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明細書 :微生物燃料電池

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5622237号 (P5622237)
登録日 平成26年10月3日(2014.10.3)
発行日 平成26年11月12日(2014.11.12)
発明の名称または考案の名称 微生物燃料電池
国際特許分類 H01M   8/16        (2006.01)
H01M   4/86        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
FI H01M 8/16
H01M 4/86 B
H01M 4/86 M
C12N 1/20 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 18
出願番号 特願2010-505869 (P2010-505869)
出願日 平成21年3月27日(2009.3.27)
国際出願番号 PCT/JP2009/056385
国際公開番号 WO2009/119846
国際公開日 平成21年10月1日(2009.10.1)
優先権出願番号 2008086195
2008249178
優先日 平成20年3月28日(2008.3.28)
平成20年9月26日(2008.9.26)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
審査請求日 平成24年3月7日(2012.3.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
発明者または考案者 【氏名】橋本 和仁
【氏名】中村 龍平
【氏名】甲斐 文祥
【氏名】渡邉 一哉
【氏名】加藤 創一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
審査官 【審査官】山内 達人
参考文献・文献 国際公開第2007/037228(WO,A1)
特開2007-257965(JP,A)
D. Sell et al.,Use of an oxygen gas diffusion cathode and a three-dimensional packed bed anode in a bioelectrochemical fuel cell,Appl Microbiol Biotechnol,1989年,31,p.211-213
Orianna Bretschger et al.,Current Production and Metal Oxide Reduction by Shewanella oneidensis MR-1 Wild Type and Mutants,Applied and Environmental Microbiology,2007年11月,Vol. 73, No. 21,p.7003-7012
Aswin K. Manohar et al.,The polarization behavior of the anode in a microbial fuel cell,Electrochimica Acta,2008年 1月24日,Vol.53,p.3508-3513
Bruce E. Logan and John M. Regan,Electricity-producing bacterial communities in microbial fuel cells,TRENDS in Microbiology,2006年10月16日,Vol.14 No.12,p.512-518
調査した分野 H01M 8/00-8/24
H01M 4/86-4/96
特許請求の範囲 【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極を電気的に接続する外部回路とを備えた微生物燃料電池において、前記電極の一方である負極上に、導電性微粒子と細胞外電子伝達能を有する微生物とを含む溶液中で
前記微生物と前記導電性微粒子とで形成される3次元構造からなる凝集体が形成され、
前記導電性微粒子が前記微生物同士の間に分散すると共に、
前記負極の表面から垂直方向に離れる方向に前記導電性微粒子によって前記微生物を保持し、
前記導電性微粒子は、酸化鉄、硫化鉄及び酸化マンガンから選ばれる1種又は2種以上の導電性微粒子であって、
前記導電性微粒子は前記微生物から前記負極へ電子を伝達することを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項2】
前記導電性微粒子は、α-Fe,α-FeOOH,γ-Fe,ε-Fe,またはFeを含むことを特徴とする請求項1記載の微生物燃料電池。
【請求項3】
前記導電性微粒子は、鉄イオンと硫化物イオンとが存在する環境下で微生物の生合成によって得られることを特徴とする請求項1又は2に記載の微生物燃料電池。
【請求項4】
前記微生物は、金属還元菌であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の微生物燃料電池。
【請求項5】
前記金属還元菌は、Shewanella属、Geobacter属、Rhodoferax属、またはPseudomonas属の細菌を含むことを特徴とする請求項4記載の微生物燃料電池。
【請求項6】
前記金属還元菌は、Shewanella loihica、または、Shewanella oneidensisを含むことを特徴とする請求項4記載の微生物燃料電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物燃料電池は、一対の電極と、前記電極を電気的に接続する外部回路と、前記一対の電極を分離する隔膜とを備え、一方の電極側にはShewanellaなどの細胞外電子伝達能を有する微生物が保持されている。ここで、細胞外電子伝達能とは、金属イオンやその酸化物を電子受容体として利用し、これらを還元することで生命活動に必要な電気エネルギーを獲得する一方で、上記電子受容体に対し電子を伝達する能力をいう(非特許文献1)。このような細胞外電子伝達能は、微生物としての一部の細菌に認められる。すなわち、細胞膜に局在化したシトクロムを介して体外に電子を放出するという特有の電子伝達機構が、Shewanella loihica、及び、Shewanella oneidensis のようなShewanella属(以下、単に「Shewanella」という)、Geobacter属、Rhodoferax属、Pseudomonas属等、一部の細菌に認められる(非特許文献2,3,4)。
【0003】
上記のように構成された微生物燃料電池は、微生物が前記一方の電極に電子を伝達することで電気エネルギーを生産するデバイスである。電気エネルギーを生産するための燃料には再生可能なバイオマスや生活排水等に含まれる有機汚染物質を用いることができることから、持続可能なエネルギー源として近年注目されている。また、金属元素を還元、固定する能力を持つ微生物もあり、排水の処理や環境浄化の手段としても注目されている。微生物燃料電池には単一の微生物を用いる系と、排水などに生息する微生物群をそのまま使う混合培養系(例えば、特許文献1)の2つに大別されるが、Shewanellaは前者の系ではもっとも広く用いられている微生物である。

【特許文献1】特開2006-81963号公報
【非特許文献1】Lovley D.R. ; Nat.Rev.Microbiol., 2006, 4, 497-508
【非特許文献2】Gralnick,J.A. ; Newman,D.K. ; Molecul.Microbiol. 2007, 65, 1-11
【非特許文献3】Hernandez,M.E. ; Newman,D.K. ; Cell.Mol.Life Sci. 2001, 58, 1562-1571
【非特許文献4】日本微生物生態学会誌(2008) 23巻2号P58
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1などの従来の微生物燃料電池では、既存の白金を触媒に用いた化学燃料電池と比較して電流密度が極めて低いことが問題となり実用の段階からは遠い、というのが現状である。ここ数年電流密度は向上を続けているが、水素燃料電池などの化学燃料電池と比較すると、少なくともさらに数桁程度、電流密度を向上させなければ実用の段階まで進むことはできない。電流密度を増大させるため、電子を伝達するメディエータの添加も検討されており、添加されるメディエータはanthraquinore-2,6-disulphonate(AQDS)などのキノン誘導体などが知られているが、メディエータ自体が高価であり、有害のものも多く、かつ微生物燃料電池全体の大型化を招くという問題がある。
【0005】
そこで本発明は上記した問題点に鑑み、メディエータを使用せずに電流密度を増加させることができる微生物燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、一対の電極と、前記一対の電極を
電気的に接続する外部回路とを備えた微生物燃料電池において、前記電極の一方である負
極上に、導電性微粒子と細胞外電子伝達能を有する微生物とを含む溶液中で前記微生物と前記導電性微粒子とで形成される3次元構造からなる凝集体が形成され、前記導電性微粒子が前記微生物同士の間に分散すると共に、前記負極の表面から垂直方向に離れる方向に前記導電性微粒子によって前記微生物を保持し、前記導電性微粒子は、酸化鉄、硫化鉄及び酸化マンガンから選ばれる1種又は2種以上の導電性微粒子であって、前記導電性微粒子は前記微生物から前記負極へ電子を伝達することを特徴とする。
【0009】
また、請求項に係る発明は、前記導電性微粒子が、α-Fe23、α-FeOOH,γ-Fe23,ε-Fe23,またはFe34を含むことを特徴とする。

【0011】
また、請求項に係る発明は、前記導電性微粒子が、鉄イオンと硫化物イオンとが存在する環境下で微生物の生合成によって得られることを特徴とする。

【0013】
また、請求項に係る発明は、前記微生物が、金属還元菌であることを特徴とする。

【0014】
また、請求項に係る発明は、金属還元菌が、Shewanella属、Geobacter属、Rhodoferax属、またはPseudomonas属の細菌を含むことを特徴とする。

【0015】
また、請求項に係る発明は、金属還元菌が、Shewanella loihica、または、Shewanella oneidensisを含むことを特徴とする。

【発明の効果】
【0016】
本発明の微生物燃料電池によれば、導電性微粒子によるネットワークが微生物から電極へ電子を伝達させることにより、電極から遠く離れて浮遊した微生物からも電子を電極へ伝達させることができるので、電流密度を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電気化学セル中の初期微生物濃度(OD600)と定常電流値の関係を示すグラフである。
【図2】電極上の微生物の位置関係を示す概念図であり、(a)従来の電極上での微生物、(b)微生物と導電性微粒子とで形成される3次元構造からなる凝集体の模式図である。
【図3】実施例に係る電気化学セルの構成を示す図であり、(a)斜視図、(B)断面図である。
【図4】実施例1において電気化学セルを用いて測定した電流生成値を示すグラフである。
【図5】α-Fe微粒子水溶液添加後28時間のSEM像であり、(a)電極近傍の様子を示す図、(b)凝集体の拡大図である。
【図6】電気化学セルを用いて測定したCV曲線である。
【図7】実施例1における白色光照射効果を示す図であり、(a)光照射時の電流変化、(b)光電流の大きさである。
【図8】実施例2において電気化学セルを用いて測定した電流生成値を示すグラフである。
【図9】実施例3において電気化学セルを用いて測定した電流生成値を示すグラフである。
【図10】実施例4において沈殿物の写真と吸収スペクトルを示す図である。
【図11】実施例4において電気化学セルを用いて測定した電流生成値を示すグラフである。
【図12】実施例5において電気化学セルを用いて測定した電流密度を示すグラフである。
【図13】実施例6において電気化学セルを用いて測定した電流密度を示すグラフである。
【図14】実施例7において電気化学セルを用いて測定した電流密度を示すグラフである。
【図15】実施例8において電気化学セルを用いて測定した電流密度を示すグラフである。
【図16】実施例9において電気化学セルを用いて測定した電流密度を示すグラフである。
【図17】実施例10において電気化学セルを用いて測定した電流密度を示すグラフである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の微生物は細胞膜に局在化したシトクロムを介して体外に電子を放出する細胞外電子伝達能を有する。電子が外部電極に移動することにより電流を生成する。本発明はこの微生物が持つ性質を利用した微生物燃料電池を提供するものである。
【0019】
微生物燃料電池で電流生成を決定する因子は多様であるが、電極の比表面積や装置スケール、電極材料の選択は化学電池でも共通の因子であるのに対し、微生物から電極への電子移動は微生物燃料電池に特有であることから中でも最も重要である。にもかかわらず、微生物から電極への電子移動反応機構について研究し、それを電流密度の増大につなげた研究報告の例はほぼ皆無である。その理由として、電流生成を行う生きた微生物の電極反応を電気化学的に研究するのに適した系が知られていなかったことがあげられる。本発明者はその点に注目して電気化学的研究を行うことによって本発明を行った。
【0020】
尚、以下の説明では、微生物の一種であるShewanellaを例にとって示す。Shewanellaは細胞膜に局在化したシトクロムを介して電極に直接電子を伝達する細胞外電子伝達能を有する。さらにShewanellaは金属イオンと不溶性金属酸化物を還元する能力を有する(金属還元菌)。
【0021】
図1にShewanellaの濃度と定常電流値の関係を示す。Shewanellaの濃度はOD法と呼ばれる光の透過量で測定した。尚、OD(600nm)は、微生物の懸濁液を光路長1cmのセルにいれ、そのときの600nmの光の強度をいう。ここで、OD=1.0のとき、微生物の個数は10の8乗個/mlが目安となる。この図1から明らかなように、定常電流値はShewanellaの濃度と無関係であることが分かった。発生する電流は微生物の量でなく、電極近傍にある微生物の量に関係することが分った。
【0022】
このShewanellaを用いた微生物燃料電池について検討を行った結果、電極の表面近傍のShewanellaのみにおいて電子伝達が行われ、電極から遠く離れて浮遊しているShewanellaでは電子伝達がほとんど行われず電流生成に寄与していないことが、電流密度を大きくとることができない原因であることを見出した。
【0023】
すなわち、図2(a)に示すように、従来の微生物燃料電池100の電極103で、電子伝達を行っているのは、電極103の近傍のShewanella302のみで、電極103から遠く離れて浮遊したShewanella301は電子伝達をほとんど行っていない。従って、電極103から遠く離れて浮遊したShewanella301に電子伝達を確実に行わせることができれば、微生物燃料電池100の電流密度を従来に比べ格段と増加させることができると考えられる。
【0024】
そこで、本発明者は、Shewanellaが導電性微粒子と溶液中で特異的に吸着、凝集し3次元構造の凝集体を形成すること、そして凝集体中の導電性微粒子によるネットワークがShewanellaから電極へ電子を伝達させることにより、電極から遠く離れて浮遊したShewanellaからも電子を電極へ伝達し得る機能を有することを見出した。ここで凝集体は、微生物としてのShewanellaと導電性微粒子とを備え、Shewanellaが導電性微粒子と特異的に吸着した3次元構造の状態をいう。また、導電性微粒子は、種々のものが考えられるが、例えば酸化鉄、酸化マンガン、及び硫化鉄の微粒子があげられる。
【0025】
本実施形態に係る微生物燃料電池1では、図2(b)に示すように、電極103の表面
上において、導電性微粒子2とShewanella3とにより3次元構造の凝集体4が形成される
。この凝集体4は、導電性微粒子2がShewanella3同士の間に分散すると共に、導電性微
粒子2同士も互いに連結してShewanella3を保持し、全体として3次元構造を形成してい
る。これによりShewanella3は、電極103の表面上のShewanella3aと、電極103の
表面から垂直方向に離れた位置にあるShewanella3bまでをも導電性微粒子2で保持し得
る。このように本発明に係る微生物燃料電池1では、広範囲、特に電極103の表面から
垂直方向に離れる方向に導電性微粒子2によってShewanella3を保持することを可能としたことから、より多くのShewanella3に電子伝達させることができる。また、導電性微粒子2によってShewanella3を保持することとしたから、電極103から離れた位置からも確実に電子eを電極103に伝達させることができる。従って、本実施形態に係る微生物燃料電池1では、電流密度を飛躍的に増加させることができる。
【0026】
このように、酸化鉄に代表される導電性微粒子とShewanellaとが3次元構造の凝集体を形成する微生物燃料電池では、導電性微粒子が存在しない従来の微生物燃料電池と比較してShewanellaによる電流密度を飛躍的に増加させることができる。ここで、導電性微粒子とは、例えば、金属酸化物をあげることができる。金属酸化物としては、例えば、酸化鉄、及び酸化マンガンを用いることができる。この場合、酸化鉄は、α-Fe、α-FeOOH,γ-Fe,ε-Fe,またはFeを適用することができる。
【0027】
さらに、導電性微粒子として、硫化鉄を用いることができる。この場合、硫化鉄は、鉄イオンと硫化物イオンとが存在する環境下で微生物の鉄イオンと硫化物イオンの還元作用による生合成によって得られる。
【0028】
また、導電性微粒子は、電気的特性の観点では、半導体及び金属があげられる。尚、上記したα-Fe23、α-FeOOH,γ-Fe23及びε-Fe23は、半導体である。また、Fe34及び酸化マンガンは、金属酸化物である。
【0029】
本発明で用いられる微生物燃料電池は、Shewanella間、またはShewanella表面に導電性微粒子としての金属酸化物、例えば、ナノサイズの酸化鉄微粒子が存在し、全体として3次元構造からなる凝集体を形成することを特徴とする。Shewanella間、またはShewanella表面に金属酸化物があり3次元構造からなる凝集体を形成する微生物燃料電池は、Shewanella間、またはShewanella表面に金属酸化物がなく3次元構造からなる凝集体がない従来の微生物燃料電池に比べ、電流生成値が50倍以上となり、効率が飛躍的に向上する。さらに、本発明の微生物燃料電池では、従来用いられていた例えばキノン誘導体からなるメディエータなどが不要になるので、安価で安全性の高い燃料電地を得ることができる。
【0030】
電流密度が増大するメカニズムとしては、α-Fe微粒子の添加により
(i) 個々のShewanellaからの電流生成が増大した、
(ii) 電極へのShewanellaの移動、拡散が促進された、
(iii) 自発的に凝集したα-Fe微粒子が長距離電子伝達材料として機能する、
という3つの可能性が考えられる。(i)に関しては、同じα-Fe微粒子が存在する場合でもα-Fe/Shewanellaの3次元凝集構造が形成されないα-Fe薄膜電極上での電流生成値は、α-Fe微粒子を溶液中の微生物及び微粒子を懸濁させるセルに添加した時と比較してずっと小さかった。このことは観測された飛躍的な電流密度の増大はShewanellaからの電流生成が増大したというだけでは説明できないことを示している。
【0031】
また、(ii)に関しては、負極としてのITO電極へのShewanellaの移動や拡散がα-Fe微粒子の添加により促進された可能性については、電流測定後のITO(Indium Tin Oxide;酸化インジウムスズ)電極の様子からα-Fe微粒子存在下の方がShewanellaはITO電極上に強固で分厚いバイオフィルムを形成することが観察されている。このことから、ITO電極へのShewanellaの移動がα-Fe微粒子存在下では促進されるという可能性はほとんどないと言える。尚、負極は、Shewanellaの代謝を触媒過程として利用し、燃料を消費し、Shewanellaの代謝廃棄物として出される電子e-を伝達することで電気エネルギーを取り出し得るように構成されている。また、ITO電極は、一般に、可視光の透過率が高く導電性を持つため、透明電極として使われる。
【0032】
以上をふまえると、本研究で見出された電流生成値の飛躍的な増大は、(iii)外部の力を借りずに自発的に凝集したα-Fe微粒子が長距離電子伝達材料として機能することにより電流生成に寄与するShewanella数が増加したためであると言える。
【0033】
α-Feについてのべたがα-FeOOH,γ-Fe,ε-Fe,及びFeなどの酸化鉄でも同じ長距離電子伝達材料としての効果が得られる。
【0034】
硫化鉄の場合は酸化鉄と同じ長距離電子伝達材料の効果が得られる。鉄イオンと硫化物イオンとが存在する環境下においてはイオン状態である時にメディエータとして働き、硫化鉄になると酸化鉄と同じ長距離電子伝達材料の働きをする。自然界には鉄イオンと硫化物イオンとが広く存在するが、鉄イオンと硫化物イオンだけでは硫化鉄を生じない。金属還元能を有する微生物である細菌(金属還元菌)は容易に鉄イオンと硫化物イオンから硫化鉄を生成することができる。生成した硫化鉄は酸化鉄と同様に長距離電子伝達材料として機能する。また、硫化鉄を合成するのは容易でなく、硫化鉄を微生物に添加するより、鉄イオンと硫化物イオンを添加して、微生物が硫化鉄を合成する方が工業的には容易である。
【0035】
酸化マンガンの場合は先に述べた長距離電子伝達材料の効果に加え、一部溶け出したMn2+イオンがメディエータの働きをし、電流生成機能を向上させる。
【0036】
本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば上記した実施形態では微生物である細菌の例として、Shewanellaを用いた場合について説明したが、本発明はこれに限らず、別の微生物、例えば、Shewanella と同じ金属還元能を有する細菌(金属還元菌)であるGeobacterなど、またはミックスカルチャーと呼ばれる種類を特定できない混合バイオ系や、水田土壌中に生息するものでもかまわない。特に細胞外電子機能を有するGeobacter(文献:Moleculer Microbiology(2007)65(1),12-20)またはRhodoferax属またはPseudomonas属(文献:日本微生物生態学会誌(2008) 23巻2号P58)などの微生物に効果がある。
【実施例】
【0037】
次に本発明の実施例について説明する。尚、本発明がこれらの実施例に限定されるものではないことは、いうまでもない。尚、以下に説明する実施例において使用したShewanella loihica PV-4、及びShewanella oneidensis MR-1はATCC(American Type Culture Collection)から購入した。このうち、Shewanella loihica PV-4のカタログ番号(2008年度版)はBAA-1088、Shewanella oneidensis MR-1のカタログ番号(2008年度版)はBAA-1096である。
【0038】
(実施例1)
金属酸化物としてα-Fe微粒子を用いた。α-Fe微粒子水溶液はFeCl溶液を沸騰した純水に滴下し、作成した。微生物としてShewanella loihica PV-4を用いた。
【0039】
電気化学測定には、図3に示す電気化学セル9を用いた。電気化学セル9は、負極しての作用極10と、正極としての対極11と、参照極12と、反応槽13とを備え、作用極10と対極11及び参照極12とは外部回路としてのポテンショスタット16に電気的に接続されている。また、この電気化学セル9は、シリコンゴム製のシート17を介して、ガラス板14に保持されている。
【0040】
Shewanella loihica PV-4は以下の手順で培養した。寒天培地(Marine Broth 20 g L-1, Agar(寒天)15 g L-1)上で保存されているコロニーを単離して50ml遠沈管の10mlのMB培地(Marine Broth 20 g L-1)に懸濁し、1晩から2晩嫌気条件下で培養した。Shewanella loihica PV-4の懸濁液10mlを3500rpmで10分遠心分離してShewanella loihica PV-4を沈殿させたのち、上澄みをすべて捨て、溶液としての電解質10mlに置換した。電解質はDM-L(10mM)を用いた。さらに、1晩以上振とう培養したのち電気化学測定に使用した。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。
【0041】
尚、DMとは、Difined Mediaの略で、その組成(各 gL-1)は、NaHCO3 2.5,、CaCl2・2H2O 0.08、 NH4Cl 1.0、 MgCl2・6H2O 0.2、 NaCl 10、2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic acid (HEPES、緩衝用液) 7.2である。Shewanella loihica PV-4への電子供与体としてはSodium Lactate(10mM)、またShewanella loihica PV-4に必要な微量なエネルギーを生成させるための燃料を供給するためyeast extractを0.5gL-1を加えた。以下ラクテートの入ったDM培地を DM-L(10mM)などと記し、括弧内はラクテート濃度とする。また、DM-Lは10分以上N2バブリングして嫌気条件下にしたものを用いた。
【0042】
電気化学測定用に培養したShewanella loihica PV-4の懸濁液5mlを3500rpm、10分間遠心分離してShewanella loihica PV-4を沈殿させたのち上澄みをすべて捨て、0.2mlのDM-L(10mM)で再懸濁させ、シリンジに採取したものを電気化学セル9のシリコンゴム栓15を貫き注入した。次いで、α-Fe微粒子水溶液を注入した。尚、電気化学セル9内には、予め溶液としての電解質が4.0ml注入されている。電解質は上記DM-L(10mM)を用いた。
【0043】
本実施例の場合、電気化学セル9は、作用極10にはITO電極(電極面積2.0 cm2)、対極11には白金線、参照極12にはAg|AgCl|KClsat.電極を用いた。Ag|AgCl|KClsat.電極は、銀の表面に塩化銀の層をつけ塩化カリウム水溶液中に挿入した電極である。
【0044】
電気測定はポテンショスタットHSV-100(Hokuto Denko)を用いた。作用極10の電位は参照極12に対して+0.2Vに固定した。温度は室温で行い、電気化学セル9には光が当たらないように遮光した。α-Fe微粒子水溶液をセル内濃度が7.5mMとなるように注入したものを、実施例1とした。α-Feの粒子径は、一次粒子径が20nm程度、凝集すると数百nmとなる。この場合、DM-L(10mM)に対するShewanella loihica PV-4の濃度はOD(600nm)で2.0、α-Fe微粒子水溶液のセル内濃度は、上記したように7.5mMである。すなわち、4mlの溶液に約5mgのα-Feを入れたこととなる。尚、OD(600nm)は、微生物の懸濁液を光路長1cmのセルにいれ、そのときの600nmの光の強度をいう。
【0045】
また、実施例1に対し、α-Fe微粒子水溶液を注入するかわりに、クエン酸鉄(III)を添加し、比較例1とした。その他は実施例1と同様である。
【0046】
さらに、実施例1に対し、α-Fe微粒子水溶液を注入するかわりに、何も加えないものを比較例2とした。他は実施例1と同様にした。
【0047】
その結果を図4に示す。図4中、(a)は実施例1、(b)は比較例1、(c)は比較例2の結果である。実施例1で得られた電流生成値は、α-Fe微粒子を添加しなかったときに対して50倍以上飛躍的に向上することが確認できた。
【0048】
一方、Fe3+イオンをDM-L(10mM)に加えた比較例1、及び何も加えなかった比較例2では、α-Fe微粒子を添加したときのような電流生成値の増大は観測されなかった。
【0049】
また図5にα-Fe微粒子を添加して28時間経過した後のSEM像を示す。導電性微粒子2としてのα-Fe微粒子と微生物3としてのShewanella loihica PV-4の凝集体4とが、3次元構造を形成しているのがわかる。α-Fe微粒子はShewanella loihica PV-4が存在しない場所には観測されず、またα-Fe微粒子を添加しなかったときはこのようなShewanella loihica PV-4を含む凝集体4は観測されなかった。
【0050】
これらの結果は、α-Fe微粒子とShewanella loihica PV-4が強く結合し、3次元構造の凝集体4が形成されたことを示している。さらに、以上の結果は、実際にα-Fe微粒子がShewanella loihica PV-4と自発的に凝集体4を形成し、長距離電子伝達材料として機能していることを示している。
【0051】
本発明で見出された電流密度の飛躍的な増加は、自発的に凝集したα-Fe微粒子が長距離電子伝達材料として機能することにより電流生成に寄与するShewanella loihica PV-4が増加したためである。このことは、電流測定後に行った酸化還元電位測定(CV測定)の結果からわかる(図6)。図6における(1)は比較例1、(2)は実施例1の結果である。この結果から、α-Fe微粒子を添加(実施例1)することにより、比較例1に比べ、大きいピーク電流値が得られることが確認できた。なお周辺温度は30℃であった。Shewanella loihica PV-4の表面に存在するチトクロームCに由来する酸化還元電位の増大は、電流生成に関与するShewanella loihica PV-4の数が増大したことを示している。このように、メディエータの添加や電極表面積の増加を伴わずに電流生成に関与する微生物数を増加させ、電流生成値を増大させる手法は、これまでにない新規な発明である。
【0052】
さらに、長距離電子伝達材料としての機能、すなわち、α-Fe微粒子が互いに連結してn型半導体特性に由来する電子を長距離移動させる場合の経路(以下、移動経路)として機能することを確かめるために、光照射に対する電流生成値への影響を調べた。すなわち、光照射を止めたときの電流生成値が光を照射したときと同程度の大きさである場合、この場合の電流生成値はα-Fe微粒子の厚さに起因しているといえるので、この電流生成値を測定することにより、α-Fe微粒子が移動経路として機能することを確認した。
【0053】
光照射はα-Feを加えたときのShewanella loihica PV-4の電流生成値の白色光照射(430nm以下の波長をカット)による変化と、光照射したときに発生する電流(以下、「光電流」という)の値を示したものが図7である。光電流の値は光照射中の電流の最高値から光照射直前の電流値の差を取ったものとした。尚、光を当てたタイミングを図7(a)中の矢印で示した。また、光を当てた場合の測定したピーク電流をプロットした結果が図7(b)である。
【0054】
Shewanella loihica PV-4による電流生成が増大していく過程において、電流生成値に対応して光電流の値が大きくなっていき、電流生成値が極大となった後は増加が止まっていることがわかった。ここで、α-Feがn型半導体特性を有することから、光電流は、α-Feバンド間遷移によって価電子帯の電子が伝導帯に光励起され、その電子が電極へ移動することで生じる。そのため光電流は、光照射が一定ならばITO電極と導通した、光を吸収するα-Fe微粒子の層の厚さによって決まる。従って、この結果は、3次元構造体をつくることで電流生成に関与できるShewanella loihica PV-4の数を増大させるだけでなく、α-Fe微粒子が移動経路として機能することを示している。尚、光励起とは、あるエネルギー準位内の原子や原子系の数が材料に当る光の吸収によって変化する過程をいう。
【0055】
(実施例2)
上記実施例1に対し、電気化学セル9の作用極10をグラファイト電極とし、その他の構成及び条件は上記実施例1と同様とした(実施例2)。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。尚、グラファイト電極は、炭素を主成分とする粉末焼結体で構成されている。本実施例では、光照射を行わないため、ITO電極ではなく、グラファイト電極を用いた。
【0056】
また、実施例2に対し、α-Fe微粒子水溶液を注入するかわりに、何も加えないものを比較例3とした。他は実施例2と同様にした。
【0057】
その結果が図8である。図8中、(a)は実施例2、(b)は比較例3の結果である。図8から明らかなように、実施例1と同様に実施例2でも大幅な電流生成値の増大が見られた。何も加えなかった比較例3では、α-Fe微粒子を添加したときのような電流生成値の増大は観測されなかった。この結果から、本発明の微生物燃料電池1では、作用極10にグラファイト電極を用いても、ITO電極を用いた実施例1と同様の効果が得られることが分かった。
【0058】
(実施例3)
上記実施例1に対し、微生物としてShewanella oneidensis MR-1を用い、その他の構成及び条件は上記実施例1と同様とした(実施例3)。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。
【0059】
また、実施例3に対し、α-Fe微粒子水溶液を注入するかわりに、何も加えないものを比較例4とした。他は実施例3と同様にした。
【0060】
その結果が図9である。図9中、(a)は実施例3、(b)は比較例4の結果である。図9から明らかなように、実施例1と同様に実施例3でも大幅な電流生成値の増大が見られた。何も加えなかった比較例4では、α-Fe微粒子を添加したときのような電流生成値の増大は観測されなかった。この結果から、本発明の微生物燃料電池1では、微生物にShewanella oneidensis MR-1を用いても、Shewanella loihica PV-4を用いた実施例1と同様の効果が得られることが分かった。
【0061】
(実施例4)
導電性微粒子として硫化鉄微粒子を用いた場合の実施例(実施例4)について説明する。Fe3+とS2O32-イオンとが存在する環境下で実施例1と同様にShewanella loihica PV-4の培養をおこなった。Fe3+とS2O32-イオンを含んだ寒天培地(Marine Broth 20 g L-1, Agar(寒天)15 g L-1)上で保存されているコロニーを一晩嫌気条件下で培養した。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。その際、Fe3+はFe2+に還元され、S2O32-はS2-に還元され、FeSが生成する。硫化鉄微粒子の粒子径は、一次粒子径が20nm程度、凝集すると数百nmとなる。遠心分離を行い図3に示す電気化学測定用の電気化学セル9のシリコンゴム栓15を貫きShewanella loihica PV-4の懸濁液を注入した。この場合、DM-L(10mM)に対するShewanella loihica PV-4の濃度はOD(600nm)で2.0、硫化鉄微粒子水溶液の電気化学セル9内濃度は7.5mMである。
【0062】
その結果得られた沈殿物(培養後20日後)の写真と吸収スペクトルを図10に示す。図中(a)はShewanella loihica PV-4あり、(b)はShewanella loihica PV-4なしの結果である。Shewanella loihica PV-4が存在するときには、黒色の沈殿物の生成が確認された。その吸収スペクトルは近赤外領域にまで達することから硫化鉄であることを確認した。一方、Shewanella loihica PV-4が存在しないときに観測された600nmまでの吸収は水酸化鉄に由来する。
【0063】
その結果得られた硫化鉄微粒子とShewanella loihica PV-4の懸濁液を電気化学セル9内に注入したときの電流-時間曲線を図11に示す。図中(a)は硫化鉄微粒子あり(実施例4)、(b)は硫化鉄微粒子なし(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例5)の結果である。本実施例では、硫化鉄微粒子が存在しない(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例5)場合に比べて、電流生成値が30倍以上に飛躍的に向上した。この結果は、上記実施例1のα-Feと同様の効果が、硫化鉄微粒子においても現れることを示している。
【0064】
(実施例5)
上記実施例1に対し、導電性微粒子としてγ-Fe微粒子を用いた場合の実施例(実施例5)について説明する。γ-Fe微粒子を用いた以外は実施例1と同様の手法でShewanella loihica PV-4を嫌気条件下で培養した。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。γ-Fe微粒子の粒子径は、一次粒子径が20nm程度、凝集すると数百nmとなる。γ-Fe微粒子を純水に溶かして得たγ-Fe微粒子水溶液を電気化学セル9内にセル内濃度が7.5mMとなるように注入したときの電流密度-時間曲線を図12に示す。尚、この場合、DM-L(10mM)に対するShewanella loihica PV-4の濃度はOD(600nm)で2.0、γ-Fe微粒子水溶液のセル内濃度は上記したように7.5mMである。すなわち、4mlの溶液に約5mgのγ-Fe微粒子を入れたこととなる。図中(a)はγ-Fe微粒子あり(実施例5)、(b)はγ-Fe微粒子なし(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例6)の結果である。本実施例では、γ-Fe微粒子が存在しない(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例6)場合に比べて、電流密度が約2倍増加した。
【0065】
尚、γ-Fe微粒子は文献(Y.S.Kang, S.Risbud, J.F.Rabolt, P.Stroeve Chem.Mater., 1996, 8, 2209)に記載されている方法により作製した。まず、モル比が2:1になるようにFeCl3×6H2O (52mM)とFeCl2×4H2O (26mM)を窒素飽和した40mlの超純水に溶かしたのち、濃塩酸1.4 mlを溶液に加えた。これを1.5MのNaOH溶液415mlに激しく撹拌しながら滴下した。滴下により黒い沈殿が生成し、この上澄みを捨てて数回超純水で洗浄したのち、さらに濃塩酸を加えて溶液を中和し、Fe3O4の溶液を得た。上記で合成したFe3O4溶液からFe3O4を沈殿させ、乾燥し、粉末として回収した。この粉末を250°Cで3時間加熱してγ-Fe微粒子を得た。
【0066】
(実施例6)
上記実施例1に対し、導電性微粒子としてε-Fe微粒子を用いた場合の実施例(実施例6)について説明する。ε-Fe微粒子を用いた以外は実施例1と同様の手法でShewanella loihica PV-4を嫌気条件下で培養した。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。ε-Fe微粒子の粒子径は、一次粒子径が20nm程度、凝集すると数百nmとなる。ε-Fe微粒子を純水に溶かして得たε-Fe微粒子水溶液を電気化学セル9内にセル内濃度が7.5mMとなるように注入したときの電流密度-時間曲線を図13に示す。尚、この場合、DM-L(10mM)に対するShewanella loihica PV-4の濃度はOD(600nm)で2.0、ε-Fe微粒子水溶液の電気化学セル9内濃度は上記したように7.5mMである。すなわち、4mlの溶液に約5mgのε-Fe微粒子を入れたこととなる。図中(a)はε-Fe微粒子あり(実施例6)、(b)はε-Fe微粒子なし(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例7)の結果である。本実施例では、ε-Fe微粒子が存在しない(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例7)場合に比べて、電流密度が約2倍増加した。
【0067】
尚、ε-Fe微粒子は参考文献(Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 74, No. 7, July, 2005, pp. 1946-1949)によって作製した。具体的には、先ず始めにn-オクタンを油相とする溶液の水相に界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)を溶解することによりミセル溶液を作製する。このミセル溶液に、硝酸鉄(III)と硝酸インジウム(III)とを溶解すると共に、これに形状制御剤として硝酸バリウムを加え、原料溶液を作製する。また、原料溶液の作製とは別に、n-オクタンを油相とする溶液の水相に界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)を溶解したミセル溶液に、アンモニア水溶液等の中和剤を混合して中和剤溶液を作製する。
【0068】
次いで、逆ミセル法によって、原料溶液と中和剤溶液とを攪拌混合することにより混合溶液を作製する。この混合溶液に対して、シラン化合物としてテトラエチルオルトシランの溶液を適宜添加することで、ゾル-ゲル法により水酸化鉄系化合物粒子の表面にシリカによる被覆を施し、シリカ被覆水酸化鉄系化合物粒子と呼ぶ)を作製する。
【0069】
次いで、シリカ被覆水酸化鉄系化合物粒子を混合溶液から分離して、大気雰囲気下において所定の温度(700~1300℃の範囲内)で焼成処理する。この焼成処理により、シリカ被覆水酸化鉄系化合物粒子はシリカ殻内部での酸化反応により、微細なε-Fe微粒子が生成される。
【0070】
(実施例7)
上記実施例1に対し、導電性微粒子としてα-FeOOH微粒子を用いた場合の実施例(実施例7)について説明する。α-FeOOH微粒子を用いた以外は実施例1と同様の手法でShewanella loihica PV-4を嫌気条件下で培養した。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。α-FeOOH微粒子の粒子径は、一次粒子径が20nm程度、凝集すると数百nmとなる。α-FeOOH微粒子水溶液を電気化学セル9内にセル内濃度が7.5mMとなるように注入したときの電流密度-時間曲線を図14に示す。尚、この場合、DM-L(10mM)に対するShewanella loihica PV-4の濃度はOD(600nm)で2.0、α-FeOOH微粒子水溶液の電気化学セル9内濃度は上記したように7.5mMである。図中(a)はα-FeOOH微粒子あり(実施例7)、(b)はα-FeOOH微粒子なし(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例8)の結果である。本実施例では、α-FeOOH微粒子が存在しない(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例8)場合に比べて、電流密度が飛躍的(約50倍)に増加した。15時間以降に見られる電流密度の減少は、燃料であるlactateの消費に帰属される。
【0071】
尚、α-FeOOH微粒子水溶液は文献(Ref. R.J.Atkinson, A.M.Posner, and J.P.Quirk J.Phys.Chem., 1967, 71, 550)に記載された方法により作製した。まず、0.1MのFeCl3溶液160 mlに2.5MのNaOH溶液40mlを加え、60°Cで24時間加熱した。得られた溶液をセルロース製の透析膜(分子量6000~8000カット)で透析し、α-FeOOH微粒子水溶液を得た。
【0072】
(実施例8)
上記実施例1に対し、導電性微粒子としてFe微粒子を用いた場合の実施例(実施例8)について説明する。Fe微粒子を用いた以外は実施例1と同様の手法でShewanella loihica PV-4を嫌気条件下で培養した。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。Fe微粒子の粒子径は、一次粒子径が20nm程度、凝集すると数百nmとなる。Fe微粒子水溶液を電気化学セル9内にセル内濃度が7.5mMとなるように注入したときの電流密度-時間曲線を図15に示す。尚、この場合、DM-L(10mM)に対するShewanella loihica PV-4の濃度はOD(600nm)で2.0、Fe微粒子水溶液の電気化学セル9内濃度は上記したように7.5mMである。すなわち、4mlの溶液に約5mgのFe微粒子を入れたこととなる。図中(a)はFe微粒子あり(実施例8)、(b)はFe微粒子なし(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例9)の結果である。本実施例では、Fe微粒子が存在しない(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例9)場合に比べて、電流密度が約3倍に増加した。
【0073】
尚、Fe微粒子水溶液は文献(Ref. Y.S.Kang, S.Risbud, J.F.Rabolt, P.Stroeve Chem.Mater., 1996, 8, 2209)に記載された方法により作製した。まず、モル比が2:1になるようにFeCl3×6H2O (52mM)とFeCl2×4H2O (26mM)とを窒素飽和した40mlの超純水に溶かしたのち、濃塩酸1.4 mlを溶液に加えた。これを1.5MのNaOH溶液415mlに激しく撹拌しながら滴下した。滴下により黒い沈殿が生成し、この上澄みを捨てて数回超純水で洗浄したのち、さらに濃塩酸を加えて溶液を中和し、Fe微粒子水溶液を得た。
【0074】
(実施例9)
上記実施例1に対し、導電性微粒子として酸化マンガン(MnO)微粒子を用いた場合の実施例(実施例9)について説明する。酸化マンガン微粒子を用いた以外は実施例1と同様にShewanella loihica PV-4を嫌気条件下で培養した。振とうにはBR-40LF(TAITEC)を用い30°C、120rpmの条件で培養した。酸化マンガン微粒子の粒子径は、一次粒子径が20nm程度、凝集すると数百nmとなる。酸化マンガン微粒子を純水に溶かして得た酸化マンガン微粒子水溶液を電気化学セル9内にセル内濃度が7.5mMとなるように注入したときの電流密度-時間曲線を図16に示す。尚、この場合、DM-L(10mM)に対するShewanella loihica PV-4の濃度はOD(600nm)で2.0、酸化マンガン水溶液のセル内濃度は上記したように7.5mMである。図中(a)は酸化マンガン微粒子あり(実施例9)、(b)は酸化マンガン微粒子なし(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例10)の結果である。本実施例では、酸化マンガン微粒子が存在しない(Shewanella loihica PV-4のみ、比較例10)場合に比べて、電流密度が約8倍増加した。
【0075】
尚、酸化マンガン微粒子は文献(Ref. R.M.McKenzie Mineral.Mag., 1971, 38, 493)に記載された方法で作製した。まず、Mn(NO3)3溶液を加熱し水分をほとんど蒸発させたのち、180°Cで48時間加熱した。得られた固体を濃塩酸に溶かし、この溶液を濾過しながら超純水に滴下した。暗褐色の沈殿が生成し、これを洗浄、濾別することで酸化マンガン微粒子を得た。
【0076】
(実施例10)
微生物として水田土壌から採取したものを用いた場合の実施例(実施例10)について説明する。導電性微粒子としてα-Fe微粒子を用いた場合、Fe微粒子を用いた場合についてそれぞれ確認した。尚、α-Fe微粒子は実施例1と同様の手順で、Fe微粒子は、実施例8と同様の手順で作製した。
【0077】
水田土壌微生物は以下の手順で培養した。培養には12mLのPS培地を使用した。培養時には電子供与体としてSodium acetate(10mM)を添加した。微生物源として、20mg(湿重量)の水田土壌を添加した。温度は30℃で培養し、電流密度の低下時(酢酸欠乏時)に再度Sodium Acetate(10mM) 添加した。
【0078】
尚、PS培地は、NH4Cl 10mM, KH2PO4 1mM, MgCl2 0.5mM, CaCl2 0.5mM, NaHCO3 5mM, HEPES 10mM, Yeast extract 0.5 g/Lである。
【0079】
微生物への電子供与体としてはSodium Acetate(10mM)、また微生物に必要な微量な燃料を供給するためyeast extractを0.5gL-1を加えた。
【0080】
電気化学測定には、図3に示す電気化学セル9を用いた。作用極10にはITO電極(直径2.8cm、電極面積6.2 cm2)、対極11には白金線、参照極12にはAg|AgCl|KClsat.電極を用いた。この電気化学セル9は、ガラス板14に保持されている。尚、電気化学セル9内には、予め溶液としての電解質が4.0ml注入されている。電解質は上記DM-L(10mM)を用いた。
【0081】
電解質は10分以上N2バブリングして嫌気条件下にしたのちに測定に使用した。電気化学測定用に培養した微生物の懸濁液5mlを3500rpm、10分間遠心分離して微生物を沈殿させたのち、上澄みをすべて捨て、0.2mlのDM-L(10mM)で再懸濁させ、シリンジに採取したものを電気化学セル9のシリコンゴム栓15を貫き注入した。
【0082】
電気測定はHSV-100(Hokuto Denko)を用いた。作用極10の電位は参照極12に対して+0.2Vに固定した。温度は室温で行い、電気化学セル9には光が当たらないように遮光した。その中に先に述べたα-Fe微粒子水溶液を注入し微粒子の濃度を5mMにしたものを実施例10(1)、Fe微粒子水溶液を注入し微粒子の濃度を3.3mMにしたものを実施例10(2)とした。α-Feの粒子径は、一次粒子径が20nm程度、凝集すると数百nmとなる。この場合、DM-L(10mM)に対する水田土壌微生物の濃度はOD(600nm)で2.0、α-Fe微粒子、Fe微粒子はそれぞれFe原子換算で10mMになるように添加した。
【0083】
実施例10に対し、α-Fe微粒子水溶液、Fe微粒子水溶液を注入するかわりに、何も添加しないものを比較例11とした。他は実施例10と同様にした。
【0084】
その結果を図17に示す。図中、(a)はα-Fe微粒子を添加(実施例10(1))、(b)はFe微粒子を添加(実施例10(2))、(c)は比較例11の結果である。水田土壌の微生物を用いた場合において、実施例10の電流密度は、α-Fe微粒子やFe微粒子を添加しなかった比較例11に対して50倍以上飛躍的に向上することが確認できた。
【0085】
一方、導電性微粒子を何も加えていない比較例11では、α-Fe微粒子を添加したときのような電流密度の増大は観測されなかった。
【0086】
培養後に電極表面上に形成されていたバイオフィルム内の微生物の遺伝子群を16S rRNA遺伝子クローンライブラリー法により解析した。
【0087】
まず、電極表面上のバイオフィルム内の微生物からFastDNA Spin Kit for Soil (MP bio)を使用してDNAを抽出した。次いで、当該DNAをテンプレートとして、細菌16S rRNA遺伝子に特異的なプライマー(27F:5'-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG, 517R:ATACCGCGGCTGCTGG)を使用してポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction, PCR)法を用いて増幅した。得られたPCR産物をpGEM-T Easy vector (Promega)にクローニングし、E. coli JM109 (Promega)に導入して、クローン化を行った。
【0088】
また、クローン化された配列のシークエンス解析(Takara)を行った。その結果、α-Fe微粒子を添加した実施例10(1)の場合では、21/48クローン(44%)、Feを添加した実施例10(2)の場合では17/48クローン(35%)がGeobacter属に近縁な配列を有していた。ちなみに、比較例の導電性微粒子を添加しなかった比較例11の場合では7/48クローン(15%)がGeobacter属に近縁な配列を有していた。また、もとの水田土壌では、Geobacter属の割合は1%以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
現在、白金を用いた化学燃料電池の研究が盛んであるが、白金自体効果で希少性が高い。またこのような化学燃料電池は、水素発生の際の炭素除去も困難であって二酸化炭素の削減には寄与しずらい。微生物から直接電子を発生させる微生物燃料電池は構造が簡単で、かつカーボンニュートラルという特徴を持つ(二酸化炭素は発生するが、化石燃料に頼らないため炭素循環の流れを乱さない)。従って、微生物燃料電池の電流密度を大幅に向上させる本発明は非常に有用である。
【符号の説明】
【0090】
1 微生物燃料電池
2 導電性微粒子
3 微生物
4 凝集体
9 電気化学セル
10 作用極(負極)
11 対極
12 参照極
13 反応槽
14 ガラス板
15 シリコンゴム栓
16 ポテンショスタット(外部回路)
17 シリコンゴム製のシート
100 微生物燃料電池
103 電極
301,302 微生物
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16