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明細書 :生体刺激装置、遺伝子制御装置および筋肉関連疾患治療装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5164080号 (P5164080)
登録日 平成24年12月28日(2012.12.28)
発行日 平成25年3月13日(2013.3.13)
発明の名称または考案の名称 生体刺激装置、遺伝子制御装置および筋肉関連疾患治療装置
国際特許分類 A61H  39/00        (2006.01)
A61N   5/067       (2006.01)
FI A61H 39/00 G
A61N 5/06 E
A61H 39/00 P
請求項の数または発明の数 20
全頁数 15
出願番号 特願2009-533051 (P2009-533051)
出願日 平成20年9月18日(2008.9.18)
国際出願番号 PCT/JP2008/002577
国際公開番号 WO2009/037841
国際公開日 平成21年3月26日(2009.3.26)
優先権出願番号 2007242851
優先日 平成19年9月19日(2007.9.19)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年2月9日(2011.2.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
発明者または考案者 【氏名】細川 陽一郎
【氏名】増原 宏
【氏名】岡野 和宣
【氏名】高岡 裕
【氏名】大田 美香
【氏名】伊藤 彰彦
個別代理人の代理人 【識別番号】110000556、【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
審査官 【審査官】土田 嘉一
参考文献・文献 特開平02-031768(JP,A)
特表2007-520285(JP,A)
特表2004-514133(JP,A)
特表2008-529746(JP,A)
特公昭63-057062(JP,B2)
特開平03-292959(JP,A)
特開昭62-019183(JP,A)
特開平01-151458(JP,A)
特開昭62-014868(JP,A)
調査した分野 A61H 39/00
A61N 5/067
特許請求の範囲 【請求項1】
超短パルスレーザー光を発振するレーザー発振器と、前記超短パルスレーザー光を集光する光学系とを備え、
前記超短パルスレーザー光を前記光学系により生体の標的部位に集光して照射することによりツボを刺激する生体刺激装置であって、
前記標的部位は前記ツボまたはその周辺であり、前記ツボは、前記超短パルスレーザー光の照射により生じる物理的衝撃で刺激され、
前記超短パルスレーザー光のパルスの時間幅が1.0×10-10sec~1.0×10-15secであり、前記超短パルスレーザー光の光密度が5×10W~1×1018Wである、生体刺激装置。
【請求項2】
前記超短パルスレーザー光の照射により生体組織の連続性が断絶されない、請求項1に記載の生体刺激装置。
【請求項3】
前記超短パルスレーザー光を、生体の標的部位において、生体の表面下の組織に集光する、請求項1に記載の生体刺激装置。
【請求項4】
前記超短パルスレーザー光を、生体の標的部位において、生体の表面から100μm~1cmの深度に集光する、請求項に記載の生体刺激装置。
【請求項5】
前記超短パルスレーザー光の波長が600~1200nmである、請求項1に記載の生体刺激装置。
【請求項6】
前記標的部位が皮膚組織または筋肉組織にある、請求項1に記載の生体刺激装置。
【請求項7】
さらに、ツボを探索するツボ探索手段と、前記ツボ探索手段からの情報に基づいて前記標的部位を決定する制御手段とを備える、請求項1に記載の生体刺激装置。
【請求項8】
前記ツボを刺激することにより血流の改善を促進する、請求項1に記載の生体刺激装置。
【請求項9】
超短パルスレーザー光を発振するレーザー発振器と、前記超短パルスレーザー光を集光する光学系とを備え、
前記超短パルスレーザー光を前記光学系により生体の標的部位に集光して照射することにより特定遺伝子の発現量を制御し、前記特定遺伝子の発現量は、前記超短パルスレーザー光の照射により生じる物理的衝撃を利用して制御され、
前記超短パルスレーザー光のパルスの時間幅が1.0×10-10sec~1.0×10-15secであり、前記超短パルスレーザー光の光密度が5×10W~1×1018Wである、遺伝子制御装置。
【請求項10】
前記超短パルスレーザー光の照射により生体組織の連続性が断絶されない、請求項に記載の遺伝子制御装置。
【請求項11】
前記超短パルスレーザー光を、生体の標的部位において、生体の表面下の組織に集光する、請求項に記載の遺伝子制御装置。
【請求項12】
前記超短パルスレーザー光を、生体の標的部位において、生体の表面から100μm~1cmの深度に集光する、請求項11に記載の遺伝子制御装置。
【請求項13】
前記超短パルスレーザー光の波長が600~1200nmである、請求項に記載の遺伝子制御装置。
【請求項14】
前記超短パルスレーザー光を前記光学系により生体の筋肉組織にある標的部位に集光して照射することにより前記筋肉組織のミオスタチン遺伝子の発現量を制御する、請求項に記載の遺伝子制御装置。
【請求項15】
ミオスタチン遺伝子の発現量を制御することにより前記筋肉組織の増強および/または修復を促進する、請求項14に記載の遺伝子制御装置。
【請求項16】
超短パルスレーザー光を発振するレーザー発振器と、前記超短パルスレーザー光を集光する光学系とを備え、
前記超短パルスレーザー光を前記光学系により生体の筋肉組織にある標的部位に集光して照射することにより筋肉関連疾患を治療し、前記筋肉関連疾患は、前記超短パルスレーザー光の照射により生じる物理的衝撃を利用して治療され、
前記超短パルスレーザー光のパルスの時間幅が1.0×10-10sec~1.0×10-15secであり、前記超短パルスレーザー光の光密度が5×10W~1×1018Wである、筋肉関連疾患治療装置。
【請求項17】
前記超短パルスレーザー光の照射により生体組織の連続性が断絶されない、請求項16に記載の筋肉関連疾患治療装置。
【請求項18】
前記超短パルスレーザー光を、生体の標的部位において、生体の表面下の組織に集光する、請求項16に記載の筋肉関連疾患治療装置。
【請求項19】
前記超短パルスレーザー光を、生体の標的部位において、生体の表面から100μm~1cmの深度に集光する、請求項18に記載の筋肉関連疾患治療装置。
【請求項20】
前記超短パルスレーザー光の波長が600~1200nmである、請求項16に記載の筋肉関連疾患治療装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー発振器を有する生体刺激装置、遺伝子制御装置および筋肉関連疾患治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】

近年、東洋医学に注目が集まっている。なかでも伝統医療として最も長い歴史を持つ医療法である鍼灸が注目されており、WHO(世界保健機構)もその有効性を認めている。鍼治療は、伝統医学の蓄積あるいは解剖・生理に基づく科学的アプローチにしたがってごく細い金属製の鍼を体にあるツボ(経穴)に刺して行われ、様々な疾患の治癒や麻酔などに利用されている。さらには、首筋・肩・腰背部・関節のこりや痛み、スポーツ後の痛みなど幅広い分野での治療や予防に利用されている。
【0003】
従来から伝統的に利用されてきた金属製の鍼を用いた鍼治療に代わり、経皮的低周波通電刺激、レーザー鍼等の鍼様治療が行われている。これらの治療法では直接の鍼刺入を行わないため、皮膚、神経、血管などの組織への損傷がなく、通常は無痛刺激で治療が可能である。経皮的低周波通電刺激の場合には、通電のために棘状の三角円錐型の電極をツボに置き絆創膏などで固定し、低周波通電を行う。また、レーザー鍼治療については、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1には、鍼治療用のレーザーユニットが記載されており、半導体レーザーから発振される低出力レーザー光(上限は3mWの平均出力)を治療点に照射し、鍼治療を行うことが記載されている。

【特許文献1】特開平8-229096号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のレーザーユニットによると、低出力レーザー光を治療点に照射することにより照射部位に温熱刺激を与え、灸のような効果が得られるものであると考えられる。他の方法と比較し非常に簡便な方法で治療を行うことができ、また照射位置等の制御も容易であると考えられるが、温熱刺激のみでは、通常の鍼治療と同様の効果を得ることは困難であり、また照射組織に過度の熱的損傷を与える危険性があった。
【0005】
本発明は、生体内に鍼を挿入することなく鍼様刺激を可能とする生体刺激装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】

本発明者らは、高強度フェムト秒レーザー光が各種照射対象に誘起する非線形現象について研究を進め、フェムト秒レーザー光を生体に集光照射することにより、集光点周辺の細胞を壊死させずに生体に有用な刺激を与えることに成功した。これらの知見に基づき、本発明を見出すに至った。
【0007】
すなわち本発明は、超短パルスレーザー光を発振するレーザー発振器と、前記超短パルスレーザー光を集光する光学系とを備え、前記超短パルスレーザー光を前記光学系により生体の標的部位に集光して照射することによりツボを刺激する生体刺激装置であって、前記標的部位は前記ツボまたはその周辺である。前記ツボは、例えば前記超短パルスレーザー光の照射により生じる物理的衝撃で刺激される。前記生体刺激装置において、生体組織の連続性が断絶されないように前記超短パルスレーザー光を照射することが好ましい。前記標的部位は、例えば皮膚組織または筋肉組織にあるように選択することができる。

前記生体刺激装置において、さらに、ツボを探索するツボ探索手段と、前記ツボ探索手段からの情報に基づいて前記標的部位を決定する制御手段とを備える構成としてもよい。前記生体刺激装置は、血流の改善の促進を実行する装置として利用することができる。

また本発明は、超短パルスレーザー光を発振するレーザー発振器と、前記超短パルスレーザー光を集光する光学系とを備え、前記超短パルスレーザー光を前記光学系により生体の標的部位に集光して照射することにより特定遺伝子の発現量を制御する、遺伝子制御装置である。前記特定遺伝子の発現量は、例えば前記超短パルスレーザー光の照射により生じる物理的衝撃を利用して制御される。前記遺伝子制御装置において、生体組織の連続性が断絶されないように前記超短パルスレーザー光を照射することが好ましい。
【0008】
前記遺伝子制御装置は、前記超短パルスレーザー光を前記光学系により生体の筋肉組織にある標的部位に集光して照射することにより前記筋肉組織のミオスタチン遺伝子の発現量を制御する方法を実行する装置として使用することができる。ミオスタチン遺伝子の発現量を制御することにより前記筋肉組織の増強および/または修復を促進することができる。
【0009】
さらに本発明は、超短パルスレーザー光を発振するレーザー発振器と、前記超短パルスレーザー光を集光する光学系とを備え、前記超短パルスレーザー光を前記光学系により生体の筋肉組織にある標的部位に集光して照射することにより筋肉関連疾患を治療する、筋肉関連疾患治療装置である。前記筋肉関連疾患は、例えば前記超短パルスレーザー光の照射により生じる物理的衝撃を利用して治療される。前記筋肉関連疾患治療装置において、前記超短パルスレーザー光の照射により生体組織の連続性が断絶されないように前記超短パルスレーザー光を照射することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の生体刺激装置、遺伝子制御装置、または筋肉関連疾患治療装置は、生体組織に接触することなく、さらに困難性、煩雑性を伴うことなく、生体への鍼様刺激、遺伝子の制御、または筋肉関連疾患の治療が可能である。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態の生体刺激装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】第2の実施形態の生体刺激装置の外観を示す模式図である。
【図3】図2に示す生体刺激装置の概略構成を示す模式図である。
【図4】実施例の実験1における実験装置の構成を示す模式図である。
【図5】実験1における電気泳動後のアガロースゲルの写真を示す図である。
【図6】図5のアガロースゲルにおけるミオスタチン遺伝子に関する各検体のバンドの積分値を内在性コントロールで補正し、対照群の結果を100%として表した図である。
【図7】対照群(a)、検体1(b)、検体3(c)について、ホルマリン固定し撮像した左足側の骨格筋の組織像を示す図である。
【図8】実験2における電気泳動後のアガロースゲルの写真を示す図である。
【図9】図8のアガロースゲルにおけるミオスタチン遺伝子に関する各検体のバンドの積分値を対照群(検体6)の結果を100%として表した図である。
【符号の説明】
【0012】
1 本体
2 電源部
3 制御部
4 レーザー部
5 電源キースイッチ
6 操作パネル
7,15 レーザーガイド
9 光コネクタ
10 フットスイッチ
12 レーザー発振器
16 パルス伸長器
20 照射銃
21 レーザー光出射端部
22 対物レンズ
23 生体刺激装置
24 パルス圧縮器
51 レーザー発振器
52 単レンズ
53 機械式シャッター
54 照射ガイド用レーザー発振器
55 照射対象
60 生体刺激装置
61 レーザー発振器
62 制御装置
63 診療台
64 反射板
65 集光レンズ
66 フットペダル
67 診療台制御装置
67a 操作レバー
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。本発明にかかる生体刺激装置は生体刺激方法を実行する。本発明にかかる生体刺激装置は、超短パルスレーザー光を生体に照射するレーザー発振器を有する。さらに、レーザー発振器からの超短パルスレーザー光を標的部位に集光させる光学系を備える。光学系の位置を制御することにより、照射深度を調整することができ、生体の表面組織や、生体の表面下の組織へのレーザー光の照射を可能とする。超短パルスレーザー光の照射により物理的衝撃が発生し、この物理的衝撃により例えばツボなど、生体の特定部位を刺激することができる。本明細書における、超短パルスレーザー光の照射により生じる物理的衝撃とは、超短パルスレーザー光の集光照射部位で誘起される破壊、衝撃波発生、空泡発生、気泡発生、および対流発生の少なくとも一つにより誘導された応力が、超短パルスレーザー光の集光照射部位周辺に伝搬することにより生じる物理的衝撃をいう。
【0014】
超短パルスレーザーを用いていない従来のレーザー鍼治療は、温熱刺激もしくは光化学的刺激による治療効果を期待するものであり、この刺激は組織表面における一光子吸収に基づいたものであった。しかしながら、本発明で用いる超短パルスレーザー光では、極めて短い時間幅に集中した光子が引き起こす多光子吸収により、生体組織に対して透過性の高い波長領域で、生体内部へのエネルギー注入が可能である。またそのエネルギー注入は、熱発生に必要な時間(1.0×10-9~1.0×10-6(sec))よりも遙かに短い時間でなされるため、標的部位に温熱刺激をほぼ与えることなく、物理的衝撃によって標的部位を刺激することができる。そのため、本発明では超短パルスレーザー光を、生体の表面ではなく、生体の表面下の組織に集光することで、集光点周辺の組織細胞に熱的損傷を与えずに、生体刺激効果、遺伝子制御効果、及び、筋肉関連疾患治療効果等を期待することが可能になる。

本発明にかかる超短パルスレーザー光は、ピコ秒パルスレーザー光およびフェムト秒パルスレーザー光であることが好ましく、フェムト秒パルスレーザー光が特に好ましい。すなわち、超短パルスレーザー光のパルス時間幅は、好ましくは1.0×10-10~1.0×10-15(sec)であって、特に好ましくは1.0×10-12~1.0×10-15(sec)である。超短パルスレーザー光の光密度は、例えば5×10(W)以上であり、好ましくは2×10(W)以上である。超短パルスレーザー光の光密度の上限は特に制限されないが、例えば1×1018(W)以下であり、好ましくは1×1015(W)以下であり、より好ましくは1×1012(W)以下である。
【0015】
超短パルスレーザー光の密度(W)およびパルス時間幅(sec)の積が光強度(J/pulse)となるので、レーザー光の条件は時間幅によって以下の表1のように設定することができる。なお、表1において、レーザー光強度Aは光密度が5×10(W)以上で2×10(W)未満の場合であり、レーザー光強度Bは光密度Bが2×10(W)以上の場合である。
【0016】
【表1】
JP0005164080B2_000002t.gif
超短レーザー光の波長は、特に限定されず200~2000nmの範囲で選択することができるが、好ましくは600~1200nmである。レーザー光の波長が600~1200nmとすることにより、皮膚表面から所望の深度で照射する場合には、標的部位に到達するまでに主要組織による吸収が低く、強度を保ったまま標的部位に照射することができるので、特に好ましい。超短パルスレーザー光の照射は、単発で照射してもよいし、複数発繰り返して照射してもよい。例えば、1発から1000万発の範囲とすることができる。また、複数発繰り返して照射する場合の超短パルスレーザー光の繰り返し周波数は、特に制限されないが、例えば1Hz~100MHzとすることができる。超短パルスレーザー光のパルス時間幅、強度、波長、照射回数、繰り返し周波数は、集光照射部位において局所的な機械的破壊が生じつつ、組織の壊死がないように設定されることが好ましい。また、レーザー光はスキャンされることなく定点で照射されることが好ましい。また、照射対象の生体組織の連続性を断絶することのない条件で照射することが好ましい。すなわち、例えば皮膚組織の切開などを生じさせない条件で照射することが好ましい。
【0017】
レーザー発振器としては、特に限定されることはなく、所望のパルス時間幅、強度のレーザー光を発振可能なレーザー発振器を選択すれば良いが、例えばピコ秒・フェムト秒チタンサファイアレーザー、フェムト秒ファイバーレーザー、ピコ秒Nd3+:YAGレーザー、ピコ秒Nd3+:VYOレーザー、エキシマレーザー等が挙げられる。
【0018】
本発明にかかる生体刺激装置においては、超短パルスレーザー光をヒトまたはヒト以外の動物の身体の標的部位に集光させ照射することによりツボを刺激する。標的部位はツボまたはその周辺とする。超短パルスレーザー光を標的部位に照射することにより標的部位において衝撃波を発生させ、かかる衝撃波の伝搬によりツボが刺激される。なお、ツボの刺激により、血流の改善を促進できることが知られている(Niimi H.Yuwono HS, Asian traditional medicine: from molecular biology to organ circulation. Clin Hemorheol Microcirc 23: 123-125,2000.参照)。したがって、本発明にかかる生体刺激装置は、血流の改善を促進する方法を実行するための装置として用いることができる。本発明にかかる生体刺激装置による刺激対象となるツボは、限定されることはなくあらゆるツボが対象となるが、例えば肩こりに効果があるといわれる肩井(読み:ケンセイ、略語:GB21、略語は1989年10月にジュネーブで開催された鍼灸経穴名標準化国際会議で改訂されたWHO国際標準の略語である。以下においても同様とする。)、天柱(読み:テンチュウ、略語:BL10)、手の三里(読み:テノサンリ、略語:LI10)、下肢の冷えに効果があるといわれる太ケイ(読み:タイケイ、略語:KI3)、三陰交(読み:サンインコウ、略語:SP6)、太衝(読み:タイショウ、略語:LR3)等が挙げられる。
【0019】
本発明にかかる遺伝子発現制御装置は、上述の生体刺激装置と同様の構成である。例えば筋肉細胞活性を制御する遺伝子であるミオスタチン遺伝子の発現を制御する方法を実行するための装置、または筋肉細胞の増殖等、筋肉組織の増強促進方法を実行するための装置として利用することができる。本発明にかかる遺伝子発現制御装置において、ミオスタチン遺伝子の発現を制御する場合、筋肉組織またはその周辺組織に照射することが好ましい。なお、超短パルスレーザー光は生体組織の連続性を断絶することなく照射することが好ましい。すなわち、例えば皮膚組織の切開などを生じさせない条件で照射することが好ましい。
【0020】
本発明にかかる筋肉関連疾患治療装置は、上述の生体刺激装置と同様の構成である。超短パルスレーザー光を筋肉組織またはその周辺組織に照射することにより、筋肉関連の疾患の治療方法、予防方法を実行するための装置として利用することができる。筋肉関連疾患としては、例えば、肩こり、肩関節周囲炎(五十肩)、関節リウマチ、筋・筋膜炎、頸筋硬直、頸肩腕症、むち打症、捻挫、腱鞘炎、腰痛症、骨格筋萎縮等が挙げられる。なお、超短パルスレーザー光は生体組織の連続性を断絶することなく照射することが好ましい。すなわち、例えば皮膚組織の切開などを生じさせない条件で照射することが好ましい。
【0021】
本発明にかかる生体刺激装置、遺伝子制御装置、筋肉関連疾患治療装置において、生体の表面下の組織に超短パルスレーザー光を集光する場合、生体に対するレーザー光の照射深度は限定されないが、生体の表面から100μm~1cmの深度に集光させ照射することが好ましく、1mm~5mmの深度に集光させ照射することがより好ましい。
【0022】
以下、本発明にかかる生体刺激装置の実施形態を説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の生体刺激装置の概略構成を示す模式図である。生体刺激装置60において、レーザー発振器61から発振された超短パルスレーザー光は、反射板64、集光レンズ65を介して診療台63上に集光され照射される。レーザー発振器61には制御装置62が接続され、制御装置62によりレーザー発振器61におけるレーザー光の発振、その強度、パルス時間幅、波長、パルス数、レーザー光の照射対象における集光深度(集光点の深さ方向)等の照射条件が制御される。制御装置62には操作部(不図示)が設けられ、操作者は操作部を操作することにより照射条件を設定することすることができる。制御装置62による前記照射条件の制御は、操作部を介して操作者が行った情報に基づくものであっても、コンピュータ等により自動的になされるものであっても良い。また、制御装置62にはフットペダル66が接続されており、制御装置62はフットペダル66の操作を検知し、レーザー発振器61における発振のオン/オフを制御する。診療台63には、診療台制御装置67が接続されている。診療台制御装置67には操作レバー67aが設けられ、診療台制御装置67は操作レバー67aでの操作に応じて診療台63を3次元的に駆動し、診療台63の2次元平面上の位置及び上下方向の位置を制御する。

以上説明した生体刺激装置60について、その使用方法を説明する。まず、被験者の身体の照射部位を診療台63上に固定する。被験者は、ヒト、またはヒトを除く動物である。被験者の態勢は特に限定されず、例えば診療台63上に寝かせても良いし、座らせても良い。また、被験者の身体の照射部位を含む一部が診療台63上に載置されるようにしても良い。例えば、被験者の腕が診療台63上に載置されるように使用することができる。被験者の身体の診療台63上の載置位置を調整することにより、集光位置(横方向、縦方向)を調整することができる。また、操作者は、操作レバー67aを用いて診療台63の位置を調整し、照射位置を調整することができる。次に、操作者は制御装置62の操作部において照射条件を設定する。そして、フットペダル66を操作し、レーザー光が標的部位に照射されるようにする。

第1の実施形態の生体刺激装置60は、遺伝子制御装置、筋肉関連疾患治療装置としても使用することができる。

(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態の生体刺激装置の外観を示す模式図である。本発明の生体刺激装置23は、本体1と、本体1に光ファイバーからなるレーザーガイド7により接続された照射銃20と、本体1に接続コードにより接続されたフットスイッチ10とからなる。レーザーガイド7は、光コネクタ9を介して本体1に接続されている。また、本体1の表面には、電源キースイッチ5及び操作パネル6が設けられている。

図3は、図2に示す生体刺激装置23の概略構成を示す模式図である。生体刺激装置23の本体1は、内部に電源部2、制御部3、レーザー部4を内蔵している。レーザー部4は、レーザー発振器12と集光レンズ13を内蔵している。レーザー部4には、パルス伸長器16が接続されている。パルス伸長器16には、光ファイバーよりなるレーザーガイド15が接続され本体1の表面に設けられた光コネクタ9に接続されている。パルス伸長器16は、超短パルスレーザー光のパルスの時間幅を伸長させることにより、光ファイバーとの相互作用を抑え効率的にレーザー光を伝送することができるようにする。レーザー発振器12より発振されたレーザー光は集光レンズ13により集光されてパルス伸長器16により伸長された後レーザーガイド15に導かれる。
【0024】
制御部3は、操作パネル6からの信号を検知しレーザー部4を制御し、さらにフットスイッチ10のオン/オフを検知してレーザー発振器12の発振制御をする。さらに、照射銃20内の対物レンズ22の位置を制御する。電源部2は、制御部3、操作パネル6、レーザー発振器12、パルス伸長器16、フットスイッチ10に電源を供給する。

照射銃20は、レーザーガイド7からのレーザー光のパルスの時間幅を圧縮するパルス圧縮器24とレーザー光を集光させる対物レンズ22とを内蔵する。照射銃20の先端はレーザー光出射端部21を構成し、操作者がここを被験者の身体に接触するように保持することにより、レーザー光が被験者の身体の標的部位に集光して照射される。
【0025】
以上説明したように構成された生体刺激装置23について、その使用方法を説明する。操作者は、電源キースイッチ5により電源を投入した後、操作パネル6を操作してレーザー光の強度、パルス時間幅、波長、パルス数、照射深度等を設定する。そして、照射銃20のレーザー光出射端部21が標的部位に最近接した被験者の身体の露出部位に位置するように照射銃20を保持する。制御部3は、設定された照射深度となるように照射銃20内の対物レンズ22の位置を制御する。制御部3は、操作者のフットスイッチ10の操作に応じて、設定された強度、パルス時間幅、波長、パルス数でレーザー光が発振されるようにレーザー部4を制御する。発振されたレーザー光は、集光レンズ13により集光されパルス伸長器16を通ってレーザーガイド15に導光され、光コネクタ9を介してレーザーガイド7に導光されて照射銃20内のパルス圧縮器24および対物レンズ22を介してレーザー光出射端部21より標的部位に供される。

第2の実施形態の生体刺激装置23は、遺伝子制御装置、筋肉関連疾患治療装置としても使用することができる。
【0026】
なお、第1、第2の実施形態の生体刺激装置は、さらツボの位置を探索し決定するツボ探索器を備え、ツボ探索器からの情報に基づいて制御部により照射部位が決定されるような構成であっても良い。ツボ探索器は、例えば、皮膚抵抗を測定しその抵抗値に基づいてツボの位置を決定するような構成とすることができる。または、距離計測器を備え、距離計測器により特定の位置からの距離を測定しその結果を予め制御部に格納されているツボの位置情報と対比することによりツボの位置を決定するような構成であっても良い。

また、第1、第2の実施形態の生体刺激装置と同様の構成の遺伝子制御装置または筋肉関連疾患治療装置においては、筋肉組織の位置及び量を計測する筋肉計測手段をさらに備えるような構成としてもよい。このような構成においては、照射対象が筋肉組織である場合に筋肉組織に正確に照射することができ、被験者それぞれの筋肉量に応じて照射条件を決定することができる。
【0027】
また、第1、第2の実施形態の生体刺激装置を血流の改善や健康増進に利用することもできる。
【0028】
さらに、第2の実施形態の生体刺激装置と同様の構成の装置を、例えば、軌道ステーション、惑星間航行宇宙船等の内部の微重力宇宙空間において、脚等における筋肉量の減少を防止する方法に使用したり、脚の血流を改善する方法に使用したりすることもできる。この場合、生体の一部ないし全部を固定する固定具をさらに備える構成とすることができる。
【実施例】
【0029】
(実験1)
フェムト秒レーザーの照射による生体組織への影響を確認する以下の実験を行った。
【0030】
図4は、本実験における実験装置の構成を示す模式図である。実験装置50において、レーザー発振器51として再生増幅器付き高出力フェムト秒チタンサファイアレーザー(Spectra Physics: Hurricane)を用いた。レーザー発振器51からのレーザー光をf=150の単レンズ52にて集光し、ネンブタール麻酔下の近交系のC57BL/6Jマウスの両下肢に照射しておこなった。レーザー光の波長は800 nm、パルス時間幅は150 fs(半値全幅)、発振周波数は1 kHzとした。レーザー光の照射時間は機械式シャッター53により調整した。またレーザー光の単発照射は、レーザー光の発振周波数を20 Hzにし、機械式シャッター53のゲートタイムを50 msにすることにより行った。図中照射対象を55で示す。ここでフェムト秒レーザー光の照射位置は、レーザー発振器51と同一の位置に焦点を持つ、ヘリウムネオンレーザーである照射ガイド用レーザー発振器54からのレーザー光により決定した。

各検体の1点への照射条件は、

検体1: 20 μJ/pulse, 1 kHz, 1 sec.エネルギー総量: 20 mW、
検体2: 10 μJ/pulse, 1 kHz, 1 sec.エネルギー総量: 10 mW、
検体3: 300 μJ/pulse, 1 shot, エネルギー総量: 0.3 mW
とした。この条件で検体の約5 mm角の領域を500μm間隔で照射した。よって、照射点数は約100点となった。対照群としてレーザー光非照射とした陽性コントロール(C)、および陰性コントロール(NC)についても検体1~3と同様に以下の実験に供した。

レーザー光照射3~5時間後にレーザー照射部位の皮膚と骨格筋(腓腹筋およびヒラメ筋)を摘出し、右足側は遺伝子発現解析に供し、左足側はホルマリン固定し組織化学解析に供した。
【0031】
なお、遺伝子発現解析のための全mRNAのTRIZOLによる抽出精製とSuperScript RT (Gibco/BRL SuperScript Preamplification System)によるcDNA合成、また、組織化学解析のためのパラフィン包埋とHE染色は常法にておこなった。ミオスタチン遺伝子発現の解析では、まず約2μgの全RNAからSuperScript RT (Gibco/BRL SuperScript Preamplification System, Gaithersburg, MD)により合成したcDNAとsense: 5'-GACAAAACACGAGGTACTCC-3'(配列番号1); antisense: 5'-GATTCAGCCCATCTTCTCC-3'(配列番号2)のプライマーを用いて94℃, 58℃, 72℃を26-27サイクルの条件で、Thermal Cycler (GeneAmp PCR System 9700; Applied Biosystems)により増幅させた。次に、PCR産物をアガロースゲル電気泳動後、増幅遺伝子バンドを写真撮影し、NIH Image (Wayne Rasband, National Institutes of Health)により積分値を求めた。なお、内在性コントロールのG3PDHをsense: 5’- CATCTCACAGGTTACTTCAGA-3’(配列番号3)とanti-sense: 5’-CTGTTGCTGTAGCCGTATTC-3 ’(配列番号4)のプライマーを用いて、94℃、58℃、72℃を25-26サイクルの条件で、Thermal Cycler (GeneAmp PCR System 9700; Applied Biosystems)により増幅させた。次に、PCR産物をアガロースゲル電気泳動後、増幅遺伝子バンドを写真撮影し、NIH Image (Wayne Rasband, National Institutes of Health)により積分値を求めた。その値を基準として、増幅されたミオスタチン遺伝子のバンド強度を補正した。図5は、電気泳動後のアガロースゲルの写真を示す。レーン1は陽性コントロール(C)、レーン2~レーン4はそれぞれ検体1~検体3、レーン5はネガティブコントロール(NC)のバンドを示す。図6は、ミオスタチン遺伝子の各レーンのバンド強度(補正後)を陽性コントロール(C)の結果を100%として表した図である。
【0032】
図7はレーザー照射後にホルマリン固定し撮像した左足側の骨格筋の組織像である。図7(a)は対照群(陽性コントロール)、図7(b)は検体1、図7(c)は検体3の組織像である。黒丸で囲んだ部分がレーザー光照射部位である。
【0033】
解析の結果、フェムト秒レーザー光の照射によりミオスタチン遺伝子の発現が抑制されることが見出された(図5、図6に示す結果参照)。なお、ミオスタチン遺伝子は、筋肉組織の修復再生に関連する遺伝子であり、ミオスタチン遺伝子失調により筋組織の肥大を導くことが知られている(Mark Thomas et al., Myostatin, a Negative Regulator of Muscle Growth, Functions by Inhibiting Myoblast Proliferation; J. Biol. Chem., Vol. 275, Issue 51, 40235-40243, December 22, 2000.参照)。本発明におけるように超短パルスレーザー光を照射することにより、ミオスタチン遺伝子の発現を制御し、筋肉細胞の増殖を促進することができると考えられる。また、フェムト秒レーザー光の単発照射(検体3)では1秒間のレーザー光照射(フェムト秒レーザー光を1000回程度反復照射)(検体1)とは異なり骨格筋組織の壊死は生じない事がわかった。つまり、1秒間の照射ではミオスタチン遺伝子発現の抑制はみられたものの組織は凝固壊死を起しているのに対して、フェムト秒レーザー光の単発照射では同程度のミオスタチン遺伝子発現抑制が可能であるが凝固壊死は起さない。従って、フェムト秒レーザー光の単発照射がより好ましいといえる。

(実験2)
鍼通電刺激がミオスタチン遺伝子の発現へ与える影響を解析した。実験は20匹のマウスを用いて鍼通電刺激により一定時間刺激を行ったのち、ミオスタチンの遺伝子発現解析を行った。鍼通電刺激は、ステンレス製の鍼 (40 mm、直径 0.16 mm; セイリン化成株式会社, 静岡市) で深さ 5 mm迄刺入し、低周波通電刺激装置 (有限会社 九州良導絡, 福岡市)を用いて1.2Hzのパルス刺激(出力2521-mV:-1021 から +1500 mV)を15分間おこない、刺激した腓腹筋とヒラメ筋を摘出して解析した。刺激を行っていない陽性コントロール(C)、検体4~7として0、1、3,および24時間鍼通電刺激を行ったもの、および陰性コントロール(NC)を準備し、上記と同様のPCR増幅およびアガロース電気泳動による分離後、各遺伝子のバンドを検出した。この際、増幅されたミオスタチン遺伝子のバンド強度は、内在性コントロールのG3PDHのバンド強度を用いて補正した結果で比較した。

図8は、電気泳動後のアガロースゲルの写真を示す。レーン1はコントロール(C)、レーン2~5はそれぞれ検体4~7、レーン6は陰性コントロール(NC)の結果を表す。図9は、ミオスタチン遺伝子の各レーンのバンド強度をコントロール(C)の結果を100%として表した図である。
【0034】
解析の結果、電気鍼の刺激によりミオスタチン遺伝子の発現が有意(P<0.05)に抑制されることが見出された(図8、図9に示す結果参照)。実験1と実験2の結果より、本発明により実行される生体刺激方法は、ミオスタチン遺伝子発現への作用に関して鍼通電刺激と同様の効果が得られることがわかった。したがって、本発明により実行される生体刺激方法は、鍼治療の適用疾患として知られている筋肉関連疾患である肩こり、肩関節周囲炎(五十肩)、関節リウマチ、筋・筋膜炎、頸筋硬直、頸肩腕症、むち打症、捻挫、腱鞘炎、腰痛症、骨格筋萎縮の予防・治療にも有用である。
【0036】
本発明により実行される生体刺激方法は、鍼の刺入による機械的刺激よりも多くの利点が期待できる。具体的には、レーザー光は生体組織を非接触に刺激可能なため感染の危険性が少ないこと、次にレーザー光の集光点を制御することで高速多点刺激が可能であること等があげられる。更には、レーザー光強度や集光位置などのパラーメータの制御により、鍼よりも容易に刺激条件の最適化や標準化も可能であると考えられ、超短パルスレーザー光による生体組織の非熱的な刺激は、熟練した専門家により実現される鍼治療よりも優れた治療手段になることも期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかる生体刺激装置、遺伝子制御装置、または筋肉関連疾患治療装置は、保健医療分野、スポーツ医療分野における治療、さらには宇宙空間における治療において有用であり、特に筋肉関連疾患の治療に有用である。

【配列表のフリーテキスト】
【0038】

配列番号1の<223>:プライマー

配列番号2の<223>:プライマー

配列番号3の<223>:プライマー
配列番号4の<223>:プライマー
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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