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明細書 :自己免疫性関節炎を自然発症するマウス

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3467520号 (P3467520)
登録日 平成15年9月5日(2003.9.5)
発行日 平成15年11月17日(2003.11.17)
発明の名称または考案の名称 自己免疫性関節炎を自然発症するマウス
国際特許分類 A01K 67/027     
FI A01K 67/027
請求項の数または発明の数 3
全頁数 9
出願番号 特願平10-517383 (P1998-517383)
出願日 平成9年10月7日(1997.10.7)
国際出願番号 PCT/JP1997/003591
国際公開番号 WO1998/015173
国際公開日 平成10年4月16日(1998.4.16)
優先権出願番号 1996267126
優先日 平成8年10月8日(1996.10.8)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成12年12月12日(2000.12.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】999999999
【氏名又は名称】科学技術振興事業団
【識別番号】999999999
【氏名又は名称】財団法人東京都高齢者研究・福祉振興財団
発明者または考案者 【氏名】坂口 志文
個別代理人の代理人 【識別番号】999999999、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
審査官 【審査官】坂田 誠
参考文献・文献 J.Exp.Med.,vol.155,p.1690-1701(1982)
Arthritis Rheum.,vol.33,p.1716-1722(1990)
Arthritis Rheum.,vol.35,p.717-722(1992)
調査した分野 A01K 67/027
特許請求の範囲 【請求項1】
リウマチ性関節炎を自然発症するという形質に関してホモ接合体である、BALB/cマウス由来のSKGマウス。

【請求項2】
ヒトのリウマチ性関節炎と酷似した病態を自然発症するヒト疾患モデルマウスである、請求項1記載のSKGマウス。

【請求項3】
リウマチ性関節炎が、前後肢関節の関節炎、関節の硬直、パンヌスの出現、リンパ球の軟骨組織または骨組織への浸潤、軟骨組織または骨組織の破壊、血中リウマチ因子またはII型コラーゲンに対する自己抗体の産生、ならびに高ガンマグロブリン血症からなる群より選択される症状のうちの1以上を呈する、請求項1または2記載のSKGマウス。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】
発明の技術分野
本発明は、ヒトに発症するリウマチ性関節炎に酷似した病態を自然発症するマウスに関する。このマウスは、該疾患のモデル動物として有用である。
発明の背景技術
自己免疫病のなかでも、リウマチ性関節炎は、最も頻度の高い疾患であり、例えば、米国での罹患者は約650万人にも達する。この疾患の原因、発症機構は、現在のところ不明といってよい。
このような疾患の発症機構の解明のためには、その疾患に酷似した病態を自然発症するモデル動物が有用である。リウマチ性関節炎と同様に自己免疫性の疾患である自己免疫性糖尿病については、既に、NODマウスと呼ばれる有用なモデル動物が開発されている(Makini,SらExp.Animals(Tokyo)29,1-13,1980.)。また全身性紅斑性狼瘡(SLE)のモデルとしてNZB、NZWマウスが広く用いられている(Andrews,B.S.らJ.Exp.Med.148,1198-1215,1978)。いずれも該疾患の原因、発症機構の解明に、おおいに寄与している。
リウマチ性関節炎に関しても、該疾患に類似した病態を示すモデル動物が既にいくつか知られている。例えば、MRL-lpr/lprマウスは、主として足関節に関節炎が自然発症する(Hang,L.らJ.Exp.Med.155:1690,1982)。しかし、同マウスの関節炎は一般に軽度であり、しかもリンパ節の異常増殖性腫張により長時間の維持が困難であるため、関節炎モデルとして広く用いられるには至っていない。また、関節に多いII型コラーゲンを強力なアジュバントとともにマウスに免疫して発症させるコラーゲン関節炎(Stuart,J.M.らAnnual Rev.Immunol.2:199,1984.)、結核死菌をラットに免疫して誘導するアジュバント関節炎(Taurog,J.D.らCell.Immunol.75:271,1983)などはリウマチ性関節炎と類似した病態を示す。しかしながら、ヒトのリウマチ性関節炎でII型コラーゲンの異常、また結核菌の感染との関係は証明されていない。従って、これらのモデル動物を用いて得られた知見が、必ずしも、ヒトに外挿できるとは限らず、ヒトのリウマチ性関節炎のモデルと成り得るかが疑問視されている。
発明が解決しようとする課題
リウマチ性関節炎の治療法の開発のためにも、ヒトのリウマチ性関節炎と同じように自然発症し、リウマチ性関節炎の免疫病理学的特徴を備えたモデル動物が必要である。本発明は、かかる要望に応えるものであり、その目的とするところは、ヒトのリウマチ性関節炎と酷似した病態を自然発症するヒト疾患モデルマウスを提供することにある。
発明の開示
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、正常BALB/cコロニーの中に、関節腫張のみられるマウスを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、自己免疫性関節炎を自然発症するという形質を有し、かつその形質がSKG系統に由来することを特徴とするマウスである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のマウスは、自己免疫性関節炎を自然発症するという形質を有し、その形質がSKG系統に由来することを特徴とする。自己免疫性関節炎の発症時期は、個体間で差異があるが、通常生後3カ月~4カ月程度で発症する。従来技術の欄で述べたように、自己免疫性関節炎を自然発症するマウスとしては、MRL-lpr/lprマウスが知られている。しかし、本発明のマウスとMRLマウスは、その病態において相違する。例えば、MRLマウスの関節炎は、一般に後肢関節に限局しており、慢性に進行しても関節硬直に至ることはないが、本発明のマウスの関節炎は前肢後肢の関節に発症し、慢性的に進行の後、関節硬直に至る。また、本発明のマウスでは、MRLマウスに見られるリンパ球の異常増殖あるいはSLE様病変はみられない。
本発明のマウスにみられる自己免疫性関節炎は、ヒトに発症するリウマチ性関節炎と酷似した病態を示す。具体的には、以下のような類似点がある。
1)パンヌスの出現から関節軟骨、骨の破壊に慢性的に進行する点、リンパ球浸潤を伴う炎症性関節破壊である点で、病理組織学的にヒトのリウマチ性関節炎と酷似している(図9及び図11)。
2)臨床的に、前後肢大小関節が対称的に関節炎を起こす点、病変が慢性的に進行し、最終的に関節硬直に至る点で、ヒトのリウマチ性関節炎と似ている(図1、図3、図5、図7)。
3)血中リウマチ因子、及び関節に特異的であるII型コラーゲンに対する自己抗体が出現する点、また高ガンマクロブリン血症が高頻度に出現する点で、ヒトのリウマチ性関節炎と似ている(図14、図15、図16)。
以上の類似点から、本発明のマウスは、ヒトのリウマチ性関節炎の疾患モデルマウスとして使用できる。
本発明のマウスは、このSKG系統のマウス間の交配により、また他の適当なマウスと交配し、その中から上記したような形質を有するマウスを選抜することにより作出することできる。なお、本出願人はSKG系統のマウスを特許法施行規則第27条の3第1項の規定に準じて分譲する用意がある。
実施例
〔実施例1〕
1993年、理化学研究所において、系統維持中のBALB/c(1992年、日本SLCより購入)コロニー中に関節腫張のみられる雌マウスを見出した。この関節腫張は、遺伝的突然変異によるものと考え、この突然変異系統をSKGと命名し、その遺伝子の性質を調べるため、以下の実験を行った。
関節炎を発症したSKGマウスを、他のBALB/cマウス(もともと日本SLCより購入)と交配した。交配の結果、12個体のマウスが得られ、そのうち4個体(雌3匹、雄1匹)に関節腫張がみられた(関節炎発症率33%)。関節腫張がみられたマウスの中から任意の1個体を選抜し、当研究室で維持しているマウスコロニー中のBALB/cマウス(もともと日本SLCより購入)と再度交配した。交配の結果、15個体のマウスが得られ、そのうち6個体(雌4匹、雄2匹)に関節腫張がみられた(関節炎発症率40%)。さらに、前記と同様に、関節腫張のみられたマウスの中から任意の1個体を選抜し、これを上述のBALB/cマウスと交配した。この結果、28個体のマウスが得られ、そのうち10個体に関節腫張がみられた(関節炎発症率35%)。以上3代にわたる交配の結果、関節炎は、正常と思われたBALB/c個体との交配により、雌雄共に30~40%の割合で発症した。
以上の実験において、交配に用いたBALB/cマウスは、当初、正常で関節炎を発症していないと思われ、上記の結果から、自己免疫性関節炎を自然発症させる遺伝子は常染色体優性遺伝を示すものと考えられた。しかし、その後の実験で、上記正常と思われたBALB/cマウスは、大関節(例えば手関節、足関節)に腫張はないが、長期間(6カ月以上)詳細に観察すると、指の小関節には程度の差はあれ、関節腫張がみられることが判明した。また交配結果についても、大関節の関節炎発症率は上記の通りであるが、小関節の腫張を入れれば100%に近いことが判明した。これらの結果を勘案すると、この関節炎の遺伝形式は不完全優性あるいは劣性遺伝と考えられた。その後のより詳細な遺伝実験の結果、自己免疫性関節炎を自然発症させる遺伝子は常染色体劣性と考えるのが妥当である。SKGマウスは現在、ホモ接合体として維持されている。その関節炎発症頻度はほぼ100%であり、ホモ接合体における遺伝的浸透度はほぼ100%と考えられる。
〔実施例2〕
関節炎を発症したマウス(6カ月齢)の前肢及び後肢を肉眼で観察した。前肢の写真を図1に、後肢の写真を図3にそれぞれ示す。また、対照として正常マウスの前肢及び後肢の写真を図2及び図4に示す。
図1及び図3が示すように、関節炎を発症したマウスの前肢及び後肢の関節には腫張がみられる。
〔実施例3〕
関節炎を発症したマウス(6カ月齢)の前肢及び後肢のレントゲン写真を撮影した。前肢の写真を図5に、後肢の写真を図7にそれぞれ示す。また、対照として正常マウスの前肢及び後肢の写真を図6及び図8に示す。
図5及び図7が示すように、関節炎による関節の破壊は、前肢及び後肢の大小の関節に対称的に生じている。
〔実施例4〕
関節炎を発症したマウス(5カ月齢)の後肢部分の関節を10%ホルマリンで3日間固定後、パラフィンに包埋し、これより作製した薄切切片をヘマトキシリンエオジンで染色した。また、正常マウスからも同様の切片を作製し、染色した。
関節炎を発症したマウスの関節組織切片の顕微鏡写真を図9(倍率×40)及び図11(倍率×400)に、正常マウスの同切片の顕微鏡写真を図10(倍率×40)及び図12(倍率×400)に示す。
図9には、関節腔の消失、軟骨組織および骨組織の破壊、炎症性細胞の浸潤がみられる。また、更に倍率を上げた図11には、パンヌスの増生と炎症性細胞の浸潤、関節軟骨の破壊がみられる。
〔実施例5〕
関節炎を発症したマウスおよび正常マウス(5~6カ月齢)の後肢の関節の厚さを測定した。関節炎を発症したマウスおよび正常マウスのそれぞれについて15個体ずつ測定に供した。この結果を図13に示す。
図13が示すように、関節炎を発症したマウスは、正常マウスに比べ、後肢足関節の径が増大しており、関節炎による腫張が生じていることがわかる。
〔実施例6〕
関節炎を発症したマウスおよび正常マウス(5~6カ月齢)のマウス免疫グロブリンG(IgG)に対するIgM型抗体(リウマチ因子)の力価をELISA法で測定した。関節炎を発症したマウスおよび正常マウスのそれぞれについて15個体ずつ測定に供した。この結果を図14に示す。
図14が示すように、関節炎を発症したマウスは、正常マウスに比べ、有意にリウマチ因子の力価が上昇している。
〔実施例7〕
関節炎を発症したマウス及び正常マウス(5~6カ月齢)の牛II型コラーゲンに対する血中抗体の力価をELISA法で測定した。関節炎を発症したマウスおよび正常マウスのそれぞれについて15個体ずつ測定に供した。この結果を図15に示す。
図15が示すように、関節炎を発症マウスでは、高力価の自己抗体が出現している。
〔実施例8〕
関節炎を発症したマウス及び正常マウス(5~6カ月齢)の血清IgG濃度をSRID(Single radial immunodiffusion)法で測定した。関節炎を発症したマウスおよび正常マウスのそれぞれについて15個体ずつ測定に供した。この結果を図16に示す。
図16が示すように、関節炎を発症したマウスでは、高ガンマグロブリン血症がみられる。
〔実施例9〕
関節炎を発症したマウスより脾臓およびリンパ節細胞の浮遊液を調整し、試験管内でコンカナバリンA存在下で3日間培養し、得られた活性化T細胞3×107個を正常BALB/cヌードマウス(6週齢)に経静脈的に移入した。細胞移入したヌードマウス全個体(7個体)に、移入後2カ月で下肢関節の膨張がみられた。3カ月後に実施例4と同様に病理組織標本を作製したところ、図9及び図11と類似した組織像がみられた。
発明の効果
本発明は、ヒトのリウマチ性関節炎に酷似した病態を自然発症するマウスを提供する。このマウスは、該疾患のモデルマウスとして有用である。
図面の簡単な説明
図1:関節炎を発症したマウスの前肢の写真である。
図2:正常マウスの前肢の写真である。
図3:関節炎を発症したマウスの後肢の写真である。
図4:正常マウスの後肢の写真である。
図5:関節炎を発症したマウスの前肢のレントゲン写真である。
図6:正常マウスの前肢のレントゲン写真である。
図7:関節炎を発症したマウスの後肢のレントゲン写真である。
図8:正常マウスの後肢のレントゲン写真である。
図9:関節炎を発症したマウスから作製した関節組織切片の顕微鏡写真(倍率×40)である。
図10:正常マウスから作製した関節組織切片の顕微鏡写真(倍率×40)である。
図11:関節炎を発症したマウスから作製した関節組織切片の顕微鏡写真(倍率×400)である。
図12:正常マウスから作製した関節組織切片の顕微鏡写真(倍率×400)である。
図13:関節炎を発症したマウスの後肢足関節の厚さを示す図である。
図14:関節炎を発症したマウスのリウマチ因子の力価を示す図である。
図15:関節炎を発症したマウスの自己抗体の力価を示す図である。
図16:関節炎を発症したマウスの血清IgG濃度を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図4】
2
【図3】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図13】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図11】
9
【図9】
10
【図10】
11
【図12】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15