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明細書 :分子応答性ゲル微粒子およびその製造方法ならびにその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4925373号 (P4925373)
登録日 平成24年2月17日(2012.2.17)
発行日 平成24年4月25日(2012.4.25)
発明の名称または考案の名称 分子応答性ゲル微粒子およびその製造方法ならびにその利用
国際特許分類 C08F 290/10        (2006.01)
B01J  20/26        (2006.01)
FI C08F 290/10
B01J 20/26 G
請求項の数または発明の数 19
全頁数 21
出願番号 特願2009-514088 (P2009-514088)
出願日 平成20年4月25日(2008.4.25)
国際出願番号 PCT/JP2008/058117
国際公開番号 WO2008/139902
国際公開日 平成20年11月20日(2008.11.20)
優先権出願番号 2007122459
優先日 平成19年5月7日(2007.5.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年11月11日(2010.11.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
発明者または考案者 【氏名】宮田 隆志
【氏名】浦上 忠
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】福井 美穂
参考文献・文献 特表2003-514650(JP,A)
国際公開第2006/118077(WO,A1)
調査した分野 C08F 290
B01J 20
特許請求の範囲 【請求項1】
標的分子に応答して体積変化する分子応答性ゲル微粒子であって、
1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと、2個以上の重合性C=C二重結合、および、以下の一般式(1)
-(RO)- ・・・(1)
(一般式(1)中、Rはエチレン、プロピレン、またはテトラメチレンであって、ROの繰り返し単位ごとに同じであっても異なっていてもよく、nは3~13の整数を表す)
で表されるアルキレングリコール鎖を含む架橋性モノマーと、を乳化重合させて得られる高分子ゲル微粒子に、包接化合物を形成する複数のホスト分子が化学結合を介して固定されてなり、
前記ホスト分子は、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーンおよびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であることを特徴とする分子応答性ゲル微粒子。
【請求項2】
前記ホスト分子は、当該ホスト分子に導入した反応性官能基が、乳化重合によって、高分子ゲル微粒子を形成する高分子化合物に取り込まれることにより高分子ゲル微粒子に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項3】
前記ホスト分子は、当該ホスト分子に導入した反応性官能基が高分子ゲル微粒子を形成する高分子化合物と反応することにより前記高分子ゲル微粒子に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項4】
2以上の上記ホスト分子が、標的分子の分子内の異なる原子団を包接することにより、当該2以上のホスト分子と標的分子とによって、分子応答性ゲル微粒子内に架橋が形成されるようになっていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項5】
上記ホスト分子に包接される原子団を1分子中に2以上有する標的分子の存在下で、体積変化することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項6】
上記複数のホスト分子として、異なる2種類以上のホスト分子を組合わせることにより、該2種類以上のホスト分子に包接される2種類以上の原子団を一分子中に有する標的分子の存在下で、体積変化することを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項7】
ヒドロゲルであることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項8】
上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと上記架橋性モノマーとの合計量を100mol%としたときに、上記架橋性モノマーを、0.1~50mol%の範囲内となるように用いることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項9】
上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーとして、(メタ)アクリレート系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、酢酸ビニル、又はスチレンが用いられることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項10】
上記架橋性モノマーとして、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート又はポリアルキレングリコールジビニルエーテルが用いられることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項11】
上記ホスト分子は、ホスト分子と全原料モノマーとの合計量に対して0.1~40mol%用いられることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項12】
10nm~50μmの平均粒子径を有することを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子を乾燥して得られる乾燥物。
【請求項14】
シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、カリックスアレーンおよびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類のホスト分子にそれぞれ反応性官能基を導入する反応性官能基導入工程と、
当該工程により得られた反応性官能基導入ホスト分子と、2個以上の重合性C=C二重結合、および、以下の一般式(1)
-(RO)- ・・・(1)
(一般式(1)中、Rはエチレン、プロピレン、またはテトラメチレンであって、ROの繰り返し単位ごとに同じであっても異なっていてもよく、nは3~13の整数を表す)
で表されるアルキレングリコール鎖を含む架橋性モノマーとの存在下で、高分子ゲル微粒子を形成する1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーを乳化重合させて分子応答性ゲル微粒子を得る重合工程とを含むことを特徴とする分子応答性ゲル微粒子の製造方法。
【請求項15】
上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと上記架橋性モノマーとの合計量を100mol%としたときに、上記架橋性モノマーを、0.1~50mol%の範囲内となるように用いることを特徴とする請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
上記ホスト分子は、ホスト分子と全原料モノマーとの合計量に対して0.1~40mol%含まれていることを特徴とする請求項14又は15に記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子と検体とを接触させる工程と、分子応答性ゲル微粒子の体積変化により検体が標的分子を含有するか否かを決定する工程とを含むことを特徴とする標的分子の検出方法。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子を含有する標的分子検出キット。
【請求項19】
請求項1~12のいずれか1項に記載の分子応答性ゲル微粒子を含有する標的物質吸着除去材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、分子応答性ゲル微粒子およびその製造方法ならびにその利用に関し、特に標的分子に応答して体積変化する分子応答性ゲル微粒子およびその製造方法ならびにその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
pHや温度などの外部環境の変化に応答して構造変化する刺激応答性ゲルは、センサー機能、プロセッサー機能、エフェクター機能を同時に併せ持つ次世代型ソフトマテリアルとして注目されている。特に、最近では環境分野や医療分野に関連した特定分子を認識して膨潤・収縮する分子認識能を持った刺激応答性ゲルの合成が試みられるようになってきた。
【0003】
例えば、本発明者らは、これまでに、疾病等に関与するシグナル生体分子や内分泌撹乱物質(環境ホルモン)に応答する刺激応答性ゲル、すなわち、分子応答性ゲルとして、標的分子と結合して形成するゲルの可逆的架橋点を利用する分子応答性ゲルを提案している(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
ところで、近年、粒子、特にナノサイズの微粒子は、センサー材料、分離材料、吸着材料等の新しい材料として精力的に研究されている。中でも、外部環境の変化に応答して構造変化する刺激応答性ゲル微粒子は、その体積に比較して非常に大きな表面積を有することから、環境汚染物質の吸着除去材料のような環境保全材料やドラッグデリバリーシステム用デバイスのような医療材料としての応用が期待され、これまでにpH応答性ゲル微粒子や温度応答性ゲル微粒子が数多く報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献3、4参照)。
【0005】
上記非特許文献3には、主モノマーとして、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(DEAEMA)を用い、分散安定剤と架橋剤との存在下で無乳化剤乳化重合によってpHに応答するゲル微粒子を合成する方法が報告されている。
【0006】
また、上記非特許文献4は、これまでにpHや温度などの刺激に対して粒子サイズを変化させる刺激応答性ゲル微粒子について行われた様々な研究を紹介している最近の総説である。
【0007】
また、上記特許文献1には、pH、温度、光等のような1個以上の環境条件の変化に応答して粒子の透過性が変化する中空粒子が開示されている。

【特許文献1】特表2003-514650号公報(公開日:2003年4月22日)
【非特許文献1】T. Miyata, N. Asami, T. Uragami, Nature, 399, 766-769 (1999)
【非特許文献2】T. Miyata, M. Jige, T. Nakaminami, T. Uragami, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 1190-1193 (2006)
【非特許文献3】H. Hayashi, M. Iijima, K. Kataoka, Y. Nagasaki, Macromolecules, 37, 5389-5396 (2004)
【非特許文献4】S. Nayak, L. A. Lyon, Angew. Chem. Int. Ed, 44, 7686- 7708 (2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特定分子に応答して体積変化するバルク状の刺激応答性ゲルは知られているが、かかる刺激応答性ゲルを環境分野や医療分野に利用するためには、従来のバルク状ではなく微粒子状の刺激応答性ゲルを合成することが望まれている。
【0009】
しかし、従来報告されている刺激応答性ゲル微粒子は、いずれもpHや温度に応答するものであり、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子は、その合成が困難であるために殆ど報告されていないのが現状である。
【0010】
すなわち、高分子ゲル微粒子は一般的には乳化安定剤として低分子量の界面活性剤を用いたいわゆる乳化重合によりモノマーを重合させることにより製造される。しかし分子応答性ゲル微粒子の製造においては、界面活性剤が分子応答性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、乳化剤を用いない合成方法が望まれる。
【0011】
また、かかる乳化安定剤を用いない無乳化剤乳化重合においても、ゲル微粒子はその表面積が大きいことから、非特許文献3のように分散安定剤の役割を示す親水性モノマーを用いる必要があり、それが分子応答性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0012】
さらに、分子応答性ゲル微粒子では、標的分子に応答して起こる粒子サイズの変化が検出できる程度に十分大きいものである必要がある。
【0013】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、上記課題を解決するために、標的分子に応答して体積変化する分子応答性ゲル微粒子であって、架橋構造を有する高分子ゲル微粒子に、包接化合物を形成する複数のホスト分子が固定されてなることを特徴としている。
【0015】
上記構成によれば、2以上の上記ホスト分子が、標的分子内の異なる原子団を包接することにより、当該2以上のホスト分子と当該標的分子とによって、分子応答性ゲル微粒子内に新たな架橋が形成され、分子応答性ゲル微粒子の体積を変化させることができる。
【0016】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子においては、2以上の上記ホスト分子が、標的分子の分子内の異なる原子団を包接することにより、当該2以上のホスト分子と標的分子とによって、分子応答性ゲル微粒子内に架橋が形成されるようになっている。
【0017】
上記構成によれば、一分子内にホスト分子に包接される原子団を2個以上有する標的分子に応答して分子応答性ゲル微粒子の体積を変化させることができる。
【0018】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、上記ホスト分子に包接される原子団を1分子中に2以上有する標的分子の存在下で、体積変化するものであるともいえる。
【0019】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、上記複数のホスト分子として、異なる2種類以上のホスト分子を組合わせることにより、該2種類以上のホスト分子に包接される2種類以上の原子団を一分子中に有する標的分子の存在下で、体積変化する分子応答性ゲル微粒子であってもよい。
【0020】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、ヒドロゲルであることが好ましい。上記構成によれば、水などの親水性媒体中で膨潤し、標的分子を結合して収縮することにより、粒子サイズを変化させることができるという効果を奏する。
【0021】
上記ホスト分子は、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーンおよびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であることが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、一分子内にこれらのホスト分子に包接される原子団を2個以上有する標的分子に応答して分子応答性ゲル微粒子の体積を変化させることができる。
【0023】
上記高分子ゲル微粒子は、1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと親水性の架橋性モノマーとを乳化重合させて得られるものであることが好ましい。上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーは、疎水性のモノマーであることがより好ましい。
【0024】
上記構成によれば、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子を好適に製造することができる。
【0025】
また、上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと親水性の架橋性モノマーとの合計量を100mol%としたときに、架橋性モノマーを、0.1~50mol%の範囲内となるように用いることがより好ましい。
【0026】
上記構成によれば、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子を好適に製造することができる。すなわち、合成の際に沈殿物や凝集物を形成しない分散安定性の良好な高分子ゲル微粒子を製造することができる。
【0027】
上記疎水性のモノマーとして、(メタ)アクリレート系モノマー、ビニルエーテル系モノマー、酢酸ビニル、又はスチレンが用いられることが好ましい。また、(メタ)アクリレート系モノマーとしては、2-(N,N-ジアルキルアミノ)アルキル(メタ)アクリレート又は2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが用いられることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子を好適に製造することができる。
【0029】
上記架橋性モノマーとして、2個以上の重合性C=C二重結合と、以下の一般式(1)
-(RO)n- ・・・(1)
(一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキレン基であって、ROの繰り返し単位ごとに同じであっても異なっていてもよく、nは2~20の整数を表す)で表されるアルキレングリコール鎖とを含む化合物が用いられることがより好ましく、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート又はポリアルキレングリコールジビニルエーテルが用いられることがさらに好ましい。
【0030】
上記構成によれば、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子を好適に製造することができる。また、かかるモノマーは分散安定剤としての機能も有しているため、分散安定剤又は分散安定剤の役割を担う親水性モノマーを別途用いる必要がない。
【0031】
上記ホスト分子は、ホスト分子と全原料モノマーとの合計量に対して0.1~40mol%用いられることが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子を好適に製造することができる。すなわち、合成の際に沈殿物や凝集物を形成しない分散安定性の良好な高分子ゲル微粒子を製造することができる。
【0033】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、10nm~50μmの平均粒子径を有することが好ましい。上記構成により、分子応答性ゲル微粒子のサイズが小さいほど、応答速度が速くなるため、センサー等に好適に用いることができ、環境分野や医療分野における幅広い利用が期待できる。
【0034】
また、本発明には、上記分子応答性ゲル微粒子を乾燥して得られる乾燥物も含まれる。かかる乾燥物は、液体に再分散することにより分子応答性ゲル微粒子として用いることができる。
【0035】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子の製造方法は、上記課題を解決するために、少なくとも1種類のホスト分子にそれぞれ反応性官能基を導入する反応性官能基導入工程と、当該工程により得られた反応性官能基導入ホスト分子と架橋性モノマーとの存在下で、高分子ゲル微粒子を形成するモノマーを乳化重合させて分子応答性ゲル微粒子を得る重合工程とを含むことを特徴としている。
【0036】
上記構成によれば、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子を好適に製造することができる。
【0037】
上記ホスト分子は、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、カリックスアレーンおよびそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種類以上の分子であることが好ましい。
【0038】
また、上記高分子ゲル微粒子を形成するモノマーは1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーであり、且つ、上記架橋性モノマーは親水性の架橋性モノマーであることが好ましい。また、上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーは疎水性のモノマーであることがより好ましい。
【0039】
上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと上記親水性の架橋性モノマーとの合計量を100mol%としたときに、架橋性モノマーを、0.1~50mol%の範囲内となるように用いることがより好ましい。
【0040】
上記ホスト分子は、ホスト分子と全原料モノマーとの合計量に対して0.1~40mol%含まれていることが好ましい。
【0041】
本発明にかかる標的分子の検出方法は、上記分子応答性ゲル微粒子と検体とを接触させる工程と、分子応答性ゲル微粒子の体積変化により検体が標的分子を含有するか否かを決定する工程とを含むことを特徴としている。また、本発明にかかる標的分子検出キットは、上記分子応答性ゲル微粒子を含有することを特徴としている。
【0042】
上記構成によれば、特定の分子に応答した体積変化を検出することにより、簡単に標的分子を検出することができる。
【0043】
また、本発明にかかる標的物質吸着除去材料は上記分子応答性ゲル微粒子を含有することを特徴としている。
【0044】
上記構成によれば、特定の分子を吸着除去することができ、また、その体積変化から、吸着除去の有無を知ることができるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0045】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、以上のように、標的分子に応答して体積変化する分子応答性ゲル微粒子であって、架橋構造を有する高分子ゲル微粒子に、包接化合物を形成する複数のホスト分子が固定されてなるので、2以上の上記ホスト分子が、標的分子内の異なる原子団を包接することにより、当該2以上のホスト分子と当該標的分子とによって、分子応答性ゲル微粒子内に新たな架橋が形成される。それゆえ、分子応答性ゲル微粒子の体積を変化させることができるという効果を奏する。
【0046】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子の製造方法は、以上のように、少なくとも1種類のホスト分子にそれぞれ反応性官能基を導入する反応性官能基導入工程と、当該工程により得られた反応性官能基導入ホスト分子と架橋性モノマーとの存在下で、高分子ゲル微粒子を形成するモノマーを乳化重合させて分子応答性ゲル微粒子を得る重合工程とを含むので、特定の分子を認識して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子を好適に製造することができるという効果を奏する。
【0047】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、実施例において、分子応答性ゲル微粒子を製造するための化学反応式を示す図である。
【図2】図2は、ビスフェノールA(BPA)を溶解した水溶液中での分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径とCD含有率との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、ビスフェノールA(BPA)を溶解した水溶液中での分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径の収縮率とCD含有率との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、分子応答性ゲル微粒子が標的分子に応答して体積変化する様子を模式的に示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
本発明について、以下に(I)分子応答性ゲル微粒子、(II)分子応答性ゲル微粒子の製造方法、(III)分子応答性ゲル微粒子の利用の順に説明する。
【0050】
(I)分子応答性ゲル微粒子
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、標的分子に応答して体積変化する分子応答性ゲル微粒子であって、架橋構造を有する高分子ゲル微粒子に、包接化合物を形成する複数のホスト分子が固定されてなるものである。
【0051】
ここで、高分子ゲル微粒子とは、架橋構造を有する高分子化合物からなる微粒子であって、液体を吸収して膨潤しているものであれば特に限定されるものではない。
【0052】
また、上記高分子ゲル微粒子は架橋構造を有していれば、架橋のタイプは特に限定されるものではないが、上記高分子ゲル微粒子の架橋構造は、安定性の観点から共有結合により化学的に架橋されたものであることがより好ましい。
【0053】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、特定の分子等に応答して、膨潤状態が変化し、体積変化を示し、刺激応答性ゲルの一つである。なお、ここで、刺激応答性ゲルとは、温度、pH、イオン強度、光、電界、特定の分子等に応答して、膨潤状態が変化し、体積変化を示す高分子ゲルのことをいう。
【0054】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、液体を吸収して膨潤した状態で、特定の分子に対する応答性を示す。したがって、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、好ましくは液体を吸収して膨潤しているものである。
【0055】
上記液体としては特に限定されるものではなく、標的分子への応答に好ましくない影響を及ぼさない限りどのような液体であってもよい。かかる液体としては、水;リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液等の水系の緩衝液;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコール;アセトン、2-ブタノン、3-ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、メチルn-プロピルケトン、3-ヘキサノン、メチルn-ブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;酢酸エチルエステル等のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル等の二トリル;プロピレンカーボネート;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の低級飽和炭化水素;キシレン;トルエン;またはこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。中でも、上記液体はホスト分子と標的分子が結合して形成される包接化合物の安定性の観点から水または水系の緩衝液であることがより好ましい。すなわち、本発明の分子応答性ゲル微粒子はヒドロゲルであることがより好ましい。
【0056】
上記高分子ゲル微粒子を平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる上記液体の割合は、高分子ゲル微粒子の架橋密度、高分子や溶媒の種類、温度、pH、イオン強度等によって変化するが、分子応答性ゲル微粒子と分子応答性ゲル微粒子に含まれる上記液体の合計重量に対して、30重量%以上99.9重量%以下であることが好ましく、70重量%以上99重量%以下であることがより好ましい。本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子を平衡に達するまで膨潤させたときに含まれる上記液体の割合が上記範囲であることにより、適度な強度を有するゲルが得られ、標的分子がゲル内に拡散することができる高分子網目構造となるので好ましい。
【0057】
なお、本発明の分子応答性ゲル微粒子は、液体を含有して膨潤しているものであるが、これらを乾燥して得られる乾燥物も液体に再分散することにより再び分子応答性ゲル微粒子として用いることができる。それゆえ、かかる乾燥物も本発明に含まれる。
【0058】
また、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径は、10nm~50μmであることが好ましく、50nm~10μmであることがより好ましく、100nm~1μmであることがさらに好ましい。分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径が10nm以上である場合、その分散状態を目視することができるため好ましい。また、分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径が50μm以下である場合、分子応答性の応答速度が速く、マイクロチップなどのミクロンオーダーでの使用に適しているため好ましい。
【0059】
また、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子の多分散度指数(p.d.)は0.1未満であることが好ましく、0.01未満であることがより好ましい。これにより、粒子サイズが均一であり、応答性挙動について安定した情報が得られ、センサーなどに利用する場合に信頼できる結果が得られるため好ましい。
【0060】
なお、本発明において、分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径とは、後述する実施例に記載する動的光散乱法により検出された微粒子に起因する散乱強度分布からヒストグラム解析法によって求めたものをいう。また、本発明において、分子応答性ゲル微粒子の多分散度指数(p.d.)とは、後述する実施例に記載する動的光散乱法により検出された微粒子に起因する散乱強度から得られる自己相関関数の指数部を二次級数展開し、二次項の係数を一次項の係数の二乗で規格化することによって求められた値をいう。多分散指数が0.1よりも大きい値であれば多分散(複数のピークを持っていたり、単ピークでもブロードであったりすること)を示し,0.1以下であれば、単分散である(シャープなピークを持つ)ことを示す。
【0061】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子においては、上記高分子ゲル微粒子の架橋構造内に包接化合物を形成する複数のホスト分子が固定されている。ここで、ホスト分子とは、当該ホスト分子内に標的分子又は標的分子中の原子団を包接することができる化合物、言い換えれば、標的分子又は標的分子中の原子団を包接して包接化合物を形成する化合物であれば特に限定されるものではない。
【0062】
ここで、包接化合物とは、2種の分子が適当な条件下で組み合わさってできる化合物で、一方の分子(ホスト分子)が、他方の分子(ゲスト分子)を取り囲んだ構造の化合物をいう。なお、ここで、ゲスト分子とは、必ずしも、分子に限定されるものではなく、分子中の原子団をも含む趣旨である。従って、以下、本明細書において、ゲスト分子というときには、ゲスト分子そのものに加えて、ゲスト分子の分子中の原子団をも含めたものを示す。2種の分子のうち、他の分子を取り囲むホスト分子と、取り囲まれるゲスト分子との間には分子間相互作用が働き、ホスト分子が提供する空洞の大きさと、中に入るゲスト分子の大きさが適合するかどうかが生成の重要な要件となる。
【0063】
このようなホスト分子はゲスト分子を選択的に捕捉することができ、ホスト分子がゲスト分子を捕捉して形成された包接化合物では、両分子は比較的弱いイオン結合、ファンデルワールス結合、水素結合等により結合しているため、これらを再び分離することができる。それゆえ、かかるホスト分子が高分子ゲル微粒子に固定された本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、物質の選択的分離、センサー、吸着除去等に繰り返し用いることができる。
【0064】
本発明において、ホスト分子がゲスト分子を取り囲む構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、取り囲み型、筒型、層状、カゴ状、詰め込み型等どのようなものであってもよい。
【0065】
また、上記ホスト分子としても、上述したような包接化合物を形成するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、シクロデキストリン、クラウン化合物、シクロファン、アザシクロファン、カリックスアレーンおよびそれらの誘導体等を挙げることができる。これらは、環構造を有し、環構造の内孔の大きさ、体積、形状によって特定の分子を認識し包接することができる。
【0066】
シクロデキストリンとしては、より具体的には、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン;これらのOH基を部分的に、アルコキシ基としたアルキル化体、-OCHCH(OH)CH等とするヒドロキシアルキル化体、-O-グルコース等とするグルコシル化体、-OCHCOOH等とするカルボキシメチル化体、-O(CHSONa等とするスルフォブチルエーテル化体等のシクロデキストリン誘導体等を用いることができる。
【0067】
本発明では、上記ホスト分子が、上記高分子ゲル微粒子の架橋構造内に固定されている。これにより、上記ホスト分子に包接される原子団を1分子中に2以上有する標的分子の存在下で、2以上の上記ホスト分子が、標的分子内の異なる原子団を包接することにより、当該2以上のホスト分子と当該標的分子とによって、分子応答性ゲル微粒子内に新たな架橋が形成される。
【0068】
例えば、図4上段の左側に示す円内に、高分子ゲル微粒子の架橋構造内に円錐台形で示されるホスト分子が固定されている様子を模式的に示す。かかる本発明の分子応答性ゲル微粒子と、ホスト分子に包接される原子団(図4では芳香環)を2個以上有する標的分子(図4上段ではビスフェノールA(BPA))とを接触させると、2以上のホスト分子がかかる標的分子の2つの原子団をそれぞれ包接して、図4上段の右側の円内に模式的に示すように、ホスト分子-標的分子-ホスト分子の複合体からなる架橋構造が形成される。なお、図4において黒丸は架橋点を示している。一般に高分子ゲルの膨潤率は架橋密度が減少すると増加することが知られているように、架橋点が増加する結果、分子応答性ゲル微粒子は収縮する。
【0069】
これに対して、上記ホスト分子に包接される単一の原子団を1分子中に含む分子の存在下では、本発明の分子応答性ゲル微粒子は、図4下段に示すように、かかる原子団を包接して結合は形成するが、架橋構造は形成されない。そのため、分子応答性ゲル微粒子は体積変化しない。
【0070】
従来報告されている刺激応答性ゲル微粒子はいずれも、微粒子を構成している高分子化合物と溶媒との親和性の変化や、解離基の変化などに基づいて刺激応答性を発現していた。しかしかかる従来の機構では分子認識能を付与することは困難であった。本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子では、標的分子の存在下で架橋点が増加して体積変化するという、従来の刺激応答性微粒子とは全く異なった機構を利用することにより、分子認識能を付与することが可能となる。
【0071】
また、このように、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、上記ホスト分子に包接される原子団を1分子中に2以上有する標的分子の存在下で架橋点が増加して体積変化するという機構を利用するため、分子応答性ゲル微粒子の構造設計の状態によっては大きく体積変化させることができる可能性を有する。
【0072】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子では、上記ホスト分子を、架橋構造を有する高分子ゲル微粒子に固定する方法は特に限定されるものではないが、例えば、共有結合、イオン結合、配位結合等の化学結合を介して結合されていることが好ましく、共有結合を介して結合されていることがより好ましい。これにより、ホスト分子が、高分子ゲル微粒子の架橋構造内に安定して固定される。より具体的には、ホスト分子に、反応性官能基を導入し、かかる反応性官能基を、高分子ゲル微粒子を形成する高分子化合物と反応させることにより、ホスト分子を好適に架橋構造を有する高分子ゲル微粒子に固定することができる。
【0073】
また、本発明では、上記ホスト分子は、上記高分子ゲル微粒子の架橋構造内に、複数個固定されていればよい。これにより、ホスト分子に包接される原子団を2以上有する標的分子と、ホスト分子とによって、上記高分子ゲル微粒子に架橋構造を形成することが可能となる。
【0074】
ここで、上記ホスト分子は、1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよく、標的分子に応じて適宜選択すればよい。異なる2種類以上のホスト分子を組み合わせることにより、かかる異なる2種類以上のホスト分子に包接される2種類以上の原子団を一分子中に有する分子に応答する分子応答性ゲル微粒子を製造することができる。
【0075】
本発明の分子応答性ゲル微粒子に用いることができる高分子ゲル微粒子は、架橋構造を有し、水や有機溶媒により膨潤する高分子化合物であれば特に限定されるものではなく、従来刺激応答性ゲル微粒子を合成するために用いられている高分子化合物を好適に用いることができる。かかる高分子ゲル微粒子としては、特許文献1、非特許文献3、4に記載されている高分子ゲル微粒子を用いることができる。
【0076】
さらに、上記従来の高分子ゲル微粒子の他に、上記高分子ゲル微粒子は、1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと親水性の架橋性モノマーとを乳化重合させて得られるものであることがより好ましい。これにより、乳化剤を利用せずに安定なゲル微粒子を合成することができるという効果を奏する。
【0077】
なお、ここで、1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーとしては、特に限定されるものではなく、一般的にラジカル重合反応に用いることができるものであればどのようなものであってもよい。1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーとしては、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、(メタ)アクリロイル基等を有するモノマーを挙げることができる。より具体的には、1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーとしては、例えば、C1~C18アルキル(メタ)アクリレートモノマー;スチレン、アルファ-メチルスチレン、パラ-メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族モノマー;ビニルエーテル系モノマー;酢酸ビニル等のビニルエステル;メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のビニル不飽和カルボン酸モノマー等を挙げることができる。
【0078】
また、上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーは、疎水性のモノマーであることがより好ましい。かかる疎水性のモノマーとしては、具体的には、例えば、2-(N,N-ジアルキルアミノ)アルキル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマー;ビニルエーテル系モノマー;酢酸ビニル;スチレン等を挙げることができる。
【0079】
中でも、上記疎水性のモノマーとしては、2-(N,N-ジアルキルアミノ)アルキル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート系モノマーを用いることが好ましく、2-(N,N-ジアルキルアミノ)アルキル(メタ)アクリレートを用いることがさらに好ましい。
【0080】
また、本発明で用いられる親水性の架橋性モノマーは、2個以上の重合性C=C二重結合を有する親水性のモノマーであれば特に限定されるものではない。なお、ここで親水性モノマーとは、水100gに対して20℃において好ましくは0.01g以上の溶解度を有する架橋性モノマーである。かかる親水性の架橋性モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートメチレンビスアクリルアミド、ポリアルキレングリコールジビニルエーテル等を挙げることができる。2個以上の重合性C=C二重結合を有する親水性の架橋性モノマーを用いることにより分散安定性が良好で、かつ可逆的に膨潤収縮する適度な膨潤率を有するゲル微粒子を合成できるため好ましい。
【0081】
また、親水性の架橋性モノマーとしては、2個以上の重合性C=C二重結合と、ポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を用いることが好ましい。中でも、上記ポリアルキレングリコール鎖は、以下の一般式(1)
-(RO)n- ・・・(1)
(一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキレン基であって、ROの繰り返し単位ごとに同じであっても異なっていてもよく、nは2~20の整数を表す)で表されるアルキレングリコール鎖であることがさらに好ましい。かかるポリアルキレングリコール鎖と、2個以上の重合性C=C二重結合とを含む親水性の架橋性モノマーは、分散安定剤の機能をも有するものであることが見出された。これにより、得られる分子応答性ゲル微粒子の分子認識能に悪影響を及ぼしうる分散安定剤を添加する必要がなく、分子認識能にすぐれた分子応答性ゲル微粒子を得ることができる。かかる架橋性モノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートポリアルキレングリコールジビニルエーテル等を挙げることができる。なお、本発明では、かかる分散安定剤の機能を兼ね備えた架橋性モノマーを用い、分散安定剤を用いないことが好ましいが、もちろん分散安定剤を用いる態様を排除するものではない。
【0082】
中でも、上記親水性の架橋性モノマーは、アルキレングリコール鎖の繰り返し数すなわち上記一般式(1)中のnが2以上、より好ましくは、2、3、4、9、13等であるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートであることが特に好ましく、かかるポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール-テトラメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール-テトラメチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0083】
なお、本明細書において、「アクリル」または「メタアクリル」のいずれをも意味する場合「(メタ)アクリル」と表記する。
【0084】
上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマー及び架橋性モノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、また2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
また、得られる分子応答性ゲル微粒子の分子応答性能に悪影響を与えるものでなければ、さらに他のモノマーを組み合わせてもよい。
【0086】
また、1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと親水性の架橋性モノマーとの合計量を100mol%としたときに、架橋性モノマーを、0.1~50mol%の範囲内となるように用いることが好ましく、1~50mol%の範囲内となるように用いることがより好ましく、10~30mol%の範囲内となるように用いることがさらに好ましい。架橋性モノマーを、0.1mol%以上用いることにより、分散安定剤としての効果によって粒子の分散安定性が向上するため好ましい。架橋性のモノマーを、50mol%以下用いることにより、適度な架橋密度を有するゲル微粒子を合成することができ、分子応答性を示す際に大きな粒子サイズ変化を引き起こすことができるため好ましい。
【0087】
また、上記ホスト分子は、ホスト分子と全原料モノマーとの合計量に対して0.1~40mol%用いられることが好ましく、1~40mol%用いられることがより好ましく、5~20mol%用いられることがさらに好ましい。上記ホスト分子が0.1mol%以上含まれていることにより、標的分子を包接してより多くの架橋構造が形成され、大きな分子応答性を示すことができるため好ましい。また、上記ホスト分子が40mol%以下含まれていることにより、適度な安定性を有するゲル微粒子を合成しやすいという特徴を持っているため好ましい。なお、ここで、全原料モノマーとは、上記1つの重合性C=C二重結合を有するモノマーと親水性の架橋性モノマーとのみを用いる場合にはこれらの合計、さらに他のモノマーを用いる場合には他のモノマーも加えた全原料モノマーをいう。
【0088】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、膨潤している状態で、ホスト分子に包接される2以上の原子団を有する標的分子を認識することができる。また、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、ホスト分子に包接される2以上の原子団を有する標的分子に応答して体積変化を起こす。本発明の分子応答性ゲル微粒子において、これらの体積変化の際に、放出又は吸収される液体は、特に限定されるものではなく、水や水系の緩衝液であってもよいし有機溶媒であってもよい。かかる液体としては、上述した、分子応答性ゲル微粒子が吸収して膨潤する液体であればよく、具体的には、例えば、水;リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液等の水系の緩衝液;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール等のアルコール;アセトン、2-ブタノン、3-ペンタノン、メチルイソプロピルケトン、メチルn-プロピルケトン、3-ヘキサノン、メチルn-ブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル;酢酸エチルエステル等のエステル;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド;アセトニトリル等の二トリル;プロピレンカーボネート;ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の低級飽和炭化水素;キシレン;トルエン;またはこれらの2種以上の混合物等を挙げることができる。中でも、上記液体はホスト分子と標的分子が結合して形成される包接化合物の安定性の観点から水または水系の緩衝液であることがより好ましい。
【0089】
また、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、平衡に達するまで膨潤している状態で、ホスト分子に包接される2以上の原子団を有する標的分子をより良好に認識することができる。
【0090】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子が標的分子に応答して体積変化を起こすときの、体積変化量は特に限定されるものではないが、体積変化の前後における粒子径比、すなわち、体積変化後の平均粒子径を、体積変化前の平均粒子径で除した値が、0.8以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましい。上記粒子径比が小さいほど大きく収縮し、感度が向上するため好ましい。また、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子において、上記粒子径比は、架橋構造内に導入されている架橋の量、高分子化合物や溶媒の種類、高分子鎖にある解離基の状態等により異なるが、通常0.5程度である。
【0091】
また、本発明の分子応答性ゲル微粒子は、さらに、シリカ粒子等の微粒子、色材、蛍光発色団を有する分子等で標識化した分子応答性ゲル微粒子であってもよい。かかる分子応答性ゲル微粒子を用いることにより、分子応答性ゲル微粒子の体積変化を、分光器、蛍光顕微鏡等を用いて、または目視によって簡便に検出することができる。
【0092】
(II)分子応答性ゲル微粒子の製造方法
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、上記ホスト分子を、高分子ゲル微粒子の架橋構造内に固定できる方法であればいかなる方法であってもよい。
【0093】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子の製造方法としては、例えば、少なくとも1種類のホスト分子にそれぞれ反応性官能基を導入する反応性官能基導入工程と、当該工程により得られた反応性官能基導入ホスト分子と架橋性モノマーとの存在下で、高分子ゲル微粒子を形成するモノマーを乳化重合させて分子応答性ゲル微粒子を得る重合工程とを含む製造方法を挙げることができる。
【0094】
上記ホスト分子については上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。上記反応性官能基導入工程で用いる反応性官能基としては、高分子ゲル微粒子の架橋構造を形成する高分子化合物に乳化重合によって取り込まれる官能基であれば、特に限定されるものではなく、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等の重合性官能基を挙げることができる。また、上記反応性官能基を導入する方法も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。
【0095】
上記重合工程では、反応性官能基導入ホスト分子と架橋性モノマーとの存在下で、高分子ゲル微粒子を形成するモノマーを重合させて分子応答性ゲル微粒子を得る。
【0096】
ここで、重合方法としては、特に限定されるものではないが、乳化重合を好適に用いることができる。これにより、微粒子の形で分子応答性ゲルを得ることができる。また、重合に用いられる溶媒としては、例えば、水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液、メタノール、エタノール等を好適に用いることができる。
【0097】
より好ましくは、乳化剤としての界面活性剤を用いない、無乳化剤乳化重合を用いる。無乳化剤乳化重合では、溶媒としては水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液等を用いることが好ましい。
【0098】
また、乳化重合又は無乳化剤乳化重合においては、重合前に、高分子ゲル微粒子を形成するモノマー、反応性官能基導入ホスト分子、及び、架橋性モノマーを含む反応液を、超音波等により前もって攪拌してもよい。
【0099】
本発明の分子応答性ゲル微粒子の製造に用いられるモノマーについては、上記(I)で説明したとおりであるのでここでは説明を省略する。
【0100】
また、重合開始剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;t-ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシド類、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等を好適に使用することができる。これらの重合開始剤の中でも、特に、過硫酸塩やパーオキシド類等のような酸化性を示す開始剤は、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン等とのレドックス開始剤としても用いることができる。
【0101】
また、重合温度は特に限定されるものではないが、好ましくは5~90℃、より好ましくは20~40℃である。重合温度がかかる範囲であることにより、重合時に加温する必要がなく,温度によって変性する分子を利用することもできるため好ましい。また、重合時間も、特に限定されるものではないが、通常4~12時間である。
【0102】
重合の際の、モノマー、架橋剤等の濃度は、高分子ゲル微粒子が得られる濃度であれば特に限定されるものではない。また、上記重合開始剤の濃度も特に限定されるものではなく適宜選択すればよい。
【0103】
さらに、重合工程では、上記ホスト分子を、上記高分子ゲル微粒子を形成するモノマーおよび上記架橋性モノマーに加えて、さらに他のモノマーと共重合させてもよい。かかる他のモノマーとしては、得られる分子応答性ゲル微粒子の性能に悪影響を与えるものでなければ特に限定されるものではない。
【0104】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子の製造方法は、さらに、上記重合工程で得られた反応混合物から、未反応モノマー、未反応架橋性モノマー等を除去する工程を含んでいることがより好ましい。なお、未反応モノマー、架橋剤等を除去する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、透析法や遠心分離法等を挙げることができる。なお、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、ヒドロゲルまたはオルガノゲルであることが好ましいが、乾燥状態としたものであってもよい。乾燥状態とした本発明の分子応答性ゲル微粒子は、例えば、洗浄後の分子応答性ゲル微粒子から溶媒を除去し、凍結乾燥することにより得ることができる。
【0105】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子の製造方法としては、上述したような方法を好適に用いることができるが、さらに、例えば、先にモノマーを重合して高分子ゲル微粒子を合成した後、2以上のホスト分子を高分子ゲル微粒子の架橋構造内に結合させる方法等であってもよい。
【0106】
(III)分子応答性ゲル微粒子の利用
(III-1)分子応答性ゲル微粒子を用いた標的分子の検出方法
本発明では、上記ホスト分子が、上記高分子ゲル微粒子の架橋構造内に固定されている。これにより、上記ホスト分子に包接される原子団を1分子中に2以上有する標的分子の存在下で、2以上の上記ホスト分子が、標的分子内の異なる原子団を包接することにより、当該2以上のホスト分子と当該標的分子とによって、分子応答性ゲル微粒子内に新たな架橋が形成され、分子応答性ゲル微粒子が収縮する。それゆえ、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、標的分子の検出に利用することができる。したがって、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子を用いた標的分子の検出方法も本発明に含まれる。なお、本明細書において、標的分子とは、本発明の分子応答性ゲル微粒子に固定されているホスト分子に包接される原子団を2以上有する分子であって、本発明の分子応答性ゲル微粒子が応答して体積変化を起こす分子をいう。
【0107】
本発明にかかる標的分子の検出方法は、本発明の分子応答性ゲル微粒子と検体とを接触させる工程と、分子応答性ゲル微粒子の体積変化により検体が標的分子を含有するか否かを決定する工程とを含んでいればよい。
【0108】
上記検体に含まれる標的分子は、分子内に本発明の分子応答性ゲル微粒子に固定されたホスト分子に包接されて、包接化合物を形成する原子団を2以上含む分子である。ホスト分子と標的分子との好ましい組合せとしては、シクロデキストリン-芳香環を2以上有する化合物、クラウンエーテル-アミノ基を2以上有する化合物、シクロファン-芳香環を2以上有する化合物等を挙げることができる。従って、本発明にかかる検出方法により、例えば、芳香環を2個有するビスフェノールA、ビフェニル化合物、フェノール誘導体等の内分泌撹乱物質、ダイオキシンなどの有害物質等を好適に検出することができる。
【0109】
上記検体は、本発明の分子応答性ゲル微粒子を用いた標的分子の検出が可能であれば、標的分子の水や緩衝液等の溶液に限定されるものではない。
【0110】
また、検体と接触させる分子応答性ゲル微粒子は、例えば、分子応答性ゲル微粒子を分散媒に分散した分散液の形で好適に用いることができる。ここで、分散媒としては、例えば、水、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、酢酸緩衝液、メタノール、エタノール等を用いることができる。また、検体と接触させる分散液中の分子応答性ゲル微粒子の量は、特に限定されるものではないが、0.01~10g/Lであることが好ましく、0.01~0.1g/Lであることがより好ましい。分散体中の分子応答性ゲル微粒子の量が上記範囲であることにより、分散状態を目視できるという利点と共に合成コストを下げることができるため好ましい。
【0111】
また、分子応答性ゲル微粒子の体積変化により検体が標的分子を含有するか否かを決定する方法としては、従来公知の刺激応答性ゲルの体積変化を検出する方法を用いればよく、特に限定されるものではない。かかる方法としては、例えば、液体中の分子応答性ゲル微粒子の粒子径を動的散乱法等を用いて測定する方法、体積変化を顕微鏡で観察する方法、分子応答性ゲル微粒子内にシリカ粒子等の微粒子を配列しこれによって生じた構造色の波長や強度の変化を測定する方法、分子応答性ゲル微粒子内に色材を分散し光の透過率を測定する方法、分子応答性ゲル微粒子内に蛍光発色団を有する分子等を導入し蛍光強度を測定する方法等を挙げることができる。
【0112】
(III-2)標的分子検出キット
分子応答性ゲル微粒子の利用に関する本発明には、上述した標的分子の検出方法だけでなく、該検出方法を実施するための標的分子検出キットが含まれる。本発明の標的分子検出キットは、具体的には、少なくとも本発明の分子応答性ゲル微粒子を含む構成であればよい。また、上記検出キットには、さらに、各種バッファー、希釈液等が含まれていてもよい。
【0113】
上記標的分子検出キットを用いることで、本発明にかかる標的分子の検出方法を容易かつ簡素に実施することができ、本発明を環境検査産業、臨床検査産業、医薬品産業等の産業レベルで利用することが可能となる。
【0114】
(III-3)標的物質吸着除去材料
本発明では、上記ホスト分子が、上記高分子ゲル微粒子の架橋構造内に固定されている。これにより、上記ホスト分子に包接される原子団を1分子中に2以上有する標的分子の存在下で、2以上の上記ホスト分子が、標的分子内の異なる原子団を包接することにより、当該2以上のホスト分子と当該標的分子とによって、分子応答性ゲル微粒子内に新たな架橋が形成され、分子応答性ゲル微粒子が収縮する。それゆえ、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、標的分子の吸着除去材料として利用することができる。したがって、本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子を用いた標的物質除去材料も本発明に含まれる。
【0115】
本発明にかかる標的物質吸着除去材料では、標的分子を吸着除去できるだけでなく、標的物質が吸着除去されると、標的物質吸着除去材料の体積が変化する。従って、標的分子が吸着除去されたことが同時に確認できる。
【実施例】
【0116】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0117】
〔実施例1:分子応答性ゲル微粒子の製造〕
ホスト分子として、芳香環などを認識するシクロデキストリン(CD)に重合性官能基を導入し、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)を親水性架橋剤と粒子の安定剤として用い、重合性官能基導入CDと2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(DEAEMA)とを無乳化剤乳化重合で共重合させることによって、CDを導入したゲル微粒子を合成した。さらに、CD含有率の異なるゲル微粒子を合成し、その応答挙動について詳細に検討した。
【0118】
<アクリロイル基導入ホスト分子の合成>
まず、図1(a)に示す手順でアクリロイル-β-シクロデキストリン(Acryloyl-CD)を合成した。β-シクロデキストリン(図1(a)中、CDと表示、和光純薬製、11.5g)及び無水トルエンスルホン酸(TsO、4.9g)を水(250mL)に加え、室温で2時間攪拌して懸濁液とし、0.1g/mLの水酸化ナトリウム水溶液(50mL)を加え10分間激しく攪拌した。その後、未反応のTsOを素早くろ過し、ろ液を濃塩酸で中和した後、冷蔵庫で一晩静置することによってトシル化CD(TsO-CD)を析出させた。次にTsO-CD(4.7g)とアジ化ナトリウム(3.0g)とを80℃の水(50mL)に加え、80℃で5時間攪拌することによって反応させた。この反応溶液を室温に冷却し、アセトン(300mL)に加えてN-CDを沈殿させ吸引ろ過した後に減圧乾燥した。得られたN-CD(3.0g)とトリフェニルホスフィン(1.5g)とをN,N-ジメチルホルムアミド(50mL)に溶解させ、さらに25%アンモニア水溶液(10mL)を加え、室温で4時間攪拌した。これをアセトン(300mL)に加えNH-CDを沈殿させ、吸引ろ過した後、減圧乾燥することによって6-アミノ-6-デオキシ-シクロデキストリン(NH-CD)を得た。次に、NH-CD(3.4g)をpH11の炭酸緩衝液(50mL)に加え、塩化アクリロイル(2.7g)を滴下し、氷浴中で2時間攪拌することによって反応を進行させた。これをアセトン(300mL)に加えて生成物を沈殿させ、吸引ろ過した後に減圧乾燥することによってアクリロイル-6-アミノ-6-デオキシ-シクロデキストリン(Acryloyl-CD)を合成した。
【0119】
<分子応答性ゲル微粒子の製造>
図1(b)に示すように、合成したAcryloyl-CDと、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(DEAEMA)と、EOの繰り返し単位が4のポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)と、蒸留水とを下表1の組成でサンプル管に入れ、超音波で30分間攪拌した。その後サンプル管から5mLを取り出し試験管に移して攪拌子500rpmで攪拌させ、レドックス開始剤として過硫酸アンモニウム/テトラメチルエチレンジアミン(APS/TEMED)を加え50℃で8時間反応させることにより分子応答性ゲル微粒子を合成した。表1は、分子応答性ゲル微粒子を合成するためのモノマー組成と得られた微粒子の粒子径および多分散度指数を示すものである。
【0120】
【表1】
JP0004925373B2_000002t.gif

【0121】
得られた分子応答性ゲル微粒子の分散液は安定で乳白色を呈した。分子応答性ゲル微粒子の粒子径を動的光散乱法によって以下の方法で決定した。
【0122】
分子応答性ゲル微粒子の固形分濃度が0.001%になるように、分散液をイオン交換水で希釈した後、超音波洗浄機にて30分間分散させて、光散乱測定器(大塚電子製、DLS-7000K、液温25℃、12φ円筒セル使用)を用いて散乱強度を測定した。平均粒子径は、検出された微粒子に起因する散乱強度分布からヒストグラム解析法によって求めた。また、多分散度指数(p.d.)は同様に、散乱強度から得られる自己相関関数の指数部を二次級数展開し、二次項の係数を一次項の係数の二乗で規格化することによって求めた。多分散指数が0.1よりも大きい値であれば多分散(複数のピークを持っていたり、単ピークでもブロードであったりすること)を示し、0.1以下であれば、単分散である(シャープなピークを持つ)ことを示す。
【0123】
その結果、上記方法で分子応答性ゲル微粒子を合成した場合、いずれも数百nm程度の分子応答性ゲル微粒子が生成していることが明らかとなった(表1参照)。さらに、CD含有率の増加に伴って分子応答性ゲル微粒子の粒径も増加する傾向を示した。これは、DEAEMAよりも親水性度の高いアクリロイル化CDの含有率が増加することによって、ゲルが膨潤してその粒径が増加したためと考えられる。また、表1に示すように、いずれのゲル微粒子の多分散度指数(p.d.)も0.1未満であることから、粒径分布は狭く、比較的均一なゲル微粒子が合成できていると考えられる。なお、本実施例において、CD含有率(単位:モル%)とは、モノマー(Acryloyl-CD、2-(N,N-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(DEAEMA)及びポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA))全量に対して、用いたAcryloyl-CDの量の割合をいう。
【0124】
〔実施例2:分子応答性ゲル微粒子の膨潤挙動の測定〕
得られた分子応答性ゲル微粒子を含有する反応液をガラス管から取り出し、透析することにより、未反応モノマー等を除去した。
【0125】
次に、ビスフェノールA(BPA)を溶解した水溶液中での分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径とCD含有率との関係を調べた。
【0126】
図2にその結果を示す。図2中、縦軸は分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径(単位:nm)を、横軸はCD含有率(単位:モル%)を示す。図2中、黒丸はビスフェノールA(BPA)を溶解した水溶液中での測定結果を示す。
【0127】
また、図3に、ビスフェノールA(BPA)を溶解した水溶液中での分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径の収縮率とCD含有率との関係を示す。図3中、縦軸は分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径の収縮率(d/d)を、横軸はCD含有率(単位:モル%)を示す。ここで、dは水中での分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径(nm)、dはビスフェノールA(BPA)又は後述する比較例1で2-フェニルエチルアセテート(PEA)を溶解した水溶液中での分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径(nm)である。図3中、黒丸はビスフェノールA(BPA)を溶解した水溶液中での測定結果を示す。
【0128】
図2及び図3に示される、本実施例と後述する比較例1との結果から、CDを含有していない分子応答性ゲル微粒子の粒径は水中とBPA水溶液中でほとんど変化しなかったが、CDを導入した分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径は水中に比較してBPA水溶液中で減少したことが判る。
【0129】
これは、CDを導入した分子応答性ゲル微粒子を構成している高分子鎖中のCDがBPAの2つの芳香環を認識してCD-BPA-CD複合体からなる架橋構造が形成され、膨潤層が収縮したためであると考えられる(図4上段参照)。
【0130】
これに対して、PEA水溶液中ではCDを導入した分子応答性ゲル微粒子の粒子径は水中とほとんど変化がなかった。PEAはCDを導入した分子応答性ゲル微粒子中のCDに認識されてCD-PEA複合体を形成するが、PEAは芳香環を1つしかもたないために架橋構造が形成されず、その結果として収縮しなかったと考えられる(図4下段参照)。
【0131】
以上の結果から、CDを導入した分子応答性ゲル微粒子はBPAとPEAとを区別してBPAのみを特異的に認識して粒子サイズを減少させる分子応答性ゲル微粒子であることが明らかとなった。
【0132】
〔比較例1:分子応答性ゲル微粒子の膨潤率測定〕
次に、2-フェニルエチルアセテート(PEA)を溶解した水溶液中及び水中での分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径とCD含有率との関係を調べた。
【0133】
図2にその結果を示す。図2中、白丸は、水中における測定結果を、黒四角は2-フェニルエチルアセテート(PEA)を溶解した水溶液中での測定結果を示す。
【0134】
また、図3に、2-フェニルエチルアセテート(PEA)を溶解した水溶液中での分子応答性ゲル微粒子の平均粒子径の収縮率とCD含有率との関係を示す。図3中、黒四角は2-フェニルエチルアセテート(PEA)を溶解した水溶液中での測定結果を示す。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明にかかる分子応答性ゲル微粒子は、以上のように、包接化合物を形成する複数のホスト分子が、高分子ゲル微粒子の架橋構造内に固定されており、2以上の上記ホスト分子が、標的分子内の異なる原子団を包接することにより、当該2以上のホスト分子と当該標的分子とによって、分子応答性ゲル微粒子内に新たな架橋が形成され、分子応答性ゲル微粒子の体積を変化させることができる。それゆえ、このような特定の分子に応答する分子応答性ゲル微粒子は、センサー素子、吸着材料等として環境分野への幅広い利用が考えられる。さらに、疾病等に関連するシグナルとなる生体分子に応答して粒子サイズを変化させる分子応答性ゲル微粒子の合成も可能となりDDSや診断センサー等の医療材料として用いることができる。それゆえ、本発明は、環境検査産業、臨床検査産業、医薬品産業、工業薬品製造業等の各種化学工業、さらには医療産業等に利用可能であり、しかも非常に有用であると考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
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