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明細書 :量子ドットを用いた電子装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5397905号 (P5397905)
登録日 平成25年11月1日(2013.11.1)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
発明の名称または考案の名称 量子ドットを用いた電子装置
国際特許分類 H01L  29/06        (2006.01)
H01L  39/22        (2006.01)
H01L  29/82        (2006.01)
FI H01L 29/06 601D
H01L 39/22 ZAAK
H01L 29/82 Z
請求項の数または発明の数 39
全頁数 24
出願番号 特願2009-544705 (P2009-544705)
出願日 平成20年12月4日(2008.12.4)
国際出願番号 PCT/JP2008/072035
国際公開番号 WO2009/072550
国際公開日 平成21年6月11日(2009.6.11)
優先権出願番号 2007316648
優先日 平成19年12月7日(2007.12.7)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年7月13日(2010.7.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】ミシェル ピオロ-ラドリエル
【氏名】小幡 利顕
【氏名】申 潤錫
【氏名】久保 敏弘
【氏名】樽茶 清悟
個別代理人の代理人 【識別番号】100089635、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 守
審査官 【審査官】小川 将之
参考文献・文献 特開2004-533107(JP,A)
M.Pioro-Ladriere et al.,Micromagnets for coherent control of spin-charge qubit in lateral quantum dots,Applied Physics Letters,2007年 1月12日,vol.90,art.no.024105
F.H.L.Koppens et al.,Driven coherent oscillations of a single electron spin in a quantum dot,Nature,2006年 8月17日,vol.442,pp.766-771
J.Kim et al.,Engineering quantum confinement and orbital couplings in laterally coupled vertical quantum dots for spintronic applications,IEEE Transactions on Nanotechnology,2006年 6月 4日,vol.5,no.4,pp.343-349
調査した分野 H01L 29/06
H01L 29/66
H01L 29/82
H01L 39/22
特許請求の範囲 【請求項1】
半導体結晶基板内に形成される複数個並べられた半導体量子ドットと、前記半導体結晶基板の表面に形成される複数のゲート電極と、ESR信号印加電極と、前記半導体結晶基板上に形成される誘電体膜と、該誘電体膜の表面で、かつ前記量子ドットの上方に形成され、高周波電場を高周波磁場に変換する、強磁性体薄膜からなる強磁性体微小磁石と、前記量子ドット間の中間に配置される制御電極とを備え、前記制御電極に電圧を印加することにより前記制御電極下の空乏層を伸縮させ、電子の結合状態を制御する量子ドットを用いた電子装置であって、前記量子ドットは、ガリウムヒ素とアルミニウムガリウムヒ素とのヘテロ接合界面に2次元電子ガス層を有する半導体結晶基板表面に量子ドット形成ゲート電極を配置した構造を有する横型量子ドットからなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項2】
半導体結晶基板内に形成される複数個並べられた半導体量子ドットと、前記半導体結晶基板の表面に形成される複数のゲート電極と、ESR信号印加電極と、前記半導体結晶基板上に形成される誘電体膜と、該誘電体膜の表面で、かつ前記量子ドットの上方に形成され、高周波電場を高周波磁場に変換する、強磁性体薄膜からなる強磁性体微小磁石と、前記量子ドット間の中間に配置される制御電極とを備え、前記制御電極に電圧を印加することにより前記制御電極下の空乏層を伸縮させ、電子の結合状態を制御する量子ドットを用いた電子装置であって、前記量子ドットは、シリコンとシリコンゲルマニウムとのヘテロ接合界面に2次元電子ガス層を有する半導体結晶基板表面に量子ドット形成ゲート電極を配置した構造を有する横型量子ドットからなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項3】
請求項記載の量子ドットを用いた電子装置において、2重ヘテロ構造間に前記2次元電子ガス層を有する半導体結晶基板の前記2次元電子ガス層を幾何学的に切り出し、金属電極を周囲に配置した構造からなる縦型量子ドットからなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記高周波電場の周波数は、1.6GHz以上300GHz以下であることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記高周波電場の周波数は、1.6GHz以上3GHz以下であることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項6】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記高周波電場の周波数は、3GHz以上30GHz以下であることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項7】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記高周波電場の周波数は、30GHz以上300GHz以下であることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項8】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜がコバルト又はコバルトを50%以上含むコバルト合金からなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項9】
請求項8記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.05μmから1μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項10】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜がニッケル又はニッケルを50%以上含むニッケル合金からなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項11】
請求項10記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.15μmから3μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項12】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜がジスプロシウム又はジスプロシウムを50%以上含むジスプロシウム合金からなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項13】
請求項12記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.025μmから1μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項14】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜が鉄又は鉄を50%以上含む鉄合金からなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項15】
請求項14記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.025μmから1μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項16】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜がクロム又はクロムを50%以上含むクロム合金からなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項17】
請求項16記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.025μmから1μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項18】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜が発生する磁場により前記量子ドット面に対する傾斜磁場および平行磁場を発生することを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項19】
請求項18記載の量子ドットを用いた電子装置において、極低温下で外部強磁場を印加して前記量子ドット中の電子スピンのエネルギー状態を変え、前記平行磁場の作用により前記各量子ドットで独立なエネルギー状態を持つことを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項20】
請求項18記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各量子ドットの近傍に配置された電子を電気的に駆動し、前記傾斜磁場の介在により電子スピン共鳴を実現することを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項21】
請求項20記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記電子スピン共鳴により、電子スピン状態を上向き、下向きに操作でき、前記電子スピン状態をビットに対応させることで量子ビットを設定することを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項22】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記複数個の量子ドットの各々が前記強磁性体微小磁石の作用により異なるエネルギー状態を持つようにしたことを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項23】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各量子ドットに異なった周波数の高周波電場を与えることにより、電子スピン共鳴の原理により独立な電子スピン操作が可能であることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項24】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記量子ドット中に存在する電子が互いに電子的結合状態を形成することを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項25】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記電子の結合状態を操作し、量子演算を実行することを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項26】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石が強磁性体金属か、あるいは酸化物強磁性体金属、超伝導体金属または酸化物超伝導体金属からなることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項27】
請求項1記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石と前記各量子ドットとの間の距離が異なることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項28】
請求項27記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石と前記各量子ドットとの間の距離が0.15μmから0.5μmまで変化し、前記強磁性体微小磁石の厚みが0.1μmであることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項29】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各量子ドットに最隣接の強磁性体微小磁石の厚さを変化させたことを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項30】
請求項29記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石の厚みが0.025μmから1μmまで変化することを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項31】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記制御電極および量子ドット形成ゲート電極と前記強磁性体微小磁石との間に誘電体膜を挟み込んだことを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項32】
請求項31記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記誘電体膜が電子ビーム描画レジスト、フォトレジストまたは二酸化ケイ素、シリコンナイトライドであることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項33】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石並びに前記制御電極および量子ドット形成ゲート電極の大きさを一様に変化させ、印加される電圧の操作の大きさで不変な機能をもたらすようにしたことを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項34】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記量子ドットの近傍に制御電極および量子ドット形成電極並びに読み取り用量子ポイントコンタクトゲート電極を配置することにより1次元の量子化された伝導現象を呈する、量子ポイントコンタクトを具備することを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項35】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、近隣の量子ドットの電荷数により伝導率を変化させる、量子ポイントコンタクトを具備することを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項36】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記量子ドット間の電子の結合状態や電荷検出を介在させた電子スピン状態の読み取りを行うことを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項37】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の近傍に対して漏れ磁場による電子スピン配列を利用した電子スピン分極した電流を注入可能にしたことを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項38】
請求項1又は2記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各量子ドットの電子スピン状態を一意に制御し、フリップフロップ動作が可能にすることを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
【請求項39】
請求項19記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各電子スピン間の結合状態を制御して量子演算を可能にしたことを特徴とする量子ドットを用いた電子装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、量子計算、量子情報処理の実現のための有力候補である複数個の結合した量子ドットを有する電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数個配列した半導体量子ドット構造を用いて、多量子ビットを形成して量子計算を行う方法が考案されている。この半導体量子ドットを用いて多量子ビットを形成するための方法としては、電子スピンを用いる方法が提案されている。強磁場下で電子スピンは本質的な2準位系であり、電子スピン上向き、電子スピン下向きの2状態を1ビット状態に対応させる。また、ビットの操作として電子スピン共鳴 (ESR) を利用する方法が提案されている。強磁場下で高周波磁場を照射しESR制御で電子スピン状態を確定した後、量子ドット間相互作用を変え量子演算をすることが提唱されている (下記非特許文献1,2及び3参照)。
【0003】
さらに、半導体量子ドット中の電子スピンのESRを制御する方法として、量子ドット上に形成されたマイクロコイルにマイクロ波を印加する方法 (下記非特許文献3参照)、あるいは制御電極に直接マイクロ波を印加する方法 (下記非特許文献4,5参照)が提案されている。
半導体量子ドット中の電子スピンのESRを制御する従来の方法を下記非特許文献3の方法に従って説明する。
【0004】
図1は従来の量子ドットを用いた電子装置の上面図を示す。図2にはその電子装置の側面概略図を示す。
これらの図に示すように、ガリウムヒ素 (GaAs) 結晶基板11上にアルミニウム・ガリウム・ヒ素(AlGaAs)結晶層12をエピタキシャル成長させると、両結晶のヘテロ接合界面に10nm程度の厚さの2次元電子ガス層(2DEG層)13が形成される。この2DEG層13はAlGaAsエピタキシャル層であるAlGaAs結晶層12表面より約100nmの位置にある。AlGaAs結晶層12上にはゲート電極2,3,4,5(量子ドット結合制御電極2、右側量子ドット形成電極3、左側量子ドット形成電極4、中央ゲート電極5)が形成される。これらのゲート電極2,3,4,5に負の電圧を印加することにより、ゲート電極2,3,4,5直下より空乏層が伸びる。この空乏層が2DEG層13まで伸び、さらにゲート電極2,3,4,5に印加する負電圧を増大させると、空乏層が到達した部分より2DEG層13は電子キャリアを無くして行く。さらに負印加電圧を増大してゆくと、2DEG層13に電子キャリアが島状(ほぼ円盤状) に取り残される。これが量子ドット8,9である。さらに、半導体結晶基板1上面にカリックスアーレン絶縁膜14を塗布する。このカリックスアーレン絶縁膜14上に高周波マイクロコイル34のパターンを電子ビーム真空蒸着してゲート電極2,3,4,5の表面から90nm離れた位置に形成する。ゲート電極2,3,4,5への印加電圧を調整することで、両量子ドット8,9には電子が1個のみ存在するようにすることができる。電子スピンのエネルギー状態を固定するために外部磁場17を印加する。
【0005】
当該電子装置を用いて量子ビットを形成するため、まず、全量子ドットの電子スピン情報を初期化(イニシャライズ) した後、ESR操作を用いて最初の量子ドットに情報を書き込む(A)。図1,図2に示された高周波マイクロコイル34に高周波電流を流し、高周波磁場を誘起する。そして、量子ドット8中の電子スピンをESR操作する。このESR操作を、図3に示すエネルギーダイアグラムに即して説明する。図3の(a)~(c)は、ESR操作に伴い経時変化した状態を示している。ここで、35はドレイン電極のエネルギー状態を、36はソース電極のエネルギー状態をそれぞれ示しており、塗りつぶした部分は電子が詰まっているため上端面以下のエネルギー状態の電子は流れない。37はトンネル障壁で、38は上向きの基底状態の電子スピン、39は下向きの励起状態の電子スピンを示している。
【0006】
まず、左側の量子ドット8に電子を電極操作により入れる。十分長い時間(1ミリ秒~1秒) 待つと両方の量子ドット8,9で電子スピンが揃い、パウリ原理により電流が流れなくなる(下記非特許文献6参照)。つまり、図3(a)において、40は量子ドット8,9間に電流が流れなくなったことを示しており、電子スピン情報が初期化されたことを示している。その後、高周波磁場を与えESR操作をする。図3(b)に示すように、ESRにより電子スピン39が反転する。さらに、量子ドット間のトンネル確率が十分高ければ、ESR操作が行われたことが量子ドット間電流16の流れとして観測される〔図3(c)〕。このようにESR操作により電子スピンの状態が変化することが分かる。
【0007】
当該電子装置を用いて、多量子ビットを作製するためには、各量子ドット間の電子スピン結合状態の精密制御と各量子ドット内の電子スピンの高速制御が必要である(B)。下記非特許文献2の方法に即して電子スピン間の結合状態を制御する方法を図4に示す。デバイスは図1,図2とほぼ同じものであるので同じ図を用いて説明する。まず、図4(a)に示すように、初期状態で2つの電子スピン38,39が逆向きであるものとする。上記記載の(A)とは異なり、電子スピン38,39のエネルギー状態はドレイン電極・ソース電極のエネルギー状態35,36よりも低く、電流は流れていないものとする。緩和して電子スピン38,39がそろい電子スピンブロックが起きる前に、図4(b)に示すように、左側量子ドット形成ゲート電極4への印加電圧を電荷の移動がない程度に少しだけ強めるか、もしくは相対的に中央ゲート電極5の下の空乏層を弱めることにより、電子スピン間の相互作用20を強めることができる。その後、図4(c)に示すように、電子スピンは相互作用し向きの揃った状態となる。このように電子は相互作用し向きの揃った状態、逆向きの状態を往復運動する。相互作用の時間を一定にすることで電子の向きを始めの状態とはいつも逆向きにすることができる。この作用は、NOT操作を表している。上記(A)と(B)とを組み合わせれば、量子ビット、量子計算は一見容易なように考えられる。

【非特許文献1】Loss,D.& DiVincenzo D.P.,Quantum computation with quantum dots. Phys.Rev.A 57,pp.120-126 (1998)
【非特許文献2】Petta,J.R.et al.,Coherent manipulation of coupled electron spins in semiconductor quantum dots,Science 309,pp.2180-2184 (2005)
【非特許文献3】Koppens,F.H.L.et al.,Driven coherent oscillations of a single electron spin in a quantum dot,Nature 442,pp.766 (2006)
【非特許文献4】Nowack,K.C.et al.,Coherent Control of a Single Electron Spin with Electric Fields,Science Published Online November 1 (2007)
【非特許文献5】Laird E.A.et al.,http: //arxiv.org/abs/0707.0557 (2007)
【非特許文献6】Ono,K.et al.,Current rectification by Pauli exclusion in a weakly coupled double quantum dot system,Science 297,pp.1313-1317 (2002)
【非特許文献7】Tarucha et al.,Phys.Rev.Lett.77,pp.3613 (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、複数個からなる量子ドットから多量子ビットを形成するためには、各量子ドット中の高速電子スピンを精密に個別にESR制御する必要がある。
しかしながら、従来のESR法での制御では、全ての量子ドット内の高速電子スピンを一様に揃って制御することしかできず、多ビット化を行うのに不都合が発生していた。
本発明は、上記状況に鑑みて、多量子ビットの各々に個別に、省電力な方法でESR制御を行い量子計算を実現することができる強磁性体磁石を有する量子ドットを用いた電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕量子ドットを用いた電子装置において、半導体結晶基板内に形成される複数個並べられた半導体量子ドットと、前記半導体結晶基板の表面に形成される複数のゲート電極と、ESR信号印加電極と、前記半導体結晶基板上に形成される誘電体膜と、該誘電体膜の表面で、かつ前記量子ドットの上方に形成され、高周波電場を高周波磁場に変換する、強磁性体薄膜からなる強磁性体微小磁石と、前記量子ドット間の中間に配置される制御電極とを備え、前記制御電極に電圧を印加することにより前記制御電極下の空乏層を伸縮させ、電子の結合状態を制御する量子ドットを用いた電子装置であって、前記量子ドットは、ガリウムヒ素とアルミニウムガリウムヒ素とのヘテロ接合界面に2次元電子ガス層を有する半導体結晶基板表面に量子ドット形成ゲート電極を配置した構造を有する横型量子ドットからなることを特徴とする。
【0010】
半導体結晶基板内に形成される複数個並べられた半導体量子ドットと、前記半導体結晶基板の表面に形成される複数のゲート電極と、ESR信号印加電極と、前記半導体結晶基板上に形成される誘電体膜と、該誘電体膜の表面で、かつ前記量子ドットの上方に形成され、高周波電場を高周波磁場に変換する、強磁性体薄膜からなる強磁性体微小磁石と、前記量子ドット間の中間に配置される制御電極とを備え、前記制御電極に電圧を印加することにより前記制御電極下の空乏層を伸縮させ、電子の結合状態を制御する量子ドットを用いた電子装置であって、前記量子ドットは、シリコンとシリコンゲルマニウムとのヘテロ接合界面に2次元電子ガス層を有する半導体結晶基板表面に量子ドット形成ゲート電極を配置した構造を有する横型量子ドットからなることを特徴とする。
【0011】
〕上記〔〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、2重ヘテロ構造間に前記2次元電子ガス層を有する半導体結晶基板の前記2次元電子ガス層を幾何学的に切り出し、金属電極を周囲に配置した構造からなる縦型量子ドットからなることを特徴とする。
〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記高周波電場の周波数は、1.6GHz以上300GHz以下であることを特徴とする。
【0012】
〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記高周波電場の周波数は、1.6GHz以上3GHz以下であることを特徴とする。
〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記高周波電場の周波数は、3GHz以上30GHz以下であることを特徴とする。
〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記高周波電場の周波数は、30GHz以上300GHz以下であることを特徴とする。
【0013】
〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜がコバルト又はコバルトを50%以上含むコバルト合金からなることを特徴とする。
〕上記〔8〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.05μmから1μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする。
【0014】
10〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜がニッケル又はニッケルを50%以上含むニッケル合金からなることを特徴とする。
11〕上記〔10〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.15μmから3μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする。
【0015】
12〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜がジスプロシウム又はジスプロシウムを50%以上含むジスプロシウム合金からなることを特徴とする。
13〕上記〔12〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.025μmから1μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする。
【0016】
14〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜が鉄又は鉄を50%以上含む鉄合金からなることを特徴とする。
15〕上記〔14〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.025μmから1μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする。
【0017】
16〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜がクロム又はクロムを50%以上含むクロム合金からなることを特徴とする。
17〕上記〔16〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の厚みが0.025μmから1μm、前記強磁性体薄膜の幅が0.3μmから0.4μm、前記強磁性体薄膜の長さが1μmであることを特徴とする。
【0018】
18〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜が発生する磁場により前記量子ドット面に対する傾斜磁場および平行磁場を発生することを特徴とする。
19〕上記〔18〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、極低温下で外部強磁場を印加して前記量子ドット中の電子スピンのエネルギー状態を変え、前記平行磁場の作用により前記各量子ドットで独立なエネルギー状態を持つことを特徴とする。
【0019】
20〕上記〔18〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各量子ドットの近傍に配置された電子を電気的に駆動し、前記傾斜磁場の介在により電子スピン共鳴を実現することを特徴とする。
21〕上記〔20〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記電子スピン共鳴により、電子スピン状態を上向き、下向きに操作でき、前記電子スピン状態をビットに対応させることで量子ビットを設定することを特徴とする。
【0020】
22〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記複数個の量子ドットの各々が前記強磁性体微小磁石の作用により異なるエネルギー状態を持つようにしたことを特徴とする。
23〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各量子ドットに異なった周波数の高周波電場を与えることにより、電子スピン共鳴の原理により独立な電子スピン操作が可能であることを特徴とする。
【0021】
24〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記量子ドット中に存在する電子が互いに電子的結合状態を形成することを特徴とする。
25〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記電子の結合状態を操作し、量子演算を実行することを特徴とする。
26〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石が強磁性体金属か、あるいは酸化物強磁性体金属、超伝導体金属または酸化物超伝導体金属からなることを特徴とする。
【0022】
27〕上記〔1〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石と前記各量子ドットとの間の距離が異なることを特徴とする。
28〕上記〔27〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石と前記各量子ドットとの間の距離が0.15μmから0.5μmまで変化し、前記強磁性体微小磁石の厚みが0.1μmであることを特徴とする。
【0023】
29〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各量子ドットに最隣接の強磁性体微小磁石の厚さを変化させたことを特徴とする。
30〕上記〔29〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石の厚みが0.025μmから1μmまで変化することを特徴とする。
31〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記制御電極および量子ドット形成ゲート電極と前記強磁性体微小磁石との間に誘電体膜を挟み込んだことを特徴とする。
【0024】
32〕上記〔31〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記誘電体膜が電子ビーム描画レジスト、フォトレジストまたは二酸化ケイ素、シリコンナイトライドであることを特徴とする。
33〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体微小磁石並びに前記制御電極および量子ドット形成ゲート電極の大きさを一様に変化させ、印加される電圧の操作の大きさで不変な機能をもたらすようにしたことを特徴とする。
【0025】
34〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記量子ドットの近傍に制御電極および量子ドット形成電極並びに読み取り用量子ポイントコンタクトゲート電極を配置することにより1次元の量子化された伝導現象を呈する、量子ポイントコンタクトを具備することを特徴とする。
35〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、近隣の量子ドットの電荷数により伝導率を変化させる、量子ポイントコンタクトを具備することを特徴とする。
【0026】
36〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記量子ドット間の電子の結合状態や電荷検出を介在させた電子スピン状態の読み取りを行うことを特徴とする。
37〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記強磁性体薄膜の近傍に対して漏れ磁場による電子スピン配列を利用した電子スピン分極した電流を注入可能にしたことを特徴とする。
【0027】
38〕上記〔1〕又は〔2〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各量子ドットの電子スピン状態を一意に制御し、フリップフロップ動作が可能にすることを特徴とする。
39〕上記〔19〕記載の量子ドットを用いた電子装置において、前記各電子スピン間の結合状態を制御して量子演算を可能にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
従来技術では困難であった量子ビット列からなる多量子ビットの各々に個別にしかも従来の方法よりも省電力な方法でESR制御を行い量子計算を実現できる、強磁性体微小磁石を有する量子ドットを用いた電子装置を提供することができる。
具体的な実証事例は、量子ドット近傍に具備された強磁性体微小磁石によって量子ドット中のゼーマン準位を精密かつ識別可能な大きさで変調できること、ならびに傾斜磁場が高周波電場を高周波磁場に変換するため量子ドットの電子スピンを正確にESR制御できることを示している。さらに強磁性体微小磁石の強度を変えることにより、上記ゼーマンエネルギーの変調の大きさを制御できるため各量子ドットを異なった共鳴周波数で制御可能なことを実証している。さらに、ESR操作に必要な電力が従来の方法よりも10倍程度格段に低いことも効果としてもたらされる。従来の技術では不可能と思われた個別のESR操作を可能にしたことにより量子計算の実現可能性を格段に高めている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の量子ドットを用いた電子装置は、半導体結晶基板内に形成される複数個並べられた半導体量子ドットと、前記半導体結晶基板の表面に形成される複数のゲート電極と、ESR信号印加電極と、前記半導体結晶基板上に形成される誘電体膜と、該誘電体膜の表面で、かつ前記量子ドットの上方に形成され、高周波電場を高周波磁場に変換する、強磁性体薄膜からなる強磁性体微小磁石と、前記量子ドット間の中間に配置される制御電極とを備え、前記制御電極に電圧を印加することにより前記制御電極下の空乏層を伸縮させ、電子の結合状態を制御する量子ドットを用いた電子装置であって、前記量子ドットは、ガリウムヒ素とアルミニウムガリウムヒ素とのヘテロ接合界面に2次元電子ガス層を有する半導体結晶基板表面に量子ドット形成ゲート電極を配置した構造を有する
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
ここでは半導体量子ドットが2個の場合の電子装置を用いて説明する。
図5は本発明の第1実施例を示す横型2量子ドットを用いた電子装置の上面模式図である。また、その断面図を図6に示す。なお、従来技術として用いられている半導体量子ドットと同じ部分については同じ符号を付してそれらの説明は省略する。
【0031】
半導体結晶基板1上面にカリックスアーレン絶縁膜14を塗布する。この上には高周波電場を高周波磁場に変換するための強磁性体微小磁石10を電子ビーム真空蒸着してゲート電極2,3,4,5の表面から90nm離れた位置に形成する。つまり、強磁性体微小磁石10としての強磁性体薄膜が形成される。なお、ゲート電極2,3,4,5への印加電圧を調整することで、両量子ドット8,9には電子が1個のみ存在するように構成する。なお、15はQPC電流(Quantum Point Contact Current;量子ポイントコンタクト電流)を示す。
【0032】
図5に示す電子装置を稀釈冷凍装置の試料ホルダーに設置して、試料を100mK(ミリケルビン)まで冷却する。電子スピンのエネルギー状態を固定するために外部磁場17〔2.5T(テスラー)〕を印加する。この状態で、背景技術(A)で示したように電子スピンブロック状態が達成されており、電子スピン共鳴が起こらなければ電流は流れない。
【0033】
図7には強磁場下で強磁性体微小磁石10により磁化した様子並びにこの磁化によってもたらされる量子ドット8,9面への平行磁場成分43と傾斜磁場成分42を示した。41は強磁性体微小磁石10によって作られる磁力線である。
ESR信号印加電極(高周波電極)7に高周波電場、例えば、後述する図8及び図9に示されるように、1.6GHz以上300GHz以下、なかでも、図8に示されるように、1.6GHz以上3GHz以下、又は3GHz以上30GHz以下又は図9に示されるように、30GHz以上300GHz以下をかけると量子ドット8,9中の電子スピンが電気的に駆動される。振動方向は外部磁場17と平行であり傾斜磁場成分42と垂直である。量子ドット8,9近傍に配置された強磁性体微小磁石10のもたらす傾斜磁場成分42下で量子ドット8,9中に存在する電子を揺さぶることで、その電子は図7の上下方向に変化する有効的な高周波磁場を感じる。静止した電子スピンの方向は外部磁場17及び振動方向に平行なので電子の振動により電子スピンは電磁気学に従って平行から反れる方向に偶力(トルク)を感じる。この偶力はESR制御における電子スピンの再差運動を記述し電子スピンの向きを周期的に反転させる。電子の振動時間を精密に制御することにより電子スピンを常に180°反転させることができる。
【0034】
図8は本発明にかかるESR共鳴ピークの一連の実測結果を示す図である。縦軸は電流(pA)で横軸は磁場(T)である。なお、図8の内図は磁場1.7Tの印加時の共鳴状態の拡大図である。共鳴の線形応答性を見やすくするために基準線のオフセットを調整している。各共鳴ピークの基準線の高さは右側縦軸に与えた共鳴周波数(GHz)に対応している。ここで示したESR制御の方法は従来技術で述べたマイクロコイルによる方法と比べると約10倍以上、制御電極に直接マイクロ波を入れる方法と比べても5倍以上低い電力で駆動されている。
【0035】
図9は本発明にかかる共鳴磁場と共鳴周波数の関係を示す図である。高磁場では共鳴点が磁場に線形に増大するが、低磁場では共鳴磁場が強磁性体微小磁石の影響で直線的には変化していない。縦軸に示される共鳴磁場を微小量補正して横軸に示される共鳴周波数(GHz)で割ると、共鳴周波数の高い点における共鳴は一定の直線関係で示されていることが明らかである。一方、低磁場領域では、なだらかに減少することが観測されている。この補正量は強磁性体微小磁石10のもたらす平行磁場成分43を示しており、このことは強磁性体微小磁石10が外部磁場によって磁化していく様子を示している。図9より約2T以上では強磁性体微小磁石10が完全に磁化されていることが分かる。
【0036】
強磁性体微小磁石10のもたらす外部磁場に平行な平行磁場成分43は外部磁場17に加減算され、電子スピンのエネルギーを1~10%程度わずかに偏重する。すなわち、強磁性体微小磁石10の構造を調整することにより電子スピンのエネルギーを変化させることができる。
平行磁場成分43の大きさは磁化の度合いにより異なる。完全に磁化した状態ではこの外部磁場17に平行な平行磁場成分43は位置により微小に異なるため、量子ドット8,9の位置によって共鳴磁場を変えることができる。図10に示したグラフはESR共鳴を観測したグラフであり、それぞれのピークは量子ドット8, 9の共鳴を示す。各量子ドットのどちらか一方の電子スピンがESRに共鳴したとき電流が流れる。各量子ドットのESR信号が異なる周波数で測定されることを示しており、個別の量子ドットにおいて異なった周波数を選ぶことにより独立にESR制御できる。図8によると、外部磁場が2T以下ではこのような2つのピークは観測されていない(もしくは信号が小さい)が、これは図9に示されているように低磁場領域では強磁性体微小磁石10が完全に磁化されておらず平行磁場成分43も小さいためであると思われる。
【0037】
また、本発明の第2実施例によれば、背景技術(B)で説明したスワッピング操作と組み合わせることにより、量子計算に必要な量子ビット(QUBIT)が実現可能である。
以下に具体的な量子演算方法を示す。
図11は本発明にかかる量子ドット状態の遷移図である。
各電子スピン状態を「0」,「1」の数字で表し、「0」を電子スピンが外部磁場17に揃った状態(基底状態)、「1」を電子スピンが反転した状態(励起状態)であるとする。各電子スピン状態は左から(D1,D2)で表すものとする。まず、静磁場下で緩和時間程度待ち初期化を行う。この状態で各電子スピン状態は図11(a)に示すように両方とも上向き、すなわち(0,0)である。次に、ESR信号印加電極(高周波電極)7(図5、図6参照)に高周波電場をかけ注目する電子スピンをESR操作により反転させる。共鳴磁場と共振周波数は上記記載のように選択可能である。説明のため左端の量子ドットの電子スピンを反転したものとする。つまり、図11(b)に示すように、各電子スピンの状態は(1,0)になる。次に、量子ドット結合制御電極2もしくは中央ゲート電極5をいわゆるパルス操作して隣の量子ドットと相関をもたせ、相互作用を行わせる。より具体的には電極に加えられている電圧を瞬間的に弱め、双方を空間的に近づけ相互作用させる。電子スピン情報は転写され電子スピンは反転する〔この状態で、図11(c)に示すように、(0,1)〕。さらに右側の量子ドットをESR操作で反転させ、 (0,0) の状態にする。この状態〔図11(d)の状態〕では電子スピンブロックにより電流が流れない。つまり、左右のドットにESR入力を与えると電流が流れない。同様に左だけ、もしくは右だけ入力を与えると電流が流れる。何も入力を与えず、相互作用のみを行うと電流が流れない。これらの4つの量子ビット状態はCNOTもしくはXOR操作と同等であることが示された。
【0038】
また、初期状態(0,0)からERS操作で(1,0)にして相互作用で(0,1)にする。この動作は量子ビット情報が左から右に1ビット転写されていることを示しており、フリップフロップ演算の基本動作を示している。
また、本発明の第3実施例によれば、既に説明済みの横型量子ドット配列だけでなく、縦型量子ドット配列にも適応可能である。図12は本発明の第3実施例を示す縦型2量子ドット作製に用いる半導体結晶基板の断面概念図、図13は本発明の第3実施例を示す縦型2量子ドットを用いた電子装置の断面図、図14は本発明の第3実施例を示す縦型2量子ドットを用いた電子装置の上面模式図である。
【0039】
縦型量子ドットは、図12に示すように、N-GaAs結晶基板22上にエピタキシャル結晶成長法により、AlGaAs結晶層23を10nm、GaAs結晶層24を10nm、AlGaAs結晶層25を10nm、GaAs (n+ ) 結晶層26を350nm結晶成長させる。GaAs結晶層24に2DEG(2次元電子ガス)層が形成される。この半導体結晶基板に量子ドットサイズ0.3μm径のパターンを形成して、エッチング法により、図13に示すように、メサ型に基板までエッチングする。量子ドット31,32側面にAuあるいはAl等のゲート電極(素子ドット形成電極)29を蒸着すると、量子ドット31,32側面にショットキー障壁が形成される。量子ドット上面と基板裏面にAu/Ge等の金属を蒸着してアロイ化してそれぞれ量子ドット上部オーミック電極27,量子ドットオーミック下部電極33を形成する。さらに、各量子ドット31,32近傍に強磁性体微小磁石28としてCoあるいはNi等の強磁性体金属や強磁性体金属酸化膜を形成する。ここで、例えば、強磁性体微小磁石28と各半導体量子ドット31,32の距離が0.15μmから0.5μmまでに変化し強磁性体微小磁石28の厚みが0.1μmである。ゲート電極29への印加電圧を制御することにより、量子ドット31,32内の電子数を1個まで制御できる。また、量子ドット結合制御電極30の電圧制御により、両量子ドット31,32間電子スピンの相互作用(結合状態) を制御できる。このような縦型量子ドット配列でも、第1及び第2実施例の横型量子ドット配列の場合と同様に強磁性体微小磁石28による各量子ドットのESR制御の効果が挙げられる。
【0040】
以上の実施例は、2量子ドットの場合を例にとり説明したが量子ドットを3つ以上並べた系でも同様の議論が成り立つ。
本発明の第4,5実施例によれば、強磁性体微小磁石の各量子ドットに対する配置位置およびパターン形状を変えることにより、各量子ドットのESR制御を異なった周波数で精密に制御可能となる。
【0041】
図15は本発明の第4実施例を示す強磁性体微小磁石付き多量子ビットの配置概念図(その1)、図16は本発明の第5実施例を示す強磁性体微小磁石付き多量子ビットの配置概念図(その2)である。
図15に示すように、量子ドット列19に対して対称に、強磁性体微小磁石としての階段型強磁性体微小磁石18を配置している。この階段型強磁性体微小磁石18は量子ドット列の中心からその端面までの距離がd1 ,d2 ,d3 ,d4 ・・・と幅が変えられている。このパターンではESRが観測されるほど十分大きな傾斜磁場成分が得られることが分かった。例えば階段型微小強磁性体18の金属としてCoを用いた場合、Coの厚さ0.05μmから1μm、幅0.3μmから0.4μm、長さ1μm、また、Niを用いた場合、Niの厚みが0.15μmから3μm、幅0.3μmから0.4μm、長さが1μm、また、Dy(ジスプロシウム)を用いた場合、Dyの厚みが0.025μmから1μm、幅0.3μmから0.4μm、長さ1μm、また、Feを用いた場合、Feの厚みが0.025μmから1μm、幅0.3μmから0.4μm、長さが1μm、Crを用いた場合、Crの厚みが0.025μmから1μm、幅0.3μmから0.4μm、長さが1μmである。
【0042】
ESR印加磁場2Tの場合、距離d1 が0.035μmまたは35nmで、共鳴周波数を0.6GHz程変えることができる。また、距離d2 が45nmで、周波数を0.64GHz程変えることができる。
また、本発明の第5実施例によれば、図16に示すように、量子ドット列19から微小強磁性体までは等距離であるが、厚さをt1 ,t2 ,t3 ,・・・とした微小強磁性体21を張り付けた場合も全く同様の効果がある。例えば、ESR印加磁場強度2Tの場合、膜界面と量子ドット列19間の距離35nmの場合、膜厚150nmで変位磁場100mT,170nmで変位磁場110mTと可変可能である。このように、量子ドット列19の強磁性体微小膜厚を可変にすることにより、各量子ドットを各所望の周波数で共鳴させる効果がある。また、量子ドット列19に対して対称の位置に強磁性体を配置しているが、非対称パターン、片側のみパターンがある配列でも同様の効果がある。
【0043】
本発明の第6実施例によれば、上記第1~第5実施例の発明は誘電体膜の種類を変えても適応可能である。すなわち、誘電体膜として、電子ビーム描画レジスト(PMMA、OEBR、ZEP)、フォトレジスト(S1800、AZ5200)、二酸化ケイ素、シリコンナイトライド等を用いても同様の効果が期待できる。
また、本発明の第7実施例によれば、上記第1~第5実施例の発明の量子ドットを大きくしたり小さくしても操作電圧を増減させるだけで全く同じ効果が期待でき、微小強磁性体(強磁性体微小磁石)の厚み、形状を変えるだけで実効的には同じ効果を期待できるためスケーラブルである。
【0044】
さらに、本発明の第8実施例によれば、半導体量子ドット配列の入力端、および出力端に量子ポイントコンタクト電流(QPC電流15:IQPC )を測定できる読み取り用量子ポイントコンタクト電極6(図5、15及び16参照)を具備することにより、電子スピン状態を変化させることなくそれぞれの電荷状態を読み出し可能である。
また、第2実施例で示したように量子演算後に電子を移動させる、例えば、電子スピンの状態(1,0)で電子を移動させ電子数の異なった状態に遷移させるとQPC電流(量子ポイントコンタクト電流)15が変化するので、このQPC電流(量子ポイントコンタクト電流)15を観察することで量子演算の結果を間接的に観測することができる。
【0045】
同様に量子ドットの入力端極近傍に量子ポイントコンタクト構造体と強磁性体微小磁石を形成することにより、入力端では量子ドットに書き込みが可能となる。すなわちQPC電流(量子ポイントコンタクト電流)と量子ドットの入力端を十分近傍に配置し、その中間に強磁性体微小磁石を配置する。量子ポイントコンタクトを抜け出した電流は強磁性体微小磁石により軌道を変化させるが、その変化量はシュテルンゲルラッハの実験結果に示される様に電子スピンの状態で変化する。このようにして入力端における電子スピン状態は選択可能となる。もちろん電子スピン状態を固定したくない場合は量子ポイントコンタクトを解除すれば電子の軌道や電子スピン状態に関係なく量子ドットに電子が注入される。
【0046】
また、半導体結晶基板としては、上記したGaAs、AlGaAsの他にInP、InAs、GaSb,Si等またはこれらの混晶を用いても同様の効果を期待できる。
また、電子スピン間の相互作用20(図15及び図16参照)をゲート電圧の高速操作により意のままに変えて量子演算を可能にすることができる。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の強磁性体微小磁石を有する量子ドットを用いた電子装置は、多量子ビットの各々に個別にしかも、省電力化を図るESR制御を行い量子計算を実現できる電子装置として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】従来の量子ドットを用いた電子装置の上面図である。
【図2】従来の量子ドットを用いた電子装置の側面図である。
【図3】従来技術である電子スピンブロックを用いたESR制御のエネルギーダイアグラムを示す図である。
【図4】従来技術である電子スピン情報転写のエネルギーダイアグラムを示す図である。
【図5】本発明の第1実施例を示す横型2量子ドットを用いた電子装置の上面パターン模式図である。
【図6】本発明の第1実施例を示す横型2量子ドットを用いた電子装置の断面概略図である。
【図7】本発明にかかる強磁性体微小磁石により発生する傾斜磁場成分と平行磁場成分の空間分布を示す図である。
【図8】本発明にかかる磁場を0から5Tまで変えた場合のESR共鳴の実験結果を示す図である。
【図9】本発明にかかる共鳴周波数と共鳴磁場の関係を示す図である。
【図10】本発明にかかるESR共鳴を観測したグラフを示す図である。
【図11】本発明にかかる量子ドット状態の遷移図である。
【図12】本発明の第3実施例を示す縦型2量子ドット作製に用いる半導体結晶基板の断面概念図である。
【図13】本発明の第3実施例を示す縦型2量子ドットを用いた電子装置の断面図である。
【図14】本発明の第3実施例を示す縦型2量子ドットを用いた電子装置の上面模式図である。
【図15】本発明の第4実施例を示す強磁性体微小磁石付き多量子ビットの配置概念図(その1)である。
【図16】本発明の第5実施例を示す強磁性体微小磁石付き多量子ビットの配置概念図(その2)である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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