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明細書 :ガイドワイヤ及びステント

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5295104号 (P5295104)
登録日 平成25年6月21日(2013.6.21)
発行日 平成25年9月18日(2013.9.18)
発明の名称または考案の名称 ガイドワイヤ及びステント
国際特許分類 A61L  31/00        (2006.01)
A61M  25/09        (2006.01)
A61M  29/02        (2006.01)
FI A61L 31/00 Z
A61M 25/00 450B
A61M 29/02
請求項の数または発明の数 10
全頁数 34
出願番号 特願2009-514049 (P2009-514049)
出願日 平成20年4月17日(2008.4.17)
国際出願番号 PCT/JP2008/057525
国際公開番号 WO2008/139829
国際公開日 平成20年11月20日(2008.11.20)
優先権出願番号 2007124871
優先日 平成19年5月9日(2007.5.9)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年2月9日(2011.2.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
発明者または考案者 【氏名】石田 清仁
【氏名】山内 清
【氏名】貝沼 亮介
【氏名】須藤 祐司
【氏名】大森 俊洋
【氏名】田中 優樹
【氏名】村山 啓
【氏名】早場 亮一
個別代理人の代理人 【識別番号】100080159、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 望稔
【識別番号】100090217、【弁理士】、【氏名又は名称】三和 晴子
審査官 【審査官】渡邊 倫子
参考文献・文献 特開平06-063151(JP,A)
特開2006-055245(JP,A)
特開2004-238720(JP,A)
特開2004-167045(JP,A)
特許第5065904(JP,B2)
電子材料, Vol.41 No.4 p.56-61 (2002)
工業材料, Vol.47 No.1 p.74-75 (1999)
調査した分野 A61L 31/00
A61F 2/82
A61M 25/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
形状記憶性及び超弾性を有する鉄系合金において、25~35質量%のNiと、10~30質量%のCoと、2~8質量%のAlとを含有し、更に1~5質量%のTi、2~10質量%のNb、及び3~20質量%のTaからなる群から選ばれた少なくとも1種を合計で1~20質量%含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、面心立方(fcc)構造のγ相とL12構造のγ’相との2相からなり、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下であり、加工方向における<100>の存在頻度が、結晶方位が理論上完全にランダムになっている場合における加工方向に向いている<100>の存在頻度を1と仮定したときの存在率であって、値が大きいほど結晶方位がより揃っていることを表す場合に、加工方向における特定結晶方位の存在頻度が2.0以上である鉄系合金からなる先端側芯材と、
鉄を含む合金からなり前記先端側芯材よりも弾性率が高い基端側芯材とを含み、
前記先端側芯材と前記基端側芯材とが溶接にて接合されている芯材を有する、ガイドワイヤ。
【請求項2】
前記基端側芯材が、ステンレス鋼からなる、又はピアノ線である請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
少なくとも先端部が鉄系合金からなる芯材と、前記鉄系合金よりも弾性率が高い金属材料からなり前記芯材の基端側の少なくとも一部を覆う基端側チューブとを有し、
前記鉄系合金が、形状記憶性及び超弾性を有し、25~35質量%のNiと、10~30質量%のCoと、2~8質量%のAlとを含有し、更に1~5質量%のTi、2~10質量%のNb、及び3~20質量%のTaからなる群から選ばれた少なくとも1種を合計で1~20質量%含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、面心立方(fcc)構造のγ相とL12構造のγ’相との2相からなり、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下であり、加工方向における<100>の存在頻度が、結晶方位が理論上完全にランダムになっている場合における加工方向に向いている<100>の存在頻度を1と仮定したときの存在率であって、値が大きいほど結晶方位がより揃っていることを表す場合に、加工方向における特定結晶方位の存在頻度が2.0以上である鉄系合金である、ガイドワイヤ。
【請求項4】
更に、前記芯材の先端側部分を覆う管状部材を有する、請求項1~3のいずれかに記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記管状部材がコイルである請求項4に記載のガイドワイヤ。
【請求項6】
前記管状部材がプラスチックからなる請求項4に記載のガイドワイヤ。
【請求項7】
鉄系合金からなる先端側芯材及び基端側芯材と、前記基端側芯材の表面の少なくとも一部を覆う、1以上の層からなる被覆層とを有し、
前記被覆層の少なくとも1層がフッ素系樹脂からなり、
前記鉄系合金が、形状記憶性及び超弾性を有し、25~35質量%のNiと、10~30質量%のCoと、2~8質量%のAlとを含有し、更に1~5質量%のTi、2~10質量%のNb、及び3~20質量%のTaからなる群から選ばれた少なくとも1種を合計で1~20質量%含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、面心立方(fcc)構造のγ相とL12構造のγ’相との2相からなり、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下であり、加工方向における<100>の存在頻度が、結晶方位が理論上完全にランダムになっている場合における加工方向に向いている<100>の存在頻度を1と仮定したときの存在率であって、値が大きいほど結晶方位がより揃っていることを表す場合に、加工方向における特定結晶方位の存在頻度が2.0以上である鉄系合金である、ガイドワイヤ。
【請求項8】
形状記憶性及び超弾性を有し、面心立方(fcc)構造のγ相とL12構造のγ’相との2相からなり、25~35質量%のNiと、10~30質量%のCoと、2~8質量%のAlとを含有し、更に1~5質量%のTi、2~10質量%のNb、及び3~20質量%のTaからなる群から選ばれた少なくとも1種を合計で1~20質量%含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる組成を有する鉄系合金において、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下であり、加工方向における<100>の存在頻度が、結晶方位が理論上完全にランダムになっている場合における加工方向に向いている<100>の存在頻度を1と仮定したときの存在率であって、値が大きいほど結晶方位がより揃っていることを表す場合に、加工方向における特定結晶方位の存在頻度が2.0以上である鉄系合金からなる本体部を有するステント。
【請求項9】
前記本体部が、軸方向に設けられた複数の波線状屈曲部を有する、請求項8に記載のステント。
【請求項10】
前記本体部が編み組みワイヤからなる、請求項8に記載のステント。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は医療用器具に関する。特に血管や胆管のような体腔内に挿入するガイドワイヤやステントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心臓疾患等の検査や治療には、ガイドワイヤを目的部位まで挿入した後、そのガイドワイヤに沿ってカテーテルなどを挿入する方法が採用されている。
例えば、PCI(Percutaneous Coronary Intervention:経皮的冠状動脈インターベンション)では、初めにX線透視下に冠動脈の分枝を選択しながら目的部位である狭窄部にガイドワイヤを到達させ、更に通過させる。次に、先端にバルーンを備えた拡張カテーテルをガイドワイヤに沿わせて体内へ挿入し、拡張カテーテルのバルーンを狭窄部に位置させる。そして、バルーンを拡張させて狭窄部を押し広げれば、血流量を確保することができる。このようにして、狭心症等を治療することができる。
【0003】
また、狭窄部に自己拡張型のステントを導入し、狭窄部でステントが自己拡張することで治療することもできる。
【0004】
このようなガイドワイヤやステントの材料としてはTi-Ni合金が使用される場合があった。ガイドワイヤの芯材としてTi-Ni合金を用いる場合、プッシャビリティーやトルク伝達性がステンレス鋼などに比べて劣るので、表面に樹脂を被覆して摺動性を確保する場合があった。
【0005】
トルク伝達性の改善等を目的として、特許文献1には、鉄系超弾性金属材料からなる線状体で構成されるカテーテル芯材において、先端部に向って柔軟性が順次大きくように先端部をテーパー状としたことを特徴とするカテーテル用ガイドワイヤー芯材が提案されている。そして、鉄系超弾性金属材料としてFe-Pt系、Fe-Pd系、Fe-Ni-Co-Ti系、Fe-Ni-C系、Fe-Mn-Si系、Fe-Cr-Mn系、Fe-Cr-Mn-Si系、Fe-Cr-Ni-Mn-Si系、Fe-Cr-Ni-Mn-Si-Co系が挙げられており、これらは弾性が高く、容易に塑性変形しないので好ましいとが記載されている。
【0006】
また、この鉄系超弾性金属材料に関連して、特許文献2~5及び非特許文献1にはFe一Ni-Co-Al-C合金、Fe-Ni-Al系合金、Fe-Ni-Si系合金、Fe-Mn-Si系合金及びFe-Pd系合金について記載されている。
従来のFe系合金において良好な超弾性が得られないのは、変形の際(a)転位等の永久歪の導入、及び(b)形状記憶性を示さない不可逆的なレンズ状マルテンサイトの応力誘起が起こるためであり、前記(a)及び(b)の問題を抑制するためには、Fe系形状記憶合金の母相強度の向上が有効であり、特に金属間化合物による析出強化によるものが有効であり、このような観点から上記の鉄系合金が提案された。

【特許文献1】特開平3-264073号
【特許文献2】特開平03-257141号
【特許文献3】特開2003-268501号
【特許文献4】特開2000-17395号
【特許文献5】特開平09-176729号
【非特許文献1】「Scripta Materialia」 Vol.46,p.471-475
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにTi-Ni合金はガイドワイヤやステントとして用いられる場合があるが、Ti-Ni合金の超弾性ひずみ領域はせいぜい8%程度であり、それ以上の大きな変形を加えると塑性変形してしまい好ましくない。ガイドワイヤやステントの材料としては、Ti-Ni合金よりも超弾性ひずみ領域がより広い材料を用いることが好ましい。
【0008】
また、ガイドワイヤの先端側芯材としてTi-Ni合金を用い、基端側の芯材として鉄系合金を用い、これらの芯材を溶接して1つのガイドワイヤ芯材とする場合、Ti-Ni合金は異材料、特に鉄系合金とは難溶接性であり、接合対象材料や接合条件が制限される。特に体内に挿入や留置する医療器具においては、万が一でも体内で溶接部分が破断しないように最高細心の注意を払って製造する必要があるので、特殊な接合条件等が必要である。
【0009】
また、上記のように、ガイドワイヤの芯材としてTi-Ni合金を用い、表面に樹脂を被覆する場合があったが、樹脂としてフッ素樹脂など融点の高いプラスチック材料を用いると、高温の影響でTi-Ni合金の性状が変化してしまう場合がある。また、ガイドワイヤの芯材の先端部は細いにもかかわらず頻回の曲げや捩りを受けるが、そのような使用にも耐えうるように、表面に被覆された樹脂の耐剥離性を向上させる必要がある。
【0010】
また、Ti-Ni合金からなるステントは強度及び耐久性が不足する場合がある。特に下肢など動きの多い留置部位に用いるステントに要求される強度及び耐久性を満足することは困難である。また、ステントは肉薄であることが好ましいが、その場合、更に強度が低下するので、肉薄のTi-Ni合金のステントは使用に耐えられない。
【0011】
また、Ti-Ni合金からなるガイドワイヤやステントはX線造影下において視認性が良くない。この場合、挿入位置や留置位置の確認を行うために、ガイドワイヤの先端部やステントの端部に金などの高造影性部材を接合する必要がある。
【0012】
また、ガイドワイヤに好ましく適用することができるとして特許文献1に羅列されている鉄系金属材料は、「超弾性」とは称して記載はされているが、超弾性の回復可能な歪量は実際には1%にも満たず、およそガイドワイヤの芯材に要求される諸特性を満足するものではない。
【0013】
また、特許文献2~4は、Fe一Ni-Co-Al-C合金、Fe-Ni-Al系合金及びFe-Ni-Si系合金について、いずれも超弾性の回復可能な歪量及び回復率、超弾性作動温度等、実用上重要な特性を記載していない。
【0014】
また、非特許文献1には例外的に高価なPdを多量に含有するFe-Pd合金について超弾性が報告されているが、その超弾性の回復可能な歪量は1%以下と小さく、決して良好な超弾性とは言えない。またこの合金は製造も困難である。
【0015】
更に、特許文献5には、Fe-Mn-Si基合金は、非磁性であるが、fcc/hcp変態を利用することにより形状記憶性及び超弾性を示すと記載されている。しかしこのFe-Mn-Si基合金は、超弾性が得られる温度が室温より高く、使用温度に制限がある。また耐食性及び冷間加工性が悪く、更に超弾性を得るために複雑な加工熱処理が必要であり、製造性にも問題がある。
【0016】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものである。
すなわち、本発明は、広い超弾性域と高いヤング率によってしなやかさとプッシャビリティーを兼ね備えたガイドワイヤを提供することを目的とする。
また、フッ素樹脂など融点の高いプラスチック材料を表面にコーティングしても熱処理の影響を受けにくく、優れた摺動性を備えたガイドワイヤを提供することを目的とする。
また、先端側芯材と基端側芯材との溶接性が優れているガイドワイヤを提供することを目的とする。
また、強度及び耐久性に優れたステントを提供することを目的とする。
また、X線造影性に優れたガイドワイヤ及びステントを提供することを目的とする。
また、比較的容易に製造することができる超弾性鉄系合金を用いたガイドワイヤ及びステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は次の(1)~(10)である。
(1)形状記憶性及び超弾性を有し、実質的にγ相とγ’相との2相からなり、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下である鉄系合金からなる先端側芯材と、鉄を含む合金からなり前記先端側芯材よりも弾性率が高い基端側芯材とを含み、前記先端側芯材と前記基端側芯材とが溶接にて接合されている芯材を有する、ガイドワイヤ。
(2)前記基端側芯材が、ステンレス鋼からなる、又はピアノ線である上記(1)に記載のガイドワイヤ。
(3)少なくとも先端部が鉄系合金からなる芯材と、前記鉄系合金よりも弾性率が高い金属材料からなり前記芯材の基端側の少なくとも一部を覆う基端側チューブとを有し、前記鉄系合金が、形状記憶性及び超弾性を有し、実質的にγ相とγ’相との2相からなり、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下である鉄系合金である、ガイドワイヤ。
(4)更に、前記芯材の先端側部分を覆う管状部材を有する、上記(1)~(3)のいずれかに記載のガイドワイヤ。
(5)前記管状部材がコイルである上記(4)に記載のガイドワイヤ。
(6)前記管状部材がプラスチックからなる上記(4)に記載のガイドワイヤ。
(7)鉄系合金からなる先端側芯材及び基端側芯材と、前記基端側芯材の表面の少なくとも一部を覆う、1以上の層からなる被覆層とを有し、前記被覆層の少なくとも1層がフッ素系樹脂からなり、前記鉄系合金が、形状記憶性及び超弾性を有し、実質的にγ相とγ’相との2相からなり、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下である鉄系合金である、ガイドワイヤ。
(8)形状記憶性及び超弾性を有し、実質的にγ相とγ’相との2相からなる鉄系合金において、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下である鉄系合金からなる本体部を有するステント。
(9)前記本体部が、軸方向に設けられた複数の波線状屈曲部を有する、上記(8)に記載のステント。
(10)前記本体部が編み組みワイヤからなる、上記(8)に記載のステント。
【発明の効果】
【0018】
本発明である、形状記憶性及び超弾性を有し、実質的にγ相とγ’相との2相からなり、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスにおける逆変態終了温度(Af点)とマルテンサイト変態開始温度(Ms点)との差が100℃以下である鉄系合金(以下、「本発明の鉄系合金」ともいう。)からなる先端側芯材と、鉄を含む合金からなり前記先端側芯材よりも弾性率が高い基端側芯材とを含み、前記先端側芯材と前記基端側芯材とが溶接にて接合されている芯材を有するガイドワイヤ(以下、「本発明のガイドワイヤ(A)」ともいう。)は、広い超弾性域と高いヤング率によってしなやかさとプッシャビリティーを兼ね備えたガイドワイヤである。また、先端側芯材と基端側芯材との溶接性が優れているガイドワイヤである。また、フッ素樹脂など融点の高いプラスチック材料を表面にコーティングしても熱処理の影響を受けにくく、優れた摺動性を備えたガイドワイヤである。また、X線造影性に優れたガイドワイヤである。また、比較的容易に製造することができる超弾性鉄系合金を用いたガイドワイヤである。また、引張特性であるLPS(回復応力)がTi-Niよりも小さく血管にやさしいガイドワイヤである。更に、最大引張強度がTi-Niよりも大きいことからテーパー加工後も安全性が高いガイドワイヤといえる。
【0019】
また、本発明である、少なくとも先端部が本発明の鉄系合金からなる芯材と、前記芯材よりも弾性率が高い金属材料からなり前記芯材の基端側の少なくとも一部を覆う基端側チューブとを有するガイドワイヤ(以下、「本発明のガイドワイヤ(B)」ともいう。)は、広い弾性域と高いヤング率によってしなやかさとプッシャビリティーを兼ね備えたガイドワイヤである。また、フッ素樹脂など融点の高いプラスチック材料を表面にコーティングしても熱処理の影響を受けにくく優れた摺動性を備えたガイドワイヤである。また、先端側芯材と基端側チューブとの接合性が優れているガイドワイヤである。また、X線造影性に優れたガイドワイヤである。更に、比較的容易に製造することができる超弾性鉄系合金を用いたガイドワイヤである。
【0020】
また、本発明である、鉄系合金からなる先端側芯材及び基端側芯材と、前記基端側芯材の表面の少なくとも一部を覆う、1以上の層からなる被覆層とを有し、前記被覆層の少なくとも1層がフッ素系樹脂からなるガイドワイヤ(以下、「本発明のガイドワイヤ(C)」ともいう。)は、広い弾性域と高いヤング率によってしなやかさとプッシャビリティーを兼ね備えたガイドワイヤである。また、フッ素樹脂など融点の高いプラスチック材料を表面にコーティングしても熱処理の影響を受けにくく優れた摺動性を備えたガイドワイヤである。また、X線造影性に優れたガイドワイヤである。
【0021】
また、本発明である、本発明の鉄系合金からなる本体部を有するステント(以下、「本発明のステント」ともいう。)は、強度及び耐久性に優れたステントである。また、X線造影性に優れたステントである。また、比較的容易に製造することができる超弾性鉄系合金からなる本体部を有するステントである。
【0022】
本発明によれば、このようなガイドワイヤ及びステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明のガイドワイヤ(A)の実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図2は、本発明のガイドワイヤ(A)における先端側芯材と基端側芯材とを接続する手順を示す図である。
【図3】図3は、本発明のガイドワイヤ(A)の第2実施形態を示す縦断面図である。
【図4】図4は、本発明のガイドワイヤ(B)の第1実施形態を示す縦断面図である。
【図5】図5は、本発明のガイドワイヤ(C)の実施形態を示す縦断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施例のステントの正面図である。
【図7】図7は、図6に示したステントの展開図である。
【図8】図8は、図6に示したステントを縮径させた状態のステントの展開図である。
【図9】図9は、図6に示したステントの部分拡大図である。
【図10】形状記憶合金の典型的は電気抵抗曲線の概念図である。冷却におけるマルテンサイト変態及び加熱における逆変態の電気抵抗曲線から、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)と逆変態終了温度(Af点)とを求めることができる。
【図11】図11(a)は実施例1~5及び比較例1、図11(b)~(e)は実施例6~9の鉄系合金の第一の焼鈍~時効処理までの工程例を示す概略図である。
【図12】室温における板材の引張りサイクル試験によって得られる応力-歪み曲線である。超弾性歪量、ヤング率、強度(0.2%耐力)を求めることができる。
【図13】実施例3の鉄系合金板材における与歪2%での応力一歪相関図である。
【図14】図14(a)は実施例6、図14(b)は実施例9の鉄系合金板材の圧延方向におけるγ相の結晶方位の存在頻度を等高線で示す逆極点図である。
【図15】実施例9の鉄系合金板材における与歪15%での応力-歪相関図である。
【図16】本発明の鉄系合金により構成された血管フィルタの斜視図である。
【図17】本発明の鉄系合金により構成された歯科矯正ワイヤの斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
1、101、201 ガイドワイヤ
10、102 芯材
110 細径部
2、202 先端側芯材
21、121 接続端面
3、103、203 基端側芯材
31、131 接続端面
4、104 コイル
5、105、205 被覆層
6、106、206 第2の被覆層
11、12、13、111、112、113 固定材料
14 溶接部
15、115、215、216 外径漸減部
301 ステント本体部
302 環状体
321 共有線状部
324 長線状部
410 血管フィルタ
414 伸長ストラット
414a、b ストラット部分
417 張り出し領域
418 管状部分
419 フィルタ区域
421 収束領域
423 領域
425 領域
429 端部
520 歯科矯正用ワイヤ
522 湾曲部
Ms・・・冷却に際し、マルテンサイト変態が開始する温度
Mf・・・冷却に際し、マルテンサイト変態が終了する温度
As・・・加熱に際し、逆変態が開始する温度
Af・・・加熱に際し、逆変態が終了する温度
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
初めに、本発明のガイドワイヤ(A)について添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明のガイドワイヤ(A)の第1実施形態を示す縦断面図、図2は、図1に示すガイドワイヤにおける先端側芯材と基端側芯材とを接続する手順を示す図、図3は、本発明のガイドワイヤ(A)の第2実施形態を示す縦断面図である。なお、説明の都合上、図1及び図2中の右側を「基端」、左側を「先端」という。また、図1及び図2中では、見易くするため、ガイドワイヤの長さ方向を短縮し、ガイドワイヤの太さ方向を誇張して模式的に図示しており、長さ方向と太さ方向の比率は実際とは大きく異なる(後述する図3についても同様)。
【0027】
図1に示すガイドワイヤ1は、カテーテルに挿入して用いられるカテーテル用ガイドワイヤであって、先端側に配置された先端側芯材2と、先端側芯材2の基端側に配置された基端側芯材3とを溶接にて接合してなる芯材10と、螺旋状のコイル4とを有している。ガイドワイヤ1の全長は、特に限定されないが、200~5000mm程度であるのが好ましい。また、芯材10の外径(外径が一定である部分の外径)は、特に限定されないが、通常、0.2~1.2mm程度であるのが好ましい。
【0028】
先端側芯材2は、本発明の鉄系合金からなる弾性を有する線材である。先端側芯材2の長さは、特に限定されないが、20~1000mm程度であるのが好ましい。
【0029】
本実施形態では、先端側芯材2は、その基端から所定長さは外径が一定であり、途中から外径が先端方向へ向かって漸減している。この部分を外径漸減部15と言う。このような外径漸減部15を有することにより、先端側芯材2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ガイドワイヤ1は、先端部に良好な柔軟性を得て、血管への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができる。
【0030】
図示の構成では、外径漸減部15は先端側芯材2の一部に形成されているが、先端側芯材2の全体が外径漸減部15を構成していてもよい。また、外径漸減部15のテーパ角度(外径の減少率)は、ワイヤ長手方向に沿って一定でも、長手方向に沿って変化する部位があってもよい。例えば、テーパ角度(外径の減少率)が比較的大きい箇所と比較的小さい箇所とが複数回交互に繰り返して形成されているようなものでもよい。
【0031】
また、先端側芯材2は、外径漸減部15の途中又は外径漸減部15より先端側に、外径が長手方向に沿って一定の部分があってもよい。例えば、先端側芯材2は、先端方向へ向かって外径が漸減するテーパ状のテーパ部が長手方向に沿って複数箇所に形成され、これらのテーパ部とテーパ部との間に外径が長手方向に沿って一定の部分が形成されているようなものでもよい。このような場合でも、前記と同様の効果が得られる。
【0032】
また、図示の構成と異なり、外径漸減部15の基端が基端側芯材3の途中に位置する、すなわち、外径漸減部15が先端側芯材2と基端側芯材3との境界(溶接部14)を跨って形成された構成でもよい。
【0033】
先端側芯材2の構成材料は本発明の鉄系合金である。本発明の鉄系合金の詳細については後述する。
本発明の鉄系合金は、ステンレス鋼と比較して柔軟であるとともに、復元性があり、曲がり癖が付き難いので、先端側芯材2を本発明の鉄系合金で構成することにより、ガイドワイヤ1は、その先端側の部分に十分な柔軟性と曲げに対する復元性が得られ、複雑に湾曲・屈曲する血管に対する追従性が向上し、より優れた操作性が得られるとともに、先端側芯材2が湾曲・屈曲変形を繰り返しても、先端側芯材2に復元性により曲がり癖が付かないので、ガイドワイヤ1の使用中に先端側芯材2に曲がり癖が付くことによる操作性の低下を防止することができる。また、Ti-Ni合金と比較して、ヤング率が高いので、細径化してもしなやかさを失わず上述したような操作性が発揮される。
【0034】
先端側芯材2の基端には、基端側芯材3の先端が溶接により接合されている。基端側芯材3は、弾性を有する線材である。基端側芯材3の長さは、特に限定されないが、20~4800mm程度であるのが好ましい。
【0035】
基端側芯材3は、先端側芯材2の構成材料より弾性率(ヤング率(縦弾性係数)、剛性率(横弾性係数)、体積弾性率)が大きい材料で構成されている。これにより、基端側芯材3に適度な剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)が得られ、ガイドワイヤ1がいわゆるコシの強いものとなって押し込み性及びトルク伝達性が向上し、より優れた挿入操作性が得られる。
【0036】
また、基端側芯材3の構成材料(素材)は鉄を含む合金(鉄や鋼であってもよい)からなるものであれば特に限定されず、ステンレス鋼(例えば、SUS304、SUS303、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L、SUS405、SUS430、SUS434、SUS444、SUS429、SUS430F、SUS302等SUSの全品種)、ピアノ線等を好ましく用いることができる。
基端側芯材3の構成材料としてステンレス鋼を用いた場合、本発明のガイドワイヤ(A)は、より優れた押し込み性及びトルク伝達性が得られる。
また、ピアノ線はワイヤとしたときの弾性率が高く、かつ適度な弾性限度を有しているので好ましい。
【0037】
なお、図示の構成では、基端側芯材は、ほぼ全長にわたってほぼ一定の外径を有するものであるが、その長手方向に外径が変化する部位を有するものであってもよい。
【0038】
コイル4は、線材(細線)を螺旋状に巻回してなる部材であり、先端側芯材2の先端側部分を覆うように設置されている。図示の構成では、先端側芯材2の先端側部分は、コイル4の内側のほぼ中心部に挿通されている。また、先端側芯材2の先端側部分は、コイル4の内面と非接触で挿通されている。溶接部14は、コイル4の基端より基端側に位置している。
【0039】
なお、図示の構成では、コイル4は、外力を付与しない状態で、螺旋状に巻回された線材同士の間にやや隙間が空いているが、図示と異なり、外力を付与しない状態で、螺旋状に巻回された線材同士が隙間なく密に配置されていてもよい。
【0040】
コイル4は、金属材料で構成されているのが好ましい。コイル4を構成する金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、超弾性合金、コバルト系合金や、金、白金、タングステン等の貴金属又はこれらを含む合金等が挙げられる。
ここで、貴金属のようなX線不透過材料を用いてもよいが、このようなX線不透過材料を用いなくても、本発明の鉄系合金がX線造影性を有するので、先端側芯材を有するガイドワイヤ1はX線造影性を具備し、X線透視下で先端部の位置を確認しつつ生体内に挿入することができる。X線造影性の優劣は、使用される金属材料の密度に関連するが、Ti-Ni合金の場合、ほぼ半分を占めるチタンが4.54g/cmと比較的密度が小さいので、先端側芯材のように細い部分はX線下で判別がしづらいことがあった。しかしながら、表1に示すように、当該鉄系合金はその主要な成分である鉄、ニッケル、コバルトの密度が7.86g/cm、8.85g/cm、8.8g/cmであり、チタンと比べて大きいので、トータルでもTi-Ni合金より密度が大きく、先端側芯材の細い部分でもX線下で判別しやすくなる。
また、コイル4は、その先端側と基端側とを異なる材料で構成してもよい。なお、コイル4の全長は、特に限定されないが、5~500mm程度であるのが好ましい。
【0041】
コイル4の基端部及び先端部は、それぞれ、固定材料11及び12により先端側芯材2に固定されている。また、コイル4の中間部(先端寄りの位置)は、固定材料13により先端側芯材2に固定されている。固定材料11、12及び13は、半田(ろう材)で構成されている。なお、固定材料11、12及び13は、半田に限らず、接着剤でもよい。また、コイル4の固定方法は、固定材料によるものに限らず、例えば、溶接でもよい。また、血管内壁の損傷を防止するために、固定材料12の先端面は、丸みを帯びているのが好ましい。
【0042】
本実施形態では、このようなコイル4が設置されていることにより、先端側芯材2は、コイル4に覆われて接触面積が少ないので、摺動抵抗を低減することができ、よって、ガイドワイヤ1の操作性がより向上する。
【0043】
なお、本実施形態の場合、コイル4は、線材の横断面が円形のものを用いているが、これに限らず、線材の断面が例えば楕円形、四角形(特に長方形)等のものであってもよい。
【0044】
ガイドワイヤ1において、先端側芯材2と、基端側芯材3とは、溶接により互いに連結(固定)されている。これにより、先端側芯材2と基端側芯材3との溶接部(接続部)14は、高い結合強度(接合強度)が得られ、よって、ガイドワイヤ1は、基端側芯材3からのねじりトルクや押し込み力が確実に先端側芯材2に伝達される。
【0045】
また、溶接部14の外周部は、例えば後述する手順(iii)、(iv)等の方法により、実質的に平滑とされているのが好ましい。
【0046】
本実施形態では、先端側芯材2の基端側芯材3に対する接続端面21と、基端側芯材3の先端側芯材2に対する接続端面31は、それぞれ、両芯材の軸方向(長手方向)に対しほぼ垂直な平面になっている。これにより、接続端面21、31を形成するための加工が極めて容易であり、ガイドワイヤ1の製造工程を複雑化することなく上記効果を達成することができる。
【0047】
なお、図示の構成と異なり、接続端面21、31は、両ワイヤの軸方向(長手方向)に垂直な平面に対し傾斜していてもよく、また、凹面又は凸面になっていてもよい。
【0048】
先端側芯材2と、基端側芯材3との溶接の方法としては、特に限定されず、例えば、レーザ溶接、アプセット溶接やフラッシュ溶接等の突き合わせ抵抗溶接などが挙げられるが、突き合わせ抵抗溶接であるのが好ましい。これにより、溶接部14は、より高い結合強度が得られる。
【0049】
以下、図2を参照して、先端側芯材2と基端側芯材3とを突き合わせ抵抗溶接の一例であるアプセット溶接により接合する場合の手順について説明する。同図には、先端側芯材2と基端側芯材3とをアプセット溶接により接合する場合の手順(i)~(iv)が示されている。
【0050】
手順(i)では、図示しないバット溶接機に固定(装着)された先端側芯材2と基端側芯材3とが示される。
【0051】
手順(ii)にて、先端側芯材2と基端側芯材3とは、バット溶接機によって、所定の電圧を印加されながら先端側芯材2の基端側の接続端面21と基端側芯材3の先端側の接続端面31とが加圧接触される。この加圧接触により、接触部分には溶融層が形成され、先端側芯材2と基端側芯材3とは強固に接続される。
【0052】
手順(iii)にて、加圧接触することによって変形された接続箇所(溶接部14)の突出部分を除去(削除)する。これにより、溶接部14の外周は、実質的に平滑とされる。なお、突出部分の除去方法は、例えば、研削、研磨、エッチング等の化学処理が挙げられる。
【0053】
次いで、手順(iv)にて、先端側芯材2の接続箇所(溶接部14)より先端側の部位を研削又は研磨して外径が先端方向に向かって漸減する外径漸減部15を形成する。
【0054】
なお、外径漸減部15の基端を溶接部14より基端側とする場合には、手順(iii)を省略して手順(iv)を行ってもよい。
【0055】
また、本発明のガイドワイヤ(A)において、前記基端側芯材がSUS等のステンレス鋼からなり、前記先端側芯材と前記基端側芯材とを溶接した後に、前記先端側芯材の基端側を硬化処理することが好ましい。
前記先端側芯材は前記基端側芯材よりも柔軟なので、両芯材の外径が同じ程度の場合、溶接部を挟んで両芯材の剛性の違いが大きくなるが、前記先端側芯材の基端側を硬化処理することによって、剛性の違いを緩和することができると考えられる。
本発明の鉄系合金で構成された前記先端側芯材は、Ti-Ni合金よりも広い超弾性域を備えているので、剛性の違いと相まって、溶接部の先端側で屈曲して溶接部への応力集中を招く。しかし、上記のように硬化処理して両芯材の剛性の差異を緩和することによって、溶接部の応力集中を抑制し、強く曲げられても局所的に屈曲することなくスムーズに曲がるようになると考えられる。
【0056】
硬化処理としては、時効処理やピーニングが挙げられる。時効処理で硬化させる場合、先端側芯材の基端側においてNiAlなどの金属間化合物が析出して硬化する。先端側芯材の基端側における析出物の量が、処理しない部分よりも多くなる。ピーニングにおいては、表層部の加工硬化が可能で剛性が向上する。いずれの硬化処理においても先端側に向かって徐々に柔軟性が向上するように処理することが好ましい。なお、基端側芯材の先端側を細径化して他の部分よりも柔軟にすることで剛性の違いを緩和することができ、好ましい。
【0057】
図1に示すガイドワイヤ1において、芯材10は、その外周面(外表面)の全部又は一部を覆う被覆層5を有している。この被覆層5は、種々の目的で形成することができるが、その一例として、ガイドワイヤ1の摩擦(摺動抵抗)を低減し、摺動性を向上させることによってガイドワイヤ1の操作性を向上させることがある。
【0058】
このような目的のためには、被覆層5は、摩擦を低減し得る材料で構成されているのが好ましい。これにより、ガイドワイヤ1とともに用いられるカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)が低減されて摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。また、ガイドワイヤ1の摺動抵抗が低くなることで、ガイドワイヤ1をカテーテル内で移動及び/又は回転した際に、ガイドワイヤ1のキンク(折れ曲がり)やねじれ、特に溶接部付近におけるキンクやねじれをより確実に防止することができる。
【0059】
このような摩擦を低減し得る材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(PET、PBT等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂(PTFE、ETFE等)、その他各種のエラストマー、又はこれらの複合材料が挙げられる。
【0060】
そのなかでも特に、フッ素系樹脂(又はこれを含む複合材料)を用いた場合には、ガイドワイヤ1とカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)をより効果的に低減し、摺動性を向上させることができ、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。また、これにより、ガイドワイヤ1をカテーテル内で移動及び/又は回転した際に、ガイドワイヤ1のキンク(折れ曲がり)やねじれ、特に溶接部付近におけるキンクやねじれをより確実に防止することができる。
【0061】
また、フッ素系樹脂(又はこれを含む複合材料)を用いた場合には、通常、焼きつけ、吹きつけ等の方法により、樹脂材料を加熱した状態で、芯材10への被覆を行う。これにより、芯材10と、被覆層5との密着性は特に優れたものとなる。
ここで、通常、芯材10に被覆されたフッ素樹脂を300~400℃程度で焼成することになるが、本発明の鉄系合金は、このような温度であっても影響を受け難いので性状等が変化し難く好ましい。
被覆層5を、例えば、PTFEやPFAなどのフッ素系樹脂にて構成した場合、芯材10と被覆層5の間に別の被覆層(下地層)を設けても良い。下地層としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなどの耐熱性樹脂にPTFEやPFAなどのフッ素系樹脂を混合することによって、被覆層と下地層の密着性を向上させることができる。このことによって、広い超弾性域を備える鉄系合金にて構成された芯材10の曲りや捩りに追従可能であると共に、フッ素系樹脂にて構成した被覆層5によって良好な摺動性を得ることができる。
【0062】
また、摩擦を低減し得る材料の他の好ましい例としては、親水性材料が挙げられる。
【0063】
この親水性材料としては、例えば、セルロース系高分子物質、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質(例えば、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、アクリルアミド系高分子物質(例えば、ポリアクリルアミド、ポリグリシジルメタクリレート-ジメチルアクリルアミド(PGMA-DMAA)のブロック共重合体)、水溶性ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0064】
このような親水性材料は、多くの場合、湿潤(吸水)により潤滑性を発揮し、ガイドワイヤ1とともに用いられるカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)を低減する。これにより、ガイドワイヤ1の摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ1の操作性がより良好なものとなる。
【0065】
また、被覆層5は熱可塑性エラストマーからなることが好ましい。前記先端側芯材は本発明の鉄系合金からなるので、Ti-Ni合金よりも広い超弾性域で変形することができるが、本発明の鉄系合金で構成された先端側芯材が大きく変形しても、被膜層が熱可塑性エラストマーからなると、前記先端側芯材の変形に被覆層の伸縮が追従するので、前記先端側芯材から被膜層が容易に剥離せずに好ましい。
熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリウレタンエラストマーやポリアミドエラストマーが挙げられる。熱可塑性エラストマーによる被覆層5の外表面には親水性材料をコーティングすることが望ましい。
【0066】
このような被覆層5の形成箇所は、芯材10の全長でも、長手方向の一部でもよいが、溶接部14を覆うように、すなわち溶接部14を含む箇所に形成されているのが好ましい。これにより、溶接部14の外周部に、万一、段差やバリ等が生じていた場合でも、それを被覆層5が覆うので、摺動性が確保できる。また、被覆層5はほぼ均一な外径を有しているので、摺動性が更に向上する。
【0067】
被覆層5の厚さは、特に限定されないが、通常は、厚さ(平均)が1~20μm程度であるのが好ましく、2~10μm程度であるのがより好ましい。被覆層5の厚さが薄すぎると、被覆層5の形成目的が十分に発揮されないことがあり、また、被覆層5の剥離が生じるおそれがあり、また、被覆層5の厚さが厚すぎると、ワイヤの物性を阻害することがあり、また被覆層5の剥離が生じるおそれがある。
【0068】
なお、本発明のガイドワイヤ(A)では、芯材10の外周面(表面)に、被覆層5の密着性を向上するための処理(化学処理、熱処理等)を施したり、被覆層5の密着性を向上し得る中間層を設けたりすることもできる。
【0069】
次に、本発明のガイドワイヤ(A)の第2実施形態について、図3を参照しつつ説明するが、前述の第1実施形態と同様の事項についてはその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0070】
図3に示すガイドワイヤ1は、被覆層5の先端がコイル4の基端より基端側の位置にあり、被覆層5の先端側に、当該被覆層5とは異なる第2の被覆層6が形成されている。
このように本発明のガイドワイヤ(A)は、被覆層が2以上あってもよい。また、被覆層は部分的に又は全体的に重なっていてもよい。
【0071】
第2の被覆層6は、コイル4の全部又は一部を覆うように設けられている。図示の構成では、第2の被覆層6は、コイル4の全部を覆っている。
【0072】
このような第2の被覆層6の構成材料としては、前記被覆層5で挙げたものと同じものやそれ以外のもの、例えばプラスチック、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル(PET、PBT等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリカーボネート、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、その他各種のエラストマー(例えば、ポリアミド系、ポリエステル系等の熱可塑性エラストマー)等が挙げられる。
【0073】
上記のように、被覆層5、第2の被覆層6の構成材料は、特に限定されないが、被覆層5がシリコーン樹脂(又はこれを含む複合材料)で構成され、かつ、第2の被覆層6がフッ素系樹脂(又はこれを含む複合材料)で構成されたものであるのが好ましい。
【0074】
これにより、前述したシリコーン樹脂の利点とフッ素系樹脂の利点とを併有することができる。すなわち、被覆層5、第2の被覆層6の構成材料を、上記のような組合せとすることにより、溶接部14における先端側芯材2と基端側芯材3との接合強度を維持しつつ、ガイドワイヤ1全体としては、十分な摺動性を有し、優れた操作性を発揮するものとすることができる。
【0075】
また、被覆層5がフッ素系樹脂(又はこれを含む複合材料)で構成され、かつ、第2の被覆層6がポリウレタン樹脂(又はこれを含む複合材料)で構成されたものである場合、ポリウレタン樹脂に血管造影性のよい物質を混合することができ、X線造影下での視認性を向上させることができる。また、ポリウレタン部は金属を被覆し、ワイヤの血管内破断のリスクを回避するなど、安全性を向上させる。第2の被覆層6の表面にコーティングした親水性材料は潤滑性を向上させる。フッ素系樹脂部分はカテーテル内での摺動性が良好という点で好ましい。
【0076】
更には、被覆層5が疎水性樹脂で構成され、第2の被覆層6が親水性樹脂で構成されたものである場合、カテーテル内における摺動性が特に良く、かつ、血管内の通過性に優れる。
【0077】
また、第2の被覆層6の厚さは、特に限定されないが、通常は、厚さ(平均)が1~20μm程度であるのが好ましく、2~10μm程度であるのがより好ましい。第2の被覆層6の厚さは、被覆層5の厚さと同じでも、異なっていてもよい。
【0078】
なお、本発明のガイドワイヤ(A)は、コイル4を設けないものでもよい。この場合には、同様の箇所に当該第2の被覆層6を設けても、設けなくてもよい。
すなわち、本発明のガイドワイヤ(A)は、コイル4を設けず、コイル4に代わりに上記のようなプラスチックからなる被覆層を設けたものであってもよい。すなわち、本発明のガイドワイヤ(A)は上記の被覆層5や第2の被覆層6と同様の構成材料等からなるプラスチック製の層を、前記芯材の先端側部分を覆う管状部材として有するものであってもよい。プラスチックからなる被覆層は、ポリウレタン樹脂(又はこれを含む複合材料)で構成されたものであることが好ましい。ポリウレタン樹脂に血管造影性のよい物質を混合することができ、X線造影下での視認性を向上させることができるからである。更に、プラスチックからなる被覆層がポリウレタン樹脂からなり、かつ、フッ素系樹脂からなる被覆層5を有することが好ましい。ポリウレタン樹脂に血管造影性のよい物質を混合することができ、X線造影下での視認性を向上させることができるからである。また、ポリウレタン部は金属を被覆し、ワイヤの血管内破断のリスクを回避するなど、安全性を向上させることができるからある。また、ポリウレタン樹脂表面に親水性材料をコーティングすることにより潤滑性も良好になる。フッ素系樹脂からなる被覆層5はカテーテル内での摺動性が良好となる。
【0079】
また、図3に示す構成では、被覆層5の先端と第2の被覆層6の基端とが接合され、両層が連続して形成されているが、被覆層5の先端と第2の被覆層6の基端とが離間していてもよく、あるいは、被覆層5と第2の被覆層6とが部分的に重なっていてもよい。
【0080】
次に、本発明のガイドワイヤ(B)について添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0081】
図4は、本発明のガイドワイヤ(B)の実施形態を示す縦断面図である。なお、説明の都合上、図4及び後述する図5中の右側を「基端」、左側を「先端」という。また、図4及び後述する図5中では、見易くするため、ガイドワイヤの長さ方向を短縮し、ガイドワイヤの太さ方向を誇張して模式的に図示しており、長さ方向と太さ方向の比率は実際とは大きく異なる。
【0082】
図4に示すガイドワイヤ101は、カテーテルに挿入して用いられるカテーテル用ガイドワイヤであって、芯材102と、芯材102の基端側に配置され、芯材102の基端側を覆う基端側チューブ103と、螺旋状のコイル104とを有している。芯材102の基端側は先端側よりも細くなっており、その細い部分(「細径部110」ともいう。)を基端側チューブ103が覆うように配置されている。
ガイドワイヤ101の全長は、特に限定されないが、200~5000mm程度であるのが好ましい。また、芯材102の外径(外径が一定である部分の外径)も特に限定されないが、基端側の細径部110で0.1~1.0mm、それ以外の先端側の部分で、通常、0.2~1.2mm程度であるのが好ましい。また、基端側チューブ103の外径も特に限定されないが、通常、0.2~1.2mm程度であるのが好ましい。基端側チューブ103の内径と芯材102の細径部の外径とがほぼ一致し、基端側チューブ103と芯材102とが密着していることが好ましい。
【0083】
また、本発明のガイドワイヤ(B)において芯材は、少なくとも先端部が本発明の鉄系合金からなるものであるが、本実施形態では、芯材102は、その全てが本発明の鉄系合金からなる弾性を有する線材である。芯材102の長さは、特に限定されないが、200~5000mm程度であるのが好ましい。
【0084】
また、本実施形態では、芯材102の細径部110以外は、その基端から所定長さは外径が一定であり、途中から外径が先端方向へ向かって漸減している。この部分を外径漸減部115と言う。このような外径漸減部115を有することにより、芯材102の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ガイドワイヤ101は、先端部分に良好な柔軟性を得て、血管への追従性、安全性が向上すると共に、折れ曲がり等も防止することができる。
【0085】
図示の構成では、外径漸減部115は芯材102の細径部110以外の一部に形成されているが、芯材102の全体が外径漸減部115を構成していてもよい。また、外径漸減部115のテーパ角度(外径の減少率)は、ワイヤ長手方向に沿って一定でも、長手方向に沿って変化する部位があってもよい。例えば、テーパ角度(外径の減少率)が比較的大きい箇所と比較的小さい箇所とが複数回交互に繰り返して形成されているようなものでもよい。
【0086】
また、芯材102は、外径漸減部115の途中又は外径漸減部115より先端側に、外径が長手方向に沿って一定の部分があってもよい。例えば、芯材102は、先端方向へ向かって外径が漸減するテーパ状のテーパ部が長手方向に沿って複数箇所に形成され、これらのテーパ部とテーパ部との間に外径が長手方向に沿って一定の部分が形成されているようなものでもよい。このような場合でも、前記と同様の効果が得られる。
【0087】
また、図示の構成と異なり、外径漸減部115の基端が基端側チューブ103の途中に位置する、すなわち、外径漸減部115が芯材102と基端側チューブ103との境界を跨って形成された構成でもよい。
【0088】
芯材102の構成材料は本発明の鉄系合金である。本発明の鉄系合金の詳細については後述する。
なお、本発明のガイドワイヤ(B)において、芯材の先端部以外の部分が本発明の鉄系合金以外の材料からなる場合、その材料は特に限定されない。例えば後述する基端側チューブ103と同じ材料であってよい。
【0089】
芯材102の基端側は、基端側チューブ103で覆われている。基端側チューブ103は、芯材102よりも高い弾性を有する金属製の線材である。基端側チューブ103の長さは、特に限定されないが、20~4800mm程度であるのが好ましい。
なお、図4では、芯材102は基端側に細径部110を有し、その細径部110を基端側チューブ103が覆っているが、本発明のガイドワイヤ(B)において芯材102は、細径部110を有しないものであってもよい。すなわち、芯材102は外径漸減部115以外の部分の外径が一定であり、その外径と基端側チューブ103の内径とがほぼ一致するものであってもよい。
【0090】
基端側チューブ103は、芯材102の構成材料より弾性率(ヤング率(縦弾性係数)、剛性率(横弾性係数)、体積弾性率)が大きい材料で構成されている。これにより、基端側チューブ103に適度な剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)が得られ、ガイドワイヤ101がいわゆるコシの強いものとなって押し込み性及びトルク伝達性が向上し、より優れた挿入操作性が得られる。
【0091】
基端側チューブ103の構成材料(素材)は、特に限定されない。本発明のガイドワイヤ(A)における基端側芯材と同様であってよい。好ましい態様も同様である。また、コバルト系合金であってもよい。
【0092】
また、芯材102と、基端側チューブ103との具体的な組合せとしては、芯材102を本発明の鉄系合金で構成し、基端側チューブ103をステンレス鋼又はコバルト系合金で構成することがより好ましい。これにより、前述した効果は更に顕著なものとなる。また、本発明の鉄系合金で構成された芯材の基端側にステンレス鋼などのFe成分が含まれたパイプ状の基端側チューブを密着させると、芯材と基端側チューブとの接合性が高まる傾向があり好ましい。これは、芯材及び基端側チューブに含まれるFe同士が拡散することが要因であると考えられる。
【0093】
ここでコバルト系合金は弾性率が高く、かつ適度な弾性限度を有している。コバルト系合金としては、構成元素としてCoを含むものであれば、いかなるものを用いてもよいが、Coを主成分として含むもの(Co基合金:合金を構成する元素中で、Coの含有率が重量比で最も多い合金)が好ましく、Co-Ni-Cr系合金を用いるのがより好ましい。このような組成の合金を、基端側チューブ103の構成材料として用いることにより、前述した効果が更に顕著なものとなる。また、このような組成の合金は、常温における変形においても可塑性を有するため、例えば、使用時等に所望の形状に容易に変形することができる。また、このような組成の合金は、弾性係数が高く、かつ高弾性限度としても冷間成形可能で、高弾性限度であることにより、座屈の発生を十分に防止しつつ、小径化することができ、所定部位に挿入するのに十分な柔軟性と剛性を備えるものとすることができる。
【0094】
Co-Ni-Cr系合金としては、例えば、28~50wt%Co-10~30wt%Ni-10~30wt%Cr-残部Feの組成からなる合金や、その一部が他の元素(置換元素)で置換された合金等が好ましい。置換元素の含有は、その種類に応じた固有の効果を発揮する。例えば、置換元素として、Ti、Nb、Ta、Be、Moから選択される少なくとも1種を含むことにより、基端側チューブ103の強度のさらなる向上等を図ることができる。なお、Co、Ni、Cr以外の元素を含む場合、その(置換元素全体の)含有量は30wt%以下であるのが好ましい。
また、Co、Ni、Crの一部は、他の元素で置換してもよい。例えば、Niの一部をMnで置換してもよい。これにより、例えば、加工性のさらなる改善等を図ることができる。また、Crの一部をMo及び/又はWで置換してもよい。これにより、弾性限度のさらなる改善等を図ることができる。Co-Ni-Cr系合金の中でも、Moを含む、Co-Ni-Cr-Mo系合金が特に好ましい。
【0095】
Co-Ni-Cr系合金の具体的な組成としては、例えば次のものが挙げられる。
・40wt%Co-22wt%Ni-25wt%Cr-2wt%Mn-0.17wt%C-0.03wt%Be-残部Fe
・40wt%Co-15wt%Ni-20wt%Cr-2wt%Mn-7wt%Mo-0.15wt%C-0.03wt%Be-残部Fe
・42wt%Co-13wt%Ni-20wt%Cr-1.6wt%Mn-2wt%Mo-2.8wt%W-0.2wt%C-0.04wt%Be-残部Fe
・45wt%Co-21wt%Ni-18wt%Cr-1wt%Mn-4wt%Mo-1wt%Ti-0.02wt%C-0.3wt%Be-残部Fe
・34wt%Co-21wt%Ni-14wt%Cr-0.5wt%Mn-6wt%Mo-2.5wt%Nb-0.5wt%Ta-残部Fe
本発明でいうCo-Ni-Cr系合金とはこれらの合金を包含する概念である。
【0096】
図示の構成では、基端側チューブ103は、ほぼ全長にわたってほぼ一定の外径を有するものであるが、その長手方向に外径が変化する部位を有するものであってもよい。
【0097】
コイル104の設置部位、材質、その他態様等は、前述の本発明のガイドワイヤ(A)におけるコイル4と同様であってよい。好ましい態様等についても同様である。
【0098】
ガイドワイヤ101において、芯材102と基端側チューブ103とは、互いを組み合わせてから引抜き等の加工を行うことにより互いに連結(固定)されている。これにより、芯材102と基端側チューブ103との接続部分は、高い結合強度(接合強度)が得られ、よって、ガイドワイヤ101は、基端側チューブ103からのねじりトルクや押し込み力が確実に芯材102に伝達される。
【0099】
また、基端側チューブ103の外表面にレーザ照射でスポット状に溶接したり、シームパイプのように長手方向に溶接したりして、芯材102(細径部110)と基端側チューブ103とを連結することもできる。この場合、芯材102と基端側チューブ103との接合性を向上させることができるので好ましい。特にステンレス鋼からなる基端側チューブを用いた場合、接合性がより向上するのでより好ましい。理由は、本発明のガイドワイヤ(B)は芯材102が本発明の鉄系合金からなるからである。芯材が本発明のガイドワイヤ(B)と異なり、例えばTi-Ni合金からなると、ステンレス鋼からなる基端側チューブと芯材との接合部分にTiとFeとからなる脆い金属間化合物が形成される。この場合、芯材と基端側チューブとの接合性は低い。本発明のガイドワイヤ(B)においてステンレス鋼からなる基端側チューブを用いると、溶接部分にこのような脆い金属間化合物が形成しにくいで、接合が強固になる。
【0100】
芯材102及び基端側チューブ103は、その外周面(外表面)の全部又は一部を覆う被覆層105を有している。この被覆層105は、種々の目的で形成することができるが、その一例として、ガイドワイヤ101の摩擦(摺動抵抗)を低減し、摺動性を向上させることによってガイドワイヤ101の操作性を向上させることがある。
【0101】
このような目的のためには、被覆層105は、摩擦を低減し得る材料で構成されているのが好ましい。これにより、ガイドワイヤ101とともに用いられるカテーテルの内壁との摩擦抵抗(摺動抵抗)が低減されて摺動性が向上し、カテーテル内でのガイドワイヤ101の操作性がより良好なものとなる。また、ガイドワイヤ101の摺動抵抗が低くなることで、ガイドワイヤ101をカテーテル内で移動及び/又は回転した際に、ガイドワイヤ101のキンク(折れ曲がり)やねじれ、特に溶接部付近におけるキンクやねじれをより確実に防止することができる。
【0102】
このような摩擦を低減し得る材料としては、前述した本発明のガイドワイヤ(A)における被覆層5として用いることができるものを用いることができる。好ましい態様についても同様である。
被覆層105の形成箇所、厚さについても、前述の被覆層5と同様とすることができる。
【0103】
なお、本発明のガイドワイヤ(B)では、芯材102及び/又は基端側チューブ103の外周面(表面)に、被覆層105の密着性を向上するための処理(化学処理、熱処理等)を施したり、被覆層105の密着性を向上し得る中間層を設けたりすることもできる。
【0104】
次に、本発明のガイドワイヤ(C)の実施形態について、図5を参照しつつ説明するが、前述の本発明のガイドワイヤ(A)や(B)の実施形態と同様の事項についてはその説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0105】
図5に示すガイドワイヤ201は、先端側芯材202及び基端側芯材203が鉄系合金から構成され、基端側芯材203の表面の少なくとも一部に、フッ素系樹脂からなる被覆層205を有する。
【0106】
被覆層205の先端側に、当該被覆層205とは異なる第2の被覆層206が形成されている。被覆層205は、基端側芯材203の全部又は一部を覆うように設けられている。図示の構成では、被覆層205は、基端側芯材203のほぼ全部を覆っている。
第2の被覆層206は、先端側芯材202の全部又は一部を覆うように設けられている。図示の構成では、第2の被覆層206は、先端側芯材202のほぼ全部を覆っている。
【0107】
被覆層205は、PTFEやPFAなどのフッ素系樹脂にて構成されている。基端側芯材203と被覆層205の間に別の被覆層(下地層)を設けても良い。下地層としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドなどように、フッ素系樹脂の融点にも耐えうる特性を有する樹脂を用いることにより、基端側芯材203とフッ素系樹脂にて構成されている被覆層205との耐剥離性を向上させることができる。また、下地層にPTFEやPFAなどのフッ素系樹脂を混合することによって、被覆層205と下地層の耐剥離性を向上させることができる。このことによって、極めて広い超弾性域を備える鉄系合金にて構成された基端側芯材203の曲りや捩りに追従可能であると共に、フッ素系樹脂にて構成した被覆層205によって良好な摺動性を得ることができる。
また、基端側芯材203の表面を粗面にして被覆層205との耐剥離性を向上させることも可能である。
【0108】
第2の被覆層206の構成材料としては、熱可塑性エラストマーからなることが好ましい。先端側芯材202は後述する鉄系合金からなるので、Ti-Ni合金よりも広い超弾性域で変形することができるが、後述の鉄系合金で構成された先端側芯材が大きく変形しても、第2の被膜層206が熱可塑性エラストマーからなると、前記先端側芯材の変形に被覆層の伸縮が追従するので、前記先端側芯材から被膜層が容易に剥離せずに好ましい。
熱可塑性エラストマーとしては、例えばポリウレタンエラストマーやポリアミドエラストマーが挙げられる。熱可塑性エラストマーによる第2の被覆層206の外表面には親水性材料をコーティングすることが望ましい。更に、耐剥離性を向上させるために、先端側芯材202に対して第2の被膜層206よりも耐剥離性の高い樹脂層を第2の被覆層206と先端側芯材202との間に設けることも可能である。また、先端側芯材202の表面を粗面にして第2の被覆層206との耐剥離性を向上させることも可能である。
【0109】
被覆層205の厚さは、特に限定されないが、通常は、厚さ(平均)が1~20μm程度であるのが好ましく、2~10μm程度であるのがより好ましい。
【0110】
先端側芯材202には外径漸減部215を有し、基端側芯材203には外径漸減部216を有している。第2の被膜層206は外径漸減部215の前後で外径均一に被覆している。被覆層205は外径漸減部216及びその基端側をほぼ均一な厚みにて被覆している。
なお、参考例として、本発明のガイドワイヤ(C)の第2の被膜層206が基端側芯材203も被覆するものが挙げられる。この場合には、被覆層205を設けなくてもよい。このような場合であっても、更に、耐剥離性を向上させるために、基端側芯材203に対して第2の被膜層206よりも耐剥離性の高い樹脂層を第2の被覆層206と基端側芯材203との間に設けることも可能である。また、基端側芯材203の表面を粗面にして第2の被覆層206との耐剥離性を向上させることも可能である。
【0111】
また、図5に示す構成では、被覆層205の先端と第2の被覆層206の基端とが離間しているが、両層が連続して形成されていてもよく、あるいは、被覆層205と第2の被覆層206とが部分的に重なっていてもよい。
【0112】
次に、本発明のステントについて説明する。
本発明のステントは、本発明の鉄系合金からなる本体部を有するステントである。例えば前記本体部の表面(内面および/または外面)に生体適合性材料からなる皮膜を有してもよい。また、このような皮膜を有さず、本体部そのものであってもよい。その場合でも本発明の範囲内である。
【0113】
次に、本発明のステントの形状について、図面に示した好適実施例を用いて説明する。
図6は、本発明のステントの好適実施例の形状を示す正面図である。図7は、図6に示したステントの展開図である。図8は、図6に示したステントを縮径させた状態のステントの展開図である。図9は、図6に示したステントの部分拡大図である。
【0114】
本発明のステント301は、軸方向に複数の波線状環状体302を備えるステントであって、波線状環状体302は、ステント301の軸方向の一端側に頂点302aを有する複数の一端側屈曲部及びステント301の軸方向の他端側に頂点302bを有する複数の他端側屈曲部を有し、かつ、ステント301の軸方向に隣り合う波線状環状体302は、ステント301の軸方向一端側の波線状環状体302における他端側屈曲部の1つの頂点302b若しくはその付近に始端322を有し、他端側屈曲部の頂点302bと一端側屈曲部の頂点302a間に終端323を有する共有線状部321を有し、共有線状部321により、隣り合う波状環状体が一体化している。
本発明のステントは、部分的共有部を有することにより、隣り合う波線状環状体が一体化した複数の環状体からなるものであり、いわゆる接続部としてのみ設けられた部分を備えず、すべてが、拡張力を発揮する部分のみにより構成されている。
【0115】
また、この実施例のステントは、略円筒形状に形成され、生体内挿入時には縮径され、生体内留置時には縮径前の形状に復元可能なステント、いわゆる自己拡張型ステントである。図6は、ステント301の拡張時の外観形状を示している。
ステント301を形成する波線状環状体302の数としては、図6に示すものでは、11となっている。波線状環状体302の数としては、ステントの長さによって相違するが、2~150が好ましく、特に、5~100が好ましい。
そして、各波線状環状体302は、ステント301の軸方向の一端側に頂点を有する複数の一端側屈曲部及びステント301の軸方向の他端側に頂点を有する複数の他端側屈曲部を有するとともに、環状に連続した無端の波線状体により構成されている。環状体302における一端側屈曲部と他端側屈曲部は、交互に形成されており、かつそれぞれの数は同じとなっている。1つの波線状環状体302における一端側屈曲部(他端側屈曲部)の数としては、図6に示すものでは、9つとなっている。一端側屈曲部(他端側屈曲部)の数としては、4~20が好ましく、特に、6~12が好ましい。そして、この実施例のステントにおける波線状環状体302を形成する線状体は、常に湾曲しており、直線状部分が極めて少ないものとなっている。このため、環状体302を形成する線状体は十分な長さを有するため、拡張時における高い拡張力を発揮する。また、波線状環状体302の軸方向の長さとしては、1~10mmが好ましく、特に、1.5~5mmが好ましい。
【0116】
そして、この実施例のステント301では、図6、図7、図8及び図9に示すように、各波線状環状体302は、他の一端側屈曲部の頂点302aより一端側に突出する突出一端側頂点302a1及び他の他端側屈曲部の頂点より他端側突出する突出他端側頂点(この実施例では、始点と一致する)322を形成する大波部を有している。更に、この実施例では、波線状環状体は、複数の大波部を備えている。このステントでは、1つの環状体が、9つの一端側屈曲部を備えており、大波部は、1つの環状体内に、3つ設けられている。そして、3つの大波部は、ステント301の中心軸に対して、ほぼ等角度となるように形成されている。
そして、ステント301の軸方向基端側に隣り合う波線状環状体302は、ステント301の軸方向一端側の波線状環状体302における他端側屈曲部の1つの頂点302b若しくはその付近に始端322を有し、他端側屈曲部の頂点302bと一端側屈曲部の頂点302a間に終端323を有する共有線状部321を有し、共有線状部321により、隣り合う波状環状体が一体化している。
【0117】
具体的には、共有線状部321は、ステント301の軸方向一端側の波線状環状体302における他端側屈曲部の1つの頂点302bを始端322とするものであり、始端322と頂点302bは同じものとなっている。また、共有線状部321は、上記の頂点302b(始端322でもある)と連続する一端側屈曲部の頂点302a間に終端323を有する。特に、この実施例では、共有線状部321は、上記の頂点302b(始端322でもある)と連続する一端側屈曲部の頂点302a間のほぼ中点付近に終端を有するものとなっている。なお、この終端323の位置としては、中点に位置することが好ましいが、上記の頂点302b(始端322でもある)と連続する一端側屈曲部の頂点302a間の全長の1/100~49/100程度いずれかの頂点側となる位置であってもよい。なお、この場合、この終端323の位置としては、中点より、頂点302a側にずれることが好ましい。
ステント301は、上記のような構成を有するため、共有線状部321の始端部位が形成する始端分岐部と、共有線状部321の終端部位が形成する終端分岐部とを有する。具体的には、始端分岐部は、始端322を分岐点として、一端側に向かって二股に分岐する形態となっており、終端分岐部は、終端323を分岐点として、他端側に向かって二股に分岐する形態となっている。
【0118】
更に、この実施例のステント301では、大波部における突出一端側頂点302a1と突出他端側頂点(始端322と一致)間が、他の各頂点間を接続する線状部より長い長線状部となっている。そして、この長線状部の他端側端が、上記のように共有線状部の始端となっている。そして、この実施例では、大波部の一部に、共有線状部321が形成されている。
また、この実施例のステント301では、図7に示すように、各波線状環状体302は、共有線状部321の終端323と一端側屈曲部の頂点302a間を連結する短線状部326を有している。また、上記の短線状部326を有する環状体302と共有線状部321により一体化した環状体302は、図7に示すように、共有線状部321の始端322と他端側屈曲部の頂点302b間を連結する短線状部325と、共有線状部321の終端323と他端側屈曲部の他の頂点302b間を連結する長線状部324とを有している。
よって、大波部における突出一端側頂点(終端323と一致)と突出他端側頂点(他端側に隣り合う環状体と共有線状部の始端322と一致)間が、長線状部を構成している。つまり、ステント301では、軸方向に隣り合う共有線状部321は、軸方向一端側から見て、共有線状部321の終端323と隣り合う共有線状部321の始端322とが、長線状部324により接続された形態となっている。このため、図7に示すように、このステント301では、長線状部324と共有線状部321が繰り返されることにより構成されたジグザグ形態が、ステントの一端から他端側に向かって螺旋を形成するものとなっている。
【0119】
そして、このステントでは、いわゆる接続部がなく、接続部に起因する湾曲障害及び拡張力低下といったことがなく、ステント全体として、均質な拡張保持力を発揮する。
そして、この実施例のステント301では、隣り合う波線状環状体間には、複数の共有線状部321を備えている。具体的には、隣り合う波線状環状体間には、3つの共有線状部321が設けられている。そして、3つの共有線状部321は、ステント301の中心軸に対して、ほぼ等角度となるように形成されている。
そして、ステント301では、共有線状部321の始端322と他端側屈曲部の頂点302b間を連結する短線状部325は、ステント301の軸方向に連続せず、かつ複数の短線状部325が、ほぼ直線状となるように形成されている。また、このステント301では、上述した短線状部325、326を除く線状部(長線状部及びその他線状部)は、図9に示すように、中間部付近に線状体の進行方向をほぼ平行にかつ若干変更する偏曲部332を備えている。この偏曲部332を有することにより、線状部長さも長くなるととともに、拡張力も高くなる。
【0120】
更に、このステント301では、長線状部324の長さ(すなわち、共有線状部321の終端323と共有線状部321の始端322間の長さ)と、共有線状部321と短線状部325を合わせた長さ(すなわち、共有線状部321の終端323から始端322を越えて頂点302bまでの長さ)を比較すると、長線状部324の方が若干長いものとなっている。このようにすることにより、頂点302bを隣り合う環状体の線状部333(具体的には、頂点302aと頂点302bを繋ぎ、線状共有部、分岐部のない通常の線状部)との過剰な近接を防止することができ、線状体が形成する閉鎖空間(図7に示すように、この実施例では、V字とM字を接続した閉鎖空間が形成されている)における幅のかたよりを少ないものとすることができ、高い拡張維持力を発揮する。
また、図7に示すように、波線状環状体302の一端側屈曲部の頂点302aは、隣り合う一方の波線状環状体の他端側屈曲部の頂点302b間に形成される空間に侵入しており、波線状環状体302の他端側屈曲部の頂点302bは、隣り合う他方の波線状環状体の一端側屈曲部の頂点302a間に形成される空間に侵入している。このようにすることにより、ステントを構成する線状体の長さを長くでき、かつ、線状体が形成する閉鎖空間(図7に示すように、この実施例では、V字とM字を接続した閉鎖空間が形成されている)の面積を小さいものとすることができ、高い拡張維持力を発揮する。
【0121】
更に、この実施例のステント301では、図8に示す収縮状態では、周方向における隙間が殆どなく、各要素が並んでいる。このため、高いカバレッジを持つ。
【0122】
本発明のステントは、例えば上記のような形状を有する。
本発明のステントが上記のような形状の場合、本体部の材質が本発明の鉄系合金であることと相俟って、下肢など変形の大きい血管への留置後も、大きな変形による破壊がない上、耐久性(疲労強度)にも優れるという効果を奏する。
【0123】
本発明のステントの大きさは留置対象部位により異なるものの、一般的に、拡張時(非縮径時、復元時)の外径が2.0~30mm、好ましくは2.5~20mm、長さは、10~150mm、より好ましくは15~100mmである。特に、血管内留置用ステントの場合には、外径が2.0~14mm、好ましくは2.5~12mmのものであり、長さは5~100mm、より好ましくは10~80mmである。
そして、肉厚は、従来のステントよりも薄くすることができる。本発明のステントの本体部は、後述する本発明の鉄系合金により形成されているので、強度及び耐久性が高く、肉厚をより薄くしても、所望の強度及び耐久性を有する。例えば、0.2mm、更には0.10mm以下とすることができる。
【0124】
本発明のステントの本体部は、本発明の鉄系合金からなるパイプを用いて、ステント非構成部分を除去(例えば、切削、溶解)することに作製することができる。これにより、一体形成物となっている。なお、本発明のステントの本体部の形成に用いられるパイプは、不活性ガス又は真空雰囲気にて溶解し本発明の鉄系合金のインゴットを形成し、このインゴットを機械的に研磨し、続いて、熱間プレス及び押し出しにより、太径パイプを形成し、その後順次ダイス引き抜き工程及び熱処理工程を繰り返すことにより、所定の肉厚、外径のパイプに細径化し、最終的に表面を化学的又は物理的に研磨することにより製造することができる。そして、パイプによるステント基材の形成は、切削加工(例えば、機械研磨、レーザー切削加工)、放電加工、化学エッチングなどにより行うことができ、更にそれらの併用により行ってもよい。
【0125】
また、本発明のステントの本体部は、編み組みワイヤからなるものであることが好ましい。理由は、留置されたステントが体動や拍動に追従しやすくなるためである。
【0126】
また、本発明のステントの本体部は、ステントの最終形状を作製した後、900~1400℃で溶体化処理を行い、50℃/秒以上の速度で急冷し、その後、200℃以上800℃未満の温度で時効処理を行うことが好ましい。このような、溶体化処理、時効処理を行うと、ステントの本体部の超弾性及び強度が向上し、これにより、ステント本体部全体の柔軟性が向上し、屈曲した血管内での留置性が良好となる。
【0127】
また、本発明のステントの非拡張時の直径は、0.8~1.8mm程度が好適であり、特に、0.9~1.6mmがより好ましい。また、本発明のステントの非拡張時の長さは、10~200mm程度が好適である。また、一つの波線状環状体の長さは、8~40mm程度が好適である。
【0128】
また、通常、ステントには造影用マーカーを設けるが、本発明のステントにおいては造影用マーカーを設ける必要はない。本発明のステントの場合、前述したように本発明の鉄系合金が優れたX線造影性を有するからである。
【0129】
次に、本発明の鉄系合金について説明する。
【0130】
[1]鉄系合金の結晶組織及び特性
本発明の鉄系合金は実質的に、母相である面心立方(fcc)構造のγ相中に、L1構造のγ’規則相が微細に分散した二相組織を有する。前記γ相は冷却することにより体心立方(bcc)構造のα’相にマルテンサイト変態し、再度加熱することにより、母相γ相に逆変態する。マルテンサイト変態開始温度(Ms点)、及びその逆変態終了温度(Af点)は、電気抵抗測定により求めることができる。図10に示す通り、一般に形状記憶合金には、マルテンサイト変態とその逆変態とにヒステリシスがある。
【0131】
形状記憶合金における超弾性は、Af点以上におけるマルテンサイトの応力誘起変態、及びその逆変態により起こる。しかし、前記ヒステリシス幅が大きいと、マルテンサイトを誘起させるために必要な応力が高くなるため、容易に転位等の永久歪が導入されてしまい、良好な超弾性が得られなくなる。従ってヒステリシス幅を小さくすることにより、低い応力でマルテンサイトを誘起し、変形時に転位等の永久歪が導入されずに、良好な超弾性を得ることができる。鋭意研究の結果、このような超弾性を得るためには、本発明の鉄系合金の熱ヒステリシスの幅は100℃以下であることが必要なことがわかった。好ましい熱ヒステリシスの幅は70℃以下である。
【0132】
本発明の鉄系合金は、前記母相γ相の特定結晶方位<100>又は<110>が、圧延、伸線等の冷間加工方向に揃った再結晶集合組織を有するのが好ましい。本発明の鉄系合金は、結晶方位が完全にランダムであっても、形状記憶、超弾性特性が得られるが、上記した特定結晶方位が揃うことにより、より優れた形状記憶、超弾性特性を得ることができる。合金組織の結晶方位は電子背面散乱パターン法で測定することができ、結晶方位の揃え具合を表す、存在頻度で表すことができる。加工方向における<100>の存在頻度は、結晶方位が完全にランダムになっている場合を1と仮定したときの存在率であり、値が大きいほど結晶方位がより揃っていることを表す。
本発明の鉄系合金の加工方向における特定結晶方位の存在頻度は好ましくは2.0以上であり、より好ましくは2.5以上である。
【0133】
このような100℃以下の熱ヒステリシスを有し、更に、母相γ相の結晶方位の揃った本発明の鉄系合金は、Ti-Ni合金に比べ、高いヤング率と強度、そして大きな超弾性歪みを有する。ヤング率は概ね40GPa以上であり、降伏強度(0.2%耐力)は概ね600MPa以上、超弾性歪は5%以上である。更に本発明のFe基形状記憶合金は良好な硬度、引張強度及び破断伸びを有するため、加工性に優れている。
【0134】
[2]鉄系合金の組成
(a)基本組成
本発明の鉄系合金の基本組成は、25~35質量%のNiと、10~30質量%のCoと、2~8質量%のAlとを含有し、更に1~5質量%のTi、2~10質量%のNb、及び3~20質量%のTaからなる群から選ばれた少なくとも1種を合計で1~20質量%含有し、残部はFe及び不可避的不純物である。なお、本発明の鉄系合金の説明において、特段の断りがなければ各元素の含有量は合金全体を基準(100質量%)とする。
ただし、本発明の鉄系合金は、Feを30質量%以上含有することが好ましく、35質量%以上含有することがより好ましい。また、Feを55質量%以下含有することが好ましく、50質量%以下含有することがより好ましい。また、Feを30~55質量%含有することが好ましく、35~50質量%含有することがより好ましい。本発明の鉄系合金におけるFeの含有率が低すぎると冷間加工性が低下し、さらに超弾性処理(時効処理)後の靱性が低下する傾向がある。一方、Feの含有率が高すぎると、bccマルテンサイト変態の変態ヒステリシスが大きくなる(100℃以上となる)ため、優れた超弾性が得られない傾向がある。
【0135】
Niはマルテンサイト変態を起こすとともにその温度を低下させる元素である。本発明の鉄系合金は25~35質量%のNiを含有するのが好ましい。この範囲のNi含有により、鉄系合金のマルテンサイト変態温度が下がり、母相(fcc相)は安定化する。Niの含有量が35質量%超にするとマルテンサイト変態温度が低下し過ぎ、実用温度域で変態が現れないため、良好な形状記憶性及び超弾性が得られない。
【0136】
また、Niは時効処理によりNiAl等のfcc及び/又はfctの規則相を析出させる元素である。上記規則相は、鉄系合金の母相を強化するとともに、マルテンサイトの熱ヒステリシスを減少させるため、形状記憶性及び超弾性を向上させる。Niの含有量が25質量%未満であると、析出する規則相の量が不十分であるため、良好な形状記憶性、及び超弾性が得られない。より好ましいNiの含有量は26~30質量%である。
【0137】
Coは母相の剛性率を低下させて変態歪みを減少させ、もって形状記憶性を向上させる元素である。本発明の鉄系合金は10~30質量%のCoを含有するのが好ましい。Coの含有量が30質量%を超えると、合金の冷間加工性が低下する恐れがある。Coの含有量が10質量%未満になると、Coの上記添加効果が十分に発揮されない。より好ましいCoの含有量は15~23質量%である。
【0138】
Alは、Ni同様、時効処理によりNiAl等のfcc及び/又はfctのγ’規則相を析出させる元素である。Alの含有量が2質量%未満では、析出する規則相の量が不十分であるため、良好な形状記憶性、及び超弾性が得られず、また8質量%を超えると極めて脆くなる。本発明の鉄系合金は2~8質量%のAlを含有するのが好ましく、4~6質量%であるのがより好ましい。
【0139】
鉄系合金は、更に1~5質量%のTi、2~10質量%のNb、及び3~20質量%のTaからなる群から選ばれた少なくとも1種の第一の添加元素を合計で1~20質量%含有するのが好ましい。第一の添加元素の元素を含有することにより、γ’規則相の析出量が著しく増加し、これに伴い母相強度も大きく上昇し、マルテンサイトの熱ヒステリシスも大幅に小さくなるため、形状記憶性及び超弾性が向上する。但しこれらの元素の合計含有量が20質量%を超えると、合金の冷間加工性が低下する恐れがある。
【0140】
(b)基本組成以外の元素
本発明の鉄系合金は、更にB、C、Ca、Mg、P、Zr、Ru、La、Hf、Pb及びミッシュメタルからなる群から選ばれた少なくとも1種の第二の添加元素を含有することができる。第二の添加元素の含有量は合計で1質量%以下であるのが好ましく、0.001~1質量%であるのがより好ましく、0.002~0.7質量%であるのが最も好ましい。第二の添加元素は、時効中に起こるB2構造のβ相の粒界反応を抑制し、形状記憶性及び超弾性を向上させる。
【0141】
本発明の鉄系合金は、更にBe、Si、Ge、Mn、Cr、V、Mo、W、Cu、Ag、Au、Ga、Pt、Pd及びReからなる群から選ばれた少なくとも1種の第三の添加元素を含有することができる。第三の添加元素の含有量は合計で10質量%以下であるのが好ましく、0.001~10質量%であるのがより好ましく、0.01~8質量%であるのが最も好ましい。
【0142】
第三の添加元素のうち、Si、Ge、V、Mo、W、Ga及びReは、母相γ相とγ’規則相との整合性を向上させ、γ’相の析出強化を向上させ、形状記憶性を向上させる。これらの元素の好ましい含有量は合計で10質量%以下である。
【0143】
Be及びCuは、固溶強化により母相γ相の強度を向上させ、形状記憶性を向上させる。Be及びCuの好ましい含有量はそれぞれ1質量%以下である。
【0144】
Crは耐摩耗性及び耐食性を維持するのに有効な元素である。Crの好ましい含有量は10質量%以下である。
【0145】
MnはMs点を低下させるので、高価なNiの含有量を減らすことができる。Mnの好ましい含有量は5質量%以下である。
【0146】
Ag、Au、Pt及びPdは、α’マルテンサイトの正方晶性を大きくする効果を有し、熱ヒステリシスを減少させ、形状記憶性及び超弾性を向上させる。これらの元素の好ましい含有量は10質量%以下である。
【0147】
[3]鉄系合金の製造方法
(a)冷間加工
上記組成を有する本発明の鉄系合金は、溶解鋳造、熱間加工及び冷間加工により所望の形状に成形する。成形加工の後で、溶体化処理及び時効処理を行うが、溶体化処理前の成形加工としては、冷間圧延、冷間伸線、金型プレス等の冷間加工が好ましい。冷間加工が好ましい理由は、溶体化処理後、冷間加工方向にγ相の特定結晶方位が揃った再結晶集合組織が得られるためである。このような集合組織を有する、板材、パイプ、線材、加工材では、ランダムな方位を有するそれらと比べ、より大きな超弾性歪みをえることができる。また、冷間加工後、必要に応じてショットピーニング等の表面加工を行うこともできる。冷間加工により、加工方向にγ相の特定結晶方位が揃った板材、パイプ、線材、加工材等が得られる。
【0148】
鉄系合金に対して1回の冷間加工で得られる加工率はせいぜい10%程度であるので、冷間加工においては、高い合計加工率を得るためには冷間加工を複数回行う必要がある。この時、複数回の焼鈍処理を介して行っても良いが、合金組織の配向性を高めるためには、最終焼鈍後の合計加工率を高くするほど良い。焼鈍処理の条件は900~1300℃の加熱温度で、1分~3時間行うことが好ましい。焼鈍後の冷却は空冷で行うことが好ましく、水冷で行うことがより好ましい。
【0149】
本発明の鉄系合金では、冷間加工によって、溶体化処理後、γ相の<100>又は<110>方向を圧延又は伸線などの冷間加工方向に揃えることができる。合金組織の結晶方位は電子背面散乱パターン法で測定することができ、結晶方位の揃え具合を表す存在頻度を求めることができる。例えば加工方向における<100>の存在頻度は、結晶方位が理論上完全にランダムになっている場合における加工方向に向いている<100>の存在頻度を1と仮定したときの存在率であり、値が大きいほど結晶方位がより揃っていることを表す。
【0150】
鋭意研究の結果、γ相の<100>又は<110>等の特定結晶方位の存在頻度が2.0以上になると優れた形状記憶性及び超弾性を有する鉄系合金が得られることが分かった。本発明における鉄系合金では、上記特定結晶方位の存在頻度は、最終焼鈍後の合計加工率により設定することができる。上記特定結晶方位の存在頻度を高めるためには、最終焼鈍後の合計加工率が高いほどよいが、2.0以上にする場合は、いずれの合金組成においても、最終焼鈍後の冷間加工の合計加工率は50%以上にする必要がある。最終焼鈍後の冷間加工の合計加工率が低いと合金組織の特定結晶方位が加工方向に揃わず、十分な形状記憶性及び超弾性の向上が得られない。冷間加工の合計加工率は好ましくは70%以上であり、もっとも好ましくは92%以上である。
【0151】
(b)溶体化処理
冷間加工した鉄系合金を固溶温度まで加熱し、結晶組織をオーステナイトγ相単相に変態させた後、急冷する溶体化処理を行うのが好ましい。溶体化処理は800℃以上の温度で行う。処理温度は900~1400℃であるのが好ましい。処理温度での保持時間は1分~50時間であるのが好ましい。1分未満では溶体化処理の効果が十分に得られず、50時間を超えると酸化の影響が無視できなくなる。
【0152】
溶体化処理は応力をかけながら行っても良い。このいわゆるテンション・アニーリングを行うことにより、鉄系合金の記憶形状を精密に制御できるようになる。溶体化処理中に応力をかける場合、応力は0.1~50kgf/mmであるのが好ましい。
【0153】
加熱処理後、50℃/秒以上の速度で急冷することにより、γ単相状態を凍結させる。急冷は水などの冷媒に入れるか、強制空冷によって行うことができる。冷却速度を50℃/秒未満にすると、β相(B2構造のβ相)が析出してしまい、形状記憶性が得られない。好ましい冷却速度は50℃/秒以上である。
【0154】
(c)時効処理
溶体化処理の後に時効処理を行うのが好ましい。時効処理を行うことにより、NiAl等のfcc及び/又はfct構造を有する規則相が現れ、母相が強化されると共に、マルテンサイトの熱ヒステリシスが小さくなり、形状記憶性及び超弾性が向上する。時効処理は200℃以上800℃未満の温度で行う。200℃未満で処理すると、上記規則相の析出が不十分となる。一方800℃以上で処理すると、安定相であるβ相が析出するため好ましくない。
【0155】
時効処理時間は鉄系合金の組成及び処理温度により異なる。700℃以上800℃未満の温度で行う場合、時効処理時間は10分間~50時間であるのが好ましい。また、200℃以上700℃未満の温度で行う場合、時効処理時間は30分間~200時間であるのが好ましい。時効処理時間が前記時間よりも短いと効果が不十分である。一方、時効処理時間が前記時間を超えると、β相が析出して形状記憶性が消失する恐れがある。
【実施例】
【0156】
本発明の鉄系合金に関して実施例により更に詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0157】
<実施例1~5及び比較例1>
実施例1~5及び比較例1の鉄系合金は、合金組成及び時効処理時間が異なる以外は同様にして、以下に述べる方法により作製した。
表1に示す成分の合金を溶解し、平均140℃/分の冷却速度で凝固して、直径12mmのビレットを作製した。このビレットを1300℃で熱間圧延し、厚さ1.3mmの板材を得た。この熱間圧延材に対して、1300℃で10分間の第一の焼鈍を行った後に、冷間圧延を複数回行い厚さ0.65mmとした。その後、同条件で第二の焼鈍を行い、冷間圧延を複数回行い厚さ0.2mmの板材を作製した。第二の焼鈍(最終焼鈍)後の合計加工率は70%であった。各板材を1300℃で30分間加熱処理した後、氷水中へ投入して急冷した(溶体化処理)。次いで600℃で時効処理を行い、fcc構造のγ相とL1構造のγ’相の2相からなり、形状記憶性及び超弾性を有する鉄系合金の板材を得た。上記第一の焼鈍~時効処理までの工程を図11(a)に概略的に示す。各合金の時効処理時間は表1に示す通りである。
【0158】
<実施例6~9>
実施例6~9の鉄系合金は、組成は同じで焼鈍~時効処理の工程条件のみが異なる合金である。例えば実施例6の鉄系合金は以下の方法で作製した。
表1に示す成分の合金を溶解し、平均140℃/分の冷却速度で凝固して、直径20mmのビレットを作製した。このビレットを1300℃で熱間圧延し、厚さ1.6mmの板材を得た。この熱間圧延材に対して、1300℃で10分間の第一の焼鈍を行い空冷した後に、冷間圧延を複数回行い厚さ0.8mmとした。その後、同条件で第二の焼鈍→冷間圧延→第三の焼鈍→冷間圧延を行うことにより、厚さ0.2mmの板材を作製した。第三の焼鈍(最終焼鈍)後の合計加工率は50%であった。得られた板材を1300℃で30分間加熱処理した後、氷水中へ投入して急冷した(溶体化処理)。次いで600℃で90時間の時効処理を行い、fcc構造のγ相とL1構造のγ’相の2相からなり、形状記憶性及び超弾性を有する鉄系合金の板材を得た。実施例6の合金の第一の焼鈍~時効処理までの工程を図11(b)に概略的に示す。
【0159】
実施例7~9の鉄系合金は、実施例6の鉄系合金に対して焼鈍と冷間圧延のパターンを、図11(c)~図11(e)に示すように変更して作製した[図11(c):実施例7、図11(d):実施例8、図11(e):実施例9]。最終焼鈍後の合計冷間加工率は表1に示す。
【0160】
【表1】
JP0005295104B2_000002t.gif

【0161】
実施例1~9及び比較例1について、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスの温度幅[Af点(逆変態終了温度)とMs点(マルテンサイト変態開始温度)との差]、また、圧延方向における<100>の存在頻度、超弾性により得られる超弾性歪(超弾性)、ヤング率、降伏強度(0.2%耐力)、を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
【0162】
(1)熱ヒステリシスの温度幅(Af点とMs点との差)
板材のMs点及びAf点を、電気抵抗測定により求め(図10参照)、その差を熱ヒステリシスの温度幅とした。実施例1~9及び比較例1における測定結果を表1に示した。
【0163】
(2)圧延方向における<100>の存在頻度
電子背面散乱パターン測定装置(商品名:Orientation Imaging Microscope、TSL社製)を用いて、得られた板材の圧延方向におけるγ相の特定結晶方位の存在頻度を測定した。実施例1~9及び比較例1における測定結果を表1に示した。
なお、結晶方位の存在頻度は、上記の電子背面散乱パターン測定装置を用いて電子背面散乱パターン法(EBSD)により結晶方位を測定した後、TexSEM Laboratories(TSL)社製の解析ソフト(Orientation Imaging Microscope Software Version3.0)を用いて求めた。具体的には、前記解析ソフトに内臓された調和関数を用いた解析的手法により計算し、その時の展開次数は16、ガウス分布に当てはめる時の半値幅は5°として存在頻度を計算した。この時、加工方向における<100>の存在頻度の値が大きいほど、<100>結晶方位が加工方向に揃っていることになる。
【0164】
(3)超弾性により得られる超弾性歪(超弾性)
超弾性歪みは室温における板材の引張りサイクル試験によって得られる応力-歪み曲線から求めた。典型的な測定結果を図12に示す。引張りサイクル試験は、初期試料長に対して一定の歪みを印加後除荷する引っ張り試験を1サイクルとして、印可する歪を2%(サイクル1)から開始し、順に4%(サイクル2)、6%(サイクル3)と、2%ずつ増加させて行い、試料が破断するまで繰り返した。得られた各サイクルの応力-歪み曲線から、図12に示すように、iサイクル目に得られる超弾性歪み(εSEi)を次式により求めた。
【0165】
εSEi(%)=εti-εri-εei
(iはサイクル数、εtiはiサイクル目の印可歪み、εriはiサイクル目の残留歪み、及びεeiはiサイクル目の純粋な弾性変形歪みを示す。)
【0166】
板材が破断するまでに得られた超弾性歪みの最大値を下記の基準により評価した。図13は実施例3の板材の最大歪みが2%のときの応力-歪み曲線を示す。
最大超弾性歪み:8%以上・・・・・・・・・◎
最大超弾性歪み:2%以上8%未満・・・・・○
最大超弾性歪み:0.5%以上2%未満・・・△
最大超弾性歪み:0.5%未満・・・・・・・×
実施例1~9及び比較例1における測定結果を表1に示した。
【0167】
(4)ヤング率及び降伏強度(0.2%耐力)
図12に示すように、室温における引張り試験により得られた応力-歪相関図からヤング率及び降伏強度(0.2%耐力)を測定した。実施例1~9及び比較例1における測定結果を表1に示した。
【0168】
表1からわかるように、マルテンサイト変態及び逆変態の熱ヒステリシスの温度幅が100℃以下である実施例1~9はいずれも、最大超弾性歪みが0.5%以上の超弾性を示した。しかし、熱ヒステリシスの温度幅が200℃の比較例1では、また超弾性が0.5%未満であった。これらの結果から、熱ヒステリシスの温度幅が小さな実施例1~9の鉄系合金は、熱ヒステリシスの温度幅が大きな比較例1の鉄系合金より優れた超弾性を有することが分かる。
【0169】
実施例6~9の鉄系合金は、組成は同じで、焼鈍~時効処理の工程が異なる条件で作製された合金であり、それぞれγ相の特定結晶方位の揃い具合が異なる再結晶集合組織を有する。図14(a)には実施例6で得られた板材、図14(b)には実施例9の板材の圧延方向における各結晶方位の存在頻度を等高線で示した逆極点図を示す。実施例6の図14(a)では等高線が<100>方向に集まっており、<100>方向が圧延方向に揃っていることを示している。圧延方向における<100>の存在頻度は2.3であった。一方、実施例9の図14(b)では、圧延方向における<100>の存在頻度は11.0であり、<100>方向が圧延方向により強く揃っている。このように、本発明の鉄系合金では最終焼鈍後の合計冷間加工率が大きいほど、γ相の特定結晶方位は圧延方向により強く揃う。
【0170】
図15は実施例9の最大歪みが15%のときの応力-歪み曲線を示す。約10%の超弾性歪みが得られることが分かる。
表1からも分かるように、最終焼鈍後の合計冷間加工率がより高く、特定結晶方位がより強く揃った鉄系合金では、より大きな超弾性歪みを有することが分かった。
また、表1に、Ti-Ni合金の超弾性、ヤング率、降伏強度、を比較例2として示した。熱ヒステリシスが小さく、かつ特定結晶方位が強く揃った本発明の鉄系合金は、Ti-Ni合金よりも大きな超弾性歪み、高いヤング率および強度を有していることが分かる。
【0171】
以上、本発明の鉄系合金にて構成されたガイドワイヤ及びステントについて説明したが、本発明の鉄系合金は他の体内に挿入したり、留置したりして使用する医療用器具や体外にて使用する医療用器具の主材料又は部分的な材料として用いることができる。例えば、血管フィルタ、歯科矯正ワイヤ、人工歯根、カテーテル、ボーンプレート、髄内ピン、ステープル、脳動脈クリップ、閉塞用コイル、鉗子などが挙げられる。
【0172】
図16は、本発明の鉄系合金にて構成された血管フィルタの一例を示す斜視図である。図16に示す血管フィルタ410は、例えば、血管内を下大静脈まで進められ、そこで広げられて身体の下部から心臓及び肺へ血栓が移動するのを防止するためのものであり、一般的にベル状の形状を備えている。血管フィルタ410は、張り出し領域417とフィルタ区域419に収束領域421を有する。張り出し(又は取付/固定)領域417でのフィルタの横方向寸法は、フィルタ区域419での横方向寸法よりも大きい。伸長ストラット414は、図示のように間隔が空いており、張り出しを提供する領域417では、血管フィルタ410の縦軸線からある一定角度で延びている。フィルタの中間部分(張り出し領域417及びフィルタ区域419間の移行部)で始まるフィルタ領域419においては、ストラット414は、縦軸線に向けて内方に湾曲し又は曲がり(領域423)、その後、管状部分418に対してある一定角度で内方に延び、それによって縦軸線とある一定角度を形成する。
【0173】
張り出し又は取付(固定)領域417において、各ストラット414は、2つの結合ストラット部分414a及び414bに分割される。各分割されたストラット414のストラット部分414a及び414bは、反対の方向へ延び、ストラット部分414a及び414bがそれぞれ隣接するストラットの対応するストラット部分414a又は414bへ向って延びる湾曲領域425を含む。1つのストラット上の結合ストラット部分414a及び別のストラットの部分414bは、フィルタの端部429で収束し、実質的にV字形領域を形成する。
なお、本発明の鉄系合金にて構成された血管フィルタは、血管に挿入・抜去可能なようにシャフトを有し、拡張した状態と収縮した状態を操作可能な血栓捕捉器具の構成要素の一部とすることも可能である。
【0174】
本発明の鉄系合金にて構成された血管フィルタは、X線造影性に優れるので留置位置が把握しやすいと共に、種々の血管径に対応でき、かつ、縮めた状態のときは極めて細い外径となり得るので、所望の血管に挿入しやすい。
【0175】
図17は、本発明の鉄系合金にて構成された歯科矯正ワイヤの一例を示す斜視図である。図17に示す歯科矯正用ワイヤ520は平面図において概してU字型の湾曲部522を有する。歯科矯正用ワイヤ520は横断面において概して正方形の形態を有するが、円形でもよい。ヤング率や0.2%耐力が従来のTi-Ni合金よりも大きいので、小さい断面積で同じ矯正力が得られ、ブラケットの小型化と相まって、装着時の不快感が減少する。また、上述の鉄系合金にて構成されて大きい超弾性域を備えているので、ワイヤの調整回数が低減できる。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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