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明細書 :フローサイトメータおよびフローサイトメトリ方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5534214号 (P5534214)
公開番号 特開2011-099848 (P2011-099848A)
登録日 平成26年5月9日(2014.5.9)
発行日 平成26年6月25日(2014.6.25)
公開日 平成23年5月19日(2011.5.19)
発明の名称または考案の名称 フローサイトメータおよびフローサイトメトリ方法
国際特許分類 G01N  15/14        (2006.01)
FI G01N 15/14 B
G01N 15/14 D
G01N 15/14 C
請求項の数または発明の数 8
全頁数 20
出願番号 特願2010-220445 (P2010-220445)
出願日 平成22年9月30日(2010.9.30)
優先権出願番号 2009231468
優先日 平成21年10月5日(2009.10.5)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年7月11日(2013.7.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】502437702
【氏名又は名称】ベイバイオサイエンス株式会社
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
発明者または考案者 【氏名】神田 昌彦
【氏名】加藤 茂明
【氏名】藤山 沙理
【氏名】泉川 恵
【氏名】近西 俊洋
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100081422、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 光雄
審査官 【審査官】渡邊 吉喜
参考文献・文献 特開2005-315799(JP,A)
特表2007-501394(JP,A)
特開2008-089540(JP,A)
特表2005-530517(JP,A)
特開2008-122169(JP,A)
調査した分野 G01N 15/00-15/14
特許請求の範囲 【請求項1】
染色された生物学的粒子を含むシースフローを形成するフローセルと、
フローセルに第1の光を照射する第1の光源と、
第1の光源よりシースフロー下流側においてフローセルに第2の光を照射する第2の光源と、
第1の光による生物学的粒子からの散乱光または蛍光を受光して電気的信号に変換する第1の受光部と、
第2の光による生物学的粒子からの蛍光を受光して電気的信号に変換する、シースフローに沿って配列された複数の第2の受光部と、
第1の受光部が散乱光または蛍光を受光した時から所定の期間において、複数の第2の受光部から出力された電気的信号を電気的に加算することにより、第2の光により生物学的粒子を励起したときに生じる蛍光の電気的信号を増大させる信号処理部とを備え
第2の光源は、複数の第2の受光部が対向するフローセルの受光領域全体にわたってシースフローに沿って実質的に均一な強度で第2の光を照射することを特徴とするフローサイトメータ。
【請求項2】
第2の光源は、複数の第2の受光部のそれぞれが対向するフローセルの各受光領域に、同一波長の第2の光を照射する複数の光源からなることを特徴とする請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項3】
第2の受光部は、シースフローに沿った第1の方向、および第1の方向と直交する第2の方向に格子状に配列されることを特徴とする請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項4】
複数の第2の受光部のそれぞれに対向して配置され、第2の光による生物学的粒子からの蛍光を集光するための複数のマイクロレンズを有することを特徴とする請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1に記載のフローサイトメータを備えたことを特徴とするセルソータ。
【請求項6】
染色された生物学的粒子を含むシースフローを形成するステップと、
フローセルに第1の光を照射するステップと、
第1の光源よりシースフロー下流側においてフローセルに第2の光を照射するステップと、
第1の光による生物学的粒子からの散乱光または蛍光を受光して電気的信号に変換するステップと、
第2の光による生物学的粒子からの蛍光を複数の受光領域において受光して電気的信号に変換するステップと、
第1の光による生物学的粒子からの散乱光または蛍光を受光した時から所定の期間において、複数の第2の受光部から出力された電気的信号を電気的に加算することにより、第2の光により生物学的粒子を励起したときに生じる蛍光の電気的信号を増大させるステップとを有し、
第2の光は、複数の受光領域全体にわたってシースフローに沿って実質的に均一な強度で照射されることを特徴とするフローサイトメトリ方法。
【請求項7】
第2の光は、同一波長を有し、複数の第2の受光部のそれぞれが対向するフローセルの各受光領域に照射されることを特徴とする請求項に記載のフローサイトメトリ方法。
【請求項8】
染色された生物学的粒子は、蛍光色素で蛍光標識された100nm未満の径を有することを特徴とする請求項6または7に記載のフローサイトメトリ方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、フローサイトメータおよびフローサイトメトリ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジの急速な発展に伴い、医学や生物学を含むさまざま分野で細胞などを自動的に分析・分別するフローサイトメータおよびセルソータの需要がますます増大しつつある。フローサイトメータは、生体(血液など)から採取された細胞粒子を蛍光色素などで染色し、数多くの細胞粒子をシースフロー内で一列に配列し、細胞粒子のそれぞれにレーザビームを照射して、細胞粒子から生じる側方散乱光と蛍光色素に依存するさまざまな多色蛍光を測定することにより、細胞を同定するものである。また、同定するために収集された散乱光と蛍光に関する情報は、通常、電気的信号に変換され、サンプルから採取された大量の細胞粒子を統計的に評価することにより、生体の病変などの状態が診断される。さらにセルソータは、散乱光と蛍光に関する電気的信号を用いて、シースフローから分離される各細胞粒子を含む液滴を帯電させ、この液滴が落下する間に特定の電場を液滴に印加することにより、特定の細胞粒子を選択的に収集(分別)するものである。
【0003】
典型的なフローサイトメータが、たとえば本願と同一の譲受人に譲渡された特許文献1および2に記載されており、これらの記載内容はここに参考に一体のものとして統合される。
【0004】
これまでのフローサイトメータおよびセルソータは、上述のように、血液などから採取された比較的に寸法の大きい細胞粒子等を同定または分別することが主流であった。ところが昨今、ヒトゲノム研究に代表されるような遺伝子解析研究が進み、遺伝子を含むさまざまなタンパク質の解析研究が盛んに行われるようになり、細胞粒子等のみならずより微小なタンパク質複合体を蛍光標識して精度よく同定および分別する技術の確立に対する要請が近年ますます増大している。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許第3891925号公報
【特許文献2】特許第4304120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のフローサイトメータおよびセルソータによれば、より微小なタンパク質複合体を蛍光標識して精度よく同定および分別するには解決すべき課題があった。すなわち図11(a)に示すような比較的に寸法の大きい細胞粒子(D=0.5μm~数百μm)の周囲には半径の二乗に比例する表面積に数多くの蛍光標識された蛍光色素(抗体)が付着するのに対し、図11(b)に示すようなタンパク質複合体(D=~10nm)には蛍光色素があまり多く付着しないので、蛍光標識されたタンパク質複合体から生じる蛍光の強度は、細胞粒子等の巨大粒子から生じるものより実質的に小さくなってしまう。たとえばタンパク質複合体の半径(D)が細胞粒子(D)の1/10倍(=D/D)であれば、タンパク質複合体からの蛍光の強度は、半径の二乗に比例して細胞粒子からの蛍光の強度の1/100倍となり、精度よく同定および分別するために必要な蛍光強度が得られなかった。このため、従来のフローサイトメータおよびセルソータでは、より微小なタンパク質複合体を蛍光標識して精度よく同定および分別することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その1つの態様によれば、以下のフローサイトメータを提供することを目的とする。すなわち、そのフローサイトメータは、染色された生物学的粒子を含むシースフローを形成するフローセルと、フローセルに第1の光を照射する第1の光源と、第1の光源よりシースフロー下流側においてフローセルに第2の光を照射する第2の光源と、第1の光による生物学的粒子からの散乱光または蛍光を受光して電気的信号に変換する第1の受光部と、第2の光による生物学的粒子からの蛍光を受光して電気的信号に変換する、シースフローに沿って配列された複数の第2の受光部と、第1の受光部が散乱光または蛍光を受光した時から所定の期間において、複数の第2の受光部から出力された電気的信号を電気的に加算することにより、第2の光により生物学的粒子を励起したときに生じる蛍光の電気的信号を増大させる信号処理部とを備えたことを特徴とするものである。
【0008】
第2の光源は、複数の第2の受光部が対向するフローセルの受光領域全体にわたって実質的に均一な強度で第2の光を照射することが好ましい。また第2の光源は、複数の第2の受光部のそれぞれが対向するフローセルの各受光領域に、同一波長の第2の光を照射する複数の光源からなるものであってもよい。さらに第2の受光部は、シースフローに沿った第1の方向、および第1の方向と直交する第2の方向に格子状に配列されるものであってもよい。そしてフローサイトメータは、複数の第2の受光部のそれぞれに対向して配置され、第2の光による生物学的粒子からの蛍光を集光するための複数のマイクロレンズを有することがなお好ましい。
【0009】
本発明の別の態様によれば、フローサイトメトリ方法が提供され、これは、染色された生物学的粒子を含むシースフローを形成するステップと、フローセルに第1の光を照射するステップと、第1の光源よりシースフロー下流側においてフローセルに第2の光を照射するステップと、第1の光による生物学的粒子からの散乱光または蛍光を受光して電気的信号に変換するステップと、第2の光による生物学的粒子からの蛍光を複数の受光領域において受光して電気的信号に変換するステップと、第1の光による生物学的粒子からの散乱光または蛍光を受光した時から所定の期間において、複数の第2の受光部から出力された電気的信号を電気的に加算することにより、第2の光により生物学的粒子を励起したときに生じる蛍光の電気的信号を増大させるステップとを有することを特徴とするものである。
【0010】
このフローサイトメトリ方法においても同様に、第2の光は、複数の受光領域全体にわたって実質的に均一な強度で照射されることが好ましく、択一的には、第2の光は、同一波長を有し、複数の第2の受光部のそれぞれが対向するフローセルの各受光領域に照射される。
【発明の効果】
【0011】
複数の第2の受光部から出力された電気的信号を電気的に加算することにより、第2の光により生物学的粒子を励起したときに生じる蛍光の電気的信号を増大させ、タンパク質複合体などの微小な生物学的粒子であっても検出精度を格段に改善することができる。
また複数の第2の受光部が対向するフローセルの受光領域全体にわたって実質的に均一な強度で第2の光を照射することにより、微小な生物学的粒子の励起時間を長くして、得られる蛍光強度を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る実施形態1によるフローサイトメータ(セルソータ)の概略的構成を示す模式図である。
【図2】図1に示す流体フロー機構のフローチャンバ、フローセル、およびジェットフローを示す詳細拡大図である。
【図3】図1に示す光学的機構の各構成部品を示す概略図である。
【図4】図2に示すフローセルに照射される入射レーザビームと、入射レーザビームが微小細胞粒子に照射されて生じた側方散乱光および蛍光を受光する受光部の概略的構成を示すフローセルの概略断面図である。
【図5】(a)は入射レーザビームの照射方向とは直交する平面で切断したときのフローセルの拡大断面図であり、(b)はフローセルの受光領域全体において照射される入射レーザビームが均一な強度を有することを示す。
【図6】(a)はフローセルの各受光領域に対向してそれぞれ1つの第2の受光部が配置され、(b)は水平方向にも複数の第2の受光部が(アレイ状に)配置されたフローセルの拡大断面図である。
【図7】(a)は第1の受光部から出力された電気的信号を示すタイミングチャートであり、図7(b)~(d)は複数の第2の受光部のそれぞれから出力された電気的信号を示すタイミングチャートである。
【図8】フローセル内のシースフロー、およびジェットフロー(およびジェットフローからブレイク・オフ・ポイントで分離する液滴を含む)を示す概略図である。
【図9】実施形態2による光学的機構を示す図4と同様の概略図である。
【図10】(a)は図5(a)と同様のフローセルの拡大断面図であり、(b)は図5(b)と同様に、フローセルの各受光領域において照射される入射レーザビームが均一な強度を有することを示す。
【図11】(a)は比較的に大きい細胞粒子の周囲に数多くの蛍光色素が付着した状態を示し、(b)は微小なタンパク質複合体の周囲には蛍光色素があまり多く付着しない様子を示す概念図である。
【図12】(a),(b),(c)はそれぞれ、比較例1、比較例2、および比較例3に係るフローサイトメータの第2の光源からの近紫外レーザビームの照射面を示す概略図である。
【図13】比較例1に係るフローサイトメータの信号処理部が検出したフォトンカウントと頻度を、標識ビーズおよび非標識ビーズを含むサンプル懸濁液のそれぞれについてプロットしたグラフである。
【図14】比較例2に係るフローサイトメータの信号処理部が検出したフォトンカウントと頻度を、標識ビーズおよび非標識ビーズを含むサンプル懸濁液のそれぞれについてプロットしたグラフである。
【図15】標識ビーズを含むサンプル懸濁液について、比較例1の信号処理部が検出したフォトンカウントと頻度を、非標識ビーズの最大閾値で分類して、ポジティブ率を求めた図12と同様のグラフである。
【図16】標識ビーズを含むサンプル懸濁液について、比較例2の信号処理部が検出したフォトンカウントと頻度を、非標識ビーズの最大閾値で分類して、ポジティブ率を求めた図13と同様のグラフである。
【図17】比較例3に係るフローサイトメータの信号処理部が検出したフォトンカウントと頻度を、標識ビーズおよび非標識ビーズを含むサンプル懸濁液のそれぞれについてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明に係るフローサイトメータおよびフローサイトメトリ方法の実施の形態を説明する。各実施の形態の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(例えば、「上方」、「下方」、「上流側」および「下流側」など)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本発明を限定するものでない。

【0014】
図1~図8を参照しながら、本発明に係るフローサイトメータおよびフローサイトメトリ方法の実施形態1について説明する。
図1に示すフローサイトメータ1は、概略、赤血球などの一般的な細胞粒子より微小なタンパク質複合体(たとえば直径が10nm未満のもの)等の微小細胞粒子Pを蛍光色素などで染色されたものを、フローセル30内で一列に配列するための流体フロー機構10と、各微小細胞粒子Pに少なくとも2種類のレーザ光を照射し、散乱光および蛍光を受光するための光学的機構40と、光学的機構40から出力された散乱光および蛍光に関する電気信号を処理するためのデジタル信号処理装置(信号処理部)60とを備える。
また、このフローサイトメータ1は、微小細胞粒子Pから生じた散乱光および蛍光に関する電気信号をデジタル信号処理装置60により解析して微小細胞粒子Pを同定し、微小細胞粒子Pの種別に応じた極性を有する電荷を所定のタイミングで微小細胞粒子Pに与え、その電荷に基づいて微小細胞粒子Pを分別するためのソータ機構80を設けることにより、セルソータとして構成することができる。
以下、流体フロー機構10、光学的機構40、デジタル信号処理装置60、およびソータ機構80について詳細に説明する。

【0015】
[1.流体フロー機構]
図1および図2を参照すると、流体フロー機構10は、概略、シースフローを形成するための円筒状のフローチャンバ12と、蛍光染料や蛍光ラベルモノクロナール抗体などの蛍光標識試薬で蛍光標識された微小細胞粒子Pを含むサンプル懸濁液を収容するためのサンプル容器14と、シース液を収容するためのシース容器16とを備え、フローチャンバ12の中心軸に沿って配設されたサンプル管15にサンプル懸濁液が供給され、フローチャンバ12の周縁部に接続されたシース管17を介してフローチャンバ12内にシース液が供給されるように構成されている。

【0016】
また流体フロー機構10は、サンプル容器14内の気圧を制御する圧力コントローラ18と、圧力コントローラ18に圧縮空気を供給するためのエアポンプ26と、シース容器16と流体連通する大量のシース液を貯蔵するためのプレナム容器24と、プレナム容器24に圧縮空気を供給するための別のエアポンプ27とを備える。好適には、圧力コントローラ18は、シース容器16内の圧力をモニタして、サンプル容器14内の圧力がシース容器より所定の圧力だけ大きくなるようにサンプル容器14内の圧力を調整する。

【0017】
さらに、とりわけ図2に示すように、フローチャンバ12の下端部には、水晶、ガラス、溶融シリカまたは透明プラスティックなどの透明部材を用いて漏斗状に形成された流路ブロック28が配設され、その下方に断面積の小さいフローセル30が構成されている。流路ブロック28の上方周辺部には、周波数可変(たとえばf=60kHz)のピエゾ圧電素子等を用いた振動器32が配設され、流路ブロック28の下方中央部にはオリフィス34と、シースフローに接触し、これより分離して形成される液滴D(微小細胞粒子Pを含む)に所望の極性を有する電荷を与えるための荷電電極(荷電部)36とが設けられている。

【0018】
こうして構成された流体フロー機構10において、エアポンプ26,27が作動すると、サンプル容器14およびシース容器16にそれぞれ収容されたサンプル懸濁液およびシース液がフローチャンバ12内に供給され、シース液がサンプル懸濁液を円筒状に包み込むシースフロー(層流)が形成される。そして振動器32により所定の周波数で流路ブロック28に振動が与えられると、図2に示すように、フローセル30を通過したシースフローが流路ブロック28のオリフィス34からジェットフローとして噴出され、ジェットフローの水平方向断面が鉛直方向に沿って振動器32の周波数に同期して変調し(くびれが生じ)、ブレイク・オフ・ポイントBPにおいてジェットフローから液滴Dが分離する。

【0019】
詳細後述するが、分別すべき所望の微小細胞粒子Pがブレイク・オフ・ポイントBPに到達する直前と推定されるタイミングで、微小細胞粒子Pの識別情報に応じた極性を有する電圧を荷電電極36に印加することにより、識別された微小細胞粒子Pを含む液滴Dを荷電することができる。そして荷電電極36の下方には、図1に示すソータ機構80の構成部品として、所定の電圧差を有する一対の偏向板82が配設され、落下する液滴Dが微小細胞粒子Pの識別情報に応じて分別され、所定のコレクションチューブ84に収容される。なお、分別すべき微小細胞粒子Pの識別情報の収集方法については、たとえば前掲の特許文献2に記載された手法を用いることができる。

【0020】
[2.光学的機構]
図1を参照すると、光学的機構40は、概略、フローセル30内を整列して通過する微小細胞粒子Pに第1および第2の光を順次照射する第1および第2の光源42,44と、第1の光源42からの光が微小細胞粒子Pで散乱して生じた側方散乱光を検出する側方散乱光検出装置(第1の受光部)52と、第1の光源42からの光により励起された微小細胞粒子Pから生じる蛍光を検出する複数の(図4では3つの)蛍光検出装置(第2の受光部)54とを有する。
なお、図4においては、第1の光源42と第1の受光部52、および第2の光源44と第2の受光部54はそれぞれ、直線上に配列されているように図示されているが、第1および第2の光源42,52の入射レーザビームの光軸と、第1および第2の受光部52,54への出射レーザビームの光軸とが所定の角度(180度でなく、好適には、たとえば90度)をなすように光学的機構40(第1および第2の光源42,44ならびに第1および第2の受光部52,54)を配置することが好ましい。これにより、第1および第2の受光部52,54は、第1および第2の光源42,52からの照射光を直接的に受光することを回避して、光エネルギ強度がより小さい側方散乱光または蛍光を精度よく受光することができる。

【0021】
図3は、光学的機構40の具体的構成を示す概略図である。図3において、第1および第2の光源42,44はともにレーザビームなどのコヒーレント光源である。第1の光源42は、好適には、青色レーザビーム(ピーク波長:488nm,出力:20mW)を照射するDPSSレーザ(Diode Pumped Solid State Laser:半導体レーザ励起固体レーザ)である。第2の光源44は、たとえば近紫外レーザビーム(ピーク波長:355nm,出力:1W)を照射するモード同期レーザであってもよい。

【0022】
図3において、第1の光源42から出力された青色レーザビームは、ビームエキスパンダ43aによりビーム整形され、フローセル30の上方(上流側)に照射される。一方、第2の光源44から出力された近紫外レーザビームは、通常、ガウス分布強度を有するが、光減衰器46、ビームエキスパンダ43b、円筒面レンズ47、マスク48、および球面レンズ49a~49cを用いて、比較的に強度変化の小さい一部分のレーザビームを切り出して拡張することにより、実質的に均一な光強度を有するトップハット状ビームを整形することができる。
実質的に均一な光強度を有するビームを整形するものである限り、当業者ならば自明である他の任意の光学素子を用いることができる。たとえば、不均一なレーザビームを均一な強度を有するビームを変換するビームホモジナイザや、回折型マイクロレンズアレイ、回折型ビーム整形光学素子、回折型線状集光レンズなどの回折型光学素子を用いてもよい。

【0023】
図4は、第1および第2の光源42,44からのレーザビームが照射される方向に平行な平面で切断したときのフローセル30の拡大断面図であり、図5(a)はレーザビームの照射される方向とは直交する平面で切断したときのフローセル30の拡大断面図である。第1の光源42から出力された青色レーザビームは、図示しないが、照射領域の中心位置にピークをもつガウス分布強度を有するものであるのに対し、第2の光源44からの近紫外レーザビームは、上述のように、図5(b)に示すフローセル30のほぼ矩形の受光領域全体55a~55cにおいて(2次元的に)均一な強度を有するように(トップハット状に)ビーム整形される。

【0024】
図4において、第1の受光部52は一般的なフォトダイオードを有し、第1の光源42からの青色レーザビームを選択的に透過させるバンドパスフィルタ(図示せず)を介して、青色レーザビームが微小細胞粒子Pで散乱して生じた青色側方散乱光(FSC)だけを検出する。
一方、複数の第2の受光部54a~54cのそれぞれは、第1の受光部52よりシースフローの下流側(図中のフローセル30の下方)において、フローセル30の受光領域55a~55cに対向して配置される。また第2の受光部54a~54cのそれぞれは、光電子増倍管やフォトンカウンタなど(たとえば日本の静岡県浜松市にある浜松ホトニクス株式会社から市販されている型番H7421-50のフォトンカウンタ)からなり、赤色光(610nm~)を選択的に透過させるバンドパスフィルタ(図示せず)を介して、近紫外レーザビームが微小細胞粒子Pを励起して生じる赤色蛍光を検出する。すなわち第2の受光部54a~54cは、同一の波長を有する励起光により励起された微小細胞粒子Pから生じる赤色蛍光を検出する。

【0025】
ここで、本発明において、第2の光源44から出力された近紫外レーザビームをトップハット状にビーム整形した理由について説明する。
微小細胞粒子Pを蛍光標識する蛍光色素は、一般に、励起光からの励起エネルギを受けて基底状態より高いエネルギ準位にある励起状態に遷移した電子が元の基底状態に戻る際に励起状態と基底状態のエネルギ準位差(バンドギャップ)に相当するエネルギを放出して蛍光を発する。
そして単一の蛍光色素から生じる蛍光強度(I)は、励起光源の励起エネルギ(P)の他、励起時間(τ)、ビーム断面積(S)、蛍光色素の蛍光寿命(τ)、シースフローの屈折率(n)、系全体の効率(η)をパラメータとして次式で表されることが知られている。
【数1】
JP0005534214B2_000002t.gif
ここで、cは真空中の光速であり、Bはアインシュタインの誘導放出係数を示す。

【0026】
上式より、蛍光強度(I)は、実験的には、励起光源の励起エネルギ(P)の増大とともにある程度までは増大するが、その後飽和する(一定となる)のに対し、蛍光強度(I)は、励起時間(τ)に比例して単調増加することが分かる。したがって、タンパク質複合体などの微小細胞粒子Pに付着する数少ない蛍光色素からの蛍光強度を増大させるためには、励起時間(τ)を長く、すなわち微小細胞粒子Pに励起光を照射している時間間隔を長くすることが有効である。

【0027】
そこで本発明は、第2の光源44から出力された近紫外レーザビームをトップハット状にビーム整形して、微小細胞粒子Pがフローセル30の受光領域55を移動する間においては、ほぼ一定の強度を有する近紫外レーザビームで微小細胞粒子Pを継続的かつ効率的に励起することにより、励起時間(τ)を長くして、蛍光強度を増大させようとするものである。

【0028】
このとき第2の受光部54a~54cは、図6(a)に示すフローセル30の受光領域55a~55cに対向して、すなわちフローセル30内でシースフローが流れる方向に沿って一列に配置される。しかし微小細胞粒子Pは、フローセル30の中心軸に沿って移動するとは限らず、流路ブロック28に接近して(中心から左右方向にずれて)移動することがあるので、こうした中心軸から逸脱して移動する微小細胞粒子Pから生じる蛍光をより広い範囲の受光領域55a~55cで受光するために、シースフローが流れる方向とは直交する方向(水平方向)にも2個以上(図6(b)では3つの)フォトンカウンタ(第2の受光部)54a~54cを配置することが好ましい。このようにフォトンカウンタ54a~54cを格子状のアレイとして構成することにより、微小細胞粒子Pがフローセル30の受光領域55を移動する間に生じる蛍光をより多く受光することができる。
なお、同様に図示のように、第2の受光部54a~54cのみならず、第1の受光部52も水平方向に複数個配置してもよい。

【0029】
換言すると、一般に、レーザ光により励起された蛍光色素からの蛍光は全方位に放射するが、これまでのフローサイトメータでは、蛍光を固定されたただ1つの受光部で検出するため、全方位に放射される蛍光を集光することは困難である。しかしながら、本発明によれば、少なくともフローセル30における微小細胞粒子Pの移動方向に沿って、複数の第2の受光部54を配置することにより、微小細胞粒子Pから生じる蛍光をより多く集光することができる。また本発明によれば、上述のように、微小細胞粒子Pの移動方向とは直交する水平方向にも複数の第2の受光部54を配置することにより、全方位に放射される蛍光をできるだけ多く集光して、微小細胞粒子Pの検出精度を大幅に改善することができる。

【0030】
[3.デジタル信号処理装置]
図1を参照すると、デジタル信号処理装置(信号処理部)60は、微小細胞粒子Pに青色レーザビームを照射して得られた側方散乱光を検出する側方散乱光検出装置(第1の受光部)52と、トップハット状の近紫外レーザビームを照射して得られた赤色蛍光を検出する複数の蛍光検出装置(第2の受光部)54とに電気的に接続されている。

【0031】
図7(a)は第1の受光部52のフォトダイオードから出力された電気的信号を示し、図7(b)~図7(d)は複数の第2の受光部54a~54cのフォトンカウンタから出力された電気的信号を示すタイミングチャートである。
フローセル30内の微小細胞粒子Pは、通常、一定の速度で下流方向に移動するので、信号処理部60は、たとえば第1の受光部52のフォトダイオードからの電気的信号がピークとなる時点を検出し(図7(a))、これを起算点として、それぞれの第2の受光部54a~54cフォトンカウンタが対向する受光領域55a~55cを微小細胞粒子Pが通過するタイムウィンドウ(時間帯)を予測することができる。すなわち信号処理部60は、第1の受光部52の電気的信号がピークとなる時刻tを起算点として、微小細胞粒子Pが受光領域55a~55cを通過する時間帯を定義する時刻t~tを設定することができる(図7(b)~図7(d))。

【0032】
したがって信号処理部60は、時間帯t~t、時間帯t~t、時間帯t~tにおいて第2の受光部54a~54cのフォトンカウンタで検出された電気的信号を図示しないバッファメモリに一時記憶した後、時刻t経過後、電気的に加算することにより、特定の微小細胞粒子Pに対する赤色蛍光の電気的信号を増大させ、もって微小細胞粒子Pの検出精度を格段に向上させることができる。

【0033】
なお、図4に示す光学的機構40は3つの第2の受光部54a~54cを有するものとして図示したが、第2の受光部54a~54cの個数はこれに限定されるものではなく、たとえば光軸の中心間距離を0.25mmとする10以上のフォトンカウンタ54をシースフロー(フローセル30)に沿って配列してもよい。

【0034】
なお、複数の微小細胞粒子Pがフローセル30を連続して通過するため、特定の微小細胞粒子Pの後に別の微小細胞粒子Pがフローセル30内を続いて流れるが、本発明に係る信号処理部60は、上述のように、各微小細胞粒子P,Pに対する適当な時間帯を区切って互いに独立して電気的信号を処理するため、複数の微小細胞粒子Pに対する蛍光信号が干渉し合う(クロストークする)ことなく高い検出精度を担保することができる。

【0035】
また、フローセル30の受光領域55a~55cを通過する微小細胞粒子Pからの蛍光を第2の受光部54a~54cのそれぞれを用いてより選択的に受光できるように、図示しないが、各受光領域55a~55cと、対応する第2の受光部54a~54cのそれぞれとの間にマイクロレンズを設けることが好ましい。こうして、第2の光源44からのトップハット状の励起強度を有するレーザビームにより連続的に励起される微小細胞粒子Pからの蛍光をより確実に、かつ、より選択的に受光することができる。

【0036】
さらに、上記実施形態では、第1の光源42から出力された青色レーザビームは、照射領域の中心位置にピークをもつガウス分布強度を有するものとして説明したが、第2の光源44からの近紫外レーザビームと同様、均一な強度を有するようにビーム整形した後にフローセル30に照射するように構成してもよい。このとき、第1の光源42から出力された青色レーザビームを受光するために複数の第1の受光部52を設けることにより、微小細胞粒子Pが受光領域55a~55cを通過する時間帯を定義する時刻t~tをより正確に設定することができる。

【0037】
加えて、第2の光源44のレーザビームとは異なる波長を有するレーザビームを照射する第3の光源またはそれ以上の光源(図示せず)を設けて、微小細胞粒子Pから生じる異なる波長の蛍光を検出することにより、微小細胞粒子Pを同定するために必要なより多くの情報を収集することができる。このとき、第3の光源から出力されるレーザビームも同様に、照射領域の中心位置にピークをもつガウス分布強度を有し、複数の第3の受光部(図示せず)を配置することが好ましい。

【0038】
[4.ソータ機構]
なお、本発明に係るフローサイトメータ1は、ソータ機構80を追加的に設けることによりセルソータとして構成することができる。以下、図1、図7および図8を参照してソータ機構80について以下説明する。

【0039】
ソータ機構80は、概略、図1において、一対の偏向板82と、CCDカメラなどの固定撮像部86と、これらに電気的に接続された制御回路部(図示せず)とを有し、制御回路部はデジタル信号処理装置60に内蔵されたものであってもよい。すなわちデジタル信号処理装置60は、偏向板82および固定撮像部86に加え、図示しないが、第1および第2の受光部54a~54c、液滴Dを帯電させる荷電電極36、ならびにジェットフローから液滴Dを分離させる振動器32にも接続されている。

【0040】
図8は、フローセル30内のシースフローFと、フローセル30のオリフィス34から噴出されるジェットフローF(およびジェットフローFからブレイク・オフ・ポイントBPで分離する液滴Dを含む)とを簡略的に図示したものである。上述のように、流路ブロック28に取り付けられた振動器32が所定の周波数(たとえばf=60kHz)で振動すると、図8に示すようにジェットフローFの水平方向断面が鉛直下方に沿って振動器32の周波数fに同期して変調する(くびれが生じる)。このときのジェットフローFの変調周期(隣接する極大点または極小点の間の距離および隣接する液滴Dの間の距離)λは一定となる。

【0041】
固定撮像部86は、点滅光源(図示せず)を有し、フローセル30に対して固定された位置に配置され、ジェットフローFの下流側から下流方向に所定距離隔てた画像位置IPを上端とし、下流側にある画像位置IPを下端とする撮像領域(破線で示す)90におけるジェットフローFおよび液滴Dの画像を撮像するように設計されている。また点滅光源は、撮像領域90にあるジェットフローFと液滴Dを、振動器32の周波数fと同一の周波数で点滅照明するように構成されている。したがって、固定撮像部86は、定常状態にあるジェットフローFおよび液滴Dを振動器32の周波数fで撮像するため、図8のように静止したように見える画像を得ることができる。

【0042】
このとき、固定撮像部86はフローセル30に対して固定されているので、図8において、第1の受光部52が微小細胞粒子Pからの側方散乱光を検出した位置IPから、画像位置IPまでの距離LB0は一定である。固定撮像部86を用いてジェットフローFの変調周期λを常時モニタし、画像処理技術により位置IPからブレイク・オフ・ポイントBPまでの正確な距離L(=LB0+L)をリアルタイムで算出し、これに応じて荷電電極36がブレイク・オフ・ポイントBPで微小細胞粒子Pに電荷を与える遅延時間を補正する。こうして得られた遅延時間が経過した時に、目的とする微小細胞粒子Pを含むジェットフローFに、微小細胞粒子Pの識別情報に応じた極性を有する電荷を与えることにより、目的とする微小細胞粒子Pを含む液滴Dを所望する方向にあるコレクションチューブ84に効率よく分別することができる。

【0043】
このように、本発明に係るフローサイトメータ1をセルソータに採用したとき、対象となる細胞粒子が極めて微小なものであっても、複数の第2の受光部54a~54cにより検出された蛍光信号を加算することにより蛍光信号を増大させ、微小細胞粒子Pに関するより正確な情報に基づいたより精緻な分別を実現することができる。

【0044】
図9および図10を参照しながら、本発明に係る実施の形態2によるフローサイトメータ1について以下に説明する。実施形態2に係るフローサイトメータ1は、第2の光源44を複数設け、それぞれから出力されるレーザビームが各受光領域55において均一な強度を有する点を除いて、実施の形態1のフローサイトメータ1と同様の構成を有するので、その他の構成部品に関連する詳細な説明を省略する。なお図中、同一構成部品については同一の符号を用いて示す。

【0045】
上記説明したように、実施形態1に係る光学的機構40は、単一の第2の光源44からのレーザビームを、ストリップ状の幅広の受光領域55に均一強度で照射するようにビーム整形するものであるが、数多くの構成部品を有し、精緻なアセンブリ精度が求められるため、生産コストを引き上げる場合がある。また実施形態1によれば、単一の第2の光源44からのレーザビームを広範な領域に照射し、かつ第2の受光部54a~54cにより有効に蛍光を受光できない領域においても照射するので、光エネルギの損失が大きく、各受光領域55で必要な光強度を実現するためには単一の第2の光源の出力エネルギを増大させる必要がある。このとき、高出力のレーザ光源は、一般に、低出力のものに比して高価となり、一定強度の出力を得るための制御が複雑になる傾向がある。そこで本発明に係る実施形態2は、より簡便で、安価で、制御しやすい光学的機構40を提案するものである。

【0046】
図9および図10(a),(b)は、実施形態1の図4および図5(a),(b)と同様のフローセル30の拡大断面図である。実施形態2において、第1の光源42から出力された青色レーザビームがガウス分布強度を有するのに対し、第2の光源44のそれぞれから出力された近紫外レーザビームは、同一の発光波長を有するが、フローセル30のほぼ矩形の各受光領域55a~55cにおいて均一な強度を有するようにビーム整形される。

【0047】
また図9において、第1の光源42と第1の受光部52、および第2の光源44a~44cと第2の受光部54a~54cはそれぞれ、直線上に配列されているように図示されているが、図4について上述したように、第1および第2の光源42,52の入射レーザビームの光軸と、第1および第2の受光部52,54への出射レーザビームの光軸とが所定の角度(180度でなく、好適には、たとえば90度)をなすように光学的機構40を配置することが好ましい。こうして、第1および第2の受光部52,54は、第1および第2の光源42,52からの入射レーザビームを直接的に受光することを回避して、光エネルギ強度がより小さい側方散乱光および蛍光を精度よく受光することができる。

【0048】
このように構成された実施形態2に係るフローサイトメータ1によれば、実施形態1と同様、信号処理部60が第2の受光部54a~54cの各フォトンカウンタで検出された電気的信号をバッファメモリに一時記憶した後、電気的に加算することにより、特定の微小細胞粒子Pに対する赤色蛍光の電気的信号を増大させて(積算して)、微小細胞粒子Pの検出精度を格段に向上させることができる。また、このフローサイトメータ1を採用したセルソータは極めて微小な細胞粒子をより精緻に分別することができる。

【0049】
なお、実施形態2に係る光学的機構40は、図10(a)に示すようにフローセル30の各受光領域55を互いに分離または隔離することにより、あるいは各受光領域55を連続的なものとして、各受光領域55a~55cと対応する第2の受光部54a~54cのそれぞれとの間にマイクロレンズを配置することにより、複数の微小細胞粒子Pによる蛍光信号が干渉し合う(クロストークする)ことを防止するように構成してもよい。

【0050】
また実施形態2においても実施形態1(図6(b))と同様、第2の受光部(フォトンカウンタ)54を格子状のアレイとして水平方向にも並べて構成することにより、微小細胞粒子Pが中心から逸脱してフローセル30内を移動する場合であっても、受光領域55の移動期間中に生じる蛍光を受光可能な蛍光強度を増大させることができる。

【0051】
さらに、実施形態2に係る光学的機構40においては、各受光領域55a~55cにおいて均一な強度を有するようにビーム整形されたが、より安価な構成を実現するために、第2の光源44のそれぞれから出力された近紫外レーザビームも、第1の光源42から出力された青色レーザビームと同様、ガウス分布強度を有していてもよい。ただし、第2の光源44のそれぞれから出力された近紫外レーザビームの発光波長は同一でなければならない。

【0052】
さらに実施形態1および2の中間的な形態として、光学的機構40は、単一の第2の光源44から出力された近紫外レーザビームを、互いに分離した各受光領域55(図10(a))に照射するようにビーム整形するものであってもよい。
【実施例】
【0053】
本発明に係る上記実施形態のフローサイトメータ1を用いて、サンプル懸濁液中に含まれる所望の微小細胞粒子Pを検出または同定するときの検出精度が改善されることについて、従来技術によるフローサイトメータと対比しながら以下説明する。
具体的には、本発明および従来技術にそれぞれ対応する比較例1および2に係るフローサイトメータを用いて、蛍光標識された標準ビーズ(以下、「標識ビーズ(Target)」ともいう。)を含むサンプル懸濁液に励起光を照射して検出された標識ビーズに固有の蛍光の強度と、その蛍光を発する標識ビーズの個数とを測定する実験を行った。
同様に、比較例1および2に係るフローサイトメータを用いて、蛍光標識されない標準ビーズを(以下、「非標識ビーズ(Blank)」ともいう。)を含むサンプル懸濁液に励起光を照射して検出された所定波長の蛍光の強度と、その蛍光を発する非標識ビーズの個数とを測定した。
【実施例】
【0054】
この実施例で用いられた標識ビーズ(Target)は、直径170μmのポリスチレン製の球からなる黄色蛍光の標準ビーズ(Y170)をストレプトアビジン標識色素(Qdot 705(登録商標))などの標識色素で蛍光標識されたものであり、非標識ビーズ(Blank)は、同一の標準ビーズを標識色素で蛍光標識されていないものである。
【実施例】
【0055】
なお、この実施例で用いられた比較例1および2に係るフローサイトメータは、上記実施形態に係るフローサイトメータと基本的には同一の構成を有する。ただし比較例1および2に係る光学的機構40は、以下説明する点において上記実施形態1とは異なるように構成されている。
【実施例】
【0056】
上記実施形態に係るフローサイトメータの第2の光源44は、近紫外レーザビーム(ピーク波長:355nm,出力:1W)を発するものであって、照射面全体において実質的に均一な光強度を有するトップハット状ビームを形成するものである。
これに対し、比較例1(本発明に対応)に係るフローサイトメータの第2の光源44は、同様の近紫外レーザビームを発するものであるが、図12(a)に示すように、鉛直方向に流れるフローセル30(シースフロー)に対して垂直方向に長く延びた長楕円状の照射面(15μm×30μm)を有し、ガウス分布の光強度を有するものである。
一方、比較例2(従来技術に対応)に係るフローサイトメータの第2の光源44は、同様に近紫外レーザであるが、図12(b)に示すように水平方向に長く延びた照射面(30μm×15μm)を有し、比較例1と同様のガウス分布の光強度を有するものである。
すなわち比較例1のフローセル30に流れる標準ビーズは、図12(a)の照射面の長径軸(30μm)を縦断し、比較例2に係るフローセル30に流れる標準ビーズは、図12(b)の照射面の短径軸(15μm)を横断するので、前者は後者に比してほぼ2倍長い励起時間(上記[数1]のτ)において励起光が照射される。
【実施例】
【0057】
このとき比較例1および2に係るフローサイトメータにおいて、フォトンカウンタなどの第2の受光部54a~54cは、近紫外レーザビームが標準ビーズを励起して生じる黄色蛍光を受けて、黄色蛍光の強度に比例する光子カウント数(蛍光強度)に相当する電気的信号を信号処理部60に出力し、信号処理部60は、図7に示すように、標準ビーズが受光領域を通過する所定のタイムウィンドウにおける電気的信号を電気的に加算する。
このように、比較例1のフローサイトメータは、比較例2に比してほぼ2倍長い励起時間(τ)において標準ビーズを励起した際の蛍光を検出するので、複数の第2の受光部54を有する本発明に係るフローサイトメータに対応し、比較例2のフローサイトメータは、より短い励起時間で標準ビーズを励起した際の蛍光を検出するので、従来技術に係るフローサイトメータに近似するものと位置付けることができる。
【実施例】
【0058】
上述の標識ビーズ(Target)および非標識ビーズ(Blank)を含むサンプル懸濁液をそれぞれ別々に、比較例1に係るフローサイトメータのサンプル容器14内に収容した後、上記実施形態と同様に、エアポンプ26,27を作動させて、サンプル懸濁液およびシース液をフローチャンバ12内に供給し、シースフロー(層流)を形成した。さらに振動器32により所定の周波数で流路ブロック28に振動を与えて、流路ブロック28のオリフィス34から噴出するジェットフローを形成し、ブレイク・オフ・ポイントBPにおいてジェットフローから液滴Dが分離するように制御した。
【実施例】
【0059】
標識ビーズ(Target)を含むサンプル懸濁液について、第2の受光部を用いて、標識ビーズ(Target)に固有の波長を有する蛍光を検出し、具体的にはフォトンカウンタで検出されたフォトンカウント(光量子数、光強度に相当)を検出した。さらに信号処理部60を用いて、サンプル懸濁液全体に対して所定のフォトンカウントが検出された頻度(サンプル懸濁液に含まれる標識ビーズ(Target)の個数に相当)を測定した。
【実施例】
【0060】
同様に、非標識ビーズ(Blank)を含むサンプル懸濁液について、第2の受光部を用いて同一の波長を有する蛍光を検出し、信号処理部60を用いてフォトンカウントと頻度を測定した。
【実施例】
【0061】
図13は、比較例1(本発明に対応)に係るフローサイトメータの信号処理部60が検出したフォトンカウント(強度)と頻度(標準ビーズの個数)を、標識ビーズ(Target、ドット(・)で表示)および非標識ビーズ(Blank、クロス(×)で表示)を含むサンプル懸濁液のそれぞれについて同一のグラフにプロットしたものである。
同様に、図14は比較例2(従来技術に対応)に係るフローサイトメータの信号処理部60が検出したフォトンカウント(強度)と頻度(標準ビーズの個数)を、標識ビーズ(Target、・)および非標識ビーズ(Blank、×)を含むサンプル懸濁液のそれぞれについて同一のグラフにプロットしたものである。
【実施例】
【0062】
図13および図14から明らかなように、非標識ビーズ(Blank)からの所定波長を有する(黄色)蛍光のフォトンカウント(強度)は、比較例1および2においてともに全体的に小さく、非標識ビーズの全体数に対する平均のフォトンカウント(平均強度)は、比較例1では1.45であり、比較例2では1.72であり、両者は実質的に同じであった。非標識ビーズ(Blank)が蛍光標識されていない標準ビーズであり、検出された蛍光は非標識ビーズとは無関係の背景ノイズによるものと考えられるので、この検出結果は妥当なものであると考えられる。
【実施例】
【0063】
一方、標識ビーズ(Target)からの所定波長を有する蛍光の平均フォトンカウント(平均強度)は、比較例1では11.88であり、比較例2では9.45であった。この結果は、比較例1(本発明に対応)に係るフローサイトメータで検出できる蛍光の平均強度を比較例2(従来技術に対応)に比して25%以上増大できることを意味するものである。したがって、標識ビーズ(Target)からの蛍光の平均強度を増大させることができるので、より確実に係る標識ビーズを同定して、検出精度を実質的に改善することができる。
【実施例】
【0064】
ここでフローサイトメータによる標準ビーズの検出精度を定量的に規定するために、ポジティブ率PR(以下、「ポジ率」ともいう。)を次のように定義する。
非標識ビーズ(Blank)とは無関係の背景ノイズに起因する蛍光検出の強度は、上述のように全体的に小さく、所定の最大閾値(たとえば9.00)を設定することができる。このとき、標識ビーズ(Target)を含むサンプル懸濁液について、比較例1(本発明に対応)の信号処理部60が検出したフォトンカウント(強度)および頻度(個数)をプロットした各ポイントを、図15および図16に示すようになだらかな曲線で結び、この曲線とx軸で囲まれた領域のうち上記最大閾値より大きい領域の面積をS、および小さい領域の面積をSとする。そしてポジティブ率PRを次式で定義する。
PR(%)=S/(S+S
【実施例】
【0065】
最大閾値より大きいフォトンカウント(強度)を有する蛍光が信号処理部60により検出されたとき、その蛍光は背景ノイズではなく、確実に標識ビーズ(Target)からのものであると判断することができる。すなわちソータ機構80を用いて、最大閾値より大きい蛍光強度を有する標識ビーズ(Target)だけを選択的に分別することにより、極めて高い純度で標準ビーズまたは微小細胞粒子Pを分取することができる。換言すると、ポジティブ率PRを改善することにより、セルソータが分取する微小細胞粒子Pの収量を増大させることができる。
【実施例】
【0066】
この実施例において、ポジティブ率PRは比較例1では68.2%であり、比較例2では39.7%であった。したがって、比較例1(本発明に対応)に係るセルソータによる微小細胞粒子Pを分取するとき、比較例2(従来技術に対応)に比して、所望する標識ビーズ(Target)の収量を約1.7倍以上に増大することができる。
【実施例】
【0067】
さらに比較例3に係るフローサイトメータを用いて、検出精度をさらに改善する手法について説明する。
比較例3に係るフローサイトメータは、図12(c)に示すように比較例1と同様のものであるが、エアポンプ26,27がサンプル容器14およびシース容器16に加える圧力を小さくすることにより、フローセル30内に流れるシースフロー(標準ビーズ)の速度を遅くしたものである。比較例1および2のシースフローの流速がv(2.26m/s)であったところ、比較例3のシースフローの流速がv(1.55m/s)となるようにエアポンプ26,27の圧力を制御した。すなわち比較例3は、流速を遅くして長時間励起を行う基礎実験である。こうして標識ビーズ(Target)からの所定波長を有する蛍光の平均フォトンカウント(平均強度)を13.11まで増大させることにより(比較例1では11.88)、より確実に係る標識ビーズを同定することができるので、検出精度を実質的に改善することができる。
【符号の説明】
【0068】
1:フローサイトメータ、10:流体フロー機構、12:フローチャンバ、14:サンプル容器、15:サンプル管、16:シース容器、17:シース管、18:圧力コントローラ、24:プレナム容器、26,27:エアポンプ、28:流路ブロック、30:フローセル、32:振動器、34:オリフィス、36:荷電電極(荷電部)、40:光学的機構、42:第1の光源、44:第2の光源、43:ビームエキスパンダ、46:光減衰器、47:円筒面レンズ、48:マスク、49:球面集光レンズ、52:側方散乱光検出装置(第1の受光部)、54:蛍光検出装置(第2の受光部)、55:受光領域、60:デジタル信号処理装置(信号処理部)、80:ソータ機構、82:偏向板、84:コレクションチューブ、86:固定撮像部、P:微小細胞粒子、D:液滴、BP:ブレイク・オフ・ポイント。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16