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明細書 :高靭性・高強度の高融点金属系合金材料及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4307649号 (P4307649)
公開番号 特開2001-073060 (P2001-073060A)
登録日 平成21年5月15日(2009.5.15)
発行日 平成21年8月5日(2009.8.5)
公開日 平成13年3月21日(2001.3.21)
発明の名称または考案の名称 高靭性・高強度の高融点金属系合金材料及びその製造方法
国際特許分類 C22C  27/04        (2006.01)
C22C  27/06        (2006.01)
C23C   8/24        (2006.01)
B22F   3/24        (2006.01)
C01B  21/06        (2006.01)
C22C   1/04        (2006.01)
FI C22C 27/04 102
C22C 27/04 101
C22C 27/06
C23C 8/24
B22F 3/24 C
B22F 3/24 K
C01B 21/06 D
C22C 1/04 D
C22C 1/04 E
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願平11-252344 (P1999-252344)
出願日 平成11年9月6日(1999.9.6)
審査請求日 平成16年3月10日(2004.3.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】高田 潤
【氏名】長江 正寛
【氏名】平岡 裕
【氏名】竹元 嘉利
個別代理人の代理人 【識別番号】100108671、【弁理士】、【氏名又は名称】西 義之
審査官 【審査官】佐藤 陽一
参考文献・文献 長江正寛ら,Mo-Ti合金のアンモニアガスと窒素ガス中での窒化挙動の比較,粉体および粉末冶金,日本,社団法人 粉体粉末冶金協会,1998年 2月,第45巻第2号,p.189~194
小林誠ら,窒素ガスにより内部窒化させたTZM合金の低温靱性,粉体および粉末冶金,日本,社団法人 粉体粉末冶金協会,1999年 7月,第46巻第7号,p.705~709
Masahiro NAGAE et al,Nitriding of dilute Mo-Ti alloys at a low temperature of 1373 K,International journal of refractory metals & hard materials,ELSEVIER,1998年,vol. 16, No. 2 ,p. 127-132
調査した分野 C22C 27/04-27/06
C23C 8/24
特許請求の範囲 【請求項1】
Mo,W,Crの1種を母相とする合金加工材中に固溶されたTi,Zr,Hf,V,Nb,Taの少なくとも1種から選ばれる窒化物形成用金属元素を内部窒化することによって形成された微細窒化物を母相中に分散含有する該合金加工材であって、該合金加工材は、表面側及び内部側が共に加工組織を維持した構造、又は表面側が加工組織であり内部側が再結晶組織である二層構造、のいずれかであり、該表面側は加工組織を維持したまま窒化物析出粒子が粒成長した組織であることを特徴とする窒化物粒子分散型の高靭性・高強度の高融点金属系合金材料。
【請求項2】
Mo,W,Crの1種を母相とする合金加工材であって、母相中に窒化物形成用金属元素としてTi,Zr,Hf,V,Nb,Taの少なくとも1種を固溶する合金加工材を第1段窒化処理として、窒化雰囲気中において該合金の再結晶上限温度以下で、かつ再結晶下限温度-200℃以上の温度で加熱して、窒化物形成用金属元素の超微細窒化物粒子を分散形成させ、ついで第2段窒化処理として、窒化雰囲気中において、第1段窒化処理で得られた該合金加工材の再結晶下限温度以上の温度で加熱して、第1段窒化処理により分散形成された超微細窒化物粒子を粒成長させ安定化させることを特徴とする窒化物粒子分散型の高靭性・高強度の高融点金属系合金材料の製造方法。
【請求項3】
第3段以降の窒化処理として、窒化雰囲気中において、前段の窒化処理で得られた該合金加工材の再結晶下限温度以上の温度で加熱して、前段の窒化処理によって分散形成された窒化物粒子を更に粒成長させ安定化させることを特徴とする請求項2記載の窒化物粒子分散型の高靭性・高強度の高融点金属系合金材料の製造方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高温耐熱構造材料、特に、高融点金属であるMo,W、Crの1種を母相とする窒化物粒子分散強化型の高靭性・高強度の高融点金属系合金材料とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Mo,W、Crなどの高融点金属材料は、その高温特性を活かして、航空・宇宙・発熱材、エレクトロニクス分野などで21世紀のキーマテリアルとして期待されている。
【0003】
例えば、Moは、(1)融点が約2600℃と高い、(2)他の高融点金属に比べて比較的に機械的強度に優れている、(3)熱膨張率が純金属中ではタングステン(W)についで小さい、(4)電気伝導性・熱伝導性が良好、(5)溶融アルカリ金属や塩酸に対する耐蝕性が良好、などの特徴を有し、(1)鉄鋼材料への合金添加元素、(2)電極、管球用部品(X線管球、放電灯用電極、CT電極)、(3)半導体部品(整流器用基板、リード電極、焼結用ボート、ルツボ、ヒートシンク)、(4)耐熱構造部品(炉用発熱体、反射板)などの用途に広く用いられている。また、将来的用途としては、(5)光学部品(レーザー用ミラー)、(6)原子炉用材料(炉壁材料、防護壁材料)などが考えられている。しかし、Moは、熱濃硫酸や硝酸などの酸化性の酸に対する耐蝕性がない、高温強度があまり期待できない、高温での再結晶による脆化が著しいなどの欠点を有している。
【0004】
一般に、炉用ヒータや蒸着用ボートなど高温下で使用されるMo板部品には、再結晶温度が高く、再結晶後の強度が高いドープMo材料が使用されている。この材料は、Moの母相にAl,Si,Kの1種又は2種以上が添加された材料である。このようなMo板部品材料の製法として、各種の金属の酸化物、炭化物、硼化物、窒化物を0.3~3重量%を含むドープMo焼結体をトータル加工率で85%以上の減面加工した後、再結晶温度より100℃高い温度から2200℃までの温度範囲にて加熱処理して、再結晶粒を細長く大きく成長させる方法が知られている(特公平6-17556号公報、特公平6-17557号公報)。
【0005】
また、Moの高温での再結晶による脆化の欠点を改良した材料として、Ti,Zr,およびCを添加した合金、いわゆるTZM合金が古くから知られている。TZM合金は、Moに比べて延性-脆性遷移温度が低く(-20℃近傍)、再結晶温度が高い(1400℃近傍)ため、高温部材に用いられているが、加工しにくいという欠点の他に1400℃以上での使用が制限される問題がある。
【0006】
ところで、Moを高温材料として利用するためには再結晶温度を高くし、結晶粒の粗大化に伴う材料の脆弱化を抑えることが重要であり、炭化物を分散させたMo-TiC合金などでは高温での再結晶が抑制されることが報告されている(H.Kurishita,et.al.,J.Nucl.Mater.223-237,557,1996)。同様に、特開平8-85840号公報には、メカニカルアロイングとHIPを利用して、粒径10nm以下のIV族遷移金属炭化物の超微粒子が0.05モル%以上5モル%以下分散され、結晶粒径が1μm以下である再結晶による脆化の少ないMo合金を製造することが開示されている。
【0007】
さらに、MoにTi、Zrを単独または複合で0.5~2.0重量%含有する合金をフォーミングガス中で1100~1300℃に加熱して窒化処理して耐熱衝撃性および耐摩耗性を向上させる方法(特公昭53-37298号公報)や、Mo-0.01~1.0重量%Zr合金を1000~1350℃、好ましくは、1100~1250℃で内部窒化して、高温強度と加工性を向上させる方法(特公平4-45578号公報)、Mo-0.5~1.0重量%Ti合金をN2 ガス中1300℃で内部窒化する方法(日本金属学会誌、43、658、1979)等も公知である。また、本発明者らは、希薄Mo-Ti合金を約1100℃で優先窒化し、ナノスケールの超微細TiN粒子を分散析出させることで機械的強度を著しく向上できることを報告した(粉末冶金協会講演概要集、平成9年度春季大会、255、1997)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
高融点金属は、核融合炉壁材、航空宇宙用材料などの超高温耐熱構造材料として有望視されているが、現在のところ耐熱構造材料としての有効な用途開発や実用化は行われていない。その最も大きな原因は、結晶粒界の脆弱さに起因する低温脆性にある。
【0009】
圧延などの強加工を受けたMo材料は、結晶粒が圧延方向につぶれて伸びた微細組織をしており、室温以下の比較的低い温度域まで優れた延性を示す。しかし、このMo圧延材料は、ひとたび900℃以上の高温で使用されると再結晶化が起こる結果亀裂が直線的に伝播しやすい等軸粒組織を呈し、延性・脆性遷移温度は室温付近まで上昇する。そのため、Mo再結晶材は室温でも床に落としただけで粒界割れを生じる危険性がある。そのために、再結晶をなるべく高い温度まで抑制する必要があり、改良の試みがいろいろとなされているが、満足な解決策はいまだ得られていない。
【0010】
粉末粒子混合法によりTiCを分散させ、HIPにより製造した材料は、再結晶温度が約2000℃と高く、高温強度の高い材料が得られるが、製品のサイズや形状に制約があり、またHIPにより製造した材料は硬いため(Hv~500)、この材料から製品への成形・加工が困難であるという問題点があり、任意形状に予め製品加工した後に粒子分散処理した高強度・高靭性の材料の開発が望まれていた。また、微量のTiやZrを含有する希薄合金を内部窒化したものはある程度の高温強度が得られるものの、例えば、真空中で1200℃で1時間加熱するポストアニール処理を行うと、超微細窒化物粒子は消失し、再結晶を抑制することができない。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決し、微細窒化物分散粒子の形態(板状、球状)と大きさ分布を制御し、分散粒子により結晶粒界をピン止めして再結晶を阻止することにより靭性、強度を著しく向上させた高融点金属系合金材料を提供するものである。
【0012】
すなわち、本発明は、Mo,W,Crの1種を母相とする合金加工材中に固溶されたTi,Zr,Hf,V,Nb,Taの少なくとも1種から選ばれる窒化物形成用金属元素を内部窒化することによって形成された微細窒化物を母相中に分散含有する該合金加工材であって、該合金加工材は、表面側及び内部側が共に加工組織を維持した構造、又は表面側が加工組織であり内部側が再結晶組織である二層構造、のいずれかであり、該表面側は加工組織を維持したまま窒化物析出粒子が粒成長した組織であることを特徴とする窒化物粒子分散型の高靭性・高強度の高融点金属系合金材料である。
合金材料が比較的薄い場合は、加工材の内部まで加工組織を維持した構造とすることができる。すなわち、この場合は、内部に再結晶組織が存在しない材料となる。また、合金材料が比較的厚い場合は、加工材の内部側が再結晶組織である二層構造とすることができる。
【0013】
また、本発明は、Mo,W,Crの1種を母相とする合金加工材であって、母相中に窒化物形成用金属元素としてTi,Zr,Hf,V,Nb,Taの少なくとも1種を固溶する合金加工材を第1段窒化処理として、窒化雰囲気中において該合金の再結晶上限温度以下で、かつ再結晶下限温度-200℃以上の温度で加熱して、窒化物形成用金属元素の超微細窒化物粒子を分散形成させ、ついで第2段窒化処理として、窒化雰囲気中において、第1段窒化処理で得られた該合金加工材の再結晶下限温度以上の温度で加熱して、第1段窒化処理により分散形成された超微細窒化物粒子を粒成長させ安定化させることを特徴とする窒化物粒子分散型の高靭性・高強度の高融点金属系合金材料の製造方法である。
【0014】
上記の製造方法において、さらに3~4段の窒化処理を行ってもよい。第3段以降の窒化処理は、窒化雰囲気中において、前段の窒化処理によって得られた該合金加工材の再結晶下限温度以上の温度で加熱して、前段の窒化処理によって分散形成された窒化物粒子をさらに粒成長させ安定化させることにより高融点金属系合金材料の再結晶温度をさらに上昇させるものである。
【0015】
本発明の製造方法において、第1段窒化処理では、希薄合金加工材の加工組織を維持したまま窒素を加工材に拡散することにより母相中に固溶されている窒化物形成用金属元素を優先窒化して超微細窒化物粒子を形成し、母相に分散させる。なお、希薄合金とは固溶体合金の溶質元素の濃度が約5重量%以下の微少量含有される合金をいう。また、優先窒化とは、母相の金属ではなく窒化物形成元素のみが優先的に窒化される現象をいう。
【0016】
本発明の製造方法は、従来の窒化方法と比べて多段窒化に特徴を有するが、本発明における各段階の窒化はそれぞれに異なる作用をもたらし、窒化物粒子の大きさ、分布、形態の制御による高強度化作用、加工組織中の結晶粒界の移動を阻止し、合金の再結晶を抑制することによって再結晶温度を飛躍的に上昇させる作用、かつ加工組織を維持することによる高靭性化作用が発揮され、これにより、低温(約-100℃)から高温(約1800℃)までの広い温度範囲で高強度・高靭性が得られる。
【0017】
第1段窒化処理の温度は、従来一般的に知られている1100℃以上の内部窒化処理温度より低い温度で行う。第1段窒化処理の雰囲気は、アンモニア ガス雰囲気、N2 ガス雰囲気、フォーミングガス雰囲気(水素ガス:窒素ガス=1:9~5:5)、およびこれら三者のガスのそれぞれにプラズマ放電させた雰囲気などいずれでもよい。
【0018】
第2段以降の窒化処理では、希薄合金加工材の加工組織を維持したまま合金加工材の表面側の析出粒子を粒成長させ安定化させる。合金加工材の内部側はこの窒化処理による高温加熱を受け再結晶する。第2段窒化処理の雰囲気は、アンモニアガス雰囲気、N2 ガス雰囲気、フォーミングガス雰囲気(水素ガス:窒素ガス=1:9~5:5)、およびこれら三者のガスのそれぞれにプラズマ放電させた雰囲気などいずれでもよい。第2段窒化処理を例えばAr雰囲気など非窒化雰囲気で行うと、第1段窒化処理で析出した窒化物粒子が母相中で分解し、完全に消失し、ピン止め源がなくなる。
【0019】
母相中に窒化物形成用金属元素として固溶させるTi,Zr,Hf、V,Nb,Taの群から選択される元素は単独で加えても、2種以上を併用してもよい。これらの元素の合計含有量は、0.1~5.0wt%以下、より好ましくは1.0~2.0wt%%である。0.1wt%未満であるとTiN析出粒子が少なすぎて高温環境下の再結晶を阻止することができない。5.0wt%を超えると窒化後の材料が脆くなり、実用上使用困難である。
【0020】
窒化物形成用金属元素を含有した固溶体合金は、TZM合金(例えば、Mo-0.5Ti-0.08Zr-0.03C)、TZC合金(例えば、Mo-1.25Ti-0.3Zr-0.15C)のような窒化物形成用金属元素以外の金属元素、非金属元素、例えば炭素を微量含有する合金でもよい。TZM合金やTZC合金では、優先窒化で(Ti,Zr)Nの窒化物粒子が析出する。
【0021】
これらの窒化物形成用金属元素を含有した固溶体合金の製造法は、特に限定されず、母相となる金属粉末と窒化物形成用金属元素を混合し、成型、焼結する粉末冶金方法、溶解凝固法により製造することができる。
【0022】
以下に、図1を参照して、Moを母相とし、窒化物形成用金属元素としてTiを固溶するMo-0.5wt%Ti合金加工材を3段窒化処理する場合について説明するが、その他のW、Cr合金系についても同様に適用できる。
【0023】
出発材料のMo-0.5wt%Ti合金の再結晶温度は主に加工度などの合金素材の作製条件に依存し、再結晶上限値TR´0 と下限値TR0 の一定の幅を有し、例えば950~1020℃位である(図1の▲1▼)。再結晶を起こす温度は加工度が大きいほど低くなる。
【0024】
第1段の窒化処理は、超微細TiNの析出を目的とする優先窒化処理である。1000℃、1atmN2 雰囲気で窒化した場合、超微細TiNのサイズは幅約1.5nm、厚さ約0.5nmの平板状である。この出発材料のMo-Ti合金の優先窒化が顕著に起こる温度は、再結晶下限温度TR0 より約200℃低い温度、すなわちTR0 -200℃(例えば800℃)以上で、再結晶上限温度TR´0(例えば1020℃)よりわずかに低い温度である。よって、第1段窒化処理の加熱温度は例えば900℃とする(図1の(2))。
【0025】
第1段窒化処理をすると、Mo-Ti合金の再結晶下限温度をTR1 (例えば1000℃)に高めることができる。第1段窒化処理したMo-Ti合金は、TiN析出粒子の量と大きさが材料の表面からの深さにより変化しているため、再結晶温度の下限値TR1 と上限値TR´1 (例えば1400℃)の幅は広がる(図1の▲3▼)。
【0026】
第2段窒化処理は、TiN粒子の成長安定化を目的とするものである。第2段窒化処理の加熱温度は、第1段窒化処理材の再結晶下限温度TR1 以上で、第1段窒化処理材の再結晶上限温度TR´1 よりわずかに低い温度にすべきである。よって、第2段窒化処理の加熱温度は、例えば1300℃とする(図1の▲4▼)。
【0027】
第2段の窒化処理をすると、Mo-Ti合金の再結晶下限温度をTR2 (例えば1100℃)に高めることができる(図1の▲5▼)。さらに、粒子の大きさは、第2段窒化処理温度が1400℃、1500℃、1600℃と高くなるに従い増加し、析出粒子が成長することが分かる。
【0028】
第3段の窒化処理は、TiN粒子の更なる成長・安定化を目的とするものである。第3段の窒化処理の加熱温度は、第2段窒化処理材の再結晶下限温度TR2以上で、第2段窒化処理材の再結晶上限温度TR´2 (例えば1600℃)よりわずかに低い温度にすべきである。よって、第3段窒化処理の加熱温度は、例えば1500℃とする(図1の▲6▼)。第3段の窒化処理をすると、Mo-Ti合金の再結晶下限温度をTR3 (例えば1550℃)に、再結晶上限温度をTR´3(例えば1800℃)にさらに高めることができる。
【0029】
上記のように、純Moの再結晶温度は約900℃であり、Mo-0.5wt%Ti合金の再結晶温度は1000℃前後であるが、本発明のMo合金では、多段窒化処理により再結晶温度を約1800℃まで上昇させることができる。すなわち、高温使用可能温度を従来の約900℃から約1600℃まで高めることが可能となった。
【0030】
上記のように、本発明の多段階窒化処理により、TiN粒子を成長させると、第1段窒化処理でTiNが分散した領域では、加工組織を残したまま再結晶を抑制できることが分かった。このように、Mo母相中に大きさと形態を制御した微細TiN粒子を分散析出することにより高強度が得られる。また、成長、安定化した微細TiN粒子がMoの結晶粒界移動のピン止め点として作用し、加工材の表面部は再結晶が抑止され、加工組織を保持するので高靭性が得られる。
【0031】
図2は、本発明の高融点金属系合金材料の表面側から内部側への組織の変化と硬さ分布を示す模式図である。加工材の表面側が加工組織を維持したまま窒化物析出粒子が粒成長した組織であり、内部側が再結晶組織である二層構造となっている。また、加工材の表面より約100μmの深さまで微細なTi窒化物粒子が分散し、そのため表面側は内部側より硬さが大きく、Mo-0.5wt%Ti合金では、Hv300~500の値となる。
【0032】
また、図3は、(a)Mo-0.5wt%Ti合金を高温加熱した再結晶材料、(b)Mo-0.5wt%Ti合金に第1段窒化処理および第2段窒化処理した本発明の材料、(c)Mo-0.5wt%Ti合金を予め真空中1500℃で加熱・再結晶化処理して粗大結晶粒とし、N2 雰囲気中で1500℃で25時間窒化処理した材料、それぞれの30℃における変位-応力測定におけるクロスヘッドの変位(mm)と応力(MPa)との関係を示す。
【0033】
このように、第1段窒化処理により表面領域のみにナノサイズのTiN粒子を析出分散させたMo複合材料について、さらに少なくとも第2段窒化処理を行うことにより再結晶温度を更に高め、高靭性・高強度とすることができる。また、本発明の製造方法は、単純な窒化熱処理を採用するだけであり、特別な設備が不要で、安全なN2 ガスなどを使用することができ、製品成形後の処理であるから、寸法精度の高い多様な製品形状に適用可能である。
【0034】
【実施例】
実施例1
高純度のMo粉末及びTiC粉末を原材料として圧粉体を作製し、これを1800℃の水素雰囲気中で焼結を行って、Mo-0.5wt%Ti合金焼結体とした。次に熱間・温間圧延、さらに冷間圧延を経て厚さ1mmの板材とし、この板材から角棒状加工材を切り出した。加工材の表面をエメリー紙により研磨後、電解研磨を行った。第1段窒化処理として、1atmのN2 ガス気流中で、Mo-0.5wt%Ti合金が再結晶する上限温度よりわずかに低い1000℃で、16時間、優先窒化を行い、加工材の表面部に超微細TiN粒子が分散した領域を有する加工材を作製した。
【0035】
これに第2段窒化処理として、N2 ガス気流中で1500℃、24時間、加熱処理した。得られた加工材について組織観察(TEM、光学顕微鏡など)、硬さ試験などによりキャラクタリゼーションを行った。
【0036】
図4は、第1段窒化処理により超微細TiN粒子を分散した加工材の透過電子顕微鏡組織写真を示す。TiN粒子の大きさは約1.5nmである。第1段窒化処理により超微細TiN粒子をMo母相中に分散析出させ、第2段窒化処理で超微細TiN粒子の粒成長(形態と粒子サイズの制御)、微細TiNの存在部位の拡大などが起こる。
【0037】
図5は、第2段窒化処理した加工材の透過電子顕微鏡組織写真を示す。第1段窒化処理により超微細TiN粒子(大きさは約1.5nm)を分散させた領域(表面から約120μm)では、母相の加工組織を保ったまま、TiN粒子を大きな(直径約10~20nm,長さ約40~150nm)棒状TiN粒子として成長、安定化している。
【0038】
図6は、第2段窒化処理した加工材を真空中、1500℃で1時間ポストアニールした場合の表面側(左側)から内部側(右側)へかけての組織の変化を示す光学顕微鏡組織写真である。加工材の表面付近の領域(表面から深さ約100μmの範囲)では、粒径の小さい結晶粒の組織が観察された。再結晶していないので、微細な結晶粒の加工組織が保存されている。これは微細なTiN粒子の分散により結晶粒の成長が抑制された結果と考えられる。
【0039】
図7は、得られた加工材の曲げ試験による温度と応力の関係を示す。延性-脆性遷移温度は-120℃であり、臨界強度(応力)は2400MPaに達する。
【0040】
実施例2
TZM合金加工材(市販品:Plansee社製、組成Mo-0.5Ti-0.08Zr-0.03C)を1200℃で24時間の第1段窒化処理を行い、1600℃で24時間の第2段窒化処理を行った。図8は、その加工材の断面の光学顕微鏡写真である。TZM合金の再結晶温度は高いので第1段窒化処理の温度を高くすることができる。表面から約300μmの深さまで加工組織が保持されているのが分かる。
【0041】
比較例1
Mo-0.5wt%Ti合金加工材について、第2段窒化処理を行わなかった以外は実施例1と同じ処理を行った。図9は、この加工材を真空中、1200℃で1時間ポストアニールした場合の表面側から内部側へかけての組織の変化を示す光学顕微鏡組織写真であり、再結晶を起し、結晶粒の粗大化が生じているのが分かる。
【0042】
【発明の効果】
本発明は、超微細粒子の分散析出を利用して表面側を加工組織、内部側を再結晶組織に高度構造制御することによって、クラック伝播を阻止して高温における靭性、強度を従来材よりも飛躍的に高めた材料である。この新規材料は、簡易な優先窒化処理により作製できる上に、窒化前に製品加工できるために加工処理が容易でかつ省エネルギー的であって、実用化容易な利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の窒化処理段階と再結晶温度の関係を示す模式図である。
【図2】本発明の高融点金属系合金材料の表面側から内部側への組織の変化と硬さ分布を示す模式図である。
【図3】本発明のMo-0.5wt%Ti合金加工材と比較例の加工材の変位-応力測定におけるクロスヘッド変位(mm)と応力(MPa)との関係を示すグラフである。
【図4】第1段窒化処理した加工材の図面代用透過電子顕微鏡組織写真である。
【図5】第2段窒化処理した加工材の図面代用透過電子顕微鏡組織写真を示す。
【図6】第2段窒化処理した加工材をポストアニールした場合の組織の変化を示す図面代用光学顕微鏡組織写真である。
【図7】Mo-0.5wt%Ti合金を第1段窒化処理し、第2段窒化処理を行った加工材の曲げ試験による温度と応力の関係を示すグラフである。
【図8】実施例2のTZM合金加工材の加工組織を示す図面代用光学顕微鏡組織写真である。
【図9】Mo-0.5wt%Ti合金加工材をポストアニールした場合の組織の変化を示す図面代用光学顕微鏡組織写真である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8