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明細書 :代謝症候群の治療もしくは予防剤、検査方法、検査薬、及び代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5099856号 (P5099856)
登録日 平成24年10月5日(2012.10.5)
発行日 平成24年12月19日(2012.12.19)
発明の名称または考案の名称 代謝症候群の治療もしくは予防剤、検査方法、検査薬、及び代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法
国際特許分類 A61K  48/00        (2006.01)
A61K  38/00        (2006.01)
A61P   3/04        (2006.01)
A61P   3/10        (2006.01)
A61P   3/08        (2006.01)
A61P   9/12        (2006.01)
A61P   9/10        (2006.01)
A61P   9/00        (2006.01)
A61P   1/00        (2006.01)
A61P   3/00        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
FI A61K 48/00 ZNA
A61K 37/02
A61P 3/04
A61P 3/10
A61P 3/08
A61P 9/12
A61P 9/10 101
A61P 9/10
A61P 9/00
A61P 1/00
A61P 3/00
C12Q 1/68 A
C12Q 1/02
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
C12N 15/00 A
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2009-543774 (P2009-543774)
出願日 平成20年11月21日(2008.11.21)
国際出願番号 PCT/JP2008/071212
国際公開番号 WO2009/069546
国際公開日 平成21年6月4日(2009.6.4)
優先権出願番号 2007305122
優先日 平成19年11月26日(2007.11.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年4月26日(2010.4.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】新藤 隆行
個別代理人の代理人 【識別番号】100106002、【弁理士】、【氏名又は名称】正林 真之
【識別番号】100120891、【弁理士】、【氏名又は名称】林 一好
審査官 【審査官】平林 由利子
参考文献・文献 国際公開第05/110433(WO,A1)
特開2004-057003(JP,A)
TAM,C.W. et al, Enhanced vascular responses to adrenomedullin in mice overexpressing receptor-activity-modifying protein 2, Circ Res, 2006, Vol.98, No.2, p.262-70
TAM,C.W. et al, Effect of L-NAME on blood pressure regulation in mice overexpressing the adrenomedullin receptor component RAMP2, Acta Pharmacologica Sinica, 2006, Vol.27, No.Suppl, p.146-147
FUKAI,N. et al, Concomitant expression of adrenomedullin and its receptor components in rat adipose tissues, Am J Physiol Endocrinol Metab, 2005, Vol.288, No.1, p.E56-62
調査した分野 A61K 48/00
A61K 38/00-38/58
C12Q 1/00- 3/00
G01N 33/15
G01N 33/50
特許請求の範囲 【請求項1】
受容体活性改変タンパク質(RAMP)2をコードする以下の(a)から()のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する代謝症候群の治療又は予防剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA
【請求項2】
代謝症候群の検査方法であって、
被験者の細胞からDNAを抽出する抽出手順と、
抽出された前記DNAを鋳型とし、配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行う増幅手順と、
増幅されたDNAの塩基配列を解読する解読手順と、
解読された塩基配列を、配列番号3記載の塩基配列と比較する比較手順と、を含む検査方法。
【請求項3】
配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマー、又は、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントを有効成分とする代謝症候群の検査薬。
【請求項4】
代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号2記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドと被検物質とを接触させる手順と、
前記ポリペプチドと前記被検物質との結合を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【請求項5】
代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
内在性RAMP2遺伝子が変異又はノックアウトされた動物に被検物質を投与する手順と、
代謝症候群の症状改善を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【請求項6】
代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、
前記DNAの発現量の変化を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【請求項7】
代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、
前記DNAから合成されるタンパク質の細胞内局在の変化を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【請求項8】
代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号6記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド、このポリペプチドを分解可能な酵素、及び被検物質を共存させる手順と、
所定期間後における前記ポリペプチドの残存量を測定する手順と、
残存量の測定値を、前記被検物質の非存在下で測定された残存量と比較する手順と、を含むスクリーニング方法。
【請求項9】
代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAと、配列番号4を有するDNA、配列番号4記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号4記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAと、を発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、
配列番号5記載の塩基配列を有するDNAでコードされるリガンドの刺激に基づく細胞内シグナル伝達の誘導、又は前記リガンドの刺激に基づくGタンパク質の活性化を検出する手順を含むスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、代謝症候群の治療もしくは予防剤、検査方法、検査薬、及び代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、代謝症候群の患者が、先進国を中心に急速に増加している。代謝症候群とは、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)と、高血糖・高血圧・高脂血症の2種以上とが合併した複合生活習慣病である。かかる複合的症状ゆえに、代謝症候群は、心臓病、脳卒中等の進行を促進し、高齢者の健康寿命やQOLを著しく悪化する最大の原因である。このような背景の下、社会全体の活力維持や医療コストの低減のため、代謝症候群の征圧は大きな社会的ニーズとなっている。
【0003】
代謝症候群と、動脈硬化、血管合併症、臓器障害発症との間を結ぶ重要な分子基盤として、アディポカイン等の多彩な生理活性を有する液性因子が注目されている。液性因子は脂肪組織以外の様々な末梢臓器でも産生され、これら末梢臓器が液性因子を介して密に連携し合うことで生体内の恒常性が維持される一方、液性因子のバランスの破綻が動脈硬化や臓器障害発症の一端を担っていると考えられている。本発明者らは、液性因子群の一つとして、アドレノメデュリン(AM)及びその受容体活性調節タンパク(RAMP)システムに注目している。
【0004】
アドレノメデュリン(AM)は、血管をはじめ全身の組織で産生されるペプチドである。AMは、血管拡張作用に加え、体液量調節作用、ホルモン分泌調節作用、抗酸化作用、抗炎症作用等、多彩な生理活性を持つことが明らかとなってきた。本発明者らはこれまで、AMノックアウトマウスのヘテロ接合体では血圧上昇が認められ、心血管系に傷害を加えたときの心肥大、線維化、腎障害、動脈硬化が亢進するのに対して、AM過剰発現マウスでは逆に血圧低下が認められ、臓器傷害や動脈硬化への抵抗性が示されることから、AMが臓器保護作用、抗動脈硬化作用を有することを報告してきた(非特許文献1~3参照)。
【0005】
また、本発明者らは、AMノックアウトマウスのホモ接合体が不充分な血管発達ゆえに胎生中期にびまん性出血や浮腫が原因で致死することから、AMが、血管の成熟、血管構造の安定化そのものに必須な物質であることを初めて明らかとした(非特許文献4参照)。更に最近、血中AM濃度が肥満に伴い上昇し、Body mass indexと相関すること、AMが脂肪組織においても発現し、この発現が肥満状態で亢進すること(非特許文献5、6参照)が報告されている。一方で、AMノックアウトマウスでは、加齢に従い、肥満、耐糖能異常、及び生体内酸化ストレス亢進に伴う臓器障害の進展が観察されたことから、AMと代謝症候群との関連性が示唆されている。

【非特許文献1】Shindo T et al. Circulation. 2000
【非特許文献2】Imai Y, Shindo T et al. ATVB 2002
【非特許文献3】Niu P, Shindo T et al. Circulation 2004
【非特許文献4】Shindo T et al. Circulation. 2001
【非特許文献5】Kato J et al. Hypertens Res. 2002
【非特許文献6】Numbu T et al. Regul Pept. 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、AMは、血中半減期が短いため、慢性疾患である代謝症候群の治療薬として使用するには多くの制約を抱えている。
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、生体内での安定性を向上できる代謝症候群の治療又は予防剤を提供することを目的とする。また、本発明は、代謝症候群の検査方法及び検査薬、並びに代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究する過程で、AMの受容体システムに注目するに至った。AM受容体本体は、Gタンパク共役型受容体class Bに属するCRLR(calcitonin receptor like receptor)と呼ばれる7回膜貫通型受容体である。CRLRは、一回膜貫通型タンパクであるRAMP(receptor activity modifying protein)1、2、3サブアイソフォームのいずれかと結合し、ヘテロダイマーを形成する。
【0009】
本発明者らは、CRLRに結合するRAMPのサブアイソフォームを適宜変化することで、AM受容体及びリガンドの親和性が制御されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) 受容体活性改変タンパク質(RAMP)2をコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する代謝症候群の治療又は予防剤。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA
【0011】
(2) 代謝症候群の検査方法であって、
被験者の細胞からDNAを抽出する抽出手順と、
抽出された前記DNAを鋳型とし、配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行う増幅手順と、
増幅されたDNAの塩基配列を解読する解読手順と、
解読された塩基配列を、配列番号3記載の塩基配列と比較する比較手順と、を含む検査方法。
【0012】
(3) 配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマー、又は、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントを有効成分とする代謝症候群の検査薬。
【0013】
(4) 代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号2記載のアミノ酸配列、又は配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドと被検物質とを接触させる手順と、
前記ポリペプチドと前記被検物質との結合を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【0014】
(5) 代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
内在性RAMP2遺伝子が変異又はノックアウトされた動物に被検物質を投与する手順と、
代謝症候群の症状改善を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【0015】
(6) 代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、
前記DNAの発現量の変化を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【0016】
(7) 代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、
前記DNAから合成されるタンパク質の細胞内局在の変化を検出する手順と、を含むスクリーニング方法。
【0017】
(8) 代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号6記載のアミノ酸配列、又は配列番号6記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド、このポリペプチドを分解可能な酵素、及び被検物質を共存させる手順と、
所定期間後における前記ポリペプチドの残存量を測定する手順と、
残存量の測定値を、前記被検物質の非存在下で測定された残存量と比較する手順と、を含むスクリーニング方法。
【0018】
(9) 代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法であって、
配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAと、配列番号4を有するDNA、配列番号4記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号4記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAと、を発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、
配列番号5記載の塩基配列を有するDNAでコードされるリガンドの刺激に基づく細胞内シグナル伝達の誘導、又は前記リガンドの刺激に基づくGタンパク質の活性化を検出する手順を含むスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、RAMP2又はその機能的同等物が体内に供給されるため、代謝症候群を効果的に治療又は予防できる。しかも、RAMP2又はその機能的同等物は、膜タンパク質であるため、長い血中半減期を有し、生体での安定性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】RAMP2+/-、ob/obマウスから採取した肝臓のHE染色写真(a)、及びオイルレッドO染色写真(b)である。
【図2】RAMP2+/-マウスの大腿動脈とその周囲の切片写真(a)、及び大動脈部分拡大図(b)である。
【図3】RAMP2+/-マウスの大腿動脈切片写真である。
【図4】RAMP2+/-マウスの大腿動脈における各遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図5】RAMP2+/-マウスの別の大腿部切片写真である。
【図6】RAMP2+/-マウスにおける大腿動脈の血栓量を示すグラフである。
【図7】RAMP2+/-マウスにおける大腿動脈の血管狭窄量を示すグラフである。
【図8】RAMP2+/-マウスの別の大腿部切片写真である。
【図9】RAMP2遺伝子を内皮細胞特異的にノックアウトするためのベクターの概略図である。
【図10】血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス由来の細胞におけるRAMP2遺伝子の発現量を示すグラフである。
【図11】血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウスから採取した肺の染色写真(a)、及びその部分拡大図(b)である。
【図12】血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウスから採取した腎臓の外観写真(a)、断面写真(b)、及び切片の染色写真(c)である。
【図13】図12(c)の部分拡大図である。
【図14】RAMP2遺伝子を心筋細胞特異的にノックアウトするための別のベクターの概略図である。
【図15】心筋細胞特異的RAMP2ノックアウトマウスから採取した心臓の外観写真(a)、切片の染色写真(b)である。
【図16】図15(b)の部分拡大図である。
【図17】図15の心臓の心筋細胞の横径を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0022】
<治療薬・予防薬>
本発明の代謝症候群の治療又は予防薬は、受容体活性改変タンパク質(RAMP)2をコードする以下の(a)から(d)のいずれかに記載のDNA、又はこのDNAがコードするポリペプチドを有効成分として含有する。
(a)配列番号1記載の塩基配列を有するDNA
(b)配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(c)配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(d)配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNA
【0023】
なお、本明細書における「代謝症候群」は、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)と、高血糖・高血圧・高脂血症の2種以上とが合併した状態を指し、動脈硬化、虚血性疾患(心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症)、血管不全、臓器不全等の合併症も包含し、又はこれら合併症の原因の一つであると想定される。
【0024】
本発明における「DNA」は、センス鎖又はアンチセンス鎖(例えば、プローブとして使用できる)のいずれでもよく、その形状は一本鎖と二本鎖のいずれでもよい。また、ゲノムDNAであっても、cDNAであっても、合成されたDNAであってもよい。
【0025】
本発明のDNAの最も好ましい態様は、配列番号1記載の塩基配列を有するDNAであるが、本発明のDNAには、更に、代謝症候群の治療又は予防効果を有する種々の変異体やホモログが含まれる。ここで「代謝症候群の治療又は予防効果」は、内臓脂肪型肥満(内臓肥満・腹部肥満)、高血糖、高血圧、高脂血症の少なくとも1種の症状が改善され又は症状悪化が抑制される効果であって、改善又は抑制が統計的に有意である効果を指す。
【0026】
配列番号1は、ヒトRAMP2の細胞外ドメインをコードする塩基配列である。この配列番号1記載の塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、例えば、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNAが含まれる。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、通常のハイブリダイゼーション緩衝液中、40~70℃(好ましくは、60~65℃)で反応を行い、塩濃度15~300mM(好ましくは、15~60mM)の洗浄液中で洗浄を行う条件が挙げられる。
【0027】
また、配列番号2は、ヒトRAMP2タンパク質の細胞外ドメインを構成することが知られている(Trends in Biochemical Science, Vol. 31, No.11, pp.631-638)。かかる配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAも含まれる。ここで「1もしくは複数」とは、通常、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。筋特異的チロシンキナーゼを活性化する能力を維持する場合、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ離(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。
【0028】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662-5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487-6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431-1433、Dalbadie-McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409-6413)。
【0029】
更に、配列番号1記載の塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、配列番号1記載の塩基配列と高い相同性を有する塩基配列からなるDNAが含まれる。このようなDNAは、好ましくは、配列番号1記載の塩基配列と90%以上、更に好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有する。アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol. 215:403-410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0030】
本発明のDNAを取得する方法としては、特に限定されないが、mRNAから逆転写することでcDNAを得る方法(例えば、RT-PCR法)、ゲノムDNAから調整する方法、化学合成により合成する方法、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーから単離する方法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0031】
<ポリペプチド>
本発明の治療又は予防剤で使用されるポリペプチドは、前述のDNAによりコードされ、例えば、配列番号2記載のアミノ酸配列を有し、又は配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する。
【0032】
上記のポリペプチドは、ヒトRAMP2タンパク質の膜貫通領域及び細胞内ドメインの全部は有しないために高い可溶性を備えることが期待され、以下の方法等で容易に精製できる。また、RAMP2の細胞外ドメインは、CRLRと結合して複合体を形成するために必須であることが分かっている(データ示さず)。このため、上記のポリペプチドは、投与された細胞膜上のCRLRと複合体を形成し、代謝症候群の治療又は予防効果を奏する。
【0033】
本発明のDNAがコードするポリペプチドは、例えば、前述のDNAを含む発現ベクターが導入された形質転換体を使用することで、作製できる。即ち、まず、この形質転換体を適宜の条件で培養し、このDNAがコードするタンパク質(ポリペプチド)を合成させる。そして、合成されたタンパク質を形質転換体又は培養液から回収することにより、本発明のポリペプチドを得ることができる。
【0034】
形質転換体の培養は、ポリペプチドが大量に且つ容易に取得できるように、形質転換体の種類等に応じて、公知の栄養培地から適宜選択し、温度、栄養培地のpH、培養時間等を適宜調整して行うことができる(例えば、特開平11-29599号公報参照)。
【0035】
ポリペプチドの単離方法及び精製方法としては、特に限定されず、溶解度を利用する方法、分子量の差を利用する方法、荷電を利用する方法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。なお、本発明で使用できるベクター及び形質転換体を以下に説明する。
【0036】
(ベクター)
発現ベクターは、適当なベクターに上述のDNAを挿入することにより、作製できる。「適当なベクター」とは、原核生物及び/又は真核生物の各種の宿主内で複製保持又は自己増殖できるものであればよく、使用の目的に応じて適宜選択できるものである。例えば、DNAを大量に取得したい場合には高コピーベクターを選択でき、ポリペプチドを取得したい場合には発現ベクターを選択できる。その具体例としては、特に限定されず、例えば、特開平11-29599号公報に記載された公知のベクターが挙げられる。
【0037】
(形質転換体)
形質転換体は、前述のDNAを含むベクターを宿主に導入することにより、作製できる。このような宿主は、本発明のベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、特に限定されないが、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、公知の天然細胞もしくは人工的に樹立された細胞(特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0038】
ベクターの導入方法は、ベクターや宿主の種類等に応じて適宜選択できるものである。その具体例としては、特に限定されないが、プロトプラスト法、コンピテント法等の公知の方法(例えば、特開平11-29599号公報参照)が挙げられる。
【0039】
本明細書における「有効成分」は、代謝症候群の所望の治療又は予防効果を得るために必要な量で含有される成分を指し、効果が所望のレベル未満にまで損なわれない限りにおいて、他の成分も含有されてよい。また、医薬組成物の投与経路は、経口又は非経口のいずれであってもよく、適宜設定される。
【0040】
経口投与の場合、医薬組成物は、一般に使用される結合剤、包含剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤のような添加剤を含有してよく、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤等の種々の形状に製剤化される。また、医薬組成物は、内用水剤、懸濁剤、乳剤シロップ剤等の液体状態であってもよく、使用時に再溶解される乾燥状態であってもよい。
【0041】
非経口投与の場合、医薬組成物は、安定剤、緩衝剤、保存剤、等張化剤等の添加剤も含有してよく、通常、単位投与量アンプルもしくは多投与量容器又はチューブ内に収容された状態で流通される。また、医薬組成物は、使用時に、適当な担体(滅菌水等)で再溶解可能な粉体に製剤化されてもよい。
【0042】
<検査方法、検査薬>
前述のDNAは、代謝症候群への罹患の有無についての検査に利用できる。本発明に係る代謝症候群の検査方法は、抽出手順、増幅手順、解読手順、及び比較手順を含む。
【0043】
抽出手順では、被験者の細胞からDNAを抽出する。抽出の手法は常法に従えばよい。
【0044】
増幅手順では、抽出されたDNAを鋳型とし、配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はその発現制御領域のDNAの一部又は全部を特異的に増幅できるプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行う。これにより、配列番号3の一部又は全部を有するDNAが特異的に増幅される。なお、配列番号3は、ヒトRAMP2遺伝子の全塩基配列である。
【0045】
解読手順では増幅されたDNAの塩基配列を解読し、比較手順では、解読された塩基配列を、配列番号3記載の塩基配列と比較する。塩基配列の解読及び比較は常法に従えばよい。比較の結果、取得したDNAの塩基配列が、配列番号3と相違する場合、被疑者が代謝症候群に既に罹患し又は罹患しやすいものと判断し得る。
【0046】
また、本発明の検査方法は、例えば、増幅手順において増幅されたDNAを、RAMP2が変異又はノックアウトされた細胞、組織、器官、又は個体に導入し、代謝症候群に属する症状が改善され、又は悪化が抑制されるか否かを判断する判断手順を更に備えてもよい。これにより、増幅されたDNAの塩基配列と配列番号1記載の塩基配列との差異が単なる多型である場合等を排除できるので、検査精度が向上する。
【0047】
(ノックアウト体)
前述のDNAを変異又はノックアウトすることにより、非ヒト形質転換細胞、組織、器官、及び個体を作製できる。非ヒト動物としては、特に限定されないが、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等が挙げられる。
【0048】
非ヒト形質転換動物の作製方法は、例えば、次の通りである。まず、本発明のDNA、DNAの変異、又はDNAと相同組換えされるDNAを非ヒト哺乳動物の受精卵に導入する。そして、この受精卵を雌個体子宮に移植して発生させることにより、本発明のDNAが形質転換された非ヒト形質転換動物を作製できる。
【0049】
非ヒト形質転換動物の作製は、より具体的には、例えば、次のように行うことができる。まず、ホルモン投与により過剰排卵させた後の雌個体を、雄と交配する。次いで、交配後1日目の雌個体の卵管から受精卵を摘出し、変異されたDNA又はDNAと相同組換え可能なDNAを含むベクターを、受精卵にマイクロインジェクション等の方法で導入する。そして、導入後の受精卵を適当な方法で培養した後、生存した受精卵を、偽妊娠させた雌個体(仮親)の子宮に移植し、新生仔を出産させる。この新生仔においてDNAが形質転換されているか否かは、この新生仔の細胞から抽出したDNAについて、サザン解析により確認できる。
【0050】
その他、胚性幹細胞(ES細胞)株において遺伝子導入及び選別を行った後、生殖系列に寄与したキメラ動物を作製し、交配することによって、非ヒト形質転換動物を作製してもよい。
【0051】
別の検査方法は、被験者由来の細胞における配列番号1記載の塩基配列を有するDNAの発現量を検出する検出手順と、検出されたDNAの発現量を、健常者における配列番号1記載のDNAの発現量と比較する比較手順と、を含む。
【0052】
ここで「DNAの発現」には、転写レベル(mRNAの発現)及び翻訳レベル(タンパク質の発現)が含まれる。従って、発現量は、配列番号1記載の塩基配列の一部又は全部を有するDNAを特異的に増幅できるプライマーを用いて定量的RT-PCRを行うことで検出してもよいし、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドに特異的に結合する抗体又は抗体フラグメントを用いてウェスタン解析等を行うことで検出してもよい。
【0053】
この検査方法によれば、比較の結果、被験者におけるDNAの発現量が、健常者におけるDNAの発現量と有意に相違する場合、被疑者が代謝症候群に既に罹患し又は罹患しやすいものと判断し得る。
【0054】
本発明に係る代謝症候群検査薬は、配列番号1記載の塩基配列の一部又は全部を有するDNAを特異的に増幅できるプライマー、又は、上述した抗体又は抗体フラグメントを有効成分として含有する。
【0055】
<スクリーニング方法>
本発明に係る代謝症候群の治療薬の候補化合物のスクリーニング方法は、内在性RAMP2遺伝子がノックアウトされた動物に被検物質を投与する手順と、代謝症候群の症状改善を検出する手順と、を含む。
【0056】
このスクリーニング方法によれば、症状改善が検出された被検物質は、RAMP2の機能を補完又は代替できるため、代謝症候群の治療薬の候補化合物として特定できる。
【0057】
別のスクリーニング方法は、配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、前記DNAの発現量の変化を検出する手順と、を含む。
【0058】
配列番号1等のDNAの発現量の変化が検出された被検物質は、RAMP2の機能を強化又は減退できると推測される。具体的には、DNA発現量を増加する物質は、RAMP2の機能を強化できるので、投与されると代謝症候群を治療できることが推測される。一方、DNA発現量を低下する物質はRAMP2の機能を減退できるので、この物質を阻害する物質を投与することで、代謝症候群を治療できることが推測される。
【0059】
なお、この方法及び以下の方法で使用される細胞は、内在性RAMP2を発現していても、発現していなくてもよい。ただし、内在性RAMP2による不明確な影響を除外できる点で、内在性RAMP2を発現しない細胞(例えば、COS7)が好ましい。
【0060】
別のスクリーニング方法は、配列番号2記載のアミノ酸配列、又は配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドと被検物質とを接触させる手順と、前記ポリペプチドと前記被検物質との結合を検出する手順と、を含む。
【0061】
このスクリーニング方法によれば、配列番号2等のポリペプチドに結合する被検物質が得られる。かかる被検物質は、配列番号2等のポリペプチドを介した代謝症候群の治療経路に関与する可能性を有し、代謝症候群を治療できることが推測される。
【0062】
別のスクリーニング方法は、配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAを発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、前記DNAから合成されるタンパク質の細胞内局在の変化を検出する手順と、を含む。
【0063】
このスクリーニング方法によれば、配列番号1等から合成されるタンパク質の細胞内局在を変化させる被検物質が得られる。ここで、RAMP2は、AM及び受容体が結合して初めて、受容体と共にエンドサイトーシスで細胞内に取り込まれ、外部からAMへの刺激がなければ、細胞が生きている限り、細胞膜上に安定して存在し続ける。また、エンドサイトーシスで、一旦細胞内に取り込まれても、その一部は再び細胞膜に戻り、リサイクルされていることが推測される。よって、得られた被検物質は、RAMP2を介した代謝症候群の治療効果を向上できる可能性を有し、代謝症候群の治療薬として期待できる。
【0064】
別のスクリーニング方法は、配列番号6記載のアミノ酸配列、又は配列番号6記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチド、このポリペプチドを分解可能な酵素、及び被検物質を共存させる手順と、所定期間後における前記ポリペプチドの残存量を測定する手順と、残存量の測定値を、前記被検物質の非存在下で測定された残存量と比較する手順と、を含む。
【0065】
配列番号6は、ヒトアドレノメデュリン(AM)の全アミノ酸配列である。このスクリーニング方法によれば、配列番号6記載のアミノ酸配列等を有するポリペプチド(AM等)の生体内安定性を変化することが期待される物質が得られる。かかる物質は、RAMP2を介した代謝症候群の治療効果を向上できる可能性を有し、代謝症候群の治療薬として期待できる。なお、この方法で使用される酵素は、上記のポリペプチドに特異的又は非特異的であってもよく、例えばエンドペプチダーゼであってよい。
【0066】
別のスクリーニング方法は、配列番号1記載の塩基配列を有するDNA、配列番号1記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号1記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAと、配列番号4を有するDNA、配列番号4記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA、又は配列番号4記載の塩基配列と90%以上の相同性を有する塩基配列からなるDNAと、を発現する細胞と被検物質とを接触させる手順と、配列番号5記載の塩基配列を有するDNAでコードされるリガンドの刺激に基づく細胞内シグナル伝達の誘導、又は前記リガンドの刺激に基づくGタンパク質の活性化を検出する手順を含む。
【0067】
配列番号4は、Gタンパク共役型受容体class Bに属するCRLR(calcitonin receptor like receptor)と呼ばれる7回膜貫通型受容体を構成するアミノ酸配列である。また、配列番号5は、ヒトRAMP2遺伝子の全塩基配列である。また、配列番号5は、ヒトアドレノメデュリン(AM)遺伝子の全塩基配列である。
【0068】
このスクリーニング方法によれば、RAMP2及びCRLRが共発現された細胞における、AM刺激に基づく細胞内シグナル伝達の誘導、又はGタンパク質の活性化する物質が得られる。この物質は、細胞内シグナル伝達の誘導又はGタンパク質の活性化を介して、RAMP2による代謝症候群の治療効果を向上できる可能性を有し、代謝症候群の治療薬として期待できる。
【0069】
なお、細胞内シグナル伝達の誘導は、細胞内のcAMP、Ca、NOレベル、PKAの活性レベル、Akt、ERK、P38MAPK、PI3Kのリン酸化レベル等の変化(特に上昇)を指標に検出できる。
【0070】
別のスクリーニング方法は、配列番号2記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドと、配列番号5記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドとの複合体が形成する結合ポケットの立体構造を特定する手順と、前記立体構造に基づいて前記複合体と前記結合ポケットを介して結合可能と予測される物質を既知の構造ライブラリからコンピュータ上で選別する手順と、を含む。
【0071】
このスクリーニング方法によれば、RAMP2及びCRLRの複合体に結合し得る候補を、膨大数の物質から大幅に絞り込むことができる。絞り込まれた候補を更に上記いずれかのスクリーニング方法を用いて更に制限することで、RAMP2による代謝症候群の治療効果を向上できる更に高い可能性を有し、代謝症候群の治療薬として更に期待できる。なお、かかるin silicoスクリーニング方法の手順自体は、常法に従って行えばよい。
【実施例】
【0072】
[試験例1] RAMP2遺伝子ノックアウトマウスの作製
次の手順でターゲティングベクターを作製した。即ち、RMAP2を含むゲノムDNA配列のうち、5’側の相同配列として、RAMP2のエクソン1の上流から、イントロン1の途中までを含む約3kbの配列をPCRにて合成(5’ homology arm)し、中間の相同配列として、イントロン1の途中からエクソン4の下流までをPCRにて合成(loxP arm)し、3’側の相同配列として、エクソン4の下流、約3kbの配列をPCRにて合成(3’ homology arm)した。
【0073】
次に、pBluescriptに、5’側から3’側の方向に、5’ homology arm、loxP、loxP arm、ネオマイシン耐性遺伝子の配列(pGK-neo)、loxP、3’ homology armの順でサブクローニングすることで、ターゲティングベクターを作製した。即ち、2つのloxPサイトが、RMAP2のエクソン2-4を挟むように設計した。
【0074】
得られたターゲティングベクターを制限酵素処理にて線状にした後、エレクトロポレーションでマウスES細胞に導入した。組換えを起こしたES細胞クローンを、ネオマイシン耐性を指標として濃縮し、更にサザンブロッティングにより相同組換えES細胞を選別した。
【0075】
選別されたES細胞をマウス胚盤胞へマイクロインジェクションすることで、キメラマウスを作製した。このキメラマウスを野生型マウスと交配して、ゲノム配列の片方のRAMP2遺伝子のイントロン1と、エクソン4の下流とにloxPサイトが挿入されたマウス(ヘテロfloxマウス)を作製した。
【0076】
作製されたヘテロfloxマウスを、CAGプロモータ下にCreリコンビナーゼ遺伝子を発現する遺伝子が導入されたマウス(CAG-Creマウス)と交配することで、loxPで挟まれる領域が除去されたRAMP2へテロノックアウトマウスを得た。これらRAMP2へテロノックアウトマウス同士を交配し、RAMP2ホモノックアウトマウスを得た。
【0077】
[試験例2] 遺伝的肥満マウスとの交配
試験例1で得たRAMP2ヘテロノックアウトマウス(RAMP2+/-)を、遺伝的肥満マウスであるレプチン欠損(ob/ob)マウスと交配し、子世代マウス(RAMP2+/-、wt/ob)をob/obマウスと戻し交配することで、孫世代マウス(RAMP2+/-、ob/ob)を作製した。
【0078】
ob/obマウスも肥満症状を呈するが、RAMP2+/-、ob/obマウスはより重度の肥満症状を呈していた。この結果は、RAMP2の発現減少が肥満症状の悪化の原因であることを示唆する。
【0079】
[試験例3] 脂肪肝
ob/obマウス及びRAMP2+/-、ob/obマウスから肝臓を採取し、その切片を染色した。ヘマトキシリン・エオシン(HE)による染色写真を図1(a)に、オイルレッドOによる染色写真を図1(b)にそれぞれ示す。
【0080】
図1(a)に示されるように、RAMP2+/-、ob/obマウスでは、脂肪滴と見られる白い斑点がob/obマウスよりも格段に広い範囲に観察された。この結果は、RAMP2+/-、ob/obマウスでob/obマウスよりもはるかに、脂肪滴の染色による赤色度の強い画像が得られた図1(b)の結果とも一致する。これらの結果から、RAMP2の発現減少が脂肪肝の症状悪化の原因であることが示される。
【0081】
[試験例3] 動脈硬化
(形態学)
試験例1で得たRAMP2へテロノックアウトマウス(RAMP2+/-)、及び野生型マウス(RAMP2+/+)の大腿動脈周囲に、ポリエチレンチューブのカフを4週間留置することで、血管傷害による動脈硬化を誘導した。留置後のマウスの大腿部カフ留置部の標本切片をエラスティカファンギーソン染色にて染色した低倍率の写真を図2(a)に、大腿動脈部分の拡大写真を図2(b)に示す。
【0082】
図2(a)に示されるように、RAMP2+/-マウスでは野生型マウスに比べ、平滑筋の増殖、炎症細胞の浸潤、細胞外マトリクスの増生が亢進されていた。また、図2(b)に示されるように、RAMP2+/-マウスでは、野生型マウスに比較して、血管内腔側に顕著な新生内膜の形成が観察された。以上の結果より、RAMP2+/-マウスでは、野生型マウスに比べ、形態学的観点から動脈硬化症がはるかに悪化していることが判明した。
【0083】
(免疫学)
図2の結果を免疫学的観点でも確認するため、試験例3における留置後のマウスの大腿動脈におけるICAM1、VCAM1、MCP1、及びPCNAタンパク質の発現量を検討した。具体的には、各タンパク質に結合するモノクローナル抗体を用い、常法に従って大腿動脈を免疫染色し、この結果を図3(a)~(d)に示す。
【0084】
図3(a)~(d)に示されるように、ICAM1、VCAM1、MCP1、及びPCNAは、いずれも野生型マウスよりもRAMP2+/-マウスにおいて格段に多量に発現されていた。
【0085】
ICAM1及びVCAM1は、組織炎症に伴って発現亢進される接着因子であることから、RAMP2+/-マウスでは野生型マウスよりも強い炎症が生じていることが示唆される。この示唆は、ケモカインであるMCP1の発現が野生型マウスよりもRAMP2+/-マウスにおいて亢進されていることからも裏付けられる。
【0086】
また、PCNAは増殖細胞のマーカーであるから、RAMP2+/-マウスでは野生型マウスよりも、平滑筋の増殖が亢進されていることが確認された。
【0087】
図3(f)は留置後のマウスの大腿動脈切片のジヒドロエチジウム(DHE)染色図であり、図3(e)はp67phox抗体による大腿動脈切片の免疫染色図である。
【0088】
図3(f)に示されるように、スーパーオキシドの存在を示す赤色の染色は、RAMP2+/-マウスでは、野生型マウスに比べ、はるかに広範囲且つ強く観察された。これにより、RAMP2+/-マウスでは、野生型マウスよりも病変部での酸化ストレスが亢進されていることが確認された。
【0089】
一方、図3(e)に示されるように、p67phoxは、野生型マウスよりもRAMP2+/-マウスにおいて格段に多量に発現されていた。p67phoxは活性酸素の発生に関与するNADPHオキシダーゼのサブユニットであることを踏まえると、NADPHオキシダーゼ活性の亢進が病変部での酸化ストレスの亢進の原因になっていることが示唆される。
【0090】
以上の結果より、RAMP2+/-マウスでは、野生型マウスに比べ、免疫学的観点からも動脈硬化症がはるかに悪化していることが判明した。
【0091】
(分子遺伝学)
前述の留置前後のマウスについて、RAMP2、RAMP3、CRLR、及びAMの発現量について調査した。つまり、留置前後のマウスから大腿動脈近傍の組織を採取し、この組織から抽出した全RNAを鋳型とし、各遺伝子に特異的な配列のプライマーを用いて定量的リアルタイムPCRを行った。具体的な手順は常法に従った。この結果を図4に示す。
【0092】
図4に示されるように、RAMP2+/-マウスでは、野生型マウスに比べ、留置前後に亘ってRAMP2の発現量が有意に低い一方、RAMP3及びCRLRの発現量は統計的に同等であった。このことから、試験例3で示された結果、つまりRAMP2+/-マウスにおいて野生型マウスよりも動脈硬化症が悪化するという結果は、RAMP2の発現量が低いことによるものであることが示唆された。
【0093】
また、傷害前の状態では、AMの発現がRAMP2+/-マウスで亢進されていた。これは、成体においても、RAMP2発現量が低下すると、リガンドであるAMの発現がポジティブフィードバックにより上昇することを示唆する。換言すれば、胎生期の血管だけでなく、成体期の血管においても、RAMP2が、AMシグナルを伝える中心的役割を果たすことが示される。
【0094】
傷害後にAMの発現量が野生型及びRAMP2+/-マウスの間で有意差がなくなるのは、野生型でも傷害後ではAMの発現亢進が起こるためと考えられる。そして、RAMP2+/-マウスで、ベースラインでのAMの発現量が亢進しているのにも関わらず(あるいは、傷害後、野生型マウスでのAM発現量との有意差がなくなるにも関わらず)、動脈硬化がRAMP2+/-マウスにおいて重度であるのは、AM発現が亢進されても、RAMP2発現量が低いために、AMによる抗動脈硬化作用が充分に発揮されていないためと考えられる。以上の機構からも、抗動脈硬化作用は、AM発現量のみの亢進では発揮されず、RAMP2発現量を亢進する他ないことが推測される。
【0095】
[試験例4] 血管閉塞
(形態学)
試験例1で得たRAMP2へテロノックアウトマウス(RAMP2+/-)、及び野生型マウス(RAMP2+/+)の大腿動脈の外周に、10%塩化鉄溶液を塗布し、塗布24時間後に各マウスの大腿部を採取した。その切片のHE染色写真を図5に示す。また、採取した大腿動脈の横断切片(n=5)にて、血栓の断面積を定量化した。更に、血栓の断面積と、血管内腔の全面積との比に基づいて血管の狭窄率を計算した。血栓サイズを図6に、血管の狭窄率を図7にそれぞれ示す。
【0096】
図5に示されるように、野生型マウスと比較して、RAMP2+/-マウスでは、大きな血栓の存在が観察された。この結果は、野生型マウスよりもRAMP2+/-マウスにおいて、血栓量(図6)及び血管の狭窄率(図7)が有意に高いことと一致する。これらの結果から、RAMP2発現の低下が血栓症を悪化させ、血管閉塞を促進していること形態学的観点から示唆される。
【0097】
(免疫学)
試験例4における大腿動脈におけるMCP-1及びMac-1タンパク質の発現量を調査した。具体的には、各タンパク質に結合する抗体を用い、常法に従って大腿動脈を免疫染色し、この結果を図8に示す。
【0098】
図8に示されるように、RAMP2+/-マウスでは、野生型マウスよりも広い範囲に亘り、MCP-1及びMac-1タンパク質が発現されていた。MCP-1及びMac-1タンパク質は組織炎症に伴って発現亢進されるケモカイン及び接着因子であることから、RAMP2+/-マウスでは野生型マウスよりも、閉塞箇所に強い炎症が生じていることが示唆された。
【0099】
[試験例5] コンディショナルターゲティング
AM-RAMP2システムの病態生理学的意義を解明するためにはRAMP2ノックアウトマウスのホモ接合体が必要であるが、ホモ接合体(RAMP2-/-)は胎生致死である。そこで、Cre-loxPシステムを用いてRAMP2遺伝子のコンディショナルターゲティングを行い、RAMP2を各細胞系列特異的に欠損させることにした。
【0100】
(血管内皮細胞)
具体的には、常法に従って、RAMP2遺伝子座がFlox配列で挟まれたloxPマウスを樹立した。一方、血管内皮細胞特異的に発現するVEカドヘリン(Cdh5)のプロモータ配列がCre配列の5’側に位置するベクター(図9参照、Circulation Research. 2006;98:897-904)が導入されたCreマウスを樹立した。loxPマウス及びCreマウスを交配することで、血管内皮細胞特異的にRAMP2がノックアウトされたマウスを得た。
【0101】
作製した8~10週令の成体マウスを麻酔後に開腹し、肝臓内をコラゲナーゼ含有培養液で灌流し、分離培養した類洞内皮細胞を初代培養した。この細胞から抽出した全RNAをcDNAへと逆転写し、RAMP2に特異的な配列を有するプライマーを用いて定量的リアルタイムPCRを行った。この結果、図10に示されるように、血管特異的RAMP2ノックアウトマウスでは、野生型マウスに比べ、はるかに少量(約20%)しかRAMP2が発現されていないことが確認された。
【0102】
また、血管特異的RAMP2ノックアウトマウス及び野生型マウスから肺を採取し、この肺の切片のHE染色写真を図11に示す。図11(a)に示されるように、ノックアウトマウスでは炎症(図11(a)中、丸で囲まれた部分)が数多く観察され、図11(a)の部分拡大図である図11(b)に示されるように、ノックアウトマウスでは野生型マウスに比べ炎症が重度であることも確認された。
【0103】
次に、血管特異的RAMP2ノックアウトマウス及び野生型マウスから腎臓を採取し、この腎臓の外観写真を図12(a)に、断面写真を図12(b)に、切片のHE染色写真を図12(c)に、図12(c)の部分拡大図を図13にそれぞれ示す。ノックアウトマウスでは野生型マウスに比べ、全体が膨張しており(図12(a)参照)、糸球体硬化症、嚢胞の形成、水腎症等の腎臓障害が確認された(図12(b)、(c)、図13参照)。
【0104】
図10~図13の結果を踏まえると、RAMP2発現量の低下が種々の臓器にて傷害を促進することが示唆される。
【0105】
(心筋細胞)
心筋細胞特異的に発現するα-MHCのプロモータ配列がCre配列の5’側に位置し、且つCreの両側にタモキシフェンが結合する変異型エストロゲンレセプター(Mer)配列が位置するベクター(図14参照、Circ Res. 2001;89:20-25.)が導入されたCreマウスを樹立した。このCreマウスを用いた点を除き、上記と同様の手順で、心筋細胞特異的にRAMP2がノックアウトされたマウスを得た。
【0106】
作製したマウスにタモキシフェン30mg/kg/日を腹腔内投与し、投与開始1週間後に心臓を採取した。この心臓の外観写真を図15(a)に、切片のマッソントリクローム染色写真を図15(b)にそれぞれ示す。また、心臓の横断組織切片にて心筋細胞の横径を測定した結果を図17に示す。図15(a)、(b)に示されるように、心筋細胞特異的RAMP2ノックアウトマウスでは野生型マウスに比べ心臓が肥大することが確認され、この心臓肥大は心筋細胞の肥大(図17)に伴うものであった。これらの症状は、RAMP2発現量の低下に起因することが推測される。
【0107】
図15(b)の部分拡大図を図16に示す。図16に示されるように、心筋細胞特異的RAMP2ノックアウトマウスでは線維化して硬化した病変箇所が多数観察された一方、野生型マウスでは病変箇所は観察されなかった。このような心臓の線維化は、RAMP2発現量の低下に起因することが推測される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上の結果から、AMの多彩な生理作用がRAMP2によって規定されていること、換言すれば、RAMP2を標的とすることで、AMの生理作用を人為的に操作し、代謝症候群を包括的に治療又は予防できることが示された。RAMP2は低分子の1回膜貫通型タンパク質であるため、長い血中半減期を有し生体内での安定性に優れるのみならず、その構造解析や、この系を人為的に制御できる低分子化合物アゴニストの探索等が容易である。このため、RAMP2は治療標的分子として極めて有望である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図17】
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