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明細書 :非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置及び非縮退偏光量子もつれ光子対生成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5240864号 (P5240864)
登録日 平成25年4月12日(2013.4.12)
発行日 平成25年7月17日(2013.7.17)
発明の名称または考案の名称 非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置及び非縮退偏光量子もつれ光子対生成方法
国際特許分類 G02F   1/39        (2006.01)
FI G02F 1/39
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2009-550439 (P2009-550439)
出願日 平成20年12月10日(2008.12.10)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 日本物理学会講演概要集第63巻第2号(2008年秋季大会)第2分冊(2008年8月25日発行)に発表
国際出願番号 PCT/JP2008/072441
国際公開番号 WO2009/093391
国際公開日 平成21年7月30日(2009.7.30)
優先権出願番号 2008014938
優先日 平成20年1月25日(2008.1.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成23年3月1日(2011.3.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】枝松 圭一
【氏名】清水 亮介
【氏名】長能 重博
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】河原 正
参考文献・文献 特開2007-114464(JP,A)
PELTON M. et al.,Bright, single-spatial-mode source of frequency non-degenerate, polarization-entangled photon pairs using periodically poled KTP,OPTICS EXPRESS,2004年 7月26日,Vol.12, NO,15,p.3573-3580
金高裕樹 他,TypeII疑似位相整合LiNbO3導波路光子対発生デバイスの作製と基礎実験,第51回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2004年 3月28日,第3分冊,1303頁,29p-ZC-14
調査した分野 G02F 1/35-1/39
特許請求の範囲 【請求項1】
互いに周期が異なる第1及び第2周期分極反転構造をその内部に形成した単一の結晶を有する量子もつれ光子対生成体と、
前記第1周期分極反転構造を通過した後、前記第2周期分極反転構造を通過するポンプ光を前記単一の結晶に入射させる入射手段とを備え
前記第1周期分極反転構造は、前記ポンプ光を、第1偏光を有する第1シグナル光と前記第1偏光に直交する第2偏光を有する第1アイドラー光とに変換し、前記第2周期分極反転構造は、前記ポンプ光を、前記第1偏光を有する第2シグナル光と前記第2偏光を有する第2アイドラー光とに変換し、前記ポンプ光は、前記第1偏光と前記第2偏光とのいずれかを有し、
前記第1周期分極反転構造は、前記第1偏光の第1シグナル光が第1角周波数を有し、前記第2偏光の第1アイドラー光が第2角周波数を有するように調整され、
前記第2周期分極反転構造は、前記第1偏光の第2シグナル光が前記第2角周波数を有し、前記第2偏光の第2アイドラー光が前記第1角周波数を有するように調整されていることを特徴とする非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置。
【請求項2】
前記第1周期分極反転構造の周期と前記第2周期分極反転構造の周期とは、前記第1周期分極反転構造に入射した光に基づいて出射される偏光光子の放出角と波長との関係を示す放物線と、前記第2周期分極反転構造に入射した光に基づいて出射される偏光光子の放出角と波長との関係を示す放物線とが位相整合条件の許容する範囲内で接するように異なっている請求項1記載の非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置。
【請求項3】
前記単一の結晶は、ニオブ酸リチウム結晶である請求項1記載の非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置。
【請求項4】
ポンプ光を得るための第3周期分極反転構造をさらに備えており、
前記入射手段は、前記第3周期分極反転構造を通過した後、前記第1及び第2周期分極反転構造を通過する光を前記第3周期分極反転構造に入射させる請求項1記載の非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置。
【請求項5】
前記第3周期分極反転構造は、前記単一の結晶の内部に形成されている請求項4記載の非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置。
【請求項6】
互いに周期が異なる第1及び第2周期分極反転構造をその内部に形成した単一の結晶の前記第1周期分極反転構造を通過した後、前記第2周期分極反転構造を通過するポンプ光を前記単一の結晶に入射させ、
前記第1周期分極反転構造は、前記ポンプ光を、第1偏光を有する第1シグナル光と前記第1偏光に直交する第2偏光を有する第1アイドラー光とに変換し、前記第2周期分極反転構造は、前記ポンプ光を、前記第1偏光を有する第2シグナル光と前記第2偏光を有する第2アイドラー光とに変換し、前記ポンプ光は、前記第1偏光と前記第2偏光とのいずれかを有し、
前記第1周期分極反転構造は、前記第1偏光の第1シグナル光が第1角周波数を有し、前記第2偏光の第1アイドラー光が第2角周波数を有するように調整され、
前記第2周期分極反転構造は、前記第1偏光の第2シグナル光が前記第2角周波数を有し、前記第2偏光の第2アイドラー光が前記第1角周波数を有するように調整されていることを特徴とする非縮退偏光量子もつれ光子対生成方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、非縮退偏光量子もつれの状態にある光子対を生成する非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置及び非縮退偏光量子もつれ光子対生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子商取引や電子メール等による情報通信技術の進展が著しく、これに伴い、情報伝送における暗号技術についても研究開発が行われている。該暗号技術として、最近注目を集めているものとして、量子暗号がある。
【0003】
量子暗号では、量子力学におけるハイゼンベルグの不確定性原理により、物理現象によって安全性が保証される。該不確定性原理では、観測によってその状態は変化するため、通信が盗聴(観測)されると、必ずそれが明らかになり、それに応じて通信を遮断するなどの処置が可能なため、盗聴が物理学的に不可能とされる。また、粒子を複製することも不確定性原理によって不可能である。
【0004】
量子暗号における重要な要素として量子テレポーテーションがあげられる。量子テレポーテーションは、粒子の量子的な情報だけを別の場所に移す技術である。該量子テレポーテーションは、量子の絡み合い(量子もつれ)を利用して、光子同士が情報をやり取りすることにより実現される。量子もつれの状態にある光子対は、一方の量子的状態が決まると、他方の量子状態も決まるという性質があり、この性質は、2光子間の距離に依存しない。
【0005】
上記量子テレポーテーションの技術では、量子もつれの状態にある光子対が必要不可欠である。
【0006】
次に、2光子の偏光量子もつれ状態を説明する。偏光を用いた2量子ビット(2光子)の量子もつれ状態として,以下の4つの状態が知られている。
【0007】
【数1】
JP0005240864B2_000002t.gif

【0008】
ここで,光子のモードiを決定する物理量として、光子の光路や角周波数が考えられる。
【0009】
次に、2光子の生成方法(パラメトリック下方変換)について説明する。2光子状態を生成するための物理過程として、パラメトリック下方変換過程がしばしば用いられる。パラメトリック下方変換過程では、結晶中に入射した1つのポンプ光子(角周波数ωp、波数ベクトルk)がある確率でシグナル光子(角周波数ωs、波数ベクトルk)とアイドラー光子(角周波数ωi、波数ベクトルk)との光子対に変換される。この際、パラメトリック下方変換過程が引き起こされるためには位相整合条件
【0010】
【数2】
JP0005240864B2_000003t.gif

【0011】
を満足しなければならない。
【0012】
位相整合条件には、各々の光子の偏光によって以下の3種類が存在する。
1.type-0の位相整合条件
ポンプ光子とシグナル光子とアイドラー光子との偏光が全て同一の場合である。
2.type-Iの位相整合条件
シグナル光子とアイドラー光子とが同一の偏光を有し、ポンプ光子がこれらと直交した偏光状態を有する場合である。
3.type-IIの位相整合条件
シグナル光子とアイドラー光子との偏光が直交しており、ポンプ光子がどちらか一方の偏光を有する場合である。
【0013】
次に、擬似位相整合法について説明する。任意の波長において位相整合条件を満たす方法として、擬似位相整合法が知られている。擬似位相整合法では、周期的に2次の非線形感受率を変調することによって、位相整合条件を満たす。この際の上記位相整合条件(4)式は以下のように書き換えられる。
【0014】
【数3】
JP0005240864B2_000004t.gif

【0015】
この式において、Λは2次の非線形感受率の変調周期を表す。2次の非線形感受率の周期的な変調方法としては、結晶の持つ自発分極を周期的に反転させる「周期分極反転法」が実現されている。
【0016】
次に、既存の偏光量子もつれ状態の生成方法について説明する。2光子が同一の角周波数を持つ偏光量子もつれ状態の生成方法としては幾つかの手法が報告されている(例えば非特許文献1)。この方法では、2つの光子の角周波数は同一であり区別がつかないため、光子の光路によってモードを決定している。つまり、2つの光子は別々の光路に放出されなければならない。
【0017】
一方で、角周波数の違った2光子により偏光量子もつれ状態を生成する方法も提案されている。この方法では角周波数によって光子のモードを区別しているため、2つの光子が同一の光路上に存在していても良い。
【0018】
このような、角周波数の異なる2光子より構成される偏光量子もつれ光子対の生成方法としては、以下の方法が報告されている。
【0019】
1.type-0もしくはtype-Iのパラメトリック下方変換を利用する方法(非特許文献2)
この方法では、同一の偏光状態を有する2光子を発生させるtype-0もしくはtype-Iの位相整合条件の非線形光学結晶を、互いに90度回転させて直列に並べる方法が実現されている。この場合、2つの結晶に同一のポンプ光源からの光を照射し、ポンプ光と同軸方向に角周波数の異なる2光子(ω、ω)を生成させる。
【0020】
2.単一の結晶中に2種類の周期分極反転構造を作製する方法(特許文献2)
この方法では、type-0とtype-Iという異なる位相整合条件を用いる。
【0021】
3.光ファイバー中で起こる3次の非線形光学現象である4光波混合過程を利用した方法(非特許文献3)
この方法では、光ファイバーを干渉計中に設置して偏光量子もつれ状態を生成する。
【0022】
また、半導体中の二光子共鳴励起過程を利用して非縮退偏光量子もつれ光子対を作り出す方法も知られている(特許文献1)。

【特許文献1】特開2005-309012号公報(平成17年11月4日(2005.11.4)公開)
【特許文献2】特開2007-114464号公報(平成19年5月10日(2007.5.10)公開)
【非特許文献1】“New high-intensity source of polarization-entangled photon pairs.” P.G. Kwiat et.al., Phys. Rev. Lett. 75, 4337 (1995).
【非特許文献2】“Bright, single-spatial-mode source of frequency non-degenerate, polarization-entangled photon pairs using periodically poled KTP.” M. Pelton et. al., Opt. Express 12, 3573 (2004).
【非特許文献3】“Generation of polarization-entangled photon pairs and violation of Bell’s inequality using spontaneous four-wave mixing in a fiber loop,” H. Takesue and Kyo Inoue, Phys. Rev. A 70, 031802 (2004).
【発明の開示】
【0023】
しかしながら、上記非特許文献2に記載の方法では、同一の性質を持つ2つの結晶を用意し、精密に並べなければならないという複雑さを伴う。
【0024】
上記特許文献2に記載の方法では、type-0とtype-Iという異なる位相整合条件を用いるため、各々の位相整合条件に対応する周期分極反転構造において発生する2光子の生成効率のバランスを取りにくいという欠点を持つ。各々の周期分極反転構造からの2光子の生成効率のバランスが悪いと、量子もつれの度合いが低下するという問題を招く。
【0025】
上記非特許文献3に記載の方法では、偏光量子もつれ状態を生成するために光ファイバーを干渉計中に設置しなければならないため、装置を構成するにあたり複雑さを伴う。
【0026】
上記特許文献1に記載の方法では、半導体中の共鳴準位を用いるため,入射するポンプ光の角周波数が限定される。そのため、生成される非縮退偏光量子もつれ光子対の周波数帯域も狭い範囲に限定される。
【0027】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、非縮退偏光量子もつれ光子対を簡便に生成することができ、非縮退偏光量子もつれ光子対の生成効率を高めることができる非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置を実現することにある。
【0028】
本発明に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置は、上記課題を解決するために、互いに周期が異なる第1及び第2周期分極反転構造をその内部に形成した単一の結晶を有する量子もつれ光子対生成体と、前記第1周期分極反転構造を通過した後、前記第2周期分極反転構造を通過する光を前記単一の結晶に入射させる入射手段とを備えたことを特徴としている。
【0029】
上記の特徴によれば、非縮退偏光量子もつれ光子対を生成するための第1周期分極反転構造及び第2周期分極反転構造を単一の結晶の内部に形成するので、非縮退偏光量子もつれ光子対を簡便に生成することができ、非縮退偏光量子もつれ光子対の生成効率を高めることができる。
【0030】
また、本発明は物質中の共鳴準位を利用しないため、入射するポンプ光の角周波数に対する制限が緩い。そのため、広帯域にわたる非縮退偏光量子もつれ光子対の生成が可能になる。
【0031】
本発明に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置では、前記第1周期分極反転構造の周期と前記第2周期分極反転構造の周期とは、前記第1周期分極反転構造に入射した光に基づいて出射される偏光光子の放出角と波長との関係を示す放物線と、前記第2周期分極反転構造に入射した光に基づいて出射される偏光光子の放出角と波長との関係を示す放物線とが位相整合条件の許容する範囲内で接するように異なっていることが好ましい。
【0032】
上記構成によれば、ポンプ光の進行方向と同軸方向に角周波数ω1と角周波数ω2の互いの偏光が直交した光子対が発生するtype-IIの位相整合条件になるように分極反転周期を調整することができる。
【0033】
本発明に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置では、前記単一の結晶は、ニオブ酸リチウム結晶を用いることができる。
【0034】
上記構成によれば、非縮退偏光量子もつれ光子対を生成するための第1周期分極反転構造及び第2周期分極反転構造を容易に形成することができる。
【0035】
本発明に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置では、ポンプ光を得るための第3周期分極反転構造をさらに備えており、前記入射手段は、前記第3周期分極反転構造を通過した後、前記第1及び第2周期分極反転構造を通過する光を前記第3周期分極反転構造に入射させることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、入射手段からの光は、第3周期分極反転構造に入射してポンプ光に変換され、このポンプ光が第1及び第2周期分極反転構造に入射することにより、非縮退偏光量子もつれ光子対が生成される。
【0037】
本発明に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置では、前記第3周期分極反転構造は、前記単一の結晶の内部に形成されていることが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、ポンプ光を得る為の結晶を別に用意する必要がなくなるので、非縮退偏光量子もつれ光子対を生成するための構成が簡単になる。
【0039】
本発明に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成方法は、上記課題を解決するために、互いに周期が異なる第1及び第2周期分極反転構造をその内部に形成した単一の結晶の前記第1周期分極反転構造を通過した後、前記第2周期分極反転構造を通過する光を前記単一の結晶に入射させることを特徴とする。
【0040】
上記の特徴によれば、非縮退偏光量子もつれ光子対を生成するための第1周期分極反転構造及び第2周期分極反転構造が単一の結晶の内部に形成されるので、非縮退偏光量子もつれ光子対を簡便に生成することができ、非縮退偏光量子もつれ光子対の生成効率を高めることができる。
【0041】
本発明に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置は、以上のように、互いに周期が異なる第1及び第2周期分極反転構造をその内部に形成した単一の結晶を有する量子もつれ光子対生成体を備えているので、非縮退偏光量子もつれ光子対を簡便に生成することができ、非縮退偏光量子もつれ光子対の生成効率を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施の形態に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置の構成を示す模式図である。
【図2】実施の形態に係る他の非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置の構成を示す模式図である。
【図3】上記非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置の実施例を示す模式図である。
【図4】上記非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置に設けられた第1周期分極反転構造に入射した光に基づいて出射される偏光光子の放出角と波長との関係を示すグラフである。
【図5】上記非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置に設けられた第2周期分極反転構造に入射した光に基づいて出射される偏光光子の放出角と波長との関係を示すグラフである。
【図6】図4に示すグラフと図5に示すグラフとを重ね合わせたグラフである。
【図7】上記他の非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置の実施例を示す模式図である。
【図8】上記非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置の実施例を示す模式図である。
【図9】上記実施例のパラメトリック蛍光のスペクトル温度依存性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置
2 量子もつれ光子対生成体
3a 周期分極反転構造(第1周期分極反転構造)
3b 周期分極反転構造(第2周期分極反転構造)
3c 周期分極反転構造(第3周期分極反転構造)
4 入射ユニット(入射手段)
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明の一実施形態について図1ないし図7に基づいて説明すると以下の通りである。
【0045】
本実施の形態は、互いの偏光が直交した2光子を発生させるtype-IIの位相整合条件のもとで、異なる周期分極反転構造を単一の結晶中に作製する。この際、一方の周期分極反転構造からは、ω1の角周波数を持つ光子が第1偏光を有し、角周波数ω2を持つ光子が第2偏光を有するように分極反転周期を調整する。また、もう一方の周期分極反転構造からはω1の角周波数を持つ光子が第2偏光を有し,角周波数ω2を持つ光子が第1偏光を有するように分極反転周期を調整する。この構造により、周波数モードを利用した非縮退波長の偏光量子もつれ状態を単一の結晶から生成する。この発明ではどちらの周期分極反転構造にもtype-IIの位相整合条件を利用するため、各々の周期分極反転構造間における2光子生成効率のバランスを取りやすい。さらに、付加的な干渉計を必要としないため、装置の構成が非常に簡便になるという効果を奏する。
【0046】
図1は、実施の形態に係る非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1の構成を示す模式図である。非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1は、量子もつれ光子対生成体2を備えている。量子もつれ光子対生成体2は、互いに周期が異なる周期分極反転構造3a・3bをその内部に形成した単一の結晶によって構成されている。この単一の結晶は、ニオブ酸リチウム結晶により形成されている。非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1には、周期分極反転構造3aを通過した後、周期分極反転構造3bを通過する光を光子対生成体2(単一の結晶)に入射させる入射ユニット4が設けられている。
【0047】
本実施の形態では、単一の結晶(光子対生成体2)中に周期の異なる周期分極反転構造3a・3bを作製する(図1)。ここでは、角周波数ω、波数ベクトルkのポンプ光の入射に対し、ポンプ光の進行方向と同軸方向に角周波数ω(波数ベクトルk)と角周波数ω(波数ベクトルk)の互いの偏光が直交した光子対が発生するtype-IIの位相整合条件になるように分極反転周期を調整する。ここで、周期分極反転構造を用いた擬似位相整合では、各々の光の角周波数と波数ベクトルとは位相整合条件より、以下の関係式によって結び付けられる。
【0048】
【数4】
JP0005240864B2_000005t.gif

【0049】
ここで,Λは分極反転の周期を表す。このとき、第1の周期分極反転構造3aでは角周波数ωの光子が第1偏光を有し、角周波数ωの光子が第2偏光を有する光子対が発生するように分極反転の周期Λを調整する。第1の周期分極反転構造3aには、結晶が持つ本来の自発分極領域と自発分極を反転させた領域とが、光子の進行方向に沿って交互に配置されている。分極反転の周期Λは、自発分極領域と自発分極を反転させた領域とを1周期とした場合の周期を表している。また、第2の周期分極反転構造3bでは角周波数ωの光子が第2偏光を有し、角周波数ωの光子が第1偏光を有する光子対を発生するように分極反転の周期Λを調整する。第2の周期分極反転構造3bには、結晶が持つ本来の自発分極領域と自発分極を反転させた領域とが、光子の進行方向に沿って交互に配置されている。分極反転の周期Λは、自発分極領域と自発分極を反転させた領域とを1周期とした場合の周期を表している。
【0050】
この様な擬似位相整合素子に同一のポンプ光を入射した場合、生成された2光子状態は、周期分極反転構造3aにより作製された2光子状態
【0051】
【数5】
JP0005240864B2_000006t.gif

【0052】
と周期分極反転構造3bにより作製された2光子状態
【0053】
【数6】
JP0005240864B2_000007t.gif

【0054】
との線形重ねあわせ状態
【0055】
【数7】
JP0005240864B2_000008t.gif

【0056】
を形成する。ここで、φは2つの周期分極反転構造3a・3bから発生した2光子状態の位相差を表す。この状態は、周波数モードを利用した偏光量子もつれ状態である。
【0057】
図2は、実施の形態に係る他の非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1aの構成を示す模式図である。さらに、角周波数ωのポンプ光を作り出すためにも周期分極反転構造による擬似位相整合を利用して第2高調波発生を行なう。つまり、第0の周期として下記を満たす周期分極反転構造3cを作製する(図2)。
【0058】
【数8】
JP0005240864B2_000009t.gif

【0059】
ここで、ωとkは、第2高調波発生の基本波の角周波数と波数ベクトルを表す。この構造により、角周波数ωを持つ光の入射により角周波数ωとωを持つ2光子の偏光量子もつれ状態の生成が単一の結晶のみで可能になる。
【0060】
周期分極反転構造3cには、自発分極領域と自発分極を反転させた領域とが、光子の進行方向に沿って交互に配置されている。分極反転の周期Λは、自発分極領域と自発分極を反転させた領域とを1周期とした場合の周期を表している。
【0061】
従来の方法では結晶を2つ用いるか、もしくは干渉計を利用する必要があった。それらに対し、本実施の形態の方法は干渉計を必要としないため、非縮退の偏光量子もつれ光子対を単一の結晶のみで簡便に作り出せるという利点を持つ。また、従来の手法では、生成させる2光子の周波数帯によっては、ポンプ光を得るために第2高調波発生を行い、そのために別の結晶を用意する必要があった。しかしながら、本実施の形態ではポンプ光を得る為の第2高調波発生も、2光子状態を生成するためのパラメトリック下方変換も全て単一の結晶で行なう。
【0062】
図3は、非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1の実施例を示す模式図である。ここでは,周期分極反転構造3a・3bを作製する結晶としてニオブ酸リチウム結晶(LiNbO)を考える。まず、波長の異なる非縮退の2光子を生成するための第1の周期分極反転構造3aとして周期Λ=9.1μmの構造を作製する。この周期分極反転構造に対し、結晶のx軸に沿ってy軸方向に偏光した波長775nmのポンプ光を入射する(図3)。
【0063】
このとき、この周期分極反転構造から出射されるy軸方向に偏光した光子とz軸方向に偏光した光子の放出角と波長との間の関係をシミュレーションにより求めたグラフを図4に示す。
【0064】
このグラフから、波長1580nmのy軸方向に偏光した光子と波長1520nmのz軸方向に偏光した光子とがポンプ光と同軸(0rad.)方向に発生することが分かる。
【0065】
次に、第2周期として周期Λ=9.3μmの構造を作製する。この構造に,第1周期の構造に用いたものと同一のポンプ光が入射した場合のy軸方向に偏光した光子とz軸方向に偏光した光子の放出角と波長の間の関係をシミュレーションにより求めたグラフを図5に示す。このグラフから波長1580nmのz軸方向に偏光した光子と波長1520nmのy軸方向に偏光した光子とがポンプ光と同軸(0rad.)方向に発生すること分かる。
【0066】
図4のグラフと図5のグラフとを重ねたグラフを図6に示す。このグラフから、波長1520nmと1580nmにおいて位相整合条件の許容する範囲内で放物線が接しており、接している放物線に従う光子の偏光は互いに直交していることがわかる。つまり、2つの周期分極反転構造3a・3bを同一の結晶中に作製し、x軸に沿ってy軸方向に偏光した波長775nmのポンプ光を入射すると、ポンプ光と同軸方向へ第1の周期構造3aより波長1580nmのy軸方向に偏光した光子と波長1520nmのz軸方向に偏光した2光子
【0067】
【数9】
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【0068】
が出射され、第2の周期構造3bから波長1580nmのz軸方向に偏光した光子と波長1520nmのy軸方向に偏光した2光子
【0069】
【数10】
JP0005240864B2_000011t.gif

【0070】
が出射される。ここで、どちらの構造に対してもポンプ光は同一のものを用いるため、出力される2光子状態は結果としてその線形結合状態
【0071】
【数11】
JP0005240864B2_000012t.gif

【0072】
となり、y軸方向の偏光を第1偏光とし、z軸方向の偏光を第2偏光とすれば、式(1)と同一の周波数モードを利用した非縮退の偏光量子もつれ状態が生成されることが分かる。
【0073】
図7は、非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1aの実施例を示す模式図である。さらに、これらの周期分極反転構造3a・3bの(光の進行方向に対して)手前側に第0の周期分極反転構造3cとしてΛ=16.1μmの分極反転構造を作製すると、y軸方向に偏光した波長1550nmの光の入射に対し、y軸方向に偏光した波長775nmのポンプ光を得ることができる。この構造(周期分極反転構造3c)を付加することにより、波長1550nmの入射によりこの波長を中心とした2光子の偏光量子もつれ光子対を得ることができる。
【0074】
図3の構造により得られる偏光量子もつれ状態は、波長1580nmと1520nmに限られるものではない。分極反転周期を調整することにより、様々な2波長における偏光量子もつれ状態を得ることができる。例えば、Λ=3.9μmとΛ=4.9μmの周期分極反転構造を作製し、結晶のx軸に沿ってy軸方向に偏光した波長532nmのポンプ光を入射すると、波長810nmと1550nmを持つ以下の偏光量子もつれ状態を得ることができる。
【0075】
【数12】
JP0005240864B2_000013t.gif

【0076】
また、図3の構造により得られる偏光量子もつれ状態は、ニオブ酸リチウム結晶だけでなく、例えば、周期分極反転構造を作製することが可能なKTP結晶(KTiOPO)中に,周期Λ=49.8μm,周期Λ=44.8μmの周期分極反転構造を作製することによっても式(9)と同一の波長1580nmと1520nmを持つ非縮退の偏光量子もつれ状態を得ることが可能である。
【0077】
また、ニオブ酸リチウム(LiNbO)結晶以外の周期分極反転可能な代表的結晶としては、タンタル酸リチウム(LiTaO)結晶、チタン酸リン酸カリウム(KTiOPO)結晶が知られている。ニオブ酸カリウム(KNbO)も分極反転が可能である。
【0078】
図8は、非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1の実施例を示す模式図であり、2つの異なる周期分極反転構造を持つPPLN結晶を簡略的に示している。パラメトリック下方変換(PDC)過程を利用した非縮退偏光量子もつれ光子対の生成方法がいくつか報告されているが、これらの光子対は波長が異なるため、ミラーで簡便かつ効率よく分けることができ、また片方を通信波長帯にすることにより遠くに情報を伝達することができ、他方を手元で操作することが可能である。本実施例では、一つのLiNbO(LN)結晶に二つの異なる周期を持つtype-II擬似位相整合素子を構成し、通信波長帯の2波長にピークを持つパラメトリック蛍光のスペクトルを観測した。
【0079】
非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1cは、量子もつれ光子対生成体2cを備えている。量子もつれ光子対生成体2cは、周期Λ=9.25μm(相互作用長:20mm)の周期分極反転構造3dと、周期Λ=9.50μm(相互作用長:20mm)の周期分極反転構造3eとをその内部に形成した単一の結晶によって構成されている。この単一の結晶は、ニオブ酸リチウム結晶により形成されている。非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置1cには、周期分極反転構造3dを通過した後、周期分極反転構造3eを通過する光を光子対生成体2c(単一の結晶)に入射させる入射ユニット4が設けられている。
【0080】
量子もつれ光子対生成体2cは、結晶温度119.5℃において775nmのポンプ光と同軸方向に沿って、周期Λの領域からe-ray(1.59μm帯)/o-ray(1.51μm帯)の光子対と、周期Λの領域からe-ray(1.51μm帯)/o-ray(1.59μm帯)の光子対とが生成するように構成されている。
【0081】
図9は、上記実施例のパラメトリック蛍光のスペクトル温度依存性を示すグラフである。結晶温度108.9℃においては、周期Λの領域および周期Λの領域から生成された偏光の異なるパラメトリック蛍光スペクトルのピークは、4つに分離している。結晶温度119.5℃においては、それぞれのピークは、1.51μm帯と1.59μm帯とで二つに重なりあっている(縮退)。さらに、結晶温度を134.0℃に上昇させた場合、二つに縮退していたピークは、再び4つのピークに分離する。結晶温度119.5℃における2波長の光をダイクロイックミラーで分離することにより、事後選択を要しない非縮退偏光量子もつれ光子対を生成することができる。
【0082】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、非縮退偏光量子もつれの状態にある光子対を生成する非縮退偏光量子もつれ光子対生成装置及び非縮退偏光量子もつれ光子対生成方法に適用することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8