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明細書 :気管チューブ維持管理システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5299978号 (P5299978)
登録日 平成25年6月28日(2013.6.28)
発行日 平成25年9月25日(2013.9.25)
発明の名称または考案の名称 気管チューブ維持管理システム
国際特許分類 A61M  16/00        (2006.01)
A61M  16/04        (2006.01)
FI A61M 16/00 370
A61M 16/04 Z
A61M 16/04 A
請求項の数または発明の数 8
全頁数 14
出願番号 特願2010-505600 (P2010-505600)
出願日 平成21年3月19日(2009.3.19)
国際出願番号 PCT/JP2009/055453
国際公開番号 WO2009/119449
国際公開日 平成21年10月1日(2009.10.1)
優先権出願番号 2008080385
優先日 平成20年3月26日(2008.3.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成24年3月5日(2012.3.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
発明者または考案者 【氏名】田川 善彦
【氏名】三村 幸司
【氏名】稲田 智久
【氏名】松本 尚浩
個別代理人の代理人 【識別番号】100092347、【弁理士】、【氏名又は名称】尾仲 一宗
審査官 【審査官】松田 長親
参考文献・文献 特表2001-523136(JP,A)
特表2006-501011(JP,A)
米国特許第5353788(US,A)
調査した分野 A61M 16/00
特許請求の範囲 【請求項3】
気道を確保するための気管チューブ,前記気管チューブを通じて空気を所定の領域に送るための給気装置,前記気管チューブに前記給気装置を連結する人工呼吸回路チューブを備え,前記人工呼吸回路チューブには前記気管チューブからの呼吸音を検出するマイクロホンセンサと前記気管チューブの呼吸回路内の回路圧を計測する第1圧力センサを連結し,前記マイクロホンセンサと前記圧力センサとからの情報が入力されて該情報を処理するパソコンを備えており,
前記パソコンは,前記マイクロホンセンサで検出された前記呼吸音が予め決められた所定値の範囲内であるか否かを判断して前記所定値の範囲内であればその情報を表示し,前記所定値の範囲を超える場合には異常出力信号を発し,また,前記第1圧力センサで検出された前記回路圧が予め決められた所定値の範囲内であるか否かを判断して前記所定値の範囲内であればその情報を表示し,前記所定値の範囲を超える場合には異常出力信号を発し,前記マイクロホンセンサで検出した信号に含まれる前記呼吸音以外の雑音を,前記マイクロホンセンサの近傍且つ外側に設置された外マイクロホンセンサで検出した信号と比較して前記雑音を排除する適応ノイズキャンセラを備えており,
前記適応ノイズキャンセラから出力される前記呼吸音のみの広帯域の信号から狭帯域の信号を抽出する適応線スペクトル強調器を備えている
ことを特徴とする気管チューブ維持管理システム。
【請求項4】
前記第1圧力センサで検出した信号に含まれる前記回路圧以外の雑音を排除するローパスフィルタを備えていることを特徴とする請求項3に記載の気管チューブ維持管理システム。
【請求項5】
前記パソコンは,前記マイクロホンセンサ及び前記第1圧力センサで検出した情報が異常出力信号である場合には,その情報から合併症であるか否かを判断し,それを表示すると共に警告を発することを特徴とする請求項3又は4に記載の気管チューブ維持管理システム。
【請求項6】
前記パソコンは,前記マイクロホンセンサからの信号から雑音低減後の呼吸音の周波数パワーが異常値であることに応答して,前記合併症として前記気管チューブに空気漏れが発生していると判断して警告を発することを特徴とする請求項5に記載の気管チューブ維持管理システム。
【請求項7】
前記パソコンは,前記マイクロホンセンサからの信号を処理した呼吸音の周波数パワーが異常値であることに応答して,前記合併症として前記気管チューブに狭窄が発生していると判断して警告を発することを特徴とする請求項5又は6に記載の気管チューブ維持管理システム。
【請求項8】
前記気管チューブに接続されたパイロットバルーンを経由して前記気管チューブに設けたカフのカフ圧を調整するカフ圧調整装置及び前記カフ圧を計測する第2圧力センサを備え,前記圧力センサからの情報に応答して前記カフ圧調整装置は前記カフへの空気圧を調整して前記カフ圧の設定圧力を維持調整することを特徴とする請求項~7のいずれか1項に記載の気管チューブ維持管理システム。
【請求項9】
前記パソコンは,前記第2圧力センサによって計測された前記カフ圧が正常圧であるか異常圧であるかを判断し,前記カフ圧が正常圧の場合には前記第2圧力センサによる検出状態を維持し,前記カフ圧が異常圧の場合には合併症が発生しているとして警告を発することを特徴とする請求項8に記載の気管チューブ維持管理システム。
【請求項10】
前記パソコンは,前記第2圧力センサによって計測された前記カフ圧が異常圧であることに応答して,前記合併症として前記カフ圧の減少による空気漏れ,消化液や血液等の異物が気管に迷入すること,又は気道粘膜の血流を圧迫していると判断して警告を発することを特徴とする請求項5又は6に記載の気管チューブ維持管理システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,麻酔,集中治療,救急治療等の医療行為の現場において,人工呼吸を行うために気管に挿管した気管チューブの適切な維持管理を行うための気管チューブ維持管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に,気管挿管は,麻酔,集中治療,救急等の医療現場で適切な換気,酸素化,気道確保が維持できない患者に対して人工呼吸をするために,患者の気管に気管チューブを挿管する標準的な医療行為である。気管チューブを気道に気管挿管する時には,通常,喉頭鏡を用いて喉頭展開を行い,気管へ気管チューブを挿管する。気管挿管は,通常,気管チューブが患者の口から挿管されるが,口腔の手術時等には,患者の鼻から挿管することもある。また,気管チューブに関わる合併症は,医師や看護師による絶え間ない監視やモニタで発見し,処置することが可能であるが,発見が遅くなれば,生命の危険を招くこともあり,気管チューブの状態維持及び管理は重要なことである。
【0003】
しかしながら,気管挿管は,高度な技術が必要であり,習熟を要する技術であるが,気管挿管用喉頭鏡システムとして,容易に気管チューブを気管に挿通できるものが知られている。該気管挿管用喉頭鏡システムは,気管挿管の操作状態を使用者が認識し,喉頭鏡の操作をより安全に確実に達成し,医療の臨床や医療教育に役立てるものであり,ジャイロセンサを備えたハンドルと力センサを備えたブレードから成る喉頭鏡を使用して気管挿管を行う場合に,力センサでブレードに負荷される歯列からの荷重を検出し,ジャイロセンサでハンドルの動作として角速度や方向を検出し,予め決められた所定の荷重と移動の範囲を越える検出値に応答して警報を発するものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,カフ付気管チューブのカフ圧調整装置として,電源が不要で小型化可能であり,空気注入時だけでなく,装置使用中にカフ圧が上昇した場合でも過剰の空気を排気できるものが知られている。該カフ付気管チューブのカフ圧調整装置は,空気供給源に連結する空気入り口,空気をカフに連通するチューブに送り出す空気出口及び前記空気入り口と前記空気出口の間に開口部を備えた箱体からなるカフ圧調整装置本体と,前記本体内部の圧力が所定の圧力以上の際には封止解除される開口部を封止する封止体と,本体内部の空気入り口側に開口部を有する隔壁からなる弁座が設けられた逆止弁とから構成されている(例えば,特許文献2参照)。

【特許文献1】特開2006-149450号公報
【特許文献2】特開平9-187510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常,気管挿管は,気道確保や人工呼吸管理の方法で標準的に行われる方法であり,気管挿管の訓練は,訓練用モデルを使用して行われている。研修医は,臨床研修の到達目標の経験すべき診察法,検査,手技の中に気管挿管を実施できることが含まれており,一定の期間,麻酔や救急分野で気道確保の訓練を受けている。また,救急救命士は,消防学校等の講習と麻酔科医の指導のもとで30例の気管挿管の成功例の後に,現場での気管挿管許可が得られるようになっている。また,実際の気管挿管について,気管チューブを取り巻く合併症として,次の事例が挙げられる。
1.気管チューブを間違って食道へ挿管してしまう食道挿管。
2.患者の分泌物や喀痰,気管チューブの折れ曲がり等で生じる気管チューブの閉塞。 3.気管チューブの留置中に何らかの原因で気管から気管チューブが外れてしまい食道迷入や抜管が起こること。
4.気管チューブのカフ圧の減少による空気漏れ,消化液や血液等の異物が気管に迷入すること。
5.気管チューブのカフ圧の上昇により気管粘膜の血流を圧迫し,虚血,損傷が発生すること。
【0006】
上記の事象は,医師の診断や医療器具を用いることによって発見され,処置することが可能であるが,発見や処置が遅れれば生命の危険を招くことになり,気管チューブを気道に挿管後も,絶え間ない気管チューブの状態管理が重要なことである。また,従来,人工呼吸時における気管チューブの状態や食道挿管の確認を単一の装置で確実に診断する方法は開示されていない。また,従来技術では,カフ圧の調整を行うことはできたが,そのカフ圧が最適なカフ圧であるかどうかは不明であった。現在の病院で気管挿管の一般的医療行為であるが,監視体制は様々である。例えば,手術室での麻酔科医管理下での比較的持続的な監視がされる状況や,集中治療部などの濃厚な監視体制での管理は比較的安全性は高いが,一般病棟での人工呼吸は監視体制が必ずしも十分とは言えず,そこで,絶え間ない気管チューブ管理が行える装置が開発されることが望まれていた。
【0007】
そこで,本願発明は,気管チューブの状態量を既存のセンサ技術を用いて,計測することによって気管チューブの適切な維持,管理を行い,合併症を未然に防ぐことを目指したものであり,気管挿管におけるシステムに設置されたセンサからの信号処理を行い,周囲の雑音等の影響を低減するには,如何に構成すれば良いかの課題があった。近年,気管挿管の頻度が益々増加することが考えられるが,気管挿管については,次のことが考えられる。現在,臨床医は,軽微な気道閉塞を発見するために,呼吸音を聴診器で聞き判断を行っているのが現状である。この判断法は,簡便であるが,呼吸音の性状の違い,環境からの雑音等により診断には習熟を要し,また,その判断基準を定量化できていないのが現状である。
【0008】
また,様々な器具,技術を用いても,あらゆる状況での気管挿管の状態や食道挿管の確認を確実に診断する方法や装置が無いのが現状であり,有ったとしても急患室,病院の事情等により,装置を直ちに容易に使用できる状況ではない。そこで,本発明者は,新規な電子部品や特注品を使うことなく,通常の市販品をうまく組み合わせて小形で簡便で安価な気管チューブ維持管理システムを開発した。
【0009】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,既存のセンサ,例えば,呼吸音をマイクロホンセンサを使用して呼吸回路の音を計測すると共に,圧力センサで呼吸回路内の圧力を計測し,それらの情報を基にして,合併症が軽微な状態を発見し知らせるシステムであって,気管チューブの状態を推定することで,合併症をいち早く知ることにより,早急なる対処を可能にし, 医療の臨床や教育に役立て,また,推定精度を向上させるため信号処理を行い,情報のノイズ低減を行い,既存のセンサやアクチュエータを用いてカフ圧の自動調整及び患者の適切なカフ圧を推定する補助手段にし,従来の装置で判断できる合併症だけでなく,従来装置では判断しにくい気道の閉塞が軽微な場合を判断できることを可能にし,人工呼吸管理では自動化がなされていなかったカフ圧の自動調整を含めた気管チューブ維持管理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,気道を確保するための気管チューブ,前記気管チューブを通じて空気を所定の領域に送るための給気装置,前記気管チューブに前記給気装置を連結する人工呼吸回路チューブを備え,前記人工呼吸回路チューブには前記気管チューブからの呼吸音を検出するマイクロホンセンサと前記気管チューブの呼吸回路内の回路圧を計測する第1圧力センサを連結し,前記マイクロホンセンサと前記圧力センサとからの情報が入力されて該情報を処理するパソコンを備えており,
前記パソコンは,前記マイクロホンセンサで検出された前記呼吸音が予め決められた所定値の範囲内であるか否かを判断して前記所定値の範囲内であればその情報を表示し,前記所定値の範囲を超える場合には異常出力信号を発し,また,前記第1圧力センサで検出された前記回路圧が予め決められた所定値の範囲内であるか否かを判断して前記所定値の範囲内であればその情報を表示し,前記所定値の範囲を超える場合には異常出力信号を発することを特徴とする気管チューブ維持管理システムに関する。
【0011】
また, この気管チューブ維持管理システムは, 前記マイクロホンセンサで検出した信号に含まれる前記呼吸音以外の雑音を,前記マイクロホンセンサの近傍且つ外側に設置された外マイクロホンセンサで検出した信号と比較して前記雑音を排除する適応ノイズキャンセラを備えている。
【0012】
また, この気管チューブ維持管理システムは, 前記適応ノイズキャンセラから出力される前記呼吸音のみの広帯域の信号から狭帯域の信号を抽出する適応線スペクトル強調器を備えている。
【0013】
また,この気管チューブ維持管理システムは,前記第1圧力センサで検出した信号に含まれる前記回路圧以外の雑音を排除するローパスフィルタを備えている。
【0014】
また,前記パソコンは,前記マイクロホンセンサ及び前記第1圧力センサで検出した情報が異常出力信号である場合には,その情報から合併症であるか否かを判断し,それを表示すると共に警告を発する。
【0015】
更に,前記パソコンは,前記マイクロホンセンサからの信号から雑音低減後の呼吸音の周波数パワーが異常値であることに応答して,前記合併症として前記気管チューブに空気漏れが発生していると判断して警告を発する。
【0016】
また,前記パソコンは,前記マイクロホンセンサからの信号を処理した呼吸音の周波数パワーが異常値であることに応答して,前記合併症として前記気管チューブに狭窄が発生していると判断して警告を発する。
【0017】
また,この気管チューブ維持管理システムは,前記気管チューブに接続されたパイロットバルーンを経由して前記気管チューブに設けたカフのカフ圧を調整するカフ圧調整装置及び前記カフ圧を計測する第2圧力センサを備えており,前記圧力センサからの情報に応答して前記カフ圧調整装置は前記カフへの空気圧を調整して前記カフ圧の設定圧力を維持調整するものである。
【0018】
また,前記パソコンは,前記第2圧力センサによって計測された前記カフ圧が正常圧であるか異常圧であるかを判断し,前記カフ圧が正常圧の場合には前記第2圧力センサによる検出状態を維持し,前記カフ圧が異常圧の場合には合併症が発生しているとして警告を発する。
【0019】
更に,前記パソコンは,前記第2圧力センサによって計測された前記カフ圧が異常圧であることに応答して,前記合併症として前記カフ圧の減少による空気漏れ,消化液や血液等の異物が気管に迷入すること,又は気道粘膜の血流を圧迫していると判断して警告を発するものである。
【発明の効果】
【0020】
この発明による気管チューブ維持管理システムは,従来の装置で判断できる合併症だけでなく,従来装置では判断しにくい気道の閉塞が軽微な場合を判断できる点で優れており,従来の装置で可能なカフ圧の自動調整だけでなく,患者に合わせた最適なカフ圧を推定する点で優れており,例えば,気管挿管直後の挿管位置が食道挿管でなく正常に気管挿管になっていることの確認,気管チューブ内部の痰詰まりによる狭窄が発生していないかの確認,気管の抜管の状態を確認,気道からの空気漏れを確認,計測データの保存とモニタを可能にし,合併症かどうかを自動的な判断,更に,呼吸回路内の音の再生機能等の情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明による気管チューブ維持管理システムの実施例を示す概略説明図である。
【図2】呼吸音及び回路圧をセンサで計測する計測装置,及びカフ圧調整装置を説明する説明図である。
【図3】呼吸音及び回路圧をセンサで計測する計測装置の信号処理工程を示す処理フロー図である。
【図4】呼吸回路内の圧力の状態を示すグラフである。
【図5】適応ノイズキャンセラのブロック線図である。
【図6】マイクロホンセンサによる呼吸音に対してノイズが混入していない時のパターンを示すグラフである。
【図7】マイクロホンセンサによる呼吸音に対してノイズが混入している時のパターンを示すグラフである。
【図8】適応線スペクトル強調器のブロック線図である。
【図9】正弦波信号,乱数信号,正弦波に乱数を加えた信号のグラフと周波数解析を行った結果を示す図である。
【図10】正弦波に乱数を加えた信号を適応線スペクトル強調器の入力信号として時の出力信号と誤差信号を示すグラフと周波数解析を示す図である。
【図11】圧力センサと2つのマイクロホンセンサからの取得したデータのサンプルを示すグラフである。
【図12】図11の信号の処理を行った正常な場合を示す図である。
【図13】図11の信号の処理を行った気管チューブの一部を潰した場合を示す図である。
【図14】図11の信号の処理を行ったカフ圧の減少による空気漏れの状態を示す図である。
【図15】圧力センサと2つのマイクロホンセンサからの取得したデータのサンプルを示すグラフである。
【図16】図15の信号の処理を行った正常な場合を示す図である。
【図17】図15の信号の処理を行った回路が外れた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1 人工呼吸器
2 人工呼吸回路
3 T字型コネクタ
4,10 マイクロホンセンサ
5,25 圧力センサ
6 信号処理回路
7 パソコン
8 気管チューブ
9 カフ
10 マイクロホンセンサ
11 パイロットバルーン
12 回路ボックス
13 適応ノイズキャンセラ
14 ローパスフィルタ
15 短時間フーリエ変換
16 適応線スペクトル強調器
17 短時間フーリエ変換
18,19 適応フィルタ
20 バクテリアフィルタ
22 コネクタ
23 空気ポンプ
26 コントローラ
28 アクチュエータ
30 気管
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下,図面を参照して,この発明による気管チューブ維持管理システムの実施例を説明する。この気管チューブ維持管理システムは,図1及び図2に示すように,人工呼吸器1が取り付けられている人工呼吸回路チューブから成る人工呼吸回路2の途中に,コネクタ3を介してマイクロホンセンサ4と圧力センサ5(第1圧力センサ)が取り付けられ,コネクタ3の近傍に設けたマイクロホンセンサ10を備えている。患者29の気管30に挿管される気管チューブ8は,コネクタ3に接続されている。人工呼吸器1と気管チューブ8とは,コネクタ3によってマイクロホンセンサ4と圧力センサ5を備えた状態で人工呼吸回路2を通じて容易に接続することができる。2つのセンサであるマイクロホンセンサ4と圧力センサ5からの信号は,回路ボックス12内のアンプ回路等の信号処理回路6を経由して,AD変換器を用いてパソコン7へ取り込み,それらの信号を処理して,合併症の判断を行うのに適用される。
【0024】
この気管チューブ維持管理システムは,マイクロホンセンサ4は呼吸音を計測し,圧力センサ5は人工呼吸回路2の回路圧を計測する。マイクロホンセンサ4と圧力センサ5とは,T字型コネクタ3の一端に取り付けられている。また,マイクロホンセンサ10は,雑音を計測するために,T字型コネクタ3の周辺に設けられている。マイクロホンセンサ4,10及び圧力センサ5からの検出信号の情報は,回路ボックス12に収容されているアンプ回路等の信号処理回路6を経由してパソコン7に入力され,パソコン7内でデータの記録処理等が行われる。また,人工呼吸回路2には,気管チューブ8が連結され,気管チューブ8の先端にはカフ9が設けられている。気管チューブ8には,パイットバルーン11がチューブ24を介して取り付けられている。パイットバルーン11には,チューブ24を介してコネクタ22が取り付けられ,コネクタ22には,空気ポンプ23とその圧力を計測する圧力センサ25(第2圧力センサ)が取り付けられている。圧力センサ25の信号は,定常状態ではカフ圧と一致し,信号処理回路を備えたコントローラ26に入力される。コントローラ26は,圧力センサ25の情報によって空気ポンプ23の駆動を制御する。空気ポンプ23は,信号処理回路を備えたコントローラ26の指令でアクチュエータ28を駆動してカム27によって作動される。コントローラ26の作動情報はパソコン7に入力される。圧力センサ25からの信号は,コントローラ26に入力される。コントローラ26は,圧力センサ25からの信号に応答してアクチュエータ28の駆動を制御すると共に,これらの信号の処理情報をパソコン7に送り込む。
【0025】
図3には,マイクロホンセンサ4,10及び圧力センサ5からの検出信号の情報の処理状態が示されている。マイクロホンセンサ4,10からの信号は,適応ノイズキャンセラ13に送られ,マイクロホンセンサ4には呼吸音と雑音が混合しており,マイクロホンセンサ10には雑音のみであることから,適応ノイズキャンセラ13で処理することによって呼吸音のみに処理される。また,圧力センサ5からの信号は,回路圧と雑音圧が混合しているので,ローパスフィルタ14に送られて回路圧のみに処理されて信号Aとなる。適応ノイズキャンセラ13で処理された呼吸音は,短時間フーリエ変換15を通じて信号Bとなり,また,呼吸音は,適応線スペクトル強調器16で処理された後,短時間フーリエ変換17を通じて信号Cとなる。
【0026】
圧力センサ5の出力を,ローパスフィルタ14にかける理由と効果は,次のとおりである。この気管チューブ維持管理システムでは,呼吸回路2内の圧力を圧力センサ5を用いて計測している。圧力センサ5による信号は,ノイズが無ければ,図4の上段に示すように,きれいな波形になるが,電気メス等の影響により高周波のノイズが混入されると,図4の中段に示すような波形になることがある。そこで,この実施例では,カットオフ周波数が例えば,3Hzのローパスフィルタ14を施してノイズを低減した。その結果を図4の下段に示すように,ノイズ無しの信号に似た信号が得られた。このことからもローパスフィルタ14を施すことによって,ノイズ低減を達成できることが分かった。図4では,横軸は時間(秒)であり,縦軸は回路内の圧力(cmH20)である。
【0027】
呼吸音に対して適応ノイズキャンセラ13を施す理由と効果は,次のとおりである。この気管チューブ維持管理システムでは,適応ノイズキャンセラ13による周囲の雑音即ちノイズの混入の影響の低減の効果を確かめるため,気管チューブ8の先に風船を取り付け,大型空気ポンプを使用して実験を行った。この実施例では,雑音として声を混入させた。適応ノイズキャンセラ13は,2つの観測信号を元にしてノイズを低減させるフィルタであり,具体的には,参照信号を元にしてノイズを推定して主信号に含まれるノイズを低減する。適応ノイズキャンセラ13のブロック線図を図5に示す。主信号をp(n),所望信号をx(n),及びノイズをm(n)とすると,主信号p(n)は所望信号x(n)とノイズm(n)との和である。即ち,p(n)=x(n)+m(n)が成り立つ。
一方,参照信号r(n)は,所望信号に含まれるノイズ源と同じ箇所から発生する観測信号である。この時,x(n)とm(n),x(n)とr(n)の間には,相関が無いものとする。更に,m(n)とr(n)の間には,相関があるものとする。
【0028】
適応フィルタ18,19については,次のとおりである。
信号やノイズの特性が定常状態で周知の場合には,フィルタの係数を固定したデジタルフィルタを設計して用いることで目的を達成できる。周波数領域を元に行う設計は,信号やノイズのスペクトルの値が必要である。そのようなフィルタは,信号の特性が非定常な場合,信号とノイズのスペクトルの値が重なっている場合,信号やノイズの周波数が未知である場合等の時には適していない。例えば,胎児と母親の心電図計測時には,両者の筋電が混ざって計測され,両者の信号のスペクトル成分が重なっており,両者を分離することができない。そこで,適応フィルタが必要になる。適応フィルタは,ノイズの信号成分のみを評価することにより,ノイズ信号の特性を学習してフィルタの係数を変化させながら適応していき,混合された所望信号から分離することが可能になるものである。
適応フィルタ18の出力y(n)は,入力信号として参照信号r(n)を適応フィルタ18の係数をw(k)とすると,数1で表わされる。
【0029】
【数1】
JP0005299978B2_000002t.gif
但し,Mはフィルタの次数,w(i)(0≦k<M)はフィルタの係数である。
所望信号x(n)とフィルタの出力との誤差e(n)が小さくなるようにフィルタの係数は適応アルゴリズムによって更新され,非定常の信号の特性に適応していく。なお,適応アルゴリズムは,適応フィルタにおける係数ベクトルを更新していくものであり,ここでは,適応フィルタにおける誤差e(n)の平均自乗誤差E〔e(n)2 〕が最小になるように係数を更新している最小平均自乗アルゴリズムを用いた。
【0030】
適応フィルタ18によって推定したノイズm(n)〔=y(n)〕と主信号の誤差をとることにより,所望信号を推定する働きとなる。但し,ノイズmにはハット(カレット)が付される。この時,誤差信号e(n)が適応ノイズキャンセラ13の出力となる。更に,この誤差信号を用いてフィルタの係数を更新していき,適応フィルタの係数は,非定常の信号の特性に適応していき,つまり,適応フィルタ18の出力は主信号に含まれるノイズを推定する働きとなる。図6にノイズを混入させていない時の結果を示し,また,図7にノイズを混入された時の結果を示す。図6及び図7から分かるように,ノイズを混入させている時には,特に外側のマイクロホンセンサ10の信号が大きいことが分かる。このことからも,外側のマイクロホンセンサ10は,ノイズだけを計測していることが分かる。図6及び図7に示す結果の周波数解析(図示せず)を行った。その結果,ノイズを混入させていない時の周波数解析とノイズを混入させた時の周波数解析とを比較すると,ノイズを混入させた時には,内側,外側に両方のマイクロホンセンサ4,10に横の縞があることを確認し,この周波数成分は声に起因するものと思料された。信号処理を行った結果,ノイズ低減がされていることが確認できた。従って,適応ノイズキャンセラ13によって外部からの雑音の影響を低減できることが分かった。
【0031】
適応線スペクトル強調器16は,広帯域の信号から狭帯域の信号を抽出する時に用いられるフィルタであり,そのために線スペクトル強調器と呼ばれている。この時,狭帯域の存在範囲を数値で知る必要はない。適応線スペクトル強調器16のブロック線図を図8に示す。適応フィルタ19の入出力関係は,適応ノイズキャンセラ13と同様であるが,観測信号を遅延した信号をフィルタの入力信号,つまり参照信号として用いている。遅延量に関しては,遅延する前の信号と遅延した後の信号のノイズ成分が無関係になる大きさにする。適応線スペクトル強調器16の効果を確かめるために,模擬信号を用いて効果を確かめた。図9及び図10に示すように,周波数300Hzの正弦波に乱数を加えたものを信号とする。この信号を適応線スペクトル強調器16の入力信号として処理した時に,出力信号y(n)と誤差信号e(n)とが存在していることが現れた。その結果から,適応線スペクトル強調器16の出力信号y(n)は,狭帯域の信号を抽出していることを確認できた。また,誤差信号e(n)は,逆に広帯域の信号を抽出していることが確認できた。従って,適応線スペクトル強調器16を用いることによって,狭帯域の信号,又は広帯域の信号を抽出できることが分かった。
【0032】
この気管チューブ維持管理システムの実験では,人工呼吸回路2の途中に,コネクタ3を介してマイクロホンセンサ4,10と圧力センサ5を取り付けることによって,呼吸回路2との接続を容易にしている。2つのマイクロホンセンサ4,10の信号は信号処理回路6を経由して,AD変換器を用いてパソコン7へ取り込み,信号処理・合併症判断を行う。また,気管チューブ8のカフ9に接続されたパイロットバルーン11の接続部に,コネクタ22を介して圧力センサ25,及び空気送り機構の空気ポンプ23を接続している。圧力センサ25で計測された値を信号処理回路を備えたコントローラ26に取り込み,コントローラ26の指令でアクチュエータ28を駆動してカム27によって空気ポンプ23を作動してカフ圧を制御する。
【0033】
実施例では,人工呼吸中に下記の実験を行い,呼吸回路2中に設置したセンサ4,5,10で呼吸音と回路圧を計測し,適応フィルタ18,19に基づく信号処理によって,合併症の推定を行った。本システムは,下記の結果より正常であることが分かる。
a)呼吸回路外れの推定:良好な結果。
b)空気漏れの推定:良好な結果。
c)呼吸回路の狭窄の推定:ある程度良好な結果。
d)外部雑音除去:良好な結果。
e)電気メスによるノイズ混入時のノイズ低減:良好な結果。
【0034】
臨床実験をした結果は,次のとおりであった。臨床実験では,この気管チューブ維持管理システムを呼吸回路中に装着し,実際の手術中の呼吸回路内の音及び圧力を計測した。この気管チューブ維持管理システムは,実験装置では,呼吸装置には,給気装置1と蘇生バックの2種類を使用した。また,気管チューブ8には,人工呼吸器1が取り込んだ空気から埃や細菌を取り除く役目のバクテリアフィルタ20が組み込まれている。
(a)給気装置1を用いて行った場合の実験条件は,以下の3とおりである。
1.正常の状態(正常)
2.気管チューブ8の一部をつぶした状態(異常)
3.カフ圧の減少による空気漏れの状態(異常)
(b)蘇生バックを用いて行った場合の実験条件は以下の2とおりである。
1.正常の状態(正常)
2.気管チューブ8に接続されていない状態,即ち呼吸回路2が外れた状態(異常)
【0035】
上記の実験結果は,次のとおりである。
(a)給気装置1を用いて行った場合
3つのセンサから取得してデータのサンプルを図12に示す。
次に,信号処理を行った結果を図12~図14に示す。
以上をまとめて,考察すれば次のとおりである。
1.信号A(圧力の値)に関して,圧力の最大値に注目した場合,空気漏れのケースでは,約1(cmH20)小さいことが分かる。これは,空気漏れが生じたために,通常より回路圧が上がらないことが考えられる。
2.信号B(雑音低減後の呼吸音)に関して,周波数のパワーに注目した場合,空気漏れのケースでは圧力が上昇するに連れて,パワー(特に,150Hz~700Hz)も上がっていることが分かった。他の2つのケースでは上がっていないことが確認できた。
3.信号C(信号処理後の呼吸音)に関して,周波数のパワーに注目した場合,気管チューブ8の一部を潰したケースでは,圧力上昇時に1500Hz以上のパワーが正常なケースと比較して大きいことが確認できた。
(b)蘇生バッグを用いて行った場合
3つのセンサから取得してデータを図15に示す。
次に,信号処理を行った結果を図16~図17に示す。
以上をまとめて,考察すれば次のとおりである。
信号A(圧力の値)に関して,圧力の最大値に注目した場合,通常より回路圧が上がっていないことが分かる。
【0036】
以上,(a)及び(b)の結果より,信号処理を行った3つの信号を用いて呼吸音と回路圧を観ることによって,軽微な合併症を判断することができると思料する。
これをまとめて,信号A,信号B,及び信号Cを用いることにより,判明する可能性のある合併症は次のとおりである。
1.信号Aでは,判断できる合併症が,「回路外れ」,及び「空気漏れ」である。
2.信号Bでは,判断できる合併症が,「空気漏れ」である。
3.信号Cでは,判断できる合併症が,「気管チューブの狭窄」である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明による気管チューブ維持管理システムは,産業分野として医療現場,医療教育機関,救急医療等に適用でき,特に,麻酔,集中治療,救急治療等の医療は勿論のこと,医師卒後研修医制度,救急救命士の挿管許可認定実習,研修医指導病院,救急救命士研修施設等に備えて各種の研修等に適用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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