとイソタクチックポリメタクリル酸メチルから成るステレオコンプレックス(SC)の製造
(1)フラーレンC60のトルエン溶液(フラーレン濃度2mg/mL)とキラル化合物である(R)-1-フェニルエタノールを8対2(容量分率)の割合で溶解した溶液0.5mLに、st-PMMA(数平均分子量46万、シンジオタクチック3連子含量(rr含量)93.5%)を20mg加え、110℃に加熱して均一溶液とした。この溶液を室温で静置すると、15時間後にはゲル化した。得られたゲルをトルエンで洗浄し、(R)-1-フェニルエタノールを除去した。
得られた一方向巻きst-PMMA/C60複合体ゲルにit-PMMA(数平均分子量2万、イソタクチック3連子含量(mm含量)96%)のトルエン溶液(20mg/mL)を1mL加え、室温で撹拌した。ステレオコンプレックス(SC)の形成に伴い、st-PMMAに包接されていたC60が放出された。48時間後、トルエンでゲルを洗浄することにより、放出されたC60及び過剰量のit-PMMAを除去して、標記のステレオコンプレックス(SC)を得た。
【0041】
(2)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、(S)-1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
(3)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、ラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
【0042】
(4)前記(1)、(2)、および(3)で得られたそれぞれのゲルの赤外円二色性(VCD、JASCO製 JV-2001)スペクトル及びIRスペクトルを図6に示す。図6の横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は吸光度差(×10)を示す。図6の(a)は前記(3)でラセミ体の1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(b)は前記(1)で(R)-1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(c)は前記(2)で(S)-1-フェニルエタノールを用いたものである。
この結果、(R)-体及び(S)-体の1-フェニルエタノールを用いて作成したゲルのVCD測定では、PMMAの吸収領域にICDが観測され、一方向巻きらせん構造を有するステレオコンプレックスが得られたことが示された(図6参照)。
【実施例5】
【0043】
一方向巻きらせん構造を有するシンジオタクチックポリメタクリル酸メチルとイソタクチックポリメタクリル酸メチルから成るステレオコンプレックス(SC)の製造
(1)トルエンにキラル化合物である(R)-1-フェニルエタノールを9対1(容量分率)の割合で溶解した溶液0.5mLに、st-PMMA(数平均分子量46万、シンジオタクチック3連子含量(rr含量)93.5%)を20mg加え、110℃に加熱して均一溶液とした。この溶液を室温で放置すると、3時間後にはゲル化した。得られたゲルをトルエンで洗浄し、(R)-1-フェニルエタノールを除去した。
得られた一方向巻きst-PMMAゲルにit-PMMA(数平均分子量2万、イソタクチック3連子含量(mm含量)96%)のトルエン溶液(20mg/mL)を1mL加え、室温で撹拌した。48時間後、トルエンでゲルを洗浄することにより、過剰量のit-PMMAを除去して、標記のステレオコンプレックス(SC)を得た。
【0044】
(2)キラル化合物として、前記(1)で用いた(R)-1-フェニルエタノールに代えて、(S)-1-フェニルエタノールを用いた以外は、前記(1)と同様にしてゲルを得た。
【0045】
(3)前記(1)および(2)で得られたそれぞれのゲルの赤外円二色性(VCD、JASCO製JV-2001)スペクトル及びIRスペクトルを図7に示す。図7の横軸は波数(cm-1)を示し、縦軸は吸光度差(×10)を示す。図7の(a)は前記(1)で(R)-1-フェニルエタノールを用いた場合のものであり、(b)は前記(2)で(S)-1-フェニルエタノールを用いたものである。
この結果、(R)-体及び(S)-体の1-フェニルエタノールを用いて作成したゲルのVCD測定では、PMMAの吸収領域にICDが観測され、一方向巻きらせん構造を有するステレオコンプレックスが得られたことが示された(図7参照)。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、らせん構造の巻き方向が一定方向になったst-PMMAsを簡便にかつ選択的に製造する方法を提供するものであり、本発明のらせん構造の巻き方向が一定方向になったst-PMMAsは化学物質認識センサー、キラル触媒、キラルなカラム材料、高密度記録デバイス等としての広範なキラル材料として利用可能であり、また、これにゲスト化合物を包接させることにより、ゲスト化合物のキラリティーも利用可能であり、本発明は化学分野のみならず多くの材料分野において産業上の利用可能性を有するものである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
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