TOP > 国内特許検索 > 窒素化合物ガスクラスターイオンビームによる窒化物もしくは窒化表面の形成方法 > 明細書

明細書 :窒素化合物ガスクラスターイオンビームによる窒化物 もしくは窒化表面の形成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3865513号 (P3865513)
公開番号 特開2000-087227 (P2000-087227A)
登録日 平成18年10月13日(2006.10.13)
発行日 平成19年1月10日(2007.1.10)
公開日 平成12年3月28日(2000.3.28)
発明の名称または考案の名称 窒素化合物ガスクラスターイオンビームによる窒化物 もしくは窒化表面の形成方法
国際特許分類 C23C  14/32        (2006.01)
C23C  14/06        (2006.01)
FI C23C 14/32 G
C23C 14/06 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 8
出願番号 特願平10-280525 (P1998-280525)
出願日 平成10年9月15日(1998.9.15)
審査請求日 平成15年6月24日(2003.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】斉藤 博
【氏名】山田 公
【氏名】松尾 二郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100093230、【弁理士】、【氏名又は名称】西澤 利夫
審査官 【審査官】五十棲 毅
参考文献・文献 特開昭57-036436(JP,A)
特開昭62-086153(JP,A)
特開平06-275545(JP,A)
特開平06-329500(JP,A)
特開平04-354865(JP,A)
特開平08-104980(JP,A)
特開平05-211120(JP,A)
特開昭57-158378(JP,A)
特開平06-248439(JP,A)
調査した分野 C23C 14/00-14/58
CA(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
GaAs基板表面に、窒素化合物のガスクラスターのイオンビームを照射することにより窒化物もしくは窒化表面を形成することを特徴とする窒化物もしくは窒化表面の形成方法。
【請求項2】
窒素化合物が、窒素、アンモニア、酸化窒素、有機含窒素化合物、もしくはアンモニウムまたは有機含窒素化合物の金属錯体である請求項1の形成方法。
【請求項3】
不活性ガスもしくは他種元素化合物のクラスターイオンビームをともに照射する請求項1または2の形成方法。
【請求項4】
あらかじめGaAs基板表面を、不活性ガスのクラスターイオンの照射により清浄化もしくは平坦化することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの形成方法。
【請求項5】
ガスクラスターイオンビームを収束もしくは偏向させて位置選択的に窒化物もしくは窒化表面を形成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの形成方法。
【請求項6】
窒素化合物ガスクラスターイオンビームとともに元素もしくは元素化合物分子線を照射することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの形成方法。
発明の詳細な説明
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、クライスターイオンビームによる窒化物の形成方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、微細MOSトランジスタでのゲートからチャンネル領域への不純物拡散抑止のためのSi基板あるいはゲート酸化膜へのSi窒化物堆積や、 III族窒化物半導体のMBE成長、各種金属の表面窒化、材料表面の高強度化および高耐候性化、低融点金属の表面窒化等において有用な、クラスターイオンビームを用いた窒化物もしくは窒化表面の新しい形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、窒化物や窒化表面を形成するための各種の方法が採用されている。たとえばその代表的な方法として知られているものに、アンモニアガスの表面吸着と熱分解による窒化(熱CVD法)方法や、Ar等の希ガスの放電により得られるプラズマの補助を得て成膜する、いわゆるプラズマあるいはイオンビームアシスト法がある。これらの方法は大面積の試料表面の処理には好都合であることから一般に採用されている方法である。しかしながら、これらの方法では、500~1000℃の高温を必要とする点が問題となる。このような高温条件を保つための装置手段は特殊なものであって、その作製、メンテナンスの負担が大きく、熱による劣化や変質の観点から対象とする試料の種類にもおのずと制約があった。またイオンビームアシスト法では高エネルギーイオンによる基板表面の損傷が避けにくいという欠点がある。
【0003】
このように、これらの従来技術のなかでは、プラズマあるいはイオンビームアシスト法は、より精密な成膜や表面窒化が可能であって、より低い温度の採用が可能であると期待されているものの、具体的な展開にはいまだ多くの問題をかかえているのが実情である。
また、近年では電子デバイスへの窒化物の利用の点において、この窒化物形成技術の革新が求められている。たとえば III族窒化物半導体は紫から紫外波長領域の禁制帯幅をもち、紫から紫外波長域の発光素子(LEDあるいはLD(レーザーダイオード)として注目を集めている。現状では、この III族窒化物は、CVD法により1000℃程度の高温で結晶成長がなされている。 III族窒化物の成長は,従来ではこのようにCVD法が主でるが、一方、MBE(Molecular Beam Epitaxy) 法ではRF放電あるいはECRプラズマ等で得られたラジカル窒素と呼ばれる化学的にアクティブな窒素分子が用いられている。しかしながら実情は原子状窒素、窒素イオン等が多量に含まれる混合物であることからどの種が成長に寄与しているのかは明確ではなく、得られた薄膜の結晶性もCVD法に劣っていることから、MBE法による III族窒化物の形成は現実的なものになっていない。また窒素分子線強度も十分とはいえず成長速度等に問題がある。
【0004】
広禁制帯幅をもつII・VI族化合物へのアクセプター種としての窒素ドーピングについても上記プラズマ源がもっぱら使用されている。しかし上記同様にどの種が実際のドーピングに寄与しているのかは明確ではない。さらにZnSe以外の広禁制帯幅II-VI族化合物ではp型伝導制御はできていない。
以上のように、プラズマあるいはイオンアシスト法、さらにはMBE法は、精密な固体表面の加工、修飾、あるいは改質や成膜の手段として期待され、その一部は実用的にも利用されているものの、依然として多くの問題をかかえているのが実情である。特にこれらの従来の方法においては、試料もしくはその表面にダメージ(損傷)を与えることなしに、より低い温度において、選択的な加工、修飾、改質、そして成膜等のプロセスとして窒化物もしくは窒化表面を形成することが大きな課題になっていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、以上のとおりの従来技術の課題を解決するものとして、以下の方法を提供するものである。すなわち、
まず第1には、GaAs基板表面に、窒素化合物のガスクラスターのイオンビームを照射することにより窒化物もしくは窒化表面を形成することを特徴とする窒化物もしくは窒化表面の形成方法を提供する。
【0006】
そしてこの方法に関連して、第2には、窒素化合物が、窒素、アンモニア、酸化窒素、有機含窒素化合物、もしくはアンモニウムまたは有機含窒素化合物の金属錯体である前記方法を、第3には、不活性ガスもしくは他種元素化合物のクラスターイオンビームをともに照射する方法を提供する。
【0007】
また、第4には、前記いずれかの方法において、あらかじめ固体表面を、不活性ガスのクラスターイオンの照射により清浄化もしくは平坦化することを特徴とする窒化物もしくは窒化表面の形成方法を、第5には、ガスクラスターイオンビームを収束もしくは偏向させて位置選択的に窒化物もしくは窒化表面を形成することを特徴とする窒化物もしくは窒化表面の形成方法を、第6には、窒素化合物ガスクラスターイオンビームとともに元素もしくは元素化合物分子線を照射することを特徴とする窒化物もしくは窒化表面の形成方法をも提供する。
【0008】
以上のとおりの特徴を有するこの出願の発明は、発明者らにより提案され、具体的に技術としても展開されつつあるガスクラスターイオンビーム技術をさらに発展されたものである。
ガスクラスターイオンビーム技術として窒化物もしくは窒化表面の形成を可能とした点においてこの発明は画期的なものと言える。
【0009】
この発明の特徴をさらに概観すると次のとおりである。
ア)スパッタリング効果による固体表面の清浄化、平坦化、あるいは反応性ガスクラスターイオンビームによる選択エッチング等従来技術の表面改質に主眼がおかれていたガスクラスターイオンビームの利用方法に加えて、クラスターイオンを構成する原子あるいは分子種を結晶の構成要素とする結晶成長に応用した。つまり、窒素化合物クラスターイオンビームを直接照射することで、蒸着法では形成不可能なより緻密で密着性の高い高品質の窒化膜形成が可能となる。
【0010】
イ)窒化物材料生成のためのクラスターイオンビーム形成の材料として、通常では反応性が低い、窒素ガス以外のクラスター材料に着目し、これを用いることを可能とした。
ウ)数百~数千個の分子集団を1価にイオン化することにより低電流で高密度分子数が確保でき、中性ビーム照射に近い状態としている。従って、分子単体のイオンビームを用いたとき、あるいはプラズマアシスト法のときのような基板表面でのチャージアップの問題点がほとんどなく絶縁物の窒化にも適用できる。
【0011】
エ)原子あるいは分子単体のイオンビームに比較してはるかに低エネルギービームである(1分子当たり1~10eV程度)ため、基板表面の損傷の恐れがほとんどない。一方1分子当たりを熱エネルギーに換算をすれば1万~10万度の超高温度に相当し、さらに基板衝突時の多体効果により窒素化合物は基板を昇温することなく分解し、比較的低温で窒化反応が可能である。
【0012】
オ)イオンビームであるため、静電レンズを用いて微小面積(数10μm程度)に収束でき、また偏向電極を用いることでビームの偏向が可能である。この性質を利用することで、試料の微細構造の窒化あるいは窒素注入が可能となる。さらにビームの指向性が良いことから、マスクプロジェクション法において、マスクエッジからのビームの回り込みの少ない、つまりマスクパターンに忠実なパターンをもつ試料の窒化あるいは窒素注入が可能である。
【0013】
【発明の実施の形態】
そこで以下にこの発明の実施例を示し、さらに詳しくその実施の形態について説明する。
【0014】
【実施例】
図1には、この発明の方法のためのクラスターイオンビーム装置を例示した。このクラスターイオンビーム装置は、クラスター発生部(A)とイオン化部(B)、加速部(C)、作用部(D)とから構成される。クラスター発生部(A)には石英ガラス製のコニカルノズルが位置調整用のマニピュレータに取り付けられている。外部に接続されたガス導入パイプから導入された窒素化合物ガスをノズルから噴出させ、クラスターを形成する。
【0015】
ガスクラスターを生成するためのガスは各種の窒素化合物であってよく、たとえばN2 ,NH3 ,NOx ,N含有有機化合物、あるいは含N金属錯体等である。これらのガスについて、たとえばアンモニアは300Kで約10bar、273K(0℃)で4.3barの飽和蒸気圧しか持たない。いっぽうクラスター発生用には2~4barの圧力で供給する必要がある。このことは供給配管系、特にボンベ減圧弁、マスフローメーター(流量調整弁)およびノズル部等の気体膨張が伴う機構をもつ部所で再液化が起り得る。また室温の変化に伴い供給圧力が変動しかねない。供給圧力の変動はクラスターサイズに影響を及ぼす。したがって、ノズルには一定温度を保つための温度調節機構を、ガスボンベを含めた配管系には加熱機構を設ける。
【0016】
形成されたクラスターがクラスター発生部(A)とイオン化部(B)との仕切に設けられたスキマーを通ってイオン化部(B)、加速部(C)に入射する。クラスターはイオン化部(B)で、たとえばフィラメントで発生させた熱電子照射により1価にイオン化される。引きだし電極により引きだされた後、加速部(C)で加速、収束される。得られたクラスターイオンビーム中のクラスターサイズ分布は、たとえば阻止電圧法により測定することができる。
【0017】
粒子や薄膜としての窒化物の形成、もしくは成膜やイオン注入等による窒化表面の形成のための固体表面基板はたとえばモリブンデン製の基板ホルダーに取り付けた後、マニピュレータに固定され、背面よりたとえば抵抗加熱される。また、装置には、クラスターイオンビーム以外の原材料供給のためのポートが設けられており、ガス状あるいは固体の場合には抵抗加熱等で分子線として供給する。
【0018】
以上の装置においては、必要に応じてアルゴンクラスターイオンビームで基板表面処理(平坦化、清浄化)を行った後、窒素化合物クラスターイオンビームを用いて窒化を行う。また各種金属材料分子線あるいは有機金属をガス状で供給することで、窒化物薄膜成長を行う。
<1>アルゴンクラスターイオンビームの発生;図2には、阻止電圧法により求めたアルゴンクラスターイオン電流値の阻止電圧依存性を示した。アルゴン流量の増加に伴い、電流値が増加する。図3にはこの結果から求めたクラスターサイズ分布を示したものである。図3の横軸は1個のクラスターを形成しているアルゴン原子数、縦軸はクラスイター数である。流量が少ないときにはモノマー(横軸ゼロの位置)が大部分を占める。流量増加に伴い徐々に大きなクラスターが形成される。またその数も増大する。この例で得られた最大クラスターサイズは流量0.6SLMのときに約800原子数/クラスターである。
【0019】
<2>アンモニアクラスターイオンビームの発生;図4および図5には、原料ガスとしてアンモニアを使用したときの結果を示した。図4は阻止電圧法により求めたアンモニアクラスターイオン電流値の阻止電圧依存性を示したものであり、アルゴンの場合と同様の結果が得られる。図5はこの結果から求めたクラスターサイズ分布を示している。アルゴンの場合と同様に流量増加に伴い徐々に大きなクラスターが形成される。注目すべき点は、アルゴンのときと同じ流量でより大きなクラスターが形成されていることである。アンモニアはアルゴンに比べて分子間結合エネルギーが大きいので、同一条件下でより大きなクラスターが形成されると期待されるが、その通りの結果が得られた。
【0020】
<3>窒素化合物ガスとしてアンモニアを用いたときの窒化の例を示す。所定の基板温度下で所定のエネルギーのアンモニアクラスターイオンビームを所定の時間照射する。照射後、試料一旦空気中に取り出しXPS(X-ray Photo-clcctron Spectroscopy) 装置に移送した。XPSスペクトルの測定により窒化の有無を調べた。以下にその結果を示す。照射条件は何れも約2μA/cm2 の電流値で2時間である。照射温度のみ異なる。クラスターサイズのピーク値が1000個/クラスターなので、総ドーズ量は1017/cm2 弱となる。
【0021】
図6は、Si基板に対する結果である。照射基板温度は室温である。照射後空気中を運搬していることを考え、Arイオンビームで30秒間表面をエッチングした後のXPSスペクトルであり、窒素の信号が観測されている。ちなみにクラスターイオンを照射しなかった試料では窒素の信号は全く観測されず、空気中の窒素が付着した結果でないことは明白である。照射基板温度を室温以上700℃までの何点かで照射した試料でも同様の結果が得られており、Siの窒化物が形成されたことは明白である。アンモニア単体ガスを供給したときには、室温では窒化物は決して形成されないことを鑑みると、非常に重要な効果と言える。
【0022】
図7はGaAs基板に対する結果である。照射基板温度は550℃であり、やはり窒素の信号が観測される。GaAsでは450℃程度以下あるいは650℃程度以上の温度では窒素の信号は観測されなかった。GaAsの窒化は基板からのAsの脱離の程度と窒素原子の供給の割合が重要なファクターとなっていることを示唆している。クラスターイオンを用いず、単純にアンモニアガス雰囲気中で窒化をするには900~1000℃の高温を必要とすることを考えると、ガスクラスターイオン使用の有用性が明白である。
【0023】
もちろんこの出願の発明は以上の例によって限定されることはない。様々な態様としてこの発明は実施される。
【0024】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、窒素化合物のガスクラスターイオンビームを用いた窒化物の形成や、試料表面の窒化が可能とされる。ガスクラスター原料としては、窒素、アンモニア、アンモニウム金属錯体等広範囲の窒素化合物が利用可能であり、かつ被処理試料も金属、半導体、絶縁体と様々な物に適用できる。CVD法に比べて低温で処理が可能であり、イオンビームアシスト法よりは表面のダメージが小さい等の優れた効果が奏せられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のガスクラスターイオンビーム装置を例示した構成図である。
【図2】Arガスクラスターイオンビームの阻止電圧とイオン電流との関係を示した図である。
【図3】Arガスクラスターイオンビームのクラスターサイズの分布を示した図である。
【図4】アンモニアガスクラスターイオンビームの阻止電圧とイオン電流との関係を示した図である。
【図5】アンモニアガスクラスターイオンビームのクラスターサイズ分布を示した図である。
【図6】Si基板の窒化の例を示したXPSスペクトル図である。
【図7】GaAs基板の窒化の例を示したXPSスペクトル図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6