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明細書 :糖度が向上した植物体を作出するための組成物及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5344621号 (P5344621)
登録日 平成25年8月23日(2013.8.23)
発行日 平成25年11月20日(2013.11.20)
発明の名称または考案の名称 糖度が向上した植物体を作出するための組成物及びその利用
国際特許分類 A01N  37/46        (2006.01)
A01N  63/00        (2006.01)
A01P  21/00        (2006.01)
A01G   7/00        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A01N 37/46
A01N 63/00 C
A01P 21/00
A01G 7/00 604Z
C12N 15/00 ZNAA
請求項の数または発明の数 4
全頁数 23
出願番号 特願2009-541115 (P2009-541115)
出願日 平成20年11月7日(2008.11.7)
国際出願番号 PCT/JP2008/070312
国際公開番号 WO2009/063806
国際公開日 平成21年5月22日(2009.5.22)
優先権出願番号 2007294797
優先日 平成19年11月13日(2007.11.13)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年6月15日(2011.6.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】591060980
【氏名又は名称】岡山県
発明者または考案者 【氏名】小川 健一
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】太田 千香子
参考文献・文献 特開2004-352679(JP,A)
小川健一,植物体内の酸化還元のバランスと成長-毒を制して薬となす-,植調,2005年 4月,Vol.39, No.1,p.9-14
小川健一,レドックスと植物の成長・生理調節,植物の生長調節,2002年12月 2日,Vol.37, No.2,p.126-138
Plant and Cell Physiology,2003年,Vol.44, No.7,p.655-60
調査した分野 A01N 37/46
A01N 63/00
A01G 7/00
JST7580(JDreamIII)
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
細胞内の酸化還元状態を調節する物質を含有しており、上記細胞内の酸化還元状態を調節する物質が、酸化型グルタチオン、還元型グルタチオン、又は、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドであることを特徴とする糖度が向上した植物体を作出するための組成物。
【請求項2】
上記細胞内の酸化還元状態を調節する物質が酸化型グルタチオンであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
細胞内の酸化還元状態を調節する物質を備えており、上記細胞内の酸化還元状態を調節する物質が、酸化型グルタチオン、還元型グルタチオン、又は、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドであることを特徴とする糖度が向上した植物体を作出するためのキット。
【請求項4】
細胞内の酸化還元状態を調節する物質を用いて植物体を栽培する工程を含み、上記細胞内の酸化還元状態を調節する物質が、酸化型グルタチオン、還元型グルタチオン、又は、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチドであることを特徴とする糖度が向上した植物体の作出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内の酸化還元状態を調節する物質を含有する、糖度が向上した植物体を作出するための組成物、及びその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、果物類、野菜類、穀物類等の植物には糖分を含んでいる。糖分の量は糖度により示され、植物の種類によっては、その糖度が商品価値に影響を与えている。そのため、近年、植物の糖度を高くするための技術開発が行なわれている。
【0003】
例えば、高糖度トマトは主に土耕によって生産されている。また、養液栽培によって高糖度トマトを生産する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
ところで、グルタチオン等の、細胞内の酸化還元状態を調節する物質は、細胞又は器官の分化調節剤として機能し得ることが知られている(特許文献2)。また、グルタチオンは植物生長調整補助剤として機能し得ることが知られている(特許文献3)。

【特許文献1】日本国公開特許公報「特開平10‐271924号公報(公開日:1998年10月13日)」
【特許文献2】国際公開第01/080638号パンフレット(2003年7月22日公開)
【特許文献3】日本国公開特許公報「特開2004‐352679号公報(公開日:2004年12月16日)」
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、上記従来の植物の糖度を向上する技術は簡便でない。土耕による高糖度トマトの生産を行ない得るものは一部の熟練者に限定されている。また、養液栽培による高糖度トマトの生産は、栽培管理をする上で特殊な技術及び特殊な生産装置を必要とする。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、糖度が向上した植物を簡便に作出するための組成物及びそれを利用した技術を提供することにある。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった。その結果、細胞内の酸化還元状態を調節する物質を添加した培地(土壌及び土壌改良剤を含む)で植物体を生育させる、又は植物体に直接塗布したり噴霧したりすると、当該植物体の糖度が向上するという知見を見出した。本発明はこの全く新たな知見に基づいて成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0008】
本発明に係る糖度が向上した植物体を作出するための組成物は、細胞内の酸化還元状態を調節する物質(ただし過酸化水素を除く)を含有していることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る糖度が向上した植物体を作出するための組成物では、上記細胞内の酸化還元状態を調節する物質が、グルタチオン、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチド、又はグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするポリヌクレオチドであることがより好ましい。
【0010】
さらに、本発明に係る糖度が向上した植物体を作出するための組成物では、上記細胞内の酸化還元状態を調節する物質が酸化型グルタチオンであることがより好ましい。
【0011】
また、本発明に係る糖度が向上した植物体を作出するためのキットは、細胞内の酸化還元状態を調節する物質(ただし過酸化水素を除く)を備えていることを特徴としている。
【0012】
また、本発明に係る糖度が向上した植物体の作出方法は、細胞内の酸化還元状態を調節する物質(ただし過酸化水素を除く)を用いて植物体を栽培する工程を含むことを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る作出方法により得られる植物体も本発明の範疇である。
【0014】
本発明の他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例2で得られたトマトの果実の糖度を測定した結果を示す。
【図2】図1に示した糖度の測定結果をANOVA解析した結果を示す。
【図3】GSSG又はGSHの処理日からの経過日数と糖度との関係を確認した結果を示す図である。
【図4】35S‐GSH1の澱粉及びグルコースを測定した結果を示す。
【図5】実施例8で得られたオウトウの果実の糖度を測定した結果を示す。
【図6】実施例9で得られた温州ミカンの果実の糖度を測定した結果を示す。
【図7】実施例10で得られたイチゴの果実の糖度を測定した結果を示す。
【図8】実施例11で得られたスイートコーンの果実の糖度を測定した結果を示す。
【図9】配列番号15~36までの遺伝子系統樹を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<1.本発明に係る糖度が向上した植物体を作出するための組成物>
本発明に係る糖度が向上した植物体を作出するための組成物(以下、「本発明に係る組成物」という。)は、細胞内の酸化還元状態を調節する物質を含有していればよい。
【0017】
本発明に係る組成物を用いれば、簡便に糖度が向上した植物体を作出することができる。例えば、本発明に係る組成物を培地に包含させて、当該培地を用いて植物体を作出してもよい。また、後述のように、細胞内の酸化還元状態を調節する物質がポリヌクレオチドの場合は、従来公知の形質転換技術を用いて当該ポリヌクレオチドを植物に導入して、当該植物を栽培するだけでよい。そのため、上述した土耕等の従来技術に比べて、熟練した技、特殊な技術、特殊な生産装置等を要せず、糖度が向上した植物を極めて簡便に得ることができる。
【0018】
このように細胞内の酸化還元状態を調節する物質を糖度が向上した植物の作出に用いるという用途は、従来の当該物質の用途とは全く異なる新規の用途である。また、糖度が向上した植物が得られるという効果は、従来の用途からは全く予測できなかった。このように本発明は、本発明者らによる全く新たな発見に基づいて成されたものである。
【0019】
本明細書において「糖度が向上した植物体」とは、当該植物体の野生株に比べて糖度が向上した植物体を意味する。換言すれば、「糖度が向上した植物体」は、野性株に比べて高い糖度を有している。つまり、本発明に係る組成物は、野生株に比べて高い糖度を有する植物体を作出する用途の組成物であるともいえる。例えば、本発明に係る組成物を用いて植物体を栽培すれば、本発明に係る組成物を用いずに栽培する場合に比べて、当該植物体の糖度を向上させることができる。糖度については従来公知の方法で測定すればよく、本実施例のように従来公知の糖度計を用いてもよい。
【0020】
本明細書において「細胞内の酸化還元状態を調節する物質」とは、細胞内の酸化還元に関与する物質の酸化及び還元を調節する物質を意味し、例えば、活性酸素の生じやすさ、グルタチオンの絶対量、還元型グルタチオンと酸化型グルタチオンとの比、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の還元型(NAD(P)H)の絶対量、NADPH/NADP+の比、チトクロムcの酸化型/還元型の比、プラストキノン、ユビキノン等の電子伝達鎖の構成要素の酸化/還元比で示される値を変化させる物質が包含される。なお、細胞内で酸化還元に関与する物質は当該技術分野で既知であり、これらに限定されない。また、上記値を変化させる物質としては、例えば、グルタチオンの合成又はグルタチオン量に影響を与える物質、活性酸素の生成を促進または阻害する物質、ある化合物を酸化型と還元型のいずれか一方への変化を促進または阻害する物質が例示される。
【0021】
本発明に係る組成物に含有される細胞内の酸化還元状態を調節する物質としては、上述の意味に包含される物質である限り限定されないが、グルタチオンの合成又はグルタチオン量に影響を与える物質が好ましく例示される。これらの物質であれば、より高い糖度の植物を得ることができる。
【0022】
また、本明細書において「グルタチオンの合成又はグルタチオン量に影響を与える物質」とは、細胞内のグルタチオン量を変化させる物質を意味し、グルタチオンを増加させる物質が好ましく、例えば、グルタチオン自体、グルタチオンを合成する酵素、当該酵素をコードするポリヌクレオチド等が挙げられる。
【0023】
また、細胞内の酸化還元状態を調節する物質としては、植物に接触させることで植物に吸収させることができる物質と、植物のゲノム中に導入する物質とに分類することができる。もちろん、これらは単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0024】
グルタチオンの合成又はグルタチオン量に影響を与える物質であって、植物に接触させることで植物に吸収させることができる物質の具体例としては、グルタチオン、グルタチオン抱合体、活性酸素(例えば過酸化水素等)、活性窒素、ポリアミン、酸化チタン、ジャスモン酸、サリチル酸、システイン、シスチン、重金属カドミウム、鉄イオンが例示できる。なお、ポリアミンは過酸化水素の原料となる。酸化チタンは光によって活性酸素を生成する。システイン、シスチンはグルタチオンの前駆体である。重金属カドミウム、鉄イオンについては、過剰投与することが好ましい。また、ここに例示した物質の中ではグルタチオンが好ましい。また、グルタチオンには、還元型グルタチオン(以下、「GSH」という。)及び酸化型グルタチオン(以下、「GSSG」)があるが、本発明に係る組成物に含有されるグルタチオンはGSSGであることがより好ましい。GSSGであれば、後述の実施例でも示すように、より糖度の高い植物を得ることができる。また、果実数を増加させたり、実を肥大化させたりすることができる。
【0025】
また、グルタチオンの合成又はグルタチオン量に影響を与える物質であって、植物のゲノム中に導入する物質の具体例として、例えば、γ-グルタミルシステインシンセターゼ、これをコードするポリヌクレオチド(以下、「GSH1遺伝子」という。)、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ、これをコードするポリヌクレオチド(以下、「FBA遺伝子」という。)を好ましく例示できる。
【0026】
GSH1遺伝子の具体例としては特に限定されないが、例えば、ヒャクニチソウ(Genbank accession: AB158510)、イネ(Genbank accession: AJ508915)、タバコ(Genbank accession: DQ444219)等が知られており、これらも本発明に好適に用いることができる。これらの遺伝子の翻訳産物も、シロイヌナズナと同様にN末端領域に葉緑体移行シグナルペプチドを有している。
【0027】
ただし、本発明においては、以下の(a)~(d)を好ましく例示できる。
(a)配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(b)配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、γ-グルタミルシステインシンセターゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号2又は4に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(d)上記(a)~(c)のポリヌクレオチドのうちいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0028】
なお、配列番号2は、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列の一例を示しており、配列番号4は、配列番号3に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列の一例を示している。
【0029】
FBA遺伝子の具体例としては特に限定されないが、以下の(e)~(h)を好ましく例示できる。
(e)配列番号5、6及び15~36のうちのいずれかに示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(f)配列番号5、6及び15~36のうちのいずれかに示されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(g)配列番号7及び37~56に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(h)上記(e)~(g)のポリヌクレオチドのうちいずれかのポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0030】
配列番号5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質のcDNA配列を配列番号8に示す。配列番号8に示される塩基配列のうち、第145位~第147位が開始コドンであり、第1318位~第1320位は終止コドンである。すなわち、シロイヌナズナFBA1遺伝子は、配列番号8に示される塩基配列のうち、第145位~第1320位をオープンリーディングフレーム(ORF)として有している。
【0031】
配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする塩基配列の一例を配列番号9に示す。配列番号9において、第104位~第1300位が配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする領域である。なお、配列番号6において、第1位のメチオニンから第48位のアラニンまでで構成されるペプチドは葉緑体移行ペプチドである。
【0032】
配列番号7に示される塩基配列は、シロイヌナズナFBA1遺伝子のORFの塩基配列である。なお、シロイヌナズナのFBA1遺伝子の塩基配列と相同性を有する遺伝子としては、イネのゲノム上に見出される遺伝子(dbj|BAB55475.1)を挙げることができる。
【0033】
また、配列番号37~56は、それぞれ配列番号15~34に示すアミノ酸配列をコードするDNA配列の一例である。
【0034】
また、参考までに配列番号15~36に示すアミノ酸配列の系統樹を図9に示す。
【0035】
なお、これらの配列番号に示されるアミノ酸配列又はDNA配列が葉緑体移行シグナルに相当する領域を含む場合、当該領域は、他のタンパク質の葉緑体移行シグナルに置換可能であることを当業者は容易に理解できる。
【0036】
ここで「1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加された」とは、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異ペプチド作製法により欠失、置換もしくは付加できる程度の数(好ましくは10個以下、より好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されることを意味する。このような変異タンパク質は、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するタンパク質に限定されるものではなく、天然に存在するタンパク質を単離精製したものであってもよい。
【0037】
タンパク質のアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このタンパク質の構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけでなく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0038】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチド活性を変化させない。
【0039】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換、ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0040】
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、少なくとも90%の同一性、好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97%の同一性が配列間に存在するときにのみハイブリダイゼーションが起こることを意味する。具体的には、例えば、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載されている方法のような周知の方法で行なうことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同性の高いポリヌクレオチドを取得することができる。
【0041】
本発明に係る組成物において上述のポリヌクレオチドを包含する場合、本発明に係る組成物は、当該ポリヌクレオチドを備える発現ベクターを含有するものであってもよい。発現ベクターの構築方法としては、従来公知の方法を使用してもよく特に限定されるものではない。
【0042】
発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、又はコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞又は導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、本発明に係る組成物を用いて、上述のポリヌクレオチドを備えるベクターを、アグロバクテリウム法により植物体に導入する場合、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
【0043】
上記プロモーターは、植物体内で遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、アクチンプロモーター、ノパリン合成酵素のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5-二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニットプロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター又はアクチンプロモーターをより好ましく用いることができる。上記各プロモーターを用いれば、得られる発現ベクターでは、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。
【0044】
上記プロモーターは、転写因子をコードする遺伝子を発現しうるように連結され、ベクター内に導入されていればよく、発現ベクターとしての具体的な構造は特に限定されるものではない。
【0045】
上記発現ベクターは、上記プロモーター及び上述のポリヌクレオチドに加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選択マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記発現ベクターは、さらにT-DNA領域を有していてもよい。T-DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
【0046】
ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることができる。上記発現ベクターにおいては、ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成したり、強力なプロモーターがプラスミドのコピー数を減少させたりするような現象の発生を防止することができる。
【0047】
上記選択マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。これにより、上記抗生物質を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選別することができる。
【0048】
上記翻訳効率を高めるためのポリヌクレオチドとしては、例えばタバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、上記転写因子をコードする遺伝子の翻訳効率を高めることができる。このように、上記発現ベクターには、その目的に応じて、さまざまなDNAセグメントを含ませることができる。
【0049】
発現ベクターを構築する具体的な方法としては、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター及び上述のポリヌクレオチド、並びに必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入する方法が例示される。また、上記ポリヌクレオチドとプロモーターと(必要に応じてターミネーター等)とを連結して発現カセットを構築し、これをベクターに導入すればよい。発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、N‐アセチルグルコサミン転移酵素をコードするポリヌクレオチド、ターミネーターの順となっていればよい。また、発現ベクターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素及びライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
【0050】
また、上記発現ベクターの増殖方法(生産方法)も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。一般的には大腸菌をホストとして当該大腸菌内で増殖させればよい。このとき、ベクターの種類に応じて、好ましい大腸菌の種類を選択してもよい。
【0051】
以上に例示した物質は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0052】
本発明に係る組成物に含まれる、細胞内の酸化還元状態を調節する物質として、植物に接触させることで植物に吸収させることができる物質を包含する場合、その量は特に限定されるものではないが、0.01mM~20mMが好ましく、0.1mM~2mMがさらに好ましく、この範囲であれば、作出される植物の糖度をより向上させることができる。なお、この濃度は、適用する植物の種類、目的とする糖度の値等に応じて適宜変更してもよい。
【0053】
本発明に係る組成物には、本発明に係る組成物の作用効果が損なわれない範囲で他の成分を含有させてもよい。例えば、本発明に係る組成物が、細胞内の酸化還元状態を調節する物質として、植物に接触させることで植物に吸収させることができる物質を包含する場合、水、従来公知の液体担体等に溶解して、液剤、乳剤、ゲル状剤等の形態で提供してもよい。そのような液体担体としては、キシレン等の芳香族炭化水素類;エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等を例示できるが、これらに限定されない。また、細胞内の酸化還元状態を調節する物質を固形の担体成分に担持させて、固形剤、粉剤等としてもよい。そのような固形の担体成分としては、タルク、クレー、バーミキュライト、珪藻土、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、白土、シリカゲル等の無機物;小麦粉、澱粉等の有機物等を例示できるが、これらに限定されない。また、本発明に係る組成物には、他の補助剤を適宜配合することができる。そのような補助剤として、例えばアルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等の陰イオン界面活性剤;高級脂肪族アミンの塩類等の陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコールアシルエステル、ポリオキシエチレングリコール多価アルコールアシルエステル、セルロース誘導体等の非イオン界面活性剤;ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム等の増粘剤;増量剤、結合剤等が挙げられる。
【0054】
本発明に係る組成物の使用方法としては、特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る組成物が、細胞内の酸化還元状態を調節する物質として、植物に接触させることで植物に吸収させることができる物質を包含する場合、液剤等の場合、植物を生育させるときに用いる培地等に含有させてもよいし、生長点、芽、葉、茎等の植物体の一部又は全体に散布、滴下、塗布してもよい。なお、本明細書において植物を成育させるときに用いる「培地」には、土壌、土壌改良剤を含むものとする。
【0055】
また、固形剤等の場合、植物を生育させるときに用いる培地に含有させてもよいし、水上栽培する植物に適用する場合に水中に入れて徐々に溶解させてもよい。水に溶解させるための固形剤等として提供して、使用するときに水に溶解させるようにしてもよい。また、本発明に係る組成物を、従来公知の肥料、植物ホルモン等の薬剤と混合して植物に与えてもよい。
【0056】
本発明に係る組成物を植物に投与する時期は特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る組成物を、植物の種子を播種した時点から与えてもよい。具体的には、トマト等のように播種後2ヶ月~半年弱程度で果実を実らせる植物に本発明に係る組成物を与える場合、播種した日に与えてもよく、好ましくは播種した日~播種後30日の間、より好ましくは播種した日~60日の間、さらに好ましくは播種した日から収穫の日まで、定期的に与えることがさらに好ましい。この場合、本発明に係る組成物を与える間隔としては特に限定されないが、一週間に1回~4回が好ましく、2~3回がより好ましい。投与量としては、特に限定されず、植物の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えばトマト等の場合、1回の投与で1株当たり細胞内の酸化還元状態を調節する物質が0.001mmol以上0.1mmol以下となるように投与することが好ましく、0.01mmol以上0.05mmol以下とすることがより好ましい。なお、上述のように本発明に係る組成物を培地に含有させるときは、当該培地に植物の種子を播種した時点から、又は当該培地に植物の苗等を植え替えた時点から、当該植物に本発明に係る組成物が投与されることとなる。
【0057】
また、播種した後であって、苗を作出した後等、ある程度生育させた後から、所定の期間、本発明に係る組成物を投与してもよい。例えば、スイートコーン等のいね科植物に本発明に係る組成物を投与する場合、苗を育てた後に、本発明に係る組成物を投与してもよい。この場合、作出した苗を植える培地に予め本発明に係る組成物を含有させていてもよく、当該培地に苗を植えた後、定期的に本発明に係る組成物を培地に投与してもよい。苗を植え替えた後に、本発明に係る組成物を培地に投与する場合、より具体的な投与の時期としては特に限定されないが、例えば、苗を植え替えた後から、収穫するまでの間に、一週間に1回~4回与えることが好ましく、2~3回がより好ましい。投与量としては、特に限定されず、植物の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えばスイートコーン等の場合、1回の投与で1株当たり細胞内の酸化還元状態を調節する物質が0.001mmol以上0.1mmol以下となるように投与することが好ましく、0.01mmol以上0.05mmol以下とすることがより好ましい。
【0058】
また、花をつける時期に基づいて、本発明に係る組成物を与える時期を設定してもよい。例えば、つぼみの時期に投与してもよいし、花弁が散った後に投与してもよいし、つぼみの時期から果実が実るまでの間、開花した時期から果実が実るまでの間、花弁が散ってから果実が実るまでの間に、本発明に係る組成物を投与してもよい。後述の実施例のように本発明に係る組成物をブドウに投与するときは、花序に与えてもよい。なお、この実施例では、種無しブドウを作出するための植物ホルモン(ジベレリン)の投与時期に従って、当該植物ホルモンに混合して与えている。
【0059】
また、収穫時期から逆算して、本発明に係る組成物を与える時期を設定してもよい。例えば、収穫の時期から10日前から与えたり、20日前から与えたりする等のように設定してもよい。
【0060】
このように、栽培している間に本発明に係る組成物を投与する場合、上述のように肥料及び/又は植物ホルモン等の薬剤と当該組成物とを混合して植物に投与してもよい。この場合、当該肥料等と組成物との混合物を与える時期としては特に限定されず、上述の例示に従ってもよいし、肥料等を与える好ましい時期に従ってもよい。
【0061】
また、本発明に係る組成物が、細胞内のグルタチオンを増加させる物質として、上述のポリヌクレオチドのように、植物のゲノム中に導入する物質を含有するものである場合、従来公知の形質転換方法を用いて当該ポリヌクレオチドが植物体のゲノム中に導入されるように使用すればよい。また、例えば、本発明に係る組成物は、これらのポリヌクレオチドを含有するものであって、従来公知の植物発現ベクターを用いて植物体に導入されるものであってもよく、これらのポリヌクレオチドを備えるベクターを含有するものであってもよい。
【0062】
また、本発明に係る組成物における、上述したポリヌクレオチドの含有量は特に限定されない。また、これらのポリヌクレオチドは、一般にポリヌクレオチドを保存するために用いられる緩衝液等に溶解しておいてもよい。
【0063】
植物細胞へのベクターの導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法など)が用いられる。例えば、アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著,植物遺伝子操作マニュアル,1990,27-31pp,講談社サイエンティフィック,東京)などにしたがって無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。なお、パーティクルガン法を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450~2000psi程度の圧力、4~12cm程度の距離で行なう。
【0064】
目的の遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずカナマイシン耐性、ハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性マーカーで選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行なうことが可能である。
【0065】
目的の遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行なうことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、導入されたDNAに特異的プライマーを設計してPCRを行なう。その後、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行ない、臭化エチジウムなどによって染色し、目的の増幅産物を検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。
【0066】
ゲノム内に目的の遺伝子が導入された形質転換植物体がいったん得られれば、当該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができる。また、当該植物体又はその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、プロトプラストなど)を得て、それらを基に目的の植物体を量産することも可能である。
【0067】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、目的の遺伝子が発現可能な植物を適宜選択すればよい。
【0068】
なお、上述のポリヌクレオチドはシロイヌナズナ由来のものであるが、例えば、タバコ、ポプラ、レモンなどは、シロイヌナズナの遺伝子で形質転換植物を作出し得ることが報告されており、このような報告も本発明の組成物の使用方法として参考にできる(Franke R, McMichael CM, Meyer K, Shirley AM, Cusumano JC, Chapple C. (2000) Modified lignin in tobacco and poplar plants over-expressing the Arabidopsis gene encoding ferulate 5-hydroxylase. Plant J. 22: 223-234; Pena L, Martin-Trillo M, Juarez J, Pina JA, Navarro L, Martinez-Zapater JM. (2001) Constitutive expression of Arabidopsis LEAFY or APETALA1 genes in citrus reduces their generation time. Nat Biotechnol. 19: 263-267)。
【0069】
本発明に係る組成物の対象となる植物としては、特に制限されるものではなく、種々の単子葉植物、双子葉植物、樹木等の植物全般に適用することができる。例えば、単子葉植物としては、例えばウキクサ属植物(ウキクサ)及びアオウキクサ属植物(アオウキクサ,ヒンジモ)が含まれるうきくさ科植物;カトレア属植物、シンビジウム属植物、デンドロビューム属植物、ファレノプシス属植物、バンダ属植物、パフィオペディラム属植物、オンシジウム属植物等が含まれる、らん科植物;がま科植物、みくり科植物、ひるむしろ科植物、いばらも科植物、ほろむいそう科植物、おもだか科植物、とちかがみ科植物、ほんごうそう科植物、いね科植物(スイートコーン等のトウモロコシ等)、かやつりぐさ科植物、やし科植物、さといも科植物、ほしぐさ科植物、つゆくさ科植物、みずあおい科植物、いぐさ科植物、びゃくぶ科植物、ゆり科植物、ひがんばな科植物、やまのいも科植物、あやめ科植物、ばしょう科植物、しょうが科植物、かんな科植物、ひなのしゃくじょう科植物等を例示することができる。
【0070】
また、双子葉植物としては、例えばアサガオ属植物(アサガオ)、ヒルガオ属植物(ヒルガオ,コヒルガオ,ハマヒルガオ)、サツマイモ属植物(グンバイヒルガオ、サツマイモ)、ネナシカズラ属植物(ネナシカズラ、マメダオシ)が含まれるひるがお科植物;ナデシコ属植物(カーネーション等)、ハコベ属植物、タカネツメクサ属植物、ミミナグサ属植物、ツメクサ属植物、ノミノツヅリ属植物、オオヤマフスマ属植物、ワチガイソウ属植物、ハマハコベ属植物、オオツメクサ属植物、シオツメクサ属植物、マンテマ属植物、センノウ属植物、フシグロ属植物、ナンバンハコベ属植物が含まれるなでしこ科植物;もくまもう科植物、どくだみ科植物、こしょう科植物、せんりょう科植物、やなぎ科植物、やまもも科植物、くるみ科植物、かばのき科植物、ぶな科植物、にれ科植物、くわ科植物、いらくさ科植物、かわごけそう科植物、やまもがし科植物、ぼろぼろのき科植物、びゃくだん科植物、やどりぎ科植物、うまのすずくさ科植物、やっこそう科植物、つちとりもち科植物、たで科植物、あかざ科植物、ひゆ科植物、おしろいばな科植物、やまとぐさ科植物、やまごぼう科植物、つるな科植物、すべりひゆ科植物、もくれん科植物、やまぐるま科植物、かつら科植物、すいれん科植物、まつも科植物、きんぽうげ科植物、あけび科植物、めぎ科植物、つづらふじ科植物、ろうばい科植物、くすのき科植物、けし科植物、ふうちょうそう科植物、あぶらな科植物、もうせんごけ科植物、うつぼかずら科植物、べんけいそう科植物、ゆきのした科植物、とべら科植物、まんさく科植物、すずかけのき科植物、ばら科植物、まめ科植物、かたばみ科植物、ふうろそう科植物、あま科植物、はまびし科植物、みかん科植物、にがき科植物、せんだん科植物、ひめはぎ科植物、とうだいぐさ科植物、あわごけ科植物、つげ科植物、がんこうらん科植物、どくうつぎ科植物、うるし科植物、もちのき科植物、にしきぎ科植物、みつばうつぎ科植物、くろたきかずら科植物、かえで科植物、とちのき科植物、むくろじ科植物、あわぶき科植物、つりふねそう科植物、くろうめもどき科植物、ぶどう科植物、ほるとのき科植物、しなのき科植物、あおい科植物、あおぎり科植物、さるなし科植物、つばき科植物、おとぎりそう科植物、みぞはこべ科植物、ぎょりゅう科植物、すみれ科植物、いいぎり科植物、きぶし科植物、とけいそう科植物、しゅうかいどう科植物、さぼてん科植物、じんちょうげ科植物、ぐみ科植物、みそはぎ科植物、ざくろ科植物、ひるぎ科植物、うりのき科植物、のぼたん科植物、ひし科植物、あかばな科植物、ありのとうぐさ科植物、すぎなも科植物、うこぎ科植物、せり科植物、みずき科植物、いわうめ科植物、りょうぶ科植物、いちやくそう科植物、つつじ科植物、やぶこうじ科植物、さくらそう科植物、いそまつ科植物、かきのき科植物、はいのき科植物、えごのき科植物、もくせい科植物、ふじうつぎ科植物、りんどう科植物、きょうちくとう科植物、ががいも科植物、はなしのぶ科植物、むらさき科植物、くまつづら科植物、しそ科植物、なす科植物(トマト等)、ごまのはぐさ科植物、のうぜんかずら科植物、ごま科植物、はまうつぼ科植物、いわたばこ科植物、たぬきも科植物、きつねのまご科植物、はまじんちょう科植物、はえどくそう科植物、おおばこ科植物、あかね科植物、すいかずら科植物、れんぷくそう科植物、おみなえし科植物、まつむしそう科植物、うり科植物、ききょう科植物、きく科植物等を例示できる。
【0071】
また、本発明には、糖度が向上した植物体を作出するためのキット(以下、「本発明に係るキット」という。)が包含される。本発明に係るキットは、細胞内の酸化還元状態を調節する物質(例えば、グルタチオン、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチド、又はグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするポリヌクレオチド)を備えていればよい。また、本発明に係るキットは、これらの物質以外の他の成分を備えていてもよい。細胞内の酸化還元状態を調節する物質、及び上記他の成分は、適切な容量及び/又は形態で含有した一つの容器として提供してもよいし、それぞれ別の容器により提供してもよい。また、植物を生育させるための器具、培地等を備えていてもよい。また、本発明に係るキットは、上述のポリヌクレオチドを備える場合、当該ポリヌクレオチドを発現させる発現ベクターの母体となるベクターを、当該ポリヌクレオチドとは別の容器に入れておいてもよいし、予め当該ベクターに当該ポリヌクレオチドを挿入したものを備えていてもよい。また、従来公知の植物の形質転換法に用いる試薬等を備えていてもよい。
【0072】
<2.本発明に係る糖度が向上した植物体の作出方法>
本発明に係る糖度が向上した植物体の作出方法(以下、「本発明に係る作出方法」という。)は、細胞内の酸化還元状態を調節する物質(例えば、グルタチオン、γ-グルタミルシステインシンセターゼをコードするポリヌクレオチド、又はグルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼをコードするポリヌクレオチド)を用いて植物体を栽培する工程を含めばよい。
【0073】
上記工程としては、例えば、細胞内の酸化還元状態を調節として、植物に接触させることで植物に吸収させることができる物質を用いる場合、当該物質を当該植物に吸収させればよい。細胞内の酸化還元状態を調節する物質を植物に吸収させる方法としては特に限定されず、例えば、細胞内の酸化還元状態を調節する物質を含有する培地(土壌及び土壌改良剤を含む)で植物を栽培することにより根から吸収させてもよいし、植物を栽培する間に細胞内の酸化還元状態を調節する物質を吹き付けたり、塗布したりして植物体が当該物質を吸収するようにしてもよい。また、イオン交換樹脂等の吸着体に細胞内の酸化還元状態を調節する物質を吸着させて、これを土壌に埋設する等、培地中に配置した上で、当該植物体を栽培してもよい。
【0074】
また、例えば、細胞内の酸化還元状態を調節として、上述のポリヌクレオチドのように、植物のゲノム中に導入する物質を用いる場合、これを植物に吸収させるのではなく、予め植物に導入して形質転換を行ない、得られた形質転換植物を生育させてもよい。ポリヌクレオチドを植物に導入する方法については、上述の本発明に係る組成物の説明に準じる。
【0075】
本発明に係る作出方法により得られた植物体も本発明の範疇である。かかる植物体は、細胞内の酸化還元状態を調節する物質の、植物体中の量及び割合のうちの少なくとも一方を調べることにより、簡易に調べることができ、本発明の方法以外の方法で得られた植物体と明確に区別できる。該物質の量・濃度を調べる方法以外にも、例えば、DNAマイクロアレイ等を用いて遺伝子発現パターンを比較することによっても調べることができる。該物質としてGSSGを用いた場合、例えば、GSSGを投与して栽培した植物体の遺伝子発現パターンを予め調べ、他の方法で栽培された植物体のそれと比較して、GSSGを投与した場合に特有の発現パターン(GSSG発現パターン)を特定しておく。そして、調査対象の植物体の発現パターンを調べ、上記GSSG発現パターンと比較することにより、簡便に調べることができる。さらに他の例として、グルタチオン結合タンパク質の2次元電気泳動像から予め調べたパターン変化と比較することによって、GSSGを投与したか否かを判断することができる。また、上述のポリヌクレオチドを用いる場合、植物内における当該ポリヌクレオチドをPCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等によって確認することで、本発明に係る植物体を他の植物と区別することができる。
【0076】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0077】
<実施例1.トマトの作出>
本実施例では、GSSG又はGSHを用いてトマトを育種した。具体的には次の通りである。
【0078】
まず、トマトの苗(タキイ種苗社製、品名:王様トマト 麗夏)を、水耕栽培用鉢(2千分の1アール)に植え替えた。水耕栽培用鉢内には、下層バーミキュライト(旭工業株式会社製)6L、中層クレハ園芸培土(株式会社クレハ製)3L、上層バーミキュライト3Lを重層させた。
【0079】
トマトを生育させる間、一株当たり0.5mM GSSG又は0.5mM GSH(0.1N NaOHを用いてpH7に調整)を50mL/週・2回、根元に投与して、芽かきをせずに60日間生育させた。また、最後の10日間を果実を収穫する対象期間とした。また、比較のため、GSSG及びGSHのいずれも与えなかった以外は、同じ条件でトマトを生育させた。なお、いずれの条件においても、追肥として、くみあい燐硝安加里S‐604号(チッソ旭肥料株式会社製)3gを2週に1回与えた。
【0080】
次に、収穫した果実の糖度等について官能試験を行なった。その結果、GSSG及びGSHのいずれも与えなかった場合に比べて、GSSGを与えて得た果実では、糖度の増加が確認された。また果実数の増加が確認された。GSHを与えて得た果実では、糖度の増加が確認された。また酸味の増加が確認された。
【0081】
以上の結果から、GSSG、GSHを含む培地を用いてトマトを生育させることで、糖度が増加したトマトを作出できることが示された。
【0082】
<実施例2.糖度の測定>
実施例1に記載の方法でGSSG又はGSHを与えてトマトを生育させた。得られた果実の糖度をポケット糖度計APAL‐1(株式会社アタゴ製)を用いて測定した。
【0083】
また、比較のため2通りの条件でトマトを生育させた。それぞれ「Cont」、「Cont2 Sunny」と表記する。Contでは、GSSG及びGSHのいずれも与えない以外は実施例1と同じ方法でトマトを生育させた。Cont2 Sunnyでは、GSSG及びGSHのいずれも与えず、照度100%となるように、1個体のみ独立にし、太陽光が十分当たるように配置して生育させた。なお、GSSG又はGSHを与えた系及びContでは、それぞれの株を40cm~50cmの間隔で植えた。そのため、別の株が他の株に当たる光をさえぎる場合があるので、これらの株に照射される光の照度は100%より低くなる。
【0084】
なお、GSSGを与えた条件、GSHを与えた条件、Contの条件では3個体ずつ生育させて、Cont2 Sunnyでは1個体生育させた。
【0085】
結果を図1及び2に示す。図1は、本実施例で得られたトマトの果実の糖度を測定した結果を示し、縦軸が糖度(Brix、単位:%)、横軸が生育の条件を示す。また、図1中の*は、上記対象期間の間に果実が得られなかったことを示す。図2は、図1に示した糖度の測定結果をANOVA解析した結果を示し、縦軸が糖度、横軸が生育の条件を示す。また、図2中の各棒の上に記載したアルファベット文字は、ANOVA解析のグループ分けにおいて同じグループに属することを示している。なお、ANOVA解析については、StatView5.0(SAS Institute Inc.製)を用いて行ない、有意差水準5%で検定した。
【0086】
図1及び2に示すように、GSSG又はGSHを与えることで、Contはもとより、太陽光を十分に照射したトマトの果実よりも、有意に糖度が向上したトマトが得られた。中でもGSSGを与えることで極めて高い糖度のトマトが得られた。
【0087】
<実施例3.スイートコーンの作出>
本実施例では、スイートコーンを生育させた。具体的には、まず、スイートコーン(タキイ種苗社製、品番:キャンベラ90)の種子をバーミキュライト(旭工業株式会社製)に播種した。播種2週間後に、実施例1に記載の水耕栽培用鉢に植え替えて、追肥として、4週後及び6週後にそれぞれくみあい燐硝安加里S‐604号3gを与えた。
【0088】
また、播種後5週目から2週間内に4回、0.2mM GSSG 50mLを根元に与えた。播種後7週目からは、2週間内に4回、0.2mM GSSG 50mLを経葉散布した。なお、比較のため、GSSGを与えない以外は本実施例と同じ方法でスイートコーンを生育させて実を収穫した。
【0089】
播種から90日後に実を収穫して、糖度について官能試験を行なった。その結果、GSSGを与えて生育させて得た実では、GSSGを与えずに生育させて得た実に比べて、糖度の増加が確認された。また、GSSGを与えた場合、実の肥大、実の数の増加が確認された。
【0090】
<実施例4.スイートコーンの作出2>
本実施例では、実施例3とは異なる条件でGSSGを与えてスイートコーンを生育させた。具体的には、まず、スイートコーン(タキイ種苗社製、品番:キャンベラ90)の種子をバーミキュライト(旭工業株式会社製)に播種した。播種1週間後に、実施例1に記載の水耕栽培用鉢に植え替えて、追肥として、4週後及び6週後にそれぞれくみあい燐硝安加里S‐604号3gを与えた。
【0091】
また、発芽後から12週間、0.5mM GSSG 200mLを週2回、根元に与えた。なお、比較のため、GSSGを与えない以外は本実施例と同じ方法でスイートコーンを生育させて実を収穫した。
【0092】
播種から12週間後に実を収穫して糖度について官能試験を行なった。その結果、GSSGを与えて生育させて得た実では、GSSGを与えずに生育させて得た実に比べて、糖度の増加が確認された。また、GSSGを与えた場合、実の肥大、実の数の増加が確認された。
【0093】
<実施例5.ブドウの作出>
本実施例では、ブドウを生育させた。具体的には、ブドウ(デラウエア)が開花した直後、1mMのジベレリン(GA3)及び1mMの各種薬剤を混合した溶液を花序に与えた。各種薬剤としては、GSSG、GSHをそれぞれ用いた。その後、各種薬剤を塗布した後、実った果実を収穫した。また、比較のため、上記各種薬剤を用いず、GA3のみを与えた以外は同様にしてブドウを生育させて、果実を収穫して以下の官能試験に供した。
【0094】
次に、収穫した実の糖度について官能試験を行なった。その結果、GA3のみを与えて生育させて得た果実に比べて、GSSG及びGA3、GSH及びGA3を与えて生育させて得た果実ではいずれも糖度の増加が確認された。また、GSSG及びGA3を与えた場合では、果実の肥大化が確認された。
【0095】
また、GSSG又はGSHを用いた場合について、GA3を用いずにブドウを生育させたところ、糖度の増加が確認された。なお、GA3を用いない場合、種なし効果は抑制された。
【0096】
<実施例6.細胞内の酸化還元状態を調節する物質添加後の経時変化>
本実施例では、細胞内の酸化還元状態を調節する物質を植物に与えた後の、当該植物中の糖度を測定した。細胞内の酸化還元状態を調節する物質としては、GSH、GSSGを用いた。また、植物としては実施例1で用いた植物と同じトマトを用いた。具体的には、次の操作を行なった。
【0097】
トマトの種子を播種した後、90日後にGSH又はGSSGで処理した。トマトを生育させる方法については、GSH又はGSSGによる処理以外は実施例1に記載の方法と同じ方法で行なった。GSH又はGSSGによる処理は、一株当たり0.5mM GSSH又は0.5mM GSH(0.1N NaOHを用いてpH7に調整) 50mLを根元に一回投与した。そして、投与後、0日目~4日目まで1日毎に果実を収穫して、その糖度を測定した。結果を図3に示す。図3は、GSSG又はGSHの処理日からの経過日数と糖度との関係を確認した結果を示す図であり、縦軸が糖度(Brix、単位:%)を示し、横軸が処理日からの日数を示す。また、図3において丸印はGSHを投与した結果を示し、三角印はGSSGを投与した結果を示し、四角印は比較のためGSSG及びGSHを投与しなかったときの結果を示す。なお、GSSG又はGSHの投与については0日目の朝に行ない、図3における0日目の結果は、果実の収穫及び糖度の測定を0日目の夕方に行なった結果を示している。
【0098】
図3に示すように、GSSG又はGSHを投与することで、迅速に果実の糖度を向上させることができることが示された。
【0099】
<実施例7.GSH1遺伝子を導入した植物の作出>
本実施例では、細胞内の酸化還元状態を調節する物質として、γ-グルタミルシステインシンセターゼ遺伝子をクローニングして用いた。これは、配列番号3に示す配列を有するポリヌクレオチドであり、GSH1遺伝子の一つであり、本実施例において単に「GSH1遺伝子」と表記する。
【0100】
(1)使用植物
形質転換体を作製するための親植物として、野生型シロイヌナズナのColumbia (Col‐0)を用いた。植物は、正方形のプラスチックポット(6.5×6.5×5 cm)の中に底からバーミキュライト(旭工業、岡山)、クレハ培養土(クレハ園芸培土、呉羽化学、東京)、バーミキュライトを2:1:1の割合で3層に入れた土壌に播種し、生育温度22℃、長日条件(16時間明期/8時間暗期)で生育させた。
【0101】
(2)GSH1遺伝子のクローニング、GSH1遺伝子の改変、およびGSH1形質転換体の作出
3週齢のシロイヌナズナの野生型Columbia(Col‐0)から全RNAを単離し、Prostar first strand RT‐PCRキット(Stratagene, La Jolla, CA, USA)を用いてcDNAを合成した。
【0102】
次に、GSH1遺伝子のcDNA配列に基づいて設計した以下の特異的なプライマーを用いて、完全長cDNAを2つの断片としてPCRにより増幅し、それぞれの断片をpGEM‐T Easyベクター(Promega, Madison, WI, USA)にサブクローニングした。プライマーGSH1_5’‐3とGSH1_3’‐2上には、植物形質転換用binary vector pBI121へ導入する時に必要なXbaIとSacI切断部位をそれぞれ挿入している。
GSH1_5'-3: 5'-GCTTTCTTCTAGATTTCGACGG-3'(配列番号10)
GSH1_3'-3: 5'-CCTGATCATATCAGCTTCTGAGC-3'(配列番号11)
GSH1_5'-2: 5'-ATGCCAAAGGGGAGATACGA-3'(配列番号12)
GSH1_3'-2: 5'-GGAGACTCGAGCTCTTCAGATAG-3'(配列番号13)
2つの断片をKpnI切断部位で融合し完全長cDNAを含むベクター(Chl.GSH1-pGEM)を構築した。Chl.GSH1‐pGEMを制限酵素XbaIとSacIで処理後、断片をbinary vector pBI121のcauliflower mosaic virusの35Sプロモーターの下流のβ‐グルクロニダーゼ(GUS)をコードする領域と置き換え、形質転換植物を作出するためのコンストラクト(35S‐Chl.GSH1-pBI121)を作製した。
【0103】
また、シロイヌナズナゲノム上には、GSH1遺伝子は1コピーしか存在せず、葉緑体への移行シグナルを含んでいる。そこで、細胞質にGSH1遺伝子産物(γ-グルタミルシステインシンセターゼ)を蓄積させるため、葉緑体移行シグナルと推定されるN末側73アミノ酸を除き、N末から74番目のアラニン残基をメチオニン残基に置換したタンパク質を発現させるためのコンストラクト(35S‐cyt.GSH1-pBI121)を作製した。まず、以下に示すN末から74番目のアラニン残基がメチオニン残基に置換され、その上流にXbaI切断部位が挿入された(塩基置換部位は下線で表示)プライマーGSH1(cyt.)_5’と上記GSHI_3’‐3を用いてPCRを行い、断片を制限酵素XbaIとKpnIで処理後、pBluescriptベクター(Stratagene, La Jolla, CA, USA)にサブクローニングした(cyt.GSH1-pBS)。
GSH1(cyt.)_5': 5'-AGGGCATCTAGAGACCATGGCAAGTCC-3'(配列番号14)
cyt.GSH1-pBSを制限酵素XbaIとKpnIで処理後、断片を35S‐Chl.GSHI‐pBI121のGSH1上のXbaI‐KpnI断片と置き換え、35S‐cyt.GSH1-pBI121を作製した。
【0104】
上記により作製した35S‐Chl.GSH1-pBI121及び35S‐cyt.GSH1-pBI121の2種の発現ベクターをアグロバクテリウム法 (Clough, S.J. and SH1-pB Bent, A.F. (1998) Floral dip: A simplified method for Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana. Plant J. 16: 735-743.)を用いて、Col‐0に導入し、形質転換植物を作出した。
【0105】
具体的には、選抜マーカーであるカナマイシンを含む寒天培地(1/2倍の濃度のムラシゲ-スクーグ培地)上で、すべての種子がカナマイシン耐性を示す世代(分離しなくなった世代)になるまで選抜を繰り返した。また選抜途中で、カナマイシン耐性の形質が3対1で分離し、発現ベクターが少なくとも単一の染色体上に導入されていることを確認した。
【0106】
以上のようにして得られた植物を、以下「35S‐GSH1」と表記する。
【0107】
(3)糖度の測定
35S‐GSH1及び比較のため野生型シロイヌナズナ(Col‐0)を生育光強度50又は500μEm-2-1で生育させた。一週間生育させた後、植物体を採取した。次に、採取した植物体を液体窒素で凍結させた後、粉末状になるまですり潰し、植物体50mg当たり100μlの50mM 酢酸ナトリウムバッファーで抽出した。
【0108】
次に、得られた抽出物中のグルコース及び澱粉の量を測定した。グルコースの量の測定については、グルコースCII‐テストワコー(和光純薬社製)を用いて行なった。また、澱粉の量の測定については、抽出物に対してアミログルカナーゼ35Units/ml及び酢酸ナトリウムバッファー(50mM、pH4.5)を混合して1時間静置した後、グルコースの量を測定した。結果を図4に示す。図4は35S‐GSH1の澱粉及びグルコースを測定した結果を示し、図4の(a)は澱粉の量、図4の(b)はグルコースの量を示す。また、図4の(a)及び(b)において縦軸はそれぞれ澱粉及びグルコースの相対含量を示し、横軸は用いた植物の種類を示す。横軸においてA及びBは、35S‐GSH1を示す。つまり、本実施例では、35S‐GSH1を図4に示すA及びBの2株用いて実験を行なった。また、上記相対含量とは、生育光強度50μEm-2-1で生育させたCol‐0の結果を100としたときの相対的な量を意味する。
【0109】
図4に示すように、35S‐GSH1では、Col‐0に比べて、高い澱粉量及び糖度を示した。
【0110】
<実施例8.オウトウの作出>
本実施例では、オウトウを生育させた。具体的には、オウトウ(ナポレオン)の収穫予定日の4週間前と3週間前に、収穫予定果実の結実枝の葉面に0.5mMのGSSGを塗布し、予定日に果実を収穫した。
【0111】
次に、収穫した実の糖度について官能試験を行なった。その結果、GSSGを与えて生育させて得た果実では糖度の増加と酸度の低下が確認された。また、GSSGを与えた場合では、果実重量の増加が確認された。さらに、得られた果実の糖度をポケット糖度計APAL‐1(株式会社アタゴ製)を用いて測定した。なお、比較のためGSSGを与えなかった場合についても糖度を測定した。図5は、本実施例で得られたオウトウの果実の糖度を測定した結果を示し、縦軸が糖度(Brix、単位:%)を示している。なお、ANOVA解析については、StatView5.0(SAS Institute Inc.製)を用いて行ない、有意差水準5%で検定し、有意差を認めた。
以上のように、GSSGを与えることで有意に糖度が向上したオウトウ果実が得られた。
【0112】
<実施例9.温州ミカンの作出>
本実施例では、温州ミカンを生育させた。具体的には、温州ミカンの収穫予定日の1週間前に、収穫予定果実の結実枝の葉面に0.5mMのGSSGを塗布し、予定日に果実を収穫した。
【0113】
次に、収穫した実の糖度について官能試験を行なった。その結果、GSSGを与えて生育させて得た果実では糖度の増加と酸度の低下が確認された。また、GSSGを与えた場合では、果実重量の増加が確認された。さらに、得られた果実の糖度をポケット糖度計APAL‐1(株式会社アタゴ製)を用いて測定した。なお、比較のためGSSGを与えなかった場合についても糖度を測定した。図6は、本実施例で得られた温州ミカンの果実の糖度を測定した結果を示し、縦軸が糖度(Brix、単位:%)を示している。なお、ANOVA解析については、StatView5.0(SAS Institute Inc.製)を用いて行ない、有意差水準5%で検定し、有意差を認めた。
【0114】
以上のように、GSSGを与えることで有意に糖度が向上した温州ミカンの果実が得られた。
【0115】
<実施例10.イチゴの作出>
本実施例では、GSSG又はGSHを用いてイチゴを育成した。具体的には次の通りである。
【0116】
まず、イチゴの苗を、プランターに植え替えた。プランターには、下層バーミキュライト(旭工業株式会社製)6L、中層クレハ園芸培土(株式会社クレハ製)3L、上層バーミキュライト3Lを重層させた。
【0117】
イチゴを生育させる間、一株当たり0.2mM若しくは0.5mMのGSSG又は0.4mM又は1.0mMのGSH(0.1N NaOHを用いてpH7に調整)を50mL/週・1回、根元に投与して、芽かきをせずに63日間生育させた。また、比較のため、GSSG及びGSHのいずれも与えなかった以外は、同じ条件でイチゴを生育させた。なお、いずれの条件においても、追肥として、くみあい燐硝安加里S‐604号(チッソ旭肥料株式会社製)3gを2週に1回与えた。
【0118】
次に、収穫した果実の糖度等について官能試験を行なった。その結果、GSSG及びGSHのいずれも与えなかった場合に比べて、GSSGを与えて得た果実では、糖度の増加と酸味の低下が確認された。また果実数の増加が確認された。GSHを与えて得た果実では、糖度と酸味の増加が確認された。
【0119】
さらに、得られた果実の糖度をポケット糖度計APAL‐1(株式会社アタゴ製)を用いて測定した。なお、比較のためGSSG及びGSHのいずれも与えなかった場合についても糖度を測定した。図7は、本実施例で得られたイチゴの果実の糖度を測定した結果を示し、縦軸が糖度(Brix、単位:%)を示している。なお、ANOVA解析については、StatView5.0(SAS Institute Inc.製)を用いて行ない、有意差水準5%で検定し、有意差を認めた。
【0120】
以上の結果から、GSSG、GSHを含む培地を用いてイチゴを生育させることで、糖度が増加したイチゴ果実を作出できることが示された。
【0121】
<実施例11.スイートコーンの作出>
本実施例では、スイートコーンを生育させた。具体的には、まず、スイートコーン(タキイ種苗社製、品番:キャンベラ86)の種子をバーミキュライト(旭工業株式会社製)に播種した。播種2週間後に、実施例1に記載の水耕栽培用鉢に植え替えて、追肥として、4週後及び6週後にそれぞれくみあい燐硝安加里S‐604号3gを与えた。
【0122】
また、播種後5週目、6週目、7週目、8週目に0.5mM GSSG(点着剤として0.1%Tween80に溶解)を葉面散布した。なお、比較のため、GSSGを与えない代わりにTween80を与えた以外は本実施例と同じ方法でスイートコーンを生育させて実を収穫した。
【0123】
播種から86日後に実を収穫して、糖度について官能試験を行なった。その結果、GSSGを与えて生育させて得た実では、GSSGを与えずに生育させて得た実に比べて、糖度の増加が確認された。さらに、得られた果実の糖度をポケット糖度計APAL‐1(株式会社アタゴ製)を用いて測定した。なお、比較のためGSSGを与えなかった場合についても糖度を測定した。図8は、本実施例で得られたスイートコーンの果実の糖度を測定した結果を示し、縦軸が糖度(Brix、単位:%)を示している。なお、ANOVA解析については、StatView5.0(SAS Institute Inc.製)を用いて行ない、有意差水準5%で検定し、有意差を認めた。
【0124】
また、GSSGを与えた場合、実の肥大、実の数の増加が確認された。さらに、GSSG投与の方は播種後70日目で既に収穫可能であることが確認された。
【0125】
以上の結果から、GSSGを含む培地を用いてスイートコーンを生育させることで、糖度が増加したスイートコーンの実を作出できることが示された。
【0126】
本発明に係る糖度が向上した植物体を作出するための組成物は、細胞内の酸化還元状態を調節する物質を含有しているので、糖度が向上した植物体を簡便に作出することができるという効果を奏する。
【0127】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明に係る組成物によれば、糖度が向上した植物を容易に作出することができるので、農業、食品産業等の産業に利用可能性がある。また、糖度の高い植物からはエタノールを高効率に製造できるので、エネルギー産業等の広範な産業において利用可能性がある。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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